【艦これ】神風「最初の一人」

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1 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:38:15.76 ID:LAC9GZ1m0
まだ朝の冷ややかさが残るとある鎮守府。

その敷地内の端に位置する建物の廊下に俺達は立っていた。

男「中々立派な部屋ですね」

扉の前で俺はそう言った。

勿論言葉通りの意味ではない。

他の部屋とは明らかに材質の違う頑丈な壁。

ちゃちなドアノブがあまりにも不釣り合いな堅牢な扉。

間違いなく中からではなく外から監視するためにある覗き穴。

これを牢獄だと言って否定する者はいないだろう。

普段から使われていないのか一切の気配を感じられないこの建物の中でさえ異質と言えた。

提督「でしょう?上から口酸っぱく言われましてね。可能な限り"いい"部屋になってますよ」

そう言って隣の男は肩を竦める。

俺と殆ど変わらない身長で、軍人とは思えないほどの細身を白い軍服で包み、いかにも知将といったふうな黒縁の眼鏡と、それとは対称的に柔和な顔立ちをしている。

どうやら俺の言葉がいくばか皮肉を含んでる事は理解しているようだ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1572115095
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/27(日) 03:41:39.86 ID:LAC9GZ1m0
男「最後に、もう一度その時の状況を聞かせてもらっていいですか?」

提督「もう一度?報告書に事細かにまとめたはずですが」

男「こういうのは本人に直接聞いた方がいいんですよ」

提督「ほほう。なんだがプロっぽくていいですね」

自分をプロ、と言っていいのかは分からないが理由はそんなんじゃない。

上を通して届けられる文字の羅列なんて一切信用が出来ないというだけだ。

提督「そうですね、報告書と違って長々と書く必要もないので要点だけ話しましょう」

男「お願いします」

言葉の端から伝わってくるくだらないしきたりへの反骨精神に思わず頬が緩んだ。

早朝この鎮守府に到着してからこの部屋に来るまでの僅かな時間だけだが、基本的にこの男の印象は悪くない。
3 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:42:31.34 ID:LAC9GZ1m0
提督「この鎮守府もそこそこ大きくなってきましてね、戦力の拡大をと既存の建造方法で、狙いとしては駆逐艦か軽巡ですね」

自分の艦隊の成長が嬉しくて仕方ないと言うような顔で話すこの男が、少し羨ましく思えた。

提督「材料の方は割愛しますが、ともかく建造方法は特に異常はありませんでした。ですから彼女の姿を見た時は正直かなり混乱しましたよ」

「彼女」という単語を素早くインプットする。

良かった。

少なくともこの男は艦娘を人として扱っているようだ。

少しだけ肩の力が抜ける。
4 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:44:01.73 ID:LAC9GZ1m0
提督「身体の大きさから見て駆逐艦なのは間違いないと思いますが、服装や装備がこれまで目にしたものとはまるで違うんですよ。ウチの艦娘達も心当たりはないと言いますし、お手上げです」

少なくとも同型艦はいない、か。

まあそういった新型の艦娘だからこそ俺が呼ばれているわけだが。

提督「本人も記憶は一切無し。とりあえずは、保護、して。上に連絡を取って今に至る。とまあこんな感じですかね」

"保護"という柔らかい表現ですら躊躇する辺よほど彼女が心配なのだろう。随分と優しい男のようだ。

男「彼女の様子は?」

提督「会話は出来ます。身体も特に問題はありません。艤装は使い方が分からないので展開出来ないようですが」

男「それを聞いて安心しましたよ」

提督「…やはりそうでない場合も?」

男「無言で撃たれたパターンはまだ2回しかありませんよ」

提督「…」

察してくれたようだ。
5 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:44:51.85 ID:LAC9GZ1m0
提督「これがこの扉の鍵です。窓は格子が付いてますし、一応は唯一の出入口です」

男「確かに」

受けとった鍵に付いている兎のキーホルダーについては後で聞いてみるか。

提督「破壊による強行突破の際はこちらが責任をもってあたりますが、扉からの逃走はそちらの問題になりますのでよろしくお願いしますよ」

男「ええ。お互い責任がありますから」

提督「お昼前までに執務室まで来てください。昼食の後にここを案内しますので」

男「分かりました」
6 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:45:26.84 ID:LAC9GZ1m0
提督「それでは私はこれで」

