侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2

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142 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:54:32.32 ID:B+X5AS2s0

リナちゃんの言うとおり、手持ちはボロボロの状態だ。

イーブイ、ドロンチ、フィオネ、ニャスパー、テブリムが“どく”状態。

ウォーグルは“まひ”していて……。

ヤブクロン、サニーゴは戦闘不能。ライボルトは戦闘不能寸前……。

あと……ジグザグマは……。

キョロキョロと辺りを見回していると──もこっと床が盛り上がり、


 「クマァ♪」


ジグザグマが顔を出す。


かすみ「ジグザグマ……! 咄嗟に潜って逃げたんですね……偉いですよ〜……!」
 「クマァ…♪」


地面の中にいたからか、“どくガス”も吸っていない様子だった。


侑「となると……無傷なのは、かすみちゃんのジグザグマとゾロア……」

かすみ「ですね……ジュカインは、どうなったかわかりませんけど……凍ったままか……。……むしろ氷が溶けてたら、戦闘不能かもしれませんね……」

侑「そうだね……」


かすみちゃんの機転というか……無茶無謀のお陰で、どうにかあの場を切り抜けることは出来たけど……まだ、真姫さんは切り札を出していない。

それに脱出出来たというだけで、こっちは手持ちがほぼ満身創痍……。


かすみ「テブリム、“いのちのしずく”」
 「テブー」


テブリムが周りのポケモンたちに不思議な水を振り撒く。


かすみ「これで気持ち回復したと思います!」

侑「うん……ありがとう」


本当に気持ちだけど……。“どく”状態は継続しているし、テブリム含めて倒れるのも時間の問題だ。

そんな中、


かすみ「“マジカルシャイン”」
 「テブ」


ぽわ〜と控えめな“マジカルシャイン”がテブリムの頭の上で光る。


侑「かすみちゃん……? どうしたの急に……」

かすみ「なんかフェアリーの光って可愛いじゃないですか〜。侑先輩も〜かすみんの可愛さでポケモンたちと一緒に癒されてください〜♪」

侑「あはは♪ ありがとう、かすみちゃん♪」


確かに、フェアリータイプの光は優しい感じがして気分が落ち着く。

なんというか……こういうときに癒しを意識するのはかすみちゃんらしい配慮かもしれない。

お陰で、少し肩の力が抜けた気がした。


 「ブイ」


イーブイもじーっと光を見つめている。
143 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:55:05.26 ID:B+X5AS2s0

侑「イーブイもこの光、好き?」
 「ブイ」

かすみ「ふっふ〜ん♪ 可愛い大先生のかすみんならではの癒しですね!」

リナ『その調子で本当に回復出来たらいいのに』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「あはは……」


さて……休憩もそこそこにしないと……ゆっくりしている場合じゃないんだ。

真姫さんもじきに私たちを追ってくるだろう。


侑「かすみちゃん、行こう……!」

かすみ「はい……! ここまでやったんです! 絶対勝ちますよ!」

侑「うん!」


私たちが立ち上がり、真姫さんがいるであろう方向へと歩き出すと、ポケモンたちもぞろぞろと付いてくる。


 「ロンチ」「ニャー」「フィオ」「テブリ!!」「クマァ♪」

侑「……あれ? イーブイは?」


キョロキョロと見回すと──


 「ブイ」


イーブイは未だに、テブリムの出した“マジカルシャイン”を見つめていた。

もう徐々に光が弱まり……線香花火の最後みたいになってるけど。


侑「イーブイ、行くよ?」

 「ブイ」


でも、イーブイは振り向かない。


侑「イーブイ……?」


あろうことはイーブイは──


 「ブイ」


パクリと、“マジカルシャイン”の残り火を──食べた。


侑「え!?」


それと同時に──


 「ブーーーィィ♪」


イーブイの目の前にパステルカラーの旋風が発生した。


かすみ「……!? え、なんですかなんですか……!?」

侑「わ、わかんない……」


その旋風は──周囲に光る花びらを舞い踊らせ、一気に廃工場の中がファンシーな雰囲気に包まれる。

それと同時に──
144 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:55:38.77 ID:B+X5AS2s0

侑「……あ、あれ……?」

かすみ「……息苦しさが……なくなった……?」


毒が回って息苦しかったはずなのに──急に呼吸が楽になった。

それだけでなく、


 「ロンチ〜」「ニャ〜」「フィオ〜♪」「テブリ?」


ポケモンたちの鳴き声も元気なものに戻っていた。


かすみ「い、一体さっきのは……?」

侑「……まさか」


私がリナちゃんの方を見ると、


リナ『……“相棒わざ”……まさか、“マジカルシャイン”を食べたことが原因で覚えるなんて……』 ||;◐ ◡ ◐ ||


リナちゃんも驚いていた。


侑「……状態異常を回復する、“相棒わざ”……?」

リナ『うん! “相棒わざ”、“きらきらストーム”だよ! フェアリータイプのエネルギーにイーブイが適応したみたい!』 || > ◡ < ||

かすみ「新技ってことですか!?」

侑「うん……! かすみちゃんのお陰だよ!」

かすみ「え、えへへ〜……♪ かすみんとテブリムの可愛いパワー、イーブイにも伝わっちゃったんですかね〜♪」

 「ブイ♪」


かすみちゃんは嬉しそうにイーブイを抱きしめるとイーブイも嬉しそうに返事をする。

もしかしたら──本当にかすみちゃんたちの可愛いが届いて、イーブイが新しい技に目覚めたのかもしれない。

そんな風に思えてしまうくらい、私たちにとって、このタイミングで本当に欲しかった技を覚えてくれた。


かすみ「侑先輩……! かすみん、ちょっと良い作戦思いついちゃいましたよ!」

侑「私も……! この戦い……勝てるかもしれない……!」

かすみ「えへへ……見えてきましたね、勝利への道が!」

侑「うん!」


私たちは決戦に向けて、最後の作戦会議を始めた。





    🍅    🍅    🍅





 「──ハッサムッ!!!!」


──ガシャンッ!! と音を立てながら、ハッサムが工場の機械を破壊して道を作る。


真姫「……ここにもいない」


工場の地図は頭の中に入っている。ハッサムで隠れられそうな場所を適宜破壊しながら進んでいるから、そろそろ隠れる場所もなくなってきたはず……。
145 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:56:13.31 ID:B+X5AS2s0

真姫「次会ったときが最後よ……」


また一つ──ガシャンッ! と機械を大きなハサミで殴り飛ばしながら、視界を確保すると──前方に人影が見えた。


真姫「……見つけた」


特徴的なアシンメントリーのショートボブ──かすみだ。


かすみ「……!」


かすみは私に気付くと、たたたっと走り出す。


真姫「ポケモンも出さずに余裕ね? 偵察ってわけ? エンペルト、“ハイドロポンプ”!!」
 「エンペーーーッ!!!!」


エンペルトが激流を発射し、かすみを狙うが、


かすみ「……!!」


かすみはピョンと跳ねて、攻撃を回避しながら、ベルトコンベアの上に乗り、隣の部屋に繋がる穴へと走り出す。


真姫「ちょこまかと……!」


でも、あの先は──ドアが崩れていて、出入り口があのベルトコンベアの運搬口しかない。


かすみ「…………!!」


必死に逃げるかすみが、穴に滑り込んでいくのを見て、かすみが脱落したことを悟る。


真姫「まさに、袋のネズミね……」


かすみが逃げ込んだ穴の前に立ち、


真姫「観念しなさい。もう逃げ場はないわよ」


声を掛ける。


真姫「降参するなら、これ以上攻撃しないけど……まあ、降参なんてしないわよね。ハッサム! “つるぎのまい”!!」
 「ハッサムッ!!!」


ハッサムが攻撃力を上げる舞を踊る。

ただでさえ、メガシンカしてパワーが上がっている中でさらに強化された攻撃で一気に両断する──


真姫「“シザー──」


指示と共に、ハッサムがハサミを振りかぶった瞬間──


かすみ「──“しっとのほのお”!!」

真姫「……!?」


かすみの指示の声と共に──穴から炎が溢れ出してくる。


 「エンペーーーッ!!!!」
146 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:58:18.44 ID:B+X5AS2s0

エンペルトが咄嗟に“ハイドロポンプ”で消火したため、ダメージは全くないが──問題はそこじゃない。

問題は、かすみの声が聞こえてきた方向だ。かすみの声は──上から聞こえてきた。

直後、


 「──ウォーーーーーーッ!!!!!!!」

 「エンペッ!!!?」

真姫「なっ……!?」


エンペルトの真上にウォーグルが強襲してきた。


侑「──ウォーグル!! “フリーフォール”!!」

 「ウォーーーーーッ!!!!!」


そして、上から侑の声。

それと同時に、


 「エンペッ!!!!?」


エンペルトが上空に連れ去られる。

それと同時に、声がしてきた方に顔を向けると──キャットウォークを走りながら、侑がウォーグルに指示を出しているのが目に入る。

なんで、ウォーグルが……!? “まひ”していたんじゃ……!?


真姫「……く、ハッサム!!」


いや、ウォーグルが回復している理由を考えている場合じゃない……!

ハッサムは遠距離技は得意じゃないけど……このまま、エンペルトを連れ去られるわけにはいかない……!!

ハッサムに技の姿勢を取らせようとした瞬間、


かすみ?「…ニシシ」


かすみが、さっき逃げ込んだベルトコンベアの穴から顔を出し、


かすみ「──“ナイトバースト”!!」

かすみ?「ガーーゥゥッ!!!!!」

真姫「!?」


黒いオーラを放ってきた──


 「ハッサムッ!!!」


ハッサムが咄嗟に私を庇うように前に出て、オーラを切り裂くが──


真姫「まさか、下にいるのは、かすみじゃない……!?」

かすみ「今更気付いても遅いですよ!! ジュカイン!!」
 「──カインッ!!!」

真姫「ジュカイン!?」


さっき凍って転がっているのを確認したはずのジュカインが──腕に光を蓄えながら、頭上のキャットウォークを踏み切ったところだった。
147 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:01:30.28 ID:B+X5AS2s0

侑「かすみちゃん、お願い!!」

かすみ「任せてください!!」

 「ウォーーーーッ!!!!!」

 「エンペッ!!!?」


ウォーグルが上空で、持ち上げたエンペルトを放す──そして、それに合わせて横向きに薙がれる、特大の光の剣。


かすみ「“ソーラーブレード”!!」

 「ジュカイィンッ!!!!!」

 「エン、ペェッ…!!!!!!」


特大の陽光剣はエンペルトを斬り裂きながら、工場の壁に叩きつけた。


真姫「エンペルト……!!」


完全にクリーンヒット。強烈な攻撃を防御出来ない体勢で貰ったエンペルトは、


 「エン、ペ…」


気絶して、床に墜落した。


真姫「……」


そして、気付けば、私とハッサムは──


 「テブリッ!!!」「ガゥガゥッ!!!!」「カインッ!!!!」
 「ウニャァ〜」「ロンチィ…」「イブイッ」


侑とかすみのポケモンに囲まれていた。





    🎹    🎹    🎹





かすみ「さぁ、もう逃げられませんよ……!」

侑「形勢、逆転です……!」
 「ウォーーーッ!!!!」


かすみちゃんと一緒に、ウォーグルの足に掴まって、真姫さんとメガハッサムがいる1階へと降り立つ。


真姫「……ふふ、一体どんなトリックを使ったのかしら……」


真姫さんは呆れているのか、感心しているのか……含むように笑う。

──私たちが取った作戦はこうだ。

まず、“イリュージョン”でかすみちゃんの姿になったゾロアが、真姫さんの注意を引く。

その隙に、“きらきらストーム”で“まひ”を回復したウォーグルで天井スレスレを飛び、ジュカインの場所へ。

氷漬けだったジュカインの“こおり”状態も回復して──大技“ソーラーブレード”でエンペルトを仕留める。

真姫さんからしたら、動けなくしたはずのポケモンたちからの不意打ち。

真姫さんも完璧に意識の外からの攻撃に対応しきれず、エンペルトを撃破することが出来た。

そして、エンペルトを倒しきれば──あとは真姫さんの切り札、メガハッサムだけだ……!
148 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:03:11.01 ID:B+X5AS2s0

かすみ「いくら真姫先輩が強いって言っても……7対1で勝てますか!?」

真姫「確かに貴方たちの戦い方には驚かされるわ……でも」


真姫さんは肩を竦めながら言う。……が、真姫さんの目は追い詰められている側どころか、


真姫「たかが7匹で──私の切り札を倒せると思ってるの?」


まだ狩る側の目をしていた。


真姫「──“バレットパンチ”!!」
 「サムッ!!!!」

 「ガゥッ!!!?」

侑「!?」

かすみ「はやっ!!?」


一瞬で、弾丸のようなパンチが、ゾロアを殴り飛ばす──


侑「ドロンチ!! “かえんほうしゃ”!!」
 「ローーーンチィィィ!!!!!」


相手が動き出す前に、ドロンチが“かえんほうしゃ”を噴き出す。

メガハッサムははがね・むしタイプ……! 当たれば間違いなく大きなダメージなる……!

が、


真姫「“きりばらい”!!」
 「ハッサムッ!!!!」


メガハッサムが翼を高速で羽ばたかせると──それによって巻き起こった風で、“かえんほうしゃ”を霧のように吹き飛ばす。


リナ『“きりばらい”で炎をかき消した!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「う、嘘でしょ!?」

かすみ「なら……!! これなら、どうですか!!」
 「──テブリッ!!!!」


跳躍したテブリムが頭の房を、組むようにして合わせ、


かすみ「“ぶんまわす”!!」
 「テブリィッ!!!!」


身体を縦回転させながら──ゴォンッ!! と音を立てながら、ハッサムの脳天に叩きつけた。


 「…ハッサムッ」


が、ハッサムまるで意にも介しておらず。

ハサミでテブリムを掴んで──乱暴に床に叩きつけた。


 「テブ…リィッ…!!」

かすみ「テブリム……!!」

侑「く……! ニャスパー!! パワー全開!!」
 「ウニャァッ」


ニャスパーが耳を開けて、サイコパワーを叩きつけようとした瞬間、
149 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:03:48.67 ID:B+X5AS2s0

真姫「“しんくうは”!!」
 「ハッサムッ!!!」


ハッサムの腕が見えなくなるようなスピードで振られ──


 「ニャッ!!?」


次の瞬間には、ニャスパーが吹っ飛ばされていた。


侑「ニャスパー!?」

真姫「……パワーも耐久もスピードも……足りてないわ」

侑「く……っ……ウォーグル!! “ばかぢから”!!」
 「ウォーーーッ!!!!」

かすみ「ジュカイン!! “リーフブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


ウォーグルが上空から頭部を、ジュカインが地上を滑るようにして刃を構えながら腰部を狙うが、


 「──ハッサムッ!!!!」


ハッサムの大きな両腕のハサミでウォーグルとジュカインをそれぞれ掴み、


真姫「“カウンター”!!」
 「ハッサムッ!!!!」

 「ウォーーッ!!!?」
 「カインッ!!!?」


2匹の勢いを使って、そのまま床に叩きつけた。

そして、地に伏せった2匹に向かって、


真姫「“バレットパンチ”!!」
 「ハッサムッ!!!!!」


弾丸のような拳を連打してくる。


侑「う、ウォーグル!!」

かすみ「ジュカインっ!?」

 「ウ、ウォーー…」
 「カインッ…」


倒れるウォーグルとジュカイン。直後、メガハッサムの背後で──ユラリと影が現れた。


 「──ロンチィ!!!!」

真姫「……“つじぎり”!」
 「サムッ!!!!」

 「ロ、ン…ッ!!?」
侑「……!」

真姫「……どさくさに紛れて“ゴーストダイブ”していたの……気付いてたわよ」

侑「……っ……」


“ゴーストダイブ”による奇襲もあっさり看破され、ドロンチが崩れ落ちる。

気付けば、7匹いたはずの私たちの手持ちは──あっという間にイーブイだけになってしまった。
150 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:04:31.44 ID:B+X5AS2s0

侑「つ、強い……」

かすみ「というか、強すぎますよ……!?」

真姫「いいえ……むしろ、本気の私を……よく最後の1匹まで追い詰めたと思うわ。本当にすごい」


真姫さんは私とかすみちゃんの顔を順に見ながら言う。


真姫「ただ、貴方たちの敗因は……エンペルトを倒した時点で、もう一度逃げなかったことよ」

侑「…………」

かすみ「ぐ、ぬぬぬ……さすがに7匹いればいけると思ったのに……」

真姫「追い詰めた側って言うのは……肝心なところで詰めを誤るものよ」

かすみ「じゃあ、その言葉……そっくりそのまま、お返ししますよ!!」


かすみちゃんの声と共に──


 「クマァッ!!!!」


メガハッサムの足元から、“あなをほる”でジグザグマが飛び出す。


 「フィオ〜!!」


そして、その尻尾にはフィオネがしがみついていた。

ジグザグマが掘り進んだ穴を一緒に進み──地面をこれでもかと湿らせて、泥にした……!


かすみ「“マッドショット”っ!!」

 「クーーマァァッ!!!!」


地面の中から、メガハッサムに泥を浴びせかける。

“マッドショット”はメガハッサムに纏わりつき──動きを鈍らせる。

そこに向かって、


侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
 「ブゥゥゥーーーイィッ!!!!!」


全身に炎を纏ったイーブイの攻撃が──直撃した。


かすみ「へっへーん! どうですか!」

侑「……これなら……!」

真姫「……確かに……真っ向からハッサムを倒すなら、強力なほのおタイプの技を直撃させる。正しい判断よ。セオリー通りで私好みな詰め方。……だけどね──」
 「──ハッサムッ!!!」


ハッサムはハサミを盾のようにして、燃え盛るイーブイの体を受け止めていた。


侑「……う、うそ……」

かすみ「倒れて……ない……?」

真姫「……残念だけど、レベルが違いすぎるわ」


そしてハッサムはそのまま、大きなハサミを乱暴に振り回し始め──


真姫「“ぶんまわす”は……こうやって使うのよ」
 「──ハッサムッ!!!!!」

 「ブイィッ…!!!」「ク、クマァッ!!!?」「フ、フィォォ…!!!」
151 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:06:03.11 ID:B+X5AS2s0

私たちのポケモンを圧倒する。


かすみ「……じ、ジグザグマ……」

真姫「……勝負、あったわね」

侑「……まだです」

 「ブ、ブィィ…」


満身創痍のイーブイが立ち上がる。


真姫「……大したガッツね」
 「ハッサムッ!!!!」


メガハッサムがトドメのために腕を引いた瞬間──


 「──ライボォッ!!!!!」


メガハッサムの背後から、ライボルトが猛スピードで“ワイルドボルト”を炸裂させた。


 「ッサムッ…!!!」

真姫「……!」


そして、攻撃がインパクトした瞬間に──


侑「“びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーーィィィッ!!!!!」


イーブイが“びりびりエレキ”を放つ。

もちろん、放たれた電撃は──ライボルトの“ひらいしん”に吸い寄せられる。

背後から突進しているライボルトとイーブイの間には──メガハッサムがいる!!

位置関係的に、絶対に避けられない──必中の雷撃!!


 「ハ、ッサムッ!!!!!」


──バチバチと音を立てながら、稲妻が迸り、メガハッサムはさすがに耐えきれず──


 「──ハ、ッサムッ!!!!!」

侑「!?」


ハッサムは翼を高速で振動させ、


 「ライボッ!!!?」


ライボルトを弾き飛ばした。


侑「ライボルト!?」

 「ラ、ライボッ…!!!」


ライボルトはすぐに受け身を取って立ち上がる。

あくまで咄嗟に追い払うためのものだったのか、ダメージこそほとんどなかったが──
152 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:06:37.75 ID:B+X5AS2s0

かすみ「まだ、耐えるんですか!?」

侑「……っ……! ライボルト、こっちに!!」

 「ライボッ!!!」


ライボルトは、脚の筋肉を電気で刺激し、稲妻のような速度で真姫さんたちの周りを迂回しながら、私のもとへと戻ってくる。


真姫「奇襲に奇襲を重ねて……最後の最後に、さらに奇襲を残していたってわけね……まさか、手負いのライボルトを最後の手段に残しておくのは予想出来なかったわ」

侑「…………」

真姫「でも、もうさすがにネタ切れでしょう?」
 「ハッサムッ…!!!」


ハッサムがハサミを構える。


真姫「ハッサム、“バレット──」

かすみ「ストーーーーップッ!!!」


かすみちゃんが大きな声を出して、真姫さんを制止した。


真姫「……」

かすみ「……試合は……ここまでです」

真姫「……降参ってことね。わかった」


真姫さんが、やっとか……と言った表情をする。

でも、かすみちゃんはニヤッと笑って。


かすみ「……まさか……──かすみんたちの、勝ちですよ」


そう言い放った。


真姫「……はぁ?」


真姫さんが怪訝な顔をする。


かすみ「ね、侑先輩!」

侑「うん」


私はかすみちゃんの言葉に頷きながら──傍らのライボルトの口元に手を寄せると、ライボルトの口から──小さな2つのソレが、チャリ……と音を立てながら、私の手の平の上に乗せられた。

何を隠そうそれは──“クラウンバッジ”だった。


真姫「……!?」


真姫さんは驚いた顔をしながら、焦って自分の上着をめくると──上着の裏側には、赤い破片が突き刺さっていた。


真姫「な……!?」

侑「このルール、私たちの勝利条件は、真姫さんを戦闘不能にするか──“クラウンバッジ”を奪うことでしたよね」

真姫「…………嘘……?」


真姫さんは心底何が起こったのか理解できていない顔をしていた。
153 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:07:13.67 ID:B+X5AS2s0

かすみ「その赤い破片はですね、この工場のあちこちに落ちてた、壊れたモンスターボールの破片です! ジグザグマが“ものひろい”で拾ってきたんですよ!」

侑「そして、その欠片をライボルトに持たせて……物陰に潜ませていました。……真姫さんに接近出来る機会をずっと待ちながら」

真姫「……まさか…………“すりかえ”……?」

侑「はい」


そう、ライボルトが最後に背後から攻撃したのは──メガハッサムを倒すためじゃない。

真姫さんのすぐ真横を通るためだ。

至近距離まで近付けば──“すりかえ”で奪うことが出来ると思ったから。


侑「ライボルトが、真姫さんを横切る瞬間に──“すりかえ”ました」

真姫「……………………」


真姫さんはしばらく絶句していたけど……。


真姫「…………私の負けよ。完敗」


そう言いながら、ハッサムをボールに戻した。

その動作が、言葉が、完全に試合が終わったことを意味していた。


侑「……か……勝った……」


私は力が抜けて、尻餅をつく。

隣を見ると、


かすみ「ど……どうにか、勝てたぁ……」


かすみちゃんも力が抜けてしまったのか、私と同じようにへたり込んでいた。


リナ『侑さん!! かすみちゃん!! すごい!! ホントに勝っちゃうなんて!!』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「あはは……ホントにね……」

かすみ「むー……絶対勝つって最初に約束してたじゃないですかー……。かすみんはずーーーーっと勝てるって思ってましたもんね!」


かすみちゃんがぷくーっと頬を膨らませる。

そんな私たちのもとへ、


真姫「……貴方たちの覚悟、見せてもらったわ」


真姫さんが近付いてくる。


真姫「どんな状況に陥っても勝利を諦めない執念。追い詰められても、勝ちを手繰り寄せる策を選び取る冷静さ。見事だったわ。貴方たちは、その“クラウンバッジ”を持つのにふさわしいトレーナーよ」

侑「真姫さん……」

かすみ「えへへ……そんなことありますよ〜」

真姫「私も……慢心せずに強くならなくちゃね」


真姫さんは少し自嘲気味に言う。


真姫「ここまで来たら……最後のバッジもちゃんと手に入れてよね。私だけ本気の手持ちで負けたなんて知れたら、赤っ恥もいいところなんだから」

かすみ「ふふ、任せてくださいよ!」

侑「はい、必ず……!」
154 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:07:57.77 ID:B+X5AS2s0

こうして私たちは、死闘の末──ローズジムの真姫さんを倒し、“クラウンバッジ”を手に入れたのでした。

残すは──最後のバッジのみ……。





    🎹    🎹    🎹





彼方「──二人とも、ローズジムクリアおめでとう〜♪」

リナ『わ〜どんどんぱふぱふ〜』 ||,,> 𝅎 <,,||


ホテルに戻ると──ジム戦前に彼方さんが言っていたとおり、ご馳走が並んでいた。


かすみ「これ全部食べていいんですかぁ〜!?」

彼方「もっちろん♪ 頑張った二人へのご褒美だよ〜♪ 好きなだけ食べて♪」

かすみ「わーい! いっただきま〜す♪」

侑「いただきます!」

彼方「ポケモンちゃんたちにもそれぞれに合わせて、彼方ちゃん特製ブレンドのポケモンフーズを作ったから、味わって食べるんだぞ〜?」
 「ブイブイ♪」「ガゥ♪」「フィオ〜」「ウニャァ」「クマクマァッ♪」「ブクロンッ♪」


元気な子たちが夢中でご飯を食べ始める中、


 「テブリ」「…カイン」「…ライ」「ロンチ」「ウォーグ」「……サ」


大人しい組は静かに食べ始める。……こういうところにも個性が出るね……。


かすみ「いや〜今日のかすみんの活躍っぷり、彼方先輩と果南先輩にも見せてあげたかったですよ〜」

果南「ふふ、私も見たかったよ」

彼方「彼方ちゃんも〜」

かすみ「ですよねですよね! いや〜かすみんの考えたドッキリ爆発大脱出があったから、今日は勝てたんですから〜」


かすみちゃんは元気いっぱいに今日の試合を振り返っているけど……。


果南「侑ちゃんは……勝ったって言うのに、あんまり元気ないね?」

かすみ「えぇー? 侑先輩、せっかく勝ったのに嬉しくないんですか〜?」

侑「ん……。……もちろん、嬉しいけど……でも、今回はかすみちゃんと二人だったからさ……」


……今回はあくまで二人の力を合わせてどうにか勝つことが出来ただけだ。


侑「もし一人ずつ戦ってたら……絶対に勝てなかった……」

かすみ「それは……まぁ……。……でも、勝ちは勝ちですよ!」


もちろん、勝ちは勝ち。向こうの指定したルールでちゃんと勝利を収めたんだ。

それに関してはそれでいい。……だけど、次のジム戦は正真正銘一人で戦うことになる。


侑「……このまま戦っても……私もかすみちゃんも、最後のジムは突破出来ない……」

かすみ「そ、そんなこと言わないでくださいよ〜!!」


これは臆病風に吹かれたとか、そういう話じゃない。

私たちの今の実力と、本気のジムリーダーの実力では、それほどまでに根本的なレベルの差があるということだ。
155 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:08:29.59 ID:B+X5AS2s0

リナ『正直、私も厳しいと思う……レベル差がありすぎる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

果南「……確かにこのままじゃ二人とも、理亞ちゃんにも英玲奈さんにも勝てないだろうね」

かすみ「ちょ……リナ子と果南先輩まで……」

侑「だから、対策を考えないと……」

果南「……ま、侑ちゃんがそう言うと思って、私考えてきたんだよね」

侑「え?」

かすみ「何をですか?」


訊ねると、果南さんは、


果南「私が二人が強くなるための修行法……考えてきたからさ!」


にっこり笑いながら、そう言葉にするのだった。



156 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:09:01.73 ID:B+X5AS2s0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.65 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.65 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.63 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.57 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.59 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.44 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:208匹 捕まえた数:8匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.66 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.58 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.57 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.57 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.56 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.60 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:199匹 捕まえた数:9匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



157 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 03:31:36.27 ID:/nLmInIK0

 ■Intermission🎀



──私がウルトラスペースに来て……何日が経ったかな。

四方を壁に囲まれているせいで、時間の感覚が全然ないから、自分がここを訪れてどれだけ経ったかが全くわからない。

ただ、定期的に姫乃さんが私と私のポケモンのためのご飯を運んできてくれる。

仮にそれが日に3回ずつちゃんとあるなら……たぶん1週間くらいかな。

やることと言えば、ポケモンとお話ししたり、一緒に遊んだり……ブラッシングしてあげるくらい。

ポケモンがいてくれるお陰で、寂しくて寂しくてどうしようもないというほどではないけど……。


歩夢「……侑ちゃんに……会いたいな……」


どうしても、侑ちゃんのことを考えてしまう。


歩夢「……ダメ……しっかりしなきゃ……」


きっと、侑ちゃんたちが助けに来てくれる……今は耐えなくちゃ。

そう思いながら、深呼吸をして心を落ち着けていると──


姫乃「──歩夢さん、失礼します」


姫乃さんが部屋に入ってきた。


歩夢「姫乃さん……? あの、もうご飯の時間ですか……?」


食事は体感では……1時間前くらいに食べたと思うんだけど……。

私が気付かない間にそんなに時間が経っちゃってたのかな……?

