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梨子「未来のあなたが知ってるね」
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205 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:04:44.95 ID:2ASeLL45O
梨子「え、そうかな……?直接会って渡さなくても、間接的に渡す方法だってあると思うんだけど……」
千歌「問題はそこじゃないんだよ。もし間接的に渡したんだとしたら、今度は《いつ》この写真を撮ったのかが問題になる」
梨子「……!(確かにそうだ……)」
千歌「ねえ梨子ちゃん。《いつ》、《誰》がこの写真を撮れたっていうのかな?そもそも、この写真を葉百さんが大事にしていた理由は何なのかな?」
千歌「……少なくとも一つは。答えてほしいな」
梨子「ぐ……ぅぅ!」
206 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:07:51.20 ID:2ASeLL45O
梨子(《いつ》この写真が撮られたかだなんて……わからないからこうやって聞いてるんだってば!)
梨子(大事にしていた理由だなんてそれこそそんなのこっちが聞きたいわよ!)
梨子(け、けど……理由の方は考えようがある!)
梨子「だ、大事にしていた理由は、やっぱり葉百さんにとって思い出の品だから……」
千歌「でも、その思い出っていうのは梨子ちゃんが教えてくれたように、中の写真のことを指していたんだよね?だとすると、どうしてこの写真が思い出なのかな?」
梨子「そ、それは……そう!そのペンダントって画像のデータを表示するんでしょ?だったら元は違う画像でそれが大事な思い出だったんだよ!」
千歌「…………だったらやっぱり、この写真はチカが葉百さんに会った時にしか撮れないことになるよね?」
梨子「え、え?どういうこと?」
千歌「元が違う画像だとしたら、どこかのタイミングでこの画像に変わっているってことになるよね」
梨子「……そ、そうね」
千歌「それで?そのタイミングって《いつ》なんだろう?」
梨子「……!」
千歌「さっき、チカ言ったよね」
千歌「《いつ》、《誰》がこの写真を撮ったと言えるのか?」
千歌「……チカ以外にいないんだよ。あの時以外にないんだよ」
梨子「ちょ、ちょっと待って!」
梨子「どうしてそう言い切れるの!?別の可能性もあるかもしれないじゃない!」
千歌「……じゃあ、梨子ちゃんは、示してくれる?」
千歌「その別の可能性を」
梨子「……くっ!」
207 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/03(水) 20:10:25.56 ID:2ASeLL45O
梨子(私のオクソクには前提がある……)
梨子(それは、葉百さんがもし生き別れの姉なら、事情を知らない人にはバレてはならないということ)
梨子(だとしたら、必然的にこの写真を撮れたのは、事情を知っている人ってことになる)
梨子(事情を知っていて、なおかつ千歌ちゃんにこのペンダントを渡せた人物、ということは……)
梨子「千歌ちゃんの、お母さんなら……この写真を撮ることは出来たはず」
梨子「生き別れだというのなら……事情を知っているのは千歌ちゃんのお母さんだけ」
梨子「千歌ちゃん以外が撮ったっていう可能性は、まだ残る」
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:11:28.77 ID:2ASeLL45O
千歌「……確かに、それなら《誰か》の部分はクリアできるね」
千歌「けど、《いつ》の部分には答えたことにならない」
梨子「それは、そうだけど。でもそんなことそんなに大きな問題じゃないんじゃない?」
千歌「……それが大きな問題なんだよ。もし、お母さんが帰ってきてるのだとしたら」
千歌「その痕跡は絶対に残るはずだから」
梨子「・・・・・・?」
梨子「あの、もう少しわかりやすく言ってもらえると、助かるんだけど……」
千歌「……梨子ちゃんは、知らないかもしれないけど」
千歌「うちって、老舗の旅館で……結構地元じゃ注目されてるんだ」
梨子「え?……うん、それはまぁ何となくわかるけど」
千歌「それでね、お母さんは色々あって普段は東京にいるんだけど」
千歌「内浦に帰ってくる時はみ〜んなその話をするんだよ」
千歌「十千万の女将が帰ってきたって」
千歌「……こんな田舎だと、そういう話はあっという間に広がるんだ」
209 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:13:16.14 ID:2ASeLL45O
梨子「……つまり、千歌ちゃんはこう言いたいってこと?」
梨子「千歌ちゃんのお母さんはこの辺りでは有名人で、もし帰ってきてたら皆気付く」
梨子「だとしたら、皆に目撃されるから、千歌ちゃんのお母さんと誰かもわからない人が一緒にいたら噂になるはずだって」
千歌「・・・そうだよ」
梨子「でも、それって確証出来ないんじゃないかな?」
梨子「だって誰にも知らせず変装でもして帰ってくれば、そんな事態に巻き込まれるはずないんだから!」
梨子「それなら、やっぱり千歌ちゃんのお母さんにも撮影の機会があったと考えるべきよ!」
千歌「・・・・・・ねぇ、梨子ちゃん?」
梨子「……な、何?」
千歌「そんな可能性、あると思う?」
梨子「そ、それは……でもゼロじゃないでしょ!?」
210 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:15:05.88 ID:2ASeLL45O
千歌「・・・・・・梨子ちゃん、さっき私にこう言ったよね。いつもの千歌ちゃん≠ネらこんなことしないって。可能性が低いって」
梨子「ぅ……それは……」
千歌「だとしたらさ……逆に思うべきだよね……」
千歌「可能性が低いことなんて信用できないってさ!」
梨子「……ううう。で、でも」
千歌「それにね」
梨子「そ、それに……?(まだ何かあるの……?)」
千歌「さっき梨子ちゃんは私がこの写真に《写っていなきゃいけない》って言ったけどさ」
千歌「梨子ちゃんの憶測が正しかったとしたら、この写真には逆に《写ってはいけない》ものがあることになるよね?」
梨子「う、《写ってはいけない》もの?……あ。あ、あ。ま、まさか……」
千歌「そう」
千歌「……もし、この時お母さんが変装していたのだとしたら」
千歌「しいたけがここに写るはずがないんだよ!!」
梨子「………。き。」
梨子「キ、キャアアアァァァァァァ!!!?」
211 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:17:05.77 ID:2ASeLL45O
梨子(た、確かに……)
梨子(いくら生き別れの娘とはいえ千歌ちゃんのお母さんがそこまでして写真を撮ったとは思えない……リスクが大きすぎる)
梨子(いや、本当に生き別れの娘の写真だけを撮るならまだ少しは可能性が残るかもしれない)
梨子(けど、しいたけちゃんも一緒に写っていることでそんな可能性もなくなってしまう)
梨子(千歌ちゃんは旅館の関係者がいるところでなければしいたけちゃんは外に出さないと言っていた)
梨子(……旅館の人に気付かれないように変装していたとしたらしいたけちゃんを写り込ませることは出来ない)
212 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:17:53.02 ID:2ASeLL45O
梨子(千歌ちゃんのお母さんと葉百さん両方が変装して、旅館の人に撮影を頼んだという線もない……)
梨子(そうだとしたらこの写真の葉百さんが変装していないことがおかしくなる。変装せずに写真を撮ったのなら旅館の人に見られているはず)
梨子(その痕跡がない以上、この写真は誰にも気付かれない状況で撮られたと考えるしかない)
梨子(犬の嗅覚を考えれば、千歌ちゃんのお母さんを判別することは出来ると思うけど……)
梨子(もしそれでしいたけちゃんが外に出ていったとしたら、誰かが気付くはず)
梨子(……この写真を撮った《誰か》が千歌ちゃんのお母さんだとすると、《いつ》撮ったのかに答えられなくなる)
梨子(でももし千歌ちゃんがその《誰か》だとすれば、その問題は解決する)
梨子(しいたけちゃんが外に出ている以上、《旅館の関係者》が最低一人は外を見渡せる状況じゃないといけなかった)
梨子(そして葉百さんが、身元がバレたらまずい事情だったとしたなら、バレても大丈夫な人がこの写真を撮影しないといけないことになる)
梨子(……この条件に当てはまるのは千歌ちゃんしかいない)
213 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:19:12.01 ID:2ASeLL45O
梨子(葉百さんが赤の他人だと考えることもできない)
梨子(しいたけちゃんとの撮影を望むお客さんは少ない上に、千歌ちゃんと似ている人なんて嫌でも記憶に残るはず……)
梨子(……いくら千歌ちゃんと葉百さんが会ったという証拠がなくても、条件に当てはまるのが千歌ちゃんしかいない限り)
梨子(この写真は、千歌ちゃんが数週間前に葉百さんと会ったその時に、撮影されたと考えるしかない!)
千歌「……わかってくれたかな?チカしかこの写真を撮影できた人はいないって」
千歌「梨子ちゃんが言ってるような、私がペンダントを持っている《本当の理由》なんてない。……最初に説明したのが全てだよ」
梨子「・・・・・・ぅ」
千歌「それとも、まだ梨子ちゃんは疑うの?……私の、ことを」
梨子「……ッ」
214 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:22:29.12 ID:2ASeLL45O
梨子(……。なんてこと……)
梨子(最初は、千歌ちゃんが写ってなきゃダメだってところから、千歌ちゃんがこのペンダントを持っていることはおかしいって考えていたはずなのに)
梨子(いつの間にか、しいたけちゃんが写っていたらダメだっていうことで、その考えが間違っていることが示されてしまった)
梨子(千歌ちゃんじゃなくってしいたけちゃんが写っていることがヘンだって私は思って……)
梨子(そもそもしいたけちゃんが写っているのならその考えがヘンだって千歌ちゃんは考えた……)
梨子(しかも、正しいのは明らかに千歌ちゃんの言い分だ……)
梨子(私がヘンだって言っている根拠は千歌ちゃんの性格や考え方にしかない。……単なる可能性の話)
梨子(けど、千歌ちゃんの方は違う。千歌ちゃん以外に不可能だったから、たとえ普段とは違った行動をとったとしても……千歌ちゃんがこの写真を撮ったと考えるしかないということが根拠だった)
梨子(可能性っていうのはどこまでいっても偶然の範疇を超えない。偶然、起こり得たかもしれないっていうだけ)
梨子(それに対して、不可能性というのは必然に行き着く……。それ以外不可能だったということは、それが必ず起こったということ)
梨子(……結論は。はっきりしている……)
215 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:24:54.20 ID:2ASeLL45O
梨子「千歌ちゃんが……正しい」
千歌「……よかった。これで、ようやく信頼してもらえるな」
梨子「……」
梨子(そうするしか、ない)
梨子(確かに腑に落ちていない部分はある)
梨子(けど、そうは言っても千歌ちゃん≠ェこのペンダントを持ってちゃいけない理由は何もない)
梨子(千歌ちゃんに隠し続けることが無理だって最初の確信も違和感も、勘違いだっただけ)
梨子(……信じぬくために疑う。それ自体は間違っていないと思う)
梨子(でももう疑う余地がないのなら、これ以上食い下がっても不和を生むだけだ)
梨子(・・・・・・普通に考えて、おかしいのは私の方。だから、もう・・・・・・)
『やめる?』
216 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:25:50.20 ID:2ASeLL45O
梨子「……!」
梨子(不意に、頭に鳴り響いた声)
梨子(千歌ちゃんの覚悟を試す時に、曜ちゃんが言う言葉だ)
『やめるの?』
『梨子ちゃんは、それでいいの?それで本当に納得してる?』
梨子(……そんなことない!)ギュッ
梨子(やっぱり、まだ納得しきれていない。本当に、心の底から千歌ちゃんを信じ切れていない)
梨子(他ならない曜ちゃんも感じた違和感の正体……まだ完璧には掴めていない)
梨子(だったら、まだ確かめなくちゃいけないことがある!)
