男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/15(月) 18:38:28.62 ID:QwdUaM9PO
乙ー
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 19:29:27.03 ID:lWQS7Jq00
乙ー
ネガティブな男さんが帰ってきたな!
次の章に期待
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/22(月) 20:37:19.63 ID:haO8NIQz0

ついに、魅了スキルにかかっていないことがバレてしまうのか!
141 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:53:40.00 ID:hzAdYJe00
乙、ありがとうございます。
8月になったので6章開始します。

>>137 期待に応えられるよう頑張ります。

>>139 ここ最近ポジティブでしたからね。

>>140 どうなるか!

章の開始でしばらくはスローペースで進むことを先に謝っておきます。
というわけで投下します。
142 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:54:40.17 ID:hzAdYJe00



 犯罪結社『組織』本部、幹部に与えられた一室にその二人はいた。

 魅了スキルを追い求めるイケメンとその彼女であるギャルだ。

 この異世界に留まり好き勝手する事を目的とする駐留派の中核メンバーである。



ギャル「この前の任務どうだったの、イケメン」

イケメン「……ああ、散々だったよ」



 ギャルが恭しく聞くと、イケメンはソファに寝転がったまま「はぁ」と溜め息を吐いた。



ギャル「苦労したってのは聞いてるけど」

イケメン「僕たちは今、魅了スキルによって掌握した仲間を持つ男たち帰還派と宝玉を奪い合っているというのは知っているだろう?」

ギャル「うん、それくらいは」

イケメン「ただ敵はそれだけじゃない。魔神復活のために動く魔族と伝説の傭兵のコンビ、復活派。彼らとかちあったのさ」

ギャル「っ……!」

143 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:55:23.39 ID:hzAdYJe00



イケメン「全く、竜闘士を圧倒するために悪魔を呼び出そうと宝玉を集めているのに」

イケメン「その過程で竜闘士と争っていたんじゃ意味が分からないね」



ギャル「そ、それでどうなったの!?」

イケメン「もちろん敵うわけないだろう。目的としていた宝玉は復活派に奪われた。骨折り損のくたびれ儲けさ」



ギャル「復活派は……報告によると今まで宝玉を二つ集めていた。ってことはこれで三つ目よね」

イケメン「ああ、対して駐留派は僕もギャルも奪取に失敗したけど、もう一つ別働隊が手に入れたおかげで、どうにか四つ目だ」

ギャル「そして帰還派が持っている宝玉は五個……必要量が一番少ないのもあってこのままだとマズいよね」

144 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:55:57.36 ID:hzAdYJe00

 二人が話している通り、現在それぞれの勢力が持つ宝玉の数は、帰還派が五個、駐留派が四個、復活派が三個だ。



 そして宝玉は数が集まるほどにその力を増す。



 二つならランダムな世界に通じるゲートが、

 四つである程度指定してゲートを、

 六つで完全に指定できるが強度の低いゲートが開けて、

 八つでその強度が上がり、

 十で高位存在も召喚することが出来て、

 十二で神さえも呼ぶことが出来る。



145 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:56:47.16 ID:hzAdYJe00



イケメン「帰還派の必要数は僕らクラスメイトを全員帰還させることだから8個」

イケメン「対して悪魔を呼び出したい僕たちが10」

イケメン「魔神を呼び出したい復活派は12のはず」



ギャル「そうなるとそれぞれ集めないといけない残りは3個、6個、9個……」

ギャル「復活派が一番遠いけど、だからってギャルたちが近いわけでも無いか」

イケメン「『組織』の力も借りて各地でどうにか集めているけど……目標達成は遠そうだな」



 イケメンは思考する。

 このまま順当に行けば、帰還派が一番最初に宝玉を必要数まで集めて、元の世界に戻る準備を整えるだろう。

 そうなれば魅了スキルによって、自身がこれまであった女の中で一番だと確信する女を支配する機会は永遠に失われる。

 だったらどうすればいいか。

 逆転するための一手は――。

146 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:57:19.48 ID:hzAdYJe00



イケメン「これしかないか」

ギャル「イケメン……?」



イケメン「そうと決まれば行動だな。ギャル、僕は行くよ」

ギャル「行くって……ど、どこになの!?」



イケメン「偵察隊によると、どうやら今度はやつらがかち合うようだからね。ちょっとそこに行ってくるよ」



イケメン「そう――――」



147 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:57:50.11 ID:hzAdYJe00



魔族「――以上が今回の段取りだ」

傭兵「承知した」



 某所にて。

 魔族の語った今回の計画について、伝説の傭兵は頷く。



魔族「変更があればその都度連絡する。何も無い間は自分の判断で動け」

傭兵「分かっている……ただ今回は予測不可能なところが多そうだな」

魔族「ああ……やつらも来るんだったな」



 魔族が思い浮かべるのは、あの忌々しい女神の力、魅了スキルを引き継いだガキの顔。

 女神教の力も削ぎ、ようやく魔神様復活のために動き出した自分たちを妨害する女神の悪足掻き。

 だが宝玉の多くをやつら召喚者に抑えられている現状を考えるとその策は成功している。



148 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:58:19.84 ID:hzAdYJe00



傭兵「この前はあの少年少女とは袂を分かったらしい『影使い』の少年と争ったが……」

傭兵「彼は見事に力に溺れていたな。昔を思い出した」



魔族「昔というと……私と出会う前のことか」

傭兵「ああ。力さえあればどうにでもなると、何をしてもいいと……腹正しい」

魔族「私としてはそちらの方が御しやすいがな」



傭兵「……まあいい。私情を挟むつもりはない。好きに命令しろ」

魔族「それはありがたい」



149 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:58:54.02 ID:hzAdYJe00



 魔族には余裕があった。

 固有スキル『変身』、絶対にバレない隠蔽スキルを使って各所に潜入できる彼女は様々な情報を持っており、当然それぞれの勢力が持つ宝玉の数も把握していた。



 復活派と呼ばれる自分たちが集めた宝玉の数で出遅れていることは分かっている。

 それでも他の二勢力が誤解していることから、最後に勝つのは自分たちだと信じていた。



傭兵「さて、ここからは別行動だな。武運を祈るぞ」

魔族「ああ、任せろ」



 そして二人が進む、その地は――。



150 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:59:31.85 ID:hzAdYJe00





女「いやー、長旅だったね!」

女友「ほら、男さん、着きましたよ」

男「……そうか」





 女と女友の後を付いてくように男も馬車を降りる。

 三人が次に求める宝玉があるその地にたどり着いたのだ。



151 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:59:58.50 ID:hzAdYJe00





女友「学術都市……ここに次の宝玉があるんですね」





152 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 20:00:52.44 ID:hzAdYJe00
続く。

6章『学術都市』編もよろしくお願いします。

153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/08/01(木) 23:46:59.46 ID:dLAEpBxvo
乙ー
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/02(金) 00:32:37.46 ID:E2LtBDlCO
乙!
新章待ってました!!
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/03(土) 00:32:32.98 ID:Az/0t9/p0
乙一
156 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:40:33.44 ID:PrwhD2pU0
乙、ありがとうございます。

投下します。
157 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:41:12.89 ID:PrwhD2pU0

