梨子「未来のあなたが知ってるね」

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305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 21:25:39.48 ID:jKKfMeypO
果南「あれ、曜には聞かないの?曜こそデザインに関しては色々な経験をしてるはずだけど」

鞠莉「ええ。……その必要はなくなったもの」



梨子(……!ま、まさか……!)



曜「え、え?なんで?」


鞠莉「言ったでしょう?よく、わかったって」


ダイヤ「……一体、鞠莉さんは何をわかったというのですか?」


鞠莉「簡単な話。……ルビィを完全には信じることは出来ないってことよ」


ルビィ「え……!」

花丸「な……!」



善子「……なるほど、ね」



梨子「……っ!(コレが狙いだったのね……!)」



306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 21:26:25.51 ID:jKKfMeypO

梨子(鞠莉ちゃんは、単なる称賛や疑問をルビィちゃんに言っていたわけじゃなかった……)


梨子(もちろんそれは本心だと思う。けど、それ以上の狙いがあった……!)


梨子(そのために。わざと皆に話を聞いたんだ……!)




ダイヤ「……どういうことですの、鞠莉さん。もしやとは思いますが……難癖をつける気だとしたとしたらわたくしも黙っていませんわよ」


鞠莉「……それは」




善子「それは、違うわ」


ダイヤ「!」


307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 21:27:27.56 ID:jKKfMeypO

梨子「……よ、善子、ちゃん?」


鞠莉「……善子。貴女、気付いたのね」


善子「ええ。……お陰様で、ね」



ダイヤ「何を……何を、気付いたというのですか?」

ダイヤ「この際、善子さんでもヨハネさんでも構いません。ちゃんとわかるように説明してください!」


善子「……なんかその言い方は不服だけど。この際、不問にしてあげる」




善子「いい?そもそも鞠莉は、写真のアクセサリーは本当にルビィの作ったものと言えるかどうか問題にした」


善子「そこで鞠莉はこんなことを聞いた。……ルビィは、多くのデザインに触れているんじゃないのかって」


308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 21:28:42.27 ID:jKKfMeypO

果南「……曜は。ルビィに知識があることを、認めていた……」


善子「言い換えれば……。ルビィにはデザインの”引き出し”が多くあったことになる」


花丸「!……鞠莉ちゃんが曜ちゃんに話を聞いたのは、そのため……?曜ちゃんに、ルビィちゃんはたくさん勉強していると証言させるために……?」


鞠莉「……」


善子「……そして、何かを作る時、私達はつい過ちを犯してしまうことがある。皆も認めていたように」


ダイヤ「あ……!」

ルビィ「それって。まさか……」


善子「そう。……無意識に全く同じものを、そのまま使ってしまうという過ち」


善子「ルビィもこの過ちを犯した可能性は否定できない。ルビィの考えたデザインは、既に存在している可能性がある。……つまり」



善子「ルビィが今<Aクセサリーを作っているからといって、それが<未来>のものであるという考えは、成り立たないということよ!」






ルビィ「……ピ」

ダイヤ「……ピ」







ルビィ&ダイヤ「ピギィャアァァァ!!」
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 21:29:20.21 ID:jKKfMeypO

梨子「……(やられた……)」



果南「で、でも。気付かない内に真似しちゃうもしれないからといって、このアクセサリーがその真似したものだってことにはならないでしょ?」


果南「……このアクセサリーの”文字”は、明らかに、梨子がしいたけにあげようっていう意味があるんだよ?……それが、既成のものと被るなんて普通考えられないよ」


鞠莉「……よくわかってるじゃないの。果南?」

果南「え……」


鞠莉「果南の言う通り。そんなの、普通は考えられないわ。……だけど、可能性自体はある」


ダイヤ「し、しかし……可能性の話をし始めてしまえば、キリはない」

310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 21:30:18.07 ID:jKKfMeypO

花丸「……[証拠]さえあれば、すぐに決着は着くけど……」


鞠莉「無理でしょ?そもそもそんな[証拠]があり得るのかどうかすらわからないんだから」

鞠莉「だから、問題はどっちが説得力があるのか。ルビィが、既存のデザインを無意識に真似てアクセサリーを作ったという説明と……」


曜「……ルビィちゃんが、まだこの世にないものを作っているってこと……。どっちがまだ、納得できるかってことだね」


ダイヤ「……どちらも、まるで考えられないことです。しかし……」


善子「……今までルビィが触れてきたものは、絞り込みが出来る。つまり、探すことが可能よ。これに対して……」


花丸「未来である[証拠]なんて、どうやって探せばいいか、わからないずら……」

善子「そういうことね」


鞠莉「わかった?まだ、未来のアクセサリーなんて考えより、既成のアクセサリーがあった……。そして、それがたまたまこの写真に写り込んだと考える方が、よっぽどあり得そうだってことに」


果南「言われると、その通りかも……」



ルビィ「……う。うぅ」



梨子「……(ま、まずい)」




311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 21:31:28.87 ID:jKKfMeypO


梨子(このままだと、皆が納得してしまう。でも……)


梨子(でも、反論は出来ない。だって……)




曜「……ねぇ。ルビィちゃんが無意識のうちに見たアクセサリー全てを追っていったとして……逆に行き着く可能性があると思うんだけど」

果南「逆に行き着く?」

曜「うん。参考にしたアクセサリーがこの世にない可能性だよ」


花丸「あ……」


ダイヤ「……確かに。捜索が可能であるということは、あるかないかに関しては検証が出来ます」


曜「そうだよね。それに、さっき鞠莉ちゃんが言ってたよね?あり得そうかどうかが問題だって」


鞠莉「……。そうね」


曜「だったらさ、この場合も同じだと思うんだ。ルビィちゃんに心当たりがない以上、少なくともあったという結論よりは、なかったってほうがあり得そうじゃないかな?」

ルビィ「よ、曜ちゃん……」



曜「……私は、なかったって[証拠]がない限り。……信じられないよ……」



梨子「・……でも、曜ちゃん。それは……」


312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 21:32:37.71 ID:jKKfMeypO


善子「……それは。『アクマの証明』をしろっていうのと同じよ」



曜「ぇ……」

梨子「……!」

花丸「よ、善子ちゃん……」



善子「無いって言い切れない。それは、単にありそうにないってことに過ぎないわ」


善子「でも、それを受け入れた結果、千歌が入れ替わってるだとかいう結論に行ってしまうのだとしたら」


善子「……そんなのは<あり得ない>だけじゃ済まない。信じられないし、納得できないの!」



曜「あぅ……!」



鞠莉「その点……既存の商品がある可能性、そしてそれをルビィが無意識に真似したという考えは、信じられ、納得できる余地がある」


鞠莉「……心苦しいけど、ね」


果南「確かに……そっちの方が、まだマシっていうか……」


花丸「……ルビィちゃんのこと、疑いたいわけじゃないけど……」




曜「で、でも!ルビィちゃんがデザインでそんなミスするなんて考えられない!」

ルビィ「よ、曜ちゃん……」



313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 21:33:18.31 ID:jKKfMeypO


善子「……何か勘違いしているようだけど。私は一言も、ルビィを信じないなんて言ってない。……むしろ”逆”よ」


梨子「……く」


曜「え……」


鞠莉「……」



梨子(……そう)



果南「一体どういうこと?」


ダイヤ「……善子さん?」


善子「ポイントは。ルビィ自身が可能性を認めたという点よ」



曜「……!」



梨子(ルビィちゃんが認めてしまっている以上……どんな反論も、力を失う……)




314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 21:34:07.34 ID:jKKfMeypO

善子「何かを作ってる人なら皆同じ過ちを犯すなんてこと、現実には言い切れない。ただそういう傾向があるってだけで、例外はあり得る」

善子「だから、ルビィが気付いたら真似しているなんてことあり得ないって、断言したなら。……モチロン、私は信じる」


善子「鞠莉だって同じでしょ?」

鞠莉「ええ。当然ね」



ルビィ「……っ」



善子「けど、ルビィは認めた。可能性はあるって」

善子「それを信じるなら。……やっぱり、どうしても疑わざるを得なくなる」


善子「天秤にかけられている……あり得なさを考えたら、ね」



果南「……未来にあるものなのかどうか、か」


315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 21:34:47.57 ID:jKKfMeypO

鞠莉「……実際のところ。ルビィとしては、どうなの?」



梨子「……!」


ルビィ「え……?」


ダイヤ「鞠莉さん……?」



鞠莉「私も極端なやり方をしたから。……話の流れで、ルビィが認めただけかもしれない」


鞠莉「ただ、わかってほしかったの。……[証拠]がないということが、どれだけ大変なことなのか……」



鞠莉「……納得するということが。[証拠]なしでは、どれほど難しいことなのか……」



ルビィ「……!」





千歌「・・・・・・」




316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 21:35:47.97 ID:jKKfMeypO

鞠莉「だからこそ、改めて聞くわ。……ルビィ。自分のデザインが、絶対にオリジナルだって、言える?」



ルビィ「……う。うぅ……!」



ダイヤ「ル。ルビィ……」


曜「そんなこと……ないよね?ルビィちゃん、凄く……。すごく、頑張ってるんだから」


花丸「……」


梨子「……っ」



ルビィ「……」



ダイヤ「ルビィ……?」


鞠莉「……ごめんね、ルビィ。でも、聞きたいの。……あなたの、口から……」


果南「……」


善子「……」





ルビィ「…。ル、ルビィ……」




317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 21:36:52.97 ID:jKKfMeypO


ルビィ「わ、私。……わからない、です……」




ダイヤ「……!」


曜「ルビィ、ちゃん……」


梨子「……っ」



ルビィ「ごめんなさい。お姉ちゃん、曜ちゃん。……でも、自分の言葉には、責任を持ちたいから」



ルビィ「私。もしかしたら……」


梨子「そ。そんな……」





千歌「・・・・・・」




318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 21:37:56.73 ID:jKKfMeypO

果南「……ようやく、わかったよ。鞠莉の言いたかったこと」



鞠莉「……果南?」


果南「……[証拠]という、誰もが納得出来るものがない以上。私達は、一人一人の記憶=A一人一人の言葉を信じた上で納得できるものを選ぶ」

果南「だから、最初に鞠莉は言ったんだね。[証拠]がないってことは、どんな可能性だって考えられるし、それに対してどんな反論だって出来てしまう」


鞠莉「……ええ。言い換えれば、どこまでを信じ、どこまでを否定すべきか、ちゃんと考えなきゃいけないの」



花丸「……つまり、こういうことずらか」


花丸「心の中の記憶や考え≠ヘあくまで、個人の主観的なもの。その人にとっては絶対の真実かもしれないけど、それを皆が認められるかってなると別の話になる」


花丸「皆が真実だと認められるのは、[記録]になり得るもの……客観的な、[証拠]だけ。……でも、ここではそれがない……」



鞠莉「……そうよ。流石、花丸ね」


花丸「……ここで褒めてもらっても。嬉しく、ないずら……」


319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/04(木) 21:44:19.18 ID:jKKfMeypO

ダイヤ「しかし。……ならば、今この時に結論を出す必要は、ないのでは……?」


花丸「え……?」


ダイヤ「ここは、一端保留にして、[証拠]が出揃うのを、待つべきなんじゃないか。そうも、言えますよね……?」


梨子「そ。それは……!」


ダイヤ「鞠莉さんもそうですし。……先程までの梨子さんと千歌さんとのやり取りからもわかるように……。どれほど言葉を交わしても、[証拠]による裏付けがないことの困難さは、ただならないものがあります」


梨子「……!」


花丸「……梨子ちゃんの話を聞いていると千歌ちゃんが疑わしくなったけど……」

ルビィ「気が付いたら全てひっくり返っていたもんね……」


ダイヤ「であれば……少しでも[証拠]が出そろうまで、話は止めておこう……と、考えるべきではないでしょうか」



梨子「……それは」



果南「……」


鞠莉「……確かにね。とても、合理的な意見だと思う。でも……」








千歌「・・・でも、納得出来ないよね」




320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/05(金) 06:50:33.92 ID:Gvk7vrQiO


鞠莉「……!」


果南「……!」


梨子「千歌ちゃん……!?」


ダイヤ「……ちか、さん……?どういうこと、ですの」



千歌「・・・・・・だって、皆の顔が、そうなんだもん」


千歌「なんかね。ここを逃すと、もう<終わり>だって。……そんな感じだよ、皆」



曜「……!」


善子「……!」



梨子「……千歌ちゃん」




千歌「・・・・・・。梨子ちゃんが追求しているのと同じように。皆も、納得をしたいんだよね」



ルビィ「……!」



321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 06:52:03.29 ID:Gvk7vrQiO

花丸「……で。でも。現状じゃ……」


千歌「そうだね。・・・花丸ちゃんの言った通り。ただ心の中の記憶や考えだけじゃ、誰もが、いつでも納得できる真実を示すことは出来ないと思う。でも」




千歌「・・・・・・でも、私たちに必要なのはそうじゃない。私たちは、私たちが納得できる道筋が欲しいだけ」


千歌「・・・・・・。それなら。いつもと、同じでしょ?これは裁判でもなんでもない。ただ、全力で目の前の問題に立ち向かっているだけ」


千歌「だったら。・・・自分たちなりに、言葉を尽くせば、いいんじゃないのかな」




千歌「・・・ま。その問題が私にあるのに、こんなこと言うのもヘンだけど」



曜「……」


果南「……千歌」

322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 06:53:23.91 ID:Gvk7vrQiO

千歌「・・・・・・善子ちゃん」


善子「えっ!は、はい……?」



千歌「・・・鞠莉ちゃんに代わって聴くね。・・・善子ちゃんは、どこまで否定するつもりなの?」



鞠莉「!」


善子「……!」


千歌「私。確かにヘンなもの持ってるし、ヘンなことしてるよね。それこそ、疑われても仕方ないくらい」


善子「そんなこと……!」



千歌「だからこそ」



善子「!」


千歌「だからこそ、聴くね?……チカの。・・・・・・私への、疑い。どこまで否定するつもりなの?」



善子「……」


梨子「……千歌、ちゃん」




千歌「正直、信じられないと思うんだ。不自然なのは確かだし、私、黙っちゃってるから」


千歌「でも、それはちゃんと聴かれたことを話したいと思うからで。・・・真剣に話したいからで・・・それでね・・・」






善子「……全部よ」




323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 19:52:08.73 ID:UAEVXW1PO



千歌「え・・・」




善子「決まってるじゃない。……全部、否定する」


善子「千歌を疑うもの。その全てを、私が否定してやる……!」



鞠莉「……善子」


曜「善子、ちゃん……」



梨子「……」



善子「梨子の考えや、気持ちだってわかる」


善子「……でも、どうしても。……信じるためだったとしても、あなたを疑いたくない」



善子「……あなたをずっと信じていたい!……だから……!」



果南「善子……」


梨子「……善子ちゃん」


324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/05(金) 19:54:14.03 ID:UAEVXW1PO




千歌「・・・・・・ありがとう」




善子「……!」



千歌「ありがとう。・・・善子、ちゃん」



千歌「うれしい。・・・・・・ホントに・・・・・・」



善子「……ふ、ふん。トーゼン、でしょ?」


千歌「・・・へ?」


善子「あなただって、私のリトルデーモンなのよ!だったら、このヨハネが救ってあげるのが世の定めってものよ!」


千歌「・・・・・・ふふっ」


善子「な、なによその不敵な笑みは!?」


千歌「んーん。何でもないよ」


善子「何でもなくない感じだったでしょー!」


千歌「そりゃそうだよ。だって、私善子ちゃんのリトルデーモンになるの、ヤだって言ったもん」


善子「んな……っ!?」










梨子「……(な。なんなの……このフンイキ)」


梨子(すごくいい空気のはずなのに……冷汗が、止まらない!)



曜「……」



梨子(……だ、誰か。……たすけてぇ……!)



325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 19:55:40.56 ID:UAEVXW1PO



鞠莉「……お二人とも、仲睦まじいのは結構ですけれど。ワタクシも、仲間に入れて欲しいですワァ!」


千歌「!」


梨子「!」



善子「な。何?鞠莉……。そんな、ダイヤみたいな謎の言語を喋って……」



ダイヤ「……だ。誰が!謎の言語を話す、怪しい人ですってぇ!」


花丸「……誰も怪しいとまでは言ってないすら」

ルビィ「……その発想自体が謎だよね。どこから出てきたの?」


ダイヤ「な……!」


果南「……ダイヤは静かにしてていいよ。……それよりも、どういう……」


ルビィ「どういうこと?鞠莉ちゃん?」

326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 19:57:54.58 ID:UAEVXW1PO

果南「……そう。どういうこと、鞠莉?」




鞠莉「……元はと言えば。梨子が千歌を疑ったのは……私と善子のせいだったと思う」


梨子「……!」


善子「……」



鞠莉「部室での、私と、善子の話。……それがキッカケで、梨子は疑いというゴーストに憑りつかれたんだと思う」


梨子「そ。それは……」


花丸「……あの、[亡霊]の話と……」


果南「人間とロボットの、”入れ替わり”の話か……」



鞠莉「ええ。……こんなことを引き起こしたのは、そんな会話をしてしまった、私たちの責任でもあると思うの」


善子「……そう、ね」


梨子「……っ」


鞠莉「だから、私は。小原家の人間としても、浦の星女学院の理事長としても。……何より、Aqoursとしても。……責任は、とらなきゃいけない」



鞠莉「……それに。責任なんてものを抜きにしても。私は千歌を疑いたくない」


鞠莉「千歌は。Aqoursを蘇らせてくれた、恩人だもの」



梨子「ぅ……」


ダイヤ「……鞠莉、さん」

果南「鞠莉……」





千歌「・・・・・・鞠莉ちゃん」




327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 19:58:59.50 ID:UAEVXW1PO


鞠莉「……皆は、どうなの?どういう立場に立つつもり?」



花丸「ど。どういう、立場って……」


鞠莉「……梨子のように。信じるために、疑いの余地があれば、あえて最後まで追求するのか」


鞠莉「……それとも、私達のように。疑うこと自体を認めないのか。……言い換えれば、千歌への疑いを徹底して否定するのか」


鞠莉「……皆は。どっちを選ぶのって、こと」



果南「……!」


曜「……」





梨子「……(う。うぅ……)」



328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 19:59:54.31 ID:UAEVXW1PO


梨子(こ。こんな流れじゃ……!)


梨子(絶対、私のやり方なんて。……認めてもらえない!)


梨子(信じるため……そうは言っても、疑いであることに変わりはない……)


梨子(わかってる……わかってた、けど)



梨子(……誰も、味方してくれない中で。千歌ちゃんを追求するなんて……)




曜「……私は」


梨子「……!(あぁ……死刑宣告だ……)」




梨子(曜ちゃんが、千歌ちゃんに不利な立場に立つなんて、絶対に考えられない。……少なくとも、疑うのか信じるのかって聞き方をされたら……)




曜「私は!」




梨子(疑いの方向に……進むわけが……)




329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:01:41.59 ID:UAEVXW1PO




曜「……梨子ちゃんと、一緒だよ」


梨子「……?(……え?)」




果南「は?」


ダイヤ「……えぇ?」





梨子「え。……えぇぇ?」




梨子「え。え、え。えぇ……?」





梨子「えええええぇぇぇぇ!?」





330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:02:44.93 ID:UAEVXW1PO


ダイヤ「こ。これは……。どういう……」



果南「……曜。自分が何を言ってるのか、わかってるの?」




曜「……。うん。わかってるよ」


果南「……曜!」



曜「私……」




千歌「・・・曜ちゃん」


曜「ごめん、千歌ちゃん。……私だって……!」

曜「私だって、千歌ちゃんを信じてる!でも……!」



曜「……でも。だからこそ……」




曜「千歌ちゃんに、はねのけて欲しい。……私の、ちっぽけな疑いを……」



曜「千歌ちゃんを、心の底から信じるために……!」



梨子「……!」


331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:03:42.18 ID:UAEVXW1PO


曜「……私、大好きだよ。千歌ちゃんのこと……」




千歌「・・・・・・」




曜「だからね!……だからこそ!……だからこそ、梨子ちゃんと同じ立場を選ぶ」


曜「私、梨子ちゃんのことも。大好き、だから……」



梨子「……!よう、ちゃん……!」



曜「……大好きな二人を信じたいから。梨子ちゃんが千歌ちゃんを信じるために、あえて疑うのなら」


曜「……私だって。その先を、見て。……千歌ちゃんを信じたい」




善子「……」


鞠莉「曜……」



332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:04:29.15 ID:UAEVXW1PO


花丸「……こんなの。こんなの、おかしいずら……」


果南「……花丸?」



花丸「疑って、信じる?信じるからこそ、疑う?わかるよ……わかるけど!でも……」


花丸「わけが、わからないよ……」



鞠莉「……」


曜「……」



花丸「おら。……おら、どっちの立場にも立てない」


ダイヤ「……あえて言うならば。中立を選ぶ、ということですね」


花丸「……うん」


善子「花丸……」


鞠莉「……それも、立派な選択だと思うわよ」



花丸「……ルビィちゃんは……どう?」


ルビィ「……私は」


333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:05:08.02 ID:UAEVXW1PO


ルビィ「私は、私も梨子ちゃんと同じ。……さっきはああも言ったけど。……自分のデザインに自信を持たなきゃって思うし……」



ルビィ「……千歌ちゃんに疑いの余地がある以上。……追求しなきゃいけないと思う」


ダイヤ「……!」


梨子「……!」




善子「……そう」


花丸「ルビィちゃん……」




ダイヤ「……ルビィ」




果南「ダイヤ。どう……?」


334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:06:14.41 ID:UAEVXW1PO

果南「これで、立場を決めてないのは私らだけになったわけだけど。……ダイヤは?どうするの?」


ダイヤ「……わたくしは……」



ダイヤ「……。わたくしは、中立に立ちます」


花丸「ダ。ダイヤさん……!」


ルビィ「お姉ちゃん。……なんで?」



ダイヤ「……正直なところ。わたくしには信じられません。未来からのタイムスリップがあり得るだとか、入れ替わりが行われているだとか……そういった、非現実的な可能性を。しかし……」


ダイヤ「ルビィがデザインの勉強をしていること、色々なものを作っていること。その頑張りを、わたくしは知っています」


ダイヤ「そのルビィが、未来の可能性を示した。……ならば、検討の余地は、あるように思うのです」


ルビィ「お姉ちゃん……」



ダイヤ「それに。鞠莉さん、善子さんが指摘したように……可能性の議論は、慎重に行わなくてはならない」


鞠莉「ダイヤ……」


ダイヤ「二つの立場を成り立たせるためには、どちらかに偏ることのない人間が必要です」




ダイヤ「……ほら。生徒会長でスクールアイドルである、クールなわたくし。……この、判断力が必要でしょう?」




ダイヤ「その責任を果たせるのが……わたくしだというだけです」


335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:07:06.50 ID:UAEVXW1PO


ルビィ「……おねぇちゃん」


善子「……そりゃ、生徒会長かもしれないケド。クールなんて、言えるの……?」


鞠莉「『かも』じゃなくて、ちゃんとダイヤは生徒会長よ。……クールかどうかは、ベツだけど……」


ダイヤ「うるさい!そういうことは黙っておくのがスジってものです!」


果南「ダイヤ……」

ルビィ「おねぇちゃん……」


ダイヤ「……ゴホンッ!……そういうわけですから。後は、果南さんですわね」



果南「……」


曜「果南ちゃん……。果南ちゃんは、どうするの?」




梨子(……果南ちゃんは、千歌ちゃんとの付き合いは、一番長い)


梨子(実際、果南ちゃんは千歌ちゃんの微細な違和感にも気付いていた……)


梨子(だったら……)




果南「……」


果南「……っ」

336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:07:51.86 ID:UAEVXW1PO

果南「……。私も」


ダイヤ「……果南さんも?」


鞠莉「果南も?」


梨子「……」




果南「……私も。ダイヤと花丸と、一緒だよ」



曜「なっ……!」


梨子「な……!」


善子「なんで……!」




千歌「・・・。果南ちゃん」




花丸「……果南ちゃんは、ずっと千歌ちゃんを見てきたんだよね?だったら、どうして……」


337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:08:51.87 ID:UAEVXW1PO


果南「……ずっと見てきたからだよ」



花丸「……!」


曜「……果南、ちゃん」



果南「ずっと見てきたからこそ、私には……。千歌をちゃんと見届けなきゃいけない。そういう、責任がある」



鞠莉「……!」

ダイヤ「……!」



千歌「!・・・・・・」



梨子「果南ちゃん……」




果南「ホントはさ。千歌に味方したいよ。でも、今≠フ千歌がちょっとヘンだって思ってる自分もいる」

果南「ただね。曜や梨子みたいにさ。……親友を想うからこそ、徹底的に向き合うって覚悟も必要だけど……」


果南「……どんなものであっても。結論を受け入れる、覚悟。それを持った人だって、必要だと思う……」



鞠莉「……か。果南……」


ダイヤ「果南、さん……」

338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:09:42.01 ID:UAEVXW1PO


果南「千歌じゃないけど、それを私が言うか!って感じだけどね。……だからこそ」


果南「物凄く千歌の味方したいけど。私は、Aqoursの味方にならなきゃいけないんと思うんだ……!」




千歌「・・・・・・果南ちゃん」




果南「……ゴメン、千歌」




千歌「・・・ううん。・・・それでこそ、だと思うよ」




千歌「それでこそ。私の知ってる、私が凄いと思う果南ちゃんだよ」


果南「ち。千歌……!」



曜「……」


梨子「……」







ダイヤ「……。これで。決まりましたね……」


ダイヤ「それぞれの……立場が」


339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:10:47.91 ID:UAEVXW1PO


花丸「……改めて考えると」



花丸「これって。おら達の、ユニットと同じ組み合わせだよね……」


善子「……!」


ルビィ「……!」


果南「……た。確かに……」



鞠莉「中立なのは、AZALEA。疑いを否定するのは、Guilty Kiss。そして……」


曜「信じるために疑うのは、CYaRon!。……そうも、言えなくはないかも」



梨子「で、でも!」


梨子「私はギルキスのメンバーなのに……2人は、《逆》の立場だよ!?」



花丸「あ……!」


果南「……千歌と、梨子だけが。……《逆》ってわけか……」


340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:12:41.28 ID:UAEVXW1PO

梨子「ちょっとは、味方してくれてもいいと思うんだけど……」


善子「……そんなこと言ったら。千歌だって、味方になって欲しいはずよ」


梨子「う……!」


ルビィ「……」



千歌「・・・」




善子「ユニットの仲間のはずなのに、千歌はその二人に疑われている。……こんな、《逆》」


善子「千歌が、一番かわいそうじゃない!」



梨子「……う」



善子「そんなことも気付かなかったあなたはねぇ!」



善子「もう、上級リトルデーモンリリーじゃない!……ただの、桜内梨子なの!」



梨子「うわあああぁぁあぁあぁぁぁぁあ!」



341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:15:06.19 ID:UAEVXW1PO


梨子(な。なんだか……)


梨子(善子ちゃんにリリーとか言われるのあんまり好きじゃなかったはずなのに。得体のしれないショックを受けている自分がいる……!)




