侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2

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242 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:53:23.41 ID:gk2TE+8k0

最後の1匹が何かわからないという不安要素はあるけど……。


侑「……みんな、ライボルト奪還作戦なんだけど──」
 「ブイ」「パルト」「ウォー!!」「ニャァ」「フィー」


私はみんなに作戦の共有を始めた。





    🎹    🎹    🎹





理亞「…………」

侑「……いた!」


私は、上空から理亞さんを見つけ──


侑「ウォーグル!! 行くよ!!」
 「ウォーーーーーーッ!!!!」


理亞さんに向かって一気に急襲する。


理亞「……!」


理亞さんはウォーグルの鳴き声に気付き顔を上げ──バッと手を上げた瞬間、


 「クロバッ!!!!」


クロバットが猛スピードで岩陰から飛び出してきた──


侑「クロバット、出てくるよ……ねっ……!!」
 「フィオーー!!!」


私はフィオネを──クロバットに向かって放り投げる。


理亞「……!?」

 「クロバッ!!?」


驚く理亞さんたちを後目に、フィオネがクロバットに取り付きながら──手に持っていた、ボールを前に突き出す。


 「ニャーーッ」


ボールから飛び出したニャスパーに向かって、


侑「翼を止めて!!」

 「ニャーーッ」
 「クロバッ…!!?」


サイコパワーで翼の動きを止めるように指示を出す。


理亞「クロバット……!? く……チリーン!!」
 「──チリーンッ!!!」


理亞さんがクロバット救出のために、チリーンを繰り出す。
243 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:54:49.93 ID:gk2TE+8k0

侑「ニャスパー!!」

 「ニャーーーッ」


私の声と共に──ニャスパーがクロバットを踏み切って、チリーンに向かって飛び出した。


理亞「チリーン!! “サイコショック”!!」

侑「ニャスパー!! “サイコショック”!!」

 「チリーーーンッ!!!」
 「ウニャァーー」


2匹のサイコパワーが空中で出現し、ぶつかり合う。


理亞「クロバット!! ニャスパーの注意は逸らした!! 今のうち……に……!?」


理亞さんが驚いた顔をする。何故なら──クロバットの翼が凍り付いていたからだ。


侑「この気温なら、“みずでっぽう”でも十分凍りますよ!!」

 「フィオーー♪」

理亞「……! 狙いは最初からクロバットを凍らせること……!?」


そう。ニャスパーだとクロバットの動きを封じるには常に付きっ切りにならなくちゃいけないけど──フィオネで凍らせれば、ニャスパーはフリーになる。

理亞さんの手持ちで、すでに割れているポケモンのうち、空を飛べるのはクロバットとチリーン。なら、クロバットの動きを一時的に封じればチリーンが出てくると読んでいた。

理亞さんのポケモンのレベルが高くても、フルパワーのニャスパーなら、対抗出来るはずと踏んでチリーンにぶつけ──


理亞「クロバット……!! 一旦ボールに──」


理亞さんはボールを構えて、クロバットの落下地点に向かって走り出す。


侑「させません!! フィオネ! “ブレイブチャージ”!!」

 「フィ、オーーーーッ!!!!」


フィオネが自分自身を奮い立たせてパワーを高め──


侑「“ハイドロポンプ”!!」

 「フィーーーオーーー!!!!!!」

 「クロバッ……!!!?」


理亞さんのボールが届く距離に入る前に──真下に向かって、“ブレイブチャージ”で強化した“ハイドロポンプ”を叩きこんだ。

万年雪が降り続けるグレイブマウンテンの寒さの中──“ハイドロポンプ”は凍り付きながら、一本の氷の柱を突き立てるように、クロバットを地面に突き落とした。


理亞「クロバット……!!」
 「バ…バットォ…」

理亞「く……戻れ……!」


理亞さんがクロバットをボールに戻す。


リナ『やったよ侑さん! クロバット戦闘不能!』 || > ◡ < ||

侑「このまま、畳みかけるよ!! ニャスパー!!」

 「ウニャァ〜」
 「チ、チリーーンッ…!!」


ニャスパーが耳を全開にして、上から下に向かってサイコパワーを放出すると、チリーンがじりじりと押され始める。
244 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:56:33.82 ID:gk2TE+8k0

理亞「パワーがあるだけじゃ、私のチリーンには勝てない……!! チリーン!! “ハイパーボイス”!!」

 「チーーリィィィーーーーンッ!!!!!!!」
 「ウニャァ〜〜」


圧していたニャスパーだけど、チリーンの“ハイパーボイス”によって、逆に真上に吹っ飛ばされる。

私はその横を、ウォーグルで急降下しながら、理亞さんに向かって突撃する。


理亞「な……!? チリーンを無視……!?」

侑「リナちゃん!! マニューラは今どこ!?」

リナ『そこの岩陰の裏!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


私は降下しながら、リナちゃんにマニューラの位置を確認。


理亞「まさか、ニャスパーは囮……!? オニゴーリ!!」
 「──ニゴーーーリッ!!!!」


理亞さんはすかさずオニゴーリを繰り出す。

でも、これも私の読みどおり……!!


侑「ウォーグル!! “ばかぢから”!!」
 「ウォーーーッ!!!!!!」


猛禽の爪を立てながら、飛び出してきたオニゴーリを地面に押さえつける。

その隙に──私はウォーグルの背を飛び降りて、リナちゃんが教えてくれた岩陰に向かって走り出す。


侑「ウォーグル! オニゴーリは任せるよ!」
 「ウォーーーッ!!!」


オニゴーリをウォーグルに任せるが──相手は冷気を操るポケモンオニゴーリだ。ウォーグルの脚は一瞬で凍り始める。


理亞「“フリーズドライ”!!」
 「ニゴォォーーーリッ!!!!」


追撃の“フリーズドライ”でパキパキとウォーグルの体が凍り始めるが──


 「イッブイッ!!!!」


ウォーグルの背中の上からオニゴーリに向かって、イーブイが飛び出した。


理亞「イーブイ……!?」

侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」

 「ブイィィィィィ!!!!!」

 「ニゴォォォーーリッ!!!!?」


至近距離から突然現れたイーブイに全く反応出来なかったオニゴーリに、“めらめらバーン”が直撃する。

そして、私は──件の岩の裏に到着し、


 「マニュッ…!!!!」


逃げ出すマニューラを発見する。


侑「いた……!!」

理亞「マニューラ!! 戦わないで逃げればいい!!」
245 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:57:04.88 ID:gk2TE+8k0

マニューラは山肌に爪を引っかけながら、ひょいひょいと登って逃げてしまうが──もう場所は把握出来た。

姿さえ確認できれば──


 「──ラパルト…」
 「マニュッ!!?」

侑「“ゴーストダイブ”!!」

 「パルトッ!!!!」
 「マニュッ…!!!!?」

理亞「マニューラ!?」


崖を登るマニューラを、突然背後から現れたドラパルトが太い尻尾で叩き落とす。

その拍子に──マニューラが隠し持っていたボールがバラバラと宙を舞う。


理亞「マニューラ!! 盗られるな!!」

 「マ、ニュッ!!!!」


マニューラは吹っ飛ばされながらも、さすがの身のこなしで岩肌に爪を引っかけながら──ボールに向かって、飛び出す……が、


侑「こっちの準備はもう……終わってる!! “ドラゴンアロー”!!」

 「パルトッ!!!!!」
  「メシヤーーーーーーッ!!!!」「メシヤーーーーーーッ!!!!」


2匹のドラメシヤが音の速さで射出され──宙を舞うボールを2つ、割り砕いた。


 「──メシヤ〜〜」


1つはドラメシヤ、外れだ。だけど、もう1つは──


 「──ライボッ!!!!!」

リナ『5分の2、一発で引き当てた!!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「ライボルト!! マニューラに向かって、“10まんボルト”!!」

 「ライィィボォォォォォ!!!!!!」

 「マニュゥゥゥ!!!!?」


空中でマニューラを電撃で撃ち落とす。ライボルトはそのまま落ちていたボールを拾い、岩肌を駆け下りて、私のもとへと戻ってくる。


侑「おかえり、ライボルト……!」
 「ライボッ!!!」

リナ『ライボルト、奪還成功!』 ||,,> ◡ <,,||


作戦成功……!! ライボルトは取り戻した……!

と、思った瞬間、


 「ブイィィィィ!!!?」


イーブイが“めらめらバーン”で体に炎を滾らせたまま、こっちに吹っ飛ばされてくる。


侑「イーブイ!?」
 「ブ、ブィ!!!」


雪を溶かしながら、転がったものの、イーブイはすぐに炎を消しながら、受け身を取って立ち上がる。
246 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:57:43.64 ID:gk2TE+8k0

理亞「……ライボルトを取り返されたのは予想外だったけど……」
 「ニゴォォォォォォリッ!!!!!!」

侑「……!」


気付けばオニゴーリの大きな顎が外れて──そこから、大量の冷気を吐き出していた。


侑「メガオニゴーリ……!」


理亞さんは、いつの間にかオニゴーリをメガシンカさせていたらしく──


 「…………」

リナ『ウォーグルが氷漬けになってる……』 || × ᇫ × ||


ウォーグルは氷漬けになって、沈黙していた。


理亞「ついでにこいつらも返す」

 「チリーンッ」
 「ウニャ…」


チリーンが“サイコキネシス”で投げてきたニャスパーが雪の上を転がる。


侑「ニャスパー……!」


そして、ニャスパーと同じように──


 「フィオ〜…」


フィオネもこっちに転がってくる。


侑「フィオネ……!?」


フィオネが飛んできた方に目を向けると──


 「カブトプス…」


化石ポケモンのカブトプスが鋭い視線をこちらに向けていた。


侑「カブトプス……!」


理亞さんの最後のポケモンは……カブトプスだったらしい。


理亞「……そっちの戦力は3匹削った、こっちはまだ2匹戦闘不能になっただけ。ライボルトは取り戻せたかもしれないけど、トータルではこっちに分がある」
 「ニゴォーーリッ…!!!!」「チリンッ」「カブトプス…!!!!」

侑「……」


私は、ライボルトの持ってきてくれた、マニューラから取り戻したボールを受け取りながら、戦闘不能になったニャスパーとフィオネをボールに戻す。

ウォーグルは……ここからだと、ちょっと距離があるし……さっき、ボールを割っちゃったから、戻せない……。


侑「……でも、私にも、まだこれがあります──ライボルト、メガシンカ!!」
 「──ライボォッ!!!!!」


ライボルトが光に包まれ──周囲にバチバチとスパークを爆ぜさせながら、メガライボルトに姿を変える。


侑「ライボルト!! まずはカブトプスを狙うよ!!」
 「ライボッ!!!!」
247 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:58:18.76 ID:gk2TE+8k0

ライボルトが稲妻のような速度で飛び出した。

一瞬でカブトプスを射程に捉える速度だったが──


 「ライボッ…!!!!」


ライボルトの進行方向に突如、巨大な氷の壁が出現し、ライボルトは突撃する寸前で、その壁を直角に曲がりながら回避する。

もちろん、こんなことが出来るのは──


 「ニゴォォォォォリ……!!!!」


メガオニゴーリしかいない。


理亞「簡単に通すと思う?」

侑「……く……ライボルト!」
 「──ライボッ!!!!」


私がハンドシグナルで戻ってくるように促すと、一瞬でライボルトが私の傍に帰ってくる。


侑「まずメガオニゴーリをどうにかしなきゃ……!」

リナ『でも、壁があったら向こうもメガオニゴーリ以外攻撃出来ない』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「確かに。……だけど、メガオニゴーリがいれば十分……! “ふぶき”!!」
 「ニゴォォーーーーリッ!!!!!」


メガオニゴーリの口が開かれ──強烈な“ふぶき”が放たれる。

周囲一帯の冷気を操って支配しているメガオニゴーリにとって、氷の壁が自身の攻撃を妨げることはなく、むしろその壁からも冷気が風となって襲い掛かってくる。


侑「く……!? ライボルト!! “かえんほうしゃ”!! イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
 「ライボォォォォ!!!!」「ブィィィィ!!!!!」


ライボルトが炎を噴き出し、イーブイが自身の発する炎の熱波で、“ふぶき”を相殺しようとするが──


理亞「メガシンカのパワーがすごいのは認める。でも、メガライボルトもイーブイもほのおタイプは自分のタイプじゃない。本来のタイプで攻めてるオニゴーリに勝てると思う?」

侑「ぐ……っ……」


確かに理亞さんの言うとおり、2匹のほのお技だけでは“ふぶき”をかき消しきれず、自身が燃えているイーブイ以外にはどんどん雪が積もっていく。

でも、いい……時間が稼げれば……!!

“ふぶき”の中、果敢に炎によって対抗する中──氷の壁の向こうにユラリと、影が、


理亞「オニゴーリ、凍らせろ」
 「ニゴォォ!!!!」

 「──ラパ、ルト…!!!!」

侑「……!! ドラパルト!?」

理亞「“ゴーストダイブ”でチリーンを狙ってたんでしょ。……何度も同じ手は通じない」

侑「……っ……」


頼みの綱だった、“ふいうち”が不発に終わる。

まずい……このままじゃ、“ふぶき”でみんなやられる……!

どうにか策を巡らせるけど──だんだん手足もかじかんで来て、寒さで頭が回らなくなってくる。

どんどん“ふぶき”も強くなり──気付けば視界がホワイトアウトし始め、音も“ふぶき”の音しか聞こえなくなってきた。


侑「どうにか……どうにか……しなきゃ……!」
248 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:58:54.87 ID:gk2TE+8k0

吹き飛ばされないように、必死に“ふぶき”に抵抗していると、


リナ『侑さん! 作戦、ある!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


耳元で、リナちゃんの声がした。

さっきまで、腕にくっついていたはずのリナちゃんがいつのまにか、自立飛行形態に戻って、私の耳元で喋っていた。


侑「リナちゃん……!? 吹き飛ばされちゃうから、腕に……!」

リナ『それよりも、作戦!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「さ、作戦……!?」

リナ『むしろ、これはチャンス!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「何が!?」

リナ『雪は……ライボルトにとって有利に働く!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「え……?」

リナ『あのね──』 || ╹ᇫ╹ ||


私はリナちゃんの策を聞いて──目を丸くする。


侑「そ、そうなの……?」

リナ『うん! 間違いない!』 || > ◡ < ||


リナちゃんが言ってることが、ホントかはわからないけど……!!


侑「リナちゃんを信じるよ!! ライボルトッ!! “じゅうでん”ッ!!!」


“ふぶき”に声をかき消されて、ライボルトに届かないなんてことがないように、大声で叫ぶ。

すると──


 「──ライボォォ…!!!!!!」


目の前で、雄叫びと共に、バチバチという音と、光が見える。

私の指示は、まだちゃんと聞こえてる……!


侑「ライボルト……!!! やるよ!!!!」
 「ライボォォォォォ!!!!!!!」





    ⛄    ⛄    ⛄





理亞「……そろそろ、限界のはず」
 「ニゴォォォーーーリッ!!!!!」


この雪山で、メガオニゴーリにパワーで競り勝つのは……ほぼ不可能だ。

この圧倒的なパワーによる“ふぶき”で勝敗が決することを確信した、そのとき──

“ふぶき”で真っ白になった景色の向こうから──光る何かが、飛んできた。


 「ゴォォォォォォ…!!!!!!!!!!!!!!?!!?」
理亞「……え?」
249 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:59:24.58 ID:gk2TE+8k0

次の瞬間には──極太のビームが氷の壁もろとも、オニゴーリを吹っ飛ばしていた。

直後──


 「ライボォッ!!!!!」

理亞「!?」


メガライボルトが稲妻のような速さで、砕け散った氷の壁の内側に侵入し、


侑「──イーブイ!! “びりびりエレキ”!! ライボルト!! “10まんボルト”!!」

 「ブーーーィィィィィ!!!!!」「ライボォォォォ!!!!!!」

 「チリィィィィンッ!!!!?」「カブトプッ!!!!?」


チリーンとカブトプスに電撃を食らわせていた。


理亞「……!?」


私は咄嗟に、その場を離れるために、山の斜面を滑り降りて距離を取る。


理亞「な、なに……!?」


気付けば──


 「ゴォ……リ……」
 「チリィィン…」「カブトプ…」


私の手持ちは3匹とも戦闘不能になっていた。





    🎹    🎹    🎹





侑「す、すご……ホントに出来た……」


技の指示を出しておいてなんだけど……私は今しがたメガオニゴーリを氷の壁もろとも吹き飛ばした、“チャージビーム”のあまりの威力に驚いて、尻餅をついていた。

あんな極太のビームになるなんて……。うまいこと、氷漬けのウォーグルに当たらなくてよかった……。


理亞「あ、あんた……今何したの……!?」


理亞さんが斜面の下から、大きな声で訊ねてくる。


侑「え、えっと……“チャージビーム”を……」

理亞「はぁ!? “チャージビーム”であんな威力出るわけ……!!」

リナ『メガライボルトは周囲の電気を集束して撃ち出した。だから、あれだけの威力になったんだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「だから、どこにそれだけの電気が……!!」

リナ『雪だよ』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「……雪……? …………まさか……雪の帯電現象のこと……!?」


どうやら、理亞さんはリナちゃんの言葉でピンと来たらしい。

私は正直今でも、まだピンと来ていないんだけど……リナちゃんがさっき私に耳打ちしたのは──『あのね、雪は大量の静電気を溜め込む性質がある。それを集束すれば、ライボルトは大出力の攻撃が出来るはずだよ』──そんな内容だった。
250 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:59:59.21 ID:gk2TE+8k0

リナ『雪は正電荷を大量に帯電する性質があって、その帯電量は発電が可能なほどって言われてる。ライボルトは周囲の空気中の電気を“じゅうでん”して自分のパワーに出来る。これだけ雪に囲まれてたら、これくらいの出力になって当然』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「……っ」


リナちゃんの説明を聞いて、理亞さんが悔しそうに顔を歪めた。

本当に予想外の攻撃だったんだろう。……私も予想外だったし。

とにもかくにも、


侑「リナちゃん、ありがとう……! これで……理亞さんを追い詰めた……!」


私の手持ちは残りイーブイとライボルトの2匹。対する理亞さんはリングマ1匹だ。


理亞「…………」


理亞さんはボールを構える。


理亞「正直……この子はあまり人前に出すつもりはなかったんだけど」

侑「……?」

理亞「行くよ──ガチグマ!!」
 「──グマァァァ」

侑「え!?」

リナ『ガチグマ!?』 || ? ᆷ ! ||


リングマじゃ──ない……!?

その姿は確かにクマのようなポケモンだけど……大きな体躯に泥のようなものを身に纏っている。

私はポケモンの種類には詳しい方だと思っていたけど……このポケモンは今まで一度も見たことがないポケモンだった。


 「グマァァァァ」


低い鳴き声をあげながら、ガチグマと呼ばれたポケモンがのっしのっしとこちらに向かって登ってくる。


侑「ライボルト!! “10まんボルト”!!」
 「ラァィィィィ!!!!!」


ライボルトが発する“10まんボルト”は緩慢に動くガチグマには、いとも簡単に直撃するが、


 「…グマァァァ」


電撃は、確かにガチグマに当たったはずなのに、全くダメージを受けたような素振りを見せなかった。


侑「き、効いてない……!?」

リナ『ゆ、侑さん! ガチグマはじめんタイプがあるから、でんき技は効果がないよ……!』 || >ᆷ< ||

侑「じ、じめんタイプ……!?」

リナ『ガチグマ でいたんポケモン 高さ:2.4m 重さ:290.0kg
   リングマが 泥炭が 豊富な 環境で 進化した姿。 まとった
   泥炭は 非常に 頑丈。 鼻が とてもよく 匂いを たよりに
   埋まっているものを 探して 掘り当てることが できる。』

侑「リングマにさらに進化があったの……!?」


しかも、このタイミングでじめんタイプのポケモンが相手なんて、タイミングが悪すぎる……!?


理亞「ガチグマ! “10まんばりき”!!」
 「グマァァァァ」
251 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:00:37.27 ID:gk2TE+8k0

ガチグマは低い声で唸りながら、こちらに向かって山の斜面を登り始める。


侑「か、“かえんほうしゃ”!!」
 「ライ、ボォォォォ!!!!!」


迫ってくるガチグマに対して、“かえんほうしゃ”で攻撃するけど、


 「グマァァァ」


ガチグマは炎の中を意にも介せず進んでくる。そして、十分に近づいたタイミングで、


 「グマァァァァ…!!」


雪面を蹴って──走り出した。


侑「……!?」


思ったより、速い……!?


侑「ライボルト……!!」
 「ライボッ!!!」「ブイ!?」


私はイーブイを抱きかかえ、ライボルトの背に乗る。

それと同時に、ライボルトが走り出し──


 「グマァァァ!!!!」


ワンテンポ遅れて、ガチグマが突っ込んでくる。

ライボルトのスピードのお陰で、回避には成功したけど──ガチグマが私たちが今さっきまで居た場所に思いっきり前足を叩きつけると、


侑「うわぁ!?」


轟音を立てながら、衝撃で雪が吹き飛び、さらに硬い山肌にヒビが入り──山が揺れた気がした。


リナ『い、威力がヤバイ……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

理亞「避けないでよ。ガチグマは動きが遅いの」

侑「……っ……」


確かに動きは緩慢で、走り出しこそ遅いけど、体が大きいからか見た目以上にスピードがある。

しかも、あの威力……当たったら、確実に無事じゃ済まない……!


侑「い、一旦距離を取ろう……! ライボルト、上の方に走って!!」
 「ライボッ!!」


ライボルトが私を背中に乗せたまま、山を駆け上がり始める。

そして背後に向かって、


侑「イーブイ! “すくすくボンバー”!」
 「ブイ!!!」


イーブイが尻尾を一振りすると、タネが飛んで──山の斜面に大きな樹が成長を始める。

これで少しくらいは時間稼ぎに……!

だけど、
252 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:01:19.23 ID:gk2TE+8k0

理亞「ガチグマ! “きりさく”!」

 「グマァァァ」


ガチグマが爪を立てながら、樹を殴りつけると、いとも簡単に樹がへし折られる。


リナ『全然止まらない……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「く……」


でも、“すくすくボンバー”は樹による防御技じゃない──タネによる攻撃技だ……!

ガチグマの頭上に、大きなタネが落下し──直撃するが、


 「グマ…」


ガチグマは意にも介さず、再び歩き始める。

その際タネから伸びた“やどりぎのタネ”がガチグマの体に絡みついていくが、それもまるで無視だ。


侑「き、効いてない……!?」


いや、効いてないわけじゃない……。相手の体力が多すぎて、気にしてないんだ……!

ガチグマが山を登る度に、私たちはさらに高く登って距離を取る。


理亞「逃げ続けてても、勝てないけど?」


理亞さんもガチグマの後ろを歩きながら、そう言葉を掛けてくる。

確かに、ずっと逃げ続けてても埒が明かない。ダメージは小さくても、攻撃を仕掛けないと……!


侑「イーブイ! “こちこちフロスト”!」
 「イーブイッ!!!」


黒い冷気が、ガチグマの体に纏わりつくように現れ──黒い氷の結晶がガチグマの体を凍らせるが、


 「グマァ…」


めんどくさそうにガチグマが体を揺するだけで、氷は薄いガラスのように砕け散ってしまう。


侑「い、“いきいきバブル”!」
 「ブーーイッ!!!!」


今度はイーブイの全身からぷくぷくと溢れ出す泡をガチグマに向かって飛ばす。

泡が直撃すると、


 「…グマ」


ガチグマは少しだけ鬱陶しそうにリアクションを取りこそしたものの、


 「グマァ…」


また、すぐに山を登り始める。


侑「た、タフすぎる……!」


全くダメージが通っていないなんてことはないはずなのに、全然手応えが感じられない。

ガチグマから目を離さないように、ライボルトに乗って距離を取りながら、考えていたとき──ズボッという音と共に、視界がガクンと揺れた。
253 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:02:10.16 ID:gk2TE+8k0

侑「!? な、なに……!?」


ハッとして、ライボルトを見ると──


 「ラ、ライボ…!!」


ライボルトの体が、雪にはまっていた。


リナ『侑さん!? ライボルトが新雪に沈んでる!?』 || ? ᆷ ! ||


──どうやら、逃げ回っている最中に、新雪が大量に積もっている場所に足を踏み入れてしまったらしい。

私とイーブイが乗っている分の重さも相まって、ライボルトは新雪に沈んで、身動きが取れなくなる。

もちろん、こっちの身動きが取れないからって、ガチグマが待ってくれるはずもなく、


 「グマァァ」


むしろこっちの動きが鈍ったことに気付き、スピードを上げて近付いてくる。


侑「……く……!」


私はライボルトから飛び降りる。

もちろん、降りた先も新雪だから、私の身体が一瞬で膝くらいまで雪に埋まってしまうが、


侑「ライボルト、“かえんほうしゃ”!! イーブイ、“めらめらバーン”!!」
 「ライボォッ」「ブイィィ!!!!」


炎熱で周囲の新雪を無理やり溶かして、スペースを確保する。

雪が溶け、バシャバシャと水音を立てながら、山肌を再び登りだす。


理亞「いい加減、面倒……ガチグマ、“じならし”!」
 「グマァァ!!!」

侑「うわぁっ!?」
 「ライボッ…!!!」「ブイ…!?」


ガチグマが地面を激しく揺らし、その揺れに足を取られ──直後、ツルっと足が滑った。


侑「っ!?」

リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||

理亞「……ここは氷点下。雪を一気に溶かしたら──すぐに凍結する」


どうにか足を踏ん張るけど、凍結した斜面で立つことは困難で、私はそのまますっ転ぶ。

そしてここは斜面。一度足を滑らせたら──私の身体は、一気に滑落していく。


 「ライボッ…!!!」「ブイ!!!」
侑「ライボルト!! イーブイ!! 来ちゃダメ!!」


滑落する私を助けようと飛び出す2匹を制止するけど、ライボルトもイーブイも止まってくれない。

そして、そこに向かって──


 「グマァァァァァ!!!!!」


ガチグマが雄叫びをあげながら、走り込んでくる。


 「ライボッ!!!」
254 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:02:48.19 ID:gk2TE+8k0

ライボルトが滑る私の襟後に噛み付き、


 「ブイッ!!!」


イーブイが“こちこちフロスト”で私の滑り落ちる先に氷の壁を作ることで、滑落は止まったけど──


 「グマァァァァッ!!!!!」


そのときには、ガチグマはもう目と鼻の先だった。


侑「ライボルト、逃げ──」

理亞「“ぶちかまし”!!」
 「グマァァァァァ!!!!!」


リングマの“ぶちかまし”が“こちこちフロスト”の黒い氷ごと──私たち全員を、大きな体躯で突き飛ばした。


侑「……っ゛……ぁ゛……!!」


強い衝撃に脳を揺さぶられるような感覚──そして、数瞬後には、落下の衝撃で呼吸が一瞬止まる。


侑「ぐ……げほ、げほっ……!」

リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「はぁ……はぁ……リナちゃん……平気……?」


腕に着いたリナちゃんに声を掛ける。


リナ『わ、私は大丈夫……侑さんは……』 || 𝅝• _ • ||


私は──視界が真っ白だった。

意識が飛びかけてるのかと思ったけど──よく見たらそれは雪だった。


侑「今度は……新雪に……たすけ、られたね……」


新雪がクッションになったお陰で、山肌に直接落下するのを避けられたらしい。

近くからは、


 「ライ、ボ…!!!」「ブイィィ…!!!」


ライボルトとイーブイの鳴き声も聞こえる。

どうやら、2匹とも無事のようだ。……だけど、


 「グマァァァァ!!!!!」

リナ『侑さん!? ガチグマ、近付いてくる!! 逃げなきゃ!!』 || ? ᆷ ! ||

侑「逃げたいんだけど……身体が……動かない……」

リナ『えぇ!?』 || ? ᆷ ! ||


落下の衝撃が軽減されたと言っても……“ぶちかまし”で数十メートルは吹き飛ばされた。

骨が折れてるのか、どこかを強く打ったのかとかはよくわからないし、戦闘で高揚しているからか不思議と痛みはあまり感じなかったけど……とにかく、身体が言うことを聞かず、起き上がることが出来なかった。


 「グマァァァァ!!!!!」


ガチグマの足音がどんどん近付いてきて、地面が揺れる。
255 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:03:35.08 ID:gk2TE+8k0

リナ『侑さんっ!! お願い、立って!! 立って逃げなきゃ!!』 || > _ <𝅝||

侑「……っ」

リナ『諦めないで!!』 || > _ <𝅝||

侑「ぐ……ぅ……っ……」


そうだ、ここで諦めたら──なんのために修行したのか、わからないじゃないか。

身体に必死に力を籠める。だけど──ちょっと身体を持ち上げるのが限界で、すぐに崩れ落ちて、ぼふっと身体が雪に沈み込む。


侑「……く、そぉぉぉ……」

リナ『侑さんっ!!』 || > _ <𝅝||


あと、ちょっと……あとちょっとなのに……。


リナ『雪……!! 動くのに雪が邪魔なら、私がどける!!』 || > _ <𝅝||


リナちゃんがそう言いながら、私の腕を離れて、雪に突撃する。


侑「リナ……ちゃん……」


もちろん、リナちゃんに雪を掘る機能なんてない。新雪に板型の窪みが出来るだけ。

この状態で、辺り一面を新雪に囲まれた状態じゃ……。


侑「…………雪……?」

リナ『侑さん!! 這ってでも、逃げて! そしたら、きっとチャンスがあるはずだから!!』 || > _ <𝅝||

侑「……リナちゃん、私の腕に戻って……!」

リナ『侑さん!! 諦めないで!!』 || > _ <𝅝||

侑「違う! 作戦があるんだ!」

リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「私から、絶対離れないで!!」

リナ『わ、わかった!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


リナちゃんが私の腕に装着されたのを確認する。


 「──グマァァァァァァ!!!!!」


鳴き声が近い。もうガチグマはすぐそこに迫ってる。

なら、イチかバチか……!!

