男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目

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726 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:27:24.14 ID:PTwvBPgd0

イケメン「…………」



イケメン(世界全てが僕の都合のいいように回っている)

イケメン(三日後僕は全てを手に入れる)

イケメン(そうなるとこいつともそろそろおさらばだな)



ギャル「ん、どうしたのギャルの顔を見て? あーそういえば最近恋人らしいことしてなかったもんね。キスでもする?」

イケメン「……そうしたいのはやまやまだけどね。この後ちょっと用事があってね」

ギャル「えー。最近イケメンずっとそんな感じじゃない?」

イケメン「ごめんって、今回の作戦が終わったら思う存分付き合うからさ」

ギャル「……ならいいけど」



イケメン(ギャルは口を尖らせながらも引き下がる)

イケメン(のうてんきな提案に口調を荒げる寸前で、僕がこいつの彼氏であったことを思いだして、聞き当たりの良い言葉を並べる)

イケメン(まだ我慢だ。こいつは僕のためといって、最近ますます力を付けている。魔王城攻略に当たって、有力な駒となる)

イケメン(この脳みそ空っぽ女は、最後の最後まで自分が利用されていることに気づかないのだろう。まあそうやってコントロール出来る自信があったからこいつを選んだとも言える)



イケメン「………………」

イケメン(帰還派の連合軍と支配派の王国はどのように動くか)

イケメン(気にはなるが関係ない)

イケメン(最終的な勝者は僕に決まっている)

イケメン(ああ……三日後が待ち遠しいくらいだ)

727 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:27:54.62 ID:PTwvBPgd0

<魔王城・謁見の間>



女友「――――というわけです」

男「……まあいいだろう、総合的な首尾は上々だ」



女友(私は独裁都市から帰った魔王城にて、男さんに今回の作戦の経過について報告しました)





女友(今回命じられていたことは大きく分けて三つ)

女友(まず一つは独裁都市の現状を探ること。これについては概ね達成できたと見て構わないでしょう)

女友(もう一つは独裁都市の戦力を削ること。これはユウカに妨害されて失敗)

女友(最後に……一番妖しげな企み)





女友(『男さんの命令の外ではこの情報を残すことが精一杯』という体で、男さんに命令された通りの情報を流すこと)





女友(これについては……最後に枕に注目するように言いましたが、女は気づいたのでしょうか)

728 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:28:21.03 ID:PTwvBPgd0

女友(魔王城への抜け道)

女友(確かに私が発見した代物ですが、『気づいたことは全て知らせろ』という命令により男さんに共有されその存在は知っています)

女友(こんな嘘の情報を流して、一体何の意味があるのか。いつも通り男さんは命令だけして何の説明もしてくれません)



女友(考えても分かりませんが、いずれにしろ全てが男さんの手の平の上で進行しているようにしか思えなくて恐ろしいばかりです)

女友(男さんはその先に何を見ているのでしょうか?)

729 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:28:47.51 ID:PTwvBPgd0



男「報告はそれで終わりか?」



女友(男さんが問います)

女友(今回命令されたことについては一通り既に述べたので……最後に大事な伝言を伝えましょう)





女友「女から男さんに伝言をもらいました。『絶対に会いに行くから』だそうです」

男「……そうか。下がっていいぞ」





女友(男さんは何の反応も見せずに、私に退室するよう勧めたのでした)

730 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:29:37.89 ID:PTwvBPgd0
続く。
731 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/27(木) 06:47:13.09 ID:LIdwO3eWo
乙ー
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/28(金) 00:24:54.42 ID:B+auoKVBO
乙!
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/01(日) 19:58:07.79 ID:dXWyQ+D50
乙!
734 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:18:45.89 ID:GvLpIzs10
乙、ありがとうございます。

投下します。
735 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:19:30.27 ID:GvLpIzs10

近衛兵長(私のこれまでの人生は数奇なものだった)



近衛兵長(物心付いたときから王国の工作員としての教育を受け、それも十分となった頃命令により各地を暗躍)

近衛兵長(数年前からは長期ミッションとして元宗教都市、現独裁都市に潜入した)



近衛兵長(傀儡政権を樹立させ、富を王国に横流しする準備と共に都市の弱体化を計るも)

近衛兵長(魅了スキルを持った少年たちによって阻まれる)



近衛兵長(その後命令により王国への逆スパイとして働かせられたと思うと、王国を乗っ取るために利用される)

近衛兵長(結果こうして乗っ取った王国でNo.2としての地位に就いている)

736 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:20:20.90 ID:GvLpIzs10

女友「近衛兵長さんは今回の命令についてどう考えますか」



近衛兵長(主との謁見を経て退出したところで、魔導士の少女に声をかけられる)

近衛兵長(同じNo.2の立場として少女とはそれなりに交流がある。元が敵同士であったためかその関係はぎこちないものもあるが)



近衛兵長「抜け道の情報を流したことか」

女友「ええ」

近衛兵長「単純に考えるならば罠だな。抜け道に入った時点でそれを封鎖することで一網打尽にする」

女友「私も一番にそれを考えました……しかし」

近衛兵長「ああ。王国の戦力は十分にある。わざわざ面倒な罠を使わずとも、正面から叩き潰せばいい」

女友「そうなんですよね……」



近衛兵長「故にもう一つ考えられる可能性として……誰かをこの魔王城に誘き出したいのではないか?」

近衛兵長「心当たりはないのか、主の昔からの知己として」



女友「心当たりは何人かいますが……その目的までは」

近衛兵長「少女に分からないことが、私に分かるわけ無かろう」



近衛兵長(それもそうですね、と魔導士の少女は頷いてその場を去っていく)

近衛兵長(独裁都市での戦闘の疲れを癒すために自室待機するように命じられていたはずだ)

近衛兵長(私も護衛を終えて待機を命じられていたため、自室に向かうのだった)

737 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:21:01.63 ID:GvLpIzs10



近衛兵長(その夜)

近衛兵長(私は唐突に主に呼び出された)



近衛兵長(別にそれ自体は良くあることだった)

近衛兵長(珍しかったのは呼び出されたのが私だけだったということ)

近衛兵長(二人のNo.2という立場からか、もしくは魅了スキルにかかっているとはいえ未だ私のことを信用していないのか、これまで呼び出すときは必ず魔導士の少女も一緒だったからだ)



近衛兵長「呼び出したのは私だけか?」

近衛兵長(分からないことは素直に問うに限る)





男「はい。決戦を三日後に控えて……個人的に頼みたいことがあるんです」





近衛兵長(主、男の様子はいつもと違った。口を開けば命令ばかりだったのに……頼みとは一体)

738 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:23:15.85 ID:GvLpIzs10

近衛兵長「珍しいことが続くな」

男「今回限りです。それより近衛兵長さん、俺について何か気になることがあるんじゃないですか?」



近衛兵長(ここまで命令がない会話も珍しい。私の意見を求めることもだ)

近衛兵長(どういう考えなのかは分からないが、私だって機械ではない。気になることなどたくさんある)



近衛兵長「気になること……と言われると山ほどあるが、一番は……そうだな、何故王国を支配したのかということだ」

男「王国を支配した理由は簡単です。この大陸で一番強大な王国を支配することが、全てを支配する足がかりとしてちょうどいいと判断したからです」



近衛兵長「ならば続けて質問だ。何が目的で全てを支配する?」

男「俺の夢のためです」



近衛兵長「夢とは何だ?」



739 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:24:12.72 ID:GvLpIzs10





男「永遠の孤独です。誰にも干渉されず、誰にも邪魔されない、俺一人だけの空間」

男「あっちの世界では諦めた俺の夢が、この世界ならば叶えられる」

男「全てを支配したその中心で、俺は永遠の孤独を享受してやるんです……!」





近衛兵長(少年は両手を広げ意気込んで語る)

