【艦これ】神風「最初の一人」

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21 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:51:27.46 ID:rqljmlHD0
提督「そんなに大変なのかい!?"最初の一人"というのは」

男「聞いたことはないので?」

提督「そういう事がある、というのは…もちろん色々な根も葉もない噂も。でもこうして実際に目の当たりにするとは思いもよりませんでしたよ」

叢雲「…」

叢雲はコーヒーを飲みながらじっとこちらを見つめている。こちらも必要以上にこの件を知ってはいないようだ。

そして何故か提督の横に座ったりせず彼の座るソファーの背もたれの部分に後から前のめりで寄り掛かる形で落ち着いている。

男「知らないのは当然ですよ。むしろ知っていたらまずいくらいだ」

提督「迂闊に喋ると消されたり?」

男「正直笑い事じゃないですよ。トップシークレットと言っても過言じゃない」

提督「マジですか」

冗談半分だった表情が凍る。

男「マジです」
22 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:52:10.43 ID:rqljmlHD0
男「艦娘は、こういう言い方はあまり好きではないが基本的にはコピー、クローンというべき存在です。少なくとも鎮守府の数だけ同じ艦娘がいるようなものだ」

叢雲「そうね。私も何度か、何人かの私と顔を合わせたことがあるわ」

男「でもコピーやクローンだとして、ならば当然元となるオリジナルがいるはずだ」

提督「かつての駆逐艦叢雲こそがそれに当たるんじゃないんですか?」

男「そういう見方もあります。それが正しいのかどうか結局のところ誰も分かっていないのが実情ですが」

叢雲「アナタはそう見てはないみたいね」

男「建造できる艦娘の種類は年々増えている。しかしそれはなぜだと思います?」

提督「そりゃあレシピというか、新しい建造方法が見つかっているからじゃないですか」

男「それは建造しやすい方法というだけです。建造可能な艦娘が増えているのは新たにオリジナルが発見されているからです」

叢雲「オリジナルねえ」
23 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:52:46.33 ID:rqljmlHD0
男「本当に突然、なんの前触れもなくそれまで建造では確認されていなかった艦娘が生まれる事があるんですよ」

叢雲「今回みたいに?」

男「まさしく」

提督「肝心な部分は妖精さんまかせだからなあ。何をどうやっているのやら」

男「それがわかれば苦労しないんですが…ともかくそうやってある日急にオリジナル、最初の一人が生まれる。そうするとこれまた不思議な事にその艦娘が各鎮守府で建造可能になるんです」

叢雲「なにそれ」

提督「ゲームとかのアンロック機能みたいな感じだね」

叢雲「あー確かに」

どうやら2人とも思い当たるものがあるようだ。

男「…」

ゲームなんてやらないから全然わからんな。
24 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:53:18.01 ID:rqljmlHD0
男「ただ少し条件があるんです」

提督「条件?アンロックの?」

男「そう。多分そう」

叢雲「あ、それが記憶ってわけね」

叢雲が手に持ったコップを俺の方に掲げる。

その体制だと零れたら確実にソファーが、最悪提督の肩もアウトになりそうで怖い。

男「そういうことだ。記憶が元からあるなら問題ないが今回の様に記憶に欠損がある場合それを取り戻さないと行けないんですよ」

提督「…でも記憶と言っても何を忘れているかなんて外からじゃ分からないでしょう?完全に記憶を取り戻したかどうかは何処で判断するんですか」

鋭い質問だな。流石は提督と言うべきか。
25 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:53:52.21 ID:rqljmlHD0
男「言い方が少し悪かった。正確には記憶というより、名前なんですよ。恐らく」

叢雲「名前って、叢雲とか?」

男「そう。自分が誰なのか、どういった船だったのか。経験則ですがそれがトリガーになっていると思います」

提督「なるほどね。真名か。なんだかカッコイイね」

叢雲「またそうやって変な想像して」

提督「変じゃないでしょ変じゃ」

男「期間にバラツキがあるのもこれが原因でしてね。外見の特徴や他の記憶から艦名を特定できれば直ぐに記憶は戻るんですが」

叢雲「今回みたいにヒントゼロ記憶なしだとどうなるかってわけね」

男「ああ」
26 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:54:26.95 ID:rqljmlHD0
男「言い方が少し悪かった。正確には記憶というより、名前なんですよ。恐らく」

叢雲「名前って、叢雲とか?」

男「そう。自分が誰なのか、どういった船だったのか。経験則ですがそれがトリガーになっていると思います」

提督「なるほどね。真名か。なんだかカッコイイね」

叢雲「またそうやって変な想像して」

提督「変じゃないでしょ変じゃ」

男「期間にバラツキがあるのもこれが原因でしてね。外見の特徴や他の記憶から艦名を特定できれば直ぐに記憶は戻るんですが」

叢雲「今回みたいにヒントゼロ記憶なしだとどうなるかってわけね」

男「ああ」
27 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:55:17.82 ID:rqljmlHD0
提督「ちなみに最長記録の一年以上ってのはどういう感じで?」

男「記憶自体はそこまで欠落していなかったんですが、その艦娘ってのが海外の船でね」

叢雲「そういえば海外艦って建造可能よね。あまり気にしたことはなかったけど」

男「大変でしたよ。海外艦なんて予想外なところの資料なんてなかったから全部一からで。海外から資料取り寄せるだけで一苦労ですから」

提督「それで1年ですか」

男「殆ど事務作業みたいなものでしたがね。お役所ってのはどうもこういうのに弱い」
28 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:55:51.47 ID:rqljmlHD0
提督「それで」

提督が少し姿勢を正す。これが本題といった感じだ。

提督「答えられる問じゃないとは思うけれど、今回はどう思います」

男「…初めて、ですよ」

提督「初めて?」

男「あそこまで記憶がない事が、です。実際今日見てみるまで半信半疑な所があった…」

提督「…」

叢雲がコーヒーを啜る音だけが部屋に響「熱ッ!」

……

叢雲「な、何よ…」タジッ
29 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:56:26.56 ID:rqljmlHD0
男「まあ暴れるような心配もないですし、気楽に気長にいきますよ。焦る必要も無い」

提督「ですね。丁度お昼ですし、昼食に行きましょう。食堂とか色々案内するんで」

男「頼みます」

提督「いやいや、長い付き合いになりそうだからね」ハハハ

男「そのようだ」ハハハ

叢雲「ちょっと!何あからさまに無かった事にしてんのよ!ホットミルクぶっかけるわよ!」

提督「君が勝手にやった事だろ!なんで切れてるんだよ!」
叢雲「五月蝿い!」
提督「だー待て落ち着いて!デザート分け、いやあげるから待って!」

男「…」

コーヒーではなくミルクだったか…

この情報は、頭に入れておくとしよう。
30 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 05:01:15.92 ID:rqljmlHD0
量を減らして確実に更新していったほうがいいのではというのが前回から得た教訓

例えば「はじめまして!吹雪です!」と名乗られなければ私達は彼女を吹雪と認識できない、というような話です。
初期艦贔屓で叢雲頼もしいなあと思いながら書いていきます。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/29(火) 07:42:34.26 ID:+az76G90O

期待
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/29(火) 19:07:18.61 ID:vDtVVzxjo
相変わらずいい雰囲気
期待
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/30(水) 12:40:48.17 ID:nfS4jwjlo
おつね
34 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:41:23.83 ID:bR8MUREO0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【食堂】

提督「流石に慣れてますね」

男「慣れてる?」

叢雲「男女比率が1:100の環境に、よ」

辺りを見渡す。

食堂には俺たちの他に50人ほどの艦娘がそれぞれ昼食をとっている。

昼は出撃や遠征などでまばらなので夜はさらに増えるだろう。

男「改めて言われると確かにすごい環境だ」

叢雲「それはこの戦争にも言えることだわ」

提督「まったくだね」

昼食は私が魚定食。向かい側の叢雲が唐揚げ丼、提督がカレーだ。
35 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:42:39.95 ID:bR8MUREO0
この鎮守府には本来提督以外の人間はいない。