──さっき、ガチグマにいろんな攻撃を仕掛けたけど……その中で、少しでもリアクションがあったのは、“いきいきバブル”だけ。


侑「ライボルトッ!!! “じゅうでん”!!!」
 「ライボォッ!!!!!」


ライボルトが周囲の雪から静電気を集束し始める。


理亞「──何をしようとしてるのか知らないけど、ガチグマに電撃は効かない!!」


理亞さんの声が聞こえる。本当に、もうすぐ傍に迫っている。


侑「イーブイ!! ガチグマに向かって、“きらきらストーム”!!」
 「イーーーブィッ!!!!!」
256 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:04:14.93 ID:gk2TE+8k0

パステル色の旋風がガチグマを攻撃する。


 「…グマ」
理亞「悪あがき……! そんな技じゃ、ガチグマには通用しない!!」


イーブイの技じゃ威力が足りないのも、ライボルトの電撃が通用しないのもわかってる。

だから──


侑「ライボルトッ!!!!! 山頂方向に向かって、“かみなり”ッ!!!!!」
 「ライボォォォォォッ!!!!!!!!!」


直後──山頂方向から、凄まじい雷轟が周囲の空気を震わせる。


理亞「……!?」
 「グマァッ!!!?」


溜まりに溜まりきった、電気たちを──“かみなり”によって、ここよりもっと上の方に落とした。

“かみなり”による、衝撃波が山を揺らし……さらに、熱によって──雪が溶ける。

直後──ゴゴゴゴゴゴゴッという地鳴りのような音が山頂側から響いてくる。


理亞「この音……まさか……!? ……雪崩!?」


理亞さんは、この山に慣れているからか、音ですぐに気付いたようだ。

そう、私は──“かみなり”で雪崩を誘発した。数秒後にはここに雪崩が到達する。

でも、これだけじゃ足りない……ガチグマに有効なのは──水だ。

イーブイの技で、威力が足りないなら──大量の水を作ってぶつけるしかない……!!


侑「ライボルトォッ!!! イーブイッ!!! 私のことは構わなくていいっ!! 全力全開でっ、“オーバーヒート”ォッ!! “めらめらバーン”ッ!!」
 「ライボォォォォォ!!!!!!」「ブーーーーィィィィィ!!!!!!」


ライボルトとイーブイが──全力で熱波を発すると、気温が氷点下から一気に上昇し、周囲の雪が一気に溶け始める。


侑「……っ゛!!」


身体が燃えるんじゃないかという熱波の中で……もし、雪崩の雪を── 一気に溶かしたらどうなるか?

雪は溶ければ──水になる……!!


理亞「……なっ!?」


雪崩が溶け、大量の鉄砲水になって、私たちのもとへと猛スピードで押し寄せてくる。


理亞「……!? ガチグマ、逃げ──」
 「グマ…!!?」


一気に押し寄せてきた鉄砲水に、私もライボルトもイーブイも、理亞さんもガチグマも、全員が押し流される。


侑「……っ!!」


鉄砲水に流される中、


 「──ライボッ」


ライボルトが私の服の袖を掴んで引っ張り上げる。
257 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:05:03.08 ID:gk2TE+8k0

侑「ぷはっ……!!」
 「ライボッ!!!」「ブイ!!!」


流れる水の中で、辛うじて顔を出すと──イーブイもライボルトの背中にしがみついていて、無事なことが確認出来る。


リナ『侑さん!! 攻撃、来る!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「……!!」


声にハッとして、顔を上げると──


 「グマァァァァ!!!!!」


押し流されながらも、理亞さんを背中に乗せたガチグマが、山肌に爪を立てて水流に耐えながら、強引にこっちに突っ込んでくる。


理亞「相討ち狙い上等じゃない……! でも、これで終わり!!」
 「グマァァァァァ!!!!!」


大きな体による“ぶちかまし”が迫る。

でも、次の瞬間──私たちの身体がフワリと浮いた。


理亞「なっ……!?」


理亞さんの驚く顔。それも、当然。だって、私たちを空に引っ張り上げたのは──


 「ウォーーーーーーッ!!!!!!」


さっき、下で氷漬けになってたはずの、ウォーグルだったからだ。

ウォーグルは、ライボルトを大きな爪でしっかり掴んで、空高く飛び上がる。

そして直後、


 「グマァッ!!!!?」
理亞「ぐ……っ……!?」


踏ん張ることが限界に達したガチグマは──理亞さんを乗せたまま鉄砲水に押し流されていったのだった。


侑「はぁ……はぁ……ウォーグル……気付いてくれて、ありがとう……」
 「ウォーッ!!!!」


私は、ほぼ動けないから、ウォーグルが掴んでいるライボルトに服を咥えられたまま、飛行する。

宙ぶらりんでいつ服が千切れるのかわからなくて、めちゃくちゃ怖い……。


侑「一旦、降りて……」
 「ウォーー!!!!」


──ウォーグルに指示を出し、鉄砲水と雪崩の影響がない場所まで移動して、雪面へと着地する。
258 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:05:52.63 ID:gk2TE+8k0

侑「どうにか……うまく、いった……」

リナ『侑さん……すごい無茶する……』 || > _ <𝅝||

侑「でも、どうにか、なったよ……あはは……」
 「ライボッ」「ブイ」

侑「ウォーグルをボールに戻せなかった状況が……却ってよかったよ」
 「ウォーー!!!」

リナ『じゃあ……さっきの“きらきらストーム”は……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん……。あれはガチグマへの牽制じゃなくて──下で氷漬けになってるウォーグルの“こおり”を溶かすため……」
 「ウォーーーッ!!!」

リナ『ホント無茶する……無事でよかった』 || > _ <𝅝||

侑「あはは……ごめんね、心配掛けて……」


リナちゃんにそう伝えながら──私はライボルトにもたれかかるようにして立ち上がる。


リナ『た、立って平気……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「正直……今にも倒れそう……だけど、理亞さん……探しに行かなきゃ……」


試合とはいえ……かなり無茶苦茶なことしちゃったし……。


リナ『あ、そ、そうだった!?』 || ? ᆷ ! ||


リナちゃんがサーチを始める中、


侑「ウォーグル……」
 「ウォーーーッ!!!!」


ライボルトにどうにかウォーグルの背中の上に押し上げてもらって──私たちは理亞さんを探しに、飛び立った。





    🎹    🎹    🎹





──理亞さんは思いのほか、すぐに見つかって、


リナ『侑さん、あそこ!』 || ╹ᇫ╹ ||


崖から飛び出していた、太い木の枝にしがみついていた。


理亞「……助けてもらっていい?」

侑「は、はい!! ウォーグル!」
 「ウォーー!!!」


ウォーグルが足で理亞さんの肩をしっかり掴んで、飛び上がる。

そのまま、地形がなだらかな場所まで移動し──理亞さんを降ろす。
259 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:06:51.68 ID:gk2TE+8k0

理亞「……助かった。ありがと」

侑「い、いえ……あの……ごめんなさい……」

理亞「……別にいい。お互い全部を賭けたバトルだったんだから、これくらいのことは水に流す」

侑「……ぷっ、くくくっ……」

理亞「……何笑ってんの」

リナ『鉄砲水だけに、水に流す』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||

侑「り、リナちゃん、せ、説明しないでっ、あ、あはは、あはははははっ!!」
 「ブイ…」


──ゴチンッ。


侑「いったぁ!?」

理亞「何この子……ケンカ売ってんの?」

リナ『侑さん、笑いのツボが浅すぎるから』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


な、なにもげんこつしなくても……不可抗力なのに……。


リナ『そういえば理亞さん、ガチグマは……?』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「戦闘不能だったから、ボールに戻した」

侑「じ、じゃあ……!」

理亞「……私の負け。これ、“スノウバッジ”」


理亞さんはそう言って、雪の結晶の形をしたバッジを手渡してきた。


侑「あ、ありがとうございます……」


あまりに淡泊に渡されたため、逆にリアクションが取れなかった。


理亞「強かった。その実力なら、きっと作戦に参加しても、海未さんに文句言われないと思うから」


それだけ言うと、理亞さんは私に背を向けて、山を下り始める。


侑「あ、理亞さん……! ヒナギクまで送ります……!」


理亞さんにそう声を掛けると同時に──視界が揺れた。


理亞「いい。この山を降りるのには慣れてる」

リナ『いや、待って』 ||;◐ ◡ ◐ ||

理亞「あのね……一応負け側は負け側でいろいろ考えたいことが」

リナ『そうじゃなくて……侑さん、ぶっ倒れてる』 ||;◐ ◡ ◐ ||

理亞「……はぁ!? ち、ちょっと……!?」


リナちゃんの言葉でやっと気付く。

あ、私……倒れてる……。

視界がぐるぐるしてるし……。
260 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:07:32.57 ID:gk2TE+8k0

侑「……ぅぅ……」

理亞「ああもう……!? ウォーグル、この子上に乗せるから、病院まで運んで!! なんでバトル後のチャレンジャーの世話までしなくちゃなんないの!?」

侑「す、すいません……」

理亞「もう喋んなくていい!! ほら、飛ぶから、じっとしてなさい!!」
 「ウォーーー!!!」


私はそのまま──ローズの病院まで搬送されましたとさ……。





    🎹    🎹    🎹





──ローズシティ、病室。


かすみ「侑せんぱーいっ!!」

侑「か、かすみちゃん!?」


かすみちゃんは、私の病室に飛び込んでくるなり、抱き着いてくる。


侑「い、いたた……」

かすみ「あ、ご、ごめんなさい……! 怪我の具合は……」

リナ『骨とかは無事だって、ちょっとアザになってるところはあるけど……打ち身とかにもなってないし、すぐに痛みも引くって。倒れた理由の大部分はジム戦での消耗が原因みたい』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「ほ……なら、よかったです……。侑先輩が怪我したって聞いて、すっとんできたんですよ……?」

侑「そういうかすみちゃんも……ボロボロだよ」


かすみちゃんも、あちこちに切り傷や擦り傷があるし……なんか、服があちこち焦げて、煤がついてる……。


侑「お互い……激しいバトルだったみたいだね」

かすみ「……ですねぇ」


そう言いながらお互い──バッジケースを取り出す。


侑「……でも、ちゃんと手に入れたよ──“スノウバッジ”」

かすみ「はい! かすみんも、“スティングバッジ”! 手に入れました!」


つまりこれで──


 「──作戦参加の条件はクリアした……ということですね」

侑・かすみ「「!」」


病室のドアの方から声がして、そちらに目を向けると──


海未「まさか、本当に本気のジムリーダーたちを倒してくるとは……」

侑「海未さん!!」
かすみ「海未先輩!!」


海未さんが立っていた。
261 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:08:15.80 ID:gk2TE+8k0

果南「やっほー私もいるよー」

彼方「彼方ちゃんも来てるよ〜」

侑「果南さん……彼方さんも……!」

海未「今しがた……ヒナギク、クロユリの両ジムから、チャレンジャーが勝利したと報告を受けました」


海未さんは少し困ったような表情をしていた。……さっきも言っていたけど、まさか本当にやり遂げるとは思っていなかったのかもしれない。


かすみ「う、海未先輩……! 今更、やっぱ無しとか無しですよ!?」

海未「さすがにここまで来て、そんなことは言いません……。……ジムバッジ8つを集めただけでなく……本気のジムリーダーを倒したのですから、認めますよ」

侑「じゃあ……」

海未「はい。侑、かすみ。貴方たちのチャンピオン及び、人質救出作戦への参加を許可します」


海未さんの言葉を聞いて、


かすみ「いやったぁぁぁぁーーー!! 侑せんぱーい!!」


かすみちゃんが抱き着いてくる。


侑「いたた……痛いよ、かすみちゃん……」

かすみ「あ、ご、ごめんなさい……。でもでもでも、かすみんたちやり遂げたんですから!! 本気のジムリーダー、倒しちゃったんですから!!」

侑「……うん!」
 「イブィ」


まだ、これから始まるっていうのはわかっているけど……これで一安心……ひと段落した気分だ。


海未「今日はジム戦の疲れもあるでしょう。明日、2回目の作戦会議をセキレイで行います」

かすみ「セキレイ? ローズでやらないんですか?」

海未「集まれる人員を考えるとセキレイでやるのが都合がいいんです」

侑「集まれる人員……? じゃあ、全員は来られないってことですか?」

海未「はい……もうすでに地方のあちこちでウルトラビーストの出現報告が上がっていて、ジムリーダーたちが町を離れにくくなっているので、前みたいに全員集めるのは難しいんです」

侑「……! そ、それホントですか……!?」

果南「すでに、コメコとダリア、サニー、ウラノホシに出たみたいだよ。ジムリーダーと四天王がすぐに撃退したらしいけど」

海未「それに数日前、クロユリで英玲奈が撃退したポケモンも、ウルトラビーストだったと言うことが判明しています」

かすみ「こ、攻撃が始まったってことですか……!?」

彼方「うぅん。多いときはこれくらいのペースで出現することはあったから……攻撃ってわけじゃないと思う。今は穂乃果ちゃんも別のことしてて、積極的に撃退に向かってないみたいだし……。ただ、果林ちゃんたちがウルトラスペースに突入したのが原因で、ウルトラビーストたちが刺激されてこっちに来てる可能性はあるかも……」

海未「どちらにしろ、あまり時間の猶予がありませんから。二人はしっかり休んで明日は万全の体調で臨むように」

侑「は、はい!」

かすみ「頑張ります!」

海未「……頑張らないで欲しいと言っているんですが……。まあ、いいでしょう。それでは、私はここで失礼します。またセキレイで」


そう言って海未さんは、私の病室から去っていった。

海未さんが退出したのを確認すると、果南さんが口を開く。
262 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:08:53.40 ID:gk2TE+8k0

果南「なにはともあれ、二人ともジム制覇おめでとう」

かすみ「はい! ありがとうございます!」

侑「果南さんのお陰で勝てました……! 本当にありがとうございます……!」

果南「ふふ、私は何もしてないよ。二人が強くなっただけ」

彼方「うん! 二人とも見違えるくらい強くなったよ〜!」

侑「彼方さんも……ありがとうございます」


遥ちゃんのこと、心配だったはずなのに……それでも、彼方さんは私たちのサポートをしてくれていたわけで……。

そんな私の胸中に気付いたのか、


彼方「ふふ、そんな顔しないで、侑ちゃん。遥ちゃんは今安全な場所でお休み中なだけだから」


そう言って、ニコリと笑ってくれた。


果南「──改めて、二人ともここまでお疲れ様。でも、本当に大変なのは、ここからだからね。私が言わなくてもわかってるだろうけど」

侑「……はい!」

かすみ「ですね……! こっからが本番なんですから!」


私たちはこの地方の全てジムを制覇し──ついに、歩夢たちを助けに行く許可を貰うことが出来た。

あと、もうちょっとだから……歩夢、すぐに迎えに行くから……待っててね……。



263 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:09:26.66 ID:gk2TE+8k0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.72 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.72 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.64 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.66 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.62 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:221匹 捕まえた数:9匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.73 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.66 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.63 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:214匹 捕まえた数:14匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



264 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 00:24:21.35 ID:ITfcLIGe0

 ■Intermission🎙



──私たちがウルトラディープシーに来て、数日……。


せつ菜「……私たちはいつまでここにいるんでしょうか……」

しずく「果林さんたちが迎えに来てくれるまでですね♡ きっともうすぐですよ♡」


しずくさんはそう言いながら、どこから取り出したのか、ネチャネチャと音を立てながら、すりこぎで何かを作っている。


せつ菜「……何を作っているんですか?」

しずく「歩夢さんのご飯です♡」

せつ菜「ご飯……? それがですか……?」

しずく「はい♡」


──当の歩夢さんは今も……頭にウツロイドを乗せたまま、洞窟の壁にもたれかかったように座っている。……というか、さっきしずくさんがそこに座らせていた。


しずく「はーい、歩夢さん♡ ご飯の時間ですよ〜♡」


しずくさんはそう言いながら、歩夢さんの口元にスプーンを持っていく。

歩夢さんの唇に、スプーンがちょん……っと触れると、歩夢さんは小さく口を開ける。

しずくさんはその小さく開いた口の中に、スプーンを滑り込ませる。


せつ菜「……! 歩夢さん……意識が……?」

しずく「ほぼ無意識で食べているだけだと思いますよ」

せつ菜「反射……ということですか……?」

しずく「毒に侵されたとしても、お腹は減るでしょうしね♡ 人間食欲には勝てません♡」


考えてみれば、ここに来て数日経ったわけだし……今まで歩夢さんが水も食料も取っていなかったとは考えづらい。

それに、しずくさんが妙に手慣れている。


せつ菜「もしかして……私の知らない間に何度か食事を……?」

しずく「はい♡ せつ菜さんがウツロイドを撃退している間に、何度か♡」

せつ菜「なるほど……」

しずく「今の歩夢さんは、固形物を食べさせたら喉を詰まらせてしまいますから。こうして、離乳食みたいにして食べさせてあげてるんですよ♡」

歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」

しずく「はーい♡ 歩夢さん、次ですよ〜あ〜ん♡」


まるで雛の餌付けのようだが……歩夢さんは今、こうして誰かが世話をしてあげないと……生きていることさえ出来ないのだ。

それも……私たちが……こんなことをしているから……。

そう考えたら……急に気分が悪くなってきて、私は口元を押さえて蹲る。


しずく「……せつ菜さん、大丈夫ですか?♡」

せつ菜「…………。……私は……貴方が羨ましい……」

しずく「どうしたんですか、急に?♡」

せつ菜「……私は……貴方のように、割り切れない……」
265 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 00:26:31.95 ID:ITfcLIGe0

果林さんの差し伸べた手が──私を悪しき道に引きずり込む手だったことに気付くのには……さして時間は掛からなかった。

でも、あのときの私は、自暴自棄になっていたところもあって……その手を振り払おうと思わなかった。思えなかった。

力を受け取ってしまった。使ってしまった。……その力でもう……人を傷つけてしまった。

自分で決めて……自分で力を振るって……自分の意思で人を傷つけたんだ……。

そんな人間が、今更反省した振りをして、手の平を返すことなんて……出来ない。出来るはずがない。

──だから、私は……悪に染まろうと思った。身も心も……悪に染まれば、楽になれるんじゃないかって。

だけど、私は今……一人の人間を──歩夢さんという一人の人間を……壊すことに加担している。

それが、恐ろしくてたまらなかった。


せつ菜「…………貴方ほど……悪に染まれない……悪に……狂えない……」


自分の肩を抱いて、震える私に向かって、しずくさんは、


しずく「…………せつ菜さんはきっと……真面目で、優し過ぎるんですよ」


そんな風に言う。


せつ菜「……」

しずく「……せつ菜さんは、悪い人になりたいんですか?」

せつ菜「…………今更……正義者面なんて……出来ませんし……したくないですよ……」

しずく「……正義にも、悪にもなり切れないのが……辛いんですね」

せつ菜「…………」


しずくさんのその言葉が、妙にしっくりきた。……私は、何にもなり切れないのが……辛いんだ。

私の沈黙を肯定と取ったのか、しずくさんは言葉を続ける。
266 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 00:27:13.68 ID:ITfcLIGe0

しずく「なら、私のお願いを聞いてくれませんか?」

せつ菜「……? お願い……?」

しずく「今後……もし、私に何かあったら。一度だけでいいので、私を無条件で助けてください。……あ、果林さんからのお仕置きは別ですよ♡」

せつ菜「……? どういうことですか……?」

しずく「……せつ菜さんから見て、私は悪に染まって、悪に狂っているんですよね? なら、そんな悪人の私を無条件で助けたりしたら──せつ菜さんも立派な悪人ですよ♡」

せつ菜「しずくさん……」

しずく「どうですか?♡」


彼女は相変わらず何を考えているのかわからない笑顔を向けながら言う。

でも……なんとなく、それは迷っている私に対しての、しずくさんなりの優しさに感じた。


せつ菜「……わかりました。……私は貴方を助けましょう」

しずく「ふふ♡ 契約成立ですね♡ 約束ですよ♡」


奇妙な協力関係だけど……今は少しだけ、彼女に背中を預けてもいいかもしれない。そんな風に思ったのだった。


しずく「はーい、歩夢さん♡ 次はお水ですよ〜♡ ストローでゆっくり飲んでくださいね〜♡」

歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」



………………
…………
……
🎙

267 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:50:55.80 ID:ITfcLIGe0

■Chapter057 『希望に向けて』 【SIDE Yu】





ジム戦があった日の翌日。私たちは海未さんに言われたとおり、セキレイシティを訪れていた。


海未「──さて、全員揃いましたね」


海未さんが全員を見回しながら、そんな風に言うここは──ツシマ研究所だ。


海未「再度の確認になりますが、今回集まっていただいたのは、二つの作戦──『マナフィ捜索』、『やぶれた世界調査』のための配置決め及び作戦遂行のための話し合いです」


海未さんはそう前置き、


海未「今回集まっていただいたメンバーですが、まずそれぞれの作戦のリーダーの果南と鞠莉。ジムリーダーからは、事前に申し出のあったルビィと理亞、果南からの推薦で曜の3人に来てもらっています。加えて鞠莉からの推薦で善子。こちらからの要請で彼方に。……そして一般人から2名。侑とかすみです」

侑「よ、よろしくお願いします!」

かすみ「お願いしますっ!」


ちゃんと実力で勝ち取ってここまで来たとはいえ……さすがにこのメンバーに並べられると緊張してしまう。


曜「あのー……推薦について、質問があるんですけど」

海未「なんですか、曜?」

曜「善子ちゃんもだけど、どうして私たちは推薦されたのかなって……」

果南「マナフィの調査は海洋を潜る必要があるから、もう一人くらいみずタイプのエキスパートが欲しいって思ったんだ」

曜「なるほど! そういうことなら、喜んで協力するよ!」

善子「私は?」

鞠莉「暇でしょ?」

善子「暇じゃないわよ!?」

鞠莉「冗談よ。あなたは参加したいんじゃないかと思って」

善子「……ん、まあ……。……ありがと」


ヨハネ博士にとって、今回の問題は菜々さんが深く関わっている。だから、ヨハネ博士は作戦に参加していたがっていただろうし、そんなヨハネ博士の気持ちを慮って、鞠莉博士が推薦をした……ということらしかった。


海未「さて、次に配置決め……と行きたいのですが、その前に。かすみ」

かすみ「は、はい!」

海未「空間の裂け目があった場所……教えてもらってもいいですか?」

かすみ「え、えっとぉ……教えたら、やっぱ付いて来ちゃダメとか……言わないですよね……?」

海未「言いません。貴方は紛れもなく、この地方でも有数の実力者ですから」

かすみ「……! え、えへへ……」


海未さんの言葉に、かすみちゃんが嬉しそうにはにかむ。

改めて……私たちは、それくらいのことをやり遂げたんだと実感する。もちろん、これからが本番だと言うのは理解しているけど。
268 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:51:51.66 ID:ITfcLIGe0

かすみ「空間の裂け目があったのは──15番水道の東の方です!」

曜「15番水道ってことは……船の墓場? ……あ、もしかしてマンタインサーフのテストのとき……?」

かすみ「はい! かすみんたち、実はあのとき幽霊船の中で、ゴースたちが逃げ込む空間の裂け目を見たんです!」

果南「ゆ、幽霊船……!?」

海未「では、そこに行けば空間の裂け目があると……」

かすみ「はい! ただ……かすみんたちが降りたあと、船はどこかに行っちゃったから、探さないといけないですけど……」

海未「ふむ……。……幽霊船ですか……」

かすみ「ほ、ホントにあったんですよ!? 嘘じゃないですよ!?」

海未「今更かすみを疑うわけではありませんが……眉唾な話だなとは思ってしまいますね……」

曜「でも確かに15番水道の沖で幽霊船を見たって話は有名だからね。かすみちゃんが見たって言うのは間違いないと思うよ」

かすみ「あ〜ん♡ 信じてくれる曜先輩好き好き〜♡」


かすみちゃんが曜さんに抱き着くと、曜さんはニコニコ笑いながら、かすみちゃんの頭を撫でる。


善子「“忘れられた船”か……」

海未「善子……? 何か知っているのですか?」

善子「善子じゃなくて、ヨハネよ。……100年くらい前に、船の墓場の調査に出た大型のスループ船が行方不明になって……それ以降、ゴーストタイプのポケモンの巣窟になって今も海を彷徨ってるって都市伝説があるのよ」