近衛兵長(その様子はいつもと違って、年相応に見えた)



近衛兵長「なるほどな……」

男「そんな下らないことのために、って思いましたか?」



近衛兵長「いや、微塵も」

男「本当ですか? 引かれると思ってましたが」

740 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:24:44.62 ID:GvLpIzs10



近衛兵長「ならば逆に問うが、どのような理由で世界を支配すれば崇高だと言える?」

男「それは……」



近衛兵長「世界を支配する。そもそもが下らない行為だ」

近衛兵長「ならば理由も下らない物になって当然」

近衛兵長「世界を救うために、などと言われた方がよほど反吐が出る」



男「……ははっ、そうですね。近衛兵長さんにこのことを話して良かったと心底から思いました」



近衛兵長(少年が笑い飛ばす)

741 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:25:20.11 ID:GvLpIzs10



近衛兵長「全てを支配するか……なるほどな、全てが繋がった」

近衛兵長「少年がこれまでにしてきた行動、その意味も」



男「分かったんですか?」

近衛兵長「ああ。少年と竜闘士の少女の奇怪な関係については聞いているからな」



男「……女友か。そっちは明かすつもりはなかったんですが」

近衛兵長「論理的に考えてだからな。正直その行為がどのような意味を持つのかは分からん。恋というものを知らずに育ったからな」



男「ハニートラップを仕掛けたこともあると聞いた覚えがありますが」

近衛兵長「あれは欲を理解していれば務まる」



近衛兵長(珍しく軽口の応酬となる。私も少年もどうやらテンションが高まっているようだ)

742 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:25:59.94 ID:GvLpIzs10



近衛兵長「それで。私への頼みとは何だ。そういう話だっただろう?」

男「そうでしたね。二つあります。一つは三日後の決戦時に、防衛隊の指揮を取って欲しいということです。ああこれは命令です」

近衛兵長「命令か、当然承った」



男「もう一つは……こちらが頼みですね」

男「決戦を制せば、この世界のほとんどを掌握出来るといっても過言ではないでしょう」

男「そうなったら支配権を俺から近衛兵長さんに委譲したいんです」



近衛兵長「委譲……?」

男「ええ。虜になった人間には『近衛兵長の命令に従うように』という命令を下しますから、その後は好きにお任せします」

743 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:26:35.76 ID:GvLpIzs10

近衛兵長「何故そのようなことを?」



男「支配を維持するために一々命令しないといけないなんて、永遠の孤独に程遠いじゃないですか」

男「同じ理由で近衛兵長さんに命令ではなく、頼みとしてお願いしたいんです」

男「世界支配を目的としていた元王国に従っていた身として、そういう欲望は持っていますよね?」



近衛兵長「……何の罠だ? 私が一方的に得するだけに思えるが」

男「言ったとおりですよ。俺の夢のためです」

近衛兵長「そのために支配した世界をまるっと私に譲ると?」

男「はい。……あ、でも最低限の命令として俺を裏切れないようになどの効力はそのままですからね」



近衛兵長(真意は分からないが……今の主に嘘を吐いている様子は感じ取れない)

近衛兵長(ならば私の返事は一つ)



近衛兵長「裏切るものか、私に多大な恵みをくれる主に」

男「承ってくれるんですね」

近衛兵長「もちろんだ」



近衛兵長(成り行きで仕えることになったが、今のやりとりを経て私はこのときのために今までを過ごしてきたのだと思うまでになった)

744 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:27:04.19 ID:GvLpIzs10

近衛兵長(と、話が一段落したところで)





幼女「ねえ、パパ。まだ話終わらないの……?」





近衛兵長(そのとき第三者の、幼い声が響いた)

745 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:27:32.14 ID:GvLpIzs10



男「……寝ておけって言っただろ」



近衛兵長(少年が不服そうに口を開く)



幼女「嫌。パパと一緒に寝るの」



近衛兵長(しかし幼女に引く様子はない)



男「分かった、すぐに行くから」

幼女「絶対に約束だからね」



近衛兵長(仕方なく少年は折れたようだ)

746 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:28:33.86 ID:GvLpIzs10

近衛兵長「苦労しているようだな」

男「ええ、割と。まあリンクしていたときからですから元々です」



近衛兵長「ならば魅了スキルで支配すればいい」



男「駒として見るには関わりすぎましたから」

男「そうなるとあのような幼き者にまで魅力的に思うほど猿でもないですし」



近衛兵長「……まあそうなったら擁護は出来まい」



男「三日後、役割を持ってもらうつもりですから。それまではご機嫌取りしますよ」



近衛兵長(話は終わりだと言わんばかりに少年は手を振りながら、幼女も引っ込んだ寝室に向かう)

近衛兵長(私も部屋を出た)

747 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:29:16.07 ID:GvLpIzs10

<寝室>





幼女「すぅ……すぅ……」

男「ようやく寝たか」



男(はぁ、と俺は一息吐く)





男「………………」



男(あの襲撃の日、『囁き』を受けた瞬間に思い描いていた通りに)

男(抱いた感情そのままに、ここまで突き進むことが出来た)



男(順調に進んでいる)

男(誰にも邪魔はさせない)



男(俺の夢を叶えて、理想を諦めるために――)



748 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:29:49.25 ID:GvLpIzs10





男「必ず会いに行くから……か」



男「いいだろう。全てを終わらせよう……女」





749 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:30:15.14 ID:GvLpIzs10





 そして三日後。

 異世界の命運の賭かった決戦の日を迎える。





750 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:32:40.62 ID:GvLpIzs10
続く。

最終章が始まってから4か月。
投稿ペースが遅くなったせいで時間がかかりましたが、ようやくここまで来ました。

次回から最終局面に入ります。
最終章も残り10話前後くらいなので、付き合ってもらえると幸いです。
751 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/04(水) 01:43:15.46 ID:HoEWpGN5o
乙ー
752 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/04(水) 05:28:38.70 ID:tVkua0ptO
乙!
753 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/07(土) 13:48:49.08 ID:adWkq/Sh0
754 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:27:14.15 ID:FjdzGLil0
遅くなりました。
投下します。
755 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:27:49.05 ID:FjdzGLil0

姫(私は初めて見るその光景に恐れおののいていました)



姫(武器を手に取り相手を打ち倒さんと迫る者たち、雨霰のように飛び交う魔法、気勢や怒号や悲鳴といった強い感情の籠もった声の響き)

姫(それがいたるところに溢れている場所)

姫(戦場)



姫(前の大戦の際、私は物心が付いていない子供でした)

姫(大陸でそのとき以来に起こった大規模な戦闘だと言えるでしょう)





古参会長「体が震えておるな。悪いことは言わない、今からでも帰っていいのだぞ?」

姫「会長さん……」

756 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:28:30.40 ID:FjdzGLil0

姫(私が今いるここは今回の王国解放作戦を実行する連合軍の司令所です)

姫(戦闘中ということで色々な人が立ち替わり入れ替わりで忙しなく動いています)

姫(戦場を見ただけで震える私のような小娘がいるべき場所では無いのでしょう)



姫(それでも私はこの戦いの結末を自分の目で見届けたい、ということで自ら望んでこの場にいました)

姫(正直邪魔だと思われているでしょうが、私は独裁都市の代表であり、今回の作戦の提案者。無碍に扱うことも出来ないのです)



古参会長「全く。何ともなワガママを通したものだ」



姫(動く様子を見せない私に、会長さんは呆れた様子で呟きました)



