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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2
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342 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/26(月) 12:34:36.14 ID:9NVhM0zb0
かすみ「もう策なんてないですよっ!?」
「ドカグィィィィィ…!!!!!」
かすみ「ぎゃーーーーーーっ!!? しかも、こっち見たぁぁぁぁぁ!!!?」
さっきまで、完全にかすみんたちのことを無視していたくせに、さすがに“げきりん”に触れてしまったらしい。
「ドカグィィィィィィッ!!!!!」
アクジキングは大地を粉砕しながら、こちらに向かって踏み出した──直後、グラリと揺れ、
「ドカ……グィィィィィ……」
そのまま、躓くように倒れて、動かなくなった。
かすみ「……あ、あれ……? た、倒れた……?」
ルビィ「……び、びっくりした……」
彼方「……さ、さすがにね〜……あれで耐えられてたら、彼方ちゃんもどうしようもないと思ってたよ〜……」
そう言いながら、ムシャーナがアクジキングの方へとゆっくり下降していく。
かすみ「ち、近付いてどうするんですか……!?」
彼方「もう、ウルトラスペースに還る体力も残ってないだろうからね。……こうする!」
彼方先輩はムシャーナの上から──クモの巣のようにネオン模様を張り巡らされた変わったモンスターボールを、アクジキングに向かって投げつけた。
ボールが当たると──パシュンとモンスターボール特有の音を立てながら、アクジキングは吸い込まれ……カツーン! と音を立てながら、大地の上に落ちたのだった。
彼方「アクジキング、捕獲完了っと〜……」
かすみ「お〜! さすがです、彼方先輩!」
彼方「それほどでも〜」
理亞「──のほほんとしてる場合じゃない!!」
かすみ「わぁっ!? り、理亞先輩……!?」
気付いたら、理亞先輩が声を荒げながら、かすみんたちのもとに降りてきていました。そして、その視線の先には──
「ギシャラァァァ…!!!!」
かすみ「ぎ、ギラティナ……わ、忘れてた……!」
考えてみれば、一時的に協力関係を結んだだけで、ギラティナとは敵同士なんでした……!
ルビィ「グラードン!!」
「──グラグラルゥゥゥ!!!!」
ルビ子が再びグラードンをボールから出し、かすみんたちの前に立ちます。
「ギシャラァァァ…!!!!」
「グラルゥ…!!!」
2匹がにらみ合い、緊張が走ります──が、
「ギシャラァァァ」
343 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/26(月) 12:35:08.86 ID:9NVhM0zb0
ギラティナは攻撃するどころか──そのままかすみんたちがいる大地に降り立って、静かにこっちを眺めているだけでした。
かすみ「あ、あれ……?」
理亞「攻撃……して、こない……?」
ルビィ「もしかして……」
彼方「一緒にアクジキングを倒したから……信用してもらえたのかもしれないね〜……」
「ギシャラァ」
かすみ「……よ、よかったぁ……」
あんなとんでもポケモンのあとに、伝説のポケモンとの第二ラウンドなんて、シャレになりませんから……。
かすみんは安心して、その場にへなへなとへたり込んじゃうのでした。
👑 👑 👑
理亞「ギラティナ。大きなピンクダイヤモンドがある場所……わかる?」
「ギシャラァ」
理亞先輩がそう訊ねると──ゴゴゴッと音を立てながら、大地が動き出す。
かすみ「お、おお……全自動……」
彼方「動く歩道ならぬ、動く大地だね〜」
ルビィ「ギラティナさん、ありがとう♪」
「ギシャラ…」
ルビ子が声を掛けると、ギラティナは身を屈め、ルビ子に頭を寄せる。
ルビ子はそんなギラティナの頭を撫でながらお礼を言う。今さっきまで、あんな戦いをしていた相手なのに、怖くないんですかね……?
かすみ「ルビ子って、普段あわあわしてるのに度胸ありますよね……」
理亞「ああ見えて、無鉄砲というか、変なところで無頓着というか……」
ルビィ「? どうかしたの?」
彼方「ふふ♪ ルビィちゃんは優しい子だよね〜って、お話ししてたんだよ〜♪」
ルビィ「そ、そうなの……?」
しばらく浮遊大地の上で待っていると──
かすみ「……! あれじゃないですか!?」
景色の遥か先に──ピンク色の光が見えた。
ルビィ「うん、そうだと思う……!」
理亞「本当にあったんだ……巨大なピンクダイヤモンド……」
彼方「ふぃ〜……見つけられて一安心だよ〜……」
大地はゆっくりとその輝きへと近付いて行きます。
344 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/26(月) 12:35:48.09 ID:9NVhM0zb0
👑 👑 👑
かすみ「……いや……嘘ですよね……?」
かすみんたちが遠方にピンク色の輝きを見つけてから、そこにたどり着くまで──たぶん、1時間くらい掛かった気がします。
そして、たどり着いたそこにあったのは──
かすみ「でっか……」
見上げるほどの高さのピンクダイヤモンドでした。
彼方「わ〜……これはすごいねぇ〜……」
ルビィ「ヒャッコクシティの日時計よりも遥かに大きい……」
彼方「果南ちゃんはここに来たときに、これを見たんだねぇ〜……」
かすみ「……と、とりあえず、ここにリナ子の基になった人の魂があるんですよね!」
理亞「仮説通りならね……」
とにもかくにも、これにてミッションは2つ完了です……!
やることはあと1つ……!
理亞「あとは……ディアンシーに会うことだけ……」
理亞先輩がそう言葉にする。
理亞「ルビィ、ディアンシーを探そう」
ルビィ「……」
理亞「……ルビィ?」
ルビィ「……ドキドキする……」
理亞「え……?」
かすみ「……まあ、ルビ子も女の子ですし、これだけ大きな宝石を見たらドキドキしちゃうのもわかりますよ。でも、かすみん的にはここまで大きいとちょ〜〜〜〜っと可愛くないかな〜って──もがっ!?」
彼方「かすみちゃん、今はちょっと静かにしてよっか〜?」
かすみ「んー? んーー??」
彼方先輩に口を塞がれる。
よく見たらルビ子は、胸の前で手を組んで、目を瞑っていた。
ルビィ「近くに……いる……」
理亞「……」
ルビィ「…………きっと……ここに来てからずっと……私たちを見てくれていた……」
ルビ子はゆっくりと目を開けて、
ルビィ「……ディアンシー様」
そう名前を呼ぶと、ピンクダイヤモンドが光り輝き──
「──アンシー…」
345 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/26(月) 12:36:33.33 ID:9NVhM0zb0
気付けば、ポケモンが居た。
ピンクに輝く宝石を全身に纏ったポケモン。その輝きは、今まで見たことのない強烈な輝きを放っていて──
かすみ「きれい……」
思わず言葉が漏れる。でも、他に言葉が出ないくらい、美しいポケモンでした。
ルビィ「ディアンシー様……お久しぶりです……」
「アンシー…」
理亞「……ディアンシー……お願いがあるの」
そう言いながら、理亞先輩が前に出る。
理亞「ねえさまの……心を返して……ください……」
そして、頭を下げた。
理亞「ねえさまのしたことは許せないかもしれない……でも……私にとって、たった一人の家族で……かけがえのない人だから……」
「…アンシー」
ディアンシーはふよふよと理亞先輩の目の前まで下りてくる。
理亞先輩が顔を上げたのを確認すると、ディアンシーは──首を横に振った。
理亞「…………。…………そっか」
理亞先輩は、ディアンシーから拒絶されて、顔を伏せる。
かすみ「理亞、先輩……」
理亞「…………まだ、足りないんだ……。……わかった、認めてもらえるくらいになったら……また来るから……そのときは──」
ルビィ「……違う。……ディアンシー様が言ってるのは……そういうことじゃない……」
理亞「え……?」
気付けば──ルビ子の瞳の中にピンク色の光が見えた。
ルビィ「…………はい。…………そもそも、心を奪ってなんかいない……?」
理亞「え……?」
かすみ「ルビ子、もしかして……?」
彼方「ディアンシーと喋ってる……?」
どうやら、ルビ子はディアンシーとお話をしているようだった。
……巫女って言っていましたし……たぶんそういうこと、ですよね……?
理亞「じ、じゃあ、ねえさまの心はどこに……!!」
ルビィ「…………いつも、そこに……?」
理亞「そこ……?」
ルビィ「…………そっか、そういうことだったんだ……」
理亞「……?」
ルビ子は理亞先輩に振り返り、
346 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/26(月) 12:37:32.48 ID:9NVhM0zb0
ルビィ「聖良さんは……ずっと、理亞ちゃんの傍にいたんだ……」
そう言って、理亞先輩の上着のポケットを上から触った。
理亞「……!」
理亞先輩は目を見開いて、ポケットから──ピンク色のダイヤモンドの欠片を取り出した。
理亞「ここに……ねえさまが……?」
ルビィ「……ディアンシー様の力が聖良さんの心を身体から引き剥がしちゃったのは本当だけど……聖良さんは、ずっと……理亞ちゃんの傍にいたんだね……」
理亞「……そっか、そうだったんだ……っ……ねえさま……っ、……ずっと、そこにいたんだね……っ……私を見て……くれてたんだね……っ、……ねえさま……っ……」
理亞先輩は大事そうに、胸にピンクダイヤモンドの欠片を抱きしめながら──静かに涙を流したのでした。
その涙は……何故だか、宝石のように美しい涙に見えた気がしました。
👑 👑 👑
さてあの後、かすみんたちはやぶれた世界に入ってきた場所まで、ギラティナに案内をしてもらって、
かすみ「──んべっ……!!」
ルビィ「ピギィ!?」
理亞「……っと」
彼方「彼方ちゃん、無事帰還〜」
そこにあった穴を通って、戻ってきたのでした。
鞠莉「……はぁ……はぁ……みんな……おかえりなさい……」
彼方「鞠莉ちゃん!? 大丈夫!?」
崩れ落ちそうになった鞠莉先輩に彼方先輩が駆け寄って、身体を支える。
鞠莉「へ、平気よ……さすがに、消耗したけど……」
ルビィ「鞠莉さん……ありがとう」
理亞「お陰で無事に帰ってこれた」
みんな鞠莉先輩にお礼を言ってますけど──
かすみ「それ、より、も……早く、かすみんの上から……どいて、くだ、さい……お、重い……」
ルビィ「あ、ご、ごめんね!? かすみちゃん!?」
理亞「ごめん。気付いてなかった」
かすみ「もう……酷いですぅ……」
かすみん、お洋服についた埃をぱたぱたと払いながら立ち上がります。
鞠莉「それで……結果は……どうだった……?」
理亞「……このボールにギラティナが入ってる」
347 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/26(月) 12:38:08.00 ID:9NVhM0zb0
理亞先輩はそう言いながら、取り出したモンスターボールを鞠莉先輩に見せる。
ギラティナは今後もしばらく協力してもらうことになるため、ボールに入ってもらいました。
事情を説明するとすんなり捕まってくれましたし……ギラティナに協力関係を取り付けるというのは完璧ということで問題ないでしょう。
ルビィ「ピンクダイヤモンドも見つけました!」
理亞「ねえさまのことも……わかったから」
鞠莉「そっか……よかった……消耗した甲斐があったってものデース……」
彼方「鞠莉ちゃん、ありがとね〜。帰ったら彼方ちゃんがおいしいご飯作ってあげるよ〜」
鞠莉「ふふ……それは……楽しみデース」
彼方「詳しい報告は後にして……とりあえず、セキレイに帰ろう〜」
かすみ「はーい!」
やぶれた世界での戦いは、予想外のこともありつつ、大波乱でしたが──どうにかこうにか、全ての目的を達成し、オールオッケーな感じで終わりを迎えることが出来たのでした♪
348 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/26(月) 12:38:46.13 ID:9NVhM0zb0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【忘れられた船】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥・ :● ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.74 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.66 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:228匹 捕まえた数:14匹
かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
349 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 02:19:42.72 ID:0yMsBTVK0
■Intermission🎹
「ニャ…」
「遥ちゃん……!! こっち!!」
「うん!!」
姉妹が大きなシップへと乗り込んでいく。
「ニャァ〜…」
それを追って、シップへと乗り込んでいく。
──やがて、シップは発進し、異空間の中を突き進んでいくが……。
ドォンッ!!! と鳴り響く轟音と共に、激しい揺れに見舞われる。
「ニャァァァッ!!!!?」
そのまま視界は……光に包まれた。
──
────
「ニャァ…」
目が覚めたら、浜辺に居た。
起き上がって、歩き出した。
お腹が空いたら、“きのみ”を探して食べた。
食べたら、また歩き出す。
「シャーーーボックッ!!!!!」
「ウニャァーーーッ!!!!」
時に自分より大きなポケモンに襲われた。
頑張って戦って、倒したら……また歩き出す。
雨が降ってきた。でも歩く。
すごい日差しに照らされて暑くて仕方がない。でも歩く。
風が強くて吹き飛ばされそうになる。でも歩く。
雪が降ってきて凍えそうになる。でも歩く。
歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて……歩いて……。
『──そっか。じゃあ、今は心の準備中なんだね』
「うん、そんな感じかな」
「ニャ…?」
声がした。初めて聞く声だけど、すごく懐かしい声だった。
近寄ってみる。
350 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 02:20:17.16 ID:0yMsBTVK0
『……ん』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
「? どうかしたの?」
『野生のポケモンの反応』 || ╹ᇫ╹ ||
「え? どこ?」
「ニャァ」
「わ、かわいい♪」
『ニャスパー じせいポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.5kg
プロレスラーを 吹きとばす ほどの サイコパワーを
内に 秘めている。 普段は その 強力な パワーが
漏れ出さないように 放出する 器官を 耳で 塞いでいる。』
「ニャスパーって言うんだね? おいで♪」
「ニャァ」
すごく懐かしいけど、知らない。
知らないけど、すごく懐かしい。
──やっと……見つけた。……やっと、会えた──
「ニャァ…」
──
────
──────
──また、夢を見た。
侑「…………」
ただ、1匹のポケモンが、大切な主人を想って──世界すら越えて会いに行こうとする……そんな夢……。
そっか……私がずっと見ていた、あの夢は……。
リナ『侑さん? また酔った?』 || ╹ᇫ╹ ||
今はまだホエルオーの上。ウラノホシに向かっての航海中。
シュラフの中で身を起こす私を見て、リナちゃんがそう訊ねてきた。
侑「……うぅん、なんでもないよ。ちょっと目が覚めちゃっただけ」
リナ『そう……?』 || ╹ᇫ╹ ||
私はシュラフの中で、腰に着けたボールの1つを……優しく撫でた。
侑「……きっと……もうすぐ、会えるから……」
そう独り言ちて……。
………………
…………
……
🎹
351 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:41:55.99 ID:0yMsBTVK0
■Chapter060 『リナと璃奈』 【SIDE Yu】
──無事航海を終えてウラノホシのたどり着いた私たちは、行きと同様、そこから“そらをとぶ”でセキレイへと移動。
私たちが飛び立って行ったツシマ研究の前に戻ってくると──
かすみ「──侑せんぱぁぁぁぁいっ!!」
侑「わぁ!?」
「ブイ!!?」
かすみちゃんが抱き着いてきて、尻餅をつく。
かすみ「遅いから心配してましたぁ……おかえりなさいです……」
侑「ふふ……ただいま、かすみちゃん」
「ブイ♪」
リナ『ただいま♪』 || > ◡ < ||
かすみ「はい♪ リナ子とイーブイもおかえり♪」
子犬みたいに嬉しそうに笑うかすみちゃんの頭を撫でていると、
彼方「おかえり〜、侑ちゃん♪」
彼方さんも近付いてきて、私たちにいつものニコニコ笑顔を向けてくれる。
侑「はい! ただいまです!」
果南「ふふ、熱い歓迎だね♪」
鞠莉「果南、善子、曜も。お疲れ様」
善子「だーかーらー……!! 何度言えばわかるのよ!! ヨハネって言いなさいよ!!」
曜「あはは……」
鞠莉「それで……どうだった?」
鞠莉博士が果南さんにそう訊ねると、
果南「もちろん、完遂してきたよ。侑ちゃんの活躍でね♪」
そう言いながら、果南さんが親指で後ろを指差すと──
「ウォーーーッ!!!!」
ウォーグルの足に括りつけた紐の先に、タライくらいのサイズの水槽があり、その中に、
「フィー♪」
マナフィがいた。
果南「そっちは?」
かすみ「ギラティナ捕まえてきちゃいましたよ! こっちもミッションコンプリートです!」
海未「──両作戦、共に成功ということですね」
そう言いながら、海未さんが研究所の方から歩いてくる。
352 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:44:37.07 ID:0yMsBTVK0
海未「果南、曜、善子、侑。お疲れ様です」
善子「だーかーらぁー……!」
海未「セキレイの中央街で会議室を借りています。とりあえず、そちらへお願いします。ルビィと理亞もそちらで待っているので」
善子「聞きなさいよ!」
曜「はいはい、善子ちゃん行くよ〜」
侑「あはは……」
私たちは一旦、落ち着いて話が出来る場所へ移動します。
🎹 🎹 🎹
海未「──さて……まずは皆さん、お疲れ様です。どちらの作戦も滞りなく進んだようで何よりです」
海未さんが全員を見回す。
海未「とりあえず、次の動きですが……」
果南「リナちゃんとマナフィをピンクダイヤモンドの場所に連れていく。だよね」
海未「はい。それが最優先になりますね。……なので、理亞。聖良の件については……」
理亞「そっちが終わってからで大丈夫。……ねえさまは、ちゃんとここにいるから」
そう言いながら、理亞さんはピンク色をした宝石を抱きしめていた。
海未「そう言っていただけると助かります。では、早速向かって欲しい……と言いたいところですが、マナフィ班は帰ってきたばかりで疲れているでしょうから、今日は休んでください」
海未さんの言葉で正直ホッとする。
リナちゃんのことは急いだ方がいいけど……さすがにくたくただし、ベッドで休みたい気持ちだった。
海未「侑もかすみも今日は一度、家に帰るといいでしょう」
善子「こっちに残る人は、私の研究所に泊まるといいわ。部屋は余ってるし」
鞠莉「ええ、そうさせてもらうわ」
ルビィ「ルビィと理亞ちゃんは……一旦自分の町に帰るつもりです。お姉ちゃんも心配してるだろうし……」
理亞「いつまでも自分の管轄を希さんに任せておくわけにいかないしね……」
曜「私も一旦セキレイの警固に戻ります。ことりさんはただでさえカバー範囲が広いんだから、私もサポートしないと……」
海未「わかりました。では四天王たちには私の方から連絡を入れておきます。では、明日の作戦は果南、鞠莉、善子、彼方、侑、かすみの6人でお願いします。……そういえば、マナフィはともかく、ギラティナは言うことを聞いてくれそうですか?」
鞠莉「それなんだけど……さっき、確認のためにギラティナをボールから出したら、姿が変わっていたの」
海未「姿が……ですか……?」
鞠莉「たぶん、やぶれた世界と違って、こっちの世界にいる間は、元の姿が維持できないんだと思うわ。そのときに、ギラティナからこれが落ちてきたんだけど──」
そう言いながら、鞠莉さんが大きな金属の塊のようなものを取り出す。
353 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:45:11.81 ID:0yMsBTVK0
ルビィ「えっと……すごく純度の高いプラチナみたいなものみたいです」
鞠莉「恐らく、ディアルガやパルキアの持っている珠とよく似たものだと思う。図鑑で調べたらこのギラティナの特性も“テレパシー”だったから、これがあれば、ある程度意思疎通が出来ると思うわ」
海未「なるほど……」
鞠莉「もちろん、使うには心身に負担がかかると思うから……ギラティナへの指示はわたしが出すわ。あくまでピンクダイヤの場所まで連れて行ってくれるようにお願いするだけだから、そんなに大変じゃないだろうけどね」
果南「最悪私も代われるし、その辺はどうにかなりそうだね」
海未「わかりました。では、そのようにお願いします。他に何かある方はいますか?」
彼方「そうだ〜! 大事なことがあったんだった〜!」
彼方さんがそう言いながら手を上げる。
彼方「やぶれた世界にウルトラビーストが出現したんだよ〜!」
海未「……確かに、帰還後の簡易報告でもそう言っていましたね」
かすみ「さすがのかすみんも、アクジキングが突然飛び出してきたときはビビりましたよ……」
彼方「捕まえたアクジキングは、国際警察の方に送ったけど……裏世界にまで来るとは思わなかったよ……」
鞠莉「……ただ逆を言うなら、それはピンクダイヤモンドにリナの“魂”がある説を強めてくれるわ」
侑「どういうことですか……?」
鞠莉「前に彼方が言っていたことによれば……リナのオリジナルの──璃奈さんはウルトラスペースの調査中に亡くなったんでしょ?」
彼方「うん。ウルトラスペースにいる最中にシップの事故でって、聞いて……あ、そっか」
そこまで言って彼方さんは自分で気付いたようだ。
鞠莉「そういうこと。もし、璃奈さんがウルトラスペースで消息を絶って、やぶれた世界で精神が見つかったんだとしたら……この2つの空間が完全に行き来が出来ないとなると、そもそもの話が成立しなくなっちゃうもの」
リナ『一応ウルトラスペースから、ここの表の世界を経由して、やぶれた世界に流れ着いたって説も0じゃないけどね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
鞠莉「まあ、どちらにしろ……明日、実際にリナと行ってみれば全部わかることよ」
海未「そうですね……。ただ、ウルトラビーストの襲撃があり得ることは、十分に警戒してください」
彼方「らじゃー!」
海未「他に何か話がある方はいますか?」
海未さんが見回しながら訊ねる。
海未「なさそうですね。……それでは、本日は一旦解散とします。あと、今回の作戦中はこちらを仮本部としていますので、こちらにはリーグの人間を配置しておきます。何かあったら、こちらまでお願いします。それでは皆さん、重ねてになりますが……作戦ご苦労様でした」
海未さんがそう締めくくり、『マナフィ捜索』、『やぶれた世界調査』の両作戦は解散となったのだった。
🎹 🎹 🎹
──翌日。
鞠莉「それじゃ、始めるわよ。ギラティナ、出てきて」
「──ギシャラ」
幽霊船を訪れた私たちは、
「フィ〜♪」
354 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:45:50.99 ID:0yMsBTVK0
マナフィを連れて、やぶれた世界に向かおうとしていた。
彼方「ギラティナくん、よろしくね〜♪」
かすみ「お願いします〜!」
「ギシャラ…」
ギラティナが一鳴きすると──空間に浮いていた裂け目のようなものがどんどん広がっていく。
善子「この大きさだと全員横並びでも入れそうね……」
鞠莉「ディアルガとパルキアだと2匹合わせても人一人通るサイズがやっとなのにね……。やっぱり、向こうはあくまでギラティナの世界なのね……。こんなの見せられると今までの苦労が馬鹿らしくなってくるわ……」
果南「まあまあ。今までの苦労のお陰で楽になったって考えればいいじゃん」
鞠莉「まあ……そうね。それじゃ、みんなやぶれた世界へ行きましょう」
私たちはやぶれた世界へ向かいます。
リナ『リナちゃんボード「ドキドキ」』 || ╹ᨓ╹ ||
🎹 🎹 🎹
空間の裂け目を通って、目を開けると──摩訶不思議な空間が広がっていた。
侑「……地面が……浮かんでる……?」
「ブイ…」
リナ『ありとあらゆる計器が異常な数値を示してる……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
かすみ「初めて来たときはびっくりしますよね……かすみんもびっくりしましたもん」
彼方「ねー。こんな世界があるなんてびっくりだよね〜」
かすみ「その割に、彼方先輩はすぐに順応してましたけどね……」
驚く私とリナちゃん。そして、すでに訪れたことのあるかすみちゃんと彼方さんは私たちの反応を見て、しきりに頷いていた。
一方で、
善子「なかなかそそる光景じゃない……ヨハネ好みの雰囲気だわ」
果南「あー……そうだ、確かに前来たときもこんな感じだった」
鞠莉「へー……こんな感じだったのね」
博士たちは、三者三様の感想を述べる。
果南「……言われてみれば、鞠莉はここ来たことないんだっけ?」
鞠莉「わたしはいつもGatekeeper役だったからね〜……まさか3年越しに来ることになるとは思わなかったわ」
鞠莉博士はそう言って肩を竦める。
かすみ「とりあえず、ピンクダイヤモンドのところに移動しちゃいましょう!」
彼方「ギラティナくん、引き続きお願いね〜」
「ギシャラ…」
彼方さんがギラティナにお願いすると、足元の浮島が動き出す。
355 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:46:26.06 ID:0yMsBTVK0
果南「おー……あの見境がなかったギラティナが言うこと聞いてる……」
鞠莉「かすみと彼方には随分なついているみたいね。これなら、“はっきんだま”は必要なさそうかしら……?」
かすみ「かすみんたちはギラティナと一緒に戦った仲ですからね! 昨日の敵は今日の友ってやつです!」
彼方「ギラティナくん的には、理亞ちゃんとルビィちゃんの方が好きみたいだけどね〜」
「ギシャラ」
ギラティナに導かれ、私たちはピンクダイヤモンドのもとへと赴きます。
🎹 🎹 🎹
──動く浮島に乗って移動すること小一時間ほど……。
侑「……これが……ピンクダイヤモンド……」
私たちは、見上げるほど大きなピンクダイヤモンドのもとに辿り着いていた。
侑「ここに……リナちゃんがいるんだね」
リナ『……』 || ╹ᨓ╹ ||
鞠莉「時間も勿体ないし、早速始めましょう……リナ、心の準備はいい?」
リナ『うん、お願い』 || ╹ᨓ╹ ||
リナちゃんの声からも、少し緊張しているのが伝わってくる。
果南「侑ちゃん」
侑「はい。マナフィ」
「フィ〜♪」
抱っこしていたマナフィを地面に下ろしてあげると、マナフィは宝石の方に歩いていく。
鞠莉「リナ」
リナ『うん』 || ╹ᨓ╹ ||
そして、リナちゃんは宝石とマナフィの間にふよふよと移動する。
かすみ「そういえば……マナフィの技で心を移し替えるって言ってましたよね?」
果南「うん、そうだよ」
かすみ「ってことは……今までのリナ子の記憶とか心は新しいのと入れ替わっちゃうんですかね……?」
鞠莉「大丈夫よ。リナが図鑑のボディになってからのことは、全てストレージに複製しているらしいから」
リナ『感情や記憶を動かしてる回路に外部からデータが入ってきたとき、自動的にストレージに複製した記憶領域にアクセスするように自己プログラムを組んでるからそこは問題ない。はず』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「えっと……よくわかんないけど、大丈夫ってことですよね?」
侑「……リナちゃんが大丈夫って言ってるなら、大丈夫だと思う」
リナ『うん、大丈夫』 || ╹ ◡ ╹ ||
……はずって言うのは……確証はないってことなのかもしれないけど……。
それは、リナちゃんの緊張している声を聞いていてもなんとなくわかる。
リナちゃんが何に緊張しているのかも。
356 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:47:38.17 ID:0yMsBTVK0
侑「リナちゃん」
リナ『? なぁに?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「何があっても……私と一緒に旅をしたリナちゃんのことは……私がちゃんと覚えてるから。大丈夫だよ」
リナ『……!』 || ╹ _ ╹ ||
侑「きっと……このピンクダイヤの中にあるリナちゃんの記憶は、心は……リナちゃんにとっても大切なもののはずだから。怖がらないで」
リナ『侑さん……うん……!』 || 𝅝• _ • ||
鞠莉「……ふふ。……リナのこと、侑に任せてよかったわ」
果南「ふふ、そうだね」
善子「まあ、私に見る目があったってことね、感謝しなさ──いたたっ!? マリー痛い!? 耳引っ張らないでよ!?」
侑「リナちゃん、始めるよ」
リナ『うん!』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「マナフィ、お願い!」
「フィ〜〜♪」
私がマナフィにお願いすると……マナフィの触角の先がぽわぁっとピンク色に光り出し──それと同時に……リナちゃんとピンクダイヤモンド中から、虹色の球状の光が飛び出して──入れ替わった。
侑「…………」
かすみ「も、もしかして……今ので終わりですか……? 随分、あっさり……」
侑「リナちゃん」
リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||
リナちゃんはしばらく黙っていたけど、
|| ╹ᇫ╹ ||
|| ? ᆷ ! ||
|| 𝅝• _ • ||
|| ╹ _ ╹ ||
|| ╹ ◡ ╹ ||
何度も表情を切り替えたのち、
リナ『うん。……全部、思い出したよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんはそう言葉にして、私のもとに戻ってくる。
リナ『侑さん』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「なぁに?」
リナ『全部話したいけど……あまりにたくさんあって……ここで全部話すのは難しい。だから、ちゃんとした場所で話したい』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん、わかった」
鞠莉「ええ、すぐに海未さんに連絡して、場を用意してもらうようお願いするわ」
リナ『うん、ありがとう。博士』 || ╹ ◡ ╹ ||
そして、リナちゃんはふよふよと移動し、彼方さんの前で止まって、
リナ『彼方さん……久しぶり』 || ╹ ◡ ╹ ||
そう言った。
357 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:48:21.75 ID:0yMsBTVK0
彼方「……! じゃあ、やっぱり……」
リナ『うん。……私の記憶は間違いなく、テンノウジ・璃奈を基に作られてる。ただ、私にわかるのは私が消えるまでのことまで。情報の補完がしたい。お話しするの、一緒に手伝って欲しい』 || ╹ ◡ ╹ ||
彼方「うん……! もちろん……っ」
頷きながらも、彼方さんの目には涙が浮かんでいた。
死んでしまったと思っていた、かつての仲間との再会だもの……無理もないよね。
そして……リナちゃんとの再会を喜ぶのがもう1人──うぅん、もう1匹。
私の腰に着けたボールがカタカタと揺れ、
「ニャァァァーーー!!!!!」
飛び出したニャスパーが、リナちゃんに飛び付いた。
「ニャァァァァ…ッ、ニャァァァ…ッ」