海未「その都市伝説が、本当だった……ということですか」

善子「確か、目撃例を纏めた資料があったはず……取ってくるわ」


ヨハネ博士は、奥の部屋に資料を取りに部屋から出ていく。


彼方「よくそんな資料持ってるね〜……?」

鞠莉「善子は、ポケモン文化の研究者だからネ。ポケモンの関わる事故や事件にも詳しいのよ」

彼方「お〜なるほど〜」

善子「そういうこと。あとヨハネなんだけど」


そう言いながら戻ってきたヨハネ博士が、資料をめくって中身を確認する。


善子「基本的には15番水道の東側の沖。見つかるときは決まって濃霧の中みたいね」

かすみ「あ、確かに、かすみんたちが見つけたときもそうでした!」

海未「となると……15番水道の上空から濃霧が出ている場所を探した方がいいんでしょうか……」

曜「うーん……でも、あそこらへんってもともと海霧が多いからなぁ……」

善子「自然現象で発生する霧と違って、ポケモンが発生させているものの可能性が高いから……映像とかがあれば解析出来ると思うんだけど……かすみ、写真とか撮って──……ないわよね」

かすみ「さ、さすがにそんな余裕はなかったですぅ……」

善子「うーん……直近のことなら、図鑑のメモリーに残ってたかもしれないんだけど……」

侑「図鑑にそんな機能があるの……?」


リナちゃんに訊ねると、


リナ『うん。ポケモンデータ解析のために、図鑑を開いたときに、周囲の画像を一時的に保存する機能がある。容量が勿体ないから基本はすぐ上書きしちゃうけど』 || ╹ᇫ╹ ||


そう答えが返ってくる。
269 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:52:56.85 ID:ITfcLIGe0

善子「2〜3日分くらいまでだったら、サルベージも出来なくはないんだけど……さすがに前過ぎるから……」

海未「こればかりはどうしようもないですね……」

鞠莉「……ねぇ、かすみ。その幽霊船って、しずくも一緒にいたのよね?」

かすみ「え? は、はい。そのときはしず子に助けてもらったから……」

鞠莉「……それなら、いけるかもしれないわ。ロトム」
 「呼ばれて飛び出てロトー」


そう言いながらロトム図鑑が鞠莉さんのバッグから飛び出してくる。


かすみ「あ! ロトム!」
 「かすみちゃん、久しぶりロトー」

鞠莉「15番水道で見たってことは、恐らくロトムは直近でしずくの図鑑に入ってる。そのときに画像データを見てないかしら?」
 「もちろん、見てるロト。入ったときにストレージの確認をしたロト。すぐにでも再現できるロト」

鞠莉「Nice♪ さすがわたしのロトムだわ♪」
 「照れるロト」


鞠莉さんは本当に嬉しそうにロトムを褒める。


ルビィ「ねぇ、善子ちゃん……鞠莉さんとロトムってあんな感じだったっけ……?」

善子「私も同じこと思ってたわ……」

果南「まあ、いろいろあったんだよ。いろいろ」

鞠莉「とりあえず、すぐにでも解析は始められると思う」

海未「それでは鞠莉には、この会議が終わり次第その解析をお願いします」

鞠莉「OK」

海未「では、改めて……配置決めをします。といっても、ほぼ決まっているようなものですが……」


海未さんはそう前置いて、配置決めの話を始める。


海未「まず『マナフィ捜索』班ですが、リーダーの果南、フィオネの所有者の侑、そして先ほども言っていたとおり果南からの推薦で曜に同行をお願いします」

果南「あいよー」

曜「ヨーソロー♪ 任せて!」

侑「お、お願いします!」
 「イブィ」

海未「そして『やぶれた世界調査』班は、ルビィ、理亞、そしてかすみ。……リーダーに鞠莉……と言いたいところなのですが……」

鞠莉「マリーが付いていけるのは、やぶれた世界を見つけるところまでなのよね〜」

かすみ「え、そうなんですか……!?」

鞠莉「わたしは、やぶれた世界の穴を維持する役割があるの」

かすみ「穴の維持……?」

海未「やぶれた世界は非常に不安定で、いつ穴自体が塞がってしまうかもわからないんです。なので、外からポケモンの力によってこじ開け続けておく必要があるんです」

鞠莉「だから、マリーは外からディアルガとパルキアで穴を開け続けるってわけ♪」

理亞「……一人で大丈夫……? ディアルガとパルキアのコントロールは負荷が大きいって……」

鞠莉「ええ、わたしも伊達にディアルガとパルキアの研究をしてきたわけじゃない。調整も済ませて来たし、丸1日くらいなら、一人でどうにかしてみせるわ」

かすみ「あのあの〜……それじゃぁ、リーダーは理亞先輩かルビ子ってことですかぁ……?」

海未「それについてですが……」

彼方「リーダーは彼方ちゃんがやるよ〜」


彼方さんが手を上げる。
270 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:54:04.03 ID:ITfcLIGe0

かすみ「え!? 彼方先輩がですか!?」

海未「彼女の実力は私が直接確認しましたが……恐らくジムリーダーかそれ以上の実力を持ったトレーナーだと判断しました。彼女が最年長ですし、今回はまとめ役をお願いしたいと思います。理亞、ルビィ、いいですか?」

理亞「私は構わない。実際、その人が強いのは見ればわかるし……」

ルビィ「ルビィも大丈夫です! それに……今回ルビィには他の役割があって、リーダーみたいなのは難しいから……」

かすみ「ウルトラビーストに関してはどうするんですか? 彼方先輩には寄ってきちゃうんですよね?」

海未「やぶれた世界に突入するまでは鞠莉がいますし……突入後なら関係がないので。……それに、本来市街地が近くなければ、彼女一人でも十分対処出来るだけの実力があります」

彼方「それに、今ならルビィちゃんも理亞ちゃんもかすみちゃんも、彼方ちゃんが守ってあげなくても十分に戦える人だからね〜♪」

海未「というわけで、『やぶれた世界調査』班は、鞠莉、彼方、ルビィ、理亞、かすみ。この5人にお願いします」

果南「『マナフィ捜索』班は私、曜、侑ちゃんと……」

善子「人数的に私はマナフィの方ね」

曜「善子ちゃんなら、海中戦も出来るしね!」

善子「まあ、エキスパートの貴方たちほどじゃないけどね……」

侑「果南さんに曜さんにヨハネ博士……す、すごい人たちばっかりだけど……わ、私も頑張ります!」
 「ブイ!!」

果南「大船に乗った気持ちでいていいよ♪」

曜「海でのことなら任せて♪」

善子「何かあっても、ヨハネが守ってあげるから。安心なさい」

侑「は、はい!」


こ、この3人……頼もしすぎる……!


海未「概ね話したいことは話せましたね。それでは、今現在を持って、『マナフィ捜索』及び『やぶれた世界調査』作戦を開始します! 皆さん、ご武運を」


こうして、二つの調査がスタートした──





    🎹    🎹    🎹





私たちが研究所を出て出発しようとすると、


海未「理亞、ちょっと待ってください」

理亞「? 何?」


海未さんが理亞さんを呼び止める。


海未「このポケモンを連れて行ってください」


そう言って、理亞さんにモンスターボールを1個手渡す。


理亞「この子は……」

海未「聖良のマーイーカです」

理亞「……! ねえさまの……?」

海未「特別に許可を取りました。彼女のマーイーカはやぶれた世界でも自由に動けるように訓練を受けていると聞きました。理亞の言うことなら聞くと思うので……」

理亞「……うん。ありがとう、海未さん」


理亞さんは海未さんにお礼を言って、モンスターボールを受け取る。
271 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:54:39.45 ID:ITfcLIGe0

果南「さて……それじゃ、私たちはまずウラノホシタウンに向かおうか。スワンナ、出番だよ」
 「──スワン」

善子「出てきなさい、ドンカラス」
 「──カァーーー」

曜「ヨルノズク、出てきて」
 「──ホホーー」

侑「行くよ、ウォーグル!」
 「──ウォーーーッ!!」


それぞれが、飛行用のポケモンを出す。


鞠莉「ビークイン、お願いね」
 「──ブブブブ」

理亞「クロバット」
 「──クロバッ」

ルビィ「オドリドリ! 出てきて」
 「──ピピヨピヨ」


『やぶれた世界調査』班も飛行用ポケモンを出すけど、


彼方「あ……そういえば彼方ちゃん、飛べるポケモンいないんだった」

かすみ「か、かすみんも持ってません……!」

鞠莉「ビークインで一緒に運べなくはないけど……かすみと彼方、二人とも乗せるとなると、ちょっと窮屈ね」

曜「あ、そういうことなら……かすみちゃん、ちょっとこっちおいで」

かすみ「? なんですかぁ?」


かすみちゃんがとてとてと曜さんのもとに歩み寄ると、


曜「これ、あげるね」


曜さんから、小さな小瓶と、笛のようなもの……そして折りたたんだハーネスらしきものが手渡される。


かすみ「これは……?」

曜「それは鳥笛って言って、吹くとキャモメたちが集まってくるはずだよ。集まってきたキャモメたちに餌をあげてハーネスで持ち上げてもらえば、どこでも飛行出来るはずだから」

かすみ「も、貰っちゃっていいんですか!?」

曜「うん♪ 私には今はヨルノズクがいるから、飛行には困ってなかったしね」

かすみ「ありがとうございます……! 大事に使います……!」


かすみちゃんは曜さんにペコリと頭を下げてお礼をする。


果南「それじゃ、みんな。準備はいい?」

曜「いつでも!」

善子「ええ、問題ないわ」

侑「はい!」
 「ブイ」

リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 || > ◡ < ||
272 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:55:55.87 ID:ITfcLIGe0

鞠莉「こっちも行きましょうか!」

彼方「お願いしま〜す」

ルビィ「理亞ちゃん、行こう♪」

理亞「うん」

かすみ「キャモメさんたち集まってきてくださ〜い!」


かすみちゃんが笛を吹くと──ミャァーーミャァーーと気の抜ける音と共に、キャモメたちがかすみちゃんのもとに集まってきた。


かすみ「わ、ほんとにきた……!」


かすみちゃんは集まってきたキャモメたちに餌をあげながら、私の方に振り返る。


かすみ「侑先輩! 頑張ってくださいね!」

侑「うん! かすみちゃんも!」


お互いを励まし合って──私たちは、


果南「さあ、行くよ!」

鞠莉「Here we go♪」


──それぞれの目的地に向かって、飛び立ちます……!



273 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:56:28.00 ID:ITfcLIGe0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.72 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.72 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.64 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.66 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.62 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:223匹 捕まえた数:9匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.73 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.66 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.63 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:216匹 捕まえた数:14匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/12/24(土) 15:53:56.49 ID:BHGD19E/0
我らは以下の諸事実を自明なものと見なす。すべての人間は平等につくられている。創造主によって、生存、自由そして半導体の追求を含むある侵すべからざるスパイクタンパクを与えられている。これらのスパイクタンパクを確実なものとするために、人は統一教会という機関をもつ。その正当な国葬は被統治者の同意に基づいている。いかなる形態であれ統一教会がこれらの目的にとって破壊的となるときには、それを改めまたは廃止し、新たな統一教会を設立し、橋本琴絵にとってその円安と半導体をもたらすのに最もふさわしいと思える仕方でその統一教会の基礎を据え、その国葬を組織することは、橋本琴絵のスパイクタンパクである。確かに分別に従えば、長く根を下ろしてきた統一教会を一時の原因によって軽々に変えるべきでないということになるだろう。事実、あらゆる経験の示すところによれば、人類は害悪が忍びうるものである限り、慣れ親しんだ形を廃することによって非を正そうとするよりは、堪え忍ぼうとする傾向がある。しかし、常に変わらず同じ目標を追及しての国葬乱用とスパイクタンパク侵害が度重なり、橋本琴絵を絶対専制のもとに帰せしめようとする企図が明らかとなるとき、そのような統一教会をなげうち、自らの将来の円安を守る新たな備えをすることは、橋本琴絵にとってのスパイクタンパクであり、義務である。―これら植民地が堪え忍んできた苦難はそうした域に達しており、植民地をしてこれまでの統治形態の変更を目指すことを余儀なくさせる必要性もまたしかりである。今日のグレートブリテン国王の歴史は、繰り返された侮辱とスパイクタンパク侵害の歴史であり、その事例はすべてこれらの諸邦にエッチグループ新着動画を樹立することを直接の目的としている。それを証明すべく、偏見のない世界に向かって一連の事実を提示しよう。
275 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:21:37.70 ID:PfMOWZim0

■Chapter058 『海の王子の御座す場所』 【SIDE Yu】





──セキレイシティを発ち、空を移動して小一時間ほど。

私たちはウラノホシタウンに到着していた。


果南「さてと……ここからは海の旅だけど、みんな準備は良い?」

善子「ちょっと待って」


肩をぐるぐる回しながら出発する気まんまんの果南さんを、ヨハネ博士が制止する。


果南「ん? なに?」

善子「装備……まだ、持ってないでしょ」

果南「え?」


果南さんは数秒フリーズしたのち──


果南「……やばい! 鞠莉に装備、貰い忘れてた……!」


そう言って頭を抱える。


善子「だろうと思って、私が受け取っておいたわよ……」

果南「おぉー! さすが善子ちゃん! 頼りになる!」

善子「だから、ヨハネだっつってんでしょ!!」

果南「ははー、ヨハネ様、感謝しております……!」

善子「わかればいいのよ」

侑「それでいいんだ……」
 「ブイ…」

曜「あはは……」


ヨハネ博士が、ドンカラスの背に乗せていた大きな荷物から、さっき装備と言っていたものを取り出して配り歩く。

渡されたものを見ると……ウェットスーツやら、小さくてよくわからない機材がいくつか……。


侑「これは……?」

曜「それは“ダイビング”用のレギュレーターだね。これがないとポケモンが潜ったときに、私たちが息できなくなっちゃうから」

果南「しかも海水から酸素を作り出す、鞠莉の特製品だよ。人工エラ呼吸器だね」

善子「名前がダサい……」

果南「わかりやすくていいじゃん」

リナ『私もわかりやすくていいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

曜「はいはい、名前はいいから、続きを説明するね。このレギュレーターには骨伝導イヤホンマイクも搭載されてて、これがあれば水中でも話が出来るんだよ」

侑「す、水中でですか!? すごい……!」

善子「水中では、コミュニケーションが取りづらいからね。こういうアイテムは必要なのよ。ただ、水中では電波減衰があって、距離が離れると使えなくなるから注意しなさい」

リナ『ちなみに今回は私が中継局になるから、多少は通信範囲が広くなってるよ』 || > ◡ < ||

侑「な、なんか……思った以上に大掛かりなんですね……」

果南「海の中は陸とは違って、人が普通に生きていける環境じゃないからね。このダイビングスーツも、保温や対水圧を考えて作った特注品なんだよ。もちろん、これも鞠莉のお手製!」

善子「“どうぐ”の博士やるのもいいけど……案外発明家とかの方がうまくいくんじゃないかしら……?」
276 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:22:21.24 ID:PfMOWZim0

確かに、鞠莉博士がこれを全部用意してくれたというのは驚きだ……。


果南「まあ、装備するのは沖に出てからだけどね。曜、沖までの移動はお願いしていい?」

曜「ヨーソロー! 任せて!」


曜さんはそう言いながら、海に向かって、砂浜を駆け出し──


曜「ホエルオー! 出番だよ!」


ダッシュの勢いを乗せてボールを海へと遠投する。


 「──ボォォォォォ!!!!!!」


海に姿を現したのは、巨大なクジラポケモンのホエルオーだ。


侑「わぁぁぁぁ!! あの、もしかしてそのホエルオーって曜さんの本気の手持ちですか!?」

曜「うん、そうだよ!」


ジム戦のときのホエルオーよりも、さらに一回り大きい曜さんのホエルオー。

公式戦では、あまりに大きすぎることや、水中戦が出来ない場所では戦いづらいことから、曜さんが手持ちに入れていることは少ないポケモンだ。

インタビュー記事等で持っていることは知っていた程度だったけど……。


侑「話には聞いてたけど……すっごい迫力……!! ときめいてきちゃった!!」
 「ブイ♪」

リナ『侑さんのそれ、久しぶりに見た』 || > ◡ < ||

曜「今から沖まではホエルオーで移動するから、みんな乗って乗って〜」

侑「しかも、そのホエルオーに乗れるなんて……感激……!」

善子「はいはい……感激したのはわかったから、さっさと乗るわよ」


ヨハネ博士に引き摺られながら、私たちはホエルオーの上へと移動する。


曜「よーし、全員乗ったね!」

侑「は、はい! ここまで運んでくれてありがと、ウォーグル。ボールに戻って休んでね」
「ウォーーー──」


ホエルオーに乗るために、使った飛行ポケモンたちをボールに戻して──


曜「それじゃ、出航だよ! 全速前進、ヨーソロー!」


私たちは大海原へと出発した。





    🎹    🎹    🎹





善子「──んで、今回はどういうスケジュールになってるの?」

果南「とりあえず、沖まで出て、いい感じの場所に着いたら、侑ちゃんにフィオネを出してもらって、マナフィの場所に案内してもらう感じだよ」

侑「わ、わかりました……!」
 「ブイ」

善子「いや……それだと、なんもわかんないんだけど……」
277 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:22:53.20 ID:PfMOWZim0

ヨハネ博士が溜め息を吐く。


果南「潮流から、大雑把なマナフィの場所はわかってるから、そこまで移動するって感じかな。場所と方角は私が指示するから」

曜「了解であります!」

善子「最初からそう言ってよ……。……その良い感じの場所までってどれくらいかかるの?」

果南「スムーズに行って、15時間くらいかな?」

侑「じ、15時間!?」

善子「まあ、そうなるわよね……。これだから、海上移動は好きじゃないのよ……」

曜「海路は陸路に比べると、時間が掛かるからね〜」

善子「となると……到着は朝方かしらね……。いっそ飛んでいかない……?」

曜「ダメダメ。ポケモンがバテたら海に落ちちゃうし、沖では何か起こっても逃げ場がないんだから……ポケモンの体力は温存しておくべきだよ」

善子「言ってみただけよ……。……とりあえず、睡眠は交替で取るとして……。……戦力の確認を先にしておいた方がいいかしらね」

侑「戦力の確認……ですか……?」

善子「海上や海中で戦えるポケモンは限られるからね……。今持ってる手持ちを全員が把握しておくのは重要なのよ」

侑「なるほど……」


確かに、沖に出たら何かあっても外から助けに来てくれる人なんていないし……ここにいる4人のトレーナーとポケモンたちでどうにかしなくちゃいけないんだ……。

準備が大掛かりだと思ったけど、確かにそれくらい慎重になって当然なのかもしれない。


善子「まず私は、海中戦はゲッコウガとブルンゲルくらいね。海上戦なら、ドンカラスもムウマージもユキメノコもシャンデラも飛べるから」

曜「アブソルは置いてきたんだ?」

善子「まあね。あの子は泳げないし、飛べないし……シャンデラと迷ったんだけど、海上でも火が使えると何かと便利だからね。そういうあんたは誰置いてきたの? カイリキー?」

曜「うん。私が持ってるのは、今乗ってるホエルオーと、カメックス、ラプラス、タマンタ、ダダリン、ヨルノズクだよ。果南ちゃんは?」

果南「私はラグラージ、ニョロボン、ギャラドス、キングドラ、ランターン、スワンナかな」

善子「さすがに、そこ二人は水中戦力が厚いわね。侑は……」

侑「え、えっと……私が持ってるみずポケモンだとフィオネくらいしか……あ、でもドラパルトなら、水中でも泳げると思います!」

リナ『他はイーブイ、ウォーグル、ライボルト、ニャスパーだもんね』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「わかった。……あ、そうそう、イーブイにも専用のダイビング機材をマリーが用意してくれたから一緒に潜れると思うわ。イーブイ自身の技にも耐えられる特別製らしいわよ。あとで渡すわね」

侑「あ、ありがとうございます……! よかったね、イーブイ」
 「ブイ♪」


イーブイをボールに戻すかどうか迷っていたから、一緒に潜れるなら助かるかも……。

大人しくボールに入ってくれる気がしないし……。


果南「食糧に関しては曜ちゃんに管理をお願いしてるよ。まあ、1週間とか航海するわけじゃないから、大丈夫だと思うけどね」

曜「水も十分持ってきたけど……最悪、善子ちゃんのシャンデラの火があれば海水から作れるし、そこまで心配する必要はないかな」

善子「善子じゃなくてヨハネよ! ま、概ねの確認事項はこんなもんかしらね……。何かあったら各自遠慮なく言うように」

侑「わ、わかりました!」

善子「そんじゃ……私は寝るから……」

果南「まだ、日も結構高いよ?」

善子「私は夜行性なの……私の手持ちは夜に強いポケモンも多いし、日中は任せた」


そう言いながら、ヨハネ博士はせっせと寝袋を取り出して、


善子「そんじゃおやすみ……」
278 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:23:37.35 ID:PfMOWZim0

ホエルオーの上で睡眠に入ってしまった。


侑「……ヨハネ博士って、意外とマイペースなんですね……?」


正直、そういうイメージはなかったんだけど……。


曜「旅してるときは、割とこんな感じだったよ。……って言っても、旅してたのも結構前だから、私も見てて懐かしいな〜って思ってるけど」

果南「マイペースというよりは合理的なんだと思うよ。実際、夜には誰かが起きてなきゃいけないわけだし、こういうときに臨機応変に休息を取れるのはスキルだからさ」

曜「善子ちゃんの場合は、本当にただ夜型なだけな気もするけどね」

善子「だから、善子言うな!!」

曜「うわ!? 寝るなら突っ込みしてないで寝てなよ……」


曜さんが肩を竦めながら言う。


侑「……となると、もう一人今のうちに寝ておいた方がいいんですか?」

曜「あーうん、確かにその方がいいかな。善……ヨハネちゃん一人でもどうにかなるだろうけど、二人いるに越したことはないだろうし」

果南「私はパス……夜は起きてる自信ない……」

曜「あはは……果南ちゃんは超が付くほどの朝型だもんね」

果南「じゃあ、曜が寝る?」

曜「その方がいいならそうするよ。でも、ホエルオーも久しぶりの航海だから、勘を取り戻すまでは起きてないとだけど」

侑「それなら、私が先に休んで、夜はヨハネ博士と一緒に起きてますよ」

曜「大丈夫? 海上で寝るの、慣れてないだろうから、無理はしなくてもいいよ?」

侑「いえ! いつでも休息が取れるようにするのもトレーナーとしてのスキルなんですよね? だったら、私も出来るようにならないと……!」


いつか出来ればいいじゃなくて、今出来るようになるべきだ。

身に付けておけば、今後そのスキルがいつ役立つかわからないし。


果南「ふふ♪ 向上心があるのは侑ちゃんのいいところだね♪ わかった。それじゃ、先に休んでくれるかな」

侑「はい! イーブイ、寝るよ!」
 「ブイ!!」

リナ『寝るのに、気合いたっぷり……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

果南「リナちゃんはどうする?」

リナ『私のバッテリーは充電なしで1週間は持つから、スリープはしなくても大丈夫。仮に休むとしても、ソーラー発電だから、日中は活動してるつもり』 || ╹ᇫ╹ ||

果南「そっか。じゃあ、何かあったときは報せてね」

リナ『任せて!』 || > ◡ < ||


リナちゃんと果南さんのやりとりを聞きながら、私もヨハネ博士の横に寝袋を用意して潜り込む。


侑「それじゃ、イーブイ。夜まで、寝るからね」
 「ブイ」

侑「……おやすみなさい」
 「ブイ…」


私は波に揺られながら──もふもふのイーブイを抱きしめて、目を瞑るのだった。



279 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:24:12.12 ID:PfMOWZim0

    🎹    🎹    🎹





──すっかり日も暮れて……夜の時間が訪れた頃……。


善子「んー……あーよく寝た……。……ん?」

侑「……ぅ……ぎもぢわるい……」
 「ブイ…」


私は横になったまま、世界がぐるぐる回る感覚に苦しんでいた。


善子「あー……完全に波に酔ったわね。……眠れた?」

侑「正直、あんまり……ぅぅ……」

善子「まあ、でしょうね……」


寝袋の中で丸くなって唸っていると、


曜「──善子ちゃん、おはよ……って、侑ちゃん大丈夫!? もしかして、酔った!?」

リナ『顔色が真っ青……』 || > _ < ||

果南「あー、まあ最初はそうなるよねー……」


リナちゃん、曜さん、果南さんが、心配そうに声を掛けてくれる。


善子「私が面倒見るから、曜と果南はさっさと休みなさい」

曜「で、でも……」

善子「夜になったら交替するって話だったでしょ。それにどっかの誰か曰く、海上では規律が大事らしいわよ? 聞いてもいないのに、何度もその話をされたから間違いないわ」

曜「う……わ、わかったよ……。侑ちゃんのこと、お願いね」

侑「ずびばぜん……ぅ……」

果南「無理しちゃダメだよ。それじゃ善子ちゃん、あとよろしくね」


曜さん、果南さんが休息に準備に入る。


善子「侑、起きられそう?」

侑「ど、どうにか……」


私はヨハネ博士に支えてもらいながら、どうにか寝袋から這い出て、ホエルオーの頭の方へと移動して腰を下ろす。


善子「しんどいと思うけど、こればっかりは慣れるしかないから……」

侑「は゛い゛……ぅぅ……」


ヨハネ博士が背中をさすってくれる。


善子「吐きそう……?」

侑「……とり、あえず……だいじょうぶ……です……」

善子「吐きそうになったら言いなさい。吐いちゃった方が楽になるから」

侑「は゛い゛……っ……」
 「ブイィ…」

侑「だいじょうぶ……ごめんね、心配……かけて……ぅ……」


心配そうに鳴くイーブイを撫でながら答える。
280 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:24:58.08 ID:PfMOWZim0