姫「ええ、ワガママは得意なんです。元は『少女姫』でしたから」

古参会長「話は聞いたことはあるぞ」

757 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:30:19.97 ID:FjdzGLil0

姫「私をあの操り人形だった日々から解放してくれたのは男さんです。莫大な恩があるんです」

姫「理由も目的も思惑も分かりません」

姫「それでも今の男さんを、私はおかしいと判断します」

姫「ならばそこから戻すのが私の恩返しです」



古参会長「そうか……各所への交渉、やけにはりきっておるとは思ったが」



姫「本当は直接男さんに言いたいんです。誰にだってその役割を譲りたくない」

姫「……でも、分かるんです。私の想いでは届かないだろうことが」



姫(私は視線を上に向ける)

姫(女さんは戦場上空にて王国のドラゴン部隊と戦闘中だった。数体のドラゴン相手に一歩も引かない立ち回りをしている)

758 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:30:57.04 ID:FjdzGLil0

古参会長「あの中に私が売ったドラゴンが何体いるだろうか」

姫「そういえば古参商会はドラゴンの取り扱いもしていましたね」



古参会長「ああ。別にそのこと自体に思うところはない。商人として必要としている人に必要な物を売っただけだからな」

古参会長「だが……直近でドラゴンを取り扱ったのが、少年たちがテイムしたものだったからそれを思い出してな」



姫「男さんの話で聞きました。古参商会のスパイ騒動を解決したことも」

古参会長「秘書を過去や苦しみから解放して、私との絆も守ってくれた少年たちには感謝してもしきれない。そういう意味では姫、そなたと同じだな」

姫「なるほど……腑に落ちました。かき集めても足りなかった今回の作戦の費用。足りなかった分を私財を投入までして補った、会長の気持ちが」

古参会長「少年たちが守ってくれた物を思えばまだまだ足りないくらいだ」



姫(会長は頭を振りますが……独裁都市の一ヶ月分の運営費ほどの額です)

姫(とてつもない額だというのに……いやそれほど男さんたちの行為に感謝しているということでしょうか)

759 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:32:41.35 ID:FjdzGLil0

古参会長「いやはや、年を取るとどうにも昔話ばかりしてしまう。大事なのは今だというのにな」

姫(古参会長はポンと手を叩いて話題を変えた)



姫「あ、すいません。会長は補給の責任者。私と無駄話している暇はありませんよね」

古参会長「いや何、本当に余裕が無ければそもそも話しかけてはおらん。次の補給が到着するまで後少しあるから大丈夫だ」

古参会長「それまでに現在の戦況を説明しておこう。ここは指令所。流れ弾が飛ばないように陣の最後衛に位置している分、状況も分かりづらいだろうしな」

姫「ありがとうございます」



古参会長「正直なことを言うと、現在連合軍は王国軍に押され気味だ」

古参会長「想定外なことが二つ発生しているからだろう。戦場に伝説の傭兵殿の姿が無いことと王国軍の数が多いことだ」



姫「傭兵さんがいないんですか?」

古参会長「ああ。元々傭兵殿からは『連合軍の指揮下で動くつもりはない、自分たちの策の下に動くつもりだ』とは聞いている」

姫「策というと魔族さんと女さんと何か打ち合わせをしているのは耳に挟みましたが」



古参会長「何を企んでいるのかは分からないが、とにかく一騎当千の竜闘士が二人いれば盤石だと思っていたところで、戦場に女君一人しかいないため目論見が外れているところが一点」

760 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:34:26.34 ID:FjdzGLil0

姫「もう一つ、王国軍の数が多いというのは?」

古参会長「そのままの意味だ。正確には連合軍と戦闘中の数が、ということになるな」



姫(古参会長の曖昧な言い回し)

姫(この場所は連合軍の司令所。二人で話しているが、先ほどから周囲の人の行き来も激しい)

姫(つまりその無関係な人に聞かれるわけには行かない言葉を避けているということで…………)



姫「あれが動いていないというわけですか?」

姫(すなわち犯罪結社『組織』のことだ。元々、二正面作戦によって戦力の分散を計るという話である)



古参会長「その可能性が高いのだろうな」

姫「まだ王国側にあれが動いていることを気づかれていないだけという可能性も……」

古参会長「いや、無いだろう。使者の話を魔導士の少女、女友君は聞いている。王国には筒抜けのはずだ」

姫「あっ、そうでした」



古参会長「だとしてもやることには変わりない。ここを突破して、王都にたどり着き、何としても魔王城までたどり着かねば」



姫(今の戦場は王国の郊外だ。王都にあると言われる魔王城まではまだまだ遠い)

761 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:35:43.42 ID:FjdzGLil0

古参会長「さて、時間だな。私は行くぞ」

姫「貴重な時間を割いてくれて、ありがとうございました」

姫(去っていく会長に私は礼をする)



姫「…………」

姫(どうやら戦況は芳しくないようです)

姫(王国の力は強大。それに対抗しうる力をかき集められたのは奇跡で一回限り。作戦を失敗すれば、王国の支配はもはや誰にも止められないでしょう)



姫(戦う力も戦場を動かす権限も持たない私)

姫(唯一出来ることといえば)



姫「お願いします、女神様。私たちを勝たしてください」



姫(願うこと)

姫(それは女神教の大巫女として祈りは欠かしたことが無い私には得意分野でした)

762 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:36:26.72 ID:FjdzGLil0

<王都近郊>



女友「はぁ……」

女友(私は空中で溜め息を吐きました)



女友(現在の状況は連合軍による王国解放作戦の進行中です)

女友(男さんの魅了スキルによって王国に味方するしかない私は防衛する側と言えます)



女友(連合軍はかなりの戦力を揃えてきたようですが、王国軍だって盤石の準備をしています)

女友(総司令官を命じられた近衛兵長さんの指揮の下、ほぼ全勢力で以て当たっているはずです)

女友(遅れは取らない、いえこちらが圧倒することもあり得ますね)

763 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:38:06.19 ID:FjdzGLil0



女友(――と、想像するしかないのは私がその場にいないからです)

女友(連合軍に王国軍の全力で当たった結果、生じる当然の問題)

女友(すなわち『組織』の攻撃を如何にして防衛するかということです)



女友「うじゃうじゃいますね……」



女友(浮遊魔法で宙を行く私の眼下に見えてきたのは地上を埋め尽くす『組織』の構成員)

女友(ざっと数えて5000人ほどでしょうか。それら全てが王都に向けて進んでいます)

女友(浮遊魔法に加えて透明化魔法をかけているため地上の構成員たちに気づかれていませんが、気づかれた瞬間魔法や矢が飛んできてたちまち危機に陥るでしょう)



女友「『組織』はどうやらかなりの数を揃えてきたようですね」

女友(チャラ男さんの話が嘘だったら、私の仕事も無くなったのですが)

764 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:43:16.41 ID:FjdzGLil0

女友(『組織』に対しての防衛は男さんの命令によって私に任されました)

女友(しかし、何度も言っていますが現在連合軍相手にほとんどの戦力を割いていますし、何かあったときのための人員を王都と魔王城にも配置しなければなりません)



女友(結果、『組織』防衛にかけられる人員は――2人)

女友(私ともう1人で5000を越える数を相手しろ、というわけです)



女友(見た感じ『組織』の構成員にそこまでの練度は無いようですので、魔導士である私なら一度に十数人ほどは相手出来るでしょう)

女友(ですがそれが限界で、まともに戦えば一瞬でやられるに決まっています)



女友(男さんが私への嫌がらせにこのような配置にしたのか?)