リナ『ニャスパー……びっくりしたよ。ここまで追いかけてきちゃったの?』 || ╹ ◡ ╹ ||
「ニャァァァ…」
彼方「え……じ、じゃあ、そのニャスパー……もしかして……」
侑「やっぱり……──リナちゃんのニャスパーだったんだね」
かすみ「え!? 嘘!?」
リナ『侑さん、知ってたの……?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「確証は持てなかったけど……ニャスパーと一緒に旅するようになってから、ずっと不思議な夢を見てたんだ」
いつもすごく低い目線で、誰かを追いかけていた。そんな夢──
侑「あれは……ニャスパーの記憶だったんだ」
リナ『……ニャスパーはエスパータイプだから、寝てるときに思念が侑さんに流れ込んじゃってたんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||
「ニャァァァ…」
リナ『侑さん、今までニャスパーと一緒にいてくれてありがとう。“おや”として、すごく感謝してる』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うぅん、こちらこそ。ニャスパーにはすっごく助けられたから。ニャスパー、よかったね……やっと君を“おや”に会わせてあげられたよ」
「ニャァ…」
今になって考えてみると……ニャスパーは確信を持てないながらも、リナちゃんに何かを感じていたから、よく目で追っていたんだと思う。
善子「……ポケモンが“おや”を探して……他の世界から渡ってきたってこと……?」
鞠莉「驚きを隠せないわね……」
果南「……でも、まだ驚くようなことがたくさんあるんでしょ?」
リナ『うん。何から話せばいいかわからないくらいたくさんある』 || ╹ ◡ ╹ ||
果南「なら、まずは帰還しよう」
鞠莉「ええ、そうね。……これからのことを、話し合うためにも……」
私たちは、リナちゃんの記憶を取り戻し──やぶれた世界から帰還するのだった。
358 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:49:10.20 ID:0yMsBTVK0
🎹 🎹 🎹
──あの後、やぶれた世界から戻ってすぐに海未さんに連絡したところ、すでに用意が出来ていたようで、昨日借りていたセキレイの会議室へトンボ返りしてきた。
海未「まずは……無事にリナの記憶が戻ったと聞いて安心しています。ジムリーダーも四天王もあまり持ち場を離れられない状況なので……少人数での情報共有になってしまいますが……」
果南「その辺は海未がうまいこと纏めて、みんなに伝えてくれるんでしょ?」
海未「……他人事だと思って……」
果南「期待してるよ〜理事長〜♪」
海未「……はぁ……とりあえず、ここで得られる新しい情報を基に今後の方針を立てていくつもりです」
リナ『……まず、何から話せばいい?』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「そうですね……まず確認になりますが……リナ、あなたはテンノウジ・璃奈さんということでいいんですか?」
リナ『確かに私はテンノウジ・璃奈を基に作られている。それは間違いない。でも、私がテンノウジ・璃奈だと言うのは正確じゃない』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「正確じゃないというのは……?」
リナ『私はあくまでテンノウジ・璃奈の記憶と精神をベースに作られた劣化コピー品。大部分の記憶情報は元に戻ったけど、完全ではないし……何より肉体の情報は99.999%欠損したまま。人間にとって肉体の持っている情報量は大きい。だから、私を生物学的にテンノウジ・璃奈と断定するには、無理がある』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「……なんか、リナ子がへりくつみたいなこと言ってる……」
リナ『屁理屈じゃない。生物として同じ個体と言うにはあまりに定義から逸脱してる。だから、私をテンノウジ・璃奈であるとするのはおかしいって話』 || ╹ᇫ╹ ||
彼方「あはは♪ その考え方、ホントにリナちゃんだ〜♪」
彼方さんはそう言って嬉しそうに笑う。
かすみ「……侑先輩、リナ子なんかちょっとめんどくさい感じになってませんか……?」
一方で、かすみちゃんは隣に座っている私に小声で耳打ちをしてくる。
侑「まあ……リナちゃん、研究者だって話だし……きっと、リナちゃんにとっては大事なことなんだと思うよ」
かすみ「そういうもんなんですかねぇ……」
善子「そういうもんよ。学者にとっては定義って大事なものだから」
私たちの話が聞こえていたのか、隣のヨハネ博士がかすみちゃんに向かってそう答える。
359 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:51:00.87 ID:0yMsBTVK0
海未「わかりました。では、貴方はテンノウジ・璃奈の記憶と人格を持った……AIということでよろしいですか?」
リナ『相違ない』 || ╹ ◡ ╹ ||
海未「その上で……そうですね、貴方の精神がどうして、やぶれた世界のピンクダイヤモンドに宿っていたのか……説明は出来ますか?」
リナ『それを話すには、まず私の死因から話さないといけない』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……やっぱり……そのリナちゃんというか……璃奈さんは……」
リナ『うん。生物学的には間違いなく死んでると思ってもらって差し支えない』 || ╹ᇫ╹ ||
彼方「え、えっと……死因は……ウルトラスペース航行中に起こった、ウルトラスペースシップの一部が爆発したことが原因って、彼方ちゃんは聞いてるんだけど……」
リナ『……それを原因と言うには、少し雑すぎるかも……。報告って愛さんがしたんじゃないの?』 || ╹ᇫ╹ ||
彼方「愛ちゃんは……あの事故のあと、塞ぎ込んじゃって……事故の報告は、組織の上の人が愛ちゃんから聞いた話を基にしたって……」
リナ『なるほど……確かに、愛さんじゃないとパッと概念を理解するのは難しいかったかも……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
彼方「それじゃ……爆発事故じゃなかったってこと……?」
リナ『うん。正確には、爆発で死んだというよりは……ウルトラスペース内の特異点の中で、情報レベルでバラバラになったって言うのが正しい』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「情報レベルでバラバラになった……? どういうことかしら?」
リナ『テンノウジ・璃奈と愛さんは、ウルトラスペースの研究を進める中で、ウルトラスペース内に特異点と呼べるレベルでエネルギーが集中している領域を発見した。その近くに赴いた際にエンジントラブルで……その特異点の重力に捕まって逃げられなくなった』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「とくいてん……? って何……? 重力ってことはすごい引っ張られてたってこと……?」
リナ『簡単に言うならそんな感じ。──脱出が困難だと思った璃奈は……無理やりその場で宇宙船の分離機構を改造して、愛さんだけでも助けるために、切り離した後部倉庫を爆発させて、その反動で愛さんの乗っていたシップを特異点の重力圏から無理やり脱出させた』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……じゃあ、璃奈さんは……」
リナ『……爆発の制御を間違えたら、愛さんの乗っているシップすら重力圏から逃がすのが難しかった。だから私は後部に残って、自分の乗ってた倉庫を爆発させた』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「…………」
彼方「そういう……ことだったんだ……。……そりゃ、愛ちゃん……ふさぎ込んじゃうよ……」
つまり璃奈さんは……身を挺して愛ちゃんを助けたということだ。
……愛ちゃんからしてみたら、自分がいたから璃奈さんが死んでしまったんだって……そんな風に思ってしまっても無理はない。
善子「でもさっき、爆発は直接的な死因じゃないって言ってなかった?」
リナ『うん。実は、爆発で身体が焼けるよりも前に……特異点の重力で私の身体は情報レベルでバラバラになった。それが直接的な死因』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「すみません、その……情報レベルでバラバラになったというのがよくわからないのですが……」
リナ『特異点の重力はあまりに大きすぎて、本格的にそれに捕まったら普通の物質はその形を保てなくなる。分子も原子も、それどころか光も……なにもかも……』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「……ブラックホールに吸い込まれると、似たような現象が起こると考えられているわ。もちろん、今のわたしたちの世界の技術ではそれを実際に観測することは出来ていないんだけど……」
かすみ「……かすみん……もう頭痛くなってきましたぁ……」
善子「確かにかすみにはちょっと難しい話かもね。……それで、情報レベルでバラバラになったのはとりあえず理解したけど……それをどうやって今の形にしたの……?」
リナ『……正直ここから先は憶測になるんだけど……ウルトラスペースの特異点は収縮と発散を繰り返している。……発散の際に情報の粒子みたいなものが飛び出して、スペース内を漂っていたんだと思う。思念……って言えばいいのかな……。それが、いろんな世界を旅しながら……引き寄せられるようにして、心のエネルギーをため込む場所に蓄積されていったんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
彼方「それがやぶれた世界のピンクダイヤモンドだったってこと……? じゃあ、やっぱり……やぶれた世界もウルトラスペースと繋がることがあるんだ……」
リナ『繋がることがあるというか……やぶれた世界の方がウルトラスペースに近い位置にある世界だから。どっちかというと、道理かも』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
鞠莉「そうなの……?」
リナ『ウルトラスペースは時間や空間を超越した高次元空間なんだけど……ギラティナが作り出したやぶれた世界も似たような作りをしている』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「つまり……もともとやぶれた世界にあったピンクダイヤモンドには、リナの思念が集まりやすい条件が揃っていた……」
リナ『そういうことだと思う。そして、ピンクダイヤモンドの中で……私は思った。また、みんなに会いたいって』 || ╹ᇫ╹ ||
彼方「リナちゃん……」
リナ『そんなとき……偶然すぐ近くに、電波を発している物体が近づいてきた。だから、私はその電波の発信源に向かって自分の原始的な情報を乗せて、忍び込ませたんだ』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「それが……果南のポケモン図鑑だったってわけね……」
リナ『うん。その後は博士が考えていたとおりだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
360 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:51:46.11 ID:0yMsBTVK0
つまり、まとめると……璃奈さんは愛ちゃんを助けるために、ウルトラスペース内でバラバラになって……バラバラになった璃奈さんの思念が──やぶれた世界のピンクダイヤモンドにたどり着き……そこに居合わせた果南さんのポケモン図鑑に自分の一部を侵入させた……ということらしい。
そして、その後……鞠莉さんのポリゴンZのバグ取りをして、自分の存在を気付かせ、図鑑に組み込んでもらい……いつか自分の完全な記憶が宿っているピンクダイヤモンドにたどり着いてくれるように、わざと不自然な状態の記憶を持った“リナちゃん”という存在を作りだした……。
海未「……にわかには信じがたい話ですね」
リナ『それには私も同意する。情報レベルでバラバラになった存在が一ヶ所に集まれるとは思えない。……だけど』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「だけど……?」
リナ『愛さん風に言うなら……私の情報全てが、みんなにまた会いたいって思っていたから、あそこにたどり着けたんだと思ってる』 || ╹ ◡ ╹ ||
彼方「……ふふ、確かに愛ちゃんが言いそうだね」
かすみ「あ、かすみんそういうのなんて言うのか知ってるよ!」
リナ『なんて言うの?』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「想いが起こした奇跡って言うんだよ!」
リナ『想いが起こした奇跡……うん、そうかも』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんはかすみちゃんの言葉に頷く。
海未「……リナ、貴方がどういう存在かは理解しました。……その上で、以前所属していた組織について……私たちに教えてくれますか……?」
リナ『もちろん。そのために、私はここにいるんだもん』 || ╹ ◡ ╹ ||
善子「あーちょっといい?」
リナ『何?』 || ? _ ? ||
善子「璃奈はその……亡くなるそのときまで、その組織とやらに属してたのよね? それなのに、私たちに情報を提供するのは裏切り……みたいにならない?」
リナ『確かにそうだけど……私と愛さんは組織のやり方にあまり賛成してなかった。やろうとしてることが強引すぎたから』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「それは……以前彼方も言っていたように、他の世界を滅ぼそうとしている……という話ですか?」
リナ『うん。私たちはその方針にはずっと同意しかねていた。だから、他の方法を模索するためにウルトラスペースを調査していたんだけど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「その最中、璃奈さんは事故に遭って亡くなってしまった……」
リナ『そういうこと。だから、ここで組織について情報提供することは、結果として私の目的とも一致する』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「じゃあじゃあ、リナ子は全面的にかすみんたちの味方ってことでいいんだね!」
リナ『もちろん!』 ||,,> ◡ <,,||
私はそれを聞いて、正直ホッとしていた。
もしオリジナルの璃奈さんが、果林さんたちのいる組織側であったなら、私たちへの協力も情報提供もしてくれなかった可能性があったし……。
なにより……リナちゃんと敵同士になんて、なりたくなかったから……。
鞠莉「果林たちの組織が他世界を滅ぼそうとしていたのって……確か、自分たちの世界の再興のためって話だったわよね?」
リナ『うん、あってる』 || ╹ ◡ ╹ ||
鞠莉「なら、聞きたいんだけど……どうして、あなたたちの世界は滅びかけてるの……? 住む場所がほとんど残ってないって話だったけど……」
リナ『それは簡単。あの世界がエネルギーを保持する力を失いつつあるから』 || ╹ᇫ╹ ||
善子「エネルギーを保持する力……? 世界の持ってるエネルギーが減るってこと……? エントロピーの話……?」
かすみ「えん……とろ……? え……侑先輩、わかりますか……?」
侑「えっと……よくわかんないけど……とりあえず、聞いてみよう」
たぶん、科学者の領分だから口を挟んでもややこしくなりそうだし……。
361 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:54:06.25 ID:0yMsBTVK0
リナ『あってるけど、たぶんヨハネ博士の考えてる範疇の話だと間違ってる』 || ╹ᇫ╹ ||
善子「……。……世界の中で起こるレベルのエントロピー増大じゃないと……?」
鞠莉「それだと、エネルギー保存則と矛盾しないかしら?」
リナ『しない。そもそもエネルギー保存則は各々の世界レベルじゃなくて、全宇宙……うぅん、もっと広い範囲でやり取りされるエネルギーの総量が一定って話』 || ╹ᇫ╹ ||
善子「あー……なるほど。虚数領域にエネルギーが落ち込むとか、そういう方向性ね……。でも、なんでそんなことが目に見える形で起こるのよ?」
リナ『わかりやすくいうと、私たちの世界自体の経年劣化』 || ╹ᇫ╹ ||
善子「経年劣化……? つまり、長く続きすぎた世界だから、委縮してるってこと?」
リナ『うん。簡単に言うとそういうこと……というか、そもそも世界は基本的にはビッグバンによるインフレーションから始まって、そこからどんどんエネルギーが外に漏れ出ていく。問題はそれが急速に進行してること』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「なんで急速な進行が起きてるの……?」
リナ『世界とウルトラスペースの境界面に穴が空いて、世界のエネルギーが流出するから』 || ╹ᇫ╹ ||
善子「なんで穴が空くのよ」
リナ『世界とウルトラスペースの境界面を形作ってるのが、そもそもエネルギーで出来てるからかな。あまりに世界が長く続きすぎると境界面のエネルギー層がその形質を保てなくなる』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「Ozone holeみたいな……?」
リナ『イメージとしては近い。違いとしては、オゾンは惑星内部で作られるけど、エネルギーは新しく生成されない。熱力学の第一法則があるから』 || ╹ᇫ╹ ||
善子「進行を防ぐ方法は?」
リナ『流出してるし、新しく作り出せないんだから、流出量より多くのエネルギーを外から持ってくるしかない』 || ╹ᇫ╹ ||
善子「それが他の世界を滅ぼすってことなの……?」
リナ『正確には他の世界からエネルギーを流入させるには、滅ぼすのが一番早いって話かな』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「だぁぁぁーーーー!!! もう無理!!! もう限界です!!! もっとわかりやすい言葉で話してくださいよ!?」
かすみちゃんがついにキレた。
とはいえ、私も全然わからないし……もう少し噛み砕いた説明が欲しいかも……。
善子「あらかた話が終わったら、わかりやすく説明するつもりだったんだけど……マリー」
鞠莉「OK. 」
鞠莉さんは突然、自分の荷物の中から“ふうせん”を取り出して、携帯式のエアポンプで膨らませ始める。
鞠莉「まずこれが世界だと思って頂戴」
かすみ「は、はい……」
善子「んで、この中に存在している空気がエネルギーよ」
鞠莉「ただ、この“ふうせん”の中の空気はずっとこのまま放置しておくとどうなりマースか?」
経験則から考えるなら……。
侑「ちょっとずつ空気が抜けてしぼんでいく……?」
鞠莉「イエース! そのとーりデース!」
善子「それが経年劣化による世界の萎縮の仕組みって話ね」
果南「でもそれって、どんな世界にも起こることなんじゃないの?」
善子「ええ。だから、問題はこの世界に──」
ヨハネ博士は机の上に置いてあったペンを持って──それをぶっ刺した。
善子「穴が空いてるのが問題」
もちろん、ペンが刺さった“ふうせん”は音を立てて破裂してしまった。
362 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:55:15.99 ID:0yMsBTVK0
善子「仮にこんな風に無理やり穴を空けたんじゃなかったとしても、徐々に表面のゴムが劣化し、目に見えないような小さな穴が空いていってどんどん萎む速さは加速していく。これと同じようなことが起こってるってわけ」
彼方「あの〜……エネルギーが抜けていっちゃうってことはわかったんだけど〜……それが起こるとどうして彼方ちゃんたちの世界は住む場所がなくなっちゃうの〜……?」
リナ『エネルギーが失われると、最終的には分子間力も失われていく。そうすると物質は結合を保てず原子レベルでバラバラになるし、そうすると大地は崩れ落ちて、空気や水は生物にとって有毒なものになる』 || ╹ᇫ╹ ||
彼方「えっと……?」
鞠莉「イメージしづらいかもしれないけど……そもそも、エネルギーがないと物体は存在出来ないって話かな」
善子「これ以上は専門知識がないと説明出来ないから、そういうものとしか言えないわね……」
彼方「とりあえず、彼方ちゃんたちの世界はそれが理由でどんどん住めなくなっちゃったってことだね〜……」
リナ『その理解で概ねあってる』 || ╹ ◡ ╹ ||
やっとなんとなくだけど……意味がわかってきたかな……?
そんな中、ヨハネ博士が次の話題を切り出す。
善子「んで……。……なんで、それで私たちの世界を滅ぼすと、そっちの世界が救われるの?」
リナ『ある世界のエネルギーが流出したら、流出したエネルギーは次にどこに行くと思う?』 || ╹ᇫ╹ ||
善子「え?」
質問を質問で返され、ヨハネ博士は顎に手を当てて考え始める。
善子「ウルトラスペースに流出して……ウルトラスペース中にエネルギーが充満する……?」
リナ『充満したエネルギーは何に使われると思う?』 || ╹ᇫ╹ ||
善子「…………そういうことか。……世界がエネルギー流出によって委縮したら、それによってウルトラスペース内に溢れた余剰エネルギーで──……新しい世界が生まれる」
リナ『そういうこと。そうやってウルトラスペース内でエネルギーは循環してる』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「なるほどね……新しくてエネルギーが豊富に溢れている後発の世界から、無理やりエネルギーを流出させて滅ぼしちゃえば……ウルトラスペース内にエネルギーが溢れかえることになる……」
善子「自分たちの世界の周辺に溢れるエネルギーが増えれば、ウルトラスペース内のエネルギー圧が大きくなるから……自分たちの世界の萎縮を遅らせることが出来る……。理屈はわかった……でも、それってキリがないんじゃない? 周辺の自分たちのものより新しい世界を片っ端から滅ぼし続けないといけないわよ?」
リナ『でも、私たちの世界の上層部はそれを実行しようとしている。だから、私と愛さんはずっと反発してた』 || 𝅝• _ • ||
鞠莉「Oh...crazy...」
善子「もう貴方たちの世界自体になりふり構ってる余裕がないってことね……」
リナ『そういうこと』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんや博士たちによる難しい話に対して、海未さんが発言する。
海未「……恐らくなのですが、今の話の大半はあくまで理論の話ですよね? 重要なのは彼らの世界にエネルギーを取り戻すためには、他の世界からエネルギーを消失させる必要がある……という理解でよろしいでしょうか」
リナ『うん、それであってる』 || ╹ ◡ ╹ ||
海未「では、彼女たちは具体的にどのようにして他世界を滅ぼそうとしているんですか? 先ほどの“ふうせん”の例えどおりに考えるなら……無理やり世界に穴を空けるということでしょうか?」
リナ『海未さんは理解が早い! それであってる!』 || > ◡ < ||
海未「ふむ……? では、どうやって穴を?」
リナ『それは簡単。もう私たちはウルトラスペースとこの世界の境界面に、穴が空く現象を既に見てる』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんの言葉を受けて、かすみちゃんが可愛らしく顎に人差し指を当てながら考え始める。
363 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:56:13.97 ID:0yMsBTVK0
かすみ「穴…………穴……? ……あっ! ウルトラホールだ!! ウルトラビーストがこっちに来たり、還ったりするときに空くやつ!」
リナ『かすみちゃん、正解!』 || > ◡ < ||
善子「……そういえば、そもそもどうしてウルトラビーストはウルトラホールから出現するの?」
リナ『ウルトラビーストは体に多くのエネルギーを溜め込む性質があって、その強いエネルギーでウルトラスペースと世界の境界面に穴を空けて侵入してくるんだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
善子「なんでそこまでして私たちの世界に来るのかしら……?」
リナ『それは正直迷い込んでるだけかな……野生のポケモンがたまに街に迷い込んでくるのと同レベルの話』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
善子「はた迷惑な野生ポケモンね……」
鞠莉「つまり……ウルトラビーストがNeedle──この世界に穴を空ける針の役割を担っている。もし、それの数を意図的に増やせるとしたら……」
侑「……そうか……! だから、歩夢を連れ去ったんだ……!」
彼方「そっか……歩夢ちゃんの力でウルトラビーストをたくさん捕まえて〜……」
侑「私たちの世界に一斉に送り込むことで……私たちの世界を穴だらけにして、世界からエネルギーを流出させる……!」
海未「やっと真相が見えてきましたね……」
海未さんの言うとおり、果林さんたちが何をしようとしているのかが、やっと理解出来るようになってきた。
海未「……ただ、わかったところで、彼女たちのもとに辿り着けなければ意味がありません……リナ」
リナ『なに?』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「ウルトラスペースとやらを航行するには、ウルトラスペースシップというものがないといけないんですよね?」
リナ『うん。ウルトラスペースは強いエネルギーに満ちてるから、生身で長時間いるとかなり危険。ウルトラスペースシップみたいなエネルギーを遮断できる乗り物に乗るか……あとはウルトラビーストみたいな強いエネルギーを持ってるポケモンで中和しないといけない』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「彼方、ウルトラビーストを借りるというのは……」
彼方「う、うーん……彼方ちゃんは国際警察に保護されてるだけで、職員ってわけじゃないから……そういうのは難しいかも……」
鞠莉「そもそも、こんな事態になるまで存在を隠していたくらいなんだから……よっぽど知られたくないんだと思うし、国際警察からウルトラビーストを借りるって言うのは現実的じゃないと思うわ……」
彼方「……こんなことなら、アクジキングを引き渡さなければよかったよぉ……」
海未「そうなると……やはり、ウルトラスペースシップを作るしかないようですね……。リナ、作ることは出来ませんか……?」
リナ『作り方は教えられるけど、この世界の今の技術レベルだと、数年は掛かるよ』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「…………そんな猶予はない……」
かすみ「え、まさか……ここまで来て手詰まりですか……!? リナ子の記憶が戻れば、全部解決すると思ったのに……」
リナ『うぅん、まだ方法はあるよ』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「……本当ですか……? でも、ウルトラスペースにいる果林たちを追いかけるには、ウルトラスペースシップしか……」
リナ『そうじゃなくて……果林さんたちはウルトラスペースにはいないはずだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「……はい?」
海未さんがリナちゃんの言葉にポカンとした表情になった。
侑「でも、果林さんたちはウルトラスペースシップで航行してるんじゃないの……? そのために、コスモッグからエネルギーを集めてたって……」
リナ『移動はウルトラスペースシップだと思う。だけど、ウルトラスペースに長期間滞在するのはリスクがとてつもなく大きい。だから、普通はどこか小さな世界でいいからウルトラスペースの影響が少ない場所に降りて、そこを拠点にする』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「あ、そっかぁ! ウルトラスペースにいないなら、かすみんたちもウルトラスペースに行く必要ないじゃん!」
善子「……そんなわけないでしょ」
かすみ「はぇ?」
善子「仮にウルトラスペースにいないとしても、ウルトラスペースを経由しないと、果林たちが拠点にしてる世界にもいけないでしょ……」
かすみ「……はっ!」
彼方「せめて、ウルトラスペースを経由しないで、果林ちゃんたちがいる世界に移動が出来れば〜……」
リナ『出来るよ?』 || ╹ᇫ╹ ||
364 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:57:22.54 ID:0yMsBTVK0
── 一瞬、場が静まり返る。
海未「ほ、本当ですか……!?」
善子「でもどうやってそんなこと……!?」
リナ『直通のゲートを繋げればいいだけだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんはあっけらかんと言う。
善子「それが出来れば苦労は……」
リナ『そもそも、ウルトラスペースって言うのは、私たちの世界よりも高次元に存在する亜空間のこと』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「……Hm?」
リナ『時間や空間がねじれ曲がってて……ウルトラスペースシップがないと人や普通のポケモンは留まることすら出来ないけど……。逆を言えば、時間や空間を制御出来れば出入口を強引に繋げることだって出来るはずでしょ?』 || ╹ ◡ ╹ ||
時間や空間……? どこかで聞いたような……?
侑「……あ」
鞠莉「ディアルガと……パルキア……」
リナ『そういうこと。しかも私たちは、ウルトラスペースにアクセスしやすい場所も知ってる!』 || > ◡ < ||
果南「……! そっか、やぶれた世界……!」
リナ『ディアルガ、パルキア、ギラティナの3匹を持ってるんだから、直通のホールを繋げることは可能なはずだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
善子「ま、マジで……?」
リナ『マジマジ』 || > ◡ < ||
鞠莉「でも、繋ぐ方法はあっても、果林たちの居場所がわからないとたどり着けないんじゃない……? まさか虱潰しにあちこちの世界に行くわけにもいかないでしょうし……」
リナ『向こうに歩夢さんとしずくちゃん……それに千歌さんもいるでしょ』 || ╹ ◡ ╹ ||
海未「はい……そもそも、彼女たちを助けに行くという話なので……」
リナ『あの3人はポケモン図鑑を持ってる。ディアルガ、パルキア、ギラティナの力を借りれば、図鑑の持ってる固有シグナルを探知することも出来るはずだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
善子「マジで……?」
リナ『マジマジ』 || > ◡ < ||
鞠莉「……ウルトラスペース内でも電波は感知出来るの……?」
リナ『もちろん、とんでもなく減衰するから、ウルトラスペース内を検索しても意味ないけど……3匹の力を借りて、いろんな世界にアクセスしながら歩夢さんたちの図鑑の反応があるかを調べればそんなに時間は掛からないはずだよ。そうでなくても、果林さんたちのシップにはコスモッグを探索するためのセンサーが詰まれてるから、それを逆探知すれば居場所を把握するのは容易。そのための探索プログラムは私ならすぐにでも作れるし』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「じゃあ……!」
「ブイブイ♪」
かすみ「かすみんたち……しず子や歩夢先輩たちのことを助けに行けるんだね!」
リナ『うん!』 || > ◡ < ||
やっと現実的に歩夢たちを助けに行く方法がわかった……!
