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男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目
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238 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:56:39.82 ID:Gk83vwYH0
続く。
次は早めに届けたいです。
239 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/09/01(日) 23:45:37.99 ID:C5quRSR4o
乙ー
待ってた。
240 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/02(月) 08:14:39.80 ID:o51/ZerE0
乙!
241 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:35:06.06 ID:HaY5L1dh0
乙、ありがとうございます。
投下します。
242 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:35:35.57 ID:HaY5L1dh0
男(それから数日経った)
男「………………」
男(授業を終えて放課後、俺は学園の図書室にいた)
男(学園の規模同様に図書室も広く、それでいて雰囲気が生み出す静けさが気に入っているスポットだ)
男(本の虫である俺は圧倒的な蔵書数に目を輝かせていただろう)
男(いつもならば)
男「はぁ……」
男(机に置いた本はさっきからページがめくられていない)
男(頬杖付く俺の視線の先は窓の外、中庭で修練している実戦科コースの生徒たちに向けられていた)
男(二チームに分かれて模擬戦をしているようだ。女子の姿しか見当たらないので、男子はどこかで別のカリキュラムを行っているのだろう)
243 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:36:06.11 ID:HaY5L1dh0
男(と、そんなどうでもいいことを考えていた)
男(ここ数日、俺の生活は全く変わり映えの無いものだった)
男(日中は初等部に交わり魔法習得の授業)
男(無心に頑張った結果、俺も魔素を取り込み魔法を発動させる事に成功していた)
男(一度コツをつかめば後は早いもので、火球(ファイアーボール)だけでなく初級レベルの魔法は大体使えるようになっていた)
男(そして放課後は授業で躓いたところがあれば図書室で復習を、そうでなくとも図書室に来てぼーっとしていた)
男(夜になれば寮の自室に戻り何もすること無くただ眠る)
男(繰り返しの日々は時間の進みを早く感じさせてくれた)
男(時間とは万能薬だ。どれだけ傷ついたとしても癒してくれる)
男(あれだけ重かった俺の心も今ではすっかり元に戻った)
244 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:36:50.31 ID:HaY5L1dh0
幼女『本当に?』
男(すっかり聞き慣れた幼女の声が俺の核心を突く)
男「……ははっ、そんなはず無いだろ」
男(俺は疑問に思うことなくそれに答えて)
??「ここにいたのか」
男(そのとき現実に声がかかった)
男「っ!?」
男(あわてて振り向くとそこにいたのは)
傭兵「探したぞ少年。それにしても妙な気配を感じるが……」
男(伝説の傭兵であった)
245 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:37:24.50 ID:HaY5L1dh0
男「くっ……!」
傭兵「そう身構えるな、少年。この場で争うつもりはない。図書館ではお静かに、だ」
男(イスを倒れそうな勢いで引き飛ばしながら立ち上がった俺に対して、傭兵は両手を広げて戦う意志が無いジェスチャーを取る)
男(……まあそうだな。もしやつが俺をどうにかするつもりなら声なんてかけないし、そもそも竜闘士相手に俺ごときが抵抗して何になる)
男「だったらどういうつもりだ?」
男(俺はイスに座り直して聞いた)
傭兵「様子を見に来ただけだ」
男「偵察か」
傭兵「そうとも言う。しかしこの気配は……」
男(思案顔になった傭兵はいぶかしげな視線を最初俺に向けて、次に俺の後方の何もない空間に向ける)
246 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:38:26.74 ID:HaY5L1dh0
男「そういやさっき妙な気配とか言ってたな。言っとくけど俺は何もしてないぞ」
男(両手をホールドアップしてこちらも戦う意志が無いことを示す)
男(何か反攻の意志ありと見なされて竜闘士の逆鱗に触れたら一巻の終わりだ)
傭兵「それくらいは分かっている。私が気になるのは………………ふむ、消えたか? しかし……」
男(傭兵は首を捻っている)
男(その雰囲気からして俺自身ではない何かが気になっているようだが……)
男(あいにくまるで心当たりが無い)
傭兵「まあいい。ところで少年、こんなところで燻ってていいのか?」
男「何の話だ?」
傭兵「……何だ、知らないのか。今や学園中の話題となっているぞ、ある研究室から研究物資と研究員一人が忽然と消えたと」
男「それは……」
男(抽象的に話しているが……やつの口から出てきたという事はつまりそういうことだろう)
男(魔族が化けた研究員によって宝玉が盗まれたと)
247 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:39:19.36 ID:HaY5L1dh0
傭兵「魔導士の少女の提言により厳重に警戒していた中での犯行だ」
傭兵「犯人は物理的にも魔法的にも痕跡を残していない」
傭兵「躍起となって消えた犯人を追っているそうだが、果たして見つかるかどうか」
男「他人事のように言うが、あんたはその裏側を知っているんじゃないのか?」
傭兵「いや。今回私たちはそれぞれ独立して動いている。魔族の思惑は知るところではない」
男「……まあ知っていたとしてもそういうだろうし、意味無い問いだったな」
傭兵「そうだな」
男(傭兵が返答して……しばらく無言の空間が続く。再び口を開いたのは傭兵の方だった)
傭兵「行かないのか?」
男「どこに」
傭兵「研究室に。少年たちが所持する宝玉が奪われた事態、一大事だと思うが」
男「あー……そうだな。行くべきなんだろうが……」
傭兵「……」
男「まあ、女友ならすぐ気付いて取り返すだろ。消えた人間が一人じゃなくて、二人であることくらい」
男(話を聞いただけで俺が解ける問題に、女友が気付けないとは思わない)
248 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:40:03.69 ID:HaY5L1dh0
傭兵「信頼……もあるのだろうが、ただの投げやりにも見える」
男「そうだな……正直言うと今は宝玉のことすらどうでもいいと思ってしまってる」
男「というか逆に質問だ。どうしてそう俺のことを気にする?」
傭兵「理解できない挙動をする敵に気を付けるのは当然だろう」
傭兵「腑抜けた様子に見せて裏では、と警戒したがどうやらそうでもないようだな」
男「ああ、演技でもなく今の俺は腑抜けてるだろうよ」
傭兵「ここ数日竜闘士の少女、魔導士の少女どちらとも話していないのは、何らかの策や別行動でもなくただの仲違いであると」
男「……あんた意外と目敏いんだな。もっと豪快な性格だと思っていたよ」
傭兵「状況を掴めない者は戦場で生き残れない。当然のことだ」
男(傭兵に言われたとおり、あの日拒絶してから俺は女、女友どちらとも一度も話していない)
男(今さらどのような口を聞けばいいというのか)
男(その点では敵でありどう思われてもいい傭兵の方が話しやすいくらいだ)
249 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:41:27.23 ID:HaY5L1dh0
傭兵「なるほど、理性的な言動をするから忘れていたが少年は15、6くらいの歳だったな。青春真っ盛りだ」
男「知ったような口聞くんだな」
傭兵「何、十分に知っている。理屈的でない行動をしてしまう。それが若者の特権であり、青春だ。輝かしいばかりだ」
男「大人は大変なんだな」
傭兵「少年も大きくなれば分かる」
男「そうなんだろうが…………俺が知りたいのは未来じゃなくて、今だ」
男「俺はどう行動するのが正解だったんだ? 正解なんだ?」
傭兵「考えの出発段階から間違っているな。この世に正解なんてものは存在しない」
傭兵「とはいえそのような問答をしたいのではないのだろう」
男「……ああ、その通りだよ」
男(やけに真摯に答えてくれる傭兵に、つい俺は心からの訴えをしてしまう)
男(そして)
250 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:41:53.08 ID:HaY5L1dh0
傭兵「そうだな……ちょうど約束していたしいいだろう」
男「何の話だ?」
傭兵「私が経験してきたことを話そう。少年たちの現状の参考になるかは分からないがな」
男「本当に関係なさそうだが」
傭兵「まあ聞いておけ、年寄りの昔話を聞くスキルは社会に出てからも役に立つぞ」
男(長話をするつもりなのか傭兵は近くの机のイスを二つ引いてその内の一つに座る)
男(そうして唐突に紐解かれるのだった)
男(伝説の傭兵と呼ばれる男の、過去が)
251 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:42:25.97 ID:HaY5L1dh0
続く。
過去編はそんな長くならない予定です。
252 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/09(月) 02:33:41.26 ID:VO8DktvL0
乙!