女友(今の男さんがおかしくなっているとはいえ、そこまでのことをするはずがありません。勝算があっての行動です)



女友(鍵となるのはもう一人の存在)

765 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:45:22.18 ID:FjdzGLil0





幼女「空飛んでる!! あ、ねえねえ、お姉ちゃん!! 人がいっぱいいるよ!!」





女友(私の脇に抱えている幼女の発言)

女友(私が独裁都市から帰ってきたときには、集まった宝玉を使い既に呼び出されていた存在)





女友(つまりは――これまで魔神と呼んできた存在です)




766 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:45:50.76 ID:FjdzGLil0

女友「ああもう暴れないでください」

女友(空中にいるのに落ちたら一大事です。はしゃぎだした幼女を強く抱えます)

女友(魔神と呼ばれていてもその正体は幼き少女です。戦う力も持っていません)



女友(その身に宿すのは一つのスキルのみ)

女友(固有スキル『囁き』)

女友(この世界を滅ぼす直前まで追い詰めた最凶のスキル)



女友「この辺りで大丈夫ですか?」

幼女「もうちょっと高い方がいいかも」

女友「……本当ですか? 地上からさらに離れることになりますが」



幼女「うん、もうちょっと高いところに行った方が楽しそう…………あ、じゃなくて」

女友「はぁ……真面目にやらないとパパに言いつけますよ」

幼女「ごめんなさい、嘘を吐きました! パパには言わないでください!」

767 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:46:17.65 ID:FjdzGLil0

女友(私が出したパパという単語)

女友(幼女は男さんのことをパパと呼んでいます)

女友(召喚されて男さんの姿を見たところ、パパに似ているということからです)



女友(そしてこのように自由に振る舞っているのも男さんの魅了スキルがかかっていないからです)

女友(学術都市でリンクが繋がって以来、頻繁に会話が交わされた結果、男さんは幼女を駒として見ることが出来なくなったそうです)

女友(そうなると幼き少女を魅力的に思うほど腐ってはいないという言い分で、虜に出来ていないのです)



女友(ですから普通に関係を築いた結果、幼女は男さんの言うことだけは聞くようになりました。本当に娘と父のような関係です)

768 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:47:53.02 ID:FjdzGLil0

女友「だったら言われたとおりお願いします」

幼女「うん、分かった。お姉ちゃん、透明化解いて。そしてみんなの注目を集めて」

女友「了解です。『不可視(インビジブル)』解除。『吹雪の一撃(ブリザードアタック)』!!」



女友(私は言われた通り透明化を解除して、氷の雨を地上に降らせてこちらに注目を向けさせます)



構成員1「いたっ……何だいきなり……って、誰だあいつ?」

構成員2「おまえ情報にあっただろ、クラスメイトとかいうくくりに属する魔導士だ」

構成員3「魔導士とかやべえな。でも一人、しかも子連れとか無謀すぎるだろ」



女友(気づいた構成員たちがこちらを見上げだしました)

女友(私と幼女の姿しか見えないことに嘲笑が辺りに満ちます)

女友(犯罪結社の構成員だけあって、下卑で粗野な男たちばかりです)



女友(だからこそこれからの行動の効果が増すでしょう)

769 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:48:18.17 ID:FjdzGLil0





幼女「じゃあ行くよ! 『囁き』!!」





女友(幼女が、魔神がその最凶のスキルを発動します)

女友(その条件はお互いに存在を認識すること)

女友(その効果は対象の欲望を解放すること)





構成員たち「「「あっ…………」」」





女友(『組織』の構成員全てに『囁き』がかかった結果起きることは)

770 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:48:54.15 ID:FjdzGLil0

構成員1「おまえ前から気に入らなかったんだよ!!」

構成員2「その得物いいな、よこせっ!!」

構成員3「いっつも、いっつも嫌がらせをしやがって!! うんざりなんだよ!!」

構成員4「おまえの女いいやつだよな! おまえが死ねば俺の物になるよな!」

構成員5「いっつも偉そうにしやがってよぉっ!!」





女友(壮絶な同士討ち)

女友(5000の数を1人で自滅に追い込む)



女友(これこそが固有スキル『囁き』の本領)



771 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:49:21.24 ID:FjdzGLil0



幼女「ねえ、お姉ちゃん。手退けてよ」



女友(私は自然と目の前の醜い光景を見せないために幼女の目を手で覆っていました)

女友(これまで触れ合って分かったのは、規格外の力を持ってしまっただけのただの幼き少女だということです)

女友(こんなもの見せるわけにはいけません。男さんの命令で禁止されている事項じゃなくて助かりました)



女友「駄目です。見ちゃいけないものがあるんです」

幼女「でも見えないと上手く行ったか分からないじゃん」

女友「それなら完璧ですよ。きっとパパも褒めてくれると思います」

幼女「本当っ!?」

女友「さて仕事も終わりましたし帰りますよ」



女友(命令されたことをこなした私は、次なる命令『魔王城に帰還すること』の実行に移りました)

772 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:49:49.00 ID:FjdzGLil0
続く。
773 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/26(木) 05:09:56.49 ID:So1KGHneo
乙ー
774 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/27(金) 18:33:20.94 ID:LMEZiJgPO
乙!
775 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:06:01.78 ID:WSmNXtlS0
乙、ありがとうございます。

投下します。
776 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:06:40.23 ID:WSmNXtlS0

<王都近郊>



イケメン「何だ、この戦闘音は! 接敵はまだだったはずだろう! 一体何が起きた!」 

伝令「そ、それが空に脇に何者かを抱えた王国の魔導士が現れ何らかのスキルを使われた結果、突然我が方が同士討ちを始めたようで……」

イケメン「同士討ちを誘うスキル……まさか」



伝令「そして……俺もいつもいけすかない態度のおまえをぶっ殺したくなったんだよ!!」

イケメン「っ……! 『影の束縛(シャドウバインド)』!!」



イケメン(態度を豹変させた伝令を僕はスキルを使って拘束する)



伝令「くそっ、離せ!!」

イケメン「離すわけ無いだろう。はぁ……面倒なことになったみたいだね」

777 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:07:19.76 ID:WSmNXtlS0

イケメン(僕は『組織』の王国討伐作戦における全権を受け持っている)

イケメン(組織への貢献から幹部へと昇進しこのような重大な役職も任されるようになった)



イケメン(今回部隊は主に二つに分けている)

イケメン(一つは寄せ集めの大部隊。もう一つは僕が直接指揮する少数精鋭の部隊だ)

イケメン(大部隊が王国軍と正面からやりあい注意を引いている間に僕らが潜入する手はずだったけど、どうもその目論見には陰りが差しているようだ)



ギャル「同士討ち? 何でこの時に? 寄せ集めだとしても馬鹿すぎない?」

イケメン「想像は付く、魔神だろうね。『囁き』のスキルにより欲望を解放された結果、日頃から不満を溜めていた味方に当たり散らかし始めたというところだろう」

ギャル「使えないわね」

イケメン「ああ、全くだ」



イケメン(ギャルの言葉に演技でなく僕は同意する)

778 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:08:01.97 ID:WSmNXtlS0

イケメン「さてそうなると、注意を引ける時間も限られる。急がないとね」



イケメン(僕は部隊に指示を出して捜索を急がせる)

イケメン(現在位置は王都付近の森の中)

イケメン(チャラ男からの手紙にあった、魔王城への抜け道があるはずの場所だ)

イケメン(今回の作戦に当たって設立された部隊、30人ほどの達人級の使い手が散らばって抜け道の出口を探す)



イケメン(ちなみに当然ながら隊員は全員男性である)

イケメン(女性を支配する魅了スキルの持ち主の根城に乗り込むのに、のこのこと対象となる女性を連れていくはずがない)



ギャル「ほらーきりきり働きなさいよー」



イケメン(唯一の例外が僕の隣に立ったまま捜索をサボっているギャルだ)

イケメン(こいつはそもそも異世界に召喚されたばかりの時に魅了スキルを食らったが虜になっていない)

イケメン(条件である術者が魅力的だと思う異性に当てはまっていないというわけだ)

779 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:08:27.83 ID:WSmNXtlS0

イケメン(チャラ男の手紙から、今の男がどんな女性も自身の駒だと思えば魅力的だと思える、という考えは知っている)

イケメン(だがそれも以前に関わりの無かった人間に限られるわけで、復活派の魔族が対象外だったようにこいつも対象外という判定になるはず)