海未「リナ、そのプログラムで探すのにはどれくらいの時間を要しますか。加えてゲートを直通させるということについても」
リナ『こっちで演算をするから……探索は長くても2日で終わらせる。ゲート直通はミスしたら生死に直結することだから慎重にやるとして……それでも1週間もあればどうにか出来る』 || ╹ ◡ ╹ ||
海未「わかりました。必要なものはこちらで全て用意します。言ってくださればすぐに手配しますので……!」
リナ『助かる』 || > ◡ < ||
海未「皆さん、他に何か話したいことはありますか? なければ、実際に千歌及び歩夢、しずく……そして、せつ菜を奪還するための人員の調整を今から始めます……!」
果南「話すことはもうないでしょ。あとは、やるべきことをやるだけだよ」
海未「そうですね……! では、私は早速調整に取り掛からなければいけないので、失礼します……!」
そう言って、海未さんは珍しく慌ただしい様子で、会議室から出ていった。
365 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:58:24.84 ID:0yMsBTVK0
果南「海未……千歌を助けられるってわかったら、突然元気になっちゃってまあ」
彼方「ずっと心配してたみたいだもんね〜。海未ちゃんも希望が見えてきて嬉しいんだよ〜きっと〜」
善子「とりあえず……海未から次の動きがあるまでは待機かしらね。あの調子だとすぐに指示がありそうだけど」
かすみ「か、かすみんは……休憩したいです……休まないと……頭使いすぎで……死んじゃいますぅ……」
彼方「ふふ、かすみちゃん、よく頑張ったね〜♪ 偉いぞ〜♪」
かすみ「きゃぅ〜ん♪ もっと、褒めてください〜♪」
鞠莉「とりあえず各自指示が出るまで休息を取りましょう。……ここから先は本当にいつ休めるかわからないからね」
鞠莉さんの言葉にみんなで頷いて、今回の会議はお開きとなったのだった。
🎹 🎹 🎹
会議を行っていた会館を出て、私はかすみちゃん、彼方さんと一緒に、セキレイシティの中央にある噴水広場に訪れていた。
かすみ「はぁ〜……それにしても、うまく行きそうでよかったですぅ〜……」
彼方「そうだねぇ〜これも全部リナちゃんのお陰だよ〜」
リナ『そう言われるとちょっと恥ずかしい……。リナちゃんボード「テレテレ」』 ||,,╹ᨓ╹,,||
かすみちゃんと彼方さんがベンチに腰掛けてリナちゃんと話す中、私はとある手持ちのボールをじっと見つめていた。
かすみ「侑せんぱ〜い? 侑先輩もこっち来て座らないんですか〜?」
侑「……うん。まだやることがあるから」
彼方「やること?」
私はそう言いながら──手に持ったボールを放る。
そのボールに入っているのは、
「──ニャァ〜〜」
ニャスパーだ。
ボールから飛び出してきたニャスパーはふよふよと浮遊して──リナちゃんに抱き着く。
リナ『ニャスパー……前が見えない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「ねぇ、リナちゃん」
リナ『なに?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「それと、ニャスパー」
「ニャァ?」
侑「ニャスパーはリナちゃんのポケモンなんだよね」
リナ『うん。正確には……オリジナルの璃奈のポケモンだけど』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「でも、なんて言えばいいかな……。……私にとっても、ニャスパーはもう大切な仲間だと思ってるんだ」
リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「だからさ……リナちゃん。ニャスパーの“おや”として、改めて──私がニャスパーと一緒に戦うトレーナーとして相応しいか、リナちゃんの目で確かめて欲しいんだ」
リナ『……なるほど』 || ╹ ◡ ╹ ||
「ニャァ」
366 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:59:02.29 ID:0yMsBTVK0
私は──リナちゃんと向き合って。
侑「リナちゃん、私とポケモンバトルして!」
リナ『……わかった』 || ╹ ◡ ╹ ||
「ウニャァ〜!!」
バトルを申し込んだ。
かすみ「え、えぇ!? 侑先輩とリナ子がバトルするの……!?」
彼方「これからも、胸を張ってニャスパーと一緒に戦うためにってことだよね」
侑「はい!」
彼方「わかった! そういうことなら、彼方ちゃんが審判をしましょう〜! 使用ポケモンは1匹ずつでいいね?」
侑「はい! 行くよ、イーブイ!」
「ブイブイッ!!!」
リナ『ニャスパー、行くよ!』 || > 𝅎 < ||
「ウニャァ〜〜!!!」
イーブイとニャスパーが相対する。
彼方「それじゃ行くよ〜! レディー、ゴーッ!!」
彼方さんの合図で──私とリナちゃんのポケモンバトルが始まった。
🎹 🎹 🎹
リナ『ニャスパー! “ねこだまし”!』 || > 𝅎 < ||
「ニャッ!!!」
「ブイッ!!?」
試合開始と同時に、ニャスパーがサイコパワーを使って、イーブイの目の前で大きな音を立てて怯ませ、
リナ『“サイコキネシス”!』 || > 𝅎 < ||
「ニャーーッ!!!」
「イブィッ…!!!」
出来た隙を突かれて、サイコパワーで吹き飛ばされる。
イーブイは吹っ飛ばされながらも、
「ブイッ…!!!」
転がりながら受け身をとって、すぐに体勢を立て直す。
リナ『“サイケこうせん”!』 || > 𝅎 < ||
「ウーーーニャーーーッ!!!!」
侑「“びりびりエレキ”!!」
「イッブイッ!!!!」
“サイケこうせん”と“びりびりエレキ”が空中でぶつかり合い、お互いのエネルギーが爆ぜ散る。
空中でぶつかり合う攻撃の下を──イーブイが小さな体で駆けていく。
367 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 11:59:40.86 ID:0yMsBTVK0
侑「“めらめらバーン”!!」
「ブーーーイッ!!!」
ニャスパーは防御力が低い。だから、接近戦で一気に勝負をつける……!
だけど、リナちゃんは冷静に、
リナ『“バリアー”!』 || > 𝅎 < ||
「ニャァッ!!」
“バリアー”を展開し、
「イッブッ!!!?」
イーブイは突然目の前に発生した壁に衝突する。
壁にぶつかり止まったイーブイは──
リナ『“サイコキネシス”!!』 || > 𝅎 < ||
「ニャァーーー!!!!」
「ブィッ…!!!」
またしても、“サイコキネシス”で吹き飛ばされてしまう。
侑「イーブイ! 大丈夫!?」
「イッブィッ!!!」
もちろん、吹っ飛ばされただけでは倒れたりはしない。
すぐに起き上がるけど──どうにも距離を詰め切れない。
かすみ「あわわ……こ、これニャスパーに近寄れませんよ!? ゆ、侑先輩負けちゃうんじゃ……!」
彼方「ふふ、大丈夫だよ。侑ちゃんを見てごらん」
かすみ「え?」
かすみちゃんと彼方さんの会話を端で聞きながら──私は、
侑「……ふふっ」
笑っていた。
侑「ニャスパー、強いね……!」
「ブイッ!!」
ニャスパーの強さに笑みが零れた。だって──
侑「あんなに強い子が今までずっとずっと一緒に戦ってきてくれたんだ……ニャスパーがどれだけ頼もしい仲間なのかは、私たちが一番知ってる……!」
「ブイッ」
でも、だからこそ……ちゃんと示してあげなきゃ……!
リナ『ニャスパー! “サイコショック”!!』 || > 𝅎 < ||
「ウーーニャァーーーッ!!!!」
ニャスパーが周囲にサイコパワーを放つと──直後、イーブイに向かって、念動力で出来たキューブが突撃してくる。
侑「──これからも私たちに付いてきてって……胸を張って言えるように!!」
「ブイッ!!!」
368 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 12:00:14.29 ID:0yMsBTVK0
直後、イーブイから赤紫色のオーラが溢れ出し──そのオーラは、周囲に浮遊していた”サイコショック”をかき消した。
リナ『え!?』 || ? ᆷ ! ||
「ニャァ!?」
かすみ「技が……消えた……!?」
侑「私たちは……これからも、もっともっと強くなるから……! だから……!」
「ブイッ!!!」
イーブイが先ほどのオーラを身に纏ったまま、地を蹴り、ニャスパーに向かって走り出す。
リナ『ニャスパー! “サイコキネシス”!! フルパワー!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
「ウーーーニャァーーーーッ!!!!」
一方ニャスパーは耳を完全に開ききり、フルパワーの“サイコキネシス”を放ってくる。
でも、イーブイは──
「ブィィィィィッ!!!!!」
放たれるサイコパワーの中を突っ切り──
侑「“すてみタックル”!!」
「ブーーーィィィッ!!!!」
「ウニャァァッ!!!!?」
リナ『ニャスパー!?』 || ? ᆷ ! ||
ニャスパーに“すてみタックル”を炸裂させた。
猛烈な突進を受けたニャスパーは吹っ飛ばされて、地面を転がったあと──
「ウ、ウニャァ〜〜…」
目を回して、ひっくり返ったのだった。
彼方「……ニャスパー戦闘不能、よって侑ちゃんとイーブイの勝ち〜!」
彼方さんが決着の宣言をすると、リナちゃんはニャスパーのもとに近寄り、
リナ『ニャスパー、お疲れ様』 || ╹ ◡ ╹ ||
「ウニャァ…」
ニャスパーを労う。
そんなリナちゃんとニャスパーの傍に歩み寄ると、
リナ『えへへ……やっぱり、侑さんは強いね』 || ╹ ◡ ╹ ||
そんな風に言う。
369 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 12:00:53.01 ID:0yMsBTVK0
侑「リナちゃん、聞いてもいい?」
リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「……今の──新しい“相棒わざ”の名前は……」
リナ『“どばどばオーラ”! 相手の特殊技の威力を半減させる“相棒わざ”だよ! ニャスパーのサイコパワーに適応したんだね!』 || > ◡ < ||
侑「えへへ♪ やっぱり新しい“相棒わざ”を覚えたときは……リナちゃんに教えてもらわないと♪」
「ブイ♪」
リナ『ふふ、いくらでも聞いて!』 || > ◡ < ||
「フニャァ〜」
侑「うん! ……リナちゃん、ニャスパー。私たち、これからも、もっともっと強くなるから……私たちに、力を貸して。……私たちと、一緒に戦って……!」
「ニャァ〜〜!!!」
リナ『もちろん!』 || > ◡ < ||
私は、ニャスパーを、リナちゃんを、抱き寄せる。
侑「これからも、よろしくね♪」
「ニャァ〜〜」
リナ『こちらこそ♪』 ||,,> ◡ <,,||
今までは、“誰か”のニャスパーだったけど──ここまで一緒に旅をしてきて、やっと……ニャスパーが──私の6匹目……最後のポケモンが、正式に仲間として加わったのだった。
370 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 12:01:28.39 ID:0yMsBTVK0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.74 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.71 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.72 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.67 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.67 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.64 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:234匹 捕まえた数:10匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.74 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.66 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:229匹 捕まえた数:14匹
侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
371 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 23:40:07.06 ID:0yMsBTVK0
■Intermission🎙
しずく「──バリコオル!! “ワイドフォース”!!」
「…………」
バリコオルが無言のまま、フィールド上を広がるサイコパワーを展開すると、
「シャボッ…!!!!」「バァースッ…!!!!」
サスケさんとエースバーンが吹き飛ばされる。
しずく「……ふぅ、少し手こずってしまいましたね♡」
「…………」
しずくさんはそう言いながら、
「…シャボ」「…バース…」
戦闘不能になった2匹に向かって、歩夢さんから取り上げた空のモンスターボールを投げつけ、ボールに収める。
せつ菜「ボールに戻してどうするんですか……?」
しずく「もうすぐ、果林さんたちも迎えに来ると思いますし……ここに置いていくのも忍びないじゃないですか♡」
しずくさんは相変わらず読めない表情をしたまま、歩夢さんのポケモンたちをボールベルトに着け、ボールベルトごと自分のバッグにしまい込む。
せつ菜「また勝手に飛び出してくるのでは?」
しずく「どうせ戦闘不能ですし♡ ボールで休んでいたら多少回復はするかもしれませんが……ここまでコテンパンにされれば、もう反抗する気なんておきませんよ♡」
せつ菜「……そうですか」
実際……彼女はここ数日で何度も歩夢さんの手持ちを撃退し……今しがたついに、歩夢さんの手持ち全てを戦闘不能まで追い込んで、捕獲している。
しずく「それにしても……歩夢さんのポケモン、なんだか強くなっていた気がします♡」
せつ菜「ずっと貴方と戦い続けていましたからね。それで、経験を積んでレベルが上がったのでしょう」
しずく「図らずも、歩夢さんの手持ち育成に貢献してしまったわけですね♡」
……歩夢さんの手持ちは、進化して姿を変えてまで、しずくさんに挑みかかってくるポケモンもいたくらいには成長をしている。
皮肉なことに、繰り返されるしずくさんとの戦いが彼女のポケモンたちを大幅に強化していたというのは間違いないだろう。
だが……それは歩夢さんのポケモンに限った話ではない。
しずく「お陰で私のポケモンたちもたくさん経験値を得て、強くなってしまいましたね♡」
……しずくさんも、日々強くなっていく歩夢さんの手持ちと戦いを続けるうちに、手持ちのレベルが上がっていた。
その証拠に、彼女の持っているバリヤードはバリコオルに、クマシュンもツンベアーへと進化している。
特に彼女は襲ってくるポケモンたちを捌くという状況が多かっただけに、防御やいなしに力を入れた戦いを行っていた。
本気で防御態勢を取られたら、私でも多少苦戦するかもしれないくらいには……。
しずく「ふふ……♡ これで、もっともっと……果林さんの役に立てる……♡ そうしたら、またフェローチェをたくさん魅せてもらえます……♡」
せつ菜「……」
しずく「せつ菜さんも、ありがとうございました♡」
せつ菜「……いえ」
372 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/27(火) 23:40:40.82 ID:0yMsBTVK0
私も、彼女の戦闘を端で見ていて……口出しをする形で何度か戦闘の指南をした。
自分で言うのもなんですが……その甲斐あって、彼女の戦闘能力は一段階ブラッシュアップされたと言っていいだろう。
二人でそんなことを話していると──少し遠くにウルトラホールが開き、そこから私たちが乗っていたウルトラスペースシップが現れる。
しずく「〜〜〜♡ せつ菜さん、果林さんたちが迎えに来てくれましたよ♡ フェローチェを魅せてもらえます♡」
せつ菜「……そうですね」
しずく「それじゃ歩夢さん、行きましょう♡ サーナイト、お願い」
「サナ」
歩夢「…………」
「──ジェルルップ…」
頭にウツロイドが寄生したままの歩夢さんをサーナイトの“サイコキネシス”で持ち上げながら、しずくさんはスキップしながらウルトラスペースシップに向かっていく。
そんな中、ふと見た歩夢さんは、
歩夢「…………」
やはり今もぐったりとしていて……時折、手足が反射でピクリと動くことが、彼女が辛うじて生きていることを証明している程度だった。
せつ菜「…………」
しずく「せつ菜さん♡ 早く行きますよ♡」
せつ菜「……はい」
私は恐らく……死んだら地獄行きですね。
せつ菜「……いや、今更ですね……」
そう呟きながら、私はしずくさんの背中を追って歩き出した。
………………
…………
……
🎙
373 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:21:47.53 ID:bMcrfVdQ0
■Chapter061 『決戦へ向けて』 【SIDE Yu】
──翌日。
海未さんからの次の指示を待つ間に──
理亞「……侑、お願い」
侑「はい。マナフィ、“ハートスワップ”」
「フィ〜♪」
マナフィの触角の先がぽわぁと光り、理亞さんが手に持っていたピンクダイヤの欠片から虹色の光が飛び出して──
聖良「…………」
理亞さんのお姉さん──聖良さんの身体の中へと入っていく。
すると……先ほどまで目を見開いたまま虚空を見つけていた聖良さんの目が動き──
聖良「…………り………………ぁ………………?」
掠れるような声で、理亞さんの名前を呼んだ。
理亞「……! ねえさま……っ……」
そんな聖良さんを見て、理亞さんが目に涙を浮かべながら、聖良さんに抱き着く。
聖良「…………こ……こ…………は………………?」
真姫「ローズシティの病院よ。その調子だと……意識ははっきりしているようね」
真姫さんの言葉を聞き、聖良さんは首を縦に振る。
真姫「当分は声が出せないと思うわ。……なんせ、3年も眠っていたんだからね……」
聖良「……そぅ…………で、……すか…………」
理亞「ねえさま……今はまだ、無理に喋らなくていいから……。ゆっくり、リハビリすれば、きっと元気になれるから……」
理亞さんの言葉を聞くと、聖良さんは細い腕で理亞さんの頭を優しく撫でる。
そして理亞さんは……本当に愛おしそうに聖良さんを抱きしめる。
真姫「……あとは、二人きりにしてあげましょう」
侑「……はい。行こっか、マナフィ」
「フィ〜♪」
私はマナフィを抱き上げて、病室を後にしたのだった。
374 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:22:47.98 ID:bMcrfVdQ0
🎹 🎹 🎹
真姫「侑、ありがとね」
侑「いえ……私じゃなくて、マナフィのお陰ですから」
「フィ〜♪」
真姫「そっか……。……マナフィ、ありがとう」
「フィ〜♪」
──真姫さんは長いこと聖良さんを診ていたらしく、とても安堵した様子だった。
でも……。
侑「聖良さん……これから、どうなるんですか……?」
真姫「……そうね……。……喋れるようになったら、リーグや警察から取り調べを受けて……リハビリをして、動けるようになったら……恐らく刑務所に行くことになるでしょうね」
侑「せっかく……目が覚めたのに……」
真姫「それくらいのことをしたのよ、聖良は……。……貴方も、グレイブ団事変のことは覚えているでしょう……?」
侑「はい……」
私がここに来て、聞かされたこと──
侑「……でも……まさか、理亞さんのお姉さんがあの騒動の首謀者だったなんて……」
3年前のグレイブ団事変は──聖良さんが起こしたものだったということだ。
侑「あの……もしかして、理亞さんがジムリーダーであることを最近まで公表してなかったのって……」
真姫「……そうね。そういうこと。……だけど、理亞は聖良の指示に従っていただけだったからね……。……ルビィがあの子を強く庇ったから、海未も観察処分で様子を見ていたし」
侑「理亞さんは……そこから、ジムリーダーになったんですね……」
真姫「……ええ。いろいろあったわ……。一般人には公表されてなかったとはいえ、ジムリーダー就任の際は、リーグ内部から猛反発があってね」
侑「そう……なりますよね……」
真姫「成績は文句なしだったんだけどね。ルビィや海未、希の助けもあったし……何よりあの子が、自分がこのオトノキ地方を守るジムリーダーとして前に立つということを証明するために、努力をし続けたから、今があるのよ」
真姫さんの言葉を聞いて……以前、理亞さんとジム戦をしたときに、考古学者としての立場を得るためにジムリーダーになったと言っていたの思い出す。
それも、理由の一つなんだろうけど……理亞さんがジムリーダーになったのには、ある種の贖罪のような意味合いもあったのかもしれない……。
真姫「これから、理亞もいろいろ大変だろうから……今くらいは一緒にいさせてあげないとね」
侑「今、ヒナギクジムには希さんがいるんですよね」
真姫「ええ。理亞がこっちに来たとき、『今、お姉さんの傍にいるより大事なことなんてないでしょ』って、ジムを追い出されたって言ってたわ」
侑「みんな優しいんですね……」
真姫「そうね……。そうやって、優しい気持ちを持って、みんなで助け合えれば……きっと、争いなんて起きないのよ……きっとね……」
侑「……」
真姫「でも、世の中そんな簡単にはいかない。……みんな、自分の信念があるから。私にも、侑にも、理亞にも、聖良にも……菜々にも……」
侑「……はい」
真姫「だから、人はぶつかり合う。……でも、私はそれを悲しいことだとは思わないようにしてる」
真姫さんはぎゅっと、胸の前で手を握りながら、
真姫「それはきっと……人が人を、理解するために、わかり合うためにする……大切な営みだと思うから」
375 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:23:53.75 ID:bMcrfVdQ0
そんな風に、言葉にするのだった。
🎹 🎹 🎹
病院の外に出ると、
かすみ「あ、侑せんぱーい! 終わりましたか〜?」
「ブイ♪」
侑「うん。ごめんね、一人で待たせちゃって」
イーブイを抱えながら、かすみちゃんが待っていた。
聖良さんの病室は、ポケモンも含めて最低限の人しか入れないとのことだったので、私はイーブイをかすみちゃんに預けて、聖良さんの病室を訪れていたというわけだ。
侑「カフェとかで待っててもよかったんだよ?」
かすみ「イーブイも預かってましたし……歩夢先輩がいない間は、かすみんが侑先輩と一緒にいるって約束しましたから!」
侑「ふふ……ありがとう、かすみちゃん」
かすみ「それに今はリナ子もいないですからね。侑先輩が寂しくないように、かすみんがここで待つことくらいどうってことないですよ!」
そう。かすみちゃんが言うように今はリナちゃんがいない。
リナちゃんは、すでに歩夢たちの居場所を探知するプログラムを組むのに着手するため、鞠莉博士と一緒にオハラ研究所にいる。
こればかりは、私が一緒にいてもなんの役にも立てないだろうから、今は別行動というわけだ。
かすみ「それで、この後はどうするんでしたっけ……?」
侑「えっと、彼方さんと果南さんが今コメコにいるみたいだから、そっちに合流する感じかな」
かすみ「あー……彼方先輩、コメコで荷物の整理しなくちゃって言ってましたもんね」
彼方さんは決戦を前に……ずっと利用していたコメコの森のロッジの整理に向かったそうだ。
いつまでも放置しておくわけにもいかないし……この戦いが終わったら、もう使うこともないだろうから……と。
侑「それに……私も果南さんと一緒にやらなくちゃいけないことがあるしね」
「フィ〜」
かすみ「っと……そういえばそうでしたね。それじゃ、コメコシティに行きましょう〜♪ お願いします、侑先輩!」
侑「うん。行くよ、ウォーグル」
「──ウォーーーッ!!!」
私たちはコメコシティに移動します。
🎹 🎹 🎹
──コメコシティに着いた私たちは……彼方さん、果南さんと合流して、コメコの南にある浜辺を訪れていた。
果南「それじゃ……侑ちゃん」
侑「はい」
「フィ〜」
376 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:26:45.35 ID:bMcrfVdQ0
私は頷きながら──胸に抱いていたマナフィを、浜辺に下ろす。
侑「マナフィ、ありがとね」
「フィ〜」
侑「本当は遺跡のある場所まで、送ってあげたかったんだけど……」
「フィ〜」
私の言葉に、マナフィはふるふると首を横に振ったあと──背後の波に浚われるようにして、海へと還っていく。
マナフィは手を振りながら、どんどん遠ざかっていく。
侑「またいつか、会いに行くねー!!」
「フィ〜〜〜」
私の言葉に返事をするように鳴いたあと、海に潜って──マナフィの姿は見えなくなった。
侑「マナフィ……大丈夫かな……。ちゃんと帰れるかな……」
果南「大丈夫だよ。帰巣本能があるし……なにより野生のポケモンは逞しいから」
侑「……はい」
果南「そんなに心配なら、全部が終わったあと、またあの海底神殿に行ってみよっか♪」
侑「はい! そのときはまたお願いします」
果南「うん! 任せて♪」
果南さんはニコニコしながら答えてくれる。
そして、そんな私たちのもとに、
彼方「マナフィ、行っちゃったね〜」
かすみ「意外とあっさり行っちゃいましたね……」
後ろで見守っていた、かすみちゃんと彼方さんが歩いてくる。
かすみ「でも……侑先輩、よかったんですか? せっかく、マナフィと仲良くなれたのに……」
侑「うん。マナフィには最初から、少しの間、手伝って欲しいって約束で来てもらってただけだし……それに、私にはフィオネがいるから」
私の手持ちはもうすでに6匹、ちゃんと決まっている。
マナフィにしか出来ないことは、もうしてもらったから……あとは、私が仲間たちと一緒に戦う番だ。
かすみ「まあ、侑先輩がそう言うなら……」
彼方「かすみちゃんはやぶれた世界班であんまりおしゃべりできなかったから、マナフィちゃんともうちょっとおしゃべりしたかったんだよね〜?」
かすみ「も、もう……彼方先輩、余計なこと言わないでいいですから〜……」
侑「ふふ、じゃあ全部終わったら、かすみちゃんも一緒にマナフィに会いに行こう」
かすみ「……はい! 約束ですよ? あ、もちろんそのときは──」
侑「歩夢としずくちゃんも一緒に、だよね!」
かすみ「はい♪」
「ブィ〜…」
侑「もちろん、イーブイも一緒だよ♪」
「…ブィ♪」
和やかな雰囲気の中、
377 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:27:35.36 ID:bMcrfVdQ0
果南「……さてそれじゃ、彼方ちゃん、そろそろ始めますか〜……」
彼方「お〜う、任せろ〜♪」
果南さんがそう言いながら肩を回し始め、彼方さんも身体を伸ばしてストレッチし始める。
かすみ「? お二人とも、なにかするんですか?」
果南「うん。まあ、なにかするのは私たちというよりも……」
彼方「侑ちゃんとかすみちゃんだけどね〜♪」
かすみ「……はい?」
侑「え?」
「ブイ…?」
かすみちゃんともども、首を傾げる。……なにかやるって話ししてたっけ…?
果南「私たちはこれから、リナちゃんや鞠莉たちが敵の居場所を探知するまで、やることがないでしょ?」
彼方「でも、だからって、その間のんびりしてる暇はないよ〜」
侑「えっと……」
かすみ「何するんですか……?」
彼方「これから、決戦の時が来るまでの間〜、私が侑ちゃんを〜♪」
果南「私がかすみちゃんを、それぞれ鍛えてあげるってこと♪」
侑「……! ホントですか……!?」
彼方「うん♪ ビシバシいくから覚悟するんだぞ〜?」
まさか、また彼方さんから、直接稽古を付けてもらえるなんて……!