253 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/09/09(月) 20:38:08.11 ID:I7LdHY4Bo
乙ー
254 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:50:05.68 ID:oA3RdXrf0
乙、ありがとうございます。
投下します。
255 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:50:39.85 ID:oA3RdXrf0
さてまずは私の生まれから話そうか。
聞いたこともあるかもしれないが、私は貧しくも平凡な村の平凡な家庭に生まれた子供だった。
唯一の例外と言えば、竜闘士の力を持っていたことだろう。
……何、竜闘士の力って持って生まれたものなのかと?
その通りだ、聞いたこと無かったのか?
そもそも竜闘士の力が量産できるようなものであれば、各国は競って増やしただろう、どんな手でも使って。
少年の魅了スキルが属する固有スキル同様に、竜闘士もまた突然変異的に生まれるものだ。
私は今思うとやんちゃなガキだった。馬鹿なことをする度に両親に叱られたものだ。
そのときには既に竜闘士の力を十分に使いこなせたから、やろうと思えば普通の力しか持たない両親を上回ることが出来ただろう。
しかし、両親はそんなこと気にせず叱った。竜闘士である前に親と子であったということだ。
そんなこともあり私は力に溺れることもなく成長していった。
256 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:51:07.96 ID:oA3RdXrf0
妹『ねえ、お兄ちゃん! また空中散歩したい!! 背中に乗せて飛んでよ!』
傭兵『もうしょうがないなあ』
特筆するとすれば、私には妹がいた。
妹もまた両親同様に私が竜闘士であることを気にせずに、いやそれも含めて慕ってくれたものだ。
そうして私が少年になったころに先の大戦が起きた。
幸いにも私の住む村は戦火から遠いところにあり、直接巻き込まれることはなかった。
しかし戦費としての特別税により村は一層貧しくなった。
このままではこの村は立ち行かなくなる。
何もない村、だが私には立派な故郷だ。
だから。
257 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:51:38.57 ID:oA3RdXrf0
傭兵『僕が……戦場に行くよ』
元々村の中でまことしめやかに話されていたことだった。
竜闘士の私が戦場に出向けばいいと。竜闘士なら十分に活躍できるだろうと。
ただ少年でしかない歳である私を戦場に送るなんて馬鹿なこと出来るかと否定されてきた。
そんな優しい村民が私は好きだった。
みんなのためならば、私は戦場に立つ決意が付いた。
戦場はこの世の地獄だった。
尊ばれるべき命が軽々と散る。
少年だった私の精神は未熟だった。震える私とは裏腹に力だけは成熟していた。
初陣は今思うと酷い有様だった。泥臭い特攻でどうにか勝利を勝ち取った。
258 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:52:12.56 ID:oA3RdXrf0
それからも地獄で過ごす日々だった。
竜闘士の力は各地に伝わった。こぞって私を雇おうという話に、私はただ提示された金額の多寡だけで判断した。
少しでも多くの金を故郷に。
私が私であるように繋ぎ止めていたものは、その意志だけであった。
がむしゃらに戦い、戦い……ひたすらに戦い続けて。
永遠に続くかと思われた大戦にも終わりが告げられた。王国の元で力を振るった私のおかげで。
259 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:52:46.36 ID:oA3RdXrf0
大戦が終わってもしばらくは忙しかった。
王国によって私は英雄として祭り上げられたからだ。
祝賀会、戦勝パレード、あらゆる催しに呼ばれる日々は、ある意味戦場にいたころよりも疲れた。
私は英雄なんて柄じゃない。
大切ものを守るために戦っただけだ。
それも一段落したころ、久々に故郷の村に帰った。
村のみんなは私を暖かく迎えてくれた。
しかし、両親だけは私の頭にゲンコツを落とした。
父『ったく、おまえは危ない橋ばかり渡りよって!』
母『ちゃんと連絡は寄越しなさいって言ったでしょうが!』
私に対して怒る両親。
ああ、この人たちの前では私は英雄でもなく、伝説の傭兵でもなく、ただの息子でいられる。
妹『もう、本当に心配したんだからね!』
私に抱きついて泣きじゃくる妹。
ただの兄となった私は久しぶりにその言葉をつぶやいた。
傭兵『ごめん。それとただいま』
260 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:53:18.04 ID:oA3RdXrf0
こうしてただの人となった私だが、世間からの評価は変わらない。
あるとき私は伝説の傭兵として、王国から話があると呼ばれていた。
そのため村を発つ前日。
傭兵『おまえももうそろそろ年頃だろ? いつまでもお兄ちゃん、お兄ちゃん言っていないで、結婚したらどうだ?』
妹『もう、お兄ちゃんまでその話? いい人が見つからないんだからしょうがないじゃん』
傭兵『いや、おまえが選ぶ立場なのか? おまえみたいなおてんばは選んでもらう立場だろ』
妹『はぁ? 何言ってんの? 私だって結構モテるんだよ』
傭兵『ははっ、それはどうだか』
妹『……ふんっ、もうお兄ちゃんなんて嫌い!』
よくある兄妹喧嘩だった。
しかし、へそを曲げたのか妹は翌日の見送りの際も一言も口を聞いてくれなかった。
帰ったら謝らないとなあ、まあおみやげに王国名物でも持って帰れば許してくれるだろう。
そう思いながら私は王国の地を踏み、そして連れられた王宮でとんでもない提案を受けた。
261 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:53:44.41 ID:oA3RdXrf0
傭兵『王国による……大陸全土の支配……その片棒を私に担げと?』
その場に集まった王国の重鎮、そして王はそのような絵空事を本気で実現させるつもりだったようだ。
伝説の傭兵である私が協力すればその実現も早くなる、その暁には莫大な富や権力も約束しようと。
私の答えは一つだった。
傭兵『そのようなこと私には出来ません』
過ぎた富も権力も私には必要なかった。
故郷のあの村さえあればそれでいい。
262 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:54:12.45 ID:oA3RdXrf0
王『そうか……残念だ』
王は嘆くように言った。
王『まあいい、もとよりそなたに首輪を付けられるとは思っていない。ゆえにそなたは今このときより……王国の敵だ』
傭兵『敵……ならば排除するとでも? 無理だ、それが出来ないからこそ私は伝説の傭兵と呼ばれている』
王『何も……直接戦うだけが戦争ではない』
傭兵『……?』
王『相手を戦意を挫くことも……また戦争だ』
傭兵『なっ……!?』
私は衛兵が取り囲もうとする中、急ぎその場を脱出し故郷へ帰ろうとした。
嫌な予感しかなかった。
そしてたどり着いた故郷の地は――。
炎に包まれていた。
263 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:54:41.06 ID:oA3RdXrf0
世間には不幸な山火事が起きたと発表されたようだ。
村一つの壊滅。
しかし、不自然なほどにその続報は無かった。
その日以来、私は表舞台から姿を消し、細々と生きることにした。
王国に見つかるわけには行かなかったから。
竜闘士としての力を使って王国に復讐することはもちろん考えた。
しかし、大国相手にはいくら強大とはいえ私一人では分が悪い。