自分の体内時計の性能の悪さに、少々不安を覚えてしまう。

だけど、


姫乃「いえ、食事ではなく……」


姫乃さんは少し困った顔をしながら言う。


姫乃「貴方も……意外と肝が据わってますね……」

歩夢「え、あ、その……ご、ごめんなさい……」


……もしかして、食いしん坊だと思われちゃったかな……恥ずかしい……。


姫乃「それより──部屋から出てください。果林さんがお呼びです」

歩夢「え……?」



158 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 03:32:23.57 ID:/nLmInIK0

    🎀    🎀    🎀





姫乃「果林さん、歩夢さんをお連れしました」

果林「ありがとう姫乃」


私が呼び出されたのは、最初に連れてこられた、この船のコクピット……ええっと、こういう場所ってブリッジって言うんだっけ……?

そこにはすでに、しずくちゃんとせつ菜ちゃんの姿もある。


歩夢「あの……一体何が始まるんですか……?」

愛「そろそろ、目的地に着くんだよ〜」


私の疑問に愛ちゃんが答えてくれる。


歩夢「目的地……?」


程なくして──前面に張られた大きなガラスの外に広がっていた、宇宙空間のような場所に──大きな空間の穴のようなものが見えてくる。


愛「入るよー」

果林「お願い」


船はなんの躊躇もなく──その穴に突入していく。

入ると、同時に──ゴゴゴゴッと大きな音と共に、船が大きく揺れる。


歩夢「きゃっ……!?」


激しい揺れに転びそうになったが、


せつ菜「おっと……大丈夫ですか……?」


せつ菜ちゃんが、抱き留めてくれる。


歩夢「あ、ありがとう……せつ菜ちゃん……」

せつ菜「いえ……」


ただ、私はお礼を言ってからすぐに、せつ菜ちゃんから逃げるように離れる。

今のせつ菜ちゃんは……なんだか、ちょっと怖い……。

前みたいな、朗らかな笑顔は全くなく……ずっと、冷たい声音で喋っているし……。

──揺れる船内の中で、しばらくじっと待っていると──洞窟の中のような景色が見えてきた。


愛「着陸するよー」

果林「ええ」


どうやら……目的地というのはここらしい。

程なくして──ゆっくりと船が洞窟内の地面に着陸する。
159 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 03:37:29.83 ID:/nLmInIK0

愛「到着っと……」

果林「愛、ご苦労様」

愛「あいよ〜。……んで、果林。どうすんの?」

果林「どうって、何が?」

愛「誰か降りるのかって話。アタシは降りるのヤだよ?」

果林「ヤダって……まあ、貴方には船に居てもらうから降ろすつもりはないわ」

姫乃「でしたら、私が……」

果林「いいえ、ここは──しずくちゃん」


果林さんがしずくちゃんの方を見て、声を掛ける。


しずく「はい、なんでしょうか♡」

果林「今から、ここに歩夢を降ろすわ」

歩夢「え……?」

しずく「前に説明していただいたとおり、私は歩夢さんを見張っていればいいということですよね♡」

果林「ええ、おりこうさんね」

しずく「はい♡」

歩夢「……」


しずくちゃんは……完全におかしくなってしまっていた。

果林さんの言うことはなんでも聞く……ずっとフェローチェのことばかり口にしている……。

きっと、あのポケモンが持ってる不思議な雰囲気が……しずくちゃんをおかしくしてしまっているんだと思う。


愛「果林」

果林「何?」

愛「こんな場所にしずく放り出していいん? かなり危ない場所だよ?」

果林「……そうかもしれないわね」

せつ菜「そうかもしれない……?」


せつ菜ちゃんが果林さんの反応に眉を顰める。


せつ菜「……人質なら、もう少しまともに扱っては?」

果林「そんな怖い顔しないで、せつ菜。別に死ぬわけじゃないわ」

しずく「せつ菜さん、私は大丈夫です! 果林さんにフェローチェを魅せてもらうためなら、命を捨てる覚悟くらいあります♡」

歩夢「……」

果林「本人もこう言ってるし」

せつ菜「……。……さすがに人質に何かあっては寝覚めが悪いです……私が一緒に降ります。先にハッチに向かっています……」


せつ菜ちゃんはそう言いながら、ブリッジを出て行く。

たぶん……外に出るハッチがどこかにあるんだと思う。


姫乃「果林さん……いいんですか?」

果林「まあ、本人がそうしたいって言うなら、そうさせてあげましょう」

愛「自分でそう仕向けた癖によく言うねー」

果林「人聞きの悪いこと言わないで。……それじゃ、しずくちゃん」

しずく「はい♡ 行きましょう、歩夢さん♡」
160 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 03:38:33.84 ID:/nLmInIK0

そう言いながら、しずくちゃんが私の腕を掴んで歩き出す。


歩夢「……しずくちゃん」

しずく「こちらです♡」


しずくちゃんに腕を引かれて、ハッチへ向かう。


歩夢「……ねぇ、しずくちゃん……?」

しずく「なんですか?」

歩夢「……どうして、果林さんの言うことを聞くの……?」

しずく「どうして、果林さんの言うことを聞かないんですか? フェローチェを魅せてもらえなくなってしまうじゃないですか♡」

歩夢「……そっか」


しずくちゃんの洗脳を解くには……果林さんのフェローチェをどうにかするしかない……。


歩夢「しずくちゃん、大丈夫だよ……きっと、助けるからね……」

しずく「はい、そうですか♡」

歩夢「……」


しずくちゃんと少し歩くと──ハッチらしき場所でせつ菜ちゃんが待っていた。


せつ菜「……行きましょうか」

しずく「はい♡」

歩夢「……」


せつ菜ちゃんを伴いながら、ハッチの外へと出る。

──そこは不気味な青白い光を放っている水晶が生えた洞窟のような場所……。


しずく「それでは奥へ♡ ここの地図は果林さんに見せてもらったので、頭に入っています♡」

せつ菜「……」


しずくちゃんに腕を引かれ──奥へと進んでいく。

せつ菜ちゃんはそんな私たちの後ろを無言で付いてくる。


歩夢「……ねぇ、しずくちゃん。私に……何をさせようとしてるの……?」

しずく「これから、歩夢さんは果林さんのために、お人形さんになるんですよ♡」

歩夢「お人形……さん……?」

せつ菜「……」


しばらく、歩いて行くと──崖のある場所に出る。


しずく「あれです♡」


そして、しずくちゃんが崖下を指差す。


歩夢「……」


恐る恐る崖下を覗いてみると──
161 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 03:40:02.29 ID:/nLmInIK0

 「──ジェルルップ…」「──ヴェノメノン…」「──ジェルル…」

歩夢「な、なに……あれ……?」


不思議な生き物が、崖の下で大量に浮遊している。


しずく「あれはウルトラビースト・ウツロイドです♡」

歩夢「ウツ、ロイド……?」

しずく「ウツロイドは強力な神経毒を持っていて、とても危険なウルトラビーストです。歩夢さんには今から、そんなウツロイドの群れの中に──落ちてもらいます♡」

歩夢「……!?」


私は、しずくちゃんの言葉を聞いて、腕を振り払う。


しずく「おっとっと……」

歩夢「…………っ」


どうしよう……逃げなきゃ……!

私はしずくちゃんから逃げるように背を向けて走り出すけど、


しずく「いいんですか? 歩夢さんが逃げたら、私が果林さんにどんな目に遭わされるか、想像できますか?」

歩夢「……!」


その言葉で、私は足を止める。


せつ菜「貴方……」

しずく「果林さんは私を利用するためにフェローチェを魅せてくれています♡ もし、正しく命令を遂行出来なければ……私はきっといらない子。一体何をされるんでしょうね?」

歩夢「…………っ」

せつ菜「…………」

しずく「さぁ、歩夢さん♡ こちらへ戻ってきてください♡」

歩夢「…………」

しずく「歩夢さん、私たち友達でしょう? 私のこと、見捨てないでください♡」

歩夢「っ……」


私は──振り返って、しずくちゃんのもとへと戻る。


歩夢「……」

しずく「ありがとうございます♡」

歩夢「しずくちゃん」

しずく「なんですか?♡」

歩夢「私のこと……どう思ってる?」

しずく「どう……とは……?」

歩夢「しずくちゃんにとって、私は……どういう存在……?」

しずく「ふふ、そんなの決まってますよ。優しくて頼りになる先輩で、仲間で──大切なお友達です」

歩夢「…………わかった。私、しずくちゃんを信じるよ」

せつ菜「…………」


せつ菜ちゃんが無言で見守る中、私は覚悟を決める。
162 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 03:41:17.84 ID:/nLmInIK0

しずく「ありがとうございます、歩夢さん♡ では、私の言うとおりにしてください♡」

歩夢「うん」

しずく「まず、モンスターボールを全てベルトから外してください♡」

歩夢「……わかった」


私はボールベルトから、モンスターボールを全て外して、足元に置く。

それと同時に──ボールたちがカタカタと震えだす。


歩夢「みんな……大人しくしてて」


私がそう言うと、揺れるボールたちは大人しくなる。


しずく「それでは、そのまま──崖を背にして一歩ずつ後ろに下がりましょう♡」

歩夢「……うん」


私はしずくちゃんを見ながら、一歩ずつ後ろへと下がる。

一歩ずつ一歩ずつ、足元の地面を確認しながら下がっていくと──足元に地面が確認できない場所にたどり着く。

つまり──私の後ろは、もう崖だ。

崖下から風を感じて、背筋がぞくりとしする。気付けば脚が勝手に震えだしていた。


しずく「……そうだ、歩夢さん」

歩夢「……な、なに……?」


震える声で返事をすると、


しずく「その髪飾りも──預かりますよ。外してください」


しずくちゃんは──侑ちゃんに貰った髪飾りを外すように要求してきた。

侑ちゃんの気持ちの籠もった──ローダンセの花飾りを……。


歩夢「これは……」

しずく「私を……信じてくれるんじゃないんですか?」

歩夢「………………。…………わかった」


私はゆっくりと──髪飾りを外す。

そして、それをしずくちゃんに手渡す。


しずく「ありがとうございます♡」

歩夢「……しずくちゃん」

しずく「はい?」

歩夢「……絶対に、侑ちゃんやかすみちゃんが助けに来てくれるはずだから……絶対に……絶対に一緒に帰ろうね」

しずく「…………」

歩夢「それまで……預けるね……。きっと、私の分まで……侑ちゃんの想いが、しずくちゃんを守ってくれるはずだから……だから──」


──ドンッ。

しずくちゃんが──私の肩を押した。

身体が後ろに傾き──支えるものが何もない私の身体は──背中から、崖下に向かって落下を始める。

最後に見たしずくちゃんの顔は──少しだけ悲しそうに見えた。
163 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 03:44:10.73 ID:/nLmInIK0

歩夢「……っ……」


浮遊感に包まれたのも束の間──私の身体は何かに優しく受け止められる。

もちろんその何かは──


 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルップ…」


ウツロイド。ウツロイドの触手が腕を脚を──私の全身をどんどん絡め取っていく。


歩夢「しずくちゃん……!! 絶対、絶対、侑ちゃんたちが助けに来てくれるから……!! だから──んぅっ、」


口元が触手に覆われる。

そのまま、視界も覆われ……私は……目の前が、真っ暗になった──





    💧    💧    💧





しずく「…………」

せつ菜「……こんなことをして、心は痛まないんですか……? ご友人なんでしょう?」

しずく「……お説教ですか?」

せつ菜「……貴方……まだ理性が残っているじゃないですか……なのに、どうしてあんな酷いことが出来るんですか……」

しずく「貴方に言われたくありませんね」

せつ菜「な……」

しずく「せつ菜さん、貴方の話、果林さんから聴かせてもらいましたよ♡ ……貴方だって、ウルトラビーストに心を売ったようなものじゃないですか」

せつ菜「それ……は……」

しずく「私はウルトラビーストの美しさに、せつ菜さんはウルトラビーストの強さに魅入られ……魂を売ってしまっただけ──所詮、私たちは同じ穴の貉ですよ」

せつ菜「…………。…………そうかも……しれませんね……。……自分だけ、綺麗でいようとするのは……卑怯でした。……すみません」

しずく「いえ、お気になさらないでください♡ さて……」


私は振り返る──先ほど歩夢さんが、外して地面に置いたボールたちが、ガタガタガタと激しく揺れ、


 「──バーース…!!!」「──シャーーーーッ…!!!!!」「──マホイッ…!!!」「──グラァ…ッ!!!!!」「──エッテ…!!!」


歩夢さんのポケモンたちがボールから飛び出してくる。


しずく「ふふ……敵意剥き出しですね。ご主人様に酷いことをした私が許せないんですよね」


ボールから、ポケモンを繰り出す。


 「──インテ…」「──バリバリ!!」「──ロゼ…」
しずく「お相手しますよ。トレーナー無しで私に勝てるのかは知りませんけど♡」

 「バーースッ!!!!」「シャーーーボッ!!!!!」「マホイップッ!!!!」「グラァァーーー!!!!」「エッテェェッ!!!!」


………………
…………
……
💧

164 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:01:37.48 ID:/nLmInIK0

■Chapter054 『試練の山』 【SIDE Yu】





かすみ「……侑先輩」

侑「ん……何……?」

かすみ「かすみんたち……なんで、山登りしてるんですかね……」

侑「あはは……なんでだろうねぇ……」


振り返ると──遠くにローズシティが見える。

ここは……カーテンクリフだ。


かすみ「……うぅ……早く帰りたい……」

侑「……気持ちはわかるけど……時間もないし、早く進もう」

かすみ「あ、待ってくださいよぅ……侑先輩ぃ……」


私たちが何故、再びカーテンクリフを登っているかというと……話は昨日の夕食の時に遡る──



──────
────
──



侑「──修行法……ですか……?」

果南「そう、修行法」


食卓を囲みながら、果南さんはそう話し始めた。


果南「実は私、二人がジム戦をしてる間に、他の町のジムリーダーに連絡して、侑ちゃんとかすみちゃんのジム戦のバトルビデオを送ってもらって、見てたんだよ」

彼方「ちなみに、彼方ちゃんも一緒に見てたよ〜」

かすみ「へ……? ビデオなんてあったんですか……?」

リナ『ジム戦は公式戦だから、基本的に録画してる場所が多いよ。今日みたいな野外バトルとかだとさすがにしないみたいだけど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

果南「野外試合だった、かすみちゃんのウチウラジム戦とセキレイジム戦、侑ちゃんのホシゾラジム戦はデータがなかったから、曜とルビィちゃん、凛ちゃんに電話で直接どんな試合か聞いたよ。……あと、侑ちゃんのダリアジム戦はビデオもなかったし、試合内容も教えられないって、にこちゃんから言われたんだけど……何か特別なルールだったの?」

侑「あー……えーっと……まあ、いろいろです」


花丸さんはクローズドなジムリーダーだから、そりゃ映像には残らないし、試合内容も喋れないよね……。


果南「まあ、いいや……その上で、彼方ちゃんと話しながら、二人のバトルの問題点を洗い出してきたんだ」

かすみ「お二人とも、そんなことしてたんですね……。……まあ、かすみんの欠点なんてそんなにないと思いますけどね〜?」


彼方さん特製のから揚げを頬張りながら、かすみちゃんは自慢げに胸を逸らす。


果南「……じゃあ、まずかすみちゃんから、話そうか。……かすみちゃんは捨て身の攻撃が多すぎる」

かすみ「……ぅ」

果南「特に“じばく”みたいな相討ち上等な立ち回り方が目立ってる」

かすみ「……だ、だってぇ……あれは、大逆転できるパワーを秘めてる技だからぁ……」

果南「確かに打開の策としては間違ってないと思うよ。実際に、それで勝ってきてるわけだし。……でも、心のどこかでどんなに追い詰められても、最悪“じばく”で相討ちを取ればいいとか思ってない?」

かすみ「……ぅ……そ、それは〜……」
165 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:02:15.38 ID:/nLmInIK0

かすみちゃんが盛大に目を泳がせる。

欠点、そんなにないんじゃなかったの……かすみちゃん……。


果南「試合ではお互い最初から使うポケモンが決まってるから、使いどころを間違わなければ状況をひっくり返す技なのは確かだよ。でも、実戦はそうじゃない。相手の数だって決まってないし、もしかしたら連戦しなくちゃいけないかもしれない。場合によっては撤退を余儀なくされることもある。そういうときに手持ちが減るっていうのは致命傷になりかねない」

かすみ「…………」

果南「逆転する力、ポテンシャルとバトルに対するひらめきはかすみちゃんの長所だけど……逆を言うなら、戦闘が無計画すぎるところがある」

かすみ「…………ぐすっ……じ、自分でもわかってるもん……それくらい……」

彼方「ほら、泣かない泣かない」

かすみ「泣いてませんっ!」


果南さんの評価は思ったよりも厳しめだった。

でも……的は射ている気がする。

とはいえ、面と向かって厳しい評価を下されるのは、なかなかに堪えるものだと思う。


果南「……次は侑ちゃんだけど」

侑「は、はい……!」


私の番が来て、思わず背筋が伸びる。

かすみちゃんへの評価を聞いた直後というのもあるけど……元チャンピオンから自分のバトルを評価してもらえるというのは、またとない機会だから、変に緊張してしまう。


果南「まず、持久戦への崩しが苦手すぎる」

侑「……ぅ……じ、自覚してます……」

彼方「でも、こればっかりは相性もあるからね〜……」

果南「まあね。ただ、守られたときに攻撃がうまく通らないことで焦る癖は直した方がいいよ。防御に対しては相手にしないのも一つの戦術なんだから」

侑「は、はい……」

果南「あともう一つ……こっちの方が問題かな」


まだあるんだ……。


果南「侑ちゃんは、諦めが早すぎる」

侑「そ、そうですか……?」

果南「自分の負け筋が見えすぎてるというか……相手の勝ち筋が見えすぎてるというか……相手のやりたいことが見えすぎてるせいで、劣勢になると相手の勢いに呑まれちゃうところがあるんじゃないかな」

侑「…………そう言われると……ちょっと、思い当たる節があります……」


実際、直近の試合でも、ホシゾラジム戦では歩夢が声を掛けてくれなかったら雰囲気に呑まれていたところはあったし、クロユリジムでもワシボンが止めてくれなかったら、私は降参していた。

そして、今日のローズジム戦でも……最後まで諦めなかったのはかすみちゃんだ。私は……一人だったら、途中で諦めていたと思う。


果南「戦局を見る力があるとは思う。もちろん、それは実戦ですごく大事だし、引きどころを間違えないという意味では長所にもなるけど……絶対に負けられない戦いの場では──考え方の癖って言うのかな……それは絶対に侑ちゃんの足を引っ張ることになるよ」

侑「……はい」


つまるところ……私には引き癖というか……劣勢になると、考えるのを諦めてしまう癖みたいなものがあるようだ。

特に私たちがこれから挑む戦いは、絶対に負けが許されない戦い……そこで、もう勝てないかもなんて思ってたら、本当に負けてしまう。


リナ『でも、考え方をすぐに矯正するのは難しい』 || ╹ᇫ╹ ||

果南「そうだね。……でも、いざ実戦のときに、直りませんでした。じゃあ、困るでしょ?」

侑「……はい」
166 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:02:47.97 ID:/nLmInIK0

確かに出来ることなら直したい……。

勝負を諦める癖なんて、明確にデメリットだ。


果南「ただね、侑ちゃんにしても、かすみちゃんにしても……二人の欠点の根幹にあるのは同じ理由だと思うんだよ」

侑「同じ理由……ですか……?」

果南「それは──自信だよ」

かすみ「自信……?」


私とかすみちゃんは顔を見合わせてしまう。


果林「かすみちゃんの一発逆転を狙う癖も、侑ちゃんの諦め癖も……どっちも、自分たちのパワーやスピード、テクニックが相手に劣ってるって、頭のどこかで思っちゃってるからだと思うんだ」

侑「……それは、そうかもしれません」

かすみ「ぅぅ……かすみんもちょっと思い当たる節があります……」

果南「それを払拭するには、純粋に鍛錬を積んで、パワー、スピード、テクニック……その他もろもろ、自分たちが強くなったって実感を持たないと難しい」

彼方「まあ、簡単に言っちゃうと二人とも、根本的にステータスが足りてないよって話なんだけどね〜」

かすみ「身も蓋もなくないですか!?」


つまり──


侑「そのための──私たちのステータスを根本から上げるための修行法を考えて来てくれたって、ことですよね……?」

果南「ま、そんなところ」

かすみ「そうならそうと早く言ってくださいよ! かすみん、落ち込み損じゃないですか!」

果南「ただ……タイムリミットは後4日──ジム戦をする日を考えたら3日しかない。だから、かなりきついやつを選んできたから」

侑「き、きついやつですか……」

果南「うん、それはね──」



──
────



翌日、私たちはローズの西端で、カーテンクリフを見上げていた。


かすみ「こ、これ……登るんですか……?」

果南「そ。昨日も言ったけど、緊急時以外はウォーグルやドロンチを使って飛行するのは禁止。あ、でも戦闘には使ってもいいからね」

侑「わ、わかりました」
 「ブィ…」

果南「あと……かすみちゃん、ポケモン図鑑出してもらっていい?」

かすみ「は、はい? いいですけど……」

果南「リナちゃんもこっちおいで」

リナ『わかった』 || ╹ᇫ╹ ||


ふよふよとリナちゃんが果南さんのもとへと漂っていく。
167 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:03:20.46 ID:/nLmInIK0

果南「今回は二人ともポケモン図鑑なしで挑むこと」

かすみ「ええ!? な、なんでですか!?」

果南「何にも頼らない精神が己を鍛えるんだよ。……って言いたいところだけど、鞠莉から持ってくるように言われててね。ウルトラビーストを認識出来るように、バージョンアップしてくれるらしいからさ」

かすみ「あ、図鑑をパワーアップしてくれるんですね〜♪ なら、仕方ありませんね〜♪ ……って、なりませんよ!」

侑「……あくまで、自分と自分たちのポケモンの力で乗り越えてこいってことですね」

果南「そゆこと。ただ、ここのポケモンは強いからね。戦ってる最中、うっかり足滑らして落ちないようにね」

かすみ「え、縁起でもないこと言わないでくださいよぉ〜……」

果南「それじゃ、最後にもう一度確認するね」


果南さんはそう言って、昨日教えてくれたルールを再度おさらいしてくれる。


果南「二人は3日以内に、私が西の遺跡に置いてきたアイテムを拾って戻ってくること。わかりやすくしておいたから、たどり着ければすぐにわかると思うよ」

かすみ「誰かに取られたりしませんか……?」

果南「大丈夫、君たち以外が持ってても、意味のないものだから」

侑「私たち以外が持ってても、意味のないもの……?」

果南「何かは見てのお楽しみ。あと侑ちゃんにはこれ」


そう言って、果南さんは小箱を差し出してくる。


侑「これは……?」

果南「今回のアイテムのために用意した鍵だよ。到着したら箱から出してね」

侑「わかりました」


私は貰った箱をバッグにしまう。


果南「それじゃ、二人とも頑張っておいで」

リナ『侑さんが帰ってくるの……待ってるね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん! 待っててね、リナちゃん! 行こう、かすみちゃん!」

かすみ「うぅー……わかりました……帰ってきたら、ご馳走用意しておいて欲しいですって、彼方先輩に伝えてください……」

果南「はは♪ りょーかい♪ 伝えておくよ♪」


──
────
──────



──そして、今に至る。


かすみ「それにしても……山というか崖ですね……」

侑「ローズ側からだと、多少緩やかなんだけどね……」


カーテンクリフも東端は多少なだらかに始まっている。

……本当に多少で、すぐに崖みたいな急勾配になったけど……。


 「ブイ」


イーブイは軽い身のこなしで、ぴょんぴょん登っていくけど──私たちはそうも行かない。


侑「よい……しょ……。……かすみちゃん!」
168 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:04:16.81 ID:/nLmInIK0

私が岩を一段よじ登り、かすみちゃんに手を伸ばす。


かすみ「あ、ありがとうございます、侑先輩」


要所要所でお互いを引っ張りあげながら、どうにかこうにか登っていく。


かすみ「……はぁ……こんな崖みたいな山、果南先輩はホントに自力で登ったんですかね……?」

侑「彼方さん曰く、あっという間に登って降りてきたって言ってたよね……」


一体いつアイテムを遺跡に置いてきたのかと思ったけど……どうやら、私たちがジム戦をしている間にやっていたらしい。

ローズ側の麓で待っていた彼方さんによると──本当にものの数時間で戻ってきたとか……。

実際、その後私たちのバトルの分析とかもしてたわけだし……たぶん、嘘ではないと思う。


かすみ「あの人、人間なんですか……?」

侑「……それくらい、果南さんには実力があるってことなんだよ。きっと」


また一段登り──ふと後ろを見ると、ローズのセントラルタワーが少し下に見える。


侑「結構、登った気がするね……」

かすみ「でも……ここから先、さらに崖みたいになってますよぉ……」


かすみちゃんの言うとおり、崖はどんどん険しくなっていく。


侑「ここは……私たちだけじゃ、登れそうにないね」
 「ブイ…」

かすみ「ですね……」


目の前の崖を一段上に登るには、少し高い……。イーブイもこれは登れないと思ったのか、私の肩の上に戻ってくる。

一応登山用の道具は果南さんが用意してくれたものを持っているけど……この崖を自力で登ろうとすると、時間がかかってしまう。

ここまで、ポケモンたちの体力温存のために、二人で登ってきたけど……これ以上は、ポケモンたちの力を借りる必要がありそうだ。


かすみ「ジグザグマ、出てきて」
 「──クマァ♪」


かすみちゃんはジグザグマをボールから出す。バッグからロープを取り出して、ジグザグマのお腹辺りに括りつけ、技の指示をする。


かすみ「“ロッククライム”!」
 「クマ!!」


ジグザグマは指示を受けると、全身の硬い体毛を岩壁に突き刺しながら、上に登っていく。

崖を一段上に上がりきったところで、ジグザグマは体毛を岩壁に突き刺し、


かすみ「そこで待っててね〜」

 「クマァ〜」


一旦待機させる。


かすみ「それじゃ、先に行きますね」

侑「うん」


かすみちゃんは、ロープを自分に巻き付け、ジグザグマが窪ませた穴に手足を掛けて登っていく。

私も同じように、
169 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:04:51.41 ID:/nLmInIK0

侑「ウォーグル」
 「──ウォーー!!!」

侑「“ブレイククロー”」
 「ウォー!!」


岩壁に、手足を入れる隙間をウォーグルに作ってもらう。

……これは、飛行じゃないからセーフだよね?


