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絵里「例え偽物だとしても」

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670 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 19:49:51.65 ID:dIWqa2t10


ババババッ!


穂乃果「!」シュッ

理亞「…絶対に許さない」

理亞「姉様を傷つけた罪は重いよ」カチャッ

穂乃果「…これほどまでに頭がおかしくなりそうな感情はないね」

穂乃果「希ちゃんが死んだ時もそうだったよ、無限に湧き上がる怒りが抑えられずにイライラしてた」

穂乃果「そして今もそうだよ、せつ菜ちゃんを傷つけたあなたが憎い。痛めつけたい、泣かせたい」


穂乃果「殺したい」


穂乃果「だからもうブレーキは要らないね」


穂乃果「“穂乃果”も許さないから」


理亞「…初期型ってやつは一人称を変えると行動パターンが変わるんだっけ、分かりやすいね」
671 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 19:50:32.69 ID:dIWqa2t10
穂乃果「…そっちは随分と分かりにくい特徴があるんだね」


聖良「……あまり使いたくなかったんですけどね」


穂乃果「ナイフを弾く腕って何?アンドロイドの域から外れてるよね?」

穂乃果(もしせつ菜ちゃんが振ったナイフの先が普通のアンドロイドか人間であったら勝負はついてた、けどこの相手は違う)

穂乃果(最新型のアンドロイド——最先端の技術がコーティングされたアンドロイドは何故かせつ菜ちゃんのナイフを腕だけで弾いた)

穂乃果(……それはつまり腕が硬かったからナイフを弾いたんだ)
672 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 19:53:27.19 ID:dIWqa2t10
穂乃果「…気持ち悪いね」


ババババッ!


穂乃果「!」シュッツ

理亞「御託はいいよ」

穂乃果「…そうだね」


穂乃果「じゃあやろうか!」ドドドドッ


穂乃果(確かに相手の言う通りだ、御託はいい、さっさとけりをつけてしまいたいのはどちらも同じ)

穂乃果(せつ菜ちゃんは胸を貫かれただけでまだ死んではいない、相手のお姉ちゃんも動けないだけで生きてはいる。ならどっちも早くけりをつけて早く相方を安静な状態にさせたいに決まってる)

穂乃果(だから穂乃果も相手も長期決戦は望んでなかっただろう、相手は武器の軽さを活かして突貫してきてるしこの戦いはすぐに決着がつくと思った)
673 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 19:57:01.63 ID:dIWqa2t10


タッタッタッタッ


穂乃果(相手がこちらへ突っ走ってくるならこっちはしっぺ返しを狙うのみ、こちらへ飛んでくる銃弾は横へ跳躍して躱しそれでも近づいてくる相手に私はナイフを逆手で横に振って応戦した)

穂乃果「はっ!」ブンッ

理亞「分かりやすいね」シュッ

穂乃果(だけど相手はしゃがんで軽々しく避けてくる、でもそれは予想済み。第二の攻撃はもう用意してた)


穂乃果「いつも上から目線なのがむかつくね」


穂乃果(ナイフを振った後は飛び膝蹴りで相手の顎を狙った)


理亞「だって上だからね」シュッ


穂乃果(だけどそれすらも横への跳躍で避けてきた、可能性の一つとしてこの攻撃を避けるっていうのはちゃんと予想してたけどいざ避けられると少しこの戦いがイヤになる)

穂乃果(…だけどイヤになってても仕方ない、避けられた後飛んでくる蹴りは飛び膝蹴りの隙で避けることが出来ない。だから腕でガードすることを選んだ)
674 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 19:58:34.11 ID:dIWqa2t10



穂乃果「ぎっあああああっ!?」



穂乃果(…ガードはした…けど、骨にまで届くような打撃は声に出してしまうほどの激痛だった。今まで受けた蹴りとは比べ物にならない痛み——痛すぎて腕が動かなかった)

理亞「勝負あったね」ドカッ!


穂乃果「がっ……」


理亞「軍神とはいえ初期型が最新型に勝とうなんて片腹痛いね」

穂乃果(痛みで怯む私に止めの蹴りが私のお腹に当たった。そうすればどうなったんだろう。まるで魔法でも使われたみたいに体が宙に浮いて十数メートル離れたコンテナに叩きつけられ、たちまち口からは悲劇的な血が噴射される、最新型の近接威力は桁外れでそれを熟知してなかった私はこのインフレの波に呑まれてしまった)


スタスタスタ


理亞「色々言いたいことはあるけど、今は時間惜しい。だからさよなら」カチャッ


穂乃果(穂乃果に向けられた銃口————感じる射線はどうすることも出来ずただ見守って死を待つだけだった。また負けるんだ、なんて不甲斐ない終わり方なんだろう)

穂乃果(後十秒でもあれば痛みが引いてまた動けるようにはなるはずだけど、そんなたったの十秒が長くて長くて生き延びるのは絶望的。せめて道連れにでもしていきたいけど、していける手段がない)

穂乃果(……ごめん、絵里ちゃん。せつ菜ちゃん。希ちゃん。)


穂乃果(穂乃果……勝てなかった………)

675 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:00:12.18 ID:dIWqa2t10



「待つずらっ!」バンバンバンッ!



理亞「!」シュッ

穂乃果「はな…まる…ちゃん……!?」

穂乃果(信じられない光景だった。穂乃果の一番身近なところにいた人で、この人の事はよく知ってるつもりだったから尚更目を疑ったんだ)


穂乃果(銃を発砲出来ないはずの花丸ちゃんがショットガンを連射してたんだ)


理亞「何…!?」

花丸「あなたの相手はマルずら!」

穂乃果「は、花丸ちゃんっ…はダメだよ…!」

穂乃果(あの姉妹と戦闘を起こす前、このコンテナが多い場所に来た時明らかに罠だと確信し、花丸ちゃんを待機させた。その行動は今振り返ってみれば正解だったと思う、この姉妹との戦いに花丸ちゃんがいたらきっと花丸ちゃんは死んでしまうから)
676 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/05(土) 20:02:02.39 ID:dIWqa2t10
花丸「食らえっ!」ポイッ

穂乃果(だけど、花丸ちゃんは命を失う恐怖に臆することなく果敢にも攻めた)

穂乃果(近距離特化である希ちゃんのショットガン——AA-12は至近距離でやり合えば相手に反撃の隙も与えない超高火力だ、だから相手を一度引かせて追撃に花丸ちゃんはグレネードを投げた)

穂乃果(そして花丸ちゃんはAA-12を二丁下げて希ちゃんの面影を感じさせてくれる背中を穂乃果に見せた)

花丸「穂乃果ちゃん、マル分かってたよ」

穂乃果「な、何が…?」

花丸「穂乃果ちゃんとせつ菜ちゃんじゃあの二人には勝てないって」

穂乃果「ど、どうして!?だって…うぅ…けほっ…」

花丸「無理しないで黙って聞いてほしいずら、時間も無いし」

穂乃果「………」
677 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:03:49.55 ID:dIWqa2t10
花丸「確かに穂乃果ちゃんやせつ菜ちゃんはアンドロイドという枠の中ならトップレベルで性能が良くて強いアンドロイド…だけど最新型アンドロイドは人の子をやめたアンドロイドずら」

花丸「常識に囚われない強さを持っていて、その常識に囚われない強さが何なのかも分からない状態で逃げ道のない殺し合いをしたら死ぬに決まってるずら」


花丸「穂乃果ちゃんたちとあの二人じゃ持ってるカードの枚数が違いすぎるんだよ」


穂乃果「………」

花丸「…だけどマルはそれを言わなかった、だってそれを言ってもプライドが高い穂乃果ちゃんには逆効果だったからね。むきになって冷静に立ち回れなくなっちゃうと思ったずら」

花丸「だから少しは穂乃果ちゃんたちが勝てるかもって期待したけどやっぱり無理だよね、ただ安心して?今回のこの負けは負けには加算されないよ、だって相手が異常すぎるから…」


花丸「————それに、今ここでマルが勝つからね」


穂乃果「…!けほっ…それってどういう————」
678 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:04:45.33 ID:dIWqa2t10
花丸「喋らなくていいずら、だけど“最後に”言わせてほしいずら」


花丸「マル、希ちゃんの下に就けたり穂乃果ちゃんやせつ菜ちゃんと戦線を共にする仲間になれて幸せだったずら!」ニコッ


穂乃果「……ぇ?」

花丸「じゃあね、マルいってくるよ」ダッ

穂乃果「え、ま、まっ…ぐっ…けはっ……!」

穂乃果(意味深な事を言って花丸ちゃんはさっきのグレネードで発生した煙の中に突っ込んでいった。動転した気と切羽詰まったこの感情と再発しだす痛みは私の口から汚れたモノを出して花丸ちゃんを追うのを許してくれなかった)
679 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:06:04.87 ID:dIWqa2t10


タッタッタッタッ


花丸「………」

花丸(…マルは銃が使えなかった)


花丸(まず第一にトリガーを引くのが怖かった)


花丸(これを引いたら人が死ぬ、そう考えるだけで銃の何もかもが怖くなる)

花丸(でも、銃は好きだった。小さい頃はモデルガンをよく買ってもらったりして遊んでた。だけどマルの家はお寺だったからお寺外で尚且つお寺のイメージを崩さないよう人にばれないよう静かに遊べという決まりはあった)


花丸(…そして第二に、トリガーを引いた後鳴る甲高い銃声と跳ね上がる肩の感覚が嫌いだった)


花丸(銃はカッコいい、けど所詮それは人を殺める道具に過ぎない。普通の人間じゃ回避不可能な弾速で飛び殺されたことに気が付けないまま人が死んでいく、その一瞬で起こる悲劇を見てしまったからマルはトリガーを引くのが怖かった)


花丸(……そしてその悲劇のトリガーを引いたのはマルだった)

680 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:07:39.10 ID:dIWqa2t10




花丸(最後…第三に、マルは拳銃で親を殺したことがあるから銃が怖かった)




花丸(…ある日お母さんの買い物ついでに銀行に寄った時だったよ、架空の作品でもよく見る絵に描いたような銀行強盗がやってきて場は騒然で、マルもその騒ぐ一人だった)

花丸(その後は色々あったけど、簡単に言ってしまえば立てこもりみたいな膠着状態になってそこで動いたのがマルだった)


花丸(強盗の数は全員で五人、その五人全員がマルを視界から外した瞬間を狙って一人の男の拳銃を奪った。強盗が持ってた銃はM45 MEUで装弾数は八発、手に持った瞬間それが分かった)

花丸(だからこれで充分と思った、次の瞬間には一秒で二人殺す流れで強盗を全員殺した。モデルガンやエアガンで射撃は飽きるほどした、だから拳銃もエアガンなんかのそれらと感覚は全く同じで放った弾丸は面白いように相手の胸を突き抜けた)

花丸(その時はトリガーを引く感覚が快感でたまらなかったけど、またその次の瞬間にはそれが吐き気になった)


花丸(一人の強盗を貫いた先にマルのお母さんがいた)


花丸(…結果としてその事件の死人は六人だった。強盗五人と————)


花丸(——マルのお母さんが死んだ)

681 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:09:26.06 ID:dIWqa2t10
花丸(…マルがまだ子供だったってこともあってその時は正当防衛で認められたけど、その後のマルの生活は酷いものだった。大量の記者が押し掛けるし、学校ではいじめが発生するし、近くの住民からは恐れられるし、とても精神を正常にして生きていくには困難な環境下に陥った)