いや、そもそも幼い頃の教えが私に復讐という手段を奪っていた。
264 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:55:11.14 ID:oA3RdXrf0
傭兵『どうして、お父さん!! あいつは妹を泣かしたんだ! だったらあいつも同じ目に遭うべきだろ!』
父『そうやって復讐してどうなる? おまえはスカッとするだろう。だがそれだけ、空しいだけだ』
傭兵『でも……っ!』
父『大丈夫、話し合うんだ。同じ人間……分かりあえ無いことなんて滅多にない』
両親は幼い私に復讐の空しさを教えてくれた。
だが……どうしようもないほどの悪意、それとの対峙方法は教えられていなかった。
傭兵『…………』
腑抜けたように姿を隠し生活する私。
こんなことになるなら、王国の話を受けるべきだったか。
……いや、たとえ何回繰り返したとしても私は断っただろう。
だから、後悔することがあるとしたら。
傭兵『あいつに……謝っとくんだったな』
胸の内に秘めた気持ちを伝える機会は永遠に失われたままだ。
265 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:55:39.76 ID:oA3RdXrf0
男(伝説の傭兵の昔語りはそこまでのようだ)
男「その後はどうしたんだ? 今の話だと魔族は一切出てこないじゃないか」
傭兵「魔族とはつい最近、一年ほど前に出会ったばかりだ。その話については……本人もいないところでするわけにもいかないだろう」
男「ふーん……まあいいけど」
男(気になるか気にならないかで言うと前者だが、わざわざ詮索までするほどではない)
男「随分と壮絶な人生だったんだな」
男(話を聞いての感想を端的に述べる)
傭兵「竜闘士、強大すぎる力を持って生まれた時点で、私の人生が平穏無事に終わる可能性はほとんど無かっただろう」
傭兵「私はあの村、故郷で家族とともに慎ましく暮らせれば…………いや、傭兵として戦に関わってきた者としてそんなこと望む資格もない。忘れてくれ」
男(昔のことを思い返して口が緩くなったのか自身の言葉を撤回する)
266 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:56:06.78 ID:oA3RdXrf0
男「…………」
男(平穏に暮らしたいというその思いには共感しかない)
男(俺だって元の世界で誰とも関わらずずっと過ごしたかった)
男(だが異世界召喚に巻き込まれ、魅了スキルを授かって、その力に課せられた使命を果たすしかなかった)
男(そして激動の旅の果てに、一度は誰かを信じられるようになったのに…………俺はまた独りになった)
男(俺はどうするべきだったのか、どうしたいのか……正解の行動は……)
267 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:56:34.02 ID:oA3RdXrf0
傭兵「さて、話を聞いてくれたお礼だ。悩む少年に正解を教えてやろう」
男「え……?」
傭兵「正解とはすなわち多くの人が支持するものであろう」
傭兵「誰にも何も望まれない人ならばともかく、少年は幸いにも宝玉を集めることを望まれている」
傭兵「ならば少年が取るべき行動はそれを達成することだ」
男「……」
傭兵「そう考えると宝玉を集めようと競う敵がいる以上、強い味方がいる方がいい」
傭兵「つまり少年は竜闘士の少女と仲直りしてまた味方に戻ってきてもらう……それが正解だ」
男「……」
傭兵「少年がずっと望んでいた正解だ。さっさと実行すればいい」
男「……」
男(傭兵の言ったことはぐうの音が出ないほどの正論だった)
男(ガキのように駄々をこねている場合ではない)
男(その通りに行動するべきで…………でも)
268 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:57:01.86 ID:oA3RdXrf0
傭兵「でも……そうしたくない何らかの理由があるのだろう?」
男「え……?」
傭兵「今のは外から見た他人である私が出した正解だ」
傭兵「ただ理屈的にどう行動するべきかという話」
傭兵「大事なのは少年がどうしたいのか、だろう」
男「……言いたいことは分かる」
男「だけど俺は、俺自身がどうしたいのかも……分からないんだ」
269 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:57:28.61 ID:oA3RdXrf0
傭兵「そうか。ならば――――死ね」
男「は……?」
男(傭兵は立ち上がると俺の正面に立ち)
傭兵「『竜の拳(ドラゴンナックル)』」
男(気迫を放ちながら、竜の力をまとう拳を正面から振るった)
男(当たれば一瞬で俺の頭がザクロのように赤い中身をぶちまけるだろうその一撃)
男「っ……!」
男(すっかり油断していた)
男(そうだ親身に話を聞いてくれたがそもそもやつとは敵同士)
男(厄介な魅了スキルを持つ俺を始末しようとしないはずがない)
男(今から避けることは不可能)
男(死が迫る刹那の時間に脳裏によぎったのは後悔……こんなことになるなら俺は――――)
270 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:57:59.03 ID:oA3RdXrf0
傭兵「……と、まあこれは冗談だ」
男(傭兵は気を霧散させて、俺の眼前で寸止めした拳を元に戻す)
男「わ……笑えない冗談だな」
傭兵「ああ、冗談は得意でなくてな。それで……少年は今、何を後悔した?」
男「それは……」
傭兵「後悔したことが少年のするべき事だ」
男「…………」
男(どうやら傭兵がしたかったことは殺すフリをして、俺の心の奥底に潜む物を暴くことのようだった)
男(何ともシンプルな手段だが……そのおかげで自覚する物があった)
271 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:58:26.27 ID:oA3RdXrf0
傭兵「若い内は時間は無限にあると勘違いするものだ」
傭兵「意地を張って、結論を先延ばしにする……」
傭兵「それは明日も変わらぬ今日が来るという甘えからの行動だろう」
傭兵「だが少年も少女もその立場は不安定だ」
傭兵「魅了スキルと竜闘士の力、宝玉を集める使命、一寸先も分からない状況」
傭兵「だからこそ少年は後悔の無いようにな」
男(後悔を引きずり生きている先達の忠告はずっしりと重い)
272 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:58:58.13 ID:oA3RdXrf0
男「ありがとうございます」
男(俺は深く頭を下げた)
傭兵「礼はいい」
男「いえ、させてください。本当は敵であるはずの俺にここまでしてくれて……」
傭兵「あまり絆されるな。今はこうしているが、魔族の意向があれば私は少年に手をかけることも躊躇わない」
傭兵「昨日の味方が今日の敵になることもあるのが傭兵だからな」
男「それをわざわざ忠告することがあなたの優しさですよ」
傭兵「……やりにくいな」
男(傭兵は困ったような顔をしている)
男「それじゃ俺は俺のするべきことをしてきます」
傭兵「……行ってこい」
男(俺は立ち上がると図書室を出て、女がいるはずの女子寮に向けて駆け出すのだった)
273 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:59:31.51 ID:oA3RdXrf0
…………。
…………。
…………。
一人図書室に残された傭兵。
男が出て行って姿が見えなくなったことを確認すると、立ったままその口を開く。
傭兵「さて、そろそろ出てこないか――竜闘士の少女よ」
先ほど過去話を始める前に二つ引いたイス。
その内、自分が座らなかった方のイスの方を向いて声をかける。
女「……やっぱり気付いていたんですね」