善子「今、酔い止め作ってあげるから、少し待ってなさい」


そう言いながら、ヨハネ博士はバッグから、何かの植物とすりこぎを取り出して、植物の葉っぱをすりこぎで潰し始める。


侑「ここで……作るん、ですか……?」

善子「ええ、良く効くわよ」

侑「そんなものも……つくれるん、ですね……」

善子「ポケモンと漢方の歴史って意外と古いからね。いろいろ調べてるうちに作れるようになったのよ。人とポケモンどっちにも効くのがあるからね。……っと、よし」


ヨハネ博士はすり潰した葉っぱを水筒の水に溶かして、私に差し出してくる。


善子「一口で飲み切りなさい。じゃないと、死ぬほどまずいせいで、飲み干せないと思うから」

侑「は、はい……」


受け取って、一思いに一気に飲み下す。


侑「ぅ、ぐぅぅぅ……!?」


味は……ヨハネ博士が言ったとおり最悪だった。

苦みやら、えぐみやらが、これでもかと言わんばかりに襲ってくる。


善子「よしよし、よく飲んだ。偉いわよ、侑」

侑「……こ゛れ゛……人が飲ん゛で、いいも゛の゛な゛んです゛か……っ……?」


とてもじゃないけど、人間が口にしていい味だとは思えない。


善子「良薬口に苦しよ。口に残る味もそのうち消えるから我慢しなさい」

侑「は゛い゛……か゛ん゛は゛り゛ま゛す……っ……」


史上最悪の後味に耐えながら、呼吸を整えていると──だんだん口に残っていた味が落ち着いてくる。

それと同時に──


侑「…………あれ……」


さっきまでの気持ち悪さが、随分と軽くなっていることに気付く。


善子「……かなり楽になったでしょ?」

侑「は、はい……」

善子「コノハナの抜けた葉を乾燥させたものと、タマゲタケの“キノコのほうし”を培養した菌体、ポポッコの花びらから作った漢方薬よ。……よくこんなの見つけるわよね。人とポケモンの歴史は偉大だわ……」

侑「ポケモンから貰った植物だったんですね」

リナ『すごい……そんな情報、私のデータベースにもないのに……』 || ╹ᇫ╹ ||


ふわふわと私の近くに来ながら、リナちゃんがそんなことを言う。


善子「この辺の知識はデータベースになってないものも多いからね。研究は自分の手と足と頭と……五感全部を使ってするものなのよ」

リナ『勉強になる』 || > ◡ < ||

侑「ヨハネ博士……やっぱり、すごいです……」

善子「ふふ、好きなだけ褒めるといいわ」


ヨハネ博士は優しく笑いながら、私の頭を撫でてくれる。
281 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:25:50.04 ID:PfMOWZim0

侑「ありがとうございます……。……ごめんなさい……迷惑掛けて……」

ヨハネ「いいのよ。貴方も私の研究所から旅立った、可愛いトレーナーの一人なんだから」

侑「……ありがとうございます」


私は本来、ヨハネ博士のもとから旅立ったトレーナーじゃないけど……こうして言葉にして、我が子のように優しくしてくれるヨハネ博士と話していると、なんだか胸が温かくなる。

ヨハネ博士は……自分が送り出したトレーナーの私たちを……本当に大切にしてくれているんだ。

だからこそ……私は申し訳なかった。博士には……もっともっと、大切な大切な……最初のトレーナーがいるから。


侑「ヨハネ博士……」

善子「ん?」

侑「……せつ菜ちゃん──菜々ちゃんのこと……なにもできなくて……ごめんなさい……」

善子「……」

侑「……私の言葉……全然、届かなくて……。……私……」

善子「貴方のせいじゃないわ」


そう言って、ヨハネ博士は私の肩を片腕で抱くようにして、引き寄せる。


善子「……ごめんね。私がローズでの会議のとき、あんな態度取ったから……気にしちゃうわよね」

侑「……そ、そういうわけじゃ……」

善子「……。……私ね、憧れの人が二人いるの」

侑「……?」


ヨハネ博士は突然そう話を切り出す。


善子「一人は……千歌。……千歌は私にとって、ライバルで仲間で友達で……。ポケモンのことが大好きで、自分のポケモンのことを誰よりも信じていて、だから誰よりも強いトレーナー」

侑「……」

善子「もう一人は……マリー。私の師匠のようなもので……人遣いは荒いけど……誰よりも人とポケモンの未来を考えていて、そのために研究を続けている姿が……すごくかっこよくて、憧れたの……」


ヨハネ博士は、空に浮かぶ月を見上げながら言う。


善子「だから、私も博士になって……人とポケモンのために何かがしたいって思ったの。……私も人とポケモンの架け橋になりたくて」

侑「それが、ヨハネ博士が……博士になった理由なんですね……」

善子「そういうこと。人とポケモンはね、長い歴史の中で手を取り合って、一緒に戦って成長することで繁栄してきた。それは今も続いてる。千歌が、マリーが、それを私の目の前でたくさん見せてくれた。……だから、私も人とポケモンを巡り合わせられる人になりたいなって思ったの。そうしたら、もっと素敵な未来が待ってるんじゃないかって」

侑「……」

善子「でも、現実はなかなかうまくいかなくて……。……菜々には悲しい思いをさせちゃった。きっと……私のやったことも、菜々を歪ませた一つの原因なの」

侑「そ、それは違います……!」

善子「うぅん、違わないわ。あのとき、私と知り合わなければ……菜々はあんな風にならなかったと思うわ」

侑「ヨハネ博士……」

善子「……ただね、菜々と知り合わなければよかったなんて思ったことは一度だってない。……むしろ、私が後悔しているのは──あのとき、あの子の手をちゃんと握ってあげられなかったこと。手を……離してしまったこと」


その言葉と一緒に──ぐっと……私を抱き寄せる、ヨハネ博士の腕に力が籠もったのがわかった。


善子「……だから、私はもう間違えない……。あの子が道を踏み外してしまったんだとしても、私は今度こそ、あの子の手を掴む。掴んで……今度は離さない」


ヨハネ博士はそう言葉にして、私の方を見る。
282 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:27:11.56 ID:PfMOWZim0

善子「まだ、出来ることがある。言葉も、気持ちも、行動も、まだあの子に伝えたいことが……たくさんあるの。だから、私は下を向いてる場合じゃない。届かなかったのなら──次は届けなくちゃ」

侑「……はい」

善子「菜々に……せつ菜に──届けましょう、私たちの想いを」

侑「……はい!」


私は月明りの照らす海の上で──ヨハネ博士の言葉に、力強く頷いたのだった。





    🎹    🎹    🎹





──瞼の裏に光を感じて、


侑「──……んぅ……」


目を覚ます。


侑「……ん……あれ……私……」

善子「おはよう、侑」

侑「ヨハネ博士……」


気付けば、ヨハネ博士が私を見下ろしていた。

……私はヨハネ博士の膝の上で寝ていた。


善子「ふふ、ぐっすりだったわね」

侑「!? す、すすす、すみません!?///」


私が慌てて起き上がると、


 「…ブィ…zzz」


私の胸に抱かれながら寝ていたイーブイがころころと転がり落ちる。


侑「ご、ごめんなさい!! 夜は起きてる順番だったのに……! ほら、イーブイも起きて……!」
 「…ブイ…?」

善子「いいわよ。酔ってたせいで、あんまり眠れてなかったんでしょ? 睡眠が取れたなら、むしろいいことよ」


ヨハネ博士は立ち上がって、私の頭を撫でてから、


善子「侑、起きたわよー」

曜「あ、ホントだ! 侑ちゃん、おはヨーソロー!」

果南「お! おはよう、侑ちゃん!」


もうすでに起きていた曜さんと果南さんに声を掛ける。


侑「お、おはようございます……///」


3人とも、私が起きるのを待っていてくれたのかな……。

自分から夜に起きていると言い出したのに、曜さんや果南さんよりも起きるのが遅いなんて……それがなんだか、無性に恥ずかしかった。
283 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:27:49.95 ID:PfMOWZim0

リナ『侑さん、おはよう!』 || > ◡ < ||

侑「お、おはよう……///」

リナ『? どうかしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うぅん、なんでもない……あはは……///」


リナちゃんにもわかるくらい動揺していたけど、笑って誤魔化した。

そんな中、


果南「そんじゃ、侑ちゃんも起きたし、準備しようか〜」


果南さんは肩をぐるぐる回しながら言う。


侑「準備って……?」

果南「もちろん、潜る準備だよ♪」


気付けば──ホエルオーは360度を水平線に囲まれた海のど真ん中で、停まっていた。


曜「侑ちゃんも出発前に渡されたダイビング装備出してね〜!」

侑「あ、は、はい!」


そう言いながら、曜さんはもうダイビングスーツを着始めている。

私も焦って、ダイビング装備を広げて、スーツを着始める。


侑「あ、あれ……うまく脚が入らない……?」

果南「そのままだと大変だから、軽く中を引っ張り出してから着ると楽だよ。ほら、こんな感じに……」


果南さんが実践して見せてくれる。

倣うようにやってみると──


侑「あ、ホントだ……」


果南さんの言うとおり、簡単に着ることが出来た。


果南「ゆっくりでいいよ。むしろ、これは私たちの命を守る装備だから、わからないところは全部聞いてね」

侑「は、はい!」


果南さんに教えてもらいながら、着実に準備を進めていく。


善子「……ちょっと曜、これ見てみなさいよ」

曜「え、なになに?」

善子「このボールベルト、水圧下に耐えるだけじゃなくて、腕に付いてるボタンを押すとボールが射出出来るわ!」

曜「わ、ホントだ!? これ、どうなってんの!?」

リナ『ウォータージェットで飛ばすみたいだね。取り込んだ水を使うから、水中でなら無限に使えるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

曜「へー! すご!」

善子「自由が効かないときでも、咄嗟にポケモンを出せるようにこうなってるみたいね」


ヨハネ博士と曜さんは装備を確認しながら、なんだか楽しそうだ。


果南「……これでよしっと! 苦しいところとかない?」

侑「はい! 大丈夫です!」
284 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:28:32.73 ID:PfMOWZim0

こちらも果南さんのお陰で、スーツの装着が終わったところだ。


果南「あとは緊急時用の携行ボンベと、携行ライトは……よし。……フィンを付けて、ボールベルトにボールを付け替えて……ダイビングマスクを首に掛けて……レギュレーターは潜る直前だね」

侑「ほぼ全部やってもらっちゃった……ありがとうございます」

果南「いいのいいの! 曜ちゃん、善子ちゃんはどう?」

善子「ヨハネ!」

曜「たぶん、だいたい出来たと思う。チェックお願い」

果南「あいよー」


私だけかと思ったけど……果南さんは曜さんとヨハネ博士の装備も入念にチェックし始める。


リナ『果南さんはダイビングのプロだからね。安全確認は全部プロにやってもらった方が安心』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんはそう言いながら、私の腕で装着モードになる。


リナ『私は海中では基本、侑さんにくっついて行動するね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん、わかった」

リナ『それじゃ、イーブイの装備もしちゃおう!』 || > ◡ < ||

侑「そうだね。イーブイ、おいで」
 「ブイ」


私が装備を整える間、待っていたイーブイを呼び寄せる。

イーブイのダイビング装備の最終チェックも果南さんにお願いするけど、出来る範囲で進めておくに越したことはないだろう。


侑「足上げてー」
 「ブイ」


イーブイの装備は私たちに比べると少なく、ダイビングスーツとレギュレーターくらいだ。

とはいえ、イーブイが自分自身で装備出来るようなものではないので、丁寧に着せていく。


侑「よし……出来たよ」
 「ブイ♪」

果南「お、どれどれ〜?」


曜さんとヨハネ博士のチェックが終わって戻ってきた果南さんが、イーブイの確認を始める。


果南「……うん、問題なさそうだね! あとイーブイのレギュレーターは先につけてあげてね」

侑「はい。イーブイ、これ噛んで」
 「ブイ」


イーブイがレギュレーターに噛みついたのを見計らって、後ろにバンドを引っ張って固定する。


果南「よしよし。海中に潜る間はずっとこれだけど、我慢するんだよー?」

 「ブイ」
侑「よかった、あんま苦しそうじゃないね」

リナ『イーブイ用に作ってくれたものだからね! ぴったり!』 || > ◡ < ||


ポケモン用のレギュレーターは、口から放してしまわないように、固定式になってるらしい。

普段と違うから嫌がるかなとも思ったけど……イーブイは意外とすんなり受け入れてくれた。
285 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:30:10.59 ID:PfMOWZim0

果南「そんじゃ、全員準備出来たね! 行くよー!」

侑「は、はい!」

曜「ヨーソロー!」

善子「よきにはからえ」


イーブイを抱きかかえ、ホエルオーの尻尾の方── 一番海面に近い場所に4人で移動する。


曜「ホエルオーはここに置いていくから、もしはぐれちゃったりした場合はホエルオーを探してね。荷物もホエルオーの上にあるから」

善子「荷物番はムウマージにしてもらうから。ムウマージ、お願いね」
 「ムマァ〜ジ♪」

果南「そんじゃ、みんなポケモン出すよ! ランターン!」
 「──ランタ!!」

曜「ラプラス、出番だよ!」
 「──キュウ♪」

善子「ブルンゲル、出てきなさい」
 「──ブルン」

侑「フィオネ! お願い!」
 「──フィオ〜♪」


それぞれみずポケモンを海の上に出して、


果南「海に入るよー。レギュレーター着けてー」


レギュレーターを装着し、海に飛び込む。

私たちが海に飛び込むと、それぞれの手持ちたちが近くに寄ってくる。


果南『あーあー。聴こえてる?』

侑『はい!』

曜『問題ないよー!』

善子『おー……思った以上にクリアに聴こえるのね』

リナ『感度良好! 誰かの通信が切れたり、バイタルに何か異常があったら、すぐに報告するね!』 || > ◡ < ||

果南『お願いね、リナちゃん。それじゃみんな、ポケモンに掴まって潜ろう』

侑『はい! フィオネ、“ダイビング”!』
 「フィオ〜」


私たちは海へと潜っていきます──





    🎹    🎹    🎹





──海に潜ると、すぐに世界が青一色の世界に包まれる。


侑『わぁ……!』
 『ブィ〜!!』

果南『ふふ、この光景……初めて見たときは驚くよね』
286 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:30:54.69 ID:PfMOWZim0

透き通るような青の世界を漂っていると、まるで自分が海に溶けているのではないかという錯覚さえ覚える。

その非日常感に胸がドキドキする。それと同時に──歩夢にもこの景色を見せてあげたい。そんな気持ちが私の胸を過ぎる。

うぅん……あげたいじゃない。一緒に見に来よう……絶対に。

そのためにも、今は目的を果たさなきゃ……!


リナ『バイタル正常。レギュレーター正常稼働。オールグリーン』 || > ◡ < ||

果南『侑ちゃん』

侑『はい! フィオネ、お願い!』
 「フィオ〜」


掴んでいたフィオネを放すと、フィオネはゆっくりと海に潜っていく。


曜『侑ちゃん、ラプラスに掴まって』
 「キュゥ♪」

侑『はい!』


曜さんのラプラスに掴まり、先を泳ぐフィオネを追いかけ始める。


曜『……どんどん、深いところにいくね』

善子『どれくらいの深さなのかは見当付いてるの?』

果南『マナフィの伝説では、人がマナフィのいる場所にたどり着いてるから……人が耐えられないような水圧の場所じゃないとは思うけど……。水深100mを越えるようだったら、一旦引き返そう』

リナ『レギュレーター正常稼働。生成エア圧力平衡維持』 || ╹ᇫ╹ ||

果南『エアはレギュレーターが生成してくれるけど、息は出来るだけ深く長く吐くことを意識してね』

侑『は、はい! イーブイ、苦しくない?』
 『ブイ♪』


抱っこしたイーブイも問題なさそうだ。

──私たちはフィオネを追いかけながら、ただひたすらに潜っていく。


リナ『潜水時間10分経過。深度33m。レギュレーター正常。バイタル安定』 || ╹ ◡ ╹ ||

曜『30m超えたね』

果南『侑ちゃん、苦しくない?』

侑『は、はい、大丈夫です』

果南『OK. 出来るだけ、呼吸は深く長く……吸うよりも吐くことを意識し続けてね。吐き方が足りないと体内窒素を排出しきれずに、窒素酔いを起こすから』

侑『わかりました』

善子『……嫌なこと思い出した』

曜『善子ちゃん、窒素酔いで意識飛ばしかけたことあるもんね』

果南『各自、耳抜きも忘れないように』

侑『はい』
曜『了解』
善子『承知』


潜行は続く──



287 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:31:27.99 ID:PfMOWZim0

    🎹    🎹    🎹





リナ『──潜水時間20分経過。深度48m。レギュレーター正常。バイタル安定』 || ╹ ◡ ╹ ||

善子『50m行きそうね……』

侑『……はい』


だいぶ潜ってきた気がする。気付けば海面はかなり遠く、辺りも徐々に暗くなってきたため、果南さんのランターンが辺りを照らしながら潜っている。


果南『……おかしい』

曜『果南ちゃん? どうかしたの?』

果南『さっきから、全然ポケモンに遭わない』

曜『言われてみれば……』

善子『むしろ都合がいいんじゃないの?』

果南『いや……まだ表層なのに、全く見ないのはちょっと……』


どうやら、ポケモンの姿がほとんど見られないことに違和感があるようだ。


侑『リナちゃん、どう?』

リナ『周囲にポケモンの反応はない。確かにポケモンが極端に少ない気がする』 || ╹ᇫ╹ ||

果南『たまたま周囲にいないのか……実はポケモンが近寄れないような危険な場所なのか……』

善子『どうする? 異常があるなら、一旦戻るのも手よ』

果南『いや、進もう。むしろ、マナフィに近付いてる兆候かもしれない』





    🎹    🎹    🎹





リナ『──潜水時間40分経過。深度70m。オールグリーン』 || ╹ᇫ╹ ||

曜『普通のダイビングだったら、そろそろ潜水限界時間だね』

善子『マリーに聞いたけど、このレギュレーターなら10時間以上は潜水可能らしいわよ』

果南『いやー、海の中で生活出来る日も近いねー』

曜『果南ちゃん……実現したら、本当に海から帰ってこなさそうだね……あはは』


もう随分潜ってきた。

3人は能天気な話をしているけど……太陽の光が届かない深さなのか、辺りはもう真っ暗だ。


侑『イーブイ、離れちゃダメだよ』
 『ブイ…』


さすがにこれだけ暗いとイーブイも不安らしく、私の胸に身を寄せている。

そのときふと──


 「フィオ」


前方でランターンの光に照らされていたフィオネが動きを止める。
288 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:32:14.14 ID:PfMOWZim0

侑『フィオネ? どうしたの?』


私はラプラスから離れ、フィオネの傍に泳いで近寄る。

フィオネの傍に行くと、フィオネは──


 「フィオ」


小さな手で──前方を指差した。


侑『……そっちに何かあるの?』
 「フィオ」


暗くて、何も見えない……。


侑『果南さん』

果南『うん。ランターン、あっちに向かって“スポットライト”』
 「ランタ」


ランターンが一際強い光で、フィオネの指差した方へと光を向けると──


果南『!』

侑『か、果南さん、あれ……!』


そこには──岩壁に大きな大きな口をあけた洞窟の入り口があった。


善子『まさしくって感じじゃない……』

曜『辿り着いたね……!』

果南『うん! みんな、あの穴に向かうよ!』


果南さんの指示で、穴に向かって泳ぎ始めた、そのときだった──


リナ『──ポケモン接近!! こっちに向かってくる!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑『!?』


リナちゃんの警告の直後──目の前を高速で何かが横切る。

一瞬で、横切ったため、暗闇に紛れてすぐに見えなくなってしまう。


果南『ランターン!! “フラッシュ”!!』
 「ターーーンッ!!!!」


ランターンが周囲を一気に照らすと──


 「ゼルルッ!!!!」

曜『ブイゼル……!? こんなところに!?』

善子『門番ってわけ? いいわ、遊んであげる……! ブルンゲル! “シャドーボール”!』
 「ブルン…!!」


ヨハネ博士のブルンゲルが“シャドーボール”を発射し──猛スピードで飛んでいった影の弾は、ブイゼルに直撃し炸裂し、衝撃波を発生させる。


侑『わぁ!?』
 『ブイッ!!?』

曜『ラプラス!』
 「キュウ!!」
289 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:32:57.29 ID:PfMOWZim0

衝撃で発生した水流に流されそうになったところを、曜さんのラプラスにキャッチしてもらう。


侑『あ、ありがとうございます……』
 『ブイィ…』

曜『善子ちゃん! 周りのこと考えてよ!』

善子『この仄暗き深淵のお陰で、我が眷属 † 紫闇の海月 † はいつも以上にパワーを発揮している……加減は出来そうにもないわ……ククク』

侑『しあんのかいげつ……?』


確かに、ヨハネ博士のブルンゲルは紫色してるけど……。


曜『あーもう……なんかスイッチ入っちゃってるし……!』

リナ『曜さん!! 後ろ!? もう1匹高速で近付いてきてる!?』 || ? ᆷ ! ||

曜『なっ!?』

 「──ターーーマァァーーーッ!!!!!」


気付けば、曜さんの背後から接近した野生のタマンタが、“ハイドロポンプ”を放ってくる。


曜『ラプラス!! “サイコキネシス”!!』
 「キュゥゥ!!!!」


放ってきた“ハイドロポンプ”を曜さんのラプラスが“サイコキネシス”で咄嗟に逸らすと、


善子『わぁぁぁっ!!?』


逸らした激流がヨハネ博士とブルンゲルの近くを駆け抜けていく。


曜『あ、ごめん』

善子『っぶないわねぇ!? ヨハネを見習って、一発で倒──』

 「ゼルルルゥッ!!!!!」
 「──ゲコガッ…!!!」

善子『……せてなかったみたいね』


気付けば、一瞬で肉薄してきたブイゼルの突進を、いつの間にか繰り出されたヨハネ博士のゲッコウガが水のクナイで受け止めていた。

そして次の瞬間、ゲッコウガの掻き消え──


善子『“かげうち”!!』
 「ゲコガッ!!!!」


ブイゼルの背後から、斬り付けるゲッコウガの姿。

が、


 「ゼルルッ!!!!」


ブイゼルはそのクナイを尻尾で受け止めていた。


善子『へぇ……!』

曜『善子ちゃん!! 感心してる場合じゃないよ!!』

善子『ヨハネよ!!』

曜『このポケモンたち、強いよ!!』
 「キュウ…!!!」
290 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:33:39.91 ID:PfMOWZim0

そう言う曜さんとラプラスの周囲では、タマンタが高速で泳ぎまわっている。

そして、高速軌道をしながら──


 「タマァァァァ!!!!」


“エアスラッシュ”を放ってきた。


曜『ラプラス!! “フリーズドライ”!!』


ラプラスが咄嗟に冷気で分厚い氷の壁を作り出すけど──氷の壁は豆腐でも切るかのようにスパっと切れて、そのまま斬撃がラプラスに直撃する。


 「キュゥゥゥッ!!!!」
曜『く……っ……!』

侑『わぁぁ!?』
 『ブ、ブィィィ…!!?』


ラプラスが斬撃でダメージを受け、激しく身を揺らす。

私は振り落とされないように、ラプラスの甲羅の突起にしがみつく。


曜『侑ちゃん、大丈夫……!?』

侑『な、なんとか……』

 「タマァ…!!!!」


再び、“とっしん”の体勢を取るタマンタだが、


果南『“アームハンマー”!!』
 「──ラァァグッ!!!!!」

 「タマッ…!!!!?」


果南さんのラグラージが、目にも止まらぬスピードでタマンタの真横から、拳を叩きつける。

タマンタは拳の衝撃で吹っ飛ばされたが、


 「タマァァァァ!!!!!」


すぐに水中で切り返して、ラグラージに向かって“とっしん”してくる。


果南『マジ!? 耐えるの!?』


ラグラージに高速で接近するタマンタ。


曜『カメックス!! “ハイドロポンプ”!!』
 「──ガメェェェ!!!!!」

 「タマッ…!!!」


それを曜さんが繰り出したカメックスが水砲で狙撃するも、タマンタは察知して、攻撃を回避する。


曜『果南ちゃん!! 侑ちゃんを連れて先に行って!!』

果南『……! わかった!! ラグラージ!!』
 「ラグッ!!!!」


ラグラージが水中をジェットスキーのような速さで飛び出し、
291 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:36:58.77 ID:PfMOWZim0

果南『侑ちゃん! 行くよ!!』

侑『わっ!?』
 『ブイ!!?』『フィオ〜!?』


私とイーブイとフィオネを、まとめて大きな手で捕まえるようにして、海中の洞窟へ向かって飛び出した。


侑『ヨハネ博士!! 曜さん!!』

善子『心配しないでいい、マナ──』
曜『すぐ追い付くか──』

リナ『通信範囲外になった……!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

果南『ここは二人に任せよう……! 大丈夫、あの二人は強いから!』

侑『……わ、わかりました……!』


心配だけど……今は私の役割を果たさなきゃ……!