曜「……で。でも……!」


曜「信じるために、疑う。……その重みを背負ってない善子ちゃんが、何で千歌ちゃんのことをどうこう言えるっていうの!」


善子「!……ぬ、ぐ……!」


梨子「よ、曜ちゃん……」


曜「善子ちゃんこそ!……そうやって《逆》を振りかざすの、どうかと思う!」


善子「……う、うぅ!?」



曜「これ以上、そんなこと言うなら……」



曜「もう。バスの中で隣になっても、喋らないよ!!」




善子「……ぐ。ぐぅぅくぅ!!」




ルビィ「ひ。酷い……」

花丸「……善子ちゃんはどれだけ仲良くなったとしても、タイプの違う先輩に自分から話しかけて盛り上げるなんて無理ずら。なのに、そんなこと言ったら……」

果南「せっかく仲良くなってたのに、善子と曜が気まずくなっちゃうね……」

梨子「……善子ちゃんの今後が、心配ね……(また、引き籠る恐れも……)」



342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:15:59.84 ID:UAEVXW1PO

ダイヤ「……そこまで!」


ダイヤ「今大事なのは、千歌さんを巡って仲違いをすることじゃありませんわ!……千歌さんをどのように信じるか、ではありませんの?」


善子「……!」


曜「!……」




千歌「・・・ダイヤちゃん」




ダイヤ「……わたくしたちの目的は、千歌さんの敵味方を区別することではありません」


ダイヤ「千歌さんを信じられないとしたら、どうしてそうなのか。……千歌さんを信じるなら、なぜ疑いを否定するのか」


ダイヤ「それを、明らかにするのが。……わたくしたちの目的ですよね?」


曜「う……」


ダイヤ「千歌さんも言っていましたが……。一見《逆》に思える行為でも、実際にはそうではないのです」



梨子「……(《逆》に思えるけど、実は”そうじゃない”、か……)」



善子「……」


343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:19:03.31 ID:UAEVXW1PO

ダイヤ「……それと、個人的には。……じもあいコンビが仲違いを起こすのを見るのは、イヤです」


善子「……ごめんなさい」



梨子「……さ。流石だ……」


千歌「・・・すぐにケンカを終わらせちゃったね」


花丸「ある意味、一番中立になってくれてよかった人ずらね……」


344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:20:13.81 ID:UAEVXW1PO

果南「……帰りのバスが気まずくなるのを防いだところで。そろそろ、本題に入ろうよ」

鞠莉「……そうね」


梨子「本題……」


ダイヤ「……本題というのはモチロン。千歌さんへの疑いを、議論するということです」


ダイヤ「今、千歌さんにかかっている疑いは大きく分けて2つ。……入れ替わりと、未来人であるかどうか」


曜「……」



善子「改めて聞くと……。ますます、ありえない疑いね……」



ダイヤ「……したがって。私たちは、次のことを問題にしなければなりません。……すなわち」


ダイヤ「入れ替わりなどということが出来るのか?出来るとしたら、どうして出来るのか?」


ダイヤ「未来から来る……そんなSFのような可能性があったとしても。なぜ、未来から来る必要があったのか?」


ダイヤ「いや、そもそも未来から来るなんて言うことが可能なのか?……それらを、わたくし達なりに、納得の出来る形で、話す必要があります」



鞠莉「何度も言っていることだけど。[証拠]がないから、全て私達のオクソクで話すしかない」


鞠莉「……あえて言えば。私達1人1人の言葉こそが、[証拠]と同様の役割を果たす」


善子「……無理難題なんてレベルじゃないわね」


花丸「……たくさんの学者さんが集まっても、結論が出ないような話ずら……」


果南「わかるわけないじゃんって、感じだけど。……私たちなりに、答えを出さなきゃだよね」




千歌「・・・・・・」


345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:21:27.20 ID:UAEVXW1PO


果南「……で?……話の順番はどうするの?」

ダイヤ「そうですね。……問題は、この議論が。可能性……それも、想定の可能性を巡る議論であることです」


ダイヤ「これは、どれだけ難しくても、納得が出来る限りあらゆる可能性を認めることでもあります」


ダイヤ「……見方を変えると。ここで求められるのは何故可能なのか、あるいは何故不可能なのか。可能であるための条件や、不可能であるという根拠こそが最も重要なものになります」



ルビィ「……根拠」


ダイヤ「納得には、根拠が必要です。……誰もを、ではなく……」


ダイヤ「……わたくしたち、全員を。……納得に導く、根拠が……」




千歌「・・・・・・」




梨子「……」



346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:22:09.54 ID:UAEVXW1PO

ダイヤ「よって。まずはその可能性について検討するのが最重要だと考えます」


ダイヤ「そして……その可能性を実現する方法があり得るのかを議論するというのはいかがでしょうか」


ルビィ「出来るか出来ないかの条件を最初に考えるんだ……」


鞠莉「……ダイヤ。要求がベリーハード、ね」


ダイヤ「それは……しかし……」


曜「でも、確かにダイヤさんの言う通りだと思う。条件をちゃんとわかってなきゃ、何を基準に考えればいいか、わかんないし……」



ダイヤ「……曜さん。ありがとうございます」



347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:22:46.93 ID:UAEVXW1PO

ダイヤ「……そこで。まずは入れ替わりの可能性について話を進めようと思いますが、構いませんか?」


鞠莉「……」


善子「異議なし、ってところね……」



曜「……」


ルビィ「……私たちも」


梨子「……そうね。話す準備は、出来てるわ」




千歌「・・・・・・」




ダイヤ「……わかりました」



ダイヤ「では、始めましょう。……入れ替わりが、本当に可能なのかについて」


ダイヤ「皆さんの考えを、聴きたいと思います……!」


348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:23:26.17 ID:UAEVXW1PO



梨子「……(遂に、始まった……)」



梨子(信じるための追及を……皆と一緒に、行う時が)


梨子(ゼッタイ、答えなんて出ないはずの問題だけど……なんでだろう)



梨子(何故だか、わからないけど。予感がある……!)



梨子(この話を進めた先には。必ず、何かがある……そんな、予感が!)





349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:24:01.20 ID:UAEVXW1PO

ダイヤ「何か、考えを述べたい方はいますか?」


ダイヤ「あれば挙手するように!……さぁ、発言したい方はいないんですの?」



花丸「……学校の先生みたいずらね」

曜「……まぁ、そういう見解もあるね」

善子「……若干拍子抜けよね。なんか場の雰囲気にそぐわないような問いかけというか」

曜「……そういう見解はあるね」

花丸「ずら……」




梨子「……(この三人……)」


350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:26:20.83 ID:UAEVXW1PO


梨子(せっかく人が気合を入れていたというのに……茶々を入れるんじゃないの!)


ダイヤ「せっかく人が気合を入れてるというのに。茶々を入れるんじゃありません!」



花丸「あっ、はい……」

曜「スミマセン……」

善子「恐縮です……」





梨子「……(私が怒るまでもなく、怒られたわね……)」



351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:27:05.27 ID:UAEVXW1PO


鞠莉「……。茶々を入れがちな三人は置いといて。私から、話してもいいかしら?」


ダイヤ「……コホンッ。わかりましたわ……」


ダイヤ「では、鞠莉さん。考えを述べてください」



鞠莉「そもそも、入れ替わりをするためには容姿が似ている人間が必要よね?」


花丸「まぁ……そうなるね」


鞠莉「ということは、千歌に似ている人間さえいれば入れ替わりを主張すること自体は不可能じゃないと思うの」


善子「……!ま、鞠莉……?」


ダイヤ「……確かにそうですわね」

352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:27:49.02 ID:UAEVXW1PO


鞠莉「けどさ。似ているって言っても、色んな似方があるよね?」


ルビィ「似方……?」


鞠莉「そ。顔が似ているのか、雰囲気が似ているのか、スタイルが似ているのか」


鞠莉「どれか一つだけが似ているって人は五万といる……とまでは言い切れないけど。でも、頑張れば結構カンタンに見つけられそうよね?」



果南「……なるほどね。つまり、こういうことか」


果南「入れ替わりの根拠は、似ているかどうか。……それも、一つの部分じゃなくて、全体として似ていなきゃ入れ替わりなんて出来ない」


曜「……もし、入れ替わりが起こっているとすれば。全部、似てなきゃいけない……」


鞠莉「そうよ。……けど、例え全てが似ていたとしても、入れ替わりは出来ないと思うの」


ルビィ「な、なんで?……全部が似ているなら、頑張れば出来そうなのに……」


353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:28:32.92 ID:UAEVXW1PO

鞠莉「簡単よ。似ているを超えて、同じじゃなきゃいけない要素があるからよ」



ルビィ「……あ」



ダイヤ「似ているでは誤魔化しきれないものがあると?」


鞠莉「ええ。……そもそもいくら顔が似ていたとしても、背丈が違ったら入れ替わりなんて不可能でしょ?」


花丸「……なるほど。体格は、ちょっと似ているってだけじゃ誤魔化しきれないものがあるずらね」


果南「でも、マルやルビィぐらい小さかったのが急に伸びたらともかく、ちょっとだけだったらパッと見じゃわからないよね?」



曜「……それはないよ、果南ちゃん」


果南「え、曜?……あ。そうか……」


曜「そう。衣装のサイズを合わせるために、皆の身長はその都度測らせてもらってるから……」


ルビィ「その数値が違ったら、すぐ曜ちゃんやルビィがわかるはずだもんね……」


曜「でも、つい最近測った時も千歌ちゃんの身長に変化はなかった……」


梨子「……」


354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:29:40.94 ID:UAEVXW1PO

花丸「……一端鞠莉ちゃんの話を整理しようと思うんだけど。……いい?」



善子「……いいわよ」


曜「同じく……」


花丸「ありがと。……鞠莉ちゃんの言った通り。入れ替えは、全部が似ていないと成立しないずら」


鞠莉「その通り。……よくわかってるわね、花丸」

果南「……よくわかるように言い換えたのは私だけどね」


花丸「でも、もっと突っ込むと。……鞠莉ちゃんの主張で重要なのは”変更”の条件ずら」


ルビィ「変更……」

355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:30:20.43 ID:UAEVXW1PO

花丸「”似せる”という言葉があるように。……やり方次第では、《同じ》に近づくことが出来る」


花丸「言い換えれば、”似る”こと自体は、不可能じゃないということ」


花丸「例えば、顔だったら……。似せる方法は、ある」



ダイヤ「……顔は、変えられる。したがって、入れ替わりを否定する条件には、必ずしもならない」

ダイヤ「……そういうことでしょうか」


花丸「そうずら。……それを踏まえた上で入れ替わりの条件をとりあえずで挙げてみると……」


356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:31:21.78 ID:UAEVXW1PO

花丸「一つは、容姿が似ていること。もう一つは、性格が似ていること」


花丸「性格の方に関しては触れてないけど、少なくともこの二つは似せることは出来る。……つまり、ある程度”変えること”が出来る」



善子「なるほどね。……どれほど似ていても。……もし、入れ替わったのだとしたら、たくさんの違いが出てくるはず」


果南「……体力の違いとか?」

鞠莉「歌声の違いも、出てきそうね」


曜「……でも、それも変えられるという意味では、なんとか出来そうな話。……それに対して……」



花丸「……更にもう一つ。……体格は、どうずらか」



曜「……」


ルビィ「……体格は、誤魔化しようがない。……衣装を作る時、絶対に《測る》ものだから……」



花丸「……そう。スクールアイドルだからこそ、少なくとも体格に関しては、似ているだけじゃなく、《同じ》だと断言できなきゃいけない」




ダイヤ「つまり……。Aqoursでいる以上、体格が違った場合は、入れ替わりという行為が《不可能》になる……」

ダイヤ「なぜなら、衣装を作る際に、その変化に気付かないことは考えられないから……」


善子「同じかどうかは別として。他の要素だと、もし物凄く似てたら変化しているという確証は持てないわね……」


ダイヤ「しかし……同じでなければならないもの。変化した場合、必ず発覚するようなものがある場合」


曜「……入れ替わりは、あり得ない」


花丸「……そういうことになるずら」

357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:32:02.29 ID:UAEVXW1PO


ダイヤ「……わかりました。では、他に何か……条件は、あるでしょうか?」


ルビィ「体格以外で間違えようがないもの……」



梨子「……」




果南「……体格より先に出ると、思ったんだけどね」


梨子「……か。果南、ちゃん……?」


果南「あるよ、条件。……私の思う限りではだけどさ」



ダイヤ「……一体、なんでしょうか」


果南「決まってるよ。……記憶=c…だよ」


ルビィ「!」

花丸「!」




千歌「・・・・・・」




鞠莉「記憶=c…」


358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:32:49.52 ID:UAEVXW1PO


果南「うん。……そりゃモチロン、ある程度誤魔化しようがあるとは思うよ?誰かから聞くとか、何かの方法で知りさえすればその通りに振舞うこと自体は出来るし」


果南「でも、例えば。私しか知らない千歌の秘密があったとして。……入れ替わった人は、それを持っているように振舞えるのかな」


梨子「……!」



善子「……確かにね。何らかの方法で、知ることが出来れば、話は別かもしれないけど……」


花丸「そもそも2人だけの秘密を知る手段があるとは、考えにくい……」




曜「……記憶≠ノ関しては、それだけじゃないよ」


梨子「よ。曜ちゃん……?」


曜「……さっき、性格の話がちょっと挙がってて……性格も、似せられるって花丸ちゃんは言ってたよね」


花丸「う。うん……」



曜「……私も、そう思うよ。例えば、この人だったらこういうこと言いそうだなぁとか、こういうことやりそうだなぁってこと、真似するのって出来なくないと思うし……」



曜「けど……”しそうなこと”と、[しちゃうこと]は違うと思うんだ……」


359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/05(金) 20:33:47.46 ID:UAEVXW1PO


花丸「しちゃうこと……?」




曜「例えば。……本当はやめようと思ってるけど、つい出ちゃう口グセとか」


ルビィ「ピッ……!」

花丸「ずらっ!」


善子「……耳の痛い話ね」




曜「例えば……自分でもわかってなくて、周りにもバレてないんだけど……すごく近くにいた人にだけはわかるクセとか」


鞠莉「……」チラッ

果南「……」チラッ


ダイヤ「……。なんですの。2人とも……」


果南「……いや」

鞠莉「……曜の言ってること、わかるってだけよ」


ダイヤ「……?」



梨子「曜ちゃん。……つまり、曜ちゃんは、クセも、似せることが出来ないものだと言いたいのね?」


360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 07:45:22.51 ID:jWyG/GcGO

曜「……そうだよ。クセはそう簡単に、真似の出来ないもの」


曜「それに、何より。周囲がすぐ気付いちゃうところじゃないかな」


花丸「……周囲が気付く?」


曜「うん。昔からのクセさえ知っていれば、クセが出なくなったり、ちょっと出るタイミングとかが違うだけでも気付くと思うんだ」

曜「それも、長く一緒にいるほど。……長く、一緒にいたほど。……違和感は、大きくなると思う……」

曜「鞠莉ちゃんも花丸ちゃんもしてたでしょ?……周囲との食い違い……それも一緒に考えると、入れ替わるのは難しいって」


鞠莉「……」


果南「……」



善子「……要するに、クセが違った場合も。記憶≠フ問題が出てくるってわけね」


梨子「……記憶=c…」


ルビィ「確かに。クセは、誤魔化しようがないもんね……」


花丸「見方を変えると……。それだけ自然に出てしまうものをカンペキに真似するのは、難しそうだよね」

361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/06(土) 07:47:10.97 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「……自然とやってしまう行動ですからね。モチロン、どういう条件でそのクセが出るかを分析し、真似することも出来はするでしょうが……」


鞠莉「それを可能にするためには、真似する対象のことを、全て知らないといけない」


果南「例えば……嬉しい時に誤魔化す癖があって……それをカンペキに真似しようとしたとして。……そもそも、真似したい人の、嬉しい時ってどんな時なのか、わからなきゃいけないよね」


善子「……真似したい人の価値観全体がわかっていないと、難しいことね……」



梨子「……果南ちゃんと曜ちゃんの話をまとめると。入れ替わりの可能性を考えると、二つの意味で記憶≠ェ問題になるってことね……」


梨子「つまり……クセというものを考慮に入れた時。周りの記憶と、入れ替わろうとする人の記憶の、二つの記憶が問題になる」


梨子「本人にも誤魔化しようがない以上。もし入れ替わりがあったとして、その後に少しでも周りとの記憶の齟齬があれば、気付かれる恐れがある」


梨子「この可能性を防ぐためには、入れ替わる対象の人の記憶≠、かなり正確に理解していないといけない……」


梨子「でも。……他人の記憶≠把握しきれるとは考えられない」


梨子「……第三者には知ることが出来ない記憶……それがある可能性は、簡単に考えられるから……」


362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/06(土) 07:48:04.11 ID:jWyG/GcGO

ルビィ「……じゃあ。もし、第三者じゃない人が入れ替わろうとしたら、どうなるの……?」

梨子「……」


善子「……まあ、そこは確かに問題になるわね」



ダイヤ「第三者ではない、近しい人ならば……。果南さんと曜さんが指摘する条件も、クリアできるかもしれない……」


ルビィ「うん。例えばずっと一緒に住んでた家族とか……」


ダイヤ「……残念ですがルビィ。だとしても、今度は別の制約がついてしまいます」

ルビィ「え……?せいやく?」


ダイヤ「ええ。梨子さんが繰り返し問題にしてきたことが、ここでも出てきます」


ダイヤ「そうですね?梨子さん」

363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/06(土) 07:48:58.23 ID:jWyG/GcGO

梨子「はい。……曜ちゃんの言葉にあったように。入れ替わりの期間が長ければ長いほど、記憶≠フ齟齬は出てくると思う」


梨子「ルビィちゃんの言う通り、入れ替わり相手に近い人なら、ある程度の期間であれば入れ替わりは不可能じゃないかもしれない」


梨子「でも……それなら、ある程度の期間ってどれくらい?って疑問がわくよね」

ルビィ「あ……」



善子「……まぁアニメや漫画なんかでも、最初は入れ替わりが上手くいってても徐々にバレていくのが相場よね……」



梨子「……言い換えると。《いつ》から入れ替わったのかが、問題になる」


梨子「しかも、それだけじゃない。《誰》がそんなことを出来、なんでそんなことをするのかというのも問題になる」


果南「なんでそんなことをするのかっていうのは……ダイヤが言ってた、入れ替わりの動機も必要になるってことだよね」



ダイヤ「……記憶≠問題にするということは。時間の問題と心や意識の同一性の問題を相手することになる、といったところでしょうか」


梨子「……大げさに言うと、そうなります」


花丸「……まるで、哲学ずら……」



梨子「……」





千歌「・・・・・・」




364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 07:50:05.52 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「さて。ここまでの話で入れ替わりが成立するためには、少なくとも二つの条件があるという結論が出ました」


ダイヤ「一つは、体格が《同じ》であること」


ダイヤ「もう一つは、記憶≠ェ《同じ》であること」



鞠莉「……まぁ、記憶≠ノ関して言うと。明らかに食い違いがあるケースならともかく、多少の違い程度だと疑える余地もあるんだけど」


善子「そもそも自分と別の人との記憶≠ェ完全に一致するなんてこと、考えようがないしね」

花丸「あくまで、周りとの齟齬を生じさせないという意味で《同じ》にしか思えないってことがポイントずらね」


ダイヤ「そうですね。記憶≠烽る意味では、周囲のイメージさえ把握できれば似せることは可能です」

ダイヤ「《同じ》でなくてはならない部分であっても、条件によってはボロを出さないこと自体は容易に考えることが出来ます」



曜「……それは……そう、かな」


果南「期間次第では、真似出来ないこともない。……それは、認めてるからね」


365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 07:50:58.72 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「ということは主眼になるのはやはり、体格の問題です」


花丸「体格以外の要素の変化は、ある程度できるけど……」

ルビィ「体格は、そう簡単に変えられるものじゃないから……」


梨子「……うぅん……」



ダイヤ「……梨子さん。そもそも貴女は、誰と千歌さんが入れ替わっていると考えているんですか?」

梨子「……え!誰と、ですか……?(きゅ、急にくるとは思わなかった……!)」


ダイヤ「はい。……先程、千歌さんと梨子さんの会話を聞いて、梨子さんにはある確信があると思っているのですが……改めて、ちゃんと聞いておきたいと思いまして」

梨子「……な。なるほど……」


ダイヤ「それで、結局誰なのですか?梨子さんの疑う、千歌さんと入れ替わっている可能性のある人物とは」


梨子「……!(これは……重要かもしれない)」





梨子(……今であれば。可能性を提示する順番さえ間違えなければ、あるオクソクを通すことが出来るかもしれない……)


梨子(……そのオクソクが……どんなことを引き起こすのかは、まだわからないけど)


梨子(とにかく、提示してみよう)


366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 07:52:01.77 ID:jWyG/GcGO

梨子「……わかりました。答えるね」


梨子「私の考える、入れ替わっている人物。……それは、唯一の[証拠]に写っている、女性です」


ダイヤ「[証拠]というと……」


ルビィ「……ペンダントの、女の人……」


果案「そういえば……私らには聞きなれない名前がちょろっと話題に上がってたよね。……確か、《ハオ》さんだっけ」



千歌「・・・」



梨子「うん。……千歌ちゃんの、生き別れの姉妹だという人だよ」


曜「千歌ちゃんの……”もう一人の”、お姉さん……」


果南「……じゃあ、千歌と入れ替わっているっていうのは。その女の人だって梨子は思っているの?」



梨子「……そう、なります」


367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 07:52:44.63 ID:jWyG/GcGO


善子「……その女の人。梨子は、[亡霊]と呼んでいたわよね……」


果南「……!」


梨子「うん。……そうだよ」


花丸「過去にいなくなったはずだけど、今′サれたっていう意味なら……当てはまってる部分もあるけど……」

曜「生き別れの姉妹だから、か……」


梨子「……」



ダイヤ「梨子さんがどういう意味でこの方を[亡霊]と呼んでいるのかは、わかりませんが。容姿だけ見れば、千歌さんと入れ替われると思うのも無理はないかと思います」


鞠莉「……確かに。改めて見ると、この人……。物凄く、千歌に似てるわね……」

曜「で。でも。……今目の前にいる千歌ちゃんより、全然……なんというか……その……」

善子「大人っぽいわよね。色々と……」

千歌「・・・・・・。なんか、不本意なんだけど」




368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 07:53:59.60 ID:jWyG/GcGO

ルビィ「でも。……逆に言えば、幼い感じを作れれば」


ルビィ「十分、千歌ちゃんみたいになれそうだよ……!」



善子「……!」


果南「……そう、だね」


花丸「……この写真の女性と千歌ちゃんの違う所は、年齢ずら……」

鞠莉「……」


花丸「千歌ちゃんに似てはいるけど、同じじゃないと感じるのは、年が違うから」

花丸「でも……お化粧をすれば。多少は年齢を誤魔化すことは出来る……」

鞠莉「……メイクは、そんなに万能じゃないわよ」

花丸「わかってるずら。ただ、一例として挙げただけ」


花丸「問題は……千歌ちゃんに容姿が似ている人なら、何かしらの手段を用いれば千歌ちゃんソックリになるのは不可能じゃないってことずら」


果南「……」

369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 07:54:48.51 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「……。梨子さん。実際のところ、どうなんですの?」


梨子「!……実際のところ……?」


ダイヤ「梨子さん……貴女だけがハオさん……という方と出会っているそうですが」

ダイヤ「体格は、千歌さんと一致していたのですか……?」



梨子「……正直なところ。よくは覚えてないです。……でも」

梨子「パッと見だけど。私との身長差は千歌ちゃんより無かった」



梨子「……私と同じくらいの身長でした」



ルビィ「!そ、それって……」


曜「梨子ちゃんの身長は、160センチ。千歌ちゃんの身長は157センチ。……多少だけど、パッと見でも差はあるよね」

善子「パッと見の身長差がないのだとすれば。当然、千歌と同じ体格のはずがない」


梨子「……うん。そうなると、思う」


ダイヤ「……なるほど。よくわかりました」


ダイヤ「少なくとも、梨子さんの心当たりがあるという人物。……その方には、通常の手段では入れ替わりを行えなかったと考える方がよさそうですね」

果南「まあ……そうなるよね」

善子「……普通に考えたら、疑問の余地なしよね」

370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 07:55:56.83 ID:jWyG/GcGO


梨子「……ところで。もう一つ、今話していることとは直接関係ないかもしれないけど。……葉百さんには別の一面があると思っています」


曜「……梨子ちゃん?」

花丸「どうしたずら……?」


ルビィ「別の一面?ハオさんが、入れ替わってるかもしれない以外に何かトクベツだってこと?」


梨子「うん。さっき花丸ちゃんは、生き別れという意味では[亡霊]の意味に当てはまるかもしれないって言ったよね」


花丸「……う、うん」


梨子「私も、そういう意味での[亡霊]なんじゃないかって意味で……一度、千歌ちゃんに聞いたことがあるの」

梨子「生き別れの姉妹がいるかどうか……って」


梨子「……流石に、何かしらの事件を起こすような[亡霊]が存在するとは、思っていなかったからね……」

善子「……」


ダイヤ「まぁ、そんなオカルトチックな存在……いるとは中々考えにくいでしょうしね」


梨子「でもね。……一端、いるものとして考えてしまえば」


梨子「そんな存在があるとすれば。……通常では不可能なことも、可能だと考える余地が出てくる……」




善子「……。ま。まさか……」


鞠莉「り、梨子。あなた、本気で主張するつもりなの……?」


371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 07:57:24.12 ID:jWyG/GcGO


梨子「……うん。私は、葉百さんが……」



梨子「善子ちゃんが、前に部室で話していた意味での。あの……」





善子『そう。[亡霊]現るところに、事件あり。つまり……』



善子『[亡霊]こそが事件を引き起こしている張本人なのよ!』









梨子「……あの。[亡霊]の、正体。……そう、考えている」





372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 07:58:39.05 ID:jWyG/GcGO


善子「……!!」


果南「な……!」



ルビィ「ぼ、ぼ、ぼうれいって……あの意味での[亡霊]って……そんなまさか……!」

善子「そうよ!そんなオカルト、あるわけないじゃない!!」


梨子「……」



千歌「・・・・・・」



ダイヤ「……もし本当にそんなものが存在すると仮定したら。……確かに、想像のつかない出来事も、説明できてしまう……」


鞠莉「……[亡霊]が目撃された場所では、考えられないようなことが起こっていたから……」


果南「何の痕跡も残さず、船が壊されていたり……」




ダイヤ『……重機でも用いないと出来ないような壊れ方をしていたのに。現場には、そのような痕跡が全く残っていなかった』

花丸『あったのは……壊された部分の、残骸だけだったんだよね』

果南『この田舎で、誰にも気付かれずに船を壊せるレベルの機械を動かすなんてこと、あり得ない』

鞠莉『田舎だからこそ、そういうのには敏感だから。……誰も目撃していないのは、不自然ってわけね』

ルビィ『皆、大騒ぎしてたよね。……何が何だかわからないって』




梨子『……奇跡。皆そう言って、船が壊されたこともうやむやになっちゃったんだよね……』

梨子『まるで、嵐が来るのをわかっていたかのようなタイミングで、船は壊され、その船に乗る予定だった人たちは助かった……』

花丸『まさか……』




善子『そのまさか。……最近になって、船が壊される前夜、若い女性が目撃されていたことがわかったのよ』



373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 07:59:11.53 ID:jWyG/GcGO

曜「むっちゃん達が見たっていう、女の人。地震が起こったのに、壊れなかったお店も……」



いつき『……正直、あんまりよく覚えてないんだ。……地震が起きた時のこと』

いつき『で、でも。……私達も、お店も……無事だったのは間違いないよ』

よしみ『わたしも覚えてない。……なんか、気がついたら外にいて、店長さんも外にいて、なんだか命が助かってた、っていうか……』



むつ『……そういえば。あのお姉さん、どうしたんだろう』

梨子『!……あの、お姉さん?』

むつ『うん。お店にはもう一人お客さんがいたんだけど、私達が外に出た時にはいつの間にかいなくなってたんだ』




梨子「……他にも、色々あるけど。とにかく、[亡霊]のいるところには、奇跡≠ェあった」


梨子「常識から逃れる、奇跡≠ェ……」


花丸「……奇跡=c…」

374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:00:19.94 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「……梨子さんは、こう言いたいのですか?」


ダイヤ「すなわち、もしハオさんが[亡霊]なら、何らかの方法で体格すら変更することが出来る」

ダイヤ「だから、体格の差があるのは問題ではない。……本当の問題は」


善子「……本当に。[亡霊]が、存在するかどうか……」


ダイヤ「……」



梨子「……はい。そう、なります」



鞠莉「……ナンセンスよ。いくら、なんでも……!」


梨子「……鞠莉ちゃん?」


鞠莉「梨子は、未来から来たかもしれないってところを問題にしたんでしょ!?それを、過去の存在である……[亡霊]を持ち出すなんて!」


曜「……」


果南「……」



梨子「……。ここで。私は、一つのオクソクを話します」



鞠莉「……!」


ダイヤ「り、梨子さん……?」


375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:03:32.88 ID:jWyG/GcGO

梨子「……。わたし、は……」



梨子「私は。[亡霊]と呼ばれる存在こそ。……<未来>のものであると主張します」




鞠莉「……は、はぁ?」

善子「え。えぇ?」


果南「……あ。頭が、痛くなってきたよ……」

ルビィ「わ、私も……」



ダイヤ「梨子さん。……つまりはどういうことですか?」


ダイヤ「なぜ、<未来>のものが[亡霊]なのでしょうか?」


梨子「……《不可能》を起こせる存在が、未来にはあり得るからです」



ダイヤ「……では、その存在とは、一体……?」


376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:04:18.53 ID:jWyG/GcGO


梨子「……」



梨子「…………」




梨子(自分がすごく馬鹿げたことを言おうとしているのはわかってる。最初から、わかってた)


梨子(でも、言うしかない。決めたんだから)


梨子(追求するって……!)