女「最初からですか? 妙な気配がするって言ってましたし」
すると今まで何もなかったように見えていた空間に、突如女の姿が現れた。
274 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 03:00:01.50 ID:oA3RdXrf0
傭兵「当然だ。だが妙な気配は少女ではない何か別の…………」
女「……?」
傭兵「……いや、まあいい。ところでその力は竜闘士の物ではないな。魔導士の少女にあらかじめかけてもらったものか?」
女「はい、魔法『不可視(インビジブル)』だそうです」
傭兵「そうか。わざわざそんなことをしたのは少年の様子が気になって…………いや、少年の警護のためか?」
女「一応どっちもです。8:2くらいですけど」
傭兵「正直に言われると取り繕った意味がないな……警護にしては私が少年に寸止めしたときも動かなかったようだが」
275 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 03:00:32.66 ID:oA3RdXrf0
女「あなたは気迫こそ放っていましたが、そこに殺気がないことは分かってましたから」
傭兵「……」
女「男君も言ってましたが、あなたは優しい人です」
女「だからこそ……どうして魔族に手を貸して世界の滅亡を望んでいるのか理解できません」
女「魔族に手を貸せば世界を、王国を滅ぼすことが出来るから……とも考えましたが、さっきの様子からすると別に復讐は望んでないようですし」
傭兵「……ああ、そうだ。私の使命は世界を滅亡させること――ではない」
傭兵「それはついでだ」
女「そうですか。だとしたらあなたの目的は……」
276 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 03:01:15.38 ID:oA3RdXrf0
傭兵「私のことはどうでもいいだろう。少女も話は聞いていたな?」
女「……はい」
傭兵「だったら少女も後悔しないように。お節介かもしれないが」
女「いえ、そんなことありません! ありがとうございました!」
女は頭を下げると男が行った後を追う。
「…………」
傭兵は二人が去った方角を見る。
司書「あの、傭兵さん……ですよね。何か本でも探しているんですか?」
その背中から司書が声をかけた。
立ち尽くしていることから何か困ったことが無いかと思ったのか。
――否。
277 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 03:02:06.15 ID:oA3RdXrf0
傭兵「魔族。戻ったのか」
魔族「……よく気付いたな」
傭兵「当たり前だ。音もなく忍び寄る司書がいるものか」
傭兵が振り返ると司書は全身から光を発した後、金髪褐色角付きの姿に戻る。
魔族「最初からおまえを欺けるとは思っていない」
傭兵「そこはかとなく不機嫌なところを見ると、どうやら作戦は失敗したようだな」
魔族「……ああ。あの魔導士の少女に今回は『変身』を見破られてな。あと一歩で宝玉を盗めたんだが」
傭兵「そうか。では次はどうする? この地で粘るか、それとも別の場所に向かうか」
魔族「ああ、それに関しては……とある連中から提案があってな」
傭兵「提案?」
魔族「触りだけ聞いたが悪くない話のようだ。これから交渉に向かう。付いてこい」
傭兵「了解した」
そして伝説の傭兵と魔族も図書室から去るのだった。
278 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 03:02:34.07 ID:oA3RdXrf0
続く。
279 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/23(月) 03:42:31.79 ID:PVKPo4ex0
触りの使い方が誤用なのか意図してなのか判断に困る
280 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 04:41:44.52 ID:oA3RdXrfo
>>279
「話の最初部分」のつもりで書いてたんですが調べたら誤用なんですね
本来は「話の要点」でほぼ真逆の意味ですか……勉強不足でした
参考
http://www.bunka.go.jp/pr/publish/bunkachou_geppou/2011_07/series_08/series_08.html
281 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/23(月) 07:01:26.30 ID:22oGcbTj0
乙
282 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/09/23(月) 08:16:30.91 ID:zSDW4dIgo
乙ー
283 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/25(水) 00:22:23.25 ID:grGVkp1N0
乙、ありがとうございます。
投下します。
284 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/25(水) 00:22:51.45 ID:grGVkp1N0
女友(どうもみなさんこんにちは。名探偵の女友です)
女友「……なーんて、女を馬鹿に出来ない思考してますね」
女友(女子寮のベッドに大の字であおむけに寝転がりながら、私は随分と失礼な言葉を吐きます)
女友(とはいえ私の功績を思えば名探偵と呼ばれてもおかしくないはずです)
女友(数日前、魔族が宝玉を狙っているという事を知った私は、研究室長にセキュリティの強化を進言しました)
女友(その結果、研究室は物理的な出入りを禁止して、中で研究員は泊まり込みで作業をすることになりました)
女友(元々宝玉の反応を一日中見るために研究員は二交代制で働いていたため、そこまで反対は多くありませんでした)
女友(そして内部での魔法発動の痕跡を記録する装置をセットして、仮に誰かが魔法を使って盗んだとしてもすぐにバレるようにして)
女友(完璧な密室が出来上がりました)
女友(一抹の不安があるとしたら固有スキルの発動は判別出来ないことくらいでしょうか)
女友(魔族が変身で既に研究員として潜り込まれていても見抜くことは出来ません)
女友(それでもこの警備の中盗むことは不可能だと……私は確信していて)
285 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/25(水) 00:23:26.25 ID:grGVkp1N0
女友(今朝、宝玉がすべて盗まれていることに気付きました)
女友(すぐに研究員を全員集めた結果、一人の研究員の姿が見当たりませんでした)
女友(しかし研究室の物理的閉鎖は解けておらず、魔法使用の記録も確認しましたが怪しい点は何も見つかりません)
女友(つまり人一人と宝玉が忽然と密室から姿を消したのです)
女友(騒然となる現場。それは私も例外ではありませんでした)
女友(一体、何が起きているのか。どうやって姿を消したのか、変身を使ってもこんな芸当は出来ないはず)
女友(考える私に対して、室長はそのいなくなった一人がどうにかして宝玉を持ちだし逃げたのだと判断してその人の行方を追います)
女友(私もその捜査に加わるべきと思いながらも……何か引っかかるところがあって……そして推理が繋がりました)
286 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/25(水) 00:23:58.73 ID:grGVkp1N0
女友(結論から言うと宝玉は研究室から持ち出されていなかったのです)
女友(魔族は宝玉を研究室の中の見つからない場所に隠し、研究員一人の姿を消させてそいつが持って逃げたのだと外に注意を向けさせて、ほとぼりが冷めた頃に宝玉を持って逃げるつもりでした)
