梨子「未来のあなたが知ってるね」

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5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 21:50:31.99 ID:LeKpDSJgO
梨子(……まだちょっとわからないわね)


ルビィ「?まだちょっとわかんないや」


梨子(ルビィちゃんもそう思ったか……)


花丸「キーは″時間″ずら。今いないはずなのにあるって意味で使うのが幽霊で」

ルビィ「……昔なくなったはずなのに今なぜかあるっていう意味が強いのが亡霊って、こと?」

花丸「そうそう。その通りだよ、ルビィちゃん」


梨子(?ってことは……)


梨子「それって結局、今に注目するか過去に注目するかのニュアンスの違いで、指してるもの自体は同じってこと?」

花丸「まぁ、言葉が指すものっていう意味ではそうなるのかな……」

曜「理由は何であれ、今いないはずなのにいるのが幽霊で、昔”なくなった”からいないってハッキリしてるのに何故か今いる方が亡霊ってこと?」

花丸「そういうことだね。でも結局、どっちも同じものを指していることには違いないずら」

善子「えっそうだったの?」

花丸「善子ちゃん知らなかったのに使ってたずらか?」ニヨ~

善子「そ、そんなわけないでしょ!ただ……」

花丸「ただ、なんずらか?」

善子「……ただ、なんか違うっていうか」

曜「幽霊と亡霊じゃなんとなく違う気がするってこと?」

花丸「それって何も考えずに言葉の響きだけで使っただけってことじゃないの〜?」

善子「ち、違うわよ!」

梨子「……」

善子「ちょ、ちょっとリリーからも何か言ってよ!」

梨子「え、わ、私?」

花丸「そうやってすぐ梨子ちゃんに頼ろうとするのは善子ちゃんの悪い癖ずら」

善子「うっさい!あと私はヨハネ!」

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/01(月) 21:51:15.16 ID:LeKpDSJgO

善子「そ、それそれ!イメージの上ではやっぱちょっと違うんじゃないの?って言いたかったわけ!」

花丸「善子ちゃん……本当に?」

善子「何で嘘だと思うのよ!後ヨハネ!」

曜「ま、まぁまぁ落ち着いて……」

梨子「……花丸ちゃんっていろんな本を読んでるわよね。その中に、亡霊とか出てきたりしない?」

花丸「そうだね。善子ちゃんからかうのも飽きたからそろそろちゃんと話すずら」

善子「ずら丸あんたね……」


梨子(善子ちゃん……本当にいじられキャラよね)


花丸「物語なんかだと、心残りがある方を幽霊と呼んだりすることが多いずら」

曜「じゃあ亡霊は心残りがないほう?」

花丸「そうだね。だから幽霊は生前やり残したことをやろうとするけど、亡霊はそうじゃないんだよ」

ルビィ「う〜ん、具体的にはどういうことなのかな」

ダイヤ「……例えば、生前に恨みを持っていた相手に復讐するために蘇ったものを幽霊で。目的を果たしても現世に留まって無差別に人を襲い続けるのが亡霊……と、そういうことになるのでしょうか?」


梨子(ダイヤさんも食い付いた……)
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/01(月) 21:54:07.33 ID:LeKpDSJgO
>>5


梨子(……善子ちゃんをかばうわけじゃないけど)

梨子(私も正直、二つの言葉から受けるイメージは、ちょっと違う気がするんだよね)


ルビィ「花丸ちゃん、さっき言葉が指すものではって言ってたよね?じゃあ、それ以外だったらどうなのかな?」

花丸「それ以外?例えば、イメージの上では……ってこど?」

善子「そ、それそれ!イメージの上ではやっぱちょっと違うんじゃないの?って言いたかったわけ!」

花丸「善子ちゃん……本当に?」

善子「何で嘘だと思うのよ!後ヨハネ!」

曜「ま、まぁまぁ落ち着いて……」

梨子「……花丸ちゃんっていろんな本を読んでるわよね。その中に、亡霊とか出てきたりしない?」

花丸「そうだね。善子ちゃんからかうのも飽きたからそろそろちゃんと話すずら」

善子「ずら丸あんたね……」


梨子(善子ちゃん……本当にいじられキャラよね)


花丸「物語なんかだと、心残りがある方を幽霊と呼んだりすることが多いずら」

曜「じゃあ亡霊は心残りがないほう?」

花丸「そうだね。だから幽霊は生前やり残したことをやろうとするけど、亡霊はそうじゃないんだよ」

ルビィ「う〜ん、具体的にはどういうことなのかな」

ダイヤ「……例えば、生前に恨みを持っていた相手に復讐するために蘇ったものを幽霊で。目的を果たしても現世に留まって無差別に人を襲い続けるのが亡霊……と、そういうことになるのでしょうか?」


梨子(ダイヤさんも食い付いた……)

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 21:55:06.07 ID:LeKpDSJgO

花丸「ん〜概ねその通りずら」

善子「ってことは、リングとか呪怨とかに出てくるのは亡霊ってわけ?」

花丸「りんぐ?じゅおん?」

善子「ほら。前に一緒に観たじゃない。……ルビィが観たいからってことで」

花丸「ああ、あの映画のことずらね。……善子ちゃんが、ビビってたやつ」

善子「うっさいわ!」

果南「……よくあんなもの観れるね。というかよく観たいと思うね、ルビィ」

ルビィ「え?……あはは」

鞠莉「ショージキ私も、流石に好んでは観ないわ……」

曜「……それで。結局、善子ちゃんの言ってる通りなの?」

花丸「うん。そうだと思う。……自分を生んだ理由。言い換えれば目的を果たした後も存在して、何らかの行動を起こし続けるって意味では、亡霊という言葉が当てはまってるずら」

梨子「……[過去]にいたはずなのに、今いるっていう言葉。……確かに[亡霊]は、過去で、既に目的を果たして、未練も消して……」

梨子「そして、存在までも消えたはずなのに。でも、残って行動し続けるって意味では、[過去]に注目していると言えるわけね……」

ルビィ「幽霊は……目的を果たしていないから、それを果たすまではいるけど……」

曜「目的を果たしたら、成仏しちゃうってことだよね」

花丸「う〜ん。一概にそうとも言えないずら」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 21:56:39.80 ID:LeKpDSJgO
ダイヤ「と、いうのは……?」

花丸「復讐を果たしても、そのまま無差別に人を襲うようになったりすることもあるから」

曜「ああ……そっか」

ダイヤ「幽霊から亡霊になることも、あり得ると。……そう考えると、あまり厳格な区別ではないのかもしれませんね」

梨子「それでも、やっぱり違い自体はあったのね……」

善子「……ほら見なさい。私の言った通りでしょ」


果南「うん、そうだったね。じゃあこの話は終わりってことで!」

善子「そうね!……ってちょっと待ちなさーい!そんなことはどうでもいいの!話はこっからなんだから!」

曜「……そういえば、この辺に[亡霊]が出るっていうのが最初の話だったね……」

梨子「……。花丸ちゃんの話を聞くのに集中してすっかり忘れてたよ……」

果南「……忘れてると思ったのに」

善子「忘れるわけないでしょ!本題を話してないんだから!」

花丸「でも忘れかけてたずら」

善子「うるっさい!」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 21:57:20.39 ID:LeKpDSJgO
鞠莉「まぁまぁ、善子。……それで、どんな話なの?その、ゴーストの話って」

善子「……ま。鞠莉ぃ……!」

ルビィ「善子ちゃん……カンゲキしてるね」

ダイヤ「……鞠莉さん?また悪ノリしてません?」

鞠莉「違うって。……この学校の理事長としてはさ。不審者の可能性もあるから、注意を払った方がいいって思ったってことよ」

ダイヤ「あ……」

鞠莉「……もーしかして気付かなかったの?……ダイヤってば、ホーント頭がベリーハードねぇ!」

ダイヤ「あ。あたまが、べりーはーど……!?」

曜「どういうこと?」

梨子「……多分、頭が『カッチカチにカタイ』って言いたいんだろうね」

果南「まあ。ダイヤって普段、『ガッチガチのカタブツ』だからね。鞠莉の言いたいことはわかるよ」

曜「ああ……。なるほど」

ダイヤ「……失礼な……!」


ルビィ「それで。結局どういうことなの、善子ちゃん?」

花丸「ああ、そういえば善子ちゃんの話だったね。皆、ダイヤさんで遊ぶからすっかり忘れてたずら」

善子「……。釈然としないけど、これ以上ツッコんだら話が進まないし……まあ、いいわよ」

11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 21:58:46.44 ID:LeKpDSJgO
善子「……ここ最近。内浦を含めて、沼津の各地に、ここら辺じゃ見たことのない若い女性が出没しているってウワサなのよ」

果南「……ゴクリ」

ダイヤ「……見たことのない、若い女性ですか……?」

曜「内浦は観光地だし、沼津だって結構おっきいよ。見たことのない人の一人や二人、普通だと思うんだけど」

善子「それが、普通じゃ考えられないことが起きているのよ。その女性が現れるところには、ね」

梨子「……!普通じゃ考えられないこと……?」

善子「そうよ。例えば、あるトラック運転手の話だと……」

善子「ある日の深夜、山道を走っていたところ。疲労がたたったのか、一瞬意識が飛んでしまったらしいの」

ダイヤ「……なんて、危険な」

善子「そこで、次に気がついた瞬間には、目の前に若い女性の後ろ姿があったらしいのよ」

ルビィ「え……!」

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 21:59:30.40 ID:LeKpDSJgO
善子「運転手は咄嗟にブレーキを踏んだそうよ。でも、車と女性の距離は、大体十数メートル程度しか離れてなかった。……追突は、ほぼ確実だった」

果南「………」

善子「……でもね。実際には、誰も、轢かなかったらしいのよ」

曜「……突然姿を消したってこと?」

善子「そうみたい。……運転手は、幻影を見るほど自分は疲れていたんだなと反省して、とにかく休める場所までは運転していこうって思ったみたい」

善子「それで、車を再び動かそうとした時。逆だったことに、初めて気がついたの」

善子「女性が助かったんじゃなくて、逆に自分が助かったんだってことに、ね」

梨子「自分が助かった……?」

善子「そう。……改めてよく見ると。……目の前は、崖だったんだって」

果南「え……。え!?」

善子「……もし、急ブレーキするのが、後少しでも遅ければ。……そのまま、崖の下に真っ逆さまだったそうよ」

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:00:17.03 ID:LeKpDSJgO
花丸「……若い女性を見なければ。もしかしたら、その運転手さんは……死んでいた、ってこと?」

善子「……そういうことよ」

果南「ひっ。……こ、怖いこと、言わないでよ……」

曜「……でも、そういうことなら。仮に本当に[亡霊]だとしても、悪霊ではなさそうだね」

花丸「……それはわからないずら。単なる気まぐれの可能性もあるし……」

花丸「そもそも、助けようとしてやったかどうかすら、判断できない」

梨子「……花丸ちゃんが言うと、説得力があるわね……」

善子「ところが。……そもそものそもそもなんだけど。それが本当に霊なのかすら、よくわからないらしいのよ」

ルビィ「……どういうこと?」

善子「その運転手の言っていた、女性を見たっていう場所。……そこから、発見されたのよ」

善子「……靴の跡が、ね」

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:01:18.02 ID:LeKpDSJgO
ダイヤ「……く。くつの、あと……」

鞠莉「……マジ?」

善子「大マジよ。……どうも、直前に雨が降っていたらしくて。といっても、小雨程度だったみたいだけど」

善子「しかも、その道って、普段はちょっと砂ぼこりっていうか、砂利というか。……まあ砂がちょうどイイ感じにあんのよ」

花丸「その説明じゃよくわかんないずら」

曜「善子ちゃん……。説明スキルさんが足りてないよ……」

善子「いいでしょそこは!とにかく重要なのは、当時足跡が残る状況だったってこと!」

ダイヤ「……深夜にここ周辺の山道を歩くなど、普通の状況では到底考えられません。……もしその話が正しいとしたら、足跡をつけられる人間は、ほぼ確実にその女性だけ……ということになる」

