男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目

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626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/30(木) 15:00:51.64 ID:dSKJFctG0
乙!
627 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:13:41.08 ID:YpY4jEFX0
乙、ありがとうございます。

投下します。
628 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:14:18.89 ID:YpY4jEFX0

女(独裁都市と王国の境界線上の詰め所にて)

女(親友、女友と久しぶりの邂逅を果たす)

女(その状況は兵士に囲まれていて、私に助けを呼ぶという中々難解な状況だ)



姉御「演技だね」

女(姉御は即刻その可能性を示す)



女「……うん、分かっている」



女(女友は魅了スキルによる虜状態だ)

女(男君の命令でこの地に赴いた)

女(ああやって私に助けを呼んでいるのは油断させるための演技に決まっている)



女(だとしても……)

629 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:14:59.66 ID:YpY4jEFX0

姉御「どうするかい?」

女「女友と話をするよ」

姉御「だからねえ、それは……」



女「大丈夫、油断はしない。近づいた瞬間に攻撃とかされても、元々竜闘士の私の方が強いんだし取り押さえることは出来る」

姉御「……分かっているならいいさね。まあ話でも聞かなければ状況も進まないことだし」



女(注意するべきことを確認してから近づく)

女(兵士たちは私たちのことを知っているため囲いを通してもらって、女友と距離を置いて対面するのだった)



女友「いやあ、良かったです。ようやく知り合い、それも女に出会えて。姉御も久しぶりですね」



女(警戒する私たちと打って変わって女友は呑気に再会を喜んでいる)

630 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:15:34.10 ID:YpY4jEFX0

女「女友」

女友「どうしたんですか、女、姉御。そんな怖い顔をして」

女「…………」



女友「……なんてね、分かっていますよ。状況からして私が警戒されることも」

女友「だって男さんの魅了スキルにかかっているんですからね」



女(女友は自分からその問題点に触れた)



女「だったら話が早いね。どうしてこの場に現れたの? 男君の命令によるものじゃないの?」

女友「白状します。私は男さんに独裁都市を叩くように命令されました」

女友「王国に反逆する目障りな勢力の力を削ぐために」


女「…………」



女友「ですが目下の問題は一つじゃありませんでした」

女友「復活派が動き出したため、男さんはそちらの対応にも迫られたんです」

女友「問題の大きさからして男さん自身がそちらに出向くしかなくて……チャンスだと思ったんです」



女「チャンス……?」

631 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:16:03.91 ID:YpY4jEFX0

女友「ええ。女なら知っていますよね。私が魅了スキルの命令を何度も無視したことがあるのを」

女「うん、そうだね」



女友「その抜け道の一つを今まで温存していたんです」

女友「魅了スキルは本人が命令を自覚するのが必要ですから、自分が命令されているわけではないという意識を強く持てば抵抗できるんです」



女「そんな方法が……」

女友「でも男さんの目が届く場所では抜け出しても、すぐに新たに命令がされるのがオチですから、ここまで待っていたんです」



女「だから今の女友は男君の命令に従っているわけではないと……そう言いたいの?」

女友「はい、そうです。そして女たちの力になりたいと思ってここまでやって来たんです」

女友「……証明する手段が無いのがもどかしいですが」



女(女友は悔しそうにして俯く)

632 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:16:31.86 ID:YpY4jEFX0

女「どう見る?」

姉御「女友が本当のことを言っているならとてもありがたい話だねえ」

姉御「魔導士としての戦力も、王国の事情にもかなり通じているはずの情報も得られるって点で」

女「そうだね」



姉御「問題は……ここまでの言い分含めて、まるっと嘘である可能性もあるってことだねえ」



女(その通りだ)

女(考え出すとキリがないことは分かっている)

女(でも考えないわけには行かない)



女(問題なのは女友自身が言ったように証明する手段がないということだ)

女(女友の言い分が本当であるか、嘘であるか確認するその方法は……いや、そうじゃないか)

女(この状況で大事なことは――)

633 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:17:51.82 ID:YpY4jEFX0



女「私は女友の言うことを信じるよ」

女友「本当ですか、女!」



女(女友が私の言葉に目を輝かせる)



姉御「ちょっと本気かい?」

女「本気だよ」

姉御「だけどさっきの言葉が嘘だったら……」

女「裏切られるね。……でもそんなの魅了スキルがあろうと無かろうと一緒なんだよ」

姉御「……へ?」



女「嘘か本当か分からない言葉なんてどこにだってある」

女「そんなときに根拠にするのは、それを発した人が信じられるかどうか」

女「私は女友を信じている。だからその言葉も信じる。それだけだよ」



姉御「……まあ、そうか」

634 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:18:21.40 ID:YpY4jEFX0

女友「ありがとうございます、女」

女「ううん、今まで助けてくれた女友を疑って、こっちこそごめんね」

女友「いいんですよ、状況が状況ですから」



女(そして私は女友に近寄って手を差し出す)



女「あ、言い忘れてたね、女友。久しぶり、元気だった?」

女友「女……いえ、もう本当クタクタですよ。男さん本当人使いが荒くてですね」



女(女友もそれに応じて、ガッチリと固い握手が交わされるのだった)



635 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:18:48.55 ID:YpY4jEFX0



女友「さて、協力するとは言いましたが、何から始めればいいでしょうか?」

姉御「とりあえずアタイの希望としては、王国の状況について知っていることを全部話して欲しいところだけどねえ」

女「そうだね。独裁都市でもどうにか王国の状況を探ろうと手を尽くしているみたいだけど、成果は上がっていないみたいだし」



女(来たときと同じように私は姉御の手を引いて神殿に向かう)

女(女友は身体を軽くする魔法と風を呼び起こす魔法を組み合わせてそのスピードに付いてきていた)

女(その途中)



女「……っ、あれは!!」



女(私はその存在に気付いて空中で急停止する)

636 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:19:26.95 ID:YpY4jEFX0



魔族「これはちょうどいい」

傭兵「探す手間が省けたな」



女(魔族と傭兵。復活派の二人)

女(あちらも『竜の翼(ドラゴンウィング)』で空を飛び移動していたようだが、こちらに気付いて中空に止まる)



姉御「まさかこんなところに……」

女友「傭兵と魔族……復活派の二人組……男さんが対応していたはずですが……」



女(警戒する姉御に、浮遊魔法に切り替えて疑問符を浮かべる女友)

女(私は一歩前に出て問いかけた)



637 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:20:09.05 ID:YpY4jEFX0



女「お久しぶりですね、傭兵さん。何のつもりでしょうか?」

傭兵「警戒する気持ちは分かる。だが、私たちに争うつもりは無い」

女「……そうやって油断させるつもりですか? 学術都市での所行、忘れていませんからね」



女(この二人が駐留派に協力して襲撃したことが、男君との決別の引き金を引いた)

女(傭兵さんは両手を挙げるポーズまで取っているが、気を許すつもりは毛頭無い)



女友「それよりどうしてあなたたちがこんなところにいるんですか?」

女「どういうこと?」

女友「先ほど少し触れたように、復活派は男さんが直々に対処に向かったはずなんです」

女友「それこそ討つつもりで戦力を揃えて。なのにここにいるということは……」



女「男君が逃がしたってこと?」

女友「それならまだマシで……もしかしたら返り討ちにあった可能性も……」

女「まさか……男君を……!?」



傭兵「違うな。私たちは少年に見逃された方だ」

魔族「別れ際のあの反応はおまえたちにも見せてやりたかったな」

女友「見逃す……ですか? 男さんに限ってそんな甘いことを……」



女(傭兵さんに魔族さんも加わり、入り乱れ始めた話を打ち切ったのは姉御だった)

638 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:20:47.80 ID:YpY4jEFX0



姉御「だぁっもう、まどろっこっしいねえ!」

姉御「ストップだ、ストップ!」

姉御「そうやって言い合ってたら何の話もまとまらないだろう!」



女「だけど……」

姉御「だけども何もない! こんな空中でする話でもないだろう! 落ち着ける場所に移動するよ!」



女(食い下がろうとする私にピシャりと言い放った後、姉御は傭兵さんの方を向く)