女友(さて、一人姿を消させるといっても密室からどうやって姿を消したのかという話です)
女友(簡単なことでした……魔族は最初から一人二役を演じていたのです)
女友(二交代制の表の時間で働く研究員Aと裏の時間で働く研究員B)
女友(どちらも魔族が変身した者でした)
女友(そうです、消えた人間は一人ではなく二人だったのです)
女友(危うくAという最初から存在しない幻像を追い続けて騙されるところでした)
女友(私がそれに気づけたのも思えばAとBが一度も同じ場所に姿を現して無いことに気付いたからです。見事な探偵っぷりでしょう)
女友(そして魔族を追いつめて、宝玉をどこに隠したか吐き出させて……事件の解決です)
女友(武闘大会の時は『変身』スキルに煮え湯を飲まされましたが、今回はしっかり見抜くことが出来ました)
女友(残念ながら最後は逃げられて身柄の確保は出来ませんでしたが、魔族の悔しげな顔は、思い浮かべるだけでご飯三杯いけそうです)
女友(女が帰ってきたら武勇伝として今日の顛末を聞かせることにしましょう)
287 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/25(水) 00:24:31.13 ID:grGVkp1N0
女友「さて……」
女友(研究もちょうど終わったようで、元から研究室が持っていたのも合わせて宝玉六つが私たちの手に戻りました)
女友(これで元の世界に戻るまであと二つです)
女友(明日にでも次の目的地に向かうとして……しかし、まだ問題があるとすれば……)
男「失礼する!!」
女友「わっ! 男さん!? ちょっとノックくらいしてくださいよ!」
女友(そのとき突如として部屋の扉が開いて男さんが入ってきました)
女友(私はあわてて起き上がります)
男「あ、すまん……ちょっといてもたってもいられなくて……」
女友「全く私が着替えでもしていたらどうするんですか」
男「ごめんなさい……」
女友「それで何か用ですか、男さん……あ、そういえば宝玉についてですが、ちょっと騒動があってその話も……」
女友(自分の活躍を誰かに自慢したかった私は話を切り出そうとして)
288 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/25(水) 00:24:58.02 ID:grGVkp1N0
男「すまん、話は後で聞く! それより女はいないのか!」
女友「女ですか? ええと……分かりませんね」
女友(男さんの質問に私は周囲の気配を探ります)
女友(事件に立ち向かう私のところを訪れた女は、自分に『不可視(インビジブル)』の魔法をかけてほしいということで、合間の時間で対応しました)
女友(そのため男さんの近くに姿を消しているのだろうと思ったのですが……見当たりませんね)
男「そうか、じゃあどこに行ったのか心当たりはないか?」
女友「すいませんちょっと分からないですけど……しかし、いきなりどうしたんですか?」
女友「そんなに女のことを気にして。あ、もしかして何かヤバいことが起きたとかですか?」
男「いや、個人的な用事なんだが……そうか、いないならいいんだ。他を探してみる」
女友(男さんはぽりぽりと頭をかくと踵を返そうとします)
289 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/25(水) 00:25:25.75 ID:grGVkp1N0
女友「――!」
女友(私のセンサーにビビッと来るものがありました)
女友(女と男さんは魅了スキルにまつわる嘘で対立していたはずです)
女友(それなのに男さんから女のことを探して……いてもたってもいられない様子……個人的な用事……これはもしかして……もしかすると……!)
女友「女はたぶんそろそろここに戻ってくると思います」
男「そうか。なら待っていた方が」
女友「いえ、男さん。察するに女と大事な話をするつもりではありませんか」
男「……本当鋭いな、女友は」
女友(図星だったのか苦笑する男さん)
女友「だったらこの場所はマズいでしょう。女子寮の部屋はあまり防音も良くないですし、話を他の人に聞かれるかも知れません」
男「いや、でもそんな聞き耳立てるような人いるわけ」
女友「ですから人が来ない場所に……そうです、校舎の屋上に場所を移しましょう! ええ、そちらの方がムードがあります!」
男「あー確かに人は来なさそうだが……ムード?」
女友「とにかく男さんは先に行ってください! 女が帰ってきたらそちらに向かうように伝えておきますから!!」
男「え、あ、いや……まあ、はい。じゃあ頼んだ」
女友(男さんは釈然としないながらも私に伝言を託して部屋を去ります)
290 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/25(水) 00:26:05.37 ID:grGVkp1N0
女友「まさかいつの間に……何がきっかけで……しかしチャンスであることには……」
女友(私が事件に挑んでいる間に何かあったのでしょう、見逃したのは残念ですが……)
女友(いえいえ、メインイベントはここからのはずです)
女「ねえ、男君ここに来なかった!?」
女友(しばらくして、女が扉を開けて部屋に戻ってきました)
女友「ええ、来ましたよ」
女「やっぱり! ……あれ、でもいないけど」
女友「ちょうど入れ違いになったみたいですね。男さんも女を探していたようで……」
女友「ですから校舎の屋上で待っておくように言っておきましたよ」
女「屋上ね! 分かった!」
女友(女は事情を尋ねることなく、居場所を聞くとすぐに再び出て行きました)
291 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/25(水) 00:26:37.75 ID:grGVkp1N0
女友「ずいぶんと急いでいましたが……どうやら女にも何か心境の変化があったみたいですね」
女友「となれば、何か起こるのは確定でしょう」
女友(だとしたら私がするべき事は何か)
女友(大事な話をするとしたらそれを覗くのは無粋な行為です)
女友(それくらい私だって分かっています)
女友(事の顛末は終わってから二人に聞くべきです)
女友(だから私はこの部屋で大人しくして………………)
292 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/25(水) 00:27:05.38 ID:grGVkp1N0
女友「……。……。……」
女友「そういえばちょっと散歩したい気分ですねー……」
女友「何か誰にも見られたくない気分ですし、姿を消していきましょうかー……」
女友「『不可視(インビジブル)』!!」
女友(魔法を発動して姿を消します)
女友(散歩の目的地は当然、校舎の屋上です)
女友(……いえ、別に他意はないんですよ。今の時間夕日が沈むところが見られる絶景スポットですし、散歩コースに最適です)
女友(……そこに誰かがいたとしても私には関係ないですしね、はい)
293 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/25(水) 00:28:52.73 ID:grGVkp1N0
続く。
6章、一気に大詰めへと向かっております。
294 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/25(水) 01:17:42.10 ID:NXwAD2hqO
乙です
295 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/09/25(水) 02:16:42.85 ID:bX80Il5Mo
乙ー
296 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/25(水) 18:13:40.17 ID:uuN1zobMO
乙!