善子「もっと不思議なことに、避けた後の痕跡は全く残ってないらしいの。あったのは、運転手が急ブレーキをする前に誰かがいたっていうことを示す足跡だけだった」

善子「……まるで。車が迫ってくる、その瞬間。空でも飛んで消えていったかのように、女性が目撃される前と後の足跡が、途切れていたらしいのよ」

梨子「……そ。そんなことが……」

曜「なんか。普通に霊がいたって言われるより、不気味だね……」

果南「…………。…。。……」

花丸「果南ちゃんの顔が、内浦の海よりも深い青色になっちゃったずら」

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:04:08.39 ID:LeKpDSJgO
ルビィ「……善子ちゃん。”最近この辺りに出る”っていう言い方をしてたってことは……それだけじゃ、ないんだよね?」

鞠莉「……」

善子「……。その通り。他にも、色んな不思議なことが起きているところで、若い女性が目撃されている」

善子「例えば、沼津の方ではそれこそ色んなことが起きているけど……。一番は、やっぱり『県自』の事故ね」

曜「!……『県自』の事故にも、その女の人が……?」

ダイヤ「……『県自』。静岡県で広く知られている、自動車学校の略で……県外からも、多くの方が免許を取りに来る場所ですね」

鞠莉「沼津は、広くて全部の教習が出来るから。わざわざ飛行機を使ってまで、免許を取りに来る人がいるって聞いているわ」

梨子「……合宿免許とか、そういうのもやってるんだよね」

ルビィ「……わおわお」ボソッ


善子「……うん、まあ、そんな場所のことね。そこの事故、皆知ってるでしょ?」

曜「うん。つい最近、事故があったんだよね……」


16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:08:04.90 ID:LeKpDSJgO
果南「……私も、知ってる。……私のクラスメートが目の前で見たって言ってた」

果南「その子も、免許をとりに行ってたんだって。それで、教習の順番待ちをしてた時……」

果南「………目の前に。教習者が、突っ込んでくるのを見ていたって……」

ダイヤ「……」

鞠莉「……」

善子「……。ある教習車が、テンパったのかなんなのか、わからないけど……ブレーキを踏むべきところで、アクセルを踏んでしまった」

善子「そういう時ってフツウ、教官がブレーキを踏んで安全を確保するのよね?……でも、何故か。ブレーキが壊れていた」

善子「何でなのかは誰もわからない。ただ少なくとも、事故が起こる前の点検では、異常は見つからなかったって言われてる」

鞠莉「でも……事故は、起こった」

ダイヤ「……車は、次の教習の順番を待っている人たちのもとへと迫った。……その時……」

果南「急に。……”止まった”」

果南「……ブレーキが効いたとかじゃなくて。……本当に、急に。ピタリと、止まった……」

曜「……一時期、私たち2年の間でも、話題になってたよ」

梨子「そうだったね……」

善子「そこにも、山道で目撃された若い女性がいたっていうわけ」

果南「……」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:08:51.12 ID:LeKpDSJgO
鞠莉「でもねえ。教習所って色んな人がいるし。若い女性ってだけでは、だから何って話じゃない?」

善子「それはそうね。……ただ、この前起きた事件」

善子「……船が壊されたことが、あったでしょ?」

果南「!」

曜「!」


梨子(……)


梨子(『船が壊された』……ついこの間起きた、内浦の漁師さんの船が何者かに壊されていた事件だ)

梨子(私は船に詳しくないからよくわからないけど……果南ちゃんから聞いた話だと、単なるイタズラの範疇に収まらない、ハデな壊され方をしていたそうだ)

梨子(ただ、現場にはかなり不可解なことが起きていたらしい)




ダイヤ「……重機でも用いないと出来ないような壊れ方をしていたのに。現場には、そのような痕跡が全く残っていなかった」

花丸「あったのは……壊された部分の、残骸だけだったんだよね」

果南「この田舎で、誰にも気付かれずに船を壊せるレベルの機械を動かすなんてこと、あり得ない」

鞠莉「田舎だからこそ、そういうのには敏感だから。……誰も目撃していないのは、不自然ってわけね」

ルビィ「皆、大騒ぎしてたよね。……何が何だかわからないって」

ルビィ「……その事件があった日に起きた、もう一つの事件があったから、余計に……」

梨子「……(もう一つの事件、か)」

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:09:46.56 ID:LeKpDSJgO
梨子(……船が壊されていた事件とは別に起きた、もう一つの事件)

梨子(これを、事件と呼んでいいのかどうかはわからないけど。……少なくとも、ある意味で大事件だったのは間違いない)


果南「その日。……全くそんな予兆はなかったっていうのに、急な天気の乱れで、海が荒れに荒れた」

ダイヤ「船が壊されていることがわかった、正にその日の午後。天候が急激に変動したのでしたね……」

ダイヤ「……あれは大変でした」

ルビィ「ルビィ達、学校に閉じ込められちゃったもんね……」

梨子「朝、あんなに晴れてたのに……気がついたら、辺り一面が雲に覆われていたのよね」

曜「私も直前まで気づかなかったよ。……体感天気予報、特技なのに」

花丸「……一番不思議だったのは。それだけ急で、大規模な気候変動なのに、犠牲者が一人も出ていなかったこと」

鞠莉「……アンビリーバボーとはこのことよね。その日、果南の家を含めて……なぜか、誰も船を出す予定がなかった」

鞠莉「……唯一。船を壊された人達を除いて」

果南「……」

曜「……」


ダイヤ「不幸中の幸いとでも言うのでしょうか……船が壊れて海に出られなかったことによって、結果的に命が助かったと言えます」

梨子「……奇跡。皆そう言って、船が壊されたこともうやむやになっちゃったんだよね……」

梨子「まるで、嵐が来るのをわかっていたかのようなタイミングで、船は壊され、その船に乗る予定だった人たちは助かった……」

花丸「まさか……」

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:10:43.73 ID:LeKpDSJgO

善子「そのまさか。……最近になって、船が壊される前夜、若い女性が目撃されていたことがわかったのよ」

ダイヤ「何ですって……!」

花丸「……船着き場に現れた、若い女性の[亡霊]……」

曜「……船が壊れたところにいるのが見られていて。……その後、不思議なことが起きて……」

花丸「最終的には、人の命が助かっている……。今善子ちゃんから聞いたばかりの話と、沿ってるずら」

果南「そ。そんなことが……」


善子「そう。[亡霊]現るところに、事件あり。つまり……」



善子「[亡霊]こそが事件を引き起こしている張本人なのよ!」




20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:11:29.46 ID:LeKpDSJgO
梨子「……」

ダイヤ「……」

鞠莉「……」


善子「……あ、あれ?皆、なんか言わないの?」

梨子「そんなこと……あり得るの?」

曜「わからないけど……なんか、説得力あるかも」

善子「いや、そんな真面目に取られても……えっと……」

ルビィ「……でもさ。逆に、今まで何でわからなかったのかな」

善子「え?」

21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:12:18.55 ID:LeKpDSJgO
ルビィ「あの時、かなり大きな騒ぎになってたんだよ。船が壊れたって」

ルビィ「そんな状況なのに、その時に目撃者の話をしないのは、不自然な気がするんだけど……」

鞠莉「……それは私も思ったけど。でも、何しろ直後に嵐が起きたじゃない?」

鞠莉「そっちに気を取られて、すっかり忘れていたってことはあり得るんじゃないかしら」

ルビィ「うぅん……」

善子「ま、まあ。今の鞠莉の話は、正しいわ。少なくとも、目撃したって人は同じことを言っている」

曜「でも……じゃあ何でこのタイミングになってそんな話が出てきたのかな?」

善子「……[亡霊]の目撃談が増えるにつれて、思い出したってことみたい」

善子「『そういえば、前の日に同じような人を見た覚えがある』って」

曜「……なるほど」

果南「同じような人ってことは……なんかその、ぼ、[亡霊]には共通点があったってこと……?」

ダイヤ「共通点というのは、若い女性であるという以外にですか?」

果南「……うん」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:13:03.19 ID:LeKpDSJgO
花丸「……この手の話で、そういうのはアテにならないというか、誇張されたり味付けされたりしていくものだけど」

鞠莉「でも、それって都市伝説とかの場合でしょ?ローカルなルールが加わっていって、最初の話の原形がなくなっていくっていうのは、地域を跨いだケースにはあると思うよ。でも……」

ルビィ「[亡霊]の場合は、沼津の中だけの話なんだよね……」

曜「じゃあ、ちゃんと信用できる共通点があるかもしれないってことか……」

梨子「どうなの、善子ちゃん?」

善子「……正直、若い女性以外の情報で共通している点はないみたい。そもそもの情報が不足してるってことね」

ダイヤ「ふむ……」

善子「ただ、一つだけ。……髪の長さに関しては一致しているようなの」

梨子「髪……」

ルビィ「どれくらいの長さなの?」

善子「それが……短くもなく、長くもなく、でも女性ぐらいの長さって感じの……」

ダイヤ「……なんというか、至極アイマイですね……」

梨子「善子ちゃん……しっかり説明してよね」

善子「わかってるわよ!えっと……その……そう!」

23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:14:02.75 ID:LeKpDSJgO
善子「そうよ!ちょうど千歌ぐらいの長さよ!」

果南「!」

曜「!」

善子「……たぶん」


千歌「・・・」


梨子「ち。ちかちゃんぐらい……」



千歌「・・・・・・」



鞠莉「……えっと、千歌?聞いてた?」

花丸「千歌ちゃん?自称堕天使に名前をよばれたよ?」

善子「……自称ゆーな」


千歌「・・・・・・ってえ?わ、わたし?」

24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:15:01.42 ID:LeKpDSJgO
善子「他に誰がいるっていうのよ。千歌よ千歌」

千歌「え、あ、ゴメンゴメン。チカのことか〜……。で、何の話だったっけ?」

善子「……あんたね……」

梨子「……千歌ちゃん(……話に夢中で、すっかり忘れていた)」


梨子(そういえば千歌ちゃんは、この話が始まってから、一言も発していなかった……)

梨子(……珍しい。確かに千歌ちゃんは、ぼーっとしてることもあるし、善子ちゃんのこの手の話は聞き流すことも多いけど)

梨子(皆が話しているところに、入ってこないなんて)

梨子(それも……内浦であった大事件の話をしてるっていうのに……)



曜「千歌ちゃん。どうかしたの?」

千歌「え?……何が?」

曜「いや、何か……考え事でもしてたのかなって思ったから」

千歌「ああ、うん……ちょっとね」

25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:15:46.39 ID:LeKpDSJgO
善子「ちょっと。何考えてたの?」

千歌「あ、うん。……もしかして、その女の人。うちの旅館に来たことないのかなって」

梨子「……え?」

千歌「だって、善子ちゃんの言う人って、少なくともここら辺では見ない人なわけでしょ?……だったら、どこかに泊ってるかもしれないって、思って……」

梨子「……あ」

ダイヤ「……確かに」

花丸「もし、地元にいない、知らない人だったら。……どこかに泊っているはず、だもんね」


千歌「もしチカの旅館に泊ってる人なら、わかるかもって思って……。でも、若い女の人、いなかったなぁって、そう思って……」

梨子「千歌ちゃんぐらいの髪の長さの若い人、じゃなくて、そもそも若い女の人が泊ったってことはなかったってこと?」

千歌「う〜ん……少なくとも、ここ数か月はそうだね」

花丸「[亡霊]が出たのって、つい最近の話なんだよね?」

善子「……確かに。話題になったのは、ここ数週間のことね」

ルビィ「……ま、鞠莉ちゃんのところには、いなかったの……?」

鞠莉「いたのかもしれないけど。……流石に、わからない」

果南「……でかい家に住むから、そうなるんだよ」

鞠莉「……はぁ?」

26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:16:54.08 ID:LeKpDSJgO
曜「ま、まあ2人とも。……とにかく、内浦のどこかに泊っているってことはないってことなんだよね?」

千歌「う〜ん。旅館組合の人全員から聞いたわけじゃないからわかんないけど、多分そうだと思う」

ダイヤ「……となると。少なくとも、[亡霊]と思われる方は内浦には泊っていない、ということになりますね」

ダイヤ「ですが、だからといって[亡霊]が人間ではない、ということにはなりません。……でも」

ダイヤ「人間には不可能なことが、その若い女性が現れるところでは起きている……ということを信じると。確かに、なんというか……」

果南「……」

鞠莉「マジに。……そういうこと……?」

花丸「……この内浦に、[亡霊]が、現れている。ってことになるずらね」

ルビィ「……うぅ。怖いよ……」

梨子「……で。でも。……悪いことをしてるわけじゃないし、気にする必要はないんじゃないかな?」

曜「……そ、そうだよね。人の命が助かるようなことをしているんだもんね?」

花丸「そうだね。……少なくとも、今のところは」

曜「……不安になること、付け足さないでよ」

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:17:53.70 ID:LeKpDSJgO
善子「……あ、あのさ。……そんなに深刻にならないでよ。アクマでウワサなんだし」