217 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:28:31.73 ID:2ASeLL45O
梨子「……千歌ちゃん」
千歌「うん?なあに?」
梨子「ごめん、千歌ちゃん。これが本当に最後」
梨子「……あなたに聞くのは、最後」
梨子「今度こそ自分の中の疑いを完璧に消すために、最後に確認したいことがあるの」
千歌「・・・ねぇ、梨子ちゃん。自分が何を言おうとしてるのか、何をしようとしているのか、わかってるの?」
梨子「……」
218 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:29:29.80 ID:2ASeLL45O
千歌「梨子ちゃんは、さっきから頻繁に制服のポケットの中に手を入れるよね。・・・たった今も、そうやってた」
梨子「!……」
千歌「不自然だよね。梨子ちゃんは普段、そういうことをしないのに」
梨子「……」
千歌「何か気になるものでも入っているのかな。ポケットに手を入れてる時の梨子ちゃん、とっても力が入ってる」
千歌「しかもね。まるで、その中にあるものを握って自分を奮い立たせてるみたいにしてるんだよ」
梨子「……気付いていたの?私が何をしているのか」
219 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:30:53.43 ID:2ASeLL45O
千歌「確証はなかったけどね。でも、今のではっきりしたよ」
千歌「・・・梨子ちゃん。悪いことは言わないよ。・・・・・・これ以上はもう、さ」
千歌「私はいいよ。でも、これ以上やるのは梨子ちゃんにとっていいことじゃないと思う」
梨子「……私のことを心配してくれてるの?」
千歌「それはそうだよ。こんなことで仲間の和を壊しちゃいたくない」
梨子「そっか。……ありがとう、千歌ちゃん」
千歌「わかってくれたの?」
梨子「……ごめん。それでも、私は」
梨子「私は、納得したい。自分自身の違和感の正体に答えを出したい」
千歌「・・・・・・。わかった。梨子ちゃんがそこまで言うなら、私も付き合うよ」
梨子「……ありがとう。千歌ちゃん」
千歌「でも、何もなかったら何も言えないよ?」
梨子「……」
千歌「私は梨子ちゃんのオクソクにちゃんと答えてきた。これ以上、新しい疑問がないのに同じことを聞くのなら、私はもう何も言えないし、言わない」
梨子「……わかってる。ちゃんと、新しい疑問を出すつもりよ」
220 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:32:20.20 ID:2ASeLL45O
梨子(……これ以降は迂闊なことは言えないということね)
梨子(・・・もしも千歌ちゃんの言った通りだったとしたら、このペンダントを千歌ちゃんが隠し持っていたことは説明されることになる)
梨子(けど、それは目の前の千歌ちゃん≠ェ本当に私の知っている高海千歌だった場合だ)
梨子(そもそもの疑念に立ち戻ると、私は目の前の千歌ちゃん≠ェ本物の千歌ちゃんじゃないと疑うところから出発したんだった)
梨子(私の違和感を完全に消すためには、この、馬鹿げているけど無視できない可能性を、否定しなきゃいけない)
梨子(この可能性を否定するためにはっきりさせなきゃいけないことがある)
梨子(鍵はやっぱりペンダントなんだけど……)
221 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:33:21.55 ID:2ASeLL45O
千歌「・・・・・・」
梨子(……同じ疑問の繰り返しは許されていない)
梨子(このペンダントが重要なものであった理由。多分今、それに答えることは出来ない)
梨子(だったら、問いの方向性を変える必要がある)
梨子(……もしこの千歌ちゃん≠ェ別の人物だったとしたら……その人は一体なぜこのペンダントを隠さなくてはならなかったのか?)
梨子(万一本当に千歌ちゃん≠ェ別人だとしたら、このペンダントにはその人にとって隠さなければならない不都合な事実があったはず)
梨子(もちろん、そんな事実が見つからなければそれでいい。今度こそ疑問の余地なしだ)
梨子(……このペンダントは千歌ちゃん≠ノとって《あってはならない》ものだったのか。それとも、[亡霊]にとって《あってはならない》ものだったのか)
梨子(検討する余地は……まだ、ある!)
梨子(最初から証拠になり得るはこのペンダントだけ……だったらそれを徹底的に調べないでどうするっていうの!)
222 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:35:30.66 ID:2ASeLL45O
千歌「それで。梨子ちゃんは何がまだ腑に落ちないっていうの?」
梨子「それは当然……ペンダントの写真よ」
千歌「・・・私が《写っていなく》て、しいたけが《写っている》ことがおかしいってやつ?でも、それはもう済んだ話だよね?」
梨子「……そうだね」
千歌「じゃあもういいでしょ?これ以上、チカが話すことはないよ」
千歌「・・・言ったでしょ?同じことを繰り返し聞くようなら、もうこの話はおしまいだって」
千歌「梨子ちゃんもわかってくれるよね?もう、いいよね?」
梨子「もちろん。……もしその話をそのままするならね」
千歌「・・・・・・。どういうことかな」
223 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:36:52.89 ID:2ASeLL45O
梨子「千歌ちゃん。葉百さんは、このペンダントを《あってはならない》ものだって言ったんだよね?」
千歌「……そうだよ」
梨子「そして、それはなぜなのか……ここが、私の一番の疑問だった」
梨子「その疑問の理由は、《写っていない》もの、《写るはず》のものがこの写真になかったと思ったからだった」
梨子「このことについては確かに、説明がついたと思う。でも……」
梨子「でも、その逆の話についてはまだされていない」
千歌「逆・・・?」
梨子「千歌ちゃんも言ってたでしょ。私の主張とは逆に、《写ってはいけない》ものが写っていたって」
千歌「!」
梨子「もしこのペンダントが千歌ちゃん以外の人にとって《あってはならない》ものであった場合、この写真にはその人にとって写ってほしくないものが写り込んでいる可能性があるの」
224 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:38:08.66 ID:2ASeLL45O
千歌「・・・つまり梨子ちゃんはその残された可能性を否定するために、この写真に何もおかしなところはないって確認したいんだね」
梨子「……うん」
梨子「千歌ちゃんにとってだけ《あってはならない》理由があるんだって確信が持てれば……」
千歌「私を信じ切れるってこと、かな」
梨子「ええ」
千歌「わかった。それじゃあ、調べてもいいよ。・・・ヘンなものは、何も写っていないと思うけど」
梨子「ありがとう……(とりあえず、調べさせてくれるようには持って行けたわね……)」
梨子(とはいえ、パッと見じゃ千歌ちゃんの言う通り、ヘンなものは写り込んでいないように見える)
梨子(葉百さんの方は……しいたけちゃんの頭に右手を乗せてるってことぐらいしかわからないな)
梨子(特殊なアクセサリーを付けている様子はない。……この写真を撮る時はペンダントを外していたってことなのかな)
梨子(不自然といえば不自然だけど……これは後からいくらでも説明がついちゃいそうな気がする。決定的じゃない、か)
225 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:39:30.61 ID:2ASeLL45O
梨子(他には、強いて言えばしいたけちゃんがちょっと元気なさげに見えるような……気がするんだけど)
梨子(それはこの写真だけじゃわからないし、もっと決定的なものがあるかもしれない)
梨子(……しいたけちゃんといえば、この首輪のアクセサリー。やっぱり、大分ボロボロになってるな)
梨子(色もちょっとくすんでるし……ひっかき傷みたいなのもある)
梨子(……?《ひっかきキズ》……?そんなの、昨日見た時にあったっけ?)
梨子(それに、このキズ……キズにしては、ちゃんとした形をしているような……)
梨子(そう、まるで文字のように見える。これはもしかすると……)
梨子(……このままのサイズだとよく判別できないな)
梨子「千歌ちゃん。この画像って、拡大とか出来ないかな?」
千歌「!・・・・・・拡、大?」
梨子「?う、うん。ちょっと、気になるところがあって……そういう機能あったりしない?」
226 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:40:35.96 ID:2ASeLL45O
千歌「あるにはあるけど……ちょっとコツがあって、モード切替?ってのが必要らしいんだよね。貸してみて」
梨子「え、ええ(……どうしたんだろう)」
梨子(今、心なしか千歌ちゃんが今まで見たことないような眼をしたような……)
梨子(「むぅ〜!」と言いながらペンダントに悪戦苦闘してる姿を見てる限りは、普段の千歌ちゃん通りに見えるけど……)
千歌「……はい、出来たよ。これで、スマホみたいに画像をおっきくしたり小さく出来るよ」
梨子「ありがとう……(この大きさだとちょっとやりづらそうだなぁ)」
梨子(さて、それじゃ首輪のアクセサリーを拡大してみよう)
227 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:41:56.02 ID:2ASeLL45O
梨子「……これ、拡大しても画質が荒くならないのね……大きさに合わせて画質を修正してくれるみたい」
千歌「そうなんだよ。すっごいでしょ?」
梨子「う、うん。これは本当に凄いね……(さっきから私ペンダントのこと凄いとしか言ってないわね……)」
梨子(う〜ん、でもますます色々隠しておくのに便利ね……私も欲しい)
梨子(……なんてて横道に逸れてる場合じゃない。ちゃんと画像を確認しないと)
梨子(ちょっとずつちょっとずつ。画像を拡大していって……)
梨子(アクセサリーを充分拡大して、画面全体に写るようにした)
梨子(後は画質が修正されるのを待つだけ……)
千歌「・・・・・・」
228 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:42:54.86 ID:2ASeLL45O
梨子(…………拡大が、終わった)
梨子(そこに、写っていたのは……っ!)