297 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/26(木) 23:47:24.82 ID:bd6hQY7n0
乙、ありがとうございます。
投下します。
298 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/26(木) 23:48:30.32 ID:bd6hQY7n0
男「はぁ……はぁ……ここか」
男(校舎の階段を駆け上がって、女友に提案された屋上に俺はやってきていた)
男(いつも開放されているこの場所は昼休みに外でご飯を食べる生徒に人気のスポットだとは聞いたことがある)
男(だが放課後を迎えた今はちょうど誰もいないようだった)
男(設えられたベンチに座り女を待つ)
男「…………」
男(俺はずっと女に騙されたことに傷付いていた)
男(嘘を吐いていたこと、それ自体は絶対的に女が悪いと思う)
男(だが、どうして女が嘘を吐いたのか……女が抱える事情について俺は本気で考えてこなかった)
男(あれだけ人を信じることの素晴らしさを説いてきた女が嘘を吐かないといけなかった事情だ)
男(よっぽどのことに違いない)
男(それでいてどうやらその事情のせいで魅了スキルがかからなかったわけだ)
男(そんな特殊な事情にあてはまるものは何かと考えて……思い当たる物があった)
男(女はもしかして本当は…………だとしたら女友の役割も…………そうだ、そうだとしか考えられない)
男(だとしたら俺が取るべき行動は……)
299 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/26(木) 23:49:21.92 ID:bd6hQY7n0
女「男君!」
男(そのとき上から声がかかった)
男「女か……」
男(見上げるとそこには竜の翼を生やした女がいた)
男(どうやら階段を駆け上がるのではなく、飛んでこの屋上までやってきたらしい)
男(女は次第に降下して俺の目の前に立つ)
男(俺もベンチから立ち上がった)
男(そして)
男「すまなかった!」
女「ごめんなさい!」
男(俺と女は同じタイミングでお互いに謝った)
300 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/26(木) 23:49:58.12 ID:bd6hQY7n0
男「……どうして女が謝るんだ? 悪いことをしたのは俺なのに」
女「男君こそ……悪いのは私なのに」
男「俺は……正直今でも女が嘘を吐いたことは悪いと思っている」
男「でも女は謝ったのに、俺はネチネチと嫌味を言っただろ」
女「私も男君の言葉はグサグサ刺さって辛かったけど……」
女「でも事情も言わずにちゃんと謝ったわけじゃないんだから、それは嫌味も言われて当然だし」
男「……」
女「……」
男「ははっ……何してんだろうな」
女「ふふっ……ほんと、おかしいね」
男(俺たちはどちらからでもなく笑い合っていた。同じようなことを考えていたからだろうか)
301 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/26(木) 23:50:33.40 ID:bd6hQY7n0
男「こんなささいなことなのにいがみ合って……馬鹿だな、俺たち」
女「男君は悪くないよ、悪いのは私だけだって」
男「……だろうな、嘘を吐かれたのは正直マジかって思った」
女「いや、まあそうだけど……え、そこは俺も悪いじゃないの?」
男「ははっ、まあその後の対応は俺が悪かったとも言えるけど…………あ、そうか」
男(梯子を外されて頬を膨らます女の表情を見て、ふいに自分の気持ちをしっかりと自覚した)
男「俺は女にだけは嘘を吐かれたくなかったんだ」
女「……え?」
男(突然の言葉に女はきょとんとした表情になっている)
302 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/26(木) 23:51:08.57 ID:bd6hQY7n0
男「いや、この言い方だと女友に悪いか?」
男「……でも女友のやつを信じてないってわけじゃないんだが、飄々とした言動で掴めないところがあるし……」
女「今は女友のことなんてどうでもいいから!」
男「それは酷くないか?」
女「ど、どうして……私にだけは嘘を吐かれたくないって思ったの?」
男(顔を真っ赤にして問いただす女)
男「それは……こう今まで一緒に旅して来たことを通じて……女のことなら信じられると思って……」
女「うん、それで?」
男(言いながら『あれ、これめっちゃ小っ恥ずかしいこと言ってね?』となりどもる俺だが、女は先を促す)
男(仕方ないのでそっぽを向きながら続ける)
303 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/26(木) 23:51:35.54 ID:bd6hQY7n0
男「だから嘘を吐かれたときに余計に傷ついたというか……」
男「いや、まあ今まで散々『俺は誰も信じない』とか言ってた癖に、都合が良いなってのは分かってんだよ」
男「でも……それが俺の本心で……」
女「私は嬉しいよ」
男(両手に暖かいものが触れる)
男(視線を正面に戻すと、女が俺の両手を握っていた)
304 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/26(木) 23:52:08.01 ID:bd6hQY7n0
男「女……」
女「ねえ、男君。私が抱えている事情ってやつ……教えようか?」
男「……いきなりどうした? それは隠しておきたかったことじゃないのか?」
女「そうだったけど……いや違うか。私はその事情を話したい」
女「信じてくれた男君に応えるためにも、嘘偽り無く私を明かすのが当然で……いや、それも違くて」
男「……」
女「私はもう我慢出来ないの。この気持ちを伝えたい……!」
男(女の訴えに俺は)
305 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/26(木) 23:53:03.77 ID:bd6hQY7n0
男「いや、正直なところ女の事情には当たりがついているんだ」
女「え……?」
男(女が来るまでに考えた通り、俺は気づいている)
男「人に言うことが出来なくて、俺の魅了スキルもかからなかったなんて事情……」
男「考えてみれば一つくらいしかないもんな」
女「そ、それって……い、いつから気づいて……!」
男「気づいたのは正直さっきのことなんだ」
男「……いや、そのすまんな。こんなに長く一緒にいたのに今まで気づいてやることが出来なくて」
女「いや、その……え、じゃあ私の気持ちがバレて……!?」
男「? 気持ち、ってのは分からないけど……まあ言い出しにくいことだよな」
男「でも俺も分かったから……これからは偽らなくてもいいから」
女「男君……」
男(顔を真っ赤にする女に俺は…………女が言い出せなくて、魅了スキルにかからなかったその事情を指摘する)
306 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/26(木) 23:53:36.45 ID:bd6hQY7n0
男「女……おまえ本当は男性なんだろ?」
女「………………………………………………は?」
307 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/26(木) 23:55:01.63 ID:bd6hQY7n0
続く。
308 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/27(金) 00:38:53.01 ID:X4DIyQa9O
乙!
此は酷いww
309 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/27(金) 00:42:07.37 ID:lxurISeyO
うんうん………うん?
310 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/27(金) 01:17:21.11 ID:C8Zv3ti90
乙ー
女さんこれは切れていいwwww
311 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/27(金) 05:54:07.76 ID:VR+zk/9T0
乙
これは死んだな…
312 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/09/28(土) 07:46:17.46 ID:cm4qxG5PO
乙ー
313 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/29(日) 01:19:18.04 ID:WeyWxSMP0
乙、ありがとうございます。
狙ったところで狙った反響が来てとても嬉しいです。
創作モチベが上がりました。
投下していきます。
314 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/29(日) 01:20:10.85 ID:WeyWxSMP0
男『女……おまえ本当は男性なんだろ?』
女(男君のその言葉を、私の脳は完全に理解を拒んでいた)
女(オマエホントウハダンセイナンダロ……って、どういう意味だっけ?)