女友(私たちが今回訪れたのは学術都市なる場所です)



女友(この世界における魔法学の権威とも言える大学がここには存在します)

女友(附属として初等部から、中等部、高等部もこの都市にあり、一貫した教育がそのレベルの高さを生むようです)

女友(町造りも学園を中心として成り立っています)



女友(私たちは古参商会の紹介で、その内の一つの研究室を訪れていました)



室長「これがこの町にあった宝玉だ」

室長「女神教の教会を取り壊す際に、作業員が回収したものがこの研究室にまで回ってきたもので」

女友「拝見します」



女友(室長が差し出した青い宝石を私は手に取って見つめます)

女友(中に魔法陣が刻まれた、私たちにとって馴染みが深い宝玉そのものです)

158 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:41:41.73 ID:PrwhD2pU0



室長「それで君たちも宝玉を持っているって話を聞いたんだけど……」

女友「はい、女出してもらえますか?」

女「あ、うん。ちょっと待ってね」



女友(代表して管理している女がこれまでに手に入れた宝玉五個を取り出して室長に渡します)



室長「おおっ、宝玉が五個も!? 最初は三個だと話は窺っていたのですが……」

女友「それから新たに二つ手に入れた分ですね」

室長「なるほど、そういうことですか」



女友(古参商会は随分前からアポを取っていたようで、私たちが独裁都市で手に入れた分と仲間のパーティーが手に入れた分の二つは勘定に入ってなかったようです)

女友(仲間が手に入れた分はここにたどり着く前に、古参商会を伝って私たちに届けられたため、帰還派がこれまでに手に入れた宝玉は全てがここにあります)

159 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:42:15.77 ID:PrwhD2pU0



室長「宝玉を一箇所に集めると…………やっぱり!! 中の魔法陣の輝きが増して……!」

室長「この仕組みを解明すれば新たな魔法理論の構築も可能に…………」

室長「うおおおっ! テンション上がって来たぁぁぁっ!!」



女友(室長が吠えるように叫びます)



女友「申し訳ありません、話をしてもいいですか?」

女友(このままでは進まないので私は水を差します)



室長「……あ、すいません。研究者として未知を既知に出来る機会につい……」

女友「お気になさらず」



女友「では確認です。私たちの持つ宝玉五つを研究のため貸し出します」

女友「そして研究が終われば、元からあなたたちが持っていた一つも含めて六つを返してもらうと……」

女友「この条件で構わないでしょうか?」



室長「ああ、もちろんさ!」



女友(室長が勢いよく頷いて、これでこの町の宝玉を手に入れる算段が付きました)

女友(宝玉を貸し出して待つだけ。これまで苦労してきたことを考えると何とも簡単なものです)

160 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:42:55.78 ID:PrwhD2pU0

室長「ただ、ちょっと研究に時間がかかりそうだけど……」

女友「どれくらいでしょうか?」

室長「そうだねえ…………かっ飛ばして不眠不休で研究して…………二週間くらいは見積もってもらえると」



女友「分かりました。では一ヶ月待ちます」

室長「え……? いいのかい?」



女友「大丈夫です」

室長「……恩に着るよ!! おおっ、君は女神だ!!」



女友(室長に過剰に感謝されます)



女友(もちろん本音としては急かしたいところです)

女友(誰かが奪いに来る可能性を警戒するために、私たちは宝玉を預けている間もこの地に留まる予定です)

女友(その間に駐留派と復活派が各地で宝玉集めを進めていくでしょう)

女友(それを考えると足踏みしている余裕はありません)



女友(しかし、急いては事を仕損じるです)

女友(ここまでハイペースで宝玉を集めてきた私たちには、一旦休憩が必要だと独自に判断しました)

女友(というのも)

161 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:43:28.99 ID:PrwhD2pU0



女友「二人もそれでいいですね?」



女友(同行者の二人、女と男さんに確認を取ると)



女「私は構わないよ。ね、男君」

男「…………」



女「男君、聞いてる?」

男「え、あ、すまん……何の話だ?」



女「だから宝玉の研究に一ヶ月かかるって話。その間私たちもこの地を離れられないけどいいかな、って女友が」

男「…………うん、まあいいんじゃないか」

女「そう……」



男「…………」

女「…………」



162 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:44:00.73 ID:PrwhD2pU0



女友(ぎくしゃくしたやり取りをする二人)



女友(少し前……正確には独裁都市を出発した日、それも私と女と姫姫が談笑しているところに独房から帰ってきたときから、男さんの様子がおかしくなっていました)



女友(軟禁状態のピンチから女が救ったことで、二人の仲も急接近したと傍目には見えていたのですが……一体何があったのか)



女友(親友、女は既に問いつめて特に何もしていないと言質は取ったので、問題はおそらく男さんにあると踏んではいますが……)



女友(ちょうどいいのでこの一ヶ月の間にどうにか解決したいところです)



163 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:44:28.77 ID:PrwhD2pU0



室長「しかし一ヶ月の間ただ待たせるのも悪いよな……あ、そうだ!」



女友(そのとき室長が何か思いついたようにポンと手を打ちます)



女友「どうしましたか?」



室長「君たち、魔法額に興味は無いかい!?」

室長「もし良ければだけど、学園に一ヶ月の間体験入学出来るように取り計らってみるよ!!」



164 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:45:43.02 ID:PrwhD2pU0
×魔法額 → 〇魔法学
ミス申し訳ありませぬ。

続きます。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/03(土) 23:47:49.12 ID:aEURjwQZ0
乙!
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/03(土) 23:53:34.30 ID:I8Gh1H480
乙ー
敵にさらわれて救出されたと思ったら新事実発覚で拗らせてたものぶり返しちゃうとは
ホント男さんのヒロインっぷりは半端ねーぜ
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/08/04(日) 11:34:56.38 ID:SuK1KcE8o
乙ー
168 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:05:44.22 ID:jCtuVPPF0
乙、ありがとうございます。

>>166 ヒロイン力限界突破!!

投下します。
169 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:06:11.00 ID:jCtuVPPF0

先生「昨日は魔法の基本を学びましたね。覚えているかなー?」

生徒「はーい、先生! 空気中の魔素を取り入れて自分の身体の内で魔力に変換することです!」

先生「そう、その通りよ! じゃあ今日はその先をやっていきましょうね!」

生徒「はーい!」



男(学術都市、初等部の教室。)

男(先生の呼びかけに応える元気な子供という光景は世界が変わっても存在するのかと)



男「…………」

男(同じく初等部の生徒として体験入学した俺は現実逃避するように考えていた)



男(周りに5、6歳の子供しかいない中に混じるのはやっぱりキツいとはいえ)

男(魅了スキルしか持たない俺が魔法の教育を受けるとなると、レベルとしては初等部と一緒になるので仕方ないことであった)

170 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:06:45.09 ID:jCtuVPPF0

男(俺たちが学術都市にたどり着いたのは先日のこと)

男(俺たちが持つ宝玉を貸し出す代わりに、持っていた宝玉を譲ってもらう)

男(交渉が成立した後、研究室長の体験入学をしないかという提案に俺たちはせっかくだしということで乗ることにした)



男(この学園には初等部から大学まである)