梨子「……千歌ちゃん」
千歌「・・・・・・どうしたの?」
梨子「どうやら……千歌ちゃんの言う通りだったみたいだよ」
千歌「私の、言う通り?」
梨子「ええ。……この画像には」
梨子「《写ってはいけない》ものが写っていた!」
梨子「それも本当に千歌ちゃんの言う通りの場所にね!」
千歌「私の言う通りの、場所……?」
梨子「さっき千歌ちゃんは言ったよね?……私のオクソクの通りだとしたら《写ってはいけない》ものが写るって」
梨子「それがね、その通りだった。……私のオクソクが間違っていても、ね」
229 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:45:25.21 ID:2ASeLL45O
千歌「……!………酷い。まさか、しいたけを………」
梨子「いいえ。正確には違うわ」
千歌「!どういう、こと?」
梨子「私が指摘しているのは、しいたけちゃん自身じゃない。しいたけちゃんが身に着けているもののことよ!」
梨子「この拡大した画像を見て!」
千歌「……。しいたけの、首輪だね。大分、汚くなっちゃったな〜」
梨子「そうね。確かに大分ボロボロね。……でも、今重要なのはそこじゃないの」
千歌「………え?」
梨子「しいたけちゃんの首輪が問題なのは事実よ。……でも」
梨子「一番の問題は、しいたけちゃんの首輪に写っているもの自体なの!!」
230 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:46:17.45 ID:2ASeLL45O
千歌「・・・つまり、どういうことなの?説明してくれるかな?」
梨子「……このアクセサリー。……沢山の、《ひっかきキズ》があるよね」
千歌「確かに、そうだね」
梨子「けどね、その一つ一つをよく見ていくと……その《深さ》と、《大きさ》が違うことがわかる!」
千歌「……《深さ》と、《大きさ》……?」
梨子「ええ。……このキズ。ほとんどはちょっとこすれた程度で、《浅くて》《小さい》ものばかりに見えるけど」
梨子「ある四つのキズだけは違う。……まるで、このアクセサリーに最初から彫られていた、そんな意匠があったんじゃないかって、思うぐらいに」
千歌「・・・・・・」
梨子「大部分は《浅い》キズに覆われていて、ちゃんとは判読できないのも確かなんだけどね……」
千歌「・・・仮に、《ひっかきキズ》の《深さ》が違ったとして。・・・それが、四つの字みたいなものだったとして。それが、何の意味を持つの?」
千歌「単に、キズの《深さ》がまばらだっただけだったとも考えられるでしょ?」
梨子「千歌ちゃん。……焦らないで」
千歌「・・・!」
231 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:48:32.21 ID:2ASeLL45O
梨子「確かに、浅いキズのせいで深いキズまでも覆い隠されているのは事実よ。でも……」
梨子「覆い隠されていないキズ……それを繋げると……文字のように見えるのも事実なの」
千歌「・・・・・・」
梨子「……そして、そのキズは、こんな形をしている」
梨子「『5Piqj』。……正直所々破線になってるし、ちょっと解釈が無理やりな感じは否めないけど」
梨子「でも、とにかく!これは凄く不自然なもので……貴女への疑いを強める[証拠]よ!」
千歌「・・・・・・どこが、不自然だっていうの?私にはそんなにおかしくは思えないけどなぁ」
千歌「そんなのただのキズで、たまたまついただけで、たまたまそんな形をしていただけかもしれないじゃん」
梨子「いいえ。……それはあり得ないの。……少なくとも。今≠ヘ、ね」
千歌「今≠ヘ?……なんのこと?」
梨子「今=c…。この時点で、こんなものがしいたけちゃんのアクセサリーについていることはあり得ない。……そういうことよ」
232 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:49:32.86 ID:2ASeLL45O
千歌「・・・。なんで、そう言い切れるの?」
梨子「だって、私はこの目で直接、見たのよ」
千歌「!・・・見たって、まさか・・・・・・!」
梨子「もちろんしいたけちゃんの首輪をよ。・・・・・・それもつい、昨日にね!」
千歌「!!り、梨子ちゃんが……本当に……?」
梨子「……ええ。……私の、ある種理不尽な、犬嫌いが。……どこかの誰かさんによって……」
梨子「もとい。どこかの堕天使様によって克服できたおかげで、ね」
千歌「・・・善子ちゃんの・・・・・・」
梨子「そういう、ことよ」
千歌「・・・・・・。なるほど、ね。……そういうこと、なんだね………」
233 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:50:49.83 ID:2ASeLL45O
千歌「それにしても・・・仲良くなったって聞いたけど。もう、そんなに近くに行って接することが出来るほど、ヘーキになってたんだね・・・・・・ちょっとそれは、ビックリだよ」
梨子「…………それで。それで、しいたけちゃんに今までのお詫びをしたかったから。……今まで、一方的に避けちゃってごめんねって」
梨子「私はずっと考えてた。どうやったらお詫びが出来るのかな、って」
梨子「……そう思い続けて、ある日私はしいたけちゃんのアクセサリーがボロボロだったことに気付いた。だから……」
梨子「私は、新しいアクセサリーをプレゼントしようと考えていたの。(……出来れば、メッセージを込めようとして、というのは……。今=A関係はないんだけど)」
千歌「・・・・・・」
梨子「とはいっても、急にそんなものを押し付けられても、飼い主である家族は。……高海家の皆はちょっと、困っちゃうかもしれない。……そう思って、アクセサリーの具合を確認したの」
梨子「すぐ贈るべきか……もうちょっと待つべきか……調べるためにね」
梨子「……それも。昨日のうちに、ね」
234 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:51:48.55 ID:2ASeLL45O
千歌「……そんなこと、してたんだね………」
梨子「……ええ。千歌ちゃんが先に部屋に行ってる時に、ちょっとね」
梨子「悪いとは思ったけど……」
千歌「・・・・・・」
梨子「それでね、それを実際に見て考えたの。もうこのアクセサリーはボロボロだし、新しいアクセサリーをプレゼントしてもいいのかなって」
千歌「・・・確かに、梨子ちゃんはしいたけと仲良くなってくれたよね。・・・・・・今=A私・・・・・・心の底から実感し直したよ」
千歌「・・・けどさ、それが何なの?チカには梨子ちゃんの言いたいことが見えてこないよ」
梨子「確かに、ちょっと余談が過ぎたわね。……でも、そこは本質じゃない」
梨子「私が、しいたけちゃんにさわれるようになった結果。……しいたけちゃんをよく見ることが出来るようになった結果」
梨子「私が確信をもって、言えるようになったことがあるの!」
千歌「・・・」
235 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:52:36.74 ID:2ASeLL45O
梨子「……千歌ちゃん。ごまかしは、もうやめて・・・・・・!」
千歌「・・・・・・」
梨子「……千歌ちゃんも、気付いているでしょ。……私がしいたけちゃんの首輪を昨日見たと言った時点で……」
梨子「わかってるはずだよ。……私がイチバン言いたかったことが。つまり!」
梨子「私は昨日、このアクセサリーに刻まれた《文字》を見なかったっていうことを!」
千歌「・・・・・・」
梨子「……私は、昨日。……自分の目で、見たの」
梨子「しいたけちゃんのアクセサリーを……そのボロボロっぷりを……!」
梨子「確かに、ボロボロだった。・・・・・・だけど・・・」
梨子「こんなキズはなかった!……こんな《文字》に見えるキズは、なかった!」
236 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:53:35.34 ID:2ASeLL45O
千歌「・・・・・・そんなの、梨子ちゃんの見間違いかもしれないじゃん」
千歌「・・・それに。梨子ちゃんがいなかった時の写真だって言えば説明になるよね?」
梨子「(……!)私が、いなかった時……?」
千歌「そうだよ。……梨子ちゃんが、転校してくる前の写真だって言えば、辻褄も合う」
梨子「……ええ。確かにそれは、その通りよ」
千歌「ほら。……ヤッパリ、梨子ちゃんのオクソクにはアナがあったみたいだね?」
千歌「ウチの庭にもある、アリジゴクが作ったのとおんなじよーなアナが!」
梨子(……それはそれで、なんで気付いていて駆除しないのかは、気になるけど。……しかも客商売の旅館なのに。……でも……)
梨子(でも、そのアナ以上に。もっと大きなアナがあったことに、千歌ちゃんは気付いていない!)
梨子(そう。自分自身が掘ったはずの《落としアナ》に!)
237 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:54:22.29 ID:2ASeLL45O
梨子「……千歌ちゃん」
千歌「なにかな」
梨子「……もしそんなアナを主張するのだとしたら。……千歌ちゃんの主張はアナだらけになってしまうのよ」
梨子「……アリジゴクどころか、ハチの巣ぐらいにね!」
千歌「チカの主張がハチの巣……?梨子ちゃん!」
梨子「!な、なに?」
千歌「それだと、まるでチカがたくさんの《モードク》を持っているみたいじゃん!」
梨子「え。………ゴメン。話の本筋はそこじゃないんだけど……」
千歌「……なんだ。それならそうと言ってよ」
梨子「……ゴ、ゴメン。(余計な例えのせいで余分な時間を取ってしまった)」
238 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:58:06.15 ID:2ASeLL45O
梨子「オホンッ!…………いい?その反論を受け入れるのだとすれば」
梨子「《いつ》《誰が》このペンダントの写真を撮ったのかわからなくなるのよ!!」
千歌「・・・・・・!」
梨子「どうやら千歌ちゃんも気付いたみたいね……」
梨子「千歌ちゃん自身が説明してくれたことだもんね。千歌ちゃんしかこの写真は撮れなかったと」
千歌「なるほど、ね。……チカは自分の掘った、《落としアナ》に……梨子ちゃんを落とそうとして」
梨子「ええ。……自分で落ちちゃったのよ」
梨子「……“墓穴”という名の、“生きた人間”の足元を致命的に掬う、アナにね!」
239 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 20:59:21.17 ID:2ASeLL45O
千歌「……梨子ちゃん」
梨子「何?」
千歌「……どうでもいいんだけどさ。流石にさっきから例えが多すぎじゃない?」
梨子「……最初に始めたのは千歌ちゃんでしょ!」
千歌「・・・まあ、そうなんだけどさ」
梨子「それはともかくとして!」
梨子「千歌ちゃんも気付いた通り、この写真が私の転校前のものだとすると、数週間前撮ったという千歌ちゃんのさっきの主張と矛盾するのよ!」
千歌「……まぁ、確かにそうだね。でも、見間違いって線はまだ消えてないよ?」
梨子「だったら!そのことを美渡さんに聞いてみればこの話は解決するはずよ!!」
千歌「……美渡ねぇ」
梨子「私だけが言っているのなら確かに、単なる言いがかりだと思う」
梨子「けど、千歌ちゃんの家族も言うのなら話はベツ。……それも、毎日しいたけちゃんのことを気にかけている美渡さんなら……」
梨子「ベツどころかカクベツよ!」
千歌「・・・・・・」
梨子「そして、その美渡さんが何も言わなかったとしたら。……この《キズ》……いや、この《文字》は!」
梨子「今までに一度も彫られたことがないものっていうことになる!」
梨子「美渡さんほど、しいたけちゃんをお世話している人はいない。……そんな人が、首輪が入れ替わっていた時期があったことを”見落とす”はずはない」
240 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 21:00:26.00 ID:2ASeLL45O
梨子「……どう、千歌ちゃん?今すぐ美渡さんに確認してみようか?」
千歌「……その必要はないよ。梨子ちゃん」
梨子「……ということは、認めるっていうこと?」
梨子「この首輪の文字は……《あってはならない》ものであったと!」
千歌「……梨子ちゃん。……梨子ちゃんこそ。焦っちゃダメ、だよ?」
梨子「……!」
千歌「梨子ちゃんの言うようにこのキズが《あってはならない》のだとしたら、このキズはどんな意味で《あってはならない》のかが問題になる」
千歌「そこを説明してからじゃないかな?その先の話をするには……」
梨子「ちょっと待って!それは《キズ》じゃない!《文字》よ!」
241 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 21:01:20.66 ID:2ASeLL45O
千歌「ふふ。梨子ちゃん、だから焦らないで?」
梨子「……な………!」
千歌「・・・だから、その《キズ》がそんなにトクベツな《文字》だったとしたら、何が問題なのか?・・・・・・そういう話だよ」