男「大丈夫、大丈夫。全部分かってるから」
女(思考停止した私に対して、男君は理解者面をしている)
男「魅了スキルの効果対象は『魅力的な異性』だ」
男「俺が魅力的だと思う人でも同姓ならかからないのは、観光の町のバーテンダーで明らかになったことだ」
女(バーテンダー……? あー、そういえばあの女装していた……)
315 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/29(日) 01:20:41.93 ID:WeyWxSMP0
女「えっと、つまり私も女装している男性だと思われているわけ?」
男「その通りなんだろ?」
女(したり顔の男君)
女(いや私は正真正銘、本物の女性なんだけど……)
女「これが男性の顔に見えるの?」
女(自分の顔を指さしながら聞く)
男「ああ、中性的な美少年なんだろ?」
女(好きな人から容姿を褒められているのにちっとも嬉しくない)
316 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/29(日) 01:21:35.99 ID:WeyWxSMP0
女(どうすればいいのか全く思いつかないでいると、男君は解説を始めた)
男「本当のところ女は大富豪の生まれなんだろ?」
男「それで家の古めかしいしきたりのせいで男性なのに女性のフリして生活しないといけなかった」
男「そういう設定の物語は何作品も読んだことがある」
女(普通の家の生まれなんですが)
女(というか私詳しくないんだけど、そんな特殊な設定の物語が何作品もあるものなの?)
男「とはいえ、男性が女性のフリをしたところでそんなに上手く行くのかという疑問が浮かぶだろう」
男「トイレだったり、体育の着替えの時間だったりで普通ならすぐに状況は破綻するはず」
男「だが協力者がいればその可能性は減らせる」
男「そう、女友だけは女が男性だってことを知っていたんだ」
男「女友のやつ女の事情を元から知っているって言ってたしな、うんうん」
女(勝手に協力者にされ話に巻き込まれる女友)
317 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/29(日) 01:22:17.75 ID:WeyWxSMP0
男「女友の家系は代々女の家系に仕えているんだろ?」
男「女と女友、お嬢様と近侍の関係でありながら、妹と姉のような関係で育ってきた二人」
男「女友は女の学校生活をサポートするために同じ学校に入学したんだ」
女(女友が姉なんだ……まあ私が姉って柄じゃないけど)
男「ん? そういえば女友の家は大富豪だって聞いたことあるな」
男「……そうか、誘拐対策に対外的には女友と女の立場を入れ替えているのか」
男「なるほど計算されている」
女(男君の計算が怖い)
男「しかし、そんな折りに俺たちは異世界へと召喚されて俺が魅了スキルを暴発させてしまった」
男「男性である女には魅了スキルがかからなかったが、そのことを明かしてしまうと今まで男性として生活してきたことがクラスメイトにバレて大問題になってしまう」
女(いや、みんなは普通に私が男君に好意を持っているんだ、って考えると思うけど)
男「だから女は男性であることを隠すため、魅了スキルにかかったフリをするしかなかったってことだ」
女(ドヤ顔で解説を締めくくる男君)
女(全く間違っているのに妙に筋が通っていて自信満々に言い切られると信じてしまいそうになる)
318 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/29(日) 01:22:49.75 ID:WeyWxSMP0
男「だからこれからは男同士……ははっ、改めて口にすると恥ずかしいけど、親友としてよろしく頼むな」
女(男君は右手を私に差し出す)
女「………………」
女(男君の誤解は私にとって都合の良いことなんだと思う)
女(これに乗っかれば今までのような生活を続けることが出来る)
女(魅了スキルにかかっているせいだからとしていたところを、私は男性だからと置き換えればいい)
女(男性だから仲良くしようよだとか、男性だからこれくらいのスキンシップ普通でしょだとか)
女(もちろん男君には嘘を吐いてしまっているけど、それにまた気づかれるまでは同じように過ごすことが出来る)
319 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/29(日) 01:23:36.66 ID:WeyWxSMP0
女(対して否定したらどうなるか)
女(当然のことながらどうして魅了スキルがかからなかったのかという疑問が再燃するだろう)
女(そうしたら男君も私が元から好きだったのだと気づくはず。……流石に、うん、きっと)
女(つまり告白したも同然で……今までの関係では絶対にいられない)
女(もしOKされれば晴れて恋人同士だ。今までよりも深い関係を男君と築けるようになる)
女(男君とは異世界に召喚された当初よりは心が通じ合っていると思う)
女(そう考えるとOKされる可能性は高いと考えたいが……しかしそれが恋愛的なものなのかと聞かれるとよく分からない)
女(男君が持っている感情が親愛だったり、冒険の相棒的なものでしかなかったとしたら致命的だ)
女(告白が断られる上に、男君は恋愛にトラウマを患っている)
女(好意を持つ私が得体の知れない何かのように見えてきて距離を取って接するようになるだろう)
女(そんな賭けに出るくらいなら……ここは安全に……)
320 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/29(日) 01:24:05.13 ID:WeyWxSMP0
傭兵『だったら少女も後悔しないように』
女「………………」
女(伝説の傭兵のアドバイスが思い起こされる)
女(後悔ならこの数日間の内に数え切れないほどしてきた)
女(どこかで男君に本当のことを打ち明けられなかったのか、このまま仲違いしたまま終わるなんて嫌だ、と)
女(男君の手を握れば、いつかまた同じ後悔をすることになるだろう)
女(いや、それだけじゃない)
女(男性として親友として一緒にいるなら、男君が誰かと恋人になったとしても私は文句を言うことも出来ない)
女(独裁都市の姫様は未遂だったけど、今後もそんなことが起きないとは限らないのだ)
女(だからといって動けば絶対に後悔しないとも限らない)
女(告白を断られて気まずくなって……決断した私に後悔するかもしれない)
女(それでも……同じ後悔はしないで済む)
321 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/29(日) 01:24:41.11 ID:WeyWxSMP0
女(どっちにしろ後悔するかもしれないなら……より積極的な方に、前向きな方に)
女(それが私の考え方だ)
女(だから……私は今の感情に素直になって)
女「ねえ、男君」
男「おう、女」
322 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/29(日) 01:25:12.51 ID:WeyWxSMP0
女「歯を食いしばってくれない?」
男「………………え?」
女「ふんっ!!」
男「痛っ!!?」
女(男君の頭にゲンコツを落とした)
女(竜闘士の全力で殴ったらヤバいのでかなり手加減して、それでも痛みを感じるくらいには力を入れて)
女「ふぅ……スッキリした」
男「いきなり何するんだよ、女!?」
女(男君が頭を押さえながらこっちを睨む)
女(目尻にすこし涙が浮かんでいるところを見ると、よっぽど痛かったようだ)
323 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/29(日) 01:26:30.51 ID:WeyWxSMP0
女「何したのかって……分からないの?」
男「分かんねーよ!? どうして差し出した手の返しにゲンコツを落とされるんだよ!?」
女「私、怒ってるんだよ」
男「怒るって…………俺に?」
女(男君は自分を指さす)
女「当然! だってこんな美少女に対して『本当は男性なんだろ』なんて侮辱言われたんだよ!?」
女「酷いと思わない!? 私はどこからどう見ても女性に決まっているじゃない!」
女「どうして男性だって思うのよ! 何が悪いの……胸なの、胸なの!?」
女「男性にも間違えられるくらいの胸の大きさだって言いたいの!?」
女(溜まった鬱憤が爆発して噴き出す)
324 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/29(日) 01:27:08.73 ID:WeyWxSMP0