ダイヤ「……ウワサで片づけるには少々内容が悪魔じみすぎてます」

ルビィ「流石に最近あった事件の話までされると、ちょっと怖いって……」

善子「う。ご…ごめんなさい」

鞠莉「ま、まあ。……面白いといえば面白かったわよ、善子の話」

果南「……。……」

鞠莉「……面白さのあまりウケすぎて、果南は言葉を失っちゃったみたいだけど」

花丸「……ひっどい幼馴染ずら」

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:18:23.68 ID:LeKpDSJgO
ダイヤ「……とにかく。気を付けるにこしたことはなさそうですね」

千歌「そうだね。チカも、ちょっと旅館の人に聞いて色々調べてみるよ」

梨子「……」

ダイヤ「さて、もういい時間です。……支度して、とっとと帰りますわよ」

曜「……とっととって……」

ルビィ「口汚いよお姉ちゃん」

ダイヤ「やかましい!いいから帰りますわよ!」

「は〜い……」


梨子(……それからは黙々と支度をして)

梨子(……今日も、何故か斜線を入れられている、スクールアイドル部≠フ文字を目にしてから、私は部室から出た)


29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:30:20.63 ID:LeKpDSJgO
ルビィ「……でね。善子ちゃんにアイドルの勉強のために借りた本が、凄く面白くってね」

果南「へぇ。善子、何の本貸したの?」

ダイヤ「アイドルの勉強になるような本……わたくしも興味がありますね」

善子「……ダイヤには合わないと思うわよ」

ダイヤ「は。は?」

果南「どういう意味なの、それ?」

善子「いや……ダイヤってお堅いし。嫌いかなって」

果南「だから。その嫌いかなってもののことをちゃんと言ってよ」

善子「……ラノベよ」

果南「ラノベ?……ああ……」

ダイヤ「……」

ルビィ「途端に顔が厳しくなっちゃった」

善子「だーもう!だから言いたくなかったのにぃ!ルビィ!あんたのせいよ!」

ルビィ「ええ……」

果南「そもそもなんでルビィがアイドルに役立つって思ったのかが謎なんだけど……」


鞠莉「……いや〜。平和ねぇ」

花丸「平和ずら」

曜「なんか眠くなっちゃうね」

鞠莉「あーわかる。なんにも考えずにぷかぷかお風呂に浮かびながら寝ちゃいたい。疲れがお湯ん中にじわじわ溶けていくのをぼんやり感じながら、消え入りたい」

花丸「あ〜いいねぇ。極楽だろうね」

曜「……それは違う意味で極楽に行きそうだね……いや、合ってると言えば合ってるんだけど……なんだろうこのモヤモヤ」


30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:31:22.47 ID:LeKpDSJgO
梨子(学校から出て、気付いたら流れで松月に寄ろうってなって。皆が思い思いに話をして、歩を進める中……私は、部室での話を思い出していた)


梨子「……人間には不可能なことを起こす、[亡霊]か……」

千歌「梨子ちゃん。気になるの?」

梨子「……え?あ、うん。えっと……気になるって?」

千歌「今、うんって言っちゃったよ梨子ちゃん。……それより、さっきの善子ちゃんの話。まだ、気になってるの?」

梨子「ああ……うん」

千歌「やっぱり。……で?どんなことが気になってるの」

梨子「どんなことっていうか……」

千歌「……?」

梨子「……」

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:31:54.74 ID:LeKpDSJgO

梨子「ねえ、千歌ちゃん」

千歌「ん、なあに?」

梨子「……千歌ちゃんって。……その」

梨子「生き別れの姉妹とか、いたりしない……?」

千歌「・・・・・・私に?何で?」

梨子「実は……」

32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:32:45.62 ID:LeKpDSJgO

梨子(……実は。私は、もしかしたら[亡霊]に会ったことがあるのかもしれないと、思っていた)

梨子(善子ちゃんの話を聞いていて、ふと、思い出したことがあった)

梨子(私が、内浦に来た、あの日。……千歌ちゃんと出会ったあの運命の日の、一日前)

梨子(……私は。ある不思議な女の人に会っていたのだ)

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:33:29.01 ID:LeKpDSJgO
梨子(あれは、私が内浦の家に着いて、私の大事なピアノが届いた日だった)

梨子(……ピアノが弾けない。でも、ピアノはここに来て、ここにあって。……でも、それを引くための心が、私が、ここにいなくて)

梨子(言い表しようのない気持ちが広がって……でもどうにかすることもなくて。ただ、家の前に広がる海を、見に行って……)

梨子「海はキラキラしてるのに。キラキラしてるはずなのに。視界には、太陽の光を反射した煌めきが、いくつも目に入ってるはずなのに」

梨子(私の視界は、ぼやけていて。その煌めきのどれも。その粒たちの、どれも。ちゃんと、見ていなかった)

梨子(……そうして、ただぼーっとしていた時。ふと、近くに女の人が立っていることに気づいた)

梨子(なんで気づけたのかは、上手く言葉にできない。でも、何となく……ヘンな雰囲気を感じたからだと思う)

梨子(とにかく、私は女の人の方に視線を向けてみた)

梨子(雰囲気は、私よりも年上の感じで。大人の佇まいだったけど。でも、なんだか親しみがあるような……)

梨子(不思議な感じのする人だった)

梨子(でも、全体から感じる雰囲気は、ただそれだけだった。……ヘンな雰囲気がする感じでは、なかった)

梨子(だから、その人の表情を見た。何でヘンな感じがしたのか、確かめるために)

34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:33:59.14 ID:LeKpDSJgO
梨子(……そこには、確かに、ヘンな雰囲気がした原因があった)

梨子(……その人は。首から下げたペンダントを握りしめ)

梨子(……物凄く驚いたような……あるいは、呆然としたような表情を、していた)


『え。……え?……なんで、〈あなた〉が……』


梨子(……私には聴き取れなかったけど。何か言葉を漏らした、その後)

梨子(女の人は、急に、ふらっと……姿勢を崩して)


梨子『え。え?ええええぇぇぇぇ!?』


梨子(……思わず飛び出した私の腕の中に。収まっていた)


35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:35:32.34 ID:LeKpDSJgO

梨子「……。あの。……落ち着きましたか?」

「うん。・・・・・・ありがとね。わざわざお家まで運んでくれて、休ませてくれて」

梨子「い、いえ……。本当なら、救急車を呼ぶべきだったかもしれないですけど……」

「そこまでじゃなかったから、大丈夫だよ。ごめんね、迷惑かけちゃったね」

梨子「いや、そんなことないですよ」

「・・・・・・ふふっ。いい娘だね、あなたは」

梨子「……」

「そういえば、お家の人は?私、ご挨拶したいんだけど」

梨子「あ、その。まだ、引っ越しの諸々が終わってなくて、色々してるというか……」

「・・・・・・ああ、なるほど。どうりでここら辺じゃ見ない顔だと思ったよ」

梨子「……地元の方、なんですか?」

「・・・・・・。・・・・・・正解と言えば正解だけど、ちょっと違うかな」

「私はここで生まれたはずなんだけど。実際には、違うところで育ったんだ」

梨子「……な。なるほど」


梨子(……触れちゃいけないこと、だったのかな)

36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:36:21.21 ID:LeKpDSJgO
「そんな気を遣わなくて大丈夫だよ。よく覚えてないし」

「ま、でも自分の生まれた場所だしってことで。せっかくだから、時間を取って観光してたんだよ」

梨子「……そう、ですか」

「そう。・・・・・・。ところで、あなたの名前は?」

梨子「え。……あ、すみません申し遅れました!私の名前は……」


「・・・・・・」



梨子「……桜内、梨子です。……東京から来て、明後日から浦の星女学院という学校に編入する予定の、女子高生……です」




「・・・・・・・・・」




37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:37:15.13 ID:LeKpDSJgO

「・・・女子高生ってところまでは言わなくても大丈夫だったけどね。そっか、梨子ちゃん、か・・・・・・」

「梨子ちゃん。ありがとね?・・・・・・」


「・・・・・・私を助けてくれて、ありがとう」


梨子「い、いえ。当然のことですから……」

「・・・・・・」

梨子「……あの。私も、あなたのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」

「・・・・・・私の名前?」

梨子「は、はい。せっかく、出会えたんですし……」

「・・・そうだね。どうしっよかな」

梨子「……あ。あの……」

「・・・・・・なんて。冗談だよ、冗談。・・・・・・私は」


38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:38:19.96 ID:LeKpDSJgO

「・・・・・・私の名前は、”ハオ”。文字は、言葉の葉と、数字の百を組み合わせて、”葉百”って書いて”ハオ”って読むんだ」

梨子「……ハオ……」

「・・・・・・ちなみに、苗字は言わないけど、少なくともアサクラじゃないからね?」

梨子「……あ。は、はい!わかりました!は、はお……さん?」

「・・・・・・ふふっ。珍しいよね、私の名前」

梨子「あ……ええと……」

「あはは。困らせちゃったね、ごめん。・・・・・・でも、普通じゃあんまり聞かないような名前でしょ?」

梨子「……まぁ、そうかもしれませんね」

「そうなんだよ。・・・百って字を”お”って発音するの、それこそヤオヨロズとか、そういう言葉でしか見たこともないだろうし聞いたこともないだろうしね」

梨子「……そう、ですね」


梨子(……八百万の言葉。言霊って言葉もあるように、言葉を聖なるものだと考えると)

梨子(まるで、神様みたいな名前だって……そんな感じもするかも……)


「・・・・・・」

39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:40:22.08 ID:LeKpDSJgO
梨子「その。……葉百さん、私を見て驚かれていたと思うんですけど」

「ああ。そうだね・・・・・・」

梨子「私。何か、おかしかったですか?」

「え?」

梨子「その……凄くヘンな顔、してたとか……」

「・・・・・・あっはは!ないない!」

「そんなことないよ。ちょっとまともすぎるぐらい、まともなかおだよ!」

梨子「……そ、そうですか……」

「・・・・・・。ちょっとね。昔のことを、思い出しちゃったんだ」

梨子「昔のこと……ですか……」

「うん。・・・・・・ピアニストの友達のことを、ね」

梨子「……!」

「・・・・・・。そういえば。梨子ちゃんも、ピアノ、弾くんだよね?」

梨子「え。……な、なんでわかるんですか……」

「だって、そこに置いてあるし。ピアノ」

梨子「……あ」

40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:41:20.29 ID:LeKpDSJgO

「・・・・・・。梨子ちゃん。助けてくれたお礼に、ちょっと占いしてあげるよ」

梨子「……え。え?」

「なんかあるでしょ?今の梨子ちゃん」

梨子「……それは……」

「だから、せめてものお礼ってことで。占って、梨子ちゃんの道を教えてあげるよ!」

梨子「……ええっと。でも、その……」

「大丈夫、任せて!・・・・・・こう見えて、ウチは占いが得意なのだ!」

梨子「あの、えっと」

「・・・・・・う〜ん。見えてきた」

梨子「いや、あの。……別に、私は頼んでな、」

「わかった!」

梨子「はい!?」

「・・・・・・梨子ちゃん。なんだか悩んでるね?それも、ピアノについて」

梨子「……え。な、なんでわかるんですか……?」

「カードがウチに告げたんやっ。梨子ちゃんの悩みは、そこだーって!」

梨子「……カード、持ってないじゃないですか」

「まあ、ほら、そこはさ。心のカードっていうかさ」

梨子「……」

「とにかくっ。・・・・・・ピアノで悩んでる梨子ちゃん。それは、なんでなのかな?」

梨子「……それは」

41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:44:51.34 ID:LeKpDSJgO

梨子「……実は。自分でも、よくわかってないんです」

「・・・・・・」

梨子「ただ、上手く弾けないんです。……とにかく、上手く弾ける気がしなくて」

「・・・・・・自分で、納得できない?」

梨子「……はい」

「そっか。・・・・・・ねえ、梨子ちゃん?」

梨子「……はい?」

「ちょっと。弾かせてくれるかな?」

梨子「……え?」

「ピアノ。・・・・・・私に、弾かせてもらってもいい?」

梨子「え、あ。……はい」


梨子(何故だろう……大切なピアノを、見ず知らずの、さっき会ったばかりの人に触らせるなんて)

