梨子「未来のあなたが知ってるね」

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105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:06:36.56 ID:yi/lREP/O


ルビィ「……つかれたぁ」

善子「……大丈夫、ルビィ?……病み上がり、なんでしょ?」

ルビィ「うん、大丈夫。……ううん。病み上がりっていうのは、違うよ」

善子「そ。そう……?」

ルビィ「うん。……ちょっと、雨が続いて、でも曜ちゃんの紹介してくれたところもたまたま使えなくて、だから、感覚を忘れないように家で練習し過ぎたってだけだから」

善子「……」

ルビィ「でも、やっぱり。ちゃんと見てくれる人がいるところで練習したほうがいいね」

梨子「……」

ルビィ「自分で練習してて、全然上手くいかないなって思ってたことも、鞠莉ちゃんのアドバイスのお陰ですぐ出来るようになったもん!……やっぱり、皆で練習したほうがいいね」

善子「……今後は、あんまり無理しちゃダメだからね」

善子「いつか……私たちが。その、見てくれる人になるんだから」

ルビィ「……ぅん。……そう、だね……」

梨子「……あんまり気にしすぎもよくないよ」

ルビィ「だいじょうぶ。だってルビィ、スクールアイドルだもん」

善子「……」

梨子「……たくましくなったわね、ルビィちゃん」

106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:09:05.08 ID:yi/lREP/O

梨子(……むっちゃんたちの不思議な話を聞いた後。……私たちは、いつも通り練習をした)

梨子(前日、無理がたたって、疲れが出ちゃったルビィちゃんも、ちゃんと回復して、練習に参加して)

梨子(昨日は疲れがあって充分に発揮できなかったんだろうけど、自主練習の成果はしっかりあって。見間違えるほどすごく上手くなっていて)

梨子(私達も、気合が入って。すごく、頑張ったと思う……)


梨子(……Aqoursを物凄い力で支えてくれている。ルビィちゃんのお陰で、Aqoursは、頑張れているんだよって)


梨子(皆が思ってることなんだけど。……きっと。まだ、それは伝えられない)


梨子(……いつか。だれか。ルビィちゃんに、伝えられたらいいのにな)

107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:09:54.09 ID:yi/lREP/O

善子「……そ、そういえばルビィ。……アレ、ちゃんと読んだ?」

ルビィ「え?……あ、アレ?読んだよ。面白かった!」

善子「そ。そうでしょ?……中々凝ってるお話で、読み応えあったでしょ!」

ルビィ「うん!おもしろかった!……流石善子ちゃんだよね!」

善子「……あーっはっは!もっと私を褒め称えなさいルビィ!あとヨハネ!」

ルビィ「うん!さすがよはねさまぁ〜」

梨子「……もぅ。善子ちゃん、バスの中だよ?」

善子「あ””!……ご、ごめんなさい……」

ルビィ「……ふふっ。ありがと、善子ちゃん」

善子「……ヨハネだってば」

108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:10:26.09 ID:yi/lREP/O

梨子(……善子ちゃん。ルビィちゃんに気遣いさせないように、無理したんだろうな……)

梨子(そのお陰で、私たちの場も明るくなって。……ルビィちゃんの強張った笑顔も、自然な、ルビィちゃんの可愛い笑顔になっていた)

梨子(……たまたま、沼津に用事があって。私とルビィちゃん、沼津住みの善子ちゃんとで一緒のバスに乗ってて)

梨子(正直、ちょっと珍しいメンツだから……私も、少し緊張しちゃってたんだけど)

梨子(善子ちゃんは、流石というか……私に出来ないこと、出来るんだなって、思っちゃった)


善子「……あ〜あ。地震があったせいで、果南と曜は千歌にべったりだし」

善子「鞠莉とダイヤはクソ真面目に学校の用事。……ずら丸は何か月かぶりにお婆ちゃんがご飯作ってくれるから一緒に食べたいなんて理由で、こっち来てくれないし」

善子「……せっかくなら。ルビィも元気になったし、皆でこっちに来たかったのに」ボソッ

ルビィ「……善子ちゃん」

善子「……ん、なに?」

ルビィ「善子ちゃんって。すっごくイイ声してるよね」

109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/02(火) 20:14:03.79 ID:yi/lREP/O

善子「な。なに?……急に……」

ルビィ「善子ちゃん、イイ声してるから。……小さい声でも、響いちゃうんだよ?」

善子「……は、ええ!?……あ、……あ?」

梨子「……全部。丸聞こえだったよ、善子ちゃん?」

善子「……!ぅ……!」

善子「き。聞くなぁ!」

110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:19:17.00 ID:yi/lREP/O
ルビィ「善子ちゃん。皆と、一緒にいたいんだね?」

善子「……ぅく」

梨子「……かわいいとこ、あるじゃない。……ヨハネちゃん?」

善子「これみよがしにヨハネに乗っかるなぁ!……そ、そもそも!梨子は何の用事があって沼津に行こうとしてるの!?」

梨子「……え。わ、私……!?」

善子「そうよ!何の目的もなくこっちにこないでしょ、梨子は!!」

梨子「……ま、まあ、そうだけど……」

ルビィ「梨子ちゃん。ルビィも、気になるな」

梨子「る。ルビィちゃんまで……」

善子「ねえっ!どうして、こっちに来てるの?」

梨子「……それは……」

梨子「……あの、その。……しいたけちゃんの、ことで……」ボソッ
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:19:58.66 ID:yi/lREP/O
ルビィ「……しいたけ?」

善子「……きのこ?なす?」

梨子「違うわよ!……千歌ちゃんちにいる、あの、しいたけちゃんのこと!!」

ルビィ「……ああ。ワンちゃんかぁ……」

梨子「そ。そう……。その、しいたけちゃんに、ちょっと、お詫びをしたくって……」

善子「……おわび?」

ルビィ「……あの、最近千歌ちゃんち行く度に、善子ちゃんが『よしよ〜し!かわいい……かわいいよー!もふもふぅ!まけんけるべろすぅ〜!』とか言って猫可愛がりして、顔をうずめて、でも本人というか本犬はちょっと嫌がって顔をそむけてる、あのしいたけちゃんに?」

善子「……そんなショッキングなこと、かわいい声でいうなぁ〜!!あと猫じゃなくて犬よ!!」

112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:20:45.02 ID:yi/lREP/O

梨子「……と、とにかく。……あんまりにも、あんまりな対応というか……。勝手に避けちゃってただけだなって思って、せっかくだから仲直りというか、仲良くなりたいなって思って……」

ルビィ「……プレゼント、したいってこと?」

梨子「……な、なんでそこまで……!?」

ルビィ「なんか、そんな感じがしたから。……梨子ちゃん、プレゼントを探すために、沼津来たんだね」

梨子「……ぅ。うん……」

善子「……カワイイとこあるじゃない、リリー?」

梨子「ぅ。……うぅ……」


梨子(い、1年生2人に何か悟られたかのような言われ方をされてしまった……!)

113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:27:15.47 ID:yi/lREP/O
ルビィ「それで、何をプレゼントするつもりなの?」

梨子「……実は、あまりちゃんと決めてなくて。……どうしよっかって悩んでたんだけど……」

善子「……まあ、食べ物なんかは楽だと思うけど、勝手にあげるのはご法度だしね」

梨子「……そうなの。だから、アクセサリーとかどうかなって思ってたんだけど……」

ルビィ「アクセサリーかぁ。それって、しいたけちゃんの首輪についてるアレみたいなのだよね?」

梨子「まさしくそれよ。最近、どうも古くなってくなってきたっていうか……スレてきてるし」

善子「……それ、ちゃんと確認したの?」

梨子「……ま、まだ間近では見てないけど。……でも、ちょっとキズがありそうだなとは、思ってたから……」

ルビィ「そっか……」

善子「……でも、いくら沼津でもあるの?……犬用の、それも首輪用のアクセサリーみたいなの」

ルビィ「う〜ん……注意してみたことがないから何とも言えないけど、売ってるイメージはないかも……」

梨子「……そ、そうかもしれないというか、そうだと思うけど!……な、なにかあるかなぁ〜って思って……」

善子「……そういう探し方じゃ、見つかんないと思うわよ」

梨子「うぐっ」

ルビィ「ドッグタグならともかく、しいたけの形をしたアクセサリーだと……そもそもお店で売ってるものかどうかもわからないし」

梨子「……そうよね……」


114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:28:19.13 ID:yi/lREP/O
善子「……いっそのこと、自分で作っちゃうってのは?」

梨子「え……?」

ルビィ「それいいかも!自分で作っちゃえば、デザインだって自分の通りに作れるし、何より梨子ちゃんの気持ちが伝わるよ!」

梨子「で、でも。私、アクセサリーなんて作ったことなくて……」

ルビィ「じゃあルビィが作るよ!それならいいでしょ?」

梨子「え、ええ!?」

善子「となると、問題はやっぱりデザインよね。……何か決めてることとかある?」

梨子「え、あ、いや。……何か意味のあるものにしたいなとは思ってるけど」

ルビィ「ん〜だとしたら、特別な形にするとか?でも、千歌ちゃんはしいたけのアクセサリーにこだわりを持ってそうだしなぁ」

善子「……基本しいたけのままで、そこに意味を持たせるとなると……文字を入れるとか?」

梨子「も、文字?……たとえば?」

善子「梨子としいたけだから……RS!魔眼、りーでぃんぐしゅたいなーみたいでかっこい……」

梨子「却下よ」

善子「ええー!梨子だって私の貸したアニメ観たでしょ〜!」

梨子「ええ、観たわ。面白かった。……でも、それとこれとは別!」

ルビィ「でも、ローマ字で感謝の気持ちを伝えるのは悪くないと思う」

ルビィ「ちょっとその方向で考えてみるね。梨子ちゃんが、しいたけちゃんに送るっていう意味で、デザインしてみる!」

梨子「……そ、そう……。ありがとうルビィちゃん」


梨子(そんなこんなで。……いつの間にかルビィちゃんが張り切って、しいたけちゃんに贈るプレゼントを、作ってもらうことになってしまった)

梨子(……ホントにいいのかなぁ……)
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:33:11.46 ID:yi/lREP/O



「・・・・・・何か悩んでる?」

梨子「……えっ。……そ、そう見えました……?」

「うん。……だって、せっかくまた会えたのに、ずっと黙ってるから」

梨子「……す。すみません……」

「ふふっ。いいんだよ。・・・・・・それにしても、久しぶりだね?」

梨子「……そう、ですね……」

「・・・・・・まさか、もう一度会えるなんてね。・・・・・・それも、スクールアイドルをしている、あなたに・・・・・・」

梨子「あ、はは……」

116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:34:14.49 ID:yi/lREP/O

梨子(……土曜日の昼下がり。雨でもないのに、珍しく、皆の予定が重なって練習がお休みになった、ある日)

梨子(地区大会を突破したばかりだということもあって、たまには何も考えず休憩しようってなって……)

梨子(私も、久しぶりに沼津でお買い物しようかなって思っていた、その時)