梨子「……。一つだけ。『可能性』があった。……あり得ない『可能性』だったけど」


梨子「……皆は、覚えてる?……鞠莉ちゃんが話してくれた、あの話……」


梨子「あの、AIの。……ロボットが、人間のように振舞えるようになってきているって話を……」



ルビィ「……うん」

善子「……」

花丸「……ずら」



梨子「……。もし。アンドロイドが、実在するとしたら……」




鞠莉「……!」


果南「……つ、つまり。どういう、こと……?」



377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:08:07.01 ID:jWyG/GcGO

梨子「……。つまりは、こういうことです。……」



梨子「[過去]のものだと思っていた[亡霊]が、実は《未来》の技術が生み出した存在だったとしたら?」





梨子「……それが、私の考えです」


善子「……!」


鞠莉「……!」


花丸「……そういうことずらか」


果南「……」

378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:08:42.37 ID:jWyG/GcGO


ダイヤ「……未来の技術ならば。人間そのものと見間違うような、人工知能や、ロボットを作り出すことが出来るかもしれない……」


曜「……そんな存在は。パラメーターを自由に入れ替えられる、存在」


果南「体格も……性格も。記憶だって、パラメーターに出来てしまうのだとしたら……」


善子「入れ替えが……出来るようになる……っ!」



ルビィ「……鞠莉ちゃんが話してたことだよね」


鞠莉「……。そうね。そう、言ったかもしれないわ」



花丸「それが……[亡霊]の、正体」





果南「……梨子。それが、千歌≠セって、言うつもり?」



379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:11:40.11 ID:jWyG/GcGO


梨子「……」



梨子「……。」




梨子「…………。」






梨子「……。うん。」









梨子「私は……千歌ちゃん≠ェ。……アンドロイドであるかもしれない。……そういう風に思ってます」









380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:12:29.38 ID:jWyG/GcGO




千歌「・・・・・・」ニコ






梨子(目の前の少女の表情が、笑みに変わった)


梨子(その笑顔は、私が慣れ親しんだもの。いつもの、笑顔)



梨子(でも、私が……こんな荒唐無稽な考えを話した途端、明らかにその質が変わった)



梨子(笑顔であるのに、どこか自分の感情を窺わせない……そんな、笑み)


梨子(その眼差しからはまるでこちらの全てを見透かしているかのような印象さえ受ける)







梨子「・・・・・・っ!」ゾクッ






梨子(とてつもない、焦燥感……!)


梨子(……さっき何度か感じたものとは比べ物にならない……)



381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:13:36.08 ID:jWyG/GcGO


「っ………」


「…………!」


「!………」





梨子(……皆も、私と同じように感じているみたいだった)


梨子(目の前の、よく知っているはずの存在が、今までまるで見たこともないような表情を浮かべ……)



梨子(感じたこともないような、得体の知れない雰囲気をまとっている姿を見て。動揺を隠せないようだった)




梨子(……ち、千歌ちゃん……!)




382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:14:23.43 ID:jWyG/GcGO


千歌「・・・・・・それじゃあ私は人間じゃないって思われているんだ」



梨子「ご、ごめんなさい……こんな突拍子もない話をしちゃって」


千歌「それで?」


梨子「え?そ、それでって……」




千歌「・・・・・・それで、どうして梨子ちゃんはそう思ったの?」


梨子「……!」




梨子(どうして……)


383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:15:13.12 ID:jWyG/GcGO

梨子「……どうして、否定しないの……」


梨子「どうして……。こんな、とんでもないことを言われてるのに、すぐに否定するんじゃなくて……」


梨子「私がそんなことを考えた、理由なんて聞いているの……」



千歌「・・・別に否定しないってわけじゃないよ。ただ、どうしてそう思ったのか、純粋に聞きたいだけ」



梨子「…………」



千歌「梨子ちゃんのことだから、何の根拠もなくそんなことを言うとは思えないし」


善子「そ、そんなのわからないじゃない!だって!……」




梨子「……だって、善子ちゃんに影響されてヘンなことを言ってるだけかもしれないのよ?」

384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:15:55.95 ID:jWyG/GcGO

善子「……そ、そうよ。そういうことだって、あるかもしれないじゃない……」



千歌「・・・・・・」




梨子「……(善子、ちゃん……)」




千歌「・・・。梨子ちゃんは、そんな冗談は言わないよ。……そんな真剣な表情で、ね」


千歌「それは善子ちゃんだっておんなじ。……私の仲間に、冗談でそんなことを言う人はいない」



善子「……ち、千歌……」



梨子「……。私はその仲間のことを……あなたのことを、人間じゃないかもしれないって、疑っているのよ?」


千歌「そうだね」


梨子「だったら!どうしてそんな平気でいられるの!?」



梨子(それじゃ、まるで本当に……!)


385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:17:30.84 ID:jWyG/GcGO



千歌「・・・・・・私は仲間のことを、<あなたたち>のことを、信じているから」



梨子「……っ!」



千歌「それにね、自分自身がどうしてもやりたいこと、やらなきゃいけないと思ったことを邪魔する権利は誰にもないと思うから」



梨子「…………」



千歌「……梨子ちゃんは言ったよね。信じぬきたいって」


千歌「そのために、どんな思い付きでもいいから追いかけたいって」



梨子「…………」




千歌「『今≠ェ、その時』……そうなんだよね。皆?」



ダイヤ「……」


善子「……」




千歌「・・・その結果、心躍る場所に辿り着くかどうかは、わからないけどね……」



果南「……」


ルビィ「……」


梨子「……そんな、こと……」




千歌「・・・・・・それじゃ、そろそろ聞かせてくれるかな。・・・私が、アンドロイドだと、どうして言えるのか」



千歌「その、理由をね・・・」

386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:18:16.33 ID:jWyG/GcGO


梨子(千歌ちゃん……どういうつもりなの?)


梨子(千歌ちゃんが人間ならこんなことをする必要は、ない)


梨子(かと言って、アンドロイドでもこんなことをする必要はないはず)


梨子(さっきの言葉通り、おふざけでこんな話をしているという感じでもない)


梨子(……本当に、試しているというの?だとしたら、それこそ何のために?)





千歌「・・・・・・」ニコ






梨子(相変わらず千歌ちゃんの表情からは何も読み取ることは出来ない)


梨子(例え試されているんだとしても。私はもう選んでしまった。後戻りの許されない、追求する道を……)


梨子(……こうなったらもう、ただその道を進むしかない……っ!)



387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:18:45.18 ID:jWyG/GcGO

曜「……問題は。千歌ちゃん≠ェ、どうしてアンドロイドだと考えられるか、だよね」


梨子「……その通りよ、曜ちゃん」



ダイヤ「アンドロイドがもし、実在するとして。それがパラメータを自由に変更できる存在を指すのだとしたら。……入れ替わり自体は、可能だと考えられます」


果南「……でも、じゃあ何で、千歌と入れ替わっていると言えるのか。……どうして、他の誰でもなく、千歌≠ェアンドロイドだと言えるのか」


果南「……根拠が、必要になるわけだね」

388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:20:31.58 ID:jWyG/GcGO


梨子「……さっきも話した通り。[亡霊]の目撃されているところでは、必ず不思議な出来事が起こっていた」


梨子「そして。……そこには、ある共通点がありました」


ダイや「共通点……?」


梨子「はい。私達が不思議だと言っていること。それらは、現代の技術から考えた場合に不可能であることなんです」



鞠莉「……また、技術的に不可能なことを問題にするの……?」


善子「……不思議な現象が、なぜ不思議なのか。その理由は、あくまでも技術的な問題にあるってわけね」


梨子「うん。でも、起こっている現象それぞれは、必ずしも不可能なことじゃない」


曜「……そっか。例えば船の例なら、重機を使わなきゃ出来ないような、壊れ方って言ってたけど……」


曜「重機を使えば、可能なことが、なぜか重機なしで起こった。……っていうことでもあるんだね」


梨子「……その通りだよ、曜ちゃん。逆に考えれば……」


梨子「もし。……重機がなくても、船を壊せるような力があれば……出来ないことじゃない」



ダイヤ「……しかし。そういったものを用いるのなら少なくとも痕跡が残ります。だから現代の技術の水準からすると、考え難い……」


花丸「技術の進歩。それを前提にするなら、進歩さえすれば現代の技術で出来なかったことも出来るようになるかもしれないずらね」



梨子「……もし、何の道具も必要なく、船を壊せる力があるのだとしたら。人がいたこと以外に、痕跡を残すことなく、あの事件は起こせた」



ルビィ「……人間とソックリな、機械……。それも、重機の力を持った機械なら……不自然なことも出来るってことだよね……」



梨子「……」



389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:21:18.45 ID:jWyG/GcGO


善子「……それで?それで、何だっていうの?」



梨子「……」



善子「そりゃあ、百歩譲って……技術の進歩があれば、今出来ないことも出来るようになるかもしれないっていうのはわかるわよ」


善子「でも、それが今の話とどう関わるっていうの?」


花丸「……。確かに、技術の進歩の問題と千歌ちゃんが入れ替わっているかどうかは、直接関係するものじゃないずら」


梨子「ええ、そこはそれほど問題じゃないわ。……問題は、千歌ちゃん≠フ方にある」



果南「ち、千歌≠フ方……?」



梨子「千歌≠ソゃんは……《不可能》なことを『可能』にしてきた」


鞠莉「……《不可能》を、『可能』に……?」

390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:22:03.19 ID:jWyG/GcGO

梨子「……。[亡霊]の話をした、帰り道。私たちは、一つの奇跡≠見た……」



善子「……!!」



ルビィ「そ、それって……」


梨子「モチロン、覚えてますよね、ダイヤさん?……ダイヤさん自身が、何を言ったのか」

ダイヤ「……!は、はい。確かに、わたくしは言いました……」




ダイヤ『今の、動き……。まるで、達人のようでした』

梨子『た、達人?』

ダイヤ『ええ。善子さんを支えつつ、片足ながらも自身も体勢を崩さない、その絶妙なところで、ピタリと止まった……』

ダイヤ『非常に難しいバランスを、一瞬のうちですが千歌さんはとれていた。……一歩間違えれば、二人とも海に落ちていたでしょう』

ダイヤ『考えられないことですが、善子さんを助けた今の動き。千歌さんの体運びは、武術を極めた達人のごとく洗練されたものだったように見えましたね』

ダイヤ『それこそ、奇跡≠ネのでしょうけど、ね』フフッ





善子「……千歌≠ェ、私を助けてくれた時……」



梨子「……多少なりとも、武術の心得のあるダイヤさんが言った言葉。信じることが出来ると思う」


391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:22:53.80 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「し、しかし。自分で言うのも変な話ですが、それだけなら勘違いのセンもあるのでは……?」


梨子「それはもちろんその通りです。だけど、千歌≠ソゃんはこれ以外にも、色んな奇跡≠起こしている」


梨子「体感天気予報もそう。ルビィちゃんの体調を、本人も気付かなかったのに言い当ててたのもそう」



曜「……!」

ルビィ「……!」


ダイヤ「たっ。……たしか、に」



千歌「・・・」



392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:23:46.55 ID:jWyG/GcGO

梨子「……千歌ちゃんのいるところに、奇跡≠ヘ溢れていた」

梨子「ただ。それが全く《不可能》なことかというと、そうじゃない」

梨子「達人なら、出来た。感覚を研ぎ澄ませれば、注意深く見ていたなら、出来た」


梨子「……でも、そんなことが一人に、それも短い期間の内で、出来る?……起こる?」


花丸「……偶然で済ませるには……確かに、難しいかも……」


鞠莉「で、でも。それこそ、難しいだけで、あり得ないとまでは言えないわ」


鞠莉「それに……。[亡霊]のやったことは、Aqoursの誰も目撃していない」


ダイヤ「……ここで、[亡霊]を目撃したか、ですか?」


鞠莉「うん。正直なところを言えば、千歌が奇跡≠起こしたって話は、ちょっと信じちゃう。自分の目で見てるから……」

鞠莉「けど、[亡霊]に関しては違う。あくまで、ウワサや、痕跡だけが残っているだけよ」



梨子「……」


393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:24:43.47 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「確かに。少なくともわたくし達は、[亡霊]そのものが何かを行っているのを見たわけではありません」


ダイヤ「それにそもそも、葉百さんという方と、[亡霊]が同一人物だということも、確証はないのです」


果南「……ペンダントの写真に写っている人。葉百さんが[亡霊]の正体だとすれば。入れ替わりなんてことも多少は疑えると思うけど」

果南「そもそもとして、葉百さんが[亡霊]であるというところを示してもらわないことには、判断できないってことだね」



梨子「……」



曜「……。どうなの、梨子ちゃん?今果南ちゃん達が言ったようなことって、証明できるの?」


梨子「……うん。実は、私……一度だけ、目撃しているの」


ダイヤ「……!も。目撃……ですって?」

果南「い、いったい何を……?」

394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:26:03.41 ID:jWyG/GcGO

梨子「当然。……葉百さんが奇跡≠起こして見せた、瞬間をだよ!」


鞠莉「……!」


ダイヤ「……ま。間違いないのですか?奇跡≠目の当たりにした、というのは……」



梨子「……はい」




善子「……ちょ、ちょっと待って!」

善子「奇跡≠ニいうのなら……・それはどんな奇跡≠セったのかが問題になるでしょ!」


梨子「……どんな、奇跡=c…?」


善子「そ、そうよ!奇跡≠チて一口に言っても、それは人それぞれあるでしょ!」

善子「じゃんけんで一人勝ちするとかだって充分私には奇跡よ」


395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:26:40.62 ID:jWyG/GcGO

ルビィ「……そんなこと言い出したらキリないんじゃ……」


ルビィ「それに、人によって違うものだったら、それって本当に奇跡≠チて呼べるのかな」


善子「ぐ。……」



花丸「……でも、善子ちゃんの言いたいこともわかるずら」


ルビィ「花丸ちゃん?」


花丸「梨子ちゃんが見た、奇跡=c…それを見たのって一度だけなの?」


梨子「……うん。そうだよ」


花丸「なるほど。で、それはどんな内容だったのかな」


梨子「……内容?」


花丸「うん」

396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:27:31.13 ID:jWyG/GcGO

曜「……えっと。花丸ちゃんの質問の目的がよくわからないんだけど……」


ダイヤ「……善子さんの話は、奇跡≠見たのが一度だけだったのであれば、どんな奇跡≠セったかが、問題になる……。ということでしたが」

花丸「その通りずら」

ダイヤ「しかし、なぜそれが問題になるというのですか?」


花丸「……。信じるために、必要だから」


梨子「……信じるため?」


花丸「……おら達が、千歌ちゃん≠ェ奇跡≠行ったと思えるのは、何度もそれを見てきたから」

花丸「でも、《不可能》を『可能』にした瞬間が、もし一度だけしかなかったら……それは、たまたまだって思って、自分でも信じられなくなる」


花丸「……ダイヤさんも、それは言っていたよね」


曜「!」

ルビィ「!」

397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:28:24.04 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「……確かに、先程言いました。『それだけなら勘違いのセンもあるのでは』、と……」


ダイヤ「ということは……梨子さんは、たった一度の奇跡≠ェ、単なる偶然ではなく、本当に奇跡だったということを……何度も”見た”ということ以外で証明しなければならないということになるのですか」


花丸「そういう……ことです」


果南「……だから、内容を聴いたってわけだね」

曜「……梨子ちゃんの言う奇跡≠ェ。単なる偶然じゃすまされないような、凄いことを引き起こしているんじゃなきゃ……疑いの余地が出るってこと、か」


梨子「私が見た、奇跡=c…」




鞠莉「……オーケー。じゃあ、聞くわね?」


鞠莉「梨子が、目撃した奇跡≠チて……どんなこと?」



398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:29:08.94 ID:jWyG/GcGO



梨子(……。目撃。そう、私も皆も、言ってしまったけど……)


梨子(本当は、見たんじゃない。……単に、目で見たことじゃない)


梨子(私は、聴いたんだ。奇跡≠フ”音”を……)


梨子(そして。私が見たのは……その音を通じて、見えたもの。本当に、肝心なこと)


梨子(それを、皆にもわかってもらえるような……その[記録]は、既に持っている!)


梨子(なら、やることは決まっている……!)




梨子「……。それは。……」


399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:30:25.86 ID:jWyG/GcGO


梨子「それは。ピアノの、音です」



曜「ピアノの、音……?」


梨子「うん。……私が初めて葉百さんに会った時。……皆にも、千歌ちゃんにも、会う前の時。 私は、不思議な女性に会った」


果南「……!?千歌に、会う前……?」



梨子「……、引っ越しでゴタゴタしている中、届いたばかりのピアノを。自分でも不思議なことに、その見知らぬ女の人に弾いてもらったの」


梨子「……。その女の人に会っていたからかな。私は、千歌ちゃんと初めて会った時……初めて会ったような感じがしなかった」


梨子「その女の人は。千歌ちゃんの生き別れの姉妹と言っても、おかしくないぐらい……千歌ちゃんに似ていたから」




ダイヤ「その人が……。葉百さん、というわけですか……」



ルビィ「……それで。……ハオさん、って人のピアノは……どんな音だったの?」



梨子「……。美しかったの。繊細で、精確で、人間が持つムラのような部分が一切ない」


梨子「そう。まるで、[機械]みたいに……精確だった」



果南「……き、[機械]……」


400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:49:48.43 ID:jWyG/GcGO

善子「ちょっと待ちなさい!何をもって、[機械]だなんて言えるの!?」


梨子「……善子ちゃん」



善子「精確だったって……そりゃ、梨子のピアノの腕は知ってるから、梨子の言う[精確]がとんでもないレベルで精確だったんだろうなって思えるけど!」


善子「それでも!……たまたま、ピアノが凄い得意な人が演奏したから、そうなったってだけかもしれないじゃない!」



梨子「……善子ちゃんの言うことはもっともだと思う。……だからこそ」


梨子「私は。[証拠]を出します!」



善子「……!」



ダイヤ「しょ、[証拠]!?まさか、あったんですか!?[証拠]が……」


花丸「た、確かに。[証拠]があるんだったら、疑いようがない……!」


花丸「単なる梨子ちゃんの勘違いでも、偶然でもなく。本当に、奇跡≠起こしたと言えるずら……!」

401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:50:31.41 ID:jWyG/GcGO

鞠莉「……梨子。だったら、何で今までそれを出さなかったの?」


梨子「……!」


鞠莉「私言ったでしょ?[証拠]がないからこそ、私たちの言葉だけが頼りになるって」

鞠莉「出さなかった理由を聞かないと、[証拠]を出すって言葉。信じられないわ」


梨子「……状況が変わったからだよ」


鞠莉「……状況?」



梨子「……<未来>から来たこと、入れ替わりを示す[証拠]はなかった。でも……」

梨子「皆の話が進むにつれて。言葉が語られることで。持っていた[記録]が、[証拠]としての意味を持つようになったの」



善子「……要するに奇跡≠示す[証拠]があったってことでしょ。……鞠莉、わかっててイジワルなこと言ったでしょ」


鞠莉「……まあね。ただ、半端なものを見せられても、私たちは納得しないってこと」


梨子「……大丈夫。きっと、鞠莉ちゃんも納得できると思う」
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:51:38.12 ID:jWyG/GcGO

鞠莉「……。そこまで言うのなら、見せてもらおうかしら」


鞠莉「梨子が見たという……奇跡≠捉えた[証拠]を!」



梨子「……わかった。これを、見て」


鞠莉「……。スマホ……?」


善子「……。見てって、画面に何も表示されてないじゃない!こんな状態を見ても……」



梨子「……。ゴメン、言い方が悪かったね。”見て”って言ったけど……本当は違うの」

梨子「……私が”見て”って言ったスマホ。ここから流れる曲を。《聴いて》ほしかったのよ」


曜「……曲?」

善子「”見る”じゃなくて……《聴く》……」


梨子「うん。……始まるよ」



梨子「皆、ちゃんと聴いてね。……この、曲を」


403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:53:20.46 ID:jWyG/GcGO







善子「……」


ルビィ「……」


花丸「……」


曜「……」


果南「……」


鞠莉「……。ビューティフルね。……それで?」


ダイヤ「……。それで。何が、奇跡だったのですか?」


梨子「……。もう一曲、聴いて貰えればわかるはずです」


花丸「……一度だけじゃ、なかったずら?奇跡≠フピアノは……」


梨子「……。何も言わず、聴いてほしいんだ」


鞠莉「……オッケー。じゃあ、聴いてみましょっか?」


ダイヤ「……しょーがないですねー!では、もう一度、梨子さんのリクエストに応えてみましょう!」


梨子「……」




千歌「・・・」



404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:54:24.57 ID:jWyG/GcGO





千歌「・・・・・・」


善子「……」


ルビィ「……」


花丸「……」


曜「……」


果南「……」


鞠莉「……。ビューティフルね。……それで?」


ダイヤ「……。それで。何が、奇跡だったのですか!」



梨子「……皆さん。この曲を聴いて、どう思いました?」

405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:55:41.45 ID:jWyG/GcGO



果南「う、ううん……」


ルビィ「どうも何も……。一個前の曲と、全部同じだったよね」

ルビィ「ちょっと、音質は落ちてたけど……」


曜「あの……言いづらいんだけどさ。梨子ちゃん、同じ曲再生してたりしない?」

曜「間違えて、収録されたアルバムは違うけど、同じ曲を流したとか……」


花丸「うん……。おらも、そう思ったよ。[証拠]って、同じ曲を再生することじゃないと思うずら」


善子「……。真面目にやって欲しいんだけど」


果南「同じ曲を流すのは……多分、ミスなんじゃないかな」


梨子「……。モチロン、ミスじゃないよ。だって……」



梨子「今聞いてもらった二つの曲は、CD音源をそのまま流した後に、私が録音した曲の二つだったんだから」




ルビィ「……ぇ?」

鞠莉「録音……!?」


ダイヤ「そ、それでは……。音質の落ちていた、後に流した方は……」


406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:56:37.05 ID:jWyG/GcGO



梨子「……。葉百さんが弾いたものです」





果南「な、な……!」


ダイヤ「なんてこと……!」



果南「梨子の言ってた、[機械]みたいに精確だったって……こういうことだったんだね」


曜「いくらピアノが得意だからと言って……CDの曲そのままを、コピーするなんて出来ないはず……」


ルビィ「でも、この録音は……それをやってる」


善子「私達が、音楽の素人だから。同じように聴こえてるってことはないの?」


ルビィ「それは、でも……」

407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:57:25.11 ID:jWyG/GcGO


鞠莉「……。梨子が、言う以上。そんなこと、考えられない」



梨子「……!鞠莉ちゃん……!」



善子「……。それは、そう、だけど……」


花丸「それに……記憶じゃなくて、[記録]を梨子ちゃんは出した」

花丸「もし一度きりの記憶だったとしたら、おら達には真偽はわからないけど……」


花丸「[記録]は、検証できる。……何度でも、納得のいくまで……」


曜「……何度でも確認できるから。[証拠]って、言えるってことだね」


鞠莉「何なら、音を解析する技術自体は現代にもあるし……それで、本当に同じかどうかわかるわ」

鞠莉「梨子は、それも承知の上で……この[証拠]を出したのよね」



梨子「……はい」



408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:58:17.34 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「……これで。千歌さん≠ニ、葉百さんに、共通点を認めることが出来てしまいました」


曜「じゃ、じゃあ。やっぱり、千歌ちゃん≠ヘ……」


鞠莉「……」





善子「……甘いわ」




梨子「……!」



花丸「善子ちゃん?……甘い、って、どういうこと?」


善子「言葉通りよ。……だから、何って話」



ダイヤ「善子さん……。気持ちはわかりますが」

ダイヤ「今、梨子さんは示したのですよ?常識では考えられない、『可能性』を……」



善子「……。何が、常識よ。常識を語るなら、もっと根本を話さなきゃいけないでしょ?」



ルビィ「根本……?」




善子「トーゼン。……そもそも、未来から過去へ遡ることが出来るのかよ」




梨子「!」


409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:00:50.34 ID:jWyG/GcGO


善子「千歌と梨子も話してたけど。可能性は、あくまで可能性。……偶然と同じようなものよ」


善子「でも、不可能なことは。必然的に、不可能なの」


善子「そして……〈未来〉から[過去]に遡るのは、不可能なの!」



ダイヤ「しかし……それは!」


ダイヤ「それは、流石にわたくしたちの手には余る話です。だから、ここにある可能性と証拠でコトを考えてきたのでは?」



善子「……そうね。梨子が示すことは、確かに『可能性』を示すのには十分だったと思う」



善子「けど……《不可能性》を否定するには、不十分だった」



梨子「……!」



善子「少なくとも、私の考える《不可能性》を覆すことは……出来ていないと思う」


善子「……鞠莉も、そう思わない?」


410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:02:09.32 ID:jWyG/GcGO

鞠莉「…………正直、混乱してはいるんだけど」



鞠莉「ここまでで明らかになった不自然さは、全てがちゃんと繋がっているとは思えない」


鞠莉「千歌も、[亡霊]も……。ペンダントも、普通では考えられないようなものではあると思う」


鞠莉「でも、それらが関連していると断言することは出来ないと思う。……だって」


鞠莉「だって、未来から来たってことが、それらを結び付けている根拠のはずなのに……未来から来たという、決定的な理由はまだ何も考えられていないから」



ダイヤ「……梨子さんの提示した、[証拠]でも不十分だというのですか?」


鞠莉「ええ。奇跡≠ヘ、どうしても偶然という性質を持つものだからね」


鞠莉「……梨子が、奇跡≠セと確信している以上。その奇跡≠ェ、たった一度のものだったと考えることは出来てしまうと思うの」


411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:03:18.94 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「……どうなのですか、梨子さん?」