侑「よし……イーブイ、落ちないようにね」
 「ブイ」


かすみちゃんと同じように、崖の窪みに手足を掛けながら登っていく。


かすみ「侑先輩! 掴まってください!」

侑「うん……!」


最後は先に登ったかすみちゃんに引っ張り上げてもらって──また一段上へ。


侑「ありがとう、かすみちゃん」

かすみ「どういたしましてです♪」


お礼もそこそこに、また崖を見上げる。


かすみ「一体……いつまで続くんでしょうかねぇ……」
 「クマァ…」

侑「尾根まで登り切れば……勾配は減るはずだから、そこまで頑張ろう……」
 「ブイ」「ウォーグ」


私たちの登山修行は続く──





    🐏    🐏    🐏





──さて……彼方ちゃんは今、コメコシティに戻ってきております。

今いる場所は──エマちゃんの寮のお部屋。

もちろんエマちゃんのお部屋だから、エマちゃんはいるんだけど……もう1人。リーグの偉い人、海未ちゃんと3人で座っている。

海未ちゃんがいるのは、彼方ちゃんのボディガードを兼ねているけど……もちろん、本題はそっちじゃありません。


海未「アサカ・果林さんは、当地方のチャンピオンである千歌を拐かし、さらに一般人を人質として連れ去ってしまいました……」

エマ「え……」


エマちゃんに果林ちゃんのことは聞くため、彼方ちゃんが仲介したのです。


彼方「一般人って言うのは……歩夢ちゃんとしずくちゃんのことだよ」

エマ「……そんな……果林ちゃんが……」

海未「……ご友人だったと伺っています。辛いかもしれませんが……果林さんがどういう方だったのか、聞かせてもらえませんか……?」


エマちゃんはしばらく無言だったけど……。


エマ「…………果林ちゃんが普通の人じゃないのは……なんとなく、わかってました」
170 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:05:33.16 ID:/nLmInIK0

ぽつりぽつりと喋り始めた。


エマ「……彼方ちゃんも」

彼方「ん……」

エマ「……果林ちゃんも、彼方ちゃんも……遥ちゃんもだけど……会ったときから、全然変わらないから……」

海未「全然変わらない……とは……?」

エマ「見た目が……全然変わらないんです」

海未「見た目が、変わらない……?」

彼方「えっと……わたしがこっちに落ちてきたのは18歳のときで……遥ちゃんは16歳だったんだけど……。……実は彼方ちゃんたち、歳を取ってないんだって」

海未「……それは本当ですか?」

彼方「原因はわからないんだけど……ウルトラスペースから過剰にエネルギーを浴びたのが原因で、身体の時間が一時的に止まってるんじゃないかって説明されたよ」


生き物は生まれてから死ぬまでに、たくさんたくさんエネルギーを使って、最後は死んでいくけど……。

そのエネルギーの消費が、ウルトラスペースから異常なエネルギーを浴びたせいで、極端に遅くなっているから、彼方ちゃんたちは歳を取らないように見えるらしい。

……国際警察の科学捜査部の人は、細胞分裂……? とか、テロメアの減り具合……? とか言ってたけど……彼方ちゃんには難しいことはわからないから、これ以上の説明は出来ないけど……。


海未「……歳を取らないというのは……不老ということですか……?」

彼方「うぅん。揺り戻しがあるから、何年かしたら止まってた年月分、一気に歳を取り始めるみたい。今までも“Fall”の中にはそういう人がいたらしいから」

海未「なるほど……。エマさんは、それに気付いていたんですね……?」

エマ「はい……ただ……本人が隠してるのには気付いてたし……無理に聞くのはよくないって思ったから、わたしが知ってることは、あまり……」

海未「……そうですか……」


まあ、果林ちゃんも……いくら仲が良いからって、うっかりエマちゃんに喋っちゃうような人とは思えないからなぁ……。


エマ「……果林ちゃん……ずっと、何かに追い詰められているというか……いつも焦ってるなって……ずっと思ってました……」

彼方「…………」


璃奈ちゃんが亡くなって、愛ちゃんが問題を起こし、わたしが組織から逃げ出してしまった……。

4人居た組織の幹部は……実質、果林ちゃんしか残らなかった。

果林ちゃんは自分たちの世界を救いたいという想いが、人一倍ある人だったから……その責任感から、必要以上に背負いこんでしまった節はあるのかもしれない。


エマ「……冷たく突き放したようなことを言うことはあるけど……本当は優しい人なんです……。……可愛い物やポケモンが大好きで、実はお寝坊さんで、すぐ迷子になっちゃって……でも、わたしが困ってたら助けてくれて……」

彼方「エマちゃん……」


辛そうに喋るエマちゃんを見ていると、エマちゃんは本当に果林ちゃんを大切に想っていたことが、それだけで伝わってきた。


エマ「……あの……もし果林ちゃんを見つけたら……どうするんですか……?」

海未「……彼女の正確な目的がわからないので、完璧に答えるのは難しいですが……恐らく、彼女の身柄確保を目指して動くことになると思います。ですが、相手の力は強大です……極力避けたいですが、場合によっては──」


海未ちゃんはそこで言葉を止める。……恐らく、そういうことだと思う。

捕まえる余裕があるとは、考えづらいもんね……。


エマ「……。……話し合いで……解決出来ませんか……?」

海未「もちろん、それが理想ですが……。……向こうは人に危害を加えることに躊躇がない。そういう相手を説得出来るかと言われると……」

エマ「……そう……ですよね……」


エマちゃんはぎゅっと手を握る。
171 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:06:26.74 ID:/nLmInIK0

エマ「……行くときは……一言言ってくれるって……約束したのに……」

彼方「エマちゃん……」

海未「……」


全員が無言になった部屋の中、突然──prrrrとコール音が響く。


海未「……私のポケギアです。少し失礼します」


海未ちゃんがそう言って部屋を出ていき、私はエマちゃんと二人きりになる。


エマ「…………彼方ちゃん」

彼方「なにかな」

エマ「……果林ちゃんは……悪い人なのかな……?」

彼方「……どの立場から見るかによるとしか、言えないかな……」

エマ「果林ちゃんは、何をしようとしてるの……?」

彼方「……具体的にどうするかはわからないけど……この世界を滅ぼすつもり……だと思う。少なくともわたしはそう聞いてた」

エマ「…………そんなことしないよ、果林ちゃんは……」

彼方「……エマちゃん」

エマ「…………」


再び静寂に包まれる。

しばらく、二人で無言のまま過ごしていると、海未ちゃんが部屋に戻ってきた。


海未「彼方、もうじきこちらに果南が来るそうです。私は……次の場所へ移動しないといけないので……」

彼方「わかった。果南ちゃんと合流したら、一緒に行動するね」

海未「……果南が来るまでいた方がいいですか?」

彼方「平気だよ〜。守ってもらってるけど、彼方ちゃんも強いから〜。もうすでに果南ちゃんがこっちに向かってくれてるなら大丈夫だよ〜」

海未「わかりました。そういうことでしたら、私は行きますね。……エマさん、貴重なお話、ありがとうございました」

エマ「いえ……」

海未「……出来る限り、彼女と争わない道を考えるつもりです。……期待はしないで欲しいですが」

エマ「……はい」


そう残して、海未ちゃんはエマちゃんのお部屋を後にする。


エマ「…………」


エマちゃんは、酷く落ち込んでいる。

そりゃ、そうだよね……。果林ちゃんはエマちゃんにとって親しい友人だったみたいだし……。


彼方「エマちゃん、おいしいクッキーでも焼こうか……? おいしいもの食べたら元気も出ると思うから……」

エマ「ありがとう、彼方ちゃん。……でも、今はちょっと考えたいことがあるから……一人にしてもらってもいいかな……」

彼方「エマちゃん……。……わかった。ごめんね、辛い話をさせちゃって……」

エマ「うぅん、大丈夫だよ。クッキーは今度食べたいな。彼方ちゃんの焼いてくれるクッキーすっごくおいしいから」

彼方「うん、わかった。次来るときは焼きたてのを持ってくるね」

エマ「うん」
172 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:07:46.72 ID:/nLmInIK0

そう約束して、わたしもエマちゃんの部屋からお暇するのだった。





    🏹    🏹    🏹





コメコを発ち、ローズに向かってカモネギで飛行している最中──音ノ木の付近で、見慣れたポケモンが飛んでいることに気付く。


海未「……リザードン? ということは……」


私はそのリザードンに向かって近づいていく。


穂乃果「──はい。……今のところは特に変わったことは何も……」

海未「穂乃果?」

穂乃果「あれ? 海未ちゃん? ……あ、はい。じゃあ、また連絡します」


どうやら、ポケギアで誰かと連絡をしていたようだ。

穂乃果は私に気付くと、通話を切り、私の方へと向き直る。


海未「ポケギアの相手は……相談役ですか?」

穂乃果「うん」

海未「……貴方たちは一体何をしているんですか……?」

穂乃果「えっと、音ノ木に変わったことがないかなって」

海未「音ノ木に……?」


この緊急事態に穂乃果や相談役は何故、音ノ木に拘るのだろうか……?


海未「……そういえば、グレイブ団事変のときも、貴方は音ノ木にいましたね」

穂乃果「あーうん……まあ」

海未「……言えない事情があるみたいですね……まあ、いいです」


相談役の指示ということは、大雑把に言えばリーグの指示と言っても過言ではない。

現理事長は私ですが……穂乃果は相談役が理事長をしていた頃から、彼女の指示で動いていたようですし、考えがあってのことだ。

国際警察のような機密を扱う機関とのやり取りだからこそ、先方との擦り合わせの問題で共有できない部分もあるのだろう。

ここで私が無理に穂乃果の動きに干渉すると、不具合が生じかねない。

それに、そもそも穂乃果はリーグ所属の人間ではないですしね……。私が彼女に指示を出す権限はありません。


海未「今アキハラタウンにことりがいると思います。いつも会いたがっていましたので、余裕があったら顔を見せてあげてください。喜ぶと思うので。……それでは」

穂乃果「あ、あれ? もう行っちゃうの?」

海未「ええ。ローズで約束があるので」

穂乃果「そっか……気を付けてね」

海未「はい、穂乃果も。カモネギ」
 「クワ」


カモネギに指示を出し、私は再びローズへと進路を向ける。



173 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:08:38.06 ID:/nLmInIK0

    🎹    🎹    🎹





 「──ゴドラァ!!!!!」

侑「ニャスパー!! “サイコキネシス”!!」
 「ウニャァ〜」


振り下ろされるボスゴドラの拳をニャスパーが全開のサイコパワーで受け止める。

が、


 「ゴドラァ!!!!」

 「ニャ、ニャァァ…!!」
侑「ぱ、パワー、つよ……!」


こっちはフルパワーなのに、拳を止めきれない。


かすみ「ゾロア!!」
 「ガゥ!!!」


そんな中、ゾロアがボスゴドラの顔面に飛び付き、


 「ゴドラァ…!!?」

かすみ「“ナイトバースト”!!」
 「ガーーーゥゥ!!!!」


至近距離で“ナイトバースト”を炸裂させる。


 「ゴドラァ……ッ!!!!」

かすみ「侑先輩、大丈夫ですか!?」
 「ガゥ!!」

侑「うん、ありがとう、かすみちゃん……!」
 「ニャァ…」

 「ゴド、ラァ…!!!」

かすみ「ふふん♪ 闇がまとわりついてよく見えないですよね!」
 「ガゥ!!」


“ナイトバースト”には相手の命中率を下げる効果がある。

あれだけ至近距離で食らったら、その追加効果の影響をもろに受けてしまったに違いない。


侑「よし……! 今だよ! ウォーグル!」
 「ウォーーーーッ!!!!」


ウォーグルが爪を構えながら上空から強襲し──


侑「“ばかぢから”!!」
 「ウォーーーーッ!!!!!」


上から爪で力任せに押さえつける。


 「ゴドラァ…!!!!」


だけど、ボスゴドラは視界が奪われているはずなのに、ウォーグルをパワーだけで押し返してくる。
174 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:09:27.56 ID:/nLmInIK0

 「ウ、ウォーー…!!!!」
侑「ウォーグル!! 負けないで!!」

かすみ「ヤブクロン!! “アシッドボム”!」
 「ブクロンッ!!!」


どくタイプの攻撃は、はがねタイプには効果がないけど──ヤブクロンが攻撃を放ったのはボスゴドラの足元だ。

足元に落ちた“アシッドボム”は着弾と共に、地面を溶かし、


 「ゴ、ドラッ!!!?」


ボスゴドラの足元を滑らせた。


侑「今だ!!」
 「ウォーーーーーッ!!!!!」

 「ゴ、ドラァ…!!!!」


ウォーグルが爪で蹴り飛ばしてボスゴドラを押し倒す。そこに向かって、


侑「ドロンチ!!」
かすみ「サニーゴ!!」

侑・かすみ「「“シャドーボール”!!」」
 「ロンチィーーー!!!!」「サ……」


2匹から放たれた“シャドーボール”がボスゴドラに直撃し、


 「ゴドォッ…!!!!」


その衝撃で吹っ飛んだボスゴドラは──崖から落下していった。


かすみ「はぁ……ど、どうにか倒せたぁ……」

侑「あはは、そうだね……」


やっと撃退出来て、一息──吐いたのも束の間、


 「タンザン…!!」

侑「!? かすみちゃん、危ない!?」

かすみ「へ!?」


突然、黒い液体のようなものが飛んできて、私はかすみちゃんを押し倒すように伏せる。


侑「あ、あのポケモンは確か……セキタンザン……!」

かすみ「ま、まだ出てくるんですかぁ!?」

 「タンザンッ!!!!」


セキタンザンは再び黒い液体のようなものを飛ばしてくる。


かすみ「サニーゴ! “ミラーコート”!!」
 「……サ」

侑「かすみちゃん!! それに当たっちゃダメ!!」

かすみ「へ!?」


その黒い液体は、サニーゴにぶつかると──べしゃっと音を立てながら、サニーゴにへばりつく。
175 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:10:06.75 ID:/nLmInIK0

かすみ「ちょ、サニーゴ!? なんですか、あのねばねばして気持ち悪いの!?」

侑「あれは“タールショット”だよ……! ねばねばしてて、よく燃える液体……!」

かすみ「よく燃える!?」


説明している間にも、


 「タンザン…!!」


セキタンザンの背中の炎が赤熱し、口から炎が溢れ出し、大の字になりながらこっちに飛んでくる。


かすみ「ぴゃーーー!? “だいもんじ”−−!!?」

侑「イーブイ! “いきいきバブル”!! フィオネ! “バブルこうせん”!!」
 「ブーーーィィッ!!!!」「フィオーー」


2匹のみず技で消火を試みる。

が、勢いが強すぎて、止められる気がしない。


かすみ「か、加勢します!! サニーゴ! “ハイドロポンプ”!!」
 「……サ」


タールまみれになりながら、サニーゴが強烈な水流を発射し──それによって、やっと“だいもんじ”は勢いを失い始めるが、


 「タンザンッ!!!!」


セキタンザンが、そこに向かって走りこんでくる。


侑「!? ま、まずい!?」


セキタンザンが自ら、泡と水の中に突っ込み──ジュウウウウ!! と音を立て、蒸気を上げる。


かすみ「へ!? なんか、湯気出てますよ!?」

 「タンザン…!!!」


直後、猛烈なスピードでセキタンザンがこっちに向かって突進してくる。


かすみ「は、はやっ!?」

侑「……っ!!」


このスピードじゃ、回避しきれない……!!

なら……!


侑「ドロンチ!!」

 「──ロンチィ…」


ドロンチがユラリとセキタンザンの進路に現れ、


 「タンザンッ!!!?」

侑「足元、薙ぎ払え!!」

 「ロンチィ!!!」

 「タンザンッ!!!?」
176 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:10:47.81 ID:/nLmInIK0

猛スピードで走るセキタンザンの足元を“ドラゴンテール”で薙ぎ払った。

走っている真っ最中に足払いを食らったセキタンザンは前方に向かってすっ転ぶ。

そして、転んだセキタンザンに向かって真上から──


かすみ「テブリム!!」
 「テーーーブゥ!!!!」


テブリムが頭の房を叩きつける。

が、セキタンザンはまだ倒れず、


 「タンザンッ…!!!!」

かすみ「タフですねぇ……!」


テブリムに手を伸ばしてくるが──直後、セキタンザンの身体が、ボゴッと音を立てながら地面に沈み込む。


 「タンザン…!!?」

かすみ「得意の落とし穴トラップですよ!!」
 「クマァッ♪」


ジグザグマがセキタンザンの足元を掘りぬきながら、飛び出してくる。

あの巨体だ。自分の立っている地面の下が空洞になったら、その重さに耐えきれずに、穴に沈み込むは当然のこと。

そして、動けなくなったセキタンザンに向かって──


侑「ドロンチ!! “ドラゴンダイブ”!!」
 「ロンチィ!!!!」

 「タンザンッ!!!?」


セキタンザンに強烈なプレスをかました。

さすがにこの連続攻撃には耐えきれなかったようで、


 「タン、ザン…」


セキタンザンは、ガクリと気絶し、戦闘不能になった。


かすみ「……はぁ……」

侑「あ、危なかったね……」

かすみ「なんですか、あのスピード……見た目に合ってませんよ……」

侑「セキタンザンの特性は“じょうききかん”って言って、みずタイプかほのおタイプの技を受けると、素早さが上昇するんだよ……」

かすみ「な、なるほど……」


“じょうききかん”が発動した時はどうなるかと思ったけど……素早さを逆手に取って、どうにか倒すことが出来た。


かすみ「……そうだ、サニーゴ……すぐにタール、落としてあげるからね……」
 「サ……」


かすみちゃんは、タールでべとべとになったサニーゴの体をバッグから出したタオルで拭い始める。


かすみ「……タオルが一瞬で真っ黒に……」

侑「水で洗い落とした方がいいかな……フィオネ、“みずでっぽう”」
 「フィオー」


ぷしゃーと水を噴きかけ、サニーゴのタールを少しずつ落としていく。
177 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:11:41.29 ID:/nLmInIK0

かすみ「ありがとうございます……。……それにしても……ここの野生ポケモン……強いですねぇ……」

侑「ホントに……」


やっと尾根まで登り切って、急勾配に苦しめられることがなくなったと思った矢先──野生ポケモンたちが次々と襲い掛かってきて、それの撃退にてんやわんやだ。


かすみ「ここまでで何匹と戦いましたっけ……今戦ったセキタンザン、ボスゴドラ……ニドキング、ドンファン、ハガネール……」

侑「ゴローニャ、ダイノーズ、チャーレムにバクオング……」

かすみ「はぁ……ポケモンたちは“げんきのかけら”で回復できますけどぉ……かすみん、もうさすがに疲れましたぁ……早く帰りたいぃ……」

侑「まあまあ……その成果は出てるからさ」

かすみ「成果……?」


そう言いながら、私はドロンチを見る。

すると、ドロンチは体をぶるぶると震わせていて、次の瞬間──カッと光り輝く。


かすみ「わ!? こ、これって……!」

侑「うん!」
 「──パルト…!!!」

侑「戦って得た経験値で、ドロンチがドラパルトに進化したよ!」
 「パルト♪」

侑「確実に私たちの力にはなってる。だから、この調子で頑張って進もう」

かすみ「……わかりました。弱音吐いてる場合じゃないですもんね……!」


一緒に戦っていたポケモンが目の前で進化するというのは、少なからず、かすみちゃんにやる気と勇気を与えてくれたようだ。


侑「もう尾根も半分くらいまでは歩いてきたと思うからさ。あと半分、頑張って進もう」
 「ブイ」

かすみ「はーい! 頑張ります!」
 「ガゥ」


私たちは真っ赤な夕焼け空の中、再び歩き出す。

日が落ち切る前に、少しでも進んでおかないとね──





    🏹    🏹    🏹





──さて、私が忙しなくコメコからローズへと来たのには、もちろん理由があります。

それは……説明をしなくてはいけない方たちのもとへと訪れたから……。

マンションの一室で、テーブルを4人の大人が囲っていた。

もちろん、1人は私。……そして、もう1人は──真姫です。

並んで座る私たちの向かいには──


菜々父「…………」

菜々母「…………あ、あの……それで、お話とは……」


神妙な面持ちのナカガワ夫妻の姿。特にご主人の方は、何か心当たりがあるのか、重い表情をしているように見てとれた。

──ここは菜々のご実家。菜々のご両親に事情の説明をしに来たということです。
178 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:12:28.62 ID:/nLmInIK0

海未「本日は、菜々さんについて……ご説明しなくてはいけないことがあって、参りました」

菜々母「菜々の……?」

海未「結論から言うと、菜々さんは……とある事件に巻き込まれていて……今現在、犯罪組織の人間と一緒にいるそうです……」

菜々母「え……」

真姫「それについて、私から説明させてもらってもいいかしら……」


真姫がそう切り出す。


真姫「まず……菜々が、ポケモントレーナーであることは……ご存じですよね。私がポケモンを持たせたことも……」

菜々父「……はい。存じております」

菜々母「主人から、話は伺っています……菜々はチャンピオンになると言って……飛び出して行ってしまったと……」

真姫「菜々は……焦ってチャンピオンに挑み……敗北したそうです」


真姫は伏し目がちに言いながら、言葉を続ける。


真姫「そして……敗北で弱っているところを……その組織の人間に唆されて……付いていってしまった……」

菜々母「そ、その犯罪組織というのは……」

海未「詳しくは調査中ですが……この地方の平和を脅かす存在なのは間違いありません。……少なくとも、善人ではないです……」

菜々母「そん、な……」


菜々の母親の顔色が一気に青ざめる。


真姫「菜々は……すぐにでも強くなるための力を欲するあまり……より強いポケモンを受け取るのを条件に……その組織の人間に……付いていってしまいました」


真姫の言葉を聞いて、


菜々父「…………私が……あんな言い方をしてしまったからか……」


菜々の父親は顔を両手で覆いながら、肩を落とす。


真姫「今回、このような問題を起こしてしまったのは……私の責任です。ご両親が反対しているのを知っていながら、菜々にポケモンを持たせたのは私ですし……その上で、彼女をしっかりと見てあげられなかった。……本当に申し訳ありません」


真姫は立ち上がり、深々と頭を下げる。


菜々父「…………」

菜々母「……な、菜々は……娘は……どうなるんでしょうか……?」

海未「もちろん……リーグが責任を持って連れ戻します」

菜々母「そう……ですか……」


私の言葉を聞いて、菜々の母親は可哀想なくらい気落ちしているのが一目でわかった。

……一人娘が、悪人たちに付いて行ってしまったなんて聞かされたら当然だろう。

だが、母親以上に──


菜々父「………………」


父親の狼狽振りの方が酷かった。

この事態が起こる直前に、菜々と話をしたというのは真姫から聞いている。

その内容も凡その予想が付いていて……そのときに菜々とした会話が、今回の引き金になったという想いがあるのかもしれない。

あまりの気落ち振りに──
179 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:13:12.09 ID:/nLmInIK0

菜々母「あなた……大丈夫……?」

菜々父「……あ……あぁ……」


ご夫人も心配そうにしている。


菜々母「……顔色が悪いわ……。……あとは、私が話を伺うから……あなたは奥で休んでいて」

菜々父「…………しかし…………」

菜々母「いいから」

海未「ご無理は、なさらないでください……今、体調が優れないのであれば、後日でも大丈夫ですので」

菜々父「…………すみません……。……少し、席を外させてもらいます……」


そう言って、菜々の父親は重い足取りで奥の部屋へと下がっていった。


菜々母「…………主人は……菜々からポケモンを取り上げようとした結果、あの子が飛び出して行ってしまったことを……酷く後悔していました……。……それが、まさかこんな事態にまでなってしまうなんて……」

海未「心中……お察しします」

菜々母「ただ……勘違いはしないで欲しいんです。……主人が菜々からポケモンを遠ざけようとしていたのは、菜々を想ってのことなんです……。あの人は……幼少期にポケモンに襲われて親を失っていて……菜々には同じ想いをして欲しくないと……そう口にしていました……」

真姫「……菜々も同じようなことを言っていたわ」

菜々母「私は……このローズで生まれて、ポケモンとほとんど関わらずに育って、あの人と結婚しました。……私はポケモンと関わらない人生を不幸に思ったことはありませんし……少し、怖い存在だと今でも思っています。だから私も……ポケモンと関わらずに、菜々が幸せになれるのなら、その方がいいと思っていました……。ですが……私たちの、その考えが……ずっと、菜々を苦しめていた……」

真姫「…………」

菜々母「いえ……本当は……菜々がポケモンに興味を持っていることには……ずっと前から気付いていました……。だけど、あの人の主張も理解出来て……菜々がしたいことが出来なくて苦しんでいるとわかっていながら……あの人の意見も正しいからと、そんな風に自分に言い訳して……あの子の気持ちから、目を逸らしていたんです……っ……」


菜々の母親は、目元を押さえながら、そう話す。


菜々母「こんなことになるなら……もっと、話を聞いてあげればよかった……っ……菜々を……見てあげればよかった……っ……。……っ……」


彼女の目から、ぽろぽろと涙が零れる。

私は席を立ち、彼女に近付き、ハンカチを差し出す。


海未「……使ってください」

菜々母「……すみません……っ……」


さめざめと涙を流すナカガワ夫人を見て、


真姫「ごめんなさい……私も……隠れてポケモンを持たせたりせず、もっとご家族と向き合えるようなやり方を……ちゃんと考えてあげるべきでした……。……ごめんなさい」


再び頭を下げる真姫。


菜々母「あ、頭を上げてください……真姫さんは……菜々の夢を……叶えるために、あの子の傍に居てくれたんですよね……」

真姫「……その……つもりだったんだけどね」


真姫も、酷く後悔した顔をしていた。

その胸中は……わざわざ説明する必要もないでしょう。


菜々母「あの……真姫さん……」

真姫「……なんでしょうか……」

菜々母「あの子は……菜々は、ポケモントレーナー……だったんですよね」

真姫「……はい」

菜々母「今からでも、あの子が……その……ポケモントレーナーとして戦う姿を……確認出来るものは……残っていますか……?」

真姫「え……?」
180 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:13:56.93 ID:/nLmInIK0