侑「はい! よろしくお願いします!」
「ブイ♪」
彼方「うむ、良いお返事だ〜♪」
私は思わず気合いが入ってしまうけど……一方でかすみちゃんは、
かすみ「あ、え、えーっと……か、果南先輩とマンツーマン……ですか……?」
果南「そうだよ? 嫌なの?」
かすみ「い、イヤとかではないですよ……? で、でも、果南先輩の修行はそのー……パワー系過ぎて〜……か、かすみんには似合わないと言うか〜……? そもそも付いていけるか……」
果南「もう、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。強くならないといけないんだから。それに、かすみちゃんに合わせたメニューをちゃんと考えてるから」
かすみ「ほ、本当ですか……!? し、信じていいんですか!?」
もうすでに腰が引けているかすみちゃん。
果南「もう、時間ないからさっさと行くよ〜」
そう言いながら、果南さんがかすみちゃんを担ぎ上げる。
378 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:28:48.02 ID:bMcrfVdQ0
かすみ「え、ちょ!? どこ連れてく気ですか!?」
果南「トレーニング着に着替えてもらって……まずは手始めに、コメコから東に行ってホシゾラ、フソウ、サニー、セキレイ、ダリアと回ってコメコに戻ってくるルートをポケモンたちと一緒に走り切るよ〜!」
かすみ「はぁ!? 何十キロあると思ってるんですか!? ってか途中、海じゃないですか!?」
果南「大丈夫大丈夫♪ セキレイからダリアの間は自転車だからさ♪」
かすみ「なんですかその地獄のトライアスロン!? 無理ですっ! そんなのやったらかすみん死んじゃいますぅっ!」
果南「やる前から諦めてどうすんの。さ、行くよー」
かすみ「ぎゃーーーーっ!!! た、助けてーーー!!! 侑せんぱーーーい!!! まだ死にたくなーーーい!!!」
かすみちゃんは助けを求める悲鳴をあげながら──果南さんに連れて行かれたのだった。
侑「……」
彼方「かすみちゃん、無事に帰ってこられるといいね〜……」
頑張れ、かすみちゃん……。
私は胸中でかすみちゃんの無事を祈るのだった……。
✨ ✨ ✨
海未『では……すぐにでも、果林たちの居場所探知を始められる準備が整ったということですね?』
鞠莉「ええ、リナが……まさに一瞬で探知プログラムを作ってくれたわ」
リナ『頑張った! リナちゃんボード「えっへん」』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
探索プログラムが出来たわたしたちは早速海未さんへ報告をしているところ。
鞠莉「ただ……わたし一人でディアルガ、パルキア、ギラティナを制御するのは難しいわ。ギラティナはともかく……ディアルガとパルキアは一人で長時間指示を出し続けられないから……せめて、ジムリーダーか四天王クラスの人を一人……」
海未『それに関してはもう話が付いています。大雑把な説明を四天王に共有した際に、ダイヤから志願がありました』
鞠莉「ダイヤが……?」
海未『彼女は以前にもディアルガの制御を行っています。勝手もわかるから自分がやると志願してくれました。ウチウラやウラノホシの警固はこちらでもフォローをしますし、あのエリアにはダイヤのお母様もいらっしゃるので』
確かに元ジムリーダーのダイヤママなら、警固の戦力としては申し分ない。……一族でジムリーダーをやっているクロサワ家サマサマデース。
海未『すぐに幽霊船の方に出向くように伝えておきますので、現地で合流してください』
鞠莉「OK.」
海未さんとの通信を切り。
鞠莉「リナ、行くわよ!」
リナ『リナちゃんボード「ガッテン」』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
リナと共に、研究所を飛び出した。
379 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:30:00.29 ID:bMcrfVdQ0
👠 👠 👠
──DiverDivaウルトラスペースシップ。
いつまでもウルトラスペースに滞留するのは危険なので、現在は拠点となる世界に降り立っている。
姫乃「あの……果林さん」
果林「何かしら?」
姫乃「しずくさんが……フェローチェを魅せろとうるさくて……」
果林「あら……今朝魅せてあげたのに……もう禁断症状?」
姫乃「どうしますか?」
果林「別に放っておいていいわ。魅せたら魅せたで症状が加速するし」
姫乃「そうですか……」
果林「……もうそろそろ……持たないかもしれないけど」
彼女の様子を見るに……毒が回りすぎている。
精神崩壊するのも遠くないかもしれない。
果林「愛から見てどう思う?」
愛「んー? なにがー?」
果林「しずくちゃんの容態」
愛「……あー……しずくの精神力、すごいよね。いや、胆力って言うのかな?」
果林「まあ……何度も私や姫乃に魅せろ魅せろって迫ってくるものね」
フェローチェの毒は人の理性を破壊して衝動的にするから……ある意味、正しい反応でもあるのだけど……。
姫乃「それはそうと果林さん。次の作戦行動はいつにしますか?」
作戦行動──即ち、ウルトラビーストの捕獲作業の話だ。
果林「そうね……明日にまた1匹……いえ、2匹を目標に捕獲しましょう」
姫乃「わかりました」
愛「それにしても、歩夢の力はすごかったよね〜」
果林「……全くね」
私たちは当初の予定通り、昨日歩夢の能力によるウルトラビーストの誘引を初めて行ったわけだけど……。
予想以上の誘引能力だった。
最初に現れたツンデツンデを捕まえ撤退しようとした瞬間──マッシブーン、ウツロイド……さらに、アクジキングが一斉に飛び出してきて、私たちは大急ぎで誘引作戦を行った世界から脱出したくらいだ。
果林「一歩間違えると……こっちも大損害を受けかねないわね……」
愛「ただ、逆に良い方向での予想外もあったけどね〜」
姫乃「どういうことですか?」
愛「歩夢のフェロモンに中てられて誘引されたウルトラビーストたちは、平均よりも動きが緩慢だったんだよ」
姫乃「……本当ですか?」
愛「うん。たぶん、ポケモン自体を宥める力があるんだろうね。……いやー、ホントすごい能力だわ」
果林「狂暴性を完全に抑えられるわけではないとはいえ……少しでも鈍らせてくれるのは助かるわね」
380 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:30:53.81 ID:bMcrfVdQ0
相手はウルトラビースト……規格外の強さを持ったポケモンたちだ。
少しでも捕獲難度が下がるのは、願ったり叶ったり。
果林「この調子で……ウルトラビーストをもっと集める……」
──そして、それを一斉に送り込まれたあの世界は……滅亡する。
そんなことを考えていたときだった、
愛「ん……?」
愛が珍しくモニターに映る計器を見ながら眉を顰める。
果林「愛? どうかしたの?」
愛「……どうやら、まだ簡単には行かせてくれなさそうだよ」
姫乃「どういうことですか?」
愛「……この場所が何者かに探知されてる」
果林「なんですって……?」
愛は複数のコンソールを弄りながら、解析を始める。
愛「……でも、愛さんを舐めるなよ〜? こうして、こうして〜……ほい、ジャマー展開」
一瞬で対策を講じる。……が、
愛「……え? ジャマー解析速過ぎない……!?」
珍しく愛の表情に焦りが見て取れた。
愛「……向こうにはとんでもないエンジニアがいるみたいだね……」
姫乃「探知元はわからないんですか?」
愛「……うまく隠されてるね……とりあえず探ってみるけど、まあ……」
果林「状況から言って、出元は……」
愛「歩夢たちがいた世界……だろうね」
果林「そうなるわよね……」
姫乃「追ってくる……ということでしょうか」
愛「……たぶん、歩夢とかしずくが持ってる図鑑の固有信号を探知に使ってるね」
姫乃「今すぐ彼女たちの図鑑の電源を切るか、破壊してきます」
姫乃がブリッジを出ようとしたところを、
愛「いや、もう遅いからやらなくていい」
愛が制止する。
381 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:31:34.04 ID:bMcrfVdQ0
姫乃「遅いとは……?」
愛「そこからバックドア仕掛けられたみたい。コスモッグ用のセンサーもだけど……ありとあらゆる通信機器の信号をハッキングされてる」
果林「は、ハッキング……!?」
姫乃「操作権が奪われたんですか……!?」
愛「いや、さすがにそこは防いだ。でも、こっちの居場所は完全に筒抜けになった」
果林「……今すぐ拠点世界を移しましょう」
愛「それももう意味ない。このレベルのハッカー相手だと世界を移動したところで秒で特定されるだけだよ」
こうして場所を特定してきたということは──
果林「……向こうには、私たちの場所まで辿り着く手段があると考えた方がいいわよね……」
愛「だね。間違いなく来ると思う」
果林「……腹を括れということね」
向こうも……最後の最後まであがくつもりということだ。なら、こちらも相応の態度で臨むしかない。
果林「……姫乃、せつ菜としずくちゃんを呼んで」
姫乃「どうするんですか……?」
愛「どーもこーもないって話。……もう、ここまで来るのは確定したようなもんだから……あとは──」
果林「追ってくるなら……返り討ちにするしかない……!」
姫乃「……わかりました。今すぐ呼んできます」
姫乃がブリッジを出て、せつ菜たちを呼びに行く。
愛「せっつーはともかく、しずくも戦力に数える気?」
果林「少し頼りないけど……戦力にならないというほど弱くもないはずよ」
愛「……ま、アタシは構わないけど」
そう言いながら、愛は再びコンソールを弄り始める。
恐らく少しでも情報の流出を防いでいるのだろう。
ただ、向こうはこちらの擁する天才エンジニアを出し抜くほどの手練れを用意してきた。
つまり、それだけ本気ということだ。
だけど、
果林「……いいわよ、やってやろうじゃない」
ここまで来て、こちらも引くわけにはいかない。
果林「勝った方が生き残って、負けた方が滅亡よ……!」
最後は私たちDiverDivaらしく──純粋な強さで白黒つけようじゃない。
382 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:32:15.41 ID:bMcrfVdQ0
☀ ☀ ☀
──音ノ木上空。
穂乃果「……異常無しです」
相談役『……逆に不気味ね』
穂乃果「……ウルトラビーストの出現量は増えてるんですか?」
相談役『……今は通常の1.2倍くらいね……。恐らく、敵方がウルトラスペースを行き来しているせいで、刺激されたウルトラビーストがこっちに来ているんだと思うわ。ただ、大型種はクロユリに現れたテッカグヤくらいで……ひとまずジムリーダーたちで撃退しきれている』
穂乃果「うーん、増えてはいるんですよね……。……でも、これくらいなら異変として認識されてないってことなのかな……?」
相談役『その匙加減に関しては私たちにはわからないけど……』
穂乃果「……たぶん、海未ちゃんたちの方も戦力が相当カツカツだと思うから……場合によってはそっちに行った方がいいかも……」
相談役『実際に作戦が始まってからどうするかの最終判断は穂乃果さんに任せるわ。ただ──レックウザが現れた場合は、全ての作戦行動を中断してでも、音ノ木に急行してもらえる?』
穂乃果「はい! わかりました! それじゃ、また連絡します!」
ポケギアの通話を切る。
穂乃果「……前はディアルガ、パルキアが一度に現れたから、来ちゃったけど……ウルトラビーストはそういう脅威じゃないって思われてるのかな……」
それならそれで構わないんだけど……なんだか、気持ち悪い感じがする。
穂乃果「とにかく……私は何が起きても対応できるようにしておかないと……」
私は独り、音ノ木の警固を続ける……。
🐏 🐏 🐏
──彼方ちゃんはコメコシティで侑ちゃんの特訓の真っ最中だったんだけど〜……。
侑ちゃんと特訓をしているときに、彼方ちゃんにお話があるって人が来て……今はそこに出向いています。
そして、その相手というのは……。
エマ「……突然ごめんね、彼方ちゃん。今、コメコにいるって聞いたから……」
エマちゃんでした。
私はエマちゃんに呼ばれて、エマちゃんの寮のお部屋に来ています。
彼方「うぅん、大丈夫だよ〜。でもどうしたの?」
エマ「……あのね、彼方ちゃん。……わたしを果林ちゃんのところに連れて行って欲しいの」
彼方「…………」
なるほど……。そういう話か〜……。
383 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:33:18.49 ID:bMcrfVdQ0
エマ「わたし……あの後、何度も考えたの……。……でも、やっぱり……果林ちゃんが心の底から、みんなに酷いことをしようとしてるなんて、どうしても思えないの……」
彼方「エマちゃん……」
エマ「……果林ちゃんは……誰かのために背負いこんで、自分一人が悪い人になって……みんなを守るために無理してるんじゃないかって……」
彼方「……」
エマちゃんの言うことは……あながち的外れというわけでもなかった。
果林ちゃんはストイックだし、目的のために手段を選ばないけど……仲間想いな人だ。
今は道を違えてしまったけど……わたしも果林ちゃんには何度も救われた。
果林ちゃんは果林ちゃんなりに……自分の世界を救うために必死なだけなんだ。それくらいは理解している。
エマ「前に……果林ちゃんが悪い人なのか……彼方ちゃんに聞いたよね……」
彼方「……うん」
エマ「そのとき彼方ちゃんは……『どの立場から見るかによる』って言ったよね。果林ちゃんを悪い人だとは……言わなかった」
確かに、わたしはそう答えた。
エマ「……あの言葉を聞いて……彼方ちゃんも……本当は果林ちゃんと戦いたくないんじゃないかなって……」
彼方「それは……」
それは……そうだ。……わたしだって、かつての仲間──うぅん、家族……かな──と戦いたいなんて思わない。
エマ「もし、彼方ちゃんが今でもわたしと同じように……少しでも、果林ちゃんと戦わない方法を考えてくれてるなら……。……わたしも果林ちゃんのところに連れていって。……わたしが果林ちゃんに、もうこんなことはやめようってお話しするから……」
わたしは返答に困る。
果林ちゃんにとって……エマちゃんが特別な相手だったのはそうなのかもしれない……。
とはいえ、今になってエマちゃんの言葉を聞いたところで、止まってくれるのか……。
エマ「彼方ちゃん……お願い……」
彼方「う、うーん……」
エマちゃんの視線から逃げるように目を逸らしたとき、ふと──エマちゃんのお部屋に石が置いてあることに気付く。
いや、正確には何度かこの部屋は訪れているから、あるのは知っていたんだけど……。
彼方「……あれ……あの石……」
よく見ると──どこかで見たことがあるものだった。
エマ「石……? ……あ、えっとね……それは果林ちゃんがずっと前にくれた石なの……御守りだって」
彼方「……思い出した」
あの石は確か──果林ちゃんが持っていた石と同じものだ。
彼方「果林ちゃんの……故郷の石……」
エマ「え、そうなの……?」
──もう、なくなってしまった……果林ちゃんの故郷の石。
そんな大切なものを……これから滅ぼす世界に置いていくかな……?
彼方「…………」
384 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:34:16.25 ID:bMcrfVdQ0
それを託されたエマちゃんは……。
エマ「彼方ちゃん……?」
彼方「わかった。今から海未ちゃんにお願いしてみよう」
エマ「いいの!?」
彼方「うん。もしかしたら……エマちゃんなら本当に……果林ちゃんを説得出来るかもしれないから……」
🐏 🐏 🐏
海未『……なるほど……それで彼女を同行させたいと……』
わたしたちはあの後すぐに、海未ちゃんに連絡を取り、無理を言って話をする時間を作ってもらった。
彼方「……もし戦わずに済むなら、それ以上のことはないと思うんだ」
海未『それは確かにそうですが……』
エマ「わたしが絶対果林ちゃんを説得してみせます……だから……」
海未『…………』
彼方「エマちゃんはわたしが警護するって条件でもダメかな……? 果林ちゃんはあの場での責任者みたいなものだから……果林ちゃんを説得しさえすれば、それで全部収まるかもしれないし」
海未『賭けてみる価値はある……ということですか……。……確かに今は猫の手も借りたい気持ちですが……』
エマ「お願いします……!」
海未『……ですが、エマさん。貴方は一般人ですし……いくら彼方が警護すると言っても……』
エマ「わ、わたしもいざとなったら、ポケモンと一緒に戦えます……!」
海未『…………』
海未ちゃんはモニター越しに困った顔をして黙り込む。たぶん……説得が出来るなら、本当にそれに越したことはないけど、そもそも危険な場所にエマちゃんを送り込むということ自体がネックなんだと思う。
エマちゃんも確かにポケモンは持っているけど、さすがに侑ちゃんやかすみちゃんのような実力はない。
リーグ側から侑ちゃんやかすみちゃんに、すごく厳しい条件を出した手前っていうのもあるだろうし……。
ただ、そんな中でわたしたちに助け船を出してくれたのは、
侑「──……私は戦わなくて済む方法があるなら、それに越したことはないと思います」
そう言いながら、お部屋の中に入ってきた侑ちゃんだった。
彼方「ゆ、侑ちゃん……!?」
侑「ごめんなさい……彼方さん、なかなか帰ってこなかったから……。牧場の人に訊いたら、ここにいるって言われて、案内してもらって……。そうしたら、中から話が聞こえてきたので……」
エマ「ご、ごめんね……! 彼方ちゃん、侑ちゃんと一緒に修行してたんだよね……」
侑「いえ、それよりも……エマさんが果林さんを説得出来るなら、私はそれに越したことはないと思います」
海未『侑……貴方はいいのですか?』
侑「私とかすみちゃんは、最初から戦うことを前提で作戦に参加するつもりでしたけど……エマさんはあくまで説得のために同行するんですよね? そういうことなら、かすみちゃんも反対しないと思います。元より……私たちは戦いたいわけじゃないので……」
確かに、わたしたちの目的は戦うことではない。
攫われた歩夢ちゃんたちを取り戻すことが最優先だ。
あくまで戦闘は、そのための手段でしかない。
385 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:35:37.92 ID:bMcrfVdQ0
侑「なら、少しでも問題を解決する手段は多い方がいいと思うんです……。もちろん、エマさんのことは、私やかすみちゃんも一緒に守るように行動します」
エマ「侑ちゃん……。……あ、あの……お願いします……!」
エマちゃんは通信端末の前で頭を下げる。
エマ「わたしが……果林ちゃんを止めてあげなくちゃ……果林ちゃんはもう、自分の意志だけじゃ止まれないから……」
そう懇願する。
海未『…………。…………かすみにも伝えておいてください。くれぐれもエマさんに怪我をさせないように、と……』
エマ「……!」
彼方「それじゃぁ……!」
海未『はい、エマさんの作戦への同行を許可します。ただし、エマさん。貴方は戦闘員ではありません。無理な戦闘は絶対に避け、説得が出来ないと判断した場合は、即座に撤退することを頭に入れて行動してください』
エマ「は、はい!」
彼方「海未ちゃん、ありがとう〜!」
海未『彼方……エマのことは、任せますよ』
彼方「うん! 任せて!」
海未『それでは、私は人員調整に戻ります。リナから特定が順調である報告も受けているので……今日中にはまた連絡をすると思いますので』
侑「わかりました」
そう残して、海未ちゃんからの通信が切れると、
エマ「彼方ちゃん……侑ちゃん……わがまま言ってごめんね……。……ありがとう」
エマちゃんはそう言いながら、わたしと侑ちゃんを抱きしめる。
彼方「ふふ、いいんだよ。でも、連れて行くからには期待するからね〜?」
エマ「うん……! 任せて……! 果林ちゃんのことは……絶対にわたしが説得してみせるから……!」
侑「一緒に頑張りましょう……!」
エマ「うん!」
こうして、エマちゃんの作戦参加が決定したのでした。
😈 😈 😈
──ツシマ研究所。
曜「──よーしーこーちゃーん」
善子「…………」
私が外出しようとドアを開けたとき、ちょうどそこに居た曜を見て、顔を顰めた。
386 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:36:10.58 ID:bMcrfVdQ0
善子「今忙しいから帰れ」
曜「うわ、その対応はさすがに酷くない!?」
善子「あんたと遊んでる場合じゃないのよ。それにヨハネって呼びなさいよ」
曜「別に私も遊んでる暇があるわけじゃないんだけど……」
善子「じゃあ、何しに来たのよ……」
曜「……善子ちゃん、千歌ちゃんのこと聞いた?」
善子「ああ……そのこと……」
リナの探知の結果曰く──千歌の図鑑の反応は、歩夢たちの図鑑の反応及びコスモッグレーダーがある場所とは別の場所にあったそうだ。
つまり、千歌は果林たちの手からは自力で脱出していると考えられる。
善子「あんたの予想通りだったみたいね」
曜「まあ、千歌ちゃんだからね」
善子「ふふ、そうね」
あの千歌が黙ってやられっぱなしなわけないものね。
善子「で、そんな世間話をしにきたの?」
曜「随分物騒な世間話だね……。……善子ちゃん、聞いたよ。千歌ちゃん救出作戦に志願したんだってね」
善子「ええ、自分で言うのもなんだけど、私は実力者だし、ジムリーダーや四天王たちほど動きが制限されないからね」
曜「抜け駆けしてズルい!」
善子「……めんどくさ」
曜「だから、私も千歌ちゃん救出作戦に志願したのであります!」
そう言いながら、曜が敬礼をする。
善子「……セキレイはどうするのよ」
曜「ことりさんにお願いした。……というより、ことりさんに千歌ちゃんを助けに行くように言われた。幼馴染がピンチなんだから、行ってあげてって」
善子「……相変わらず過保護なんだから……あの人は……」
まあ、確かに言いそうだけどね……。
曜「あと、海未さんから預かりものもあるし!」
そう言いながら、曜は自分のバッグをパン! と叩く。
何、預かってきたんだか……。
曜「それにそう言われて来たのは私だけじゃないよ」
そう言う曜の後ろから──人影が二つ。
ルビィ「ルビィたちも一緒に行くよ!」
花丸「作戦参加が善子ちゃんだけなんて、心配しかないからね」
善子「ルビ助!? ずら丸!?」
そこに居たのは、かつての同期たちの姿だった。
387 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:36:49.28 ID:bMcrfVdQ0
ルビィ「ルビィも……お母さんから、ジムはいいから助けに行ってあげなさいって……」
花丸「マルもにこさんから、こんな場所にいる場合じゃないでしょって、ダリアを追い出されたずら」
善子「……いや、なんでにこから追い出されるのよ」
花丸「それには海より深い理由があって、説明は難しいずら……」
善子「あっそ……」
全くこいつはいつも説明をはぐらかすんだから……。
まあ今更だし、別にいいけど……。
曜「というわけで、お邪魔しまーす!」
花丸「邪魔するずら〜」
ルビィ「あ、あの……お世話になります」
善子「いや、どういうわけよ……」
何故か、私の横をすり抜けて堂々と研究所の中に入っていく3人に突っ込みを入れる。
曜「作戦決行日まで、ここで過ごすから!」
善子「あっそ……外出するときは戸締りしてよね……」
そう言いながら、曜に鍵を投げ渡す。
曜「おっとと……! ……善子ちゃん、どこか行くの?」
善子「ちょっと野暮用があるのよ……」
花丸「野暮用ずらか?」
ルビィ「すぐに戻ってくるの……?」
善子「ええ、作戦開始までには絶対に。私が留守の間、研究所で騒いだりしないでよ? 近所迷惑になるから」
曜「はーい」
花丸「善子ちゃんが心配するようなことは何もないずら」
ルビィ「が、頑張ってね! 何しに行くのかはわからないけど……」
善子「ん。じゃあ、行ってくるわ」
私は仲間たちに背中越しで手を振りながら──ドンカラスの足に掴まり飛び立つのだった。
👑 👑 👑
──フソウタウン。
かすみ「…………ぜぇ…………ぜぇ…………」
果南「もう……かすみちゃん、まだ13番水道抜けたところだよ? ポケモンの補助もあるんだから……」
かすみ「……かすみんには……みずタイプが……いないん、ですって……」
「ゴーン」「スグマ」
ポケモンの補助と言っても、サニゴーンにビート版のように掴まるのと、マッスグマに引っ張ってもらうくらいです。
「カイン」「ロアーク」「ダストダァス」「リムオン…」
388 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:38:05.59 ID:bMcrfVdQ0
他の手持ちたちも、なんだかんだで泳いで付いてきているのが偉すぎます……。
ちなみに新発見だったんですが、ダストダスはあの巨体だけど、体内にあるガスのお陰で浮くらしいです。
この知識、いつか役に立つときが来るんでしょうか……。
かすみ「……せめて……休憩を…………」
果南「仕方ないなぁ……15分休憩ね」
かすみ「じ、15分しかないの……!?」
果南「まだ4分の1くらいなんだから、あんまり休んでると今日中にコメコに帰れないよ」
むしろこの人……今日中にオトノキ地方の南半分を1周するつもりだったらしいですよ。どう考えても海渡るだけで1日掛かりますよ……。
かすみんも侑先輩と一緒に、彼方先輩と修行したかったですぅ……。
とはいえ、泣き言を言っていても、果南先輩が逃がしてくれるわけもないし……。
ポケモンたちは“げんきのかけら”を使えば元気になるけど……かすみんには食べられませんし、今もお腹がぐーぐー鳴っています……。
かすみ「はぁ……なんか出店でご飯食べよ……」
幸いフソウは港からちょっと行くとすぐに屋台がありますから……15分もあれば、何か軽く食べることくらい出来ますし……。
かすみ「さて……何を食べましょうかねー……」
キョロキョロと辺りを見回しながら、めぼしい屋台ご飯がないかを探していると──
「──さぁ、お客さん! 世にも珍しい、奇跡の灰だよ〜!!」
かすみ「ん……?」
客を呼び込んでいる怪しいおじさんの姿。
なんか聞き覚えのある声な気が……。
かすみ「……って、あーーー!!! 前かすみんにサニーゴ売りつけたおじさん!!」
おじさん「!? あ、あのとき嬢ちゃん……!?」
かすみ「あのときはよくも、騙してくれましたね……!! なーにがサニーゴを3000円で譲るですか!! ガラルサニーゴじゃないですか!!」
おじさん「結局1500円に負けてやっただろ! それにサニゴーンに進化してるじゃないか!」
「ニゴーン」
かすみ「ぐ……た、確かに今となっては悪い出会いじゃなかったって気はしますけど……! それとこれとは話が別です!!」
私がガルル〜とおじさんを威嚇していると、
果南「かすみちゃん? 揉め事?」
果南先輩が騒ぎを聞きつけたのか、こっちにやってきます。
かすみ「こいつ詐欺師なんです!!」
おじさん「おいおい、言いがかり付けないでくれよ」
果南「詐欺師? ……ああ、まだやってたんだ」
おじさん「は? まだやって、た……って……か、果南さん……?」
おじさんは果南先輩の顔を見ると、急に真っ青になってブルブル震えだす。
389 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:38:54.62 ID:bMcrfVdQ0
果南「前にも懲らしめたのに、懲りないねぇ……」
おじさん「か、かかか、勘弁してください……!」
果南「はぁ、しょうがないなぁ……」
そう言いながら、果南さんはポキポキと拳を鳴らす。
おじさん「ひぃぃぃぃぃ!!! し、失礼しましたぁぁぁぁ!!!」
その姿を見ただけで、おじさんは大量の道具を乗せたリアカーを引いて逃げ出してしまいました。
果南「ありゃ……まだ何もしてないのに……。もう、やっちゃダメだよ〜」
かすみ「果南先輩……どんな懲らしめ方したんですか……」
まあ、追っ払えましたし……いいですけど……。
かすみ「はぁ……なんか休憩してたはずなのに、声出したせいで無駄に疲れましたね……」
お陰でお腹の虫も文句を言っています。
ぐーぐーお腹鳴らしてるのは可愛くないから、早くご飯を──
果南「そろそろ15分だし、続き行くよ」
かすみ「……え!? う、嘘!? せ、せめてご飯食べさせてくださいっ!」
果南「運動中に固形物取ると消化不良で効率が落ちるから……はい、ゼリー飲料」
かすみ「い、いやですっ! せっかくフソウまで来たのに、こんな味気ないご飯っ!」
果南「また明日も来るんだからいいでしょ」
かすみ「明日もやるんですかっ!?」
果南「当たり前でしょ。ほら、さっさと行かないと日が暮れちゃうって」
かすみ「た、助けて、こ、殺されるー!?」
果南「死なない死なない、ほらサニータウンまで泳ぐよー」
かすみ「もう、いやーーーー!!!!」
フソウの空にかすみんの絶叫が響き渡るのでした。
🎹 🎹 🎹
──コメコシティ。
侑「──ウォーグル!!」
「ウォーーッ!!!!」
ウォーグルが殻を閉じたパールルに飛び掛かり、大きな爪で握り潰すように爪を立てると──
バキッ!!!