そう言うと今しがた来た廊下を戻っていく。

男「…」

なんとなくその後ろ姿をじっと見てみる。

あ、振り返った。

一瞬目が合ったかと思うと物凄い速さで向き直し早歩きで曲がり角へ消えていった。

そこまで恥ずかしがらずとも…

よほど心配なようだ。
7 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:45:53.84 ID:LAC9GZ1m0
男「さてと」

解れた緊張を繋ぎ直す。

覗き穴から扉付近に彼女が居ない事を確認してドアを開ける。

音を立てないようにドアを閉め靴を脱ぐ。

さて報告通りならば…

部屋は扉を開けてすぐの部屋のみ。彼女を探すのは難しくない。

奥の方に置かれているベットに目をやる。
8 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:46:22.74 ID:LAC9GZ1m0
男「…」

「ン~」

寝ている。せっかくの集中力が一気に霧散する。

男「緋色…」

彼女の姿を見て思わず呟いてしまった。

色というのも艦の大切な判断材料になるのだが、しかし緋色なんて色の艦あったか?

「ムニャムニャ…」

…むにゃむにゃなんて本当に言う奴がいるとは。

男「さてどうするかな」

寝ている以上無理に起こしてもしょうがない。

「ンッ…スー」

反応、のようなものがあった。聞こえてはいるらしい。

男「さっさと執務室に行っちまうか」
9 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:47:09.86 ID:LAC9GZ1m0
くるりと向きを変え扉に向かおうとしたその時だった。

「行かないで」グィッ
男「おぉ!?」

ズボンの裾を引っ張られた。

振り返ると彼女は目を擦りながら俺を見つめていた。

「ん、え〜っと?貴方は?」

男「俺は、男ってんだ。よろしく」

あまりに急な事に頭がフリーズした。まるで機械のようなギクシャクした挨拶をしてしまう。

「よ、よろしく。私は、私…は……ふにゃ」パタン

1度起こした体が再び布団に倒れる。

男「…oh」

桜模様があしらわれた緋色のパジャマから臍と右の肩が顕になっている。

まるでメデューサのようになっているボサボサな紅色のロングストレートが彼女の寝相の悪さを如実に物語っていた。

報告1:自身の記憶を呼び起こそうとすると気を失う。

なるほどそのようだ。
10 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:49:46.21 ID:LAC9GZ1m0
また長くなりそうな話を…

タイトル通り嘘偽りなく神風の話です本当です。
基本的に神風えっちいなと思いながら書いているので秋刀魚や鰯を獲るついでにでも読んでいただければ幸いです。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/27(日) 09:29:39.71 ID:pAL8RsDGo
きたい
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/27(日) 10:15:16.34 ID:z5frhazvO
神風ちゃん好きだから嬉しい
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/28(月) 13:10:22.85 ID:1N/+sYbto
期待
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/28(月) 15:35:53.43 ID:KYTItMAYO
続きはよ
15 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:46:00.87 ID:rqljmlHD0
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提督「大体寝てるんですよ。原因は、まあ記憶の欠落なんでしょうね。心理学とか脳科学とかそういう分野の話なんでしょうか」

男「でしょうね。彼女が人間だったら、ですが」

場所、執務室。

結局気絶した彼女はその後目を覚ます様子がなかったため早々に切り上げる事となった。

テーブルを挟んで置かれた二つのソファにお互い向かい合うように座る。

叢雲「はいコーヒー。熱いわよ」

男「ありがとう」

俺と提督の間の机にコーヒーが2つおかれる。

叢雲「何かいるかしら?」

男「いやこのままで結構だよ」

ここの秘書艦は叢雲だという。

腰まである薄らと雲のかかった空の様な色のロングヘア。姉妹艦の中で唯一ワンピースの様になっている白の制服。鋭い目付きとそこから覗くオレンジ色の大きな瞳。

駆逐艦らしい矮躯には不釣り合いな言動に不思議と違和感を抱かせない独特の雰囲気があった。
16 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:46:48.95 ID:rqljmlHD0
叢雲「あらブラック?ウチの司令官と違って大人ね」チラ