梨子(……しいたけちゃんとのこともあって、忘れかけていた。あの、不思議な人と、再開した)


「・・・ねえ。私のこと、覚えてる?」

梨子「お、覚えてますっ!……忘れるわけが、ありません」

梨子「……ハオさん、ですよね」

「・・・・・・ふふっ。正解だよ」

117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:34:48.93 ID:yi/lREP/O

梨子(……葉百と書いて、ハオと読む。……不思議な、女の人)

梨子(千歌ちゃんと出会う前日に会った、女の人。……私を占って、ピアノを弾いて、消えていった、あの人)

梨子(……その人が。……この人、だ)


梨子「……あの。……どうして、またこの町に?」

「・・・」

梨子「あ。あの……」

「・・・・・・」

梨子「……し。失礼しました!!」

「・・・・・・ぷっ。あははっ!」

梨子「……え」

「ごめんごめん、意味深な間なんて作って。・・・・・・たまたまだよ、たまたま」

梨子「た、たまたま……」

「そ、たまたま。・・・・・・ちょっと用事が出来てね。こっちまで、出てきたっていうわけ」

梨子「……そうですか」


「・・・・・・しっかし偶然だよねー。・・・・・・まさか、こんなところで梨子ちゃんともう一度会えるなんて!」

梨子「あ。……私の名前、覚えていてくださって、ありがとうございます」

「な〜に言ってるの!忘れるわけないって!」

梨子「……あ、ありがとうございます……」

118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:35:19.84 ID:yi/lREP/O

梨子(……不思議な人。……この言葉が似合う人は、この人しかいないってくらい、不思議な人)

梨子(……なんでだか。一緒にいると、とっても落ち着く……すごく、落ち着く、キレイな人……)


梨子「……あの。スクールアイドル、知ってるんですか?」

「え?・・・まぁね」

梨子「……私たちがスクールアイドルやってること。知ってるんですね……」

「・・・・・・まあね」

梨子「……どうして。数あるスクールアイドルの中で、私達を知ってるんですか?」

「・・・・・・キラキラしてたから」

梨子「……え?」

「・・・・・・。キラキラしてた。・・・・・・それじゃ。ダメ・・・・・・?」ギュッ

梨子「あ、いえ。……とても、嬉しいです」

「・・・・・・」

119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:36:18.01 ID:yi/lREP/O

梨子「スクールアイドル。好き……なんですか?」

「・・・そうだね。・・・・・・大好き、かな?」

梨子「……そう、なんですね……」

「うん。だから、梨子ちゃん達だけじゃなく。・・・・・・Saint Snowも注目しててね」

梨子「……え?」


「カッコイイと思うからさ、あの二人」


梨子「それは……私も思いますけど……」

「あ、ちょっと不機嫌になった?」

梨子「い、いえ!そんなことは!」


「ふふっ。ごめんごめん。・・・Aqoursのライバルでもあるもんね?」


梨子「……はい」


「そうだよね。・・・・・・でも何だか、こうやって大人になって思うと。すごくμ'sっぽいなって思ってね」


梨子「……!」

「あの二人、A-RISEに憧れてスクールアイドルになったって聞いてたけど。・・・・・・やってることは、とってもμ'sっぽい」

「よく考えれば、当然かもしれないんだけどね。だって、μ'sもA-RISEに憧れてスクールアイドルを始めてたらしいから」

梨子「……憧れ……」



「・・・・・・」


120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:36:59.04 ID:yi/lREP/O


梨子「……もしかして。……その」


梨子「葉百さんも、スクールアイドル、やってたんですか……?」




「・・・・・・どうだと思う?」



梨子「えっ。……あの……」

「・・・・・・ふふっ。ごめんね、イジワルばっかで」ギュッ

梨子「……」


121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:42:02.27 ID:yi/lREP/O

梨子(……この人は、いつも……。いつも、胸元のペンダントを握っている)

梨子(……どうして、なんだろう)


梨子「あの。……その、ペンダント」

「え?」ギュッ

梨子「……大切な、ものなんですか?」

「・・・・・・ぇ」

梨子「前、会った時も。……大切そうに、していたので……」

「・・・・・・。うん。大切だよ」ギュッ

梨子「……そう、ですか……」

「これはね、とても大事なものなの」

「とってもとっても大事な……思い出がいっぱい詰まってる、とても大事なペンダントなの」

梨子「確かに……。すごく、意味がありそうですよね」

「・・・・・・意味?」

梨子「え。えぇ。……あの、表面の、星……とか。」

梨子「その、9つの星……何か意味があるんですか?」

「え?・・・・・・そう見える?」

梨子「ちょ、ちょっとだけ……」

「あはは。・・・・・・そうか。・・・うん、そうなんだぁ」

「・・・けど、これはそんなに大した意味はないの。多分今の人なら受け入れられる程度の意味だよ」

梨子「……受け入れられる程度の、意味……」

「・・・・・・」

122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:42:41.44 ID:yi/lREP/O


「・・・ねえ梨子ちゃん。それより、梨子ちゃんのお話が聞きたいな」

梨子「えっ。……私の、話……?」

「うん。梨子ちゃんのこと、もっと知りたいからさ」

梨子「……私のことを……」

「ねえ、梨子ちゃんって今気になってる子とかいないの?」

梨子「え?」

「だからさ、好きな子とか、今いないの?」

梨子「……い、いやいやいや!いませんって!」

「えぇ〜ホントに〜?」

梨子「いないです!大体、私が通ってるのは女子高ですし……!」

「いやいや。愛の前に性別は関係ないよ」

梨子「そうかもしれませんけどっ!私にはわからないです!」

「あははっ。そんなに必死になって否定しなくてもいいのに」

梨子「……葉百さんがヘンなこと言うからですよ!」

「ゴメンゴメン。じゃあ、最近気になってることとか、聴かせてくれる?」

梨子「……最初からそっちで良かったと思うんですけど……」

123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:48:04.27 ID:yi/lREP/O

梨子(そうして、葉百さんのペースに乗せられながら、私は自身の近況を葉百さんに話した)

梨子(葉百さんは、笑顔で、興味深そうに、そしてとても楽しそうに私の話を聞いてくれた)

梨子(そんな風に聞いてもらえるものだからか、私は、自分でも驚くくらい色々な話をした)

梨子(スクールアイドルのことはもちろん、学校のこと、友達のこと、他愛の無い話も……)

梨子(葉百さんは、私たちのことをよく知っていたから、メンバーのことも話した)

梨子(……鞠莉ちゃんがこんな話をした、とか。最近の千歌ちゃんが、どことなく妙な感じがするとか。……ルビィちゃん達には助けられてるって話も)

梨子(……そして)

梨子(…………善子ちゃんがあの時部室で話した、あのウワサ話も)

124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:55:03.34 ID:yi/lREP/O
梨子「……あの。知ってますか」




梨子「……最近この辺りに出るっていう、[亡霊]のこと」

「・・・・・・」

梨子「……っ。どう、なんですか……」

「・・・。知ってるよ。・・・何でも、若い女の人が、あちこちに現れているみたいだね?」

「そして、現れるたびに、不思議なことが起きる。・・・人間の仕業とは思えないようなこと。あるいは、人間に出来る範疇であったとしても、普通の人間には出来ないようなことだったり」

「でも、その人のことを誰もちゃんと覚えてない。思い出せるのは、アイマイな記憶だけ・・・」

梨子「……よく、ご存じですね。地元の人でもないのに……」

「・・・私のように、あちこちに出向いてる方が、地元の人よりそういうウワサ話を聞く機会が多いんだと思うけどね」

梨子「……そう、ですか」

「そうだよ」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:55:41.45 ID:yi/lREP/O
梨子「……その女の人。少なくとも、ここら辺では見かけない顔の人らしいんです」


「・・・」


梨子「……もしかして……」


「・・・・・・」


梨子「……っ!」


「・・・・・・一つだけ、言っておくね。・・・私のことをハッキリ覚えていてくれる人がいる以上、私は当てはまらないよ」


梨子「え……」



「[亡霊]のこと。・・・[亡霊]は、記憶から、完全に消えはしないけど、ちゃんと覚えられもしない存在なんだよね」


「だったら、その条件に私は当てはまってない。・・・梨子ちゃん自身が証明してくれてることだよ」


梨子「ぁ……」



梨子(……私は、その言葉を聞いて。もう、何も言えなくなってしまった)

126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:56:18.45 ID:yi/lREP/O

「さぁ。じゃあ、もういかなきゃ」

梨子「……え……?」

「梨子ちゃんには悪いんだけど。・・・用事があるのだ」

梨子「……そう、ですか……」

「・・・・・・」

「・・・・・・もし。真実を、追求したいなら」

梨子「……ぇ?」

「会えるかもね。・・・・・・また、近い内に、ね」

梨子「……」


梨子(そう言って。……葉百さんは、去っていった……)

梨子(お金だけ、残して。……でも)

梨子(9円だけ足りないところを見ると。……ちょっと、ドジなのかもしれない)

梨子(……聞きたいこと、いっぱいあったはずなのに。……私だけが話してしまって、いつの間にか、聴けずにいた……)

梨子(いつか、また。……会えるのかな……)

127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:59:09.05 ID:yi/lREP/O




千歌「……ぅ〜ん。う〜ん」

梨子「……千歌ちゃん。イイの、出来ない?」

千歌「ぅん。……うぅ〜ん……」

梨子「……そうやって、唸りちらして、もう数時間たったんだけど?」

千歌「……はい。すみません」

梨子「……もぅ。そろそろ、休憩する?」

千歌「あ、うん!」


梨子(……そう言って、嬉しそうにおやつを取りにいった千歌ちゃんに、ちょっと呆れつつも、笑顔をもらった)

梨子(……久し振りに1人になった気がする。……せっかくだから、色々なことを整理しよっかな)
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:59:49.73 ID:yi/lREP/O


梨子(スクールアイドル部。……ちょっと、部のところはヘンだけど……そこに入ってから、私は本当にいろんなことを経験した)

梨子(ただここ最近は、その中でも一際不思議な経験をしていると思う)

梨子(……特に。[亡霊]という言葉が、私の中に残っている)

梨子(そして、入れ替わりという話も……私の中で、妙な焦りを持つ言葉として、残っている……)

梨子(……千歌ちゃん)

梨子(そして、千歌ちゃんに似た……あの人)

梨子(……千歌ちゃんには。何故か、時々違和感を感じる時があった)

梨子(……あの人は。……存在そのものが、不思議な人だ)

梨子(……[亡霊]のウワサは。あくまでウワサ。……でも、そのウワサに出てくる人は……千歌ちゃんと同じくらいの髪の長さだったそうだ)

梨子(…………)

梨子(やめよう。……曲作り、進まなくなるし)

梨子(……千歌ちゃんの足音がするし。……おやつ、またみかんかな……?)