花丸(だからマルはある日決意したよ、ここを出ようって。小さい頃の弱い頭を使いお小遣いを全部持ってどこか遠くへ行ってしまおう、そうすれば何か変わる。そう思ったずら)

花丸(…だけど現実はそう甘くない、マルの行った先はここ東京。マルの地元静岡から丁度よく離れたところだったからここでいいやって思った。けど如何せんここは危ないところで水準物価もバラバラ、街中には怪しげな人がズラズラ。とても弱いマルが生きていけるところじゃなかった)


花丸「………」カチャッ


花丸(だから次第に残り少ないお小遣いは尽き無一文になって生きるための力を失った、もう静岡へ帰るお金も無くなってしまったから)


『帰るところに困ってるなら、ウチの下に就かない?』


花丸「…ありがとう、希ちゃん」

花丸(そこでマルは運命の人に出逢った。希ちゃんが死にかけのマルを助けてくれた)
682 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:10:37.09 ID:dIWqa2t10


『困ったことがあったらこの私にお任せです!』

『花丸ちゃんは情報収集をして、私は花丸ちゃんと希ちゃんの為に殺害をするから』


花丸「…ありがとう、穂乃果ちゃん、せつ菜ちゃん」


花丸(そして希ちゃんとマルのところに来た二人のアンドロイドはとても優しくて強かった。夏は海に行って楽しんだ、冬はこたつにくるまってみかんを食べてた。そんな普通の生活の中でみんなといるのが幸せで幸せで仕方がなかった)


花丸「さて……」スタスタ


花丸(…だけどそれも今日で終わり。これでマルのお話はおしまい)

花丸(続きはもうないからさっさと終わらせるずら)


花丸(エンドロールをね)

683 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:12:20.09 ID:dIWqa2t10


タッタッタッタッ


理亞「あなたよくも…ッ!?」

花丸「最悪ずら、せっかく明日かよちゃんのライブに行こうと思ってたのにこんなことしなきゃなんて」バンッ!

花丸(煙が無くなる頃にはもうマルと相手との距離はほぼゼロに等しかった。その中で希ちゃんのショットガンを二丁使って連射する。アンドロイドとはいえ魔法は使えない、だからこのマルと相手にある距離を伸ばすことは出来ない)

花丸「あなたの使ってる銃はミニ UZIずら、軽い分機動力が上がるけど銃から放たれる弾丸の威力の期待値はそこまで無くて人を殺すには充分だけど脅威として認識させるには不充分ずら」

花丸「今ここでそれを撃ってみるずら、弾切れが起こったら今度はマルのショットガンを避け続けるだけのゲームになるね」バンバンバンッ!

理亞「なにこいつ…!」シュッ


理亞「…でもいい、そこまで言うなら撃ってあげるよ」


理亞「人間風情があまり調子にのらないで!」ババババッ!
684 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:13:01.59 ID:dIWqa2t10
花丸「はっ!」シュッ


穂乃果「!」


理亜「その靴…!」


花丸「曜ちゃんに貸してもらったずら!」バンッ!


花丸(マルだってそこまでバカじゃない、ちゃんと対策くらいはしてる。けど、これはある意味賭けだった)

花丸(銃弾は避けれても銃弾の射線は見えない、だからどこに避けるかはマルのセンス次第だった)


花丸「後はマルのゲームだね!」バンバンバンッ!


花丸(…そしてその賭けに勝った今、マルのしたいことがようやく出来るずら)

花丸「はっ!」

花丸(マルの本来の戦い方であるナイフを使って相手に吐息が感じれる距離まで顔を詰めた。反撃も何もかもを恐れずにナイフを振れば、それに恐怖を覚える顔を相手はした)
685 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:14:29.08 ID:dIWqa2t10


ガキンッ!


花丸「!」

花丸(だけどそんなフルスイングのナイフもたった一つの腕で弾かれる)

理亞「勢いだけは今までで一番すごかったけど、それが私に通るかと言われたら無理だね」


花丸「…知ってる」


理亞「あ?」

花丸「きっと単純な銃の撃ち合いや近接のやりとりじゃどうやってもマルはあなたに勝てない、なら単純なことをしなければいいだけの話ずら」


ガシッ


理亞「っ!?何っ!?」

花丸「はっ!」

花丸(弾かれたマルはすぐに体勢を立て直し相手の腕を掴んで姉の方向へ流した、マル自身あんまり力が強くないからそこまで距離は伸びなかったけど姉の近くにやれただけでも充分)
686 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:16:17.93 ID:dIWqa2t10


タッタッタッタッ


花丸「ずらっ!」

花丸(そうして流した妹の方へ突っ走った、相手はすぐに体勢を立て直し“近接”で応戦する準備をしてる。きっとここで相手に弾があったらマルの負け。だけど相手には弾がない————サブとしてハンドガンを持ってない相手には近接でマルの攻撃を対応するしかないんだ)


花丸「これで終わりずらっ!」タッタッタッタッ


理亞「近接なら負けない!」



ギューッ



理亞「…え?」


花丸(近づいた瞬間飛んでくる右ストレートを避けてマルは相手に抱き着いた)

花丸(きっとここにいる誰もがマルの行動の意味を理解してなかったと思う、例え最新型の知能でも、経験を積み過ぎた穂乃果ちゃんでも誰もマルのしたかったことが分からなかったはず)
687 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:17:40.33 ID:dIWqa2t10


理亞「…っ!?グレネード!?」



花丸「…これでおしまいずら」



ドカーン!!



花丸(マルが抱き着き相手と密着する中で擦れる丸い物体——それに気付いた時にはもう遅い)

花丸(きっとこのアンドロイドも命が複数ある、なら話は早い)


花丸(爆発物で一気に命を削ればいいだけ)


花丸(でも最新型とは言わずアンドロイドという相手に爆発物を当てるのは至難の業。一対一じゃまず無理、だけどマルはみんなとの戦いにはついていけない、だからこうするしかなかった)

花丸(穂乃果ちゃんでもせつ菜ちゃんでも勝てない相手に勝つ唯一の方法。抱き着くことで私と相手の位置を固定してその間にピンを抜いたグレネード挟む、そうなった時にはどんな抵抗をしてももう遅い。暴れてもマルを殺してももう遅い、遅すぎるずら)

花丸(マルと相手の間で起きた爆発はすぐに私と相手とその近くにいた姉を呑んだ。ただそれだけでこの戦いは終わった)
688 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/05(土) 20:19:08.17 ID:dIWqa2t10


穂乃果「うそ………」


穂乃果「ウソ…だよね…?嘘だよね…!?」

穂乃果「ねえ!嘘だよね!嘘って言ってよ!ねえ花丸ちゃんッ!!」


穂乃果「………」


穂乃果「そんなっ……!」

穂乃果(目の前で起こった爆発が消えれば無惨な死体が三つ出来上がってた。敵であったアンドロイド二人は中身である部品が出てきててとても見れたものじゃない)


穂乃果「花丸…ちゃん…!」


穂乃果(…だけどこの花丸ちゃんの死体はもっと見るに堪えないモノだった。全身のほとんどが黒く変色して、片腕がもげてもう花丸ちゃんとして原形をとどめていなかった)
689 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:20:06.28 ID:dIWqa2t10
穂乃果「…こんなのって」


ポロポロ……


穂乃果(思わずひざをついた。これが勝利?そんなのあり得ない)

穂乃果(これじゃあ何もかもが希ちゃんの時と同じ)


穂乃果(穂乃果はまた大切な人を守れなかったの?)


穂乃果(そう思うと、自分の軍神という異名がイヤになる。なんだ、穂乃果全然強くないじゃん…)

穂乃果「!」

穂乃果(悲しんでれば飛んでくる射線、名前も顔も知らないここの研究員が穂乃果に拳銃を向けてた)

穂乃果「………」

穂乃果(それを見て我に返った。悲しむのは後、今はこのせつ菜ちゃんを持ち帰るのみ。だから穂乃果はすぐに行動に移した)
690 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:20:32.19 ID:dIWqa2t10


穂乃果「…こちら穂乃果、聞こえる?」


曜『聞こえるよーどうしたの?』

ことり『聞こえてるよ』


穂乃果「新型アンドロイドの二人はやった、けど……」


曜『けど?』


穂乃果「…花丸ちゃんが死んだ、せつ菜ちゃんは生きてるか死んでるかも分からない重傷だから穂乃果とせつ菜ちゃんは戦線を離脱するよ」

ことり『え、う、うん…』

曜『…そっか、でも悲しむのは後だね。とりあえず了解だよ』
691 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:20:59.54 ID:dIWqa2t10


穂乃果「今無線拒否してる絵里ちゃんにも伝えといて」


曜『了解、帰るまでが遠足だよ、最後の最後まで死なないようにね』

ことり『遠足じゃないけどね…』


穂乃果「分かってるよ、それじゃあ」


ピッ


穂乃果「………」


ダッ

692 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:22:46.65 ID:dIWqa2t10
〜一方その頃、十分前

スタスタスタ

絵里「…Y.O.L.Oってこんな迷路みたいな場所なのね」

ルビィ「迷子になっちゃいそうだね…」


果林『どうやらY.O.L.Oを守ってるアンドロイドは三人じゃなくて五人いるらしいわ』


絵里「四人目と五人目のアンドロイド…本当にいるのかしら」

ルビィ「あまりウソを言ってるようには見えなかったけど…」

絵里「でも入ってアンドロイドどころか人すらいないのよね…」

ルビィ「…曜さんや穂乃果さんたちが荒らしてるからかもね」

絵里「…そういえば他のみんなは何してるのかしら」

絵里「無事だといいけど…」

ルビィ「………」

絵里(あれからして私とルビィは何事もなくY.O.L.Oへ入った。曜とことりには連絡したけど曜とことりはどうやらその四人目と五人目のアンドロイドには会ってないらしくてますます謎は深まるばかり)

絵里(それに私たちのいるところにはアンドロイドどころか人すらいない、意味不明な機械が並ぶだけのこの空間で人一人いない静まり返った雰囲気は実に不気味だった)
693 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:24:21.01 ID:dIWqa2t10
ルビィ「…こういう機械も破壊しておいた方がいいんじゃないかな……」

絵里「確かに……」

絵里「じゃあ破壊しときましょうか」

ルビィ「うん、そうしよっか」

絵里(私は曜やことりとは違って爆発物を用意してない。もちろんグレネードはあるんだけどこれは用途がまた違う)

絵里(それにこの辺の機械だけ壊すって言うなら爆発物に頼らなくてもハンドガン一丁で充分。そう考えた私は謎多き機械にハンドガンの銃口を向けた)


「お姉ちゃん?」


絵里「!!」

ルビィ「!」

絵里(そんな時声がした。後ろ——すぐ後ろから聞こえるこの声はどこかで聞いたことがある、随分と久しぶりで心地の良い声。この場所で声が聞こえるっていうのは不気味かもだけど、私にとっては心地の良い声だった)

絵里(その声の人物は————)
694 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:26:18.90 ID:dIWqa2t10


絵里「亜里沙!?」


亜里沙「お姉ちゃん!!」

絵里(そこには私の妹である亜里沙がいた。数か月ぶりに見た私の妹は相変わらず可愛くて、家でもよく見る私服姿だった)


亜里沙「お姉ちゃーん!」ダッ

絵里「亜里沙ー!」ダッ


絵里(感動的ではないけど、この再開を嬉しくないと思う私と亜里沙はいない。お互いがお互いの方向へ走り出し、私は一秒でも早く亜里沙の肌に触れたかった)

ルビィ「…!」ダッ


亜里沙「お姉ちゃん会いたかったよー!」

絵里「私もよ亜里沙っ!」

695 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/05(土) 20:30:19.66 ID:dIWqa2t10


ルビィ「させないっ!」


ガキンッ!