梨子「……ぐっ(何なの。この、強烈な焦燥感は……)」
梨子(こっちが問い詰めているはずなのに、いつの間にか立場が逆になっているかのような感覚)
梨子(……さっきの千歌ちゃん≠ヘ私の知っている千歌ちゃんと変わらない受け答えの仕方だった。少なくともそんなに印象は変わらなかった)
梨子(だけど……今の千歌ちゃん≠ヘ違う。問い詰められたことに動じないどころか、むしろ更に問いを進めさせようとしているかのような……そんな印象すら受ける)
梨子(まるでカンペキに千歌ちゃん≠ナあることによって、千歌ちゃん≠ネら作ってしまうアナを見付けさせて……)
梨子(それを基に、私に何かを促しているかのような……そんな感じすら受ける)
242 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 21:02:26.15 ID:2ASeLL45O
千歌「どうしたの?答えられないの、梨子ちゃん?」
梨子(……なんにせよ、今はこの流れに乗るしかない)
梨子「……少なくとも。この文字は《いつ》この写真が撮られたかについて、疑問を挟むことになるわ」
梨子「千歌ちゃんはこの写真が数週間前に撮られたものだと言った。でも、そうだとすると……」
千歌「この写真に写っている文字みたいな《キズ》の説明がつかない」
梨子「………そういうことよ」
千歌「でもさ、実際に写っている以上、この写真が撮られた時、首輪にこのアクセサリーがついていたことは間違いないよね?」
梨子「ええ。だからこそおかしいのよ」
梨子「もし数週間前に撮影された時の首輪が写っているんだとしたら、その時かなり不自然な入れ替えが起きたことになる」
千歌「……さっきも入れ替えってことは言ってたけど、よくわからないんだよね。説明してくれる?」
243 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 21:03:26.99 ID:2ASeLL45O
梨子「・・・もちろん、そのつもりよ。……数週間前から今日にいたるまで、こんな文字は見たことがなかった。だとすれば、この文字はその間に付いたものではなかったことになる」
千歌「……もしそうだったとしても、それ以前の期間に付いていた可能性はやっぱりあるよね?梨子ちゃん、しいたけのこと苦手だったから、気付かなかっただけかもしれないわけだし」
梨子「……今になって自分の主張を変えるつもり?」
千歌「変えてはないよ。あくまで、数週間前から今までの間はともかく、それ以前は違った可能性もあったんじゃないかってこと」
千歌「さっきのチカの主張は、梨子ちゃんのいなかった時に撮られた写真ならってことを言っただけ」
千歌「そうじゃなくて。梨子ちゃんがいなかった時に付いた《キズ》で、それが数週間前撮影されたとしたら、辻褄が合うでしょ?」
千歌「それに。数週間の間で、キズがキズを覆い隠したって可能性も考えられるんじゃない?」
梨子「……(なるほどね。一見、間違ったことは言ってないようだけど)」
梨子(ここで、あの写真の存在がその説明を揺り動かすことになる)
244 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 21:05:42.53 ID:2ASeLL45O
梨子「……確かにそうかもしれないわね。……だけど、少なくとも浦の星が夏服になる前までは、そんなキズなかったみたいよ?」
梨子「少なくとも昨日皆でアルバムを見た時はそうだったよね」
千歌「何を言って……?あ。もしかして……」
梨子「そう。私と千歌ちゃんと曜ちゃんと、そしてしいたけちゃんと一緒に旅館前で撮ったあの写真」
梨子「……あれには、はっきりとわかるようなキズはなかった」
梨子「さて。じゃあその写真を撮った後、アクセサリーを変えたことはあったのかな?」
梨子「……これも、美渡さんに聞けばわかることだよね」
千歌「…………」
梨子「あの早い段階で撮った写真にキズはなかった。それから数か月の間にこれほどのキズが付くとは考えにくい」
千歌「でも実際、昨日見たしいたけのアクセサリーはキズだらけだったでしょ?」
梨子「もちろん。……ただし。《浅い》キズで、ね」
245 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 21:07:28.72 ID:2ASeLL45O
千歌「……流石。梨子ちゃんにはもっと《深い》ツッコミじゃなきゃ意味がないか」
梨子「……。とすると、《深い》キズが付くチャンスはあの写真を撮る前」
梨子「そして、千歌ちゃんの主張は数週間前にこの写真を撮影したということだった。……なら」
梨子「千歌ちゃんは、私が転校する前にあったボロボロの首輪をわざわざ取っておいて、この撮影の時だけ首輪を入れ替えたことになる!」
梨子「これはあまりにも不自然よ!!」
千歌「………確かに、普通はそうかもね。けど、これは《形見の写真》。ちょっとトクベツなものを、不自然だと思い込んでるだけじゃないのかな?」
梨子「美渡さんにも気付かれずに入れ替えを行ったことが、不自然じゃないとでもいうの?」
千歌「美渡ねぇ、意外と忘れっぽいし、私や志満ねぇがやってることには普段そんなに興味ないみたいだからそれもあり得るんじゃないかな?」
梨子「……強引にも過ぎるでしょ、そんな理屈」
千歌「強引でもしょうがないじゃん。あくまで偶然、普段とは違うものが写った。……そう考えられる限りはね」
246 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 21:09:17.36 ID:2ASeLL45O
梨子「いいえ。それは、ないわ」
千歌「そっか。……じやあ、それはどうしてかな」
梨子「確かに不自然な点が一つだけだったらそうだったかもしれない。だけど……」
梨子「二つ以上あったら……それは、偶然という言葉で完全に片づけられなくなるとは思わない?」
千歌「二つ……」
梨子「ええ。さっきも言った通り、写真を撮る時は基本的に一緒に写りたがる千歌ちゃんがここには写っていない」
千歌「・・・・・・」
梨子「そしてこの首輪の文字。……これもかなり不自然なものよ。……だったら……」
梨子「この写真の不自然な点は、単なる偶然で残ったとはとても考えにくいの」
梨子「もしこれを偶然だと言い張るなら、少なくとも二つの前提の内一つは説明できないといけない」
梨子「つまり……この写真は本当に千歌ちゃんが撮ったものだったのか?もしくは、本当に数週間前に撮ったものなのか?」
梨子「もっと踏み込んで言えば、《いつ》《誰》がこの写真を撮ったのか?」
梨子「……さっき千歌ちゃんが私に聞いたこと。これ千歌ちゃんに聞かないことには、話は進まないの!」
千歌「・・・逆、か。なるほどね……」
梨子「千歌ちゃん。これは……どういうことなの?」
千歌「・・・・・・」
梨子「千歌ちゃん!」
247 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 21:10:06.14 ID:2ASeLL45O
千歌「・・・どうもこうもない。それが、私の答えだよ」
梨子「…………!」
千歌「確かに梨子ちゃんの言う通り、この写真は不自然で……偶然撮られたもののようには思えないかもね」
梨子「だ、だったら……」
千歌「だったら。・・・どうして、そんな不自然なものが残ったのか?・・・・・・それを説明してほしいった話なんだろうけどさ」
千歌「つまり、もし梨子ちゃんの考えが正しいとしたら、この写真に写っているものは偶然じゃなくって、必然的に写ったものなんだって考えなきゃいけないわけだよね?」
梨子「……そうなるね」
千歌「偶然写ったんじゃないとしたら、そこには何か理由があるはず。そういうことだよね?梨子ちゃん?」
梨子「……!そうだよ。だから、はぐらかさないでそれを説明して……」
248 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 21:11:04.11 ID:2ASeLL45O
千歌「無駄、じゃないかな。・・・そんなこと、頼んでも」
梨子「な。なんで……?」
千歌「だって・・・理由なんて、答えようがないからね」
梨子「こ、答えようがない……?」
千歌「いい、梨子ちゃん?・・・ここに写っている以上、この写真は首輪の入れ替えか、文字に見えるキズがあったと考えるしかない。・・・ここまでは、完全には否定しきれないね」
千歌「そして、だったらなんでそんなものを、写真を撮る時だけ入れ替えたのか?……それも、問題になるんだよね?」
梨子「そう、ね」
千歌「じゃあ、その理由は?・・・・・・答えから言うと、そこに理由は必要ない」
千歌「[過去]は必然だよ。変えることは、出来ない」
梨子「……千歌ちゃん。何を言ってるの……」
千歌「いくら不自然であっても、この写真が撮られたタイミングはやっぱり数週間前しかない。・・・それは、さっき説明した通りだよ」
梨子「……そ、それは」
千歌「そして、撮影が出来たのはチカしかいない。……じゃあ、ヤッパリ偶然は偶然でしかない」
249 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 21:12:18.75 ID:2ASeLL45O
梨子「……必然って言ったばかりだけど?」
千歌「だから、偶然写ったとしか考えられないって意味で、必然なんだよ。偶然が必然だったとでもいうのかなぁ?」
梨子「……(頭が痛くなってきた)」
梨子「で、でも。この《文字》は……!?」
千歌「もちろん、キズの深さの問題はあるかもしれない。だけど、撮影が行えたのがチカだけな以上……この《キズ》は撮影の時付いていたとしか考えられない」
梨子「けどそんな特徴的な《キズ》は今までになかったものでしょ?」
千歌「うん。だからさ、梨子ちゃんは入れ替えがあったって思ってるみたいだけど」
千歌「このキズは単に文字と錯覚してしまうだけのキズに過ぎない。……そして数週間の間に、文字っぽい《キズ》をベツのキズが覆い隠したと考えることもできるよ?」
梨子「で、でも!そんなのは不自然だって、三人としいたけちゃんで撮ったあの写真が明らかにしてるでしょ!?」
千歌「でも、それから結構経ってるでしょ?……それに」
千歌「キズの《深さ》が、この写真だけでわかるとはいえないよ。……パッと見キズの深さが違ったように見えても、それがキズじゃなくて単なる影でしかない可能性は、あるからね」
梨子「……くぅっ!」
250 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 21:13:29.21 ID:2ASeLL45O
千歌「・・・流石の梨子ちゃんでも、くぅのオトしか出ないのかな?」
梨子「……うぅぅ。そ、それを言うなら、『ぐぅのネも出ないのかな?』でしょ!」
千歌「・・・・・・。ま、ポイントはそこじゃないんだけどね。・・・一番の問題は、さ」
千歌「梨子ちゃんの主張だと、この写真は偶然撮られたものではなくなる。偶然にしては、あまりにも不自然過ぎるから」
千歌「だとすると、この写真には私……チカが主張したように、何かこの構図になるための理由があったことになる」
千歌「チカはそれを《家族の形見》だからだって説明したはずなんだけど……梨子ちゃんはそれじゃ納得がいかないんだよね」
千歌「けど、それ以外の理由があるはずがないんだよ。だって……」
千歌「写真は覆しようがない。このペンダントに写っていて、条件的にチカしかこの写真を撮れなかった以上」
千歌「これは、チカが撮ったとしか言えないし、そこにこれ以上の理由はないんだよ」
千歌「要するにさ。もし、チカが写っていないことがおかしいなら……どうして写っていなかったのか、その理由が必要になる」
千歌「それに、偶然首輪を入れ替えたんじゃなかったとしたら……わざわざ首輪を入れ替えた理由もまた、必要になる」
梨子「首輪を入れ替えた、理由……」
251 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 21:14:22.78 ID:2ASeLL45O
千歌「・・・・・・梨子ちゃんの言うように、この《キズ》が特別な意味を持つ《文字》だったとしたら」
千歌「本当にそうだったとしたら・・・私に首輪の入れ替えをする理由があったってことになるね。でも、だからこそ」
千歌「首輪を入れ替えたのが偶然じゃないってなったら、チカが数週間前にこの写真を撮ったことが、間違いなかったと証明されるだけだよ!」
千歌「だって、この写真を撮れる機会は数週間前しかなくて、しかもそれをこの構図で撮る強い動機もあった……首輪を入れ替えてまで撮りたかった写真だって……そうなるだけだからね!」
梨子「……!」
千歌「結局、問題は変わってないんだよ。私はもう、説明をしてる」
千歌「どうして……チカが。……数週間前にこの写真を撮影したと言えるのか?そういう、説明をね」
梨子「………ぐ。ぐぅぅ……ぅ!」
千歌「・・・もう、ぐぅのネが出た?」
252 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/03(水) 21:16:09.39 ID:2ASeLL45O
梨子(こ、これ見よがしに……!)