姉御「本当に戦う意志は無いんだろうね?」

傭兵「ああ。魂に誓って」

姉御「だったら案内するよ。正直あんたたちの持っている話も気になるところだ」

傭兵「感謝する」



姉御「……あ、でも、気が向いたらでいいからアタイと一戦交えてくれると助かるねえ」

姉御「武闘大会の予選の時は不甲斐ないところをみせたけど、あのときから成長したからさ」

傭兵「いいだろう。あのときは結局拳を交えなかったからな」



女(姉御は話をまとめながらも、ちゃっかり傭兵さんと再戦の約束を取り付ける)

639 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:21:56.66 ID:YpY4jEFX0



女(そうして行きは二人だったのに、女友、傭兵さん、魔族さんと三人を加えた一行で、独裁都市の中心、神殿前に着地して)



チャラ男「ようよう、やっと帰ってきたやな。入れ違いだったみたいで待ちぼうけ食らったで」



女(軽薄な調子の声が私たちを出迎えた)



女「チャラ男君……? でも、どうしてここに……」

女(最初は気弱君と姉御と一緒にパーティーを組んでいて武闘大会に出るべく向かった町で出会ったけど、何だかんだあって大会の後は私たちを裏切り駐留派に合流したクラスメイトの名前だ)



女(そう、駐留派であるから本来は敵であるはずなのだ)



チャラ男「ちょっと『組織』からアンタたちに話を付けて欲しいってことで、クラスメイトの中から暇している俺が選ばれてな」

姉御「……。だとしてもあんた、よくアタイの前に顔を出せたねえ?」

チャラ男「ははっ、やっぱり宝玉を盗んだことを怒っているんやな? まあまあ、そんな昔のことは水に流そって。俺は『組織』から大使やぞ、ちゃんと丁重に扱わなければ問題に……」

姉御「問答無用!!」

チャラ男「いたっ……!?」



女(姉御がチャラ男君に駆け寄り頭にゲンコツを落とす)

640 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:22:28.21 ID:YpY4jEFX0



女友「まあまあ、姉御。気持ちは分かりますが、そこらへんにして……」

女(女友がその対応に走るのを横目に私は率直な感想を呟いた)





女「敵なのか、味方なのか……分からない人がたくさん集まったなあ……」



女(帰還派の私たち、駐留派からの大使、復活派の二人、支配派から抜け出した女友)

女(何の因果か、ここに全勢力の人間が揃った)



女(そしてそれぞれが話を用意している)

女(力押しで解決する問題ではないからこそ、情報は大事だ)

女(何としてでも男君の元に辿り着くために)

641 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:26:53.79 ID:YpY4jEFX0
続く。
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/03(月) 01:34:10.53 ID:0XP9ukIJO
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/03(月) 10:01:09.05 ID:Lf/yFej4o
乙ー
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/04(火) 16:47:06.67 ID:1DBF+ZlEO
乙!
645 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:22:02.46 ID:J9Cxm/0x0
毎度毎度、乙ありがとうございます。
励みになります。

投下します。
646 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:23:03.20 ID:J9Cxm/0x0



女(私は神殿に集まったメンバーを見回す)

女(私、姉御、女友、傭兵さん、魔族さん、チャラ男君に加えて)



チャラ男「よっ、久しぶりやな、気弱」

気弱「わっ、チャラ男さん。久しぶりです」



女(神殿で事務作業を手伝っていた気弱君が合流して七人だ)



チャラ男「何や、普通の反応やな。姉御みたいに怒られるかと思ったけど」

気弱「今から大事な話し合いなのに邪魔するのも申し訳ないですし……それに僕の分まで姉御が怒ってくれたのは見て取れるので」

チャラ男「ほんとやで、ああもうまだ痛い……」



女(チャラ男君はしきりに頭のゲンコツされた部分を撫でている)



姉御「さっきのでも足りないくらいだよ。全く、持ってきた話ってのがしょうもなかったらもう一発……いや関係なく後でもう一発だね」

チャラ男「酷くない?」



女(姉御はまだ癇癪が収まらないようだ)

647 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:23:34.82 ID:J9Cxm/0x0

女友「はいはい、静かにしてくださーい」



女(女友がパンパンと手を叩きながら呼びかける)

女(話し合いの進行は女友が率先して取ってくれることになった)

女(久しぶりに見る女友らしい姿に私は感慨深い気持ちになる)



女友「さてそれでは四派閥情報交換検討会兼王国対策会議の方を始めて行きますが……」

チャラ男「何や、その名前?」

女友「私は今決めました。ってどうでもいいところで引っかからないでください」



女(開始早々チャラ男君が横槍を入れる。いやでも長くて気になるところだ)

648 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:24:05.35 ID:J9Cxm/0x0



女友「名前の通りそれぞれが持ち寄った情報を交換検討して、どうにか王国に対抗する方法を考えようということです。そのためにも最初は……」



傭兵「私が話そうかな」

女友「傭兵さん」

傭兵「私の情報が一番直近で知らない者の方が多く顛末も気になっているだろう」

傭兵「それに一番この場で信頼されていないようだからな」

傭兵「情報を開示することで協力するつもりがあるところを早めに示したい」

女友「うーん、そうですね……分かりました、ではお願いします」



女(挙手した傭兵さんに女友が発言権を譲る)



傭兵「ありがとう。では話そう」

傭兵「事の始まりは私たちが八個目の宝玉を手に入れたことで――――――」

649 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:26:04.70 ID:J9Cxm/0x0

女(そして傭兵さんは語った)

女(宝玉によって戦力を呼び出し、しかし敵対することになって、その後男君によって蹂躙されて、今は使命も何も無い、と)



女「…………」

女(気になる情報が渋滞している。一つ一つ確認しないと)



姉御「宝玉で呼び出して戦力の増強ねえ。魔神復活ばかり言ってたから盲点だったよ」

女友「そうですね、私も見落としていました。男さんが気付かなかったらヤバい事態になっていたかもしれませんね」

女(私も同じだ。まあ女友も気づけなかった計画に私が気づけるはずがない)



チャラ男「でも最後には全員死んだってか。良い女もおったやろうに残念やな」

気弱「もう、チャラ男さん! ……えっと、魔族さんでしたか。失礼なことを……」

魔族「別に気にしていない。ただ同じ種族のやつらが死んだというだけだ。それに今の私には傭兵一人さえいればいい」



女(チャラ男君の軽薄な言葉に、気弱君が気を遣うが、魔族さんは気にしている素振りもない)

女(……っていうか二人の関係って、結構……その……)

650 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:26:48.09 ID:J9Cxm/0x0

傭兵「そうだ、気になることがある」

傭兵「魅了スキルの効果対象が『魅力的だと思う異性』というのは間違いないな?」

女「はい、その通りです」



傭兵「だが、今回少年は当然のように女性の魔族たちを虜にしていた」

傭兵「話を交わしたことすらない者を魅力的だと思うようなものなのか?」



女「あ……言われてみれば……」



女(そうだ、魅了スキルは女性をお手軽に支配できるスキルのように見えて、意外と色々な条件が存在する)

女(そのせいで私と男君の関係も拗れたわけだし)

651 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:27:32.42 ID:J9Cxm/0x0



女友「それなら私も同じ事を疑問に思って聞いたことがあるんですが――」

女友「男さんが言うには『どいつもこいつも俺の駒になると思えば魅力的だろう』ということみたいです」



女「それは……」



女友「実際女と別れてから魅了スキルを失敗したことは一回もありませんでしたし、本当のことなんでしょうね」

女友「というかその段階で手間取っていたらこんなに早く王国を転覆させることは出来せんよ」



女「……それもそうだけど」

女(魅力的かどうかには本人の認識が大きく関わる)

女(男君はそこまで割り切った考えをして……いや、でも)

652 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:29:15.62 ID:J9Cxm/0x0

傭兵「だとしたらどうして魔族は虜になっていない?」

傭兵「先ほどの戦闘、囲んでいた魔族を対象に放った魅了スキルの範囲に魔族もいたぞ」



女友「あっ、それもそうですね。以前の老婆に化けたときの記憶に今も引っ張られているとか……?」

女友「いや、でも王国では普通に年配の市民にも魅了スキルをかけていましたし……」



魔族「確か術者に特別な好意を持っている場合も無効だという話だったが、当然私は少年にそのような好意を持っているわけではないぞ」



女(魔族さんも口を挟む)