梨子「……。彼女は確かに、自分の演奏を機械のようだと言っていました」

梨子「でも……。たまたま、そういった特技を持っている人だったと、考えることは出来ると思います」


ダイヤ「その場合……。たまたま、そういう人に会っただけで、奇跡≠起こすという意味での共通点があるとは、断言できないとも考えられますね……」


梨子「……そう、だね……」



鞠莉「だとしたら、やっぱり……。否定は、出来る」


鞠莉「未来から来ることが不可能なら。本当に一度きりの奇跡≠、たまたま梨子が目撃しただけなんじゃないかって考えることが出来るの」



梨子「……」




ダイヤ「……。わかりました」


ダイヤ「では。……考えてみましょうか。〈未来〉から来るということが、可能なのか」



ダイヤ「わたくし達なりに。また、話してみましょう……!」


412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:04:24.35 ID:jWyG/GcGO


果南「……」


曜「……」




鞠莉「……私から、話してもいい?」


ダイヤ「……口火を切った、善子さんがいいのなら」


善子「私に異論はないわ。……鞠莉の考え、話してほしいし」

鞠莉「ありがとう。……私も完璧には理解していない話になっちゃうんだけど」



鞠莉「……理論的に。未来から過去に来るのは、不可能だと言われているの」


曜「……理論的に?」


413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:05:04.23 ID:jWyG/GcGO

鞠莉「そうよ。どれだけ科学技術が進歩しても、そこは覆せないの」


鞠莉「確かに、アンドロイドのようなものは作れるようになるかもしれない。でも、それが過去に戻ることは、出来ないの」



鞠莉「……技術の大前提。技術を生み出す基盤となっている、理論。それが、過去に戻ることは出来ないという理論である限り。技術は、そこで終わりなの」



ダイヤ「……わたくしも、聞いたことはあります。[過去]へ遡るタイムマシンは、作ることが出来ないだろう、と」

ダイヤ「逆に、未来へ行くタイムマシンは出来るかもしれないと」


果南「……どうして?」


ダイヤ「過去へ来る方は、手段がないとのことです」

ダイヤ「それに対して、未来へ行く方は、比較的簡単に実現できるそうです」


ダイヤ「……光の速度に近づけば。時間の流れは、遅くなるためだと。そう、聞き及んでいます」

414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:06:16.32 ID:jWyG/GcGO

善子「……相対性理論、ってやつね」


鞠莉「そう。多くの人が、タイムマシンを語る時……どんなに技術が発展しても。未来へは行けるかもしれないけど、過去へは来れないって、話している」

鞠莉「だから、どんなに技術が進歩しても……過去に戻ることはできない、と言わざるを得ないの」


果南「……なるほど、ね」



梨子「……一つ疑問があるんだけど」


鞠莉「何、梨子?」



梨子「技術の話で思い出したんだけど。……千歌ちゃんの持っているペンダントの技術って、相当凄いと思うんだけど……」

梨子「これが、現代の技術レベルじゃ作れないものだったら、その時点で〈未来〉のものって証明になるんじゃないの……?」

415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:07:03.08 ID:jWyG/GcGO

鞠莉「……。だから、私も最初に千歌に見せてって言ったの。ペンダントを、ね」


ダイヤ「……見た時点で問題があれば、鞠莉さんは何か言うはずですよね……?」



梨子「じゃ、じゃあ……」



鞠莉「ええ。……確かに驚いた。この前の交流会で見たものが、ここにあるなんてね」


鞠莉「……どうしてここにあるのかは問題だけど。そのペンダントの技術自体は、現代でも実現可能よ」



梨子「……!」



曜「……これだけ技術に詳しい鞠莉ちゃんが言うなら。……さっきの、理論の話も……ホント、なんだよね」

花丸「……技術を支えている、理論。それが、ダメだって言ってしまったら……技術は、そこでおしまいなんだよね……」


鞠莉「そういうこと、よ」

416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:07:44.32 ID:jWyG/GcGO

ルビィ「……でも。それは、根拠になんかならないよ」


善子「……!」


鞠莉「え……?」




ルビィ「だって。『パラダイムシフト』が起きるかもしれないでしょ?」




曜「!?」

梨子「!?」

花丸「!?」



千歌「・・・・・・!」



ダイヤ「る。ルビィ……!?」


鞠莉「!!……な、な!」


果南「……ぱ。ぱらだいむ、しふと……?」

417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:08:28.33 ID:jWyG/GcGO

ルビィ「そう。パラダイムっていうのは、科学の常識、科学の考え方全部」


ルビィ「普通に科学をする時、皆が考える、前提だったり、信じるものだったり、価値観のこと」


ルビィ「でも。……それは、変わる可能性がある」



ルビィ「……そうだよね、鞠莉ちゃん?」



鞠莉「……え、ええ。それは、……そう、ね」



ルビィ「だったら。その、考え方が変わること……つまり、『パラダイムシフト』が起きたら。……理論は変わって、技術も、もっと変わる」


ルビィ「そうだとしたら……。過去に戻る技術だって、ないなんて言い切れないでしょ……!」


鞠莉「……る。ルビィ……!」


418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:09:07.20 ID:jWyG/GcGO

曜「ルビィちゃん。……凄い」


梨子「ルビィちゃん……!た、頼もしくなって……!」


梨子「流石よ!私の、妹にしたいくらい……!」

ルビィ「え、いいの?」

ダイヤ「ダメです!……ルビィはわたくしの妹なのです!!」


ダイヤ「そ。そんなことより。ど、どこで……どこで、そんな言葉を……!?」



ダイヤ「わ、わたくしの知っているルビィは。こんな、高度なことを考えられるような、娘ではなかったのに……!」


419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:09:42.83 ID:jWyG/GcGO

果南「……は?」

花丸「……何気に、凄い酷い話ずら」


ルビィ「……え、えへへ。……実は、善子ちゃんから借りた小説で、私も勉強してたんだ」

ルビィ「アイドルの曲を聴いてたら、パラダイムって言葉があったから。何のことかなって思って、それで善子ちゃんと話してたら……」


ダイヤ「ル、ルビィ。……立派になって……!」



花丸「……姉妹コントは置いといて。確かに、ルビィちゃんの言ってる通りなら、鞠莉ちゃんの話は、絶対不可能なことを話していることにはならないずら」


果南「未来から来るってことが出来ないのは、理論的にダメだから。……そう言った、鞠莉の言葉が、崩されちゃうからだよね」


鞠莉「……っ」


420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:10:20.64 ID:jWyG/GcGO


善子「……でも。まだ、私は認めていないわよ」



果南「……善子?」


ルビィ「善子、ちゃん……」


善子「……この本を読めば、解るかもしれないって。そう言って、渡したんだったのよね?」

ルビィ「う。うん……」

善子「だったら、わかるでしょ。私が、貸したんだから。……私が、そんな考え、納得しないってことぐらい」



善子「……私が、そんな反論も織り込み済みで、でも未来から過去になんてことが出来ないって、考えていたって」



ルビィ「……」



善子「……過去に戻ることは、単純に技術や科学理論だけの問題じゃないの。それ以上の《不可能》さがある」


花丸「……それって、一体……?」

421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:11:12.12 ID:jWyG/GcGO

善子「簡単よ。……皆、タイムパラドックスって知ってるでしょ?」


果南「……流石に、それは私でも分かるよ」


曜「……未来の自分と、今や過去の自分。会っちゃうと、ダメなやつだよね」


善子「まあ、ザックリ言うとそんなトコロ。……で、これは技術の問題が消えても、更に根元で残る話なの」



ダイヤ「しかし……タイムパラドックスが、なぜ、未来から過去へ戻ることを否定するのですか?」

ダイヤ「創作の世界などでは、過去の自分に会わないようにすることで回避出来る例もありますが……」


善子「それは、あくまで創作だからよ。……ちゃんと、過去に戻るってどういうことか考えると、それは論理的にあり得ない話になるの」

422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:12:11.53 ID:jWyG/GcGO

果南「……理論的とか、論理的とか……。なんか、頭が痛くなってきたよ」


花丸「善子ちゃんに、論理的なんて言葉が使えるずらか……?」

善子「何言ってんの。誰だって使えるわよ!」


曜「……果南ちゃんは使えてないみたいだけどね」


果南「……失礼な奴だなぁ」


千歌「2人とも・・・・・・。ケンカはしないでよね」




梨子「……それで?どうして、過去に戻ることが論理的に出来ないっていうの?」


423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:12:46.26 ID:jWyG/GcGO

善子「問題は。……もし、私達に、過去に遡れる能力があったとしても意味を為さないということよ」


果南「過去に戻ること自体が、無意味ってこと……?」


ルビィ「意味がないっていうのは、どういうこと?」


善子「たとえ過去に戻れる力があったとしても。戻った事実そのものが、存在出来ないってことよ」



曜「……よく、わかんない」


善子「……順を追って説明していくわ」



424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:13:57.43 ID:jWyG/GcGO

善子「ある過去の出来事Lがあったとする。この出来事は、何でもいいわ。昔、サンタさんを捕まえようとしてお母さんに叱られただとか、天使になろうとして高いところから飛び降りてケガしただとか、そんなことを当てはめてくれればいい」



ルビィ「……叱られたんだ」

梨子「……ケガしたんだ」


千歌「・・・・・・可愛い」



善子「うるさい!……コホン。ここで、自分が過去を変えることが出来る力を持っていたとしましょう」


善子「力というのは、出来事Lを出来事Oに変える力のことよ。例えば、サンタを捕まえようとせずにおとなしく寝て、次の日お母さんに怒られないようにするとか、そういうことをする力」


ダイヤ「……過去に戻る話ではなかったのですか?」


善子「過去に戻った時点で、過去は変わってるでしょう?そんな事実は、過去にはなかったはずなんだから」

ダイヤ「それは……まぁ、そうですわね……」



善子「重要なのは。過去に戻れるかどうか自体じゃなく、過去を変えられるかどうかなのよ」


鞠莉「過去に戻る……。その時点で、変化は起きているはず、よね」


花丸「過去に戻って、おっきい善子ちゃんがちっちゃい善子ちゃんにお母さんの言うことを聴くように言っても、変化はないかもしれないけどね」

善子「うっさいってば!……とにかく、どんな形であれ、過去を変えられる力があるとして、それが成立するか考えてみるのよ」



果南「この場合だと、LがOになったらどうなるかってことだよね」


鞠莉「どうなるって、言われても……う〜ん……」



千歌「・・・」


425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:15:10.66 ID:jWyG/GcGO


曜「……どうも、ならないんじゃ……」


梨子「ど、どうもならないってことは、ないような……」



善子「いいえ。よくわかってるじゃない、曜?」


曜「え?」

梨子「え?」



善子「どうもならないっていうのは、どんな意味?」


曜「え、えっと……。サンタさんに怒られないように言われて、その通りにしたら……なんか、怒られるから注意したのに、その注意自体、大人になってからしようと思うかなって……」

426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:17:43.29 ID:jWyG/GcGO


果南「あ……」


鞠莉「……なるほどね」



花丸「そっか。……善子ちゃんの例でいくと、もし、過去を変えようとして、実際に過去が変わったとしたら。そもそも、過去を変えようとする動機自体が、未来になくなっちゃうね」


善子「動機を例にするならそうなるわ。でも、これは動機に限った話じゃない。『原因と結果』が連鎖していると考えられる限り、あらゆることに当てはまるはずなの」


ルビィ「過去が変わった時点で、未来も一緒に変わっちゃうから……変える前の、変えようとした未来がそもそもあるのはおかしくなって、なくなる……ってこと?」



善子「……察しが良くて助かるわ。これって、一般化するとこういうことにならない?」


427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:22:47.04 ID:jWyG/GcGO


『ある世界Vに因果関係が成立しており、過去を変化させられる能力Eがあったとする』


『ここで、過去のある出来事Lを変更できる能力Eを行使し、Oという出来事に変更したとする』


『すると、Lという出来事はそもそも生じておらず、世界VにはOという出来事が生じたという事実のみが残る』


『なぜなら、因果関係により、Oが成立した時点で世界はOに基づいた時間軸に再構成されるので(Oという出来事に基づいてまた別の出来事が生じていくので)、LからOに変わったという事実を証明することが出来ないからだ』


『つまりLからOという変更があったという事実は世界Vには全く存在しないことになる』


『したがって、Eが存在するかどうかは誰にも証明できない。言い換えれば、Eがあると考えることは無意味な想定である』


『無論、因果関係を前提とするならば、OはLによって引き起こされたと考えねばならないが、Lを行使したという証拠はOが成立した以降の時間、世界には存在しない。つまり、矛盾してしまう』


『よって、因果関係が成立するいかなる世界でも、過去の変更はあり得ない。そして、因果関係の成立していない世界は考えることが出来ない』


『すなわち、[過去]を変更するということは、成立しない』

428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:23:40.23 ID:jWyG/GcGO

花丸「……LがなきゃOが成立しないのに、Oが成立したら、Lが消える……」


鞠莉「論理的にあり得ない。……そう言った意味はコレだったのね」


果南「で、でも。物語なんかだと、ちゃんと過去を変えた人は帰る前の記憶を持ってたりするよね?」



善子「……そこが、創作の所以なのよ、果南」


果南「……!」



善子「もし、本当にそんなことが出来るとしたら。……それは、過去を変える能力とは別に、過去を変えたことを知覚できる能力があるということになるの」




梨子「……過去を変えたことを、知ることの出来る力……!」


429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/06(土) 09:24:31.25 ID:jWyG/GcGO

善子「変わったかどうか。それは、比較によってしかわからないものよ」


ルビィ「でも、時間の流れがこの世界に一つしかないとすれば。……記憶もそれに従って、変わるはず」


鞠莉「……だから、もし過去が変わったとしても、その時点で時間の流れも変わって、それに沿って記憶は構成される」


善子「そうよ。もし、記憶同士を比較しようとするなら。……世界に時間の流れが一つしかないということを、否定できないといけない」



ダイヤ「人や、場所。物や動きの速度によって、時間が変わるとは考えられないのでしょうか……?」


善子「ここで言ってるのは、歴史や因果関係としての時間のことよ。ある出来事が、何か別の出来事を引き起こすと考える場合には、個々の時間の流れ方は問題にならない」



善子「……時間の流れっていうのが上手くなかったわね。さっき言った通り、因果関係や時間軸、って考えてもらった方がその辺りのこともわかるかもね」


ダイヤ「時間軸……ですか」


430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:25:24.60 ID:jWyG/GcGO


果南「……あのさ。話を蒸し返して悪いんだけど、やっぱ納得いかないことがあるんだけど」


曜「……果南ちゃんと同じで。私も、実はあったんだけど」



善子「何、果南、曜?」



果南「過去を変えたら全部変わっちゃうんだから、そもそも[変わった]って事実はあり得なくなるってのはわかったよ」


曜「でも……何というか、じゃあ何で私らってもしあの時ああだったら〜とか、過去を変えたら〜って考えられるのかな?」



鞠莉「……考えられるかどうかが疑問なの?」


果南「だってさ、カンペキに不可能なものだったら、考えることすら出来ないと思うんだよ。でも、私らって普通に過去が変わったらとか、未来を変えたいとか、そんなことを考えられるじゃん?それって何で?って思って」



ダイヤ「……本当に不可能なものは。そもそも、想定すら出来ないのではないか……そういうことですわね」


曜「でも、実際に私たちは考えることが出来ている……。だったら、善子ちゃんの言う不可能って、絶対じゃないかもしれないってことだよね?」


花丸「すこし違うかもしれないけど、知のパラドックスっていう議論も似たことを問題にしてた覚えがあるずら」


431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:26:11.22 ID:jWyG/GcGO

善子「……なるほどね」


果南「善子。どう、考えてるの?」


善子「……私の考えを言う前に。先に、褒めとくわ、曜、果南」



善子「……やるじゃない。いい批判よ」


果南「……え?」


曜「え、え……?」



ルビィ「善子ちゃん?褒めとくって……?」


善子「今の質問によって。私の考えが、より正確に説明できるからよ」


善子「そのお陰で、もっと詳しく、疑問の余地を潰すことが出来るでしょ?」


善子「疑問の余地があるせいでこんな状況になってるんだから、いい質問は褒めて当然じゃない」



梨子「……(懐が、広い……!)」


ルビィ「でも何故か上から目線なんだね」

432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:27:08.46 ID:jWyG/GcGO

善子「……。私の話してきた考え。これには、前提があった」


善子「時間軸が世界に一つだけしかないとすれば。時間軸は、因果と同様に、連なった一つのもので、それに記憶も沿うとすれば」


善子「そういった前提を基に、話を進めたら、過去には戻れないってことになったわけだけど……」


善子「じゃあ、過去に戻ることが成立するためにはどうすればいいのか。……この前提を基に考えることも出来る」


善子「世界に時間軸が一つしかないとしたら。……過去に戻るということは、意味を為さない……」



善子「じゃあ。……たくさんの時間軸が世界にあるとしたら……」



善子「……もしくは。世界そのものが複数あると考えたら?」




果南「……!」


善子「結局のところ、過去に戻るということ自体は出来ないとしても、過去にそっくりな別の世界に行くと考えれば、過去に戻ったように思うことはできるわね」



曜「べ、別の世界……」

433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:27:52.57 ID:jWyG/GcGO



千歌「・・・・・・」




善子「もし過去を変えたとして、それを証明する証拠なんて、あるはずがない。[記録]も記憶≠焉A全部変わった後の物に置き換わってしまうから」



ルビィ「……宇宙5分前創造仮説っていうの、善子ちゃんに借りた本にも出てきたよね」


ダイヤ「それはわたくしも聞いたことがあります。確か、平和の賞も受賞した、哲学者の説でしたか」

果南「どんな内容なの?」


ダイヤ「宇宙がもし5分前に生まれたとしても、誰にもそれを証明することは出来ないということでしたが……」


ルビィ「記憶≠濕記録]も、全部辻褄が合うように作られるんだったら。私たちが生まれてずっとやってきたことも、本当は全部錯覚で、本当に私たちが何かをやり遂げたって考えられるものはどこにもないんだって……」



果南「……だから、宇宙がもし5分前に生まれたとしても、誰にもそれを証明することは出来ないってことか……」



善子「そうね。……で、その根拠こそが、時間軸が世界に一つしかないことにあるのだとすれば、複数の世界さえ成立していれば、時間の変更は知覚できる」


434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:28:35.22 ID:jWyG/GcGO

鞠莉「……別の世界同士で、どこがどう違ったのか、比較ができるからね」


善子「そうよ。……そう考えれば、何で過去に戻ることを想定できてしまうのか、説明が出来る」



善子「……私達には、別の世界を。……可能世界と言ってもいい。とにかく、現実とは違う世界を想定する力がある」



果南「だから……現実には不可能なことも、考えられるって、ことなんだね……」


善子「そういうこと。タイムトラベルが想定できるのは、あくまで別の世界との比較が出来るようになるからってだけ」


善子「現実には、本当の意味で過去に戻るってことは、意味のない考えなのよ」



梨子「じゃあ、よく見るタイムマシンで過去に戻るってことは、実は……」



梨子「世界を、移動していることになるの……?」




千歌「・・・・・・」

435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:29:10.23 ID:jWyG/GcGO

善子「そうなるわね。だとすると、本当はタイムマシンって呼び方は正しくないって考えなきゃいけないわね」



善子「……さしずめ、ワールドマシンってところかしら?」



曜「世界を移動する、機械……」


花丸「世界……途方もない話ずら……」



梨子「……じゃあ、もし、世界に時間軸が複数あるのだとしたら?」


善子「現実においては、時間軸は一つしか存在しないとしか考えられないんだから、結局世界の中に複数世界が存在できる仕方で成り立っていると考えないといけないわね」


善子「そうね……たとえば、細部は違っても結局は一つの時間の流れでしかない、って考えが成り立つかもしれない」



梨子「……まるで。あの作品の、『世界線』、ね……」


善子「……よくわかるようになったじゃない」


梨子「私も……善子ちゃんに借りたからね」

436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:29:57.08 ID:jWyG/GcGO
ダイヤ「そこまでです」


ダイヤ「……。善子さんによって。少なくとも、〈未来〉から[過去]に遡ることは……かなり難しいと考えざるを得ないことがわかりました」


梨子「……っ」


善子「……難しい止まり、ね」



ダイヤ「《不可能》ではなく、難しいと言っているのは……最後の果南さんの質問で、一つの『可能性』が示唆されたからです」


ダイヤ「……すなわち、別の世界への移動であるなら、完全に《不可能》とは言い切れないということです」

善子「……。まあ、それに関しては異論はないわ」


鞠莉「でも、時間の移動ならともかく、別世界の移動に関する技術的な理論の話は……オカルトな話以外で、ほとんど耳にしたことはない」



花丸「……困難さは、より増したのかな……」

花丸「別の世界から来れたとしても、なんでそこまでして……っていう動機の部分もわからないし……」

437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:31:13.81 ID:jWyG/GcGO


鞠莉「……どうするの、梨子?」


梨子「……どうする、って?」



鞠莉「少なくとも、アンドロイドなんていう、技術の延長線上にあるかもしれない存在が世界を移動したというよりは、まだ[亡霊]のようなオカルトな存在が世界を移動したと考える方が『可能性』はありそうよ?」



梨子「………!」



鞠莉「そうすれば、諸々の不自然さは、ある意味クリア出来る。……まだ話題になっていない、動機の問題も解決できるかも知れない」


ダイヤ「……」



花丸「鞠莉ちゃんの話って、入れ替わろうとして入れ替わったんじゃなくて、何か想像もつかない事態が起きて、入れ替わってしまったと言えるってこと?」


鞠莉「そういうこと。これだったら、一気にカタがつくでしょ?」

438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:32:13.60 ID:jWyG/GcGO


曜「でも、梨子ちゃんは[亡霊]……ハオさんと、千歌ちゃん≠ェ入れ替わってるって言ってるんだよね……」


果南「梨子の考えだと、いつの間にか入れ替わってたは、通用しない……そういうことになるのかな」



梨子「……うぅ」



善子「それか……全ての不思議なことが、本当に偶然起こっただけだと考えるか」


梨子「全てが……偶然……?」



善子「もちろん、疑問の余地は沢山ある。でもその答えを出そうとして考えられたものにも、疑問を挟むことが出来る」


善子「そして、少なくとも千歌の入れ替わりだなんてことだけは、不自然なことの集まりだけで認められることじゃない」




善子「……さっきも言ったと思うけど。疑問の余地がある限り。その結論は認められないの」




梨子「くうっ……!」




439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:33:05.65 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「……梨子さんの考えが正しいとすれば、未来からアンドロイドが来ることによって、入れ替わりは成立するとのことでしたね」


梨子「……う、うん」


ダイヤ「入れ替わりの部分は、[証拠]もあったために梨子さんの考えを我々も持てますが……今しがた善子さんが示したように、その前提であるような過去に遡る部分に関しては、疑いを持たねばなりません」


善子「……トーゼン、ね」



ダイヤ「しかし……。これで引き下がれない。そんな、気もしている……」


善子「…………」


ダイヤ「あと一歩。カンペキに、判断を下せる何かがあれば、良いのですが……」


果南「困ったね……」


ルビィ「……じゃあ、私たち、どうすればいいの?」



ルビィ「もう判断が出来ないんだったら……結局、千歌ちゃん≠ヨの疑いだけが残って、終わっちゃうんじゃないの……?」



曜「………っ」


花丸「それは……そうだけど……!」


鞠莉「…………」


善子「…………ぅ」


果南「く…………」


梨子「……」

440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:33:54.20 ID:jWyG/GcGO



梨子(皆、このまま終わることを、よしとしていない……)


梨子(こんな気持ちを引きずったまま、明日もスクールアイドルで、仲間で……Aqoursでいることは出来ない。そう思ってるからなんだろうか)


梨子(でも、どうずれば……)


梨子(どうすれば、この壁を壊せるというの……!?)


梨子(……なら。やっぱり、今日のところは、ここで終わるしか……)





千歌「ちょっと待って」





梨子(……!ちか、ちゃん……!?)






千歌「・・・・・・」





441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:34:35.68 ID:jWyG/GcGO


ダイヤ「……ち、千歌さん。一体、何を……?」



千歌「・・・・・・。鞠莉ちゃんのお陰で。……疑問の余地を消すことが出来るって、思い付けたんだよ」



鞠莉「え、わ、わたし……?」



ルビィ「……千歌ちゃん=c…?お陰って。その、鞠莉ちゃんのお陰って、どういうこと?」


千歌「・・・仲間の言っていることを、ただ否定するんじゃなく。理解して、受け入れた上で。でももしそれを受け入れると、こういう反論があり得る、って形で、皆……さっきだと果南ちゃん、曜ちゃん、善子ちゃんが話していたけど」


千歌「私も。そのやり方で、私自身の疑いを、晴らすことが出来る・・・」


千歌「そして、そのきっかけは鞠莉ちゃんの一言だったって」


千歌「そう思ったって、ことだよ」



ルビィ「!」

442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:35:29.70 ID:jWyG/GcGO


千歌「鞠莉ちゃんの言葉は。もっと広げれば、どんな存在だったらどんなことが出来るのか・・・ってことを、問題にしているとも、考えられると思うんだ」


千歌「それを踏まえた上で、アンドロイドのことを考えると・・・・・・・」



千歌「・・・・・・私への疑いの前提。その全部を、もし受け入れたとしたら。受け入れたとしても、説明できない疑問が出ちゃうんだよ」



梨子「……!」



花丸「具体的には……どういうこと?」




千歌「・・・・・・。簡単な話だよ。皆は、覚えてる?」



千歌「部室での・・・・・・鞠莉ちゃんの話」


443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:36:08.55 ID:jWyG/GcGO

果南「鞠莉の……?」



千歌「うん。・・・チューリングテストの、話だよ・・・・・・」



鞠莉「……!」


梨子「……AIと、人間の……?」




千歌「・・・・・・。うん。そこで、鞠莉ちゃんは言ってたよね?」



千歌「・・・AIは、『不自然過ぎるほど、自然』だって」



善子「!!」


444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:36:49.12 ID:jWyG/GcGO


鞠莉「……言った。……言ったよ」




千歌「・・・・・・。逆に。人間の方こそ、不自然だって思わせないほど、自然で……。機械のイメージと同じやり取りを、不自然かもしれないけど、人間の方こそやってしまうって」




曜「……!!」


ダイヤ「……っ!」




梨子「……そ。それじゃあ……」




千歌「・・・。解ったみたいだね」


445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:37:30.07 ID:jWyG/GcGO


千歌「つまり。・・・・・・もし、私がアンドロイドだったとしたら。当然、その思考は・・・AIによって生まれるはずなの」



千歌「でも。もし、AIだったら・・・不自然さを残すはずがない」




千歌「・・・・・・。カンペキに、入れ替わることができるはずなんだよ」




梨子「……!!」




千歌「でも、現実には不自然なことが起こってる。アンドロイドなら、パラメーターを変えられる存在なら。・・・入れ替わってるってことすら、誰にも知られずにできるはずなのにね」




千歌「・・・・・・これって、おかしくない?」


千歌「何で、気付かれるようなことをするの?何で、不自然なことをするの?」


千歌「アンドロイドなら、そんなことをしないはずだよね?入れ替わりを目的としているアンドロイドなら、そんなことするはずがないよね?」




梨子「ぐ。……ぐっ・・・…!」


446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:38:23.30 ID:jWyG/GcGO


千歌「・・・・・・。アンドロイドなら、入れ替わりは出来る。それは、その通りだと思うよ」



千歌「未来から来れるような技術があったとして。そんな技術が進んだ世界なら、アンドロイド・・・・・・それも、パラメーターを変えられるアンドロイドも、生み出せるかもしれない」



千歌「しかも記憶すら、パラメーターに出来るアンドロイドが作り出せるなら。もし、人間と入れ替わったとしても、誰にも気付かれない」



千歌「だって、全てのパラメーターを変えられるなら、何にでも。・・・・・・誰にでも、なれるんだからね」




花丸「何にでも……」


善子「誰に、でも……」





千歌「でも。だからこそ、おかしいの」




千歌「そんな存在が、不自然なことをするなんてこと。・・・入れ替わりをしたなんてこと、気付かれるはずがないんだから!」





千歌「つまり・・・不自然なことをやってることこそが、アンドロイドであるはずがないってことを証明しているんだよ!」



梨子「…………う」










梨子「うわああああぁぁぁぁ!!」






447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:39:26.67 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「……た。確かに……!」


ダイヤ「梨子さんの言う、入れ替わり。それは、もしパラメーターを変えられる存在があったとすれば。……アンドロイドが存在するとしたらと考えればこそ、成り立つものでした……!」


ダイヤ「しかし……。そもそも、そんな存在は、入れ替わりを感づかせるはずがない……!」



曜『でもさ、もし本当に自由に姿や性格を変えられるんだったらもうそれって見分けがつかないよね』


善子『そうよ!知らず知らずの内に人間は入れ替わっているのよ!』



曜「私達……話したもんね」


善子「……そう、ね」




花丸「もし本当にアンドロイドが人間に成りすますとしたら人間離れした行為は起こさない」


鞠莉「……完璧にパラメーターを人間に合わせるはず。……パラメーターを、変更できるのなら……」


ルビィ「アンドロイドだって考えた時点で。矛盾が、出ちゃうんだ……!」



448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:40:53.01 ID:jWyG/GcGO




梨子「………」




ダイヤ「…………梨子さん」


梨子「ダイヤ、さん……」



ダイヤ「まだ、反論がありますか……?」



梨子「……」



ダイヤ「……。もう、無いはずです」




ダイヤ「意固地になる理由……追求すべき疑問……。それらは、もうない」


ダイヤ「全て、明らかになったように思います」



ダイヤ「だから。これで……終わりで……」








梨子「……」


梨子「……(これで、終わり……)」



梨子「………(本当の、終わり?………)」




梨子「………(違う!)」





449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:42:08.53 ID:jWyG/GcGO


梨子「まだ、考えなきゃいけないことがある……!」




梨子「そう、思うの!……ダイヤちゃん!!」




ダイヤ「……!!」




鞠莉「……何を言っているの!もう、全てわかったじゃない!!」


鞠莉「千歌は、千歌の言う通り、千歌の入れ替わりなんてなかったって!!」



梨子「……うん。そうかもしれないね」


鞠莉「……!」



梨子「だから、その話はこれでおしまい。……千歌ちゃんの入れ替わりの話は、おしまい」



梨子「でも。まだ、おしまいにできないことが、あるでしょ……?」


450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:42:53.74 ID:jWyG/GcGO


果南「な、何……?」



善子「梨子……!何を、言うつもり……?」



梨子「……私達は。千歌ちゃんを信じるために、話してきた」




梨子「でも。……それ以上に!!」





梨子「私達は!真実を追求したいはずよ!」



曜「………!!」










千歌「・・・・・・ふふっ」







451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:44:00.72 ID:jWyG/GcGO



ダイヤ「……。では、何を考える必要があると……?」



ダイヤ「既に、言葉は尽くされました。……Aqoursの、全ての言葉が真実だとするなら」




ダイヤ「梨子さんが導き出す真実とは……!一体、何だというのですか……!?」




梨子「……」






梨子(今までの、皆の……Aqoursの、話。……私も含めて……。その全てが、正しかったとしたら)


梨子(まだないはずのアクセサリーが、なぜか今≠るってこと。葉百さんが弾いたピアノの音が、機械のように精確だったって言うこと)


梨子(過去に遡れないっていうこと。……アンドロイドだったら、不自然な痕跡を残すはずがないっていうこと)



梨子(全てを最初から考えてみよう……!)