真姫は菜々の母親の言葉に驚いたように目を見開く。


菜々母「私は……私たちは……菜々のことを全然見ていなかった……。……私たちには戦う力がありません。……だから、こんなことになってしまった今、菜々にしてあげられることは何もない、ただ待つことしか出来ない。……だけど……せめて……あの子が心の底から大事に思っていたものを、大好きだと思っていたものを……ちゃんと見ないといけないんじゃないかって……そう思ったんです。今更、遅いのかもしれませんが……」


菜々の母親の言葉に、真姫は、


真姫「……是非、そうしてあげてください……きっと、菜々は両親がそう思ってくれただけで、喜ぶはずだから……」


そう返す。


真姫「海未、ポケモンリーグのバトルビデオ……本部なら残ってるわよね?」

海未「もちろんです。後日、リーグからこちらに送らせていただきます」

菜々母「ありがとうございます……。……あの人にも、一緒に見てもらうようにお願いしてみます……あの子の……大好きなものを……。あの子にとっての……大切なものを……」


菜々の母親の言葉を聞いて、真姫は力強く頷いた。


真姫「あの子は……菜々は、絶対に私たちが連れて帰ります……! だから、待っていてください……!」

菜々母「はい。菜々のこと……どうか、よろしくお願いします……っ……」


菜々の母親は、最後にもう一度、深々と頭を下げて、私たちにそう懇願するのだった。





    🏹    🏹    🏹





ナカガワ宅を後にし、ローズの街を歩く最中、


真姫「……私も……ダメね」


真姫がそう零す。


海未「どうしたんですか、突然」

真姫「……私も人のこと言えないなって……。……菜々のご両親は、絶対に話を聞いてくれるはずないって……勝手に決めつけて、せつ菜のことをずっと隠していた……。……今になって考えてみたら、もっとやりようはあったんじゃないかって……」

海未「気持ちはわかりますが、今言っても仕方ありません……。それに、今私たちにはやるべきことが山積みです。……悔やむのは全てが終わってからにしませんか」

真姫「……そうね。……ごめんなさい」


そうだ。私たちにはやるべきことがたくさんある。


海未「……そういえば、侑とかすみは今どうしているんですか? ローズジム戦には勝利したと報告は受けましたが……」

真姫「今は果南が出した課題をこなすために、カーテンクリフを登っているみたいよ」

海未「それはまた……果南らしい、課題の出し方ですね……」


彼女の教え方は非常に大雑把だ。

一つ一つ問題点を解決するというよりは……とにかく、やらせて伸ばすというか……。

しかも、そのやらせる内容はかなり無茶なことが多い。

確かに、それをこなせれば相応の自信と実力を付けられるものになっているのには間違いないのだが……。


海未「大丈夫でしょうか……」
181 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:14:39.65 ID:/nLmInIK0

自分が条件を出しておいてなんですが……私は少しだけ、彼女たちが心配になっていた。





    🎹    🎹    🎹





かすみ「──もう……! あのヨノワールしつこすぎでしたよ!」
 「ガゥゥ…」

侑「あはは……そうだね……」
 「ブイ」


日もとっぷり暮れて……朝からずっと動き続けていた私たちは、さすがにくたくた……今日はここら辺で休もうという話になったんだけど……。

そんな中でも、お構いなしに襲ってくる野生ポケモンをどうにか撃退したところだ。


侑「とにかく、テント張っちゃおうか」

かすみ「はいぃ……もう、さすがに休まないと死んじゃいますぅ〜……」


二人掛かりで、テントを張ろうとして──


侑「……ん?」


ペグを打とうとしたら──地面にすでにペグを打ったような穴があることに気付く。


かすみ「どうかしたんですか、侑先輩?」

侑「あ、いや……すでにペグを打ったみたいな穴があってさ……」

かすみ「もともとあったってことですか?」

侑「うん……」


周りをよく見てみると──焚火跡のようなものもある。

……せっかくだし、使わせてもらおうと思うけど……。


かすみ「ここで野宿でもしてる人がいたんですかね……?」


ここで野宿する人なんているのかな……? なんて思ったけど、


侑・かすみ「「……あ」」


かすみちゃんと同時に思い出す。


侑「……せつ菜ちゃんだ」
かすみ「……せつ菜先輩です」

侑「考えてみれば……ここでの修行って、せつ菜ちゃんもしてたことなんだ……」

かすみ「確かに、強い野生ポケモンもたくさんいますし……ここに籠もるのってもしかして、すっごく効率がいいんですかね?」

侑「かもしれないね」


やっぱり、果南さんはチャンピオンなだけあって、用意してくれたの課題は適切なのかもしれない。道具だけ渡して行ってこいって言うのは、大分スパルタだとは思うけど……。

そんなことを考えていると──くぅぅぅ〜〜……と可愛らしい音が聞こえてくる。


かすみ「ぅぅ……お、お腹なっちゃいましたぁ……///」

侑「……ふふ、早くテント張って、ご飯食べよっか」
182 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:15:17.54 ID:/nLmInIK0

私たちは一刻も早く空腹を満たすためにも、野営の準備に取り掛かるのだった。





    🎹    🎹    🎹





侑「……ねぇ、かすみちゃん」

かすみ「なんですか?」


お湯を入れるだけで作れるポタージュを飲みながら、かすみちゃんが小首を傾げる。


侑「強い人って……どんなこと考えてるか、わかる……?」

かすみ「んー? ……うーん……もっと強くなるぞーとか? ……正直、よくわかんないですね」

侑「あはは、そうだよね。私も……よくわかんない……。……わかって、あげられなかった……」

かすみ「……もしかして、せつ菜先輩に言われたこと……気にしてるんですか……?」

侑「うん……ちょっとね……」


遺跡でせつ菜ちゃん言われたこと──『貴方なんかに──私の気持ちは、理解出来ませんよ……』──


侑「せつ菜ちゃん……すごく苦しそうだった……。……だから、ずっと考えてたんだ……だけど、わからなかった……」

かすみ「……せつ菜先輩って……菜々先輩なんですよね」

侑「……みたいだね。……会議でその話を聞いたときは、びっくりした……」

かすみ「かすみんもです……。でも、菜々先輩がせつ菜先輩だったってことは……かすみんたちには想像出来ないくらい、大変なことがあったんじゃないかなって思うんです……」

侑「……そうだね」


親に旅立ちを許してもらえなかった菜々さんが……せつ菜ちゃんとして、この地方のチャンピオンに迫る実力を得るまでに、一体どれだけの苦労と、苦悩があったのか……私には想像も出来ない。


かすみ「かすみんたちは……選ばれて、図鑑も、最初のポケモンも貰って旅に出れましたけど……せつ菜先輩が実は菜々先輩だったって知った途端……せつ菜先輩にとって、かすみんたちってすっごく恵まれた人たちに見えてたんじゃないかなって思うようになりました……」

侑「……うん」


私たちはなんとなく、最初のパートナーに目を向ける。


 「ブイ…?」
 「カイン」


私のイーブイに関しては、博士に貰ったポケモンではないけど……。


かすみ「たぶん……そういう羨ましいー! って気持ちとか、なんであの人は貰ってるのにー! って気持ちが一度出てきちゃうと、悔しくて悔しくて、仕方なくなっちゃうんじゃないかなって……少なくともかすみんが同じ立場だったら、すっごく悔しいです」


今考えてみればだけど……その悔しさみたいなものは、せつ菜ちゃんの手持ちにも反映されていた。


侑「……せつ菜ちゃんが手持ちを5匹しか持ってなかったのは……そういうことだよね……」


せつ菜ちゃんにとって……最後の1匹──いや、最初の1匹は……ヨハネ博士から貰うはずのポケモンだったんだ。
183 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:16:46.16 ID:/nLmInIK0

かすみ「だから……せつ菜先輩がかすみんや侑先輩に八つ当たりしちゃう気持ち……かすみんはわかる気がします。……もちろん、果林先輩が余計なことを言ったんだとは思いますけどね!」

侑「うん……」

かすみ「結局、かすみんたちはせつ菜先輩が欲しかったものをすでに持ってるわけですから……せつ菜先輩がどう辛かったか〜とか、悔しかったか〜とか、そういう気持ちって、想像する以上のことは出来ないと思うんですよ」

侑「……まあ……そうだよね」

かすみ「だから、どっちかと言うとせつ菜先輩自信の問題だと思います。侑先輩、すっごく優しいから気になっちゃうんでしょうけど……侑先輩が悩んじゃうくらいなら、気にしなくてもいいんじゃないかなって」

侑「……ありがとう、かすみちゃん。……話したら、ちょっとすっきりした」

かすみ「なら、よかったです♪」


かすみちゃんは、ニコニコ笑いながら言う。


かすみ「じゃあ、今度はかすみんから侑先輩に聞いてもいいですか?」

侑「ん、なにかな」

かすみ「侑先輩は……どんなトレーナーになりたいですか?」

侑「どんなトレーナー……うーん……」


改めて聞かれると悩んでしまう。


かすみ「きっとせつ菜先輩には明確に、そういうものがあったのかな〜って……だから、そういうのを考えていったら、意外とわかったりして」

侑「……確かに……うーん……でも、なんだろう……。……かすみちゃんは?」

かすみ「かすみんはポケモンマスターになりたいって思って、ずっと旅してますよ!」

侑「ポケモンマスターかぁ……」


かすみちゃんらしいけど、ちょっと抽象的だなぁ……。


侑「具体的には……?」

かすみ「具体的……? うーんと……可愛くて強いトレーナーです! あと、誰にも負けないトレーナーになりたいです!」

侑「可愛くて強くて、誰にも負けないトレーナー……なんか、それもかすみちゃんらしいね」

かすみ「はい! 自分でもかすみんらしいと思います! それで、侑先輩はどうですか?」

侑「私は……」


考えてみる。私はどんなトレーナーになりたいのかな……。

未来の自分を想像してみる。

強くはなりたい……強いトレーナーになって……。

……チャンピオンになる……? うーん……なんか違う……。もちろんなれたら嬉しいけど……私がポケモンたちと一緒に目指したいのってそういうことじゃない気がする……。

じゃあ、ジムリーダーとか、四天王になる……? それもなんだかしっくりこない。

……なら、どうして強くなるんだろう。

強くなって……何をするんだろう。

そのとき、ふと……頭に浮かんできたのは……。


侑「……歩夢……」


──歩夢の顔だった。


侑「……そっか。わかった……私……大切な人を守れるトレーナーになりたいんだ」


私の旅は、いつだって歩夢と一緒にあった。歩夢がいなくなってしまって、より一層強く思った。私は……歩夢を守れるトレーナーでありたい。
184 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:17:31.28 ID:/nLmInIK0

かすみ「……素敵です、侑先輩らしいですね♪」

侑「歩夢だけじゃない……かすみちゃんも、しずくちゃんも、リナちゃんも……せつ菜ちゃんも。私が大切って思った人たち、みんなを守れる強いトレーナーになりたい」

かすみ「じゃあ、お互い強くならないといけませんね! まあ、かすみんは守ってもらわなくても大丈夫なくらい強くなっちゃうんですけど♪」

侑「ふふ、頼もしいね♪ じゃあ、私はかすみちゃんに守ってもらっちゃおうかなぁ……」

かすみ「任せてください! 最強の可愛い強いトレーナーはそれくらい出来て当然ですから!」

侑「ふふ、期待してるよ♪」


そして、そんな風になるためにも──私たちはこの修行を乗り越えないといけない。

私たちの……未来を守るためにも。


かすみ「……ふぁぁ……」

侑「かすみちゃん、眠い?」

かすみ「はい……ご飯食べたら……急に眠くなってきました……」

侑「明日も朝早いだろうから……今日はもう寝ちゃおっか」

かすみ「はい……」


私はテントの中に、果南さんからもらった鈴を取り付ける。

野生ポケモンがテントに触れたら、鈴が鳴って報せてくれるようにするものらしい。

大きなテントではないので、ポケモンたちをボールに戻して……。

と、思ったら、


 「カイン」「…ライボ」


ジュカインとライボルトは私たちがボールを向けると首を振る。


かすみ「ジュカイン……もしかして、見張りしてくれるの?」
 「カイン」

侑「ありがとう、ライボルト。でも明日もあるから、せめてジュカインと交替で休んでね」
 「…ライボ」


2匹にお願いして、私たちはテントの中に入る。


 「──ガゥ♪」
かすみ「……って、ボールから出てきちゃダメじゃないですか……。仕方ないなぁ……一緒に寝よっか、ゾロア」
 「ガゥ♪」

侑「ふふ、それじゃ寝ようか。イーブイ、おいで」
 「ブイ♪」


こうして、私たちの修行1日目は終わりを迎えるのだった。





    🍭    🍭    🍭





──時刻は夜です。ルビィは今、夜のローズシティにいます。

なんでこんなところにいるかというと……。


理亞「ルビィ、こっち」

ルビィ「うん」
185 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:18:52.81 ID:/nLmInIK0

理亞ちゃんにローズの病院に来て欲しいと言われたからです。

お互いジムリーダーなので、海未さんに許可を取って……少しの間、四天王さんたちの守る範囲を広げてもらっています。


ルビィ「それにしても……理亞ちゃん、急にどうしたの……?」

理亞「……ルビィには、知っておいて欲しいと思って」

ルビィ「……?」


そう言って前を歩く理亞ちゃんは──案の定、聖良さんの部屋に向かっていた。


理亞「──ねえさま。ルビィを連れてきたよ」

ルビィ「お、お邪魔しま──……え……?」


私はベッドに横たわる聖良さんを見て、びっくりする。

聖良さんの目が開いている。


理亞「ねえさま、意識が戻ったんだ。……だけど、心がないんだって」

ルビィ「……心が……ない……?」


確かに、聖良さんは目こそ開けているものの……なんというか、人間味のようなものが感じられない。無表情って言うのかな……?


理亞「やぶれた世界に行ったって言うのもあって……心だけが……どこかに行っちゃったって……」

ルビィ「…………」


確かにありえない話じゃないと思った。

聖良さんはディアンシーの怒りを受けた。……それが理由で、心を──魂を奪われてしまったのだとしたら……。


理亞「ただ……会議で話を聞いていて……思ったの。もしかしたら、ねえさまの魂は──ピンクダイヤモンドに閉じ込められてるんじゃないかって」


宝石には人の魂が宿ることがある。お姉ちゃんが言っていたことです。

お姉ちゃんは迷信レベルの話だから、本気にされてもと困っていたけど……ルビィは正直、迷信だとは思っていなかった。

何故なら……私の心は、コランに宿っていた気がするから。

守りたいって気持ちが一番強くなったときに、コランと共鳴して──私の心に住んでいたグラードンが出てきてくれた。

だから、ここまで聞いて、理亞ちゃんの言いたいことはなんとなく理解出来た。


ルビィ「……ディアンシー様に、会いたいんだね」

理亞「……! ……うん」


理亞ちゃんは頷くと、私の前で跪いた。


理亞「……クロサワの巫女様。……私を……ディアンシー様と会わせてください」

ルビィ「……理亞ちゃん、顔を上げて」

理亞「…………」


理亞ちゃんがゆっくりと顔を上げる。


ルビィ「前にした約束……覚えてる?」


約束──それは、やぶれた世界で戦ったときのこと。
186 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:19:49.46 ID:/nLmInIK0

理亞「ディアンシー様に、クロサワの巫女様に……認めてもらえるよう努力するって話だよね……」

ルビィ「うん。ルビィ、ずっと理亞ちゃんのこと見てたよ」


理亞ちゃんにとって、この3年間は大変なことの連続だったと思う。

その頑張りは、ちゃんと成果に出ていて──今では町の人にも慕われるジムリーダーになった。


ルビィ「クロサワの巫女として……今の理亞ちゃんなら、ディアンシー様と引き合わせても、大丈夫だと思えるよ」

理亞「ルビィ……! それじゃあ……!」

ルビィ「うん! 一緒に、やぶれた世界に行こう! それで、ディアンシー様に聖良さんの魂を返してもらえるようにお願いしよう♪」

理亞「……うん!」


バイタルサインの響く、聖良さんの病室で……。

3年前の約束を守るために、ルビィは──クロサワの巫女として、成長した理亞ちゃんと共に、ディアンシー様のもとへ行くことを決意したのでした。





    🎹    🎹    🎹





──翌日。


侑「はぁ……はぁ……」

かすみ「やっと……ですね……」


朝から野生のポケモンたちと戦いながら歩き続けて──やっと到着した。


侑「遺跡の……階段……!」

かすみ「はい! あとは階段を登るのみです!!」


でも、もう日が沈み始めている……つまり2日目の夜になろうとしているということだ。

私たちはここまでに2日掛かっているわけだけど……まだ帰りがある。

このままだと帰りは倍の速度で進まなくちゃいけないことになる。


侑「時間がない……急ごう」
 「イブイ!!」

かすみ「はい!」
 「ガゥ!!」


私はかすみちゃんと一緒に、遺跡の長い長い階段を登り始めた。



187 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:21:47.67 ID:/nLmInIK0

    🎹    🎹    🎹





──大急ぎで階段を登ると……。


かすみ「……いや、雑過ぎませんか……?」
 「ガゥゥ…」

侑「あ、あはは……」
 「ブィィ…」


登りきったところに……いかにもな宝箱が置いてあった。

大きさは長辺が30pくらいの小脇に抱えて持ち運ぶのがちょうどいいかなというサイズのものだった。


侑「まあ……わかりやすくしてあるって言ってたし……」

かすみ「だとしてもですよ……」


なんとなくわかっていたけど……果南さんは相当大雑把な人らしい……。


かすみ「まあ……さっさと開けて中身回収しちゃいましょう……」


かすみちゃんが開けようとするも、


かすみ「あ、あれ……? 開かない……」


箱はウンともスンとも言わなかった。


かすみ「んぎぎ……!! な、なんですか、これぇ!? 鍵でもかかってるんですか!?」

侑「あ……そうだ……鍵貰ったじゃん」

かすみ「……そういえば、貰ってましたね」


果南さんにもらった小箱だ。

到着したら箱から出すように言われていたものだ。

バッグから小箱を取り出し──中身を確認しようとした、そのとき、


かすみ「……!? 侑先輩!! 危ない!!」

侑「えっ!?」
 「イブィ!!?」


急にかすみちゃんが飛び付いてきて、私は尻餅をつく。

直後、今さっきまで私の頭があった場所を──輝くレーザーが迸る。


侑「……!! 野生のポケモン……!! ライボルト!!」
 「ライボッ!!!」

私はライボルトをボールから出しながら、すぐさま身を起こし、


かすみ「わっ!?」


かすみちゃんの手を引いて走り出す。

そして、走り出した瞬間に今私たちが転んでいた場所に、先ほどと同じレーザーが飛んできて床を焼く。

走りながら、レーザーを撃ってきたポケモンの方に顔を向けると──
188 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:22:19.49 ID:/nLmInIK0

 「ジュラル」

侑「……! ジュラルドン!!」


ごうきんポケモンのジュラルドンが、こちらに向かって光を集束させているのが確認出来た。

さっきのレーザーと同じ技──


侑「“ラスターカノン”だ……!! ライボルト!! “チャージビーム”!!」
 「ライィィーーボォッ!!!!!」

 「ジュラルドンッ!!!!」


ライボルトの“チャージビーム”とジュラルドンの“ラスターカノン”が真正面から衝突し、逃げ場を失ったエネルギーが爆発して、砂塵を巻き上げる。


かすみ「ゆ、侑先輩ぃ!! 宝箱から離れて行ってますよぉ〜!」
 「ガゥガゥゥ…!!!!」

侑「わかってるけど……! ゆっくり開けてたら狙い撃ちにされちゃうよ!」
 「ブ、ブイ」


とにかく狙い撃ちにされないように、私たちは走り回る。


かすみ「ゆ、侑先輩! あそこに!」


かすみちゃんが指差す先は──遺跡に立っている柱だ。


侑「うん……!!」


とりあえず、影に隠れようと、後ろに回ると──


 「オノ…」

侑・かすみ「「!?」」


先客が居た。


 「オノッ!!!!」

かすみ「……ジュカインっ!!」
 「──カインッ!!!」


大きな顎で襲い掛かってくるポケモンを、飛び出したジュカインが両腕の刃で対抗する。

この鋭いアゴを持ったポケモンは──


侑「オノノクス……!」

かすみ「あーもう!! ダンジョンのボスってわけですか!? 侑先輩……!! こっちはかすみんたちがどうにかします!! 侑先輩はジュラルドンを!!」

侑「わかった……!!」


私はジュラルドンに向かって走り出す。


 「ジュラル!!!」


ジュラルドンが再び“ラスターカノン”を放ってくるが、


侑「ライボルト!! “10まんボルト”!!」
 「ライィィボォォォォ!!!!!」


迸る電撃が、それを相殺する。
189 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:22:52.97 ID:/nLmInIK0

侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーィィッ!!!!」


イーブイが電撃を発し……ジュラルドンを捉えるが──


 「ジュラル…」


ジュラルドンはノーリアクション。


侑「き、効いてない……!」


相手は、はがね・ドラゴンタイプ。

でんきタイプの技じゃ、効果が薄い。

なら……!


侑「“めらめらバーン”!!」
 「イッブィッ!!!!」


イーブイが全身に炎を纏って、ジュラルドンに向かって駆けだす。

一気に肉薄し、


侑「いっけぇ!!」

 「ブーーィッ!!!!」


イーブイの炎の突進が炸裂したが──ガァンッ! という硬い音と共に、


 「ブイッ!!!?」


イーブイが弾き返される。


侑「“てっぺき”!?」


さらに──ジュラルドンから、耳障りな音が周囲に向かって発せられる。


侑「……っ゛!? ……き、“きんぞくおん”……っ……!」


そのうえ、ジュラルドンは見た目からは想像出来ないような素早いフットワークで、今しがた弾き飛ばしたイーブイに近付き──大きな尻尾を振るって叩きつける。


 「ブィィィッ…!!!」

侑「イーブイ……!! 今度は“ワイドブレイカー”……!」


“びりびりエレキ”で“まひ”しているはずなのに、この速さ……相手のレベルの高さが一目でわかる。

このジュラルドン……強い……!

……でも……前なら焦っていたけど──


侑「修行の最後の敵に相応しいじゃん!」


今は不思議と、戦意が高揚していた。


侑「イーブイ!! “こちこちフロスト”!!」

 「イーーブィッ!!!!」


黒い冷気が纏わりつくようにして──ジュラルドンの足元を凍り付かせていく。
190 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:23:29.05 ID:/nLmInIK0

 「ジュラル」


ジュラルドンは体を振るって氷を破壊するけど──その隙を突いて、


侑「ライボルト! “かえんほうしゃ”!!」
 「ライボッ!!!!」


ライボルトと一緒に走りながら、“かえんほうしゃ”で攻撃する。


 「ジュラル」


が、ジュラルドンは火炎の中でも怯まず、


 「ジュラーールッ!!!!!」


“りゅうのはどう”をこっちに向けて発射してくる。


侑「……っ!」


私は咄嗟にライボルトの背を掴み──それと同時に、


 「ライボッ!!!」


ライボルトが脚の筋肉を電気で刺激し、猛加速して、“りゅうのはどう”をすんでのところで躱す。

攻撃はどうにか捌けてる……だけど、相手を倒す決定打が足りない……。


侑「……どうにか、打開策を考えないと……!」





    👑    👑    👑





かすみ「──“りゅうのはどう”!!」
 「ジューーカインッ!!!!」


相手の鋭い顎を刃で受けながら、口から“りゅうのはどう”を相手の顔面に向かってぶっ放してやります!


 「オノノクッ…!!!」


さすがに至近距離からのドラゴンタイプの攻撃は、相手を怯ませましたが、


 「オノッ!!!」


怯んだのは一瞬だけで──後ろに半歩引く反動をそのまま、身体を捻る動作に変換して、太い尻尾を真横からジュカインに叩きつけてくる。


 「カインッ!!!?」


ジュカインは、尻尾の一撃を食らい遺跡の石畳の上を吹っ飛んでいく。


かすみ「い、今の“アイアンテール”!? ジュカイン、大丈夫!?」

 「カ、カインッ!!!」
191 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:24:02.88 ID:/nLmInIK0

駆け寄りながら、声を掛けると、ジュカインはすぐに受け身を取って立ち上がる。

だけど、受け身を取って立ち上がった直後のジュカインに向かって──大量のウロコが飛んできた。“スケイルショット”です……!


かすみ「“タネばくだん”!!」

 「カインッ!!!」


ジュカインは体を大きく捻って、背中の丸いタネを飛ばすと──それがドォンッドォンッ!! と音を立てながら爆発して、“スケイルショット”を相殺する。

やっとの思いで、かすみんがジュカインのもとにたどり着くと同時に、


 「オノォッ!!!!」


“タネばくだん”によって発生した爆煙の中から、オノノクスが鋭い顎を構えて、飛び出してきた。


 「カインッ!!!」


ジュカインはそれを再び両腕の刃で受け止める。

──けど、今度は相手が速かった。

受け止めたと同時に、オノノクスの口から“りゅうのはどう”が発射され、


 「カインッ…!!?」


ジュカインの頭部に直撃する。


かすみ「ジュカイン!? っ……! ゾロア、“ナイトバースト”!!」
 「ガーーーゥゥ!!!」

 「オノッ…!!」


咄嗟に至近距離で“ナイトバースト”を顔面にぶちかます。

相手は倒れる気配こそ全然ないものの、顔面を暗闇に包まれて、一瞬かすみんたちのことを見失う。


かすみ「ジュカイン、平気!?」
 「カインッ…」


声を掛けると、ジュカインはすぐに立ち上がる。

どうやら、致命傷にはなっていないようで安心する。


かすみ「……ぐぬぬ、お昼だったら、“ソーラーブレード”が使えるのに……!」


辺りはすっかり日が落ちきって、もう夜の時間帯になってしまった。

こうなると、ソーラー系の技はほとんど使えないと考えた方がいい。

あの技がないと、決定打に欠ける……。


かすみ「どうにかして……一発、大きいのを決めないと……!」
 「カインッ…!!」



192 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:24:33.33 ID:/nLmInIK0

    🎹    🎹    🎹





侑「ライボルト!! “エレキフィールド”!!」
 「ライボッ!!!!」


ライボルトの背に乗り、走り回りながら、“エレキフィールド”を展開する。

相手に捉えられないように、周囲を旋回しながら、


侑「“かみなり”!!」
 「ライボッ!!!!」


空に展開した、雷雲から“かみなり”を落とす。


 「ジュ、ラルッ…」

侑「よし……! 効いてる……!」


相性は悪いけど、“エレキフィールド”による強化からの大技。

多少はダメージが通り始めた。

畳みかけるように“かみなり”を指示しようとした瞬間──


 「ジュラァァァーーールッ!!!!!」

侑「!?」
 「ライボッ!!?」


ジュラルドンが、雄叫びをあげながら、こちらに向かって猛スピードで転がってきた。

しかも、ジュラルドンが転がった道は──電気を帯びたフィールドが解除されていた。

あれは……“ハードローラー”……!?