侑「!?」
彼方「あわわっ!? 侑ちゃん、ストップ、ストーーーップ!?」
侑「ウォーグル!? パールル離して!?」
「ウォー」
390 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:39:42.71 ID:bMcrfVdQ0
指示を出すと、ウォーグルはすぐにパールルを放す。
放したパールルに彼方さんが駆け寄って貝殻の表面を撫でる。
彼方「んーっと……」
侑「ご、ごめんなさい、彼方さん……パールル……大丈夫ですか……?」
彼方「うん。すぐ止めてくれたから大丈夫だよ〜。ちょっとヒビが入っちゃってるけど……しばらくすれば、自然治癒するはずだから〜」
侑「ならよかった……」
ホッと安堵の息を吐く。
彼方「それにしても、侑ちゃん……すっごく強くなったね〜。前はパールルの殻に全く歯が立たなかったのに〜……」
彼方さんの言うとおり……前にこの浜辺で稽古を付けてもらったときは、まるで歯が立たなくて、3匹掛かりでどうにか攻略したのに……今はウォーグル1匹のパワーで殻にヒビを入れてしまった。
彼方「本当に、あのときのひよっこトレーナーがこんなに強くなるなんてね〜」
侑「あはは……確かに、あのときは本当にひよっこって感じでしたよね……」
そのせいで、歩夢とすれ違っちゃったんだっけ……。なんかもう、懐かしい気さえしてくる。
彼方「でも、本当に強くなった……彼方ちゃんも師匠として鼻高々だよ〜。あ、でも……教えてたのはちょっとだし、師匠なんて言うのはおこがましいかな……」
侑「そんなことないです! 私、彼方さんがいなかったら絶対にここまで強くなれませんでした。あのとき、彼方さんに教えてもらったお陰で、今の私があるんです!」
彼方「あ〜もう〜! 侑ちゃんったら〜、可愛いこと言ってくれるな〜うりうり〜♪」
侑「わわっ、や、やめてくださいよ〜。く、くすぐったい〜」
彼方「ふふ、そんな侑ちゃんでも、この子の防御は破れないだろうけどね〜」
「────」
そんな風に言う彼方さんのすぐ傍には、コスモウムが浮いている。
侑「はい……コスモウムって本当に硬いんですね……」
すでに何度か挑戦しているけど……まさに規格外の硬さで今の私たちでも歯が立たない。
彼方「ふふふ〜宇宙一硬いよね〜この子〜」
「────」
コスモウムは無表情のまま、ゆったりと私の周囲をくるくると回り始める。
彼方「あはは、壊せるものなら壊してみろ〜って言ってるのかも〜」
侑「む……じゃあ、チャレンジするよ……! イーブイ! ウォーグル!」
「ブイ!!!」「ウォーー!!!」
私が2匹を構えると、コスモウムは余裕の表れなのか、その場でゆったりと回転し始める。
彼方「ふふ、コスモッグのときを思い出すな〜。その子、“なまいき”な子だったから〜」
侑「私たちの本気で殻が割れても怒らないでよ?」
「ブイブイッ」「ウォーグッ」
「────」
私を煽ってくるコスモッグに向かって、攻撃をしようとしたそのとき、
エマ「二人とも〜おやつの時間だよ〜♪ 休憩にしよ〜♪」
エマさんに呼ばれる。
391 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:40:21.80 ID:bMcrfVdQ0
彼方「わ〜おやつ〜♪ 食べる食べる〜♪ 侑ちゃんも行こ〜♪」
侑「え、えー……今からやる気まんまんだったのに……」
彼方「休憩も大事だよ〜♪ ほら、行こ行こ♪」
エマ「もちろん、イーブイちゃんたちのおやつもあるからね〜♪」
「ブイ♪」「ウォーグ♪」
イーブイたち……私より先にエマさんの方に行っちゃったし……。
侑「まあ、いっか……コスモウムも行こっか」
「────」
私も動きがゆっくりなコスモウムと一緒に、エマさんのもとへと向かうのだった。
🎹 🎹 🎹
──修行をしながら日々を過ごしていたら、瞬く間に時間は過ぎて行って……。
1週間後……。
海未「──以上が今回の作戦内容になります」
コメコシティにて、明日に迫った決戦の、最後の作戦確認を行っていた。
海未「もう直通ゲートはほぼ完成しているそうです。すでに果南、鞠莉、ダイヤには幽霊船の方で待機してもらっています」
リナ『ただ逆探知の可能性も考慮して、ゲートは全員がその場所に揃ってから繋げるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
海未「貴方たちの突入後……少し遅れて、千歌のいる世界にもゲートを繋いで、千歌救出部隊を突入させます」
かすみ「同時には行けないんですか?」
リナ『一度繋いじゃえば問題ないけど……最初に繋ぐときだけは慎重な調整が必要だからね。繋ぐのだけは順番』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「そういうことですね。それと最後に……。……辞退するなら、これが最後のチャンスです。……覚悟はいいですか」
侑「もちろんです」
かすみ「あったりまえじゃないですか!」
彼方「彼方ちゃん、全部に決着をつけてくるから!」
エマ「絶対に……果林ちゃんを止めてみせます」
リナ『みんながいれば怖くない! 私も全力でサポートする!』 || > ◡ < ||
海未「……聞くまでもありませんでしたね」
海未さんは嬉しそうに笑いながら言う。
海未「皆さん、この地方……いえ、この世界の未来のために……よろしくお願いします」
海未さんは深々と頭を下げる。
侑「はい、必ず歩夢たちを連れて……みんなで戻ってきます……!」
かすみ「かすみん、果南先輩の地獄の特訓にも耐えましたからね……! 大活躍してきますよ! 任せてください」
392 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:41:10.22 ID:bMcrfVdQ0
それぞれの決意を口にして──
さぁ……いよいよ決戦だ……!
🎹 🎹 🎹
あの後、彼方さんは海未さんに送られる形で、国際警察の医療施設の方へと飛んでいった。
……決戦前日の今日は、遥ちゃんと過ごしたいとのことだった。
エマさんはいつもどおり、自分の寮へ。明日の朝迎えに行くことになっている。
そして、私たちも……今日はセキレイへと帰ってきていた。
かすみ「……かすみんたち、これから世界を救う戦いに行くんですね」
侑「……そうだね」
「ブイ…」
かすみ「旅に出たばっかりのときは……こんなことになるなんて想像もしてなかったです」
侑「私もだよ」
リナ『ごめんね、私たちの世界の事情に巻き込んじゃって……』 || 𝅝• _ • ||
かすみ「別にリナ子が謝ることじゃないよ」
侑「うん。みんなで解決しよう」
リナ『……うん! ありがとう!』 || > ◡ < ||
かすみちゃんと夜のセキレイシティを歩く。
侑「そういえばさ……」
かすみ「なんですか?」
侑「かすみちゃん……このこと、お父さんとお母さんには言った?」
かすみ「はい! ローズで入院してるときに言いました! パパとママには猛反対されたけど……絶対かすみんがしず子を助けに行くんだって言い続けたら、納得してくれましたよ!」
侑「そっか……。……やっぱ、反対されるよね……」
かすみ「……? ……もしかして、侑先輩……」
リナ『親御さんに言ってないの?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……うん」
きっと何を言っても心配を掛けてしまう気がして……なんて言えばいいのかわからなくて……まだ言えていなかった。
かすみ「侑先輩、それはよくないですよ……!」
侑「……だよね」
さすがに命を懸けた戦いに行くのに、家族に何も言わないのは……よくないよね。
侑「……今日、話すよ」
かすみ「それがいいです! もし反対されちゃったら、かすみんに連絡してくださいね! 一緒に説得しますから!」
侑「うん、ありがとう、かすみちゃん」
かすみ「それじゃ、かすみんこっちなんで! ……また明日です! 侑先輩もリナ子もゆっくり休んでくださいね!」
侑「うん、かすみちゃんも」
393 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:44:10.81 ID:bMcrfVdQ0
私はかすみちゃんと別れて──自分の家に向かう。
🐏 🐏 🐏
彼方「遥ちゃん」
遥「…………」
彼方「ふふ、すっごくお寝坊さんだね……誰に似たのかなぁ〜?」
遥「…………」
彼方「たくさん、怖い思いさせちゃったね……ごめんね……。……でも、次遥ちゃんが目を覚ますときは、怖いことは全部解決してるはずだから」
遥「…………」
彼方「お姉ちゃん……行ってくるね。全部に決着をつけてくるから……遥ちゃんはここでゆっくり休んでて」
そう伝えてわたしは席を立つ。
職員「もう、よろしいんですか?」
彼方「はい。遥ちゃんの近くにいると、離れられなくなっちゃうから……」
本当は一緒にいたいけど……少しでも自分の中にある闘志の炎を絶やさないように……。
彼方「行ってきます。夢の中で……応援してくれると嬉しいな」
そう残して、遥ちゃんの病室を後にしたのでした。
遥「………………お…………ねぇ…………ちゃん………………?」
🎹 🎹 🎹
自宅のマンションへと帰ってくると──ちょうど、タカサキ家から人が出てくるところに出くわす。
侑「歩夢のお父さんとお母さん……」
歩夢母「あら……侑ちゃん……」
歩夢父「こんばんは」
侑「こんばんは」
挨拶を返しながら顔を見ると──二人とも少しやつれていた。
そりゃそうだ……娘の歩夢が攫われて……もう2週間以上経っているんだから。
394 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:44:55.38 ID:bMcrfVdQ0
侑「あの……」
歩夢母「……ふふ、大丈夫よ」
侑「え……」
歩夢母「歩夢は……ちゃんと帰ってくるって、信じてるから」
歩夢父「今いろんな人たちが、動いてくれているとリーグの方から聞いたからね……。……きっと大丈夫だよ」
歩夢母「だから、侑ちゃんも無理しないでね」
侑「……はい」
歩夢父「それじゃ、おやすみなさい」
侑「……おやすみなさい」
ペコっと頭を下げると、二人はお隣のウエハラ家へと帰っていった。
侑「……」
1秒でも早く、歩夢のご両親を安心させてあげたい……。
そのためにも、私は……戦わなきゃ……。
思わず、自然と拳を握って立ち尽くしてしまう。すると──
侑母「侑ちゃん、いつまでそうしてるの?」
お母さんが目の前にいた。
侑「お母さん……」
侑母「おかえりなさい、侑ちゃん。イーブイちゃんと、リナちゃんも」
「ブイ♪」
リナ『ただいま』 || > ◡ < ||
侑母「ご飯出来てるから、冷めちゃう前に食べましょう? お父さん待ちくたびれちゃうから。あ、もちろんポケモンちゃんたちの分も用意してるからね」
そう言って、にっこり笑う。
侑「うん」
「ブイ♪」
私は頷いて家に入る。
侑「歩夢のお父さんとお母さん……よく来るの?」
侑母「まあ……不安だろうからね」
侑「……そうだよね」
私の両親と歩夢の両親は古い付き合いらしいし……一緒にいるだけでも、不安が和らぐものだからね……。
侑母「あ、ご飯の前に手洗いうがいしなさいね」
侑「はーい」
私は洗面所で手洗いうがいをしてから──リビングに入ると……。
侑父「侑、おかえり。イーブイとリナさんもおかえり」
侑「ただいま」
「ブイブイ♪」
リナ『ただいま』 || > ◡ < ||
395 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:45:27.93 ID:bMcrfVdQ0
お母さんの言うとおり、食卓で待っていたお父さんに出迎えられる。
そして食卓には──豪華な食事が並んでいた。
侑「うわぁ……!」
リナ『すごーい!』 ||,,> ◡ <,,||
侑母「今日は侑ちゃんの好きなものばっかり作ったから♪」
侑「うん!」
私は椅子に座る前に、
侑「みんな、出てきて!」
「ウォーグ」「…ライボ」「ニャー」「パルト」「フィオ〜♪」
「メシヤ〜」「メシヤ〜」「メシヤ〜」「メシヤ〜」「メシヤ〜」
みんなをボールから出す。ついでにドラメシヤたちも。
侑母「はーい、ポケモンちゃんたちのご飯はこっちだからね〜♪」
「イブイッ♪」「ウォーグ♪」「…ライ」「ウニャァ〜♪」「パルト」
「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」
侑母「リナちゃんのご飯も用意できたらよかったんだけど……」
リナ『気にしないで! その気持ちだけで嬉しい!』 || > ◡ < ||
侑母「ふふ、ありがとう♪」
──お母さんが用意してくれたポケモン用のご飯をみんなが食べ始めるのを見ながら、
侑父「ふふ、随分賑やかになったね」
リナ『侑さん、旅の中でたくさん仲間が増えたから』 ||,,> ◡ <,,||
侑父「そうみたいだね」
お父さんが優しく笑う。
侑母「さぁ、侑ちゃんも冷めないうちに食べて?」
侑「うん……! いただきます……!」
からあげをお皿に取って、口に運ぶ。
侑「……おいしい……っ!」
侑母「ふふ、侑ちゃん昔から好きだったもんね、お母さんのからあげ」
侑「うん! やっぱり、お母さんの作るご飯が一番おいしい……」
侑母「もう、おだてたってなにも出ないわよ〜? あ、デザートもあるからね♪」
侑父「ははっ、侑がお母さんのことを褒めると、どんどんメニューが豪華になりそうだな」
侑「あはは♪」
当たり前の家族の会話が……なんだか、すごく幸せに感じた。
だから……だからこそ……今、ちゃんと伝えないといけないと思った。
侑「……あ、あのさ……お父さん……お母さん……」
侑母「んー?」
侑父「なんだい」
396 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:46:15.20 ID:bMcrfVdQ0
二人が優しい表情で私を見つめてくる。
侑「……あ、あのね……私……」
ちゃんと、伝えなくちゃ……。息を吸って、
侑「…………歩夢を……助けに行くんだ……」
そう言葉にした。
でも、私の言葉を聞いたお父さんとお母さんは驚くどころか、
侑母「ふふ、知ってる」
侑父「わかってるよ」
優しい表情のまま、そう答える。
侑「え……?」
侑母「侑ちゃんが、歩夢ちゃんのこと助けに行かないわけないって……それくらい、お母さんたち最初からわかってるのよ?」
侑父「もしかしたら、言ってくれないんじゃないかって心配はしてたけどね」
侑「お父さん……お母さん……。……で、でもね……すごく危ないところに行くんだ……」
侑母「うん」
侑「もしかしたら……帰って、来られないかもしれない……」
侑父「大丈夫」
侑「え……?」
侑父「お父さんもお母さんも……侑のことを信じてるから」
侑「……!」
その言葉を聞いて──ふいに、頬を涙が伝った。
侑母「もう……泣くことないでしょ〜?」
そう言いながら、お母さんが席を立って、私の涙を指で優しく拭ってくれる。
侑「ご、ごめん……」
侑母「もちろんね……侑ちゃんが危ないところに行くのは心配……だけどね……侑ちゃんが自分で決めたことなんだよね? だったら、お母さんたちは侑ちゃんを信じて応援するよ」
侑「お母さん……」
侑父「ははっ、侑が泣くのを見たのは──歩夢ちゃんの旅立ちが決まったとき以来だね」
侑「!?/// お、お父さん!?///」
リナ『え? 侑さん、歩夢さんの旅立ちが決まったときに泣いちゃったの?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「リナちゃんがいるのに変なこと言わないでよ!?///」
──実は私は……歩夢が旅立ちの3人に選ばれたとき、泣いてしまった。
私は小さい頃からずっとポケモンが……ポケモンバトルが大好きで、ずっとずっとトレーナーに憧れていて……。
自分もいつかは最初のポケモンと図鑑を貰って旅に出ることが夢で、いつかそうなるんだって思っていたから……。
私じゃなくて──歩夢が、大切な幼馴染がそれに選ばれたことが嬉しくて誇らしかったのと同時に……なんで私じゃなかったんだろうって、悔しくて泣いてしまったんだ。
でも、そんな姿を見せたら、歩夢は絶対に旅立ちをやめてしまう。だから、気持ちはこの家の中までに留めて……歩夢にはちゃんとおめでとうと伝えた。
……その後、歩夢に旅に付いてきて欲しいとお願いされたときは、なんだかすごく安心したのを覚えている。
最初のポケモンと図鑑を貰ってではないけど……私も、ポケモンたちとの冒険の旅に出られるんだって……。
397 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:47:43.99 ID:bMcrfVdQ0
侑父「お父さんとお母さんはね、ポケモンやポケモンバトルについては素人だから、詳しくはわからないけど……侑の顔と、侑のポケモンたちを見ればわかるよ」
「ブイ♪」「ウォーグッ」「…ライボ」「ウニャァ〜」「パルト」「フィオ〜♪」
侑父「侑は素敵な仲間に恵まれて……強く、たくましくなってきたんだって」
侑「お父さん……」
侑父「あのとき、悔しくて泣いていた侑が……旅をして、大切な仲間に出会って、強くなって……大切な人を助けに行きたいと言っている。……それを応援しない親がいると思うかい?」
侑母「私たちは……いつだって、侑ちゃんの味方だよ」
お父さんが優しく笑い、お母さんが私を抱きしめてくれる。
侑「うん……、うん……っ……」
ポロポロ、ポロポロと涙が溢れてきた。
侑母「お母さんたちは……このお家で、侑ちゃんのこと、信じて待ってるから……」
侑父「侑は僕たちの自慢の娘だよ。だから、胸を張って……行っておいで」
侑「うん……っ……。……うん……!」
私はこの日、お父さんとお母さんの子供でよかったと……心の底から、そう思ったのでした。
🎹 🎹 🎹
リナ『素敵なご両親だね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「……うん」
「ブイ♪」
自分の部屋に戻ってきて……今はイーブイのブラッシングをしてあげている。
侑「……リナちゃん」
リナ『なぁに?』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「……絶対に、帰ってこよう……みんなで……!」
リナ『もちろん!』 || > ◡ < ||
それぞれの想いを胸に──決戦前夜は更けていく……。
398 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:48:17.41 ID:bMcrfVdQ0
🎹 🎹 🎹
──翌日。やぶれた世界。
果南「全員、揃ったみたいだね」
ダイヤ「それでは……始めましょうか」
鞠莉「OK. 座標の最終調整開始」
鞠莉さんが端末を弄りながら、最終調整を行い。
鞠莉「捕捉完了!! ダイヤ、行くわよ!」
ダイヤ「はい、いつでも!」
鞠莉さんとダイヤさんが、手にそれぞれ珠を持ち、
「ディアガァァァ!!!」「バァァァァァル!!!」
ディアルガとパルキアが雄叫びをあげると同時に──ゲートが開通する。
私は、
侑「みんな」
みんなを振り返る。
侑「絶対に……帰ってこよう! みんなで!」
「イッブィッ!!」
リナ『うん!』 ||,,> ◡ <,,||
かすみ「当然です!」
彼方「任せろ〜♪」
エマ「うんっ!」
侑「……行くよ!!」
「ブイッ!!!」
私たちは決戦の地に赴くために、ゲートに向かって──飛び込んだのだった。
399 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/28(水) 11:48:53.79 ID:bMcrfVdQ0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【やぶれた世界】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.75 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.74 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.74 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.70 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.71 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.68 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:239匹 捕まえた数:10匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.76 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.72 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.70 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.70 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.71 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.71 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:234匹 捕まえた数:14匹
侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
400 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/29(木) 01:25:32.18 ID:qt5/exVx0
■Intermission👏
愛「……来たよ」
計器を見ながら、敵の来訪をカリンに伝える。
果林「……行きましょうか」
姫乃「はい」
しずく「仰せのままに♡」
歩夢「…………」
「──ジェルルップ…」
先導するカリンの後ろを姫乃が、そしてしずくが歩夢を乗せた車椅子を押しながら歩き出す。
せつ菜「……決戦ということですか」
果林「気が乗らないのなら、来なくてもいいのよ」
せつ菜「……いえ、行きますよ」
しずく「せつ菜さん、私のこと守ってくださいね♡」
せつ菜「……ええ」
しずく……いつの間にか、せっつーに自分を守らせてるなんて、ホント食えない子だよねー。
401 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/29(木) 01:26:24.24 ID:qt5/exVx0
愛「んじゃ、あと頑張ってねー」
姫乃「愛さん、貴方……まさか付いてこない気ですか?」
愛「愛さんにはちょっとやることがあってね〜」
姫乃「総力戦なんですよ!? 貴方はこんなときでも自分勝手な行動を……!!」
果林「姫乃、やめなさい。愛はあくまでエンジニアよ。戦力であることを強要するのはお門違い」
姫乃「ですが……!」
果林「……それになんだかんだで、必要な行動を勝手にしてくれる。それが愛よ」
姫乃「…………」
愛「いやー愛さん信頼されてんね〜」
果林「ただ……変な行動をしたときは……わかってるわよね」
果林が鋭く睨みつけてくる。
愛「おーこわ」
その視線を適当に受け流す。
果林「……行ってくるわ」
愛「行ってら〜」
果林たちが出て行くのを見送ったのち──
愛「……さて……アタシも始めるかー……」
「──リシャン」
リーシャンと共に、“テレポート”でウルトラスペースシップを後にした。
………………
…………
……
👏
402 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/29(木) 18:26:56.90 ID:qt5/exVx0
■Chapter062 『決戦』 【SIDE Yu】
──ゲートを潜ると……。
侑「ここが……果林さんたちの拠点世界……?」
「ブイ…」
巨大な峡谷のような景色が広がっていた。
かすみ「……なーんか、思ったより異世界って感じしませんね……かすみんたちの世界にもこういう場所ありそう」
エマ「雰囲気はカロス地方の9番道路とかに似てるかな……?」
リナ『コウジンタウンと輝きの洞窟を繋ぐ道路だよね。確かにそんな感じだね』 || ╹ᇫ╹ ||
彼方「さしずめ、ウルトラキャニオンってところだね〜」
みんなが言うように、異世界という割にはそこまで私たちの世界との違いが感じられない。
侑「ここに……いるんだよね?」
リナ『うん、間違いない』 || ╹ ◡ ╹ ||
彼方「とりあえず、立ち往生して先に見つけられると不利になるから……移動しようか〜。周囲の警戒は怠らないようにね〜」
かすみ「はーい! 了解です〜」
私たちは果林さんたちの拠点世界改め──ウルトラキャニオンを進んでいく……。
🎹 🎹 🎹
かすみ「それにしても……向こうはかすみんたちが、こうして近くに来てることに気付いてないんですかね?」
周囲を警戒しながら峡谷を歩くかすみちゃんが、そう零す。
彼方「そんなことはないと思うけど〜……」
リナ『逆探知はされてると思う。向こうからしたら、私たちから追われるだろうってことも想定してるはずだし』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「でもでも、かすみんたちが来るってわかってるなら、普通留まらないんじゃないないですか? かすみんだったら別の世界に逃げちゃいます」
リナ『いや、それはないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「なんで??」
リナ『理由はいくつかある。一つは離れてもまたすぐに探知されるってことがわかってるから。こっちは向こうの機器の持つ固有の情報をほとんど掴んでるし。向こうもそれに気付いてるから』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「でも、電波とかを出す機械を全部取り換えちゃえばいいんじゃないの? しゅーはすう? 的なものが変わっちゃうとこっちも見つけるのが大変になっちゃうんでしょ?」
リナ『言うほど機器を取り換えるのは楽なことじゃない。計器の中には、かなり貴重なものもあるし……それこそコスモッグを探知するレーダーはかなりコストが掛かってる。航行にはコスモッグのエネルギーも消費するし、それを捨てるのはあまりにリスキーすぎる。だからと言って逃げ回るのもエネルギーを消費するし非効率ってこと』 || ╹ᇫ╹ ||
確かに仮にコスモッグを探知するレーダーを失った状態で、コスモッグに逃げられたらウルトラスペース内のどこかの世界から脱出できなくなる可能性があるわけだ。
こっちからコスモッグ探知レーダーの周波数を使って、場所を探られたからと言って、それを捨ててしまうのはあまりにリスクが大きすぎるというのは頷ける話だ。
403 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/29(木) 18:28:24.64 ID:qt5/exVx0
侑「もう一つの理由は?」
リナ『それは歩夢さんの能力が関係してる』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「歩夢の……?」
リナ『ポケモンに対する引き寄せ体質を持ってる人の論文は私も昔読んだことがあるけど……。あの能力は一ヶ所に留まっていた方が効果が大きくなる』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そうなの?」
リナ『引き寄せ体質の人から放たれるフェロモンのようなものを感知したからって、すぐさまポケモンがわらわら集まってくるわけじゃないからね』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……まあ、それはそっか」
確かに歩夢の周りには、よくポケモンが集まってきていたけど……そこまで極端な集まり方ではなかったはずだ。
もしそうだったら、歩夢はまともに旅なんか出来ないだろうし……。
リナ『それに果林さんたちが引き寄せようとしてるのはウルトラビースト。ウルトラビーストはそもそも数も少ないだろうし……大量に捕獲するつもりなら一ヶ所に留まって、捕獲を行うのが一番効率がいいはず』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「なるほど……」
彼方「それに……果林ちゃんたちは性格的に、逃げるよりは追ってくる戦力を徹底的に叩くのを選びそうだしね〜……」
リナ『うん。私も果林さんだったら、相手の戦力を削ぐことを優先すると思う』 || ╹ᇫ╹ ||
エマ「誰も追ってこれなくなっちゃえば、場所がわかっても関係ないもんね……」
リナ『そういうこと』 || ╹ ◡ ╹ ||
確かに私の目から見ても、果林さんは実力を誇示して、相手を折るタイプな気がするし……何より、一緒の組織に属していた彼方さんやリナちゃんが言うと説得力がある……。
果林さんたちが拠点世界を変えない理由に納得していると……。
リナ『みんな、止まって』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんがみんなを制止する。
彼方「みんな、一旦岩陰に入って」
侑「は、はい!」
私たちは指示通り、一旦近くの岩陰に隠れる。
隠れたところで、
彼方「リナちゃん、何か見つけたんだよね?」
彼方さんがリナちゃんにそう訊ねる。
リナ『うん。あそこの岩壁の上にウルトラスペースシップが見えた』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「え、ホントに……? なんにも見えないけど……」
リナ『私のカメラは高性能。間違いない』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||
彼方「コスモッグレーダーの反応も近付いてるってことだよね?」
リナ『うん。ただ、この世界には衛星がないから……GPSみたいな正確な位置情報の把握までは出来ないけど……』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「あ、それならリナ子のえこーろーてーしょん……? みたいなやつで探してみるのは?」
侑「いや、それはやめた方がいいと思う……。エコーロケーションしても、ローズジム戦のときみたいに逆に見つかるだけだよ」
相手の場所がわかっても、こっちの場所がばれたら意味がない。
404 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/29(木) 18:29:07.99 ID:qt5/exVx0
彼方「とりあえず……この先にいるのは間違いないと思うよ〜」
リナ『わざわざ、ウルトラスペースシップを放棄する理由もないしね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「……じゃあ、このまま進んでいけば……」
リナ『間違いなく接敵するね』 || ╹ᇫ╹ ||
いよいよ、決戦の時ということだ……。
彼方「この先に進む前に……それぞれの役割をちゃんと確認しておこっか」
彼方さんの言葉にみんなで頷く。
侑「私は歩夢を助けること」
私の目的はとにかく歩夢の救出を第一目標にしている。
場合によっては歩夢を安全な場所に避難させるために、逃げることも視野に入れるという話になっている。
……もちろん、簡単に逃げられるような相手とは思っていないけど……。
かすみ「かすみんはしず子の目を覚まして連れ戻すことです!」
かすみちゃんの第一目標はしずくちゃんの救出。
しずくちゃんは、フェローチェによる魅了の力のせいで、敵になっていると考えた方がいい……。
かすみちゃんはしずくちゃんと戦闘になってでも、どうにかしずくちゃんを無力化して相手から引き剥がす。
それが、かすみちゃんに課せられたミッションだ。
エマ「わたしは果林ちゃんのところに行ってお話することだよね!」
エマさんの目的は果林さんの説得だ。
これが出来れば、全ての戦闘をそれだけで終わらせられるかもしれない。
ただ……エマさんはバトルが得意なわけじゃないから、私たち3人でエマさんをフォローしながらということになっている。