人口の多い都市部などを守る主要な鎮守府以外は基本的にそんなものだ。

今ここには俺の提督以外は全員女性という事になる。

もっとも言葉で聞くほどいい環境ではない。

仮にも軍の施設だ。確かに比較的規模は小さいがそれでも国防の要の一つである。そんな鎮守府に何故人がいないのか。

政府や上層部も馬鹿だけで構成されているわけじゃない。

当然理由がある。

こうならざるを得ないだけの理由が。

"人"と"艦娘"を隔てる理由が…
36 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:43:20.11 ID:bR8MUREO0
叢雲「それにしてもいきなり魚とはね」

男「ん、何がだ」

叢雲「アナタの昼餉よ」

男「不思議か?」

提督「外部の人間はたいていカレーや麺類を選ぶね」

男「なるほど」

確かにそこら辺を選んでおけばまず不味いということはあまりないだろう。

叢雲「何かこだわりでもあるの?」

男「長居する事になりそうだからな。定食の味を知っておく事が大切なんだ」

提督「へえ。やはり鎮守府毎に味が違ったり?」

男「そうだな。地元で何が捕れるか作られているかにもよる。10を超える鎮守府を回ったが、そのうちグルメ本でも出せそうだ」
37 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:43:48.09 ID:bR8MUREO0
叢雲「他所の鎮守府か〜。興味深いわね」

男「オススメできない所ならいくつか教えてやろうか?」

叢雲「…ご忠告どうも」

提督「我が家が一番ってことだよ」

叢雲「住めば都かもしれないわよ」

男「生まれ故郷が一番だよ。艦娘には」

提督「そういうものなのかい?」

男「経験則では」

提督「そうなのかい?」

叢雲「さあね」
38 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:44:35.23 ID:bR8MUREO0
飛龍「」ツンツン

提督「ん?どうした飛龍」

何故かこっそりと提督に近づき肩をつついたのは正規空母、飛龍。

橙色の着物と緑色のミニスカートのような袴。明るい茶髪のショートヘアと柔らかい表情は見た目よりもいくばか幼さを感じさせる。

彼女が来た方を見ると複数の艦娘が何やら興味深そうにこちらを見ている。

話しかけづらい転校生に誰が声をかけるかといった結果飛龍が挙げられた、という感じか。

飛龍『この人が前に言ってた派遣のリーマン?』

提督「認識は間違ってなくもないけど、そんな言い方はしてないよ」

飛龍『あはは冗談冗談。えーっと』「私は飛龍、よろしくね」

言葉を聞いて理解した。

あぁ、なるほど。

これが彼女が挙げられた理由か。
39 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:45:19.33 ID:bR8MUREO0
男「調査官の男という者だ。大本営直属、と言えば聞こえはいいが提督という身分と大して違いはない。私も君達に頼る事があるだろうし気軽にしてくれ」

飛龍「な〜んだそっかそっか。てっきり提督がなんか悪い事してバレたのかと」

提督「君達もう少し提督を信用してくれてもいいんだよ?」

叢雲「アンタももう少し信頼されるような働きを見せてくれてもいいのよ?」

提督「働いてない?僕結構頑張ってない?」

飛龍『でも実際前線に出てるのは私達だしね〜。もう少し労わって欲し〜な〜』

提督「人の酒勝手に持ち出すような奴がよくもぬけぬけと…」

飛龍『げっ!』

提督「げっじゃないよバレてるに決まってるだろう」
40 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:46:23.83 ID:bR8MUREO0
飛龍『いーじゃん!どうせ提督たいしてお酒なんてわからないくせに!』

提督「この口か!この口が言うか!」

ギャーギャーワーワーと、喧しくて、騒がしくて、賑やかだ。

それが少し羨ましい。

男「それともうひとつ」

飛龍『イタタタタほっぺ伸びる伸びる!ん?』


男『私と話す時、君を通す必要は無いよ』


飛龍『…へぇ』

叢雲「…」

提督「…ん?」

飛龍『ひょーかい、みんはにふはいほふね』

叢雲「手ぇ離しなさいよ」

提督「あ、スマン」パッ
飛龍「ブヘッ」

艦娘の頬も人間とそう変わらないらしい。
41 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:48:33.35 ID:bR8MUREO0
飛龍が元のグループ、どうやら空母の集まりらしき所へ戻っていく。

彼女達の楽しそうに話すのを受けてか食堂全体の空気が少し緩んだように思えた。

提督「すまないね、お見苦しいところを」

叢雲「全くよ。冷める前にさっさと食べなさいな」

男「いや。随分と仲がいいようで安心しましたよ」

提督「安心?」

男「そうでないところもあるという事で。まああまり気にしないでください」

提督「なるほど、ね」
42 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:49:01.47 ID:bR8MUREO0
ふいに食を並べているテーブルの下から軽快な音楽が鳴り出した。

この声は確か那珂という軽巡の歌だ。

提督「おっと、ごめんごめん」

叢雲「連絡?」

提督「やっば遠征帰ってきてるって」

叢雲「そういえば予定がずれ込んでたわね」

提督「ごめん叢雲。行ってくる」ガタ

叢雲「カレーどうすんのよ」

提督「お好きに、食べてもいいよ」

叢雲「はいはい」
43 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:49:45.95 ID:bR8MUREO0
提督「急でごめん。案内の方は叢雲に任せるからゆっくり食べててください」

男「了解」

叢雲「ほらさっさと行ってあげなさい」

提督「ああ」ダッ

特に怒るでもなくヒラヒラと手を振る叢雲。

よくあることなのだろう。

男「彼は何を?」

叢雲「出撃や遠征の帰りは必ず迎えにいくようにしてるのよ。報告やらもそこでね。過保護なのよ」

男「いい人じゃないか」

叢雲「甘いのよ。皆にも、自分にも」

そう事も無げに言うとお茶を豪快に飲み干す。

男「甘い、か」

叢雲「子供扱いして」ボソッ

男「ん?」

叢雲「なんでもないわ」

当然聞こえていた。

が、彼女が初めて口にした不満にあまり触れるべきではないと思った。
44 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:50:48.26 ID:bR8MUREO0
叢雲「それにしても、驚いたわよさっきは」

唐揚げ丼をペロリと平らげ提督の残したカレーに手をつけ始める叢雲。

艦娘は基本的によく食べるものだと知ってはいるが目の前でこれだけの量を当然のように食す様はやはり壮観である。

提督「さっきとは?」

叢雲「飛龍の事よ」

提督「ああ」

締めの味噌汁を啜る。

うむ、好みの濃さだ。グルメ本を書くなら星三つだろう。

提督「喋れる事、か」

叢雲「そ。確かに調査員なんだしそれくらい当たり前なのかもしれないけれど、提督でもないのに実際に喋れる人間を見たのは初めてよ」
45 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:51:34.92 ID:bR8MUREO0
男「逆だよ。調査員だから喋れるんじゃない。喋れるから調査員になれたんだ。いやそもそも調査員なんてものが出来たのも俺がいたからだしな」

叢雲「へえ、何か事情があるってとこかしら」

男「そんなところだ」

叢雲「アナタも苦労してるのね」

男「君もか」

叢雲「皆苦労してるのよ」

男「世知辛い世の中だな」

叢雲「甘いのはカレーくらいなものよ」

男「カレーといえば」

叢雲「なによ?」

男「普通に食べるんだな」

叢雲「普通?どういう意味よ」

男「そのスプーン提督が使ってたものだろ?」
46 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:52:04.50 ID:bR8MUREO0
叢雲「ええ、そうだけど」

何言ってんだこいつという目で見られた。あまりそういう事を気にする質じゃなかったようだ。

叢雲「そう、だけど…」

まあ間接キスなんて今どき流行らないか。まして見た目は子供とはいえ軍人として日々働く身。そんなことをいちいち

叢雲「…」

男「あれ?」

叢雲「…」プルプル

俯かれた。しかも何か震えている。

頭の、耳?は警告色になっているし。

男「む、叢雲さん?」

叢雲「…辛いのよ」

男「さっき甘いって」
叢雲「五月蝿い!」
男「はい!」

真っ赤な顔でそう喚かれた。
47 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:57:37.02 ID:bR8MUREO0
神風を書きたいのに神風が出てこない!