梨子「い、今のはお腹の音よ!」
千歌「え、う、うん……そっか。……じゃあもうこの話はやめにして、お家かえろっか?」
梨子「……こ、ここまで食い下がっちゃったら、そうもいかないでしょ!」
千歌「食べるのは晩御飯だけにしといた方がいいと思うけどなぁ。……でも、どっちにしろこれまでだよ」
千歌「・・・梨子ちゃんは不自然な事実を指摘したつもりだったみたいだけど」
千歌「むしろ、梨子ちゃんの言う通りだとすれば、私の説明にヘンなところはなくなるよ?」
梨子「千歌ちゃんが、不自然な行動をとった“理由”……それが説明されることになる、から……」”
千歌「……そういうことだよ」
梨子「だ、だからその理由を教えてよ!」
千歌「……梨子ちゃん。私はあくまで梨子ちゃんが言った通りだったとしたら。つまり、入れ替えがあったとしたらの話をしたんだよ?」
千歌「それでもし梨子ちゃんが正しかったとしても、結論は変わらないってことを言ったってだけ」
梨子「……ということは、入れ替え自体は認めないってことなの?」
千歌「そりゃそうだよ。それこそ、不自然過ぎるもん」
千歌「なんでわざわざその時だけ首輪を、それもヘンなものが写っているものに入れ替えるっていうの?」
千歌「それだけの理由があったとかならともかくさ」
253 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/03(水) 21:17:46.73 ID:2ASeLL45O
梨子「……だからさっき、理由なんてないって言ったわけね……」
千歌「そ。こんな《文字》に見えるようなものが写ってるとは思わなかったけど……それだけだよ」
梨子「……《キズ》の深さが、単なる錯覚だなんて……本気で言ってるの?」
千歌「首輪の入れ替えがあったって本気で言うよりはマシだと思ってね」
梨子「……記録に残っているものに錯覚なんてあり得ないわよ?」
千歌「記録自体はそうだとしても、それを見る人が錯覚することはあり得るよね?」
梨子「……私が錯覚してるってこと?」
千歌「否定はできないよねってだけだよ。それとも、これが《キズ》じゃなくて《文字》だって言える根拠が他にあったりするの?」
梨子「そ、それは……」
254 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 02:09:00.04 ID:oG4bz9rJo
千歌ちゃんのくせに頭良さそうな話し方しやがって
255 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 20:06:11.46 ID:jKKfMeypO
千歌「・・・・・・ない、ってことなんだよね。もしあったら話してるはずだもんね」
梨子「……それは。そう、だけど……」
千歌「・・・。梨子ちゃんも認めてくれたことだし、じゃあやっぱりこの《キズ》は偶然、そう見えたってだけだね」
梨子「……でも、美渡さんはじゃあ、どうなの?そんな《キズ》見たことないんじゃないの?」
千歌「う〜ん……このセンでいくと見たこと自体はあるんじゃないかなぁ?」
梨子「で、でもだったら……違和感ぐらい、持つんじゃ……」
千歌「だからこそだよ。それが、《キズ》であることの何よりの証拠なんだよ」
梨子「ど。どういうこと?」
256 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:13:38.00 ID:jKKfMeypO
千歌「美渡ねぇが違和感を持ったことがないってことは、結局、その《キズ》は《文字》なんかじゃなかったってことでしょ?」
千歌「もし、元から《文字》みたいな形だったとしたら流石に気付くはずだし。ってことは、本当に偶然、そんな形に見える《キズ》が付いてたってことの証明になるよね?」
梨子「……うぐっ!(は、反論できない……!)」
千歌「きっと美渡ねぇに『これ文字に見えない?』って聞いても『あぁ、そんな風にも見えるっちゃ見えるな』って返されておしまいだと思うよ」
梨子「……(た、確かに。さっきは強引な理屈だって反論したけど言われてみれば美渡さんなら言いそうだ……!)」
千歌「……今、美渡ねぇなら確かに言いそうだって思ったでしょ」
梨子「ど、ど、どうしてわかったの千歌ちゃん!」
千歌「いや、そんな顔してたから……」
梨子「そ、そう。千歌ちゃんには私のこと、全てお見通しって訳ね……」
千歌「……誰だってわかると思うけどね。梨子ちゃん顔に出やすいから」
梨子「・・・・・・ぬぅぅ!(ポーカーフェイスにはそれなりに自信があったのに……!)」
257 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:14:44.26 ID:jKKfMeypO
千歌「さて、と。……じゃあそろそろ帰ってご飯食べよっか?」
梨子「……え。ど、どうして……?」
千歌「だってもう全部話したし。それに、梨子ちゃんお腹空いてるんでしょ?」
梨子「そ、それは……(お腹じゃなくて頭が空っぽになって言葉が出なかったのよ!)」
千歌「このままだと夕飯残り物になっちゃうしさ。嫌でしょそんなの」
梨子「……残り物には福があるっていう言葉もあるけど」
千歌「いやいや。夕飯の残り物には福なんてないってば」
梨子「夕飯の残り物には……?」
千歌「……梨子ちゃんは一人っ子だからわかんないのかな。姉妹がいたら残り物なんて本当に残念なものしかないんだからね!ボヤボヤしてるといいのは全部食べられちゃうんだから!」
258 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:15:40.36 ID:jKKfMeypO
梨子「そ、そう……?」
千歌「そう!姉妹の争いっていうのはね、もうやるかやられるかなんだよ!」
梨子(姉妹全部がそういうわけじゃないんじゃないと思うんだけど……それにそもそも高海家でそんな争いをするのって千歌ちゃんと美渡さんだけなんじゃ)
千歌「……今さ、そんなことするのチカと美渡ねぇだけだって思ったでしょ」
梨子「え、えっ!?」
千歌「梨子ちゃんはさ、やるかやられるかの世界を甘く見てるんだよ。志満ねぇだって、いや、志満ねぇこそやる時はやるんだよ」
梨子「し、志満さんが……?(全然そんな風には見えないけど……)」
千歌「『人は時に、やるかやられるかやるかやらないかの二者択一に迫られる。その時にどちらを選ぶかでその人間の価値が決まる』……これ、志満ねぇが本気を出す時に必ず言う言葉だよ」
梨子「そ、その本気を出す時って……?」
千歌「モチロン、残り物争奪戦の時だよ。志満ねぇはさ、普段優しいけどたまにホントに怖いんだからね!妹相手でも全然容赦ないっていうか、手段選ばないんだもん!」
梨子「あ、あの志満さんが……」
千歌「でもま、割と普通のことじゃない?どんなところでも似たようなことしてると思うよ?」
梨子(流石にそんなに武闘派なのは高海家だけでしょ!)
259 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:16:23.99 ID:jKKfMeypO
千歌「梨子ちゃん。なんか納得いかなさそうだね?」
梨子「……そりゃあ、ね。少なくとも、私はそんな経験したことないし……」
千歌「・・・・・・どうかな。少なくとも今は、違うんじゃないかな」
梨子「……え?今は違う、って……?」
千歌「だってさ。梨子ちゃんってばさっきから、ずっとそうじゃない?……不自然なのかそうじゃないのか。もしそうだったとしたら、何か”理由”があるはずだって」
梨子「!」
千歌「志満ねぇの言葉ってどっちかしかないっていうことを言ってるわけだけどさ。でもそれって、今の梨子ちゃんも同じような感じじゃないかな?」
梨子「それは……」
千歌「・・・それに、ずっと思ってたんだけどさ。なんでそこまで、追求しようとするの?」
梨子「……!」
千歌「私のことを不自然だって言うけど、そこまで追求しようとする梨子ちゃんこそ不自然な気がするよ」
梨子「………」
260 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:17:37.66 ID:jKKfMeypO
千歌「あ、ごめんごめん!気を悪くさせるつもりじゃなくって、えっと、梨子ちゃんがおかしいとか、そういうことが言いたいんじゃなんだよ」
千歌「ただ、たまに自分でも何でそんなに焦ってるのかわからないけど、何かがどうしようもなく気になっちゃうときってあるよね」
千歌「梨子ちゃんもね、今そういう風になっちゃってるんじゃないかな?」
梨子「私が、焦ってる……」
千歌「うん。私にも経験があるよ。後になってどーしてこんなことで悩んでたんだろぉって思ったりね」
千歌「でもそういう風に何かに悩んでる時って、たいていたっぷりご飯食べてゆっくりお風呂に浸かって、ぐっすり眠ったら次の日にはキレイさっぱり忘れてるんだよね」
梨子「忘れて……」
千歌「そ。だからさ、梨子ちゃんもたまにはご飯食べてゆっくり休んだらどうかな。きっと次の日には、なんであんなに気になってたんだろーって思えるよ」
梨子(……『もう、いい加減にした方がいい』『千歌ちゃんの言う通りかもしれない』……そんな言葉が、頭の中に響いている)ギュッ
梨子(確かにその通りにした方がいいと思う。でも、こんなに大事なことを話されて、そんなに簡単に忘れられるかな?)
梨子(それに……千歌ちゃんの言うことに納得しかけていること自体が、違和感でもある)
梨子(本当に、このまま今日を終えて、明日目を覚ましたら、綺麗サッパリ忘れてしまえるかのような……そんな予感が、ある)
梨子(……ううん、予感なんてものじゃない。確信してるんだ……私は)
梨子(私は、私の違和感が明日には消えてしまうことを確信している……!)
梨子(でも、だからこそこの違和感を無視できない。……だとしたら)
梨子(私がとる道は、やっぱりこれだ)ギュッ
261 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:18:53.22 ID:jKKfMeypO
梨子「……千歌ちゃん。残念だけど、まだ私はご飯を食べに帰るつもりはないよ」
千歌「どうして?……もうなんにも残ってないでしょ?」
梨子「あいにくだけど、私は違和感を残したままご飯なんて食べられないの」
千歌「違和感……。でもさ、もう疑問の残り物なんてないでしょ?やっぱり気のせいなんじゃないかな?」
梨子「……千歌ちゃん。こういう言葉を知ってるかしら」
千歌「え、なになに?どうしたの突然」
梨子「『人は時に、やるかやられるかやるかやらないかの二者択一に迫られる。その時にどちらを選ぶかでその人間の価値が決まる』」
千歌「……それ、さっきチカが話した、志満ねぇの言葉じゃん」
梨子「……私は、今がその時だと思う。私がやるべき時は、今この時」
梨子「この今≠アそ、私がやるべき時なんだと思うの」
千歌「・・・」
262 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:19:52.56 ID:jKKfMeypO
梨子「ところで。……この言葉は時に、誤解を生むこともあると思うの」
梨子「そう……今の千歌ちゃんと同じようにね!」
千歌「……!今のチカと、同じように……?」
梨子「・・・ええ。『二者択一』は必ずしも正しいとは限らない」
梨子「その前提自体が間違っていたとしたら……どっちを選んでも、間違っていることに変わりはないの!」
千歌「前提を間違えてる?……なんの話?」
梨子「……今まで私は、ずっとある前提のもとで考えていた」
梨子「千歌ちゃんの言う通り、私は不自然な事実が生まれるのだとしたら、必ず理由があってそうなると思ってた」
梨子「それで、今までその理由が何なのか、探していたわけだけど……」
263 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:20:44.49 ID:jKKfMeypO
千歌「そんなのなかった。だって、事実が事実としてある以上、たとえ不自然であっても理由がないことはあり得るから。……そんなところかな?」
梨子「……確かに理由のない不自然はあり得ると思う。偶然という言葉で説明はつくからね」
千歌「だったら……」
梨子「でもね、偶然は偶然。そう何でも説明の出来るものじゃない」
千歌「……梨子ちゃんはさっきから、説明がつくかどうかばっか気にしてるよね。どうして説明できないこともあるって考えないのかな?」
梨子「……今回に限ってはそうはいかないからよ。千歌ちゃん……」
梨子「少なくとも不自然な状況だったり、信じられないことが“何度も“起こったとしたら……それは偶然という言葉だけで全て説明できるものじゃない。それはさっき話した通りよ」
千歌「・・・じゃあ、梨子ちゃんはどう考えるの?」
千歌「今までの梨子ちゃんの考えの通りだとしたら、不自然なことって理由があって起こったのか偶然そうなったかのどっちかになるはずだよね」
千歌「でも、今までの話はそのどっちでもないんだよ」
千歌「だとしたら……」
梨子「……だとしたら、そのどっちでもないことが起こったと考えるしかない。……そうじゃないかな」
264 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:21:53.86 ID:jKKfMeypO
千歌「・・・!どっちでもないって……。何を言ってるのか、わかってるの?」
梨子「ええ。……モチロン、わかってるよ。つまり……」
梨子「つまり、”首輪は入れ替わっていたし、その理由もあった。だけど、それは不自然な入れ替わりだった”!」
梨子「私はそう考える!」
千歌「・・・・・・。・・・本気でそんな風に考えるつもり?」
千歌「そんなの、ありえないよ。……だって、そんなの……」
梨子「……そんなのは。矛盾、してるから?」
千歌「・・・。……そうだよ。……そんなの、ヘンだよ」
千歌「だって、不自然かどうか……。そのどっちかしかないのに、そのどっちでもないだなんて」
梨子「……だったら、その『どっちかしかない』という前提こそ間違っていた。それこそ、私が陥っていた間違いだった」
梨子「そう考えてもいいよね」
265 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:23:28.20 ID:jKKfMeypO
千歌「どっちかしかないという、前提……?」
梨子「ええ。……矛盾っていう発想は、『どちらか片方に決まって、どちらかだけが本当のこと』……って。そういう考えから生まれるものだと思う」
梨子「そう……『二者択一』の発想から、ね」
千歌「・・・・・・」
梨子「でもね。そもそも、『どちらか一方だけ』だと考えるのは、矛盾が出てきた時だけ」
梨子「そして、矛盾っていうのは……ある出来事と、その出来事じゃないことが同時に成り立つことは、あり得ないということ」
梨子「つまり、ある出来事は、それを否定する出来事と同時に成立することは出来ない。当たり前といえば当たり前だけどね」
千歌「なるほど……ムジュンの意味はわかったよ。けどさ、それだとやっぱり梨子ちゃんの考えは。今、梨子ちゃん先生が教えてくれたムジュンの意味まんまだよ?」
梨子「……確かに、不自然かどうかだけ見れば、そのどちらでもないって考えは明らかに矛盾する。それは、その通りよ」
梨子「でも、言ったでしょ?『”その前提”こそが間違っていた』って」
梨子「つまり……『不自然さ』そのものの前提こそが、間違っていたのよ」
266 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:25:29.32 ID:jKKfMeypO
千歌「……『不自然さ』そのものの前提……」
梨子「……そうよ。私は千歌ちゃんの言う通り、こう考えていた」
『不自然なことって理由があって起こったのか偶然そうなったかのどっちかになるはず』
梨子「この考え、もっとちゃんと考えると……」
梨子「不自然さは理由があれば説明できる……理由があれば、不自然なことは不自然じゃなくなる……」
梨子「逆に言えば理由がなかったら不自然なものは不自然なまま。……そういう考えになる」
梨子「つまり、理由があるかどうかが不自然さの前提になっていることになる」
千歌「……その前提が、間違っていた、ってこと?」
梨子「ええ。……不自然であるかどうかと、理由があるかどうかは違う」
梨子「それにそもそも私は、説明できるかどうか?そっちこそを追求していた……」
梨子「そして、理由があっても説明できない不自然さはあり得る」
267 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:26:36.17 ID:jKKfMeypO
千歌「ふぅん……なるほどね。理由があっても説明できない不自然さ……か」
千歌「・・・そうなると、問題は何がその説明できない不自然さを」
千歌「……ってなんかわかりづらいから説明できなさでいっか。……問題は、その説明できなさをどうやって示すのかって話になるよね」
千歌「その写真に写っているものはそこに写っていなきゃいけない理由があった。でも、そこに写っちゃダメだった。・・・・・・じゃあ結局、何が梨子ちゃんの考えを示すっていうの?」
梨子「……簡単なことよ。この写真の《文字》を見ればいいだけなんだから」
千歌「・・・・・・本当に、こだわるね」
梨子「……千歌ちゃん先生がさっき教えてくれた通り。もしこの首輪に刻まれたものが《文字》だったとしたら……、そしてその《文字》が特別な意味を持つとしたら。当然、この首輪をつけて写真を撮る理由があることになる」
梨子「だけど、同時にその《文字》の持つ意味によっては……『首輪は入れ替わっていたし、その理由もあった。だけど、その入れ替わりは不自然な入れ替わりだった』……この考えも、成り立つ」
梨子「……千歌ちゃんの言葉を使わせてもらうなら『その入れ替わりは説明できない入れ替わりだった』とするべきかな」
268 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:27:19.65 ID:jKKfMeypO
千歌「……そこら辺はどっちでもいいよ。問題はまず、しいたけの首輪に写っているものが本当に文字なのかってところ……」
梨子「そして、もし本当に《文字》だったとしたらそれがどんな意味を持つのか。……というところ、ね……」
梨子(……あれ?そういえば……)
梨子(この話……さっきもしたような……)
梨子(それも、千歌ちゃんがしていたような……っ!?)