女「…………」

女(他は虜になったのに、魔族さんだけならなかった理由)

女(それは魅了スキルの条件から考えて、男君が魅力的だと思わなかったからとしか考えられない)

女(駒という考えからすれば、変身を使えて強い魔族さんは魅力的なのに……それでも思えなかったのは)

653 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:30:04.47 ID:J9Cxm/0x0



女「傭兵さんと魔族さんのことをよく知っていて……それでいて二人が特別な絆で結びついていると思ったから……なのかな?」

傭兵「どういう意味だ?」



女「男君はお互いがお互いを想い合う関係が恋愛の理想なんです」

女「話によるとそのとき背中合わせで戦い抜くつもりだったんですよね」

女「それで男君は自分の理想の関係を体現している二人を見て……魔族さんをそこから奪うなんて出来なかった」

女「うん、いくら表面上変わっていても男君はそんなこと出来ない」

女「だから魔族さんだけ虜にならなかった……」





傭兵「……いや、それは間違っているな」

女「え?」

女(傭兵さんの否定に思わず顔を上げると、呆れたように溜め息を吐いていた)

654 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:30:43.07 ID:J9Cxm/0x0

傭兵「私と魔族がお似合いの関係だと? 少年も少女も節穴だな」

傭兵「私の好みはお淑やかな女性だ。気の強い魔族も悪くはないが、もう少し落ち着いて欲しい」



女「え?」



魔族「言うじゃないか、傭兵よ。私だっておまえの何を考えているか分からないところは苦手だ」

魔族「いざというときに頼れるのは良いところだがな」



女「え?」



傭兵「言葉使いももう少し直して欲しい。まあ姉様に啖呵を切ったときは愉快だったがな」



女「……」



魔族「それを言うならそちらこそ私を抱えて飛ぶとき全く配慮してなかっただろう。お陰で揺れが酷かったぞ」

魔族「まあそれでもおまえに包まれている安心感の方が大きかったが」



女「……」



655 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:31:10.81 ID:J9Cxm/0x0

女(きょとんとした顔で周りを見回す。どうやら二人以外は私と同じ反応のようだ)

女(そして二人はというと至って真面目な顔つきでのろけているわけではないようだ)



女「え、えっと……それではお二人はお互いのことをどのような存在だと思っているのですか……?」



女(私はおずおずと二人に問う)





傭兵「共に生きていくと決めた者だな」

魔族「ああ、果てるそのときまでずっと一緒だ」





女(当然という顔つきで答える二人) 



女「………………」

女(それって実質結婚じゃないんですか?)

女(とはその場にいる誰も口に出すことが出来なかった)

656 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:31:43.82 ID:J9Cxm/0x0

女(傭兵さんと魔族さん)

女(唐突なのろけ話に困惑する私たちだが、ある意味それで分かったこともあった)



女「傭兵さん、あなたを味方だと認めます」

傭兵「急にどうした?」

女「理屈はないです。話して、触れ合ってみての私の直感です」



傭兵「そうか……学術都市の件はすまなかったな。使命のためとはいえ、あのようなことをしてしまって」

女「もう過ぎたことですから」

傭兵「お詫びになるかは分からないが、必ず少女が少年のところまで辿り着けるよう協力しよう」

女「ありがとうございます」



傭兵「もっともその後どのような結末になるかは二人次第だ」

女「良い報告が出来るように頑張ります」



女(傭兵さんが差し出した手を私は握り返す)

657 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:32:28.44 ID:J9Cxm/0x0

女友「さて、これで元復活派からの報告が終わって……そうですね、次は私から話しましょうか」

女(女友は進行をしながら、次の話し手に進み出る)



姉御「そうだねえ、男の元にいたアンタには色々聞きたいことがある」

姉御「まず率直になんだけど、今の男の目的は何なんだい?」



女友「……先に断っておきますが、私は知らないことの方が多いです」

女友「今の男さんは命令以外に話すことはめったになく、私に何かを打ち明けたり相談したりなんてしませんでしたから」

女友「それでも今までの行動などから察するに……今の男さんの目的は元の世界への帰還では無い、のだと思います」



姉御「今までそれを目標に頑張っていたのにかい?」



女友「ええ。私がここ独裁都市に向かう直前には宝玉が王国にゲートを開けるために必要な八個は集まっていました。周辺地域に宝玉を差し出すように通知した結果ですね」

女友「しかし、それでも男さんは特に行動を変えませんでした」

女友「帰還のための準備も、これ以上宝玉はいらないともしなかったんです」

658 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:34:03.17 ID:J9Cxm/0x0

女(宝玉は数を集めることで力が増す)

女(八個以上集めて出来ること……それは十個で高位存在を呼び出すか、十二個集めて――)





女「もしかして男君は……魔神を呼び出すつもりなのかな……?」





女(私はポツリと呟く)

女(みんな同じことを考えていたのか、特に反対の意見は上がらなかった)

659 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:34:59.43 ID:J9Cxm/0x0

女友「考えられる可能性ですね」

女友「男さんは魔神の『囁き』スキルによって今の状態になりました」

女友「その上時折虚空に向かって話していたり、おそらく今も魔神とのリンクは切れていないのでしょう」



傭兵「それで少年が絆されたか、懐柔されたか……あるいはスキルの効果で自分を復活させるように命令されたという可能性もあるのか?」

女友「いえ、『囁き』はあくまで対象の欲望を解放するスキルです。魅了スキルのような対象を思い通りにするという効果はないはずです」

傭兵「そうか。ならば少年自身が考えて魔神の復活を私たちに代わって成し遂げるというのか」





女「魔神を復活させたいのは分かったけど、それ自体が最終目的だとは思えない」

女「結局男君は何がしたいの?」

女友「すいません、それは私にも……」



女(私の問いに女友は力無く首を振る)

660 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:35:48.02 ID:J9Cxm/0x0



気弱「王国に内乱を起こして、罪の無い一般人もたくさん巻き込んで」

気弱「そして支配が完了したら周辺地域にも宣戦布告紛いで混乱を招き、さらには魔神を呼び出そうとしている……」

気弱「男さんはそんな悪逆的な振る舞いをするような人では無いと思ってたんですが……僕が何も分かっていなかったって事でしょうか?」





チャラ男「……ん、今気弱何て言ったんか?」

気弱「えっと、男さんはそんな悪虐的な……」

チャラ男「違う違う、その前や。一般人もたくさん巻き込んだとか、どうとか」

気弱「言いましたけど……それの何が問題なんですか?」



チャラ男「いや、俺の知ってる情報と齟齬があったからな」

チャラ男「『組織』の情報網によると、王国で本格的な内乱が起こる前日、不自然に人の流れが誘導されていて、戦闘に巻き込まれた一般人はほとんどいなかったって話や」



気弱「え、ですが内乱の時ちょうど王国にいた秘書さんが言うには、多くの民が巻き込まれたって……」

チャラ男「どういうことや……? あ、言っておくけど、俺が嘘吐いてるわけやないからな」

チャラ男「というかこれくらい王国内の情報を確認すれば分かることやないか」

気弱「王国の警戒が強くて、独裁都市には全く情報が入ってないんです」

気弱「さっきの情報も秘書さんがたまたま……いえ、おそらく男さんの命令で探りに来たときにした話なので」

チャラ男「へえ、遅れとるなー。まあそういう諜報活動の類は『組織』の方が得意か」



女(何気ない会話から判明した帰還派と駐留派が掴んでいる情報の違い)

661 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:37:19.40 ID:J9Cxm/0x0

女「本当なの、女友?」



女(帰還派の私は気弱君と同じ認識だ)

女(幸いにもここにはその出来事を一番近くでみていただろう人がいるので問う)



女友「……そういえばその疑問がありましたね」

女友「ええ、チャラ男さんの言っていることは事実です」

女友「男さんは魅了スキルを駆使して、内乱を起こす前日には一般人の避難を体制側に気づかせないまま完了させましたから。巻き込まれた人はいないでしょう」



女「男君なら可能か……首謀者だから安全地帯とかも分かるだろうし」

女「でも、だったらどうして秘書さんが嘘を吐いたのか……あのとき男君の命令で動いていたわけだし、男君が意図したことなの?」



女友「はい。布石として嘘を吐かせた、と呟いたのは聞きましたが……何の布石なのは私にもさっぱりで……」

女「布石か……」



女(本当は一般人を保護していた男君)

女(なのに秘書さんを通じて私たちに一般人も巻き込んだと嘘を吐いた)

女(その行動に何の意味があるのだろうか?)