人間と艦娘の違いとかが好きなんです。
楽しそうに笑う飛龍を見守り隊の者として今後も飛龍の話は書いていきます。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/02(土) 06:51:23.03 ID:QuCGoejZO
乙!
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/02(土) 09:24:14.81 ID:p3prB7beO
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/03(日) 01:40:11.83 ID:zM/Qwy++o
おつ
ムラムラ可愛い
51 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:09:13.33 ID:ilPFB3QM0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【鎮守府:廊下】

叢雲「ここが男子トイレよ」

男「はい」

叢雲「…なんでさっきから敬語なのよ」

男「いや、なんか、すみません」

叢雲「あーもう!さっきのは忘れなさい!私も忘れるから!いいわね!」

男「えぇ忘れろっても「い い わ ね ?」アッハイ」

おっかねえ。

叢雲「さて、アナタが使いそうな施設はこんなところね。後どこか案内してほしいところはある?」

男「そうだな。ドックとか工廠なんかは必要になったら案内してもらうかな」

叢雲「さいで。あーそうだわ、部屋を忘れてた」

男「おう」

叢雲「一応要望通りあの子の部屋の隣と司令官の部屋の隣、2つを用意したわ。どっちにする?」
52 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:09:44.61 ID:ilPFB3QM0
男「前者で頼むよ」

叢雲「りょーかい。で、理由は?」

男「2つ用意させた理由か?」

叢雲「ええ。前者を選んだ理由も」

男「一概には言えないが、概ね危険度の違いだな。安全なら側に居た方が都合がいい」

叢雲「なぁんだそれだけなの」

男「一体何を期待したんだよ」

叢雲「もっと私なんかが考えもつかない特殊な理由があるもんだと思ってたわ」

男「提督もそうだが、俺の事を特別視し過ぎだよ。精々カウンセラーもどきみたいなもんだぞ」

叢雲「珍しい仕事だもの、仕方ないでしょ」

男「それはまあわかるけどな」
53 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:10:37.50 ID:ilPFB3QM0
叢雲「それと、敬語。使わないのね」

男「?どういう事だ」

叢雲「敬語よ。司令官には頑なに使い続けるくせに私達には使わないじゃない。初対面なのに」

男「あー悪い。気に触ったか?」

叢雲「別にそれはいいわよ。私としてはその方が楽だし。でも部外者は皆よそよそしく敬語を使ってくるか、下心丸出しで馴れ馴れしくしてくるかだから気になったのよ」

男「何故と言われるとなぁ。まあ実際の年齢はともかく艦娘って基本的に皆見た目は年下だし、なんとなく子供扱いしてしまうところはあるかもしれん」

叢雲「…へぇ」

男「あ、いや、別に見下してるとかそういう事じゃなくてだな」

叢雲「分かってるわよ。ただ、やっぱりアナタも変わってるわねって」

男「?」

何か妙に納得したという顔をされた。

その賢しら顔がなんだか癪に障るので問いただしてやろうと思ったがどうやら目的地に着いてしまったようだ。
54 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:11:23.60 ID:ilPFB3QM0
叢雲「ここね」

一階。

鎮守府の端の方にある例の部屋の隣。

まだ彼女は寝ているのだろうか。

叢雲「でこれがこの部屋の鍵」チャリ

男「たしかに」

叢雲「…」

男「?」

差し出された鍵を受け取ろうと手を出したが叢雲は中々鍵を手放さない。

叢雲「ねえ、多分アナタは十二分に分かっていると思うけれど一応言わせて頂戴」

男「なんだよ改まって」

叢雲「他の艦娘と気軽に接触しない事」

男「…」

叢雲「たまにいるのよ、外からのお客様に。まあカワイー女のコばっかりだし?軽率に声をかけたくなるのは分からなくもないけれど」

男「ここも昔何かあったりしたのか?」

叢雲「無いわよ。幸いにも今のところは」

それは、よかった。
55 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:11:55.20 ID:ilPFB3QM0
叢雲「鎮守府にとって司令官以外の人間は異物よ。それに過剰に反応してしまう娘がいないわけじゃない」

男「分かってるよ。よく」

叢雲「でしょうね。だからまあ、一応よ」

そう言うとようやく鍵を渡してくれた。

男「それじゃ、ご開帳」

隣の部屋と違い1つしかない鍵を開け部屋に足を入れる。

男「おーこりゃいい」

叢雲「急拵えだから簡素なものだけど、気に入ってもらえたなら幸いね」

男「十分だよ。所詮は仕事部屋だ」
56 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:12:40.11 ID:ilPFB3QM0
部屋は一人暮らしには十分すぎる大きさだ。

大きな窓から午後の日差しがこれでもかと差し込んでいる。

家具はベットと仕事机にタンスのみ。

他はがらんと空いて何も無い。

叢雲「こっちがお風呂。と言ってもシャワーだけなんだけど。トイレは悪いけど向こうの共同の使ってちょうだい」

男「風呂まであるのか」

叢雲「元々人間用に作られてるのよ、ここ。使わなかったからこうして放置されてただけ」

なるほどね。人間用…作業員等を入れる予定があったのだろうか。しかしこの部屋…

男「…」

叢雲「隣とは大違いよね」

男「顔に出てたか?」

叢雲「司令官と同じ顔だったわよ」

男「そうかい」

叢雲「こっちは壁や窓を丈夫にする必要はなかったから広々と出来たわ。キッチンやトイレなんかが欲しいなら言ってちょうだい」

男「そこまでしてもらう気は無いよ」

叢雲「あ、勿論予算はそっち持ちよ?」

男「尚更いらん」
57 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:13:15.21 ID:ilPFB3QM0
男「さて、後は荷物運びか」

叢雲「そう言えば外に止まってたのってワンボックスカーよね?そんなに荷物あるの?」

男「俺自身の荷物は少ないさ。男だしな。問題は仕事関係の方だ」

叢雲「手伝いはいる?」

男「んー正直欲しい」

叢雲「なら丁度いいわ。紹介しておきたい娘もいるしね」

男「紹介?」

叢雲「えぇ」

そう言うと恐らく仕事用であろう端末を取り出して連絡を取り始めた。
58 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:14:02.75 ID:ilPFB3QM0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

江風『いよっす!江風ってンだ、よろしくな』

飛龍『飛龍でーっす。さっきぶりだね、よろしくぅ』

透き通るような赤紅色の長髪を揺らしながら右手を大きく挙げて挨拶する駆逐江風。この制服は確か改二か。白いマフラーが髪と共に揺れる。

近頃はすっかり見なくなった気がするブイサインでまるで十年来の友人かのようにノリノリで挨拶してきた元気娘飛龍。先程の食堂の件からしてもそうだが初対面だろうと人に対して遠慮がない。

以上二名。

叢雲『ご感想は?』

男『馴れ馴れしすぎやしないか』

叢雲『礼節に関して2人にこれ以上を求めるのは無意味よ』

男『いや俺は構わないが、お偉いさんとか来たらどうするつもりなんだ』

叢雲『絶対に合わせない』

飛龍『ねぇねぇ、呼び出されたと思ったらなんか悪口言われてない私達?』ヒソヒソ

江風『もっと個性的な挨拶とかの方がウケがいいンスかねぇ』ヒソヒソ

叢雲『そうじゃないわよ』
59 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:14:48.73 ID:ilPFB3QM0
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男『というわけで2人に荷物運びを頼みたいんだ』