千歌『梨子ちゃんの言うようにこのキズが《あってはならない》のだとしたら、このキズはどんな意味で《あってはならない》のかが問題になる』
千歌『……だから、その《キズ》がそんなにトクベツな《文字》だったとしたら、何が問題なのか?……そういう話だよ』
千歌「・・・・・・そうだね。それこそが、本当の問題だよね」
269 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:28:59.97 ID:jKKfMeypO
梨子(……千歌ちゃんの表情が、さっきと同じになった)
梨子(私が、強烈な焦りを覚えた……あの表情に)
梨子(……ま、まさか……)
梨子「……まさか、今までの反論は本当にわざとだったっていうの?」
千歌「ん?……わざと、って?」
梨子「……写真を拡大してからのやり取りはほとんど堂々巡りに近いものだった……質問はこれで最後だなんて言ったはずなのに、一言では終わらなかった……」
千歌「・・・」
梨子「でも、千歌ちゃんは付き合ってくれているよね。……それこそ、徹底的に」
梨子「徹底的に、私の考えを全て潰しにかかることで。核心の部分……《文字》という[証拠]が一体どんな意味を持っているか……それだけに目を向けさせてくれた……」
梨子「たとえ堂々巡りでも、この過程を踏まなかったら……。どうして、この”文字”がここまで問題だと言えるのか」
梨子「どれほど、重要な意味を持つのか。……その視点に立つこと自体、出来なかったかもしれない……!」
梨子(この”文字”こそが全ての疑問に繋がる手掛かりだっていう視点に……!)
270 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:31:26.28 ID:jKKfMeypO
千歌「・・・・・・ねぇ梨子ちゃん。梨子ちゃんがそう考えるのは自由だけど・・・普通、《逆》だと思わない?」
梨子「(……!)ぎゃ、《逆》?」
千歌「・・・・・・。梨子ちゃんはその《文字》が重要なもので、それこそが全ての謎を握ってるって、そう考えてるみたいだけど」
千歌「普通わかんないよ?文字に込められた意味なんてさ」
千歌「それこそ・・・・・・自分に関係するものでもない限り」
梨子「……それは……」
千歌「チカがここまで梨子ちゃんに付き合ったのは、それを知ってもらうため」
千歌「どう考えても答えが出ないものもある。・・・・・・それを、梨子ちゃん自身に納得してもらうためだって、思わないかな?」
梨子「私に、納得してもうため……?」
千歌「だって今≠フ梨子ちゃんは、そうでしょ?」
千歌「自分で納得するまでは、追及をあきらめない。・・・そんな風に見えるよ」
千歌「だからさ、自分で納得してもらうしかないなって。・・・もう説明しようがないって、ね」
梨子「……確かに、普通に考えたら見たこともない、聞いたこともない《文字》に込められた意味なんて、知りようがない。でも……」
梨子「でも、推測することは、出来るはず」
梨子「それすらもしないで、納得なんて私にはできない」ギュッ
千歌「・・・・・・そっか」
271 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:33:18.90 ID:jKKfMeypO
千歌「・・・・・・〈あなた〉は。あくまで、追及するつもりなんだ・・・」ボソッ
梨子「……え?千歌ちゃん今、何か言った?」
千歌「・・・何でもないよ。それじゃあ、聞いてみようかな」
千歌「この《文字》に。一体、どんな意味があるのか?……それに対する、梨子ちゃんの推測を、ね」
梨子「……ええ。いいわ……」
梨子(この《文字》に、一体どんな意味が込められているのか……)
梨子(それを考えるためにはまず、文字の形を把握しないといけない)
梨子(《文字》に意味があると考える以上……それがどんな文字であるかわからないと推測すら出来ないからね……)
梨子(もう一度、《文字》の部分を確認してみよう)
272 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:34:37.17 ID:jKKfMeypO
梨子(……『5Piqj』。なんとか読めたのが、この組み合わせだったわね……)
梨子(このままじゃよくわからないけど……)
梨子(おそらく、この《文字》はアルファベットがメインになっている……それは明らかだと思う)
梨子(それともう一つ。これはあくまで、そう読めそうなものをそのまま読んだ結果でしかない。よく見ると、文字のデザインも位置もバラバラだ)
梨子(……素直に考えて、意図してそういうデザインにすることはあまりない気がする。だとすれば……)
梨子(やっぱり、元のデザインは違っていたと考えるべきだよね)
梨子(なら、本当の形はどんなものだったのか明らかにすること……そこが出発点だ)
梨子(アルファベットで書かれている。……それを前提にして……)
梨子(文字に消えてる部分がないか。逆に、付け足されている部分がないか……検討してみよう!)
273 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:36:21.53 ID:jKKfMeypO
梨子(……一番目につくのは、『j』の部分ね)
梨子(これだけ、異様に形が小さいし……)
梨子(『j』に見えるのも、ただ曲がった部分と直線の部分が残ってるように見えるからだし。元は全然違った文字だった可能性が高い)
梨子(ただ、その分推測は難しい。この形一つから元の文字を突き止めるのはちょっと無理がある)
梨子(だったら……他の文字から、法則性を考えていった方がいい)
梨子(最もちゃんと形が残っているのは……『P』と『q』、ね)
梨子(『P』の方は……ちょっとななめ右に線の後みたいな、途切れた点線がある)
梨子(逆に、『q』の右の直線は、とってつけたかのように見える……)
梨子(とすれば、『P』はもともと『R』で、『q』は『o』だったんじゃないかな?)
梨子(そうだとすると……どうなるんだろう?)
梨子(『5Rioj』……まだ、これだけだと何もわからないままだ)
梨子(……『i』は、どうだろう)
梨子(これも、妙な途切れ方をしていると言える。点になっている部分がもしかしたら直線だったのかもしれない)
梨子(でも……そうだとして、直線の形を考えたら……候補は『1』か『l』か『I』……)
梨子(どれにせよ、意味は分からない……)
梨子(それに、そもそもアルファベットの大文字というセンは考えられない)
梨子(『R』と違って、明らかに元の文字の大きさが違う)
梨子(右端の『j』の部分は、キズが多すぎて原形が分からないんだけど……『i』はそんなにキズはついていない)
梨子(ただ単に、元の文字の部分が削れてこうなっただけ……そんな感じだ)
梨子(そうなら、小文字で『i』に近い形をしていて『o』に続く可能性があるもの……)
梨子(単語という観点を加えて考えた時、これに当てはまるのは)
274 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:37:39.82 ID:jKKfMeypO
梨子(『t』、だ)
梨子(私が知っている限りで『o』と一緒になって意味が通じる二文字の単語……それは『to』)
梨子(つまり、この考えを押し進めれば……『i』の元の形は、『t』しか考えられない)
梨子(……これで、残るは『5』と『j』だけ……)
梨子(『to』という解釈が本当に正しいとすれば……。この文字は、誰かから誰かへ送ったものということになると思う)
梨子(……誰から誰に、送ったのか……)
梨子(そこを突き詰めれば……残りの文字もわかるかもしれない……)
梨子(……今わかってるのは、『R』から誰かに送られているということのみ)
梨子(『R』に、当てはまるのは……)
梨子(……例えばAqoursだと。私か、ルビィちゃんになる)
梨子(それだけだったら、確証には至らない。でも……)
梨子(送った相手は……明らかだ)
梨子(……しいたけちゃん。この写真に写ってる通り、このアクセサリーはしいたけちゃんに送った、と考えるしかない)
梨子(・・・・・・だ、だとすると。この《文字》は・・・)
梨子(本当に、《あってはならないもの》……!?)
275 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:39:36.56 ID:jKKfMeypO
梨子(・・・ね、念のため、他の文字の形を考えてみよう……)
梨子(『j』はおそらく、『S』だったもの……『しいたけ』の頭文字をとって、『S』……そう考えられるから)
梨子(……それにしても。この『j』が、『S』、か……)
梨子(……『j』が『S』だったとしたら、ちょっとクセのある書き方だよね……)
梨子(だって、『S』は本来、”曲線”だけの文字。……それが『j』のような、”直線”が入ってる文字に見えるなんて……)
梨子(……もし。この書き方がクセだったり、デザインの統一を意図したもので、他の文字も同じように書かれているとしたら……)
梨子(『S』が、直線的な書き方になっているとしたら……)
梨子(……『S』と似ていて、『S』との違いは”直線”である文字……)
梨子(……この文字だ。私が『5』だと思った、この文字。つまり……)
梨子(……『5』は、……本当は『S』だった。……そう、考えられる)
梨子(……で、でも。……この考えが正しいとして)
梨子(文字の形を整形したら……!)
『SRtoS』
梨子(……『SRからSへ』……つまり、『SR』から、『しいたけへ』、という意味になる……!)
梨子(……そ、そして。こんな、”文字”のアクセサリーを送る動機を持った、人は……)
梨子(しいたけちゃんに何かを送ろうとしていた、人は……!)
276 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:41:27.98 ID:jKKfMeypO
梨子『…………それで。それで、しいたけちゃんに今までのお詫びをしたかったから。……今まで、一方的に避けちゃってごめんねって』
梨子『私はずっと考えてた。どうやったらお詫びが出来るのかな、って』
梨子『……そう思い続けて、ある日私はしいたけちゃんのアクセサリーがボロボロだったことに気付いた。だから……』
梨子『私は、新しいアクセサリーをプレゼントしようと考えていたの。(……出来れば、メッセージを込めようとして、というのは……。今=A関係はないんだけど)』
梨子(……文字が、全てアルファベットなのも……)
ルビィ『でも、ローマ字で感謝の気持ちを伝えるのは悪くないと思う』
ルビィ『ちょっとその方向で考えてみるね。梨子ちゃんが、しいたけちゃんに送るっていう意味で、デザインしてみる!』
梨子(……そして、『SR』はイニシャルを指しているんだとすれば……その意味は……)
『S(桜内)R(梨子)』
梨子(……『桜内梨子』しか。……つまり、私しか)
梨子(私しか、いない……!?)