女(これも男君の目的とやらに関わってくるのだろうか?)

女(男君の心証を悪くするくらいの効果しかないと思うんだけど…………)

662 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:37:49.91 ID:J9Cxm/0x0

姉御「だぁっもう。分からないことばかり増えるねえ」

姉御「別れ際の言葉からして男は今も女のことを思っている」

姉御「そして傭兵さんたちから聞いた様子からして、男が王国をわざわざ支配した理由も女が絡んでいる」

姉御「何がしたいのか分からないけど、そんなに女のことを思うなら側にいてやることが一番じゃないかい?」



女(姉御の言う通りだ)

女(私は男君の側にいれればそれだけで幸せだったのに……男君は違うっていうのだろうか?)

663 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:38:47.12 ID:J9Cxm/0x0



チャラ男「男は元の世界に戻るつもりはないんやろ?」

チャラ男「それでわざわざ王国を支配したってことは、俺みたいに欲望のままにハーレムを作りたくなったとかやないのか?」



女友「あり得ませんね。私が基本的に側にいましたが、男さんはそのような命令をしたことはありません」

姉御「適当なことを抜かすようならぶっ飛ばすよ」



チャラ男「おお、怖い怖い。じゃぶっ飛ばされない内に俺も話しとこっかな」



女(チャラ男君はおどけるようにして女友と姉御の集中砲火をかわす)

女(駐留派、バックにいる犯罪結社『組織』は何を目的に私たちに接触をもくろんだのか)



664 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:39:36.34 ID:J9Cxm/0x0

チャラ男「俺からの話は提案ってことになるな。独裁都市は戦力を集めて近く王国を攻略にかかるんやろ?」

女「うん、そうだけど」

チャラ男「その作戦に『組織』も一枚噛ませて欲しいってところでな」



女「……続けて」

チャラ男「まずそもそもなんやけど、『組織』は今の王国が支配されて各地にも緊張感が漂うこの状況は歓迎してなくてな。平和ボケしてた方が色々と事も運びやすいし」

女「……是非はともかくとして、王国をどうにかしたいという気持ちは同じと」

女「だけど独裁都市やそれに協力する古参商会にも体面があるから、犯罪結社なんかと協力するわけにはいかないと思うよ」

女「大体協力するフリして裏切るなんて平気でしそうだし」



女(そもそも目の前のチャラ男君だって、最初は仲間面していて裏切った存在だ)

665 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:40:32.63 ID:J9Cxm/0x0

チャラ男「そこらへんは『組織』も理解しているみたいでな」

チャラ男「というか『組織』こそ表の勢力と手を組んだとバレたら裏の世界での求心力が失われるし」



チャラ男「だから協力は最小限、王国に攻め入る日取りを一緒にする、これだけや」

チャラ男「独裁都市側と『組織』側の二正面作戦で、王国の防御を分断出来るだけでもありがたいしな」

チャラ男「『たまたま攻める日が被っただけだ』ってことにすれば体面も保てるやろ?」



女「……姫様や古参会長に相談しないといけないから、今ここで返事は出来ないけど提案はしてみる」

チャラ男「頼むでー。まあ俺なんかに頼む仕事やし、『組織』も是が非でもとは思ってないやろしな」



女(私個人としては魔王城に辿り着けさえすればいいので了承したかったが、そういう事情で返事は保留した)



666 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:41:00.36 ID:J9Cxm/0x0
続く。
667 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/11(火) 06:19:54.37 ID:Dt3ZIREKO
乙!
668 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/11(火) 14:21:41.44 ID:/u9N0jBPo
乙ー
669 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:37:15.33 ID:wmBtSKTz0
乙、ありがとうございます。

投下します。
670 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:37:55.87 ID:wmBtSKTz0



女(その後の会議は細々とした情報の共有や、これから起こり得る事への対策などをやって夕方頃にお開きになった)



女(夕食まで時間があるという事で、姉御が早速傭兵さんに挑戦して善戦こそしたものの返り討ちにあって、それを見ていて大笑いしたチャラ男君に八つ当たりしたり)



女(元々は敵と言っても、女友は男君に操られていただけだし、傭兵さんと魔族さんは使命を捨てたからか取っ付きやすくなっているし、チャラ男君はその持ち前のキャラでなし崩し的に馴染んでいた)



女(みんなで着いた夕食の席では)



チャラ男「なるほどそんなことが……よし、分かった!!」

チャラ男「俺も全面的に女が男のところにたどり着けるように協力するからなっ!!」

姉御「アンタ、よく言ったねえ!!」

気弱「ちょ、ちょっと二人とも酔いすぎですよ」



女(酔ったチャラ男君が調子よくそんなことを言って、姉御がその背中をバシバシ叩く)

女(その間で気弱君がおろおろしていた)



女(そして酔い潰れたチャラ男君は気弱君が介抱するということで部屋に運び)

女(傭兵さんと魔族さんも協力者という事で神殿内の客室が一部屋準備されて)

女(女友は私が寝泊まりしている部屋にやってきた)

671 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:39:00.01 ID:wmBtSKTz0

女友「こうして二人きりになるのも久しぶりですね」



女(元々私が与えられた部屋は二人用の部屋で、今までそれを一人で使っていたものだ)

女(その今まで使っていなかったベッドに寝転がりながら女友が言う)



女「学術都市にいたとき以来だからそこまで期間は空いてないはずなのに……本当久しぶりって感じ」

女(私もその隣のベッドに寝転がる)



女友「はぁ、今日は本当しゃべり倒しましたね」

女「何か堰を切ったような感じだったね」

女友「王国にいたときはほとんど話なんてして無かったですから。男さんの命令を受けて、行動しての繰り返しで……たまに今後の方針を話し合うときくらいだったでしょうか」



女(おしゃべり好きの女友には地獄の環境だっただろう)



女「そういえば……男君は元気なの?」

女友「体調的なことを言えば元気ですよ。精神的に言うと……いつも無機質な目をしていて、私から言わせると死んでいるようなものでした」

女「……そっか」

女友「本当に男さんは……何を考えているんでしょうか? 立場上近くで行動していた私にも全く分からなくて……」



女「見ても分からない、考えても分からない…………だったら直接問いただすだけだよね」

女「うん、そうだよ。それに結局どんなことを考えていようと、私のすることは変わらないし!!」

女友「そうですね」

女「自分から振って難だけど、もうこの話はやめ、やめ! 違う話しよ、女友。王国で面白いこととかなかったの」

女友「雑なフリですね……。あ、でも面白いことと言えば……」



女(そうして私と女友の話は盛り上がり、どちらからともなく寝始めるまで続いたのだった)



672 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:39:47.23 ID:wmBtSKTz0

<一方その頃>





気弱「ふぅ……ようやく寝ましたね」

気弱(僕は自室のベッドの前で一息吐く)





チャラ男「んー……だから…………言ってるやろ……」

気弱(寝言を言っているのはチャラ男君。酔った彼をここまで運んで寝かしつけるのは思いの外骨が折れた)



気弱「でも久しぶりに会えて良かったな」



気弱(頑張って手に入れた宝玉を持ち逃げされるという手酷い裏切りを受けたけど、僕はチャラ男君のことを嫌いになれなかった)

気弱(姉御には虫が良すぎる、って呆れられるかもしれないけど)



気弱(もう一つのベッドに寝転がる。もう夜も遅いし、寝ようと思って目をつぶるけど……)

673 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:41:21.57 ID:wmBtSKTz0



気弱「眠れない……」

気弱(目がさえていた。理由は分かっている。頭の中で渦巻いている思考のせいだ)





気弱(今日の会議でも散々話題になった男さんの目的)

気弱(みんなが分からなくて頭を悩ませていたそれが――――分かったかもしれないということが気になるからだろう)





気弱「…………」

気弱(事の始まりは学術都市だ)

気弱(男さんは女さんに告白された)

気弱(おそらく普段の態度やこれまで聞いた話からして、男さんは女さんのことを好ましく思っている)