梨子(普段の私なら、しないはずなんだけど……)

梨子(でも。なんでか、自然と私は、葉百さんにピアノを弾いてもらっていた……)


42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:45:50.66 ID:LeKpDSJgO

梨子「……す。すごい……」


梨子(本当にすごかった。物凄く精確な、音。……人間にこんな演奏が出来るのかってぐらい。到底想像出来ないぐらい、美しい音)

梨子(あまりの凄さに、もう一度私から弾いてもらうように頼み込んでしまった)

梨子(……二度目も凄かった。こっそり、スマホで録音してしまったけど、それだけ凄かった)


梨子「す、すごい……こんな完璧な演奏……」

「ふふっ、ありがとう。でも、キラキラしてなかったでしょ?」

梨子「え、あ、それは……」

「気を使ってくれなくてもいいんだよ。……この演奏は、技術だけで、心が籠ってない」

「まるで機械のような演奏だったでしょ?」

梨子「……」


43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:46:57.07 ID:LeKpDSJgO

「ねえ。・・・・・・梨子ちゃんが目指しているのは、こんな音色?」

梨子「……そ。それは……で、でも!……」

「違うんだよね。・・・・・・だったら、梨子ちゃんが悩んでるのは技術の問題じゃない」

「・・・・・・何をするべきか。何が、自分の目指すものなのか」

梨子「……!」

「・・・・・・。〈あなた〉はそれを求めている。・・・・・・違う?」


梨子「……そう、かもしれません」


「・・・・・・そう。・・・・・・だったら、もう一つだけ占いしてあげる」


梨子「……え?」

「・・・・・・。きっと。すぐに、会うことになる」

「あなたの求めているものを、一緒に探してくれる、人に」ギュッ

梨子「……」

44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:48:11.95 ID:LeKpDSJgO

梨子(……その人は。首から下げたペンダントを握りしめ。私の目を、真っすぐ見て)

梨子(そう、言った)

梨子(……そして、葉百さんと別れて。海の音を聴きたいって思った時に)

梨子(……運命の出会いをした)

梨子(千歌ちゃんと。出会ったんだ……)


45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:49:03.81 ID:LeKpDSJgO


千歌「……へえ。そんなことがあったんだ」

梨子「うん」

千歌「でも、なんでそこから生き別れの姉妹って発想が出てくるの?」

梨子「それは……」




梨子(その人は……今考えれば)

梨子(……千歌ちゃんに、よく似ていたから……)

46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:49:30.03 ID:LeKpDSJgO

梨子「……」

千歌「……。ま、いっか」

千歌「一応言っとくけど、チカにはいないよ?志満ねぇと、美渡ねぇと、あとしいたけ!姉妹は全部でそんだけだよ」

梨子「……そう、よね」


梨子(……そうだよね。単なる、私の思い違いだよね……)

47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:49:58.67 ID:LeKpDSJgO
千歌「……あっ。そういえば!」

梨子「え?」

千歌「善子ちゃんに借りてた漫画、返すの忘れてた!今返さなきゃ!」

梨子「……えぇ?今それ?というか、今なの?」

千歌「忘れないうちにだよ!善子は急げ〜ってね!」

梨子「……善は急げでしょ、それを言うなら」

千歌「そうともいう!……お〜い、よしこちゃーん!」

梨子「……はぁ」

48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:50:34.29 ID:LeKpDSJgO

梨子(……最近、善子ちゃんは、自分の趣味が受け入れられないことを遺憾に思ったらしく、こっちがちょっと興味がありそうな素振りを見せると、爛々とした目と共に自分の好きなものを貸し出すようになった)

梨子(千歌ちゃんも、ルビィちゃんも、その魔の手にかかって。……見事に、善子ちゃんの趣味を理解しつつあるようだった)

梨子(……かく言う私も。リリーとか呼ばれるようになった後は、真っ先に標的にされて、アニメを半ば無理やり貸されている)

梨子(……まあ、正直面白いんだけど。今も早く家に帰って続きを観たいと思ってる自分がいるし)

梨子(もっと早く知っていれば……!アキバの近くに住んでいたあの頃、すぐに聖地巡礼出来たのに……!)

梨子(ドクペ好きじゃなかったけど、あの作品を観た後だと無性に飲んでみたくなるのに……!お母さん買ってくれないし……!)

49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:54:07.00 ID:LeKpDSJgO

曜「……梨子ちゃん。凄い顔してるよ」

梨子「え、え!?あれ、曜ちゃん……?」

曜「気づいてなかったの?」

梨子「あ、ご、ごめん」

果南「けっこー梨子ってそういうとこあるよね。なんか自分の世界に入り込んだら一直線っていうか」

梨子「果南ちゃんまで……」

50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:55:28.38 ID:LeKpDSJgO
梨子「……二人とも、さっきまで善子ちゃんとか花丸ちゃんとかと話してたけど、どうしたの?」

果南「どうしたって言われても……。千歌が善子のとこに来てからちょっと話についていけなくなったからさ。なんか漫画の話なんだけど、ぎたいがーとかあんじゅぇがーとか、ふ、ふらてっろ?とかさ」

梨子「ふらてっろ?」

果南「兄妹、って意味らしいけど。よくわかんない」

梨子「……その話に、ルビィちゃんはついていけてるの?」

果南「そうみたい。で、ダイヤもそういう漫画なら読んでみたいとか言って大騒ぎだしさ」

梨子「果南ちゃんは読んでみたくないの?」

果南「読みたいっちゃ読みたいけど。……なんか話を聞くに、ちょっと重たそうな内容でさ」

果南「それに人間の体を改造するって話は、ちょっと性に合わないっていうか……」

梨子「……そ、そう。……曜ちゃんは?」

51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:56:29.80 ID:LeKpDSJgO
曜「……なんか、鞠莉ちゃんと花丸ちゃんで、天国と極楽のどっちが強いのかって話になって、全然ついていけないから逃げてきた」

梨子「ええ……」


曜「鞠莉ちゃんがさ。天国へは階段でいけるしドアもあるし、天国の中の涙ってことも考えられるから、天国って人間らしさが残る場所なんだって言って」

曜「じゃあ、人間らしくいられる天国の方が人間にとってはある意味最高の場所なんじゃないかって言ってね」

曜「花丸ちゃんは、でも人間らしさを残しちゃえるような場所なのに天国的な平和があったら、退屈で地獄に行きたくなるようになるはずだって言ってさ」

曜「そもそも死んじゃった後に人間らしさが残るのってどうなんだろうね?……って聞いてみたら。二人が白熱しちゃって……より人間の幸せを実現できる場所はどっちなんだろうって、強さ議論しちゃってね」

梨子「……壮大な話ね(……それって火種は曜ちゃんが蒔いたんじゃないの……?)」

52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:58:05.82 ID:LeKpDSJgO
果南「……ところでさ。最近、ヘンだと思わない?」

梨子「……え?何が?」

果南「いや、だからさ。最近、ヘンな感じ、しない?」

梨子「……[亡霊]とかのウワサが出る、沼津のこと?」

果南「いや!そうじゃなくて!……というかその話しないでよ!せっかく忘れてたのに!」

梨子「……ご、ごめんなさい……(理不尽に怒られた……)」

曜「……果南ちゃんが言いたいのはね。千歌ちゃんのことなんだよ」

梨子「……!千歌、ちゃん……?」

果南「そう。……曜とも話してたんだ」


果南『……なんか最近の千歌、妙な気がするなー』

曜『果南ちゃんもそう思う?私もそうなんだけど……でも様子はそんなに変わらないし……』


果南「ってさ」

梨子「……」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:58:48.11 ID:LeKpDSJgO
曜「なんでなんだろうねって二人で話してて。やっぱ、大技に挑戦するからっていうところもあるのかなって感じになったんだけど」

梨子「……前、三年生がケガしたっていう、あのフォーメーションのことだよね」

果南「そ。……でも、改めて思うと、それだけじゃない気がするんだよなーって」

梨子「……それだけじゃない?」

果南「うん。……なんか、千歌が自分のこと話す時に、ちょっと違和感がある時があるとでもいうか……」

梨子「……」

曜「私もそんな感じ。……なんか、千歌ちゃんは千歌ちゃんなのに、千歌ちゃんじゃない感じがするっていうか」

梨子「……二人とも。何が何だかよく解らなくなってるよ」

果南「……そうなんだけど」

曜「でも……」


54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 22:59:55.22 ID:LeKpDSJgO
梨子「……実を言うと。私も、ちょっと気になってはいたんだけど」

果南「!」

曜「!」

梨子「でも。それでも、千歌ちゃんは千歌ちゃんだし……」

果南「……そうなんだけどさ」

曜「……結局。梨子ちゃんも何が何だかよく解らなくなってるよ」

梨子「……それもそうなんだけどさ」


梨子(はぁ……なんてそろってため息をつきつつ、千歌ちゃんの方を見た)

梨子(千歌ちゃん……。確かにここ最近、なんだか本調子じゃないのか、ヘンな感じがちょっとだけすることがある)

梨子(……何でなのかは、わからないけど。……千歌ちゃんの様子がおかしい時は、皆気付くし、私たちだけが違和感を感じているっていうのが、一番ヘンな感じがする)

55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 23:02:20.68 ID:LeKpDSJgO

梨子(……千歌ちゃん。楽しそうだな……)

梨子(善子ちゃんも千歌ちゃんと話が合って嬉しそうで。急に堤防に乗って腕をブンブン振ってるし)

梨子(危ないな……と思ったらダイヤさんが注意し始めた。流石ダイヤさん)

梨子(……そんなの気にせず千歌ちゃんも堤防に乗ってるけど……。いや、あれは善子ちゃんを止めるためかな)


「むーかーしー むーかーしー♪あーるーとーこーろーにー?」

「パースーターのくーにーがーあーりーまーしたー♪」


梨子(……違った。二人ではしゃぐためだ)

梨子(二人してなんか歌い出して……)


ルビィ「……二人ともはしたない」

ダイヤ「ですね……」


梨子(……。ルビィちゃんの辛辣な言葉を受けても気にせず歌ってるのは流石ね……)


花丸「はぁ……今日も平和ずら」

鞠莉「……そうね。やっぱ、今日も平和ね」


梨子(……気づいたら花丸ちゃんと鞠莉ちゃんが疲れてるし)


梨子「はぁ……なんか私も疲れちゃったな」

56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 23:03:42.20 ID:LeKpDSJgO
梨子(……そんな風に、独りごちてた時。急に、善子ちゃんが叫んだ)


善子「わーっ!私のカバンー!!」


梨子(……手に持っていたカバンを、ブラブラ揺らしてる内に。不意に、すっぽ抜けてしまったらしい)

梨子(カバンは、善子ちゃんの頭上に舞い上がった後。……善子ちゃんからちょっとズレて、海の方に堕ちていった)


善子「っ!まだ掴めるっ……!って、え?」


梨子(善子ちゃんは、必死に手を伸ばして、カバンの紐を掴んだ)

梨子(でも……無理な姿勢で手を伸ばしたためか、そのままバランスを崩して……)


花丸「危ないっ!!」

ダイヤ「っ!落ちてしまいます!」

曜「!!」

善子「い。いやあああ!!」


梨子(……海に、落ちそうになっていた)


ルビィ「っ!!」

果南「この角度じゃ……!」


梨子(善子ちゃんは、頭から落っこちそうになっていた)

梨子(その先は……水じゃない。……テトラポッド……たくさんの、岩……!)

梨子(このままじゃ……!)