突然のことに、咄嗟に対応出来ず、


 「ライボォッ…!!!」
侑「うわぁっ!!?」


ライボルトもろとも吹っ飛ばされる。

その拍子に──戦闘が始まると同時にポケットにねじ込んだ、鍵の入った小箱が宙を舞う。


侑「しまっ……!?」


そのまま、私の身体は硬い石畳に叩きつけられ── 一瞬、息が止まる。


侑「……が……ぐ……っ……ぅぅ……!」


でも、気合いですぐに顔を上げる。──今、下を向くな……! トレーナーは常に状況判断を優先するんだ……!

視界の先に、宙を舞う小箱──それに向かって、いち早く気付いて飛び出したのは、


 「ブィィ!!!!」

侑「イーブイ……!!」


イーブイがそれを空中で咥えてキャッチする。……がそれと同時に──キィィィンッと音を発しながら、“ラスターカノン”がイーブイを貫いた。


 「ブ、ィィィィィッ…!!!!」

侑「イーブイ……!!」
193 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:25:20.61 ID:/nLmInIK0

“ラスターカノン”が直撃し、吹き飛ばされるイーブイ。

私は身を起こし、無我夢中でイーブイの方へと走り出し、


侑「イーブイ!!」


ヘッドスライディングの要領で飛び付き、イーブイをキャッチする。


侑「イーブイ、大丈夫!?」
 「ブィィィ…」


イーブイは力なく鳴くと──顔を少し上げ、口に咥えた小箱を私に見せる。

小箱は“ラスターカノン”に焼かれ、ぼろぼろになってしまったけど……原型はしっかりと保っている。


侑「イーブイ……偉いよ、ありがとう……」
 「ブィ…」


私がぎゅっと抱きしめると、その拍子に焼かれて脆くなった小箱から──小さなバングルが零れ落ちた。

小さな……丸い宝石のような珠が嵌まった……バングル。


侑「……これは」


それは──前に見たことがあった。

これは……。


侑「せつ菜ちゃんが……着けてたものと同じだ……」


──そのとき突然、後襟辺りを何かに引っ張られる。


侑「わぁ!?」
 「ライボッ!!!!」


それはライボルトだった。ライボルトが無理やり私を背に乗せ、猛スピードで駆け抜ける。

直後、私の居た場所に“ラスターカノン”が迸った。


侑「あ、ありがとうライボルト……!」
 「ライボッ!!!」


あそこでぼんやりしていたら、今頃丸焦げだった。

それにしても……この小箱に入っていたバングル。

──果南さんはこれを鍵だと言っていた。

そして、宝箱の中に入っているアイテムは──私たち以外が持っていても意味のないもの、とも。

つまり、あの宝箱には……この鍵──キーと私たちしか持っていない何かに対応するアイテムが入っている。

そんなモノ──入っているのはアレ以外ありえない……!!


侑「ライボルト!! 宝箱だ!!」
 「ライボッ!!!!」


ライボルトは私の指示を受けると、脚の筋肉を刺激し、稲妻のような軌道を描きながら猛加速する。

稲妻の速度でたどり着いた、宝箱の前で──バングルを腕に嵌めると、それに反応したかのように、宝箱がその口を開いた。

私は中にあった、2つの珠を掴み── 一つは、


侑「ライボルト!!」
 「ライボッ!!!」
194 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:25:57.05 ID:/nLmInIK0

ライボルトに咥えさせ──もう一つは、


侑「かすみちゃん!!!! 受け取って!!!」


かすみちゃんに向かって、投げ渡した。





    👑    👑    👑





──膠着した状態の中、


侑「──かすみちゃん!!!! 受け取って!!!」

かすみ「へっ!?」


侑先輩の声がして、振り向くと──何か丸い物がかすみんに向かって飛んできていた。


かすみ「わぁぁぁ!?」


突然のことに驚きながらも、どうにかキャッチする。


かすみ「へ、これ、何……!?」


それは──不思議な色で輝く珠だった。

……あれ、この珠……似たのをどこかで見たこと……あるような……。


かすみ「……! そうだ!」


オハラ研究所で──しず子が貰っていた珠だ……!

つまり、これは──


かすみ「どうりで、かすみんたち以外が持ってても意味ないなんて言うわけですね!! ジュカイン!!」


かすみんはジュカインに向かって、その珠をパスする。


 「カインッ!!!!」


ジュカインがそれをキャッチしたのを確認すると同時に──腕に付けた“メガブレスレット”を前方に構えた。


かすみ「行きますよ、ジュカイン──メガシンカ!!」
 「カインッ!!!!!」


かすみんの掛け声と共に──“メガブレスレット”についた“キーストーン”が光り輝き、それに呼応してジュカインも光に包まれる。

光の中から現れたジュカインは──全身のシルエットがより鋭利に、胸には大きなX字状に広がる草のアーマーを身に着け、もともと大きかった尻尾はさらに大きく成長する。背中に付いていた黄色い実も、数が増え、尻尾の根本部分まで連なっている。


 「ジュ、カィィィンンッ!!!!!!」


これが、ジュカインの新しい姿……!


 「オノノォッ!!!!!」
195 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:26:30.16 ID:/nLmInIK0

そんなメガジュカインに向かって、オノノクスが顎を構えて突っ込んできた。

──そのまま、鋭利な顎で噛みついてきたけど、


 「カィィンッ!!!!」


ジュカインはまたしても、オノノクスの攻撃を腕の刃で受け止め──そのまま、腕力でオノノクスを持ち上げる。


 「オ、ノノクッ!!!?」


急なことに驚いたオノノクスは顎を広げてジュカインから離れようとしたけど──ジュカインは逆に腕を広げ、オノノクスの顎を両刃で突っ張るようにして、さらに高く持ち上げる。


かすみ「“りゅうのはどう”!!」
 「ジューーーカイィィンッ!!!!!!」


持ち上げたオノノクスの胸部に向かって──口から発射した、ドラゴンの波動を至近距離からブチ当てる。


 「オ、ノノォッ…!!!!」


苦悶の鳴き声をあげながら、波動の勢いで上方に向かって吹っ飛ばされるオノノクス。

ジュカインはくるりと背中を向け──大きな大きな尻尾の先端を宙を舞うオノノクスに向ける。


かすみ「“リーフストーム”!!」
 「カィィィンッ!!!!!」


かすみんの指示と共に、尻尾に一番近い場所にある実が破裂──その反動で尻尾が回転し、草の旋風を巻き起こしながら、ミサイルのように飛んで行って、


 「ノォクスッ…!!!!!?」


オノノクスに直撃した──だけでは留まらず、オノノクス巻き込んだまま……遺跡の外まで吹き飛んでいった。


かすみ「す、すご……」
 「カァインッ!!!」


気付けば、今しがた飛ばしたばかりのジュカインの尻尾は、また生え変わっていた。

どうやら、再生力もすごいらしいです……。


かすみ「これがメガシンカの力……」
 「カァインッ!!!」

かすみ「えへへ、すごいじゃないですか、ジュカイン!」
 「カァインッ!!!!」


ただでさえ強かったジュカインが、さらに強くなっちゃいましたよ……!


かすみ「そうだ、侑先輩たちは……!」


パワーアップを喜ぶのも束の間、かすみんは侑先輩たちの戦局へと目を向けます──



196 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:27:39.15 ID:/nLmInIK0

    🎹    🎹    🎹





侑「ライボルト、行くよ……!! メガシンカ!!」
 「ライボォッ!!!!!」


ライボルトが眩い光に包まれる。

その光の中から、現れた姿は──全身の体毛が大きく成長し、まるで稲妻を身に纏っているかのようなフォルムに。

それと同時に全身から、バチバチとスパークを爆ぜながら、


 「ライボォォォォォッ!!!!!」


“いかく”するように、雄叫びをあげる。

それと同時に、私は全身の毛が逆立つのがわかった。

空間一帯にとてつもない量の静電気が発生して、私の全身の毛を逆立ててるんだ……!

直後──


 「ライボォォォォッ!!!!!」


まさに文字通り、目にも止まらぬスピードでメガライボルトが走り出す。

メガライボルトが走り抜けた通り道はあまりの速さに、摩擦で床が赤熱し、稲妻のようなシルエットを浮かばせる。

と、同時にメガライボルトの通った空気が──雷轟のようにゴロゴロと大きな音を立てる。

まるで、ライボルト自身が雷そのものになったようだった。


 「ジュラル…!!!?」


ジュラルドンが、メガライボルトのあまりのスピードに、何が起こったか理解出来ずにいる間に、


 「ライボッ…!!!」


ライボルトはジュラルドンに肉薄していた。


 「ジュラルッ…!!!?」


そして、自身に向かって── 一斉に周囲のでんきエネルギーを集束させる。


侑「──“かみなり”!!!」

 「ライボォォォォォッ!!!!!!!」


──もはやそれは、見慣れた枝分かれする稲妻のような形ではなく……光と熱と音を伴った、大きな電撃の柱のようだった。

至近に落ちた雷柱が周囲の空気を震わせ、雷轟が劈く。


侑「……っ!?」


私は咄嗟に耳を塞いだけど、それでも鼓膜どころか──雷轟が全身を震わせるような衝撃を伴っていた。

衝撃がやっと止んだかと思って、耳を塞いでいた手を離すと──周囲の山から、やまびこのように響く雷轟が私の耳に何度も届いてくる。

そして──そんなとんでもない威力の“かみなり”の直撃を受けたジュラルドンは……、


 「…………」


真っ黒焦げになって、完全に沈黙していた。
197 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:28:15.64 ID:/nLmInIK0

侑「す、すごい……。……すごいよ、ライボルト!!」

 「ライボッ!!!!」


私はライボルトに向かって、駆け出し、


かすみ「──すごいすごいじゃないですよっ!!?」

侑「わぁっ!!?」


と思った瞬間──かすみちゃんが、ものすごい剣幕で私に詰め寄ってきた。


かすみ「ライボルトの“かみなり”の一部がジュカインの尻尾に吸い寄せられてきたんですよ!! 目の前がものっすごい光に包まれて、とんでもない音が目の前でして、かすみんしばらく耳キーンってなっちゃったんですからね!? というか普通に死んだかと思いましたよ!!!」


め、めちゃくちゃ怒ってる……。


侑「え、えーっと……メガジュカインの特性が“ひらいしん”だからじゃないかな……あ、あはは……」

かすみ「知ってるなら!!!! 技を選んでくださいよ!!!!?」

侑「ご、ごめんって!! 私もメガライボルトのパワーがこんなにすごいなんて知らなくて……」

かすみ「うぅ……かすみんも、メガジュカインのパワーには驚いたからわかりますけどぉ……」

 「ライボ…」


気付けばライボルトが、私のもとに歩み寄ってきていた。

戦闘が終わったからか、姿はすっかりもとのライボルトに戻っていて、口に“メガストーン”を咥えていた。

かすみちゃんがあまりに怒っているからか、少々困惑気味だけど……。


かすみ「はぁ……。……まあ……この際、勝てたから、もういいですぅ……」

侑「あはは……つ、次から気を付けるね」
 「ライボ…」

かすみ「是非そうしてください……」


あまりにパワーが強すぎるから、ちゃんとメガシンカを上手に扱えるようにならないとね……。

なにはともあれ──


侑「これで目標達成だね!」

かすみ「……はい! あとは下山するだけです!」

侑「よし、それじゃ、帰ろっか!」

かすみ「はい! 全速力で戻りましょう!」


私たちは無事、果南さんの用意してくれたアイテム──“メガストーン”を手に入れて……。下山を開始するのだった。



198 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:28:54.94 ID:/nLmInIK0

    🐏    🐏    🐏





リナ『侑さんたち……まだ降りてこない……』 || 𝅝• _ • ||

彼方「……そうだねー……」

果南「ん……」


──今日で、侑ちゃんたちがカーテンクリフを登りに行って……3日目だ。

そして、もう日も落ちてしまった。

つまり……タイムリミットの3日目の夜ということだ。

夜になってしまうと、山の中で動くのは難しくなる……。


リナ『やっぱり……カーテンクリフ往復を3日でこなすのはまだ早かったんじゃ……』 || 𝅝• _ • ||

果南「……いや、そうでもないみたいだよ」

彼方「……え?」


果南ちゃんがそう言って指差す先には──灯りを持った、二つの人影が見えた。





    🎹    🎹    🎹





侑「おーい!! リナちゃーん!! 彼方さーん!! 果南さーん!!」
 「イブィ♪」

かすみ「かすみんの凱旋ですよ〜!! おいしいご飯作ってくれましたか〜!?」


かすみちゃんが大きな声で訊ねると、


リナ『──侑さーん!! かすみちゃーん!! おかえりなさーい!!』 ||,,> ◡ <,,||

彼方「──とびっきりのご馳走作って待ってたよー!! 早く降りておいでー!!」


と、大きな声で返事をしてくれた。


かすみ「……へへ、かすみんたち、間に合いましたね♪」

侑「1日で戻るのは……かなりきつかったけど、どうにかなったね……」

かすみ「それじゃ、彼方先輩のご馳走フルコースが冷めないうちに、早く行きましょう♪」

侑「うん!」


──私たちはみんなのもとへ帰るために、ローズシティへと降りていくのでした。



199 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:29:27.99 ID:/nLmInIK0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.70 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.69 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.69 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.61 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.64 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.55 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:211匹 捕まえた数:9匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.71 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.63 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.63 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.61 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.60 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.65 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:204匹 捕まえた数:9匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



200 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 04:39:54.48 ID:tTvUwYyF0

 ■Intermission🎙



──ウルトラディープシーを訪れて……丸一日が経った。

崖下に降りると……。


歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」


ウツロイドが頭に寄生した状態で──歩夢さんが地面にぐったりとして、横たわっていた。


せつ菜「…………」


あまりにむごすぎる光景に、目を逸らしたくなるが……。


しずく「……歩夢さん……」


しずくさんは、ウツロイドが彼女の頭の上に取りついているにも関わらず……歩夢さんを抱き起こす。


しずく「……歩夢さん……可哀想に……」


そのまま、頬を寄せ、彼女を抱きしめる。……まるで、病床に伏せる親しい友人を憂うような……。

──今の彼女の情緒は、全く理解が出来ない。

自分で突き落としておいて、いざ倒れている歩夢さんを見て、憂うような行動を取るなんて……。

彼女は、言うまでもなく……もうすでに……狂ってしまっている……。正直……今のしずくさんを見ていると、恐怖さえ覚える。

だけど……それを言葉にする気にはなれなかった。なぜなら、今の私も自覚がないだけで……端から見れば、彼女と同じようなものなのかもしれないからだ……。

しずくさんが言ったとおり……私もウルトラビーストに魅入られていて……もうとっくの昔に狂気の中に居るのかもしれない……。


しずく「……今、安全な場所に連れて行ってあげますね……」


そう言いながら、しずくさんが歩夢さんのことを背負おうとしたとき、


 「バーーースッ!!!!」


──エースバーンが岩の陰から飛び出し、飛び掛かってきた。

が、


しずく「インテレオン、“ねらいうち”」
 「──インテ」

 「バーーースッ…!!!?」


しずくさんは、冷静にエースバーンを迎撃する。

が、エースバーンと入れ替わるように、さらにポケモンが飛び出してくる。


 「フラーーージェスッ!!!」


──フラージェスが“はなふぶき”を身に纏いながら、突撃してくる。

しずくさんは、次のボールに手を掛け、


しずく「バリヤード、“バリアー”」
 「バリ」


バリヤードが足元で作り出した氷の“バリアー”を目の前に蹴り上げ──
201 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 04:40:42.95 ID:tTvUwYyF0

 「ジェス…!!!」


フラージェスの攻撃を弾き返す。そこに、さらに追撃、


しずく「“フリーズドライ”」
 「バリッ!!!!」

 「ジェス…!!!」


広がる冷気で、フラージェスの体がパキパキと音を立てながら、凍り始める。

そんなフラージェスとの間に割って入るように──


 「トドォォォォ!!!!!!」


トドゼルガが飛び出し、長い牙を“バリアー”に突き立て──力任せに破壊する。


しずく「ふふ……次から次に、ですね」


対抗するように、しずくさんはまた新しいポケモンをボールから繰り出す。


 「──ロズレ…!!!」

しずく「ロズレイド、“リーフストーム”!」
 「ロズ…!!!」

 「トドォ…!!!!」


トドゼルガはタフなポケモンだが、至近距離からの苦手なくさタイプの大技に為す術なく、吹き飛ばされる。


しずく「ふふ♪ やっぱり、トレーナーがいないとタイプ相性も適当ですし、攻め方も単調ですね♡」


しずくさんが嘲るように笑うと、


 「シャーーーボッ!!!」


アーボが穴の中から顔を出し、鳴き声をあげる。


 「バ、バース…」「ジェス…」「トド…」


すると、エースバーン、フラージェス、トドゼルガは撤退していった。恐らく……あのアーボ──サスケさんがリーダーのような役割を担っているんだろう。


しずく「また、何度でもどうぞ♡」

せつ菜「…………」

しずく「ふふ……進化までして助けに来るなんて、歩夢さんは本当にポケモンから愛されているみたいですね♡」


歩夢さんの手持ちたちは、1日の間に何度もしずくさんに攻撃を仕掛けにくるが、その度に撃退されている。

今回マホイップがいなかったのは、前回撃退されたときに、ダメージを追いすぎて回復中だったからだろうか。

歩夢さんのポケモンが極端に弱いということはないと思うが……。やはり、トレーナーがいないというのは大きなディスアドバンテージなのだろう……。


しずく「それにしても、この洞窟は不思議なエネルギーに満ちているんですね……歩夢さんのフラージェスもですが、お陰で本来は“ひかりのいし”で進化するはずのロゼリアもロズレイドになってくれました♡」
 「ロズレ…」

せつ菜「あちこちに生えているあの輝く水晶が、光のエネルギーを蓄えているのかもしれませんね……。それに反応したんだと思います」

しずく「みたいですね。よいしょ……」


しずくさんは今度こそ歩夢さんを背負い、歩き出す。
202 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 04:43:07.48 ID:tTvUwYyF0

せつ菜「……どうするつもりですか?」

しずく「一旦、ウツロイドの少ない崖上まで移動させようと思いまして」

せつ菜「それは見ればわかります。移動させて、何を?」

しずく「歩夢さんが死なないように、お世話役を仰せつかっています♡」

せつ菜「……なるほど」


つまり……動けない状態の歩夢さんの力だけを利用するために、お世話をするということらしい。

ぐったりして気を失っているとはいえ……放っておいたら死んでしまうのは、想像に難くない。


せつ菜「……上にあがるまで、ウツロイドに襲われないように援護します」

しずく「ありがとうございます♡」


ですが……さすがに、死なれるのは寝覚めが悪いどころの話ではない。

私は一応、彼女たちの身の安全を守るためにここにいるわけですし……。

ただ、しずくさんは歩夢さんよりも、身長が小さい分、背負って歩こうとすると足取りがかなり覚束ず、見ていて少し不安だ……。

……まあ、私はそんなしずくさんよりも、さらに身体が小さいので、代役をできるかと言われると微妙ですが……。

よたよたと歩くしずくさんの後ろを、警戒しながら歩いていたそのとき──


 「──ピュイ…」


歩夢さんのバッグから、鳴き声が聞こえてきたと同時に──コスモッグが飛び出してきた。


しずく「きゃ……!? コスモッグ……? もしかして、ずっと歩夢さんのバッグの中に隠れていたんでしょうか……」

 「──ピュイ、ピュイ」


コスモッグはしずくさんの周囲をくるくる回りながら、時折体をぶつけている。

……恐らく、攻撃しているつもりなんでしょうが……しずくさんはまるで意に介していない。

コスモッグには戦闘能力がないと聞いているので、仕方がないですけど……。

しばらく、攻撃らしきものを続けたコスモッグは──


 「ピュイ…」


どうにもならないと悟ったのか、歩夢さんのバッグの中に戻っていった。


しずく「……さて、急ぎましょうか♡ ウツロイドが集まってくる前に」

せつ菜「……はい」

歩夢「………………」



………………
…………
……
🎙

203 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:52:05.24 ID:tTvUwYyF0

■Chapter055 『激闘! クロユリジム!』 【SIDE Kasumi】





──ローズシティ。

カーテンクリフ登りの修行から帰ってきた翌日の朝です。


果南「カーテンクリフを踏破出来たんだから、二人とも確実に強くなってるはずだよ。メガシンカもきっと使いこなせるから、胸を張って行っておいで!」

侑・かすみ「「はい!」」


果南先輩から激励を受け、かすみんたちはジム戦に向かうために、ローズシティを発つところです。


彼方「それにしても……よく“メガストーン”を昨日の今日で2つも用意できたねー? 大変だったんじゃない〜?」

果南「ローズで会ったときにダイヤにお願いしてたんだ。そんなすぐに用意出来ないってかなり小言言われたけど……まあ、なんだかんだで用意してくれるのがダイヤらしいよね」

彼方「あははー……ダイヤちゃんも大変だー……」

かすみ「ダイヤ先輩が、昨日かすみんたちがゲットした“メガストーン”を持ってたんですか? ……なんで?」

侑「ダイヤさんは、くさタイプのエキスパートだからね。あと、ダイヤさんのお母さんは、でんきタイプを使うジムリーダーだったんだよ」

リナ『エキスパートタイプを持つジムリーダーは、各タイプのポケモンの“メガストーン”を研究のために所持してることが多い。だから、“ジュカインナイト”と“ライボルトナイト”を用意出来たんだと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「はー……なるほどです」


ダイヤ先輩には、今度会ったときにお礼言わないとですね。


果南「それと、“メガバングル”と“キーストーン”は、私から侑ちゃんへのプレゼントだよ。かすみちゃんには鞠莉があげてたからね」

侑「ありがとうございます……!」

果南「……英玲奈さんも理亞ちゃんも強いだろうけど、強くなった自分と自分のポケモンたちを信じればきっと大丈夫だよ」

彼方「良い報告を待ってるからね〜」


果南先輩と彼方先輩に見送られて──


侑・かすみ「「行ってきます!」」


かすみんたちは、最後のジム戦へと向かいます……!





    👑    👑    👑





──クロユリシティ。


かすみ「──侑先輩! ここまで、送ってくれてありがとうございます! ウォーグルも!」

侑「どういたしまして♪」
 「ウォーー!!」


かすみんはウォーグルの背中から飛び降りながら、お礼を言う。
204 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:52:38.75 ID:tTvUwYyF0

侑「それじゃ、私もヒナギクに向かうよ。かすみちゃん! 頑張ってね!」
 「ウォーーッ!!!」「ブイ」

かすみ「はい! 侑先輩も、次会うときはお互いバッジ8つですよ!」

侑「うん! もちろん!」

リナ『私も応援してる! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 ||,,> ◡ <,,||

かすみ「リナ子もありがと♪ それじゃ、またあとで!」

侑「うん! お願い、ウォーグル!」
 「ウォーー!!!!」


ウォーグルの脚に掴まって、ヒナギクへ飛び立つ侑先輩を見送り、


かすみ「……さぁ、行きますか!」


かすみんは最後のジム──クロユリジムに向かいます。





    👑    👑    👑





かすみ「たのもぉーーー!!」


──クロユリジムのドアを勢いよく押し開け、ジムの中に入ると、


英玲奈「……来たか」


ジムの奥で目を瞑って立っていた英玲奈先輩がゆっくりと目を開ける。

かすみんが来るまで、精神統一をしていたのかもしれません。


英玲奈「ローズで見たときは、まともに勝負になるのか不安だったが……少しは強くなったようだな。立ち居振る舞いを見るだけでわかる」

かすみ「……はい! 強くなったかすみんは絶対に負けませんよ!」

英玲奈「ふふ……勇ましくて何よりだ。せっかく久しぶりに本気を出せるのに、張り合いのない相手だったらガッカリだからな」


そう言いながら、英玲奈先輩がボールを構える。


英玲奈「今回のバトルフィールドはこのクロユリジムとクロユリジムの後ろに広がる竹林全域」

かすみ「はい! わかりました!」

英玲奈「今回は理事長からフリールールをオーダーされている。故に、トレーナーの君もポケモンの攻撃に巻き込まれる可能性があるのは、予め覚悟してもらおう」

かすみ「ぅ……で、ですよね〜……。……でも、それくらい覚悟の上です……! わかりました!」

英玲奈「……他には特に難しいことは何もない。シンプルに戦って最後まで立っていた方が勝者だ。──さあ、始めようか」

かすみ「はい!」

英玲奈「クロユリジム・ジムリーダー『壮烈たるキラーホーネット』 英玲奈。お互い心行くまで戦おうじゃないか!!」


かすみんと英玲奈先輩のボールが同時に放たれ──バトルスタートです!!



205 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:53:10.61 ID:tTvUwYyF0

    👑    👑    👑





かすみ「──行くよ、ジュカイン!」
 「──カインッ!!!!」


こちらの1番手はジュカインです!

今回は本気の本気の本気! 出し惜しみなんて一切なしです!

──侑先輩から事前に、英玲奈先輩の切り札はメガスピアーだと、聞いています。

エースのジュカインで切り札を出してくるまで、相手の戦力を一気に削り切りますよ……!


英玲奈「行くぞ、スピアー!!」
 「──ブーーーンッ!!!!」

かすみ「うぇっ!?」

英玲奈「メガシンカ!!」
 「ブーーーンッ!!!!!」

かすみ「え、ちょっ……!?」


ボールから出て来た瞬間、スピアーが光に包まれ──より攻撃的なフォルムのメガスピアーへと姿を変える。

──直後、


英玲奈「“ダブルニードル”!!」
 「──ブーーーンッ!!!!!」


メガスピアーが猛スピードで突っ込んでくる。


かすみ「……っ……! “リーフブレード”!!」
 「カァインッ!!!!」


刃を上手に針の切っ先に合わせて、攻撃を受けようとしたけど──


 「カァインッ…!!!!」


受けきるどころか、そのパワーで、ジュカインが後ろに向かって、吹っ飛ばされ──壁に叩きつけられる。


かすみ「ジュカイン!!」


かすみんは振り返って、ジュカインのもとへと駆け出す。

だけど、英玲奈先輩は当然そこに向かって追撃を繰り出してくる。


英玲奈「“どくづき”!!」

 「ブーーーンッ!!!!!」


駆けるかすみんの真横を猛スピードでメガスピアーが横切って、5本の“どくばり”を構える。


かすみ「──ジュカイン、メガシンカ!!」

 「カィンッ!!!!!」


かすみんが“メガブレスレット”を構えると、ジュカインが光に包まれ、姿を変える。


かすみ「“りゅうのはどう”!!」

 「カァインッ!!!!!」
206 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:54:16.13 ID:tTvUwYyF0

メガシンカしたジュカインが、猛スピードで突っ込んでくるメガスピアーに向かって“りゅうのはどう”を放ちます。

だけど、メガスピアーはすぐに察知し、高速で直角に曲がるようにして、“りゅうのはどう”を回避する。


英玲奈「怯むな!! “みだれづき”!!」

 「ブーーンッ!!!!」


回避からすぐにまた切り返して攻撃に移行。再びメガスピアーがジュカインに向かって飛翔し、連続の針でぶっさしまくってくる。


かすみ「“みきり”!!」

 「カィンッ!!!!」


ジュカインは、頭部に向かってくる針は首を捻ってギリギリで避け、胴を狙う針は刃でいなし、下半身を狙う針は切っ先に当たらないように横から弾くように蹴り飛ばす。

逸らされ回避された針はもちろん、ジュカインの背後の壁に叩きつけられるように突き刺さり──そのまま壁を吹っ飛ばす。


 「カインッ…!!!!」

かすみ「ちょ!? ジム、壊してる!?」

英玲奈「避けるか……! ならば、“ドリルライナー”!!」

 「ブーーーーンッ!!!!!!」


お尻の針が──キュィィィィーン!! と音を立てながら回転を始め、ジュカインに向かって突き刺してくる。

それはジュカインの胸部に直撃し──


 「カインッ…!!!」


そのまま、ジュカインをジムの外まで吹っ飛ばす。


かすみ「ジュカイン……!?」

英玲奈「スピアー!! 追いかけろ!!」
 「ブーーンッ!!!!」


メガスピアーは外に吹き飛んでいったジュカインに追撃をするために、穴から飛び出して行く。


かすみ「や、やば……!!」


かすみんも大急ぎで、その穴から外に出ます。

すると、ジムの外にあった竹林の前で、


 「ブーーーンッ!!!!!」

 「カァインッ!!!!」


すでにジュカインは立ち上がり、腕の刃でメガスピアーの両腕の針と鍔迫り合いをしているところでした。

“ドリルライナー”が直撃したけど、致命傷にはなってないみたい……!