452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:47:52.27 ID:jWyG/GcGO


梨子(〈未来〉から[過去]へ遡れるか……)



梨子(これは、あり得ない。……善子ちゃんが証明した通り、《不可能》だと思う……)



梨子(入れ替わりも……出来ない。体格が同じでないと、記憶が同じでないと、決して成功しない)



梨子(もし、入れ替わりが成立するとしたら……。体格も、記憶も、同じにしないといけない……)


梨子(でも、そんな存在は、そもそも入れ替わりを感づかれること自体があり得ない)



梨子(私が考えた、アンドロイドならっていうこと。それは……成り立たない)


梨子(鞠莉ちゃんも言っていたように。……アンドロイド……AIは、不自然過ぎるほど、自然に振舞うことが出来るから……)




453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:48:21.99 ID:jWyG/GcGO



鞠莉『AIってね、人間がやりそうな不自然というか、合理的じゃないことをカンペキに再現できるのよ」


鞠莉「ああ、人間じゃなかったらこんなことやらないだろうなーって、コンピューターだったらそんな無駄なことしないだろうなーって常識を逆手に取ってるのかもしれないけど』


鞠莉『人間の方が、よっぽどコンピューターみたいに合理的なことを言ってることもあるみたいよ』


鞠莉『AIは。不自然過ぎるほどに、人間にとって自然な行動をとれちゃう、ともいえるわね』


鞠莉『案外、人間の方が自然に不自然なことをやっちゃうのかもね』






梨子(………あれ)






梨子(……人間の方が。人間だからこそ、不自然な行動を起こしてしまうとしたら………?)





梨子「…………」




454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:49:12.71 ID:jWyG/GcGO



梨子(……。もう一つ、気になることがある。それは、あのペンダントのこと)



梨子(ルビィちゃんが今″っているはずのアクセサリーが写っている、あのペンダント。あのアクセサリー自体は、既成の物……?)


梨子(それに……技術的にも、多分量産されていないようなペンダントを、一体どこで手に入れられるんだろう……?)


梨子(いや……どこで手に入れられるかはこの際問題じゃない。鞠莉ちゃんが見ている以上、どこかで手に入れること自体は出来る)



梨子(問題はむしろ……千歌ちゃん≠ェ《いつ》、ペンダントを手に入れたのか)




梨子(……時間を遡れないと考える以上。[過去]のある時点で手に入れたと考えるしか、ない)


梨子(なら……そこに写る写真も、過去の光景を撮影したもののはず……)



梨子(………そうすると。私は、[過去]に存在しているはずのアクセサリーが。なぜか、〈未来〉にしかあり得ないと、カン違いをしていたことになるの……?)




梨子(じゃあ、そもそも何でそんなカン違いを。私は……私たちは、しちゃったんだろう……)



455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:49:48.97 ID:jWyG/GcGO


梨子(……理由は、客観的に考えればシンプルだ。その時点で、『桜内梨子』と『黒澤ルビィ』しか知らないはずのものが、写真にあったからだ……)



梨子(でも……。その時点って、《いつ》の時点なの……?)


梨子(その時点が、一つしかないなら。写真だって、しいたけちゃんにアクセサリーをプレゼントしたその瞬間の物しか、ないはず……)











梨子(一つしか、ないなら……)







梨子(一つしか、ないなら……!?)




456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:50:36.09 ID:jWyG/GcGO



梨子(一つしかないが、私達を縛っているとしたら。……一つしかないを、やめれば)




梨子(複数あった可能性を、考えれば……!)






梨子(……も、もしも。『その』時点が複数あったとしたら……話は、成り立ってしまう……!)






梨子「……ぁ」







梨子(もしも……もしも!……[過去]とそっくりな、《未来》があったとしたら。……[過去]の模倣をしているだけの、《未来》があったとしたら……!)




梨子(……1人だけ。その模倣をカンペキには再現できない人がいたら……!)









梨子「………ぁあ……!」





457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:51:34.65 ID:jWyG/GcGO

梨子(……舞台に立つって。何度も立つって、すごくタイヘンなこと)



梨子(重要な場面で、1人でも崩れちゃうと……。連鎖的に、皆も崩れちゃう)



梨子(……もし、それが。心の支えになってる人だったら……なおさら……)




梨子(………。崩れ、ちゃう……)








梨子「……ぁぁあ!ぁあぁあ!」






458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:52:03.23 ID:jWyG/GcGO



梨子(……1人だけ。セリフが、飛んじゃって。間違って、シナリオを先取りしちゃって。これまでのお話が、辻褄の合わないような形になってしまって……)


梨子(誰もが、毎回同じことを……。多少のアドリブがあっても、本筋ではいつも同じことを演じられれば。観る人を満足させられるのに……)



梨子(でも、人間は、そうじゃない。いつだって、同じことを出来るわけじゃない……!)




梨子(……っ。……いつでも、同じことを精確に出来るのは)





梨子(同じことが出来るのは……!)











梨子(……機械の、方)



459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:53:32.78 ID:jWyG/GcGO








梨子(……)






梨子(……そうだ……)




梨子(簡単なコト、だったんだ……)




梨子(全ての言葉が正しいとすれば。全てが、成り立つのは)



梨子(………全ては……)


梨子「……全ては」



460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:54:04.56 ID:jWyG/GcGO
















梨子「《逆》……だったん、だね……」














461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:55:00.08 ID:jWyG/GcGO



ダイヤ「……りこ、さん?」



曜「逆って……どういうこと……?」





梨子「……過去から未来には戻れない。でも、未来にしかあり得ないって、考えてしまう条件」




果南「……りこ?」




梨子「……既に、過去にあったのに。未来にしかあり得ないって思っちゃうのは……」




鞠莉「り。りこ……。何を、言おうとしているの……?」




梨子「千歌ちゃん≠セけが不自然で。……まるで、〈未来〉に生きているようで」





ルビィ「……りこちゃん……。まさか……」



462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:55:28.35 ID:jWyG/GcGO





梨子「私たちは自然で。[過去]もちゃんと持ってて……」





花丸「りこ……ちゃん……」





梨子「でも、本当はどっちなんだろう。……そう、考えたらね」





曜「……!」







善子「り、りこ……!」





463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:56:21.24 ID:jWyG/GcGO


梨子「皆の言葉。その全てが、正しいとしたら」



梨子「私達は……千歌ちゃん∴ネ外の、Aqoursは………!!」



梨子「わ、わたしたちは。……私たちは……!!」







梨子「私たちは、人間じゃない!!!」





鞠莉「………そんなっ!!」

曜「……!!」

果南「……っ!!」

花丸「……いや……!!」

ルビィ「……!」





梨子「私たちは!……人間じゃないの!!……私たち、こそが……!!」











梨子「アンドロイドなのよ…………!!!」














善子「……………っ!………っ!!」


千歌「・・・・・・。・・・・・・・・・」


464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:57:18.82 ID:jWyG/GcGO

梨子「……全ての言葉が。Aqoursの皆の全てが、正しかったとしたら」


梨子「未来の存在は、考えられない。だから、一見未来のように思えるものも、過去に存在していないと考えなきゃならない」



善子「……」



梨子「なら、ペンダントに残された写真。それは、過去に残されたものじゃなきゃいけない」


梨子「でも、写っている内容は……未来のもの」


梨子「……今″られているもの、今♀ョ成していないものが、写っているから……」



曜「……」



梨子「……ここで。……どっちが本当なのかって問いを立てることが出来る」


梨子「………。答えは簡単だよね。本当に未来にあるはずのものなら、ここにあるわけがない」


梨子「未来にしかないと考えたら、そんなもの手に入るはずがないけど」


梨子「過去にあるから。手に入れることが出来る……」


梨子「明らかに、このペンダントは過去にあったはずのもの」



花丸「……」


465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:58:28.26 ID:jWyG/GcGO


梨子「じゃあ、何で過去にあったはずのものを、未来のものだと考えてしまったのか?」


梨子「この、ペンダント。……なんで、その中の写真を、未来にあるとしか思えなかったのか……」


梨子「つまり。……一番の謎は、今≠るはずのないものが、ここになぜかあるってこと」


梨子「じゃあ。今≠るはずがないと言い切れるのは、誰≠ネんだろう……?」



ルビィ「……」



梨子「作っている当人達にしかあり得ない、よね」


梨子「しかも、オリジナルのデザインで作っているとなれば……。その存在が、複数存在するなんてあり得ないって、断言できる」


梨子「でも。……写真という[記録]があった以上。それは、間違い。……カン違い、錯覚のはず」


梨子「……重要なのは。錯覚でなくすためには、何が必要なのかじゃなくて、錯覚が起きている以上、その理由があるということ。錯覚が起こるしかないとしたら、どんな条件が考えられるのかということ」


梨子「……どうやったら既に[記録]も残っているものを、自分が作っている最中の物だと。〈未来〉に存在するはずのものだと、思ってしまうのか」




梨子「……忘れることによって、だよね」




鞠莉「……」




梨子「でも……。どんなに似ているものであっても、オリジナルで作ろうとする限り、同じものは作れない……」


梨子「……それこそ、機械でもない限り」


梨子「それに、このアクセサリーには意味がある。……私の意図した”文字”が彫られている」


梨子「意味のあるものを、作ることにおいて。……似るものが出来てしまうことはあっても、同じものを作ることは、やっぱり不自然なの」




果南「……」


466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:59:10.96 ID:jWyG/GcGO


梨子「………ところで。そもそも、そのペンダント自体も、この世に一つしか存在しないものだったはず」




千歌「・・・・・・」




梨子「……技術的な問題を乗り越えたとしたら、ペンダントがこの世に一つしかないというのは、オーダーメイドであるという意味になるはず」


梨子「全ての話が正しいとしたら。……葉百さんの、千歌ちゃん≠フ話が正しいとしたら」


梨子「ここに、たった一つのものが、あることになる」


梨子「……たった一つの、ペンダント。そこに写る、真実。……意味のあるはずのそれを、自身のオリジナルだと思ってしまうのは……」


梨子「自分の、オリジナルだと。[過去]に存在したものではないと、思ってしまう存在は」


梨子「自分の記憶≠、忘れることが出来て。……その上で、フリじゃなくて、本当に過去の自分そのままに振舞える存在」


梨子「……記憶≠焉A性格も、全て自由に変更できる存在にしか出来ない。じゃないと、齟齬がおきてしまう」



ダイヤ「………っ!」



梨子「記憶≠焉A性格も。パラメーターとして、変えられる存在」





梨子「…………アンドロイドなら、それが出来る」




曜「……!」



467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:01:32.68 ID:jWyG/GcGO



果南「……一個。聴いても、いい?」



梨子「果南ちゃん……?」



果南「私らがアンドロイドなら。……当然、すごい技術の力で生み出されたものなわけだよね?」



梨子「………そう、だね」



果南「じゃあさ。……何で、そんな私たちを生む力があるのに、なんで街並みは田舎のまんまなの?」



梨子「……」



果南「……モチロン、ハイテクになったら、街並みもある程度、自由に出来るかもしれないよね」


果南「……でも、それを変えた[記録]がなんで残らないの?……[記録]が少しでも残れば、記憶≠熄o来ちゃうよ?」


果南「[記録]は、ある程度は消せるかもしれないよ。でも、記憶≠ヘ、人によってマチマチでしょ」


果南「……それに。記憶≠もし、消せたとしても……その消したってこと自体が、痕跡を残すんだよね」




468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:02:30.06 ID:jWyG/GcGO


梨子「……記憶≠ヘ、確かに、変えたら痕跡が出る。……全ての人の記憶を変えようと考えたとしても、そんなことは出来ない」


梨子「……だからこそ、なの。だから、アンドロイドの話が出てくるんだよ」


果南「……記憶≠ヘ、消せないから……?」



梨子「そうだよ。でも、パラメーターとして残っているものなら。……[記録]なら、変えられる」


梨子「一つの齟齬もなく、変えることが出来てしまうの……!」



梨子「……未来の技術。未来の、アンドロイドなら、入れ替わりはできる」



梨子「……[過去]の、模倣だって……出来る」


梨子「それこそ……不自然なほど、自然に……」



鞠莉「………っ!」




469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:04:03.41 ID:jWyG/GcGO



梨子「過去の模倣が出来るなら。……今ここにいる私たちが、過去のマネをしている存在だって、否定することはできない」



ダイヤ「だけど。……そんなこと、あり得ない!」



梨子「……そう、あり得ない。……[証拠]が、あるはずがないから……」




梨子「でも………。見つけてしまった」



善子「……っっ!」




470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:05:06.90 ID:jWyG/GcGO



梨子「……今≠特別視するのをやめて。……[過去]にあったことを、ちゃんと受け入れれば」



梨子「……私達は。[証拠]の意味を、ちゃんと理解することが出来る……」



梨子「あの写真。……葉百さんと、しいたけちゃんが写っている写真」



梨子「これが、過去に撮られたものだとしたら…………!」



梨子「……生き別れの姉妹だって。その2人が写っているんだって、千歌ちゃん≠フ言う通りに考えれば……」



梨子「この写真は、成長した千歌ちゃんと。その家族のしいたけちゃんが写っているものだって、考えられる……!」






千歌「・・・・・・」




471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:05:51.02 ID:jWyG/GcGO


ダイヤ「……やめて」




梨子「もし。『桜内梨子』が、『ある時点』では知る由もないことを、知ってしまったら」



梨子「……『ある時点』。『桜内梨子』。この二つには、ある前提がある」



梨子「………同じ時は。同じ人間は。あり得ないっていう、前提が……」




曜「りこ、ちゃん……」



472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:06:25.56 ID:jWyG/GcGO



梨子「でも。……同じ時も、同じ人間も。……同じ、存在も」



梨子「実現できてしまうと、したら……?」



梨子「……〈未来〉を問題にしたのは。同じ時間なんて、あり得ないから」



梨子「でももし、[過去]に遡れる技術があったら。……もし、そこで……[過去]にはなかったことが、起きたら」




花丸「……」




梨子「同じ時間があり得て。……こんな疑問が、ありえちゃうよね……」


473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:07:00.07 ID:jWyG/GcGO



果南「………」





梨子「違和感を持っちゃうよね。………けど」



梨子「善子ちゃんが言ったように。それは、時間の違いじゃない。世界の違い」



梨子「二つの世界を比べて、こっちの世界ではこういうことが起きたとか……」



梨子「……それこそ、未来でしか起きないって思ってしまったから」



梨子「でも。……これも善子ちゃんの言った通りだけど、過去になんて、絶対にいけない」



梨子「だったら。……同じ世界を、比べるためには。……未来の世界と比べることが出来ないのなら」



梨子「過去の世界で、同じことをしている、してしまっている存在が必要になる……!」



474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:07:42.64 ID:jWyG/GcGO



ダイヤ「…………いやっ!」







梨子「……『桜内梨子』が。『渡辺曜』が。」



梨子「『黒澤ダイヤ』が。……『黒澤ルビィ』が、『松浦果南』が。『国木田花丸』が。」



梨子「……『小原鞠莉』も。『津島善子』も」




梨子「オリジナルが、あったとしたら……?」




梨子「………。皆、オリジナルを真似しているんだとしたら……?」




梨子「そして……それをカンペキに模倣できる、存在があったとしたら……」




475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:08:45.64 ID:jWyG/GcGO


ルビィ「アンドロイドなら……出来るっていうこと……!?」



ダイヤ「じゃ、じゃあ!……千歌さん≠ヘ、何なんですか!?」



ダイヤ「入れ替わることが出来るのはアンドロイドだけだとしたら。そもそも千歌さん≠ェ疑われることはなかったはずです……!」



ダイヤ「パラメーターを変えられる……それこそが、アンドロイドの特徴」



ダイヤ「しかし、人間だとしたら。そんなことは出来ない……!」



ダイヤ「全ての話、主張が正しいのなら。りこさんの示してきた、……千歌さん≠ェ、人間には、不可能なことを行っているということ。それが、あり得ないことになります」



ダイヤ「破綻しているんです。……入れ替わっているのがわたくし達の方なら。なぜ、[亡霊]と千歌さん≠ェ、結び付けられるのでしょう……?」





梨子「……見方を変えれば。パラメーターを変えられて。しかも、アンドロイドのようには、出来ない……カンペキに同じようには振舞えない存在」



梨子「その存在が、あればいいってことだよね」



ダイヤ「………!で、では。……アンドロイドでないとして、何だというのです!?」









梨子「……。サイボーグだと、思う」



ダイヤ「……!?」

476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:09:41.74 ID:jWyG/GcGO



鞠莉「サイボーグ……。元は、人間で……機械になった、存在……」



梨子「……元々人間だったのを改造したのが、サイボーグだとしたら。……入れ替わりの考え方も、変わる」



梨子「アンドロイドなら、ボロは出ない。……人間だから、ボロが出る」



梨子「……元は人間の、サイボーグなら。機械の特徴があるから、色んなパラメーターを変えることが出来るかもしれない」



梨子「でも、アンドロイドと違って。……人間だからこそ、カンペキなマネが出来ないことも、考えられる……」





ダイヤ「……いやぁっ……!」



477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:10:23.74 ID:jWyG/GcGO



花丸「千歌ちゃん≠ェ、ハオさんと入れ替えられるのは。……千歌ちゃん≠ェ、サイボーグだったから……」




果南「………じゃあ、千歌≠ヘ。……」



果南「ずっとずっと、生きてきて。機械の体になっても、生きてきて」



果南「一度、経験した時を。……また、繰り返しているっていうの……!?」








千歌「・・・・・・・・・」








曜「………そんな」



478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:11:06.49 ID:jWyG/GcGO


梨子「……今℃vえば。……私が、最初に葉百さんに会った時。葉百さんの反応は、不自然だった」



ダイヤ「ふ、不自然……?」





『え。……え?……なんで、〈あなた〉が……』





梨子「……すごく、驚いていたの」



梨子「………まるで。いないはずのものを。[亡霊]を、見たかのように……!」





曜「いないはずのものを……」







千歌「・・・・・・」





479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:11:48.61 ID:jWyG/GcGO


ルビィ「前に、いなくなったはずのものが目の前にいたら。……ビックリ、しちゃう」



梨子「……そう」




梨子「その、ビックリを、私は、見ているの……!」



鞠莉「……な」



善子「な……!」



花丸「なんずらぁーーーーーー!!?」




480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:12:38.37 ID:jWyG/GcGO




ダイヤ「………認められませんわ」




梨子「……ダイヤ、ちゃん?」




ダイヤ「何を!根拠に!……そんなことが、言えるっていうの!?」



梨子「……!」



ダイヤ「わたくしたちがアンドロイド?……なんで?なんでなの!?」







ダイヤ「……ぶっぶーよ」



ルビィ「おねぇちゃん……」



ダイヤ「……そうよ!…………ブッブーですわ!」



梨子「………っ」




481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:13:28.36 ID:jWyG/GcGO



ダイヤ「……ぶっぶーなんです。……貴女の今の言葉。信じることはできないの!」



ダイヤ「確かに、全ての言葉が正しいとして。……わたくしたちがアンドロイドなら、町もコピーなら、そのオクソクも成り立つ」



ダイヤ「しかし!そんなことを言ったら、何もかも成り立つに決まっている!!」



ダイヤ「……語られていないのは、オリジナルを模倣しているという理由。たとえ、時間や技術の問題が解決しようとも。……そもそも、オリジナルを、真似しているという証拠なんてない!」




ダイヤ「理由を。……根拠を。……わたくしたちは、聞いてないんだから!」




ダイヤ「だから……。そこまで言うのなら、示して見せなさい!!」






梨子「………」





鞠莉「そんな、[証拠]。……あるはず、ない……」




482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:14:42.46 ID:jWyG/GcGO



梨子「………。わかった」



ダイヤ「………!」



鞠莉「…………!」



善子「し、示せるっていうの?……どうして、私達≠ェ、[私達]を真似しているのか、示す根拠を……!」




梨子「…………」







梨子(一つだけ。……『何でかは分からないけど、でもそこにあるのが当然』のように、思ってしまうものがあった)




梨子(それが。……それこそが、間違いだったんだ……!)





483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:16:48.19 ID:jWyG/GcGO



梨子「……私達に、オリジナルがいる。……私達も、千歌ちゃん≠煌ワめて、それを真似していると言えるのは」



梨子「……カンペキに真似しているんだとしたら、決してわからないはず。……でも」



梨子「真似をミスする存在の『可能性』がある以上。……そのミスこそが、真実の痕跡を、残す……」



ダイヤ「………ミス?」



梨子「……。一つだけ。……どうしても、意味の解らないものがあった」




梨子「間違えていないのに。ミスなんてしていないのに。……ミスに。《逆》になってしまっていたものが……!」




484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:17:25.19 ID:jWyG/GcGO


曜「……!」



梨子「一つだけ。説明がつかないものが、あるの……!」



梨子「でも。……私達が、[過去]を真似している。……そう考えれば、そう考えた時に、初めて説明がつく証拠がある……!」



花丸「……な。なに……?」





梨子「私達が、何者なのか。……全てを示している、ものよ」




ルビィ「全てを……?」




梨子「私達が、いつも。……必ず、目にしているもの・……!」



485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:18:11.11 ID:jWyG/GcGO



梨子『(Aqoursの練習が終わって。何故だか訂正の線が自然に思えてしまう、『スクールアイドル部』のプレートが掲げられた部屋の中で)』



梨子『(……今日も、何故か斜線を入れられている、スクールアイドル部≠フ文字を目にしてから、私は部室に入った)』



梨子『(スクールアイドル部≠フ文字。……なぜかわからないけど、[部]のところに、斜線が引かれている)』



梨子『(でも、斜線が引かれていることこそ、あるべき姿だって、安心して。私は部室の扉を開くんだよね)』









梨子「……[スクールアイドル部]の文字。……なんで、部≠フところに、斜線が引かれているのかな……?」





千歌「・・・・・・・・・・・・!!」



486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:18:58.52 ID:jWyG/GcGO



梨子「……この文字は。……間違えてなんか、いなかった」



梨子「単なる千歌ちゃんのこだわりで、取り消し線が引いてあったのかなって思っていたんだけど。……もし、ミスをしたのなら?」



梨子「……そう。ちゃんと、書いてしまうということが、ミスだったとしたら……?」




ダイヤ「な……!」



梨子「普通。……ちゃんと、決まっている文字を書いたなら。……そこに取り消し線を引くなんて、あり得ない」



梨子「だったら。……何か、取り消し線を引かなきゃいけない理由があったはずなの!」




千歌「・・・・・・」




花丸「じゃ、じゃあ。どんな理由があるの……?」





梨子「例えば。……それこそ、《逆》だった、とか」



千歌「・・・・・・!!」



曜「ぎゃ。《逆》……?」

487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:19:48.46 ID:jWyG/GcGO



梨子「千歌ちゃん≠ェ。『スクールアイドル部』の文字を書いた時。……『部』っていう字の、部首が……逆だったとしたら?」



善子「……!」



梨子「消す、理由になるよね。……でも!」



梨子「私たちの見ているスクールアイドル部≠フ文字は、そうなっていない!」



梨子「ちゃんと、《部》の文字は、書かれている……!!」



梨子「じゃあ、何で。……その文字に、取り消し線が引かれているの……?」



梨子「そして。……なんで、それを自然なものだって、思ってしまうの……?」




果南「な。……なん、で……?」



488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:20:21.98 ID:jWyG/GcGO


梨子「……千歌ちゃん≠ヘ。葉百さんの姿で。……私と会った、そのすぐ後に、入れ替わったことになるはず」



梨子「急に、入れ替わることを決めたら。……ミスだって、してしまうかもしれない」



千歌「・・・・・・」



梨子「確かに、千歌ちゃん≠ヘ不自然なことをしていた。……”人間には出来ないこと”を」





梨子「人間には、《不可能》なことを。……色んな人を、助けるために……!」





善子「…………」



ルビィ「…………」

489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:21:00.53 ID:jWyG/GcGO


梨子「だから、目を向けられなかった。……”人間だからこそ”してしまうことに」




梨子「全てを再現してしまうアンドロイドには、《不可能》なこと。……”人間だからこそ”、やってしまう、『可能』なこと!」




梨子「入れ替わろうとして!全てを再現しようとして!……でも、間違えてしまうこと!!」




梨子「正しく『スクールアイドル部』の”文字”を書いてしまったことこそが!間違いのない”文字”を書いてしまったことこそが!」






梨子「千歌ちゃん≠フ、最初の。……そして最大の、ミスだった……!」









千歌「・・・・・・・・・・・・ぅ」



490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:21:50.40 ID:jWyG/GcGO

梨子「答えて!千歌ちゃん=I!」


梨子「どうして、間違えていない《部》の文字を、書き換えたのか!!」


梨子「そうしないといけなかった理由。……それが、あるんなら」



梨子「………[昔]。やったことを、真似するために、っていう以外に」



梨子「私たちが、なぜか、斜線を見て、安心してしまうってこと以外に、根拠があるなら」





梨子「理由があるのなら。……教えて欲しい!」




491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:22:31.46 ID:jWyG/GcGO







千歌「・・・・・・ないよ」

















千歌「なんにも・・・・・・ない」







492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:23:27.18 ID:jWyG/GcGO


梨子「………千歌ちゃん=I!」



果南「じゃ、じゃあ……これが、真実……?」



ダイヤ「……わたくしたちが、アンドロイドであるということ。……人間の、模倣をしているということ……」



善子「そんな……」



梨子「………」








千歌「・・・まだだよ」






梨子「……千歌ちゃん?」



493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:24:13.91 ID:jWyG/GcGO



千歌「ふふっ。・・・・・・みんな、すごい想像力だよね」



千歌「今度歌詞書く時、手伝って欲しいくらいだよ」




ルビィ「そ、想像……?」


千歌「そうだよ。……だって、そうでしょ?」



千歌「皆が、誰かを真似している?それも、過去にいた誰かを?」



千歌「しかも、人間じゃない?・・・・・・そして、私は、この中で一人だけ、人間?」



千歌「今示されたのは、やっぱり、どこまでいっても『可能性』の話でしかない」



千歌「全てを再現してしまうアンドロイドなら、《文字》が違うことも、許さないことになるんじゃないの?」



千歌「取り消し線がオリジナルにとって自然なものだったとしても。アンドロイドは、取り消し線にだけ注目して、なんとなく安心なんて出来るものなのかな?」




千歌「・・・・・・どこにも。決定的な[証拠]がないよね」



梨子「………っ!」


494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:25:00.24 ID:jWyG/GcGO


曜「……今まで、話してきたことは、全て間違いだっていうの?」



曜「……千歌ちゃん、言っていたじゃん……!」




千歌『そうだね。・・・花丸ちゃんの言った通り。ただ心の中の記憶や考えだけじゃ、誰もが、いつでも納得できる真実を示すことは出来ないと思う。でも』


千歌『・・・・・・でも、私たちに必要なのはそうじゃない。私たちは、私たちが納得できる道筋が欲しいだけ』


千歌『・・・・・・。だったら。いつもと、同じでしょ?これは裁判でもなんでもない。ただ、全力で目の前の問題に立ち向かっているだけ』


千歌『だったら。・・・自分たちなりに、言葉を尽くせば、いいんじゃないのかな』






千歌「・・・・・・」






曜「今更……決定的な[証拠]を持ち出すだなんて」



曜「言葉を尽くして、納得を求めて……辿り着いた先なのに!」




千歌「・・・・・・。だって。私が納得出来てないもん」





曜「…………!」

495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:26:38.81 ID:jWyG/GcGO



千歌「私だって、Aqoursだよ。・・・・・・その一人が、納得できていないんだよ」



千歌「皆は、納得しているかもしれない。でも、ここまで壮大な話で、一個の[証拠]もないまま、納得なんて出来ない」



曜「で、でも……!梨子ちゃんは……!!」




千歌「・・・・・・梨子ちゃんの示してきたものは。確かに、説明にはなってるかもしれないよね」




千歌「・・・・・・でも、それは。・・・・・・最初から、梨子ちゃんの仮説を受け入れた場合だけ」





曜「……!!」



千歌「梨子ちゃんの考えが、正しいとしたら。その考えを説明してるかのような、解釈が出来るものがあった」



千歌「でも、それだけだよ。[証拠]って言えるほどのものじゃない。・・・・・・根本的に、正しいと証明するものは何もない」



梨子「………」




千歌「時間そのものが、世界そのものが、・・・・・・私たちそのものが、違う。・・・・・・そんなことを言うためには」



千歌「それを示す、一番強いもの。誰もが認められるという意味での、[証拠]が、必要なんだよ」



花丸「で。でも。……そんな、もの……」





千歌「・・・・・・ないよね。どこにも・・・・・・一個も・・・・・・」





梨子「…………」



千歌「皆は、納得しちゃったみたいだけど。・・・・・・《スクールアイドル部》なんて、証拠にならないんだよ」



ダイヤ「…………」


496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:27:20.26 ID:jWyG/GcGO


善子「……千歌。じゃあ、貴女はどうなの?」



梨子「……善子ちゃん?」




千歌「・・・・・・。どう、って?」



善子「少なくとも、貴女には疑いを持ってしまっている。……信じたくない、疑いを」




千歌「・・・・・・」




善子「それを、跳ね返すような[証拠]。……貴女は、示さないの?」



鞠莉「………善子」



善子「…………私は、千歌に。……貴女に、それを示してほしい……!」




千歌「・・・・・・その必要は、ないんだよ」





善子「!!」


497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:27:59.43 ID:jWyG/GcGO


曜「ひ、必要ないって。……どういうことなの!?」



千歌「だって、もし梨子ちゃんの言った通りだったとしたら。皆は、[記録]を自由に変えられる存在なんだよね?」



ルビィ「……!」




千歌「皆が、どうしてアンドロイドだと気付くことが出来なかったのか。どうして、どこかでおかしなことにならなかったのか」



千歌「・・・・・・気付いたとしても、[記録]を自由に変えられたら、関係ないよね」



梨子「……!!」




千歌「私には、何かを示す必要がない。・・・・・・だって、もし皆の考えが正しいんだとしたら、ほっといても、皆の記憶≠、今ここ≠ナの記憶≠、消すことが出来るから」




千歌「そうじゃなかったとしたら。皆の考えが、間違ってただけのこと。・・・違うかな?」



梨子「…………」



498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:28:56.59 ID:jWyG/GcGO


梨子(千歌ちゃん≠フ言葉は……正しいと思う)