鞠莉「善子が……!」

梨子「善子ちゃん!!」

千歌「・・・ッ!!」

57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 23:05:24.42 ID:LeKpDSJgO

梨子(……皆。固唾をのんだ、その時)

梨子(千歌ちゃんが。善子ちゃんに向かって飛び出した)

梨子(……不安定な姿勢で、手を伸ばした千歌ちゃん。……下手をすれば、二人とも真っ逆さまに、落ちていってしまうような、状態なのに)

梨子(まるで。当然のように、善子ちゃんは千歌ちゃんに、片腕で受け止められていた)

梨子(……片足立ちのプロでも、そんな安定した姿勢はとれないんじゃないかって思うぐらい、キレイに片足だけ立てて)

梨子(善子ちゃんを左腕に抱いて。まるで時が止まったかのような、一瞬が過ぎた)


58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 23:06:16.46 ID:LeKpDSJgO


善子「……あ。あれ……?」

千歌「・・・・・・。大丈夫、善子ちゃん?」

善子「……う。うん……」

千歌「・・・・・・ダメだよ。心配かけちゃ」

善子「……うん……」

千歌「よかった。・・・・・・善子ちゃん」ギュッ

善子「ぁ……。ごめんな、さい。……ありがとう」ギュッ



鞠莉「……よ。よかった……」

梨子「……ホントに。二人とも、ケガしなくてホントによかった」

千歌「……よかったよー!善子ちゃんが無事でよかったよー!」ギュゥゥ

善子「え、あ、ちょっ!力強いー!放してっててばー!!」ギュゥッ

曜「……」

果南「……ハグしてるね〜」

花丸「離れる気ないじゃん善子ちゃん」

梨子「……」


梨子(……何事もなかったかのように、いつもの空気になった)

梨子(それはいいんだけど……絶対ダイヤさんに怒られるよ)

ダイヤ「……」

ルビィ「……」


梨子(……あれ。怒らない……というか、何か考え込んでる……?)

59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 23:07:29.33 ID:LeKpDSJgO
梨子「あの。ダイヤさん?」

ダイヤ「えっ?……え、はい?」

梨子「どうかしたんですか?」

ダイヤ「あ、いえ……。ただ……」

ダイヤ「今の、動き……。まるで、達人のようでした」

梨子「た、達人?」


ダイヤ「ええ。……善子さんを支えつつ、片足ながらも自身も体勢を崩さない、その絶妙なところで、ピタリと止まった……」

ダイヤ「非常に難しいバランスを、一瞬のうちですが千歌さんはとれていた。……一歩間違えれば、二人とも海に落ちていたでしょう」

ダイヤ「考えられないことですが、善子さんを助けた今の動き。千歌さんの体運びは、武術を極めた達人のごとく洗練されたものだったように見えましたね」

ダイヤ「それこそ、奇跡≠ネのでしょうけど、ね」フフッ

梨子「……!」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 23:08:38.19 ID:LeKpDSJgO

梨子(……奇跡≠、千歌ちゃんが起こした)

梨子(……ダイヤさんは、お家の方針で、武術もたしなんでいるって、前に聞いたことがある)

梨子(そのダイヤさんが言うことだ。……本当に、千歌ちゃんは奇跡≠起こした、ってことなんだろう……)



ルビィ「……善子ちゃん、顔真っ赤だね。そんなに千歌ちゃんに抱きしめられて嬉しいの?」

曜「え?」

千歌「えっ」

善子「え!?……あ。ち、違う!これは夕日のせいでこうなってるだけよ!サンシャインのせいよ!!」

61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/01(月) 23:09:11.69 ID:LeKpDSJgO

鞠莉「……今日は土曜の午前練習の日よ。日が暮れるどころか、日が昇ったばかりの時間なのよ?」

果南「夕日なんて出ようがないね」

善子「あ。……ぅう……」

千歌「……よしこちゃ〜ん?」

善子「ひぇっ」

千歌「かわいいところあるなーこのこの!」

善子「や、やめてよー!後私はヨハネだってばー!!」


梨子(……なんか。ウヤムヤになっちゃったけど)

梨子(……これで、いいのかな。平和だし……)


曜「……」


梨子(……内浦は今日も平和。……沼津のことは、知らない)

梨子(……[亡霊]のことも。きっと……本当に、単なるウワサなんだよね……)

梨子(松月で何食べよっかな〜……)

62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 06:33:37.81 ID:nMYKt+U7O
「ねぇ、知ってる?最近流行りの、AIのこと」





梨子(……Aqoursの練習が始まる前。何故だか訂正の線が自然に思えてしまう、『スクールアイドル部』のプレートが掲げられた部屋の中で)

梨子(遅れて入ってきた、三年生の鞠莉ちゃん……この学校の理事長までしている、スーパー高校生が。不意にそんなことを言い出した)


ルビィ「……えっとぉ〜えっと。……あっ、ここだ!」

ダイヤ「残念。……そこだと、こうすると……王手!」

ルビィ「あ!ま、まった!」

ダイヤ「……ふふっ。待ったは、ナシですよ?」

ルビィ「ええ〜……」


梨子(……最近、部室の奥に、埃をかぶった将棋板を見つけてから。何故か黒澤姉妹は、その遊びにドハマりして)

梨子(しょっちゅう、姉妹で対局するようになった)

梨子(……今のところ、ルビィちゃんはダイヤさんには遠く及ばないようだけど……)

梨子(それでも、やるたびに成長していくルビィちゃんに、驚かされながら、自分もその場で色々考えられて、成長出来て嬉しいって……ダイヤさん言ってたな)

63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 06:36:35.45 ID:nMYKt+U7O
鞠莉「……ちょっとそこの鉱物姉妹話聞きなさいよ」

花丸「えーあい?未来ずら?」

鞠莉「うん、未来じゃなくて今なんだけどね。でも、ある意味未来の話かもね。……花丸はちゃんと人の話聞けて、えらい!」ギュッ

花丸「わあ。……鞠莉ちゃん、急に抱き着かないでよぉ」

果南「もう。マルってば何でも未来って言うんだから。……ま、私もえーあいって何のことかわかんないけどね」

ダイヤ「……AI。アーティフィシャル・インテリジェンス……人工知能の略ですね。お二人とも、ちゃんとニュース見てますか?」

果南「お、復活したね。……ニュースなら見てるよ。天気予報とか、連続テレビ小説とか」

ダイヤ「……」
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 06:37:11.43 ID:nMYKt+U7O
花丸「おらの家、ご飯の時はテレビ見ないから。……いいなあ果南ちゃん。おらは土曜日の一週間分の放送しか見てないずら」

果南「あ〜マジか。何気にクラスメイトとの話についていけなくなるやつだよね、それ」

花丸「そうなんだよ。水曜ぐらいから、だんだん話がわからなくなってきて……でもネタバレはされるし」

果南「つらいな〜それ。しかもAqours始めてからは、土曜も練習だもんね?」

花丸「そうなんだよ〜。結局日曜に録画してたのを見てるんだよね」

果南「そうなんだ。じゃあ、マルの前じゃネタバレしないように、今朝見た話はしないようにするよ」

花丸「ありがと〜果南ちゃん!」ギュッ

ダイヤ「……」

65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 06:37:57.44 ID:nMYKt+U7O

鞠莉「あのさ。……話、してもいい?」

曜「……AZALEAは無視してもいいんじゃないかな、この際」

鞠莉「……そうする」

梨子「あ、あはは」

ルビィ「……そういえば、鞠莉ちゃん、最近学校に来てなかったよね?なんか、けいえいしゃのなんとか〜ってのに出てて」

鞠莉「そうなの!よく聞いてくれたわね、ルビィ!……将来の経営者たるもの、最新技術の何たるかを知らねばならない〜ってパパとママが言うもんだからさ!」

鞠莉「しょーがないから行ってきてたのよ、技術交流会とかいうやつ!すっごいけどすごくない、すごい面白いけどすごく興味持てない会に私ずっと行ってたの〜!!」

ルビィ「……そ。そう」


梨子(……鞠莉ちゃんは、ホテルオハラの跡継ぎで。物凄いお嬢様で、信じられないくらい色んなことをやってきた人だ)

梨子(それなのに、とってもフランクで、たまに泣き虫なところがあって。……すごく人間味を感じて、引け目を感じることなく接することの出来る、大好きな先輩だ)

梨子(その鞠莉ちゃんが行ってきたっていう、技術交流会。……どんな内容だったのかな?)


66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 06:39:48.52 ID:nMYKt+U7O
善子「AI……。ダイヤじゃないけど、最近ニュースでよく聞く話題ね。それが、どうかしたの?」

鞠莉「善子もよくぞ聞いてくれたわ!……オハラとしても開発の支援を行ってきて、技術の発展を促している分野なんだけどね!いや〜、今まで、AIって、言葉だけが一人歩きして、いつかロボットが人間に代わるとかなんとか言われて、でも実際にはAIを人型のものになんてしてなくて、単なる統計の計算を人間よりもずっと速くやるもんだから、そのための道具に使ったりだとか、あと色々な場面には使えるけどそのいろんな場面を規定するのは結局人間だから、汎用知能としてのAIなんてものが出来るかって話があったりだとか……」

善子「長い。要するに?」

鞠莉「……いけず」

善子「和の心全開な言葉で罵倒するな!本当に話したいことってそうじゃないでしょって言ってるのよ!」

鞠莉「わかったわよ。ジョークよジョーク。……要するに、案外早く、ロボットが人間に取って代わる日が来るかもって話よ」

花丸「……人間が」

果南「ロボットに……?」

鞠莉「……食い付いたわね。……そ。今までは、体と頭で分けてたけど、そうじゃなくて、全体が連動しているロボット……AIが、単純な頭脳じゃなくて、神経にもなって、動けるものっていうのが、開発され始めているの」

ルビィ「……ぜんたい?」

鞠莉「そう。元々、AIってそれ一つだけ取ってみれば、既に人間っぽいことが出来るようになってはいたのよ」

67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 06:41:27.80 ID:nMYKt+U7O
曜「……ちょっと、よくわかんないな」

鞠莉「そうねぇ。……チューリングテストって、皆は聞いたことある?」

梨子「ちゅーりんぐ……」

曜「てすと……?」

千歌「……テストの話は、好きじゃないなぁ」

ダイヤ「……ある数学者が提案した、機械に知能が存在するかどうかを判定する為のテストですね」

ダイヤ「具体的には相手は機械なのか人間なのかわからない状況下において、質問者が機械の返した回答の内容から相手が機械であると判別する事ができなければ、その機械は知能を持つとする、というもののことでしたか」

梨子「お、おぉ……」

曜「流石ダイヤさん……」

ダイヤ「……というか、千歌さん。ちゃんとテスト勉強はするように」

千歌「……はぁ〜い」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 06:42:25.67 ID:nMYKt+U7O
善子「へぇ。……で、結局、チューリングテストって?」

ダイヤ「……何のためにわたくしが話したと思っているんです……!」

善子「だってわかんなかったんだもん!」

鞠莉「まあまあ。……要するに、AI……コンピューターと、人間を並べて。別の人間にその二つ……二人?と、会話させて、こっちの方が人間っぽい!って思った方に投票して当てさせるゲームみたいなものよ」

花丸「……なるほど。コンピューターと人間と、どっちが人間っぽいか当てるってことずらね?」

鞠莉「流石花丸、よくわかってるわね」

ルビィ「え、でも。……今、花丸ちゃんは人間かどうかじゃなくて、人間っぽいかって言ったよ……?」

花丸「……え?」

ダイヤ「……ルビィ?」

ルビィ「……人間かどうかを当てるのと、人間っぽいかどうかを当てるのって。……その、何か違う気がするんだけど……」

花丸「あ……」

鞠莉「……そうね。でも、それで合ってるのよ。人間かどうかを判断するのには、人間っぽさを人間が判断するしか、方法がないんだから」

69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 06:43:16.54 ID:nMYKt+U7O

ルビィ「……それって。もし、機械が人間にとって、本当の人間と話してる時より、機械の方が人間と話してる気がするなって思ったら、機械が人間になっちゃうってこと?」

梨子「!」

善子「!」


鞠莉「……話が早くて助かるわ。……ルビィの言う通り。実を言うと、AIは人間よりも人間らしく振舞うことが出来る可能性を持ち始めている」

果南「人間よりも、人間らしく……」

鞠莉「機械だったら、不要なことは言わないっていうのかな?そういう先入観を逆手にとってる部分もあるんだけど」

鞠莉「機械だったら、言わない。あり得ないようなことも、計算して、たとえ不自然でも、自然に振舞えるように作ることは出来る」

鞠莉「そうやって、不自然さすら自然に見せる……そういうことを、AIに出来るようにさせることは、出来るのよ」

曜「……不自然さも、計算出来る、か」

鞠莉「……皮肉なものでね。チューリングテストを受けて、ちゃんとAIと人間の違いを見破って、どっちが本当の人間か、当てることが出来た人には、こんな称号が与えられるそうよ」