129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:02:39.45 ID:yi/lREP/O
>>126




千歌「……ぅ〜ん。う〜ん」

曜「……千歌ちゃん。イイの、出来ない?」

千歌「ぅん。……うぅ〜ん……」

梨子「……そうやって、唸りちらして、もう数時間たったんだけど?」

千歌「うーん!だってわかんないだってばー!!」

曜「うわっ。千歌ちゃんが、開き直った!」

千歌「……なんでよーちゃんばっかり進んでるの〜!こうしてやる〜!」

曜「うわわっ。……あ、あっはは!やめてよちかちゃん!ダメだってそんなことしちゃ!……きゃははっ!!」

梨子「……くすぐるの、やめなさい!!」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:03:22.95 ID:yi/lREP/O


梨子(……私たちは今。……『そうさくがっしゅく』をしている)

梨子(葉百さんと再会をして、数週間が経って。……皆で新曲のことを考え始めて)

梨子(ある程度方向性は固まったんだけど……)

梨子(千歌ちゃんが、いつまで経っても詞をくれないから。……曲担当の私と、衣装担当の曜ちゃんが、中々進まなくて。……結局、進まない二年生は缶詰めですわって言われて……)

梨子(こうやって。……皆で、それぞれ頑張っちゃってるんだけど……)


曜「ふふふっ。あはははは!……だ、ダメだってちかちゃん……」

千歌「ええ〜。でも、嬉しそうだったじゃん、わたなべぇ〜」

曜「も、もう。……千歌ちゃん、わっる〜い」

千歌「えへへ。悪女チカ!……どう?よくない?」

曜「だから悪いって!……悪い千歌ちゃんは、こうだぞ!!」

千歌「え?……キャッハハハ!ダメよーちゃんもうだめ!!」

梨子「……くすぐるの、やめなさいってば!!」


梨子(……前途多難ね)

131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:04:19.82 ID:yi/lREP/O
曜「ふぅ、ふぅ。……ところで、なんで千歌ちゃんは新しい歌詞が思い浮かばないの?」

千歌「ひぃ、ひぃ。……なんか、新しさを求め過ぎちゃったせいか、何が新しいのか、わかんなくなっちゃって」

梨子「……いっそのこと。古いものから作っちゃえば?」

ふたり「それだ!!」


梨子「……え、ええぇ!?」




千歌「……あ。見てぇ。この前三人で撮ったやつだよ!」

曜「あ、ホントだ!……旅館の前で皆で撮った、梨子ちゃんがしいたけにビビってるやつ!」

梨子「……そ、それはベツにいいじゃない」

曜「あっ!これ!……しいたけが来た時のやつ!?」

千歌「あっ!そうだよぉ〜なつかしい!」

梨子「……小さい二人と一匹で、満面の笑みで写ってるわね……」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:05:43.27 ID:yi/lREP/O
曜「あははっ。その時の写真、しいたけと家族になったばっかりの時の写真なんだ!」

千歌「……あの時、曜ちゃんスネてたよね?」

曜「え。ええ?」

千歌「ず〜っとしいたけのこと話してたらさ。なんかきゅーに曜ちゃん不機嫌になって、怒られたの、覚えてるもん」

曜「……も。もう。それは昔の話だよ」

千歌「初めてケンカしたよね?……よーちゃんがしいたけに冷たくするから、私が曜ちゃんをぶっちゃったんだよね」

曜「……アレ。本当に痛かったよ」

千歌「ご。ごめん〜!……あの後、志満ねぇにすっごい怒られて、私泣いちゃったんだよね」

曜「そうだね。……で、ワケも分からず私も泣いてるところに……。ちっちゃいしいたけが来て、私の涙を舐めて」

曜「その後、怒られてる千歌ちゃんのとこにも行って。……泣いてる千歌ちゃんの顔を、舐めてたっけ」

千歌「それからだよね。よーちゃんがしいたけと仲良くなったのは」

曜「そうだったかなぁ?」

千歌「そうだったよ」

曜「……そうかも!」キャッキャッ

133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:06:49.18 ID:yi/lREP/O

梨子(……羨ましいな。ちょっと、嫉妬しちゃう)

梨子(……幼馴染。私には、それがどういったものなのか、わからないけど……)

梨子(きっと。二人にしかわからない、とっても大切な関係が、あるんだろうな……)


梨子(……それにしても……私の一言がキッカケで、急に千歌ちゃんのアルバムを見ることになってしまったけど)

梨子(……千歌ちゃん、一人で写ってる写真がすくないというか。……ほとんど、ない……?)

梨子(隠し撮りみたいなのじゃない限り。いつも、誰かと一緒に写ってるな……)

梨子(……これは、美渡さんの卒業式の写真?……小さい千歌ちゃんが、美渡さんに抱きついて、浦の星の制服を着た美渡さんが困ってる)

梨子(……でも。一ページめくると、美渡さんが千歌ちゃんを抱きかかえている写真があって)

梨子(志満さんが、美渡さんを……抱きしめて。千歌ちゃんは、二人のお姉さんに抱きしめられて、苦しそうな写真があって)

梨子(……それだけじゃない)

梨子(千歌ちゃんのアルバムには。千歌ちゃんの周りに、たくさんの人がいる写真ばかりがあった)

梨子(……どうして、だろう……?)

134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:07:30.04 ID:yi/lREP/O


千歌「それはね」


梨子「え?……わ、わぁ!……ビックリした……!」



梨子(千歌ちゃん……!心臓に、悪いわよ……!!)



千歌「それはね。……写真を撮る時、チカは絶対誰かと一緒になりたいからなんだ」

梨子「……い、いっしょ?」

千歌「うん、そうだよ。・・・・・・私、その時一緒にいた人のこと、忘れたくないから。……絶対、写真を撮る時は、誰かに混ざってもらうか、逆に誰かが写真を撮る時は、混ぜてもらうようにしてるんだ」

千歌「思い出って皆との思い出だからさ。私、出来るだけ写真を撮る時は皆で一緒に写りたいと思ってるんだ!」

梨子「……そう」


梨子(……だから。千歌ちゃんの周りに、笑顔の人がいっぱい、出来るのね……)


135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:15:36.37 ID:yi/lREP/O
曜「……おかげで私の持ってる千歌ちゃんの写真って、ツーショットばっかりになるんだけどね」

梨子「……よ、曜ちゃん」

曜「……たまにはさ。千歌ちゃんだけをメインにした写真も。……撮らせてほしいのに」

梨子「……曜ちゃん。今のはちょっと、危険よ」

曜「え、え!?」

梨子「……ちょっと怖いから。……千歌ちゃんでナニかしそうな感じというか」

曜「な、ナニもしないよ失礼だな!……た。たぶん」

梨子「……」

曜「……」


梨子(『あーこっちは果南ちゃんと会った時の写真だ!なつかしぃ〜』だなんて言っている千歌ちゃんを横目に)

梨子(私達は……お風呂を頂くことにした)

梨子(……後から千歌ちゃんも追いかけてきて。三人で十千万自慢の温泉につかったんだけど)

梨子(……千歌ちゃんが駆けつける前の湯船で。曜ちゃんと、皆にはナイショな、ヒミツの内緒話をした)

梨子(……この娘とは、仲良くなれる。いや、仲良くなりたい!今以上に……もっと!)

梨子(そんな気持ちを抱けた、時間だった)

136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:17:19.22 ID:yi/lREP/O

梨子(……その後。結局、曜ちゃんだけが、千歌ちゃんの少ない言葉から衣装を完成させて。……それに合わせる、歌詞と曲は出来上がらなかった)

梨子(……私と千歌ちゃんの二人で。創作合宿の続きをすることが決まったところで、就寝の時間になってしまった)

梨子(……寝る前。……私は、今日ここに来た時の。しいたけちゃんと、触れ合えたことを思い出していた)


しいたけ『わふん?』

梨子『よしよし、しいたけちゃん。……ふふっ。私も、もうしいたけちゃんから逃げたりしないからねっ』

しいたけ『……わふぅ』

梨子『……ぁ』

梨子『(やっぱり、しいたけちゃんの首輪のアクセサリー。……結構、古びちゃってるな)』

梨子『……思い出のモノだとは思うけど。……もし、私が新しいものをプレゼントしたら、喜んでくれる?』

しいたけ『……わん!』

梨子『ふふっ!……ありがと、しいたけちゃん!』

しいたけ『……わぅん!』

梨子『ありがとね!……ルビィちゃんに、文字の構成決まったよって、話さなくちゃ……』

曜『お〜い、梨子ちゃん。……どうしたの?……あっ。梨子ちゃん、しいたけといつの間にかなかよくなれたんだね?』

梨子『……えっ。あっ、曜ちゃん!……うん、ちょっと、色々あって……』

梨子『……いぬ、好きになれたかも……』

曜『・・・・・・ホント!?うわぁ〜千歌ちゃん喜ぶよ!』

曜『……モチロン私も!梨子ちゃん、しいたけ好きになれてよかったよ!!』

梨子『……うん、私もよかった!』


梨子(……そんなやり取りをしたことを、思い浮かべつつ。……私は布団に入った)

梨子(……明日は。私と千歌ちゃん二人でまた合宿の続きか……)
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:18:01.33 ID:yi/lREP/O



千歌「……ぅ〜ん。う〜ん」

梨子「……千歌ちゃん。イイの、出来ない?」

千歌「ぅん。……うぅ〜ん……」

梨子「……そうやって、唸りちらして、もう数時間たったんだけど?」

千歌「……はい。すみません」

梨子「……もぅ。そろそろ、休憩する?」

千歌「あ、うん!」


梨子(……そう言って、嬉しそうにおやつを取りにいった千歌ちゃんに、ちょっと呆れつつも、笑顔をもらった)

梨子(……久し振りに1人になった気がする。……せっかくだから、色々なことを整理しよっかな)

138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:19:16.93 ID:yi/lREP/O

梨子(スクールアイドル部。……ちょっと、部のところはヘンだけど……そこに入ってから、私は本当にいろんなことを経験した)


梨子(ただここ最近は、その中でも一際不思議な経験をしていると思う)


梨子(……特に。[亡霊]という言葉が、私の中に残っている)


梨子(そして、入れ替わりという話も……私の中で、妙な焦りを持つ言葉として、残っている……)


梨子(……千歌ちゃん)


梨子(そして、千歌ちゃんに似た……あの人)


梨子(……千歌ちゃんには。何故か、時々違和感を感じる時があった)


梨子(……あの人は。……存在そのものが、不思議な人だ)


梨子(……[亡霊]のウワサは。あくまでウワサ。……でも、そのウワサに出てくる人は……千歌ちゃんと同じくらいの髪の長さだったそうだ)


梨子(…………)



梨子(やめよう。……曲作り、進まなくなるし)

梨子(……千歌ちゃんの足音がするし。……おやつ、またみかんかな……?)