もちろん、説得が出来ないと判断した場合には、エマさんを優先してゲートの場所まで彼方さんが逃がすという話だ。
彼方「そして、彼方ちゃんは〜……せつ菜ちゃんの足止め〜。……正直、一番荷が重いよ〜……」
そして、彼方さんの役割は……せつ菜ちゃんとの戦闘だ。
敵戦力の中でもせつ菜ちゃんの強さは頭一つ抜けていると考えた方がいい。
誰かが抑える必要はあるということで、彼方さんがせつ菜ちゃんと戦闘する担当になったんだけど……。
かすみ「自慢の防御力で時間を稼いでくれればいいんですから! かすみん、すぐにしず子の目を覚まさせて加勢に行きますから!」
侑「私も、歩夢を安全な場所に避難させたら、すぐに戦闘に戻ってきます。せつ菜ちゃんも放ってなんかおけないし……」
彼方「うん、お願いね〜」
せつ菜ちゃんに勝つには1対1では不可能と考えて、まず彼方さんが足止めをし、先に目的を達成した人が加勢に行くことになっている。
もちろん……せつ菜ちゃんを助けることも大事な目的な一つだ。
──『貴方なんかに──私の気持ちは、理解出来ませんよ……』──
まだ、あのときの言葉が胸に刺さっているけど……。それでも、このまま……何も理解出来ないままなんて嫌だから……。
──そして、最後に……。果林さんと愛ちゃんについて。
彼方「愛ちゃんもだけど〜……エマちゃんが果林ちゃんの説得に失敗しちゃった場合とかは、この二人とは無理に戦わなくてもいいからね」
405 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/29(木) 18:31:44.06 ID:qt5/exVx0
果林さんや愛ちゃんに関しては、この場で無理に倒す必要はない。
最優先は歩夢、しずくちゃん、せつ菜ちゃんを救出及び連れ戻すことだ。
もちろん、邪魔をしてくるのは間違いないだろうから……戦う必要が出てくる場面は予想されるけど……。
私に関しては歩夢を救出するだけだけど……かすみちゃんはしずくちゃんと敵対する可能性が高い分、負担は大きい。
もちろん、もっとも大変なのは彼方さんだけど……。
彼方「まあ、この作戦もあくまで、相手の戦力がこれしかいない場合だけどね……」
リナ『組織に属する人間が他にいる可能性もあるけど……それを言い出したらキリがないからね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
彼方「とはいえ……他世界遠征作戦は基本的に限られた少人数しか参加しないはずだから……たぶん、大丈夫なはず……。イレギュラーに関しては各自柔軟に対応してね」
侑「はい!」
かすみ「了解です!」
エマ「わかった!」
私たちは最後の確認を終え、戦いへと赴きます──
彼方「……侑ちゃんは歩夢ちゃん、かすみちゃんはしずくちゃん、エマちゃんは果林ちゃん。……それぞれ助けたい人や気持ちを伝えたい人がいるけど……リナちゃんは大丈夫?」
リナ『……』 || ╹ _ ╹ ||
彼方「愛ちゃんと……お話し出来るかもしれないよ?」
リナ『……悩んだけど……いい』 || ╹ ◡ ╹ ||
彼方「そう……?」
リナ『……せっかく時間が経って……璃奈の死に整理がついてるかもしれないのに……璃奈の記憶を持った私が出ていったら……辛いこと思い出させちゃうだろうから』 || ╹ ◡ ╹ ||
彼方「……そっか」
リナ『彼方さんこそいいの?』 || ╹ᇫ╹ ||
彼方「え?」
リナ『果林さんのこと』 || ╹ᇫ╹ ||
彼方「……。……うん。きっと、もうわたしの言葉は……果林ちゃんには届かないから……」
リナ『……そっか』 || ╹ _ ╹ ||
🎹 🎹 🎹
歩くこと小一時間──
侑「大分……近付いてきたね」
かすみ「……ですね」
私たちの目にも、岩壁の上に停まっているウルトラスペースシップが見えてきた。
出来るだけ目立たないように、岩壁に沿って進んでいると──峡谷の途中に、少し開けた場所が見えてきた。
大きな岩壁に囲まれているのは変わらないけど──広場のようになっていて、左側は岩壁が途切れ、空が見える。
道も続いていないところから見て、恐らくその先は崖になっているんだと思う。
かすみ「開けた場所まで来ましたね……」
彼方「気を付けてね。見晴らしがいいってことは……相手からも見つけやすいところってことだから……」
406 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/29(木) 18:33:18.30 ID:qt5/exVx0
そのとき──突然、頭上から熱気を感じ、
侑「イーブイ!! “いきいきバブル”!!」
「ブーーーィィッ!!!!」
咄嗟に放ったイーブイの体から発生した泡が──頭上から迫っていた炎の玉を鎮火させる。
この炎は──
果林「──へぇ……まさか、貴方たちが来るとは思わなかった」
「コーン」
侑「……果林さん……!」
声がして見上げると……前方の岩壁の上に──果林さんが立っていた。
かすみ「不意打ちなんて相変わらずですね!!」
果林「あら、自分たちからのこのこ敵地に出向いてきて……不意打ち程度で怒らないで欲しいわ」
侑「……歩夢はどこですか」
果林「怖い顔ね……。可愛い顔が台無しよ、侑」
侑「答えてください」
果林「そう焦らないで。貴方の大切な歩夢は──ここよ」
果林さんがそう言うと──彼女の背後から、ウイーンと音を立てながら電動車椅子のようなものが独りでに前に出てくる。
そして、その車椅子の上には……。
歩夢「………………」
「──ジェルルップ…」
頭の上に見たこともないようなポケモンを乗せ──ぐったりとしている歩夢の姿があった。
侑「……あゆ……む……?」
私の中でサァーっと血の気が引いていく。
果林「ふふ……そう、貴方の大好きな歩夢よ。素敵な姿になったでしょう?」
リナ『ウルトラビースト……ウツロイド……!?』 || ? ᆷ ! ||
彼方「果林ちゃん……歩夢ちゃんにウツロイドを寄生させたの!?」
果林「ええ、別に欲しかったのはこの子のフェロモンだけだもの」
かすみ「ひ、ひどい……」
ウツロイドというウルトラビーストが、どんなポケモンなのかわからないけど……今の歩夢はとてもじゃないけど、まともな状態でないのは一目でわかった。
侑「歩夢……」
果林「こんなになっても、ちゃんとこの子の能力は活きているけどね」
侑「っ……!!」
──まるで歩夢を道具扱いするような物言いを聞き、頭がカッと熱くなるのを感じて、前に踏み出した瞬間、
エマ「果林ちゃんっ!! もうこんな酷いことするのはやめてっ!!!」
エマさんが叫んだ。
今の今まで、私たちを煽るような物言いをしていた果林さんだったけど、
407 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/29(木) 18:34:26.30 ID:qt5/exVx0
果林「……!? え、エマ……!? なんで、ここに……!?」
エマさんを認識した瞬間、露骨に動揺の色を見せる。
エマ「果林ちゃん!! 果林ちゃんがしたかったのは、本当にこんなことなの!? 誰かを傷つけてまで、酷いことしてまで、しなくちゃいけないことなの!?」
果林「……そ、そうよ……!! 私は最初からこういうことをする人間なの!!」
エマ「違うよ!! 果林ちゃんは本当は優しい人だもん!!」
果林「貴方は私に幻想を見過ぎなのよ!! ここまで来たのなら、わかっているんでしょう!? 私は……貴方の、エマの世界を滅ぼそうとしているのよ!!」
エマ「そんなの嘘だよっ!! 果林ちゃんはそんな人じゃないっ!! そんなこと心の底から望んでるはずないっ!!」
果林「……っ……! エマ、貴方に私の何がわかるの!?」
エマ「わかるよ……!! だって……だって……ずっと、果林ちゃんのこと……見てたもん……!」
果林「……だ、黙りなさい!!」
エマ「黙らないよっ!! 果林ちゃんが望んでないことして苦しんでるのに、ほっとけないもん!!」
果林「望んでないなんて、勝手に決めつけないで!! 私は私の意志で戦ってるの!!」
果林さんはエマさんの言葉に、想像以上に狼狽えていた。
果林「もし、私の邪魔するなら──」
果林さんは狼狽えながらも、手を上げ──それと同時に、
「コーーンッ!!!!」
果林さんの背後のいるキュウコンの尻尾の先に狐火が宿る。
果林「……エマ……貴方にも、容赦しない……!!」
そう言葉をぶつけてくる果林さんに対して、
エマ「いいよ」
エマさんはそう答えて、前に歩み出る。
彼方「え、エマちゃん!? 前に出ちゃダメ……!」
彼方さんが制止しようとするけど、
エマ「果林ちゃん。私はここにいるよ」
エマさんは、彼方さんを手で制しながら、果林さんを挑発する。
エマ「わたしが果林ちゃんのこと何もわかってないって言うなら……その炎で燃やせばいい」
果林「な……」
エマ「……でも、果林ちゃんはそんなことしないって、わかってるよ。わたしは……果林ちゃんのこと、ずっと見てたから……」
果林「……っ……」
果林さんの振り上げた手が──震えていた。
エマ「……果林ちゃん……もう、やめよう……? 自分の気持ちを押し殺して……悪い人になろうとしても……悲しくなっちゃうだけだから……」
果林「う、うるさいっ……!! 私の気持ちがわかるなら……これ以上、私を惑わすこと言わないでっ!!」
エマ「なら……その炎を飛ばせばいいよ。抵抗しないから」
408 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/29(木) 18:35:05.75 ID:qt5/exVx0
エマさんが無防備に手を広げた、そのとき──エマさんの頭上に、巨大な物体の影が差した。
「──テッカグヤ!! “ヘビーボンバー”!!」
「────」
エマ「っ!?」
彼方「エマちゃん!!」
咄嗟に彼方さんがエマさんを押し倒すように飛び付き、今しがたエマさんが居た場所に──落ちてきた巨体が轟音を立てながら、大地を割り砕く。
リナ『あわわ!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「うわぁっ……!!?」
「イブィッ…!!?」
目の前で大地が割れ砕け、巻き込まれそうになった瞬間──後ろにグイっと引っ張られる感覚。
「──カインッ!!」
かすみ「侑先輩!? 平気ですか!?」
侑「かすみちゃん!?」
「ブイッ!!?」
気付けば、かすみちゃんのジュカインに抱きかかえられる形で、割れ砕ける大地から離脱する。
でも──エマさんたちは、今の攻撃に巻き込まれてる……!
侑「っ……!! エマさんっ!! 彼方さんっ!!」
エマさんと彼方さんの名前を呼ぶけど──巻き起こる砂塵のせいで、二人の姿を確認出来ない。
一方──砂塵の中に、巨大なポケモンの影が見える。そして、その中から声が響く。
姫乃「果林さん!! その女の言葉を聞いてはいけません!!」
果林「ひ、姫乃!?」
姫乃「こいつらは、その女が果林さんと繋がりがあるのを知った上で、果林さんを惑わすために連れてきた……!! これは敵方の策略です!! その女の言葉を聞いてはいけませんっ!!」
姫乃と呼ばれた女の子の声が響き渡る。
──私たちの知らない敵がいる……!?
エマ「──惑わす!? 作戦!? 違うよ!? あなたはなんで果林ちゃんに戦わせようとするの!?」
侑「……!」
砂煙の中から響くエマさんの声……! エマさんは無事だ……!
姫乃「黙りなさい……!! テッカグヤ!!!」
「────」
テッカグヤと呼ばれた巨大のポケモンの影が巨大な手を振り上げ──音を立てながら崩れる大地にダメ押しをするように、叩きつけた。
エマ「──きゃぁぁぁぁぁっ!?」
彼方「エマちゃん……っ!!!」
轟音の中響くエマさんの悲鳴と、彼方さんの声。
そして、ガラガラと地面が崩れ落ち──砂塵が落ち着いた頃には……先ほどまであった広場の3分の1ほどが、崩落してしまっていた。
そこにエマさんと彼方さんの姿は無く──テッカグヤと呼ばれていた巨大なポケモンと、姫乃と呼ばれていた女の子の姿もなかった。
恐らく、崩落に巻き込まれた二人を追撃しに行ったんだ……!
409 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/29(木) 18:36:52.91 ID:qt5/exVx0
侑「え、エマさんたちを助けにいかなきゃ……!!」
かすみ「あ、ちょっと、侑先輩!?」
着地したジュカインの腕を振り払うように飛び出し、崖の下に向かって飛ぼうとした瞬間──
果林「──“れんごく”!!」
「コーーーンッ!!!!」
リナ『侑さん、攻撃!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「!? フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
「──フィーーーッ!!!!」
飛んできた怨念色の炎を、咄嗟に繰り出したフィオネの“ハイドロポンプ”で消火する。
果林「…………どこに行くつもりかしら」
果林さんがこちらを睨みつけている。
その目には──先ほどまでの動揺は見てとれず、今までのような冷たい……射殺すような表情に戻っていた。
侑「……っ」
説得は──失敗した。
かすみ「救助にはかすみんが行きます!! 侑先輩は果林先輩を……!!」
「カインッ!!!」
そう言いながら、かすみちゃんがジュカインと一緒に崖下に向かって、飛び出すけど──
「──サーナイト、“サイコキネシス”」
「サナ」
声がした直後、
「カインッ!!?」
かすみ「えっ!?」
ふわりと浮き上がったかすみちゃんとジュカインが──上に押し戻されるように吹っ飛ばされ、岩壁に叩きつけられる。
かすみ「っ゛、あ゛……」
「カ、カインッ…!!!!」
侑「かすみちゃん!?」
リナ『かすみちゃん!?』 || ? ᆷ ! ||
岩壁に叩きつけられ、鈍い声をあげながら地面に落っこちるかすみちゃんに駆け寄ろうとしたとき、
「ダメですよ、かすみさん♡ せっかく、分断出来たんだから♡」
声が響く。
その声は──私もよく知っている人物の声。
かすみ「……しず……子……っ……!!」
しずく「ふふ♡ かすみさんの目的は私でしょ? 他に気を取られてないで……私と遊んでよ♡」
気付けば、果林さんの横に──しずくちゃんが立っていた。
410 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/29(木) 18:38:36.62 ID:qt5/exVx0
しずく「果林さん、私はかすみさんを倒しに行っていいですか?♡」
果林「ええ……完膚なきまでに叩きのめせたら……ご褒美をあげるわ」
しずく「ホントですか!? 嬉しい♡ 頑張ります♡」
そう言いながら、しずくちゃんが崖を飛び降り──地面スレスレで、サーナイトのサイコパワーにより減速して着地する。
かすみ「……しず、子……」
しずくちゃんの名前を呼びながら、かすみちゃんがよろよろと立ち上がる。
侑「かすみちゃん、平気!?」
かすみ「これくらい……掠り傷です……」
「…カインッ!!」
しずく「あはは♡ それでこそ、かすみさんだよ♡ もっと、私のこと楽しませて♡」
リナ『し、しずくちゃん……かすみちゃんを本気で攻撃して……』 || 𝅝• _ • ||
しずくちゃんは……かすみちゃんを攻撃して、笑っていた。
とてもじゃないけど、今目の前にいるしずくちゃんは──私たちの知っているしずくちゃんとは思えなかった。
かすみ「……全くしず子ったら……イタズラにしては……度が過ぎてるんじゃない……?」
しずく「え〜、かすみさんが私にお説教ですか〜?♡」
かすみ「イタズラしず子には……お仕置きが必要だね……!」
そう言いながら、かすみちゃんの腕に付けた“メガブレスレット”が光り輝き、
「カイィィィィンッ!!!!!」
ジュカインがメガジュカインへと姿を変える。
しずく「うふふ♡ かすみさんが私を叱るなんて……10年早いよ♡」
そう言うのと同時に、しずくちゃんの首に提がっているブローチが眩い光を発し、
「──サナ…」
しずくちゃんのサーナイトがメガサーナイトへと姿を変える。
かすみ「ぶん殴ってでも……目、覚まさせてあげる……」
「…カインッ!!!」
しずく「あはは♡ 私はいつでも正気だよ♡」
「…サナ」
かすみちゃんがしずくちゃんとの戦闘態勢に入る中──しずくちゃんの背後……崖の上にもう一つの人影……。
黒髪ストレートロングの右の髪を一房だけくくった──……私の憧れのトレーナー……。
侑「せつ菜ちゃん……」
せつ菜「……」
せつ菜ちゃんは一瞬だけ私に目を配らせたけど、すぐに目を逸らしてしまった。
直後──
411 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/29(木) 18:39:23.80 ID:qt5/exVx0
果林「──“かえんほうしゃ”!!」
「──コーーーンッ!!!!」
侑「!? “どばどばオーラ”!! “みずのはどう”!!」
「ブーーーィィッッ!!!」「フィォーーー!!!!」
突然、果林さんの方から突然飛んできた攻撃を2匹の技で打ち消す。
果林「よそ見なんて余裕じゃない……」
侑「……っ」
果林さんから視線を外さないように、目の端でせつ菜ちゃんを確認すると──せつ菜ちゃんの視線は、かすみちゃんとしずくちゃんの方を見ていた。
なんで、そこで立ち尽くしているかはわからないけど……せつ菜ちゃんは、私よりもかすみちゃんを狙っているように見える。
それだと、かすみちゃんが1対2で戦うことになってしまう。どうにか、果林さんの攻撃を捌いて加勢に行きたいんだけど……!
「コーーンッ!!!」
再び、果林さんのキュウコンの尻尾の先に狐火が灯る。
とてもじゃないけど、隙なんか見せてくれそうにない。
どうにかして、かすみちゃんが1対2になるのを防がないと……何か方法は……!
そう思った、そのとき、
かすみ「侑先輩!!」
かすみちゃんが私の名前を呼ぶ。
かすみ「侑先輩の目的……! 忘れないでください!!」
侑「……!」
かすみ「かすみんの心配は二の次でいいです! お互い、まずは自分の目的を果たしましょう……!!」
……そうだ、私の目的は──
「──ジェルルップ…」
歩夢「………………」
まずは歩夢を助けることだ……!
侑「ごめん、かすみちゃん! すぐに助けに戻るから……! 行くよ、ウォーグル!!」
「──ウォーーーッ!!!!」
私はボールからウォーグルを出して、崖上の果林さんに向かって飛び出した。
412 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/29(木) 18:39:54.90 ID:qt5/exVx0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ウルトラキャニオン】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.75 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.74 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.74 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.70 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.71 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.68 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:241匹 捕まえた数:10匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.76 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.72 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.70 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.70 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.71 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.71 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:236匹 捕まえた数:14匹
侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
413 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 02:06:46.29 ID:loIPccok0
■Intermission✨
──やぶれた世界。
曜「──それじゃ行ってきまーす!」
曜がゲートに飛び込み──
善子「……んじゃ、行ってくるわ」
千歌救出班の最後のメンバー、善子がゲートに向かう。
鞠莉「善子。みんなのこと、お願いね」
善子「……マリーこそ、途中でへばってゲート閉じないでよ」
鞠莉「あら、善子ったら……相変わらず可愛くないわね」
善子「はいはい、私は可愛くないですよ」
鞠莉「……ふふ」
善子「なによ」
鞠莉「いつもの言わないのね」
善子「……本気で心配して言ってるときくらい……私の真名で呼ぶこと……許してやらなくもない」
そう残して──善子はゲートの中に飛び込んでいった。これで千歌救出部隊の5人全員が向こうの世界に行った。
鞠莉「……行ってらっしゃい、善子」
ダイヤ「……ふふ」
鞠莉「……なんで笑うのよ」
ダイヤ「なんだかんだで、良好な関係のようで安心しましたわ」
果南「善子ちゃんが出て行ったとき、鞠莉ったらわんわん泣いてたもんね。もっと優しくしてあげればよかったーって」
鞠莉「ちょ!?/// い、今そんな話しなくていいでしょ!?///」
ダイヤ「ほら、動揺するとゲートが閉じてしまいますわよ?」
果南「ま、おしゃべり出来る余裕があるなら大丈夫そうだけどね〜」
鞠莉「ぐ、ぬぬぬ……」
果南もダイヤも、隙を見せるとすぐからかってくるんだから……!
……ああもう、集中集中……!
恥ずかしさを紛らわすように、手に握った“しらたま”に意識を集中しようとした──そのときだった。
鞠莉「……え……?」
目の前で──明るい茶髪をツインテールに結った女の子が……先ほど侑たちが入っていった世界に繋がっているゲートに向かって飛び込んでいった。
鞠莉「な……え……!?」
ダイヤ「い、今の……!?」
果南「二人とも、ゲート不安定になってる!! 今集中切らしたら善子ちゃんたちがウルトラスペースに投げ出される!!」
そう言いながら、果南が私たちの持っている“しらたま”、“こんごうだま”に上から手を乗せる、
414 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 02:07:25.34 ID:loIPccok0
鞠莉「っ……!! ダイヤ!!」
ダイヤ「は、はい!!」
ダイヤと共に集中する。
果南の助けもあり……ゲートはすぐに安定し始めるけど……。
鞠莉「い、今……人がゲートを……」
ダイヤ「わ、わかっています……ですが……」
果南「……私たちはこの場を離れられない……」
ダイヤ「……こうなってしまうと……もはや、本人にどうにかしてもらうしか……」
鞠莉「この後、一般人を通すって話は聞いてたけど……今の子じゃないわよね……? 護衛も付いてなかったし……」
ダイヤ「は、はい……」
果南「……とにかく、今はゲート維持に集中しよう。人が来たら、海未に報告を頼むってことで」
鞠莉「……OK. そうだネ……」
今は自分たちの役割を全うするしかない……。
でも、今の子……誰だったのかしら……?
………………
…………
……
✨
415 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:04:16.24 ID:loIPccok0
■Chapter063 『ハルカカナタ』 【SIDE Kanata】
「メェ〜〜」
彼方「……ふぃ〜……危なかったぜ〜……」
“コットンガード”によって、自分の体毛をこれでもかと大きく膨らませたバイウールーの綿毛から顔を出しながら、汗を拭う。
エマ「あ、ありがとう……彼方ちゃん……。バイウールーも……」
「メェ〜」
彼方「エマちゃん、怪我してない?」
エマ「うん、お陰様で……」
テッカグヤの攻撃で地面が崩れ落ちる中、咄嗟にバイウールーの綿毛で自分たちを包み込み、そのまま落下してきた。
バイウールーの特性が“ぼうだん”だったこともあって、崩れ落ちる岩を防げたのも大きい。
彼方「それにしても……大分落ちてきちゃったね……」
エマ「うん……」
見上げると、私たちがさっきまでいたであろう場所が遥か高くに見える。
エマ「彼方ちゃん、早く上に戻ろう……!」
彼方「……いや、まずはエマちゃんを逃がすのが先」
エマ「え……」
彼方「説得は失敗した。……当初の作戦どおり、まずはエマちゃんを戦域から逃がすのを優先するよ」
エマ「ま、待って……! もう少し……もう少しお話し出来れば……!」
彼方「……」
確かに、エマちゃんの言葉は、元仲間のわたしも驚くほど、果林ちゃんの動揺を誘っていた。
……もしかしたら……エマちゃんなら、時間を掛ければ本当に果林ちゃんを説得出来ちゃうのかもしれない。
でも……もう戦闘は始まってしまっている……。
エマ「彼方ちゃん……お願い……! もう一度、果林ちゃんのところに連れていって……!」
彼方「エマちゃん……」
「──その必要はありませんよ」
彼方・エマ「「……!」
上空から声がして、顔を上げる。
そこには──
姫乃「……何故なら、ここで私が始末するからです……」
姫乃ちゃんが空からわたしたちを見下ろしていた。
腕のバーナーから炎を噴き出し、飛行するテッカグヤに乗って。
エマ「あ、あなたは……さっきの……」
彼方「……まさか……あなたがここにいるとは思わなかったよ〜。……姫乃ちゃん」
姫乃「…………」
416 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:05:25.01 ID:loIPccok0
わたしの言葉に対して、姫乃ちゃんは返事をせずに冷たい視線だけ送ってくる。
エマ「彼方ちゃん……知ってる子なの……?」
彼方「組織に居たときに、研究班の中に居た子なんだ。……遥ちゃんと同期の子」
姫乃「……今は、実行部隊ですがね……そして、“MOON”です」
彼方「……果林ちゃんが“SUN”になったのは知ってたけど……まさか、姫乃ちゃんが“MOON”になってたとは思わなかったよ」
つまり……姫乃ちゃんは組織内のトップ2の実力にまで上り詰めたということだ。……今、愛ちゃんが組織内でどういう扱いなのかがわからないのは気になるけど……。
姫乃「ですので……コスモッグ、返して欲しいんですが? それは私が持っているはずのポケモンです」
彼方「それはだめー。第一もう進化しちゃったし」
姫乃「そうですね……全て貴方の裏切りのせいで……組織はめちゃくちゃですよ……!」
「────」
テッカグヤのバーナーがこちらを向き──猛烈な勢いで“かえんほうしゃ”を発射してくる。
彼方「カビゴン!!」
「──ゴンッ!!!」
咄嗟にカビゴンを出し、“あついしぼう”で炎を受けるけど、
「カ、カビ…!!!!」
彼方「か、火力……つよ〜……!!」
特性の効果で半減されているはずなのに、猛烈な炎の勢いに気圧される。
わたしが次のポケモンを出そうとボールに手を掛けた瞬間、
エマ「ま、ママンボウ! “みずのはどう”!!」
「──ママァ〜ン」
彼方「……!」
エマちゃんのママンボウが炎を消火してくれる。
エマ「彼方ちゃん、大丈夫……!?」
彼方「ありがとう〜エマちゃん、助かったよ〜」
エマ「わ、わたしも戦う……!」
彼方「ふふ、ありがとう〜。……でも、今は〜」
わたしは、エマちゃんの手を取り──姫乃ちゃんに背を向ける。
彼方「逃げるっ!」
エマ「ええ!?」
地上で速く動けないママンボウをカビゴンが抱え上げて、彼方ちゃんの横を走り出す。
姫乃「待ちなさい……! テッカグヤ、“エナジーボール”!」
「────」
逃げ出したわたしたちに向かって飛んでくる“エナジーボール”を、
彼方「バイウールー!」
「メェェ〜〜」
バイウールーが“ぼうだん”で受け止める。
417 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:12:11.89 ID:loIPccok0
姫乃「くっ……! “ラスターカノン”!!」
彼方「ムシャーナ! “ひかりのかべ”!!」
「──ムシャァ〜」
立て続けに飛んでくる集束された光線を、繰り出したムシャーナが“ひかりのかべ”で防ぐけど──消しきれずに光線が屈折し、彼方ちゃんたちの足元に着弾して、爆発する。
彼方「わわっ!?」
エマ「きゃぁっ!?」
彼方「か、カビゴン!!」
「カビッ!!」
爆風に吹っ飛ばされるわたしたちを、カビゴンが先回りしてお腹で受け止める。
彼方「やっぱ、向こうはウルトラビーストなだけあって……簡単には防ぎきれないな〜……。エマちゃん、無事〜?」
エマ「へ、平気だけど……。……彼方ちゃん、わたしのことはいいから……!」
彼方「それはダメ〜。今はエマちゃんの身の安全が最優先〜!」
すぐさまカビゴンのふかふかのお腹から飛び降り、再びエマちゃんの手を引いて走り出す。
彼方「エマちゃんは戦闘のために来たんじゃないんだから、無理な戦闘は絶対にダメ〜!」
エマ「彼方ちゃん……」
出来ることなら、早く姫乃ちゃんを倒して侑ちゃんたちの加勢に戻りたいけど……エマちゃんを守りつつ、ウルトラビーストの猛攻を掻い潜って戦うのはちょっと厳しい。
姫乃「“エアスラッシュ”!!」
「────」
彼方「“サイコキネシス”!!」
「ムシャァ〜〜」
ムシャーナのサイコパワーで防ごうとするも、軌道を少し逸らすのが限界で──彼方ちゃんたちからちょっと離れたところを空気の刃が地面を撫で、大きく抉り取る。
彼方「や、やば〜……! 当たったら、彼方ちゃんぶつ切りにされちゃうよ〜……!」
いくら防御が得意な彼方ちゃんでも、あの威力はまともに受けたらやばすぎるし、防御に集中出来ない状況じゃ受けきるのも難しい。
ただ、幸いここは峡谷……走っていたら、すぐに岩壁に挟まれた細い道が見えてくる。
彼方「とりあえず、こっち……!」
エマ「う、うん……!」
彼方ちゃんたちは、細い通路へと逃げ込む。
姫乃「ちょこまかと……!」
峡谷に出来た天然の細道は、9m以上あるテッカグヤの巨体では入り込むことは出来ないような狭さだけど、
姫乃「テッカグヤ!!」
「────」
テッカグヤはそんなことおかまいなしに、両手のバーナーによる逆噴射で加速し、無理やり岩壁を破壊しながら、彼方ちゃんたちを追いかけてくる。
彼方「ご、強引〜!!」
姫乃「“いわなだれ”!!」
「────」
418 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:12:51.11 ID:loIPccok0
テッカグヤが身を振るいながら、砕いた岩壁をこちらに向かって雪崩のように崩してくる。
彼方「“テレキネシス”!!」
「ムシャァ〜〜」
大量の岩を“テレキネシス”で浮かせて、そのまま細い天然の通路をダッシュ。
姫乃「鬱陶しい……!!」
わたしがとにかく逃げ回りながら、攻撃を捌くことしかしないからか、姫乃ちゃんの苛立ちが見て取れる。
ただ、こうして細い道に逃げてきた判断は間違っていなかったらしく、強引に破壊しながら追ってきているものの、障害物を破壊しながら進んでいる分、テッカグヤのスピードは落ちているし、何より推進力に両腕を回しているため、出来る攻撃の種類が減っている。
これなら、逃げながら捌くことも難しくない。……だけど、問題もあって……。
彼方「ま、また分かれ道……! こ、こっち……!」
エマ「う、うん……!」
峡谷の細道は、複雑に枝分かれしていて、天然の迷路のようになっていた。
彼方「え、えっと〜……さっきは右に曲がったから、方角は〜……! もう〜! ゲートはどっち〜!?」
とにかく、エマちゃんをこの世界から逃がしてあげたいけど、こんな分かれ道だらけで見晴らしの悪い場所じゃ、方向感覚も無茶苦茶になるし、ゲートがどっちだったのかもわからなくなってくる。
それにずっと走ってると──
彼方「はぁ……! はぁ……!」
息も切れてくる。彼方ちゃん、走り回るのはあんまり得意じゃないんだよ〜……!