鞠莉「……『最も人間らしい人間』って……」

梨子「……」

果南「……」

千歌「・・・・・・」

ダイヤ「機械と比べることで、初めて人間らしさがわかる……そういう、考え方があるということでしょうか」

鞠莉「ま、そういうこと」

花丸「……それで。そんなAIが、ロボットに……つまり、姿形も、人間に近づけて。いや、近づくどころか、人間よりも人間らしく振舞えるようになり始めたってことなの?」

鞠莉「……流石花丸ね。正にその通りなのよ」

花丸「……未来ずら」

70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 06:47:51.23 ID:nMYKt+U7O

ルビィ「……人間らしく振舞える、機械……」

曜「……なんかさ。そこまでいくと、なんでも真似出来ちゃう気がするね」

梨子「……なんでも?」

曜「だって、何でも計算出来て、その通りに自分を変えられるんなら……何にだって、なれちゃうと思うんだけど」

梨子「……」

花丸「……そうかもしれないずら」

ダイヤ「確かに。……しかし、そもそもどうしてそのようなことが出来るのでしょうか?」

果南「そもそもって言うと?」

ダイヤ「姿形に限った話ではなく。……そもそも、自分と別な、何かになるというのは……どうすれば出来るのか、と思ったと言いますか……」

果南「どうしたら入れ替われるかってこと?」

鞠莉「ああ、そういうことなら、割と簡単な考え方よ。要するにパラメーター……変数を、あらゆるものに設定して、ある時に行う行動を関数化するの」

鞠莉「そして、あらゆる場面でそんなことが出来るとすれば、どんなものでも再現自体は出来るってことだから」

71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 06:48:44.88 ID:nMYKt+U7O
千歌「……へんすう?」

果南「……かんすう?」

鞠莉「……。お勉強しなさい、二人とも」

千歌「ええ……」

果南「こんなところで怒られるとは……」

善子「……流石、理事長……」

鞠莉「善子もね」

善子「えっ!?」

鞠莉「善子、要領の良さで色々乗り切ってきたみたいだけど。ちゃんと努力もしないとダメよ?」

善子「は。……はい……」

曜「ま、まあ今はそれは置いといて。……もっと要するに、何でもかんでも数値っていうか、数で表せれば、その数を知ることで、色んなもの……同じものを作り出せる、ってことなのかな?」

鞠莉「……曜は要領が良過ぎるところがあるって報告を受けたことがあるわね」

曜「えっ」

鞠莉「……でも優しいから。苦労するわね、色々と」

曜「あ。あははっ。……え?」

72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 06:50:14.72 ID:nMYKt+U7O
鞠莉「まあ、今はそれは置いといて。……曜の言う通り。あらゆるものを、数で表せるのだとしたら。……それがどんな数で、どういった値があるのかさえ知れれば。それを再現するのは、容易いってことなのよ」

善子「……ゲーム的に考えれば。このキャラはこういう成長して、今こんな攻撃力だから、ってのがわかれば、チート使えれば……同じキャラを作るのはカンタンってことね」

花丸「……ゲーム脳」

善子「う。う。うるさい!この……。この、小説脳!」

花丸「いいもん。小説読むと、色んな……色んな、人間のことを、現実に会えなくても知れるもん。人の心をちゃんとわかるようになれる脳なら、ゲーム脳よりマシずら」

善子「……ぐぅぅ!」

鞠莉「……残念ながら、善子の言ったことは物凄く本質をついているわ」

善子「……はぃ?」

花丸「ええ?」

千歌「・・・・・・」

73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 06:51:57.12 ID:nMYKt+U7O
鞠莉「花丸、人間の心を知れるから、小説はゲームより上って言ったわよね?」

花丸「あ、うん。……あ、はい」

鞠莉「でも、もし心の……気持ちとか、行動とかも、数値化できるなら。……そういった、心の物語も、創り出せちゃうって思わない?」

花丸「え。………あっ」

鞠莉「……そういうこと。出来るかどうかは、別として。……もし、何もかもが数値で表せるのだとしたら」

鞠莉「……何もかも、変えられる。唯一ってことは、なくなる。……曜が言った通りになるって、ことなのよ」

鞠莉「誰もが。……何にでもなれる、世界が。それも、簡単になれてしまう世界が……いずれ、来る。……それは、誰にも否定出来なくなるの」

曜「……」

花丸「……」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 06:52:40.72 ID:nMYKt+U7O
ダイヤ「し、しかし。……あらゆるものの、数値を計算するなどと……そんなこと、出来るのですか?」

鞠莉「そこがAIの凄いところなのよ。……考えられない計算スピードで、あらゆるものを計算して、その通りに振舞えてしまう」

鞠莉「だからこそ、入れ替わりが起き得るの」

鞠莉「AI……知能だなんて言葉がつけられてるけど、やってることは統計だったり確率だったりの計算なの。……ただただ、計算が信じられないくらい速いってだけ」

ダイヤ「……しかし。その、”だけ”に……計算に、わたくしたちも巻き込まれてしまうのですね……」

ダイヤ「わたくしたちの、知能。……それは、計算の速さ、精確さ、そしてそれらを用いて、統計的に最も望ましい結果に近づくという手順さえ踏めば。容易に再現できてしまう」

鞠莉「……そうね」

ダイヤ「……」

鞠莉「まぁ、そんなにシンプルなことじゃないんだけどね。あくまで原理的に、そうなり得るって話で……ようやく、そんなことになり始めたってことだけど、簡単にいくとは思えないしね」

曜「……ロボットが、人間に近づき始めた……」

鞠莉「そう。まあ、もし本当にロボットが人間と見分けがつかないものになったといたら、そんな存在はもう、ロボットなんて名前じゃなくなるかもしれないわね」

梨子「ロボットではない、か」

花丸「……創作の世界だと、人間を改造したものをサイボーグと呼んで、人間型のロボットをアンドロイドって呼ぶこともあるずら」

鞠莉「……そういうことなら。アンドロイドっていう言葉が、正確になるのかな」

梨子「……人間そっくりな、機械。……それが、アンドロイド……」

ダイヤ「……途方もない話ですわね……」

75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 06:56:35.83 ID:nMYKt+U7O



善子「ねえ。じゃあ、もしかしたら。……私たちの中に、入れ替わってる人もいるかもしれないってこと?」



花丸「……ぁ?」

ルビィ「え?……」

ダイヤ「……はいぃ?」

千歌「……ほえぇ」

梨子「……どういうこと?」

76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 06:59:03.05 ID:nMYKt+U7O

善子「え?……あ、やっぱり!?……って、条件、あるの……?」

ダイヤ「”いつの間にか”、ですか?……それは、どういう意味で?」

鞠莉「カンタンよ。”いつの間にか”入れ替われれば入れ替わりは出来る」

鞠莉「逆に言えば、”いつの間にか”が成り立たなかったら入れ替わりは成立しない。だって、入れ替わる瞬間を見られたら、無理でしょ?」

ダイヤ「……ま、まぁそれは確かに」

曜「身も蓋もない話だけど、それはその通りだね」

ルビィ「……でも。物語とかだと、もし見られたとしても……記憶を消せちゃったら、気付かれずにすむよね?」

曜「あ……」

鞠莉「……いい着眼点だけど。それが、物語のゆえんってわけなのよ」

ルビィ「物語のゆえん……?」

善子「ど、どういうこと?」

77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 07:01:25.80 ID:nMYKt+U7O
鞠莉「人間の記憶……確かに、記憶喪失のように、ある特定の記憶だけが消えることはあり得る。だから、特定の記憶を消すことも出来るかもしれない」

鞠莉「……でもね。それこそアンドロイドならともかく、人間の記憶はそう単純じゃない。狙った記憶だけ消えたとしても、その記憶はネットワークになっている」

花丸「ねっとわーく……ぱそこんずらか?」

鞠莉「パソコンに限った話じゃないんだけどね。……とにかく、記憶はある特定の場所に一対一で対応してるわけじゃないのよ」

鞠莉「どこかとどこか。何かと何か。それら全てが繋がって出来ている。……だから、たとえ一ヶ所を消せたとしても、どこかで綻びが出る」

曜「……繋がっているからこそ、一つ消しただけじゃ。別のところと、消えたものの間で……辻褄があわなくなるというか、おかしなことが起きて、そのおかしなことが何かあったってことを示しちゃう……ってこと?」

曜「アンドロイドならともかくっていうのは、きっと記憶もパラメータで持ってるから……もしかしたらおかしなことを起こさずに済むかもしれないってことかな?」

鞠莉「……理解が早いのね、いつも」

曜「え……あはは」

ダイヤ「……まだよくわからないです」

果南「例えば、ダイヤから”アイスが好き”って記憶を消したとして。ルビィが、ダイヤのアイスを勝手に食べちゃっても、でも『別にアイス好きじゃないからいいですわ』ってなったとして」

果南「それでも、何故かダイヤは腹が立って。……アイスも好きじゃないし、ルビィが喜ぶのも好きだから、それでいいってなるはずなのに……ってなったら、何かがおかしいってなるってこと?」

ダイヤ「……例が局所的過ぎます!」

ルビィ「果南ちゃん……」

梨子「でも、言いたいことはわかったよ。要するに、記憶を消される前に当然だったことが、当然じゃなくなると、何かヘンな感じになるはずで」

梨子「逆に言えば、当然だとさえ思えれば何も不都合がないんだけど、でも記憶はそうはならないってことだよね?」

鞠莉「そうね。その通りよ」


78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 07:03:06.04 ID:nMYKt+U7O
花丸「……記憶だけじゃなくって、記録も加味すると、更に記憶を消すって難しそうずら」

梨子「……記録?」

花丸「うん。……当人だけのものじゃない、他の人も知ってるものとしての、記録」

花丸「例えば、果南ちゃんの例を使わせてもらうなら。……誰かが、ダイヤさんは昔アイス好きだったはずなのに、なんで急に好きじゃなくなったの?って言ったとしたら」

花丸「あるいは、いつかルビィちゃんと一緒に歩いた街並みの中で。……一緒にアイスを食べて、その時までは妹なんて、泣き虫で手もかかるし」

花丸「自分から両親を奪ったと思って、どうでもいいと思ってた。……ううん。嫌ってすら、いた」

花丸「でも、ある時ある場所で。……しょうがなく、一緒に食べたアイスがおいしくて。……アイスと一緒に、ルビィちゃんのことも、いつの間にか好きになっていて」

花丸「だから、アイスを勝手に食べられるのがイヤになっていて。だって、アイスは一緒に食べるものだって、ダイヤさんは思っていて」

花丸「本当は、ルビィちゃんに勝手にアイスを食べられることに怒ってるんじゃなくて。……一緒に、食べられないことにダイヤさんは怒ってて……」

花丸「そんなことを、町は、記録は、教えてくれたとしたら。……記憶を消すなんて、出来なくなっちゃう気がする」

79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 07:10:48.02 ID:nMYKt+U7O

梨子「……っ」

善子「……そんなぁ」

鞠莉「酷い。……そんなこと、絶対させない!」


ダイヤ「……あの。勝手に人の話を捏造して、勝手に感動しないでくださいません?」


梨子「え?」

善子「え?」

鞠莉「What?」


ダイヤ「……そんな事実。全くありませんから。……第一、わたくしはルビィが生まれた時から、ルビィのことは大好きです」

ルビィ「……おねえちゃん」

花丸「……ま。まぁ。……あくまで、たとえ話だから……」

ダイヤ「……でも、怒る理由は。……ルビィにアイスを間違えて食べられて、怒ってしまう理由は、その。……そういう部分も、なきにしもあらずというか……」

ルビィ「お姉ちゃん……!」

80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 19:33:09.13 ID:yi/lREP/O

鞠莉「……オホン。まあ、とにかく」

鞠莉「いつの間にかさえどうにか出来れば」

鞠莉「いつの間にか、誰かが”誰か”になっていて。……だ〜れも気づいていないけど、誰かが”誰か”になっていって」

鞠莉「その、”誰か”が。……自分と近い人だったって、気づきも出来なく。……そして、最後に」

鞠莉「自分が、”誰か”になる時に、初めて気づいちゃう。……そんなことが、ないとは、言い切れないわねぇ」

果南「ちょ、ちょっと鞠莉!……そういうこと言うの、ダメだって!」

鞠莉「え〜?そういうことって〜??」

果南「……こいつ!ダメだコイツ!!」


花丸「……果南ちゃんって、ホラーだけじゃないの?SFもダメなの?」ボソッ

ダイヤ「……奇怪な現象全般が苦手みたいです。普段はそんなことないのに、ちょっと匂わせたことを言うと、てんで使い物にならなくなります」コソッ

花丸「なるほど……」コショッ

ダイヤ「いやん。……な、何するんですか!」

花丸「ちょっとくすぐっただけずら」

ダイヤ「だから!何でこのタイミングで!!いやこのタイミングだけじゃなく!!そもそもなんでそんなことするんですか!!!」

花丸「なんか、したくなっちゃったから」

ダイヤ「なんかでやっちゃダメでしょ!ちゃんとした理由を持ってやりなさい!!」

花丸「理由があればやってもいいの?」

ダイヤ「そうです!……いや、ダメです!!」

花丸「えぇ〜」

81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 19:34:20.61 ID:yi/lREP/O
果南「……だ。だいや……」