イケメン(というわけで魅了スキルを気にしないで良いとなると、十分に力を持ちそして僕に従順と連れて行かない理由がない。そういうわけでこいつも部隊に同行させているのだった)





イケメン(隊員たちには地面の感触を確かめながら捜索させている)

イケメン(抜け道は地下道だ。どこかに空洞があるはず)



隊員「見つかりました!!」



イケメン(程なくして報告が上がった。魔法によって地表を吹き飛ばされた結果ぽっかりと穴が空いている)



イケメン「よくやったね。さて進むよ」



イケメン(僕は隊員を集めて地下へと降りるのだった)

780 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:09:06.07 ID:WSmNXtlS0

イケメン(地下道はしっかりとした造りだった)

イケメン(元は王族が緊急事態の際に逃げるための物だ。何かあったときに壊れていたりしたら話にならないからだろう)

イケメン(そのため進むのに苦は無いのだが……僕は部隊に警戒させながら歩かせたためスピードは遅かった)



ギャル「急ぐんじゃないの? こんなところでゆっくりしてていーの?」

イケメン(お気楽なギャルの言葉は無視する)



イケメン(ここまではスムーズに潜入できた。だからといってここからも上手く行くなんて思ってはいない)



イケメン「…………」



イケメン(何か出来すぎている。罠ではないのか?)

イケメン(そもそも最初チャラ男からの手紙を見たときから胡散臭いとは思っていた)

イケメン(自分の本拠地にある抜け道に気づかないままなんて間抜けすぎる)

イケメン(それほど抜け道を見つけた女友が優秀だったというだけか? それとも分かっていて泳がせているのか?)

781 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:09:38.49 ID:WSmNXtlS0

イケメン(しかし僕の警戒も空しく何も起きず、地下道を進み続けた結果目の前に扉が現れた)



ギャル「ほら、何も無かったじゃん」

イケメン「……結果論だ」



イケメン(ギャルの軽口に僕は苦々しい面持ちで返す)

イケメン(扉を開けて地下道を出たところにあったのは部屋だった。食材がごったに転がっている)



イケメン「王城の調理室地下にある食料庫か。どうやら順調に進めているようだな」



イケメン(首尾良く魔王城に潜入することが出来た。だがここからが本番)

イケメン(今もって連合軍と王国軍は正面衝突しているはずだ。だからといって全ての戦力が本拠地であるこの魔王城から出払っているはずがない)

イケメン(チャラ男の手紙による女友からの情報によると、やつは魔王城の最上階、謁見の間にいることが多いらしい。警備の目をどうにか潜り抜けて辿り着いてみせる)

782 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:10:07.75 ID:WSmNXtlS0



イケメン「作戦通りだ。まずは二人、表に出て警備の目を攪乱してこい」

隊員たち「「はっ!」」



イケメン(調理室へと通じる扉から隊員の二人が出て行く。それを後目に僕らは裏道を進む)

イケメン(この魔王城は元々人目に付かないように移動できる裏道が張り巡らされているようだ)

イケメン(その内の一つはもちろん謁見の間まで繋がっている)

イケメン(そうでなければ緊急事態の際に王族を逃がすことが出来ない)



イケメン(裏道を進んでまた扉に当たる。ここは一階の倉庫か)

イケメン(魔王城の構造は事前に頭に叩き込んでいる。大陸一の犯罪結社である『組織』には、そのような重要な機密情報さえ持っている)

783 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:11:22.44 ID:WSmNXtlS0



イケメン「次は四人だ」

イケメン(また隊の一部を警備の攪乱のために放つ)



イケメン(そうして進みながら隊を分けていった結果、最終的に謁見の間の前に立ったのは僕とギャルの二人だけとなった)



ギャル「二人きりだね」

イケメン「ああ、そうだね」



イケメン(緊張感に合わない含みは無視して同意する)

イケメン(他の隊員は攪乱のため全て離れた。しかしその結果として辺りに警備の者も見当たらない)

イケメン(この二人きりという状況は想定したパターンの中でも良い方だろう)



イケメン(階下からはかすかに騒ぎとなっている音が聞こえる)

イケメン(いきなり本拠地に敵が侵入したとなれば蜂の巣をつついたようになって当然とも言える)

784 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:12:07.42 ID:WSmNXtlS0

イケメン「さて、行こうか」

ギャル「うん。魅了スキルを持つあいつをぶっ飛ばして、みんなを解放するために!!」

イケメン「……その通りだ」



イケメン(いきなりギャルが意気込んだ言葉を言うものだから、反応が一瞬遅れた)



イケメン(そうだったな、この脳天気な女は未だに僕が魅了スキルにかかった者を助けるために行動していると思い込んでいる)

イケメン(後少し、全てが手にはいるまでは騙し通さなければ)

785 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:12:37.08 ID:WSmNXtlS0

イケメン(謁見の間に二人で侵入する)

イケメン(そこにいたのは一人だけ)

イケメン(王座の前に立つその人物は――)





男「ようやく来たか。待っていたぞ」





イケメン(男は僕たちの姿を見ても驚く様子も無く、そのように言った)



786 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:13:07.07 ID:WSmNXtlS0



ギャル「ようやく? 待っていた? ふん、どうせ強がりでしょ」

イケメン(最初はギャルの言うとおりだと思った)



イケメン(だがそれにしては男は自然体で、僕らの登場に驚いた様子はない)

イケメン(それを見て、地下道に入ったときから抱いていた嫌な予感の正体がようやく掴めた)





イケメン「あの手紙は罠じゃなくて誘いだった……ということかい?」

男「話が早いな」





イケメン(僕らはわざと侵入させられていた。女友に情報を流させれば辿り着けるだろうという読みか)

イケメン(本当なら男の手のひらの上だったということになるかもしれないが……)

787 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:14:41.59 ID:WSmNXtlS0



ギャル「いやいやアタシだってそれがおかしいことは分かるって」

ギャル「あんた一人で待ってたら何も出来ないじゃん」



イケメン(そうだ、周囲に僕ら以外の存在の気配は感じられない)

イケメン(達人級の使い手であるギャルと最強級の使い手である僕)

イケメン(二人の前に魅了スキルしか持っていない男一人しかいないというこの状況が成立している時点で全てがもう終わっている)





イケメン「何かの計算違いでもあったのかい? まあ、待つつもりはないけどね、『影の束縛(シャドウバインド)』!!」





イケメン(僕は早速拘束スキルを、あの夜に使ったのと同じスキルを使用)

イケメン(男の影が実体化し、その主を縛ろうとする)



イケメン(やつに抵抗する力はない)

イケメン(あのときと同じようになすすべなく立ち尽くしたまま――――)

788 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:15:07.92 ID:WSmNXtlS0





男「『閃光(フラッシュ)』」





イケメン(――否)

イケメン(男は魔法を発動。辺りを目映い光が埋め尽くし、影が消滅する)





イケメン「……なっ!!」

男「何も計算違いはない。全ては俺の思い描いたままだ」



イケメン(右手を振り払った動作を戻しながら男がのたまう)

789 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:16:20.02 ID:WSmNXtlS0

イケメン「…………」

イケメン(そういえば情報を見た覚えがある)

イケメン(やつは学術都市で魔法を学んだ結果、基本的な魔法を使えるまでにはなったと)

イケメン(あの夜とは違ってやつには戦うための力がある)



イケメン(だとしても今の光景はおかしい)

イケメン(初級光魔法の『閃光(フラッシュ)』)

イケメン(本来は手元を光らせる程度の魔法のはずで、周囲を光で埋め尽くし影を消し去るほどの力はなかったはずだ)



イケメン(だとしたら今の状況を生みだしたトリックは――――)