エマ「……彼方ちゃん」
彼方「な、なに〜!?」
エマ「ゲートがある場所まで行けばいいんだよね?」
彼方「そ、そうだけど〜……!」
エマ「じゃあ、こっち……!」
彼方「え……!?」
さっきまで私が引いていたはずの手を、逆にエマちゃんに引かれる。
エマちゃんは彼方ちゃんの手を引き始めると、ほとんど迷う素振りも見せずに分かれ道を進む。
エマ「……こっち……!」
彼方「え、エマちゃん、道分かるの……!?」
エマ「わたし、自然の中なら絶対に迷わない自信があるから!」
彼方「お、おお……!」
さすが山育ち……! 大自然で育った人はそういう感覚が根本から違うのかもしれない。
峡谷にある天然の迷路は奥まって行けば行くほど、どんどん複雑に折れ曲がっていき、次第に姫乃ちゃんのテッカグヤを引き離していく。
陰に隠れる形で、視界からテッカグヤが見えなくなったところで、エマちゃんが立ち止まる。
419 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:13:24.35 ID:loIPccok0
彼方「はぁ……はぁ……え、エマちゃん……?」
エマ「……彼方ちゃん、わたし……足手まといだよね……」
彼方「え……? そ、そんなこと……ないけど……」
エマ「うぅん、わたしがいるから彼方ちゃんが全力で戦えてないことくらいわかるよ」
彼方「…………」
エマ「たぶんだけど……向こうもわたしが戦力じゃないことには気付いてるよね」
彼方「……そうだね」
エマ「なら、わたしのことはそんなに積極的に狙ってこない……はずだよね」
彼方「それは……そうかも、しれないけど……」
確かに向こうからしたら、出来る限りこっちの戦力を削ることに注力したいはず……。
姫乃ちゃんが一番困るのは、彼方ちゃんが侑ちゃんたちのところに戻って、果林ちゃんとの戦闘に加勢をすることのはずだし……。
戦えないエマちゃんの優先度は一番低くなるはずだ……。
エマ「なら、わたしはここから先は一人で逃げるから……彼方ちゃんは戦って……!」
彼方「え、で、でも……」
エマ「悔しいけど……わたしには戦う力がないから……。でも、彼方ちゃんには戦う力がある……それなら、彼方ちゃんの力はわたしを守るよりも、戦いに使うことに集中して欲しい……」
彼方「エマちゃん……」
確かにこの峡谷の中、迷わずに走り抜けられるなら、むしろエマちゃんが一人で逃げて、わたしが足止めを兼ねて戦闘に集中した方が効率がいいかもしれない。
彼方「……わかった。でも、絶対途中で引き返したり、一人で果林ちゃんを説得に戻ったりしちゃダメだよ? 約束してくれる?」
エマ「うん、約束する」
彼方「おっけ〜! なら、彼方ちゃん、すぐに姫乃ちゃんを倒してくるから……!」
エマ「うん!」
エマちゃんは、カビゴンが抱えていたママンボウをボールに戻し、
エマ「出てきて! パルスワン!」
「──ワンッ!!!」
代わりにパルスワンを出す。
エマ「彼方ちゃん、気を付けてね……!」
彼方「うん! エマちゃんも」
エマ「Grazie♪ パルスワン! Andiamo.」
「ワンッ!!!」
エマちゃんはパルスワンに乗って走り出した。
彼方「さて、それじゃ……彼方ちゃんもやりますか〜……!」
振り返ると、
姫乃「──やっと……戦う気になりましたか」
「────」
追い付いてきた姫乃ちゃんがテッカグヤの上から、こちらを見下ろしていた。
420 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:16:17.16 ID:loIPccok0
👠 👠 👠
侑「ウォーグル!! “エアスラッシュ”!!」
「ウォーーーッ!!!」
果林「キュウコン!! “ねっぷう”!!」
「コーーンッ!!!!」
飛んでくる風の刃を、“ねっぷう”により無理やり吹き飛ばす。
侑「ぐっ……!?」
果林「そんな攻撃が私に届くと思ってるの? “かえんほうしゃ”!!」
「コーーーンッ!!!!」
侑「フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
「フィーーーオーーーッ!!!!」
空中でキュウコンとフィオネの攻撃が真正面からぶつかり合い相殺する。
果林「でも、防がれるのはめんどうね……! なら、こっちも空中戦をしてあげるわ……! ファイアロー!!」
「──キィーーー!!!!!」
果林「“ブレイブバード”!!」
「キィーーーッ!!!!」
ボールから飛び出したファイアローは猛加速して、ウォーグルに向かって襲い掛かる。
侑「は、はや……!? “ブレイククロー”!!」
「ウォーーーッ!!!!」
猛突進してくる、ファイアローを爪で何とかいなしているが、そこに向かって、
果林「“かえんほうしゃ”!!」
「コーーーンッ!!!!」
追撃の火炎攻撃。
侑「くっ……!」
「ウォーーーッ!!!!」
どうにか、空中で身を捻りながら辛うじて回避しているけど、あれじゃ私に近付けないわね。
そんな侑の姿を、
せつ菜「…………」
せつ菜が見下ろしながら、黙って眺めている。
果林「貴方が戦ってもいいのよ?」
せつ菜「いえ……私が戦わなくても、侑さんじゃ貴方にすら勝てない」
果林「あら……まるで貴方の方が私より強いとでも言いたげね」
せつ菜「……言葉の綾です」
果林「そう? まあ、別にいいけれど」
まあ確かに……私はまだフェローチェすら出していない。
それで苦戦している侑に勝ち目がないのは明白だ。
421 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:17:30.67 ID:loIPccok0
せつ菜「それに……私はしずくさんとの約束がありますから……」
果林「しずくちゃんがピンチになったら、しずくちゃんを守ってあげるって話?」
せつ菜「……そんなところです」
果林「ふふ……律義ね」
せつ菜「……今のしずくさんは……命を投げ出すことに躊躇がありません。ですが、貴方は彼女がどうなっても……助けたりしないでしょう?」
果林「だから、自分が助けると……。まるでナイト様ね」
せつ菜「……なんとでも言ってください」
最初からせつ菜を御しきれるとは思っていなかったけど、この子の場合は最悪戦闘に参加しない可能性すらあった。だから、これはむしろいい方だ。
今現在のせつ菜は、しずくちゃんの行動ありきで動いている節がある。それを知ってか知らずか……しずくちゃんはせつ菜に自分を守らせることで、せつ菜を戦場に引きずり込んでいる。
しずくちゃんがかすみちゃんを倒せなかったとしても……ピンチになったらせつ菜が戦闘に介入する。
つまり──かすみちゃんはこの戦いに絶対に勝てない。
せつ菜「貴方はせいぜい……そっちのお姫様を取り返されるようなヘマをしないことですね」
歩夢「…………」
「──ジェルルップ…」
せつ菜はそう吐き捨てると、視線を再びしずくちゃんの方に戻す。
果林「まあ……負ける気なんてしないけどね」
私はファイアローとキュウコンの攻撃を捌くので精一杯な侑を見て、肩を竦めた。
🐏 🐏 🐏
姫乃「テッカグヤ!! “ヘビーボンバー”!!」
「────」
彼方「さぁ……彼方ちゃんの本領、発揮しちゃうよ〜!!」
降ってくる巨体に対して身構える。
彼方「ムシャーナ、“サイコキネシス”!」
「ムシャァ〜〜」
ムシャーナが落ちてくる、テッカグヤをサイコパワーで押し返そうとするが、
姫乃「そんな技でテッカグヤが止められると思っているんですか……!」
もちろん、これだけじゃテッカグヤは止まらない。
彼方「バイウールー、“コットンガード”!」
「メェ〜〜〜」
もこもこもこっとバイウールーが肥大化し、落下してくるテッカグヤの落下速度をさらに緩めて、
彼方「ネッコアラ、“ばかぢから”!」
「──コァ〜〜…!!!!」
ボールから飛び出したネッコアラが“ばかぢから”を使う。ただし、テッカグヤ相手ではない──これはカビゴンを持ち上げるための技だ。
422 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:18:37.43 ID:loIPccok0
彼方「テッカグヤに向かって〜ぶん投げろ〜!!」
「コァ〜〜!!!!」
姫乃「な……!?」
ネッコアラがカビゴンをテッカグヤに向かって放り投げ、
彼方「空に向かって〜〜〜“のしかかり”〜〜〜!」
「カビ〜〜〜」
カビゴンが前に突き出したお腹がテッカグヤにぶつかると、柔らかいお腹にテッカグヤがめり込んで──それが弾力で戻るパワーによって、テッカグヤを弾き飛ばす。
「────」
姫乃「きゃぁぁぁ!!?」
吹き飛ばされたテッカグヤの巨体は、そのまま岩壁に叩きつけられ──轟音を立てながら、岩壁を破壊する。
テッカグヤのような超重量級のポケモンがぶち当たったら、岩壁が木っ端みじんになるのも無理はない。
彼方「これが彼方ちゃんの本気防御だよ〜!」
姫乃ちゃんは崩れ落ちる岩壁に巻き込まれちゃったかと思ったけど、
姫乃「……やるじゃないですか……!」
「──チリ〜ン…!!!」
今しがた繰り出したであろう、チリーンのサイコパワーで浮遊し、テッカグヤから離脱していた。
彼方「まあ、さすがにこれくらいじゃやられてくれないよね〜……」
姫乃「……その物言い、気に入らないですね……。まるで、自分の方が強いとでも言いたげで……」
彼方「そんなつもりはないんだけど〜……とはいえ、彼方ちゃん元“MOON”だからね〜。君の先輩だよ〜?」
姫乃「私は貴方を先輩だなんて思ったことはありませんよ……この裏切り者……!」
「────」
姫乃ちゃんの言葉と共に──テッカグヤがこちらに向かって、バーナーを向けてくる。
彼方「おっと、それはやばい……!」
彼方ちゃんは攻撃の予兆を確認した瞬間、後ろに向かって走り出し、岩壁の細道に逃げ込む。
姫乃「“だいもんじ”!!」
「────」
テッカグヤのバーナーから発射される大の字の業炎。
それを見ると同時に、
「カビッ!!!!」「コァッ!!!!」
カビゴンが右側の岩壁を拳で殴りつけ、ネッコアラが左側の岩壁を丸太で殴打する。
それによって、ヒビが入った岩壁が崩れ落ち──
彼方「いっちょあがりぃ〜」
目の前に積みあがった瓦礫の山が、炎を防ぐ防火壁になり、それにぶつかって業炎が四散する。
でも、姫乃ちゃんもすぐに次の手を打ってきた。
423 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:22:28.17 ID:loIPccok0
姫乃「“ふきとばし”!!」
「──テングッ!!!」
指示の声と共に、目の前の瓦礫たちが彼方ちゃんたちの方に襲い掛かるように、吹き飛ばされてくる。
彼方「わ、やばっ!? バイウールー、お願い!!」
「メェ〜〜〜」
もこもこと肥大化するウールで、目の前から迫ってくる岩を受け止める。
そして、食い止めた岩を、
彼方「カビゴン! “ギガインパクト”〜!」
「カビッ!!!!」
巨大なウールの中から飛び出したカビゴンが全体重を乗せた一撃で粉砕する。
目の前の岩を除去して、再び開けた視界の先では、
「────」
テッカグヤのバーナーの先に──輝く鋼色のエネルギーが集束を始めていた。
彼方「!? そ、それはホントにヤバイって〜!?」
姫乃「“てっていこうせん”!!」
「────」
迸り迫る、はがねタイプ最強クラスの技。
わたしは咄嗟にボールを放る──直後、“てっていこうせん”が投げたボールの場所に着弾し、爆発と共に、周囲に爆音と爆風が駆け抜ける。
彼方「ぅぅ〜〜……!!」
バイウールーのもこもこの中で身を縮こまらせながら、爆風に耐える。
そのまま耐え、爆風が止んだ頃に目を開けると──
姫乃「……っ」
姫乃ちゃんが忌々しそうな目を向けていた。
無理もないかもしれない。だって、わたしが“てっていこうせん”を防ぐために出したポケモンは──
「────」
彼方「ありがとう……コスモウム」
コスモウムだったからだ。姫乃ちゃんにとっては因縁のあるポケモンだろう。
姫乃「人のポケモンで防ぐなんて……良い度胸ですね」
彼方「この子は彼方ちゃんのポケモンだよ〜」
そう言いながら、姫乃ちゃんの隣を見やると──
「テング…」
いつの間にか、ダーテングの姿。
……さっきの“ふきとばし”はあの子の仕業か〜……。
ついでに言うなら……。
424 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:22:57.63 ID:loIPccok0
彼方「あ、暑い……」
気付けばここら一帯が強い日差しに見舞われている。
あのダーテングの“にほんばれ”だ。
そして、その日本晴れを利用するように、
姫乃「出てきなさい、ラランテス!!」
「──ランテス」
姫乃「“ソーラーブレード”!!」
「ランテス!!!!」
チャージタイムを省略して振り下ろされる、陽光の剣。
でも、
「────」
真っ向からコスモウムが受け止め、バチバチと太陽のエネルギーを爆ぜ散らせながら──“ソーラーブレード”が逆に折れる。
姫乃「…………」
彼方「さぁ〜どうする〜? 攻撃、全部防いじゃったよ〜?」
姫乃「…………そろそろ……頃合いですか」
彼方「……?」
姫乃ちゃんの意味深な台詞に、わたしは一瞬身構える。
直後、ダーテングが自分の両手の葉を高く掲げると──太陽の光が反射して、
彼方「っ!?」
周囲が眩い光に包まれる。
彼方「……ふ、“フラッシュ”……?」
多少目がちかちかするけど、すぐに目を瞑れたから、視力が持っていかれるほどではなかった。
何より、このフィールドは太陽の光で照らされているため、暗所で使う“フラッシュ”程の効果はない。
ただ、
彼方「え……?」
目を開けたときには、そこに──姫乃ちゃんの姿はなかった。
そしてその直後──彼方ちゃんの頭上に大きな物体の影が差す。
ハッとして上を見ると──テッカグヤがバーナーを逆噴射しながら、彼方ちゃんの頭上を通り過ぎていくところだった。
彼方「え……?」
逃げた……? この状況で……?
姫乃ちゃんがいなくなり、さきほどまでの激しい戦闘とは打って変わってフィールドは静まり返る。
……いや……?
彼方「……なにか……聞こえる……?」
425 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:24:02.27 ID:loIPccok0
何か、僅かに耳に届いてくる音がある。本当に僅かに、違和感を認識できる程度の小さな音。
ただ、自然の音ではなく、明らかに何かから発生している……ノイズのような……。
何……この音……?
音といえば……あのチリーン……最初に姫乃ちゃんを浮遊させたあと、何もしてこなかったような……。
状況が飲み込めないまま困惑しているとき、ふと──この戦場に訪れる際に、かすみちゃんが言っていた言葉が頭を過ぎった。
──『あ、それならリナ子のえこーろーてーしょん……? みたいなやつで探してみるのは?』──
彼方「……エコー……ロケーション……?」
姫乃ちゃんは何故かわたしを無視して通り過ぎていった。
そして、さっきの台詞。
──『…………そろそろ……頃合いですか』──
それら全てが頭の中で繋がって、血の気が引いていく。
姫乃ちゃんはわたしを狙っているように見せかけて── 一人で逃げたエマちゃんが、わたしから十分に離れるのを待っていたんだとしたら……!?
彼方「ま、まずい!! エマちゃん……!!」
わたしはテッカグヤを追いかけて、全力疾走で走り出した。
🍞 🍞 🍞
エマ「パルスワン、全速力で走って……!!」
「ワンッ!!!」
私は片手で頭を押さえながら、パルスワンに指示を出す。
さっきから、明らかに自然の音と違うものが頭に響いてきて、気持ち悪い。
恐らく……ポケモンが発している音。
しかも、その発生源が徐々に近づいてきている。
直感でわかる──この音はわたしにとって、よくない音だ。
ゲートまではまだ距離があるけど……パルスワンなら全速力で走り続けられる。
それで、どうにか逃げきらなくちゃ……!
でも、そう思った瞬間──頭上から、轟音が響き、
エマ「……!?」
「ワフッ!!!?」
咄嗟に見上げた頭上から、大量の崩れた岩が落ちてくる。
エマ「パルスワン……!」
「ワッフッ!!!」
無理やりブレーキを掛け、落石に巻き込まれるのをギリギリ回避するけど、
エマ「……み、道が……」
目の前の道が落ちてきた大岩のせいで、完全に塞がれてしまう。
426 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:25:09.51 ID:loIPccok0
エマ「……っ! パルスワン、一旦引き返そう……!」
「ワンッ」
すぐに戻って別の道を進むように指示を出すけど──振り返った瞬間、
エマ「きゃぁっ!!?」
──ゴォっと音を立てながら、炎が降ってきて、私たちの進路を炎の海にする。
そして、その上空から、
姫乃「……さぁ、もう逃げ場はありませんよ……」
姫乃ちゃんが見下ろしながら、私に言葉を投げつけてくる。
エマ「……ま、ママンボウ! “みずびたし”……!」
「──ママ〜ンボ」
ママンボウをボールから出して消火するけど──
姫乃「“かえんほうしゃ”」
「────」
エマ「きゃぁ……!?」
消火した傍から、また炎をばら撒かれる。
姫乃「……逃がしませんよ」
エマ「……っ」
どうして、姫乃ちゃんはわたしを狙うの……? まさか、彼方ちゃん……。
姫乃「彼方さんは無事ですよ」
エマ「……!」
姫乃ちゃんはまるでわたしの心を見透かしたように言う。
姫乃「……どうして自分が狙われているのか理解できないようですが……。……この場に訪れたのを見た瞬間から、わたしの狙いは貴方でしたよ」
エマ「ど、どうして……」
姫乃「どうして? それは、貴方が果林さんにしてきたことを考えれば当然でしょう?」
エマ「え……?」
姫乃「言葉巧みに果林さんを惑わして……目的遂行の邪魔をする……本当に腹立たしい……」
エマ「ち、違うよ……! わたしがここに来たのはそんな理由じゃない……!」
姫乃「なら何故、果林さんの邪魔をするんですか?」
エマ「邪魔……? むしろ、どうしてあなたは果林ちゃんを戦わせようとするの!? 果林ちゃん、あんなに苦しそうにしてるのに……! あなたたちが果林ちゃんに無理やり戦うことを強要するから、果林ちゃんはずっと一人で背負ったまま苦しんで──」
姫乃「──貴方に果林さんの何がわかるんですかッ!!!」
エマ「……!?」
心の底から怒気の籠もった言葉に、ビクリと身が竦む。
姫乃「可哀想……? 苦しんでる……? 貴方は果林さんの苦しみも、悲しみも、怒りも、憤りも、やるせなさも、何一つ理解していない……!! だから、そんな言葉が出るんです!!」
エマ「な、なに言って……」
姫乃「……果林さんの……覚悟も……知らないくせに……」
「────」
427 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:26:31.96 ID:loIPccok0
直後──テッカグヤのバーナーの先に周囲の岩石を引き寄せるような、重力の球のようなものが集束され始める。
姫乃「もう……誰も……果林さんの邪魔……しないでください……お願いだから……。……果林さんの邪魔をするなら──消えてください。テッカグヤ、“メテオビーム”」
「────」
集束された球から──極太のビームがわたしに向かって一直線に降ってくる。
エマ「……あ」
気付いたときにはもう逃げることも出来ず、頭が真っ白になる。
彼方「──コスモウムッ!!! “コスモパワー”ッ!!!」
「────」
直後、炎の向こうから飛び込んできた彼方ちゃんが、コスモウムの技で“メテオビーム”を受け止め、それによって拡散したエネルギーが空中で大爆発する。
エマ「きゃぁ……!!」
彼方「ムシャーナぁ!! “ひかりのかべ”ぇ!!」
「ムシャァーー!!!」
そして、爆発の衝撃をムシャーナが壁を作り出して、防いでくれる。
エマ「か、彼方ちゃん……」
彼方「はぁ……はぁ……ま、間に合った……」
エマ「か、彼方ちゃん、火傷してる……!!」
気付けば、彼方ちゃんは服のあちこちが焼け焦げ、脚は痛々しく赤く腫れている。
わたしを助けるために、炎の海を突っ切ってきたからだ……。
エマ「ママンボウ……!」
「マ〜ンボゥ」
ママンボウが彼方ちゃんの患部に身を寄せる。ママンボウの体を覆う粘液には、傷を治す効果がある。
エマ「ごめんね、彼方ちゃん……わたしのせいで……」
彼方「これくらい掠り傷だよ〜……エマちゃんこそ、無事……?」
エマ「う、うん……」
彼方ちゃんは私の安否を確認すると、
彼方「……姫乃ちゃん。今の組織は非戦闘員にまで執拗な攻撃をするようになってるの?」
そう言いながら、姫乃ちゃんを睨みつける。普段温厚な彼方ちゃんにしては珍しく……わたしでもわかるくらいに怒気の込められた声だった。
428 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:29:16.97 ID:loIPccok0
姫乃「…………そもそも、貴方も貴方です、彼方さん」
彼方「質問に答えてくれないかな」
姫乃「果林さんの痛みを理解していながら……何故、平気で裏切れるのか……私には理解できない……。貴方も“闇の落日”を見たでしょう? “虹の家”で育った子たちを知っているのでしょう……?」
彼方「…………」
エマ「“闇の落日”……? “虹の家”……?」
姫乃「知らないようなので教えてあげますよ……。私たちの世界は常に少しずつエネルギーを失い崩壊していっていますが……世界のエネルギーの喪失がある基準を超えた瞬間、一気に崩壊が進むんです……。それによって、7年前、大規模な大災害が起こった……それが“闇の落日”です。この落日によって多くの人が住む家を、家族を……そして故郷を……失った」
彼方「……。……そのときにたくさんの子供が孤児になって……それを受け入れていたのが、わたしのお母さんが作った……“虹の家”って場所だったんだ。……お母さんは、もう病気で亡くなっちゃったけど……」
姫乃「そして……果林さんはその“虹の家”に住んでいました」
エマ「え……」
じゃあ、果林ちゃんは……。
姫乃「目の前で……たくさん友人が瘴気の中で血を吐き、崩落する山に大切なポケモンたちが巻き込まれ、割れる大地に最愛の家族が飲み込まれ……故郷の島が毒の海に沈んだ……。たった一晩で……遺品や遺体どころか、自分の住んでいた場所さえ、影も形もなくなった……。果林さんは……そんな島の、唯一の生き残りなんです……」
エマ「そん……な……」
姫乃「それでも、果林さんは気丈だった。自分と同じ想いをする人がこれ以上生まれないようにと、自分の世界を守る道を選んだ。……それの何が間違ってるんですか? おかしいんですか? 果林さんの気持ちがわかる……? 苦しみがわかる……? 私には、そんな言葉を軽々しく口にする貴方の方がよほど理解出来ない……!! あの人の苦しみはわかってあげたくても……どんなに想像しても……計り知れないじゃないですか……」
エマ「…………」
わたしは、果林ちゃんの境遇を知って……言葉を失ってしまった。
姫乃「……他者を傷つけることを望んでない? そんなの当たり前じゃないですか……! ただ、自分たちか自分たち以外かを選ばなくちゃいけないから選んだだけです……! それを覚悟するのに、果林さんが何も思わなかったと本当に思うんですか!?」
エマ「それ、は……」
姫乃「貴方の言葉は、そんな果林さんの覚悟を踏みにじる言葉です……!! 果林さんが助けられなかった人たちを侮辱する言葉……!! だから私は、果林さんを惑わす貴方を……許さない……!!」
「────」
怒りの言葉と共に──テッカグヤが岩壁を破壊しながら、“ヘビーボンバー”で落下してくる。
彼方「ムシャーナ!! “サイコキネシス”!! バイウールー!! “コットンガード”!!」
「ムシャァァ〜〜!!!」「メェ〜〜〜」
姫乃「また同じ手ですか……。なら、これならどうですか……──行きなさい、ツンデツンデ!!」
「──ツンデ」
そう言いながら、姫乃ちゃんが投げたボールから──もう1匹巨大なポケモンが飛び出してくる。
彼方「……!? 2匹目のウルトラビースト!?」
姫乃「ツンデツンデ!! “ヘビーボンバー”!!」
「ツンデ」
彼方「……っ……!!」
彼方ちゃんが、わたしを全力で突き飛ばす。
エマ「……!? 彼方ちゃん!?」
彼方「エマちゃん……逃げて……!!」
直後──
「ムシャァ〜〜…!!!」「メェェェェ〜〜〜!!!!」
ムシャーナとバイウールーが上から落ちてくる2つの巨体に巻き込まれ──轟音を立てながら、大地が割り砕け、それによって発生した衝撃波で、身体が宙を浮く。
429 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:30:05.38 ID:loIPccok0
エマ「きゃぁぁぁぁ……!? え、エルフーン!!」
「──エルッフ!!!」
エマ「“わたほうし”!!」
「エルフーー」
吹き飛ばさながらも咄嗟に出したエルフーンが、周囲に綿毛をまき散らし──その綿毛に包まれたまま、地面に墜落する。
ただ……衝撃を殺しても、あまりに勢いが強かったからか、
エマ「あ……ぐ……ぅ……」
身体を強く打ち付け、痛みに悶える。
「エ、エルフ…」
エマ「だ、大丈夫……だよ……」
心配そうに鳴くエルフーンを撫で、痛みに耐えながら身を起こすと──目の前は先ほどまで峡谷だったとは思えないような光景になっていた。
岩壁が消滅し、大地は爆弾でも落下したかのように、大地が割れ砕けていた。
結構な距離を吹き飛ばされたのか──離れたところにテッカグヤとツンデツンデの姿が見え……砕けた岩の隙間に──彼方ちゃんが倒れているのが見えた。
エマ「か、彼方ちゃん…………!!」
助けに行こうと立ち上がろうとして、
エマ「いた……っ……!!」
強烈な痛みを足に覚え、わたしはその場に転んでしまう。
痛みの場所に目を向けると──足首が赤く腫れていた。ずきずきと痛む足……よくて捻挫……最悪、骨が折れているかもしれない。
エマ「彼方ちゃん……っ……」
今すぐにでも助けに行きたいのに、わたしの身体は言うことを聞いてくれなかった……。
🐏 🐏 🐏
──薄っすらと目を開けると……空が見えた。
彼方「……さ、すがの彼方ちゃん……も……死んだと、思った……ぜ〜……」
2匹の落下の衝撃で吹っ飛ばされ、砕けた岩石が降り注ぐ中──彼方ちゃんはどうやら奇跡的にその間にすっぽり嵌まる形で助かったらしい。
それに加えて……。
「マ、マァ〜ン…」
ママンボウの粘液が、私を守ってくれたらしい。
彼方「ありがとう……ママンボウ……水がなくて、苦しいかもしれないけど……ちょっと、休ん、でて……」
「マ、マァン…」
よろよろと身を起こす。全身が壊れそうに痛むけど、
姫乃「……本当に悪運の強い人ですね」
430 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:30:55.63 ID:loIPccok0
まだ戦闘は終わっていないから、休んでいるわけにはいかない。
彼方「……ウルトラ、スペースシップ……壊されても……生きてたから、ね……運には……自信、あるんだよね……」
言葉を返しながら周囲を素早く確認する。