ダイヤ「はい!?……どうしたんですの、そんなに顔を真っ青にして」

鞠莉「ディープブルーね、果南」

善子「てぃーふぶらう?何それ?」

鞠莉「……合ってるけど違うわよ、善子。それドイツ語。ディープなブルーよ、深い青よ」

善子「なるほど。で、てぃーふぶらうって?」

鞠莉「……深い青よ」

善子「?」

果南「そんなことはどうでもいいよ!……そ、そんなことより……聞いた、今の!?」

ダイヤ「き。聞いたって?」

花丸「どれのことずら?」

果南「『いやん』だよ、決まってるでしょ!『いやん』なんだよ!!」

ダイヤ「は。はあぁ?」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:35:06.36 ID:yi/lREP/O
ルビィ「……あ、あぁ」

梨子「……あぁ。うん」

曜「果南ちゃんがいやんいやん言うの、なんか……」

梨子「うん。……うん、うん。うんうん」

千歌「……やらしいよ、梨子ちゃん」

梨子「何も言ってないでしょ!?」

千歌「いや……頷きがもう、ね」

梨子「はぁ!?」

果南「おい!うるさいよ!そんなことどうでもいいんだって!テンパってんだよこっちは!!」

曜「……そんなこと堂々と言われても」

千歌「……そもそも、何にテンパってんの?果南ちゃんは?」

果南「だって!……だって。ダイヤが、あのダイヤが、『いやん』だよ『いやん』!」

ダイヤ「ぁ……」カァァ

83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:35:36.11 ID:yi/lREP/O
曜「……たしかに、なんかちょっと。……えっちだね、こりゃ」

梨子「……わかる?」

曜「……わかる」

梨子「……わかっちゃった?」

曜「……わかっちゃった」

梨子「わかったの?」

曜「だからわかっちゃったんだよ!」

梨子「……解り手ね、曜ちゃん」

曜「そっちこそ。……流石だね、梨子ちゃん」

千歌「・・・・・・よーちゃん」

曜「え?……ぁ……」カァァ

曜「ち。ち。ちがっ!ちかっ……ちがうんだよ、ちがちゃ、ちかっ、ちゃっ!」

千歌「・・・・・・はぁ」

曜「……うぅ」

84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:36:21.25 ID:yi/lREP/O
果南「もうほんっとうるさい!そうじゃないんだって!!あのダイヤが、ダイヤが『いやん』って!……『いやん』って!」

ダイヤ「……な、何度も言わないで!」

果南「でも!……ダイヤが、『いやん』だなんて……ダイヤが、ダイヤじゃなくなってる!!」

ダイヤ「な。……な!?何を言ってるんですか貴女は!!?」

果南「言わないよ、ダイヤは!……言うはずがないんだよ、ダイヤは!?」

ダイヤ「えええ!?」

果南「なんか、マルが話してからのダイヤも、素直でダイヤっぽくないし。……も、もしかして」

果南「……もしかして。ダイヤ、その……」

果南「い。入れ替わってるんじゃないかと思って……!!」

ダイヤ「え?……はいぃ?」

85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:36:56.36 ID:yi/lREP/O
花丸「……果南ちゃんにダイヤさんの何がわかるずら?」

鞠莉「……少なくとも。今、なんにもわかんなくなってるのは間違いないわね」

ルビィ「……鞠莉ちゃんのせいでしょ」

鞠莉「……てへっ」

ルビィ「はぁ。……こうなったら、めんどくさいのに」

鞠莉「……ごめんなさい……」

梨子「……(理事長が、1年生に怒られてる……)」

曜「凄い学校だね、ここは」

86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:37:53.34 ID:yi/lREP/O
果南「ダイヤ!答えて!……私とダイヤが会ったのは、いつ!?」

ダイヤ「小学校の頃からでしょう!?」

果南「なんで!こんなに狭い田舎でこんなに近いところで生まれたのに、小学校で初めて会ったの!!?」

ダイヤ「お家の方針です!小学校まではお家で育てられるんです!!」

果南「窮屈だね!生きづらくないのそんなんで!!」

ダイヤ「うるさい!わたくしたちは生まれる場所も時間も選べない、ただ与えられるだけなの!だったら、置かれた場所で自分の出来ることを全力で突き詰めるだけ!!そうじゃないんですか!?」

果南「ダイヤの言いそうなことだね!でも、ダイヤっぽくないよ!!」

ダイヤ「何故です!?」

果南「だってダイヤ、夢見てたじゃん!『そうはいっても、わたくしもぷりきゅあになりたいですわ〜』って!!」


ダイヤ「!!」

87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:38:33.70 ID:yi/lREP/O
曜「え?」

鞠莉「そうなの?」

ルビィ「……そうだよ。なんで鞠莉ちゃんは知らないの?」

鞠莉「私が会った時、もうダイヤは高学年だったし……」

ルビィ「……そういえば、表にはあんまり出さなくなってたかも」

曜「表にはってことは……そういうところ、あったにはあったんだ」

ルビィ「ま。まぁ……」

千歌「・・・・・・かわいいね、ダイヤちゃん」

梨子「…うん……」

ダイヤ「……か、か、果南のバカァッ!もう、知らない!!」

果南「あ。ダイヤ。だいやぁ!?ゴメンって!!悪かったよ!ダイヤはちゃんとダイヤだったよ!!」

ダイヤ「うるさい!……知らないって、言ってるんですからね!!」タッタッタ

果南「あ、まって!……待ってってば、ダイヤァ〜!」タッタッタ


88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:39:13.39 ID:yi/lREP/O
善子「……」

花丸「……」

ルビィ「……」

鞠莉「……。ごめんなさい」

ルビィ「あとでアイスちょーだいね」

鞠莉「……はい」

曜「……」

梨子「……」

花丸「……善子ちゃん。この場を締めるために、なにか言ってみて?」

善子「え?……あ、はい!」

善子「あの〜そのですね。……つまり!」

曜「……」

善子「……よ、曜!ちょっと手伝って!」

曜「……え。えぇ!?」

89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:40:00.95 ID:yi/lREP/O

曜「……ほぇ〜すごいんだねぇ、えーあいって」

善子「何でも再現できちゃうんだものね?」

曜「でもさ、もし本当に自由に姿や性格を変えられるんだったらもうそれって見分けがつかないよね」

善子「そうよ!知らず知らずの内に人間は入れ替わっているのよ!」

曜「こわいな〜」

善子「果南の気持ちもわかるわよね〜」

曜「そうだね〜」

善子「そうよね〜」

じもあいコンビ「あはははっ!」

90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:40:56.24 ID:yi/lREP/O

鞠莉「……ごめんね」

曜「……」

善子「……」

花丸「本当にごめんなさい。私が悪かったです……」

千歌「……。練習、しよっか。・・・・・・今日、この後雨だし」

善子「は〜い……」

ルビィ「それがいいね」

花丸「それがいいずら。……うん」

梨子「……そうね……」


曜「……ぇ?」


梨子「……?」


鞠莉「……ごめんなさい、なんか……」

ルビィ「いいってば。ジョークだよ、鞠莉ちゃん」

鞠莉「うん……」

千歌「……ほら!早く行こうよ!」

3年と1年「は〜い……」ゾロゾロ

91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:41:27.71 ID:yi/lREP/O

曜「……」

梨子「……どうかした、曜ちゃん?」

曜「あ。えっと。……なんでも、ないよ?」

梨子「……そう?……でも、なんか気にしてたよね?」

曜「あ。うん。……えっと……」

曜「……いつから、体感天気予報が出来るようになったのかなって」

梨子「……え?」

曜「梨子ちゃん。……今朝、天気予報見た?」

梨子「……あ、うん。見たけど……」

曜「……雨ふるって、言ってた?」

梨子「……え。あ……!」

曜「……今、天気いいし。……お天気お姉さんも、言ってたよね」

曜「……今日は、お洗濯もの日和だって」

梨子「……でも。違うの?この後は」

曜「……うん。……そうなると、思う……」

92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:42:33.07 ID:yi/lREP/O
梨子「……曜ちゃん、傘持ってきた?」

曜「ないよ。……持ってきて、ない……」

梨子「……じゃあ……」

曜「でも、さっき千歌ちゃんが雨だって言ったから。……研ぎ澄ましてみたの。自分の、感覚を」

曜「そしたら……雨、降りそうだなって、感じて……」

梨子「……朝は、違ったの?」

曜「違った。……今日は、ずっと晴れだなって思った」

梨子「……」


曜「……千歌ちゃんさ。普段、カバンに折り畳み傘とか入れないのにさ」

曜「……入ってたよね、傘。……今日、千歌ちゃんのカバンの中に」


梨子「……」

曜「……」


梨子「……千歌ちゃん、そういうところあるし。……たまたま、じゃないかな」

曜「……そう、だよね」

梨子「うん。そうよ!」

曜「そうだよね、うん!」

梨子「練習行きましょ!」

曜「うん!行こう!」

93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:43:17.96 ID:yi/lREP/O

梨子(……結局、今日の練習は7人で行った)

梨子(果南ちゃんとダイヤさんが戻ってきた時にはもう……雨が降り始めていたからだ)

梨子(……傘を持っていたのは、千歌ちゃんだけで。……皆、その中に入れてもらおうと、必死だった)

梨子(……千歌ちゃんは。曜ちゃんよりも、正確に。……体感天気予報をしてしまったってことが、証明された)


梨子(そんなことがあったからかな。……帰りのバスで、鞠莉ちゃんの言った話を、思い出してしまった)

梨子(……機械と、人間が、入れ替わるという話)

梨子(……鞠莉ちゃんの話が全て正しいとしたら。機械は、入れ替われるだけじゃない)

梨子(……あらゆることを、出来るようにもなるはずだ……)

梨子(何かを行うこと、それも数値で表せて……その数値を、自在に変えられるのだとしたら)

梨子(……人間に出来ないこと。……それも、出来てしまう)

94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:45:11.46 ID:yi/lREP/O
花丸「じんこうちのうも未来だけど。……おら、それも未来だと思うずら」

ルビィ「え、これ?……確かに、ネットにもつなげられるし、写真も撮れるし。タッチパネルだし、そうかもしれないけど……」

花丸「たっちぱねる?」

ルビィ「あ、花丸ちゃんはちゃんと見たことなかったもんね。……ほら、こうやって、画面に指を置いて、滑らせれば……」

花丸「ほわっ!?文字が、文字が出来てるずら!!」

善子「……アンタ、ホント機械オンチというか、未来オンチね……」

花丸「ボタンが無いのに、そのすまほっていうのはどうやって操作してるの?」

ルビィ「これはね、フリック入力って言って、文字に触れながら上とか下に指を動かすと色んな文字が打てるようになってるの!」

善子「まぁ、基本的には9つしか使わないけどね。わをんなんてそうそう使わないでしょ?」

花丸「……そんなことないと思うけど」

善子「えっ?」

花丸「だって、それじゃあ、う”ん”とか、”わ”かったとか、どうするの?」

善子「え。……えぇ〜っとぉ」

ルビィ「善子ちゃん、そういうの全部スタンプで済ませてるから。文字のよさがわかってないんだよ」

花丸「……すたんぷっていうのはおら、よくわからないけど。……たまには、過去から学んだ方がいいずら」

善子「……ぅ、う、う。うるさぁ〜い!!」


梨子(バスの中で。……1年生が、盛り上がってる)

梨子(……)

梨子(やめよう。……うん、やめよう)

梨子(……果南ちゃんみたいに。思い込んで暴走しちゃってるだけだよね)

梨子(……そんなことより、善子ちゃんに借りたアニメ、早く観ちゃお)

梨子(……フェイリスさん、どうなっちゃうんだろう……?)