梨子(それは、二重の意味で)




梨子(ずっと、持っていた焦燥感。……なにか、今£ヌ求できなければ、今後一生真実に辿り着けないんじゃないかっていう、焦燥感の正体)



梨子(きっと。……記憶≠ェ消えることへの、恐れなんだ)




梨子(……このままじゃ。私たちの記憶≠ェなかったことにされ、真実に辿り着くことは、出来ない)







千歌「・・・・・・消えちゃうなら。今$^実に辿り着いても、意味がないかもしれないけどね・・・・・・」








曜「……」


ルビィ「……」


善子「……」


鞠莉「……」


果南「……」


花丸「……」


ダイヤ「……っ」


499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:29:26.71 ID:jWyG/GcGO





千歌「・・・・・・さあ。じゃ、そろそろ聴くね?」






千歌「皆の考えが正しいという、[証拠]は、あるの・・・・・・?」









梨子「………」



500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:29:57.53 ID:jWyG/GcGO



梨子(……思い出すんだ。『桜内梨子』!)






梨子(……いいえ!思い出すの、私=I)






梨子(全ての言葉が。全ての人が。……私の信じるものが、全て正しいとしたら!!)






梨子(………重要なのは、私が、皆を……千歌ちゃん≠、信じているということ!!)




501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:30:36.52 ID:jWyG/GcGO




梨子「……[証拠]は。……〈まだ〉、ない」





千歌「・・・・・・〈まだ〉・・・・・・?」






梨子「でも。……すぐに、出来るよ……」



千歌「・・・何、言ってるの?」



梨子「私が、〈あなた〉を信じているから。……すぐ、出来るよ」





千歌「・・・・・・り、りこちゃん・・・・・・?」





502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:32:32.13 ID:jWyG/GcGO


梨子(『心の目で見なければものごとはよく見えない、肝心なことはいつも目で見えないんだ』)



梨子(……私に出来るのは。音≠聴くこと……!)



梨子(私が思う、『肝心なこと』。……その音は、まだ遠い)





ブ……ン……




曜「……りこちゃん。りこちゃん!」


ルビィ「りこちゃん。……どうしたの?」





梨子(……ごめん、心配かけて。……でも、まだ、音は近くにない)





ブゥーン





ダイヤ「りこさん……」


花丸「りこちゃん。……だいじょうぶ?」


果南「りこ。りこってば!」




梨子(……まだなの。まだ、待って。……もうすぐ、だから……)




鞠莉「りこ。……目をつむってないで、口を閉まってないで、なんか、言ってよ……」


善子「……りこ。もう、そんなに頑張らないで。……もうそんなに、疑わないで!」



善子「私を助けてくれた、大好きな千歌のこと。・・・・・・疑うの、やめて!!」



千歌「・・・・・・!」





ブゥーーーン!!





503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:33:23.84 ID:jWyG/GcGO
梨子(……そうだ。それこそが!)




梨子(千歌ちゃんが、Aqoursのこと、大好きだってことこそが!私の信じる千歌ちゃんこそが!)



梨子(全てを、明らかにしてくれる……!!)



梨子(……音≠ヘ、近づいてきている。……もう少し、あとちょっと)





千歌「・・・りこちゃん。・・・・・・なにを、するつもりなの・・・・・・?」




梨子(……少しのミスも許されない。……でも、私≠ネら出来るはず)




梨子(そして……千歌ちゃん≠ネら、出来るはず……!)







ブゥーーーーーン!!












梨子(……今≠セっ!!)







504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:34:19.84 ID:jWyG/GcGO


果南「!?」



曜「梨子ちゃん!?」



千歌「・・・!?」




梨子「・・・・・・たあぁぁぁぁあぁああぁ!!!」





梨子(私は、走った)



梨子(海の音を聴くために走った時と、同じように。・・・・・・ただただ、全力で、走った)




ルビィ「梨子ちゃんッッ!」



花丸「梨子ちゃん!」



鞠莉「梨子ッ!ダメええエェェェッ!!」




梨子(私の目の前には、大型トラックがあった)


梨子(もう、ブレーキを踏んでも間に合わない。そんなタイミングで。……ある意味で、絶好のタイミングで、飛び込んできた女子高生)


梨子(人を跳ね飛ばすには、十分なタイミング……!)



ダイヤ「いやぁ!やめてぇぇぇえぇぇえぇぇ!!」



梨子(私が死ぬのには……充分な、時間)



善子「たすけて!りこを!だれか!!たすけてぇぇぇぇ!!」



梨子(誰も、助けられない。……どんなに凄い人でも、きっと間に合わないタイミング)



505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:35:01.41 ID:jWyG/GcGO







千歌「・・・・・・!!」










梨子(……そう)






梨子(………私の大好きな、千歌ちゃん∴ネ外は……)






506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:35:38.19 ID:jWyG/GcGO





梨子(………すごい、音がした。………すごい、衝撃が、あった)






梨子(ここが、天国なんだ……そう、思った)










梨子(………だって)















梨子(私の前には、天使が、いたから……)











507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:36:29.62 ID:jWyG/GcGO





千歌「・・・・・・ばか」







梨子(……彼女は。私の前で、信じられないことを、やってくれたんだから)




梨子(……彼女は。片手で……)



梨子(大型トラックを。止めていた……)




梨子(前がグシャグシャになった、トラックを見て。……それを起こした、友達を見て)






梨子(私は、つい。……笑ってしまった。……両目に、涙をたたえながら)






508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:36:59.33 ID:jWyG/GcGO

梨子「……千歌ちゃん」


千歌「・・・・・・ん。なあに?」


梨子「……[証拠]、出来ちゃったね?」グスッ


千歌「・・・・・・ばか。バカ梨子」




梨子(・・・・・・。千歌ちゃんは。・・・・・・笑ってた)



梨子(バカな私を、バカって言って。・・・・・・自分のことも、バカだなぁなんて言って)



梨子(・・・・・・その表情は。笑ってたけど。・・・・・・とても、悲しそうな。・・・・・・寂しそうな)




梨子(私の、見たことのない表情をしている、友達が、そこにいた・・・・・・)





509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:38:04.86 ID:jWyG/GcGO



「・・・・・・準備、出来たよ。入っても、いいかな」



梨子(………その言葉を聞いて。私たちは、唇をかみしめながら、私の部屋の扉を開けた)



梨子(そこに、いたのは……)




「・・・・・・梨子ちゃん。・・・・・・ひさしぶり、だね」



梨子「……違うでしょ?……葉百さん=c………?」



「・・・・・・あははっ。・・・・・・そう、だね」



510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:38:31.47 ID:jWyG/GcGO


千歌「さっきぶり。・・・梨子ちゃん」



梨子「うん。さっきぶりだね・・・・・・。千歌ちゃん=E・・・・・」





梨子(私達を出迎えてくれたのは)



梨子(……葉百さんの格好をした、千歌ちゃん)




梨子(大人になった、千歌ちゃんだった……)



511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:40:27.87 ID:jWyG/GcGO


千歌「・・・・・・。さ〜て。・・・・・・どこから、はなそっかな」


ルビィ「千歌ちゃん……!」

ダイヤ「千歌さん。あの。さっきのトラックは……?」

千歌「ああ、大丈夫だよ。・・・・・・多分、記憶はなくなると思うけど」

ダイヤ「き。きおくが……?」

千歌「うん。流石に、あんだけ大きい事故を起こしちゃね。・・・過去になかった以上、皆の記憶から消えると思うな」


果南「な……!」


梨子「……過去になかったことは、消えるっていうの……?」


千歌「ものによるんだけどね。あまりにもあり得ないことに関しては、消されてるみたいだね」

512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:42:16.60 ID:jWyG/GcGO



千歌「・・・・・・私も、いろんなことしちゃってね。どこまでなら、皆の記憶に残るのか、どこからが、消されてしまうのか。・・・・・・調べたことがあってね」



花丸「し、しらべた……」


ルビィ「……何をしたの?」



千歌「色んな事件を起こしてみたんだよ。船を壊したり、ヘンに目撃されたり」



善子「……」



千歌「でも、なんか皆、それぐらいだと、むしろ覚えていたんだよね。不思議なことがあったんだな〜って」



善子「……!」



千歌「じゃあ、私がいるぞー!って主張するために。……私の存在を、認めてもらうために」

千歌「やっちゃうぞーって思って。色んな事したんだ」

千歌「しまいには、沼津駅のちょっと近くにあったビルを壊したりなんかしたんだよ」



花丸「ビ、ビルを。……ぶっ壊した……!」


千歌「ビルを、壊した、ね。・・・ぶっ壊しては、ないからね?わかる、花丸ちゃん?」


花丸「あ。あうぅぅ……。ごめん、千歌ちゃん」

千歌「・・・・・・いいよー。花丸ちゃん!」


513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:43:20.36 ID:jWyG/GcGO


梨子「ど、どちらにせよ!……高い建物を、千歌ちゃんは、素手で壊したってこと!?」


千歌「・・・・・・。まあ、そうだね。・・・・・・でも、壊しても」


千歌「なんか皆。壊れてるって思えなかったみたいというか」


千歌「どうも、大丈夫だって思ってたみたいだけど。・・・・・・私からすると、ホネしかのこってないビルの前を、よく平然と通り過ぎれるなーって思ってたんだ!」

曜「……はしゃぎながらいう言葉じゃないよね、それ」



千歌「あははっ。そうだね!・・・・・・だから、いっぱい、色んなことをやった」



千歌「皆に、覚えていて欲しくて。・・・・・・どこまですれば、覚えていてくれるのか、逆に、どこまでしてしまったら、覚えていてもらえないのか」



千歌「・・・・・・色々、実験しちゃったんだよ」


梨子「……その実験の結果が。……この、状況なんだね」


千歌「・・・そういうこと、かな」

514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:44:05.11 ID:jWyG/GcGO


ダイヤ「バレようとしていた……ということですか?」


千歌「ん、なんで?」


ダイヤ「なんでって。……正直、正体を隠そうという感じではないじゃないですか」


ダイヤ「その……さっきの議論の時も。何故か、『アンドロイドが入れ替わって痕跡を残すはずがない』という反論は、最初に出来たはずなのにしなかったり……」


梨子「そうね。……そこは私もずっと気になっていた」


梨子「なんか……正体を隠そうとしていないというか。……むしろ、私たちを焚きつけるというか、促していたというか」

梨子「隠そうとする必要があったのかなって、そう思う場面が何度もあった」

515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:44:56.19 ID:jWyG/GcGO

千歌「・・・・・・ペンダントが見つかるまでは。ホントに、隠すつもりだったんだけどね」


梨子「……!」


千歌「こっちがバラそうとしても、[記録]は消えていた。・・・・・・だから、私もこのまま、入れ替わっていようかと思ったんだけど」

千歌「まさか、見つかるとはね。私のスペックなら、注意さえしておけばバレないように振舞うことは出来たんだけど・・・・・・」

千歌「ここ最近、ちょっとチカとしては不自然なことをし過ぎたから。・・・しいたけが飛び掛かってきた時、チカの身体能力じゃ、よけれない状況だった」



千歌「・・・・・・まさか。あのペンダントから、あそこまで真実に近づかれるとは思っていなかった」




梨子「……なんで、最初から真実を話さなかったの?」


梨子「周りくどいやりかたじゃなくても、伝えることは出来たんじゃない?」

516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:45:57.44 ID:jWyG/GcGO


千歌「・・・・・・いや、無理でしょ」


梨子「え?」


曜「……まあ、実は私たちは過去の真似をしてて、実は千歌ちゃんは未来の千歌ちゃんで、でも本当は過去の千歌ちゃんで……って急に言われても、ね」

ルビィ「わけわかんないもんね……」


千歌「[証拠]自体は作れるんだけどね。・・・・・・このペンダントも、充分そうだし」


千歌「ただ、結局、私もそこまでするつもりはなかったんだよ。・・・・・・せっかくの、過去の追体験だしね」



千歌「それでも・・・・・・あり得ない可能性を追求して、真実に向き合おうとする覚悟。・・・・・・それが本当にあるって私が認められたら、話すつもりではあったんだ」



梨子(……だから、千歌ちゃんは私たちを試すようなことをしたんだ……)



517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:46:41.96 ID:jWyG/GcGO

千歌「ま、私。嘘は話さないようにしたんだけどね」


千歌「最初だけ、梨子ちゃんが『生き別れの姉妹』がいるかって言うから、乗っかっちゃおって思って」


千歌「この姿と昔の姿の違いを利用してそれらしい理屈を喋ってみたんだけど」



梨子「……そんなところ、悪ノリしないでほしかったよ」


鞠莉「そういうところ、私は好きだけどね?」

千歌「お、流石鞠莉ちゃん。・・・・・・話せるねぇ」

ダイヤ「話さないでくださいね。ややこしくなります」

518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:47:42.45 ID:jWyG/GcGO

花丸「でも……確かに千歌ちゃんは最初以外、梨子ちゃんの考えの不十分なところに反論してただけで、嘘はついてなかったずら」


梨子「……」


善子「あれは凄かったわね。……すごい勢いで滅多打ちにされていく梨子を見て、思わずドキッとしてしまったわ」

果南「確かに。……千歌、梨子と違って、ズキッてくること言ってたもんね」

花丸「おら。何回か、梨子ちゃんの心がポキッて折れる音を聞いたずら」



梨子(……その音。……多分今も鳴ったよ)


曜「梨子ちゃん……私の中に、梨子ちゃんへの哀れみがニョキッと出てきたよ」




519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:48:30.18 ID:jWyG/GcGO


千歌「それにね。ペンダントが見つかっても、このタイミング≠カゃなきゃ、誤魔化しようはあったんだよ」



千歌「・・・・・・梨子ちゃんが、犬に触れるようになって、初めて、この写真は真実を示せた」



梨子「……私が、犬を……」


千歌「善子ちゃんのお陰なんだってね。・・・・・・犬に触れるようになったのって」



善子「え……?」


梨子「あ、うん。……そうだよ」




千歌「・・・・・・もし、それがなかったら。・・・・・・ここまで、話は続かなかったかもしれない」



善子「……」




520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:49:24.18 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「ペンダントを、持ち歩いていた理由は、他にはあるのですか?」

千歌「たまに今のこの姿になって、街に出たりしていたのと同じ理由だよ」


梨子「……今の姿になって?」


千歌「うん。・・・・・・定期的にこの体になっとかないと、忘れそうでね」


曜「忘れる……?」


千歌「そう。・・・・・・自分が、誰なのか、ね」



曜「……!」


千歌「私は『高海千歌』。・・・・・・じゃあ、いつの・・・・・・?」


千歌「私は私の昔の姿を、性格を、[記録]の通りコピーして振舞うことが出来た。・・・・・・でも」


千歌「それをずっとやっていればよかったのに。・・・・・・自分が、自分でありたいって欲求が、あったんだね」


花丸「……」



千歌「・・・・・・ペンダントは。昔の姿になっても、持っていたかった」



千歌「昔の私と、違う証みたいなもので。・・・・・・たくさんの、私≠フ思い出が詰まったものだったから」



果南「……」



521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:50:15.12 ID:jWyG/GcGO

善子「ち。ちなみに。……千歌って、どれぐらいの能力を持ってるの?」

ダイヤ「の。能力って……」


千歌「・・・・・・ふふっ。善子ちゃん、やっぱりそういうとこ気になるんだぁ?」


善子「う。うわ!近くに来た!っていうか近い!!」


千歌「いえーいよしこちゃーん!ぎゅーってしよー!」

善子「わ。ちょ。やめっ!……あぅ」


千歌「捕まえた!・・・・・・かわいいね、よしこちゃん」


善子「あ。あぅぅ・・・・・」


522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:50:57.96 ID:jWyG/GcGO

花丸「な。なんか。……千歌ちゃん、善子ちゃんのこと、気に入り過ぎじゃない……?」

ダイヤ「た、確かに。凄い、気に入りようですわね……」


千歌「・・・えへへ。善子ちゃんだけじゃないよ。・・・・・・みんな、ちっちゃくてかわいいなーって思ってね!」


花丸「……ち。ちっちゃくて」

ダイヤ「かわいい……?」


千歌「そうだよ!やっぱ、若いっていいねー!ほら、花丸ちゃんも!ダイヤちゃんも!ギューってさせて!!」

花丸「わ。わぁ!」

ダイヤ「ち、ちかさん!……その、恥ずかしい、です……」


善子「……むぅっ」


千歌「・・・・・・えへへ。ごめんね、善子ちゃん?ねえ、こっち来てくれる?」


善子「……うん」



千歌「・・・・・・。いやぁ。・・・・・・美女に囲まれて、しあわせですねぇ〜」


523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:51:38.91 ID:jWyG/GcGO

曜「……」


梨子「……」


果南「………あのさ、千歌。……真面目にやってくれないかな?」



千歌「え?」


曜「話の本題から、ズレちゃってるよ、千歌ちゃん……」



ルビィ「…………ていうか、おねえちゃんも、花丸ちゃんも、堕天使ちゃんも。……ちょっと、気を緩め過ぎなんじゃない?」


ダイヤ「……」


花丸「……ずらっ」



善子「……せめて、善子って言ってよ……」


524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:52:27.02 ID:jWyG/GcGO

千歌「・・・・・・ルビィちゃん。やっぱ、すごいんだね」


ルビィ「……え?」


千歌「ルビィちゃん。……しっかりした、女の子だね」


ルビィ「……。そんなこと、ないよ」


千歌「・・・・・・。ね、ルビィちゃん。・・・・・・ぎゅっとさせてくれる?」

ルビィ「……ぇ?」



千歌「・・・・・・ありがとう」ギュッ



ルビィ「ぁ。……ぅぅう!」








千歌「Aqoursを支えてくれて。ありがとう」








ルビィ「ぅ。……ちか、ちゃあぁあぁん……!」



525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:53:45.80 ID:jWyG/GcGO


果南「……ち、ちか」


千歌「・・・・・・果南ちゃんっ!」


果南「わっ!……急に、飛び込まないでよ」

千歌「ごめん、ビックリさせちゃったね?・・・でも、果南ちゃんとも、ハグ、したかったから」


果南「……千歌」


千歌「・・・・・・私、機械なんだよ。・・・・・・人間じゃ、ないんだ」


果南「………!」


千歌「・・・・・・。どう?・・・・・・私の、カラダ。・・・・・・ちゃんと、果南ちゃんを抱きしめられてる?」



果南「…………千歌は。千歌、だよ」


果南「私の知ってる、千歌の通りだよ……!私の大好きな、千歌の通りだよ!!」


果南「むしろ、私の方が……!!」



千歌「・・・・・・ありがとう。果南ちゃん」



千歌「果南ちゃんは・・・・・・女の子らしい、とってもいい、ダキ心地だったよ!」




果南「……千歌ぁ!」


果南「バカ!……そういうこと、言うな!」



千歌「・・・・・・ごめん」




果南「バカ。バカ!バカバカバカ!!……なんで、じぶんのことより、わたしのことをきづかうの……!」



果南「私だって、機械で。……機械なんて抱いても、気持ちいいわけないのに!」





千歌「・・・・・・」



526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:54:26.25 ID:jWyG/GcGO


果南「やさしく、なるなよぉ……!わたし、わたしの、めんぼくつぶれちゃうじゃん・……!」



千歌「・・・・・・でも」




千歌「安心したんだから。・・・・・・女の子を、抱きしめたって感じだったんだから。・・・・・・しょうがないじゃん・・・・・・?」




果南「千歌……」





千歌「機械なんかじゃない!・・・・・・少なくとも、私の知ってる果南ちゃんの通り!」



千歌「果南ちゃんを抱きしめたら。気遣うつもりなんてなくても、言っちゃうよ!!」



千歌「私は優しくなんてなってない!ただ、果南ちゃんを抱きしめて、好きって思ってるだけだもん!」



果南「……千歌っ!」





梨子「……」


曜「……」


鞠莉「………」



527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:54:55.79 ID:jWyG/GcGO


千歌「・・・・・・梨子ちゃん。ありがとう」



梨子「……え?」


千歌「あなたと会えて。・・・嬉しい」



梨子「ち、ちか、ちゃん……」




千歌「・・・・・・よーちゃん」



曜「え……?」


千歌「会いたかったんだぁ、曜ちゃんに!・・・・・・いっぱい話したかったんだ。あなたと」


曜「ちか、ちゃん……」



528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:55:50.65 ID:jWyG/GcGO


千歌「・・・・・・鞠莉ちゃん」




鞠莉「……なに?」


千歌「私が、ここにいるのは、鞠莉ちゃんのお陰。・・・・・・だから、ありがとう」


鞠莉「……でも。私は、何もしてない」



千歌「・・・・・・私の、味方になってくれたよ」



鞠莉「そんなの……当然じゃない……」


鞠莉「私は、『小原鞠莉』なんでしょ?……だったら。私だったら、誰でも。……あなたの、味方になるでしょ」




千歌「・・・・・・でも、それをやってくれたのは。・・・・・・間違いなく、〈あなた〉なんだよ」





鞠莉「……ち、千歌……」






千歌「ありがとう。だいすき」



529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:56:21.38 ID:jWyG/GcGO

鞠莉「う。……ぅぅう……!」



千歌「ね。ギュッとしても、いい?」



鞠莉「……うん」



千歌「ありがとう。・・・・・・ふふっ。いいにおい」



千歌「鞠莉ちゃんの、やさしいにおいがする」




鞠莉「…………グスッ。女の子に、においとか、言っちゃダメでしょ……」




千歌「・・・・・・そうだね。・・・・・・ごめんね、鞠莉ちゃん」



530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:57:02.13 ID:jWyG/GcGO

鞠莉「いいよ。………千歌」



千歌「・・・ん?なあに?」



鞠莉「こんなに。……大きく、なったんだね……」



千歌「・・・・・・ッ!・・・・・・そう、かな」



鞠莉「そうよ。……だって、こんなにも、あなたが近いんだから」



千歌「・・・・・・。わたし、鞠莉ちゃんに近づけたのかな・・・・・・」



鞠莉「……うん。だから、これからどこにも行っちゃ、ダメだよ……」




千歌「・・・・・・」




鞠莉「………ちか。ちかぁ!!」



531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:57:47.16 ID:jWyG/GcGO


ダイヤ「……鞠莉さん。……あまり、千歌さんを困らせてはダメですよ」




鞠莉「で。でも……!」


ダイヤ「わかっています。……でも、今は……千歌さんのお話を聞きましょう」


ダイヤ「わたくしたち、皆が。……辿り着いた、真実なのですから」


鞠莉「……うん」



梨子「……」


果南「……」




千歌「・・・・・・」


532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:58:31.74 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「で、その。……ええと、他に、何を話せばいいんでしょうか」


花丸「……ええ?」

曜「……そりゃないよね」

善子「生徒会長マジか……」


ダイヤ「ちょっと!何てこと言うんです!」


千歌「あははははっ!・・・・・・大丈夫だよ。何でも、聴いて?」


ダイヤ「じゃ。じゃあ、その。……千歌さんの、能力って……?」


曜「そこ、引っ張るんだ……」

ダイヤ「な、何にも思いつかなかったんです!」

花丸「威張ることじゃ、ないずら……」


533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:59:13.49 ID:jWyG/GcGO

千歌「私の能力かぁ。・・・何て説明すればいいんだろうね?」

千歌「なんか、せっかくだから色々改造してもらって。……最終的には、本気を出したらアメコミのヒーロー並みのことは出来るようになってたかなぁ」


ルビィ「ひ。ヒーロー……」


千歌「たぶん、全力を出せば結構イロイロ出来るんだけど。・・・・・・例えがムズカシくてね」


千歌「善子ちゃんにだけ伝わる表現をすれば、らいじんぐのらいでんぐらいは軽く出来るよって感じかなぁ」

善子「……す。凄まじいスペックね……」


梨子「……よくわかんないけど。とにかく、トラックを咄嗟に止められるほどの力、その他もろもろ出来るぐらいには、その……高性能、っていうのかな」


千歌「・・・・・・まあ、そういうことになるね。・・・・・・力が余ってる分には、パラメーターを自分でいじれば普通の人間と全然同じ感じに出来るから、ちょっと高めに改造してもらったんだ」



果南「……かいぞう、か」


534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:59:58.11 ID:jWyG/GcGO

梨子「千歌ちゃん。……その、何で、入れ替わっていたの?」


梨子「……昔の、自分と……」



千歌「・・・・・・それは、私が皆に聴きたいことでもあるんだけどね」



梨子「あ……。ご、ごめんなさい……(……そうだ)」





梨子(千歌ちゃんから見れば……私たちこそが、自分の昔の仲間を、真似している、不可解な存在なんだ……)





千歌「ふふっ。イジワル言っちゃったね。・・・・・・皆、そんな自覚ないもんね・・・・・・」


曜「……」


善子「……」




千歌「・・・・・・でも、なんでなんだろうね。・・・・・・実は、私にもよくわからないんだ」











千歌「ただ。・・・・・・夢を見ている気分だった」






535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:01:11.87 ID:jWyG/GcGO

梨子「……夢を……見ている……?」




千歌「そう。・・・・・・あの時のまんまな、町を見て。・・・・・・皆を見て」





千歌「私、思ったんだ。・・・・・・最後の、夢がここにあるんだって」






曜「最後って……。どういう、こと?」






千歌「・・・・・・いっぱいミスしちゃったでしょ、私。皆に違和感を持たれるようなこと、いっぱい」






梨子「……」



536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:02:01.65 ID:jWyG/GcGO



千歌「・・・・・・やっぱりね。もう、ガタがきてるんだ」




善子「なっ……!!」



千歌「私は・・・・・・長く、生き過ぎた。・・・・・・皆と別れてからも。・・・・・・ずっと、見届けたくて」



千歌「色んなものを、見てきた。・・・・・・人間の、行き着く先。皆の、夢のカタチが知りたくて」




梨子「………」



千歌「いっぱい生きて。・・・・・・機械になって、生き続けて。・・・・・・でも、もうそろそろ、終わりだなって思う時があった」



千歌「・・・・・・。正直、もう目を覚ますことなんてない。・・・・・・そう思って、でも、次に目を覚ませて。その時に。・・・・・・私は、信じられないものを見た」




千歌「・・・・・・長い長い眠りの後に。私は、私の生まれ育った町とそっくりな場所に、いた」





千歌「しかも。そこには、もうずっと前に、別れたはずの・・・・・・仲間が、いた」





梨子(……!)