277 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:42:39.87 ID:jKKfMeypO
梨子「……あ。あぁ。あぁぁぁあぁ……」
千歌「・・・どうしたの、梨子ちゃん?[亡霊]でも、写ってた?」
梨子(ぼう、れい……)
梨子(亡霊って、[過去]に囚われた霊のことだった……)
梨子(でも、そんなの、あり得ない。……だって、これは)
梨子(だって、これは。……この、”文字”は……)
梨子「逆、だから……」ギュッ
千歌「・・・・・・逆?」
梨子「……これは、[過去]の、ものなんかじゃない……」
梨子「……こ、これは……」
梨子「まだ、存在しないものだから……!」
梨子「これを、送れるのは……」
梨子「<未来の私>しか、あり得ないから・・・!」
278 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:43:46.73 ID:jKKfMeypO
梨子(……私が必死で声を振り絞り、その言葉を口にした瞬間。私のものでもなく、千歌ちゃんのものでもない、たくさんの驚愕の声が辺りに響き渡った)
梨子(それを聞いた私は、震える手でさっきまで握りしめていたスマホのグループ通話を切り、以前鞠莉ちゃんからもらった超小型イヤホンを耳から外した)
梨子(……千歌ちゃんはそんな私の一挙手一投足を見届けた後……ゆっくりと、声の聞こえてきた方向……私の背後に、目線を移した)
千歌「・・・・・・」ニコッ
梨子(……その笑みからは。まるで、長らく待ちわびていた人たちにようやく再会できた喜びを、噛みしめているかのような……)
梨子(そんな印象を、受けた)
梨子(……問題は、最初から変わっていない)
梨子(目の前の千歌ちゃん≠ヘ誰なのか)
梨子(そして、このペンダントは、《いつ》手に入れることが出来たのか)
梨子(だけど……その様相は、最初から大きく。……あまりにも大きく、変わってしまった)
梨子(この、ペンダントの写真によって……)
梨子(……いったい、この写真が写している真実とは何なのか)
梨子(……私には、私だけでは、知る由もない)
梨子(ふと、視線を千歌ちゃん≠ニ同じ方向に向けた)
梨子(私も、千歌ちゃん≠フ見つめているもの。……Aqoursの皆に、……仲間たちに、目を向けるために)
279 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:47:27.91 ID:jKKfMeypO
千歌「・・・・・・やっぱり。皆に、電話を繋いでたんだね」
梨子「ええ。……まさか、全員がすぐに集まってくれるとまでは思ってなかったけどね……」
千歌「・・・・・・ふふ。そういう人の集まりだからね、Aqoursの皆は。・・・それにしても」
千歌「いつの間に、そんなイヤホン貰ってたの?」
梨子「……前に、鞠莉ちゃんが交流会でもらってきたものを、私にくれたの。……作曲担当だし、せっかくだからって……」
千歌「へえ・・・知らなかったな」
果南「……2人で話をするのもいいけどね。……そろそろさ、私達も仲間に入れてよ」
梨子「果南ちゃん……」
280 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:48:21.98 ID:jKKfMeypO
曜「……その、本当なの?千歌ちゃんの持ってるペンダントが、<未来>のものだって……」
梨子「……ええ。その可能性は、高いと思う……」
果南「事情はある程度聞いたけど。しいたけにアクセサリーを送ろうとしてたんだって?」
梨子「うん。そうだよ」
花丸「そして、そのアクセサリーに彫られた《文字》が……梨子ちゃんを示していた」
梨子「……うん」
ダイヤ「しかし梨子さん。今貴女は、「可能性」に、「思う」、と言いましたね。……では、確実にそうだとは言い切れないと、そうも考えられるのですね?」
梨子「それは……そう、かな」
善子「ちょ、ちょっと待ってよ!それじゃ結局、単なる思い込みの可能性だって考えられるじゃない!」
ルビィ「だ、だけど、梨子ちゃんしか《文字》の意味に当てはまる人がいないんだよね?だったら……」
花丸「……それだって、思い込みのセンは残ってると思う。むしろ、そんなものを送ろうとしていたからこそ、その”文字”の形を誤解することも考えられるし……」
ルビィ「それは……」
281 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:49:49.60 ID:jKKfMeypO
鞠莉「……私たちは、あなた達の会話を電話越しに聞いただけ。このままじゃ判断は下せないわ」
鞠莉「だから、その材料となるevidence。……証拠写真ってヤツを、見せてもらえるかしら?」
梨子「……千歌ちゃん、いいの?」
千歌「・・・・・・。いいよ。皆になら、・・・ね」
梨子「千歌、ちゃん……」
鞠莉「……じゃあ、ちかっち。お言葉に甘えて失礼するわね」
千歌「うん。どうぞ、鞠莉ちゃん」
鞠莉「ありがとう。……!こ、これは……」
282 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:50:36.09 ID:jKKfMeypO
善子「ど、どう?どうなってんの?」
花丸「お、おらにも見せて欲しいずら!」
ルビィ「ル、ルビィが最初に見たい!」
鞠莉「あ、ちょ、3人とも腕を引っ張らないでよちゃんと順番に回すからってイタタタタタタタ!ちょっと放してってば渡すものも渡せないってこんなんじゃ!」
果南「……流石の鞠莉も、1年生のフレッシュなパワーの前にはカタナシってところだね」
梨子「……果南ちゃんは鞠莉ちゃんがフレッシュじゃないとでも思ってるの……?」ヒソッ
曜「どうもそうっぽいね。……学年が違うだけで同じ女子高生なのにね……」ヒソッ
梨子「1年生と3年生だと言っても2歳くらいしか歳は違わないのにね」ヒソヒソ
曜「フレッシュさって2歳違うだけで変わるもんじゃないよね……」ヒソヒソ
283 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:51:30.42 ID:jKKfMeypO
ダイヤ「はいはい皆さん!このままじゃ収拾がつきません!1人ずつ見ていくように!」
鞠莉「そ、そうよ!だから3人ともこの手を放して!」
善子「……は〜い」
花丸「わかりました……ずら」
ルビィ「………」グイッ
花丸「……ルビィちゃん?どうして鞠莉ちゃんの手を放さないの?」
鞠莉「そ、そうよ。どうしたのルビィ?2人は放してくれたし、ルビィも放してくれると助かるんだけど……」
ルビィ「……ダメ。ルビィが一番に見なきゃいけないから」
ダイヤ「ルビィ?今はワガママを言う時ではないですよ」
ルビィ「ワガママじゃないもん。だってルビィが、ルビィが見ないといけないんだから」
ダイヤ「ルビィ……!」
284 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:52:12.67 ID:jKKfMeypO
梨子「……すみませんダイヤさん。私からもお願いします」
ダイヤ「梨子さん……?」
梨子「私も、最初はルビィちゃんに見てもらうべきだと思います」
ダイヤ「……どうしてですか?」
梨子「それが、私の考えが正しいかどうかの決め手になるんです」
ダイヤ「……先程の感じからすると、あなたにはペンダントが<未来>のものであるとは、証明出来ないようでしたが」
梨子「……確かに私自身はまだ直接見たわけじゃない。でも、1人だけこのペンダントのデザインを知っている人がいる」
善子「そ、その人って、つまり……」
ルビィ「……ルビィ、だよね」
285 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 20:53:53.69 ID:jKKfMeypO
梨子「……。ええ。その通りよ」
花丸「なんでルビィちゃんが?」
梨子「……私はしいたけちゃんにアクセサリーを送ろうとしていたわけだけど。……それを作ってくれるのは、ルビィちゃんだからよ」
ダイヤ「……ルビィが、アクセサリーを?」
ルビィ「……そうだよお姉ちゃん。ルビィから、梨子ちゃんに言ったんだ」
ルビィ「よかったら、ルビィが作ろうかって……」
梨子「そうなの。……それで、私はお言葉に甘えることにして……」
曜「そっか。確かにルビィちゃんはデザインするのが得意だし、小物作りだって上手い」
鞠莉「梨子がルビィに頼むのも、自然な流れではあったということ、ね」
鞠莉「……なるほどね。だからルビィは最初に見ることにこだわったのね」
果南「……ねえ。つまり、こういうこと?……もしルビィがそのペンダントのデザインを知っていて」
ダイヤ「……ルビィが、そのペンダントを完成させていなかったら。それが作られた時は今だにない。……あるとしたら、過去でも今でもない時点。……すなわち……」
花丸「……未来、ずらか……」
286 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 21:02:03.65 ID:jKKfMeypO
梨子「……そう、なると思います」
ルビィ「…………」
ダイヤ「……ルビィ!」
ルビィ「ピギィ!?」
ダイヤ「……貴女には、この写真が本当に<未来>のものなのかどうか……。その、成否を判定する役目が課されているようですね」
ルビィ「……うん。そうだよ」
ダイヤ「………。わかりました。先程は、ワガママを言ったと決めつけて、ごめんなさい」
ルビィ「………。ううん。大丈夫だよお姉ちゃん」
鞠莉「……そういうことなら、これはルビィに渡すべきよね」
ルビィ「ありがとう、鞠莉ちゃん。・・・・・・千歌ちゃん?」
千歌「……うん?何かな、ルビィちゃん?」
ルビィ「……コレ、見せてもらうね」
千歌「……うん。どうぞ」
287 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 21:03:37.75 ID:jKKfMeypO
梨子(……そうして、ペンダントはルビィちゃんの手に渡された)
ルビィ「…………」
梨子(……長い沈黙が続く。私たちは、固唾をのんでルビィちゃんの第一声を待った)
梨子(そして……)
ルビィ「………し、信じられない……ホントに、これは……」
ルビィ「これは、ルビィが考えていたデザインそのものです……!」
288 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:04:33.13 ID:jKKfMeypO
鞠莉「……なんてこと」
善子「ほ、ホント、なの……?ホントに、本当……?」
ルビィ「本当だよ、善子ちゃん……。だって、考えていただけじゃなくって、今作りかけなのも、コレなんだから……」
曜「だとしたら、これが。……未来の……」
果南「じゃ、じゃあ千歌は?ここにいる千歌は……?」
果南「ペンダントが未来のものだったとしたら、それを持ってる千歌は……」
千歌「・・・」
果南「ねぇ。何とか言ってよ、千歌……」
千歌「・・・・・・」
曜「千歌ちゃん……」
289 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:05:32.84 ID:jKKfMeypO
ダイヤ「………これは、大変なことになりましたね・・・・・・」
ルビィ「まさか、千歌ちゃんが……未来から来た人、だなんて……」
ダイヤ「いえ、ルビィ。そうとは言い切れません」
ルビィ「え?」
ダイヤ「たとえ未来のものを持っているからといって、未来から来たとは限りません」
ダイヤ「更に……極論を言ってしまえば。未来から来た人や物が実在したとしても、そのこと自体は問題にはならないのです」
花丸「で、でも……未来からわざわざタイムスリップしてるのに、それが問題にならないなんて……」
ダイヤ「……そうです。真の問題は、そこにあります」
花丸「え、え?」
290 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:06:11.63 ID:jKKfMeypO
ダイヤ「もし本当に未来から来るなんてことが出来たとして、なぜ、『わざわざ』未来から来たのか。なんの目的があって未来から来るなんてことをしたのか」
ダイヤ「……その目的こそが、問題となるのです」
果南「……目的」
梨子「……」
鞠莉「……ねぇ梨子。そもそもどうしてあなたは、千歌を問い詰めるようなことをしたのかしら」
梨子「……鞠莉ちゃん?」
鞠莉「あなただって、驚いていたでしょう?千歌が未来と関わりを持つという結論に達した時は」
鞠莉「だとすれば、あなたは千歌が未来から来たということを疑っていたわけじゃないことになる。じゃあ、最初にあなたが疑った可能性ってなんだったの?」
梨子「……それは……」
千歌「・・・それは、私も興味あるな」
291 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:07:29.09 ID:jKKfMeypO
梨子「ち、千歌ちゃん?」
鞠莉「千歌……?」