790 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:16:51.47 ID:WSmNXtlS0



男「付加魔法(エンチャント)だ」

イケメン「何……?」



男「今の俺は虜にした魔法使いたち――1000人からエンチャントを受けて強化されている」

イケメン「1000人だと!!」



イケメン(エンチャント)

イケメン(他者の筋力や魔力などを上げることが出来る魔法の一種だ)

イケメン(とはいえその一つ一つの効果はそこまで劇的なものではない。そもそも術者本人以上に強化できるなら、自分で戦う必要が無くなる)



イケメン(しかし、一つ一つの効果は大きくないとはいえ、1000人も集まれば話は別だ)

イケメン(それだけの強化を受ければ……本来はちょっと魔法を覚えただけの素人が最強級と渡り合えるまで強化されてもおかしくはない)



791 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:17:53.67 ID:WSmNXtlS0



イケメン「でも、随分と回りくどい方法を取るんだね」

イケメン「その1000人で僕らを囲めば簡単に倒せるだろうに」



男「全ては永遠の孤独に至るためだ」

男「おまえの襲撃から全ては始まったんだ」

男「俺に力があれば、おまえの襲撃をはねのけるだけの力があれば、俺は助けられる必要はなかったんだ」



男「誰かに対して執着心を抱いたまま孤独に至れるわけがない」

男「力の使い方を自覚してから、自然とこう思っていたよ。俺の力でおまえを倒したいって」



イケメン「おまえの力じゃなくて、エンチャントを受けた仮の力だよね」

男「おまえの『影使い』だって女神から授かった力だろうが」

イケメン「……」



男「何による力かなんて関係ない。イケメン、おまえを、俺のこの手で倒す」

男「そのためにここまで誘い込んだんだ。そうやって初めて俺はあの夜を乗り越えることが出来る」



イケメン「OK、OK。分かった、そういうことなら慣れているよ。僕はイケメンだからね、男から嫉妬されるのは慣れっこさ」



792 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:18:33.33 ID:WSmNXtlS0

イケメン(男は王座に立てかけていた剣を手に取り戦闘態勢を取った)

イケメン(剣を扱うようなスキルも無いはずだが、単純に強化された筋力でぶん回されるだけで脅威だろう)



ギャル「結局どういうことなの、イケメン?」

イケメン「やつにも意地があるってことさ。まあ踏みつぶすだけなんだけどね」

ギャル「やることは変わらないってこと?」

イケメン「ああ、魔王を討伐してエンディングと行こう」





イケメン(ギャルと僕も戦闘体勢に入る)

イケメン(大戦の再来とも言える大規模戦闘の最中、支配派と駐留派の将による直接対決が始まった)



793 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:18:59.39 ID:WSmNXtlS0
続く。
794 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/03(金) 00:58:11.93 ID:UNyj7ulwo
乙ー
795 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/04(土) 14:01:22.93 ID:UwYfOEn+0
乙!
796 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:45:26.09 ID:n4S9Drl30
乙ありがとうございます。

投下します。
797 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:45:53.12 ID:n4S9Drl30



男「『火球(ファイアーボール)』」



イケメン(元々は野球ボールほどの大きさの炎を発射する魔法)

イケメン(エンチャントで身体能力と魔力共に強化された男が使うとその大きさは桁違いとなる)



イケメン「ちっ……!」

イケメン(僕は身を投げ出すような横っ飛びで回避する)



ギャル「『雷速拳(ライトニングナックル)』!!」



イケメン(僕に魔法を放った後の隙を狙って、男の背後にギャルが回る)

イケメン(身体強化『雷速稼働(ライトニングスピード)』による超速度から繰り出される拳が振り下ろされて)



男「ふっ!」



イケメン(しかし男は剣を掲げることで頭上からの攻撃を受け止めた)



798 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:46:21.72 ID:n4S9Drl30

イケメン(魔王城、謁見の間で始まった戦いは一進一退の攻防を繰り広げていた)

イケメン(エンチャントで強化された男の力は凄まじいことになっていたが、こちらは僕とギャルの二人)

イケメン(二対一でそもそも数が有利な上、やつの弱点も見えている)



イケメン(それがどれだけ強化されていても使えるのは初級魔法だけということだ)

イケメン(初級魔法はシンプルな、直線軌道な攻撃がほとんどだ)

イケメン(故に僕とギャルで挟むように陣取るだけで、男は同時に二人を攻撃することが出来ない)



イケメン(辺り一帯を攻撃する魔法、たとえば魔導士の『吹雪の一撃(ブリザードアタック)』などをこの魔力で使われたら厄介だった)

イケメン(だがこれなら二人で入れ替わり立ち替わり削っていけばいい)

799 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:46:52.49 ID:n4S9Drl30

ギャル「ああもうっ、守ってばっかでムカつく!!」

イケメン(懇親の攻撃を防がれてギャルが地団駄を踏む)



イケメン「落ち着いて、ギャル。あいつは僕たち二人相手に守るしかないんだ」

イケメン「あんな攻撃力の数値だけバグった雑魚敵みたいなやつ、今の状態を維持していればいずれは倒せる」



ギャル「分かってるけど……だったらどうしてあいつは打って出ないのよ」

イケメン「っ、それは……」



イケメン(ギャルの疑問に答えられない)

イケメン(戦闘熟練度がない男は雑魚敵のような単純な挙動しか出来ない)

イケメン(だがやつは人間、思考する生き物だ)

イケメン(だったらどうしてこの不利なやりとりを続けている)

イケメン(何かの狙いが……)

800 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:47:23.87 ID:n4S9Drl30





男「やっぱり実戦が一番だな。魔素の取り込み方、魔力の練り方……よく分かってきた」





イケメン(自分の手のひらを見つめながら呟く男)





男「そろそろこちらから行くぞ。『二重火球(ダブルファイアーボール)』」





イケメン(そして両手をこちらに向け、それぞれから炎を放った)



801 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:48:00.96 ID:n4S9Drl30

イケメン「ちっ! 戦いの中での成長……それを見越して!」



イケメン(今までと違って二個になった火の玉)

イケメン(大きさは変わらないため、こうなると炎の壁が迫ってきているようなものだ)

イケメン(回避では間に合わないと判断した僕はスキルを発動)



イケメン「『影剣(シャドウソード)』!!」



イケメン(影で作られた剣で炎の壁を一刀両断。迎撃に成功する)

イケメン(炎が二つに分かれて僕らの両脇を通り過ぎて)



802 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:48:31.94 ID:n4S9Drl30



男「『風塊(ウィンドブロック)』」



イケメン(その奥から男が魔法を発動しながら飛び込んできた)

イケメン(炎の壁をブラインドに接近という単純な策)

イケメン(攻撃の有効度が上がりこちらが対応しないといけなくなったことで、やつも打って出れるようになったということか)



イケメン(掲げた手に圧縮・収束された風)

イケメン(それが『影剣(シャドウソード)』を使った後隙に硬直する僕をめがけて叩きつけられて)



ギャル「危ない!! っ……!」

イケメン「くそっ……!」



イケメン(その直前でギャルが僕を抱えて高速移動)

イケメン(直撃は免れたが叩きつけられた風の余波に当てられてギャルは転び僕ともども地面を転がる羽目になった)





男「『水の矢(ウォーターアロー)』」

イケメン(男はさらなる追撃を仕掛ける)

イケメン(水を矢のように何本も飛ばして地面に転がる僕とギャルを打ち抜こうとする)

イケメン(怒濤の連撃に対応が間に合わずその身を貫かれて――)

803 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:49:06.07 ID:n4S9Drl30



イケメン(身体にノイズが走ったように揺れてその姿が消えた)



男「!?」

イケメン「ようやくその余裕そうな表情が崩れたね」



イケメン(ギャルに助けられた瞬間、僕は『影の投影(シャドウコントロール)』を発動)

イケメン(逃げる方向と反対に僕らの幻影を放っていた)