絵里「っ!?」

絵里(私と亜里沙が抱き合う直前、それは当然横から来たルビィが私たちの間に入り亜里沙とルビィの間で甲高い音が鳴った)


ギギギギ……


ルビィ「…その刃物は何?」

亜里沙「………」

絵里「えっ…え?ど、どういうこと…?」

絵里(突然の状況に頭がついていけてなくて混乱を起こす一方で、少し経つとルビィの持つ刃物と亜里沙が持ってる刃物が軋んでるのが確認出来た)
696 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/05(土) 20:33:06.54 ID:dIWqa2t10
ルビィ「…ルビィの目が正しいならその刃物は明らかに絵里さんに対しての殺意が込められてたと思うんだけど」

亜里沙「………」

絵里「亜里沙…?一体どういうことなの…?」


絵里「! ルビィ後ろへ跳躍して!」


ルビィ「っ! うんっ!」シュツ


バァン!


「あちゃー外しちゃったかー」

絵里(目の前の出来事が私の頭の中で段々と整理されていき、その答えが見えると私の心臓が大きく悲鳴を上げだした。そんな中で見えた射線はルビィの頭を貫いてた)


ルビィ「くっ……」


絵里(私の警告が後少しでも遅かったらルビィは死んでただろう、逃げ遅れたルビィの可愛らしいツインテールの一つが銃弾によってほどけた)
697 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/05(土) 20:35:52.13 ID:dIWqa2t10
絵里「…亜里沙、説明しなさい。これはどういうこと?」

亜里沙「………」


亜里沙「はーあっこれでお姉ちゃんはやれると思ったんだけどなー」


絵里「…!」

絵里(私の妹である亜里沙から出る言葉は絶望への一言だった。無邪気な亜里沙が今とんでもないことを口にした、それを聞くだけで全身が震えて吐き気がする)

ルビィ「…やっぱりあなたたちなんだ」


ルビィ「ここの四人目と五人目のアンドロイドって」


亜里沙「そう、でも普段はこんなところこないよ、来たくないもん」

亜里沙「でも最近は色々ありすぎて私たちはいつもここで寝泊まりだったよ」

絵里「………」

ルビィ「絵里さんしっかりして…」

絵里「え、ええ……」
698 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:38:03.20 ID:dIWqa2t10
亜里沙「安心してお姉ちゃん、亜里沙とお姉ちゃんは姉妹————殺すことはしないよ」


亜里沙「半殺しで済むから」


絵里「………」クラッ

ルビィ「絵里さんしっかり!」

絵里(これは夢よ、夢なのよ)

絵里(そう信じたくて目を瞑っても世界は変わらない。戦いが辛いことばかりなのは知ってる、けどこんなの聞いてない)


絵里(私が最も信頼してる存在から裏切れた)


絵里(その真実が——事実が辛すぎて目眩が止まらない。私の本能がこの現実から逃げようとしてる)
699 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:39:30.47 ID:dIWqa2t10
「…私、あまり一方的な戦いは好きじゃないんだけど」

亜里沙「いいよ、お姉ちゃんは亜里沙がやるからあの人をやってよ——」


亜里沙「————雪穂」


雪穂「分かってるって、すぐに片付け…られればいいんだけどね」

ルビィ「…あなたは相手を舐めてかからないんだね」

雪穂「真剣勝負が好きだからね、下に見るなんてダーティーなことはしないよ」
700 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:40:48.09 ID:dIWqa2t10
絵里「……ルビィ」

ルビィ「! 絵里さん大丈夫?」

絵里「…ええ、なんとか。ルビィは亜里沙じゃないほうをやって。私は亜里沙をなんとかするから」

ルビィ「分かったよ、でもみねうちとか考えてるんだったらそれはやめたほうがいいよ…そんな余裕は絶対にないよ」

絵里「……覚悟してるつもりだわ」

絵里(現実はイヤでも変わらない)

絵里(私がレジスタンスとなってから今に至るまでいっぱい現実から逃げたくなる出来事があった、それと比較すればこの一件もその一つに過ぎない。いくら現実がイヤになってもそのまま一方的に殺される運命を辿る私はどこにもいない)


絵里(このアンドロイド隔離都市東京を変えたくて私は動いてるのよ、何があったって死ぬまでは挫けちゃいけない)


絵里(…峰打ちなんて甘いことを考えてるわけじゃない、けど亜里沙と戦うのにまだ覚悟は足りてない。だけどここまで来て絶望には負けたくない)

701 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:43:10.56 ID:dIWqa2t10


亜里沙「…行くよ、お姉ちゃん」


絵里「……ええそうよね、行かなくちゃよね」

絵里(…結局私と亜里沙の関係も銃弾で語るのね。いくら私の敵とはいえ亜里沙は私の妹、そんな亜里沙も私と戦う事には覚悟と躊躇があるように見えた)

絵里(でも、お互い譲れない思いがある。それに従って今ここで最悪の戦いが始まるのでしょう)

絵里「………」


カチャッ


絵里(覚悟を決めた私はスコーピオンEVOを手に持った)

絵里(横を見れば既にルビィと雪穂って子が戦っててこちらも数秒後には戦いが始まるらしい)

702 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:44:01.80 ID:dIWqa2t10


千歌『果南ちゃん! っあ……』

善子『…ぁっ!?』

果南『あ…れっ……?』


絵里(…私の始めた戦争でもう三人死んだ。だからその死を無駄にはしたくない)

絵里(元はといえば私は亜里沙の姉————姉である私が妹に負けるわけにはいかない)

絵里(可愛い姿だけど、強さはきっと並外れたモノだ。だからそう——)


絵里「————お手並み拝見と行きましょうか」


絵里(そう言い鳴らす始まりの合図。スコーピオンのトリガーを引けば亜里沙は跳躍をするんだけど穂乃果や果南ほど跳躍は鋭くないしその時の亜里沙の顔は苦しそうで他の新型ほど余裕が感じられなかった)
703 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:46:55.63 ID:dIWqa2t10
絵里「リロード! ルビィ!」


ルビィ「任せてっ!」ドオーン!


亜里沙「くっ…」シュツ

絵里(ルビィに宿った才能は全部で四つあった)

絵里(一つは射撃術、一つは空間認識能力、一つは近接戦闘センス)


雪穂「私と戦ってる合間に…!しかもスナイパーで…」


ルビィ「出し惜しみなんて器用なことルビィ出来ないから」


絵里(そして最後が親譲りの判断力よ)


絵里(黒澤家は銃が主流の現代でも剣術を嗜むところよ、私は武道をよく知らないから何とも言えないのだけど武士は迷わないらしい)

絵里(それは死ぬことも厭わぬ覚悟を持った行動を常に行うという意味であり、ルビィは私の声を聞き多少の無理をしてでも亜里沙へスナイパーの発砲を行った。ルビィの百発百中の腕前とこの肯定まっしらぐらな判断力は相性が良すぎる)

絵里(…正直、私たちレジスタンスの中で一番強いのは穂乃果でもなければ曜でもなく)


絵里(ルビィなんだと思う)


絵里(…少なくとも私はルビィを敵に回したら勝てる自信がないわ)

704 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:48:59.40 ID:dIWqa2t10
絵里「はっ!」バリバリバリバリ!

亜里沙「んっ!きつっ…!」


雪穂「亜里沙!」


亜里沙「きっ…」シュッ

絵里(物陰やアンドロイド特有の瞬発力でスコーピオンの弾を回避するけど、それでも私の放つ銃弾は亜里沙の皮膚を剥いでいく。腿、腕、横っ腹、頬と様々なところから赤い涙が出てきているのが確認出来た)

亜里沙「亜里沙だって負けてないよお姉ちゃん!」ドドドド!

絵里「ええっ!でも曜や凛と比べたらまだまだね亜里沙っ!」ダッ

絵里(向かう射線は随分と分かりやすいもので、私の頭に一直線だった。亜里沙がトリガーを引けば私に銃弾が飛んでくるんだけどそれも変則撃ちでもなければ偏差撃ちでもないただ動く私へ向けての射撃)


絵里「…?」


絵里(…あれ?私今Y.O.L.Oを守るアンドロイドと戦ってるのよね?)

絵里(なんだろう…亜里沙の行動があまりにも普通すぎて何かおかしく感じてしまう)
705 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/05(土) 20:51:49.41 ID:dIWqa2t10


絵里「接近戦はどう?亜里沙!」ブンッ!

亜里沙「全然いけるよ!」シュッ


絵里(腰にかけてたマチェットを横に振れば亜里沙は姿勢を低くして回避する、そして次に亜里沙がやるのは私のお腹に向かっての掌底だった)


絵里「!!」


絵里(…なんだろう、この既視感。どこかで見たことある気がする)

絵里(なんでか分からないけど、でもこれは気のせいじゃない。絶対にどこかで見たことある)


絵里「ふっ」


絵里(…まぁ何はともあれ私はその掌底をヒット直前に、両手で手首を掴むことで止めた)
706 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:52:51.11 ID:dIWqa2t10


絵里「随分と分かりやすいのね!」ドカッ!


亜里沙「がっ…!」

絵里(そしてお返しとして間髪入れずにお腹に向かって飛び膝蹴りで亜里沙を後方へ吹っ飛ばした)

亜里沙「うっ…げほっ…」

絵里「………」

絵里(跳ね飛ばされ機械に叩きつけられだらしなく涎を垂らす亜里沙を見ると心が痛くなる。愛すべき妹を痛めつけてるというのだからとてもそこで普通にしてはいられない)

絵里「…亜里沙?もうやめにしない?きっと他の道があるはずよ、私と亜里沙は戦うべきじゃないでしょ?」

亜里沙「おね…げほっ……お姉ちゃんが降伏してくれるならそうだね、戦うべきじゃない」

絵里「……それは無理ね」

亜里沙「ならこの話は無しだね、亜里沙がY.O.L.Oを守るアンドロイドで、お姉ちゃんがそれを倒すべく動いてるなら亜里沙とお姉ちゃんは一生敵のままだよ」

絵里「………」
707 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:53:52.77 ID:dIWqa2t10
亜里沙「にしてもお姉ちゃんは強いね、亜里沙びっくりしちゃったよ」

亜里沙「亜里沙一応戦闘型アンドロイドなのに押され気味でどうしようって今必死に考えてるんだよ?」ウーン

絵里「…!」

絵里(…そうだ、亜里沙は戦闘型アンドロイド。なのにどうして動きがこんなにも鈍いの?)

絵里(確かに戦闘型アンドロイドは強さに個体差がある、けどそれ以前にこれじゃあY.O.L.Oを守るどころか自分を守ることすらできない)

絵里(それに亜里沙は私より後に生まれた私より性能の良いアンドロイド、なのになんでこうも私が一方的に勝ってるの?)