車へ向かいながら経緯を説明する。

江風『なるほどね。うンうン、任せとけって』

飛龍『でも私達をわざわざ呼ぶ程大層な荷物なの?』

叢雲『それは私も知りたいわね』

男『見りゃわかるよ。衣服とかは大した量じゃないからいいが、一個だけどうしても俺じゃ、いや人間じゃ厳しいものがあってな』

飛龍『なんだろー、人だと近づくのも危ういような薬とか?』

江風『核兵器とか?』

男『お前ら俺をなんだと思ってんだよ…』

叢雲『ほらさっさと行くわよ』
60 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:16:06.69 ID:ilPFB3QM0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【廊下】

江風「」ジーッ

男「…」

駐車場はそう遠くない。廊下を渡り建物を出れば直ぐだ。しかし、

なんかすっげぇ見てくる。睨んでる訳じゃないが視線が凄い。

飛龍『えいっ』ペシッ
江風『あいてっ』

飛龍『あんまり見ない』

江風『えーだってさあ』

男『やっぱ気になるか?』

江風『そりゃもうモチのロン』

飛龍『まあ提督以外の人間ってあんまり見る機会ないしねぇ』

江風『そうそう。普段お偉いさンとかが来る時はウチらはたいてい出撃とか遠征だしさ』

男『ほお』

叢雲『たまたまよ、たまたま』

会わせない、とはそういうことか。
61 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:17:01.78 ID:ilPFB3QM0
江風『でもやっぱこうして見ても提督とさほど変わらないように見えるな』

ん?どういう意味だ?

叢雲『そりゃそうでしょ』

飛龍『でもちょっーと提督のがヒョロいかなあ。でも提督の方が筋肉はあるわね』

男『見ただけで分かるのか』

飛龍『歩き方とかで』

男『マジかよ』

江風『なあなあ。アンタからはウチらはどう見える?』

男『見える?見えるって、そのまんま見えてるが』

江風『そのまんまってどんなさ』

男『そのまんまは、鏡に映る自分と同じって事だろ』

なんだ?何が言いたい?

江風『いや、だって鏡はただ反射してるだけじゃンか。そーじゃなくてアンタの瞳には何が見えてるかって話さ』

そう言って手で丸を作りメガネのように自分の目にかける。
62 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:17:55.70 ID:ilPFB3QM0
男『瞳…』

言ってる意味が全然分からない。瞳だって鏡と同じ光の反射だ。

今俺の瞳に反射している姿は彼女達のそのまんまの姿。そうじゃないのか?

叢雲『無駄話はおしまい。ほら、見えてきたわよ』

飛龍『おーあれで来たの?』

男『まあな』

江風『お、じゃあ運転出来ンのか!いいなぁ私も運転してみたいんだよなあ』

叢雲『運転免許は厳しいらしいわね』

飛龍『そもそも私達外に出るのも一苦労だしね』

江風『あー地上も思いっきり走ってみてーなー』

飛龍『免許と言えば夕張とかはなんか持ってたよね』

叢雲『電気、なんとかみたなやつね。あれは私達でも簡単に取れるらしいわよ』
63 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:19:11.71 ID:ilPFB3QM0
男『取ってどうするんだ?』

江風『なンかカッコ良さげじゃんか』

飛龍『あーなんかでっかいの見える』

男『ああそうだ。これが運んで欲しいブツだ』ガタン

白のワンボックスカー。その後部を開ける。

江風『うわ、なンじゃこりゃ』

飛龍『GANTZの四角バージョンみたいな』
江風『ドミネーターとかはいってそう』
叢雲『羊羹みたいね』

三者三様の反応。

江風『羊羹?』

飛龍『羊羹かぁ』

叢雲『悪かったわねばば臭くて!!』

誰もそんな事言ってない、とは勿論言わない。
64 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:19:53.93 ID:ilPFB3QM0
中にあるのは車の白とは対称的に真っ黒な四角い箱。

縦横50cmほどの箱。端的に言ってデカい。

叢雲『これ重さはどれくらいなの?』

男『持ち上げてみりゃわかる』

江風『きひひ、まあ見てなって。ふんっ!ン!ん!?』

飛龍『うわービクともしない』

叢雲『重さ幾つよこれ』

提督『ギリギリ床が抜けないくらいらしい。200は確実に超えてるな』

江風『そりゃ持ち上がらないわけだ』

飛龍『それじゃ、改めて運ぶとしますかね』

江風『おう』
65 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:20:26.54 ID:ilPFB3QM0
飛龍が車の中に入り反対側をもつ。

飛龍『せーの』

スッ、と先程までビクともしなかった箱が持ち上がる。

男『流石に艦娘パワーだな』

叢雲『なんなら車ごといけるわよ?』

男『それは勘弁だ。あ、一応割れ物注意だからな、落とすなよ』

飛龍『だいじょぶだぁって。ほらほら』ヒラヒラ

男『おい!手を振るな手を!』

江風『ちょ!飛龍さんバランスバランス!』ガクン

飛龍『え?わたっ、とと!』ガシッ


江飛『『セーフ…』』


男『人選ミスだろこれ』

叢雲『悪気はないのよ2人とも…』
66 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:20:55.91 ID:ilPFB3QM0
江風『これ全部衣服なのか?』

男『違うよ。生活用品はこれと、これだ』

叢雲『カバン2つだけ?逆にこっちは少なすぎないかしら』

男『野郎の荷物なんて大したもんじゃないさ。必要なら適当に補充するしな』

飛龍『私としてはそっちの荷物も気になるところだな〜』

男『よく分からんが期待には答えられないと思うぞ』

飛龍『え〜見てみないとわかんないわよ』

男『ろくなことにならんのは分かる』
67 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:21:24.94 ID:ilPFB3QM0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【鎮守府:廊下】

飛龍『your best ! my best !生きてるんだから』♪
江風『失敗なんて、メじゃない』♪

叢雲『少しは反省しなさいよ』

男『歌うのはいいが気を緩めるなよ』

飛龍『2人は!』
飛江『『プリキュア〜』』

男『…』

飛龍『うわやっば。目がマジだこれ』

江風『私は見えないから知りませーン』

飛龍『あズルい!箱に隠れるな!』

江風『ほら、私らちっさいから』

飛龍『いっつも大きくなりたーいって言ってるくせにぃ』

江風『それはそれという事で』
68 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:22:10.18 ID:ilPFB3QM0
男「… 」

わざとやってんのかってくらい騒がしい。

叢雲「いえ、違うのよ…?一応意味のある人選なのよ…」

男「人馴れしてる、だろ?」

叢雲「分かってるなら話が早いわね」

男「でも慣れすぎじゃないかこれは」

叢雲「性分なのよ。飛龍は空母の、江風は駆逐艦の。2人とも中心的な立ち位置だから見知っておくといいわ」

男「コイツらがリーダーなのか?」

叢雲「リーダーってわけじゃないわよ。ただ、そうねえ、何か動く時必ず先頭で突っ走ってく、そんな感じよ」

男「なるほどね」

江風『あれ?なに話してンだ?』

飛龍『あー内緒話してるー。逢引だ逢引、提督に言いつけてやろ』

叢雲『んなわけないでしょ。ほら前見て』
69 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:23:19.04 ID:ilPFB3QM0
江風『ところでよぉ、ひとつ質問なンだけどさ』

男『なんだ?』

江風『この箱ってあの紅ちゃんの隣の部屋に運ぶンだよな?』

男『そうだが、紅ちゃん?』

飛龍『あの娘の呼び名よ。名前がわからないのは仕方ないとして、呼び名くらいないと不便でしょ?』

江風『で、臨時で紅ちゃんってわけさ。発案は誰だっけかな』

男『なるほど』

飛龍『他にも眠り姫、赤ずきん、撫子、さくらとか色んな呼び方があるわよ。あ、さくらは真宮寺さくらのさくらね』

男『統一してないのか…』

真宮寺さくらって誰だ。

叢雲『それで、質問って何よ』

江風『ン、あ〜それな。この箱だけどさ、入口から入るのかなって。変形とかする?』

男『あ』
70 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:26:06.78 ID:ilPFB3QM0
叢雲『え、ノープランなのそこ』