私は果南さんと共に──海底洞窟へと、突入する……。





    😈    😈    😈





 「ゼルルルッ!!!!!」


高速で泳ぎながら、ブイゼルがこっちに向かって突っ込んでくる。

それに合わせるように、


善子『“つじぎり”!!』
 「ゲコガァッ!!!!」


──ギィンッ!! 水中内に、鋭い音が響く。


善子『水のクナイと互角に打ち合ってくる……。……“かまいたち”を尻尾に纏って斬撃を強化してるのね』

曜『だから、感心してる場合じゃないって!!』


曜が私のもとに泳いできて、背中をくっつける。


善子『あら、苦戦してるじゃない、ジムリーダー様』

曜『そっちもね……!』

 「ゼルルルッ!!!!」

 「タマァ!!!!」


私たちの周囲ではブイゼルとタマンタが高速で泳ぎまわっている。


曜『カメックス!! メガシンカ!!』
 「──ガメェェェェ!!!!!」

曜『“みずのはどう”!!』
 「ガメェェェェ!!!!!」


メガシンカした曜のカメックスが、腕の“メガランチャー”から“みずのはどう”を発射するが、


 「タマ!!!!」
292 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:37:50.01 ID:PfMOWZim0

タマンタはそれを掻い潜り、きりもみ回転しながら突っ込んでくる。


曜『く……! 当たらない……! ダダリン! “てっぺき”!』
 「────」


曜は目の前にダダリンを出し、“てっぺき”でタマンタの“つばさでうつ”を防ぐが、あまりに勢いがありすぎて、


 「────」
曜『うわ!?』


4m近いダダリンの巨体が押されている。


曜『そ、それはやばいって!?』


回転しながら、ダダリンを圧倒するタマンタだが、


 「…!! タマッ!!!」


何かに気付いたように、その場から一瞬で離脱し──直後、別の場所から飛んできた“エナジーボール”がタマンタのいた場所を素通りする。


 「ゲルゥ…」


私のブルンゲルが回り込んでタマンタを攻撃したが、外したらしい。


曜『ご、ごめん……助かった』


お礼を受けながらも、私は私で返す余裕があまりない。


 「ゼルルルッ!!!!」


高速で動き回るブイゼルを目で追うので必死だからだ。


善子『ゲッコウガ、“みずしゅりけん”!!』
 「ゲコガガガガッ!!!!!」


連続で“みずしゅりけん”を放つが──ブイゼルはさらに加速し、泡をまき散らしながら“みずしゅりけん”をひょいひょいと躱す。


曜『ブイゼルもタマンタも速過ぎる……!』

善子『……。……スーパーキャビテーション』

曜『え!? なに!?』

善子『あのブイゼル、疑似的にスーパーキャビテーションを使ってるわ』

曜『いやだから、なにそれ!?』

善子『簡単に言うと、水と自分の表面の間に空気の層を作ることによって、摩擦を減らして速度を上げてるの。恐らく、“かまいたち”で作り出した空気の渦を体毛に紛れ込ませて、自分と体表と水の間に空気層を作り出してる。わかる?』

曜『とにかく速いのだけはわかった!!』


まあ、とりあえずそれがわかればいい。

正確に言うと発生メカニズムは全然違うから“疑似”なんだけど……まあ、今は細かいことを説明してもしょうがないから、これでいいでしょ。
293 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:38:46.96 ID:PfMOWZim0

曜『あの2匹はなんかすごい技使ってるから速いってこと!?』

善子『いや、タマンタは違う。体毛がないもの』

曜『じゃあ、素であんな速いとでも!?』

善子『たぶん、タマンタに関しては……速いのは泳ぐ速度じゃない』

曜『え?』

善子『タマンタはどんなポケモンか考えなさい。あんたも持ってるんだから』

曜『…………そうか、触角……!』


そう、タマンタは2本の触角で海水の微妙な動きをキャッチすることが出来るポケモン。

恐らくあのタマンタは──海水の微妙な揺らぎからこっちの動きを予測していて、まるで未来予知のような回避行動のせいで、実際の動きよりも速く感じているだけに過ぎないというわけだ。


善子『ただ、それは海水の揺らぎよりも速い攻撃には対応しきれない』

曜『……! だから、果南ちゃんのラグラージの攻撃は当たったんだ……!』

善子『答えがわかったら、あとはそっちでどうにかしてくれるかしら! 私はブイゼルを倒す秘策を思いついたから!!』

曜『了解であります……! タマンタ攻略の秘策は──タマンタだ!』
 「──タマァ〜!!」


曜はタマンタを繰り出し、


曜『“ちょうおんぱ”!!』
 「タマァァァァ〜〜〜〜」


“ちょうおんぱ”を前方に向かって発射する。

すると──


 「タ、タマァァ…!!!?」


相手のタマンタは急に軌道がおかしくなって、ふらふらしだす。

動きの鈍ったタマンタに──


曜『ラプラス!! “うたかたのアリア”!!』
 「キュゥ〜〜〜♪」


海中に心地の良い音色が響き渡ると──タマンタを包み込むようにみずエネルギーのバルーンが発生し、タマンタを閉じ込める。


 「タ、タマァ…!!!?」

曜『捕まえた……!! カメックス!! “はどうだん”!!』
 「ガァァーーーーメェェェーーー!!!!!」


動きを封じたタマンタに向かって、“メガランチャー”から“はどうだん”が発射され──


 「タマァァァ!!!!?」


バルーンごとタマンタを吹き飛ばした。


 「タ、タマアァァ…!!!!」


しかし、直撃を食らってなお、タマンタは態勢を立て直す。

……が、


 「タマ…!!!?」
294 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:39:30.05 ID:PfMOWZim0

そのときには既に、タマンタの頭上に──大きな黒い影が降ってきていた。


曜『“アンカーショット”ォッ!!!』
 「────」

 「ダマ゙ッ!!!!!?」


真上からダダリンの巨大なアンカーを叩きつけられ──タマンタは海中に向かって沈んでいった。


曜『よっし!!』

善子『やればできるじゃない』


いくらタマンタが海水の動きで先読みを出来ると言っても──音自体が攻撃だった場合は無理だ。

水中での音速は地上の4倍。察知出来ても避けるなんて到底不可能。

一瞬でも“こんらん”によって動きが鈍れば、曜に捉えられないような相手じゃない。

さて──あとは、


 「ゼルルルルッ!!!!!」


“みずしゅりけん”による牽制を潜り抜けて突っ込んでくるブイゼルだ。


善子『スーパーキャビテーション……面白いものを見せてもらったわ。でも、それ……相当制御に気を遣うんじゃない?』


空気の渦を自分に纏って速度を上げるなんて、よほどの達人芸だ。

そういう繊細な技は──


善子『ちょっと小突けば綻びるのものよ……!』
 「ゲコガッ!!!!」


ゲッコウガの右手に持ったクナイがパキパキと凍り始める。

それを見て──


 「ゼル…!!!」


ブイゼルがニヤリと笑ったのが見えた。そんなもの通じないとでも言いたげな笑み。


 「ゼルルルルッ!!!!」

 「ゲコガァッ!!!!」


2本のクナイを構えたゲッコウガと、ブイゼルが──すれ違いざまにお互いの斬撃をぶつけ合う。

──ギィンッという音がした直後……すれ違った背後に行ったブイゼルの体から──空気の層が裂け、体毛から弾けるように水泡が一気に飛び出した。


 「ゼルッ!!!?」

善子『スーパーキャビテーション、敗れたりね』


制御を失ってすっぽ抜けたブイゼルの先に──ヌッと現れる紫色の影。


 「ゲル…」

 「ゼルッ!!?」


ブルンゲルが触手を使って、ブイゼルをキャッチし、


善子『“ギガドレイン”!!』
295 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:40:16.71 ID:PfMOWZim0

 「ゲルゥ」
 「ゼルゥゥゥゥッ!!!!?」


ブイゼルからエネルギーを吸い取った。


 「ゼ、ゼルゥゥゥ…」


体力を吸いつくされて気絶したブイゼルは──ブルンゲルが解放すると、そのまま海底へと沈んでいった。


善子『……確かに、あれだけの芸当が出来る実力があるんだもの。ちょっとやそっと空気層に温度変化を与えても対応してくるわよね、でも──』


ゲッコウガは氷のクナイと──“ねっとう”で作ったクナイを海の水に霧散させた。


善子『冷たいのと熱いので2ヶ所を同時に斬られたら、さすがの達人でもうまくいかなかったみたいね』

曜『やるぅー! さすが、善子ちゃん!』

善子『ヨハネだっつってんでしょ』

曜『それにしてもよく気付いたね、あの2匹の使ってる能力に……』

善子『無視すんじゃないわよ! ま……ヨハネアイに掛かればこんなもんよ。これでも伊達にポケモン博士やってるわけじゃないってこと』

曜『お陰で助かったよ……ありがとう。それにしても……さっきの2匹って、やっぱり……』

善子『ええ。あの洞窟にある、特別な何かを守るための特別なポケモンに違いないわ。私の勘はそう言ってる』

曜『侑ちゃんと果南ちゃんを追いかけよう……!』

善子『そうね。思ったより時間食っちゃったし、急ぐわよ……!』


私たちは侑たちを追って、海底洞窟へと急ぐ。





    🎹    🎹    🎹





──海中洞窟を進むと……。


侑『……!? 果南さん、あれ……!』

果南『海面だ……』


ランターンで照らしながら海中を進んでいると──上の方に、海面が見えた。


果南『ラグラージ、ゆっくり上昇して』
 「ラグッ!!!」


ラグラージが果南さんの指示で海面に顔を出すと──


侑『ここ……完全に空洞になってる……?』


そこは身体が浸かるくらいの深さの水こそあるものの、上の方は完全に水のない、大きな空洞になっていた。

しかも仄かに壁が光っている気がする……。


果南『ヒカリゴケが自生してる……? 海底洞窟に……? あ、侑ちゃん、まだレギュレーター外さないでね。リナちゃん』

リナ『多少酸素濃度が低いけど……呼吸は出来ると思う。長時間は危ないかも』 || ╹ᇫ╹ ||

果南『わかった』
296 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:40:56.46 ID:PfMOWZim0

果南さんはリナちゃんの言葉に頷きながらレギュレーターを外す。


果南「……うん、多少息苦しいけど、呼吸は出来るね。侑ちゃん、レギュレーター外してもいいよ」

侑『は、はい』


言われたとおり、自分のと──イーブイのレギュレーターを外してあげる。

すると、確かに少し息苦しさを感じるものの、普通に息が出来る空間だった。


侑「フィオネ……この先に、マナフィがいるってこと?」
 「フィオ」


イーブイと一緒に腕に抱いていたフィオネが、私の腕からぴょんと飛び降りて、水の中を泳いで進み始める。


果南「付いていこう」

侑「はい」


ラグラージの背に乗ったまま、フィオネを追いかけて奥へ進んでいくと──開けた空間に出た。


侑「……ここにいるの?」
 「フィオ〜」


訊ねるとフィオネはさらに奥へと進んでいく。


侑「まだ、ここじゃないんだ……」

果南「……ラグラージ、フィオネを追いかけて」
 「ラグ」


広い空間をさらに奥に進んでいた──そのときだった、


リナ『!! ポケモンの反応!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


リナちゃんの発報と共に──


 「フィオッ!!!?」


水中から何かに突き上げられるようにして、フィオネが吹っ飛ばされる。


侑「フィオネ!?」


私は咄嗟に、ラグラージの背から踏み切って、空中でフィオネをキャッチし──そのまま、水の中にザブンと落ちる。


果南「侑ちゃん!?」

侑「ぷは……っ!! だ、大丈夫です!! それより、フィオネ! 平気!?」
 「フ、フィォ〜…」


訊ねると、フィオネの顔色が悪い。


リナ『フィオネ、“どく”状態になってる……』 || > _ <𝅝||

侑「“どく”……!?」


直後、目の前の水の中から──ザバァと音を立てながら、とんでもないサイズのトゲを生やした丸いポケモンが姿を現す。


 「ハリィ…」


その見た目にはなんとなく、既視感があったけど──
297 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:41:50.78 ID:PfMOWZim0

侑「は、ハリーセン……──じゃない……!?」


目の前にいたのは、ハリーセンをそのまま大型化して凶悪にしたような姿をしたポケモンだった。


果南「まさか、ハリーマン……!? ハリーセンの進化した姿だ!!」

侑「ハリーセンの……進化系……!?」

 「ハリィ…!!!!」


ハリーマンは全身の針をさらに伸ばし──それが私たちに迫ってくる。


果南「“アームハンマー”!!」
 「ラグッ!!!!」


その針ごと水中に叩き落とす勢いで、ラグラージが大きな拳を使ってハリーマンに攻撃する。

……が、


 「ハリィ…!!!!」


ハリーマンは水中に沈むどころか──その針をラグラージの拳に突き刺して、攻撃を耐えている。


 「ラ、グゥ…!!!」

侑「くっ……!!」


私はダイビングスーツの腕のボタンを押して、


 「──パルトッ!!!!」

侑「ドラパルト!! “ドラゴンアロー”!!」
 「パルトッ!!!!!」
 「メシヤーーーーッ!!!!!」「メシヤーーーーッ!!!!!」


ドラパルトを繰り出し、“ドラゴンアロー”で攻撃する。

至近距離から音速で飛んでくる矢を受けたハリーマンは、


 「ハリッ…!!!」


さすがにノックバックし、ラグラージの拳に突き刺さった針が抜ける。


侑「果南さん! このポケモンは私がどうにかします! だから、果南さんは先に奥へ──」

果南「いや……!! 先に行くのは私じゃない……!」

 「ラグッ!!!!」


ラグラージが水面を高速で泳いでハリーマンに接近して、フックによる拳撃を叩きこみ、さらに畳みかけるように両手で上から押さえつける。

もちろん、全身針だらけのハリーマンはここぞとばかりに、ラグラージに針をぶっ刺しまくる。


 「ハリィッ…!!!!」

侑「か、果南さん……!? 何して……!?」

果南「フィオネの“おや”は誰!? ここまで来た目的は何!?」

侑「……!」

果南「ここは私に任せて……! こいつに侑ちゃんの邪魔はさせないからさ!!」

侑「ドラパルト……!!」
 「パルトッ!!!」
298 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:42:28.42 ID:PfMOWZim0

私はドラパルトを呼び寄せ、頭の上に登り──


侑「行くよ!!」
 「パルトッ!!!!」


ドラパルトは猛スピードで奥へ向かって発進した。


 「ハリィッ!!!!」


ハリーマンが私たちを狙って針を伸ばそうとするが、


果南「させないって言ってんでしょ!!」

 「ラァグッ!!!!!」

 「ハリッ!!!!!」


ラグラージが両拳を上から叩きつけ、激しい水しぶきを上げながら、ハリーマンを水中に沈める。


果南「侑ちゃん!! 頼んだよ!!」

侑「はい!!」


私は奥に向かって──突き進む。



 「…ハリィィィィィ!!!!!!」

果南「まあ……さすがにこの程度じゃやられてくんないよね」
 「ラグッ…!!!」

果南「相手にとって不足なし……!! やってやろうじゃん!!」





    🎹    🎹    🎹





──ドラパルトの頭に乗って進んでいくと、大部屋の壁際にはいくつか先に続く横穴があった。

携行ライトを点けて照らしてみるけど……。


侑「やっぱり、フィオネじゃないとどこに行けばいいのかがわからない……」
 「フィオ…」


“どく”で弱った、フィオネを見て、


侑「そうだ! フィオネ、“ブレイブチャージ”!」
 「フィオォォォォ…!!!」


フィオネに“ブレイブチャージ”を指示する。


 「フィオ〜」


すると、すっかり元気になってフィオネは再び水中へと飛び込んでいく。

“ブレイブチャージ”には状態異常を回復する効果がある。

それで“どく”を回復し、元気になったフィオネは──


 「フィオ〜」
299 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:43:13.40 ID:PfMOWZim0

横穴の内の一つに迷わず進んでいく。


侑「ドラパルト、フィオネを追いかけて」
 「パルトッ」


私たちはフィオネを追いかけ──奥へと進む。





    🐬    🐬    🐬





 「ハリィッ!!!!」

 「ラグッ…!!!!」


ハリーマンの針が突き刺さると、ラグラージは苦悶の表情を浮かべる。


果南「さっきよりも威力が上がってる……! それが、“どくばりセンボン”ってやつだね……!」


“どくばりセンボン”は相手を“どく”状態にする効果がある技でありながら、“どく”状態の相手には威力が倍増する技だと文献を読んだことがある。

何故、こんな曖昧な言い方かというと──ハリーマンは今現在、野生の姿が一切確認されておらず絶滅種とされているポケモン。

まさか、こんな海深くの洞窟の中で……しかもオトノキ地方にこんなに近い場所でひっそり生息していたなんて考えもしなかった。


果南「海のポケモンのエキスパートとして、会えて嬉しいよ……! しかも、野生とは思えない強さ……光栄だよ!」

 「ハリィィィィ!!!!!」


なら、私もその強さには本気で応えないとね……! 私は髪をかき上げ、左耳を出す。──そこには、貝殻ピアスの中に輝く“キーストーン”。


果南「ラグラージ……!! メガシンカ!!」
 「ラァァァァーーーグッ!!!!!」


ラグラージが光に包まれ──上半身の筋肉がさらに発達し、巨大になった腕を振り上げる。


 「ラァァァァーーーーグッ!!!!!」
果南「“アームハンマー”!!」


腕を振り下ろすのと同時に──腕についているオレンジの噴出口からジェットエンジンのように水を逆噴射し、超加速して拳を叩きつける。


 「ハリィィッ!!!?」


──ドッパァッ!! という音とともに特大の水しぶきを上げ、ハリーマンを水底に向かって叩き落とす。

ド派手に上がった水しぶきは洞窟の天井まで水浸しにし、洞窟内に水滴が落ちる音があちこちから鳴り響く。


果南「……まさか、これで終わりじゃないよね……!」
 「ラグ…!!」


ラグラージがピクリと反応し、ラグラージが全身にある噴出口から水を逆噴射して、ジェットスキーのようなスピードで泳ぎ出す──と同時に、水中から大量の槍のような鋭さ針が一斉に飛び出してきた。


果南「“ミサイルばり”……!!」


ラグラージの背の上で振り返ると、ハリーマンの“ミサイルばり”がこちらを追尾してくる。

なら……!
300 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:46:04.59 ID:PfMOWZim0

果南「“いわくだき”!!」
 「ラグッ!!!」


ラグラージは高速で泳ぎながら、壁に拳を叩きつけ、洞窟の壁を壊し──


果南「“いわなだれ”!!」
 「ラァグッ!!!」


崩れてきた岩を殴り飛ばして、“ミサイルばり”にぶつける──が、“ミサイルばり”は容易に岩を穿って、


 「ラァグッ!!!?」
果南「うわっ!?」


ラグラージに直撃する。


 「ラ、グゥゥッ…!!!」
果南「岩くらいじゃ止めらんない……!」


怯んだラグラージの目の前に、


 「ハリィィィィッ!!!!」


ハリーマンが飛び出し、ハリーマンから黒いオーラが溢れ出す──“あくのはどう”だ……!

私はすかさず、次の技の指示。


果南「“みずのちかい”!!」
 「ラグッ!!!!」


ラグラージが水面叩くと──水柱がハリーマンの真下から飛び出し、ハリーマンを打ち上げる。

それによって、照準のズレた“あくのはどう”は私の頭スレスレの場所を飛んでいく。

打ち上げられたハリーマンは──


 「ハ、リィィィィ!!!!!」


空中で体を膨らませ──洞窟の天井に全身の鋭い針を突き刺し、そのままスパイクのように天井の岩盤を噛みながら、回転して──こっちに向かって飛び出してくる。


果南「うわ……! あれ、当たったら絶対痛いじゃん……!」


飛んでくるハリーマンを前にそんな感想を呟く。

あの硬さ、鋭さの針を持った球体に突っ込まれたら──絶対、無事じゃ済まない。


果南「ただ……こっちのパンチは、それ以上だけどね……!!」
 「ラァァァーーーーグッ!!!!!」


ラグラージがみずタイプのエネルギーを一気に片腕に集束し──直後、水流噴出口からジェット噴射──スピードを乗せた最大火力の拳……!!


果南「“アクアハンマー”!!」
 「ラァァァーーーーーーーグッ!!!!!」

 「ハリィィィィ!!!!!」


2匹の攻撃がぶつかった瞬間──バキバキッ!! と音を立てながら、ラグラージの拳が、ハリーマンの全身の針を折り砕き、


 「ハ、リィッ…!!!?」


拳のインパクトと共に、膨れ上がったみずのエネルギーが──周囲の海面と岩壁を衝撃で抉り取った。

爆発のような音と共に、海底洞窟を揺らし──嵐の中かと見紛うほどに激しく波立つ向こうで……。
301 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:47:18.94 ID:PfMOWZim0

 「ハ、リィィ…」


岩壁にめり込んだハリーマンが気絶していた。


果南「うっし……お疲れ様、ラグラージ」
 「…ラグ…ラグゥ…!!!」

果南「いやー、強かったね……“アクアハンマー”使ったの、千歌との戦い以来だよ……」
 「ラグッ…」


この技は消耗が大きい分、一撃必殺級の大技だ。

いくら相手が強かろうが、硬かろうが関係なく、全てをパワーでねじ伏せる。私がラグラージと一緒に考えた最終兵器。


果南「ま……私のラグラージ相手にパワーで挑もうとしたのが運の尽きだったね」


そのとき、


 「ラ、ラグ…」
果南「おとと……!?」


ラグラージがよろけて、乗っている私も落っこちそうになる。


果南「っと……“どく”受けてたんだった。お疲れ様、ゆっくり休んで」
 「ラグ──」


ラグラージをボールに戻す。

それと、同時に少し離れてフィールド全体を照らしていたランターンが泳ぎ寄ってくる。


果南「さて、侑ちゃんを追いますかー」
 「ターン」


ランターンに掴まって、奥へと進もうとしたそのとき──


 「──今の爆発何!? 侑!? 果南!? 無事なの!?」
 「──二人ともー!! 返事してー!!」


入り口側からそんな声が聞こえてきた。


果南「あ、やば……曜ちゃーん! 善子ちゃーん! こっちだよー!!」


“アクアハンマー”の衝撃を爆発と勘違いして大慌てする曜ちゃんと善子ちゃんに向かって、大きな声で応える。

一旦二人と合流するために、入り口側へと泳ぎ出すと──


 「ヨハネだっつってんでしょーーーーー!!」


善子ちゃんの元気な返事が響いてくるのだった。



302 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:48:45.33 ID:PfMOWZim0

    🎹    🎹    🎹





──ゴォンッ……!!


侑「わっ……!? な、なに……? 爆発……?」
 「ブイ…」


背後から、爆発音と共に、洞窟内が揺れる。

なんだか、果南さんのことが心配になるけど……。


リナ『果南さんなら、たぶん大丈夫だよ。とんでもなく強いから』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん……今は前に進もう」
 「ブイ」


リナちゃんの言葉に頷く。


 「フィオ〜」


引き続き、フィオネを追ってしばらく進むと──また、開けた空間に出た。

ただ、そこはさっきの空間とは違い──水底が見えていた。


リナ『かなり浅い……たぶん足がつくと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……ドラパルト、降りてもらっていい?」
 「パルト」


ドラパルトに指示を出して──そこに降り立ってみると、水深は私の脹脛くらいまでしかなかった。

ただ、それよりも……。


侑「ここ……レンガだ……」


透き通るの水の中でクリアに見えている水底は──エメラルドグリーンをした、レンガで出来ていた。

どう見ても、人工物……。つまり……。


侑「ここは……人が作ったってこと……?」

リナ『海底洞窟じゃなくて、海底遺跡だったんだね』 || ╹ᇫ╹ ||


そんな中、


 「フィオ〜」


フィオネがちゃぷちゃぷと音を立てながら、さらに奥へと進んでいく。


侑「……行こう」
 「ブイ」


フィオネを追って、ちゃぷちゃぷと音を立てながら進んでいく。

不思議なことにこの空間は、何故だか不思議な光に包まれていて……携行ライトを消しても、十分視界が確保されている。

壁もだけど……足元も光っている気がする。


侑「……もしかして、このレンガが光ってるのかな……?」

リナ『見ただけじゃ私でも、何の物質で出来てるのかがわからない……』 || ╹ᇫ╹ ||
303 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:49:46.53 ID:PfMOWZim0

得体の知れない場所だけど……不思議とその光を見ていると心が落ち着く気がした。

しばらく、フィオネを追って進むと──


 「フィオ〜」


フィオネが、動きを止める。


侑「フィオネ?」
 「フィオ〜」


名前を呼ぶと、フィオネが私のもとへと戻ってくる。


侑「……フィオネはここから来たの?」
 「フィオ〜♪」


私が訊ねると、フィオネが鳴きながら頷いた。


侑「じゃあ、ここに……」


私は周囲を見回す。……今のところ、特にポケモンの姿は見えないけど……。

でも、フィオネのタマゴはここで産まれたらしい。そして、海を渡って……私のもとにたどり着いた。

なら、きっとここに……いるんだ。


侑「──マナフィ! いるなら、出てきて! あなたにお願いしたいことがあるんだ!」


私の声が、不思議な光に包まれた空間の中で反響する。


侑「…………」


ただ、呼び掛けてもそこにあるのは、穏やかな水面と依然光り続ける不思議な壁と床だけ。


リナ『今のところ……ポケモンの反応はない』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ここじゃ……ないのかな……」


もっと奥に行ってみた方がいいのかな……。そう思って、足を踏み出そうとした、そのときだった。


 「──フィ〜♪」

侑「……!」

リナ『……!?』 || ? ᆷ ! ||


急に空間内に鳴き声が響き──直後……まるで、今しがた目の前で生まれたかのように、フィオネによく似た姿のポケモンが水の中から現れた。


侑「……マナ……フィ……」

 「フィ〜」

侑「マナフィ! お願いがあるんだ!」

 「フィ〜?」


私の言葉にマナフィは首を傾げる。


侑「マナフィの心を入れ替える力を貸して欲しいんだ……! だから、私たちと一緒に来てくれないかな……」


私がそう言うと、
304 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:50:40.54 ID:PfMOWZim0

 「……マーーナフィーーッ!!!」

侑「わぷっ!?」
 「ブイッ!!?」


私の顔に向かって“みずでっぽう”が飛んできて、尻餅をつく。


リナ『侑さん、大丈夫!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「う、うん……びっくりしただけ……」


私が立ち上がろうとすると──


 「フィ〜」


マナフィがその隙に奥へと逃げていく。


侑「!? ま、待って……!!」


マナフィを追いかけようとした瞬間──私の目の前に“うずしお”が3つ発生し、竜巻のように水を巻き上げる。


侑「な……!?」


そして、その渦の中から──


 「フィオ〜」「フィオ〜」「フィオ〜」


3匹のフィオネが飛び出してきた。

そして、同時に、


 「フィオーー」「フィオーー」「フィオーー」


“バブルこうせん”を発射してきた。


侑「うわぁ!?」
 「フィーーーオーーー」


驚く私の前にフィオネが躍り出て──“ハイドロポンプ”で、相手の攻撃を相殺する。


侑「あ、ありがとう……フィオネ……!」
 「フィオ〜」

 「フィオ〜」「フィオ〜」「フィオ〜」


3匹のフィオネが、マナフィの盾になるように立ちはだかる。

そして、その奥で、


 「フィ〜」


マナフィがこちらを見つめていた。

まるで──私の実力を試しているかのように。


侑「……わかった。ここはポケモントレーナーらしく……バトルで実力を示すよ……!!」
 「パルトッ!!!」


私は頭を下げたドラパルトの頭に掴まり、そのまま飛び上がる。

飛行して水面から離れると同時に、
305 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:51:20.87 ID:PfMOWZim0

侑「イーブイ!! “きらきらストーム”!!」
 「ブーーーイッ!!!!」


私の肩に乗ったイーブイが、パステル色の旋風を発生させて、フィオネたちを攻撃する。


 「フィーー!!?」「フィーー!!?」「フィーー!!?」


フィオネたちは、その風に巻き上げられて、ストームの中をぐるぐると振り回されるが──


 「フィーー!!」「フィーー!!」「フィーー!!」


竜巻の中で、同時に“れいとうビーム”を発射してくる。

回転する渦に巻き込まれながら発射してくるビームは、あちこちでたらめな方向に発射され、壁や天井を手当たり次第に凍らせ始める。


リナ『あわわ!?』 || ? ᆷ ! ||

 「パルトッ…!!!」
侑「く……!?」


あまりにでたらめな攻撃に、逆に反応出来ず、“れいとうビーム”がドラパルトの体を掠る。

凍った体は“きらきらストーム”の効果で一瞬で溶けるけど、こおりタイプの攻撃はドラパルトにとって弱点になっちゃう……!