イケメン(『潜伏影(ハイドシャドウ)』で自分たちの姿を隠すことまでは間に合わなかったけど、幻影を派手に地面に転がせた結果男の注意はそちらの方に向いていたようだ)

イケメン(魔法を無駄撃ちして決定的な隙を晒した男に)



イケメン「『影の装甲(シャドウアーマー)』!!」



イケメン(僕は自身の影を身に纏って身体能力を強化)

イケメン(男に突進してそのバランスを崩し、地面に倒れたところでマウントポジションを取った)

804 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:49:42.56 ID:n4S9Drl30



イケメン「弱い癖にちょっと成長したくらいで調子に乗るからこんなことになるんだ」

イケメン「最初から弱者は強者に従っていればいいのにね」



男「くそっ、黙れ!!」

イケメン「そっちこそね」



イケメン(圧倒的有利な状況からタコ殴りにする)

イケメン(男は身体能力こそ強化されているものの、身体の使い方は素人だ)

イケメン(影使いの専門外ではあるが、戦闘スキルの延長上に授けられた技術があるためこちらの方に長がある)

805 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:50:16.57 ID:n4S9Drl30

イケメン「ようやく力が抜けてきたか」

男「…………」



イケメン(ボコボコにされた男の抵抗が弱くなってきた)

イケメン(僕の目的、魅了スキルを使う道具とするためにこいつを殺すわけには行かない)

イケメン(誰かを服従させる魔法などあれば簡単だったが、生憎なことにそれに準じるような力も含めて目の前にある魅了スキルくらいしかこの世界に存在しない)

イケメン(故にこいつは力で屈服させるしかない)

イケメン(しかし、身体の抵抗こそ弱まってきたものの、男の目には未だ強い意志が宿っている)





イケメン「全く、そろそろ諦めて欲しいものなんだけどね。助けでも待っているのかい?」

イケメン「残念だけど僕の部下たちが警備を攪乱している。しばらくは誰も来れないと思うよ」



男「他人の手は借りねえよ。言っただろ、おまえは俺の手で倒すって」

イケメン「その状況でも強気な言葉を吐けるところは評価するよ」



イケメン(さてもう少し痛めつけるか、と拳を握り直したところで)

806 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:51:37.68 ID:n4S9Drl30



ギャル「そうよ、さっさと女や女友たち、みんなにかけた魅了スキルを解除しなさいよ!!」



イケメン(ギャルが口を挟んできた)



男「……おまえもスキルの説明は見たはずだろ。魅了スキルは解除不可能だ」



ギャル「それは異世界に来たばかりの時の話でしょ」

ギャル「成長してコントロール出来るようになって、オンオフくらい自由に出来るようになってないわけ?」



男「無理だな。そういう類のスキルじゃない」



ギャル「あっそ。じゃあ殺すしかないわね」

男「…………」

807 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:52:22.28 ID:n4S9Drl30



ギャル「殺せば流石にスキルの効果も無くなるでしょ」

ギャル「あんたは憎い思いもあるけど、アタシだって積極的にクラスメイトを殺そうだなんて思いたくない」



ギャル「でも本気よ」

ギャル「魅了スキルをかけて女や女友はあんたなんかに惚れさせられて、その自由を奪われた」

ギャル「いわばあんたに殺されたようなものでしょ」

ギャル「それにこうして王国も乗っ取って多くの人に迷惑をかけている。殺されても仕方ない所行でしょ」





男「……まあ他人の自由を奪ってきた俺が、自分の自由を奪われることを拒むのは筋違いだろうな」

ギャル「何だ、覚悟は出来てるのね。じゃあ、イケメン」





イケメン(ギャルは僕に呼びかける)

808 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:53:05.73 ID:n4S9Drl30



イケメン「…………」



イケメン(何が『じゃあ』なのだろうか?)



ギャル「あ、それともアタシが殺した方がいい? なら代わるけど」



イケメン(殺す? 僕の欲望を叶えるための魅了スキルの持ち主を?)



ギャル「……? ねえ、イケメン聞いてるの?」



イケメン(ああ、聞いてるさ)



イケメン(本当に、もう……我慢の限界だ)



809 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:53:51.79 ID:n4S9Drl30



イケメン「ちょっと黙っててくれないか、ギャル?」

ギャル「え……ご、ごめん。何か気に障った?」



イケメン「何か? おかしいこと言うね。全部だよ、ギャルの言うこと全部が耳に障る」

ギャル「ぜ、全部って……そ、そんなおかしいこと言った?」

ギャル「だってそいつを殺さないとみんな魅了スキルから解放されない……アタシたちの目的はずっとそれで……」



イケメン「たち、じゃない。ギャルだけの目的だろう」

ギャル「……え?」





イケメン「僕の目的は最初から――魅了スキルを手に入れて、全ての女性を支配することだ」





810 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:54:24.28 ID:n4S9Drl30

イケメン(ずっと騙してきた)

イケメン(目的を達成するまで騙しきるつもりだった)

イケメン(でももう男はボロボロで圧倒的有利は変わらず、目的達成間近ともいえる)



イケメン「…………」

イケメン(だったらちょっとくらい早くてもいいよね?)



イケメン(ちょうどいい趣向とも言える)

イケメン(今まで調子に乗っていたこいつが絶望する姿を見ながら、目標達成と行こうじゃないか)

811 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:55:20.27 ID:n4S9Drl30



ギャル「何……言ってるの、イケメン?」

ギャル「全ての女性って……そんなの必要ないでしょ」

ギャル「だってイケメンには、アタシっていう彼女がいるんだから」



イケメン「そうだね。じゃあ別れようか、僕たち」

ギャル「……っ!? じょ、冗談だよね?」



イケメン「もちろん冗談だよ」

イケメン「だって……僕は最初からギャルのことを彼女だなんて思っていない」

イケメン「付き合ってなければ別れることも出来ないからね」



ギャル「彼女じゃないって……な、何でそんなこと言うの?」

ギャル「アタシたちいっぱいデートもしたし、ちゃんと付き合ってたじゃん!」



イケメン「ああ、本当おまえみたいなやつ相手に彼氏のフリをするのは疲れたよ」



イケメン(今まで貯まっていた鬱憤が晴れていく)

812 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:56:00.63 ID:n4S9Drl30



ギャル「……アタシが悪いの? だったらはっきり言ってよ。全部直すから!」



イケメン「そう? じゃああげていこうか。まずはガサツなところが駄目でしょ」

イケメン「独占欲が強いところも駄目。頭が悪いのも駄目だし……」

イケメン「うーん、困ったね。多すぎて手間がかかるよ」



イケメン「あ、そうだ。逆にいいところをあげておこうか」

イケメン「顔だよ、顔。見てくれだけはいいから、キープにはちょうど良かったんだ」



ギャル「な、何それ……う、嘘だよね?」

イケメン「そうやって元彼を疑うところも駄目なところだね。本当にもう駄目駄目さんだ」



ギャル「そ、そんな……」

イケメン「全く、ギャルが女みたいに完璧だったら楽だったんだけどね」

813 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:57:40.13 ID:n4S9Drl30



男「あの夜のときも言ってたな……未だに女がおまえの理想の人なのか?」



イケメン(はぁ、と溜め息を吐いたところで、その名前に反応したのかマウントポジションを取られたままの男が言葉をこぼす)



イケメン「当然だろう。貞淑で、スタイルも良くて、気遣いも出来る……完璧な女性だ!」

男「……ふっ」

イケメン(男が鼻で笑う)



イケメン「何がおかしい?」

男「あいつが、女が完璧な女性……? 全くどんな幻想を見ているんだか」



イケメン「自分は分かっているアピールかい? ただ一緒に長く旅していただけな癖に」

男「ああ、俺と女は所詮一緒のパーティーっていうだけの関係だ。少なくとも俺はそう思ってた」



イケメン「……何が言いたい」

男「おまえはイケメンの癖に、全く女性の心が分かってないんだな。それじゃモテねえぞ」



イケメン「女性と付き合ったこともない君には言われたくないね」

イケメン「全く、その良く回る口を閉じる必要がありそうだ」



イケメン(動こうとしたそのとき)

814 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:58:29.06 ID:n4S9Drl30





男「おまえが目的を達成して魅了スキルを手中に収めたとしても、おまえが一番に欲しいもの――女は手に入らねえよ」

男「だってあいつには魅了スキルがかかってないんだからな」





イケメン「……………………………………は?」

イケメン(何を……言っている。こいつは……?)