男『ま、窓から行けるか?』

飛龍『ベランダなら網戸とか外せばいけるんじゃない?』

男『じゃあそれで頼む』

飛龍『はーい、って逆方向じゃん!』

男『すまん、失念してた』

江風『こりゃ高くつくぜぇ調査官殿』

男『本当に済まない』

叢雲『ほらさっさと戻るわよ』

男『…なあ、一ついいか』

飛龍『ん?』
江風『んぁ?』
叢雲『何よ』

男『あの娘の名前、実際に呼んだりしてるのか?』

叢雲『呼ぶも何も、まともに会話だって出来てないわよ?』

男『そうか…そりゃそうだ』

ならいい。なら、いいんだ。
71 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:27:10.16 ID:ilPFB3QM0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【部屋】

江風『ふぃーなンとか入ったな』

飛龍『大丈夫なのこれ?ほんとに床抜けない?』

叢雲『一階だしこれくらいなら、多分』

男『今んとこ抜けたことはないから大丈夫だとは思うんだがなあ』

江風『しっかしこの殺風景な部屋にこれだけドカンとあるとなンつーか威圧感が凄いよなあ』

飛龍『ますますGANTZね』

江風『いやいや、よく見ると確かに羊羹にも見えるかも』

叢雲『アンタ明日からトイレ掃除ね』

江風『あー!乱用だ!職権乱用だ!!』
72 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:27:39.37 ID:ilPFB3QM0
飛龍『ねえねぇ!これ何に使うものなの?やってみてよー』

男『ダメだ。企業秘密だからな。そのためにこんな頑丈にしてあるんだから』

江風『じゃあさ、運搬のお礼にって事でちょっち見せてくれよ。先っちょ!先っちょだけでいいから!」

叢雲『なぁに言ってるのよ。あんだけふざけて運んだんだからチャラよチャラ。ほら行くわよ』

江風『ちぇー』

男『悪いな。礼はまた今度に』

飛龍『絶対だからね!』

江風『じゃねー』

バタン。

3人が部屋から出ていく。
73 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:28:09.98 ID:ilPFB3QM0
男「…」

さてと、

忍び足で今しがた3人が出ていった扉までいく。

扉に耳を当てると廊下から声が聞こえる。

江風『飛龍さんはなンだと思います?』

飛龍『んー自白剤とか?」

江風『その発想はなかったっス…」

飛龍『現実的なとこだと思うんだけどなあ』

江風『そりゃあそうかもしれない、なくもないかもですけど。でも…』

飛龍の中で俺はどんなイメージなのだろうか…

だいぶ離れたのか2人の声が聞こえなくなる。

2人。

つまり叢雲は一緒ではない。
74 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:29:13.99 ID:ilPFB3QM0
外から足音がする。

忍び足のようだが部屋の中と違い廊下では木製の床の軋む音を抑えることは出来ないようだ。

足音が、扉の前で止まった。

少し迷ったが、俺はドアノブに手をかけ

男「せいっ!」ガチャッ
叢雲「うきゃあ゛!」ドサッ

思い切り引いた。

どうやら扉に前のめりで寄りかかっていたらしい叢雲がこちらに倒れてきたので片腕で受け止める。

やはり駆逐艦は軽い。

叢雲「あー、えっとー」

男「新聞ならいらねえぞ」

叢雲「あははー失礼しましたー」

男「待てい」ガシッ
叢雲「グエッ」
75 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:29:46.48 ID:ilPFB3QM0
叢雲「はぁ…しっかり対策済とはね」

男「信用されない立場だからな。盗み見盗み聞きには気をつけてるんだよ」

叢雲「前例があったわけね」

男「まあな。とはいえこうして俺を警戒する気持ちもわかるから強くは言えないんだがな」

叢雲「監視カメラ等がないのも知ってるってわけ?」

男「ああ。途中で設置されてもすぐ分かるぞ」

叢雲「…そのための箱、という事かしら?」

男「いい発想だ。不正解だけどな」
76 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:30:14.11 ID:ilPFB3QM0
叢雲「ハイハイ私の負けよ。今日は大人しく引いておくわ」

男「少しくらいは様子を見てくれよ。俺を信用するかどうかはそれから決めてくれ」

叢雲「随分謙虚ね」

男「言ったろ、そっちの気持ちも分かるって」

叢雲「わかったわよ。それじゃ」

男「おいおい、扉くらい閉めてけよ」

叢雲「それじゃあなたが不安でしょ?なんなら執務室まで送って貰ってもいいのよ」

男「こんにゃろ」

叢雲「お返しよ」

チロと舌を出して得意げな表情で部屋を出ていく。
77 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:31:25.48 ID:ilPFB3QM0
男「…こりゃ手強いな」

扉の下の隙間に滑り込ませるように置いてあったボタンのような物を拾い戸を閉める。

さっきの倒れかけた時に咄嗟に投げたか?

盗聴器かな。本当にバレるかどうかのテストといったところだろうか。

勿体ないからタオルでくるんでバックの中に入れる。

しかしこんなものを既に用意しているとは、思った以上に用心してるんだなここは。

男「それじゃ本格的に始めるとするか」

黒い箱から伸ばしたコードをコンセントに刺し電源を入れる。

聞きなれたモーター音とともに箱が変形しだす。

キーボード、モニター、パネル、アンテナ。色々なものがまるで裁縫箱のように展開される。

相も変わらず作者の趣味前回の無駄な細工だが。

起動に問題はなし。故障もなし。電波もちゃんと来てる。

キーボードを操作していつもの画面を出す。
78 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:32:07.10 ID:ilPFB3QM0
ポン、という間の抜けた音とともに画面が切り替わる。どうやら起きていたようだ。

男「こっちは無事セッティング終えたぞ。仕事だ仕事」

「あ゛ーーー、仕事ねぇ…仕事…まだ早いんじゃない?」

寝起きなのかいつもの特徴的な声がさらに独特なものになっている。

そういえば以前に鼻声だと言ったら怒られたな。

画面には事務所が映っているが、肝心の話し相手の姿が見えない。

男「早い方がいいに決まってんだろ」

「締切終わったばっかで寝不足なのぉ〜休ませて」

画面の下で何かがもぞもぞと動いている。そこで寝てたのかこいつ…

男「お前の行動に口を出さないのは仕事をちゃんとやる場合だけだって言ったの忘れたかおい」

「ぶぇ〜ケチんぼ」

男「口を出すなって言うなら金ももう出さんぞ」

「ぐっ…分かった分かった分かりましたよぉー。で何するのさ」
79 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:32:40.92 ID:ilPFB3QM0
男「今回の艦娘の特徴を全部送る。それで全軍艦のデータと照らし合わせてくれ」

「ちょっ!?全部!?全部って言ったあ!?」

男「海外艦の線は今のところなしだ。事前情報通り駆逐艦というのが有力だが如何せん記憶なしだ。一応他も頼む」

「うわぁマジかぁやべーやこりゃ」

男「外見的な特徴は機械じゃ判断できないからな。人がやるしかない。お前の得意分野だろ?」

「描くのはね…」

男「なにかわかり次第追加で送る。頼んだぞ」

「ラジャりましたぁ」

男「あーでもその前に」

「まだ何か」

男「風呂入って目え覚ましてこい」

「…やんエッチぃ」

声はすっかりいつものお調子者のそれに戻っていた。
80 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:42:00.57 ID:ilPFB3QM0
秋刀魚が中々出なくてね…