男(体験入学するにしてもどこに入った方がいいのかを計るために、俺たちは事務局でステータスを開示した)



事務員「魔導士ですか! これは……凄まじいですね!」

女友「ありがとうございます」



男(事務員は女友のステータスを見て興奮していた)

男(どうやら女友ほどの魔法の使い手はこの学術都市にもいないらしい)

男(女友は大学で専門的な教育を一通り受けた後、宝玉の研究について手伝うことに決まった)

男(『これで一ヶ月より早く研究が終わるかもしれないですね』と女友が言っていた)

171 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:07:16.28 ID:jCtuVPPF0

事務員「そちらの少女は竜闘士ですか……自前のスキルもあるでしょうし、魔法が使えても仕方ないとは思いますけど……」

女「そうですね……あ、でも敵が使ってくる魔法の種類とかよく分かってないし、そういうのを学べたらいいんですか」

事務員「となると実戦魔法コースですね」



男(女もとんとん拍子に決まって)



事務員「そちらの少年は魔法に関して…………えっと初等部で基本から教わるというのがオススメになってしまいますが……」

男「可能ならばそれでお願いします」



男(随分と言葉を選んだ事務員に、俺は一も二もなく頭を下げた)

男(元の世界では高校生だった俺が小学生扱いされてるわけだが、実際魔法についてはずぶの素人だ。当然の扱いだろう)



女友「初等部とは……大丈夫ですか、男さん? 周りが小学生くらいの子供ばかりってことなんですよ?」

男「逆に初等部に俺なんかを混ぜてもらえる方がありがたいことだ」



男(と、心配する女友に対して強がって見せたことを早くも後悔することになるとは思ってもいなかった)

172 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:07:46.17 ID:jCtuVPPF0

男(先生による魔力から魔法に変換する説明も終わり実践練習の時間となった)

男(異世界人である俺でもちゃんと練習すれば魔法が使えるようになるらしい)

男(その言葉に心躍っていた俺だが……実際には魔法発動の第一プロセス、空気中の魔素を取り入れるというところから俺は躓いていた)

男(だいたい魔素って何だよ、本当にそんなもの存在するのか?)



生徒「出来た!」

先生「あら、すごいわねー!」



男(しかし子供たちの中から成功させる者が出てきて、俺の言い訳もつぶされた)

男(大人しく試行を繰り返す)



男「…………」

男(正直に言って、俺が魔法を使えるようになったところで何かが変わるとも思っていない)

男(今練習している初級魔法『火球』はその名前の通り小さな火の玉を一つ飛ばして相手にぶつける魔法だ)

男(しかし衝撃波を飛ばしたり氷塊の雨を降らせる仲間たちがいるのにそんなことが出来て何になるというのか)



男(分かっているのに俺がこんなところにいる理由……それは悩み事から気を紛らわせるためという側面が大きいだろう)

173 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:08:25.76 ID:jCtuVPPF0

男(独裁都市での一連の出来事により、女への心証が変わってきた矢先の出来事)

男(王国のスパイ、聖騎士の近衛兵長が、状態異常耐性スキルを持っていると明かしたのだ)

男(それによって虜状態になることを防げると思っていたが、実際には魅了スキルの支配下において王国に対して逆スパイとして潜入させている)



男(そうなると同じく状態異常耐性スキルのおかげで魅了スキルが中途半端にかかっているという女の発言がおかしくなる)



男(……おそらく女が嘘を吐いて、俺を騙しているに違いない)

男(その発想に至った瞬間、俺の精神がズンと沈むのを感じられた)

男(思っていた以上にダメージは大きかった)



男(すぐにでも女を問い詰めようと思ったが、すんでのところで思い留まる)

男(というのも気付いたからだ。どう考えても辻褄が合わないことに)

174 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:08:51.91 ID:jCtuVPPF0

男(状況を整理しよう)

男(まず近衛兵長の発言により、女に中途半端に魅了スキルがかかっていることが否定される)



男(となると女の本当の状態として考えられる可能性は二つ)

男(魅了スキルが完璧にかかっているか、完璧にかかっていないかだ)



男(どちらであるかを考えて、俺はすぐに後者だと判断した)

男(これまでに何度も女は命令を無視した実績があるからだ)

男(魅了スキルにかかっていてはそんなこと出来るはずがない)



男(ここまでは理詰めで考えられる。だがここからが分からない)

男(というのも女は現状、俺の魅了スキルにかかっていると言っているからだ)

175 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:09:18.39 ID:jCtuVPPF0

男(その嘘を吐く意味が理解出来ない)

男(魅了スキルにかかっているフリをしても、俺に好意を持っているように見せたり俺の命令に無駄に従ったりしないといけないだけだ。何ら得がない)



男(逆だったら分かる。本当は魅了スキルにかかっているのに、俺に命令されたくないためにかかっていないと嘘を吐くのなら)



男(そんな非合理的な嘘を吐いたのには……何らかの事情があるのだと)

男(決して俺を悪意で持って騙そうとしているのではないのだと……そう思ったから、未だに行動を共にしている)



男(相手が女でなければ嘘を吐かれたということだけで失望し、後先考えずに縁を切って独りになっていたかもしれない)

176 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:09:44.39 ID:jCtuVPPF0



男「…………」



男(とはいえすぐに今まで通り接することは難しい)

男(昨日も女とのやり取りがぎくしゃくしたことは自覚している)



男(幸いにも学術都市にいる間はこれまでよりも女とは顔を合わせずに済む)

男(日中は違うコースだし、夜も今までは節約のため同じ宿の部屋に泊まることが多かったが、今回は先方の厚意で女子寮の一室と男子寮の一室が割り当てられたため違う部屋に寝泊まりしているからだ)



男(女が抱える事情とは何なのか、今後どうするべきか、俺はどうしたいのか?)



男(一人でゆっくり考える時間が持てるのはありがたかった)

177 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:10:12.13 ID:jCtuVPPF0
続く。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/06(火) 04:17:27.90 ID:LIjnSeyMO
乙!
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/08/06(火) 08:21:51.44 ID:e/MMIP23O
乙ー
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/06(火) 19:32:48.46 ID:O4SzFtPm0
181 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:35:58.78 ID:x/JedQkZ0
乙、ありがとうございます。

投下します。
182 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:36:50.54 ID:x/JedQkZ0

女友「本当の、本当に心当たりはないんですね?」

女「もう、だから何回も言ってるでしょ。私だって訳が分からないのに」



女(学術都市女子寮の二人用の部屋にて)

女(私は、ここ数日何度も同じ質問をする女友に辟易していた)



女友「男さんも地雷が多いですから知らずに踏んでしまったとか」

女「……それも無いと思う。女友の方こそ、男君に何かしたとか無いよね?」

女友「私も心当たりありませんよ」



女(女友は力なく首を振る)

女(話題はここ最近の男君の様子についてだ)

女(私と接する際に明らかにぎくしゃくしている状況。女友とはそんな様子は見られないのに)



女(独裁都市で男君を助けて以来いいムードだったというのに、急転直下の展開に私は失望よりも困惑の方が大きかった)

女(男君の変調の理由が全く検討付かなかったからだ)