139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:19:42.20 ID:yi/lREP/O


千歌「おまたせ〜梨子ちゃん!今日のおやつはみかんどら焼き!」

梨子「……合ってるけど違った」

千歌「……?」

梨子「な、なんでもない。……おいしいよね、コレ!」


梨子(毎日食べたら太りそうだけど……)


千歌「うん。おいしいよねぇ。……前、毎日食べてた美渡ねぇが太ったのを見てから、たま〜にしか食べなくなっちゃったけど」

梨子「……そ。そう」


梨子(……美渡さんが千歌ちゃんに厳しいのって……もしかして自分の過ちを妹に繰り返させないためだったりして……)

140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:20:50.47 ID:yi/lREP/O

千歌「……ん〜おいひぃ。……あ、しいたけも来た!」

梨子「えっ?……あっ。ホントだ、しいたけちゃん」

しいたけ「……」

梨子「お邪魔してるよ……昨日ぶりだね?」

しいたけ「……わぅん」

千歌「・・・・・・嬉しいな。しいたけと、梨子ちゃんが仲良くなってくれて」

梨子「え?……うん。もう仲良しだよ。ね?」

しいたけ「わん!」

141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:21:35.95 ID:yi/lREP/O
千歌「ふふっ。そっかぁ。……ね。しいたけも食べる〜?」

しいたけ「わん?」

梨子「ちょ、千歌ちゃん。人間の食べ物をあげていいの?」

千歌「いいのいいの!だって昔っからしいたけと一緒におやつ食べてたもん!ねー?」

しいたけ「……ばぅっ!」

千歌「もちろん犬にとってダメなやつは絶対あげなかったよ。……でも、そんなことしなくてもしいたけはかしこいから、自分で自分で自分にダメなこと、好きなこと、好きなものを選んでたもんね!ねー?」

しいたけ「ばぅっ!」

千歌「みかんどら焼き、好きだもんねー?」

しいたけ「ばぅわぅっ!」

梨子「……イッツマイライフとでも言いそうな喜び方ね」

千歌「へ?ジョン・ボビー?」

梨子「ボン・ジョヴィよ!」

142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:22:12.45 ID:yi/lREP/O
しいたけ「ばぅっ!」

梨子「きゃっ。……あ、ちょっと……!」

千歌「しいたけが、凄い勢いでこっちに来る……!」


梨子(こ。このままじゃ……)


梨子「ぶ、ぶつかる〜!?」

千歌「あ、あぶないっ!」ギュッ

梨子「え?わぁ!!」


143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:26:40.18 ID:yi/lREP/O

梨子(ドテーンという音がして。……私は、千歌ちゃんに押し倒される形になっていた)

梨子(千歌ちゃんと私は、一直線に座ってたから。……一直線に迫ってきた、しいたけちゃんを避けるには、二人とも倒れるしかなかった)

梨子(……勢い余ったせいかな?……千歌ちゃんが、頭に手をまわしてくれたおかげで、私は頭を打たないで済んだんだけど……)

梨子(いつもなら。……ちょっと、トキメいちゃうんだけど)

梨子(私の、手に。……何か、ものが落ちて)

梨子(何だろうって、握りしめて。……ちょっと視線をそちらに向けた時)



梨子(……私は。夢から覚めたかのように、ビリビリと何かが体を走ったのを、感じた……)


144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:27:35.24 ID:yi/lREP/O

梨子「……こ。これって」


梨子「これって……!?」


梨子(……私は、これを見たことがある)


梨子(あの。……不思議な人が。私を占った、あの人が……!)


梨子(私が、覚えている、あの人が)


梨子(ハオさんが持っていた……アレが!)


梨子(……世界に一つだけしかないはずの、ペンダントが……!!)


梨子(……どうして。私の、手に……?)


梨子(どうして、千歌ちゃんの制服から、あのペンダントが……?)


145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:28:22.27 ID:yi/lREP/O

千歌「いてて……大丈夫梨子ちゃん?ケガはない?」


梨子(っ!)


梨子「だ、大丈夫……平気よ」

千歌「そっか、よかったぁ〜」


梨子(……思わず、隠してしまったけど)

梨子(どうして?何で、千歌ちゃんが、特注だって言っていたペンダントを持ってるの?)


千歌「もぉ〜しいたけ!急に飛び出してきちゃだめだよ!」

しいたけ「……ゎん?」

梨子「ま、まぁまぁ。ケガもなかったし……大丈夫だよ」

千歌「ありがとぉ〜飼い主のチカ共々そそっかしくてごめんね……」

梨子「そ、そうね。もう少し落ち着きをもって欲しいところね」

千歌「えぇ〜私が自分で言ったこととはいえそこはフォローするところでしょ!」

146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:29:06.39 ID:yi/lREP/O

梨子(……もし、あの話が本当なら、これは千歌ちゃんのものじゃない。だとすると……)


千歌「ねー梨子ちゃん聞いてるー?」





梨子(あの人の正体は……千歌ちゃん?でも……容姿が違うし……)



曜『でもさ、もし本当に自由に姿や性格を変えられるんだったらもうそれって見分けがつかないよね』


善子『そうよ!知らず知らずの内に人間は入れ替わっているのよ!』



147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:32:14.69 ID:yi/lREP/O


梨子(……私は、一体何を考えているの)



ダイヤ『今の、動き……。まるで、達人のようでした』



梨子『た、達人?』



ダイヤ『ええ。……善子さんを支えつつ、片足ながらも自身も体勢を崩さない、その絶妙なところで、ピタリと止まった……』


ダイヤ『非常に難しいバランスを、一瞬のうちですが千歌さんはとれていた。……一歩間違えれば、二人とも海に落ちていたでしょう』


ダイヤ『考えられないことですが、善子さんを助けた今の動き。千歌さんの体運びは、武術を極めた達人のごとく洗練されたものだったように見えましたね』


ダイヤ『それこそ、奇跡≠ネのでしょうけど、ね』フフッ




148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:33:00.75 ID:yi/lREP/O

梨子(まさかそんなはずはない……)



梨子『す、すごい……こんな完璧な演奏……』


『ふふっ、ありがとう。でも、キラキラしてなかったでしょ?』


梨子『え、あ、それは……』


『気を使ってくれなくてもいいんだよ。……この演奏は、技術だけで、心が籠ってない』


『まるで機械のような演奏だったでしょ?』






梨子(……善子ちゃんじゃあるまいし……こんなこと誰も信じない)




梨子(……けど……)

149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:34:09.53 ID:yi/lREP/O
千歌「梨子ちゃんっ!」

梨子「きゃっ。な、何?」

千歌「さっきから呼んでたよ。どうしたのボーっとして」

梨子「ご、ごめん。……ちょっと考え事してて……」

千歌「……大丈夫?やっぱりどこか打ったとかない?」

梨子「ううん、それは本当にないから大丈夫」

千歌「そう?それならいいんだけど」

梨子「ごめんね、心配かけて……」

千歌「いいって。……それよりさ、私のペンダント知らない?」



梨子(…………!!)


150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:35:15.18 ID:yi/lREP/O


梨子「……ペンダントって。……これの、こと……?」



千歌「・・・ああ、やっぱり梨子ちゃんの方に行ってたか。よかった〜見つかって!」



梨子(あっさりと自分のものだと認めた……)


梨子(もしこれが本当に世界に一つだけのものなら、こんな反応するかな)


梨子(むしろ、あの人しか持っていないものを何で千歌ちゃんが持っているのか?って疑われちゃうものね……)


梨子(そもそも世界に一つだけっていうのも本当かどうかわからないし……)


梨子(やっぱり私の思い過ごしよね、きっと)


梨子(明らかな証拠もないのに仲間を疑って……疲れてるのかな)


梨子(それも千歌ちゃんを疑うなんて……ちょっとあの堕天使の影響を受け過ぎたかも)


151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:35:47.51 ID:yi/lREP/O

千歌「あの〜梨子ちゃん、そろそろそれ渡してくれるかな?」

梨子「あ、ごめん……わかったよ」


梨子(あれ?でも、そういえば)


梨子「それにしても、このペンダント、大切なものなの?」

千歌「うん?どうして?」

梨子「いや、だってわざわざ首にかけず制服のポケットの中に入れてるってことはよほど大切なのかなって」

梨子「今日は練習せずに直帰して作業だったから一日中制服だった。だから、少なくとも丸一日ポケットに入れっぱなしだったわけだし」

千歌「あ、あぁ……そりゃ、学校じゃあそういうのつけれないからね」

梨子「それって学校に持って行くぐらい大切ってこと?」

千歌「え……?」

梨子「首にかけることが出来ないにも関わらず、ペンダントをずっと持ち歩いてるってことになるよね」

千歌「まあそうなるのかな?」


梨子「……っ」

152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:36:29.28 ID:yi/lREP/O

梨子(……千歌ちゃん)


梨子(嘘でしょ……千歌ちゃん)


梨子(それは……墓穴を掘ったって自分から言ったようなものだよ)



梨子「……どうして、そんなに大切なの?」

千歌「……え?」

梨子「わざわざ着けることも出来ないアクセサリーをずっと肌身離さず持ち歩いていただなんて、普通じゃ考えられない」

梨子「何か……すごく大切なものでなければそんなことはしないと思うんだけど」

千歌「ま、まあ、すごいおねだりして買ってもらったものだからね。少しでも身につけておきたくて!」




梨子(……千歌ちゃんは、ペンダントが大切なものであること自体は認めている)


梨子(でも、『おねだりして買ってもらったもの』だからわざわざ持ち歩いていたんだとしたら、おかしな点が出てくる)


梨子(……どうして?どうして、千歌ちゃんは嘘をついているの?)