絵里「…いいわ、なら再開しましょう。待たせてたら向こうでやってるルビィに申し訳ないからね!」ダッ


絵里(こうして会話をして亜里沙の体力が回復するのはよくない、決めるなら即行——これに限る。だってその方が亜里沙が苦しむ姿を見ずに済む)
708 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:55:19.51 ID:dIWqa2t10


タッタッタッタッ


絵里(走りながら弾倉に約20発残ったスコーピオンの銃弾を放つ、連射するとすぐに弾がきれるけどその短い時間で近づければ何の問題もない。私の中で攻めるなら近接と亜里沙への戦い方が決まってるからね)

絵里「はっ!」

絵里(亜里沙へ近づいた私は上段回し蹴りで一気にノックアウトを狙った)


亜里沙「それくらいなら亜里沙も躱せるよ!」

絵里「ええ、そうよね」


絵里「だからこそそれは読めてたわ」


絵里(私の上段蹴りに対して亜里沙はしゃがみの一手、だけどそんなよく見る回避の仕方をするんならこっちにだって対処法がある)


絵里「こっちは躱せるかしらッ!!」


絵里(躱された直後に後ろ回し蹴り——亜里沙がしゃがんだ直後だったから狙わずとも私の蹴りは亜里沙の頭に当たる)
709 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:56:55.20 ID:dIWqa2t10


亜里沙「ッ…!」クラッ


絵里(多少の躊躇はあったけどそれでも強烈だった私の蹴りは亜里沙に脳震盪を与えた。戦闘型アンドロイドの戦闘センスとも言われるモノは頭に蹴りを食らっても切り返しの早さと絶妙なバランス感覚で倒れないけど、脳震盪による怯みは避けれない)

絵里(片手で頭を押さえる亜里沙を見れば勝利はほぼ確実だった、次に私はマチェットを取り出して心臓目掛けてマチェットを突き出した)


亜里沙「んくっ…!」シュッ


絵里「!」

絵里(でも亜里沙は苦し紛れに横方向への跳躍を行い私の突き刺しを躱し、頭を押さえながらもう片方の手に持ってたサブマシンガンのトリガーを引いた)

絵里「浅いわね…」

絵里(しかし思わず言葉に出してしまうほど亜里沙の射撃は拙かった、脳震盪で麻痺してるのは分かる。けどいくらなんでも動かなくて大丈夫っていうのは少しまずい気がする)

絵里「…もういいわ」

絵里(これ以上亜里沙の苦しむ姿を見たくない。だからもう楽にしてあげようと思った…いや、峰打ちで済ませようと思った。これくらいの相手なら峰打ちだって可能なはず、だからスコーピオンのリロードをして亜里沙に向かって走ればばらつく射線が飛んでくるけどほとんどが回避する必要のない射線でその射線をかいくぐりながらスコーピオンで亜里沙の足元に向かって発砲した)
710 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 20:57:57.33 ID:dIWqa2t10


亜里沙「んっ…」シュツ


絵里「! また……」

絵里(そろそろ脳震盪の影響も軽くはなると思うんだけど、それでもまだ目眩とか起こるはず、それなのにスコーピオンの弾をなんとか回避して機械の物陰に隠れてみせた。やけに粘るわね…)


絵里「隠れても無駄よ!」

亜里沙「そんなの分かってる!」


絵里(でも隠れて場が膠着するほど緊張感はない、あるのはむしろ緊張感を切り裂く戦いへのボルテージだ。その熱に巻かれた私は隠れた亜里沙の元へ突っ走って跳躍と同時に決め撃ちをした)


亜里沙「えいっ!」ポイッ!


絵里「甘いっ!」


ピカーン!


絵里「くっ…」

絵里(私と亜里沙が目が合う頃に飛んできたスタングレネードは私のスコーピオンで跳ね飛ばした、けど着弾と同時に強い閃光を辺りにばらまき一時的に私と亜里沙の動きを止めた)
711 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:00:01.34 ID:dIWqa2t10


タッタッタッタッ


亜里沙「そこだ!」


絵里「っ!?亜里沙っ!?」

亜里沙「亜里沙だってやれば出来るんだからねッ!」

絵里(だけど閃光の中で私の元へ突っ走ってくる亜里沙に焦らずにはいられない、足を止めるほど眩い閃光の中でどうやってここまで来たのか確かめるために腕と腕の隙間から前を見れば亜里沙は目を瞑ってた。だから音だけでここまで来たんだろう)


亜里沙「まずは一撃っ!」ドカッ!


絵里「っ……けはっ…」

絵里(ゼロ距離で姿を現した亜里沙を前に回避の術はなくて、未だに私の視界を奪う閃光に腕を奪われ無防備な私のお腹に入る強烈なパンチはとても可愛い亜里沙からは想像できない威力だった)

絵里(しかしそれで倒れてなんかいられない、痛いなんて感じていれば次の瞬間には上段回し蹴りが飛んできてそれを回避するためにしゃがめば追撃に後ろ回し蹴りが飛んできた)
712 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:02:03.45 ID:dIWqa2t10


絵里「ッ…!!」


亜里沙「今度は亜里沙のターンだね!」


絵里(…なんだろう、この違和感。亜里沙の蹴りは私の頬にヒットし頭にダメージが入りさっきの亜里沙と同じように脳震盪を起こした。けどそんな中で感じるこの何とも言い難い感覚は何?)

絵里(ここまで戦って亜里沙はそこまで強くないと思った、けど後一歩——殺すまでがなぜか遠く感じる。それは殺すことへの躊躇いとかではなく後一歩のところで亜里沙が謎の粘りを見せてくるから中々仕留められない)

絵里(それに違和感はそれだけじゃない……でも、その違和感が何なのかが全く分からない。亜里沙と戦ってると何かがおかしいと感じる、でもその正体がずっと掴めないままでいる)


亜里沙「亜里沙は耐えたんだもん!お姉ちゃんも耐えてよね!」


亜里沙「雪穂!手伝って!」

雪穂「はいはいっ」バンッ!


絵里「くっ…!」シュッ


絵里(亜里沙とは別に雪穂から飛んでくる銃弾を苦し紛れに躱した、けどここで私はイヤな感覚を覚える)
713 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:03:02.33 ID:dIWqa2t10
絵里「あっ…」ズコッ

絵里(跳躍の着地際で酷い目眩が起こり私のバランス感覚が決壊した。その結果目眩と相まって立ってるのが困難になり這いつくばるような状態で私は倒れた)


亜里沙「チャンス!亜里沙のヒッサツの一撃をお見舞いしてあげる!」ダッ


絵里(すぐに起き上がろうとしながら後ろを振り返れば刃渡り十数センチのナイフを両手で持った亜里沙が宙に浮いていて死のタイミングが近いと察した)


絵里「…!!」


絵里(まただ、この違和感。なんなのかしら……)



凛『これは凛の全てを込めたお返しだよッ!!!』



絵里「…見たことある」


絵里「その攻撃は見たことあるッ!!」バンッ!


亜里沙「っ!?」

絵里(酷い既視感だった。記憶を辿った時に見える凛のあの時の姿と今の亜里沙の姿は酷似してる)

絵里(それ故に、私は一方的にはやられなかった。一回見たことがあったから対処法が分かった、ほとばしる違和感からの解放感が私の脳震盪を一瞬でかき消した。目眩が消えた瞬間定まる亜里沙への心臓のフォーカスに私は銃弾を放った)
714 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:06:38.53 ID:dIWqa2t10


亜里沙「っ!でもこれならっ!」ブンッ!


絵里「!!!」


果南『でも私相手じゃ“いつも通り”は通用しない!絵里には絶対に戦ってもらうよ!』ブンッ!


絵里「またっ…!」

絵里(まただ。宙に浮く亜里沙は咄嗟に体を捻り横方向へ高速回転し、空中で体が横方向へ動く慣性を作り銃弾を回避した、そしてその慣性を利用して横方向にもう一回転し、振り向きざまに既に持ってたナイフと回転途中腰にかけてた二本のナイフの計三本を指と指の間に挟んで投げてきた)

絵里(そうして感じるのは回避の意識ではなくて激しい既視感。ナイフを投げるまでの行動は違えど投げる時の姿は果南そのものでそんな姿を見れば飛んでくるナイフを見ずともナイフの場所が分かってしまう)


絵里「ならこうすればよかったのね果南!」


絵里(あの時は暗かったのもあって超すれすれで避けた、けど一度見た後だとこの時の対処法が自然と浮かんでくる、分かっている)

絵里(飛んでくる三本のナイフに対してする行動はこうよ)
715 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:08:44.44 ID:dIWqa2t10


絵里「銃に比べたら弾速が遅すぎるわね!」ズサー


亜里沙「なんでっ!?なんでそれを避けれるの!?」

絵里(スライディングで躱す、きっとあの時もこれで対処して発砲していれば私は勝っていただろう)

絵里(そしてそうと分かってるこの状況ではこのフィールドは私のモノ。スライディングと同時に残弾数10発のスコーピオンを発砲、そうすればどうなったかしら、その銃弾は亜里沙の胸を————)


亜里沙「まだ終わってない!」


絵里「それはっ…!」


絵里『まだ終わってないッ!』


絵里「………」

絵里(あの時の私と全く同じだった。丁度左手がハンドガンがかけてある左腰にあったのを良いことに、着地際で右へ跳躍し左方向へハンドガンを発砲。そうすれば“あの時”と同じように跳躍にブーストがかかりその後の着地は困難なものにはなるものの銃弾は避けれるモノへと変わる)
716 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:10:23.45 ID:dIWqa2t10
亜里沙「ぐっ…」

絵里(跳躍した後の展開も私と全く同じだ、力んだ顔が固まって背中から地面へと不時着した)

絵里「亜里沙…!」

亜里沙「はぁ…はぁ…はぁ…」

絵里「…一つ聞いてもいいかしら?」

絵里(しかし私は追撃にいかなかった、亜里沙が起き上がる時間にスコーピオンをリロードして亜里沙の息が落ち着くのを待った)

絵里(…それが舐めた行動だったとか慈悲だったとかそういうのではなかった)

絵里(死人に口なし————ここで知っておきたいことを知る為に私は今亜里沙に問う)

亜里沙「はぁ…はぁ………何?」

絵里「…今のハンドガンで跳躍にブーストをかける技術、どこかで学んだの?」

亜里沙「まさか、亜里沙のアドリブだよ。いくら相手が亜里沙より強いお姉ちゃんとはいえこんなすぐには終わりたくないもん、だから例え無理だとしても強引にやらなきゃお姉ちゃんには勝てないよ」

絵里「………」

亜里沙「それに諦めたくないんだよ、最後の最後まで抗ってカッコいいままでいたい」


亜里沙「一人の妹として、お姉ちゃんに負けたくない」


絵里「…そう」

絵里(…ダメ、何も分からない。何か掴めそうだったにも関わらず掴めたのは疑問符だけ、こんなことなら追撃すればよかった————なんて言うわけじゃないけどリターンが無さすぎるのは何とももったいない気持ちになる)
717 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:11:20.93 ID:dIWqa2t10
絵里「…ふぅ」

絵里(しかし切り替えは大事、こんな相手にチャンスを与えるような甘いことをしてるけどこれは遊びなんかじゃない、正真正銘の殺し合いなんだから次に放つのは私の言葉じゃなくて殺意のこもった銃弾でしょう)


ルビィ「隙ありっ!」バァン!


絵里(小休止する亜里沙に飛んでくるのはルビィのスナイパー弾、スナイパーにとって——いや、銃火器を持つ者にとって動かない相手はただの的。不意をつけばそれに反応してすぐさま対応しないといけなくなるので余分な体力を使わせることが出来るから当たっても当たらなくても出し得だったでしょうに)

絵里(…でも、次の瞬間は何かがおかしかった)


亜里沙「それはさっき見た!」シュッ


バンッ!


ルビィ「っ!?」シュッ

絵里「ルビィ!」


雪穂「ナイス亜里沙!私も負けてられないね!」ババババッ!