女(女友とは普通に会話出来ているのに、私とだけはぎくしゃくしてしまう理由)

183 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:37:25.18 ID:x/JedQkZ0

女「もしかして……」

女友「やっぱり何かミスしてたんですか?」

女(口を開いた瞬間失礼なことを言い放つ女友)



女「どうして女友は私が失敗した前提で話すの?」

女友「今までの経験からです」

女「……とにかく、私分かったの! 男君がおかしくなっている理由!」



女(もうこれしかないというほどドンピシャの理由に思い当たった私は興奮しながら女友に話すが)



女友「……何の手がかりも無い状況ですからね。女の戯れ言に付き合ってもいいでしょう」

女(女友は塩対応だ)

女(まあでもこの名探偵女の見事な推理を聞けば『素敵!』と態度を翻すだろう)



女友「それで女の考える理由とは何ですか?」



女(先を促す言葉に私は自信満々に答えた)

184 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:37:58.17 ID:x/JedQkZ0





女「独裁都市の時に颯爽と助けに来た私を見て、男君は私のことが大・大・大好きになっちゃったんだよ!」

女「だから私と話すときも意識しちゃってるんだって!!」





女友「…………」

女(女友は無言で頭を抱えている)

女(きっと私の考えの素晴らしさに感銘を受けたのだろう)



女「好きな人の前で緊張するなんて、男君もお茶目なところがあるよね!」

女友「……どちらかというと男さんの様子は照れているというよりは、陰がある感じでしたが」

女「それはあれだよ! 『陰のある男はカッコいい』ってことで私の気を引こうとしてるんだよ!」

女「はあ……ひとまず謝ってください。男さんはあなたほど単純な人じゃないです」



女(女友は何だか不服そうだ)

女(……あ、そうか。私と男君がいい感じになると、三人で旅している以上女友が仲間外れみたいになってしまう)

女(独りぼっちになるのが嫌なのだろう)

185 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:38:46.94 ID:x/JedQkZ0

女「大丈夫だよ、女友。もし男君と付き合うことになっても、親友であることには変わりないから!」

女友「……一応ありがとうと言いましょうか。そしてよく分かりました」



女「でしょ? 男君の変調の理由は……」

女友「そうではなくて、女。あなたがすごい浮かれていることに」



女(女友がビシッと私を指さす)



女「浮かれるってこんな感じ? 『竜の翼(ドラゴンウィング)』」

女友「狭い部屋なのに翼を出さないでください! ああもう、そうやってノリが軽いのが浮かれている証拠ですよ!!」

女「はーい」



女(女友に怒られて、私は翼を引っ込める)

186 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:39:17.66 ID:x/JedQkZ0

女友「女が浮かれるのも分かります。ようやく男さんと上手く行きそうだったんですから」

女友「今まで応援してきた私も本当なら手放しで賞賛したいところです」

女「でしょ!」



女友「ですが。だからこそ一転して今の状況に陥ってしまったことに危機感を覚えているんです」

女友「よっぽどの理由があるはずですから、対処を誤れば男さんとの関係はご破算ですよ」



女「だからその理由は男君が私のことを好きになったからじゃないの?」

女(私の再三の言葉に女友は考え込む)



女友「正直急な変調という点だけを見ると、状況からして女の考えも有力なのが悩ましいところなんですよね……」

女「ほら!」

女友「いえ、惑わされないでください、私。この単純野郎に引っ張られています。男さんの今の状況を見るに違うのは明らかです」



女(女友が自分の頭を握りこぶしで叩いて正気に戻るように努めている)

女(私が人を堕落させる何かのように扱われていて酷い話だ)

187 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:39:49.72 ID:x/JedQkZ0

女「そんなに私の意見を否定するなら、女友の方こそ何か意見を言ってみせてよ」

女友「そうですね……女の嘘が男さんにバレたとしたら今の状況も分かるんですが」

女「嘘……っていうと、私が魅了スキルにかかっているという嘘?」



女友「はい。過去のトラウマから人に裏切られることを極端に恐れている男さんですから、女が信頼できる人物だと思った矢先に騙されていることに気付いたらショックを受けるでしょう」



女「それは……いつか打ち明けないといけないと思っているけど……」

女友「ええ分かっています。ですが女も不自然な点ばかり晒していますから」

女友「前回も魅了スキルの命令を無視して助けに行きましたし。男さんが自力で気付くのはあり得る可能性です」



女「そうは言うけど、今まで何だかんだバレなかったのに、そんな急に露呈するかな?」

女友「……やっぱり延々と考えても埒が明きませんね」

女友「よし、分かりました。私が直接男さんに話をします」



女(決心したように女友が立ち上がる)

188 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:40:31.91 ID:x/JedQkZ0



女「……でも、大丈夫かな。男君、私が昼ご飯一緒に食べようって誘っても、まだ学校に慣れなくてなって断るし」

女「放課後一緒に遊ぼうとしてもちょっと復習したいって……明らかに避けられてるし」



女友「大丈夫なはずです。女と違って私とは普通に話せていましたし」



女「おおっ! じゃあ、任せるからね!」

女「もし男君が私のこと大好きで止まらないって言ってたらこっそりと教えてね」



女友「こっそりと教えるだけでいいんですか?」

女「というと……?」



女友「私なら男さんから女に告白するように仕向けることも可能です」

女「……女友様っ!!!!」



女(私は現人神の顕現に拝み倒す)

189 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:41:01.30 ID:x/JedQkZ0



女友「苦しゅうない、苦しゅうない」

女友「やっぱり女も女の子ですからね。告白は男の子からされたいでしょう」



女「はい、その通りです!」



女友「何か女と話していると本当に男さんが女のことを好きで避けているのだと思い始めてきました」

女友「となればサクッと付き合わせて祝福することにしましょう!」



190 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:41:33.38 ID:x/JedQkZ0





 翌日。昼のこと。





男「ちょうど良かった。俺も女友と話をしたいと思っていたんだ」

女友「話とは……?」



 学園の食堂にて、待ち合わせをした男と女友。



男「女は本当のところ魅了スキルにかかってないんじゃないか?」

女友「…………」



 現実はそう甘くないのだった。

191 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:42:01.79 ID:x/JedQkZ0
続く。
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/08/08(木) 01:08:51.64 ID:s0cPDc10o
乙ー
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/08(木) 06:06:34.09 ID:4GEw7O+PO
乙!
194 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/10(土) 01:04:10.67 ID:Vlt9CL5c0
乙、ありがとうございます。

投下します。
195 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/10(土) 01:04:53.12 ID:Vlt9CL5c0



男「女は本当のところ魅了スキルにかかってないんじゃないか?」

女友「…………」



女友(険しい表情で口を開いた男さんに、私はさてどうしましょうか、と半ば思考放棄していました)



女友(現在私たちは学園の食堂にいます。初等部から大学まで、大勢の生徒が利用する食堂です)

女友(私は朝の内に男さんとここで会う約束を取り付けていました)

女友(女友一人だけならいい、と暗に女の同席を避ける発言をされたのは想定内です)



女友(そして午前の講義を終えて昼になり食堂に向かい、料理を持って二人座れるところを探し、落ち着いたところで先の発言をされたという流れです)