153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:37:13.78 ID:yi/lREP/O
梨子「……だとしたら、なんで私服で集まった時いつもそれを付けてないの?」


千歌「……コーディネートによっては、合わないこともあるし、さ」


梨子「学校にまで持ってくるほど大切なものなのに、そんな理由で着けないってことがあるかな?」


千歌「……そうかな。そもそも、偶然今日だけ間違えてポケットの中に入っちゃっただけかもしれないし」


梨子「……それは、無いわ」


千歌「どうして?」

154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:37:55.48 ID:yi/lREP/O
梨子「さっき千歌ちゃんは大切なものであることは否定しなかった。意図的に入れるならともかく偶然入ってしまったとは考えにくい」


梨子「それにもし意図的に入れようと思ってもそんな時間はなかったはず」


梨子「昨日は私と千歌ちゃんと曜ちゃんの三人で、千歌ちゃんの家に泊まり込んで作業をしていた」


梨子「寝るまでの間、私たちはずっと制服だったし着替えの時も三人だった」



梨子「……その間。千歌ちゃんが制服に何か入れてた様子はなかったよ」


155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:38:33.11 ID:yi/lREP/O

千歌「・・・梨子ちゃんがトイレに行ってる時とか、皆が寝た後とかいくらでも時間はあったと思うけど」

梨子「私がいない時間でも曜ちゃんは千歌ちゃんと一緒だったよね。何だったら曜ちゃんに聞いてみる?」

梨子「それに、それこそ寝た後でそんなことをするなんて何かあるって言ってるのと同じだよ」

千歌「ね、寝ぼけてたとか!」

梨子「寝ぼけてそんな器用なことが出来る人なんて聞いたことないわね」

千歌「曜ちゃんが見落としたとか、何でもないフツーのペンダントだったから忘れてたとか」


梨子「……考えられないよ、そんなこと」


千歌「どうして……?」


156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:39:14.78 ID:yi/lREP/O

梨子「……Aqoursの衣装担当が、千歌ちゃんのことを大好きな曜ちゃんが、そんな見落としをすると思う?」


千歌「・・・・・・」


梨子「千歌ちゃんが新しいアクセサリーを持っていたとしたら、きっとすぐに反応するはず」

千歌「昔買ったものだから特に反応しなかったってこともありえるよ」

梨子「そうね。だからそれは曜ちゃんに確認すればいいことだよ」


千歌「・・・・・・」


梨子「否定しないのね。……話を続けるね」


157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:39:50.59 ID:yi/lREP/O
梨子「もし、昔のものだっとしてもやっぱりヘンなの。それだけ昔のもので、今も大切に持っているものについて曜ちゃんが何も話さないなんて考えられない」

梨子「知られてはまずいことだからって千歌ちゃんが口止めしていた可能性もあると思う。でも……」

千歌「……でも?」


梨子「私は、千歌ちゃんが仲間にそんなことをするとは思えない」


梨子「私は千歌ちゃんを信じてるから……」


千歌「・・・・・・っ」



158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:40:31.80 ID:yi/lREP/O
梨子「それにね、私はそのペンダントをつい数週間前に見てるの」


梨子「……それも、ある人が身に着けていたのをね」


千歌「ある人……?誰のこと……?」


梨子「……不思議な女の人。……千歌ちゃんに似た、だけど違う。だけど……その人が現れると、周りにはきっと奇跡≠ェ起こる」


梨子「……そういう人のことを。……善子ちゃん風に言うと」






梨子「……[亡霊]さんが、ね」





159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:41:37.09 ID:yi/lREP/O


千歌「・・・梨子ちゃんは、私がその[亡霊]だって言うの?」


梨子「……それ、は」


千歌「たまたま同じのを買ったのかもしれないのに?」


梨子「でも……その人は特注品だって言ってたよ」


梨子「世界に一つだけだって」


千歌「けど、世界に一つだけだからといってデザインが似ないってことはないよね?」

梨子「それはそうだと思う。だから、問題は千歌ちゃんがそれをいつ手に入れたかだと思う」


千歌「・・・いつ?」


梨子「……曜ちゃんがもしこのペンダントの存在を知らないとしたら、これは千歌ちゃんがずっと隠し持っていたことになる」

梨子「だけど現実的に考えてずっとバレないなんてことは考えられない」

梨子「それに、そもそもそんなことをする理由が千歌ちゃんにあるとは思えない」


梨子「……だったら。可能性が、あるとしたら……」


160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:42:22.95 ID:yi/lREP/O

梨子(……可能性があるとしたら。どんな選択肢があるんだろう)


梨子(代々伝わる家宝で、何か一族の秘密があったとか?)

梨子(いや、このペンダントのデザイン自体は現代風のようだしそれは違うと思う)


梨子(逆に、曜ちゃんや他のメンバーとか友達から口止めされてるとか?)

梨子(ありえなくはないけど……)


梨子(仲間を信頼している千歌ちゃんがそうまでして何かを隠し通そうとする理由としては弱い……)

梨子(私の知っている千歌ちゃんを信じるなら、どうしても千歌ちゃん自身には、これを徹底して隠そうとする理由があるとは思えない)

梨子(だとしたら、やっぱり)





梨子「千歌ちゃん以外の人に、理由がある。そう、考えられる……」



千歌「・・・・・・」



161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:43:51.56 ID:yi/lREP/O

梨子(でも……だったらどうして?どうしてそのことを話してくれないの?)


梨子(隠し事が得意とは言えない千歌ちゃんが、その素振りすら見せないだなんて考えられない)


梨子(だとしたら……やっぱり今目の前にいる千歌ちゃんは)


梨子(私の知っている千歌ちゃんじゃ、ないかもしれない……?)





梨子「……千歌ちゃんは、本当に……。[亡霊]なの……?」








千歌「……酷いな、梨子ちゃん。チカ≠ヘ千歌だよ?・・・・・・私≠ヘ。正真正銘の、高海千歌だよ」





162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:44:41.96 ID:yi/lREP/O


梨子(……!)


梨子(そうだ、この違和感)


梨子(ずっと感じてた、この違和感の正体)


梨子(千歌ちゃんは自分のことを、私≠ニ言う時もあれば、チカ≠ニ言う時もある)


梨子(でも……それがなぜなのかはわからないけど。……どうしてか、気にかかっていた)


梨子(ほんの少しの違和感だったけど……この違和感がきっかけで私は今、千歌ちゃんを疑っている……)



163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:45:43.71 ID:yi/lREP/O


千歌「私≠フこと、疑ってるの?……チカ≠フこと、信じてるって言っておきながら」




梨子(……。そうだ。確かにその通りだ)


梨子(私の態度は矛盾してる)


梨子(でも……だからこそ……)




梨子「私は千歌ちゃんのこと、信じぬきたい!」


梨子「少しでも疑いを持ったまま、千歌ちゃんと一緒にいたくない!」


梨子「だから、そのために……たとえ思い付きであっても、追いかけたいの」


梨子「それがちっぽけな可能性でも……」





千歌「・・・・・・梨子ちゃん」




164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 21:46:58.35 ID:yi/lREP/O

梨子「ねえ、聞かせて?千歌ちゃんはどうして、そのペンダントを持っているの?」


千歌「・・・・・・《教えて》、じゃなくて、《聞かせて》、か」


梨子「え……?」


千歌「わかった。梨子ちゃんがそこまで言うんなら話してあげる」

梨子「ほ、本当に!?」


千歌「でも私は《教え》はしないよ」

梨子「ど……どういうこと?」


千歌「私は、《話す》だけ。・・・・・・もし梨子ちゃんが、本当に『可能性』を追いかけるっていうのなら」

千歌「私の話の中から、その『可能性』を手繰り寄せてみせて」



梨子(……試されてるってこと?でもどうして?)


梨子(そんなことして何になるんだろう?)


梨子(……今は、考えていても仕方がない)


梨子(ハッキリさせるんだ!目の前の千歌ちゃん≠ェ、一体誰なのかを!)



165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:35:45.86 ID:yi/lREP/O



千歌「こうやって砂浜で話すの、久しぶりだね」

梨子「……そうね」

千歌「なんか重要なことはいつもこの砂浜で、梨子ちゃんと話してる気がするな」

梨子「……そうかもね」



千歌「・・・・・・さ、それじゃ場所も変えたことだし。何でも梨子ちゃんの聞きたいことを聞いていいよ」



梨子「ええ……」



千歌「何だっけ?ペンダントのことと、私がちまたでウワサの[亡霊]に関係してるんじゃないかってことだっけ?」

梨子「そうね。……いつこのペンダントを手に入れたのか。そして、あなたは[亡霊]と関係しているんだとしたら、どんな関係なのか」

千歌「梨子ちゃんとしては、私が[亡霊]なんじゃないかって疑ってるんだよね」ニコッ

梨子「そ、そんなこと、ないけど……。ただ、ハッキリさせておきたいとは、思ってる」

千歌「う〜ん、そっかぁ……」


166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:37:26.20 ID:yi/lREP/O


梨子(……ねぇ、千歌ちゃん)



梨子(自分が荒唐無稽なことで疑われてるっていうのに、どうして笑顔でいられるの?)ギュッ



千歌「その根拠は私がこのペンダントを持っていたから、だよね?」

梨子「そう、ね」

千歌「う〜ん、だよね……」

千歌「……やっぱりチカってドジだな〜」


梨子(……!ということは)


梨子「認めるってこと?自分が……[亡霊]である可能性を」

千歌「いやいや、違うよ。そもそもチカと容姿が違うでしょ」


梨子「そ、それは……(そうよね……普通ありえないわよね)」


千歌「でも、[亡霊]の存在と、私との関係は認めることになるかな」

梨子「……?どういうこと?」

167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:38:22.58 ID:yi/lREP/O
千歌「前にさ、生き別れの姉妹がどうとかって聞いてきたことがあったよね」

梨子「え、ええ……(まさか……)」


千歌「……いたんだ。本当に」


梨子「ど、どういうこと……!?」



千歌「だから、いたんだよ。チカに生き別れのお姉さんが」



梨子「……え、えぇえ!!?(う、嘘でしょ!?)」


168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:39:20.82 ID:yi/lREP/O
梨子「そ、そのこと美渡さんたちは!?」

千歌「ううん、知らないよ。知ってるのはお母さんと生き別れのお姉さんだけ」

梨子「だとすると……そのペンダントは……」

千歌「そう。お姉さんがくれたんだ」


梨子「お姉さんは……千歌ちゃんのこと知ってたんだよね」

千歌「そうだね。でも、会うつもりはなかったんだって」

千歌「自分のことが知られると色々とマズイことになるからって」

千歌「でも、チカたちがスクールアイドルとして活躍するようになって、それを目にしてくれたみたいで」

千歌「浦の星が廃校を決定したことも知ったみたいで、それでもスクールアイドルを続けている姿を見て」

千歌「どうしても会って直接応援したかった、だから来たんだって言ってくれたんだ」


千歌「・・・このペンダントは、その時に貰ったもの。《あってはならない》かもしれないけど・・・・・・家族の形見にしてほしいって」



梨子「……」


169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:40:07.15 ID:yi/lREP/O

梨子(ま、まさか本当にそうなの……?)

梨子(あの葉百さんが千歌ちゃんの生き別れのお姉さんで……ペンダントはその形見?)


千歌「私がずっとこのペンダントを持っていて、隠してたのはこういうことだったんだ」

千歌「もしこのペンダントの存在がバレたら、ややこしいことになるかもしれないから」ギュッ


梨子「で、でも……それぐらい、いくらでも誤魔化しようがあったんじゃない?」


千歌「……そうなんだけどさ、ほら、チカって隠し事下手でしょ?」

千歌「現に今も梨子ちゃんにバレちゃったもんね」

梨子「……!それは……」


千歌「だから、ヘンに気を遣わせて皆に迷惑かけたくなかったんだ」

千歌「今は大事な時期だし、ね」


170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:40:49.72 ID:yi/lREP/O

梨子(……確かに、筋は通ってるように思える)

梨子(というより、本当にこの話の通りであってほしいと思う)


梨子(でも……でもやっぱり納得がいかない)


梨子(どうして千歌ちゃんは、そんな秘密を隠しながらこんな様子でいられるの?)