気弱(そのまま何もなければカップル成立するはずだったのに……そこに襲撃があった)



気弱(男さんと僕には似た一面がある)

気弱(だから女さんから表面的に話を聞いただけなのに……そのときの男さんの心情が手に取るように分かった)

674 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:42:26.82 ID:wmBtSKTz0



気弱(不安だ)



気弱(そこに異世界という舞台、魅了スキルという力に魔神の『囁き』スキルまで加わった結果……)

気弱(欲望そのままに、男さんはその不安を払拭するためにここまでのことをしでかした)





気弱(だとしたら……僕は到底男さんのことを責める気にはなれなかった)

気弱(僕だって同じような状況になったらそんなことをしないとは言い切れないから)





気弱「僕は運が良かったんだな……」





気弱(このことを本当はみんなに話すべきなのかもしれない)

気弱(みんな気になっていたし、不安に思っているのだから)

気弱(でも僕は男さんに共感してしまったから)

気弱(裏切りだとしても……誰にも打ち明ける気にはなれなかった) 



気弱「バレたら姉御に怒られるかもな……」



気弱(恋人の顔を思い浮かべてクスっとなって……そうして力が抜けたのが良かったのか、僕は吸い込まれるように眠りに就いた)



675 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:43:20.73 ID:wmBtSKTz0





 誰も彼もが眠りに就いた夜更けの独裁都市。

 そこに蠢く影があった。





 空中を滑るように動き、時折立ち止まる。

 周囲を見回す仕草からして、どうやら自分がどこにいるかを確認しているようだ。



 そうして辿り着いた先は……何の変哲もない建物だった。

 しかし、その影は知っていた。



 そこは重要な拠点だと。

 古参商会が王国を攻略するためにかき集めて独裁都市に運んだ物資が貯蔵されている、と。

 ここを攻撃されたら損害は量り知れず、立て直すことも難しい。

 故に極少数しかこのことを知らない。



「………………」

 影は手をその建物に向けて。

 口を開き、魔法を紡ごうとして――――。





676 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:54:17.99 ID:wmBtSKTz0







女「こんなところで何をしているの、女友?」







 いつの間にか影の後ろに竜の翼をはためかせる少女、女がいた。

 影は、女友は振り返って答える。



女友「何って……夜中の散歩ですよ」

女「そう? じゃあ、私を起こさないように細心の注意を払って部屋を抜け出したのは、ただの親切だったってわけ?」



女友「ええ、その通りですよ。結局起こしてしまったみたいでごめんなさいね」

女「いいよ、気にしてないから。それにしてもこの場所に気付くなんてね」



女友「……はて? この場所がどうかしたんですか?」

女「昼間普通に過ごしているように見えて探りを入れてたんだ」



女友「よく分かりませんがユウカもこの場所にいるってことはまさか私を尾行でもしていたんですか、あんまり良い趣味じゃないですよ」

女「ごめんね」

女友「いいえ、気にしてませんよ」



女「………………」

女友「………………」



677 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:54:48.28 ID:wmBtSKTz0



女「理屈は無い。話して、触れ合ってみての私の直感」

女「ねえ、女友って――今も男君の支配から逃れられてないんじゃないの?」

女「自由になったフリして……独裁都市に潜入して、攻撃するように命令されているんじゃないの?」



女友「……はぁ。男さんの支配から逃れられていないって……何を根拠にそんな……って直感でしたね」

女友「でしたらそうですね……理屈的に考えましょうか。男さんは私にどんな命令をしたっていうんですか?」



678 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:55:27.41 ID:wmBtSKTz0



女「とりあえず大きなものが『独裁都市に潜入して攻撃しろ』って命令だとして」

女「『怪しまれないように命令を無視したという演技をしろ』『独裁都市の重要拠点を探れ』『信じさせるために指定した情報は開示しろ』『都合の悪い情報は開示するな。ただし疑われそうな場合は臨機応変に』って感じで」

女「後は『裏切るようなことは禁止する』とか『余計なことを話すな』とか……まあそういう命令は元々かけているだろうけど」



女(まだまだ細かいことを考えればキリが無さそうだ)



女友「まるで命令のデパートですね」

女「そうでもしないと女友は本当に命令無視するでしょ」

女友「ですから本当に命令無視を……」



女「そういえば女友が言っていた理由だけど……命令されたのが自分だと認識しなければ無視できる……だったっけ?」

女「そんな初歩的なことに男君が気づかないとは思えないけど」



女友「……うっかりしていたんでしょう」



女「あ、それに女友さ、一般人を巻き込んだかって嘘をチャラ男君が言及するまで口にしなかったでしょ」

女「あれも本当は開示する情報じゃなかったんでしょ?」



女友「……順序ってものがあるでしょう。話題にならなくても、あの後話するつもりでしたよ」

女「本当に?」



女友「………………」

女「………………」



女(無言で視線と視線がぶつかり合う)

女(やがて根負けしたように女友は視線を外すとポツリと呟く)

679 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:56:06.50 ID:wmBtSKTz0



女友「本当は……私だって女の力になりたいんですよ」

女「……うん、分かっている」



女友「でも女だって知っていますよね、魅了スキルの力を」

女「そりゃあね」



女友「『誰かにバレた場合、即座に帰還しろ』『邪魔された場合は全力で抵抗しろ』『手を抜いて捕まることは禁止する』……と、まあこのような命令もありまして」





女「逃げるつもりなのね。でも逃がすと思う?」

女友「分かっています。全力で行きます」

女友「ですから――どうにか私を逃がさないでください」





女(女友が空中で戦闘態勢に入る)

女(私も構えを取った)

680 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:56:35.36 ID:wmBtSKTz0



女「ごめん、女友……私こんなときなのにワクワクしているんだ」

女友「そうですか……たぶん、私も同じですよ」





女「そう……なら良かった。じゃあ全力で……初めてのケンカをしよっか」

女友「『吹雪の一撃(ブリザードアタック)』!!」





女(返事は氷塊の雨で)

女(不意打ち的に放たれた攻撃)

女(卑怯だとも、不躾だとも思わなかった)



女(それが女友の本気だというなら……私は真っ向から迎え撃つ)



女「『竜の闘気(ドラゴンオーラ)』!!」



女(私は全方位に向けて衝撃波を放ち、攻撃を相殺した)

681 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:57:49.98 ID:wmBtSKTz0
続く。
682 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/17(月) 02:08:52.70 ID:WBtv7FyKO
乙ー
683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/17(月) 08:35:02.63 ID:tmAMcFWk0
乙!
684 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:09:26.98 ID:dmrbe4Na0
乙、ありがとうございます。

投下します。
685 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:10:10.09 ID:dmrbe4Na0

女友「『大火球(ビッグファイアーボール)』!!」



女(女友の手からその背丈を優に超える火の玉が放たれる)

女(竜闘士といえど直撃すればひとたまりも無いだろうが、そのような直線的な攻撃に当たるつもりはない)

女(私はその横を竜の翼で通り抜けようとして)



女友「逃がしません!! 『竜巻(トルネード)』!!」



女(女友は新たな魔法を発動)

女(避けた火の玉の進路上に風の渦を起こし巻き込み、炎をばらまきながら風の勢いが増す)

女(複数属性の魔法を使える魔導士の特性を生かす連続した攻撃)



女「『竜の鱗(ドラゴンスケイル)』!!」



女(避けきれないと判断した私は防御スキルを発動)

女(エネルギーの球に包まれ炎の渦を完全に遮断してやり過ごす)

女(防御力こそ高いものの、このスキルには使用後動けなくなる弱点があり、当然それは今まで一緒に戦ってきた女友も知っている)

686 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:10:52.19 ID:dmrbe4Na0



女友「捉えました!! 『雷轟地帯(サンダーエリア)』!!」



女(私の頭上に雷雲を放たれた)

女(それがもくもくと成長しながら広がりきり無数のイカズチを落とすのと、ちょうど同じタイミングで私も動けるようになった)

女(攻撃範囲と密度から私は避けるのは不可能と判断)

女(故に頭上を向いて)



女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」



女(衝撃波を放った)

女(それは雷雲の一部を打ち抜き、結果雷は私の周囲に落ちるだけに終わる)