江風は"ウチら"と"私ら"と"私達"のどれがらしいのかで凄く悩みました。
一応ですが基本的に人と艦娘はお互い別言語扱いなので言葉が通じないという前提の世界です。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/14(木) 15:19:51.34 ID:oVFRrJn3o
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/14(木) 16:42:09.00 ID:MyNhWqiEO
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/15(金) 19:43:38.96 ID:2a4wj+Tso
おつおつ
「」と『』からそうかなとは思ってた
提督の資質に関しての新しい解釈いいね
84 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:33:21.95 ID:q5DK4WWN0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

自分の部屋を片付けて隣の部屋に行ってみると彼女はまだ寝ているようだった。

さてこうなるとやる事がないな。

という事で少し早いが夕飯にしようと食堂に来たのはいいのだが、

男「忘れてた」

まだそれほど混んではいないがそれでもこの大所帯。それなりの数の艦娘が食堂にいる。

その彼女達の視線が全て食堂に入ってきた俺に向けられる。

決して好意的ではない視線が。

直前に妙に人馴れした飛龍達に会っていたせいかすっかり忘れていたが人間への反応なんてこんなものである。
85 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:34:52.04 ID:q5DK4WWN0
男「…」

さてどうするか。

ここで引き返すのはかえって印象が悪い。

とはいえこの状況でゆっくり飯が食えるほど俺の精神は強くない。

仕方ない。すぐ食べられる物を選んで速攻で出るしか

飛龍『チャオー!えーっと、男さん?男君?様にしとく?』

男『うお!ビックリした。飛龍、と蒼龍だったな』

蒼龍『は、はい。蒼龍です』

ぎこちない反応。しかしこれが普通だ。飛龍の方が異常と言える。

姉妹艦だったか。どうやら飛龍に着いてきたようだ。

止めるわけでもなくかといって離れるわけでもなく、ついつい一緒に来てしまったと言った感じか。

男『男でいいと言ったろ』

飛龍『いやぁ呼び捨てはちょっとねぇ。あだ名とか付けたげよっか?』

男『断る』

艦娘との距離を縮めるにはいい手かもしれないが、単純に俺が嫌だ。
86 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:35:28.05 ID:q5DK4WWN0
飛龍『他の鎮守府ではどんな呼ばれ方してたの?』

男『他の鎮守府か』

艦娘達との関係はお世辞にもいいとは言えないものばかりだったからなぁ。

男『あ、部下からは課長と言われてるな』

飛龍『課長なの?』

男『一応な』

飛龍『へー…ねぇ蒼龍、課長ってどれぐらい偉いの?』

蒼龍『ランクで言ったらフラタとかフラヲくらい?』

飛龍『あーんーなんか微妙なとこね。でも適度にムカつく』

よく分からんが馬鹿にされてる感がある。
87 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:37:58.68 ID:q5DK4WWN0
飛龍『じゃ課長で』

男『まあその方が馴染みがある』

飛龍『蒼龍もそれでいいっしょ?』

蒼龍『うん。よく考えたら提督だって提督だもんね』

飛龍『確かに。あーっとそれより早く注文しようよ。課長は何にする?私のオススメはねぇ生姜焼き定食。蒼龍はメガ盛り焼肉定食ね』

蒼龍『ちょっと!たまによ!いや好きだけど、出撃とかで疲れてる時だけだから!』

飛龍『さらに食後にこのでかい方のパフェをねえ』
蒼龍『ひーりゅーうー』パタパタ

男『あーまあ艦娘は消費カロリーが大きいからな。よく食べるのはいい事だろう』

蒼龍『違う!違わないけど!違うから!』

うん、この騒がしさは確かに姉妹だな。

けして喧しくはなく、まるで軽快なリズムで鳴り続ける太鼓のような印象を受ける。
88 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:38:35.84 ID:q5DK4WWN0
結局流れで3人とも焼肉定食となった。勿論メガ盛りではない。

飛龍『課長は嫌いなものある?』

男『キムチだけは今後一生食わないと決めている』

蒼龍『なんで?』

男『トラウマがな…』

飛龍『何やったらキムチなんぞにトラウマできるのよ』

男『内緒だ。こいつだけは墓まで持っていく』

飛龍『ちなみに提督は唐揚げが嫌いよ。何故か』

男『何故か』

飛龍『うん。何故か』

蒼龍『叢雲ちゃんも知らないんだって』

食堂の端の空いていたスペースに三人で座る。

俺と対面する形で飛龍蒼龍の並び。
89 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:39:12.38 ID:q5DK4WWN0
案の定艦娘である2人は食べるペースが早い。あっという間に平らげてしまった。

俺も別に遅い訳では無いのだが。

男『2人はあの娘に会ったことはあるか?』

飛龍『あーさくらちゃんの事?』
蒼龍『撫子ちゃん?』

男『やっぱ呼び名はバラバラなのな』

飛龍『私は会ってないんだぁ。写真だけ。すっごく可愛かった』

蒼龍『私は寝顔だけチラッと。こう、ギュッとしたくなる感じの娘だった』

飛龍『分かるー。一緒に寝たい。お風呂とか入りたい』

蒼龍『ね!ね!絶対抱き心地いい!』

飛龍『絶対メイド服とか似合う!』

蒼龍『私は水着とか試したい!』

飛龍『髪なんかもいじりがいかありそうで!』

蒼龍『ウェーブかけたい!』

男『待て待て落ち着け』

女子トークになった途端ヒートアップする。
90 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:39:44.31 ID:q5DK4WWN0
蒼龍『課長は抱きたくならなかった?』

男『なるか。そんな事したら殆ど犯罪者だろ』

蒼龍『え〜そうかな』グゥ

飛龍『あ』

男『…』

蒼龍『』カァ

真っ赤になった。蒼龍なのに。

飛龍『よし行こう!デザート食べに行こう!』

男『俺の事は気にするな』

蒼龍『もうダメ…お嫁に行けない…』

飛龍『はーい行きますよ〜ほれほれ〜』
91 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:40:28.83 ID:q5DK4WWN0
青とオレンジの背中を見送る。

しかし飛龍はすごいな。コミュ力の塊みたいなやつだ。それに気遣いもできている。

蒼龍の方と一度話出せば飛龍と変わらない印象だが、それは彼女がいるからこそのように思える。

さっき話しかけてきたのもパッと見て俺の置かれた状況を察したからだろう。

おかげでこうしてスムーズに料理を頼めたし違和感なく食堂に紛れられている。

とはいえそれに甘えるというのもどうかと思う。二人が戻る前に茶碗をからにする。

飛龍『ただまー』

蒼龍『あ、課長もう食べ終わってる』

男『やっと食べ終わった、だろ?』

蒼龍『そろそろ怒りますよ』

男『冗談だよ。悪いが俺は先に戻るよ』

飛龍『えーパフェ食べないのー?今ならあーんしてあげるよ、蒼龍が』

蒼龍『なんで!』
92 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:41:27.19 ID:q5DK4WWN0
男『俺にも仕事があるからな。それと飛龍』

飛龍『はいはい』

男『ありがとな』

飛龍『ん?何が』

男『いや、なんでもない』

飛龍『大丈夫?パフェ奢る?』

男『奢るほうかよ』

飛龍『感謝は気持ちじゃなくて態度で示してよね』

男『遠慮ねえなおい』

蒼龍『飛龍は色々と根に持つタイプだもんね』

飛龍『ふふん』ドヤァ

何故ドヤ顔。

だがまあ、この借りはしっかり覚えておこう。
93 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:43:39.53 ID:q5DK4WWN0
コミュ力お化け筆頭艦娘飛龍

神風はまだ出てこない
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/22(金) 09:48:24.76 ID:ohuOlnUqo
おつおつ
わかる
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/22(金) 19:18:32.34 ID:6kseAc72O
神風と一緒にお風呂に入りたい人生だった…
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/30(土) 10:53:16.38 ID:chrHFR8Mo
おつかーレです
97 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:28:06.03 ID:4Jx7eI/a0
腹ごしらえも済んだし一旦部屋に、