梨子(……確かに千歌ちゃんには違和感を感じていた)

梨子(けど、それはほんの小さな違和感であって……)

梨子(こんな重大事を隠していたっていうような違和感じゃなかった)


171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:41:47.69 ID:yi/lREP/O

梨子(そう。違和感が小さいこと自体が、違和感なんだ)

梨子(千歌ちゃんが何か隠している時、Aqoursの皆は大なり小なり何かを感じてきた)


果南『……なんか最近の千歌、妙な気がするなー』

曜『果南ちゃんもそう思う?私もそうなんだけど……でも様子はそんなに変わらないし……』


梨子(それなのに、今回は。昔から特に一緒にいた、曜ちゃんと果南ちゃんぐらいしか気付いていない……)ギュッ


梨子(なぜなのかは分からないけど、千歌ちゃんを信じぬくためには……今は追求するしかない)



千歌「さ、何でも聞いてね」


梨子「……ええ。のぞむところよ」


梨子(まずはっきりさせておかなければならないのはいつペンダントを手に入れたのか、ね……)

梨子(私は既に二度、内浦に越してきた時や数週間前に『お姉さん』に会っている)

梨子(だとすれば……)


172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:44:09.41 ID:yi/lREP/O
梨子「千歌ちゃん。千歌ちゃんがそのお姉さんにペンダントを貰ったのはいつなんだっけ?」

千歌「実際に会った時だから……数週間前かな。梨子ちゃんも会ったんだよね?」

梨子「うん。曜ちゃんと3人でいた時に、少しだけ話したけど」

梨子「……沼津でちょっと、ね」

千歌「すごい偶然だよね〜!まさに奇跡!」

梨子「……うん、そうだね(本当に偶然ならね……)」

梨子「お姉さんに会ったのはその日が初めて?」

千歌「うん。……あ、そういえば梨子ちゃん春にも会ったって言ってたっけ?」

梨子「そうね。まさかあの日に会っていたのが、こんな形に繋がっていただなんてね」

千歌「う〜ん、なんか運命的なものを感じるね」


梨子(……運命。そうなのかな……)

173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:45:16.90 ID:yi/lREP/O
梨子「……じゃあ、春にはお姉さんと会ってないってことで間違いないんだよね?」

千歌「うん。……どうも、近くには来たけど、会おうとは思わなかったんだって」

梨子「それは……やっぱり千歌ちゃんのことを思って?」

千歌「……。混乱させちゃうかもしれないからだって。でも……」

千歌「でも、スクールアイドルとして頑張ってる姿を見て、どうしても会って話がしたいって……」

千歌「電話番号、お母さんから聞いたみたい。……お母さんからも連絡が来たよ」

梨子「……そっか(……そこまでの事態なのに私たちが察せなかったのはやっぱりどこか引っ掛かるな)」



梨子(会ったのは数週間前が初めてだった……生き別れで事情があるんなら当たり前か)

梨子(美渡さんたちも知らなかったってことらしいし……)


174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:50:49.64 ID:yi/lREP/O
梨子「……ペンダントが《あってはならない》っていうのはどういうことかな?」

千歌「……これって要するに、お母さんが、その……」

梨子「あ、ご、ごめんなさい!気を遣わせちゃって……」

千歌「ううん。大丈夫だよ。……お母さんが、不倫をしてた証拠になるかもしれないからさ」

梨子「……」

千歌「しかも、志満姉ぇ達も知らなかった事実だから……きっと、持っていたら大騒動になるかもしれない」

梨子「さっきも言ったけど、友達に貰ったとかそういう言い訳で誤魔化そうとは思わなかったの?」

千歌「う〜ん、ちょっと無理だよ。高校生が買えるほど安くなさそうだし」


梨子(確かに……パッと見だけでもしっかりした造りになってるってわかるものね……)


175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:51:58.49 ID:yi/lREP/O
梨子「けど、持ってることがバレたら困るのに、持ち歩いていた……」

千歌「うん。……形見にしてって言われたし、それに……」

梨子「それに?」

千歌「それに、離れていても、間近で応援できなくっても、お姉さんはお姉さんなんだよって」

千歌「いつまでも千歌の家族で、千歌のことを応援し続けてるよって」

千歌「そう言って、渡してくれたものだから……」


梨子「・・・・・・うぅっ(胸が痛い……)」

梨子(でも、ここは心を悪魔……いや、堕天使。……もとい、鬼にしてもっと踏み込まなきゃ!)

176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:52:53.24 ID:yi/lREP/O
梨子「持ち歩いている理由はわかったけど……バレないような対策は考えなかったの?どこかに隠そうとかは思わなかったの?」

千歌「ん?どうしてー?」

梨子「ど、どうしてって……」

千歌「え、だって下手にどこかに隠すより私が自分で持ち歩いてた方がバレにくいじゃん」

梨子「……(マジで言ってるのこの自称普通怪獣は)」

千歌「ほら、咄嗟のことならスクールアイドルの衣装とか言えるし、拾って届ける途中だとか言えるし」

梨子「……い、いやそれは……(穴が多すぎるでしょ……)」

千歌「要するに家族とか友達にまじまじと見られなきゃ誤魔化せるかなって!」

千歌「……梨子ちゃんには、咄嗟でも隠せなかったけどね」

梨子「……私は前にそれを見たことがあったからね(あれ、でも……)」

梨子「なんでその時『拾った』って言わなかったの?」

千歌「梨子ちゃんも言ってたでしょ。大切だって言って、一日一緒にいたのに届けるそぶりも見せずに拾ったは通じないよ」

梨子「そっか……じゃあもし昨日三人で泊まってなくて、今日も作業をしてなかったら……」

千歌「うん。誤魔化してたと思うよ」

梨子「……(千歌ちゃん自身が大切だと認めていなかったら、話は始まりもしなかったかもしれないのね)」

177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:53:43.85 ID:yi/lREP/O

梨子(……おかしなところは、ない)


梨子(それはそうだよ。だって世界に一つだけの物がなぜか千歌ちゃんのところにあるってことが疑問だったんだもん)

梨子(千歌ちゃんがこれを大事にする理由がない、だから別の人が大事にする理由を持ってる。……その前提から出発したけど)

梨子(その理由が説明できるのだとしたら、千歌ちゃんを疑う根拠は何もない)


梨子(……私がやっていることは、不当に仲間を疑って、言いがかりをして、事態をかき回しているだけだ)


梨子(……けど、どうしても引っ掛かる)

梨子(どうして、千歌ちゃんはこんなに深刻な話を隠して、しかも皆に気付かれなかったんだろう……?)

梨子(確かに、違和感はあった。でも、それを感じたのは……)

梨子(私と曜ちゃん、そして果南ちゃんだけ……)


梨子(発想を変えれば、私だけが千歌ちゃんに違和感を感じていたわけじゃない)

梨子(私だけが違和感を感じていたのならそれは単なる勘違いでしかない可能性もある。けど……)

梨子(仲間もまた、同じ違和感を感じていたのだとするなら……)

梨子(そして、私は仲間を信じている。なら……)

梨子(ここで、やめることは出来ない。まだ疑う余地があるのなら!)

178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:54:25.36 ID:yi/lREP/O

千歌「……どうかな?梨子ちゃんの聞きたかったこと、全部聞けたかな?」


梨子「……残念だけど、それはまだみたい」


千歌「そっか。……それで?」

梨子「……え?」

千歌「それで、梨子ちゃんはどこに納得していないっていうのかな?」


梨子「……(ここは最初のポイントだ)」


梨子(今までの話を整理して考えてみよう……)


179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:56:11.25 ID:yi/lREP/O

梨子(確かに、千歌ちゃん≠ェこのペンダントを学校にまで持って行くほど大切にしていて、それを隠していた理由は説明されたと思う)

梨子(けど、きっと……千歌ちゃん≠ェそんなことをしていたなら、皆が何か気付くはず)

梨子(千歌ちゃん≠ェそんな、隠し通せたことが不自然だとずっと考えてきた。なら……)



梨子(……もし、目の前にいる千歌ちゃん≠ェ、私の知っている千歌ちゃん≠カゃないとしたら?)


梨子(そう。千歌ちゃん≠ェ隠し続けられないんだとしたら、別の人なら出来たと考えるしかない)

梨子(そしてその人には、ペンダントを持ち続けなければならない理由があった)

梨子(見方を変えれば、このペンダントをとても大事にしていた……それこそ、誰かにバレるリスクを持ってまでも、肌身離さず持ち歩いていたほどに)


梨子(……だとしたら、それほど大事にしていた理由が、このペンダントにはあるはず)


梨子(……全部私のオクソクにすぎない。けど、このオクソクを進めた上で考えるしかない)

梨子(まだ聞く必要のある事。調べる必要があること)

梨子(もう一度皆の……そして私の記憶≠思い出してみなきゃ)



梨子(何か……ヒントになりそうなことは……)


梨子(……!そういえば!)


180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:56:53.01 ID:yi/lREP/O

千歌「……どうかな。まだ梨子ちゃんが納得いってないことって何かな?」

梨子「うん。……うん、失礼な頼みなんだけど」

千歌「なぁに?」


梨子「……その、形見だって言ってたペンダント。それを、もっと詳しく見せて欲しい」


千歌「・・・この、ペンダント?」


梨子「うん」


千歌「・・・梨子ちゃんなら、別にいいけど。ヘンなことしないでね?私にとってすごく大切なものだから・・・・・・」


梨子「もちろんわかってる。念入りに、扱わせてもらうから……」


181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:57:27.86 ID:yi/lREP/O

梨子(そう、念入りにね……)


梨子(……私は思い出した。私自身の〈記憶〉を)


梨子(あの人は、葉百さんは、言っていた)



『これはね、とても大事なものなの』


『とってもとっても大事な……思い出がいっぱい詰まってる、とても大事なペンダントなの』


梨子『確かに……。すごく、意味がありそうですよね』




梨子(……もし、この『思い出が詰まってる』という言葉が比喩じゃなく、文字通りのことだとしたら?)

梨子(このペンダントの中に、何かその思い出を示す……そんな[記録]が残っていたとしたら?)


梨子(……試してみる価値は、あると思う)

182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 22:58:05.33 ID:yi/lREP/O
千歌「それならいいけど。……ハイ、これ」

梨子「ありがとう……」


梨子(さて……千歌ちゃんからペンダントを渡してもらったわけだけど)

梨子(パッと見、何かあるようには見えない)


梨子(……けど、何かあるはず。例えば、ずっと気になってたこの9つの小さい星型の突起)



梨子『その、星……何か意味があるんですか?』


『え?……そう見える?』


梨子『ちょ、ちょっとだけ……』


『あはは。……そうか。……うん、そうなんだぁ』


『……けど、これはそんなに大した意味はないの。多分今の人なら受け入れられる程度の意味だよ』


183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 23:00:00.28 ID:yi/lREP/O

梨子(……あの人はそう、否定したけど)

梨子(それは、“大した意味”は無いということに対しての言葉だった。……逆に言えば)


梨子(意味自体は、あるはず)


梨子(手掛かりになるのは……『今の人なら受け入れられる』という言葉だと思う)

梨子(これって、昔だったら受け入れられなかったかもしれないけど、今の人なら理解できるってことにならないかな?)

梨子(だとすると、今でこそ皆が知っているけど、それが普及するまでにある程度時間がかかった……そういうものを指している可能性がある)


梨子(そしてその可能性があるとしたら……字、とか?)