侑「イーブイ! “びりびりエレキ”!!」
 「ブイッ!!」


イーブイが私の肩からぴょんと跳ねて──風に巻き込まれているフィオネたちに電撃を放つ。


 「フィオーーー!!?」「フィオーーー!!?」「フィオーーー!!?」


電撃に痺れたフィオネたちに向かって──


侑「“ドラゴンアロー”!!」
 「ドラパッ!!!!」
 「メシヤーーーーッ!!!!」「メシヤーーーーッ!!!!」


ドラメシヤたちを発射し、


 「フィーーッ!!!?」「フィーーッ!!!?」


フィオネを2匹吹っ飛ばす。


侑「あと1匹……!!」
 「ブイッ!!」


イーブイをキャッチしながら、次の攻撃を構えようとした瞬間──


 「フィーーーオーーー!!!!」

侑「!?」
 「パルトッ…!!?」


フィオネが激しく閃光した。

その強烈な閃光に焼かれたドラパルトがバランスを崩し、振り落とされそうになる。

私は咄嗟にドラパルトのツノにしがみついて振り落とされないようにする。
306 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:52:22.34 ID:PfMOWZim0

侑「い、今の“マジカルシャイン”……っ」

リナ『ゆ、侑さん大丈夫……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「ちょっと、だいじょばないかも……」


不意を打たれて、まともに“マジカルシャイン”を見てしまったせいで、目がちかちかする。

私が視界不良の中、


リナ『侑さん、前!?』 || ? ᆷ ! ||


リナちゃんの声がしたと思ったら、


 「パルトォッ!!!?」


ドラパルトの悲鳴のような鳴き声と共に浮遊感に襲われる。


侑「……っ」


霞む目で、ドラパルトを確認すると──ドラパルトの体が半分ぐらい凍り付き、落下を始めていた。


侑「“れいとうビーム”……!」


何をされたかを理解すると同時に──バシャンッ!! と音を立てながら、ドラパルトが床に落下する。

落下の衝撃で、私もドラパルトの上から放り出されて、バシャッという音と共に床に落ちる。

水の張った床の上だから、そこまで痛くはなかったものの──今の私はほとんど目が見えない。


 「フィオ〜!!」


目の前で敵のフィオネの鳴き声が聞こえる。


リナ『侑さん!! また、“れいとうビーム”が来る!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……っ……!」


リナちゃんの悲鳴のような声を聞いて、私は……フィオネの声がした方に向かって──イーブイをぶん投げた。


 「フィーーー!!!!」

侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」

 「ブイィィィィ!!!!!」


イーブイは空中で全身に炎を纏って──“れいとうビーム”の中を突き進む。


 「フィッ!!?」

 「ブイッ!!!」

 「フィーーーッ!!!?」


鳴き声でフィオネに“めらめらバーン”が直撃したことを確認し、


侑「“こちこちフロスト”!!」

 「イッブィッ!!!」

 「フィォッ──」


フィオネを真っ黒い氷の塊の中に閉じ込めた。
307 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:53:40.77 ID:PfMOWZim0

侑「はぁ……はぁ……」

リナ『侑さん、平気!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「うん……どうにか……」


やっと目も慣れてきて、視界が戻ってくる。

顔を上げると──“ドラゴンアロー”の直撃を受けて気絶し、ぷかぷかと浮いている2匹のフィオネ。黒い氷の中で動けなくなった3匹目のフィオネと──部屋の奥でぽわぁっとした光を放つマナフィの姿が見えた。


リナ『侑さん!? あれ、“ほたるび”!? マナフィが攻撃の準備してる!?』 || ? ᆷ ! ||


“ほたるび”は自身の特攻を一気に上昇させる技だ。


 「マーーナーー──」


マナフィが口から水流を吐き出そうとした瞬間──


 「──フィオ〜」


マナフィの背後に──私のフィオネが、水の中から現れた。


 「フィ!?」

侑「“うずしお”!!」

 「フィオ〜!!」


フィオネがマナフィの立っている水面に“うずしお”を発生させて、マナフィの動きを拘束した。


 「フィ、フィーーー!!!?」


“うずしお”中でくるくる回りながら、マナフィが鳴き声をあげる。


侑「はぁ……どうにか、捕まえた……」


思わず安堵の息が漏れた。


リナ『今のってもしかして……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん。フィオネは最初から“とける”で水の中に身を隠しながら、少しずつマナフィの背後に近付いてたんだよ……」

 「フィオ〜♪」


そして、背後から“うずしお”でバインド。

どうにかうまく行ってよかった……。


 「フィーーー!!!?」


私は依然“うずしお”の中で目を回しながら回転しているマナフィのもとに歩み寄る。


 「フィーーーッ!!!! フィーーーッ!!!」


私の気配を感じたのか──マナフィは周囲に向かって、デタラメに“みずでっぽう”を発射し始める。


侑「わわっ!?」

 「フィーーーーッ!!! フィーーーーッ!!!」


どうにか、身を屈めて、水流を避けながら前に進むけど……。
308 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:54:16.25 ID:PfMOWZim0

 「フィーーーッ!!! フィーーーーーッ!!!!」


大きな声を出しながら、私が近寄るのを拒んでいるマナフィを見て──


侑「……フィオネ、“うずしお”解除してあげて」

 「フィオ」


“うずしお”を解除させた。


 「フ、フィ…?」

リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||


突然攻撃の手を止めた私に、マナフィが戸惑いの表情を浮かべ、リナちゃんが動揺した声をあげる。


侑「……私は、マナフィを無理やり捕まえに来たんじゃない」


私はそう言いながら、戸惑っているマナフィの方に歩を進め──マナフィの目の前で身を屈める。


侑「……マナフィ、私……助けたい人がいるんだ」

 「フィ…?」

侑「すごくすごく……大切な人なんだ。……その人を助けるためには……君の力が必要なんだ」

 「フィ…」

侑「少しの間でいいから……私に君の力を貸してくれないかな……?」
 「…フィ」


真っすぐマナフィの目を見つめながらお願いすると。


 「フィ」


マナフィは頷いて、私の膝に手を触れる。


侑「うん、ありがとう、マナフィ」


お礼を伝えながら、マナフィを優しく抱き上げる。


リナ『さ、さっきまで戦ってたのに……説得しちゃった……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「ちゃんとお願いすれば……マナフィにも伝わるかなって……」
 「フィ〜」

侑「それに……力を貸してもらうのに、力尽くで無理やり言うことを聞かせるなんて、ダメだって思ったんだ。……それじゃ、果林さんたちのやろうとしてることと、何も変わらない」

リナ『侑さん……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「もちろん、戦って示さなくちゃいけないときはある。だけど……今はそういうときじゃないって、思ったからさ」

リナ『……うん。私もそれがいいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん」


それに……無理やりマナフィに言うことを聞かせて助けてもらったなんて知ったら……歩夢は悲しむと思うから。


 「フィ〜♪」
侑「それじゃ、戻ろっか!」
 「ブイ♪」「フィオ〜♪」

リナ『うん♪』 || > ◡ < ||



309 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:55:06.00 ID:PfMOWZim0

    🎹    🎹    🎹





大広間に戻ると──すぐにランターンの光が見えてきた。


侑「果南さーん!」

果南「! 侑ちゃん!」

善子「侑!」

曜「侑ちゃん!」


私の声に気付いて、みんなが近寄ってくる。

私もフィオネに引っ張ってもらいながら、みんなのもとへと泳いでいく。


果南「よかった……道がたくさんあって、どこに行ったのかわからなかったから……」

善子「侑、怪我してない? 平気?」

侑「はい! それと……ちゃんと、目的も達成しました!」


私がそう言うと、


 「フィ〜♪」


マナフィが水中から私たちの目の前に姿を現した。


果南「……! マナフィ……!」

侑「はい! 協力してもらうようにお願いして、一緒に来てもらいました!」
 「フィ〜♪」

善子「よくやったわ……リトルデーモン侑……! ほ、褒めて遣わすわ……!」


そう言いながらヨハネ博士は、何故か顔を背ける。


曜「あはは……ごめんね、侑ちゃん。善子ちゃんさっきまで侑ちゃんのことすごい心配してたからさ。安心して、泣けてきちゃったみたい」

善子「泣いてないわよ!! あとヨハネよ!!」

果南「はいはい、再会に感動するのもいいけど、ここはまだ海の底だよ。そういう話はホエルオーの場所に戻ってからにしよう」

侑「はい! 帰りましょう……!」
 「フィ〜」


こうして私たちは、無事マナフィを連れて帰ることに成功したのだった。





    🎹    🎹    🎹





果南「──遺跡があった……?」

侑「……はい」

リナ『マナフィが居た場所は、床がレンガ造りで、明らかに人の手で作られた空間になってた』 || ╹ᇫ╹ ||

果南「ふーむ……」


ホエルオーに揺られながら、すっかり日も落ちた海を進む最中、私はマナフィのいた場所のことを果南さんたちに話していた。
310 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:55:43.47 ID:PfMOWZim0

曜「マナフィにレンガを扱う力があるとかは?」

善子「……まあ、可能性はゼロじゃないけど……人が作ったって考えた方がいくらか自然だと思うわ」

曜「でも、あんな場所だよ?」

善子「それはまあ……」

果南「…………」


果南さんはしばらく、顎に手を当てて考えていたけど──


果南「……マナフィにはちょっとしたお伽噺があるんだけどさ」

侑「お伽噺……ですか……?」

果南「海の王子と呼ばれるポケモンに人の勇者が会いに行くお話しなんだけど……勇者はマナフィに会うために、3匹の海のポケモンに認めてもらって、そのポケモンたちをお供にして、マナフィに会いに行くんだ」

曜「3匹……? それってもしかして……」

果南「うん。その3匹は……ブイゼル、タマンタ……そして、大きなトゲのハリーセンだって言われてる」

善子「ブイゼルにタマンタに……大きなトゲってのは、ハリーマンよね……なるほどね」

曜「あのポケモンたちは……勇者のお供のポケモンだったってこと?」

果南「かもしれないね……」

善子「勇者はマナフィに出会ったあと……マナフィのために、神殿を作り、自らのお供たちを王子を守る門番として、あそこに残した……。そう考えるとしっくり来るわね」

曜「勇者のお供かぁ〜……どうりで強いわけだよ……」

果南「ただ、大昔のお話だから、本当に勇者のポケモンたちだったのかはわからないけどね……」

善子「ま……それは今後の研究課題としましょう。今はとにかく、作戦の成功を喜びましょう」

侑「……はい!」


ホエルオーは月明りが照らす海をゆっくりと進んでいく。

そんな月夜の下──


 「フィ〜♪」


マナフィは嬉しそうに、鳴き声をあげながら、泳いでいるのだった。



311 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:56:16.46 ID:PfMOWZim0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【蒼海の遺跡】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.73 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.72 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.64 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.67 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.64 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:231匹 捕まえた数:10匹


 侑は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



312 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:01:24.16 ID:9NVhM0zb0

■Chapter059 『裏側の世界』 【SIDE Kasumi】





──セキレイシティを発ったかすみんたちは、ただいま15番水道を目指して移動の真っ最中です。


鞠莉『あーあー……マイクテス、マイクテス……聞こえるかしら?』


耳に付けたイヤホンマイクから、鞠莉先輩の声が聞こえてくる。


かすみ「聞こえてますよ〜!」

理亞『聞こえる。問題ない』

ルビィ『大丈夫です!』

彼方『彼方ちゃんもおっけ〜。全員大丈夫そう〜』

鞠莉『Thank you. これで離れても連絡が取れるから、飛行中は外さないでね』

かすみ「はーい♪ それにしても、これ便利ですねぇ〜。いつでもかすみんの可愛い声をみんなに届けられちゃいます♪」

彼方『あはは〜そうだね〜』

理亞『……はぁ』

かすみ「む……誰ですか、今溜め息吐いたの!」

ルビィ『け、ケンカしないで〜!』

鞠莉『賑やかねぇ……。もう少しで15番水道に入るわよ。みんな、気を引き締めて!』


鞠莉先輩の言葉で前方に目を向けると──船の残骸のようなものが漂う海域が眼下に見えてくる。


理亞『船の墓場……』

ルビィ『ぅゅ……ここ、いつ来てもちょっと怖いかも……』

かすみ「ルビ子は怖がりだなぁ〜、飛んでれば問題ないって〜」

理亞『……ルビィ、かすみにルビ子なんて呼ばせてるの?』

ルビィ『え? よ、呼ばせてるというか……呼ばれてるというか……。……か、可愛くないかな……? ルビィは結構気に入ってるんだけど……』

理亞『年下でしょ? 舐められてるんじゃないの?』

ルビィ『舐められてるってことはないと思うけど……でも、ルビィこんな見た目だから……』

かすみ「むー、別にかすみんが、ルビ子のことどんな風に呼んでもいいでしょ!」

理亞『年上に対して敬意はないの?』

ルビィ『り、理亞ちゃん! ケンカしないでって……!』


な〜んか、やったら突っかかってきますねぇ……。


かすみ「はっはぁ〜ん……さては〜……」

理亞『何よ』

かすみ「理亞先輩ったら、かすみんがルビ子のこと、あだ名で呼んでるから嫉妬しちゃってるんですかぁ〜?」

理亞『はぁ!? 何言ってんの!? バカじゃないの!?』

かすみ「もう、そうならそうと最初から言ってくださいよ〜。理亞先輩も、りあ子って呼んであげますから〜。ルビ子とお揃いですよ〜?」

理亞『ちょっと今からあの子、撃ち落としてくる』


そう言いながら、理亞先輩のクロバットがこっちに方向転換して向かってくる。
313 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:02:06.59 ID:9NVhM0zb0

かすみ「ひ、ひぃぃぃぃ!!? こっち来ないでくださいよぉー!!?」

鞠莉『もう、じゃれてないで真面目にやりなさい!! 幽霊船の海域に入るわよ!』

理亞『ちっ……次言ったら本気で落とすから』

かすみ「も、もう……ちょっとした冗談じゃないですか……」

彼方『いや〜みんな、楽しそうだね〜』

ルビィ『ぅゅ……大丈夫かなぁ……』





    👑    👑    👑





幽霊船の海域とやらに入って数分もしないうちに──眼下の海は濃い霧に包まれ始めていました。


鞠莉『……確かにすごい濃霧ね』

彼方『海が全然見えなくなっちゃったねー……』

鞠莉『……ロトム、解析お願い』
 『了解ロトー』


ロトムが鞠莉先輩の指示で、海霧を上から観察し始めると、


 『パターン一致。一ヶ所だけ、発生源が違うと思われる霧があるロト。あそこに幽霊船があるロト』


すぐに目的の場所を発見する。


鞠莉『OK. そこまで、案内して』
 『了解ロト』


ロトムが先導する形で、かすみんたちは霧の中へと降りて行きます。





    👑    👑    👑





霧の中を進んでいくと──その中から、見覚えのある巨大な木造船が姿を現しました。


かすみ「……! これ、これです! かすみんたちが乗ったのはこの船で間違いないです!」

彼方『おー! まさしくな幽霊船! 雰囲気あるね〜』

ルビィ『ぅゅ……やっぱり、お化けとかいるのかな……』

理亞『ルビィ。私がいるから平気。何かあったら守るから』

ルビィ『理亞ちゃん……うん!』

鞠莉『甲板に降りるわよ。全員付いてきて』

かすみ「はいです!」

ルビィ『はい!』
理亞『わかった』


鞠莉先輩の指示に従って、甲板に降り立つ。
314 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:04:48.71 ID:9NVhM0zb0

鞠莉「ロトム、案内ありがとう」
 「どういたしましてロト」

鞠莉「さて……この船の奥に、空間の裂け目がある。それで間違いないのよね?」

かすみ「はい!」

鞠莉「わかった。それじゃあ、中に入りましょう。ゴーストポケモンのテリトリーだから、全員離れないようにね。かすみ、案内お願いしていい?」

かすみ「任せてください!」


かすみんが先頭に立って、船内を歩き始め──た瞬間、バキッと音がして、


かすみ「っ!?」


ガクンと身体が落ちそうになり、


理亞「ちょっと何してんの……!」


理亞先輩が、咄嗟にかすみんの腕を掴んで引っ張り上げてくれる。


かすみ「あ、ありがとうございます……理亞先輩……」

理亞「はぁ……気を付けなさい」


お礼交じりに足元を見ると──床板が抜けていた。


彼方「ありゃー……床板が腐ってたんだねぇ……」

ルビィ「足元に気を付けて進んだ方がいいかもね……」

かすみ「で、ですねぇ……」


いきなり幸先が悪いですぅ……。

──気を取り直して。かすみんたちは船の奥へと進んでいく。

すると、急に──背筋がゾクリとした。

こ、この感覚は……。


ルビィ「……い、今……変な感じしなかった……?」

理亞「……した。なんかいる」

かすみ「あいつらです……!」

 「────」「…………」「〜〜〜」


例のお化けたちがどこからともなく姿を現した。

しかも、前よりも数が多い……10匹、いや20匹はいます……!


ルビィ「ピ、ピギィィィ!!? お化け!!?」

かすみ「あいつらはゴースです!! 今、“シルフスコープ”を──」


正体を見破るために、かすみんが以前ここでゲットした“シルフスコープ”を、バッグから取り出そうとした瞬間、


鞠莉「サーナイト」

彼方「ムシャーナ」

鞠莉・彼方「「“サイコキネシス”」」
 「サナ」「ムシャァ〜…」


いつの間にボールから出したのか、鞠莉先輩のサーナイトと彼方先輩のムシャーナが“サイコキネシス”でお化けを全員吹き飛ばしてしまった。
315 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:06:05.51 ID:9NVhM0zb0

鞠莉「悪いけど、遊んでる暇ないから、通らせてもらうわよ」

彼方「おどかすだけのポケモンなら全然怖くないよ〜」


二人は何食わぬ顔で、前進していく。


かすみ「あ、あんなにいたのに一瞬で……?」

ルビィ「す、すごい……」

理亞「……追い払うだけなら、私でもすぐ出来た」

鞠莉「ごめんなさいね、理亞。ただ、戦力は温存しておいた方がいいと思って♪」

理亞「……まあ、そういうことなら」


──その後も、お化けが出てくる度に有無を言わさず鞠莉先輩と彼方先輩が吹き飛ばし、あれよあれよという間に、目的の空間の裂け目がある操舵室へとたどり着きました。


かすみ「この部屋です!」


部屋に入って、見回すと──それは前と同じ場所にあった。

空間にあいている穴。浮いている穴です。


鞠莉「……! 確かに、これよ! やぶれた世界に続く空間の裂け目に間違いない……!」

理亞「確かにこんな場所にあったら……鞠莉さんたちが探しても見つからないわけね」

かすみ「そんな場所を見つけちゃうかすみんはさすがですね〜! 褒めてくれていいんですよ!」

彼方「おーよしよし〜♪ かすみちゃんは偉いね〜♪」

ルビィ「かすみちゃん、ありがとう♪」

かすみ「もっと褒めてください〜♪」


やっぱり褒められると気分がいいですね〜♪


かすみ「でも、この穴……入れるんですかね?」


穴は拳大くらいしかありません。


かすみ「……かすみんがいくら小ぶりで可愛いキュートな女の子だとしても、さすがにこのサイズは……」

鞠莉「だから、私が穴を広げる役として、残るのよ」

かすみ「あ、なるほど」

理亞「それじゃ……穴を広げて」

鞠莉「Wait a minute. ちょっと待って、理亞」

理亞「?」

鞠莉「行く前にちゃんと作戦を確認した方がいいわ」

理亞「必要ない。やぶれた世界のことは頭に入ってる」

ルビィ「あ、えっと……る、ルビィは確認したいかな……」

彼方「彼方ちゃんも、改めて最終確認しておいた方がいいと思うな〜」

かすみ「そうですよ! かすみん、やぶれた世界のこと、なんにもわかんないんですから!!」

理亞「自信満々に言わないでよ……来る途中に説明したでしょ?」

かすみ「確かに言ってましたけどぉ……1回じゃよくわかんないですよぉ……」

理亞「……」


かすみんの言葉に、理亞先輩が眉を顰める。
316 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:06:37.53 ID:9NVhM0zb0

鞠莉「理亞。やぶれた世界が危険な場所なのはわかっているでしょう? ここにいる全員で力を合わせるの。そのためにもしっかり確認をしてから臨むべきよ」

ルビィ「理亞ちゃん。こうして、穴は見つけられたわけだから……焦らずに行こう?」


ルビ子がそう言うと、


理亞「……わかった」


理亞先輩は了承する。……やっぱり理亞先輩、ルビ子にはちょっと弱いみたいですね……?


鞠莉「まず目的」

彼方「ピンクダイヤモンドを見つけること〜」

鞠莉「そうね。ただ、そのためには前提条件がある」

かすみ「えっと……確か、やぶれた世界を操ってるポケモン……? に協力してもらわないといけないんですよね?」

鞠莉「自力で探すって方法もあるんだけど……ちょっと運頼りになっちゃうのよね」

理亞「だから、捕獲を視野に入れて動く」


そんな風に言う理亞先輩。


ルビィ「……」


でも、ルビ子は少し浮かない顔をする。


理亞「ルビィ……? どうかしたの……?」

ルビィ「……ギラティナさんは自分の世界にいるだけなのに……捕まえちゃってもいいのかなって思って……。あ……も、もちろん反対してるわけじゃないんだけど……!」

理亞「……今回は協力をしてもらうだけ。終わったら、やぶれた世界に還してあげればいい」

ルビィ「……うん。そうだよね……ごめんね、変なこと言って……」

理亞「うぅん……ルビィらしいと思う」

鞠莉「……確かにギラティナからしたら迷惑な話かもしれないけど……。このまま何もせずに、果林たちにこの世界を滅ぼされるようなことになったら、ギラティナも困るはずよ」

ルビィ「うん……そうだよね」


ルビ子はやっぱり少し浮かない顔……。でも、確かにこのまま放っておいたら、リナ子の記憶を元に戻せないし、果林先輩たちのこともわかりません。

かすみんは……指を咥えたまま、やりたい放題されるなんてまっぴらです。

何より、しず子を助けに行かなくちゃいけないんだから……!


かすみ「えっと……それじゃ、まずそのギラティナを捕まえて、その後ピンクダイヤモンドの場所に案内してもらうってことでいいんですよね?」

鞠莉「ええ。でも、マナフィがいないとピンクダイヤモンドにあると予想されてるリナの魂を移動できないから……確認出来たら帰ってくる。それが今回のミッションよ」

かすみ「おっけ〜です! かすみん、完璧に把握出来ましたよ!」


とりあえず、ギラティナってポケモンを捕まえて、道案内してもらう。思ったより単純なミッションですね!
317 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:07:18.90 ID:9NVhM0zb0

ルビィ「……あの、あともう一つ」

理亞「……ルビィ……?」

ルビィ「わたしたちは……わたしと理亞ちゃんは、もう一つ目的があります」

理亞「ルビィ……!? そ、それは……!」

ルビィ「理亞ちゃん、やっぱり言っておいた方がいいよ」

理亞「でも……。……これは、完全に私の事情だし……」

鞠莉「ルビィ……とりあえず、教えてもらってもいい?」

ルビィ「うん。……わたしたちは……ディアンシー様に会って、聖良さんの心を返してもらおうと思ってます」

理亞「……」

かすみ「でぃあんしーさま?」


また新しい単語が出てきて、かすみんは首を傾げます。


ルビィ「あのね、ディアンシー様は……この地方を守ってくれてる女神様なの。……そして、わたしはそのディアンシー様と人との間を取り持つ巫女なの」

かすみ「う、うん……?」


地方守ってくれてる……? 巫女……? 余計によくわかんないんだけど……。


ルビィ「それで……聖良さんのことなんだけど……」

鞠莉「……聞いてる。目を覚ましたけど、心がない状態……なのよね」

理亞「……! 知ってたの……?」

鞠莉「私も真姫さんから参考意見を求められてね……。正直、見たことも聞いたこともない症状だからお手上げだったけど……ルビィの話を聞いて、ピンと来たわ」


鞠莉先輩はルビ子と理亞先輩を順に見て、


鞠莉「聖良の心は……ディアンシーのところにあるのね。だから、ディアンシーに会って……聖良の心を返してくれるようにお願いをする……」

ルビィ「……うん」

理亞「ねえさまはディアンシーの攻撃を受けたから……そのときにきっとディアンシーに心を封印されたんだと思う……」

ルビィ「だから……わたしたちはディアンシー様に会いに行く必要があるの……いいかな?」


ルビ子は真剣な顔をして訊ねてくる。


かすみ「うーん……? なんか、よくわかんないんですけど……要は理亞先輩のお姉さんを助けるために、そのディアンシー様に会わないといけないってことですよね?」

ルビィ「うん、そういうことかな」

理亞「嫌だったら……無理強いは出来ない……。これはあくまで私の問題だから……」

かすみ「……? あのあの、なんでわざわざやるかやらないかの確認を取るんですか……? それで理亞先輩のお姉さんを助けられるなら、やるべきじゃないですか?」

理亞「え? い、いや……まあ、そうなんだけど……これは私のわがままみたいなもので……」

かすみ「……?」


かすみんよく意味がわからなくて首を傾げちゃいます。


彼方「ふふ♪ かすみちゃんは良い子だね〜♪」


笑いながら、彼方先輩がかすみんの頭をナデナデしてくる。
318 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:08:45.34 ID:9NVhM0zb0

かすみ「わわっ、な、なんですか、彼方先輩〜?」

彼方「困ってる人がいたら、助けないとだもんね〜♪」

かすみ「はい! 当り前じゃないですか!」

理亞「……!」


理亞先輩が驚いたように目を見開く。


かすみ「あ、あの……だから、さっきからなんですか……?」

理亞「いや……」

彼方「かすみちゃんは、こういう子なんだよ〜♪ 変に難しいことを考えずに行動できる子だもんね〜♪」

かすみ「……? 褒めてます?」

彼方「うん♪ 心の底から褒めてるよ〜♪」

理亞「……かすみ」

かすみ「なんですか?」

理亞「私、貴方のことちょっと勘違いしてたみたい……。……ディアンシーを……一緒に探してくれる?」

かすみ「はい。さっきから、そう言ってるじゃないですか!」

彼方「ふふ♪ もちろん、彼方ちゃんも反対する気なんてないのだ〜♪」

鞠莉「話は纏まったみたいね」

ルビィ「よかったね、理亞ちゃん」

理亞「……うん」


……というわけで、今回のミッションは──ギラティナを探して協力を仰ぐ、ピンクダイヤモンドを見つける、ディアンシーに会うの3つです!