提督「一言多いよ」

チラと提督の手元を見ると既にミルクが2つ空けられていた。

叢雲「ねえアナタ歳は?」

提督「叢雲、あまり馴れ馴れしくするもんじゃ」
叢雲「いいじゃない。これから暫くはここにいるんでしょう?」

男「構いませんよ」

叢雲「で、幾つなのよ。四十手前?」

男「…三十一歩手前だ」

叢雲「あら、えーっと。深みのある顔ね!」

男「一言多いわ」

思わず素が出てしまった。

提督「君ねぇ…」

叢雲「てへっ」

チロと舌を出しておどける。

悪びれる様子はない。
17 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:47:34.82 ID:rqljmlHD0
叢雲「というかアナタ達殆ど同年代じゃない。よそよそしく敬語なんて使ってないでもっと馴れ馴れしくしなさいよ」

提督「君はもう少し馴れ馴れしさを抑えた方がいい」

男「お互い立場もあるんだよ」

叢雲「はぁぁめんっどくっさいわねえ」

これだから人間は、と呟きながら隣の部屋に消えていく。

コーヒーを持ってきたし簡易的な台所があるのだろうか?

提督「悪いね。まあ彼女いつもあんな調子なんでよろしくお願いします」

男「ああ、よく分かりましたよ。よそよそしいよりはいい」

提督「そう言ってくれると助かりますよ」

お互いに少し口調が砕ける。
18 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:48:26.07 ID:rqljmlHD0
男「で、彼女の事だが」

提督「ええ、見てもらったのなら大体わかったと思いますが」

男「初対面の時もあんな感じで?」

提督「とりあえず自己紹介をと名乗ったらその後にパタン、と。その後も何回も会話はしたけれど、長く話していると段々意識が薄くなっていくようで」

男「意識に絶対量でもあるのか。だとしたら確かに記憶の欠落が原因なんでしょう」

提督「というと?」

男「記憶も知識も積み重ねです。こうした会話ですら例外ではない。言葉やイメージ、相手の表情。色々な情報を無意識のうちに俺達は処理してる。

そしてその処理は生まれた時から今日までの全てに支えられているものです」

叢雲が運んできたコースターを手に取る。
19 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:49:12.32 ID:rqljmlHD0
男「勉強でもよく言われる土台が大切というのは生きる上で殆どの事に当てはまる」

コースターを机に置き、その上に残り半分となったコーヒーのカップを乗せる。

提督「土台があるから乗せられる、と」

男「ええ。でもこの積み重ね以上の物は乗せられない。鎮守府の作戦書なんかを俺が読んでも、気絶とまではいかなくてもきっと知恵熱がでるでしょうよ」

提督「買い被りすぎだよ。書類は所詮書類です」

照れと苦悩が入り交じったようなその顔は、彼がここの提督である事を改めて実感させた。

男「ところが彼女はその土台がない。タチが悪いのはまるっきり無いのではない事だ。会話や最低限生活に支障がない程度にはある。その中途半端さが原因でしょう」
20 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:50:14.72 ID:rqljmlHD0
叢雲「土台がまるでないなら赤子のように何でも吸収できる。なまじ変に土台が残っているせいで受け止め損ねて、中身のコーヒーをぶちまけてショートする、ってことかしら」

男「正解。かどうかは分からいけどな。少なくとも俺はそう思った」

隣の部屋から戻ってきた叢雲は自分用らしいカップを手にしていた。自分のコーヒーを作っていたのだろう。

ウサギの顔が描かれたカップだ。

提督「なるほど。その継ぎ接ぎだらけの記憶を戻していかないといけないわけか」

男「おそらくは」

提督「大変な仕事だね」

男「他人事じゃあないですよ。下手すりゃ1年ここにいる事になるかもしれないんだ」

提叢「「1年も!?」」

男「最高記録は358日。後は大体2ヶ月以内で長かったのはそれっきりですが」
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