梨子(単なる模様じゃなくて、字になっていると考えれば、もしかしたら辻褄が合うかもしれない)

梨子(模様を字に見立てるのって、たまにある話だし……)

梨子(でも、このペンダントの星は全て大きさが均等だ。……ということは………)


184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 23:01:03.70 ID:yi/lREP/O

梨子(……あの人はそう、否定したけど)

梨子(それは、“大した意味”は無いということに対しての言葉だった。……逆に言えば)


梨子(意味自体は、あるはず)


梨子(手掛かりになるのは……『今の人なら受け入れられる』という言葉だと思う)

梨子(これって、昔だったら受け入れられなかったかもしれないけど、今の人なら理解できるってことにならないかな?)

梨子(だとすると、今でこそ皆が知っているけど、それが普及するまでにある程度時間がかかった……そういうものを指している可能性がある)


梨子(そしてその可能性があるとしたら……字、とか?)


梨子(単なる模様じゃなくて、字になっていると考えれば、もしかしたら辻褄が合うかもしれない)

梨子(模様を字に見立てるのって、たまにある話だし……)

梨子(でも、このペンダントの星は全て大きさが均等だ。……ということは………)


185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 23:02:53.12 ID:yi/lREP/O

梨子(模様として表現とした字じゃない。じゃあ、それでも字だっていうオクソクを進めるなら……)


梨子(手で触った感覚から、考えたら?)


梨子(……このペンダントを触った時から感じていた。この星の“手触り”を……)

梨子(まるで、点字のように。この9つの突起はペンダントを掴む人にその存在を主張してくる……)

梨子(なら、これは点字なのかな?……いや、でも………)

梨子(点字であるなら、9つも点は必要ない。もし一文字一文字分割されていたとしても、それが意味のある文字列になるとは考えにくい……)

梨子(……何か、9つの点についての手掛かりはないかな)



花丸『ボタンが無いのに、そのすまほっていうのはどうやって操作してるの?』


ルビィ『これはね、フリック入力って言って、文字に触れながら上とか下に指を動かすと色んな文字が打てるようになってるの!』


善子『まぁ、基本的には9つしか使わないけどね。わをんなんてそうそう使わないでしょ?』


梨子(……!もしかして……)


梨子(善子ちゃんが言ったような意味で、この9つの突起がついてるんだとしたら……)



梨子「フリック入力に、この9つの点は対応している……?」




千歌「・・・・・・」


186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 23:05:10.06 ID:yi/lREP/O

梨子(……だとしたら、この星形の点は単なる装飾ではなく、セキュリティの一つである可能性がある)

梨子(私たちがスマホにそうするように、パスコードとして使われている……その可能性もあるかもしれない)


梨子(このオクソクが正しいとしたら。……スマホのフリック入力と同じように、この9つの点をスライドさせたら)

梨子(何か、わかるかもしれない!)

梨子(……やるだけやってみよう。まずは「チカ」、「chika」と、もう一つ考えて「tika」になるように指を動かしてみよう)






梨子(……ダメだ。何の反応も示さない)


千歌「……まだ?」

梨子「も、もう少し待ってくれる?」

187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 23:06:09.18 ID:yi/lREP/O

梨子(……くっ。流石に長い時間誤魔化すことは出来ないわね)

梨子(……葉百さんのことを考えて、今度は《hao》、《はお》 と打ってみよう)

梨子(・・・ダメみたい。所詮、仮説は仮説に過ぎない。……そういうことなのかな)











梨子(その後、高海……《タカミ》とか、《トチマン》だとか……それをローマ字にしても結局何も起こらなかった)


千歌「……ねえ、まだなの?」

梨子「ほ、本当にもう少しだけだから!」


梨子(この9つの点に結びつく可能性のある言葉。……実を言うと、一番最初に思い付いた言葉があった)


梨子(《9つ》……Aqoursも9人……)


梨子(……でも、もし『Aqours』で、このペンダントが開いたとしたら。……それが持つ意味を、どう考えていいかわからなくなる……)




梨子(……だから、真っ先に候補から外した……。だけど)



188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 23:07:21.69 ID:yi/lREP/O

千歌「・・・梨子ちゃん。もうそろそろいいかな」

梨子「・・・・・・うん。これで本当に最後だから」


梨子(だけど、もうそんなことも言ってられない)


梨子(可能性がある限り……試さないわけにはいかない)


梨子(普段スマホにそうするように、星形の点の上に指を滑らせる)


梨子(『Aqours』という文字列……もう何度も、それこそ数えきれないくらい打ち込んだ、私たちのグループ名)


梨子(体に馴染みきった指の動きで、私はペンダントに……その名前を書き込んだ)








梨子「……!」






189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 23:08:01.55 ID:yi/lREP/O

梨子「ひ、開いた……!」



千歌「・・・・・・」



梨子(け、けど、どういうこと!?)


梨子(この中に入っていたのは写真だった)

梨子(それ自体はおかしいことじゃない。実はロケットになっているペンダントはそう珍しくないし)


梨子(問題は写っているものの方。……ここに写っている、これは……!?)


190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/03(水) 07:44:09.33 ID:lKQw1jLYO

梨子「……千歌ちゃん、これは、どういうことなの?」


千歌「ん?その、ペンダントのこと?」

梨子「……このペンダント。開いたんだけど……」

千歌「え、梨子ちゃん凄い!そのペンダントって実はロケットになっていて、写真が入れられるって聞いてたんだけどさ」

梨子「……聞いてた?ということは、実際に開けたことはないってこと?」

千歌「そうなんだよ。開け方だけは教えてくれなかったんだ。いつか自力で開けてみてって言われてさ」


梨子「……どうしてそんなことを?」


千歌「記念の写真を入れたんだけど、それはいつか見てのお楽しみだって。結構イジワルだよね」

梨子「ま、まぁもしかしたらリスク管理も兼ねてるかもしれないからね……」

千歌「そうだけどさ。それじゃ開けた後の使い方を教えてもらっても全部無駄じゃん」

梨子「……開けた後の使い方?(そういえば開け方「だけ」は教えてくれなかったって言ったわね……)」


千歌「ああ、それね。実はそれって機械で、普通の写真を入れてるわけじゃなくて、画像のデータを映してるんだって。他にも色々出来るって、そっちは教えてくれたんだけどね」

梨子「へぇ、そうなの……結構ハイテクなのね……」

191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/03(水) 19:32:40.36 ID:2ASeLL45O

梨子(よくわからないけど、それって結構凄くない?いや、最先端の科学技術からするとそうでもないのかな……?)


千歌「うん、そうなんだよ!凄いでしょ?」


梨子(やっぱり凄いことなのかな……?コレがあったら色々な画像をコンパクトに持ち運べるし)

梨子(パッと見ペンダントだからスマホと違ってふとした隙に他人に見られるリスクも低めだし……いやそもそも勝手に人のスマホ見るなって話なんだけど)

梨子(まあとにかく、ちょっとヨコシマな画像を隠すのにはもってこいね……)


梨子「うん。これは凄いね。特に隠密性がいいと思う」

千歌「そうでしょ?梨子ちゃんみたいに人に言えない趣味を持ってる人には特にオススメなんだよ」

梨子「ちょ、何言ってるの!?私みたいにってどういうこと!?」

千歌「あ〜ごめんごめん。ついね」

梨子「もう、千歌ちゃんってば……って違う!!」

千歌「ほぇ!?」

梨子「私が聞きたいのはそういうことじゃなくって!この中身に写ってるもののことよ!」

千歌「中身……?」
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/03(水) 19:36:45.46 ID:2ASeLL45O
梨子「そう。この中身にはおかしな点があるのよ」

千歌「え?どういうこと?」

梨子「……自分で確かめてみて。返すから」

千歌「あ、うんありがと。……へぇ、結構イイ感じの写りで良かったな」

梨子「……写りのよさとかじゃなくて、写ってるものの方に目を向けてみて」

千歌「写ってるもの?……う〜ん、別にヘンなものは写ってないと思うんだけど」


梨子「……この画像には確かに十千万をバックにして、葉百さんが写ってる」


千歌「うん。それなら何も問題はないと思うんだけど」


梨子「それと、しいたけちゃんも一緒にね」


千歌「……?それも、別に不思議じゃないよね」


梨子「……っ(まだ、本当のことを言ってくれないの?)」

193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/03(水) 19:39:52.68 ID:2ASeLL45O

梨子「……千歌ちゃん。さっき千歌ちゃんは、これは《家族の形見》だって言ってたよね?」


千歌「うん。離れていてもずっと家族だっていう証として貰ったんだよ」


梨子「……だとしたら、やっぱりヘンなの」


千歌「……?チカが気付いてないだけでヘンなものでも写ってる?」

梨子「ううん、その逆よ」

千歌「逆?」


梨子「そう。この写真には写っていなければならないものが写っていない」

千歌「……写っていなければならないもの?」

梨子「そう。……もしこのペンダントが千歌ちゃんの言う通り、葉百さんとの《家族の形見》だって言うんなら」



梨子「どうしてここに千歌ちゃん自身が写っていないの!?」



千歌「・・・・・・!」



194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/03(水) 19:42:03.42 ID:2ASeLL45O

梨子「答えて!千歌ちゃん!」


千歌「……そんなこと言ったってさ、チカだってこの写真の中身までは知らなかったよ?答えようがないって」


梨子「確かに千歌ちゃんは開け方を知らなかったって言った。でも、中身については予め知ってなきゃおかしいの」

梨子「それに写りを気にしたってことは、写真の出来映えだけを知らなかったということ。内容自体は知っていないといけないはずよ」


千歌「……そうだけどさ、そんなにおかしいことじゃないでしょ?形見の写真って、一緒に写ってなきゃいけないものでもないし」


梨子「そうね。葉百さんだけ写ってる写真ならそうも言えたかもしれない」

梨子「写真を撮っている間の時間で志満さんたちにバレたら困るから、自分が写ったペンダントを渡すだけ渡してすぐに去ったって考えられるからね」

梨子「けど、一緒にしいたけちゃんも、それも十千万をバックに写っているとしたら話は別」


千歌「・・・どういうこと?」

195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/03(水) 19:43:45.17 ID:2ASeLL45O