かすみ「胸のアーマーが功をなしましたね……!」


こんなに早くメガシンカを使う予定はありませんでしたが、メガシンカによって新たに胸部に草のアーマーを身に着けたお陰でどうにか助かりました……!

ただ、このままメガスピアーと肉弾戦を続けるのはまずいです……!

鍔迫り合いをしながら、メガスピアーは、


 「ブーーーンッ!!!!」
207 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:55:25.90 ID:tTvUwYyF0

後ろ脚にある2本の針を構える。


かすみ「サニーゴ!! “かなしばり”!!」
 「──……サ」

 「ブ、ゥゥゥーーーンッ!!!!!」


すかさずサニーゴを繰り出し、メガスピアーの後ろ脚に向かって“かなりばり”を使う。

だけど、メガスピアーは、


 「ブ、ゥゥゥゥーーーンン!!!!!」


“かなしばり”を受けたにも関わらず、後ろ脚の針は少しずつだけど、前に進んでいる。


かすみ「げっ……!? パワーだけで強引に“かなしばり”を引き剥がそうとしてる……!?」


規格外のパワー……やばすぎですよ……!?

でも、こっちもメガシンカポケモン……! 一瞬隙さえ作っちゃえば……!


かすみ「“ダブルチョップ”!!」

 「カァインッ!!!!」


ジュカインは、両腕を振り上げるようにしてメガスピアーの針を弾きながら──そのまま両腕を振り下ろし、チョップに派生する。


 「ブゥゥゥーーンッ!!!!?」


そのまま、脳天にチョップを叩きつけると、メガスピアーが一瞬怯む。

その隙を見逃さず、メガスピアーに背を向け──背中のタネを切り離す。


かすみ「“タネばくだん”!!」

 「カインッ!!!!」


切り離したタネが爆発し──


 「ブーーンッ…!!!!」


爆風でメガスピアーを吹っ飛ばす。


英玲奈「スピアー!! まだだ!! 止まるな!!」


背後から英玲奈先輩の声。


 「ブ、ゥゥゥーーーンッ!!!!!」


メガスピアーはその声に呼応するように、すぐに態勢を立て直す中、かすみんはサニーゴを小脇に抱えて、メガスピアーの脇を走り抜け──ジュカインの大きな尻尾に飛び乗る。

──あんな肉弾戦メインのポケモン相手に、真っ向勝負し続けるのは分が悪すぎです……!!

目の前にある大きな竹林は今回のバトルフィールドに指定されてる場所……!


かすみ「ジュカイン!! 竹林の中に!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインはかすみんを尻尾に乗せたまま──竹林の中へと走り出した。

208 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:56:03.32 ID:tTvUwYyF0

英玲奈「……っち、逃がしたか……。追うぞ、スピアー!」
 「ブゥーーーーンッ!!!!!」





    👑    👑    👑





かすみ「──とりあえず、一旦撒けたみたいですね……」
 「カインッ!!」「……サ」


サニーゴを小脇に抱え、ジュカインの尻尾に乗ったまま移動中です。

──英玲奈先輩はむしポケモンのエキスパートですから、自分にとって一番力を発揮できる場所として竹林を指定したんでしょうけど……。

ジュカインはもともと樹の上で生活するポケモンです。こちらにとっても竹林のような草木が生い茂る場所は本領を発揮できる場所。

今も竹から竹にひょいひょいと飛び移りながら、ものすごいスピードで移動しています。

しかも、かすみんがおっこちないように、尻尾を常に水平に保ってくれているため、すごく快適です。


かすみ「それにしても……いきなり切り札のメガスピアーから出してくるとは思いませんでしたね……」


メガシンカが出来るのは1回の戦闘で1匹だけ……。

2匹以上同時にメガシンカするのは、自分の身体への負担が大きすぎるから絶対にダメだと、果南先輩に口酸っぱく説明されました──まぁ、かすみんはジュカインしかメガシンカ出来ないんですけど……。

なので、さすがにメガスピアーが切り札じゃないなんてことはないと思います。


かすみ「向こうも最初から出し惜しみなしってことですね……」


とにかく、あのメガスピアーを倒す方法を考えないといけません。

侑先輩に聞いた情報ですが……メガスピアーはメガシンカで爆発的なパワーとスピードを手に入れていますが、防御面に関しては普通のスピアーと変わらず、あまり打たれ強くないと言っていました。

つまり……どうにか攻撃を決め切ることさえ出来れば、最悪メガジュカインでなくても、対抗が出来る可能性があります。

──問題は、当てられるか……なんですけど……。

対策を頭の中でこねこねしていたそのとき、


英玲奈「──隠れていないで出てこい……! 本気のバトルをしてくれるんだろう……!?」


──と、英玲奈先輩が張り上げた声が聞こえてくる。

英玲奈先輩はよほど本気のバトルを楽しみにしていたらしい……というか、しょっぱなからジムをぶっ壊してたし……。


かすみ「もしかして……英玲奈先輩って……」


英玲奈「──……出てくる気はないんだな!! なら……こちらにも考えがあるぞ……!!」


かすみ「……へっへーん、そんな挑発で出て行くほど、かすみんおバカじゃないですもんね〜」


虚空に向かってあっかんべ〜した瞬間、


英玲奈「──“がんせきアックス”!!」
 「──グラッシャァァァァァ!!!!!!」


大きな鳴き声と共に──目の前の竹たちが急に傾き始めた。


かすみ「いっ!?」
 「カインッ!!!?」
209 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:57:37.52 ID:tTvUwYyF0

いや、そうじゃない……!? ここら一帯の竹を──根本から伐採した……!?

英玲奈先輩は、こーんな立派な竹林を、なんの躊躇いもなくぶった切って、かすみんたちを竹の上から落とす作戦を取ってきた。


 「カインッ…!!!」


でも、ジュカインは空中でうまくバランスを取り、姿勢を維持しながら、地面に着地する。

──もちろん、かすみんに落下の反動がいかないように、着地のタイミングで尻尾を上手にしならせて、反動を殺してくれる。


かすみ「あ、ありがとう……ジュカイン……」
 「カインッ!!!」


そして、降り立った私たちの前に、


英玲奈「……やっと降りて来たな」


英玲奈先輩が姿を現す。

そして、その傍らには、


 「グラッシャァ」


見たことがないポケモンが居た。


かすみ「な、なんですか、そのポケモン……!?」

英玲奈「見たことがなくても無理はない。……このポケモンはこの地方では私しか持っていないからな」


なんですか、それ……!?

かすみんは警戒しながらも、上着のポケットから図鑑を出して、目の前のポケモンを調べてみる。

 『バサギリ まさかりポケモン 高さ:1.8m 重さ:89.0kg
  硬い岩で 自分自身の 身を守っている。 両腕に ついた
  大きな まさかりで 大木を 切り倒す。 翅が 退化して
  飛行能力を 失った代わりに 脚力と 腕力が 増している。』


かすみ「バサ……ギリ……?」


図鑑で調べても、見たことも聞いたこともないポケモンです。


英玲奈「こいつはストライクの進化した姿だ」
 「グラッシャ…」

かすみ「え……? ストライクの進化系……? それってハッサムじゃ……」

英玲奈「本来はな……。かつてシンオウ地方では極僅かだが、ストライクはこのバサギリに進化していたそうだ。私はむしタイプのエキスパートとして、このポケモンを長いこと調べていて──やっとのことで、ストライクがバサギリになるための“どうぐ”を見つけ、手に入れたのだ」
 「グラッシャァァ…」


バサギリが、体を捻って──大きなまさかりを後ろに振りかぶる。


英玲奈「それによって得たパワー……味わうといい!!」
 「グラッシャァァ!!!!!」

かすみ「……! ジュカイン!! ジャンプして!!」
 「カインッ!!!」


かすみんの指示で、ジュカインがジャンプをした直後──バサギリが横薙ぎに放った斬撃により、さっき以上の範囲の竹が根元からぶった切られ、周囲を竹が舞い踊る。
210 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:58:36.88 ID:tTvUwYyF0

かすみ「こんなに立派な竹林、よく躊躇なくぶった切れますね!?」

英玲奈「バトルのためだ、そういうこともあるだろう!!」

かすみ「やっぱ英玲奈先輩──戦闘狂ってやつですか……!?」

英玲奈「戦闘狂……確かにあんじゅには、何度もそう言われたことがあるな!!」


何度もあるの!? 筋金入りってやつじゃないですか!?

なんの躊躇もなく、戦いのために手段を選ばないというのは考えようによっては脅威です……!

しかも、この範囲、この破壊力……あのポケモンは、ああいう人が持っちゃいけないんじゃないですか!?

かすみん、思わずいろいろ言いたくなっちゃいますけど──今はバトルに集中しなくていけません。


かすみ「ジュカインっ!!」
 「カィンッ!!!!」


ジャンプで攻撃を避けたジュカインは、落ちてくる竹を蹴りながらさらに上昇し──腕を振り上げる。

竹が盛大に伐採されたせいで、隠れ場所はなくなっちゃいましたけど──お陰で空からは太陽の光がさんさんと降り注いでいます……!


かすみ「“ソーラー──ブレード”ッ!!!」
 「カィィンッ!!!!!」


ジュカインが空中から、バサギリに向かって“ソーラーブレード”を振り下ろす。

未だ斬り裂かれた竹たちが舞い踊っていますが、それを意にも介せず斬り裂きながら、バサギリに迫る。


英玲奈「受け止めろ!!」
 「グラッシャァァァァッ!!!!」


バサギリは腕のまさかりを振り上げ、“ソーラーブレード”を受け止めますが──見たことないポケモンだかなんだか知りませんが、こっちはメガシンカのパワーがあるんです……!!

まさかりとブレードがぶつかった瞬間、


 「グラッシャァァァッ!!!!?」


バサギリの体が光の剣の衝撃で沈み込み、それと同時に周りの広がった衝撃波が、周囲に落ち転がっていた竹たちを紙切れのように吹き飛ばして行く。


かすみ「メガシンカしてれば、こっちの方がパワーは上です!!」

 「──ブーーーンッ!!!!!」

かすみ「っ!?」


嫌な音が聞こえて振り向くと──メガスピアーが背後から迫ってきていた。


 「……サ」


小脇に抱えたサニーゴが自分の判断で“パワージェム”を発射するけど、


 「ブン──」


メガスピアーは素早い動きで、視界から消え──その直後、


 「カインッ…!!!?」
かすみ「っ……!?」


ジュカインに向かって、上から“どくづき”を叩きこまれ、落下する。


 「カインッ…!!!!」
211 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:59:39.92 ID:tTvUwYyF0

地面に落下した衝撃で、


かすみ「わぁぁぁ!!?」


かすみんはジュカインの尻尾の上から跳ねるように放り出されて、地面を転がります。

かすみん、地面を転がりながらも、


 「──グラッシャァァァ!!!!!」

かすみ「“リーフブレード”ォ!!!」


聞こえてきた鳴き声に反応して、指示を叫ぶ、


 「カァインッ!!!!」


──ギィンッ!! と刃同士がぶつかり合う音が響くと同時に、


英玲奈「──カイロス!! “ハサミギロチン”!!」
 「カイーーーッ!!!!」

かすみ「!?」


バッと顔を上げると、かすみんに向かって、カイロスがハサミを構えて突っ込んでくるじゃないですか……!?

このままじゃ、やられる……!?

かすみんは咄嗟に小脇に抱えていたサニーゴを両手で掴んで前に出す──ガァンッ!! と音立てながら、サニーゴが“ハサミギロチン”に挟まれます。

相手の攻撃は、一撃必殺ですが、


 「……サ」


ゴーストタイプのサニーゴになら、効きません……!

かすみんは咄嗟にサニーゴからパッと手を放し、腰のボールを2個、弾くように落とす。


 「──ヤブクッ!!!!」「──テブッ!!!」


ボールから、ヤブクロンとテブリムが飛び出し、


かすみ「“ヘドロばくだん”!! “サイコショック”!!」
 「ヤーーブクッ!!!」「テブリィッ!!!」

 「カイロッ!!!?」


カイロスの足元で攻撃を炸裂させ吹っ飛ばす。それと同時に、挟まれていた──ノーダメージですけど──サニーゴも解放され……それと、同時に上から翅音。


 「ブゥゥゥーーンッ!!!!」


そりゃメガスピアーが追撃に来ますよね!?

かすみんは目の前のサニーゴを再び掴んで、真上を向かせる。


かすみ「“あやしいひかり”!!」
 「…………サ……コ」

 「ブゥゥゥンッ!!!?」


上を向いたサニーゴがカッと発光し、メガスピアーに閃光を浴びせかけた。

至近距離で真正面から“あやしいひかり”を受けたメガスピアーはおかしな軌道を描きながら、再び上昇していく。
212 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:03:23.73 ID:tTvUwYyF0

英玲奈「く……“こんらん”させられたか……! スピアー、一旦戻れ!!」
 「ブゥゥゥーーン──」


英玲奈先輩はボールを投げて、スピアーを控えに戻す。

それと同時に──ギィンッ!! と硬い音を立てながら、


 「カインッ…!!!」


ジュカインが飛び退いてくる。


かすみ「ジュカイン、大丈夫!?」
 「カインッ…!!!」

英玲奈「バサギリのパワーと互角か、さすがメガシンカポケモンだな……!」
 「グラッシャァァ…!!!」

かすみ「むしろ、なんでメガシンカポケモンと互角のパワーなんですか……!?」


今度はバサギリが縦向きにまさかりを構え、さっき吹っ飛ばされたカイロスも身を起こして、前傾姿勢になる。

攻撃が来る──そう思った瞬間、


 「カインッ!!!?」
かすみ「!?」


ジュカインが何かに後頭部を殴られ、前に向かって体勢を崩した。

その隙を見逃してくれるはずもなく、


 「グラッシャァァァァ!!!!」


バサギリがまさかりを振り下ろしてくる。


かすみ「……っ……! “アイアンテール”で受け止めて!!」
 「カインッ……!!!!」


ジュカインはバランスを崩しながらも、手を突き──前に倒れる反動をそのまま利用して、尻尾を振り上げる。

ちょうど逆立ちになったような状態で尻尾を硬化させ、振り下ろされるバサギリのまさかりを尻尾で受け止めた。

そして、間髪入れずに、


かすみ「しっぽミサイル、発射ぁ!!」
 「カァインッ!!!」


ジュカインは尻尾側の種を破裂させ──尻尾をミサイルのように発射した。


 「グラッシャァ!!!?」


──ギィンッ! と硬い音を立てながら、しっぽミサイルに弾かれたバサギリの腕が持ち上がる。

腕が持ち上がり、無防備になったバサギリに向かって、


 「テブリッ!!!!」


テブリムが頭の房を構えて飛び出した。

が、


 「テブリッ!!!?」
かすみ「な……っ!?」
213 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:05:40.38 ID:tTvUwYyF0

またしても、見えない何かの攻撃で、今度はテブリムが吹っ飛ばされる。

吹っ飛ばされたところに、


 「──カイーーーッ!!!!」


カイロスが突っ込んで来て──テブリムをハサミで捕まえる。


英玲奈「“しめつける”!!」
 「カイイーーーッ!!!!!」

 「テ、テブリィィィィ!!!!!」


テブリムは締め付けられる瞬間、頭の房を両側に突っ張って、どうにか耐えてますが……! 早く、助けなきゃ……!

かすみんがゾロアのボールを手に取った瞬間──ボールを例の見えない何かに弾き飛ばれた。


かすみ「しまっ……!?」


直後見えない何かは、ゾロアの入ったモンスターボールの開閉スイッチをピンポイントで攻撃して、破壊する。


かすみ「!?」


開閉スイッチが壊されたら、ボールからゾロアが出せない……!?

しまったと思ったけど、


 「ヤーブクゥ!!!」


ヤブクロンが、ゾロアのボールに向かって“アシッドボム”を吐き出すと──ボールが溶けて、


 「──ガゥッ!!!」


中からゾロアが飛び出してくる。


かすみ「ナイスです……! ヤブクロン!」
 「ヤブクゥ!!!」


それはそれとして、動きが見えないポケモンをどうにかしないと……!


 「テ、ブゥゥゥゥゥ…!!!!!」
 「カィィィロォォォ…!!!!」

 「グラッシャァ!!!!!」
 「カィィィンッ!!!!!」


テブリムはまだ必死に耐えている。

ジュカインもまたバサギリと鍔迫り合いを始めている。

もうちょっと、頑張って……!!

──この動きが見えないポケモン、どうにかするには……!


かすみ「みんな、一瞬息止めてーーーー!!! “どくガス”!!!」
 「ヤブクゥゥーーー!!!!!」


ヤブクロンが上空に向かって、“どくガス”を吐き出す。


英玲奈「……! “どく”状態にして削り倒すつもりか……!! だが、倒れるまでテブリムやジュカインが持つと思うか……!」


もちろん、そんな悠長な作戦じゃありません……!
214 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:06:14.89 ID:tTvUwYyF0

かすみ「“ベノムトラップ”!!」
 「ヤーブーーーーッ!!!!!」


ヤブクロンが霧状の毒を上空に向かって噴き出す──この技は曜先輩との戦いでも使った技……!

“どく”状態のポケモンがこの霧に突っ込むと──


 「──…ジジジ」


動きが鈍る……!


英玲奈「!? なんだと……!?」

かすみ「テッカニン……!!」


あのポケモンが“かそく”しまくって見えなくなってたんですね……!!

でも姿が見えれば、こっちのもんです……!!


 「ガゥッ!!!!」


ゾロアがかすみんの足から身体を伝って駆け登り──頭の上から踏み切って、


 「ガゥッ!!!!」

 「──ジジジ!!!?」


動きの鈍ったテッカニンに爪を引っかけて、引き摺り落とす。

爪を引っかけ、一緒に落下しながら、


かすみ「“しっとのほのお”!!」

 「ガーーーゥゥ!!!!」

 「ジジジジジジ!!!!?」


ゾロアが体から炎を放って、攻撃する。

至近距離から炎で焼かれ──テッカニンは戦闘不能になって地面の上でひっくり返った。


かすみ「よし……!! これで、1匹……!!」


やっと1匹目を倒したと思った矢先、


 「──カィィィンッ…!!!!」


ジュカインが吹っ飛ばされてきた、


かすみ「ジュカイン!?」


バサギリと互角の迫り合いをしてたんじゃ……!?

ハッとしてバサギリの方を見ると──


 「ブゥゥゥーーン」

かすみ「!」


──気付けば、メガスピアーが再びフィールドに姿を現し、バサギリの援護に入っていたらしい。


英玲奈「スピアー!! 次はテブリムだ!!」
 「ブーーーンッ!!!!」
215 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:07:16.48 ID:tTvUwYyF0

メガスピアーは今度は、カイロスのハサミに挟まれたままのテブリムに向かって、飛び出して行く。


 「テブリィィィィ…!!!!」
 「カイィィィ!!!!!」


もちろん、今の状態じゃテブリムはカイロスから逃げ出すことは出来ない。

メガスピアーが針を構え、


英玲奈「“とどめばり”!!」

 「ブゥゥゥゥーーンッ!!!!」


メガスピアーのお尻の針がテブリムに直撃しようとした、瞬間、


 「カィィッ!!!?」


カイロスの足元が沈み込み、標的がずれたメガスピアーの針は──ガンッと音を立てながら、カイロスのツノに直撃する。


英玲奈「な……!?」


メガスピアーのあまりあるパワーは、事故でぶつかっただけでも、カイロスのツノにヒビを入れ──その拍子に、


 「テブリッ!!!」


テブリムが脱出する。

カイロスの頭の上を飛び降りたと同時に、


かすみ「“マジカルシャイン”!!」

 「テブリッ!!!!」


テブリムが激しく閃光して、


 「カイィッ!!!!」「ブゥンッ!!?」


カイロスとメガスピアーを牽制する。

もちろん、今しがたカイロスの足を取ったのは──


 「クマァッ!!!」


地面に忍ばせたジグザグマです!!


英玲奈「……! ジグザグマ……!」

かすみ「どんなもんですか! かすみんのジグザグマお得意の“あなをほる”で同士討ちさせてやりましたよ!」
 「クマッ!!!」「テブリッ!!!」


ジグザグマとテブリムが、かすみんのもとに戻ってきて、


 「カインッ…!!!」「ガゥゥッ!!!」「クマァッ」「……サ」「ブクロンッ!!!」「テブリッ!!!」


かすみんパーティ勢揃いです……!

一方で英玲奈先輩の手持ちはテッカニンが戦闘不能、カイロスがツノが砕けている状態……! これは有利な状況です……!
216 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:09:02.64 ID:tTvUwYyF0

英玲奈「なるほど……ここまで来るだけあって、強いな……!」

かすみ「当然です! それに、強いだけじゃありません……勝ちに来たんですから!!」

英玲奈「いい威勢だ……だが、これならどうだ──」


英玲奈先輩の台詞と同時に──空の太陽が急にとんでもない熱を主張し始めた。


かすみ「あっつ!? な、なに……!!?」


太陽に目を向けると──真っ赤な太陽がどんどんこっちに落ちてくるじゃないですか……!?


かすみ「……いや、違う……あれ、太陽じゃない……!?」

 「──ビィィィ……」


真っ赤な炎を身に纏った──大きな翅をはためかせながら、降りてくる。……まさか、ポケモン……!?


英玲奈「ウルガモス!! “ほのおのまい”!!」
 「──ビィィィィィ!!!!!!」


ウルガモスが6枚の翅から、鱗粉をばら撒くと──それは周囲一帯に灼熱の炎が降り注いでくる。

しかもここは竹林……切り倒された大量の竹がある場所でそんなことしたら……!?

一瞬で炎は周囲の竹に引火し──辺りは一瞬で火の海になり、四方八方を炎で包囲されてしまった。


かすみ「!? う、うそ……!?」


これじゃ、炎から逃げられない……!?


英玲奈「さぁ、どうする、チャレンジャー……」

かすみ「こ、こんな炎の中じゃ、英玲奈先輩のむしポケモンも燃えちゃうじゃないですか!?」

英玲奈「ああ、そうだ。だが、だからこそ、私も、私のポケモンたちは昂ぶるんだ……!」
 「グラッシャァ」「カイーーーッ!!!!!」「ブーーーンッ…!!!!」

英玲奈「逃げられないからこそ、燃え上がるんじゃないか!! ポケモンバトルは!!」

かすみ「こ、この戦闘狂〜……!!」

英玲奈「戦闘狂で結構だ……!! 私はこのバトルが最後まで楽しめればなんでもいい!! 行け、ペンドラー!!」
 「ペンドラァァァ!!!!!」

かすみ「っ……!?」


英玲奈先輩の最後のポケモン──ペンドラーはボールから出ると同時に、猛スピードでこっちに向かって突っ込んでくる。


英玲奈「“メガホーン”!!」
 「ペンドラァァァ!!!!!」


ペンドラーが頭のツノを前に突き出して突っ込んでくる。

こんな逃げ場のない炎の海の中……避けられない……!?


 「カインッ!!!!」


そのとき、ジュカインが前に飛び出して──ガァンッ!!! と音を立てながら、“リーフブレード”でペンドラーのツノを受け止める。


かすみ「ジュカイン!?」
 「カインッ!!!!」


そのまま、腕を振るって、ペンドラーを弾き返すが、
217 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:09:37.73 ID:tTvUwYyF0

 「ペンドッ!!!!」


ペンドラーはまた、すぐに戻ってきて、再びツノを突き出し突っ込んでくる。


 「カインッ!!!」


──ガァンッ!!! ガァンッ!!! ガァンッ!!!

弾いても弾いても、ペンドラーはまたすぐに戻ってきて──しかも、どんどん“かそく”しながら、“とっしん”を繰り返す。


英玲奈「そいつはしつこいぞ……! “かそく”しながら、相手が倒れるまで何度でも攻撃する……!」

かすみ「くっ……! 加勢しなきゃ……!」
 「ガゥッ!!!」「テブッ!!!」「ヤブクッ!!!」「クマッ」「……サ」


5匹がジュカインに加勢しようと飛び出す、が、


英玲奈「バサギリ!! “がんせきアックス”!! カイロス!! “じしん”!!」
 「グラッシャァァァァ!!!!」「カィィィッ!!!!!」


バサギリが思いっきり、地面にまさかりを叩きつけた衝撃と、カイロスの起こした“じしん”で、


 「ガゥッ!!?」「テブリッ!!!?」「ブクロンッ…!!!」「ク、クマァ…!!!」


浮いているサニーゴを除き、かすみん含めた全員が足を取られる。

直後──


 「カァインッ!!!!」


ジュカインの足元から草が広がっていく。

──ジュカインが使った“グラスフィールド”だ。“グラスフィールド”には“じしん”の効果を半減する効果がある。


 「ペンドラァァァァ!!!!!」

 「カインッ!!!!」


──ガァンッ!!!

ジュカインはペンドラーを捌きながら──みんなのサポートまでしている。


かすみ「ジュカイン……っ!! 無茶しないでっ!!」

 「カィィンッ!!!!」


──ガァンッ!!