千歌「梨子ちゃんはずっと、私に対して違和感を持っているみたいだったよね」
千歌「それをなんとかしたいからって、疑問を追求してきた」
千歌「でも、どうしてそこまで追求するのか。・・・・・・そこは、ちゃんとは教えてくれなかった」
千歌「・・・なんでかな。私も理由が知りたいんだよね」
梨子「……」
千歌「・・・きっと言いたくなかったんだと思うけどさ。・・・・・・今≠ネら、言えるかもしれないよね?」
梨子「今=Aなら……?」
千歌「うん。だから、鞠莉ちゃんも聞いたんだよね?」
鞠莉「ち、千歌……」
千歌「きっと鞠莉ちゃんも、皆も……。薄々気付いてるんだと思うけど、でも、ハッキリと聞きたかった。梨子ちゃんの口から」
千歌「なんで、チカを……私を、疑っているのか。その理由を。・・・・・・違うかな、鞠莉ちゃん」
鞠莉「……違わない。その、通りよ」
千歌「そっか。よかったよ」
鞠莉「……千歌、あなた……」
292 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:08:28.99 ID:jKKfMeypO
ダイヤ「……梨子さん。説明をお願いできますか」
ダイヤ「貴女が千歌さんを問い詰めた、理由について」
ダイヤ「……貴女は仲間を信じるため、疑いを晴らすために、あえて千歌さんを問い詰めました。ではその疑いとは何なのか」
ダイヤ「言い換えれば貴女がそうまでして否定したかった可能性とは何なのか。……そろそろ、答えを聞いてもいい時でしょう」
梨子「……わかりました」
梨子(私が疑った、可能性。絶対にあり得ない、荒唐無稽な話)
梨子(ここ最近空想の話を皆としていたからこそ、持ってしまったもの。……でも)
梨子(千歌ちゃん≠ェ言ったように……今≠サの疑惑は無視の出来ないものになってしまった)
293 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:09:16.31 ID:jKKfMeypO
梨子「私は……っ(……うぅ)」
梨子(……口に出したくない。でも、言わなきゃ)
曜「梨子ちゃん……」
梨子「わ、わたしは……!千歌ちゃんが……」
梨子「………千歌ちゃんが……。誰かと、入れ替わっているかもしれない。そう、疑っています」
ダイヤ「……!」
ルビィ「い、入れ替わり……?」
曜「千歌ちゃん、が……」
千歌「・・・・・・」
鞠莉「……そう。やっぱり、そう、なのね」
梨子「……」
294 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:10:34.18 ID:jKKfMeypO
善子「……何言ってるの。バカげてるでしょ」
花丸「……善子ちゃん?」
善子「入れ替わりだなんてあるわけない。だって、人一人が、別の人になってるのよ?」
善子「たとえ双子でも、ソックリさんでも……そんなことが出来るわけがない」
善子「そんな可能性、この世にあるわけがない。したとしても、誰も何も気付かないなんてことあるはずがない」
295 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:11:15.21 ID:jKKfMeypO
梨子「……私もそう思うよ。でも、今≠ヘ違う」
梨子「ルビィちゃんがまだ作っていなかったアクセサリーが写っている以上、可能性がないとは言い切れなくなった……」
梨子「未来からタイムスリップが出来るのだとしたら……私たちの常識は、通用しない」
善子「う……」
梨子「それに、少しだけど、違和感を持っていた人がいるからこそ、ここに皆いる」
曜「……うん」
果南「……そうだね」
善子「う、うぅ……」
ダイヤ「……改めて確認しますが。では、貴女は、千歌さん≠ェ私たちの知る千歌さんではないと、主張するつもりなんですね?」
梨子「……はい」
ダイヤ「わかりました。……そうなると、先程私が話した問題……未来から来た目的が、入れ替わりにあると、そういうことになるわけですね」
鞠莉「……そうなると、問題は次のstepに進むわね」
曜「それって、千歌ちゃん≠ェ。……千歌ちゃんと、入れ替わっているとしたら、どうしてそんなことをしているのか……ってこと?」
鞠莉「ええ」
花丸「未来から来て、入れ替わる目的……ずらか」
千歌「・・・」
296 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:12:58.94 ID:jKKfMeypO
善子「……待ってよ。こんなの、こんなのってないでしょ!」
梨子「よ、善子ちゃん……」
善子「いくら何でもこんなのおかしすぎるでしょ!ち、千歌が、千歌じゃなくて……未来の人で、入れ替わっていただなんて……!」
善子「こんな訳の分からない理屈で、なんでみんな疑うの!?なんでこんなことで千歌を疑えるの!?」
ダイヤ「……」
善子「そんな、そんなの、千歌、が……。千歌が、千歌が……!」
曜「わかってるよ!!」
善子「っ!」
曜「そんなこと言われなくてもわかってる!私だって納得なんてしてないよ……!」
曜「でも、でも……だって……」
善子「……っ」
297 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:13:50.83 ID:jKKfMeypO
千歌「・・・大丈夫だよ。善子ちゃん、曜ちゃん。本当はおんなじことだってわかってるから」
善子「ぇ……?」
曜「千歌ちゃん……?おんなじって……」
千歌「善子ちゃんも曜ちゃんも、私を信じようとしてくれてることには変わらない」
千歌「ちょっと考え方は違うかもしれないけど、心はおんなじでいてくれてる。……違うかな?」
曜「それは……そう、だよ……」
善子「で、でも……。だったら、皆が皆、千歌のことを疑わなくっても……」
298 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:15:51.81 ID:jKKfMeypO
鞠莉「……ねぇ、善子?あなたは、どこまでを否定したいの?」
善子「え?」
ダイヤ「鞠莉さん?」
鞠莉「千歌にかけられている入れ替わりという疑い。これは、確かに普通あり得ないわ」
梨子「……」
鞠莉「でも、もし未来から来たとすると、そういうことも出来るかもしれない。だから千歌に疑いの余地が出来てしまうのだけど……」
鞠莉「逆に言えば、千歌の疑いを完璧に否定するためには、入れ替わりも、未来から来るということも不可能だということを、納得¥o来なくちゃいけないの」
善子「……なっ、とく……」
ダイヤ「……千歌さんが、梨子さんとの会話の中でも言っていましたね」
花丸「疑いを否定するためには、自分で納得してもらうしかない……」
鞠莉「そうよ。私たちは皆、納得したいの」
鞠莉「千歌への疑いが、とんだ見当違いだったって……そう思えるように」
善子「……」
梨子「……」
299 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:18:48.71 ID:jKKfMeypO
鞠莉「だけど、それって今の状況に限って言えばかなり難しいことよ?」
曜「どうして……?」
鞠莉「だって、確実な証明なんてこの場の誰にも出来ないのよ?未来から来るとか、入れ替わりだとか、それがあり得るかどうかを証明する[証拠]なんて、誰も出せない」
梨子(!……ま、鞠莉ちゃん……)
善子「え……?」
ルビィ「ちょっ、ちょっと待って!それはさっき、ルビィが……」
鞠莉「……それを証明する[証拠]、今出せる?」
ルビィ「な……!」
鞠莉「ルビィが本当に写真のアクセサリーを作っていたのか。……作りかけのアクセサリーの現物でも、作っている最中の日付が残った何かでも、何でもいいわ。……そういったものが、今ここにあるの?」
ルビィ「そ、それは……ないけど……」
鞠莉「そ。……だったら、今ここで、皆が確認できない以上。……ルビィの言っていることは、正しくない可能性があるわ」
300 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:19:53.79 ID:jKKfMeypO
善子「!」
梨子「な……!?」
ダイヤ「ま、鞠莉さん!?」
ルビィ「で、でも!ルビィはこの手で、作っていたんだよ!?自分の手で作っていたんだよ!?それを、間違えるだなんて……」
鞠莉「……ルビィ。あなた、デザインの知識はかなりのものよね?」
ルビィ「え、え?……急に、どうしたの……?」
鞠莉「……前、ユニットごとに色々やった時があったけど、CYaRonの旗をデザインしたのもルビィだったわよね?」
ルビィ「う、うん」
鞠莉「すごくちゃんとしてるよね?いつもすごいなって思ってたのよ」
ルビィ「そ、そんなことないよ」
鞠莉「……曜?あなたはよくルビィと一緒に衣装を作っているわよね?」
曜「え、え?そう、だけど……」
301 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:20:42.31 ID:jKKfMeypO
梨子(……鞠莉ちゃん、どういうつもりなの?)
梨子(鞠莉ちゃんの意図が、読めない)
梨子(どうして今、急に衣装の話なんて始めたの……?)
鞠莉「実際どうなの?曜から見て、ルビィは?」
曜「……えっと、すごいなって思うよ。センスも確かにあるんだけど、ちゃんと知識に裏打ちされているというか……」
鞠莉「しっかり勉強していると感じるのね?」
曜「う〜ん、そうだね。色んな物を見て、勉強した上で一番ズバっと来るアイテムを提案してくれるなって私は思ってて、いつも凄く助かってるよ」
ルビィ「よ、曜ちゃん……。ちょっと、照れくさいよ」
鞠莉「そう……。流石ルビィ、とっても頑張っているのね」
ルビィ「そ、それ程でもぉ……」
302 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/04(木) 21:21:53.55 ID:jKKfMeypO
鞠莉「ところで、ちょっと気になってたんだけど。デザインって、完全にオリジナルのものを作ることって出来るものなのかしら?」
ルビィ「え?どういうこと?」
鞠莉「私も曲を作ってたことがあるけど、その時は自分でオリジナルだー!って思って作ったものが、後から昔聴いた曲のフレーズそのままだったってこと、たまにあったから」
梨子「……(それ、似たようなことは私もあるな)」
鞠莉「梨子はどう?とてもそんな風には見えないけど、似たようなことはあったりするんじゃない?」
梨子「……え?私?」
鞠莉「うん」
梨子「まぁ……ないことは、ないけど……」
鞠莉「あ、やっぱりそうようね?」
梨子「う、うん……そうね(今度は、何なの?)」
梨子(……なんか、鞠莉ちゃんの口ぶりだと「私でもミスするときはしますけどね」みたいな風になっちゃったじゃない!)
梨子(って、そうじゃないそうじゃない。そんなことよりも、……それも大事だけど、そんなことよりも!)
梨子(気が付いたら鞠莉ちゃんのペースに乗せられて、つい場に飲まれているけど)
梨子(どんどん、話が逸れていっているというか……鞠莉ちゃんは、何を言おうとしてこんなことを……?)
303 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 21:24:02.91 ID:jKKfMeypO
ルビィ「気になったことって、そこ?」
鞠莉「そ。作詞の方でもある?」
梨子「……(確かにちょっと興味はある)」
梨子(どんな分野でも、何かを作っている時に。気付いたら参考程度にしていたものをそのまま使ってしまうことがあるのかどうか)
梨子(でも……。ここで話を広げる意味が、あるの……?)
花丸「作詞は……ないようにしてるけど、おらも気付かずにやったことがあるかも」
鞠莉「マルはたくさん本を読んでるし、インプットが多い分その可能性はありえそうよね?」
花丸「どうかな……。自分ではよくわからないけど、そうかもしれないずら」
鞠莉「否定は出来ないって感じかしら?」
花丸「う〜ん……うん。……そういえば、千歌ちゃんはあった?」
千歌「ん?私?」
花丸「うん」
千歌「聞かれるまでもないっていうか……。しょっちゅうだよしょっちゅう。いっつもそうなんだもん」
304 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/07/04(木) 21:24:58.88 ID:jKKfMeypO
ダイヤ「……流石に、いつもはどうかと思いますが」
鞠莉「でも、何かを作るって、どうしてもそういうことあるわよね?衣装とかデザインでもそういうのってあるのかなって」
梨子「……(鞠莉ちゃんもやっぱり、そこが疑問だったのかな?)」
ルビィ「う〜ん……花丸ちゃんと同じで、気を付けるようにはしてるけど、もしかしたら……」
梨子(……でも、なんで?ここでそれを聞く、意味は……)
鞠莉「可能性自体は、あるかもしれない?」
ルビィ「う、うん」
鞠莉「オーケー。……よくわかったわ」
ルビィ「……う、うん……?」
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