ルビィ「この子……!」ダッ

絵里(アンドロイドは射線が見えるとはいえ完全な不意打ちだった。それなのに亜里沙は回避と同時に射撃という完璧な対応をしてみせた)

絵里(これにはルビィもビックリしてた上に、回避もかなりギリギリだった。これは曜の跳躍ブーストの靴がなければおそらくルビィは死んでたでしょう)
718 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:12:05.62 ID:dIWqa2t10
絵里「…いや」

絵里(…違う、そんなことを言いたいわけじゃない)

絵里(今一番焦点を当てるべき点はどう考えても————)


亜里沙『それはさっき見た!』


絵里(——亜里沙のその驚異的な対応力だろう)

絵里(見たかも怪しいくらいの攻撃を一回で回避し、攻撃に転じるまでした。最初こそ予想を大きく下回る実力に浅い考えが出てきてたけどこの潜在的な力には少し目を配る必要がありそうね…)


絵里『その攻撃は見たことあるッ!!』


絵里「……あれ?」

絵里(待って、違う。見たことある、その亜里沙の様さえも見たことがある)

絵里(一度見た行動を次見た時には完璧な対応で対処するその様……)
719 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:13:08.52 ID:dIWqa2t10


亜里沙『今度は亜里沙のターンだね!』


絵里(それにあの亜里沙の上段回し蹴りからの後ろ回し蹴りは私が最初にやった攻撃……)


絵里『こっちは躱せるかしらッ!!』


絵里(さっき私がやった攻撃パターンにそっくり……)

絵里「…!!」

亜里沙「…?」


絵里「A-0613…!!」


絵里(いや分かってた、亜里沙の識別コードくらいはね。でもそうよ、識別コードの英語の次の数字が0だとそれは誰かの後継機とされていて、その後継機のオリジナルは0の後のコードと花丸は言っていた)

絵里(それに従えばもちろん亜里沙は私の後継機になる、私のコードはF-613——亜里沙のコードはA-0613…それが何を意味するのかといえば)


絵里(私と亜里沙は同じなんだ、やることや特徴、そして性能が)

720 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:14:45.55 ID:dIWqa2t10
絵里「!!!」

亜里沙「…お姉ちゃん?」

絵里(あぁ…まずい…気付けば気付くほど新たな真実が見えてくる)


千歌『絵里さんは何かやってたんですか?武術とか』

絵里『んー特にそういうのは』

真姫『じゃあ生まれつきであんな動きが出来たってこと?』


絵里(…そうよ、そうじゃない。私は標準型アンドロイド、なのに戦闘型アンドロイドや対アンドロイド特殊部隊の人間と戦える。それは何故?何故なのか?)


曜『標準型アンドロイドなのに、どうして戦闘型アンドロイドや高い戦闘力を有した人間と戦えるの?』


絵里(…その答えは)



絵里(私が今まで色んな人の戦いを見てきたから色んな人の戦法や武術が使えるんだ)



絵里(…それは銃を持つことになったこのレジスタンスの一件で私の強さは一気に加速したのよ)

721 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:15:32.75 ID:dIWqa2t10


ことり『強くてごめんねっ!』


絵里(ことりの中国拳法やアサルトライフルの射撃術)


希『あなた面白いやんねっ!』


絵里(希のショットガン裁きや手品のような技術)


曜『ふふふっ分かってるよ、あなたがそれをやるのだって』


絵里(曜の体術や先読みの意識)


凛『躱さないでちゃんと受け止めてよ!』


絵里(凛の本能的な動きやアクロバティックな身のこなし)


果南『スコーピオンなんて怖くないね!』


絵里(…果南のクライミング術や強引なその姿勢)


絵里(…なんで私気付かなかったんだろう、真似してみたら出来たとかそんな人が持ってる技術を簡単に真似出来るわけないじゃない………)

絵里(ことりの中国拳法も曜の先読みの意識も、凛のアクロバティックな身のこなし希のショットガン裁きも試したことないけどきっと使えるんだろう)


絵里(…だって見たことあるもの)

722 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/05(土) 21:17:17.04 ID:dIWqa2t10


果南『絵里は色んな面を含めて最強なんだよ?絵里もよく考えてみてよ』


絵里(…あの時、果南はそう言った。そうよね、悔しいけど、認めたくないけど今なら肯定できるわ)

絵里(だって…だって……)



絵里(例えば私に、一度見た動きをコピー出来る機能なんかが搭載されてたら最強の他なんでもないでしょ?)



絵里(…私がアンドロイドである故に銃弾を回避し、窮地に立たされてもそれをなんとか出来る術がある。物事を数値化出来る、ピンチ脱却ルートを知ることが出来る)

絵里(だから格上でも粘れる、そうして粘った間に見た動きをコピーする)


絵里(そしてそれをすぐに自分のモノにする)

723 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:18:17.65 ID:dIWqa2t10
絵里(…つまり私、人間じゃない)

絵里(人間を元に造られたアンドロイドだ、でも人間じゃない……)



絵里(私は人を模して造られたアンドロイドじゃない!)



絵里「あ、え、あ……え…?えっ……?」


亜里沙「お、お姉ちゃんどうしたの…?」

絵里「あぅ…あ…うっ…」

絵里(上手く言葉が話せなかった。自分が何者なのか、それを知った途端私という存在が怖くなった)

絵里(市民権を得るために、人間と平等でありたいと願って色々起こしたというのに私が人間として設計されてないんじゃ千歌も善子も果南も、そしてにこも凛も海未も希って人も全て全て死んだ意味がない)

絵里(私が引いた始まりのトリガーは相対的にも直接的にも様々な人を殺した、その中で私自身がクロとなるの?)



絵里(私、何の為に戦ってるの?)


724 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:19:06.61 ID:dIWqa2t10


ポロポロ…


亜里沙「な、なんでお姉ちゃんが泣くの?ねえなんで?」

絵里(アンドロイドであり、多少人間より優れた点があるというのを考慮した上で私は人間であることにこだわりを持っていた。例えばそれは日常的に人間らしい——高校生らしい会話をして過ごしたり、一緒にお昼を食べたり)

絵里(例えばそれは、誰かと恋愛をしたり。例えばそれは、誰かとゲームで遊んだり)


絵里(例えばそれは、色んな面で優れた私が悪い行いを正す非人道的行為を無くす正義でありたかった)


絵里(標準型アンドロイドという人間に最も近いアンドロイドだったけど私は戦えた、だから戦った。でも、そうなのね、その正義感溢れる戦いすら私は八百長をしてたのね)

絵里(そう気づいた瞬間、冷めた。生きる?戦う?ううん、全てに対する熱を失った)
725 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:20:15.10 ID:dIWqa2t10


カチャッ


亜里沙「っ!?お姉ちゃん何してるの!?」

雪穂「!」

ルビィ「絵里さん…!?」

絵里(恐怖が混乱を招き、混乱が絶望を招く。絶望が退廃を招き、退廃が死を招く)

絵里(その場にいる全員が戦うことをやめて私に注目を集めた)


絵里「……ごめんなさい、ルビィ。そして亜里沙」


絵里(スコーピオンを手放して、腰にかけてたハンドガンの銃口に私の頭に当てた)

絵里(目を瞑るとより鮮明に感じる射線にはもう何の恐怖もない。今まであんなに必死に当たらないようにと避けてたのに、こんなにも潔く射線を貫かれる私がいるんだ。正直驚いた)




絵里「…こんな弱い私を許して」



726 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:20:50.27 ID:dIWqa2t10
絵里(そこからは時が止まった、世界が動かなくなった。真空に包まれたみたいに音が聞こえなくなって、まるで私が絵本の一ページであったかのように動かなくなった)

絵里(その中で微かな動きを見せる赤く染め上げられたその記憶は一体どれだけ禍々しかったんだろう、今となってはもう分からない)

絵里(…次にその世界はどんな動きを見せるのかしら、それももう分からない)

絵里(…ただ、きっと次この世界で最初に鳴る音はこんな音でしょう————)


バンッ!


絵里(——終わりのトリガーの音)

727 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/05(土) 21:21:23.23 ID:dIWqa2t10
今日はここで中断。
再開は明日か明後日にします
728 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 18:54:49.80 ID:hEQnKdja0


梨子「…はぁ」

果林「ちょっとまた私の溜め息吐かないでよ」

梨子「……そりゃあ吐きたくなりますよ」

果林「ええそうね、吐きたくなるわね」


歩夢「次はどういう手で来る?」


果林「死なないわねこの子」

梨子「死にませんね」
729 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/07(月) 18:55:35.95 ID:hEQnKdja0
果林「どうする?」

梨子「私にどうするって言われましても……」

果林「完璧に開き直ってるわね、撃たれても死なないことを良いことにグレネードにだけ当たらないようにしてる」

梨子「銃が銃として機能してないですね」

果林「ええ、というか一つ聞いてもいいかしら?」

梨子「なんですか?」

果林「なんでさっきからそんな冷静なの?もっと“どうすればいいんですか!?”とか“これじゃあ私たち負けちゃうじゃない!”とか言わないの?」

梨子「私にそう言ってほしいんですか?」

果林「そりゃあ言ってほしいわよ、年中不敵な笑み浮かべて変な事考えてる梨子が切羽詰まったセリフ言ってたら面白いじゃない」

梨子「…果林さんも充分冷静ですよね、無感情」

果林「えぇ酷い、私も一応人間なのよ?」

梨子「一応って何ですか…」
730 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/07(月) 18:56:44.14 ID:hEQnKdja0
果林「人殺すのに慣れちゃうとその刺激を上回る出来事が無くなって大して驚くことがなくなっちゃうのよね、最近の悩みだわ」

梨子「銃で撃たれても死なないってすごい驚くところだと思うんですけど…」

果林「死なない生き物自体は既にいるしそれがようやくアンドロイドにも行き渡ったって考えると案外すぐに受け入れられたわよ、鞠莉から初めて聞いた時は驚いたけど…あ、これ内緒ね♪」

梨子「あ、はい……」


曜「…何してるの?」


歩夢「!」

果林「あら、曜じゃない」

梨子「曜ちゃん!!」キラキラ

曜「誰かがべらべら何か言ってるなーって思って来たらまさか梨子ちゃんと果林さんがいるなんて…」
731 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/07(月) 18:57:17.28 ID:hEQnKdja0
ことり「………」カチャッ

曜「いいよことりちゃん、銃を下げて」

ことり「えっ…でも…」

曜「いいよ、なんか状況的に今は敵じゃないっぽいから」


梨子「…誰その女」


曜「…あ、やっぱり敵かも」
732 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/10/07(月) 18:58:33.73 ID:hEQnKdja0
果林「こんなところで会うなんて奇遇ね、そっちの調子はどう?」

曜「バッチリ…と言いたいところだけど絵里さんとルビィちゃんの連絡が取れなくて困ってるところだよ」

ことり「………」

果林「絵里?絵里なら四人目と五人目のアンドロイドを倒しに行ったわよ」

曜「四人目と五人目のアンドロイド…」

果林「Y.O.L.Oには三人のアンドロイドがいるのは知ってるでしょ?それとは別に実は四人目と五人目がいるらしいの、元々絵里とルビィって子は今そこにいる不死身のアンドロイドと戦う予定だったんだけど私と梨子が役を変わってその四人目と五人目のアンドロイドを倒しに行ってもらったわけ」

ことり「……最低」

果林「え?なんで?」

ことり「もしその話が本当なら絵里ちゃんたちは今頃あなたの実験体にされてるわけじゃん、何の情報も出てないアンドロイドを相手するより不死身って分かってるこのアンドロイドを相手にする方が勝率はいいでしょ?しかも人数の有利を取れるし」