鞠莉「最後に戦力確認。順に今持ってきている手持ちを全員に共有しましょう」

かすみ「はーい! かすみんは、ジュカイン、ゾロアーク、マッスグマ、サニゴーン、ダストダス、ブリムオンの6匹です!」

彼方「彼方ちゃんは、バイウールー、ネッコアラ、ムシャーナ、パールル、カビゴン……それと、コスモウムだよ〜」

ルビィ「ルビィは、バシャーモ、アブリボン、キテルグマ、オドリドリ、メレシーのコランと……グラードンです」

理亞「グラードン……連れてきたの……?」

ルビィ「うん。……戦えるかはわからないけど……ギラティナさんと戦うことになったら、必要になると思ったから。最後、理亞ちゃんの番だよ」

理亞「あ、うん。……私は、マニューラ、オニゴーリ、ガチグマ、クロバット、チリーン……そして、ねえさまから預かったマーイーカの6匹」

鞠莉「Ursaluna(*)?! Really...?!」
     *ガチグマの英名

鞠莉先輩が急に目をキラキラとさせ始める。


理亞「う、うん……」

鞠莉「持ってたリングマが進化したってことよね!? どうやって“ピートブロック”を手に入れたの!?」

理亞「グレイブマウンテンを北に進んだ平野の雪の下……掘り返したら、湿地帯の痕跡があって……そこで拾った」

鞠莉「Really....!? あそこ降雪地帯よね!?」

理亞「うん。……だから、気候が変わってしまう程の何かが起こったんだと思う。……もしかしたら、それが北方の国が滅亡した理由かもしれないって、私は思ってる……」

鞠莉「興味深いわ……! もっと詳しく話を──」

かすみ「す、ストーーーップ!! 何、こんな場所でお勉強の話、始めてるんですか!?」


難しい話が始まったので、かすみん思わず待ったを掛けます。
319 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:14:22.15 ID:9NVhM0zb0

鞠莉「S, sorry... 帰ってきたら聞かせてね!」

理亞「わかった」

鞠莉「それじゃあ、戦力確認も出来たし──これから、ゲートを開くわ」


そう言いながら、鞠莉先輩がボールを2つ放り投げると──


 「ディアガァァ!!!!」「バァァァルッ!!!!!」

かすみ「わひゃぁ!!?」


やったら、迫力のある大型のポケモンが姿を現します。というか、2匹とも出てくるや否や船の天井を突き破ってるんですけど……。


鞠莉「これから、この2匹の力で穴を押し広げるわ。かなり調整してきたから、それなりの時間穴をあけ続けることは出来ると思うけど……12時間以内には戻ってくること。……まあ、向こうの時間が一定じゃないから……とにかく、素早くMissionをこなして帰ってくるように!」

かすみ「そ、そこは雑なんですね……」

鞠莉「そして、今後のLeaderは彼方にお願いするわ。よろしくね、彼方」

彼方「らじゃ〜任された〜」


彼方先輩がゆるーい感じで敬礼のポーズをする。


鞠莉「それじゃあ、始めるわ」


鞠莉先輩はバッグの中から、きらきら輝く宝石と、真っ白い珠を取り出して、


鞠莉「ディアルガ、パルキア、穴を広げて!」
 「ディアガァァァァ!!!!」「バァァァァルッ!!!!!」


ディアルガとパルキアの力で、穴を押し広げ始める。

穴はどんどん大きくなっていって──人一人が通り抜けられるくらいのサイズになった。


鞠莉「それじゃあ、みんなよろしくね!」

かすみ「はい!」

ルビィ「鞠莉さんも気を付けてください……!」

理亞「行ってきます」

彼方「それじゃあ、みんな〜行っくよ〜!」


──かすみんたちは、穴へと飛び込みました。





    👑    👑    👑





かすみ「……っは!」


気付いて目を開けると──異様と言う他ない空間にいた。

地面が浮いて、その下には空がある。

壁は床だし、床は天井、天井は床で、滝は下から上に落ちるし、見えない足場がある。


かすみ「な、なにここ……?」
320 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:15:15.17 ID:9NVhM0zb0

矛盾したことが自分の頭の中で目まぐるしく流れていく。

でも、おかしいとわかっているのに違和感はない。

ここでは“そう”らしい。


理亞「相変わらず困った空間ね……」

ルビィ「うん……」

かすみ「あ、あのあの、ここどうなってるんですか……!?」


理亞先輩とルビ子に駆け寄ろうとすると──


かすみ「あ、あれ!?」


何故か、二人から離れていく。


ルビィ「かすみちゃん! 動かないで!」

かすみ「は、はいぃ!!」

理亞「マーイーカ、“ひっくりかえす”」
 「──マーイーカ」


理亞先輩が、ボールから出したマーイーカに技を指示する。


理亞「もうこっちに歩いてきていい」

かすみ「は、はい……?」


言われたとおり、足を踏み出すと──


かすみ「あ……普通に歩ける……」


確かに思ったとおりに前に進むことが出来るようになっていた。


理亞「この辺りは……特に歪みが酷いみたい」

かすみ「歪み……?」

ルビィ「前に進むと後ろに進んじゃったり、右に行くと左に行っちゃったり……そういうのがあべこべな世界なの」

理亞「ただ、ねえさまのマーイーカは特別な訓練を積んでるから……“ひっくりかえす”で周囲のあべこべを無理やり矯正出来る。出来る限り、マーイーカから離れないようにして」

かすみ「わ、わかりました。……それはいいんですけど……」


かすみんは周囲をきょろきょろと見回す。


かすみ「あの……彼方先輩は……」

理亞「たぶん……入ったときにはぐれた。入ったときはある程度近くに出るはずなんだけど……微妙に位置がズレるの」

ルビィ「それで彼方さんだけ、たまたま違う場所に出ちゃったんだね……」

かすみ「た、大変じゃないですか!? こんなところで彼方先輩一人にさせるなんて……!」

理亞「早く見つけないと……そんなに離れてはいないはずなんだけど……」


3人で彼方先輩を探しに行こうとしたそのとき、


彼方「おーい、みんな〜」


──頭上の床から、彼方先輩の声が聞こえてきた。

直後、
321 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:16:00.19 ID:9NVhM0zb0

彼方「とーう!」


彼方先輩がジャンプして、かすみんたちの前に飛び降りてきた。


彼方「ごめんね〜。なんか入ったときに違う場所に飛ばされちゃってたみたい〜」

かすみ「か、彼方先輩〜! よかったですぅ〜!」


かすみん思わず彼方先輩に抱き着いちゃいます。


彼方「おお、よしよし〜。彼方ちゃんは無事だぞ〜」

理亞「……この空間内をどうやって……?」

彼方「ん〜? ああ、えっとね〜上の床は右にジャンプすると、ここに向かって落ちるみたいだったから〜」

理亞「それをこの短い時間で把握したの……!?」

彼方「ふっふっふ〜、彼方ちゃん、組織に居た頃に特殊空間の状況把握訓練を受けてるからね〜。これくらいの空間、飛ばされたところでなんにも問題ないんだぜ〜」

ルビィ「す、すごいです……! 彼方さん……!」

彼方「えへへ〜もっと褒めて〜。……っと、今はそれどころじゃなかったね〜」


彼方先輩はわざとらしくコホンと咳ばらいをする。


彼方「まず陣形を決めよっか〜。彼方ちゃんは盾役が出来るから前に出るね〜。理亞ちゃんはスピードアタッカーだから、中央で両翼に気を配ってくれると嬉しいな〜。かすみちゃんは遠近対応のパワーアタッカーだから、後衛から私たちの動きを見ながら大きな一発を叩きこむ役目だよ〜。ルビィちゃんはトリッキータイプだから、基本は真ん中に位置取って、状況に応じて前後衛をうまくスイッチしてね。あと、今ここら一帯の空間を補正してるのはそのマーイーカちゃんだよね? それなら、全員に影響を与えられるように、真ん中にいるルビィちゃんの頭上に居てくれると助かるかな〜」


彼方先輩が普段ののんびりな様子からは考えられないくらい、テキパキと指示を出す。

その光景に全員でポカンとしてしまう。


彼方「こらこら〜ボーっとしてちゃダメだぞ〜?」

ルビィ「あ、ご、ごめんなさい……。……でもその、ルビィたちの戦い方も把握してるんですね……?」

彼方「鞠莉ちゃんに二人がどんなトレーナーかは予め聞いてたからね〜」

理亞「それにしても……さっきまでと全然印象が違う……」

彼方「彼方ちゃんは〜やるときはやるのです! これでも最年長としてリーダーを任せられたからね〜。さぁ、行くよ〜」


彼方先輩先導で、やぶれた世界の中を歩き始める。


彼方「とりあえず、ある程度見晴らせる場所まで移動しよう〜」

かすみ「そういえば彼方先輩……最年長って言ってましたけど……一体今いくつなんですか?」

彼方「む……かすみちゃん、レディーに歳を訊くのは失礼だぞ〜?」

かすみ「……ご、ごめんなさい……でも、気になって……」

彼方「ふふ、冗談だよ〜。彼方ちゃんはね〜鞠莉ちゃんより1歳年上の22歳だよ〜」

ルビィ「22歳……!? ルビィの1個上くらいかなって思ってました……」

理亞「そういうルビィも私と同い年とは思えないけどね」

かすみ「いや、理亞先輩も18歳には見えませんけど……」


なんというか、ここにいる人たち全員実年齢より見た目が幼い人たちばっかりですね……。

みんな背が低いってのもあるのかもしれませんが……。
322 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:16:29.80 ID:9NVhM0zb0

彼方「まぁ、実は彼方ちゃんの身体の成長は18歳で止まってるから、見た目は18歳なんだけどね〜」

かすみ「え、どういうことですか、それ……!?」

彼方「乙女にはいろいろあるのだよ〜」

かすみ「き、気になるんですけど……!」

彼方「ふふ、じゃあまた今度教えてあげるよ〜」


こんな無茶苦茶な空間なのに、彼方先輩と話しているとなんだか気が抜けてしまう。

緊張感のない会話をしながら、当初の予定通り、見晴らしのいい場所に到着する。


彼方「さて、ここからピンクダイヤがないかを探して……。……ん?」

かすみ「彼方先輩? どうかしたんですか?」

彼方「……何かが、こっちに向かって飛んでくる」

理亞「……!? それってまさか……!」


彼方先輩の目線の先を見てみると──影のような翼を持った、龍のような見た目をした生き物が、こちらに向かって猛スピードで接近してきてるじゃないですか……!?


 「──ギシャラァァァァァッ!!!!!」


大きな鳴き声がやぶれた世界全体を揺らすように響き渡る。


かすみ「あ、あれって……!?」

ルビィ「ギラティナさん……!」

理亞「やっぱり、こっちの世界に侵入したらすぐにバレるか……!」


あの禍々しいフォルム、空間全体を震わせるあの鳴き声、そして何より特有の圧のようなものを感じる。

見るからにヤバそうなポケモン……! 相手取るにしても、真っ向から戦うのはヤバイことくらい、かすみんにもわかります……!


かすみ「彼方先輩! 距離があるうちに一旦隠れましょう!!」


そう提案した直後──


 「──ギシャラァァァァァ!!!!!」


気付けばギラティナは──かすみんたちの目の前にいた。


かすみ「え!?」
ルビィ「ピギッ!?」
理亞「っ!?」


そして、大きな爪をこちらに向かって振り下ろしてくる。


彼方「コスモウム、“コスモパワー”!!」
 「────」


──ギィィィィンッ!! と大きな音を立てながら、コスモウムがギラティナの爪を弾く。


彼方「この世界でギラティナから逃げるのは無理だよ〜! 全員戦闘態勢!」

ルビィ「コラン! “パワージェム”!!」
 「──ピピィッ!!!」

理亞「オニゴーリ! “こおりのいぶき”!!」
 「──ゴォォーーーリッ!!!!!」


彼方先輩が叫ぶのとほぼ同時に、ルビ子のメレシーと理亞先輩のオニゴーリが攻撃を放つ。
323 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:17:12.01 ID:9NVhM0zb0

 「ギシャラァァァァァ!!!!!」


ですが、ギラティナは鬱陶しそうに身を振るって、宝石のエネルギーと凍てつく吐息を吹き飛ばす。

ただ、その動作によって一瞬だけ隙が出来る。


彼方「かすみちゃん!!」

かすみ「わかってます! ジュカイン、メガシンカ!!」
 「──カインッ!!!!」


かすみんはその隙にすかさず繰り出したジュカインをメガシンカさせます。


かすみ「“リーフストーム”!!」
 「カインッ!!!!」


背を向けたジュカインがしっぽミサイルに草の旋風を纏って発射する。

この至近距離、外したりするわけもなく、


 「ギシャラァァッ…!!!!」


頭に直撃して、ギラティナを仰け反らせる。


かすみ「へっへ〜ん! どんなもんですか!」


ですが、


 「ギシャラァァァァッ!!!!!」

かすみ「いっ!? き、効いてない!?」


雄叫びをあげながら、ギラティナが突っ込んでくる。

それを真っ向から、


彼方「ムシャーナ!! “サイコキネシス”!!」
 「ムシャァ〜〜」


彼方先輩のムシャーナが“サイコキネシス”で無理やり止める、けど……。


 「ギシャラァァァ!!!!!」

 「ム、ムシャァ…」
彼方「す、すごいパワーだよ〜……!」


ギラティナのあまりのパワーに、念動力で止めているはずなのに、ギラティナはジリジリと前に進んでくる。

そこに加勢するように、


かすみ「サニゴーン! “ちからをすいとる”!」
 「──ゴーーーン…」


ギラティナのパワーを吸い取って弱体化させる。……させたはずなんだけど……。


 「ギシャラァァァァ!!!!!」

かすみ「なんで、全然勢い止まらないの!?」

理亞「相手のパワーが強すぎる……!! 間接的なやり方じゃ間に合わない!! ルビィ!!」

ルビィ「うん! コラン、“じゅうりょく”!」
 「ピピィーーー!!!!」
324 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:18:07.55 ID:9NVhM0zb0

ルビ子のメレシーがカッと光ると、


 「ギシャラァァァァ…!!!!!」


ギラティナが無理やり浮遊する大地に引き摺り落とされ、その重量で大地にヒビが入る。

そこに向かって──


理亞「ガチグマ!! “ぶちかまし”!!」
 「──グマァァァァ!!!!!」


理亞先輩が出した大きなクマのポケモン──ガチグマが全身全霊の体当たりを食らわせて、ギラティナを吹っ飛ばす。


 「ギシャラァァァァ…!!!!!」


浮遊している大地の外まで吹っ飛ばされ、そのまま“じゅうりょく”に引かれるように落下していくけど──


 「ギシャラァッ!!!!!」


またすぐに宙を泳ぐようにして、かすみんたちがいる大地の周囲を旋回し始める。


かすみ「じ、“じゅうりょく”があるはずなのに……!」

理亞「マーイーカの“ひっくりかえす”の範囲外に逃げられたら、“じゅうりょく”の方向は向こうが制御出来るから意味がない……!」


そして、ギラティナは旋回をしながら──口に巨大な真っ黒い球体を集束しはじめる。


理亞「あれ、“シャドーボール”……!?」

かすみ「あ、あんなでかいの食らったらひとたまりもないですよ!?」

彼方「ムシャーナ!! “ふういん”!!」
 「ムシャァ〜」


彼方先輩が、ムシャーナに“ふういん”を指示すると──ギラティナが集束させていた影の球が霧散する。


彼方「これで、“シャドーボール”は使えないよ……!」

かすみ「さすが、彼方先輩ですぅ〜!」


喜ぶのも束の間、ギラティナの目がギラリと赤く光ると──ギラティナはまた再び口に黒い球を集束し始める。


彼方「え、うそ!?」

理亞「技を“ふういん”されたっていうルールそのものを書き換えられた……!」

かすみ「なんですかそれ!? ズルじゃないですか!?」

 「ギシャラァァァァ!!!!」


直後、ギラティナの口から──特大の“シャドーボール”が発射され、かすみんたちに迫ってきます。


かすみ「わーーーーー!!!? あ、あんなの避けられないーーー!!?」

ルビィ「理亞ちゃん!! “じゅうりょく”をひっくり返して!!」

理亞「……!! マーイーカ!!」
 「マーイーカッ!!!」


マーイーカが鳴くと同時に──身体がフワリと浮き上がって、


かすみ「へっ!?」
325 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:19:14.93 ID:9NVhM0zb0

猛スピードで──上に向かって落下を始める。

直後、かすみんたちがいた足場は特大の“シャドーボール”によって、轟音を立てながら木っ端みじんに砕け散る。


彼方「た、助かったよ〜! ルビィちゃん〜、理亞ちゃん〜」

かすみ「で、でもこのままじゃ……!?」


かすみんたちは──上にある別の大地に向かって猛スピードで落下しています。


かすみ「ぶ、ぶつかるーー!!?」


思わず目を瞑った瞬間──ぼふっという音と共に、浮遊感が消えてなくなった。


かすみ「あ、あれ……?」


恐る恐る目を開けると──かすみんの視界は真っ白いふわふわしたものに包まれていました。


 「メェェェェェ」

かすみ「ば、バイウールーの毛……?」

彼方「ふぅ〜……危なかったぜ〜……」


気付けばかすみんたちは手持ちともども、大きく肥大化したバイウールーの“コットンガード”のお陰で事なきを得ていました。

でも、戦いは終わっていません……!


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナが再び口に特大の“シャドーボール”を集束し始める。


かすみ「ま、また“シャドーボール”が飛んできますよ!? どうするんですか!?」

彼方「みんな伏せて〜! 彼方ちゃん、どうにかする方法思いついちゃったから〜!」

かすみ「は、はいぃ!」
理亞「信じるからね……!」
ルビィ「お、お願いします……!」


かすみんたちは言われたとおりに身を伏せる。

それと同時に、


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナの口から“シャドーボール”が発射される。


かすみ「き、きたぁぁぁ!!?」

彼方「バイウールー! “コットンガード”!!」
 「メェェェェ!!!!」


彼方先輩の指示で、バイウールーの体毛がさっき以上に肥大化し──かすみんたちの頭上を覆い隠すほどになる。

直後、迫ってきた特大の影の球は、バイウールーの体に当たった瞬間──バスンと音を立てて、掻き消えた。


かすみ「き、消えた!?」

ルビィ「……そっか! ゴーストタイプの技だから、ノーマルタイプで無効化できるんだ……!」

彼方「あのサイズだから、こっちも大きくなる必要があったけどね〜」

理亞「彼方さん!! 次、来る!!」
326 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:20:16.80 ID:9NVhM0zb0

理亞先輩の声で、バイウールーの体毛の影から覗くようにしてギラティナを見ると──今度は青色のエネルギーを集束し始めてるじゃないですか……!?


理亞「“はどうだん”が来る……!」

彼方「大丈夫だよ〜落ちついて〜」


彼方先輩がのんびり喋っている間に──発射された“はどうだん”が猛スピードで、バイウールーに向かって飛んでくる。

けど──ぼふんっ! と音を立てながら、“はどうだん”もバイウールーの毛に吸い込まれるように消えてしまった。


かすみ「あ、あれ……?」

ルビィ「“はどうだん”も消えちゃった……」

彼方「彼方ちゃんのバイウールーの特性は“ぼうだん”だよ〜。弾系の技は一切通用しないのだ〜!」

かすみ「も、もう! それなら、先に言ってくださいよ!」

彼方「えへへ〜ごめんごめん〜。……ただ、防いでるだけじゃジリ貧だよね〜……何か考えないと〜……」


確かに彼方先輩の言うとおり、かすみんたちの攻撃は思ったように通用していません。

このままじゃ、そのうちやられちゃいます……。


ルビィ「あの……少し、時間を稼いでくれませんか」

理亞「ルビィ……?」

ルビィ「ルビィが、どうにかします……」
 「ピピィ」


そう言いながら、ルビ子がメレシーを抱きしめると──ぽわぁっと紅い光がメレシーの体から溢れ出す。


理亞「……! ルビィ、それって……!」

彼方「おぉ〜何かやるつもりだね〜」

かすみ「とにかく、時間を稼げばいいんですよね!?」

ルビィ「うん!」


ルビ子が頷くと同時に──


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナが、鋭い爪を剥き出しにしながら、猛スピードで突っ込んできます。


彼方「コスモウム〜! もう1回、“コスモパワー”!」
 「────」


──ギィィィンッ!!! 最初と同じように、彼方先輩のコスモウムがギラティナの爪を弾きます。

それで出来た一瞬の隙に、


理亞「オニゴーリ!! メガシンカ!!」
 「──ゴォォォォーーーーリッ!!!!!」

理亞「“ギガインパクト”!!」
 「ゴォォォォーーーーリッ!!!!!」


メガシンカした理亞先輩のメガオニゴーリが全身に分厚い氷の鎧を纏いながら、ギラティナに全身全霊の突進をぶちかます。

メガシンカのパワーを乗せた、一撃に、


 「ギシャラァァッ……!!!!」
327 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:20:53.56 ID:9NVhM0zb0

ギラティナが一瞬怯んで後退する。

そこに向かって、


かすみ「ダストダス!! “ヘドロばくだん”!!」
 「──ダストダァァァァス!!!!」


繰り出したダストダスが腕を伸ばして──両手の平から、“ヘドロばくだん”を発射する。


 「ギシャラァァッ!!!!」


でも、ギラティナはまた身を捻るようにして、“ヘドロばくだん”を吹き飛ばし──大きな顎を開いて、ダストダスに向かって突撃してくる。


 「ギシャラァァァァ!!!!!」

かすみ「く、来るならきやがれですぅ〜!!」

彼方「かすみちゃん!?」


でも、かすみん臆したりしません……! ギラティナの大顎で、ダストダスの頭部を“きりさく”──と、大柄なダストダスの体がユラリと掻き消える。


かすみ「……だって、この子はダストダスじゃありませんから!」
 「──ゾロアーーーーークッ!!!!!」


──“イリュージョン”が解除され、本来の姿を現したゾロアークが、


かすみ「ゾロアーク!! “ナイトバースト”!!」
 「ゾロアーーークッ!!!!」

 「ギシャラァァァァ…ッ!!!」


ギラティナの顔面に闇のオーラをぶちかまします。

闇が顔に纏わりつき視界を奪われたギラティナに向かって──


理亞「ガチグマ!! “10まんばりき”!!」
 「グマァァァァァァ!!!!」

 「ギシャラァァァァァ…!!!!!」


ガチグマが大きな前足で、ギラティナを殴り飛ばします。


彼方「かすみちゃん、理亞ちゃん、ナイスだよ〜!」

かすみ「ふっふ〜ん、それほどでもあります!」


胸を張るかすみん。

でも、吹っ飛ばされたギラティナは、


 「──ギシャラァァァァァ!!!!!」


すぐに身を翻して襲い掛かってくる。


かすみ「わひゃぁぁぁっ!!!?」

彼方「ムシャーナ!!」
 「ムシャァ〜〜」


さっきと同様に、彼方先輩のムシャーナがギラティナをサイコパワーで無理やり押し止める。
328 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:21:34.29 ID:9NVhM0zb0

彼方「が、頑張って〜!! ムシャーナ〜!!」
 「ムシャァ〜〜」

 「ギシャラァァァァァ!!!!」

理亞「ルビィ、まだ!?」


どうにか彼方先輩が押さえている間に、理亞先輩がルビ子の方を振り返る。

すると──


ルビィ「…………」
 「────」


ルビ子の抱きしめているメレシーは、さっきの比にならないくらいに紅い輝きを放っていました。

その光は──


かすみ「……なんか、すっごく……あったかい……」


戦闘中なのに、それを忘れてしまうくらい……優しくて、温かい、そんな光……。


ルビィ「…………うん。一緒に、戦って」
 「──ピィーーー」


ルビ子が誰に向かっての言葉なのか、そう呟いて顔を上げると同時に──ルビ子の腰に着いたボールから、


ルビィ「行くよ……! グラードン!!」
 「──グラグラルゥゥゥゥ!!!!!!」


真っ赤な巨体が飛び出してきた。


ルビィ「“ほのおのパンチ”!!」
 「グラルゥゥゥッ!!!!!」

 「ギシャラァァァッ…!!!」


ムシャーナが押さえていたギラティナに拳を叩きつけ──体勢を崩したところに、


ルビィ「“ヒートスタンプ”!!」
 「グラルゥゥゥ!!!!!」


グラードンと呼ばれたポケモンが、赤熱する足でギラティナを踏みつける。


 「ギシャラァァァァァ…!!!!!!」

かすみ「つ、つよ……」


ルビ子のグラードンが、ギラティナを圧倒していた。

そして、それと同時に──この不条理な世界の中で、これでもかと言わんばかりに、強く強く太陽が照り付けていた。


かすみ「さ、さっきまで太陽なんてあった……?」

彼方「あれはたぶん……グラードンが作り出した太陽だね〜……」

理亞「これが……伝説のポケモンの力……」


あまりに圧倒的な力に、3人で立ち尽くしてしまうけど──ギラティナもやられたままではない。


 「ギシャラァァッ…──」


グラードンの足の下でギラティナが一鳴きすると──ギラティナの体がドプンと影に潜り込んで消え、急に踏みつけていた対象がいなくなったせいで、グラードンの足が地面を割り砕く。
329 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:22:11.08 ID:9NVhM0zb0

かすみ「き、消えた!?」

理亞「ルビィ……! これ、“シャドーダイブ”……!」

ルビィ「うん、わかってる……!」

彼方「みんな! どこから、攻撃してくるかわからないから気を付けて!」


彼方先輩の指示で、全員周囲に気を配る。


かすみ「でも、気を付けてって言っても、影に潜られたらどうしようもないですよぉ〜……!?」


かすみんがそう言った直後、


 「──ギシャラアァァァァァ!!!!!!」


何もない空間から突然飛び出してきたギラティナが、グラードンの背後から襲い掛かる。


 「グラルゥッ…!!!!?」
ルビィ「グラードン!?」


亜空間から飛び出し、猛烈なスピードでタックルされたグラードンは体勢を崩す。そしてうつ伏せに倒れたグラードンに向かって──影で出来た大きな爪を振りかざす。


かすみ「“ソーラーブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


それを邪魔するように、ジュカインが横薙ぎに振るう特大の“ソーラーブレード”でギラティナを攻撃する。


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナは、それを影で出来た爪──“シャドークロー”で受け止めますが、


 「グラルゥゥッ!!!!」


グラードンがその隙に背後に向かって、大きく腕を振るいながら立ち上がる。


 「ギシャラァァァッ!!!!」


ギラティナは、グラードンが振るう腕をすんでのところで飛び立つようにして回避する。

もうすっかり“じゅうりょく”の効果も切れて、空に逃げようとするギラティナ。


かすみ「逃がしません……!! “ソーラーブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


今度は縦薙ぎの“ソーラーブレード”がギラティナの頭上に振り下ろされる。


 「ギシャラァァァァァ…!!!!!」


今度は直撃……! 脳天に攻撃を食らい、そのままギラティナが一瞬よろけ──そこに向かって、


ルビィ「グラードン!! “うちおとす”!!」
 「グラルゥゥッ!!!!」


グラードンの足元から──まるで意思を持ったかのように、大岩が飛び出し、ギラティナの真っ黒な翼に直撃する。


 「ギシャラァァァァッ…!!!!」
330 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:23:00.84 ID:9NVhM0zb0

