【たぬき】高垣楓「迷子のクロと歌わないカナリヤのビート」

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210 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:25:25.18 ID:rmOYl90d0

 ヨネさんは言い終えた後、照れたように「なんてな」と付け加える。
 思いがけず真面目っぽい空気になり、沈黙が降りた。

 ふと、タクさんがポケットからスマホを取り出して、何かの再生ボタンを押す。

『同じような誰かの穴を、埋めてあげられるんじゃないか……みたいな』

「って!! なんで録音してるんだよ!?」
「いや、なんかイイこと言ってんなぁと思って……」

 消してくれ、いーや消さない、今度の飲み会でネタにする、とかなんとかわちゃわちゃやり始める二人の横で、俺は考え込んでいた。
 いつしかコーヒーは空になっていた。
 空き缶を指で弾いたように、ヨネさんの言葉は思いのほか自分の中で響いている。

 似たような誰か。

 それは、誰だろう。本当にいるのだろうか?

 どうすれば、足りない「何か」に気付けるのか?
 嫌いなアイドル。人形の夢。いつも通りの仕事。近付く年の瀬。
 ヒントが、どこにも見つからない。

211 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:26:58.89 ID:rmOYl90d0

  ◆◆◆◆


 芸能事務所において、世間一般で言う「楽しいイベント」は「超忙しい時期」と同義だ。
 師走とはよく言ったもので、偉い人から下っ端までそこらじゅうを走り回る勢いで働いて働いて働いて。
 クリスマスにもまたイベントがあり、最初から予定もクソもない社畜には余暇を気にすることもなく、事務所に泊まり込んで。
 てっぺん回った頃に千川さんが買ってきたファミチキでせめてものクリスマス気分を味わったりして。

 そして、アイドル部門の年越しニューイヤーライブが近付く。

 もう総動員だ。当然俺も駆り出され、アシスタントとして会場をあちこち走り回ることとなる。
 本番は近い。イコール今年ももう終わるってことで。


 ――高垣さん。今年いっぱいで辞めるそうじゃないですか。


 目まぐるしい業務の中で、千川さんの言葉が脳裏に蘇る。
212 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:28:22.05 ID:rmOYl90d0

  ◆◆◆◆


 その日は、朝からちらほらと雪が降っていた。


 年の瀬。346プロアイドル部門の本年の総決算、年越しニューイヤーライブの当日だ。


 最終的な段取りを何度も確かめ、ゲネを終えて意気軒高のアイドル達。
 大きなドーム型ホールを貸し切り、戦場のような事前準備を終えた後、スタッフ達も完全に覚悟が決まっている。

 そのある意味最前線、物販ブースに俺はいた。
 吐き出す息が雲のように白い。スタッフジャンパ―を羽織っていても身を差すような寒さだが、「寒い」などと口に出す暇さえ無かった。
 開場前から既に長蛇の列。ずらっと並べた長机にグッズを山積みにしてお客さんを捌く捌く。
 時間があっという間に過ぎて、気が付けば休憩所のベンチでくたばっていた。

「…………凄いな」

 交代要員に後を任せ、独りごちる。

 凄い客数だった。あれほどの人々がみんな、346プロのアイドル達を見に来ているのだ。
 俺はずっと、アイドル部門をできる限り見ないようにしていた。
 だから364のアイドルブランドの成長をはっきり目の当たりにするのは初めてで、情けない話だが今さらながら度肝を抜かれた。

213 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:29:39.53 ID:rmOYl90d0

 と、見慣れた同僚が戦場帰りみたいな顔でやって来た。

「ウス」
「タクさん。どうも」
「わりーな手伝わせちまって。お前こういうの苦手なんだろ?」

 すぐ隣に座り、タクさんは胸ポケットから慣れた手つきで煙草とライターを取り出す。

「仕事ですから。……あと、喫煙所外ですよ」
「げっ、ここダメなのかよ! ったく最近じゃどこもかしこも分煙分煙ってなぁ……」

 346プロも近年分煙化が進み、社屋の各所に喫煙ルームが作られていた。
 そういえば今西部長も結構なスモーカーだったなと思い至る。彼も似たような愚痴をこぼしているのだろうか。

「舞台の方は整いましたか?」
「んまぁ、やるこたやったな。こっから先はアイツらの出番だ」

 一見するといつも通りの調子だが、彼の横顔には充実感が見て取れる。
 残るはアイドル達の本番のみ。細工は流々、仕上げを御覧じろ……という感じだ。


「どうですか、プロデューサーの仕事は」
「んぁ? あンだよ藪から棒に」
「タクさん、最初はやる気なさそうだったじゃないですか。見違える勢いですよ、今。自覚ありません?」
「あ〜〜〜〜、まァな……」

214 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:32:33.16 ID:rmOYl90d0

 火を付けていない煙草を一本咥え、唇でプラプラさせながら、タクさんは言葉を探す。

「アレだよ。猫拾うみてぇなモンだ」
「猫?」
「最初はそんな気無かったのに、どんどんでっかくなりやがる。何すっかわかんねーから目も話せねぇし、ああだこうだ世話してくっと色々覚えてきて……」

 タクさんは「はっ」と笑った。自らの担当アイドルのことを思い出したか、それともなんだかんだで励んでいる己への自嘲か。
 いずれにせよ、彼は楽しそうだった。

「……で、気が付きゃこっちが引っ張られてんだ。いつの間にかここまで来ちまってた」
「いい子じゃないですか」
「バッカお前、いい奴なもんかよ。たまにグーが出るんだぞあのバカ」

 グーは辛いな。二人して笑う。ちょっと徹夜テンションみたいなものが入ってる。
 これを越えれば、晴れて年明けだ。そして無事越えられるかどうかについて、タクさんはまったく心配していない。