男「ほらな、分かってねえ。俺と同レベルじゃねえか」

イケメン「それは……おかしい。だって女には魅了スキルにかかった素振りが……」

男「フリだとさ。俺に好意を抱いていることがバレないようにするためのな」



イケメン「おまえに好意…………それならば理屈は…………だが、そんなことあり得るはずが……っ!?」



男「ははっ、初めて意見があったかもな」

男「全くその通りだ。どうして俺なんかを好きになったのか……」



イケメン(身体的にマウントを取られている癖に、精神的にマウントを取ってくる男)

815 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:58:58.70 ID:n4S9Drl30



イケメン「…………はははっ。なるほど、なるほど」

イケメン「そういうことか。僕としたことが焦ったよ」

イケメン「この状況を逃れるためにまさかここまでの嘘を吐くとはね」



男「嘘だったらいいけどな」



イケメン「黙れ、黙れ、黙れ……!!」

イケメン「仮におまえの言うことが本当だったとしても関係ない」

イケメン「魅了スキルは予定通り手に入れる!!」



男「女は手に入らないのにか?」



イケメン「うるさい! 女が手に入らなくてもだ!!」

イケメン「世界中の女性が手に入るなら十分におつりが来るからな!!」



イケメン(そうだ、例えこいつの言葉が万が一本当でも……!)

816 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:59:29.73 ID:n4S9Drl30



男「おまえのこれまでの行いには全く頷けるところがない」

男「だけどな、一つだけ」

男「理想の人を手に入れるためには善悪問わずに何でもするその姿勢だけはすごいな、と思ってたよ」



男「だけど……そうか。その程度で諦められる、代替出来るものだったのか……」

男「本当ガッカリだ」



イケメン(男は嘆息すら吐いてみせた)



817 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:00:07.41 ID:n4S9Drl30



イケメン「調子に乗りすぎだ」

イケメン「おまえは死んだ方がマシだ、と思えるような目に合わせる」



イケメン(廃人となるまで追い込むと道具として使い勝手が悪いから遠慮していたが、こいつの図太さだ)

イケメン(ぶっこわすつもりでちょうどいいだろう)



男「あっそ、やってみな」



イケメン(もう軽口には付き合わない)

イケメン(僕は手を出そうとして――)



818 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:00:33.65 ID:n4S9Drl30

 ――激情に駆られているようでイケメンはずっと冷静だった。

 男がマウントポジションを解除する方法は一つ。

 肉弾戦が駄目なら、魔法を使えばいい。



 だからこそイケメンはギャルとの会話の間も、男との口論の時も、男が魔素を取り込み、魔力を練らないかの観察を怠っていなかった。

 その傾向が見えた瞬間殴ることで男の集中を阻害、魔法を使わせないつもりだった。



 今この瞬間も男に魔力を練る気配はない。

 故に魔法は使われない、想定外の事態は起きない。



 そのように考えていて。

 ――だからこそ、その行動には虚を突かれた。

819 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:01:08.25 ID:n4S9Drl30



男「魅了、発動!!」

イケメン「っ……!!」



 魅了スキル。

 男が授かったただ一つのスキル。

 魔力を練らずとも使えるそのスキルの効果は異性の支配が主で、同姓のイケメンには効かない。



 だが、効果はそれだけではない。

 ピンク色の光。



男「ふんっ……!!」



 イケメンの目が眩んだその隙に男は全力を絞る。



 元々影使いのイケメンとエンチャントを受けた男の身体能力は拮抗していた。

 イケメンが技術により男を押さえつけていたが、一瞬の緩みを突くだけで逆転される程度の差。

 結果男は拘束を振り解き距離を取ることに成功した。

820 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:01:42.76 ID:n4S9Drl30



男「油断したな」

イケメン「ちっ、魅了スキルか」



イケメン(やけに大人しくしていると思ったら、このワンチャンスに賭けていたのか)

イケメン(だがダメージは十分にあるはず、面倒だが第二ラウンドの開始……と思って僕は戦闘体勢に入るが)



男「ふぅ……」

イケメン(男は身体から力を抜いてリラックスしていた)



イケメン「何のつもりだ?」

男「今までの問答でよく分かった。俺の手でおまえを倒そうなんて間違っていたってことに」

イケメン「今さら命乞いでもするつもりかい? だが容赦するつもりはない、僕はおまえを――」

821 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:02:22.74 ID:n4S9Drl30



男「そういうことじゃない」

男「おまえ程度のやつにこだわる意味をなくしたってことだ」

男「まあそれも戦った結果だから無駄ではなかったんだろうが」



イケメン「はっ、戯れ言を」



男「それにおまえを倒すのに、俺よりふさわしいやつがいる」



男「命令だ、イケメンをやれ」



イケメン(興味を失ったという言葉は本当なのか、男は面倒そうに命令を下す)

822 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:02:56.64 ID:n4S9Drl30

イケメン「っ……」



イケメン(命令)

イケメン(それこそずっと警戒していた選択肢だ)



イケメン(ここは魔王城、敵の本拠地)

イケメン(周囲の気配は窺っていたが、その程度では足りるはずがない)

イケメン(伏兵が配置されていてもおかしくはないと思っていた)



イケメン(自分の手で倒す……そんなことにこだわって負けるようでは本末転倒だからね)



イケメン(最初から男の言葉は信じていない)

イケメン(故に男の方針転換を素直に受け取った)

イケメン(そして全力で敵の気配を察知しようと周囲に気を配る)



イケメン(どこからだ……壁は遠い、隠れられるような場所もない、天井は高くもしものときに間に合わない……なら下だ!)



823 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:03:29.38 ID:n4S9Drl30





 敵に警戒した――だからこそ。

 イケメンは味方からの攻撃に反応することが出来なかった。





イケメン「ぐふっ……!?」



イケメン(後頭部を思いっきり殴られて派手に倒れる)

イケメン(後頭部……後ろ?)

イケメン(後ろにいたのは――)



イケメン「ギャル!! 何をしている!!」



イケメン(元彼女、縁を切ったはずのその人しかいない)

824 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:03:56.60 ID:n4S9Drl30

イケメン(一瞬で状況を理解した)

イケメン(早めに種明かししすぎたか)

イケメン(僕に捨てられたギャルが自暴自棄になって僕を殴ったということだろう)



イケメン(全く女ってやつは非合理的過ぎる)

イケメン(役に立たないどころか、足まで引っ張るとは)

イケメン(僕に貢献するなら手元に置いておくことも考えたというのに)



イケメン(そう思いながら振り向きギャルの姿を見上げて)



825 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:04:30.42 ID:n4S9Drl30



ギャル「ち、違うの……わ、私は……その、身体が勝手に……」



イケメン(ギャルが拳を振り切った姿勢のまま――涙を流していることに気づいた)



イケメン「え……?」



イケメン(流石に想定していなかった事態に思考がフリーズする)

イケメン(涙……? どうして自分を切り捨てた僕を憎んでいない?)

イケメン(よく分からないがそれなのにどうして殴って……)



男『命令だ、イケメンをやれ』



イケメン(もしかして……。だが、いや、それこそ――)

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