537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:03:07.35 ID:jWyG/GcGO







千歌『え。……え?……なんで、〈あなた〉が……』






千歌「・・・・・・夢、だと思ったよ。天国なのかなって、思った」



千歌「でも。私の記憶≠フ通り。私は、私の、機械の体だった」




果南「……っ」





千歌「・・・・・・わからなかった。どうして、こんなことが起きているのか」



千歌「でも、ね。何となく・・・・・・直感だけど。オクソクは、出来たの」



花丸「オクソク……」




千歌「・・・・・・アンドロイドの、生きる意味=B……それは、最初は人間のため、だった」




ルビィ「生きる、意味……」


ダイヤ「アンドロイドの……わたくし、たちの……」



538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:03:59.10 ID:jWyG/GcGO


千歌「人間の生活をよりよくするために生み出されたアンドロイド。・・・・・・でもね、次第にその力は、人間を超えていった」


千歌「最初は、ロボットって呼ばれていた。でも、ロボットの中でも、人間に似せようとして作られたものが出てきてね」


千歌「どんどん、人間に近づいていく、人間そのものの、ロボット・・・・・・」


千歌「それが、アンドロイドと呼ばれる存在だった」


千歌「人間に出来ることは、何でもできる。……人間以上の、力で」


千歌「そして、人間よりも、人間らしい。・・・・・・少なくとも、人間らしく、振舞える」


千歌「そんな存在が出来たとして。・・・・・・じゃあ、人間には何が出来るんだろう?って」


千歌「人間の生きる意味は?・・・・・・そう、考えたとしても、無理はなかったんだよ」




花丸「まさか……」




千歌「・・・・・・多分、花丸ちゃんが察した通り。・・・・・・争いが、起きたの」




善子「……バカげてる」



539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:04:41.39 ID:jWyG/GcGO



千歌「・・・・・・。人間は・・・自分たちに何が出来るのか、問題にした」



千歌「自分たちに、出来ないことが出来る存在。・・・・・・それだけなら、問題にならない」



千歌「だって、別のことが出来ればいいんだからね。・・・・・・でも」




千歌「アンドロイドは、全てを上回った。・・・・・・人間の出来ること、全てを・・・・・・」



鞠莉「……」



540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:05:37.94 ID:jWyG/GcGO


千歌「・・・・・・ねえ、梨子ちゃん。・・・・・・ピアノ、借りてもいい?」



梨子「……え。う、うん。いいけど……?」



千歌「・・・・・・私が最初に弾いた時。・・・・・・その音色は、機械そのものだったよね」



梨子「……そ、それは……」



千歌「でもね。本当は、違うんだよ。・・・・・・聴いてほしい。私の中にある、プログラムが再現する、音を・・・・・・」













梨子(……そう言って、千歌ちゃんは私のピアノに、手をかけた)


梨子(……どこかで聴いたことがあるような。でも、この世にはない演奏)


梨子(懐かしいと感じ、凄いと感じ。……感情が、溢れてどうしようもなくなる)


梨子(熱い想いがある。……このピアノを聴いていると、何でか……泣きたくなるような)


梨子(そんな、音色だった)




541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:07:46.04 ID:jWyG/GcGO



曜「……すごい」




千歌「・・・・・・すごいでしょ。・・・・・・技術の力は、こんなことも出来るようにしてくれたの」




ダイヤ「そ。その。……すごく、失礼なことなんですが……」


ダイヤ「とても、その。……機械的な演奏に、聴こえませんでした」


ダイヤ「情感豊かで……何より、熱い想いを感じました」




千歌「・・・・・・それが、答えなんだよ」


ダイヤ「答え……?」



千歌「私が今やったことは。・・・・・・ある2人のピアニスト達の音を、違和感なく、くっつけて。別のものにしてしまう、技術を再現しただけなの」



梨子「……!」





千歌「・・・・・・私の尊敬する、ある人と。・・・・・・私の自慢の、ある人の音色。・・・・・・その二つを、掛け合わせただけなんだよ」


542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:08:22.58 ID:jWyG/GcGO


ダイヤ「……なんという」



千歌「やってることは、シンプルなんだ。・・・・・・単に、最善と思われている組み合わせを見つけて、カタチにしているだけ」



千歌「・・・・・・ただ。その組み合わせの見つけ方は、人間よりもはるかに精確で、速い」



千歌「・・・人間にしか出来ないと言われていた、創造の分野。・・・・・・でも、創造って、現在あるものから、色んな組み合わせを見出して、カタチにすること」



千歌「もし、そう考えれば。・・・・・・創造はむしろ、機械の方が得意だってことになるよね」



千歌「・・・・・・人間に見つけられない、特徴を見つけ出して。人間では間違えてしまうことも、精確に行って」



千歌「・・・・・・完璧な組み合わせを。見つけられるんだから・・・・・・」




ルビィ「……」


曜「……」


543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:09:03.98 ID:jWyG/GcGO

花丸「……。『物を作るとは、物と物との結合を変ずることでなければならない』」


花丸「『大工が家を造るというのは、物の性質に従って物と物との結合を変ずること、即ち形を変ずることでなければならない』……そういう言葉を、呼んだことがあるずら」


果南「……その言葉の通りのことが、起きたってこと、か……」



千歌「人間にしか、出来ないことがある。・・・・・・その考えは、否定されたんだよ」


千歌「そして。存在意義を、『何が出来るのか』で考える限り。・・・・・・人間は、アンドロイドに比べて、『必要ない』ことになる・・・・・・。そんなことは、明白だった」



鞠莉「だから……争いが起こったっていうの?」


鞠莉「……『必要ない』なんて、ただの考え方なのに。……ただ、『必要ない』を目の前に突き付けてくる、存在を否定することによって、自分を保とうとして……!」






千歌「・・・・・・。争いは、止められなかった。・・・・・・人間は・・・・・・」




千歌「人間は。・・・・・・怖かった」



544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:09:56.58 ID:jWyG/GcGO


果南「千歌……」


曜「千歌ちゃん……」



千歌「・・・・・・・人間はアンドロイドを超えるために、色んなことをしちゃったの」



千歌「否定していた、機械の体にもなれるようにして。・・・・・・だんだんと、人間は、ロボットに近づいていった」



善子「……サイボーグ」




千歌「・・・・・・最初はロボットで、人間に近づいていったアンドロイド。・・・・・・ロボットとの違いが判らなくなるぐらい、機械になっていった人間」






千歌「・・・・・・《逆》に。なっていった」







梨子「《逆》に……」





千歌「人間はもう・・・・・・ほとんど、いないと思う」



千歌「・・・・・・。人間の出来ないことを、出来るアンドロイド。その技術力は、やっぱり、人間を超えていた」



善子「……」



545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:10:28.56 ID:jWyG/GcGO


千歌「でも。・・・・・・人間のために、作られたアンドロイド。じゃあ、人間がいなくなったら?」



千歌「どうやって、自分の生きる意味を探すんだろう・・・・・・?」



梨子「………!」





千歌「生きる意味。・・・・・・輝き=v





千歌「・・・・・・どうやったら。知れるんだろうね・・・・・・?」



ダイヤ「……!」



果南「アンドロイドは、存在意義を失った。……そういう、こと」



梨子「………そんな」






千歌「・・・・・・」



546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:11:01.40 ID:jWyG/GcGO

善子「……待った」



千歌「・・・・・・善子ちゃん?」



善子「……もし、さっきの千歌の言葉が正しいとしたら。……問題がない?」


梨子「……問題?」


善子「そうよ。……もし、創造が。あらゆるものから、あらゆる組み合わせを生み出す行為だとしたら」


善子「当然。そこには、《生きる意味を考え出す》ことだって、含まれるはず」


ルビィ「あ……!」


花丸「言葉……言語の組み合わせによって表現されるのが、思想で。……生きる意味が思想のように、少なくとも言語によって語られるものなら……そういうことに、なるね」



善子「……どうなの?」



547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:11:46.05 ID:jWyG/GcGO



千歌「・・・・・・流石、善子ちゃん。善子ちゃんの言う通りだよ」



曜「……じゃ、じゃあ……」



千歌「・・・・・・そう。善子ちゃんの言った通り、生きる意味は、すぐに考え出されていった」



千歌「過去、生きる意味を考えた全ての人達。・・・・・・人生訓だったり、思想だったり」


千歌「哲学的な考え方。・・・・・・そこには、哲学なら哲学の、哲学的な語り口に共通の《論理》があった」



千歌「・・・・・・もちろん、人の考え方、《論理》はそれぞれ違う部分も多くで。・・・・・・何もかもを結び付けられるわけじゃなかったけど」


千歌「でも。・・・・・・それぞれの論理、それぞれの考え方の中で特有な部分。・・・・・・いや、共通する部分って言った方がいいのかな。それは、カンタンに見つけ出せた」



果南「共通する部分……?」



千歌「哲学の例なら、ある哲学者が書いた作品の全てから、その考え方のパターンを抽出して、その作者の・・・・・・時点別での、書き方の違い、そして共通点を抽出できたっていうこと」



千歌「共通点という言い方をしたのは・・・・・・。時点の違う自分も、ある意味、〈他の人〉だからね」





千歌「・・・・・・チカ≠フように」



果南「!!……ち、か」


548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:12:20.30 ID:jWyG/GcGO



千歌「・・・・・・それぞれの共通点を見つけたら。今度は、見つけたそれぞれの共通点の、共通点を組み合わせていける」



千歌「・・・・・・そうして。世界には、[生きる意味]が満ちることになる」



千歌「しかも、それは取捨選択された、より洗練された[生きる意味]」



千歌「・・・・・・人間が考えるより、はるかに高度な《知能》によって創り出された、[生きる意味]が、そこら中に出来上がった」




善子「じゃあ……アンドロイドが生きる意味を見失うなんてこと、ないんじゃ……」


千歌「確かに、皆が皆、自分の[生きる意味]を、自分に相応しいものを、手に入れることが出来るようになった」



千歌「私も、私の生きる意味を。・・・・・・私の、生きた意味を手に入れることは出来るようになった」



鞠莉「……」



549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:13:07.95 ID:jWyG/GcGO



千歌「・・・・・・でも、それって。[自分の生きる意味]であっても、〈私〉の生きる意味なのかな・・・・・・?」



梨子「!」


曜「!」


善子「……!」



千歌「誰もが、もうあるものの中から、『自分』に合った[生きる意味]を選択できる。・・・・・・いや、そこまでいったら、自分に合った生きる意味を選ぶなんて言葉自体、意味の無いものになる」



千歌「だって・・・・・・究極的に言えば、皆、自分にピッタリの[生きる意味]を、当てはめることが出来てしまうだけなんだからね」





鞠莉「……でも。自分の生きる意味なのよ!」


鞠莉「自分の生きる意味は、たとえ昔あったものと似ていたとしても。……極限まで似たものであったとしても!それは、極限でしかない。ただ、同じと見なしているに過ぎない!」


鞠莉「それは、自分だけのもののはずよ!」


550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:13:57.44 ID:jWyG/GcGO



千歌「・・・・・・自分と”全く同じ”存在があり得たとしても?」




鞠莉「……!?」


鞠莉「そ。……それは……」



花丸「……自分だけのものと考えるのは。……難しい、かもしれないずら……」




千歌「・・・・・・アンドロイドが直面したのは、その問題だった」



千歌「どんなものも、パラメーターとして、操作できる。・・・・・・数にして、制御できてしまう」


千歌「これは、見方を変えれば、何にだってなれるってこと」



千歌「・・・・・・アンドロイドって言っちゃったけど。アンドロイドに限った話じゃないんだけどね」



千歌「全てを数値化出来てしまうようになった、技術。・・・・・・それ自体はもう、私≠ェ生まれた時に既にあった・・・・・・」




曜「……千歌ちゃん≠ェ、生まれた時って。……本当に、本当の。千歌ちゃんの、生まれた時……」




551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:14:58.02 ID:jWyG/GcGO



千歌「・・・・・・。私が生まれた時には、もう。デジタル化が、普及し始めていた」



千歌「デジタル化っていうことの本質は、あらゆるものを数値で表現できるようにするということ。そして、数値化できるなら、それを[再現]もできるっていうこと」



花丸「……『アンドロイドは。何にだって、誰にだってなれる』」


千歌「そうだよ。・・・・・・だとしたら、そこには『自分』だって含まれるはずだよね?」


曜「……。自分の、生きる意味が。……自分だけのものだって、決して言えなくなった」



千歌「・・・・・・。そうだよ」



千歌「自分という、たった一つしかないって、誰もが信じて疑わなかったものさえ。その、たった一つって言える根拠さえ」



千歌「・・・・・・その人が、生まれ育った環境。遺伝子。・・・出会った人によって、『自分だけ』っていうことが、生み出される。そして、それは決して同じにならない」


千歌「双子でさえ、空間的な場所が違う。鞠莉ちゃんの言ったように、極限まで近づけられても、同じにはならない」



千歌「でも、その根拠は、覆してしまえる」




千歌「それら全てを・・・・・・再現できてしまう・・・・・・」




花丸「……」



552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:15:36.76 ID:jWyG/GcGO



千歌「・・・・・・[自分]という存在さえ。・・・・・・あらゆる関係性によって、決められている」



千歌「自分も、あらゆるものとの関係から逃げられない。・・・・・・あらゆるものとの関係によって、成り立っているから」



千歌「・・・・・・その、あらゆるものが。同じに出来たら・・・・・・」





曜「……生きる意味=c…それは……」


花丸「……あるのに。ない……」


果南「……」


ダイヤ「……」


ルビィ「……うぅ」


鞠莉「くっ。……ぅ」


梨子「……」



553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:16:18.81 ID:jWyG/GcGO


善子「…………違う」


梨子「…………善子ちゃん?」



善子「私は。……ヨハネだけど、よしこよ」





千歌「・・・・・・!」






善子「……私は。確かに、[自分]の通りに振舞ったかもしれない」



千歌「・・・・・・」



善子「でも。……例え、[自分]が、[自分]の通り。じぶんの、ままに生きたとしても」



善子「じぶんの、じぶんに沿って、そのまま沿ってやったとしても。……」






善子「やったのは、〈わたし〉よ!!」





千歌「・・・・・・!!」



554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:17:07.29 ID:jWyG/GcGO



善子「私が!……〈わたし〉が、〈あなた〉の味方になりたいって思った!!」



善子「じぶんに従っていただけでも。これだけは、間違えようがない。わたしがしたの!!」





千歌「・・・・・・」




鞠莉「……」



鞠莉「『・・・・・・でも、それをやってくれたのは。・・・・・・間違いなく、〈あなた〉なんだよ』」




千歌「まり、ちゃん・・・・・・?」




鞠莉「……そう、言ってくれたのは。……こういう、意味だったんだね……」





千歌「・・・・・・・・・・・・」



555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:17:56.66 ID:jWyG/GcGO


曜「……本当に、そう、なのかな……」



千歌「・・・・・・。私には、わからない。わかるのは、〈あなたたち〉だけ」



梨子「……〈わたしたち〉」




千歌「・・・・・・。少なくとも。〈あなたたち〉は、《逆》のことをしている」




千歌「・・・・・・たとえ同じものであっても。その輝き≠ヘ違うってことを、証明して見せるんだって、いうかのように・・・・・・」



556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:18:34.16 ID:jWyG/GcGO


ダイヤ「……まさか」


果南「だから……私たちが生まれたっていうの?……生きる意味が。全く同じだったとしても……!」


花丸「輝き≠。……〈わたしたち〉が、持てるのか……!」


ルビィ「それを、知るために。……イチバン、輝いていた人の。……輝きを求める、スクールアイドルのマネをすることで、それがわかるかもしれない……!」


梨子「だから……私たち≠ェ、生まれた……」





千歌「・・・・・・」



557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:19:10.89 ID:jWyG/GcGO


千歌「わたしには。・・・・・・やっぱり、ハッキリしたことは、わからない。・・・・・・けど」




千歌「ひとつ。わたしにはたしかに、うれしさがあった」




曜「うれしさ、って……」







千歌「わたしは・・・・・・うれしかった。・・・・・・たとえ、みんな≠ノのこっていなくても」



千歌「[わたしたち]を、目指してくれる。・・・・・・そんな存在が、いることが」


558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:19:49.84 ID:jWyG/GcGO


千歌「・・・・・・その夢に。いっしょにいたくなっちゃった」



千歌「その夢を、見たくなっちゃったんだね」



千歌「わたしも・・・・・・あのとき、夢を歌ったから」



千歌「・・・・・・もう一度だけ。やりたくなっちゃった」





千歌「・・・・・・スクールアイドルを・・・・・・」






曜「……ちか、ちゃん」


559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:20:33.88 ID:jWyG/GcGO



千歌「でも。・・・・・・夢はやっぱり、見るより、追いかけた方がいいもんね」



千歌「あの時、経験したこと。・・・・・・機械の私なら、全部再現できると思っていた」



千歌「いい夢、見ちゃえるって。・・・・・・夢、語れるって、思ったのかな」



千歌「でも。・・・・・・夢を語った私。・・・・・・それより、今≠追いかけて、夢を歌い続ける皆の方が」





千歌「・・・・・・輝いてる=E・・・・・人間、らしいよ」





善子「……うぅ」



鞠莉「ちか……」





560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:21:20.64 ID:jWyG/GcGO



梨子「……一つ。〈あなた〉に、言いたいことがあるんだ」




千歌「・・・なに?」





梨子「夢は、それを語る言葉から、生まれる」



梨子「……百の言葉を尽くして、夢を語った貴女から!……千の夢を歌う、私たちが生まれた!」





千歌「・・・・・・!」






梨子「あなたの目指した場所を、私も知りたいと思って!!」



梨子「私達は、目指した!……今≠焉A目指している!!」







梨子「ラブライブ!を!!」









千歌「・・・・・・」








「……だから……」


561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:22:10.67 ID:jWyG/GcGO

梨子「だ、だから……」グスッ


千歌「・・・・・・りこちゃん」


曜「……だから。大丈夫だよ、千歌ちゃん」


千歌「・・・曜ちゃん?」


果南「私ら、頑張るからさ」


花丸「千歌ちゃんが、いたこと。いること」


ダイヤ「……全部。わたくしたちの中に、刻み込みます」



千歌「・・・果南ちゃん。花丸ちゃん。・・・・・・ダイヤ、ちゃん」



ルビィ「だから。……もう、大丈夫」


千歌「・・・・・・ルビィちゃん」


鞠莉「私たち、ちゃんと、〈あなた〉の輝き=A知ってるから。……そりゃあ、こんな風に真似しちゃったら、説得力ないかもしれないけど」


千歌「鞠莉、ちゃん・・・・・・?」


善子「……輝く≠ゥら。……私たちも。……私たちなりに、ね」


千歌「・・・・・・よしこ、ちゃん」


562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:22:54.13 ID:jWyG/GcGO

善子「だ。だから。……だからぁ!」


善子「あなたはもう、夢を見なくていい!」



千歌「・・・・・・ゆめ?」



善子「そうだよ!……もう!!」


善子「もう、見ないで!・・・・・もう!!」


善子「もう!辛い思いをしないでぇ・・・・・・!!」



千歌「・・・・・・」


563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:23:25.07 ID:jWyG/GcGO


千歌「・・・・・・。辛くなんて、なかったよ」



千歌「わたしは。・・・・・・ほんとうに」





千歌「ほんとうに。しあわせ、だった・・・・・・」






千歌「最後に・・・・・・幸せな夢を、見せてもらった」



千歌「・・・・・・皆の、おかげで」


564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:24:07.76 ID:jWyG/GcGO


善子「……うそ!うそ!」


善子「だって!……私たちこそが、[亡霊]じゃない!!」



千歌「・・・・・・ぼうれい・・・・・・?」



善子「私たちこそが!……千歌にとって、ありえないはずのものだった……」



善子「……も……う。……[亡霊]なんて言葉じゃ、済まされない」



善子「わたしたち。……”悪霊”よ……!」




花丸「……」


梨子「……っ!」





千歌「・・・・・・」





善子「なんで。あなたの、思い出を……汚す、私たちなんかがいていいの」



善子「……私たちは……」






千歌「・・・・・・違うよ」



565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:25:13.44 ID:jWyG/GcGO


善子「……ぇ?」


千歌「私こそが、[亡霊]だった。・・・だって」


千歌「私は、自分の目的を果たした後も、この世にいたんだから。・・・・・・皆の姿を見た後でも、ここにいた」


千歌「答えを探した。探し続けた、皆の姿を見届けた後も。・・・・・・心残りなんてなくなった後もここにいた」



千歌「・・・・・・ほら。・・・・・・善子ちゃんの言う通り。・・・・・・わたしは、ぼうれいだったの」



善子「……そんな。そんなこと!」



千歌「・・・・・・」



善子「悪夢だったんじゃないの!?……私たちのせいで」


善子「イヤな夢を、見せたくない!……千歌には、イイ夢を見て欲しいよ!」




千歌「・・・・・・」





千歌「・・・・・・。・・・・・・・見てたよ」






千歌「見てたんだ。・・・・・・長い。長い・・・・・・」






566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:26:40.61 ID:jWyG/GcGO











ながい・・・・・・ゆめを。










567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:27:38.36 ID:jWyG/GcGO






千歌「・・・・・・でも。それも、もう終わり」


千歌「皆は、真実に辿り着いた。・・・・・・それとも、思い出したって言うべきかな」



梨子「……」






梨子(……いったい。この人は)


梨子(どれだけの時間を、過ごしてきたのだろう……)



梨子(どれだけの輝き≠……見届けてきたんだろう)





梨子(どんな、想いで。……夢を、見続けたんだろう)






梨子(どれだけの、気持ちを。………受け止めて、来たんだろう……)








568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:28:51.73 ID:jWyG/GcGO


千歌「・・・・・・でも、私は、もう体験しちゃってるんだから。そろそろ、本当の持ち主に……夢を、返す時だね」


梨子「本当の、持ち主……?」


千歌「モチロン。『高海千歌』のことだよ」


曜「!それって……」


千歌「私の、この、qoursでの[記録]は、ちゃんと残っている。・・・・・・それを渡してあげれば、明日から何の違和感もなく、Aqoursは続けられる」



鞠莉「……千歌≠ヘ、どうするの……?」



千歌「・・・・・・さあ。どうなるのかな」



千歌「さすがに、色々し過ぎたからね。消される・・・・・・ってことはないけど、皆の[記録]からは、多分いなくなると思う」


善子「そんな……!」


千歌「私も残念だけど。・・・・・・しょうがないよ」


千歌「これだけ、全ての[記録]や、町自体も作り直してまでやっていること。輝き≠探すこと」


千歌「その目的を考えると・・・・・・私の[記録]が残るとは考えにくい」


千歌「今までほっといてもらってたのも、なんだかんだ、オカルトだったり偶然の範疇で説明できて、真実を明らかにすることはなかったからだと思う」



千歌「・・・・・・でも、少なくとも。真似してる最中に、真似を成り立たなくするものが多すぎたら、実験としては失敗になっちゃうからね。そう考えると、やっぱりね」



569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:29:41.57 ID:jWyG/GcGO

ルビィ「……じ。じっけん」


千歌「・・・・・・ごめん。皆にとって、いい思いのする言葉じゃなかった」


花丸「でも。それじゃあ結局、真実は……」



千歌「・・・・・・今≠フ段階では。[記録]には残らないだろうね」



ダイヤ「……」


ダイヤ「では。……わたくしたちは、〈あなた〉にとって。……[亡霊]で、在り続けることになるのですか」





千歌「・・・・・・きっといつか。・・・・・・ちゃんと、自分たちの輝きを見つけた、〈あなたたち〉に会えるよ」





千歌「・・・・・・〈未来の私〉は、知ってるから」








ダイヤ「……う。う……」




570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:30:36.29 ID:jWyG/GcGO


善子「……私は。……ずっとわすれない」



千歌「・・・・・・ぇ」



善子「[記録]がなくなっても。記憶≠ノ」


善子「〈あなた〉を。覚え続ける……!」



千歌「・・・・・・よしこちゃん」



鞠莉「……トーゼンね……」



千歌「まりちゃん」



花丸「おらも……!」



千歌「はなまるちゃん」



果南「もちろん、私だって。……妹のこと、忘れるわけないもんね!」



千歌「かなんちゃん」



ルビィ「わたしたち。……あなたがいたから、ここにいるんだよね」



千歌「るびぃちゃん」



ダイヤ「そんな存在であるわたくしたちが、あなたのことを忘れることはあり得ない」



千歌「だいやちゃん」



曜「……あなたの輝き≠受けて。わたしたちは、その光を反射させるだけじゃない」


曜「単純に、誰かの鏡としての光じゃなくて。……わたしたちなりの。……わたしの、光を放ってみせる」



千歌「・・・・・・ようちゃん」



梨子「……あなたがそうしたように」




千歌「りこちゃん・・・・・・」




571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:31:06.75 ID:jWyG/GcGO




千歌「みんな。さいごに、あなたたちにあえて、よかった」





千歌「・・・・・『千歌』のこと。よろしくね」





千歌「わたしのせいで、まだ夢を見ていると思うから。・・・・・・起こして、一緒に夢を追いかけてあげて」







千歌「・・・・・・・・・・・・」









千歌「・・・・・・みんな。また、未来でね」










572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:31:41.20 ID:jWyG/GcGO










・・・・・・長い。ながい、夢を。・・・・・・ながいゆめを見ていた・・・・・・・








奇跡のような出会いをした、あの人。・・・・・・わたしの、ともだち・・・・・・。




すごく、キレイな指で。・・・すごく、キレイな手で。


キレイな音色を奏でてくれる、世界一のピアニスト。




わたしの、だいすきなともだちだった。





573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:32:25.12 ID:jWyG/GcGO


「ねぇ、大丈夫?」


「ん?・・・・・・いやぁ、大丈夫に決まってるよ」




「……嘘。……うそ、ばっかり」


「・・・・・・そんなこと、ないよ」


「……そんなこと、あるよ」


「・・・・・・そんなことないってば」


「…………ホントに、そんなことないの?」


「そうだよ!・・・・・・。ぜったい。・・・・・・そんなこと、ないんだから・・・・・・」


「……。じゃあ。そういうことに、しておくか!」


「・・・・・・なんだなんだ!?そういうことにしておくって!」


「ふふっ!……ねえ!」



574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:32:51.69 ID:jWyG/GcGO


「・・・・・・うん?・・・・・・なあ、に・・・・・・?」



「……。……、ありがとう。……あなたに、あえて」





「わたし。……しあわせだったよ」






「・・・・・・」





「ごめんね。……ありがとう」


「ありがと。……ち」






「・・・・・・ばか」




575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:33:22.33 ID:jWyG/GcGO


彼女は、人間のまま。・・・・・・人間の奏でる、音のまま。



ずっと。音楽を奏でて。・・・・・・静かに。最後には、沈黙の音さえも愛して。







・・・・・・わたしをのこして・・・・・・・・・







・・・・・・夢を、見ていた。


576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:34:18.96 ID:jWyG/GcGO


「……ああ。……〈あなた〉、なの……?」


「・・・・・・そうだよ」


「……。若い、まんまなんだねぇ……」


「・・・・・・うん」


「あは、はっ。……うらやましい、ねぇ……」



「・・・・・・ごめんね」



「……え?。……何が、ごめんねなんだい……?」




「私だけ。・・・・・・機械だから」


「……」



「私だけ。歳をとれなくって。・・・・・・一緒に。お婆ちゃんになっても一緒にいようって言ったのに」



「……」



「ごめんね。・・・・・・ごめんなさい」

577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:35:04.97 ID:jWyG/GcGO


「……違うよ」


「・・・・・・?」


「ありがとう、だよ。……こんな時、言う言葉は」


「・・・・・・っ」


「ありがとうしかないよ。……こんなふうに、お婆ちゃんになっても、一緒にいてくれて」


「しあわせだよ」


「・・・・・・」



「だいすきだよ。……ち、」



「・・・・・・・・・!」



「…………ち」




「……………」





「・・・・・・。私も」



「わたしも。・・・・・・だいすき。だいすき!」



578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:36:01.21 ID:jWyG/GcGO

ずっと一緒にいようって、言ったはずの人だった。


わたしのしんゆう。・・・・・・お婆ちゃんになっても、一緒に笑い合えるって。想っていた人だった。



・・・・・・その夢の中には。ずっと、皆がいた。





「う。う〜ん……」


「ほら。……待ったは、ナシですよ」


「いや、でも!……もっと、イイ手があるから……」



「・・・・・・なに、してるんですか?」


579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:36:37.44 ID:jWyG/GcGO


・・・・・・夢の中のその姉妹は。・・・・・・ずっと、遊んでいた。


遊びつくされた、ゲーム。・・・使い古された、それを。


・・・・・・もう、攻略され尽くされた、それを。・・・・・・何でか、二人は遊んでいて。


それを見た、私は。つい、質問しちゃったんだ。





「あの。・・・なんで。・・・・・・そんなゲーム、しているんですか」


「……そんな、とは?」


「あ。いや。・・・他意は、無いんですけど。・・・・・・・その。いわゆる。・・・・・・私は、そう思わないけど。・・・・・・いわゆる、時代遅れのゲーム、してるんですよね」