196 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/10(土) 01:05:47.43 ID:Vlt9CL5c0



男「――というわけで女に魅了スキルがかかっていないと思ったわけだ」



女友(さて、今までの流れを思い返す現実逃避を終えたところで、男さんの説明もちょうど終わりました)

女友(どうやら近衛兵長が『状態異常耐性』のスキルを持っているのに魅了スキルにかかったことから、私の吐いた嘘が見破られたことが原因だったようです)



女友(近衛兵長と私が直接対峙していれば、そのときに相手がどのようなスキルを持っているか看破して、この事態を避けることも出来たでしょうが……そんなこといっても詮無きことですね)





男「率直に聞く。女友、おまえは女の事情を知っているんじゃないか?」



女友「……そんな、私も知らなかったんですよ! まさか女が魅了スキルにかかっていないなんて! 状態異常耐性スキルのせいでないとしたら一体何が理由で――」





197 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/10(土) 01:06:15.65 ID:Vlt9CL5c0



男「………………」

女友「――と言っても信じてもらえなさそうですね」



男「ああ。今思い返してみると、状態異常耐性スキルのことを言い出したのは女友だろ」

男「おまえは女に魅了スキルがかかっていることにしようと奮闘していた」

男「つまり、そのときから女の事情について知っていたんだろ」



女友「実際にはあのときは疑い程度でしたが……ええ、今の私は女の事情について知っていますよ」



女友(誤魔化せる雰囲気ではなく、私は真実を打ち明けます)

198 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/10(土) 01:06:43.63 ID:Vlt9CL5c0

男「…………」

女友「軽蔑しないんですか? ずっと男さんのことを騙していたのに」



男「そう、だな。……女友が嘘を吐いたのは女の事情を汲んでのことなんだろ」

女友「まあそうですね」



男「だったら女が嘘を吐かせていたようなものだし……」

男「それにその状況を女友が良しとしていたのは、女のためでもあるんだろうが、俺のためでもあるんだろ?」

男「それくらいにはおまえの人となりも分かっているつもりだ」



女友「……はい」



女友(男さんの言う通りです)

女友女が男さんのことを好きであることを私が言えなかったのは、もちろん女の意向もありますが、男さんが好意をトラウマに思っていることも考慮してのことです)



女友(といっても言い訳にしかならないと、罰を受けるつもりだったのですが……男さんは私のことを許しているようです)

199 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/10(土) 01:07:25.51 ID:Vlt9CL5c0



女友「でしたら女は?」

男「女は駄目だ。あれだけ人のことを信じろって言いながら、騙していたとか無しだろ」



女友「まあ、そうですね」

男「大体女はだな――」



女友(そこから男さんが女に対する愚痴をつらつらと述べるのを、ほぼ全面的に同意しながら私は考えます)



女友(男さんは新たな街にたどり着く度に宝玉を手に入れるまでの道のりを私たちに指示して来たことから分かるように、状況把握の能力が高いです)



女友(今回も女に疑いを向けるや否や、魅了スキルにかかっていないとまで推理したのは流石です)



女友(だからこそ男さんがその先に気付いていないことは少々不可解でした)



200 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/10(土) 01:08:01.01 ID:Vlt9CL5c0



女友(女は一番最初に召喚された直後に魅了スキルを暴発させた際、しっかりと効果範囲にいました)

女友(男さんも女のことを魅力的に思っていたはずです)

女友(それなのに失敗したとなれば……その理由は対象が特別な好意を抱いている場合くらいしかないと分かりそうなものなのに)




女友(ですが男さんはその可能性を思い浮かべることすらしていなさそうです)



女友(その理由は…………ああ、そうですか)



女友(男さんは魅了スキル抜きに自分が好意を向けられることは無いと……呪縛に囚われている)



女友(トラウマから心の傷を癒すのに使った自己否定が、男さんの自己評価の低さを生み出し)

女友(そのせいで『自分が好かれる事なんて無い』と思いこませている)



201 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/10(土) 01:08:28.49 ID:Vlt9CL5c0

女友(その一方で)



男「大体女はいつも自分勝手で……聞いてるか、女友?」

女友「ええ、聞いてますよ。本当苦労しています」

男「だろ」



女友「それでこちらから質問なんですが、男さんは今後どうしたいんですか?」

男「今後……?」



女友「はい。女は男さんを長い間騙していました。ごめん一つで済む問題ではないでしょう」

男「ああ、その通りだ」



女友(頷く男さんに私は吹っかける)

202 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/10(土) 01:09:07.25 ID:Vlt9CL5c0



女友「ですから……そうですね、罰として女は死刑とか」

男「死刑!? いや、重すぎだろ!? おまえ女は親友じゃないのか!?」



女友「親友だからこそ厳しく当たるんです。これまで男さんを騙していた罪……万死に値します……!!」

男「それだと女友にも当てはまるような…………じゃなくて!! とにかく死ぬとかは無しだろ!」



女友「じゃあそうですね、騙していたのにのうのうとこれからも一緒に旅とかあり得ませんし、このパーティーから追放しましょう、追放」

男「……いや、それも無いだろ」



女友「もうだったらどうすればいいんですか? 男さんの問題なんですよ」

女友「ほら、私が手伝いますから、女をどうするべきか考えてください」



203 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/10(土) 01:09:41.37 ID:Vlt9CL5c0



男「女を…………俺は、どうしたいんだろうな……」



女友(考え込む男さん)

女友(トラウマから来る拒絶反応が出ていたとしたら、そうやって悩むことすら無かったでしょう)



女友(最初、魅了スキルにかかっていないことに気付かれたときは正直終わったと覚悟していましたが、どうやら状況は思っていたより悪くないようです)



女友(それどころか女と男さんの間に立ちはだかる問題を解決するいい機会ですらあります)



女友(学術都市にいる間は宝玉を手に入れることも考えずに済みますし、時間が十分にあることも追い風で、この機会に二人の関係を急接近させようと――――)



204 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/10(土) 01:10:16.48 ID:Vlt9CL5c0



男「ん、何だか騒がしいな」

女友「え…………あ、確かにそうですね」



女友(男さんの呟きに思考を中断すると、食堂が不自然に賑わっていることに気付きました)

女友(昼食時間に入ったばかりならばお腹の減った学生の歓声という可能性も考えられますが、もう十分に時間が経っています)





女友「え……?」

女友(だとしたら一体何が……と、騒ぎの中心にいる人物を見て私は気が遠くなりました)





生徒1「わあ、本物だ!!」

生徒2「講演に来てくれるのは聞いてたけど……」

生徒3「近代史に残る偉人、先の大戦を終結に導いた立役者――」





女友(生徒に囲まれるその人物は)

205 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/10(土) 01:10:45.93 ID:Vlt9CL5c0





生徒「伝説の傭兵さんですよね!!」



傭兵「その通りだが…………この時間に来たのはマズかったか」





女友(魔神復活派コンビの片割れ、伝説の傭兵その人でした)

206 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/10(土) 01:11:14.93 ID:Vlt9CL5c0
続く。