かすみ「みんな、ジュカインのサポートを……!!」


みんなに指示を出すけど、


英玲奈「スピアー!! “ミサイルばり”!!」
 「ブゥゥーーーンッ!!!!」

かすみ「……!?」


猛スピードで“ミサイルばり”が飛んでくる。


かすみ「“サイコキネシス”!! “スピードスター”!! “シャドーボール”!!」
 「テブリッ!!!」「ガゥゥゥッ!!!!」「……サ、コ」
218 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:10:18.52 ID:tTvUwYyF0

相殺しようと攻撃を放つけど、“ミサイルばり”は“シャドーボール”を貫き、“スピードスター”を弾き飛ばす。

2匹の技で減速させたところを、テブリムの“サイコキネシス”がどうにか軌道をずらし──ドォンッ!! と音を立てながら、ギリギリ当たらないところに着弾する。


かすみ「……っ……!!」
 「テ、テブリィ…!!!」「ガゥゥゥゥッ!!!!!」「…………」


その間にも、


 「ペンドラァァァ!!!!」
 「カィンッ!!!」


──ガァンッ!! ガァンッ!! と音を立てながら、ジュカインが盾になっている。

でも、ペンドラーはどんどん加速しているし、


 「ビィィィィ!!!!!」


ウルガモスの発する炎はどんどん勢いを増していく。

ジグザグマで落とし穴を作って止めるのも考えたけど……“じしん”をされたら、逆に大きなダメージを受けちゃうし、“ベノムトラップ”もどくタイプのペンドラーにはそもそも通用しない。


かすみ「こ……このままじゃ……! そうだ……! サニーゴ!! “くろいきり”!!」
 「……サ」


“くろいきり”なら、ペンドラーの“かそく”をリセット出来るはず……! と思ったけど──周囲が火の海の中で出した“くろいきり”はこの場に留まることが出来ず、一瞬で空高くまで吹き飛んで行ってしまった。


かすみ「そ、そんな……ど、どうしよう……」
 「ガ、ガゥゥ…」「テ、テブ…」「ク、クマァ…」「ブ、ブクロン…」「…………」


もう、打つ手がない……!

そして、ついに──


 「ペンドラァァァァッ!!!!」
 「カインッ…!!!?」


相手が“かそく”しきって、捌ききれずに──ペンドラーの“メガホーン”が、ジュカインのお腹に直撃した。


かすみ「ジュカインッ!!」


でも、


 「カァァァィィィィンッ!!!!」


ジュカインは足を踏ん張り、かすみんたちの目の前まで押されながらも、ペンドラーを止め──そのまま、手で上からペンドラーの頭を押さえつける。


 「ペンドラァァァァァ!!!!!」
 「カァィィィィンッ!!!」

かすみ「じ、ジュカイン……!」

英玲奈「……大した根性だ。自分がエースである自覚があるんだろうな……だが、同情してやるつもりはないぞ。ウルガモス、“ねっぷう”!!」
 「ビィィィィィィ!!!!!!」

かすみ「あっつっ!!」
 「ガゥゥゥゥ!!!?」「テ、テブリィッ…!!!」「ブクロンッ…!!!」「クマァッ…!!?」「…………ニ」


全員を熱波が襲い掛かる。もう、限界……このままじゃ……!


 「カァィィィィンッ!!!!」


そのとき、ジュカインが大きな鳴き声をあげながら──私たち全員を掬い上げるように尻尾を振るう。
219 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:11:40.58 ID:tTvUwYyF0

 「ガゥ!!!?」「テブリッ!!?」「ブ、ブクロ…」「クマァッ…!!!」「……サ、ニー…ゴ」
かすみ「ジュカイン……!?」

 「カインッ…」


全員が尻尾に乗ったのを確認すると──ジュカインは、


 「カィンッ!!!!」


尻尾に一番近いタネを破裂させ……私と5匹の手持ちを乗せた尻尾を──後方に向かって発射した。


かすみ「ジュカイン!? 待っ!?」
 「ガゥ!!!」「テブッ!!!」「ブクロンッ!!!!」「クマ、クマァッ!!!」「サ、ニーーーゴ…!!!」


私と5匹の手持ちを乗せたしっぽミサイルは、猛スピードで炎の海を突っ切り──炎のデスマッチの場外まで、私たちを離脱させた。



 「…カインッ…」

英玲奈「……仲間たちを逃がしたのか? この場で私たちに対抗しうる力を持つのは、お前だけだぞ?」

 「……カィィンッ!!!!」

英玲奈「……仲間たちを信じているとでも言うのか? ……心意気は嫌いではないがな」

 「……カィ…ン…」

英玲奈「……やっと倒れたか……。……いや、メガシンカしているとはいえ、自分以外の手持ちとトレーナーを庇い続けたんだ……体力はとっくに限界だったろう。安心しろ、すぐに彼女たちを見つけて試合は終わらせてやる──私たちの勝利で」





    👑    👑    👑





──いつだか……しず子と、こんな話をした。


──────
────
──


かすみ「え……? 歩夢先輩のサスケは、進化しない……? キャンセルしてたんじゃないの……?」

しずく「うん、てっきり私もそうなんだと思ってたんだけど……サスケさんは一度も進化しそうになったこともないんだって。歩夢さんは……いつまでも自分の肩に乗っていたいから、進化しないんだと思うって言ってたけど……」

かすみ「そうなんだ……。……じゃあ、かすみんの手持ちも、そうなのかな……」

しずく「え?」


しず子は私の言葉にきょとんとする。きょとんとした後、少し考える素振りをして──


しずく「……そういえば、最近かすみさんがキャンセルボタン押してるとこ……見てないかも」

かすみ「うん。実はちょっと前から、みんなのレベルが上がっても、進化しようとしなくなったんだ」

しずく「それって……」

かすみ「たぶん……かすみんが、いつまでもみんなに可愛いままでいて欲しいって気持ちが伝わったからなんじゃないかな〜って」

しずく「ふふ♪ ……かすみさんのポケモンたちは、かすみさんが自分たちにどうあって欲しいのかを、ちゃんとわかってくれてるんだね♪」

かすみ「ホント、いい子たちです……えへへ♪ かすみんこんないい子たちと一緒に旅が出来て、幸せです♪」

しずく「ふふ、そうだね♪」
220 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:12:38.79 ID:tTvUwYyF0

──
────
──────



かすみ「……はぁ……はぁ……」


燃え盛る竹林を、ジュカインのお陰でどうにか脱出出来たけど……。


 「テブ、テブゥッ!!!!」「ガゥガゥゥ!!!!」

 「ヤ、ヤブクーー…!!!」「ク、マァァァ…!!!」


今にも飛び出しそうなテブリムとゾロアを、ヤブクロンとジグザグマが必死に止めている。


 「……ニ」


サニーゴはそれを呆然と眺めている。

……かすみんたちは、みんな……ジュカインに助けてもらうことしか出来なかった。

理由はなんとなく……わかっていた。

私たちはずっと……唯一進化して戦い続けるエース──ジュカインに頼り過ぎていたんだ。

──……だからかな。……今、話をしなくちゃいけないと思った。


かすみ「……ねぇ、みんな。……聞いて欲しいことがあるんだ」
 「ガ、ガゥ…?」「テブ…」「ブクロン…」「クマ…?」「……ニゴ」


私が……みんなをどう思っているかのお話を……。


かすみ「……かすみんね……ずっとずっと、可愛いポケモンたちと旅がしたかったんだ。それが……夢だったの」


旅に出る前からずっと思っていた。可愛いポケモンたちに囲まれて、可愛いポケモンたちと一緒に、可愛い可愛い旅がしたかった。

──でも、なかなか思ったとおりにはいかなくって……。

最初に欲しかったのは可愛いヒバニーだったのに、結局貰ったのはキモリだったし……。


かすみ「ジグザグマはもともとイタズラされて腹が立ったから、懲らしめるために捕まえただけだし……」
 「クマ…」

かすみ「サニーゴはホントはガラルのサニーゴじゃなくて、ピンク色の可愛いのがよかった」
 「……ニゴ」

かすみ「ヤブクロンだって、かすみんのイメージじゃなかったんだよ? でも、ほっとけなくて……」
 「ブクロン…」

かすみ「テブリムも、なりゆきで一緒に行くことになってさ……。かすみんのこと子分扱いする生意気な子でさ……」
 「テブ…」

かすみ「みんな……全然かすみんの想像する可愛い可愛い仲間たちじゃなくって……。……でも……でもね……」


私は──みんなを抱き寄せる。
221 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:13:33.84 ID:tTvUwYyF0

かすみ「──今は……みんなが可愛くて可愛くて仕方ないの……っ……」
 「クマ…」「…サニゴ」「ブクロ…」「テブリ…」「ガゥ…」

かすみ「ジグザグマが私のためにたくさんいろんなものを集めてきてくれて……褒められたときにする顔、私、可愛くて大好き……」
 「クマァ…ッ…」

かすみ「サニーゴ……普段はボーっとしてるように見えて……実は表情豊かで、熱い気持ち持ってて……嬉しいときは嬉しい顔、ちゃんと見せてくれる……そういうギャップにとびっきりの可愛さ感じてるよ……」
 「サコ……ッ…」

かすみ「ヤブクロン……寝るときに、私がぐっすり眠れるように、枕元で良い匂い出してくれてるの、実は知ってたよ? それにヤブクロンの笑顔、愛嬌があってすっごく可愛いんだよ……」
 「ブクロン……ッ…」

かすみ「テブリムは生意気だけど、私を守るためにいっつも強がってるでしょ……? ホントは群れのみんなのこと思い出して寂しくなっちゃってるの知ってるんだよ……そういう可愛いところあるの私にはバレバレなんだからね……?」
 「テ、テブ……ッ…」

かすみ「ゾロア……私の初めてのお友達。初めてゾロアをママからもらったとき、可愛い可愛いってずっと可愛がってたけど……テレビでゾロアークの姿を、見た目を知ったとき、私、大泣きしちゃったんだよね。覚えてるかな……?」
 「ガゥゥ…」

かすみ「ちっちゃい頃の私は……いつか、ゾロアもこうなっちゃうんだって、可愛くなくなっちゃうんだって……そう思ったの……。……でも、でもね……今ならわかるんだ」


私はみんなを──ジグザグマを、サニーゴを、ヤブクロンを、テブリムを……ゾロアを、順に見つめて。


かすみ「……可愛さって、溢れ出るものなんだって。見つけられるものなんだって」


私が──誰よりも可愛くて強いトレーナーになるのに必要なことは──


かすみ「私は……みんながどんな姿でも、みんなの可愛さ、見つけられるよ……♪ 見つけてみせるよ……♪」
 「クマ…」「…サコ」「ブクロン…ッ」「テブ…ッ」「……ガゥッ!!!」

かすみ「だから、もう……止めなくていい……! 私のために、私の夢のために、止まらなくていい……! 私と一緒に、前に進もう……!」
 「クマ──」「サコ──」「ブクロン──」「テブリ──」「ガゥゥゥ──」


私は──この子たちと一緒に……変わるんだ……!!


かすみ「行こう……!! みんな……!!」





    👑    👑    👑





英玲奈「……出てこい」


英玲奈先輩が炎の竹林の中から、歩いてくる。


 「グラッシャァァ!!!!」「カイィィロス!!!!」


バサギリが、カイロスが力任せに燃える竹を蹴散らしながら──


 「ペンドラァァァーーー!!!!」


そして──ペンドラーの背中の上には、戦闘不能になって気絶したジュカインの姿。


英玲奈「せめてもの情けだ。連れてきてやったぞ」


そう言って、ペンドラーはジュカインを地面に下ろす。


かすみ「……ありがとうございます」


私はお礼交じりに竹林の陰から姿を現す。
222 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:14:54.72 ID:tTvUwYyF0

かすみ「戻って、ジュカイン」


ジュカインをボールに戻して、ぎゅっと胸に抱きしめた。


英玲奈「……さぁ、どうする? まだ続けるか? ……出来れば降参なんて興の醒めることはして欲しくないが……」

かすみ「しませんよ。……ここで、諦めたりしたら……ジュカインの努力が全部無駄になっちゃいます」

英玲奈「良い心掛けだ……。そんな君を……これから、完膚なきまで叩きのめしてしまうことに……心が痛むよ」

かすみ「出来るもんなら……やってみろです……!!」

英玲奈「行け……!! ペンドラー!!」
 「ペンドラァァァァ!!!!!」


ペンドラーが猛スピードで走り出してくる、が──私の足元を横切るように、何かが猛スピードで飛び出した。


英玲奈「!? なんだ!?」


その影は──竹林の中を直角に曲がりながら、猛スピードでペンドラーに接近し、


かすみ「“しんそく”!!」

 「──クマァァァーーー!!!!」

 「ペンドラァァァ……!!!!」


真横から、強烈なタックルをお見舞いする。

ペンドラーはまさか、真横から攻撃されると思っていなかったのか、バランスを崩して横転する。

そこに向かって、


かすみ「“すてみタックル”!!」

 「──クマァァァーーー!!!!」


全身全霊の突撃をお見舞いした。


 「ペ、ペンドラァァァ…!!!!!」


ペンドラーが突撃された衝撃で、地面を滑る。


英玲奈「……! その姿……!」


 「クマァーーー…!!!」


ボサボサだった毛並みが真っすぐ流線形になり、細長くスマートな体躯を見せつけながら──マッスグマが鳴く。


英玲奈「この土壇場で進化した……ということか。そういうのが流行っているのか? だが、そんな一発技があっても戦況はひっくり返らないぞ……!! スピアー!!」
 「ブーーーーンッ!!!!」


メガスピアーが猛スピードで飛び出した瞬間、藪の中から──白い何かが伸び出てきた。


英玲奈「!?」


急に飛び出したソレは──さらに真っ白い枝のようなものを伸ばし、メガスピアーに絡みついていく。


かすみ「“ちからをすいとる”!!」
 「ニゴーーーンッ!!!!」

英玲奈「サニゴーン!? 2匹同時進化だと!?」

 「グラッシャァァァァッ!!!!」「カイーーーッ!!!!!」
223 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:15:48.09 ID:tTvUwYyF0

異変に気付いたバサギリとカイロスが飛び出してくると同時に──竹林の中から腕が伸びてきて、


 「グラッシャァッ!!!?」「カイィッ!!!?」


バサギリとカイロスを上から押さえつけ、直後──


かすみ「“タネばくだん”!!」
 「──ダストォォォ!!!!!!」


その手の先から出したタネが──ボォンッ!!! と音立てながら爆発する。


 「カ、ィィィ…」


もともとダメージを負っていたカイロスは、そこで後ろに向かって倒れ、


 「グラ、ッシャァァァ…!!!!」


バサギリにもダメージを与えながら──そのまま、両手でバサギリを掴んで持ち上げ、ぶん投げる。


 「グラッシャァァア!!!!?」

英玲奈「なんだ!? 何が起きている!?」

 「ブ、ブーーーンッ…!!!?」


鳴き声にハッとするように、英玲奈先輩がメガスピアーに顔を向けると、


 「ニゴーーーンッ」


メガスピアーはサニゴーンに絡め取られて動けなくなっていた。


英玲奈「スピアー!? なにしている!? 早く逃げないと、どんどん力を吸われるぞ!!」

かすみ「無駄ですよ……! パワーを吸い取られた上に、“かなしばり”で動きを止めましたから……! サニゴーンの呪いのパワーはもうサニーゴの比じゃありません……!」

英玲奈「く……っ……ウルガモス!! “ほのおのまい”!!」
 「ビィィィィィ!!!!!」


ウルガモスが踊るように炎の鱗粉を周囲にばら撒き、風に乗せてこちらに向かって飛ばしてくるが──その炎は急に意思でも持ったかのように、風に煽られ明後日の方向に飛んでいく。


英玲奈「な……!?」


驚いて目を見開く英玲奈先輩。

──まさか、さっきまで戦っていたポケモンの“サイコキネシス”であの大量の炎を一瞬で吹き飛ばされたなんて、信じられないでしょうね。


かすみ「隙だらけです……!! “サイコショック”!!」
 「リムオーーーーンッ!!!!」


鳴き声と共に──とてつもない量の実体化したサイコパワーのキューブがウルガモスの真上に出現し、マシンガンのようにウルガモスの体に降り注ぐ。


 「ビ、ビィィィィィ!!!!!」


耐えることもままならず、ウルガモスは地面に落下し──落下したウルガモスに向かって、先ほどの長い腕がその先端をウルガモスに突き付ける。


かすみ「“ヘドロウェーブ”!!!」
 「──ダストダァァァァス!!!!!」

 「ビィィィィィィ!!!!!!」
224 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:16:28.97 ID:tTvUwYyF0

手の平から、“ヘドロウェーブ”が噴射され、ウルガモスを襲った。

ウルガモスは“サイコショック”と“ヘドロウェーブ”による立て続けの攻撃を受け──ヘドロまみれになって気絶する。

それと同時に──私の背後に現れる2匹の影。


 「リムオン…」「ダストダァーース!!!」

英玲奈「ブリムオンに……ダストダス……!? 1匹ならまだしも、バトルの最中に4匹同時進化だと……!? そんなの聞いたことがないぞ……!?」

かすみ「いえ──……5匹同時進化です……!!」
 「ゾロアーーーークッ!!!!!」

英玲奈「……!?」

かすみ「ゾロアーク!! “ナイトバースト”!!」
 「ゾロ、アーーーークッ!!!!」


ゾロアークが前に飛び出し──広がる暗黒の衝撃波がペンドラーを吹き飛ばす。


英玲奈「ペンドラー!?」


そして、それと同時に──


 「ブーーーンッ……」
 「ニ、ゴォーーーン……」


サニゴーンとメガスピアーが同時に落下してくる。


英玲奈「な……!? メガシンカポケモンが同士討ちにされただと……!?」

かすみ「サニゴーンの特性は“ほろびのボディ”です! 接触した相手と一緒に滅ばせてもらいました……!」


残るは──


 「グラ、ッシャァァァァ……!!!!」


バサギリのみ……!


 「グラッシャァァァァァッ!!!!!」


バサギリは、近くにいたゾロアークに向かって飛び出してくる、が、


 「ゾロアーーーーーク…」


ゾロアークが、バサギリの額に、コツンと拳を当てた瞬間──


 「グラッシャァッ!!!!!?」


バサギリの体がとてつもない勢いで、吹き飛んでいった。


英玲奈「な……なん……だと……」

かすみ「……“イカサマ”成功ですね」
 「ゾロアーーーークッ!!!!」


“イカサマ”は相手の攻撃力の分だけ、技の威力が上がる技。

バサギリのような、とんでもないパワーを持ったポケモンには効果てき面だったみたいですね。

何本か竹をへし折りながら吹っ飛んだ先で──バサギリは白目を向いて、気絶していた。

気付けば──英玲奈先輩のポケモンは全滅していました。
225 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:17:35.27 ID:tTvUwYyF0

英玲奈「……あ、あの状況から……負けた……だと……?」


英玲奈先輩はよほど驚いたのか、その場で呆然と立ち尽くしていた。

私はそんな英玲奈先輩のもとに近付いて、


かすみ「英玲奈先輩。……ありがとうございました」


頭を下げた。


かすみ「英玲奈先輩のお陰で……私、ポケモンたちとちゃんと向き合うことが出来ました。この子たちの魅力に、ちゃんと気付いてあげられました」

英玲奈「…………」

かすみ「私は──かすみんは、この子たちともっともっと強くなります。この子たちと一緒に最強の可愛い強いトレーナーを目指します! えへ♪」


ほっぺに指を当てながら可愛く言うと、


英玲奈「……君の言っていることは、全く理解出来ないのだが……」


英玲奈先輩は髪をくしゃっと押さえて、


英玲奈「……君たちの強さが……私たちの強さを上回ったことは……わかるよ……」


悔しそうにそう言うのでした。


英玲奈「……君みたいなトレーナーは……見たことがない……」

かすみ「えへへ♪ かすみんはオンリーワンでナンバーワンですからね〜♪ 当然ですよ〜♪」

英玲奈「……まさか、本気を出して負けるなんて……夢にも思わなかったよ……。……今でも信じられない。……だが、事実は認めねば、私も先に進めない……」


英玲奈先輩はそう言いながら、懐に手を入れ、


英玲奈「……“スティングバッジ”だ。持って行ってくれ」

かすみ「……はい!」


私に“スティングバッジ”を手渡してくれました。

最後のバッジを手にして──やっと、実感が湧いてきて、


かすみ「これで……これで、全ジム制覇ですーーー!!!」


思わず、大きな声で喜びを叫んでしまう。

そこに、


 「ゾロアーク」「クマーーー」「リムオン」


ゾロアークとマッスグマとブリムオンが近寄ってくる。

遅れて、


 「ダストダァァス」「……ニゴーン…」


戦闘不能になったサニゴーンを抱え上げながら、ダストダスもやってきた。


かすみ「えへへ……ゾロアーク、マッスグマ、サニゴーン、ダストダス、ブリムオン──みんなありがと♪ 大好きだよ♪」
 「ゾロアーク♪」「クマーー♪」「ニゴーン…♪」「ダストダス♪」「リムオン♪」


そして、
226 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:18:08.03 ID:tTvUwYyF0

かすみ「……ありがとう、ジュカイン……今日も最高にかっこよかったよ……大好きだよ……」


ジュカインの入ったボールを胸にぎゅっと抱きしめて、かすみんは心の底からのお礼を伝えたのでした。


かすみ「……さぁ、侑先輩……! かすみんはやり遂げましたよ……! 侑先輩ももちろん、勝ちますよね……!」


私は最後のバッジ──“スティングバッジ”を手に入れ、同じように侑先輩が勝つことを祈って、そう一人言葉にするのでした。



227 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:18:53.03 ID:tTvUwYyF0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クロユリシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    ●     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.73 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.66 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.63 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:214匹 捕まえた数:14匹


 かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



228 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 02:20:41.23 ID:gk2TE+8k0

 ■Intermission🍊



 「──マッシブーーーンッ!!!!」

千歌「ムクホーク!! “ブレイブバード”!!」
 「ピィィィィィ!!!!!!」

 「ッシブッ!!!?」


ムクホークが、マッシブーンを低空飛行の突撃で吹っ飛ばしながら、空へと上昇する。


 「ッシブ…!!!!」


もちろん、これくらいじゃ諦めてくれないことくらい理解してる。


千歌「“ふきとばし”!!」

 「ピィィィィ!!!!!」

 「──ッシブーーンッ!!!!?」


上空から強風を叩きつけて、マッシブーンを吹っ飛ばす──それと同時に、


千歌「ムクホーク!! おいで!!」
 「ピィィィィ!!!!!」


ムクホークを呼び寄せ──脚に掴まって、私は戦線を離脱した。





    🍊    🍊    🍊





千歌「……さすがに撒いたかな」


私は岩壁に小さな洞穴を見つけて、そこで一息吐く。


千歌「……とりあえず、ご飯にしよっか」
 「ピィィ」

千歌「みんなも出ておいで」
 「ゼル」「ワフ」「…バク」「…ワォン」


もともと出していたムクホークに加え、フローゼル、しいたけ。……そして、せつ菜ちゃんとの戦いで大ダメージを負った、バクフーンとルガルガン。

小さい洞穴だから、5匹もポケモンを出すとちょっと手狭だ。

そんな中で、私はバッグから“きのみ”を取り出す。


千歌「“シュカのみ”と“キーのみ”と“タンガのみ”しかないけど……みんなで仲良く分けて食べるんだよ」
 「ワフ」


しいたけは一鳴きすると、“キーのみ”と“タンガのみ”を咥えて、バクフーンとルガルガンの前に持って行く。


 「ワフ」
 「…バクフ」「…ワォン」


弱っているバクフーンとルガルガンには、“きのみ”を1つずつ渡して、


 「ワフ」
 「ゼル」
229 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 02:22:21.56 ID:gk2TE+8k0

フローゼルが、“シュカのみ”を“かまいたち”で4つに切り分け、それをしいたけとフローゼルとムクホークが分けて食べる。

……小さな“きのみ”だから、割ったら一欠片くらいになっちゃうけど……。


 「ワフ」


その中の一欠片を、しいたけが咥えて、私の前に持ってくる。


千歌「私はいいよ。そんなにお腹空いてないから」


──ぐぅ〜〜……。


千歌「……」
 「ワフ」

千歌「……食べるね、ありがと」


どんなに強がっても、お腹の虫は誤魔化せないらしい……。


千歌「……食糧……どうにかしないと……水も……」


──私がここの世界に降りてきて、何日経ったっけか……。たぶん1週間以上は経っているはず。

ウルトラスペースに飛び出し、見つけたホールにフローゼルの噴射を使って飛び込んだはいいけど……そこは酷く荒廃した世界だった。

到着と同時にムクホークで何十キロかは飛んでみたけど……岩と崖と干上がった大地くらいしか見つけられなかった。

携帯食料はもうとっくに食べきってしまったし、水はフローゼルに貰っている分があるから今は大丈夫だけど……いくらみずポケモンでも補給なしでは限度がある。

むしろ今は水の節約のためにフローゼルはほとんど戦闘から外している。

なので今は攻撃をムクホーク、防御をしいたけが担う実質2匹態勢……。戦力面でもカツカツだ。

幸い、たまーに野生のポケモンがいるため、そういうポケモンを倒したときに落とす“きのみ”が今の食糧になっている。

ありがたいことに、潤沢とは言えないものの、“きのみ”からは最低限だけど水分も補給できるしね。

……本音を言うなら、もっと積極的に探索をしたいんだけど……この世界には困ったことにウルトラビーストもいる。


千歌「せめて、手持ちがみんな揃ってれば……」


ルカリオはコメコのロッジに置いてきちゃったし……。バクフーンとルガルガンは私に何かがあったときはボールに戻る訓練をしていたため、こうして手持ちにいるけど……ネッコアラにはそこまで訓練が出来ていなかった。

遺跡に置いてきてしまったネッコアラ……さすがに誰かが回収してくれているとは思うけど……。

そんなわけで、今私の手持ちは5匹しかいない。

……尤も、相談役から特別に支給してもらった、この特注ボールベルトがなかったら、今頃手持ちが1匹も居ない状態で途方に暮れていたんだろうけど……。

──ぐぅ〜……。

考え事をしていたら、またお腹が鳴る。


千歌「……とりあえず、今日はもう寝よっか……」
 「ワフ」


そう言うと、しいたけが私のもとに寄ってくる。もふもふの毛皮のお陰で、冷える荒野の夜でも、凍えずに済むのはありがたい。

明日も……水と食糧を探して、荒野を彷徨うことになる、体力は温存しておかないと……。


千歌「せめて町とかがあればなぁ……」


そんな淡い期待を抱きつつも……正直、この世界には文明があるかも怪しい……。

幸いなことに、“きのみ”を優先して食べさせていたバクフーンとルガルガンは徐々に回復してきているし……2匹が復活すれば、戦闘は多少楽になると思う。


千歌「でも……出来れば、ウルトラビーストとの遭遇は避けたいなぁ……」
230 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 02:22:49.44 ID:gk2TE+8k0

この数日で出会った野生のウルトラビーストは、先ほど戦ったマッシブーンと、数日前に遭遇したズガドーン。ちらっと見かけたツンデツンデくらいだ。

多くはないけど……私たちの世界からしたら十分多い。今後も遭遇する可能性は十分ある。

──本来ウルトラビーストは1つの世界で何種類も見ることはあまりないらしい。

私たちの世界では“ウルトラビースト”と一括りにされてしまうためにわかりづらいけど……マッシブーンなら“ウルトラジャングル”。フェローチェなら“ウルトラデザート”と、ある程度生息している世界は決まっているようだ。