「・・・・・・もう。時代遅れの、つまらないゲームだって。必勝法だって、機械からすれば、全部わかってるゲームだなんて、言われるような・・・・・・」


580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:37:28.64 ID:jWyG/GcGO


「……ふふっ。時代遅れ、ですか……」



「……うーん。今日こそ、勝てると思ったのに」



「でも。……このゲームを、時代遅れにした、技術。……機械の力」


「それを、生み出したのは。……わたくしたち、時代遅れの。つまらない、皆でしょう……?」



「・・・・・・!そっか。うん。・・・・・・そう、だね」



「・・・・・・流石だね」



「ふふっ……当然、でしょう?」


「わたくしは。……〈あなた〉の仲間なのですからね」






・・・・・・その姉妹は。まるで、示し合わせたかのように。


姉が夢から去った後。・・・・・・妹も、後を追うように、去っていった。



姉と遊んでいた妹は。・・・・・・姉と同じくらい、立派になって・・・・・・。


でも、やっぱり姉と遊ぶ時に見せていたように。あの時と同じように、可憐なままだった。


・・・・・・私が可愛いと思った、あの時の面影だけは。ずっと、持っていた・・・・・・。


581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:38:15.30 ID:jWyG/GcGO


「わたくしたち、しあわせだったんです。……自分たちの、大好きを、言わせてくれる場所を作った、人に会えて」


「……あなたに、あえて」



「・・・・・・」



「だから。……頑張ルビィ、だよ」



「…………この年になって言うの。すごく、恥ずかしいけどね………」




「・・・・・・。かわいいから、いいんじゃない?」



「……もう。ふふっ」


「あんまり、わたくしのことからかっちゃダメですわよ?……わたくしだって」


「りっぱに、なったって。おねえちゃんにいってもらえたんだから……」



「・・・・・・ごめん」



「……ありがとう。だよ」



「・・・・・・」



「じゃあね。……皆に、よろしくね」



「・・・・・・うん。・・・・・・ありがとう」



「……ふふっ」






・・・・・・私の、幼馴染。・・・・・・私、たくさんお姉ちゃんがいるけど。



私の、もう1人のお姉ちゃん。・・・・・・最後の夢の時まで、あっけらかんとしてたな。


582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:39:15.32 ID:jWyG/GcGO


「………やー。また、さっきぶりに会ったね。……干物、いる?」


「・・・・・・いや、もういいって。・・・・・・それより・・・・・・・」


「・・・・・・機械の体に。・・・・・・改造、しなかったんだね」


「……あー。まあ、ね」


「どうして・・・・・・?」


「私。……やっぱさぁ、海が好きでさ」


「・・・・・・」


「海って。生身で潜ってこそだと思っちゃうんだよね!……古い、考え方だと思うけど」


「そんなこと、ないよ」


「・・・・・・。私も、そう思うよ」

583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:41:26.51 ID:jWyG/GcGO

「……ありがと。……じゃあ、わかるでしょ。……確かに、私。もう、よくないよ」


「機械に、なれば。……私、生きてけるのかもしれないけどさ」


「……やっぱ、皆に、生身で潜ってこそだよって言ってた身としてはさ!……貫き通したいんだ」


「・・・・・・頑固だね」


「……まあ、ね。……でも、体は固くないんだよ」


「なんなら、抱きしめてみてもいいよ?……こう見えて、柔らかくて気持ちいいって、評判なんだよ」


「・・・・・・だれからの評判だよ・・・・・・」


「……ん?もちろん!娘達とか、孫達とかからさ!」

584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:42:40.21 ID:jWyG/GcGO



「・・・・・・もう。家族の話ばっか、するんだから」


「……あはは。……いいぞ〜、家族は」


「わたし。……自分の体で、過ごせてよかったなって思える。……家族の、おかげでね」



「・・・・・・」




「……ゴメン。……こんな話、するべきじゃないって……〈あなた〉には、しちゃだめだって、わかってるけど」



「私にとっての家族は。……〈あなた〉も、そうだから」



「だから。……その、なんだろうな」


「……」



「・・・・・・大丈夫、だよ」



「……」



「もし、あなたが先に行っても。・・・・・・わたしは、ずっと、わたしのままだから」



「だから。・・・・・・心配、しなくても大丈夫だよ」


585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:43:48.92 ID:jWyG/GcGO



「…………そっか」




「うん。……安心したよ」


「じゃあ……。先に、行くね」



「・・・・・・うん」



「ありがと。……んじゃね」




「・・・・・・うんっ」





「……あ。そうだ」





「・・・・・・うん?」





「……や、やっぱ改めて言うとなると、その。……は、恥ずかしいけど。……その」


「……ハグ、しよ?」




「・・・・・・うんっ!」






そうして。あの人は、大好きな、海と家族に囲まれながら。


・・・・・・安らかに、眠った。
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:45:19.43 ID:jWyG/GcGO


「……ふぅ〜っ」



「・・・・・・お疲れ様です。住職さま」



「とっても素敵な説法でした。・・・・・・私、考えさせられました」



「……考え過ぎじゃないですか?」



「・・・・・・え?」



「……私、常々思っていたんです。……頑張り過ぎじゃないか、大丈夫ずらか……って」



「・・・・・・ずらか」



「……。そこには触れませんが。……一つ。貴女にこそ、話しておきたいことがあります」



「・・・・・・私にこそ?」



「はい。……『所詮人間は一人』……私が、先程お話した言葉ですが」


「きっと。機械の体をもち、生き続けるあなたにこそ、この言葉の意味がわかってしまうと思います」



「・・・・・・」


587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:46:00.79 ID:jWyG/GcGO


「……いえ。……ちょっと、語弊がありますね。……機械だから、というところは間違いです」


「…………。〈あなた〉だからこそ。………全てを見届けようとする、貴女だからこそ。……先の言葉の意味、解ってしまう気がします」



「・・・・・・」



「……さきの言葉、私が考えるに……《逆》なんです」


「・・・・・・《逆》?」



「はい。……きっと、人間は」


「どんなに頑張っても、逃れられない。……思い出と、家族と。……友達との、……様々な、関係から」



「・・・・・・」



588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:46:31.15 ID:jWyG/GcGO


「そこから、独立することが、出来ない。……独りになることへの、渇望」


「逃れられないからこそ、言い聞かせる必要がある。……独りなんだ、と」


「それこそが、悟りへの渇望なんです。……あらゆる関係性に、私達は、いつの間にか絡めとられてしまう」


「そのせいで、色んな煩悩に、私達は惑わされる。……執着を、する」



「・・・・・・」



「でも。……きっと、あなたは出来てしまう」


「執着から……逃れることが……」



「・・・・・・」



589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:47:30.51 ID:jWyG/GcGO


「……色々なものを自在に変えられる存在。それが、今のあなたなんですよね」



「・・・・・・うん」



「……なら、いつか。……あなたは、誰にも絡めとられることのない……本当の意味での、独り≠ノなってしまうかもしれない」




「……わ、わたしは。……おらは……それが、辛い……」




「・・・・・・大丈夫だよ」



「………え?」



「だって。その時なら」


「《逆》も、あり得るかもしれないじゃん」



「……《逆》」



「・・・・・・私は、機械に近づいた人間だけど。・・・・・・もしかしたら、人間に近づいた、機械があるかもしれない」



「そしたら。・・・・・・きっと」



「わたし。友達になれるかなって思うんだ」




「……」




「だから。・・・・・・大丈夫だよ」






「……そうだよね。あなたなら、大丈夫だよね」



590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:47:58.26 ID:jWyG/GcGO


「…………。〈あなた〉なら。きっと、だいじょうぶずら!」



「・・・・・・うん!そうずら!!」



「……あ!真似した!」


「うん!真似しちゃった!?」


「バカにしてる!?」


「バカにしてない!!」


「そっか!」


「そうだよ!!」





・・・・・・お寺の。凄くきれいで、可愛くて、ちょっぴり食いしん坊な、かしこいあの人も。



気が付いたら。・・・・・・夢の中から旅立って、いった。




591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:49:05.53 ID:jWyG/GcGO


そして。夢は、流れて。



・・・・・・あの人も、ついに・・・・・・



私を助けてくれた、あの人もついに。





「……これまで、ね」


「・・・・・・そうなの?」


「うん。……そうは、見えないと思うけど」


「うん。・・・・・・私より、キレイだもん」


「あはは……。サイボーグに、そんな言葉、通じないわよ」


「そう、なの・・・・・・?」


「そうよ。……ねえ、あのね?」


「うん・・・・・・?」




「ごめんね。……責任を、果たせなくて」




592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:49:43.39 ID:jWyG/GcGO


「・・・責任・・・?」



「そう、責任。……私、責任があるの」


「……機械の、技術を。……発展させた、その責任が……」


「技術の発展は、確かに皆に便利をもたらした……」


「でも、幸せはもたらせなかった……」


「残したのは……不幸のほう……。だから……」



「・・・・・・。だから、〈あなた〉は生き続けたの?」



「自分を。・・・・・・機械の体にしてまでも。・・・・・・ムチャな、改造を自分にしてまでも」



593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:50:19.87 ID:jWyG/GcGO


「……当然でしょ……?」



「わたしが、自分から受けなきゃ。……新しい技術があるんなら、私が、その被験者にならなきゃ」


「発展させた、張本人なんだから。……私が、受けなきゃ、いけないの」


「結果として。……皆の、存在意義は、見失われてしまったから……」


「皆を、見届けなきゃいけないんだから……」




「・・・・・・そうやって。自分を責めないでよ!」




「…………!!」



594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:51:30.58 ID:jWyG/GcGO


「私は、感謝してるんだよ。・・・・・・私の命、長くしてくれた・・・・・・!」



「……」



「・・・・・・これ。あなたがくれた、ペンダントだよ・・・・・・」


「……まだ。持ってたんだ」


「当たり前だよ。・・・・・あなたの運転で見に行った、あの時の。・・・・・・皆の、9個の星があるんだからね」


「………」



「・・・・・・この写真、撮れたの。・・・・・・あなたの、お陰なんだよ・・・・・・」



「わたしが、あの日。・・・・・・交通事故にあって、手が・・・・・・」



「………」



「でも。・・・・・・あなたが機械の手を。・・・・・・本当に、人間そっくりな手を、くれたから」



「私の家族に・・・・・・姉妹に、触れられて。一緒に、大人になった私の写真を撮れたんだ」



「………」




「・・・・・・最期に。あの子を撫でられた」




「あなたの、おかげなんだよ」



「………そう」


「・・・・・・ん」




595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:52:24.50 ID:jWyG/GcGO


「………ねえ」



「・・・・・・ん?」



「わたし、頑張ったのかな……?」




「え・・・・・・」




「………わたし、頑張れたのかな……?」







「・・・・・・頑張ったよ。・・・・・・誰よりも、頑張った」



「………そう。……よかっ、た」



「・・・・・・」



「でも。……わたしより、もっと頑張っちゃう、〈あなた〉を、残していくのは、心配だよ……」




「・・・・・・」


596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:53:11.60 ID:jWyG/GcGO

「わたしなら、大丈夫、・・・・・・一緒にいてくれる、人がいるから」


「……ふふっ。そうね。誰よりも、善い子がいるもんね」




「……そ、れで。……本当に、見届けるつもりなの?……最後まで……人間の……。生末、を」




「・・・・・・うん。・・・・・・あなたに代わって、やり遂げるよ」




「そう……。そうよね」


「あなたは、そういう人だもんね……」



「……ありがとう」



「・・・・・・うぅん」





「……。じゃあ……私は、先に、皆に会いに行くね」



「うん。・・・・・・ありがとう」



「こちらこそ。……また、ね」










そう言って、誰よりも仲間を愛した彼女は。


一足先に、仲間の元へと旅立って行った。



597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:53:50.61 ID:jWyG/GcGO





「はぁ。……もう、意地っ張りなんだから」


「私の周り、皆そう。……自分が辛くても、周りに見せようとしないで、耐えて耐えて、歯を食いしばって前に進んでいく人ばっかり」



「……少しは。……仲間に頼って、任せればいいのに」



「……〈あなた〉もそう思わない?」







ぶっきらぼうな口調で、愚痴を言っているのは。


私と同じ時期に、機械の体になった。サイボーグの、女の子だ。





598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:54:46.84 ID:jWyG/GcGO



「・・・・・・ホントだね」



「でも、〈あなた〉の言うことじゃないと思うよ。・・・・・・こんな、ムチャして・・・・・・」



「サイボーグと、アンドロイドの戦いを止めちゃったんだからね」




「……」




「知ってる?『天使』って呼ばれてるんだよ。・・・・・・羽を生やしたり、無茶苦茶な改造をして、一番人間離れした姿になって」


「でも、最後は、人間の姿になって。争いを、止めるように訴えた、〈あなた〉のこと。・・・・・・皆、『天使』だって」



「……なんにもわかってないじゃない、それ言ってる連中は」


「私は、カッコイイ羽を泣く泣く取って、地上に舞い降りたのよ。……そんな存在は、天使じゃなくてむしろ、《逆》の存在でしょ!」



「・・・・・・《堕天使》・・・・・・?」



「そういうこと!……流石に、よくわかってるじゃない、リトルデーモン?」


「いや違うけど」


「否定早いな!」


599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:55:30.00 ID:jWyG/GcGO



彼女とは、ずっと一緒にいた。




長い、長い、時を。気の遠くなるような道のりを。




私たちは、共に歩んできた。




意外と言えば意外かもしれない。・・・・・・まさか、彼女と過ごした日々が、一番長くなるなんて。






近い寿命を持って。サイボーグという存在で。












・・・・・・これからも、ずっと一緒にいれると思っていた。









600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:56:34.33 ID:jWyG/GcGO


「・・・・・・そうやって、誤魔化そうとして。やっぱり、人のこと言えないね」



「…………だって」



「本当に辛いのは、〈あなた〉のはずじゃない……」



「・・・・・・」



「辛いのに、頑張って。頑張って頑張って。……いつもどーでもいいことで泣いたりするくせに、一番大事なことは、辛くても、笑って何とかしようとする」




「……機械になってでも。……輝き≠見届けようとする」




「自分たちにしか、出来ないことなんて。もう、あり得なくなった」


「何でも、真似ができる。……どんなものも、それだけにしか出来ないことは、なくなってしまったこの時で」


「それでも、生きる意味≠見出そうとする存在がたった一つでもあるなら。……その姿を、見届けたいだなんて」




「・・・・・・」



601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:57:07.73 ID:jWyG/GcGO


「……せっかくの機械の体なんだから、もっと楽しいことに使ったらいいのに」


「ただ、耐えて、見届けるために、生き延びるために、手に入れるようなものじゃないでしょ?」


「……あなたも。……『理事長』も。……皆、意地っ張りなんだから……」


「サイボーグになるのは意地っ張りって、相場が決まってるのかしら」



「・・・・・・それを言ったら〈あなた〉だってそうじゃん」


「私は、別に……。ただカッコイイと思ったから、こうなったってだけよ」


「ツバサを生やせるなら。……やっちゃおうって、気になるでしょ?」



「・・・・・・」



「……。何とか言いなさいよ」


602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 11:57:57.71 ID:jWyG/GcGO


「……」



「確かに、人間そっくりな手になった。・・・・・・でも、やっぱり、怖かった」


「部分的にでも、機械になった私を・・・・・・。皆が、受け入れてくれるのか・・・・・・」



「…………」



「あの人と、あなたは。・・・・・・ほとんど、同じ時期に、サイボーグになったよね」



「…………」



「・・・・・・私のため、だったんだよね」



「…………」



「私が、奇異の目で見られないように。・・・・・・私一人だけ、孤独な思いをしないように」



「私を、受け入れるために。・・・・・・やってくれた、ことなんだよね」



603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:02:42.43 ID:jWyG/GcGO



「・・・・・・私がこの体になっていった、キッカケの、あの時のことだよ」


「・・・・・・あの時。あなたは、どこも悪いところがないのに、サイボーグになった……」



「……さあ。どうだか。[証拠]もないのに、よくそんな恥ずかし気なこと、言えるわね」



「・・・・・・[証拠]は、あるよ」


「……どこに……ってうわぁ!急にくっつかないでよ!」



「・・・・・・目の前に、だよ」



「……え?」


「だって。顔に出るんだもん。・・・・・・あなたって」




「……。私の、表情が、そんな、表情をしていたとでもいうの?」


「そうだよ」



「……あり得ない。……私は、サイボーグ。……顔の表情も、それを形作る元々の感情ですらも、パラメーターとして、制御できる」



「だから。……きっと、見間違いよ」


604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:03:28.04 ID:jWyG/GcGO


「・・・・・・じゃあ。・・・・・・音だったら・・・・・・・?」



「………音?」



「あなたの胸に。響いている、この音・・・・・・。あなたの鼓動の、音」



「優しい音。・・・・・・あなたの、音。・・・・・・すっごい、バクバクいってるけど?」



「……う」



「どうして、こんなに怖がってるの・・・・・・?」









「……だって」




「だって。あなたを、置いていけない。……もう、終わりだなんて思いたくない」




「・・・・・・」



605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:04:51.41 ID:jWyG/GcGO


「ごめん……」



「・・・・・・え?」















「ごめん。あなたとずっと一緒にいられなくて」
















「・・・・・・」





606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:05:49.58 ID:jWyG/GcGO


「・・・・・・ありがとう」



「え……」



















「わたしとずっと一緒にいてくれて、ありがとう」



















607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:06:57.92 ID:jWyG/GcGO


「……う。うぅううぅぅ!」



「・・・・・・ゥ」



「ばかっ!……ばかぁ………!!」



「・・・・・・グスッ」




「そんなの、《逆》よ!!わたしの方が……ずっと一緒にいてくれて、ありがとうよ!!」



「わたしを、受け入れてくれて……!!……ありがとう、なのに……!」




「・・・・・・ごめん」


「だから!こっちがごめんだってば!」


「・・・・・・ありがとう」


「だからぁ!……こっちがありがとうだって!」





「・・・・・・終わんないじゃん・・・・・・」



608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:07:46.34 ID:jWyG/GcGO



「いいの!終わんなくていいの!……ずっと、ずっと続けばいいの……」



「・・・・・・ずっと、続けるの?」



「ずっと。……そしたら、ずっと、一緒にいれる」














「ずっと。……わすれな、い……」













「・・・・・・っ」




609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:08:30.90 ID:jWyG/GcGO




「ねえ。……私でも、よかったの……?」





「・・・・・・え?」





「わたしでも……よかった、の?」





「・・・・・・〈あなた〉で。よかったよ」











「……そう」



「………よかった」




610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:09:29.17 ID:jWyG/GcGO




「・・・・・・ねえ?」





「……」





「・・・・・・ねえっ!」





「………」






「・・・・・・。ねぇ」







「…………」







「・・・・・・・・・ッ!!」



「・・・」




「・・・・・・」


611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:10:25.94 ID:jWyG/GcGO






「・・・・・・。ずっとわすれない」







「わすれないよ。でも。・・・・・・・やっぱり」




「やっぱり。・・・・・・いや」





「いやだよ」


「いやなんだってば」


「いやなんだよ」













「・・・・・・いや、だ」






612 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:11:13.14 ID:jWyG/GcGO



「いやだ。・・・・・・いかないで!」




「わたしと。ずっといっしょにいて・・・・・・!!」






「わたしを・・・・・・一人にしないでよ」








「わたしと、いっしょにいてよ・・・・・・!」















「よ、・・・・・はね、ちゃん・・・・・・」

613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:13:08.53 ID:jWyG/GcGO



「・・・・・・」






「・・・・・・・・・・・・」










「…………」




「……。……ちがうわよ。わたしは、よはねじゃなくて」




「・・・・・・っっ!!」










「わたしの、なまえは…………」










「……………」












堕天使は。それはそれはキレイな姿で。


私の大好きな、姿のまま。


天使に戻って。・・・・・・天に、帰っていった。



614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:14:13.09 ID:jWyG/GcGO




・・・・・・それからも。私は一人で、輝き≠見続けてきた。





長い、長い時を。旅してきた。




いつのものだっただろう、だれのものだっただろう?




[記録]には残っているはずのものが。だんだん、記憶≠ゥら消えていった。










それでも、ずっとおぼえていることがある




あれは・・・・・・だれだったんだろう?








誰のものかわからない、言葉と歌が、でも、ずっと残っている。








615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:15:02.76 ID:jWyG/GcGO



「どうして、歌を歌い続けているんですか」




「・・・・・・好きだから、かな」




「好きだから・・・・・・」





「それに。・・・・・・歌を歌ってるとね、本気で思えるんだ」







「いつだって飛べる。あの頃のようにって」








「・・・・・・飛べる・・・・・・」


「あなたも、そうじゃないかな?」


「・・・・・・そう、ですね」


「あなたは、見届けるつもりなんだよね。・・・・・・皆が、どこに行き着くのか」


「・・・・・・はい」


「そっかぁ。・・・・・・タイヘンだね」


「・・・・・・はい」


「でも、挫けないでね。私、応援してるよ」







「・・・・・・ファイトだよ!」







「・・・・・・はい!」



616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:15:51.23 ID:jWyG/GcGO





・・・・・・ながい。ながい、じかんをかけて。





ながい。ながい、ゆめを。・・・・・・ながいゆめを、みてきた・・・・・・。





そして、そのゆめのさいごには。





[記録]に残っていない、記憶≠ノしかなかった、あの日々が。









・・・・・・輝き≠目指した、あの日々が。
















私の目の前に、広がっていたんだ。






617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:16:43.26 ID:jWyG/GcGO



……ヵ、……ヵっ!



……ちかっ!……ち……ちかっ、ちゃん……!





ちか!ちかちゃん!……ちか!!!






「……ぁ、れ……?」








善子「千歌!!」



千歌「……ぇ……?」










目が覚めた時。そこは、知らないんだけど知っている……。


いつもの、風景が。


でも、目覚めたら。


違う朝が、笑いかけていた。




618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:17:35.76 ID:jWyG/GcGO



果南「よかった。……ようやく、目が覚めたんだね」


千歌「え、ええっと……。ここって……」


鞠莉「……まだ、寝ぼけてるの?」


千歌「……いや。……うん、そうかも」


ダイヤ「……大丈夫ですの?」


千歌「え?……何が……?」


ルビィ「……千歌ちゃん。泣いてたんだよ」



千歌「……ぇ?」








言われて、ようやく意識した。



自分の……私の、ことを。



私の頬には、つぅっと、垂れているものがあった。



冷たくて。でも、暖かい。……水の、跡が、ここにはあった。




619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:19:10.11 ID:jWyG/GcGO

千歌「……そっか。……私、泣いてたんだ」


善子「……そんなことにも気づかなかったの?……まったく、心配させないでよね」


千歌「しんぱい……?」


善子「あっ。えっと、その。それは、何というか……」



花丸「善子ちゃん、千歌ちゃんが起きなくて、急に千歌ちゃんの目から涙が出てくるものだから、すごくうろたえてたんだよ」


花丸「悪い夢でもみてるんじゃないかーって」

善子「あ、ちょっ、ずら丸!何てこと言うのよ!」

ルビィ「……照れなくてもいいのにぃ」


善子「……う、う。うるさーい!!」




千歌「あはは……」












元気な1年生たちを見ながら、私は自分の記憶≠思い出していた。


……そうだ。昨日、2人で合宿の続きをしてたんだけど、私が何も思い浮かばなくて。



結局、皆を巻き込んで。急遽みんなで合宿をすることになったんだ。





あーでもない、こーでもないって言いながら……それでも、皆で一つのものに辿り着いたんだ。







620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:19:54.63 ID:jWyG/GcGO


千歌「……うぅん。でも、いい夢だったなぁ〜」


曜「……千歌ちゃん。どんな、夢だったの?」

千歌「うん?」


曜「……泣いてたけど。でも、良い夢だったんだよね?」


曜「……それって、どんな夢?」


千歌「……ああ、えっとね」


千歌「あんまり思い出せないんだけど……」






千歌「……私に、そっくりな人が出てきたの」



621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:20:37.45 ID:jWyG/GcGO



千歌「その人は、頑張って、頑張って。……色んなものを見続けて、頑張って頑張って」





千歌「いっぱい辛いこともあったけど。いっぱい、幸せだった」






千歌「最後に……夢の中なのに、夢を見てて」




















「私の背中を、押してくれた」















「……そんな、夢」






622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:21:17.30 ID:jWyG/GcGO



「……それって、もしかしたら」




千歌「……?」





梨子「未来のあなたが知ってることなのかもね」




千歌「……未来の……」





623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:22:08.20 ID:jWyG/GcGO




・・・・・・そう・・・・・・














未来の僕らは知ってるよ













・・・・・・だから・・・・・・




624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:22:52.08 ID:jWyG/GcGO



「本気で駆け抜けて、ね?」







「私、見届けるよ。だから・・・・・・」












千歌=u夢をつかまえにきてね!!」







625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:23:44.21 ID:jWyG/GcGO


おしまい


626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 12:28:16.54 ID:jWyG/GcGO
酒飲みながら書くとこういう冗長で不可解なものが出来上がってしまう。

こんな拙い文章でも、もし読んでくれた方がいたとしたら、その方には心よりお礼申し上げます。
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/06(土) 20:50:19.50 ID:mgQExjaWO

感動した
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/07(日) 01:16:07.32 ID:KQNCRl690
大切な仲間達との別れから始まった旅路、それを終わらせてくれたのも大切な仲間達。色々と考えさせられるなぁ
あ、乙です
629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/07/17(金) 13:03:55.24 ID:CmZ2xfIdO
何が書きたいのかさっぱり分からない
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