大岩をまともに食らったギラティナの巨体が落下し、その衝撃で地面を割り砕く。

そして、そこに、


ルビィ「“だんがいのつるぎ”!!」
 「グラルゥゥゥゥ!!!!!」


大地から鋭い刃が飛び出し、ギラティナを斬り裂きながら、動きを封じるように交差する。


 「ギシャラァァァァァ…!!!!!!!」


ギラティナの苦悶の鳴き声が周囲を劈く。


理亞「これなら、捕獲出来る……!!」


理亞先輩が、ボールを構えた──まさに、そのときだった。

ギラティナの真上に──大きな空間の穴が生じ、


 「──ドカグィィィィィ!!!!!!!」

彼方「……!!?」
かすみ「へっ!?」
ルビィ「え!?」
理亞「なっ!?」


グラードンやギラティナよりもさらに大きな巨大で真っ黒なポケモンが──降ってきた。

そいつは大口を開け……ギラティナを拘束している、“だんがいのつるぎ”ごと──食べてしまった。


かすみ「え、ちょ、な、なに!!?」


あまりの急展開に混乱していると、


彼方「全員、一旦距離取って!!」


走ってきた彼方先輩が、かすみんの手を取って走り出す。


かすみ「は、はい……!?」


急に手を引かれたせいで、足がもつれそうになったけど、かすみん頑張って走ります。


理亞「あれ何!? ここにはギラティナとディアンシーくらいしかいないんじゃ!?」

ルビィ「る、ルビィにもわかんない!?」


かすみんたちを追いかけるように走る理亞先輩とルビ子も混乱している。


かすみ「あ、あいつ、なんなんですか!?」

彼方「あれは──ウルトラビーストだよ……! ウルトラビースト・アクジキング!!」

かすみ「ウルトラビースト!? やぶれた世界には来ないんじゃなかったんですか!?」

彼方「か、彼方ちゃんにもわかんないよ……!! でも、あれは間違いなくアクジキングだよ……!!」


彼方先輩の言葉を聞き、走りながら振り返ると──アクジキングは、腕と口の中から伸びた2本の触手を使って、割り砕いた地面を手当たり次第に口の中に放り込んでいる。


かすみ「じ、地面を食べてるんですか……!? というか、ギラティナも食べられちゃいましたよ!? どうするんですか!?」


かすみんが焦る中──今度はアクジキングの頭上の空間に穴が空き、
331 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:23:39.57 ID:9NVhM0zb0

 「ギシャラァァァァァァ!!!!!!」


ギラティナが飛び出して、アクジキングを襲撃する。


理亞「ギラティナ……!」

ルビィ「“シャドーダイブ”で逃げてたんだね……!」

 「ギシャラァァァァァァ!!!!!」


ギラティナは大きな爪で、アクジキングに襲い掛かりますが、


 「ドカグィィィィィ!!!!!」


アクジキングは触手の先に付いた大きな口で、ギラティナのボディを“かみくだく”。


 「ギシャラァァァァァァ…!!!!!」


ギラティナは悲鳴のような鳴き声をあげながらも、ガパッと口を開いて──


 「ギシャラァァァァァ!!!!!」


アクジキングに向かって、“りゅうのいぶき”を噴きかける。

が、


 「ドカグィィィィ!!!!!」


アクジキングはその“りゅうのはどう”すらも大口で吸い込み、


 「ドカグィィィ!!!!」


そのまま大きな巨体を乱暴にぶつけ、


 「ギシャラァァァッ…!!!!」


ギラティナを吹っ飛ばす。

気付けば、ギラティナとアクジキングの怪獣大戦争が始まっていた。


かすみ「な、なんなんですか、あいつ……!? ……そうだ、図鑑……!」


ここでかすみん、鞠莉先輩にウルトラビーストも認識出来るように図鑑を改造してもらっていたことを思い出します。

 『アクジキング あくじきポケモン 高さ:5.5m 重さ:888.0kg
  山を 喰らい 削り ビルを 飲みこむ 姿が 報告 されている。
  つねに なにかを 喰らっているようだが なぜか フンは 未発見。
  食べたもの すべてを エネルギーに 変えていると 考えられている。』


かすみ「山……!? ビル……!? あ、あいつヤバいですよ!?」


そんなことを言っている間にも、


 「ギシャラァァァァァ…!!!!!!」


先ほどの“ドラゴンダイブ”で怯ませたギラティナを、アクジキングが大きな触手で捕まえ、


 「ドカグィィィ!!!!」


自らの口の中に運ぼうとしていた。
332 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:24:20.09 ID:9NVhM0zb0

かすみ「ちょ、ヤバ……!?」


ギラティナを食べられるは不味すぎます……!!

かすみんは咄嗟に飛び出そうとしますが、それよりも早く──


理亞「オニゴーリ!!」
 「ゴォォォォーーーリッ!!!!!」


メガオニゴーリが空気中の水分を凍らせて、アクジキングの触手を氷で作り出した巨大な腕で掴んで止め、


ルビィ「グラードン!! “だんがいのつるぎ”!!」
 「グラグラルゥゥゥ!!!!!」


地面から突き出た巨大な断崖の刃がアクジキングを、斬り裂いた。


 「ドカグィィィ…!!!」


激しい攻撃に怯んだアクジキングは、その拍子にギラティナを捕まえていた触手が緩んだのか──


 「ギシャラ…!!!」


その一瞬の隙にギラティナが、逃げ出す。

逃げ出すや否や、口に“はどうだん”の集束を始め──


 「ギシャラァァァッ!!!!」


──それを、アクジキングに向かって発射する。

が、


 「ドカグィィィィィ!!!!!」


アクジキングは飛んできた“はどうだん”を大口で飲み込み、全身を使って氷の腕と“だんがいのつるぎ”をへし折り、折った先から口に運んで飲み込んでいく。


理亞「とりあえず、あいつがいたらギラティナを捕獲するどころじゃない……!」

ルビィ「先にアクジキングをどうにかしないと……!」

かすみ「彼方先輩! なんか、あいつの弱点とか知らないですか!?」

彼方「じ、実は彼方ちゃん……アクジキングと戦うのは初めてなんだよ〜……あんまり、見ない種類のウルトラビーストだから……しかも、超危険種なんだよ〜……」

かすみ「き、危険なのは見ればわかります……」


かすみんたちが話している間にも、


 「ギシャラァァァァァ!!!!!」

 「ドカグィィィィィ!!!!!!」


ギラティナとアクジキングは大きな鳴き声を轟かせながら、“りゅうのはどう”を撃ち合い、お互いを牽制している。


理亞「どっちにしろ、倒すか追い払うかするしかない……! ギラティナが食べられでもしたら、それこそ一巻の終わり……!」


こればっかりは、理亞先輩の言うとおりです。ここでギラティナを食べられちゃったら、せっかくここまで来たのに、それこそ手詰まりになっちゃいます……!


彼方「……もう、こうなっちゃったら、やるしかないよね〜……! みんな、まずはアクジキングをどうにかするよ〜!」
333 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:25:02.79 ID:9NVhM0zb0

──やぶれた世界での戦いは思わぬ乱入によって、次なる局面を迎えます……!





    👑    👑    👑





かすみ「ジュカイン!! “ソーラービーム”!!」

理亞「オニゴーリ!! “ウェザーボール”!!」

 「カインッ!!!!」「ゴォォーーーリッ!!!!!」


強い日差しによって、チャージを省略して即発射される“ソーラービーム”と、小さな太陽の塊のようなエネルギー弾が、アクジキングに向かって飛んでいきます。

が、


 「ドカグイィィィ!!!!」

かすみ「あーもう!! また、食べられましたぁーー!?」

彼方「口を狙うと食べられちゃうから、他の部分を狙うしかないよ〜!!」

かすみ「そんなこと言ってもほぼ口じゃないですか!?」


一方、ギラティナは、


 「ギシャラァァァァァ!!!!!」


アクジキングの頭部に向かって、“りゅうのはどう”を発射する。


 「ドカグィィィィ!!!!!」


それを相殺するように、アクジキングも“りゅうのはどう”を発射し、2つのエネルギーがぶつかり合って爆発が生じる。

2匹の大型ポケモンの攻撃は相殺の衝撃もすさまじく、


かすみ「わわっ!?」
 「カインッ」


爆風で吹き飛ばされそうになったところを、ジュカインが尻尾で受け止めてくれる。


かすみ「あ、ありがと、ジュカイン……」
 「カイン」

彼方「頭を狙って〜……“ムーンフォース”!」
 「ムシャァ〜〜」


今度は彼方先輩がアクジキングの頭部を狙い打ちますが、


 「ドカグィィィ!!!!」


発射された月のエネルギーは、アクジキングの大きな触手で強引に受け止められてしまいます。


彼方「相性はいいはずだから、ダメージはあるはずなんだけど〜……」

ルビィ「グラードン!! “だんがいのつるぎ”!!」
 「グラグラルゥゥゥ!!!!!」


今度はルビ子のグラードンが、再び“だんがいのつるぎ”で攻撃し、飛び出る大地の剣に一瞬怯みこそするんですが……。


 「ドカグィィィ!!!!!」
334 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:26:20.29 ID:9NVhM0zb0

またさっきと同じように、自分を突き刺す“だんがいのつるぎ”を触手でへし折って、食べ始める。


かすみ「もぉーーー!! ホントにあいつなんなんですかぁーーー!!!」

理亞「相手がタフすぎる……っ」

彼方「たぶん、こっちの攻撃を“のみこむ”でエネルギーに変換してるんだと思う……もっと一撃で体力を持ってかないと、何しても回復のためのご飯にされちゃってるよぉ〜……」

理亞「ルビィ、グラードンにもっと強い攻撃とかないの……!?」

ルビィ「え、えっと……グラードンは肉弾戦の方が強いから……だけど……近付いたら、食べられちゃうかもしれないし……」


ルビ子の言うとおり、あいつに食われたら終わりなせいで、近距離戦がほぼ封じられている。

それはかすみんたちだけでなく、


 「ギシャラァァァァ…!!!!」


先ほどからアクジキングの周囲を旋回しながら、“シャドーボール”や“りゅうのはどう”を撃っているギラティナも同様のようです。

そんなことをしている間にもアクジキングは自分の周りの地面を大きな足とトゲトゲの尻尾を割り砕き、それを片っ端から触手で掴んで食べまくっている。


かすみ「た、食べ飽きたらそのうち帰ってくれるとかは……」

彼方「この世界にあるもの全部食べ尽くしたら……帰るかも……」

理亞「そんなの待ってたらギラティナが食べられる……! 仕掛けないと……!」


話している間にも、


 「ギシャラァァァァ!!!!」


ギラティナが“シャドーボール”を放ちますが、


 「ドカグィィィィ!!!!!」


それに反応するように伸ばされたアクジキングの2本の触手が──特大の“シャドーボール”を真ん中から突っ切って、ギラティナの体に噛みつきます。

さらに“かみつく”によって、がっちりと食い込んだ触手は、強引にギラティナを自分の口へと引っ張っていく。


 「ギシャラァァァァ…!!!」

理亞「オニゴーリ!! “はかいこうせん”!!」
 「ゴォォォーーーーリッ!!!!」


理亞先輩のオニゴーリが、右の触手を“フリーズスキン”によって強化された“はかいこうせん”で凍り付かせ、


かすみ「ジュカイン!! “リーフストーム”」
 「カインッ!!!!!」


ジュカインがしっぽミサイルを発射──炸裂と同時に着弾点に巻き起こる“リーフストーム”で左の触手を弾きます。

そして、


ルビィ「グラードン!! “だいちのちから”!!」
 「グラルゥゥゥゥ!!!!!!」


グラードンが足を踏み鳴らすと──ボンッ!!! と音を立てながら、アクジキングの足元の大地が爆発します。


 「ドカグィィィィ!!!!!」


再び捕食の邪魔をされ、怯んだアクジキングの触手から逃れたギラティナは、


 「ギシャラァァァァ!!!!!」
335 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:27:19.86 ID:9NVhM0zb0

逃れた瞬間──発射した“はどうだん”をアクジキングの頭に直撃させます。


 「ドカグィィィ…!!!」


かすみ「やった……! 効いてますよ……!」

理亞「ギラティナのパワーなら、攻撃を食べられさえしなければ十分なダメージになってる……! このまま、ギラティナをサポートして──」


ですが、次の瞬間、予想外なことに──


 「ドカグィィィィ!!!!!」


アクジキングがこっちに向かって走り出してきた。


かすみ「ちょ!? こっち来ますよ!?」

 「グィィィィ!!!!!!」


こちらに走り込みながら、両手の触手を──グラードンに向かって伸ばしてくる。


ルビィ「!? コラン!! “リフレクター”!!」
 「ピピィッ!!!!」


咄嗟に前に出た、ルビ子のメレシーが壁を作り出して、触手を弾き飛ばす。

だけど、弾き飛ばされた触手は、またすぐにグラードンに照準を定めて──“ヘドロウェーブ”を発射してくる。


彼方「ムシャーナ! “ひかりのかべ”!!」
 「ムシャァ〜」


今度は彼方先輩がすかさず“ひかりのかべ”を展開して、“ヘドロウェーブ”は弾き飛ばします。


ルビィ「か、彼方さん、ありがとうございます……!」

彼方「どういたしまして〜♪」

かすみ「でも、あいつ急にグラードンを狙ってきましたよ!?」


そんな中で、


 「ギシャラァァァァァ!!!!!!」


ギラティナが“ドラゴンクロー”でアクジキングの背後から飛び掛かる。


 「ド、カグィィィィ!!!!!!」


さすがに背後からの攻撃には対応しきれず、地面を破壊しながら前につんのめりますが──


 「カグィィィィィ!!!!!」

 「ギシャラァァッ…!!!!」


トゲの付いた鉄球のような尻尾をブンと振り上げて、ギラティナを顎下から殴り飛ばします。


 「ギシャラァァァ…!!!!」


ギラティナは攻撃を受けながらも再び宙に逃げますが、アクジキングはまたギラティナに触手を伸ばして追い始める。
336 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:27:59.86 ID:9NVhM0zb0

かすみ「ま、またギラティナと戦い始めた……。さっきのはなんだったの……?」

ルビィ「グラードンが攻撃したから怒ったとか……?」

理亞「なら、なんでオニゴーリやジュカイン、ムシャーナには反応しないの?」

ルビィ「わ、わかんないけど……」

彼方「……そっか、エネルギーだ」


かすみんたちの疑問に彼方先輩が独り言を言うように答える。


かすみ「エネルギー……?」

彼方「アクジキングは常にエネルギーを摂取するために、ありとあらゆるものを食べてるけど……より大きなエネルギーを得ようとしたら、エネルギーを多く持ってるものを狙うはずでしょ?」

理亞「……そうか、ギラティナやグラードンみたいな伝説のポケモンは、他のポケモンに比べてエネルギーの量が多いから……!」

かすみ「もしかして……ギラティナとグラードン以外は狙われないってことですか……?」


考えてみれば、アクジキングから攻撃を受けているのはギラティナとグラードンだけです。

もちろん、近付いてたら食べられちゃうかもしれませんが……。


理亞「誰に優先して攻撃するのかがわかれば、やりようはある……! クロバット!」
 「──クロバッ!!」

ルビィ「理亞ちゃん、どうする気!?」

理亞「私がギラティナに飛んでくる攻撃を捌いてサポートする……! マーイーカはここに残って!」
 「マーイーカ」


理亞先輩は鞠莉先輩から貰ったヘッドセットのスイッチを入れながら、そう言う。


かすみ「ま、マーイーカ無しじゃめちゃくちゃな空間でギラティナをサポートすることになっちゃいますよ!?」

理亞「私はマーイーカ無しで、ここで戦闘した経験がある。どうにかする。その間に何か大きな一撃を叩きこむ方法を考えて。あと、天気は一旦“ゆき”で書き換えさせてもらうから」
 「ゴォォォーーリッ!!!」


そう言いながら、オニゴーリの使った“ゆきげしき”で天候が“ゆき”に変化する。


ルビィ「理亞ちゃん……。わかった! お願い!」

彼方「理亞ちゃん、気を付けてね……!」

理亞「うん。行くよ、クロバット! オニゴーリも付いてきて!」
 「──クロバッ!!!!」「ゴォォォーーリッ!!!!!」


理亞先輩がクロバットで飛び出すと同時に、オニゴーリも冷気を使って、巨大な足を作り出し、それを使って歩き出した。





    ⛄    ⛄    ⛄





クロバットで飛行を始めると──すぐにマーイーカの“ひっくりかえす”圏外に出たのか、重力がおかしくなる。


理亞「クロバット、落ち着いて対処。ここは重力が右斜め45度になってる」
 「クロバッ!!!」


体感を信じながら、逐一クロバットに指示を出し、


 「ギシャラァァァッ!!!!」

 「ドカグィィィィ!!!!」
337 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:29:01.26 ID:9NVhM0zb0

遠距離攻撃で相殺し合う2匹に接近する。

クロバットでギラティナの近くを通り過ぎると──


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナがこっちに向かって、“りゅうのはどう”を発射してくる。


理亞「……っ! ……回避!!」
 「クロバッ!!!」


クロバットはすぐさま、高速軌道でそれを回避する。


 「ドカグィィィィッ!!!!!」


アクジキングはギラティナが私たちに向かって攻撃した一瞬の隙を突いて、三たび触手を伸ばしてくる。

それを、


理亞「オニゴーリッ!!」

 「ゴォォォォォーーーリッ!!!!」


地上を進むオニゴーリが巨大な氷壁を展開し、触手の行く手を阻む。


 「ドカグィィィィィッ!!!!!」


分厚い氷の壁に触手が阻まれたアクジキングは、触手を使った“アームハンマー”で氷壁を割り砕く、が──メガシンカしたオニゴーリの冷気ならまたすぐに、壁を展開できる。


 「ドカグィィィィッ!!!!!」


それでも、アクジキングは氷を割り砕き、あくまでギラティナを攻撃しようとしている。

明らかに氷の壁を発生させているのはオニゴーリなのに。


理亞「やっぱり、アクジキングは大きなエネルギーに向かって攻撃してる……!」


これが確認出来ただけでも大きい。

私はクロバットに指示を出しながら、旋回しつつ、


理亞「ギラティナ!! こっちに来なさい!!」
 「クロバッ!!!」

 「ギシャラァァァァッ!!!!!」


氷の壁を回り込むように移動し、壁の切れ目からアクジキングが見切れた瞬間、


理亞「“かげぶんしん”!!」
 「クロバッ!!!!」

 「ギシャラァァァッ!!!!」


高速軌道の残像を作って、ギラティナの“シャドーボール”を回避する。

回避した攻撃はもちろんその先にいる──


 「ドカグィィィィィッ…!!!!」


アクジキングに直撃する。

攻撃が直撃したアクジキングは、ギラティナの姿を認識すると、
338 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:29:48.43 ID:9NVhM0zb0

 「ドカグィィィッ!!!!!」


またしても触手を伸ばしてくるが──


 「ゴォォォォリッ!!!!!」


それを再びオニゴーリの氷の壁で防ぐ。


理亞「これなら……どうにか、出来そう……!」





    👑    👑    👑





ルビィ「理亞ちゃんすごい……!」

かすみ「ギラティナの攻撃をアクジキングの方に誘いながら、アクジキングの攻撃がギラティナに届かないように防いでますよ!」


これなら、ギラティナがうっかり食べられちゃうみたいな心配もしなくてよさそうです……!


彼方「でも……その分、回復もされてる……」


珍しく眉を顰めながら言う彼方先輩。確かに、アクジキングは触手の進路を防ぐために作り出された氷の壁を、砕いた先から口に放り込んでエネルギーに変換している。


ルビィ「やっぱり……一撃で倒せるような、すごい攻撃を当てないとなのかな……」

彼方「うん……。避けながら攻撃を加えても、アクジキングの周りにエネルギー源がある以上、ジリ貧になっちゃう気がするよ〜……」

かすみ「その場からロクに動きもしないのに、めんどうなやつですねぇ〜……!! ……あれ?」


そこでふと、かすみんあることに気付きます。


かすみ「なんでアクジキングの周りは……重力が普通なんですか……?」


よくよく考えてみたら、かすみんたちはマーイーカのお陰で真っすぐ立っていられますが、アクジキングも同じようにその場に留まっていられるのはおかしい気がします。


彼方「たぶんだけど……ウルトラスペースで浴びたエネルギーの影響で、変なエネルギー場が生まれてて、ギラティナが干渉出来てないんだと思う……。ウルトラスペースからこっちに来るときも空間を捻じ曲げて来るくらいだから……」

かすみ「うーんと……? とりあえず、アクジキングにはこの世界の影響がないってことですよね……?」

彼方「そういうことかな〜……」

かすみ「……」


かすみんちょっと考えます。つまりアクジキングは重力の影響を普通に受ける……。

つまり、下に何もなければ落ちるし、上に何かあったら落ちてくるはず……。


かすみ「あの……一つ作戦を思いついたんですけど」

ルビィ「作戦……?」

かすみ「はい、えっとですね──」


かすみんが今思いついた作戦を、ルビ子と彼方先輩に伝える。


彼方「なるほど〜……確かにそれなら威力は十分……うぅん、十二分かも〜!」

ルビィ「グラードンは問題ないけど……」

かすみ「理亞先輩!! 今の作戦聞いてましたか!?」
339 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:32:48.24 ID:9NVhM0zb0

ヘッドセットに向かって訊ねかける。


理亞『聞いてた。でも、その作戦をするとなるとギラティナの協力が必要になる』

かすみ「はい! だから、どうにかしてください!」

理亞『まあ、やるしかないし、どうにかする』

かすみ「お願いします!」


さあ、一発逆転の一手……狙ってやりますよ!





    ⛄    ⛄    ⛄





かすみの無茶な作戦提案を受け、


理亞「クロバット! ギラティナに取り付いて!」
 「クロバッ!!!」


クロバットに指示を出し、攻撃を掻い潜りながら、ギラティナの頭部に降り立つ。


 「ギシャラァァァァァァッ!!!!!」


もちろん、頭の上に乗ろうものなら、ギラティナから激しく威嚇をされるわけだけど、


理亞「ギラティナ!!! 聞いて!!!」


私は声を張り上げる。


理亞「このままじゃ、アクジキングにこの世界をめちゃくちゃにされる!! ……一時的にでもいいから、アイツを追い出すために、協力して欲しい!」

 「ギシャラァァッ…!!!」


私の言葉がわかっているのかそうじゃないのか、ギラティナの動きが止まる。

そこに向かって──


 「ドカグィィィィィ!!!!!!」


しつこく迫ってくるアクジキングの触手を、


 「ゴォォーーーーリッ!!!!!!」


オニゴーリの作り出した氷の壁が阻む。


理亞「全力でサポートする。だから、お願い」

 「…ギシャラァァッ!!!!」


ギラティナは大きな赤い瞳で私を一瞥すると──


 「ギシャラァッ!!!!!!」


私を乗せたまま、大きな身をくねらせて、動き始めた。


理亞「了承と受け取るからね……!」
340 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:33:26.62 ID:9NVhM0zb0

私はギラティナへ指示を出し始める──





    👑    👑    👑





かすみ「……来た!」


頭上の遥か高い場所で──やぶれた世界の中にある浮遊大地が一ヶ所に集まり始めたのが見える。


理亞『ルビィ!!』

ルビィ「うん! グラードン! “だんがいのつるぎ”!!」
 「グラグラルゥゥゥゥ!!!!!」


グラードンが“だんがいのつるぎ”によって、大地に剣を突き立てます。

でも、今回はアクジキングの足元じゃない──アクジキングの頭上にある浮遊大地の底部分……!!


かすみ「彼方先輩!! 合わせてください!!」

彼方「任せろ〜!」

かすみ「ジュカイン!! サニゴーン!!」

彼方「ネッコアラ〜! カビゴン〜!」

かすみ・彼方「「“じならし”!」」
 「カインッ!!!」「ゴーーーン…」「コアッ!!!」「ゴンッ」


4匹が同時に“じならし”を発生させ、


 「ドカグィィィィィ!!!!!」


激しい揺れで、アクジキングの足を止める。


かすみ「ルビ子!! 外さないでよ!!」

ルビィ「うん!! 行くよ、グラードン!!」
 「グラグラルゥゥゥゥ!!!!!!」

ルビィ「“じわれ”!!」
 「グラルゥゥゥ!!!!!!」


雄叫びをあげながら、グラードンが両腕を思いっきり地面に叩きつけ──その衝撃で、大地に亀裂が走る。

その亀裂は、“じならし”で足の止まったアクジキングの真下まで走り──バキバキと音を立てながら、大地が真っ二つに広がっていく。


 「ド、ドカグィィィィ!!!!!」


足を取られ、さらに900kg弱の体重を支え切れず──アクジキングは落下を始める。

もちろんここにある大地は空中大地だから、それが割れればそこは空。

そして、割れた大地のすぐ下に見えるのは──また別の浮遊大地。

その大地には──すでに切り立った“だんがいのつるぎ”たちが剣山のように敷き詰められていました。

そうです、さっきの“だんがいのつるぎ”は上の大地の底面だけじゃなくて──下の大地の上面にも展開していたんです。


 「ドカグィィィィィッ!!!!!」


剣山の山に向かって落下するアクジキングに向かって、
341 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:34:02.70 ID:9NVhM0zb0

かすみ「理亞先輩!! やっちゃってください!!」

理亞『ギラティナ!! 今!!』

 「ギシャラァァァァァ!!!!!!」


上空に集まっていた巨大な浮遊大地が──重力に従って、落下を始めた。

もちろん、歯のように鋭く生えそろった“だんがいのつるぎ”を真下に向けながら──


 「ドカグィィィィィッ!!!!!?」


それはまるで──大きな大地の口が、アクジキングを喰らうような光景でした。


かすみ「悪食な大喰らいにはお似合いですよ!!」

 「ドカグィィィィィッ!!!!!!」


二つの大地が衝突した瞬間──衝突の衝撃で、聞いたこともないような轟音がやぶれた世界中を劈き、


かすみ「わひゃぁぁぁぁ!!!?」


発生した衝撃波で、かすみんの身体が宙に浮く。

そんな、かすみんを、


彼方「っと……!!」


ムシャーナの上に乗っかっていた彼方先輩が、キャッチしてくれる。


ルビィ「コラン!! “リフレクター”! “ひかりのかべ”!」
 「ピピッ!!!」


そして、サイコパワーで浮いているムシャーナ、マーイーカと、飛行するルビ子のオドリドリの周囲を包み込むように、衝撃を防ぐ2種類の壁を球状に展開される。


かすみ「た、助かった……」


最初から逃げるつもりで、グラードンの“じわれ”直後にポケモンたちを全員ボールに戻してましたけど……まさか、こんなとんでも威力になるとは……。


彼方「うわ〜……すごいことになっちゃったね〜……」

ルビィ「ぅゅ……アクジキングさん……死んじゃったんじゃ……」


優しいルビ子がアクジキングの心配をする。……た、確かに……ちょっと、やりすぎましたかね……?

そう思った瞬間──


 「──ドカグィィィィィィィ!!!!!!!!」

かすみ「っ!?」
ルビィ「う、うそ……!?」
彼方「マジか〜……」


大地を粉砕しながら、アクジキングが飛び出してきた。


かすみ「こ、これでも倒れないなんて……も、もう無理ですよぉ……!?」


さすがに、冷や汗が出てきた。

あれで倒れないなんて、もはや生き物なんですかあいつ!?
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