687 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:11:19.71 ID:dmrbe4Na0

女友「この攻撃も相殺しますか……!」

女「ギリギリだったけどね。女友も良い攻撃するじゃん」



女(戦いが始まって数分が経った)

女(悔しがりながらも女友は微塵の油断もしていないようで、私から十分に距離を取っている)

女(竜闘士相手に接近戦を挑む愚を犯すつもりは無さそうだ)

女(魔導士の本領を発揮できる距離を常にキープしている)

女(私もそれを分かっているから接近を試みているのだが、女友の猛攻により阻まれている)



女(とはいえそれも長く続かないはずだ)

女(格上の私に渡り合うために、先ほどから女友は大魔法を連発している)

女(いくら魔導士の魔力が多いとはいえ、そんなに使っては尽きるのも時間の問題だ)

女(魔力を失った魔導士となればただの人)

女(だから逃走にだけ警戒して、堅実に立ち回ればいずれ女友は立ち行かなくなるだろう)

688 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:11:49.71 ID:dmrbe4Na0



女友「消極的な立ち回りなのに余裕ですね女。私の魔力を切らす作戦ですか?」

女「……さぁ、どうだろうね?」



女(私はうそぶく。とはいえ親友だ、それくらいのこと分かっているだろう)



女友「魔導士に竜闘士は倒せないと……そう侮っているなら……絶対に後悔させてみせます!!」

女「じゃあやってみせてよ」

女友「いいでしょう! 『巨大(グランド)――――」



女(私の挑発に女友は右手を振り上げながら何かの魔法を発動しようとして)

689 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:12:27.06 ID:dmrbe4Na0



女「…………?」

女友「ぐっ……駄目です……」



女(女友は左手で右手を掴み、胸元に引き戻しながら苦しむように悶えていた)



女「女友?」

女友「オン……ナ……。おかしい、ですよ……こんなの。親友同士……争う、なんて……」



女(何かに抵抗するようにしながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ女友)



女「もしかして……男君の命令に抗って……」

女友「っ……長く、持ちません…………女、今の内に私を……!!」



女(魅了スキルの命令による強制力に逆らって、自分を討つようにお願いする女友)

女(私はその親友の強かさに感心した)

女(だからこそその苦しみを早めに終わらせるために近づいたり…………せずに)

690 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:13:04.21 ID:dmrbe4Na0



女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』」

女(フルパワーの衝撃波を放った)





女友「……っ!? やばっ……!」

女(苦しげからギョッとした表情に変わった女友は、慌てるようにその攻撃を避ける)





女「ああもう、やっぱり」

女友「何するんですか、女! 苦しんでいる親友に攻撃を仕掛けるなんて」

女「それが本当なら私だって心配するわよ。命令に抗おうと苦しむ演技、だったんでしょ」

女友「…………」

女「随分上手くなったね。一瞬騙されそうになったよ」

女友「……ふふっ、流石ですね。通用しませんか」



女(非難から一転、けろっと態度を変えた女友は微笑を浮かべる)

女(演技に騙され心配した私が不用意に近づいたところで攻撃でも加える予定だったのだろう)

女(相変わらず人を食ったような態度の親友だ)

691 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:13:37.58 ID:dmrbe4Na0

女「そもそも最初からして不意打ちだったし正々堂々戦うはずないわよね」

女友「ええ、それも含めて私の全力ですから」

女(皮肉に対して堂々と宣われる)



女「それで小細工は終わり? だったらそろそろ幕を下ろす時間だけど」

女友「そうですね……では最後の大細工と行きましょうか」



女(女友は右手を振り上げて、先ほどは中断した魔法を今度こそ発動する)





女友「『巨大隕石(グランドメテオ)』!!」




692 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:14:17.20 ID:dmrbe4Na0



女(遠く天上に生成されたのは巨大な隕石)



女友「逃げるだけの魔力を残して、その他全部を注ぎ込みました」

女友「これが私の最後の攻撃……どうか対処してくださいね」

女「いいよ、受けて立つ!!」



女(拳を構えながら私は毛ほどの油断もしていなかった)

女(生成された隕石にはかなりの魔力を感じる。魔力がほとんど残っていないのはおそらく本当だろう)

女(女友自身に何かをする力は無い。隕石だけに注意すればいい)



女(でも、女友のことだ。素直に私に向けて落とすだけ……ということはあり得ないだろう)

女(考えられるのは最初に攻撃目標としていた建物に落とすことで、慌てて守りに入った私に無茶な防御を強いる方法)

女(もしくは市街地に落とす可能性も……いやそんな誰かを巻き込む方法を取るとは思えないけど)



女(何にしろ、どこに隕石を落とされようと対処してみせる)

693 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:14:54.19 ID:dmrbe4Na0



女(――と、警戒していたのにそれでも私は虚を突かれた)

女(隕石がゆっくりと術者に……女友に向かって落ちていくからだ)



女「っ、何を……!?」

女友「『逃げられない場合は自害しろ』なんて命令が……いや、嘘ですけどね」



女「だったら……!!」

女友「魔法は解除しませんよ。だって……私の親友が守ってくれるって信じていますからね」



女(にっこりと笑う親友)

女(今さらながらに姉御に注意をされたときの自戒を思い出した)



女『女友がもし私に付け込む余地があるとしたら、それは私の親友であるという事』



694 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:15:23.53 ID:dmrbe4Na0



女「…………」

女(これは攻撃にすらなっていない)

女(ただの自爆だ)



女(どうせ当たりそうになったら解除するに決まっている)

女(わざわざ飛び込むなんて愚の骨頂)



女(だと……分かっているのに)





女「女友ォォォォォォォッ………!!」

女(私は隕石の落下地点に飛び込む)






女(その数瞬後、隕石は大量の破壊を振りまいた)

695 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:16:05.80 ID:dmrbe4Na0



女友「信じていましたよ、女なら守ってくれるって」

女「女……友……」



女(破壊の中心点で)

女(防御も回避も迎撃も……何も間に合わなかった私は大きくダメージを受けて地べたをはいずくばっていた)



女(一方、隕石が落下する直前、私が攻撃範囲から弾き飛ばした女友は空中に浮き無傷だ)



女友「ごめんなさいね、女の思いをこんな踏みにじるようなマネをして。親友失格です」

女「そんな……ことないよ……。女友は……命令に従っただけでしょ」



女友「確かに全力で、手を抜くなという命令です」

女友「しかし方法までは命令されたわけではありません」

女友「……そうです、こんな最低な方法を思いついたのは私ですから」



女(私に勝ったのに、くしゃくしゃに顔を歪めている女友)

女(魅了スキルは感情まで操ることは出来ない。命令のために非情に徹しろということは出来ない)

696 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:16:50.78 ID:dmrbe4Na0

女「あはは……何を今さら……」

女友「女……?」



女「私の親友は……初恋に悩む私に既成事実を作るようにアドバイスしたり……いつだってえげつない方法を考えてるような人だよ」



女友「……誰ですか、そんな酷い人」

女「だから……今さらそんなことで見限ったりはしないって」



女(そうだ考えることが罪になるはずがない。その実行を強制させた力の方が問題だ)





女友「おん……っ、いえ……」

女友「追っ手はこれ以上戦闘出来ないと判断。しかし破壊工作を行うだけの時間も魔力もありませんね」

女友「というわけで、これよりすみやかに逃走させてもらいます」



女(女友は何かを言おうと寸前まで出かけた言葉を呑み込んで状況を判断する)

697 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:17:25.63 ID:dmrbe4Na0

女「早いね。もうちょっとゆっくりしていけばいいのに」

女友「私だってそうしたいところです。寝心地の良さそうな枕だったのに、あのベッドで結局一睡も出来ませんでしたし」

女「……あ、じゃあ最後に一つ伝言いい?」

女友「何ですか?」





女「男君に。絶対に会いに行くからって伝えといて」

女友「分かりました」





女「ありがと……じゃあまたね」

女友「ええ、また会えるそのときを待っています」



女(隕石の直撃を受けたダメージは大きい)

女(今まで気力を振り絞っていたけど、限界だった)

女(私は去ってゆく親友を見送りながら気を失うのだった)

698 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:18:09.30 ID:dmrbe4Na0
続く。
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/20(木) 03:50:41.79 ID:1VXy6v2ro
乙ー
700 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:33:00.17 ID:tJUygwuU0
乙、ありがとうございます。