果林「…別にそんなつもりはなかったのだけどね。鞠莉が一番危険視してたのはこのアンドロイドだったからこいつをやれって言われただけなんだけど」
733 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 18:59:27.05 ID:hEQnKdja0
梨子「…一つ言っていい?」

曜「ん?何?」

梨子「曜ちゃんには悪いんだけど…その絵里さんとルビィちゃんって子、連絡取れないんだよね?」

曜「えっうん」

梨子「それって————」


梨子「——死んでるんじゃないの?」


ことり「黙って」カチャッ

曜「…そうだね、ごめん。今はそれを言わないでほしい」

梨子「……ごめんなさい」

果林「………」

果林(あの梨子がナチュラルに謝った…)
734 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:00:51.56 ID:hEQnKdja0
果林「…私ことりのこともよく知ってるわ、やけにプライドが高い一匹狼だったからね。対アンドロイド特殊部隊に所属してからはイヤというほどことりという名前を聞いたわ」

果林「そんなことりが背中を追いかけ、曜までを従わせるその絵里ってやつは何者なの?」

曜「…希ちゃんの寛容さと鞠莉さんに似た意志を持った人かな」

果林「うわなにそれ最強じゃない」

曜「そう思うでしょ?」

果林「なるほど、絵里というアンドロイドがよく分かったわ」

ことり「分かったんだ……」

果林「…なら曜とことりがやるべきことは一つでしょ?」

曜「…うん」
735 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:02:02.03 ID:hEQnKdja0


曜「絵里さんのところへ行く」果林「絵里のところへ行く」


梨子「………」

果林「答えが出てるなら早く行ったら?しんで……おっとごめんなさい、なんでもないわ」

曜「あははっ果林さんが気遣ってくれるなんて珍しいね」

果林「私も人間だからね」エッヘン

梨子「一応をつけろ一応を」

果林「先輩に向かってその口の利き方は何かしら?」

梨子「はいっ!ごめんなさい!」

ことり「……漫才?」


歩夢「というか私を置いて話を進めないで…」


果林「あららごめんなさい、じゃあやりましょうか」


カチャッ


果林「最終ラウンド————そろそろいたちごっこも飽き飽きだわ」

736 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:02:45.44 ID:hEQnKdja0
曜「…じゃあ私たちは行くね」

果林「ええ、行ってらっしゃい」


曜「…勝ってね」


果林「えっ?う、うんもちろんよ!」

梨子「何戸惑ってるんですか…」

曜「じゃあ行こう、ことりちゃん」ダッ

ことり「うんっ」ダッ


梨子「はぁ…最悪」

果林「何がよ?」

梨子「曜ちゃんに距離置かれた…」

果林「自業自得じゃない」

梨子「…それは素直に認めます、だからこの怒りはあなたにぶつけるよ」

歩夢「…そんなとばっちりなんだけど」
737 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:04:47.26 ID:hEQnKdja0
梨子「…それについてはごめんと思う、だけど私とあなたは敵同士、戦って勝負を決めよっか」

果林「なんかやけにやらかくなってない?気のせい?」

梨子「気のせいですよ、やりましょうよ」カチャッ

果林「…気のせいじゃない気がするけどまぁいいわ、やりましょうか」


歩夢「望むところ!」


果林「……梨子、仕方ないけど対絢瀬絵里用にとっておいたEMPグレネードを使いましょう」

梨子「え、いいんですか?」

果林「さっきの曜とことりを見て絢瀬絵里は私たちの敵ではないことを確信した、もちろん私たちが絵里とその愉快な仲間たちを殺しに行けば敵になってしまうんでしょうけど、攻めない限りは敵じゃない」

梨子「……分かりました、でも本当にいいんですか?曜ちゃんが味方じゃないからEMPグレネードは量産できないので数が限られてくる。果林さんが敵じゃないとはいえ、未来なんて予想できるものじゃないですし、万が一あの金髪美人のアンドロイドや穂乃果ちゃんと戦うことになった時、有効手段が無くなって厳しい戦いを迫られると思うんですけど」

果林「…その時はその時よ!」

梨子「何も考えてないんですね……」

果林「いいじゃない!絵里だって穂乃果だって死ぬのよ?それに対してこのアンドロイドは死なない、つまりEMPグレネードはこのアンドロイドを殺す為にあるの、つまりはそういうことよ」

梨子「…はぁ、分かりましたよ」
738 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:06:22.27 ID:hEQnKdja0
梨子「じゃあ————」


梨子「——私は先に行かせてもらいますね!」


果林「ええ!私も続くわ!」

果林(サブマシンガンを持ち果敢に突っ込む梨子の背中を追った、曜に距離を置かれたせいか、それとも何かが梨子の奮いを立たせたのかいつにも増して梨子の踏み込みは強くやる気に満ち溢れているようだった)

梨子「はぁっ!」バババッ!

歩夢「ほっと」シュッ

果林(工夫も何も施していない銃弾はアンドロイド相手には利かない、でもいいの。EMPグレネードを使うと決めたなら銃弾なんか当たらなくていい、避けさせることに意味があるのだから)


タッタッタッ!


果林「梨子!カバーよろしくっ!」


梨子「任せてください!」

果林(そうして梨子の背中から飛び出して避けた直後の相手に接近戦を仕掛けた、EMPグレネードは貴重よ、だから使うなら絶対にEMPグレネードが当たる状況に使わなきゃいけない、その為に準備を今からしようじゃないの)
739 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:07:56.01 ID:hEQnKdja0
果林「せいっ!」

歩夢「よっと、まだあのぶどう色の髪した人の方が鋭い近接攻撃持ってたよ!」

果林「生憎私は近接戦闘を得意としていないのよっ!」

果林(私はダイヤや梨子と比べて近接戦闘に対する理解が乏しい為に、とりあえず適当に回し蹴りをして何かアクションを待つことにした。この相手がアンドロイドだろうと人間だろうと、流石にこんな浅い私の蹴りは当たらなかっただろうけど、基本的に私の攻撃は当たらなくていいのよね)


梨子「もらったぁー!」


歩夢「何っ!?」

果林(————だって、私より優れた仲間がいるんだもの)

果林(梨子はアンドロイドに親を殺されてからアンドロイドを殺すことしか考えてないような狂ったやつよ、そのせいで名誉も称号も何もかもを必要とせず、ただ貪欲に強さだけを求めてきた)


果林(だからこそ梨子はまだ気づけていない、梨子は私よりも強いということに)

740 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:09:04.22 ID:hEQnKdja0
果林(梨子は狂ったところがよく目立つけど、案外優しいところもある。それは戦いの中で仲間を心配出来る思いやりがあったり、アンドロイドに親を殺された故に仲間を失うことの恐怖からカバーは必ずする必死さがある)

果林(対アンドロイド特殊部隊に入ってからは曜に優しくされたり曜に誕生日プレゼントを貰ったり曜にお手製の武器を授かったり曜に命を助けてもらったりでそれ以来ずっと曜にゾッコンだけど、そんなところから梨子との関わりが増えたりして曜も分かってるんじゃないのかしら)


果林(本当は梨子って優しい子なんだって)


果林(だからそう、結局梨子も)


果林(自分の——そして誰かの命を守るために、命を奪っているだけに過ぎないというわけよ)


果林(アンドロイドへの復讐とかよく言われてるけど、ただ単に梨子は自分と知り合いの命を失うのが怖いだけなのよ)

果林(それに免じて私は死んじゃいけないし、梨子を守らないといけない)

果林(表には一切出さないけど、凛やにこを失い、精神をすり減らす梨子はきっと私が死ぬことでその弱弱しい心が決壊してしまう。だからこそこの戦いは勝たなきゃいけないのよ)
741 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:11:36.34 ID:hEQnKdja0
歩夢「っ!」

梨子「くっ…!」

果林(横からやってきた梨子は歩夢の腕を掴もうとしたけど、歩夢は掴まれそうになった腕を素早く曲げ肘を前に突き出し梨子の手を弾いて攻撃にまで転じて見せた。その驚くべき対応力はやはり能力値の高いアンドロイドならではの行動よね)

果林「隙ありっ!」

果林(けど、梨子がカバーに来てくれたおかげで歩夢は梨子へヘイトを向けた、するとどうなるのかしら?私へ向いていたヘイトが消えて歩夢は梨子への対応を迫られる)

果林(至近距離で二体一をしてる以上有利なのは私たち、だから私は梨子の対応に追われる歩夢のお腹に向かって蹴りをいれた)

歩夢「ぁっ!?」


果林「一気に行くわよ梨子ッ!」


梨子「っ!はいっ!」

果林(歩夢と梨子の間に入り追撃に右肘でもう一度歩夢のお腹に打ち、打つ為に肘を動かしたその慣性をそのままに左回転し左肘で歩夢の胸に向かって鋭い打撃を与え、その後すぐに歩夢の真正面から離れた)
742 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:13:10.81 ID:hEQnKdja0
歩夢「かはっ…!?」


梨子「これで終わりッ!」


果林(そうして私の後ろからやってきた梨子の牙がようやく光った)

果林「決めて!」


梨子「いけーっ!」


果林(梨子はEMPグレネードの起動スイッチを押して怯む歩夢のお腹に押し付けた)


ビリビリッ!


梨子「うっ…!」

果林「くっ…」

果林(歩夢のお腹にEMPグレネードを押し込んだ瞬間その辺りには強力な電撃と風が弾けて歩夢を飲んだ、この時の風ときたらかなりの強風で、ついでに飛ぶ閃光も相まって梨子も私も思わず腕で顔を隠し少しの間その場から動くことが出来なかった)

歩夢「ぁ………」


バタッ


果林(そうしてEMPグレネードから飛び散った粒子をゼロ距離で吸い込んだ歩夢は電撃に巻かれながら俯けになって倒れた)
743 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:13:58.48 ID:hEQnKdja0
梨子「……終わった」ホッ

果林「…終わったわね」

果林(緊張感と謎に包まれた戦いにようやく終止符が打てたことをキッカケに梨子はその場にへたり込んだ、だから私はそっと梨子の傍に行き、梨子の隣に座った)

果林「お疲れ様」

梨子「お疲れ様でした…」

果林「…よく頑張ったわね」

梨子「……帰ったらゆっくり休みたいな」
744 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:14:39.35 ID:hEQnKdja0
果林「…今日くらいは私が奢ってあげるわよ」

梨子「どうしたんですか?急に優しくなって気持ち悪いですよ?」

果林「えぇ酷い、私はいつも優しいわよ?」フフンッ

梨子「……そうかもしれません、だから今は甘えておきます」

果林「…ええ、それがいいわ」

果林(梨子も疲れたんでしょう、もうそれは色んな意味で)

果林(普段は弱いところなんて見せない子だけど、そっと抱きしめてあげたら強く抱き返してくれてやっぱり仲間の死が精神に来てるんだろうな、なんてちょっと思った。やっぱり今の梨子は少しまいってるみたい)
745 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:16:53.55 ID:hEQnKdja0
果林「…絵里の下につくつもりはないの?」

梨子「あの金髪美人はアンドロイドですよ?私がアンドロイドと共同戦線すると思いますか?」

果林「……まぁ、それが出来るんだったら今頃梨子はこんなとち狂った部隊になんか入ってないわよね」

梨子「そうですよ」

梨子「……でも、狂った部隊なんだとしても…やっぱり私はここが恋しいな……」

果林「…そうね、なんだかんだみんな面白い人だったもの」

果林(今やその全てが過去形になってしまった)