ぼちぼち縦軸も動かしていきます。
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/10(土) 04:44:59.17 ID:rEzNRpITO
乙!
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/08/10(土) 05:40:47.47 ID:tt6Pa5JvO
乙ー
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/13(火) 04:49:49.24 ID:Fx0uBfhA0
乙!
210 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/14(水) 09:27:13.85 ID:k7ul/X3r0
乙、ありがとうございます。

投下します。
211 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/14(水) 09:27:59.75 ID:k7ul/X3r0

男(放課後)



女「どうしてあなたがここにいるんですか!? 説明してください!!」



男(俺と女友は食堂で伝説の傭兵を見つけたことを昼休みの内に女に伝えた)

男(放課後になってから三人で傭兵の姿を探し、そしてこの職員室で見つけるや否や女が突っかけた次第である)





男(俺の気持ちが定まっていない中、女と一緒に行動をするのは避けたいところだったのだが)

男(復活派の出現は宝玉の、俺たちの使命の問題だ)

男(駄々をこねている場合ではないくらいの分別は付いている)

212 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/14(水) 09:28:34.47 ID:k7ul/X3r0



傭兵「君の名前は……確か女君だったか。職員室では静かにと習わなかったか?」



男(女の剣幕も何のその、傭兵はたしなめてみせる)



女「そんな教師みたいなこと言わないでください!」

傭兵「いや、今の私はこの学園の講師だ。臨時ではあるがな」



男(胸元に付いているプレートを見せると……確かに臨時講師と書かれてある)



女「どういうつもりですか……まさかこの学園に何かするつもりで……!」

傭兵「そう激昂するな。この事態は私が意図したところではない。逆に学園の方から申し出た話だ」

女「ふん、どうだか。本当は――!!」



男(女はさらに声を張り上げようとするが)

213 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/14(水) 09:29:23.92 ID:k7ul/X3r0



男「女、ちょっと落ち着け」

女友「そうです、声を抑えてください」



男(俺と女友がそれを止めにかかる)



女「どうしてなの! だってこの人は……」

男「いや、気持ちは分かるが……ここは職員室だぞ」

女友「さっきから周囲の視線が集まって……居心地が悪いです」



男(女に周囲を見るように促す)

男(実際教師たちもちょうど訪れていた生徒たちも『何かあったのか』と興味の視線をこちらに向けている)





女「あはは、すいません。何でもないんです、つい声を荒げてごめんなさい」

男(状況に気付いた女は両手を左右にあわあわと振りながらその場で頭を何回も下げる)

男(一旦は視線の集中も落ち着くが、それでも周囲の人たちはこちらの様子を窺っている雰囲気が感じ取れた)





傭兵「……仕方ない。付いてこい、おまえたち」



男(助け船を出したのは、敵であるはずの傭兵であった)

214 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/14(水) 09:30:06.70 ID:k7ul/X3r0

男(誘導されるままに俺たちは場所を職員室から生徒指導室に移す)

男(ここなら他の教師や生徒もいないので注目されることも無さそうだ)



傭兵「気になることは聞くがいい。答えられることなら答えよう。予定があるからそれまでの間に限るが」

女「じゃあ、どうしてここにあなたがいるんですか!! 経緯を説明してください!!」



男(傭兵の寛大な態度に、あれだけ恥ずかしい目にあったのに女は先ほどまでの剣幕を維持したまま同じ事を問いかける。精神が強い)



傭兵「別段に語ることはない。旅を続けていれば先立つものは必要だ」

傭兵「この学術都市に入る際何か仕事は無いか聞いたところ、この学園で臨時講師として講演などして欲しいという要請に従っただけだ」



男(伝説の傭兵の勇名はこの世界の人々のほとんどが知っているほどだ)

男(そんな人の話を教育者として生徒たちに聞かせたいと思ったのだろう)

男(学園の意図は分かるところだ)



男(問題は――)

215 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/14(水) 09:30:51.20 ID:k7ul/X3r0



女「何か裏の意図があるんじゃないですか?」



男(女が聞いたとおり、傭兵自身の思惑だ)



傭兵「この都市に宝玉があることは当然把握している。私が宝玉を奪いに来たと……そう言いたいのだろう」

女「その通りです」



傭兵「ならばこの際言っておこう。今回、私が直接宝玉を奪うことはないと」

女「そんな言葉信じられません」



傭兵「考えれば分かることだ。私は伝説の傭兵として数多くの民に顔を知られている」

傭兵「そのようなものがコソコソと動ける訳がないし、もし宝玉を盗むというような悪行が直接露呈すれば瞬時に知れ渡り私は往来を歩くことが出来なくなるだろう」

傭兵「そのようなリスクを背負ってまですることではない」

傭兵「武闘大会のような私が私であるままに宝玉を手に入れることが出来たのは例外中の例外だ」



男(傭兵の言葉には一理あると思った)

男(伝説の傭兵の名は伊達ではない。実際食堂に顔を出しただけであれだけ騒がれたではないか)

男(つまり目の前にいる男、傭兵は宝玉を奪いに来たわけではなく――)

216 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/14(水) 09:31:40.57 ID:k7ul/X3r0



男「復活派のもう一人、魔族が宝玉を奪うつもりだと……そう言いたいんだな」



傭兵「……ああ、その通りだ。既に魔族はその姿を変えて、この学術都市に潜入している」



男(俺の問いかけに傭兵はあっさりと白状した)



男「魔族の姿のままなら角も生えてるし目立つだろうが、やつの固有スキルは『変身』……潜入するにはピッタリの能力か」



傭兵「私も誰に化けたのかは聞いていないから教えられない。もっとも知っていたとしても答えないだろうが」



男(『魔導士』の女友ですら見抜くことが出来ない『変身』スキル)

男(そんな厄介なやつが宝玉を狙っているなら警戒しないといけないが……)

217 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/14(水) 09:32:26.08 ID:k7ul/X3r0

女「だったら研究室に言って警備の人を増やしてもらわないと!」

女「あそこには学術都市の宝玉だけじゃなくて、私たちが今までに集めた宝玉もあるし!」



男「待て、女。それは逆効果だ」

女「逆効果……?」

男「ああ。魔族は誰にだって化けられる。宝玉の周囲に人を増やすことは、つまり化けられるターゲットを増やすのと同義だ」



男(だからこそ傭兵も魔族が潜入していることを普通に明かしたのだろう)

男(警戒するのも難儀な『変身』スキル)

男(きっと俺の『魅了』スキルより宝玉を手に入れるのによっぽど役に立っているだろう)



女「男君……」

男「だが対策しないといけないのも確かでどうするか……って、どうした女?」

女「え、あ、いや、今は関係ないことで」

男「何だ女らしくないな。気になることがあるなら言っていいぞ」





女「でも絶対関係ないことだよ。……だって久しぶりに男君と普通に会話出来ているなあ、って思っただけだし……」

男「そ、それは……ああもう、今は真面目な話をだな……」

女「だ、だから関係ないって言ったじゃん!」



男(女が顔を真っ赤にしている。場違いなことを考えていた自覚はあるのだろう)

218 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/14(水) 09:33:10.08 ID:k7ul/X3r0