投下します。
701 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:33:35.82 ID:tJUygwuU0

女(翌朝)

女(私は神殿の医務室のベッドで目が覚めた)



女(隕石のダメージが大きかった私は女友が去ったのを見た後、気絶していたようだ)

女(騒ぎを聞きつけた巡回兵により私は神殿に運ばれて、そこで治癒魔法を受けた)

女(結果もうすでに回復に向かっていた)



姉御「それで昨夜何があったってんだい?」



女(『癒し手(ヒーラー)』として私の治療をしていた姉御こと姉御筆頭に、集まったみんなに私は事情を説明した)

702 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:34:27.91 ID:tJUygwuU0



姉御「女友は魅了スキルの支配から逃れられていなかったか……くそ、気づいていればこんなことには」



傭兵「対象が余りにも限定的で、さらにあまり褒められた戦法ではないが……こうして格上を破った結果が全てか」



魔族「全く。おまえたち『クラスメイト』とやらは本当に一枚岩ではないのだな。一夜にして二人も抜けるなんて」





女「二人……? それってどういうことですか?」

気弱「あ、それなんですけど……今朝部屋に書き置きが残されていて」



女(私の疑問に気弱君が紙を見せる。それには)

703 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:34:54.29 ID:tJUygwuU0





『いやー、久しぶりに旨いもん食ったで。ほんとごちそーさん。

 そういうわけで俺はここらで退散させてもらうわ。

 あ、『組織』にも戻らんつもりやからな。

 あっちも色々ひりついてて面倒くさくてな。

 面倒なことはゴメン、が俺のモットーや。適当にこの世界で好き勝手生きさせてもらうで。

 ほな、じゃあな。   チャラ男』





女(とその調子に合わせたような走り書きの言葉が綴られていた)



女「そっか……チャラ男君も」

女(正直元々当てにしていなかったし、心も許していなかったからそんなに感情は動かなかった)

704 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:35:26.80 ID:tJUygwuU0

姉御「メッセージを伝えるついでに『組織』から離れて、そのまま逃走する計画だったんだろうねえ」

姉御「ったく、その上、手癖も悪くて懲りちゃいない」

姉御「気弱が個人的に持っていたお金もちゃっかり盗んでいったって話だから、女も何か盗まれたかもしれないよ」



女「あーそっか、昨夜は私部屋にいなかったし……でもあんまり手元にお金持つようにしてなかったし大丈夫だよ」



姉御「ならいいけどね……ああもう、女が男のところにたどり着けるように頑張るとか、あの言葉も嘘だったんだねえ」

女(姉御が歯噛みして悔しがる)



気弱「でも、本当にチャラ男さんらしくて感心さえしました」

女(お金を盗まれたという話の気弱君なのに、のほほんとしたことを言う)





姉御「……まあ、そうだねえ。これだけ世界に危機が迫る問題だって分かっているはずなのに……それでも放り投げて逃げ出せるんだから、ある意味大物なのかもねえ」

女(一時とはいえ一緒に冒険した二人には色々と思うところがあるのだろう)

705 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:35:53.52 ID:tJUygwuU0

傭兵「去った者の事を考えても仕方ない。しかし、今回のことで少女の弱点ともいえる面が露呈したな」

女(傭兵さんが話を軌道修正する)



女「弱点ですか?」

傭兵「ああ。魔導士の少女を自爆だと分かっていながら助けた」

傭兵「今後魔王城を攻め入った際に同じ事をされないとは限らない。それは少年も同じ事だ」

女「……そうですね。男君相手でも私は同じ事をしたでしょう」



女(もし男君が自分の首にナイフを当てて、これ以上傷つけられたくなかったら大人しくしろ、と脅しにもならないことを言われたら……それでも私は従ってしまうだろう)



傭兵「その気質は戦場でなければ美点なのだろうがな。さてどうするか……」



気弱「いえ、それなら大丈夫だと思いますよ」



女(傭兵さんの言葉に物申したのは意外にも気弱君だった)

706 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:36:28.91 ID:tJUygwuU0

傭兵「どういうことだ?」

気弱「男さんの動機からして……そんな好意を盾にした行動は取らないはず……ということです」

傭兵「動機……? 何か知っているのか?」

気弱「えっ……あ、いや……その」



女(気弱君はどうやら独り言くらいのつもりで発言していたようだ。みんなの注目が集まって慌て出す)



女「どういうこと、気弱君? 男君の動機について、何か心当たりでも――」

気弱「あ、僕はちょっとチャラ男さんに他に盗まれた物が無いか確認してくるので失礼します!!」



女(私の問いにあたふたしながら気弱君はその場を去っていった)

707 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:36:56.77 ID:tJUygwuU0

傭兵「あの様子……何やら気づいたのか?」

魔族「だったら何故共有しない」



姉御「女、あんたは大人しくしているんだよ。治療こそしたけど、あれだけのダメージだったからね」

女「えー、でも……」

姉御「代わりにアタイが気弱から聞き出しておくからさ。……まあいざとなったときの気弱はかなり頑固だから無理かも知れないけど」



女(ひらひらと後ろ手を振りながら姉御は医務室を出て行く)



女「……まあ、そっか。安静にしておかないとね」

女(女友による襲撃の被害は私だけに止まり、結果的に防げた形だ)

女(独裁都市の戦力は順調に集まっている)

女(決戦は近い、そのときに万全の状態じゃないなんて話にもならない)



女(今の私がするべきことは回復に努めることだと判断して……)

女(そう思うとダメージから来る疲れと、夜更けに起きていたことからそのまま眠りに就いた)



708 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:37:25.15 ID:tJUygwuU0



姉御(アタイは医務室を出て左右を見回した)



姉御「ああもう、こういうときはすばしっこいね」



姉御(気弱の姿は近くに見当たらない)

姉御(さて、どこに向かったのか……考えてとりあえず見当は付いた)



姉御「気弱は真面目だから、言い訳のようにして出てきたけど本当にチャラ男からの被害がどれだけあったか確かめている……ってところだろうねえ」



姉御(そうなれば向かうは客室だ)

姉御(この神殿は政治の中枢としても使われる拠点だ)

姉御(そちらの方は今は決戦準備のため24時間体制で動いている)

姉御(そのように人がいるところでは流石にチャラ男も盗みは働けないだろう)

姉御(だから被害があったとしたら客室方面だ。私は足をそちらに向ける)

709 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:37:51.58 ID:tJUygwuU0



姉御「さて後はどこに行ったかという問題だが……そういえば……」



姉御(最初に目が付いたのは女が使っている客室だった)



姉御「昨夜はいなかったから入られたかも知れないって言ってたねえ……」



姉御(とはいえ女子が使っている部屋に入る度胸は気弱にはないだろう)



姉御「でもまあ一応、一応。代わりに被害状況を確認するってことで」



姉御(アタイはそう言いながら部屋に入る)


710 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:38:19.64 ID:tJUygwuU0

姉御(二人用の客室)

姉御(二つのベッドにはどちらも使用された形跡があった)



姉御「女友も寝るフリだけはしたって言ってたし、そのせいかね……」

姉御(それにしても……未だに歯痒かった)

姉御(女友が命令に従って動いていたことに気づけなかった自分に)

姉御(演技の可能性は思い浮かんでいたのに……それでも自然に振る舞う女友に騙された)



姉御「全く悔しいねえ……女友、あんたも悔しくないのかい」



姉御(ここにはいない人に問いかける)

姉御(女友はおそらくアタイ以上に悔しがっているだろう)

姉御(男の命令通りに動くしかないことに)

姉御(本当はアタイたちに協力したいと、昨夜女にも言ったようだ。それなのに真逆の行動をさせられて…………)

711 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:38:58.50 ID:tJUygwuU0



姉御「……ん、あれは」



姉御(そのとき視界の隅に違和感を覚えた)

姉御(正体は枕だ)

姉御(枕カバーのファスナーが閉まりきっていない)

姉御(この神殿の清掃員は都市の中枢であるこの建物に勤めるだけあって丁寧な仕事を心掛けている)

姉御(アタイなら気にしないような細かいことまできっちりする人たちだ)



姉御(こんな雑をするはずがない。だとしたら……その後ベッドを使った人による仕業……?)