フィールドに降り立ったテッカグヤとツンデツンデ、そして2匹の落下によって割り砕かれた大地には、
「ムシャ…ァ…」「メェェ……」「……ワ、ン」
彼方ちゃんのムシャーナやバイウールだけでなく、エマちゃんのパルスワンも大ダメージを受けて戦闘不能になっていた。
彼方「まさ、か……姫乃ちゃん、が……ウルトラビースト……2匹も、持ってるとは、思わなかった、よ……」
姫乃「……悔しいですが、私は“MOON”でありながら、果林さんの実力には遠く及ばない。……だから、果林さんは優先して私にウルトラビーストを持たせてくれたんです」
「────」「ツンデ」
彼方「なるほど……ね……」
さすがにこれは想定外だった。テッカグヤだけなら、どうにかなったかもしれないけど……もう1匹、大型ウルトラビーストのツンデツンデがいるとなると話が変わってくる。
でも、姫乃ちゃんは待ってくれるはずもなく、
姫乃「ツンデツンデ、“ジャイロボール”」
「ツンデ」
ツンデツンデが体を構成する石垣を組み替え──球状になって、高速で回転しながらこちらに迫ってくる。
あの巨体……潰されたらもちろんお陀仏。
「ツンデ」
割れ砕けた岩石が散乱するフィールドをまるで意にも介せず、すべてを踏みつぶしながら迫るツンデツンデ。
直撃まであと数メートルというところで──わたしの足元からポケモンが飛び出す。
「────」
彼方「“コスモパワー”……!!」
──ガィィィンッ!!! と音を立てながら、飛び出してきたコスモウムがツンデツンデを弾き返す。
弾き返されたツンデツンデは、ゴロゴロと後ろに転がったあと、再び元の角ばった形に自分を組み替えなおして、こちらを見つめてくる。
431 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:32:38.61 ID:loIPccok0
「ツンデ」
彼方「……どんな、もんだ〜……彼方ちゃんの、防御力は……無敵だぞ〜……」
姫乃「……彼方さん、貴方はどこまでも受動的ですね」
彼方「……?」
姫乃「貴方が動くときは……いつも自分からではなく、周りの人間が動いてからなんですよ」
彼方「……何が、言いたいの……」
姫乃「貴方が“MOON”まで上り詰めておきながら……組織を裏切った理由。……それは遥さんではないですか?」
彼方「……!? は、遥ちゃんは関係ない……!!」
姫乃「やはり、図星ですか。……遥さんは争いを好まない人でしたからね。差し詰め、計画を知った遥さんから、何か言われたのが原因で逃げ出したんじゃないですか?」
彼方「ち、ちが……っ」
姫乃「いつも飄々としているのに、随分狼狽えているじゃないですか。それでは、遥さんに何を言われたのか、当ててあげましょうか? 『誰かを傷つけてまで、自分たちが助かるなんて間違ってる』。違いますか?」
彼方「……っ」
姫乃「ほら、やっぱり。結局貴方は人の言葉で動いているだけ。自分の意志もなく、ただ周りの誰かの意見に乗っかっているだけの受け身人間。そういう考えが、戦い方にも現れてるんじゃないですか? だから、貴方は防御ばかりする」
彼方「…………」
姫乃「そんな自分の意志がない人だから──ちょっと揺さぶられただけで、足元がお留守になるんです」
彼方「……っ!!?」
急に地面が揺れ、ただでさえ不安定な岩の山がガラガラと音を立てて崩れ始める。
彼方「“じしん”……!? しまっ……!!」
ツンデツンデの“じしん”によるものだと気付いたときには、もう時すでに遅し。わたしは崩れ落ちる岩に巻き込まれて、滑り落ちる。
滑落しながら、わたしの全身に大小様々な岩が衝突し、
彼方「い゛、っ゛……ぁ゛……」
“いわなだれ”が収まった頃には、全身がズタボロになっていた。
身を起こそうとするけど、
彼方「ぁ゛……ぐ……ぅ……」
全身に激痛が走り、思わず呻き声をあげる。
全身打ち身だらけだし……右腕とあばら骨辺りは痛み方からして、たぶん折れてる……──あ、ヤバイ……。痛みで意識が朦朧としてくる。
ぼんやりする思考の中で──あのときの遥ちゃんと話したことが脳裏を過ぎる。
──────
────
──
遥「お姉ちゃん……!!」
青い顔をして、遥ちゃんが私の部屋に飛び込んできた。
彼方「遥ちゃん? どうしたの?」
遥「お、お姉ちゃん……これ、本当……?」
震える声で遥ちゃんが差し出してきたのは──ある書類だった。
それは、わたしが“MOON”に昇格する旨の書かれた辞令。
432 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:34:26.74 ID:loIPccok0
彼方「実行部隊のお姉ちゃんのお部屋に入ったの?」
遥「それに……この計画書……」
彼方「……ダメだよ、勝手に入っちゃ……」
遥「誤魔化さないで……! これに書いてあること……ホントなの……?」
彼方「それは……」
そこに書いてあった計画書には……ざっくりと他世界を衰退させることによって、わたしたちの世界を再生する計画が記されていた。
まだ、幹部クラスの人間にしか知らされていない、今後の組織の方針内容だ。
遥「私たち……こんなこと、しようとしてたの……?」
彼方「遥ちゃん……」
遥「自分たちが助かるために……他の世界の人たちを犠牲にしようとしてるの……?」
彼方「…………」
遥「お姉ちゃんは……こんなことに賛成してるの……?」
彼方「ち、違うよ……! ……彼方ちゃんも、反対はしてるけど……なかなか上層部は聞き入れてくれなくって……」
それに彼方ちゃんはつい最近、愛ちゃんが“SUN”を外れた結果、繰り上がりで“MOON”に昇格しただけで発言権がそこまで大きくないし……。
なにより……反対派だった、璃奈ちゃんと愛ちゃんが二人ともいなくなったせいで、今は特に賛成派の意見が強くなっている。
彼方「あんまり、大きな声で反対したら……きっといい顔されない。お姉ちゃんはそれでも大丈夫だけど……きっと、妹の遥ちゃんまで、そういう目で見られることになる……」
遥「そんな理由で守られても嬉しくないよ……!」
彼方「……遥ちゃん……」
遥「このままじゃ……異世界間で侵略戦争になっちゃう……。私たちがこんなことに加担してるなんて知ったら……死んじゃったお母さんが……悲しむよ……」
彼方「…………」
──この崩落する世界の瘴気にやられて身体を壊し……1年ほど前に他界したお母さんは、孤児院を作って多くの子供たちを受け入れていた人だ。
残り少ない資源しか残っていないこの小さな世界だから……譲り合って、助け合って、お互いを守り合おうと、そんな理念で、孤児院を運営し……わたしたちを育ててくれた。
彼方「…………」
確かにお母さんは悲しむかもしれない。
だけど……それだけじゃ、遥ちゃんを守れない……。
でも、悩むわたしに向かって、遥ちゃんは……。
遥「お姉ちゃん……。……どんな理由があっても……誰かを助けるために、誰かが傷つくことを肯定するなんて……間違ってる……」
彼方「遥ちゃん……」
遥「もし、それを肯定しないとここに居られないなら……こんなところに無理に居続けなくていい……」
彼方「…………」
遥「お姉ちゃんは幹部だから……そんな簡単に組織を抜けられないのもわかってる。……だから……私と一緒に逃げよう」
彼方「……遥ちゃん……? 逃げるって……」
遥「ウルトラスペースシップを使って……他の世界に逃げて、真実を伝えて匿ってもらおう……!」
彼方「そ、そんな、無茶だよ……! 第一、お姉ちゃんウルトラスペースシップの操縦なんて出来ないし……」
遥「ほとんど自動操縦だから、簡単な起動が出来れば大丈夫……! それに私は研究班で、起動方法くらいは習ってる……!」
彼方「遥ちゃん……本気……?」
遥「……本気だよ」
彼方「…………」
433 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:35:33.02 ID:loIPccok0
遥ちゃんの言っていることを実行するのは即ち……政府への反逆を意味している。
もし途中で捕まるようなことがあれば……無事じゃ済まない。
遥「……自分たちのために……誰かを犠牲にする世界なんて……私、嫌だよ……」
彼方「……遥ちゃん……」
遥「それに……お姉ちゃんが誰かを傷つけることなんて……耐えられないよ……」
彼方「…………遥ちゃん」
わたしは、遥ちゃんをぎゅーっと抱きしめる。
遥「お姉ちゃん……?」
彼方「…………遥ちゃんは強い子だね……」
遥「お姉ちゃん……」
彼方「……もう、戻ってこられないよ」
遥「……わかってる」
彼方「……捕まったら……殺されちゃうかもしれない」
遥「……わ、わかってる……」
彼方「それでも……お姉ちゃんと一緒に、ここから逃げてくれる……?」
遥「……うん」
彼方「……わかった。それじゃあ、一緒に逃げよう」
遥「……! お姉ちゃん……」
彼方「ただ、お姉ちゃんの手……絶対に放しちゃダメだからね……!」
遥「……うん!」
──その後、わたしは数日後に渡される予定だったコスモッグを奪取し……ウルトラスペースに逃げ込んだのち、果林ちゃんのフェローチェにウルトラスペースシップを破壊され……“Fall”となった……。
──
────
──────
──ああ……これが走馬灯ってやつかな……。
姫乃ちゃんの言うとおり……わたし……人に流されてばっかりなのかな……。
姫乃「……もう、限界のようですね」
姫乃ちゃんの声が聞こえる。
姫乃「……最後は苦しまずに死ねるように、首を落としてあげますよ。……せめてもの情けです」
「────」
テッカグヤが腕を振り上げる音が聞こえる。
姫乃「テッカグヤ、“エアスラッシュ”」
「────」
そして──空気の刃が彼方ちゃんに向かって飛んでくる。
彼方「──ごめ、んね……はる、か……ちゃん……」
434 :
>>433 訂正
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:38:42.47 ID:loIPccok0
遥ちゃんの言っていることを実行するのは即ち……政府への反逆を意味している。
もし途中で捕まるようなことがあれば……無事じゃ済まない。
遥「……自分たちのために……誰かを犠牲にする世界なんて……私、嫌だよ……」
彼方「……遥ちゃん……」
遥「それに……お姉ちゃんが誰かを傷つけることなんて……耐えられないよ……」
彼方「…………遥ちゃん」
わたしは、遥ちゃんをぎゅーっと抱きしめる。
遥「お姉ちゃん……?」
彼方「…………遥ちゃんは強い子だね……」
遥「お姉ちゃん……」
彼方「……もう、戻ってこられないよ」
遥「……わかってる」
彼方「……捕まったら……殺されちゃうかもしれない」
遥「……わ、わかってる……」
彼方「それでも……お姉ちゃんと一緒に、ここから逃げてくれる……?」
遥「……うん」
彼方「……わかった。それじゃあ、一緒に逃げよう」
遥「……! お姉ちゃん……」
彼方「ただ、お姉ちゃんの手……絶対に放しちゃダメだからね……!」
遥「……うん!」
──その後、わたしは数日後に渡される予定だったコスモッグを奪取し……ウルトラスペースに逃げ込んだのち、果林ちゃんのフェローチェにウルトラスペースシップを破壊され……“Fall”となった……。
──
────
──────
──ああ……これが走馬灯ってやつかな……。
姫乃ちゃんの言うとおり……わたし……人に流されてばっかりなのかな……。
姫乃「……もう、限界のようですね」
姫乃ちゃんの声が聞こえる。
姫乃「……最期は苦しまずに死ねるように、首を落としてあげますよ。……せめてもの情けです」
「────」
テッカグヤが腕を振り上げる音が聞こえる。
姫乃「テッカグヤ、“エアスラッシュ”」
「────」
そして──空気の刃が彼方ちゃんに向かって飛んでくる。
彼方「──ごめ、んね……はる、か……ちゃん……」
435 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:39:31.35 ID:loIPccok0
──お姉ちゃん……もう、死んじゃう……みたい……。
もう身体に力も入らない……。ごめんね……。
心の中で謝った、瞬間。
「──お姉ちゃんっ!!!!」
彼方「え……?」
姫乃「……な……!?」
走り込んできた影が──わたしを庇うように、飛び付いてきた。
影はわたしを抱きしめたまま、二人で転がるようにして、“エアスラッシュ”をギリギリで回避する。
誰かが、助けてくれた……? いや、誰かなんて、言うまでもない。
わたしがこの声を聞き間違えるはずがない。
全身に走る激痛を堪えながら、顔を上げる。
すると、そこには、
遥「おねえ、ちゃん……間に合って、よかった……」
他の誰でもない──わたしの世界で一番大切な妹が、
彼方「遥ちゃん……!!」
遥ちゃんがいた。
そして同時に──手にぬるりとした感触がする。
それは──血だった。
彼方「遥ちゃん……!? “エアスラッシュ”が……!?」
遥「えへへ……掠っちゃった……みたい……」
彼方「い、今すぐ治療を……!!」
遥「お姉ちゃん……」
彼方「遥ちゃん……!? なに……!?」
遥「……誰かを守ることを……迷わないで……」
彼方「え……」
遥「……お姉ちゃんの力は……誰かを守る力だから……。……お姉ちゃんにしか出来ない……優しい、強さだから……」
彼方「遥……ちゃん……」
遥「だから……負け、ないで……」
遥ちゃんがカクリと崩れ落ちる。
彼方「遥ちゃん……!?」
遥「…………」
すぐさま、首筋に指を当てると──辛うじて脈はまだある。
彼方ちゃんが全身の激痛に耐えながら立ち上がると──
「…ママァン…」
気付けば、満身創痍なはずのママンボウが岩石の上を跳ねながら、わたしたちのすぐ傍まで来ていた。
きっと、崩れ落ちる“いわなだれ”に一緒に巻き込まれて、落ちてきたんだ……。
436 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:40:13.87 ID:loIPccok0
彼方「ママンボウ……苦しいかもしれないけど……遥ちゃんの治療、出来る……?」
「ママァ〜ン…」
彼方「ありがとう……お願いね……」
ママンボウの粘液の治癒効果は、医者いらず薬いらずと言われるほどだ。
満身創痍だとしても、安静に出来る場所さえあれば、遥ちゃんの治療も出来るはず。
遥ちゃんをママンボウに任せて──わたしは全身に力を込めて、真っすぐ立つ。
姫乃「……大した姉妹愛ですね」
目の前には姫乃ちゃんの姿。
姫乃「大人しく……当たっておけば苦しまずに済んだでしょうに……」
「────」
テッカグヤがこちらに、バーナーを向けてくる。
姫乃「……お望みなら、姉妹まとめて……消し去ってあげます。……“かえんほうしゃ”!!」
「────」
バーナーから噴出される“かえんほうしゃ”がわたしたちに迫るけど──炎はわたしに当たる直前で、まるでわたしたちを避けるように左右に枝分かれする。
姫乃「……なっ!?」
その炎の枝の根本には──
「──パルル」
姫乃「パー……ルル……?」
パールルが炎を防ぎきっていた。
🐏 🐏 🐏
……わたしたちが“Fall”になって、4年くらい経ってるから……お母さんが死んじゃったのはもう5年くらい前になるのかな。
──────
────
──
彼方「──お母さん、見て見て〜お弁当作ってきたよ〜♪」
彼方母「……ふふ、いつもありがとう、今日は看護師さんに叱られなかった?」
彼方「あーあの看護師さん怖いよね〜。『病院の方で栄養管理をしているので!』って〜。でも、今日はすんなりいいよって通してくれて拍子抜けだったよ〜」
彼方母「ふふ、そっか♪ はるちゃんは?」
彼方「遥ちゃんは今日は研究班の研修〜。遥ちゃんすごいんだよ〜? 同期の中では成績トップなんだって〜」
彼方母「ホントに? はるちゃんも頑張ってるんだ〜……お母さん嬉しい」
彼方「うん、遥ちゃんすっごく頑張ってるんだ〜わたしも鼻高々だよ〜」
遥ちゃんのことを褒められると自分のことのように嬉しい。もちろん、お母さんが褒めたとしてもだ。
437 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:41:00.41 ID:loIPccok0
彼方「はーい、それじゃあーん♪」
「メェ〜」
彼方「あ、こらこら、ウールーには後でちゃんとあげるから。これはお母さんの分」
「メェ〜」
彼方母「ふふ♪ 別にウールーにあげてもいいわよ?」
彼方「いいの〜これはお母さんの分だから。はい、あ〜ん♪」
彼方母「あーん」
彼方「おいしい〜? その出汁巻き卵、自信あるんだけど〜」
彼方母「うん♪ すっごくおいしい♪ かなちゃんまた腕を上げたね〜」
彼方「えへへ〜そうでしょ〜。お母さん絶対この味好きだろうな〜って作ったから〜」
彼方母「うん。かなちゃんの優しさがたくさん詰まってて……おいしい。かなちゃんは誰かの心に寄り添える子だから、きっと料理が向いてるんだね」
彼方「て、照れちゃうな〜……でも、本当にそうなら嬉しい……えへへ♪」
彼方母「でも、すっかりお母さんよりも料理上手になっちゃって……そこはお母さんちょっと寂しい……」
彼方「ええ〜? お母さんに比べたら、まだまだだよ〜……お母さんの料理からまだたくさん盗みたいから、早く退院して戻ってきて欲しいな〜。そうだ! 退院したらピクニックに行こうよ〜♪ 遥ちゃんと3人で〜♪」
「メェ〜」
彼方「あ、ごめんごめん……もちろんウールーも一緒だよ〜」
「メェ〜」
そう言いながら、お箸で次のおかずを取ろうとすると、
彼方母「かなちゃん」
お母さんがわたしの名前を呼ぶ。
彼方「んー?」
彼方母「……お母さんね──もう……長くないんだって」
わたしの手が止まる。
438 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:41:41.17 ID:loIPccok0
彼方「…………そうなんだ」
彼方母「うん。……もう、全身が瘴気に侵されちゃってて……ダメみたい。落日のときに……たくさん瘴気を吸いすぎちゃったみたいで……それで、身体のあちこちがもうボロボロなんだって」
彼方「…………あと、どれくらい?」
彼方母「1ヶ月持てば……良い方みたい」
彼方「……そっか」
彼方母「あんまり驚かないんだね」
彼方「……お母さんが突然倒れたときから……なんとなく覚悟してたから」
彼方母「そっか……。せっかく、お父さんが身体張って助けてくれたのにね……」
彼方「……そうだね……はい、あーん」
「メェ〜」
彼方「だから、ウールーの分は後でだってば〜……はい、お母さん、あーん」
彼方母「あーん」
彼方「おいしい?」
彼方母「うん、おいしい♪ 出汁がよく効いてて……」
彼方「……実はね〜」
彼方母「んー?」
彼方「今日の卵焼き、本当は甘いやつなんだ〜……」
彼方母「…………そっか」
彼方「……やっぱり……もう、味……わかんないんだね」
彼方母「あはは……やっぱ、バレちゃってたか」
彼方「うん。実は……結構前から、なんとなく……」
彼方母「そっか……」
ずっと私のご飯をおいしいおいしいと言って食べてくれていたから……信じたくはなかったけど……。
もう……味覚も感じられないくらいに……身体が壊れかけている……。きっと味覚だけじゃない……あちこちが、もう……。
そのとき──お母さんがわたしの頭を抱いて、自らの胸に抱き寄せる。
彼方母「……あなたたちを残して先に逝っちゃうけど……ごめんね」
彼方「うぅん、いいよ……悲しいけど……お母さんがお母さんでいてくれて……わたしはすっごく幸せだったから」
彼方母「ありがとう……。……かなちゃんは強いね……」
彼方「……お姉ちゃんだからね〜」
彼方母「……そっか。はるちゃんのこと……よろしくね……」
彼方「任せて〜。遥ちゃんのことは、わたしが何が何でも守ってみせるから〜」
彼方母「ふふ、頼もしい♪」
彼方「うん。……だって、お母さんの子だもん。頼もしくて当然だよ」
彼方母「そっか。……かなちゃんの優しさで……たくさんの人を、たくさんのポケモンを……守ってくれたら……お母さん嬉しいな」
彼方「うん」
ただ、お母さんが優しくわたしの頭を撫でてくれる。そんな静かな病室の中で、
「メェ〜〜」
事情がわかっているのかわかっていないのか……ウールーの気の抜ける鳴き声が昼下がりの穏やかな病室の中で、木霊するのだった。
──そして、この日からちょうど1ヶ月後に……お母さんは静かに息を引き取った。
439 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:42:15.14 ID:loIPccok0
──
────
──────
姫乃「パールル1匹で……テッカグヤの攻撃を防ぎ切った……!?」
彼方「ごめんね……遥ちゃん……。……お姉ちゃん……迷ってばっかりだ……」
遥「…………」
大好きな大好きな遥ちゃんをぎゅっと抱きしめて、そう伝える。
彼方「でも……もう、迷わないよ……」
伝えて──立ち上がった。
彼方「パールル、ここで遥ちゃんのこと、守ってね」
「パルル」
わたしはボールからポケモンたちを出す。
「──カビッ」「──コァ〜」
ボールから飛び出したカビゴンとネッコアラ、そして──
「────」
コスモウムと一緒に姫乃ちゃんに向かって歩き出す。
姫乃「……さ、さっきのはきっとまぐれです……! “エアスラッシュ”!!」
「────」
彼方「ネッコアラ、“ウッドハンマー”」
「コア!!」
わたしが左手で方向を指差しながら指示をしたネッコアラの“ウッドハンマー”は、テッカグヤの“エアスラッシュ”を弾いて逸らし──弾かれた空気の刃が岩石を豆腐のように切り裂きながら明後日の方向へと飛んでいく。
姫乃「う、嘘……? ら、“ラスターカノン”!!」
「────」
彼方「コスモウム、“コスモパワー”」
「────」
集束された光のレーザーは、わたしが指差した先に移動したコスモウムが、芯で捉えるように受け止めると、その場で霧散する。
姫乃「ツンデツンデ……!! “ロックブラスト”!!」
「ツンデ」
彼方「カビゴン、ネッコアラ」
「カビッ」「コァ」
飛んでくる岩石の砲弾を一つ一つ指差し、
「カビッ」「コァ!!!」
それをカビゴンの拳とネッコアラの丸太が、正確に撃ち落としていく。
姫乃「……な、なにが起こっているんですか……!?」
姫乃ちゃんが動揺して、半歩身を引く。
440 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:42:48.47 ID:loIPccok0
彼方「……前に、千歌ちゃんが言ってたんだ。攻撃には……芯があるんだって」
姫乃「な、なに言って……」
彼方「千歌ちゃんは攻撃の芯を相手に的確に当てることによって、必殺の一撃を繰り出すんだってさ」
姫乃「だ、だから……!! 何を言っているんですか、貴方は……!?」
彼方「……でも、わたし思ったんだよね。芯があるのは攻撃だけじゃないんじゃないかな〜って。……防御にも芯はあるんじゃないかって」
ポケモンにとって最も効率的に攻撃を通せる芯があるように──防御にも、最も効率よく防御を通せる芯があるんじゃないかって。
彼方「なんか今……それが見える気がするんだ」
姫乃「そ、それ以上近寄らないでください……!! ツンデツンデ!! “ジャイロボール”!!」
「ツンデ」
ツンデツンデが丸い形に石垣を構築しなおし、高速で回転しながら、飛び出してくる。
猛スピードで転がってくるツンデツンデに対し、すっと指を真っすぐ前に出し、そこに向かって、
「コァッ!!!」
ネッコアラが──ど真ん中を叩くように、“ウッドハンマー”を振るうと、
「──ツンデ…!!」
体格差が嘘のように、ツンデツンデが野球ボールのように後ろに弾き返される。
姫乃「嘘……嘘嘘嘘です、こんなの……」
彼方「……相手をよく見て、相手のことを考えて、的確に防御を置き続ける……」
姫乃「て、テッカグヤ!! “ロケットずつき”!!」
「────」
テッカグヤがバーナーを逆噴射し──頭をこちらに向けて真っすぐこっちに突っ込んでくる。
彼方「……きっと、わたしにしか出来ない……みんなのことをたくさん見てるから、みんなの言葉にたくさん耳を傾けてるからこそ、出来る強さなんだ」
スッと指を前に差す。
──ガァァァァァンッ!!!! という音と共に──コスモウムが、テッカグヤの突進を真正面から押し止めた。
テッカグヤは今もバーナーから噴射の推進力で前に進んでいるはずなのに、コスモウムは微動だにしない。
姫乃「……反則……です……」
それを見て、姫乃ちゃんがへたり込む。
彼方「だから、わたしの防御は、人に寄り添う優しさを強さに変えた絶対防御。あーでも……それで言うなら、彼方ちゃん……まだまだかもなぁ〜……」
姫乃「え……?」
彼方「だって……姫乃ちゃんが果林ちゃんの邪魔をする人が許せないように……彼方ちゃんも──遥ちゃんを傷つける人は絶対に許さないから。そこはまだ、優しく出来ないや」
コスモウムによって噴射をしながら空中で止まってしまったテッカグヤの頭を──カビゴンがガシリと掴んで、振り上げる。
姫乃「あ……あ……っ……」
そしてそれを思いっきり──
彼方「反省してね……“ばかぢから”!!!」
「カビッ!!!!」
441 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/30(金) 14:45:29.29 ID:loIPccok0
振り下ろした。
姫乃「……ッ!!!?」
振り下ろされたテッカグヤの巨体は、
「ツンデ…!!!」
ツンデツンデの真上に振り下ろされ──超重量級のポケモン2匹分の加重によって、ツンデツンデを地面にめり込ませ──さらに発生した衝撃波で地面がひしゃげ、周囲の岩石を吹き飛ばした。
姫乃「きゃぁ……!?」
至近距離で衝撃波を受けて、姫乃ちゃんが吹き飛ぶけど、姫乃ちゃんは地面を転がりながらも受け身をとってすぐに起き上がる。
さすが、“MOON”……よく訓練してるな〜……。彼方ちゃんには真似できないや。
姫乃「じ、冗談じゃないです……!!」
姫乃ちゃんはわたしから視線を外さずに後退していく。
彼方「ありゃ? 逃げちゃう感じ?」
姫乃「こ、こんなこと認めません……!! う、ウルトラビーストが1度に2匹も倒されるなんて……!!」
うーん……彼方ちゃん今は痛くてあんまり速く走れないから、逃げないで欲しいんだけどなぁ……。
そんなことをぼんやり考えていると、後退する姫乃ちゃんの後ろから近付いてくる影に気付く。
彼方「あ、姫乃ちゃん……そっちに行くと……」
姫乃「こ、来ないでください……!!」
「──え、えーっと……ご、ごめんね?」
姫乃「え……!?」
背後から声を掛けられ、姫乃ちゃんが驚いて振り向くと同時に、
エマ「“ウッドホーン”」
「ゴートッ!!」
姫乃「ぴぎゅ……!?」
姫乃ちゃんの脳天にエマちゃんが乗っていたゴーゴートのツノが叩きつけられ──姫乃ちゃんは気を失って、ひっくり返ってしまった。
エマ「え、えーっと……よかったんだよね……?」
彼方「……うん、ナイスだよエマちゃん」
姫乃「……きゅぅ……」
満身創痍だけど……どうにか姫乃ちゃんとの戦闘に勝利できた彼方ちゃんは、安堵の息を漏らすのでした。
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