傭兵「どうした少年、彼女と喧嘩中か?」

男「……つかぬことを聞きますが、その『彼女』とは三人称代名詞のことですよね?」



傭兵「いや、恋人である女性のことだ。魅了スキルの少年と竜闘士の少女、二人は付き合っているのだろう?」

男「付き合っていません!!」

傭兵「む、そうか。これは失礼な邪推をした」



男(俺は声を張り上げて否定する)



傭兵「……しかしそれほど想い合っているのに付き合っていないとは……最近の若者はよく分からん…………」

女「た、確かにそうだけど……ムキになって否定しなくてもいいじゃん……」



男(傭兵と女、竜闘士二人がぶつぶつ何か言っているが俺の耳にまで届かない)

219 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/14(水) 09:33:53.16 ID:k7ul/X3r0

男(傭兵まで変なことを言い出して、完全に場の雰囲気が緩くなってきた)

男(宝玉を奪うつもりが無いとはいえ敵同士だ)

男(馴れ合う必要もないと、そろそろその場を去ろうとして)



女友「一つ質問をいいですか?」

傭兵「……どうした、魔導士の少女よ」



男(女友が真剣な声で傭兵に問いかける)



女友「あなたの過去についてです。先の大戦が終わった後、王国はあなたに何をしたんですか?」

傭兵「知ったのか……王国の名が出てくるとはな」



女友「王国は不明な点が多い勢力です。教えてもらえるならありがたいのですが」

傭兵「我が主に不利益が被る話ではない。特に隠すことも無いが……残念ながら時間だ」



男(時計を見て傭兵がタイムアップを告げる。そういえばこの後予定があると言っていたか)



傭兵「言ったように私はしばらく臨時講師としてこの学園に勤めている。時間のあるときにまた訪ねるといい」



男(傭兵はそのように言うと生徒指導室を去るのだった)

220 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/14(水) 09:34:40.57 ID:k7ul/X3r0
続く。

投下遅くなり申し訳ありません。
また書き溜め尽きたので、今後の更新も不定期になります。
ご了承ください。
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/14(水) 11:44:37.01 ID:AMxY291B0
乙!
待ってるぜ!
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/08/14(水) 17:23:56.93 ID:J1P1zVKCO
乙ー
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/16(金) 14:26:18.57 ID:rEDkmhiy0
乙!
224 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/09/01(日) 22:48:14.88 ID:Gk83vwYH0
乙、ありがとうございます。
大変遅くなって申し訳ありません。

投下します。
225 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/09/01(日) 22:48:51.43 ID:Gk83vwYH0

男(生徒指導室を後にした俺たちはその足で宝玉を貸し出している研究室に向かう)

男(その道中で俺は謝った)



男「いや、その……すまんな、女友」

女友「いきなりどうしたんですか?」



男「さっきの傭兵との会話だ。やつの過去、王国の所行について聞き出すのは必要なことだったのに、俺はすっかり忘れていたから」

女友「ああ、そのことですか。別に気にしていませんよ。男さんも魔族のことについて聞き出してくれましたし」



男「いや、それでも俺が気付くべき事だったんだ……」

男「戦闘で役に立たない俺はせめてこういうところだけでも頑張らないといけないのに……そうだ、関係ない事なんて考えている余裕は……」



男(女に関する問題と宝玉に関わる問題は別物だ。切り替えて対処しないと)



女「男君……」

女友「はぁ……分かりました」



男(心配げな女の声が聞こえたかと思うと、先導していた女友がその場で立ち止まる)

226 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/09/01(日) 22:49:20.28 ID:Gk83vwYH0



女友「研究室には私一人で行きます。二人は付いてこなくていいです」



男(そして冷たい声で宣告した)



男「一人でって……でも、宝玉に関わる問題だぞ!」

女「そうだよ、どうして!」

男(俺と女は異を唱えるが女友は動じることなく続ける)



女友「私一人で十分だからです。魔族によって宝玉を奪うことを防ぐ対策、人を増やしたからって上手く行くような話でもないでしょう。それにあまり多くで押し掛けても迷惑でしょうし」



男「そうかもしれないけど……だったら俺が!」

女友「以前、研究室に訪れた際に魔法式トラップが仕掛けられていることを確認しています」

女友「そういう専門的なことも話すだろう事を考えると、代表して『魔導士』の私が出向くのが一番です」

男「それは……」


男(授業を受けているのに、未だに魔法の一つも使えない俺にその言葉は重くのしかかる)

227 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/09/01(日) 22:49:52.77 ID:Gk83vwYH0



女「だったら私は……!? もし魔族が力押しで来た場合、竜闘士の私がいた方がいいでしょ! その確認のためにも私は行った方が……」



女友「いえ、竜闘士の傭兵さんが加わるならまだしも、魔族一人相手取るなら私だけで事足ります」

女友「もし傭兵さんが嘘を吐いていて奇襲したとしても、この学園には警備員もしっかりいますし、実戦魔法教育を受けた生徒もいていざというときの戦力はかなり高いですし、女が遅れてでも駆けつけるなら十分に対処できます」



女「だとしても……何もしないでいるのは……」





女友「――というのは全部建前です」





男「な……?」

女「え?」



男(一気に前言を翻した女友に俺と女は付いていけない)

228 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/09/01(日) 22:50:19.52 ID:Gk83vwYH0



女友「何もしないで? 今、そう言いましたね。そんな遊ばせるわけ無いでしょう」

女友「当然女にしてもらわないといけない大事なことがあります、宝玉に関する問題以上に大事なことが」



女「それって……」



女友「決まっているでしょう。男さんとの関係修復です」

女友「どうやら男さんは女に魅了スキルがかかっていないことに気付いたみたいですよ」



女「……っ!?」



男(昼間に相談したことを、女友はあっさりと女にバラす)

229 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/09/01(日) 22:50:48.53 ID:Gk83vwYH0

男「女友、おまえ……」

女友「ごめんなさいね、男さん。でも特に口止めもされていませんでしたし、それにこちらの方が話は早いでしょう?」

男「……だとしても、これは俺の個人的な問題だ。俺たちの使命に関わる宝玉問題より優先されるとは――」

女友「いえ、優先すべき問題です。パーティー内に不和があって大きな事をなせるでしょうか? そんなはずないと私は考えます」



男「……」

男(確かに今の俺は女との問題のせいで気もそぞろになっている)



女「男君にバレて……」

女友「ええ、詳しくは省きますが魅了スキルにかかっていないということだけに気付いて、女の事情は分かっていないようです」

女「……」

女友「事情を明かすかはあなたの判断に任せます」



男(女の事情……俺が皆目検討付かないそれについて目の前でやり取りが行われる)



女友「さて、二人とも状況を理解したようですね。私は研究室に向かいますから後はお願いします。それでは」



男(俺たちが反対しないことを確認して、女友は研究室に向かって歩き出した)

230 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/09/01(日) 22:51:15.63 ID:Gk83vwYH0



男「………………」

女「………………」



男(残された俺と女の間を沈黙が支配する)

男(俺は何を話していいのか分からなかったし、女は騙していたことがバレて気まずいようだ)



男(正直に言うとこのまま対話を放棄して寮の自室に逃げ出したかった)

男(ただそれではあまりに女友に不誠実過ぎる)

男(今まで俺たちの意図を汲んで何度も助けてくれた女友がここまで強引に事を運んだのは、その荒療治が必要だと判断したからだろう)