果林(海未も、凛も、にこも死んで、ダイヤは精神的にまいってしまって、曜は敵であった絵里の元へ行ってしまった。でも、部隊っていうのはいえば一つのチームなのよ、仲が良くて楽しいことがあって笑える環境下であるからこそこの部隊は消滅することがなかった)

果林(だけどもうそんな面白い部隊も、ないのよ)
746 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:18:57.92 ID:hEQnKdja0
梨子「…もう、何が何だか分からなくなってきました」

果林「どうしたの?急に」

梨子「曜ちゃんがアンドロイドと仲良くやってるのを見てると、きっと私のお母さんとお父さんと……後私の犬を殺したアンドロイドが悪かっただけなんだろうなって思うんです。私はアンドロイドの事が今でも憎いけど……盲目的じゃない」

梨子「だからきっとアンドロイドには私の事気遣ってくれたり仲良くしてくれる子もいるんだろうなって思うんです。でも、そんなことを考えると私が今までしてきたことの意味が分からなく…なるんです」

果林「……難しく考える必要はないと思うわよ」

果林「アンドロイドは結局人間と同じなのよ、人間にも悪はいるしもちろんアンドロイドにも悪はいる。だから梨子の親を殺したのが人間だったとしても別に不思議な話じゃない」

果林「…私は梨子本人じゃないわ。梨子がこれからも復習に努めるんだったらそれはそれでいいし私は喜んで肯定するわ」


果林「……だけど、もし梨子がアンドロイドの事、信じてみようって思うならそれも私は喜んで肯定する」


果林「…元々、私はアンドロイドの事好きなのよ?ただそれ以上に殺すことが好きだからこの部隊に入ってるだけ、だから私としてはアンドロイドを信じてみるのも選択の内に全然入ってくるかなって思うの」

果林(もしこれから梨子がアンドロイドの事を信じて仲良くやってくれるんだったら、私も幸せだ。そこからアンドロイドへの復讐以外の生きがいを見つけてほしい、私は梨子の親じゃないけど、抱いている気持ちは梨子の親と変わりないんだと思う)

果林(私は殺すのが好きだけど、逆に言えば殺すのが好きなだけでそれ以外は普通の女だと思ってる。だから私の心の中で迸るこの優しさだって本物だし、梨子を救いたいと思うこの気持ちももちろん本物だ)
747 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:20:41.16 ID:hEQnKdja0
梨子「ぅ…うあああああああぁああぁ……!」


ポロポロ…


果林「………」ギュッ

果林(梨子は答えを出すことなく、私の服に顔を埋めて泣き出した)

果林(今、梨子の心の中ではアンドロイドを肯定したい気持ちと否定したい気持ちの両方が存在している、だからこそ梨子の心はぐちゃぐちゃなのだ)

果林「……鞠莉?聞こえる?」

鞠莉『ええ、聞こえるわよ』

果林「とりあえず不死身のアンドロイドはEMPグレネードで無力化したわ、これからどうすればいい?」

鞠莉『そいつは放置してもらって結構よ、それよりも今は向かってほしいところがあるの』

果林「向かってほしいところ?」


鞠莉『ええ、それは————』


果林「…分かったわ。その代わりこの戦いが終わったら私も梨子も休暇を貰うとするわ」

鞠莉『…そう、分かったわ。じゃあラストワーキングを頑張ってちょうだい』

果林「了解、それじゃあね」

ブツッ
748 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:21:33.53 ID:hEQnKdja0


果林「……本当、東京って騒がしいわね」


果林(鞠莉から受けた新たな仕事を胸に秘めて、私は梨子の手を取った)

果林(どんな時も弱音は吐かないつもりだったけど、正直私も梨子と同じで疲れちゃったわ。殺すことに全てを置きすぎて辛いという感情も嬉しいという感情も悲しいという感情も全てを置き去りにしてここまで来ちゃったみたいだから、今感じてるこの胸が痛まれるこの感情は何とも懐かしくて、なんだかイヤが気分だ)

梨子「うぅうう……ひっく……」

果林「………」

果林(…梨子が泣き止むまで動くはやめましょうか)

果林(仕事も大事だけど、今は何より……)


果林(梨子の命が大切だと感じているから)

749 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:22:33.17 ID:hEQnKdja0


タッタッタッタッ


ことり「…結局敵になっても仲いいんだね」

曜「まぁ希ちゃんと私みたいなものだよ、お互いちょっかいかけていいことないって分かってるから」

ことり「そっか…」

曜「……どう思う?」

ことり「…絵里ちゃんのこと?」

曜「うん……」

曜(果林さんが指さしてくれた方向にことりちゃんと一緒に走る、その中で想像する絵里さんとルビィちゃんの現状はあまりいいモノではなかった)
750 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:23:31.44 ID:hEQnKdja0
ことり「………」

曜「…言いたくないならいいよ」

ことり「うん…」

曜(きっとことりちゃんも分かってるんだろう、まさか絵里さんが死ぬとは思ってないだろうけど死んでるんじゃないかって可能性が頭の中で出てきてしまうのはすごく分かる)

曜(ことりちゃんは絵里さんに命を助けてもらった身だから絵里さんのことを大切にしたい気持ちは分かる、だからこそ苛立ってた。何回連絡をいれても繋がらない事態は初めてじゃないし二回目という今度はどんな危険性があるか分からない)

曜(だから私もことりちゃんも絵里さんが生存してる事を願ってた、Y.O.L.Oに戻ってくれば扉が少しだけ開いてるところがあってなんとなく絵里さんたちがここから入ったんだなって言うのが分かった)


曜「……なにこれ」


曜(…だけど、その先で待っていたのは私たちの考えていた“最悪”を超越してた)
751 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:24:56.26 ID:hEQnKdja0


ことり「あ……ぁ……」クラッ


曜「ちょ、ちょっとことりちゃん!」ギュッ

曜(これが現実なんだ、目の前にある光景を見てそう思う)

曜(その光景は実にここ東京らしいモノで、赤だけだというのに極彩色に見えてしまうトラジック。そんな極彩色の姿を見てかことりちゃんは涙を流しながら膝をついて何も喋らなくなった)

曜「………」


スタスタスタ


曜(だからことりちゃんはその場に置いといて私はその先——その奥へ向かった。ことりちゃんに背を向けながら歩けばことりちゃんの嗚咽が聞こえてきて、なんで私はこんな冷静なんだろうと少し疑問に思った)

曜(こんな状況なのにまだ私は現実を理解出来てないのかも、いや…理解したくないのかも。目に見えてても頭と心で理解しなきゃ何も始まらない)

曜(…じゃあ整理しよう、したくないけど)
752 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:26:45.53 ID:hEQnKdja0


スタスタスタ


曜(…私の前で倒れてる人が四人、それぞれがそれぞれの血溜まりを形成して倒れていた)

曜「………ことりちゃん」

ことり「うっ…ひっく…おえっ……な、な…に……?」

曜「………死んでる」

ことり「…あ、あはっ……うわあああああああああああぁ……!」

曜(すすり泣くことりちゃんに現実をつきつけた)

曜(倒れる絵里さんの脈と心臓を触っても聞こえない鼓動は紛れもない死の証拠で、少し振り返ってことりちゃんを見れば赤子のように大きな声を出して泣く姿が瞳に映る。ことりちゃんがこうも泣くなんて誰が想像したんだろう、ことりちゃんを前から知る私からしたらあり得ない話だ)

曜「………」

曜(…それだけ絵里さんの存在はみんなにとって大きかった。私やことりちゃんだけじゃなくて穂乃果ちゃんやせつ菜ちゃんまで引率していった寛大でとても強い人だった)

曜(これからどうすればいいんだろう、絵里さんを失った私たちがやるべきことはなんだろう。少し考えたけど、出てきそうにない)

曜(あぁ…お先が真っ暗すぎてこの現実がイヤになる。自国の大将を討ち取られた武士の気持ちっていうのはきっとこういう気分なんだろう、自分だけじゃどうすればいいのか、どう生きていけばいいのかも分からないまま時間が経とうとしてるんだ)
753 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:27:44.64 ID:hEQnKdja0


ルビィ「ん…ん……」


曜「!」

ことり「!!!」

曜(ことりちゃんが大声で泣く中で絵里さんの隣で倒れていたルビィちゃんが微かな声をあげた、次の瞬間にはむずむずと動いて目をゆっくり開けて起き上がった)

ことり「…まただ」

ルビィ「………」

曜「…また?」

曜(起き上がって周りを一回見渡すルビィちゃんと目が合ったことりちゃんはよく分からないことを言った。それに対してルビィちゃんは顔を下げて何も言わなかった)
754 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:28:40.91 ID:hEQnKdja0


ことり「…また、あなただけが生き残ったんだね」


ルビィ「………」

ことり「あの時もそう、善子ちゃんが死に、絵里ちゃんは重傷。松浦果南は首謀者だったから死んで当然だったけどあなたは無傷だった」

ルビィ「…それは」

ことり「知ってる、後から来たからギリギリ絵里ちゃんを助けられたんでしょ?」


ことり「…でもあなたが生きて、絵里ちゃんが死ぬなんて納得できない」


ルビィ「………」

ことり「………のせいだ」

曜「…?」


ことり「お前のせいだッ!!!」バンッ!


ルビィ「っ!」シュッ

曜「ちょ、ことりちゃん!?」
755 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:30:15.76 ID:hEQnKdja0


ことり「なんで絵里ちゃんを守らなかったの!?なんで絵里ちゃんを死なせたの!?」


ことり「絵里ちゃんが死んだら私たち何も出来ないって分かってたはずだよ!?これからどうする気!?私たちだけで小原鞠莉を倒しに行くの!?」

ルビィ「………」

ことり「そんなの…そんなの……!!」


ことり「そんなのやだよぉ……!」ポロポロ


曜「ことりちゃん……」

曜(常識外れだけど、当然の行為だと思う。絵里さんの近くにいたルビィちゃんに当たりたくなるのは絵里さんの背中を追う者の性だよ、ここにいるのが穂乃果ちゃんやせつ菜ちゃんだとしてもことりちゃんと同じ反応を見せたと思う)

ルビィ「…………じゃあ」

曜「ん……」


ルビィ「じゃあことりさんなら絵里さんを守れたの!!?!?!」バンッ!


ことり「!」シュッ
756 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:30:53.23 ID:hEQnKdja0
ルビィ「あんなの守れるわけないじゃん!“あれ”をどう止めろっていうの!?」


ルビィ「なんで…なんでルビィが絵里さんにごめんなんて言葉を言われなきゃいけないのぉ…!」ポロポロ…


ルビィ「うぇええええええええええええぇぇ……!」


ことり「うっ…うぅ…うあああああああああぁ…」


曜「ふ、二人とも……」

曜(幼稚園児のように涙は伝染していった。手を目にあて口を大きく開けて泣く二人を前に、私はどうすることも出来なくて、こんな自分が悔しかった。泣かない私でいるなら何かしてあげたかった、でも二人にかける言葉がなかった)
757 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:31:21.17 ID:hEQnKdja0


曜「絵里さん…!」


曜「……うぅ」

曜「うぅうううう……うわあああぁ…あああああああああああああ…!!」

曜(私って弱い人間なんだなぁ)

曜(泣く二人を見てたら色んな感情が巡りに巡ってきた。さっきここを出る前に爆薬は仕込んだから後はこのボタンを押せば爆発してY.O.L.Oは終わりなのに、このボタンが押せないや)



曜(…これから私たち、どうすればいいんだろうなぁ……)


758 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:32:53.88 ID:hEQnKdja0
〜???