男「え、えっと……でも、だったらどうして魅了スキルは……」
女(男君はすっかり私に怯えながらも気になることを聞いてくる)
女(ずっと前から夢描いていたものとは全く違った)
女(一方がキレていて、片方が怯えていて)
女(女性に言わせるのもマイナス)
女(勢いで口走ったような感じになるだろうこともマイナスだ)
女(女友が誘導してくれたこの場所、沈みゆく夕日の背景が本当最低限のムードを保ってくれているくらいだ)
女(それでも臆病者の私がこの機会を失ったら永遠に口に出来ないだろうことは想像が付いたから)
女(だから私はその想いを伝える)
325 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/29(日) 01:27:37.73 ID:WeyWxSMP0
女「ずっと……ずっと前から男君のことが好きだったの!!」
326 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/29(日) 01:28:09.00 ID:WeyWxSMP0
続く。
327 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/09/29(日) 09:46:01.45 ID:3j1/TdNxo
乙ー
328 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/29(日) 09:58:31.40 ID:dfGenh7q0
乙!此も酷いwwww
329 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/29(日) 12:17:45.60 ID:bKwtcmXq0
乙ー
男はもちろんだが、男性説受け入れることもちょっと検討しちゃう女さんもなかなか酷いwwww
330 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/10/02(水) 23:56:10.99 ID:Epl7oFYc0
乙、ありがとうございます。
>>329
か、考えるだけならタダですし……
投下します。
331 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/10/02(水) 23:56:50.26 ID:Epl7oFYc0
女『ずっと……ずっと昔から男君のことが好きだったの!!』
男(好き)
男(好意を伝えるその言葉はこの異世界に来てから魅了スキルにかかっている女の口から何度も聞いたことがあった)
男(今やその嘘は暴かれたというのに……また聞くことになるとは)
男(正直に言って、一番最初に浮かんだ感情は困惑だった)
男(だから)
男「すまん、女。俺ちょっと状況が分かっていなくて……整理させてくれないか」
女「うん、いいよ。何だかんだ唐突だったことは自覚しているし」
男(女は微笑を浮かべながら頷く。先ほどまでの怒気は霧散しているようだ)
332 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/10/02(水) 23:57:19.68 ID:Epl7oFYc0
男「まず……俺のことを好きって、魅了スキルにかかったフリを続けようとしている……わけではないんだよな?」
女「もちろん。これはスキルに操られていない私の純粋な気持ち」
男「ずっと昔、異世界に来る前から俺のことを好きだったから……」
男「だから魅了スキルの『元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない』に触れてかからなかった……ってことだよな?」
女「そういうこと」
男(女は優しく肯定する)
男(気持ちを打ち明けられて、俺もそこまではすぐに察することは出来た)
男(ここまではほとんど確認作業で……しかし、その先が本当に分からない)
333 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/10/02(水) 23:57:52.73 ID:Epl7oFYc0
男「でも……俺は女と異世界に来てからしか関わってこなかったはずだ」
男「学校にいる間はそれこそ一言もしゃべらなかったはず」
男「それなのに俺を好きだなんて……おかしいだろ?」
女「違うよ」
男「え?」
女「私と男君は一度だけ話したことがあるんだよ」
男「……本当か?」
男(記憶を遡ってみてもまるで覚えがない)
334 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/10/02(水) 23:58:28.45 ID:Epl7oFYc0
女「あれは一年くらい前のことだったかな」
女「あのころの私は誰からも好かれようと必死だった」
女「……いや、誰かから嫌われることに怯えていたんだと思う」
男(嫌われることに怯える……人間関係を気にしなかった俺とは真逆で、普通にありふれた思い)
女「とにかく八方美人で会う人に合わせて仮面を付け替えて……ついさっきと全く反対の考えを言っていることもよくあることだった」
女「でも当然のことだけど、そんな一貫性の無い人は嫌われやすくて……私何しているんだろうな、って悩んでばかりだった」
男(今でこそ学級委員長を務めて教室の人気者の女だが、昔はそうではなかったらしい)
女「そんなときのこと、私はしょぼくれながら教室を歩いていて、ちょうど男君の席の前を通りかかった」
女「男君は本を読んでいて全くこっちに注意を払っていない様子だった」
女「私もそのころは……失礼かもしれないけど男君のことは全然眼中になかった」
女「……いや、ちょっと違うかな。いつも独りでいる男君の姿にこうはなりたくないって思っていた」
男(女は申し訳なさそうに言うが、別に普通の感情だと思う)
男(孤独が一般的に避けたいことなのは俺にだって分かっている)
335 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/10/02(水) 23:59:12.96 ID:Epl7oFYc0
女「だから特に気にも留めることなく通り過ぎて……後ろからボソッと『そんなに人間関係に苦労して馬鹿みたいだな』って聞こえて」
女「慌てて振り向くと男君はちょうど本に目を落とすところで……直前まで私のことを見ていたことから幻聴じゃないことは分かった」
男(女が状況を具体的に教えてくれるが……それでも俺には覚えがなかった)
男(いや、ありすぎたと言うべきだろう)
男(嫌味や皮肉を本人に聞かれないようにつぶやく……周囲の人間を馬鹿ばかりだと思いこんでた俺はそんな馬鹿なことをよくやっていた)
男(その内の一つ、女に対してのものが聞こえてしまっていたのだろう)
336 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/10/02(水) 23:59:41.98 ID:Epl7oFYc0
女「最初はそんなこと言われてイラッとした。私の努力も知らない癖に何言ってるんだって」
女「……でもその一方で私の心の中にストンと落ちるものもあって」
女「そんな言葉を言ったのがどんな人なのか知りたくなって、それからしばらく男君のことを目で追っていた」
女「見ている内に男君は独りぼっちかもしれないけど、どんなときも自分を貫いて生きていることに気づいた」
女「どんなに周囲に人がいても、自分の定義が迷子になっている私とは反対で……私もそんな風になれたらいいなって思うようになった」
女「そうして自分を貫くように生活するようになって……もちろんケンカする事になった人もいた。離れていく人もいたけど、それ以上に私の周囲に人は増えた」
男(これまでの旅を通じて、俺は女によって自分を変えられた)
男(だが、それよりも前に女は俺によって変わっていたようだ)
337 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/10/03(木) 00:00:18.64 ID:nvoI9WT40
女「今の私があるのは……全部、全部男君のおかげ」
女「私に大事なことを教えてくれた……そんな男君のことが好きなの」
男(女の告白が終わる)
男「すまん、それだけ聞いてもそのときのことしっかり思い出せねえ」
女「いいよ。別にそれはただのきっかけでしかないし」
女「今の私はそれ以外にもたくさん男君の好きなところを持っているから」
男「…………」
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