男「とその前に」

自室の隣の扉を開け中を確認する。

いつ目を覚ますかわからない以上こうしてちょくちょく確認するしかない。

カメラで監視という手もあるがそれはちょっとどうかと思うしなあ。

沈みかけた太陽の光は部屋にはもはや入ってはおらず室内はぼんやりと薄暗くなっていた。

神風「」

男「あー…」

落ちていた。ベッドから。

うつ伏せで床に這い蹲る彼女はその長い髪で身体を覆われているせいかますます貞子っぽく見える。

ピンクの貞子か…逆に不気味だな。
98 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:28:41.42 ID:4Jx7eI/a0
男「…運ぶか」

別にこのまま床に寝ていても問題は無いのだが、見てしまった以上放っておくのもなんだし。

しかしどうしようか。体格は小学生程度とはいえ意識のない人間を持ち上げて運ぶのはそれなりに苦労する。

まあ起こしてしまったらその時はその時だ。

うつ伏せのからだを転がし仰向けにさせる。

顔にかかった髪を退けると彼女の穏やかな寝顔が現れた。

一向に浮かび上がってこないその不安定な意識は今どこで何を見ているのだろうか。
99 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:30:12.93 ID:4Jx7eI/a0
肩の辺りと膝の下に手を入れお姫様抱っこの形で持ち上げる。

決して重くはないが意識の無い身体はまるで砂袋でも持っているかのようでとても持ちにくい。

腰に来るなこれ…すっかり鈍った身体については今後対策を講じるべきかもしれない。

男「ふぅ」ドサ

おっと、もう少し丁寧にベットに寝かせるべきだったか。

布団は、別に寒くもないしいいか。

さて戻ろう。

男「ん?」グィ

何かに服の裾を引っ張られた。

何か。

いやここに何かは一人しかいない。

まったく、今朝と同じくだな。
100 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:30:49.66 ID:4Jx7eI/a0
男『あー、起こしてしまったかな?』

『起こす…私、寝てたの?』

男『ああ。ぐっすりとな。気分はどうだ』

『なんだかふわふわするわ。この前もそう』

男『この前、とは?』

『えっとね、叢雲と、司令官とお話した時よ』

男『ほほう。二人はなんて?』

『"妖精達が見えるか"って言ってたの。私、妖精なんて見た事ないから分からないと答えたわ』

男『それで』

『初めて見たわ。妖精っていうのを。とても小さくて可愛かった』

男『なるほど』

過去の船の記憶がない。そしてそれらを思い出そうとすると意識を失う。

しかしこうして艦娘として生まれてからの記憶はしっかりと残っているようだし、それを思い出そうとして意識も失わない、か。

当然妖精は知らない。

基本的な知識はやはりゼロか。
101 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:31:44.78 ID:4Jx7eI/a0
部屋の明かりをつけ彼女と並んでベットに座る。

『えと、男さん、よね?』

男『課長と呼んでくれ。そちらの方が馴染み深い』

『課長なの?』

男『課長だよ。課長ってのは分かるか?』

『そこそこ偉い人』

男『…大体合ってる』

『課長さんはどうしてここに?貴方も鎮守府の艦娘なの?』

男『いや、俺は…人間だよ。司令官と同じね』

『貴方も、私とは違うのね』

男『そうとも言えるな。君は鎮守府についてどれぐらい知っている?』

『えっと、司令官が一番偉くて、その補佐を叢雲がしてて、他にも艦娘っていう人達がいっぱいいるって。それくらいしか聞いてないわ』

男『なるほど、ありがとう』

どうやら最低限の情報だけで留まっているようだ。これならば多少はやりやすい。
102 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:32:19.65 ID:4Jx7eI/a0
男『俺は鎮守府の人間じゃない。この鎮守府は海軍に属するものだが、俺はその軍とは、まあ少し別の組織から来た者だ』

『…派遣の人?』

なんでそんな知識はあるんだよおい、とは言わない。そんな事で意識を失われては困る。

男『そんなところだよ、多分』

『何をしに?』

男『今回は、そうだな。教師としてだな』

『先生なの?』

男『そういう事もやっているんだ。例えば歴史なんかを教えたりな』

『歴史の先生なのね』

男『主に近代史だがな。でも好きなのは戦国時代だ。君は歴史と聞いてなにか連想するものはあるかい?』

『んーそうね。平安時代とかかしら』

男『大正時代なんかはどうだ?』

『大正時代?』

そう。彼女の唯一の特徴。

現時点で唯一の手掛かり。服装はどういうわけか大正時代のものに通じるものがある。何か覚えていればいいのだが。
103 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:33:05.37 ID:4Jx7eI/a0
『あまりぱっと思いつくものはないわね』

男『…それもそうか』

なるほどな。大正時代という存在は知っているわけか。

もう少し踏み入ってみるか。

男『昭和時代なんかはどうだ?』

『昭和…えっと、大正の次で、それで…』コテン

男『ダメか…』

意識を失った彼女は俺の体によりかかってきた。

やはり大戦時の記憶が欠損していて、そこを中心に関連する記憶も抜けているようだ。

第二次世界大戦を中心にそれに近い記憶程抜けていて離れる程影響は少ないといったように思えるが、ここら辺はまだ検証次第だな。
104 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:33:39.53 ID:4Jx7eI/a0
再び彼女をベットに寝かせ布団をかける。

そういえばこの分だと着替えもしていないようだが大丈夫なのだろうか。

パジャマとはいえずっとこのままというわけにもいくまい。風呂も、まあ寝たきりならそんなに要らないか?

いや、俺が心配してもしょうがないか。

明かりを消し牢屋に鍵をかける。

そう、牢屋だ。そう意識すべきだろう。

彼女をここから出すには、やはり相当な時間がかかりそうだ。

普段使われていないせいか明かりも少なくすっかり暗くなった廊下を執務室に向かって歩く。
105 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:38:47.70 ID:4Jx7eI/a0
しーちゃんペンライトゲットだぜ

色々と忙しい時期ですが大規模作戦が始まってしまいました。
戦力層の薄い鎮守府なのでしっかり様子見です。

今後神風にはしっかりお風呂に入ってもらうし漏らしてもらう予定なのでそこまでは頑張ります。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/02(月) 05:08:22.60 ID:QdK25AIvO

これはお漏らしに期待せざるを得ない
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/02(月) 13:20:54.03 ID:rP+SrCKEO
神風ちゃんと言ったらお漏らしだからね仕方ないね
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/03(火) 12:32:40.38 ID:BXrInFt/0
おつ
次も楽しみに待ってる
109 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:29:37.44 ID:PrUZMYEX0
男「失礼します」

執務室を扉をノックし声をかける。

提督「ああ、どうぞ」
『げっ!』

男「…ん?」

入室の許可に混じって何やら不穏な声がした。

ここで考えもなく扉を開けた自分を詰りたくなる。

瑞鶴『…』ムスッ
金剛『…』

提督「あー、お疲れさま」

男『邪魔でしたかな』

提督「いや構わないですよ。少し座って待っててください」

男『ええ』
110 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:30:37.75 ID:PrUZMYEX0
ソファに座り提督の方を見る。

彼のいる立派な机の前にこちらに背を向け二人の艦娘が並んで立っていた。何かの報告の最中だろうか。

僅かに緑がかったツインテールと迷彩柄の巫女装束のような服という特徴的な姿をしているのは空母の瑞鶴だ。迷彩ということは改装はしているらしい。

チラと振り向き突然やってきた邪魔者に対して隠すこと無く敵意を向けてくる。高めの身長に反して幼さの残る顔はまるで膨れっ面をする子供のような印象を受ける。

もう一人はブラウンのロングヘアに白ベースに赤のラインというまさに巫女服といった容姿。世間での知名度も高い戦艦金剛だ。

しかし金剛は瑞鶴と違った。こちらを横目で一瞥したときのあの冷ややかな視線は思わず鳥肌が立つ程だった。

彼女がどういった意図を持っていたにせよ一般人でしかない俺にとってそれは殺意と何ら変わらない威圧感だった。
111 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:31:34.33 ID:PrUZMYEX0
会話はどうやら船団護衛の編成についてのようだ。流石にこういった話は素人の俺には分からない。