男(だが、未だに考えがまとまっていないのに女と何を話せばいいのか)

男(……いや、逆なのか? これまでずっと一人で考えて結論が出ないんだ)

男(ならばこれ以上考えても堂々巡りになるだろう。だったら元凶の女に当たるのが正解なのかもしれない)

男(……どちらが砕けるのかは想像も付かないけど)





男(と、冷静に思考できたのはそこまでだった)

231 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/09/01(日) 22:51:46.00 ID:Gk83vwYH0



女「ごめんなさい」



男(先に口を開いた女)

男(いつになくしおらしい態度を目にして、俺は自然と口が動いていた)



男「どうして謝るんだ?」

女「私が男君のことを騙していたからです」

男「ああ、そうだな。まさか人を信じるようにあれだけ言ってた女が俺のことを騙しているとは思ってもいなかった」

女「……本当にごめん」



男(女が一層に萎縮する)

男(……違う、俺はこんなこと言いたいんじゃなくて……)



男「それでどうだったんだ? まんまと騙されている俺を見るのはさぞかし楽しかったんじゃねえか?」

女「そ、そんなことないよ!」

男「本当か? なら罪悪感の一つでもあったっていうのか?」

女「罪悪感はもちろんあったけど……最近は……」

男「忘れてたっていうのか、なるほどな」

女「……ごめん」



男(言葉が、感情が収まらない)

232 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/09/01(日) 22:52:22.35 ID:Gk83vwYH0

男「さっきからごめん、ごめんって、それしか言葉を知らねえのかよ」

女「……」

男「ごめんって言うにしても普通はさ、こういう事情があったんです、ごめんなさいだろ。なあ、どんな事情があったのか言えないのかよ」

女「……ズルいことは分かってる。でも、まだ言えないの……ごめん」



男「そうか……そんなに俺のことが信頼できないのか」

女「ち、違うって! それは私の勇気が無いからで…………」



男「意味分からねえよ!! 結局俺のこと信頼してないから秘密にするんだろ!!」

女「それは……」

男「俺は……やっと女のこと信じられそうだと……そう思ってたのに……」



男(自覚できるほど頭に血が上っているのに、涙で視界が霞む)

男(怒りと悲しみ、相反する感情が俺の心を散り散りに裂いていく)



男「っ……!」



男(これ以上この場にいられないと俺はこの場を離れようとして……何でもない段差に躓いて派手に転んだ)

233 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/09/01(日) 22:52:59.20 ID:Gk83vwYH0



女「男君!」

男「来るなっ!」



男(心配そうに駆け寄ってきた女を俺は拒む)



女「で、でもすりむいて血が出ているし……早く保健室に行かないと……」

男「……だからもう騙されていることには気付いているって言っただろ」

女「え……?」



男「もういいんだよ。魅了スキルにかかっているフリは、俺に好意を持っているフリをするのは」

女「フリって……そんなんじゃ……」

男「そうやってまた騙す気か? 懲りないんだな」



男(俺はよろよろと一人で立ち上がる)



男「女友に言われたこともあるしな。宝玉に関することには協力する。でもそれ以外のときは話しかけるな」



男(吐き捨てるように言って俺は意地を張るように女に一瞥もくれないまま去る)

男(それなのに女が今どんな表情をしているのか気になってしょうがなかった)

234 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/09/01(日) 22:53:33.37 ID:Gk83vwYH0



男(夜)

男(保健室で怪我の手当を受けた後、俺はそのまま寮の自室のベッドに体を投げた)

男(夕食を取っておらず腹の虫の主張がすごい。なのに全く食欲が沸かなかった)



男「………………」



男(しばらくぼーっとしていた)

男(ただ呼吸するだけの物体となって、何時間経っただろうか)

男(ふと思考が浮かび上がる)







男「これで女にも嫌われただろうな……」



男(女にも非があったとはいえ、さっきの俺の発言は酷いものだった)

男(言い返せないところに付け込んで、ネチネチと嫌味を言って……)



男(あんなこと言うつもりじゃなかった………………じゃあ、どんなことを言うつもりだったんだ)

男(自分の中に存在しない言葉を口に出すことは不可能だ。つまりあれは俺の中にあった言葉)

男(感情のままに振る舞って、子供のように喚いて……俺は……)

235 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/09/01(日) 22:54:12.63 ID:Gk83vwYH0



男「……全部もう過ぎたことだ」



男(終わったことを悩んだってしょうがない)

男(あれだけ拒絶したんだ。女が今後俺に関わることはないだろう)



男(そもそも魅了スキルがかかっていないってバレたんだ。好意を持ったフリをするために俺に絡む必要も無い)

男(ていうか、さっきのもおかしいか)

男(嫌われたって……何好かれている前提で話しているんだ)

男(今までのことは全部幻、夢が覚めたんだ)



男(だとしても別にそう悲観することでは無い)

男(戻っただけだ。異世界に来る前、ずっと独りで生きていた頃に)



男(ただそれだけ)



236 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/09/01(日) 22:54:59.96 ID:Gk83vwYH0





幼女『お兄さんも一人なの?』





男(声が聞こえた。幼い女の子の声だ)

男(いつの間にか眠ってしまっていたのだろうか。妙に思考の制御が出来ず思ったままの言葉を返す)





男「ああ、俺は独りだよ」

幼女『……変なの。お兄さんの近くにはいっぱい人がいるよ?』



男「学生寮だから周囲の部屋に人がいるだろうな。でも俺の心の中には誰もいない……いなくなった」

幼女『よく分かんない。心って何なの?』



男「難しい問いだな。俺にも分からねえ。こんなものがあるせいで怒ったり悲しんだりしないといけないんだから面倒だよな」

幼女『そっか、大変だね』



男「大変だよ。あんたはそういう経験無いのか?」

幼女『……覚えてない。昔あったかもしれない。でも今この世界にいるのは……一人だから』



237 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/09/01(日) 22:55:51.24 ID:Gk83vwYH0



男「世界に一人か、それは大変だな。でも俺もそんな世界に行ってみてえな」

幼女『ほんと?』



男「ほんとだ、ほんと。誰もいなければ……最初から独りならこんなに悩まなくても、傷つかなくても済んだのにな」

幼女『……だったら一人になればいいんじゃないの?』



男「なれたらどんなに楽か。俺は一人で生きていけないことを知っているからな。独りになったって言いながら、怪我の治療も自分で出来ないから保健室の先生を頼った。この異世界でだって独りじゃ身を守ることも出来ないから……あいつたちと……」

幼女『……?』



男「……まあおまえも大きくなれば分かるさ」

幼女『お兄さん面白いね』

男「そんな面白いことを言ったつもりはないんだが」

幼女『うーん、っと。久しぶりにいっぱい話したら疲れちゃった。お兄さんとリンク出来たのは………………のときの………………が…………また………………話…………』





男(意識が途切れ途切れになる、うとうとなってきた)

男(あれだけのことがあっても人は変わらず眠くなる)

男(俺は意識を手放そうとして……)



男「夢の中でまた眠るってのも……おかしな話だ…………」



男(生じた違和感は微睡みの中に霧散した)

584.52 KB Speed:0.4   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)