だからきっと……あのウルトラビーストたちもウルトラホールを通って、他の世界からここに迷い込んできたんだと思う。

逆に言うなら、今居るこの場所は、いろんな世界と繋がりやすい場所とも考えられる……はず。それなら、私が元居た世界に繋がる可能性だってなくはない。

それに、ウルトラスペースシップに連れ込まれてから、割と短時間で脱出したつもりだから……たぶん私たちの世界ともそんなに遠くない。……はず。

……今出来ることは、とにかく耐え凌ぎながら、どうにかして元の世界に帰ることだ……。


千歌「……とにかく寝よう」


私は目を瞑る。暗くなって安全に動けない時間は、体力温存のために少しでも眠らないと……。

今は、生き抜くために……。


………………
…………
……
🍊

231 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:41:51.63 ID:gk2TE+8k0

■Chapter056 『決戦! ヒナギクジム!』 【SIDE Yu】





──かすみちゃんをクロユリシティに送り届け……私は、ヒナギクシティに向かって飛行している真っ最中。


リナ『侑さん』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ん?」
 「ブィ」


腕に装着したリナちゃんが、話しかけてくる。


リナ『また、ドラメシヤが近くに来てるよ』 || ╹ᇫ╹ ||


言われて、周囲に視線を彷徨わせると、


 「メシヤ〜」


確かに、ドラメシヤが近くを飛んでいた。

私は空のモンスターボールを取り出し──ドラメシヤに向かって投げる。


 「メシヤ──」


ドラメシヤはほぼ無抵抗でボールに吸い込まれて、難なく捕獲される。

私は、ウォーグルに指示を出して、ボールをキャッチし──再びヒナギクに向かう飛行経路に戻る。


リナ『これで、5匹目だね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん……やっぱりドラパルトに引き寄せられてきてるのかな」
 「イブィ…?」

リナ『そうだと思う。でも、ドラパルトが力を発揮するなら、ドラメシヤの力は必要』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


──実は、ドロンチがドラパルトに進化してからというもの、定期的にドラメシヤが私の近くに寄ってくるようになっていた。


侑「ドラメシヤはドラパルトに発射してもらうのが好きみたいだもんね」

リナ『心待ちにしてるらしいね。不思議な生態』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんはそう言いながら、ドラパルトの図鑑データを表示する。


リナ『ドラパルト ステルスポケモン 高さ:3.0m 重さ:50.0kg
   ツノの 穴に ドラメシヤを 入れて 暮らす。 戦いになると
   マッハの スピードで ドラメシヤを 飛ばす。 ツノに 入った
   ドラメシヤは 飛ばされるのを 心待ちに しているらしい。』


──ドラパルトというポケモンは頭のツノに穴が空いている。

図鑑の説明どおり、その穴にドラメシヤたちを住まわせていて、戦いになるとその穴からマッハのスピードでドラメシヤを飛ばす“ドラゴンアロー”という技が使える。

……理由はよくわからないけど、ドラメシヤたちは飛ばされるのが大好きらしく、こうして寄って来ているということらしい。


リナ『ドラパルト自体、数が少ないから、たくさん引き寄せられてきちゃうのかもね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「まあ、バトルで使うことになるだろうから、助かるけどね」
232 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:42:24.87 ID:gk2TE+8k0

なので、こうして寄ってきたドラメシヤは積極的に捕まえているというわけだ。

……全く抵抗しないし、ドラメシヤ側も捕まえて欲しいんだと思う。

今もすでにボールの中にいるドラパルトの両ツノの穴には、ドラメシヤが住んでいる状態だ。

……ドラメシヤが2匹住んでいたら、ドラパルトのボールの中には3匹のポケモンが同時に入っている気がするけど……。

ツノの穴の中に入ってさえいれば1匹として扱われて、そのまま3匹を1つのボールに入れられるらしい……。


侑「なんか……不思議なポケモンだよね」

リナ『まだまだ生態に謎が多いポケモンはたくさんいる。ドラパルトも戦いが終わったあとに、博士に見せてあげたら喜ぶかもしれないね』 || > ◡ < ||

侑「ふふ、そうかもね」


確かに、文化研究をしているヨハネ博士からしてみたら、自分から人間のもとに集まってくるドラメシヤたちの生態は興味深いだろうし、道具研究をしている鞠莉博士も、1つのボールで3匹入ってしまう不思議なポケモンに興味を示しそうだ。

全部のことが終わったら、見せに行こうかな。


侑「それにしても……こうして、リナちゃんの装着具を作ってもらえて助かったよ。これなら、移動中にもお話し出来るし、図鑑データも見られるから」

リナ『うん! もっと前から作ってもらっておけばよかったね!』 || > ◡ < ||


──私とかすみちゃんが修行から帰ってきたら、リナちゃんの背面に、私の腕にくっつける機能が実装されていた。

リナちゃんの意思で、腕輪のような装着具を展開して、私の腕に固定出来る。

鞠莉博士が図鑑をウルトラビースト対応にアップデートする際に、追加で改造を施してくれたらしい。

しかも、わざわざ私の腕に合わせて作ってくれたみたいで、フィット感が完璧──ちょっと振ったくらいじゃ、まったく動かないほどだ。


リナ『これなら、空の移動でも、激しいバトルでも、安心して侑さんと一緒にいられるね!』 || > ◡ < ||

侑「うん、そうだね♪」


今回のバトル──ヒナギクジム戦も前回に続いてフリーバトルだ。

激しい戦闘が予想されるから、こうしたリナちゃんのアップデートは本当にありがたい。


リナ『今回は、私も今まで以上に侑さんをサポート出来るように頑張るね!』 || > ◡ < ||

侑「うん! お願いね、リナちゃん!」


そして、そんな話をしていると、


侑「見えてきたね……!」

リナ『ヒナギクシティ♪』 ||,,> ◡ <,,||
 「イブィ♪」


私は、最後のジムがある町──ヒナギクシティへ到着しようとしていた。





    🎹    🎹    🎹





ヒナギクシティのポケモンジムの前に降りると──


理亞「……やっと来た」


理亞さんはすでにジムの前で待っていた。
233 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:43:19.32 ID:gk2TE+8k0

侑「す、すみません……遅くなって」

理亞「別に、遅いとは言ってない」


そうぶっきらぼうに言うと、理亞さんはジムに背を向けたまま歩き出す。


理亞「ジム戦は別の場所でやるから」

侑「は、はい」


理亞さんはヒナギクの町をすたすたと北上していく。


侑「この先って……」

リナ『グレイブマウンテンだね』 || ╹ᇫ╹ ||


以前、雪崩に巻き込まれたしずくちゃんを助けに行った場所だ。

私たちの会話が聞こえていたのか、


理亞「ジム戦はグレイブマウンテンでやるから」


理亞さんはそう簡潔に回答する。


侑「ぐ、グレイブマウンテンで、ですか……?」

理亞「そう。ジム戦はこっちが場所を指定していいって言われてるし、私はあそこで戦うのが一番力を出せるから」


あんな険しい山が一番だなんて……とも、思うけど……。


侑「……理亞さんって、確か普段は考古学者としての仕事をされてるんですよね……?」

理亞「……よく知ってるのね。誰かに聞いたの?」

侑「は、はい。果南さんに……」

理亞「……なるほどね」


私はローズで果南さんから聞いた話を思い出す……。


──────
────
──


果南「──理亞ちゃんがどんな人か知りたい?」

侑「は、はい……私、ジムリーダーのことは大体知ってるんですけど……理亞さんのことだけはよく知らなくって……」

果南「あーまあ、理亞ちゃんって最近までジムリーダーやってることも非公表だったからね。公式戦もジム戦以外ですることもないし……」


……そう、私は他のジムリーダーに関しては──クローズドジムリーダーの花丸さんを除けば──大体のことを知っているつもりだけど、理亞さんについてはほとんど何も知らない……。

何故なら、彼女は他のジムリーダーと違って、公式大会にも出場しないし、公の場に滅多に姿を現さないからだ。

でも、戦いを前に一切の前情報がないのも不安だし……。果南さんなら何か知っているかもしれないと思って、訊ねてみたというわけだ。


果南「んー……そうだなぁ……理亞ちゃんは……考古学者さんだよ」

侑「考古学者……?」

果南「そ。グレイブマウンテンとか、その周辺について調べてるみたいだよ。詳しいことは私もよく知らないけど……。……って、そもそも聞きたいのはこういうことじゃないか」

侑「は、はい……まあ……」


理亞さんが考古学者というのも気になるんだけど……今知りたいのはそういうことよりも……。
234 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:44:01.05 ID:gk2TE+8k0

果南「こおりタイプのエキスパートだけど……本気の手持ちはこおりタイプだけじゃないよ」

侑「! そうです! そういうの聞きたいです!」


エキスパートタイプを持つジムリーダーだけど……実は人によっては本気の手持ちはエキスパートタイプ以外を使っている人も少なくない。

今のジムリーダーで言うなら、ルビィさん、凛さん、花陽さん、曜さんは公式大会ではエキスパートタイプ以外のポケモンを使っている。

逆に真姫さん、英玲奈さん、にこさんなんかは公式戦でもエキスパートタイプを使うことを好む人たちだ。

本来、タイプが事前にわかるジム戦はある程度の対策を立てられるけど……今回は本気の手持ちを使ったバトルである以上、どんなポケモンを使ってくるかわからないどころか、どんなタイプを使うかすらわからない状態。

だからこそ、事前に使用ポケモンがわかるだけでも、話は全然変わってくる。


果南「んー……って言っても、私も理亞ちゃんのポケモンには全部は知らないんだよね。確かマニューラとチリーン……あとはクロバット、リングマは持ってたかな」

侑「そこまでわかれば十分です……!」

果南「そう? ならよかった。……まあ、後のことは本人に会って確かめるしかないね──」


──
────
──────


そんなやり取りがあったため……理亞さんが考古学者ということを知っていたというわけだ。


理亞「まあ……考古学って言うけど……基本はグレイブマウンテン以北を調べてるだけ」

リナ『確かにグレイブマウンテンはポケモンの化石が出てくるから、歴史的価値の高い場所だって言われてる』 || ╹ ◡ ╹ ||

理亞「私は古生物学者ではないから……あんまり化石を調べたりはしないけどね」

侑「じゃあ、グレイブマウンテンで一体何を……?」


私がそう訊ねると、


理亞「……グレイブマウンテン以北には、かつて国があったって言われてるの」


理亞さんはそう話し始める。


理亞「ただ、その国は……あるときを境にパタリと歴史から姿を消して……今は、滅んだ国と関係があるのかもわからない、小さな集落が点在するだけになった」

侑「そ、そうなんですか……?」


そんな話全く知らなかった……。歴史の授業でもそんなことは習わなかったと思う……。


理亞「知らなくても無理はない。……つい最近までは、そこに滅んだ国があったことさえ知られてなかったらしいから」

侑「あったことを知られてなかった……?」

リナ『遥か昔、オトノキ地方はある王家の一族が治めていて、その王家は北方の国と戦った……って歴史があるんだけど、長年その敵国が正確にどこにあったのかはわからなかったんだって』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「あ……オトノキ地方に王家があったって言うのは聞いたことあるかも……」


歩夢がその時代の話を題材にした、小説を読んでいた気がする。

……内容は戦争史というより、貴族の色恋のお話だったけど……。


理亞「……この地方ではヒナギク開拓後、グレイブマウンテンまで調査の手を伸ばした際に──山の北側から麓に掛けて、雪の下から大規模な集落の痕跡やお墓が見つかった。そのときにその敵国が山を越えたすぐ先にあったことがわかったらしい」

侑「それじゃ……理亞さんはそれを詳しく調べるために、考古学者に……?」

理亞「調べるというか……故郷のことだから。知っておきたいって思っただけ」

侑「……え? 故郷……?」


故郷という言葉に私は目を丸くする。
235 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:44:36.82 ID:gk2TE+8k0

理亞「私はグレイブマウンテン北部の小さな集落の出身なの」

侑「じゃあ……」

理亞「滅んだ国の生き残り……かもしれないとは思ってる。集落にいた私自身も、自分のルーツをあまり知らないまま生きてきたから……それが知りたくて調べてる」

リナ『じゃあ、理亞さんは……正確にはオトノキ地方出身の人じゃないんだね』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「そうなる。……だから、私も最初はジムリーダーになるつもりはなかった。……ただ、ちゃんと調べるには立場があった方が何かと都合がいいからって……ルビィと希さんに薦められて……」

侑「…………」


私は理亞さんの話を聞いて──理亞さんがあまり公の場に姿を現さない理由が少しだけわかった気がした。

謎多きヒナギクジムのジムリーダーの理亞さんだけど……3年ほど前に希さんの四天王昇格で新ジムリーダーが着任したヒナギクジムは、つい最近になるまでジムリーダーが誰かを公表していなかった。

一応ジムリーダーがいることはわかっていたけど……新ジムリーダーはジムチャレンジャーとのバトルのみを行い、他の権限は四天王になった希さんが持ち続けるというかなり異例なジムリーダーだった。

今でこそ、正ジムリーダーとして全ての権限を持っているけど……もしかしたら、理亞さんの心の中には、後ろめたさのようなものがあったのかもしれない。

自分はオトノキ地方の人間ではないのに、オトノキ地方のジムリーダーになっていいのかという……そういう迷いが……。


理亞「……でも、今はちょっと違う」


ただ、私のそんな考えに答えるかのように、


理亞「今は……一人のジムリーダーとして、オトノキ地方のために何が出来るか……考えてるつもり」


そう答えながら、足を止める。

気付けば私たちは──グレイブマウンテンの麓にたどり着いていた。


理亞「……正直……普通のトレーナー相手に……本気を出していいのか、悩んでたけど……。……少し事情が変わった」

侑「……?」

理亞「……あなたが、ねえさまを助けるための作戦に……支障がない実力を持っているのか……確かめる」


理亞さんはそう言ってボールを構える。


理亞「フィールドは、グレイブマウンテン全域……! ただし、グレイブガーデン側に逃げるのは絶対禁止……」

侑「は、はい……!」

理亞「それ以外のルールはない……準備はいい?」

侑「……はい!」
 「ブイ!!!」

理亞「……ヒナギクジム・ジムリーダー『無垢なる氷結晶』 理亞。全力で行くから……!」


放たれるボールと共に、私の最後のジム戦が──始まった……!!





    🎹    🎹    🎹





理亞「マニューラ……!」
 「──マニュッ!!!」


理亞さんの1番手はマニューラ。

対する私の1番手は、


侑「行くよ、イーブイ!」
 「ブイ!!」
236 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:45:14.87 ID:gk2TE+8k0

イーブイだ。


リナ『マニューラ かぎづめポケモン 高さ:1.1m 重さ:34.0kg
   寒い 地域で 暮らす ポケモン。 4、5匹の グループは
   見事な 連係で 獲物を 追いつめる。 樹木や 氷の
   表面に 鋭い ツメで 模様を 刻み 仲間に 合図を 送る。』


フィールドにお互いのポケモンが相対した瞬間、


 「マニュッ──」


マニューラの姿が掻き消え──次の瞬間には、


理亞「“つじぎり”!!」
 「マニュ!!!!」


イーブイの真横から、マニューラが爪を構えて斬りかかってきていた。

が、


理亞「……! マニューラ!!」

 「マニュッ…!!」


マニューラの爪はイーブイには当てず、ギリギリの場所で空を裂き──そのまま、マニューラは軽い身のこなしでイーブイから距離を取る。

……何故、マニューラがイーブイに攻撃しなかったのか、それは──イーブイが燃えていたからだ。


侑「おしい……!」
 「ブイ…!!!」


“めらめらバーン”の炎を体に纏いながら、マニューラの攻撃を誘って“やけど”にする作戦だったけど、相手は最後ジムリーダー。さすがに一筋縄ではいかないみたいだ。


理亞「なら、直接触らなければいいだけ……! “つららおとし”!!」

 「マニュッ!!!」


マニューラが冷気で作り出した、つららをイーブイの頭上に落としてくる。

私はすかさず、次のポケモンを出す。


侑「ニャスパー! “テレキネシス”!」
 「──ウニャーー」


ニャスパーがボールから飛び出すと同時に──落ちてくるつららを空中で静止させる。


侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブイ!!!」


相手の攻撃を止めたら、すかさず攻撃……!

“びりびりエレキ”が迸る──が、


理亞「オニゴーリ!!」
 「──ゴォーーリッ!!!!」


理亞さんはマニューラに向かって駆けながら、オニゴーリを繰り出し、


 「ゴォーーリッ!!!!」


オニゴーリが、氷の盾を作り出し、電撃を弾く──と同時に、
237 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:48:05.84 ID:gk2TE+8k0

理亞「“ふぶき”!!」
 「ゴォーーーーリッ!!!!!」

侑「うわっ……!?」
 「イブィッ!!!?」「ウ、ウニャァー」


猛烈な“ふぶき”を放ってくる。

強烈な冷風なのはもちろん、ものすごい勢いの風に、体重の軽いイーブイとニャスパーは吹き飛ばされ──


リナ『侑さん! 今ニャスパーが飛ばされたら……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……っ!」


ニャスパーの集中が切れて、私に向かって“ふぶき”に煽られたつららが突っ込んで来る。


侑「“フィオネ”!! “みずでっぽう”!!」
 「──フィオーー!!!」


すかさず繰り出したフィオネが、飛び出すと同時に薙ぐように“みずでっぽう”を噴き出し、噴き出した水は“ふぶき”の中で即座に凍り付いて──即席で作った氷の盾につららが突き刺さる。

お互い盾を使って、防ぎ合う遠距離戦……!

ただ、ここは雪山……相手の方が場の支配力に優れる以上、出来れば距離を詰めたい。

そうでなくても、まずは“ふぶき”の圏内から外れないと……!


侑「行くよ、フィオネ……!」
 「フィオーー」


フィオネを抱きかかえて、私は氷の盾から飛び出す。

それと同時に、フィオネが前方に水を撒き散らし、氷で風よけを延長しながら──近くの岩陰に滑り込む。

吹き飛ばされたイーブイとニャスパーを救出しなくちゃいけないけど……まずは、“ふぶき”を止めないと……!

策を巡らせていると──急に、辺りが静かになった。


侑「……?」


先ほどまで聞こえていた、“ふぶき”の音が急に消えたのだ。


侑「……」


私は恐る恐る、岩の陰から理亞さんの居た方を伺うと──すでにそこに理亞さんの姿はなかった。

警戒しながら、岩の陰を出て周囲を確認してみるけど……理亞さんの姿はどこにも見当たらない。


侑「……逃げた……?」


あの状況で……? わざわざ……?


リナ『侑さん!! 上!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「えっ!?」


リナちゃんの声で顔を上に向けると同時に──紫色の影が大きな口を開けて降ってきた。

ヤバイ……!? 避けきれない……!?


 「フィオッ!!!」


フィオネが咄嗟に飛び出して──“ねんりき”によって、相手の動きを止める。
238 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:48:38.60 ID:gk2TE+8k0

 「──クロ、バ……」

侑「クロバット……!?」


目の前で大口を開けて静止しているのは、クロバットだった。

フィオネの判断のお陰でどうにか奇襲を防いだけど、フィオネの“ねんりき”じゃパワーが足りず──


 「──クロバッ!!!」
 「フィオ!!?」


力任せに閉じられたキバに噛みつかれる。


侑「フィオネ!?」


私が、腰のボールに手を掛けた瞬間──

腰の辺りでバキリと、嫌な音がした。


侑「!?」


ギョッとして、腰を見ると──


 「マニュ…!!!」


マニューラが私の腰に爪を立てているところだった。


リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……っ!」


私は咄嗟にマニューラから距離を取る。それと同時に──


 「ブーーイッ!!!」
 「マニュッ!!!?」


戻ってきたイーブイが“とっしん”でマニューラを突き飛ばし、


 「ニャーー!!!」
 「クロバッ!!!?」


ニャスパーがサイコパワー全開で、クロバットを上空に向かって吹っ飛ばす。

その拍子に、


 「フ、フィオ〜」


噛み付かれていたフィオネがクロバットのキバから解放されて、落ちてくる。


侑「フィオネ……!」


フィオネをキャッチしながら、私は走り出す。

そこに、


 「ブイ!!」


並走するイーブイと、


 「ウニャァ〜」
239 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:50:38.41 ID:gk2TE+8k0

ふわふわ浮きながら、私の横に並んで飛ぶニャスパーの姿。


侑「イーブイ! ニャスパー! よかった、無事だったんだね!」
 「ブイ!!」「ニャー」


走りながら、私の背後からは──


 「マニュッ!!!」「クロバッ!!!!」


マニューラとクロバットが猛スピードで追いかけてくる。


侑「ダメだ……! 走ってたら、追い付かれる……!」


私は咄嗟にウォーグルのボールを手に取り──またギョッとした。


リナ『侑さん、どうしたの!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「ウォーグルのボール開かない!?」

リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||


ウォーグルの入ったボールは──開閉スイッチが破壊されて開けなくなっていた。

さっきした、嫌な音の正体はこれだったんだ……!? す、すぐにボールを完全に壊してウォーグルを……!?

私は混乱しながらも、必死に頭を回転させて打開策を考えるけど──その一瞬のタイムロスすら、相手は許してくれなかった。


 「マニュッ!!!」「クロバッ!!!」


マニューラが爪を、クロバットがキバを構えて、飛び掛かってくる。


侑「……っ!!」


もうダメだと思った瞬間──


 「──ドラパッ!!!!」
侑「うわぁっ!?」
 「ブイ!?」「ウニャ!?」


腰のボールから、ドラパルトが自分の意思で飛び出し、私たちを頭に乗せて──猛スピードで発進した。


 「マ、マニュ…!!」

 「クロバッ!!!」

理亞「クロバット、深追いしなくていい」
 「ク、クロバ…」

理亞「逃げられたけど……こっちが有利だから」





    🎹    🎹    🎹





侑「ドラパルト……ありがとう……助かったよ……」
 「ドラパー♪」


ドラパルトに乗って飛行しながら、お礼を言う。

ドラパルトのお陰でどうにか窮地を脱することが出来た。……出来たんだけど……。
240 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:51:18.50 ID:gk2TE+8k0

侑「……かなり、まずいかも」

リナ『ウォーグルのボール……早く完全に割って中から出しちゃった方がいい。ボールだけ壊せば、ウォーグルは傷つかないはずだから……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「いや、そっちはいいんだけど……」

リナ『……?』 || ? ᇫ ? ||

侑「……そもそも手持ちのボールが、いくつかなくなってる……」

リナ『え!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「あのマニューラの特性……“わるいてぐせ”だったりしない……?」

リナ『……する』 || > _ <𝅝||

侑「だよね……」


完全にやられた……。まさか、手持ちを直接奪いに来るなんて……。


リナ『ごめんなさい、侑さん……私がもっと早く伝えてれば……』 || > _ <𝅝||

侑「うぅん……私も警戒不足だった……」


完全に予想外の戦術だけど……考えてみれば実戦で相手のトレーナーを無力化するなら、物理的にポケモンを使えなくするのはかなり有効……。

今回のバトルは実戦を模して行われるフリールール……こういう策も考慮しておくべきだった。


リナ『盗られたボールは……?』 || 𝅝• _ • ||

侑「うーんと……とりあえず、5個なくなってる……」

リナ『5個も!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「あ、でも、ほとんどはドラメシヤが入ったボールだよ」


本来想定していた意図とは全く違うけど……ある意味、ここに来る途中でドラメシヤを捕まえておいてよかった……。

──改めて、マニューラに盗まれたボールを確認する。


侑「ドラメシヤのボールが3つ……。あと、フィオネのボールもないね」

リナ『空のボールってこと?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん……。フィオネはすでに外に出てるけど……ボールに戻せなくなった」
 「フィオ…」


ボールを取り戻さない限り、フィオネを戻すことが出来ない……。

そして、問題は最後の1つ。


侑「……ライボルトのボールがない」

リナ『……ヤバイ』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「……ヤバイね」


よりにもよって、唯一メガシンカ出来るライボルトを持っていかれたのは痛手だ……。


侑「ドラメシヤに関しては、“ドラゴンアロー”の使用タイミングを気を付ければいいけど……」

リナ『撃ち出されたドラメシヤは、そのうち戻ってくるしね……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ただ……ライボルトだけはどうにかして取り戻さないと……」


さすがに本気の手持ちのジムリーダー相手に、メガシンカ無しで挑むのは無謀すぎる……。

理亞さんもメガシンカは使ってくるだろうから、尚更……。

策を考えていると──ウォーグルのボールがカタカタと震える。
241 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:52:40.99 ID:gk2TE+8k0

侑「あ、ごめんごめん……ウォーグルをボールから出してあげないとだね。ニャスパー」
 「ウニャ」


ニャスパーがサイコパワーでボールを捩って、割り砕く。


 「──ウォー」


ウォーグルがボールから飛び出して、ドラパルトの横を並んで飛行しだす。


リナ『ニャスパー、ちょっと器用になった?』 || ╹ᇫ╹ ||
 「ニャー」

侑「カーテンクリフでの修行で、サイコパワーの使い方が上達したんだ。……まだ、完璧じゃないけどね」
 「ニャー」


今までは一方向へ強い力を発するか、浮かせるくらいしか出来なかったから、捩るとか、止めるとかが出来るようになったのは大きな進歩だと思う。

戦略の幅も広がるしね。


侑「とりあえず……今後どうするかを考えないとね……。どうにかしてボールを取り戻さないと……」

リナ『考えられるパターンは3つだね。理亞さんが持ってるパターンか、マニューラが持ってるパターンか……あとは、どこか別の場所にボールを隠してるパターン』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「開閉スイッチは確実に壊してるだろうから……ライボルトが自分から出てくることはまず期待できない……。見付けたら、ボール自体を壊して出してあげないといけないね」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「あと……隠してるパターンはほぼないと思う」

リナ『理由は?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「こっちにはリナちゃんがいるから」

リナ『なるほど。納得した』 || ╹ ◡ ╹ ||


隠したところで、リナちゃんはポケモン図鑑だから、サーチをすればすぐに見つけられてしまう。

だから、この線はほぼないと考えていいかな……。


侑「……そうだ、確認しておきたいんだけど……」

リナ『何?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「モンスターボールってモンスターボールの中に入れられたりするの?」

リナ『完全に未使用のモンスターボールなら、ポケモンに持たせれば入れられなくはないけど……。すでにポケモンと紐づいてるボールとか、ポケモンが入ってるボールは入れられないよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そっか、よかった……」


もし、それが出来たら理亞さんの持っているボールの中に入れられた時点で詰みみたいなものだしね……。


侑「近付けば……誰がボールを持ってるかはわかるよね?」

リナ『もちろん! ポケモン図鑑だから、見える場所にいれば、それはすぐにわかるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「わかった。それじゃ、また理亞さんたちに近付いたら聞くと思うからよろしくね」

リナ『了解!』 || ˋ 𝅎 ˊ ||

侑「ただ……問題はどうやって近付くか……」


理亞さんの手持ちは果南さんの情報が確かなら、マニューラ、チリーン、クロバット、リングマ……そして、すでに出してきたオニゴーリ。

5匹は割れている。かすみちゃんから貰った情報だと、他にモスノウやバイバニラを使ってきたらしいけど……こおりタイプがやや多いというだけでタイプに統一性はないし、この2匹を持っているかは微妙だ。


侑「リナちゃん……さすがに理亞さんの手持ちポケモンが何かまでは……わからないよね……?」

リナ『うん……侑さんの手持ちはボールの固有周波数でわかるけど……初めて会う人のポケモンはわからない。せいぜい、近くにいるときにポケモンが入ってるボールを何個持ってるかがわかるくらいかな』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||

侑「となると、最後の1匹はわからないまま戦うしかないかな……」
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