しかしこれ長くなるだろうか…明らかに部屋の空気が重い。俺のせいで話し合いに支障が出てなければいいが…

提督「よし、じゃあ続きは明日の演習で試しながらにしよう。二人ともお疲れ様」

瑞鶴『はーい。提督さんもお疲れ〜』

金剛『お疲れ様デース提督ぅ!明日もよろしくネー』

二人が部屋の入口へ向かう。

機嫌の悪さを隠そうともしない瑞鶴とは対照的に普段と変わらない金剛。二人の性格がよく現れて

金剛『"課長さん"も、お疲れ様ネ』

男『…あぁ、お疲れ様』

そういう事か。怖い怖い。抑揚のない冷めた労いの台詞で察する。

課長呼びということは飛龍からの情報は鎮守府にちゃんと広がっているようだ。

わざわざ言ってきたという事は牽制、線引きという訳だ。流石は戦艦金剛と言ったところか。
112 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:32:47.63 ID:PrUZMYEX0
提督「いやぁタイミングが悪かったみたいで申し訳ない」

男「構いませんよ。遅かれ早かれ彼女達とは接触しなければならないんだ」

提督「今叢雲を呼んだのでそのまま待っててください」

男「OK」

提督「僕も失礼して」ドサッ

机から離れソファに深々と腰を預ける。

男「どうですか、そこの椅子の座り心地は?」

来客に備えてか随分と立派に作られている机を見ながら問いかける。あの椅子では長時間の作業は負担だろう。

提督「それはどっちの意味で?」

男「え?あぁ、いや、ハハッ。貴方の思う方でいい」

思いがけない反応に、しかしつい笑いが零れた。

提督「堅苦しくてしょうがない。でもどうにも居心地がいい」

間違いなく本音だろう。そう確信させる目をしていた。"どちらの意味の回答でも"、それが本心だろう。
113 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:33:26.77 ID:PrUZMYEX0
男「羨ましい」

提督「本気で?」

男「それなりに」

提督「座り心地はもう少し良くなって欲しいのですけれどね」

男「それは無理でしょうね。何せ作っているのがアレだ」

提督「あれ、いいんですかねそんな事言って」

男「椅子職人の話でしょう?」

提督「おっとそうでしたそうでした」

叢雲「あら、いつの間にか随分と打ち解けてるじゃない。それでいいのよ、それで」

提督「おー叢雲」

男「いつの間に…というか早いな」

叢雲「勿論。司令官の要望には即座に答えられるようにしているわ」ドヤァ

提督「もはやストーカーレベルだよね」ハハハ

叢雲「は?」ピキ

男「…」

褒めたつもりなんだろうなーこの男は。朴念仁なのか?
114 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:34:34.19 ID:PrUZMYEX0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲「それで、どうだった?一日あの娘(こ)といて」

男「一日と言っても会話ができたのは二回だけだ」

提督「二回?午前中以外にも目を覚ましていたんですか?」

男「ついさっき。それなりに会話はできましたよ。何かを思い出させなければ会話自体はそれほど問題ない」

叢雲「問題は私達の目的がその思い出させる事って点ね」

男「とりあえず先の会話で今後の大まかな方針は決まった」

提督「ほう、それは」

男「まず彼女は鎮守府という組織を一切知らない。ここの事もここにいる3人と他に大勢の艦娘という人がいる、という認識しかない。それを逆に利用しようと思う」

叢雲「利用?」

男「俺が教師として彼女につく。艦娘とはこうやって生まれた時は何も知らないから勉強が必要なんだと言ってな」

提督「あー、あぁ!なるほど。それは良さそうだ」

叢雲「確かに…彼女の負担は少なそうね」
115 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:35:55.00 ID:PrUZMYEX0
男「と言っても現時点での、あくまで大まかな方針です。様子を見つつ彼女の反応を見てその都度調整は必要になるでしょう」

提督「ならこれから暫くはこの時間にこうして集まって報告を聞き話し合うとしましょう。専門家じゃないけれど僕らも手伝いはできるはずです」

男「それはありがたい。ひとまずはそれで行こう」

叢雲「それで、細かい方針は何かあるの?」

男「方針というか、今とりあえず知りたいのは食事が必要かどうかかな」

提督「うん。何せあの調子だから今の今まで何も摂取できていないんだよね。艦娘である以上"栄養摂取"は不必要だけど"食事"は必要だ」

叢雲「とは言えいきなり食堂というわけにもいかないものね。何か簡単に持ち運べる軽い物でも用意させとく?」

提督「そうしてくれると助かる。俺としてもな」
116 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:36:29.13 ID:PrUZMYEX0
叢雲「そういえば夕餉はどうしたの?完全にスルーしてたけど」

提督「あっ」

男「食堂で食べたよ」

叢雲「あら、やるわね」

提督「なんか来客感全然なかったから忘れてたね」

男「飛龍のおかげでな、助かったよ。明日からは気をつける」

叢雲「へぇ飛龍が。ふぅん」

提督「いつもは来客には別室で少し豪華なものを出したりしてるんですけどね。いやほんと申し訳ない」

男「馴染んでると言ってくれるならそれが一番ですよ」

叢雲「明日はどうするの?」

男「別室とまではしてもらわなくても、でも出来れば二人のどちらかとは一緒が望ましいな」
117 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:37:07.08 ID:PrUZMYEX0
提督「ならそうしましょう。食堂に馴染めるように」

叢雲「…明日って報告書あったわよね」

提督「あ゛」

男「報告書?」

叢雲「近海の調査報告書よ。深海棲艦(ヤツら)の動向を週一くらいで報告しなきゃなのよ。どんな小さな動きも見逃さないようにね」

男「ほぉ。それは知らなかったな」

提督「」

叢雲「終わるの?」

提督「」

叢雲「…」

提督「」

男「これは?」

叢雲「日頃からコツコツやらない怠惰な男の哀れな末路よ」

提督「ホント申し訳ない」
118 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:38:02.68 ID:PrUZMYEX0
叢雲「てことでアンタはそこで仕事。私が食堂行くわ」

提督「無慈悲な…」

叢雲「安心なさい。後で私がご飯持ってきてあげるから」

提督「えーじゃあ誰かに夕飯作ってもらおうかなあ」

叢雲「」ピクッ

男「作ってもらう?」

提督「秘書艦は日毎に他の艦に変わってもらったりしてるんですよ。そこでいつからかその日の秘書艦とご飯を食べるのが流れになってて、僕が作ったり向こうが作ったりと色々とね」

男「ほお」

艦隊内でのコミュニケーションのためか。中々いいアイデアだ。

しかし料理までできるのかこの男。

提督「日中はどうしても艦隊の運用に時間を取られるのでご飯を作ってくれたりすると空いた時間を他に回せましてね」
119 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:40:01.36 ID:PrUZMYEX0
叢雲「な、なら一緒に食堂行けばいいじゃない」

提督「報告書書かなきゃだから行けないって話だろ?」

叢雲「」

男「…」

あ、これはあれか。察した。

提督「それに秘書艦の制度も君の負担軽減のためにやってる所もあるんだしそこまではしなくても大丈夫だよ」

叢雲「…そう」

男「よ、よろしく頼むよ」

叢雲「ッ…」キッ

うわ睨まれた。どう考えてもとばっちりだろ俺は。
120 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:40:33.15 ID:PrUZMYEX0
提督「では明日からはそういう事で」

男「あ、ああ…」

いいのかなぁそういう事で。口出すことじゃないんだが。

叢雲「司令官っ!」バンッ

提督「うおっ!」
男「えっ?」

叢雲「徹夜よ」

提督「は?」
男「ん?」

叢雲「徹夜で終わらせるわよ」

提督「…へ?」
男「あー…」

目がマジだ。
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