梨子「……自分のことがバレたくない状況で写真を撮るっていうのは結構なリスクだと思うの」

梨子「旅館の前ってことは、旅館にいる人に目撃される可能性が高いよね」

梨子「構図を整えて写真を撮るのって、それなりに準備とか、時間がかかるものだし」


千歌「・・・そうかな?写真って別にそこまで時間はかからないと思うよ?」

千歌「それに、志満ねぇ達がいないタイミングを見計らって撮ったならヘンでもないでしょ?」


梨子「……確かにそういうタイミングがあった可能性は捨てきれない」

梨子「だけど、そんなタイミングがそうそうあるとも思えない。……少なくとも、そんなに長い間旅館にいる人たちが目を離しているとは考えられない」

梨子「だとすれば、もし写真を撮るのだとしたらそう悠長にもしていられない。……複数の写真を撮っている余裕はないはず」

千歌「それはそうかもしれないけど……」


梨子「なら、その時に撮った一枚の写真が、この写真っていうことになる」

梨子「けどね、もしそんな状況で撮る写真に、しいたけちゃんと葉百さんだけしか写っていないのはやっぱりおかしいの」

梨子「《家族の形見》となる写真に、千歌ちゃんじゃなくてしいたけちゃんが写っているのはヘンよ」


千歌「・・・・・・そう?酷いな・・・・・・。しいたけだって私の家族だし、お姉さんとしいたけの写真が欲しいって思っただけかもしれないのに」

梨子「そうね。でも、それなら自分も入ってしまえばいいだけのことじゃない?」

梨子「しいたけちゃんと葉百さんと一緒に写ることが出来たのに、それをしなかった」


千歌「……たまたまそうしなかっただけだよ。それに、いくつか撮った気がするし、お姉さんが冗談でこの写真を入れたんじゃないかな?」


196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/03(水) 19:46:26.41 ID:2ASeLL45O

梨子「……千歌ちゃん、さっきから自分のことなのに「かも」とか「気がする」って表現が多いわね?」


千歌「・・・・・・」


梨子「それに、そういう可能性はかなり低い。いつもの千歌ちゃん≠セったなら!」


千歌「いつものチカだったら……?」

梨子「昨日千歌ちゃん自身が話したことだよ。もう忘れた?」



千歌『思い出って皆との思い出だからさ。私、出来るだけ写真を撮る時は皆で一緒に写りたいと思ってるんだ!』



千歌「……っ!」


梨子「アルバムに載ってる写真でわかるように。千歌ちゃんは思い出を残す時、誰かが一緒ならその誰かと《一緒に》写りたがる」

梨子「それに、志満さんたちがいない時間が長引く可能性があったとしても、それはあくまで可能性の話。……いつまでいないかは不明確な状況だったとしたら」

梨子「そこで写真を撮るのなら千歌ちゃんは真っ先に葉百さんと一緒の写真を撮ったはずよ!」


千歌「……」

197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/03(水) 19:49:29.27 ID:2ASeLL45O

梨子「けど、ここに表示されている画像はそうじゃない。それどころか、十千万が見えるような位置で写真を撮ってることがわかる」

梨子「それに、葉百さんは腕を伸ばしている様子もない。つまり、この写真は自撮りで撮られたものでもない」

梨子「もし千歌ちゃんが言った通りだとすれば、これを撮ったカメラマンは千歌ちゃん自身だってことになる」


梨子「……やっぱり、辻褄が合わないの。しいたけちゃんまで呼んで、この写真を撮るっていうのは身元が割れるのを恐れる人間としては悠長過ぎるって嫌がるはず」


梨子「もし本当に自分の正体を隠したい人であれば、こんなことに付き合ってくれるとは思えない!」


千歌「・・・梨子ちゃん。梨子ちゃんの言ってることは穴だらけだよ?」


千歌「そりゃあチカは皆と一緒に写りたいって思ってるよ?でもいつもそう思って、皆と写真を撮れるわけじゃないよ」

千歌「それに、無理してお願いすればそういうことも出来たと思わない?せっかくの形見の写真になるんだから、しいたけと写って欲しいって言ったら、要望を通してくれるかもしれないし」


梨子「……その写真が形見だというのなら、相手にとっても形見になるような写真を撮るとは思わない?」


千歌「え?」

198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/03(水) 19:52:09.57 ID:2ASeLL45O

梨子「葉百さんが千歌ちゃんにとって生き別れのお姉さんなら、相手にとっても生き別れの妹よ。その形見の写真、二人で写りたいと思う気持ちが強くても不思議じゃない」

梨子「やっぱり不自然なのよ。わざわざ姉妹の思い出を封じ込めた写真だっていうのなら、この写真である必要がない」

千歌「たまたま表示されたのがこの画像ってだけじゃない?画像のデータを表示してるだけなんだから、他のデータも入ってるかもしれないじゃん」

梨子「それは私も考えた。……けど、このペンダントはうんともすんともいわなかったよ?」


千歌「・・・」


梨子「それとも、千歌ちゃんが教わった中には他の画像を表示させる機能もあるの?」


千歌「それは……」

199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/03(水) 19:57:08.27 ID:2ASeLL45O

梨子「……もしかしたら他に隠された機能があるのかもしれない。でも、少なくともこのペンダントの画面には葉百さんとしいたけちゃんの写真が一番に表示されている」

梨子「これって要するに、このペンダントの持ち主は葉百さんとしいたけちゃんが写っているところを、一番大事にしているってことにならない?」


千歌「・・・梨子ちゃんは、何が言いたいのかな」


梨子「……簡単なことだよ。このペンダントは、やっぱり千歌ちゃんにとって大事なものなんかじゃない!」


梨子「葉百さんにとって大事なものだった!」


梨子「つまり……これを千歌ちゃんが持っているのは矛盾しているの!」



梨子「説明して千歌ちゃん!このペンダントを持っている本当の理由を!!」


200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/03(水) 19:58:05.83 ID:2ASeLL45O

千歌「・・・」


梨子「……」



千歌「・・・・・・」



梨子「…………ちょ、ちょっと千歌ちゃん!」


千歌「え?なに?」


梨子「なに?じゃない!何とかいったらどうなの!?」


千歌「あ、うん。……それで?」


梨子「そ、それで?って……!」


梨子「葉百さんが大事にする理由のあるものを……」
千歌「私が持ってるのがおかしい、って?」


梨子「っ!・・・・・・そうだよ」


201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/03(水) 19:59:42.97 ID:2ASeLL45O

梨子「……もし本当に千歌ちゃんが生き別れのお姉さんと形見として写真を撮るんだとしたら、こんな写真にならないはず」


千歌「大事な人とは一緒に写りたがるから?」


梨子「……そうね。それに時間の問題がある」


千歌「しいたけと写真を撮っていられるほど、悠長に出来たはずないってことだっけ?」


梨子「うん……」


千歌「でも、実際には私がこのペンダントを持っている。私にとって大事な理由がないのに。それがヘンだってことだよね」


梨子「……そういうことね」


千歌「そっか。でもさ、もし梨子ちゃんの言う通りだとすると変わってくることがあるよね?」

梨子「え、えぇ?変わってくること?」


千歌「……もしかしてわかんないまま言ってたの?あれだけ酷いことを?」

梨子「い、いやその……そういうわけじゃなくて!ちょっと面くらっちゃっただけだから!」

千歌「本当に……?」

梨子「……ごめんなさい。ちょっとわかってなかったです」

千歌「はぁ、しょうがないなぁ梨子ちゃんは」


梨子「……うぅ。すいません……(何か千歌ちゃんにこんな風に言われるのってすごいショックだぁ)」


202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/03(水) 20:00:58.73 ID:2ASeLL45O

千歌「……いいかな?チカにとってこのペンダントが大切なのには理由があったよね?」


梨子「……生き別れの《家族の形見》だから……」


千歌「そう。で、もし梨子ちゃんが言うことが正しいとすると、チカがこのペンダントを大切にする理由がないことになるよね?」

梨子「そ、そうなるわね」

千歌「うん。ってことは、これは生き別れの《家族の形見》じゃないってことになる」


梨子「……確かに、生き別れっていうところが大切にする理由だとしたら……その生き別れって関係はなくなってしまうのかな」


千歌「そうなんだよ。じゃあさ、この写真に写ってる人はうちとどんな関係があるの?」


梨子「え?……あ!」


千歌「そうなんだよ。もし生き別れの姉妹でもないとするなら、ここには赤の他人としいたけとが一緒に写っていることになるの」


千歌「もちろんしいたけの写真を撮らせてくださいって言ってくれるお客さんもいるよ?だけど一緒に撮って欲しいって言ってくる人はほとんどいないんだよ」

千歌「だから、そういう人がいたら誰かが覚えているはずなんだよ。特にこの写真みたいに、印象的な人を撮る時は」


千歌「だけど誰もその話をしないよね?何でだろう?」


梨子「……ぐっ!(た、確かに……)」


203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/03(水) 20:02:03.10 ID:2ASeLL45O

梨子(葉百さんは、千歌ちゃんによく似ている……そんな人が写真撮影を求めてきたら、記憶に残らないとは考えにくい……)


梨子「た、たまたま人がいない時に撮影したのよ!」

千歌「それって無断で撮ったことになるよ?そんなことあるかな?」

梨子「そ、それくらいマナーの悪いお客さんだったのかもしれないじゃない!」

千歌「梨子ちゃんは酷いこと言うなぁ……うちのお客さんにそんな人いないよ。……それに」


千歌「それにそもそも、そんなことは出来ないしね」

梨子「え、どうして?」


千歌「うちだって客商売だからね。しいたけがお客さんに粗相をするようなことがあっちゃいけないから、外に目が行き届かないような時は必ず家の中に入れてるの」


梨子「じゃ、じゃあしいたけちゃんと外で一緒に撮影するには……」


千歌「うん。最低でもうちの人が一人はいないとダメだね」

梨子「……うぅぅ。そんなぁ〜……(そういうことは先に言ってよぉ〜……)」


千歌「ね。そう考えると、お姉さん……梨子ちゃんは疑ってるみたいだから葉百さんって呼ぶけど、私と葉百さんが赤の他人とは言い切れないよね」

梨子「・・・・・・そう、ね」


梨子(それに関しては私も気になっていた)

梨子(少なくとも葉百さんと千歌ちゃんが全くの無関係だということは考えられない)

梨子(でも、それが一体どんな関係なのか……見当が付かないのよね)

梨子(たとえ姉妹じゃない可能性を考慮したとしても……そこだけはよくわからない)


204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/03(水) 20:03:06.73 ID:2ASeLL45O

千歌「……考え事してるところ悪いんだけど、話、続けてもいい?」

梨子「あ。ごめん千歌ちゃん!……いいよ、続けて」

千歌「ん。じゃあ、そうさせてもらうね。……梨子ちゃんの考えのもう一つは、葉百さんがこのペンダントを大切にする理由があるってことだったよね」


梨子「……うん」


千歌「だけど、その理由は具体的にはわからないよね?」

梨子「……そ、それはそうかもしれない……ケド」


千歌「もう一つ問題があるよ。梨子ちゃんの主張は、もしチカが生き別れのお姉さんと会って写真を撮ったのなら、二人のツーショットが入ってなきゃいけないってことだったでしょ?」


梨子「う、うん」

千歌「でもこの写真はそうなっていない。だとしたら、この写真はチカが葉百さんと一緒にいた時に撮られたわけじゃないことになる」

梨子「……た、確かにそうなるね(……あれ?だとすると)」


梨子「千歌ちゃんは葉百さんと直接会っていなかったことになる……」

千歌「そうだね。梨子ちゃんの今までの考えからするとそうなるだろうね」


千歌「……けど、それが大問題なんだよ」

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