95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:46:29.59 ID:yi/lREP/O
「こわかったよ……もう会えないって思って……!」

「3人とも、大丈夫だったんだね……!」

「よかった……!」




梨子(……ある日の、教室。……私達二年生のいる、クラスで)

梨子(かなりの騒ぎが、起きていた……)


千歌「……ほんとうに、よかったぁ。……三人が無事で……」

曜「うん……うん。……むっちゃんたち、何事もなくてよかったよ……!」

梨子「……すごく、しんぱいしたよぉ……」


梨子(……私たちの、大切な友達で。いつも応援して、手助けしてくれる、3人)

梨子(よしみちゃん、いつきちゃん、むつちゃんが、ある事故に巻き込まれそうになったけど……何事もなく、済んで、学校に来ていて)

梨子(……前日の話を聞いていた私達、クラスメイトの皆は、気が気じゃなかったんだけど、無事な3人を見て……心からほっとしていた)

梨子(……ある事故というのは。……突如起こった、地震のことだ)

96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:50:22.51 ID:yi/lREP/O

梨子(ここ数日、雨の日が続いていた。……とにかく、雨が長引いて)

梨子(昨日、ようやく晴れて。……久しぶりに、私達Aqoursは屋上で練習を行った)

梨子(ルビィちゃんは特に張り切っていて。…‥張り切り過ぎたらしく、ちょっとめまいを起こしちゃったけど)

梨子(……事前に、千歌ちゃんが、ルビィちゃんは今日、そんな調子よくなさそうだからほどほどにするんだよって言ってるのを聞いて)

梨子(……でも、ルビィちゃん自身も、姉のダイヤさんもそんな感じじゃないはずだって言ったんだけど。……結局練習が終わった時に千歌ちゃんの言葉が正しかったって気付いた……)

梨子(ルビィちゃんは、練習を半分も終えない内にふらふらし始めて。……結局、千歌ちゃんに促されて、先に帰っていった)

梨子(ダイヤさん曰く、心配はないけど……少し、張り切り過ぎていたみたい)

梨子(……ダイヤさんは。なんで千歌ちゃんが、姉である自分より)

梨子(そして何よりも、ルビィちゃん自身よりも、正確に……ルビィちゃんのこと言い当てられてのかを、疑問に思ってたみたいだけど……)

梨子(……そんな、ちょっとした事件があった帰り。……大きな、地震が起きたんだ)

97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:57:12.22 ID:yi/lREP/O

鞠莉『わっ!……キャアァァ!!』

花丸『わ。凄い揺れ。……先に帰ったルビィちゃん、大丈夫かな……?』

ダイヤ『わ、我が家は耐震リフォームをしてますから。そこは大丈夫だと思います……!しかし……』

果南『雨だよね、ダイヤ?』

ダイヤ『はい。……ここ最近雨が降っていたところに、地震まで来て……。土砂崩れが、もし大きなものになってしまったとしたら……!』

梨子『……な。なんで、そんなに冷静なの!?』

曜『こういう時こそ、しゃんとしなきゃいけないのを、何度もやって知ってるからだよ。……千歌ちゃんは!?』

善子『ち、千歌は。……ルビィの付き添いでバス停までついてったきり、いないわよ!?』

花丸『だ、大丈夫ずらか……!?』

果南『いや、千歌なら大丈夫!今連絡来たよ!』

曜『私も確認した!……とにかく、私達は避難経路を確保しなきゃ!』

善子『……わ。私も海の近くの沼津住みだけど。……こんな、たくましくなれるものなの……!?』

鞠莉『EARTH SHAKER。……それにもめげない仲間がいる以上、私も……全力を尽くさなきゃ!』

梨子『……。違うよ、鞠莉ちゃん……!EARTH SHAKERは日本のロックバンド……些細だけど違うって……!』

鞠莉『わ、わぁっつ!?』

曜『些細どころか全然違うけどね。……とにかく、安全な場所に着いたらすぐに連絡できるようにしておいて!』

果南『皆!こっちだよ!!』

98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:59:04.53 ID:yi/lREP/O

梨子(……そんなこんなで。頼りになる仲間のお陰で、私達は危なげもなく、地震を乗り切ることが出来た)

梨子(……大騒ぎした割には。結局のところ、内浦への被害は、ほとんどなかった……)

梨子(ただ一つ。……浦の星も、バスの行く先も越えた……山間部を、除いては……)


梨子(……内浦の山道。その奥に進むにつれて、次々に奇妙な看板が立てられているのは、結構有名だ)

梨子(……”コーヒードーデスカ”……そんなセリフを言っている……ワンちゃんなのか、女の子なのか、よくわからない看板が、ずっと続いていった先に)

梨子(仮面ライダーの俳優さんの名前が付いたコーヒーとか。みかんのお汁粉とかを出してくれる……)

梨子(お店自体がDIYというか、店長さんが木材を使って、自前で作っていて。ちょっと蜘蛛の巣が見えたりして、自然と共生しているような気になれる……木の暖かさと店長さんの優しさで出来ている、ちょっと風変わりな喫茶店)

梨子(私も内浦に来たばっかりの時。……興味を持ったお母さんと一緒に行って、海の向こうに見える富士山を見て、感動して……。コーヒーが出るまでの間、子供のころに見たような、知育玩具みたいなおもちゃが目の前にあったから、それで遊んじゃったんだよね……)

梨子(建物が木材で手作りな分、自然災害には弱くて……。大きな台風なんかが来ると、たちまちお店と店長さんの住むところが壊れちゃうみたいなんだけど)

梨子(それでも、ちゃんとした造りをしているのか、壊れても気がついたら直って、お客さんを癒し続けている……)

梨子(……そのお店が。雨の影響と、地震で。……その前には風も強かったみたいだけど、とにかく地震が来たらもう流石に倒壊するんじゃないかって段階にまで来ていたところに、今回のことだった)

梨子(……家屋の崩れ。……下手をすれば、生き埋めになる可能性もなくはない)

梨子(……そこに。たまたま、地元の子が……。よしみちゃん、いつきちゃん、むつちゃんが、行っていたらしい)

梨子(……焦った。心配した。……千歌ちゃんも、私達と一緒にはいなかったから……余計、だった)

梨子(……でも、私が家で心配している時。いつの間にか、千歌ちゃんは戻ってきていたみたいで)

梨子(ちょっとだけ安心したんだけど。……でも、3人の行方は、千歌ちゃんも知らなくて……)

梨子(……眠れなかった。……顔を、見たかった)

梨子(その3人が。……いま、無事でここにいる……)
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 19:59:52.89 ID:yi/lREP/O

千歌「それにしても……皆、よく無事だったね」

梨子「そうね……正直、建物が崩れて無事でいるとは思ってなかった……」

いつき「……え?」

梨子「え?……どうしたの?」

いつき「いや、えっと……」

よしみ「……あのお店。壊れてなんかないんだよ」

梨子「そ、そうなの!?」

曜「あんな大きな地震があったら、あのお店は大変なことになるんじゃ……」

いつき「……正直、あんまりよく覚えてないんだ。……地震が起きた時のこと」

いつき「で、でも。……私達も、お店も……無事だったのは間違いないよ」

よしみ「わたしも覚えてない。……なんか、気がついたら外にいて、店長さんも外にいて、なんだか命が助かってた、っていうか……」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:00:52.67 ID:yi/lREP/O

梨子「……気がついたら、”命が助かってた”……」

曜「……しかも、それだけじゃなくて。お店も無事だった……」

よしみ「まあ、より正確には……ところどころ壊れちゃってはいたけど、倒れることはなかったって感じかな」

千歌「……奇跡≠セね」

梨子「……」


むつ「……そういえば。あのお姉さん、どうしたんだろう」

梨子「!……あの、お姉さん?」

むつ「うん。お店にはもう1人お客さんがいたんだけど、私達が外に出た時にはいつの間にかいなくなってたんだ」

曜「え……!」

よしみ「……そうだ。話してたら段々思い出してきた」

いつき「私たちだけじゃなくて、もう1人お客さんがいたんだよね……」

梨子「気がついたらいなくなっていた、女性のお客さん……」

よしみ「何で忘れてたんだろう。……大きな揺れだったし、お店にいた人皆が無事かどうかは、確認しないとって、思ってたはずなのに……」

むつ「店長さんも、探してなかったし。……気が動転してたとしても、そんなことってあるのかな……?」

101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:01:41.54 ID:yi/lREP/O

梨子(……最近、聞いたばかりの話。あのウワサが、否が応にも頭によぎる)

梨子(……[亡霊]。この沼津、そして内浦で、何か重大な事故が起こりそうになる度に現れる、若い女性)

梨子(なぜ、命が助かったのかわからないような現象がある時。その女性が、必ず目撃されているという)

梨子(でも、その姿は、誰も知らない。それどころか、姿を思い出すことが遅れることもあるらしい)

梨子(……思えば、善子ちゃんの話に対してルビィちゃんが疑問を挟んでいたように。……なぜか、その女性の姿を忘れてしまうことも多いみたいだ)

梨子(思い出せたとしても、はっきりとは思い出せたという話を聞かない。……そう)

梨子(ちょうど、今のむっちゃん達のように……!)

102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:02:09.73 ID:yi/lREP/O

よしみ「……まあ、私たちの勘違いかもしれないんだけどね。結構記憶がアイマイになっちゃってるから……」

むつ「そうだね。……もしかしたら女神さまが、助けてくれたのかな?なんて思っちゃった」

梨子「……女神、さま……」

千歌「・・・・・・もぅ。なんで、神様じゃなくて、女神様なのぉ」

むつ「え、そ、そこ!?」

いつき「そんなところに拘られるなんて……」

曜「……もう。千歌ちゃんってばぁ」

千歌「え。あ。……すみません」

よしみ「……ぷっ」

103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:03:21.88 ID:yi/lREP/O

梨子(『あははははは』なんて、笑ってる皆を横目に。私は、考え込んでいた)

梨子(……女神が、助けてくれた)

梨子(その理由は……そう思った理由は……。あの店に、女性がいたような気がしたから……)

梨子(……[亡霊]の話が。……善子ちゃんのあの話が、私の考えを埋め尽くして……)

梨子(同時に。とても荒唐無稽な想像をしてしまった)



梨子(……もしかしたら……)


梨子(……その、女性の正体は。……[亡霊]の、正体は……)


梨子(……私が、あの運命の日に出会った、あの人……)


梨子(……。”ハオ”さん……なんじゃ)



104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/02(火) 20:06:02.46 ID:yi/lREP/O


梨子(……いつの間にか。放課後になっていた)

梨子(心ここにあらずとは正しく今日の私のことそのままのことだったと思う)

梨子(……その後。今日も、何故か斜線を入れられている、スクールアイドル部≠フ文字を目にしてから、私は部室に入った)

梨子(スクールアイドル部≠フ文字。……なぜかわからないけど、[部]のところに、斜線が引かれている)

梨子(でも、斜線が引かれていることこそ、あるべき姿だって、安心して。私は部室の扉を開くんだよね)

梨子(扉を開いたところで、ようやく私の心がここに戻ってきたように、ハッとした)

梨子(……。れんしゅう、しなくちゃ)

梨子(きっと、思い込みだから。……きっと、ばかなことだから)

梨子(ある意味で、ちゃんと練習を再開できるのは今日からだし。……ルビィちゃん、しっかり身体を休めて、練習できるようになったって、言ってたし)

梨子(とにかく。ラブライブ!だよね、今は!!)


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