姉御(アタイは枕を手にとって枕カバーを取り外す)

姉御(すると中身と一緒に……一枚の紙が滑り落ちた)

姉御(アタイはそれを拾い上げて……そこに書かれた内容を読む)

712 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:39:32.15 ID:tJUygwuU0



姉御「……はんっ。なるほどねえ。女友、あんたも中々やるじゃないか」



姉御(メッセージは女友によるものだった)










『女友です。

 申し訳ありません、これを読まれている頃には私はそこにいないでしょう。

 男さんの命令下ではこんなものを残すことが精一杯でした。



 女たちが役立てることを願って、私が独自に掴んだ情報について記します。

 魔王城の抜け道についてです』

713 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:40:00.37 ID:tJUygwuU0
続く。
714 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/24(月) 04:32:46.11 ID:DCiQDWX5O
乙ー
715 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/24(月) 10:39:33.09 ID:laabw0rW0
乙!
716 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/24(月) 22:26:31.27 ID:9qgndLLy0
乙!
717 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:21:50.87 ID:PTwvBPgd0
乙、ありがとうございます。

投下します。
718 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:22:58.80 ID:PTwvBPgd0

女(翌日)

女(一日安静にしていた私はすっかり元気になった)



女(私、姉御、気弱君、傭兵さん、魔族さんに加えて)

女(ちょうど周辺地域を回って協力を取り付けから帰ってきた姫様と、古参会長も交えて最終確認を行っている)







姫「準備は整いました。決戦は三日後です」



女(姫さんの宣言に、ようやくこの時が来たかという心持ちだ)



女「王国に攻め入って、絶対に魔王城を落としてみせるよ……!!」

姫「一応注意しておきますが、外でそんなこと言わないでくださいね」

姫「今回、名目上は王国解放作戦です。大義名分の無い他国への攻撃はただの侵略ですから」

姫「男さんたちを、王国を乗っ取ったテロリストとして扱い、それから王国を解放することが今回連合軍が結成された目的です」



女(姫さんに注意される)

女(今回の作戦には大勢が関わる。私が分かっていないだけで、色々としがらみや建前と本音が入り交じるドロドロとした物が裏にはあるのだろう)

719 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:23:28.92 ID:PTwvBPgd0

古参会長「気にすることはない。女君は彼をどう説得するかだけを考えていたまえ」

女「……ありがとうございます」



女(私の微妙な面持ちを見抜いた古参会長に声をかけられる)



傭兵「極論、今の王国は少年の魅了スキル一つで成り立っているようなものだ」

傭兵「少年を攻略することが、そのまま王国を攻略することに繋がる」

魔族「少女よ、そのための策について後で提案したいことがある」



女(傭兵さんに続いて魔族さんが言うけど……策の提案って何だろう……?)



姉御「そうなってくると女友が残してくれた情報が役立ってくれそうだねえ」

女(姉御が拳をもう一つの手にパチンと打ち付ける)

720 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:24:08.79 ID:PTwvBPgd0

女「そうだね」



女(女友が残してくれた情報)

女(姉御が見つけてくれたそれについては昨日の内に目を通していた)



女(曰く、魔王城には抜け道があると)

女(元は王国の王族が使っていた城だ。有事の際に王族だけでも逃がすために秘密の抜け道が設えられていた)

女(王都の近くの森に出るそれを逆に侵入路として使ってみてはどうか、と)



女(命令が無い間に城を見回っていた女友が見つけたもので、男君はその存在も知らないようだ)

女(おそらく一番防御の堅いだろう王都をスキップして、直接魔王城に侵入できるならありがたい)



女(私としてはその情報の内容以上に、女友が男君の命令の外で残してくれたという事実の方が大きかった)

女(こちらに協力するという証だから)



女(女友が使ったベッドの枕からメモ紙が出てきたって話だったけど……よく考えてみれば襲撃から去る直前)



女友『私だってそうしたいところです。寝心地の良さそうな枕だったのに、あのベッドで結局一睡も出来ませんでしたし』



女(と、自分が使っていた枕を気にするように言葉を残していた)

女(気づけなかった私はニブチンだ)

721 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:24:36.12 ID:PTwvBPgd0



女「そういえば気弱君。やっぱり男君の動機について気づいたこと、教えてもらえないの?」

気弱「……な、何の話ですか?」



女(私の問いかけに気弱君は目を逸らして答える。嘘を吐いていると誰だって分かる様子だ)



気弱『男さんの動機からして……そんな好意を盾にした行動は取らないはず……ということです』



女(昨日口を滑らせたその言葉の意味は分からないまま)



姉御「ああなった気弱は頑固でねえ。すまんね、女」

女「姉御が謝る事じゃないでしょ」

姉御「まあ流石にアタイたちに大きく不利益が出るようなことなら、気弱だって黙ること無いはずだ」

姉御「黙っていても大丈夫だと判断したことだろうから、気になるだろうけど気にしないでくれ」



女「……はーい」

女(本人よりもすまなそうにしている姉御の姿に免じて、それ以上の追求は止める)

722 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:25:11.44 ID:PTwvBPgd0

女「『組織』との共闘の話って、どうなったんですか?」



女(気を取り直して私は古参会長に聞く)

女(チャラ男君は去っていったけど、その情報は本物だった……と信じたい)

女(王国をどうにかするために犯罪結社の『組織』と協力するかという話だったけど)



古参会長「『組織』とは特に話をしていないが、三日後連合軍が王国解放作戦を実行することは大々的に報じておる」

古参会長「協力するつもりなら、勝手にあちらの方で日程を合わせるだろう」



女「あ……そっか。二正面作戦をするだけだから、特に連携も取る必要がないと」

古参会長「『組織』が現れようと現れまいとすることに変わりはないからな」

723 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:26:00.18 ID:PTwvBPgd0

女(私たちの準備は完了した)

女(気になるのは残る二つの勢力の状況)



女(『組織』をバックにイケメン君を筆頭とする駐留派はどう動くつもりなのか)



女(そして王国、支配派である男君はどう応じるつもりなのか)



女「あー……気になるなあ……」



724 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:26:28.17 ID:PTwvBPgd0

<『組織』本部>





イケメン「三日後、連合軍が動く。僕たち『組織』もその日に合わせて動く事にするよ」





ギャル「三日後? 随分早いわね」

イケメン「ああ、トップがかなり優秀なようでね」

イケメン「生まれ変わった独裁都市の姫、そして古参商会の長の力のおかげだろう」

ギャル「ふーん、まあどうでもいいけど」

イケメン「そうだな、王国の気を引いてくれさえすればいい」



イケメン(僕の頭にあるのは作戦が上手く行くか、否かだけ)

イケメン(すなわち魅了スキルの奪取だ)



イケメン(最初からそれを目的に動いてきた)

イケメン(状況が推移して、やつが積極的に魅了スキルを使用するようになった今も変わりはない)



イケメン(いや、それ以上の旨味が増えたとも言えるだろう)

イケメン(魅了スキルによって王国を支配している現状、僕が魅了スキルを支配することが出来れば、王国もまるっと戴けるということだから)

イケメン(そうして今度こそ女を手に入れる)

725 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:26:56.53 ID:PTwvBPgd0

ギャル「にしてもチャラ男も薄情者よねえ。ギャルたちや『組織』への恩も忘れて出て行くなんてさ」

イケメン「最近あいつが不満を溜めていたのは分かっていたからな。遅いか早いかの問題だったさ」

イケメン「まあ最後に重要な情報を残してくれた辺り、完全に恩を忘れたわけではないだろう」



イケメン(独裁都市に大使として向かわせたチャラ男から送られてきた手紙)

イケメン(それには情報を伝えたという旨と、『組織』から脱退すること、そして魔王城の抜け道についてが記されていた)



イケメン(最後の情報については、金目の物を探している内に見つけた情報らしい)

イケメン(男に支配されている女友が支配の外で残した情報とやら記されていて、どうやら向こうも向こうで複雑な事情があるようだが関係ない。情報の中身が全てだ)



イケメン(魔王城に直接侵入する通路の存在については喉から手が出るほど欲しかった情報だ)

イケメン(その重要さは、チャラ男が抜けた戦力の穴と十分に釣り合うほど)

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