絵里「ん……」

絵里「こ、こは…」

絵里「…どこ?」

絵里(目が覚めて見える景色、それは辺り一面真っ暗な世界。建物もなければ地面も空も真っ黒。それは到底現世とは呼べなかった)

絵里「私…死んだの…?」

絵里(両手を開いて、閉じて自分の状態を確認した。体は動く、目も正常なはず、頭も回ってる。確認すればするほど異常なところはこの景色だけだと分かってくる)


「…そう、あなたは死んだの」


絵里「!!」

絵里(不意に聞こえる声はどこかで聞いたことのある声で、声の成る後ろへ向けばそこには“私”が立ってた)
759 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:34:23.97 ID:hEQnKdja0
絵里「私…!?」

「…私を見ても分からない?」

絵里「…! まさか…!!」


えりち「そう、えりちよ」


絵里「やっぱり…!どうしてここに…」

えりち「…やっぱりあなたは自殺で生涯を終わらせたのね」

絵里「やっぱり?」

えりち「あなたは最強に最も近いアンドロイド、敵の技術を全て吸収する兵器————そして強い正義感を持っていることで様々な者を引っ張っていく守られ愛されるリーダーのような存在を自分に確立させる人との生き方が分かっているアンドロイド」

えりち「あなたには死ぬ要素がない、亜里沙の動きを見て思ったでしょ?これを野放しにさせとくとまずいって」

絵里「………」

えりち「自分のした動きを吸収してリベンジしてくるんだもの、早めに決めたいって思うでしょ?でもあなたは諦めが悪い人、それは亜里沙も同じで粘ってくるのよ。だからみんなあなたと戦うと負けてしまうの」
760 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:35:34.11 ID:hEQnKdja0
絵里「…果南には負けたけど?」

えりち「果南は対策を積んできたのよ、あなたの最強は少し特殊だもの。一度見た動きをコピーするのだから初めてだらけで勝負した果南にその最強は通じないの」


えりち「…でも、ああやって生き延びてしまったあなたは更に強くなってしまった」


絵里「………」

えりち「そんなあなたが死ぬのなら、自殺しかないと思ったの。あなたを殺す為に一番有効な手が精神攻撃なんだから」

絵里「精神攻撃…」

えりち「そう、正義感が強いあなたは人一倍感受性に優れたアンドロイド。一つのテーマで複数の感情を抱くのも案外普通なアンドロイド」

えりち「あなたは自分の正体に気付いた途端、自殺した。それは何故かしら?」

絵里「…私が人間を模したアンドロイドではないからよ、人間じゃないアンドロイドがアンドロイドと人間を平等にしろなんて言うのはおかしいでしょ?」

えりち「…どうかしらね、それは返答し兼ねる問いかしら」

絵里「そう、とにかく私に生きる意味はもうなかったのよ」
761 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:36:27.41 ID:hEQnKdja0
えりち「……違うかしら」

絵里「…どうして?」


えりち「あなたは大きな勘違いをしているわ」


絵里「勘違い?」

えりち「ええ、あなたはそれを知る権利がある」

絵里「…つまりそれは何?」

えりち「もし死ぬのであればあなたには真実を知ってから死んでほしい、その真実こそがあなたにとって存在証明にもなるし、自殺のトリガーにもなる」

絵里「ねえ話聞いてた?その勘違いって言うのは何?」

えりち「…知りたいの?」

絵里「知りたいわ」

えりち「無理ね、あなたはもう死んだのよ」

絵里「…生きてれば分かったの?」

えりち「分かったと私は思うわよ、でもあなたは死んだ」
762 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:37:21.22 ID:hEQnKdja0
絵里「…じゃあこれからはあなたが私として生きるの?」

えりち「いやそれはないかしら、まだ」

絵里「まだ?」

えりち「いずれはそうなるかもしれない、けど今の私にはあなたの身体を乗っ取ることは出来ない」

絵里「それは技術的な意味で?」

えりち「ノーね、感情的な意味で、よ」

えりち「乗っ取ることが出来ないというよりかは乗っ取りたくないが正しいわ」

絵里「どうして?私は死んだんでしょ?あなたが今度から絢瀬絵里として生きればいいじゃない」

えりち「…本当にそう思ってる?」

絵里「………」

えりち「いくら自分が常識外れの何かを持ってたとしてもそれで死んでいい理由にはならないと私は思うんだけど?」

絵里「…そうね、でも今更悔しがったって何もならないじゃない」
763 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:40:01.15 ID:hEQnKdja0
えりち「…園田海未は分かるかしら?」

絵里「園田海未?あぁあの青い髪の…」

えりち「そう、あの子はとても真面目で何事にも真摯で、とっても可愛い子だったわ」

絵里「…なんであなたがそんなことを知ってるの?」

えりち「いいから聞いて、そんな可愛い海未だったけど、海未は人間に存在する生命力を否定するようなモンスターのような生命力を有していた。銃弾を腹に貫かれても死なないくらいにね」

絵里「…聞いたことあるわ」

えりち「ええ、海未は人間だった、けど人間染みたモノではなかった。故に蔑まれた存在だった」

えりち「だけど海未が青色のシャツを着て、灰色のスカートを穿いて街中を歩き、時に無邪気に笑う姿を見れば彼女もやっぱり人間なんだって思ったの」

絵里「………」

えりち「人間じゃないっていうのはね、あからさまなの」

えりち「人の心を持っていて、ちゃんと笑うこと怒ること泣くことが出来て、そして中身も含めて人の形をしてることが人間なの」

えりち「それに従えばあなたは人間でしょ?あなたは人のために自分を犠牲にすることが出来る心優しき人間でしょ?」


えりち「というかむしろ、誰かを守れる力があなたにはあるのだからそれを誇りに思うべきだと私は思うの」


絵里「………」
764 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:40:43.85 ID:hEQnKdja0
えりち「…あなたは生きるべきだったのよ」

絵里「…そんなこと言われたら死んだ私がバカみたいじゃない……」

えりち「……ええ、あなたはバカよ。大馬鹿者よ」

絵里「…うぅ……!」

えりち「…やっぱりあなたは私なのね」

絵里「ううう…どういうこと…?」メソメソ

えりち「……ねえ」


えりち「私とバトルしない?」


絵里「ば、バトル…?」

えりち「文字通りよ、今は銃が無いから格闘だけだけどね」
765 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:41:54.64 ID:hEQnKdja0
絵里「バトルなんかして何になるの…?」

えりち「最後に確かめたいの、あなたの意志を」

えりち「この東京に住んでたのなら戦いの意味は分かるでしょ?」

絵里「…生きたいと思う意思の表れ」

えりち「そう、例え力不足でも必死に抗って変わる未来もある。だからあなたの意志を確かめたいの」

絵里「……わかったわ、いいわよやりましょう。私も最後くらいは本気で殴り合いをしたいわ」

えりち「…あなたも生粋のアンドロイドなのね」

絵里「溜まった感情を吐き出すにはこういうことをしないと出ないのよ」

えりち「そうね…その通りだわ」

絵里(そう言った直後に高まる緊張感を感じないわけない、張り詰めた空気が鼓動を早くしてうるさい、うるさすぎる)

絵里(始まりの合図はきっともう鳴ってるのでしょう、相手のその一言が始まりで、だけど始まってるというのに私も相手も動こうとはしなかった)
766 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:43:23.44 ID:hEQnKdja0
絵里「………」


えりち「…来ないの?なら私から行くわね!!」ダッ


絵里「!」

絵里(そう言って始まった戦いは銃が無いというのに銃撃戦のように凄まじい勢いを秘めたものだった)


タッタッタッタッ


えりち「先手必勝!攻撃が最大の防御よ!」ブンッ!

絵里「おっと」シュッ

絵里(走り込みで私に近づき最大火力と言ってもいいくらいの右ストレートが飛んできたから私は素早く左へ回避して、私の横を通り抜ける相手に対して回し蹴りで後頭部へ狙いを定め脳震盪を与えようとした)


えりち「それは見たことある」ガッ


絵里「!!」
767 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:45:58.70 ID:hEQnKdja0


えりち「そしてこれは見たことある?」


絵里(左上腕で私の蹴りをガードし、右ストレートで伸ばした右腕を戻しそのまま私の喉元に向かって肘打ちをしてきた、だけどそのくらいなら見えるし反応速度だけでなんとかなる)


絵里「はっ!」ガシッ


絵里(私は咄嗟に右手で肘打ちを受け止める————けど攻撃は止むことはなかった)


えりち「そう、あなたはそれを受け止めるのよね、だからわざわざ受け止められる選択を取ったの…よっ!」ドカッ!


絵里(相手はどれだけ計算高かったのかしら。回し蹴りにより右足を高く上げたまま、右手で肘打ちを受け止める私に、次来る突き蹴りを躱す術はない)

絵里「くっ…!」

えりち「よい、しょっとっ!」ドカッ!


絵里「ッ…!!」


絵里(少し弱めに調整された控えめな突き蹴りは私を倒すことなくよろめかせるだけにとどまった、しかしそれがいけなかった。次、よろめく私に歯向かうのは鋭い上段蹴りで、これには死を悟った)
768 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:46:51.18 ID:hEQnKdja0
えりち「…やはりあなたは強くなりすぎてる、私の計算なら今の三連撃で勝負はついてたはず」

えりち「そして驚いたわ、今の一瞬で顔じゃなくて首に命中するよう角度を変えるなんて」

絵里「亜里沙の蹴りをもろに食らったものでね、あの時も回避は出来ない状況だったしせめての対処法をしたまでよ」

えりち「…私の蹴りも見たことがあったってことね」

絵里「……そうなるわね」

絵里(これが私なんだ、ただそう思った)

絵里(見たことあるから対応されて、自分のやった攻撃でやり返される…そんな相手が弱いはずがない。実際今の私は強い、蹴りを首に当たるようにしたその一瞬の判断はきっと今までの戦いがなきゃ出来なかった)

絵里(だから今となっては私は戦いの道を選ばないほうが幸せだったのかもしれない)
769 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/10/07(月) 19:48:18.15 ID:hEQnKdja0


えりち「そうなのね、でも私が有利なのは変わらないことよ!」ダッ


絵里(さきほどの走り込みとは違い、両手を下げて私の元へと来る相手——それを見るに戦法を変えてきたみたいね)


えりち「ほらほらっ!私の舞は躱せるかしらっ?」


絵里「っ!その動き…!!」

絵里(チョップや掌底、後ろ回し蹴りや跳び膝蹴り、ローキック、肘打ち、スライディングなど技の種類問わずとにかく鋭い一撃が私に歯向かう、それを避けようと飛び退くと相手も引っ付いてくるように跳躍で私との距離を開かせず逃げる隙を与えてくれなかった)


絵里「…っ!それって!?」


絵里(よくよく見れば分かることだった。その速度や打ち方だけでなく指先まで整っているキレのいい掌底や肘打ちはどう見てもことりのモノよ、だけどその身軽で、本能的で、戦闘を楽しむような姿は凛そのものだ。しかもこの何度も何度も鋭い一撃を繰り返して相手を寄せ付けない上に死を全く恐れてなさそうな勢いで相手との距離を放さないその戦法————それはまさしく希のショットガンの舞だった)

えりち「気付いた?そうよ、こうやって応用だって出来るのよ!」

絵里「くっ…そんな反則でしょ!」シュッ

えりち「あなたにも使えるのよ?文句は言えないはずよ」

絵里「だからってそんな…!」

絵里(やっぱり私にも使えるのね、今も希のショットガンの舞を格闘だけで疑似的に再現してる相手を見てるとこの力がどれだけとんでもないものかを痛いほど感じさせてくれる)
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