「……好きなんですね、猫」
「あぁ?」
「信頼し合ってる。いい関係だと思いますよ、俺は」
「はっ、なぁにが。……けどま、お前がそう思うんなら、そうかもな――――」

215 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:33:50.90 ID:rmOYl90d0

 と。
 タクさんが急に正気に戻り、ババッと周囲を見渡す。
 休憩所に俺達以外いないことをしつこく確かめ、声をひそめて言う。

「…………おい、今俺が言ったこと誰にも話すなよ」
「は? なんでまた」
「いいから! アイツらに聞かれたら何言われるかわかったもんじゃねぇ!」

 よくわからんが大変らしい。
 今の話は内緒にしておくと約束すると、タクさんは身の縮むような溜め息を吐いた。

「俺もヤキが回ったぜ、まったく……。こんなんガラじゃねぇって思ってたんだけどな」
「いいことでしょう。人は変わるってことですよ」
「そういうモンかねぇ……」

 人は変わる。
 それはそうだ。
 本心からそう思っているのに、口から出る言葉が自分でも驚くほど空疎に感じられた。
 だったらお前はどうなんだとどこかの誰かが言っている気がする。
 いいや、俺は変わりようがない。何を得てもいないし、失ってもいない……はずだ。

216 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:34:32.02 ID:rmOYl90d0


「あ、そうだ。いっこ大事なこと言い忘れてた」

 と、タクさんが唐突に切り出す。
 大事なこと?
 たまたま同じ休憩所に来たんじゃなかったのか。意外に思う俺に、タクさんはもっと意外なことを言った。


「第一の川島サンが、お前のこと探してたぞ」

217 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:36:06.05 ID:rmOYl90d0

  ◆◆◆◆


「ごめんなさいね、忙しい時に呼んじゃって」
「いえ、そんな。むしろそちらの方が、本番前で大変なのでは……」
「そっちは大丈夫よ、仕上がってるから。ちょっとだけ時間貰ったの」

 アイドル部門、第一芸能課の川島瑞樹さん。
 今回のライブでもメインMCを務める、まさにプロジェクトの牽引役だ。
 そちらに意識を向けずにいた俺でも名前は聞いたことがあるし、今や会社のエントランスホールには彼女のポスターがでかでかと飾られている。

 けど、どうしてそれほどの人が、俺を名指しに?


 ――初対面だろ?

218 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:36:57.07 ID:rmOYl90d0

「楓ちゃんの話、聞いた?」

 まただ。また高垣楓さん。

 あの人のことは知らない。会ったこともないんだ。
 ところが同じく初対面の筈の川島さんまでも、俺に高垣さんの話を振ってくる。

 ……何故か、頭が痛む。

「ええ、まあ……。あの、」
「あーいや、いいのよ皆まで言わないで。お互い大人だもの。私も細かいことは聞かないわ」

 こっちが聞きたいのだが。
 既に衣装に着替え、開幕を待つばかりの川島さんは、それでもわずかな時間に俺を呼んだ。
 そこに大した意味が無いと思うほど馬鹿ではない。だが心当たりがない。

 川島さんは残り時間を急かすスタッフに一言謝って、こう言い添えた。


「……ただね。もうちょっとだけ待って欲しいって、言ってあるの」
「待つ……? 高垣さんにですか?」
「ええ。本当は辞め次第、東京を出るつもりだったみたいだけど……今年いっぱいまでは待って欲しいって」

219 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:38:36.00 ID:rmOYl90d0

 何か。

 頭の奥で、妙に疼くものがある。

「このニューイヤーライブを見て欲しい。私達の集大成を見てからでも遅くない、って。だってこのままじゃ寂しすぎるでしょ? 私だってあの子の友達だったもの」

 俺は彼女を知っている。いや、テレビや写真で嫌というほど見たのだが、本人を前にして、改めて感じるものがある。
 この人と会話をしたことがある。
 それも、俺の方から接触を図る形で。

 ……何故? いつ、何のために?


「……だから、楓ちゃんはこの会場のどこかにいると思うの」

220 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:39:44.35 ID:rmOYl90d0

 このことを、川島さんは他の誰にも教えていないようだ。
 そういう口ぶりだった。とっておきの秘密を、こっそり伝えるような。

 だけど……それを木っ端のアシスタントに話して、一体どうするつもりなんだ?

 俺にできることなんて無い。今だってそんなこと初めて聞いたんだ。

 あの時も、あなたに頼らなければ、あの人を見つけることすらできなかった……

 あの時って、いつだ?

221 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:40:38.31 ID:rmOYl90d0

「――すいませーん! そろそろスタンバイお願いしまーす!」
「あっ、はーい今行きまーす!」

 スタッフに応じる川島さん。いよいよ本番は近い。
 そういうことだから、とウィンクして背を向ける彼女に、なんと言っていいかわからない。

 がんばってください?
 ありがとうございます?

 いや、違う。違う――――


「高垣さんは!」


 思いがけず大きな声が出た。川島さんだけでなく、その向こうのスタッフも驚くほどに。

「高垣さんは……何か、言っていましたか!? 自分のことや、なんでもいい、何か気になることは……!」

222 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:42:36.08 ID:rmOYl90d0

 どうしてそんなことが気になるのだろう。
 川島さんは立ち止まり、またほんの少しだけスタッフに合図して、天井を仰ぎ……

「…………これは、言わないつもりだったけど」

 何かを、決意した。

「楓ちゃんね。君のこと、よく話してたのよ」

「……俺のことを?」
「こんな人がいて、こんな場所で飲んで、こんなことをした。こんなことを話して、こういうことをした……って」

 振り向く彼女の笑顔は、優しかった。
 その時、確信があった。川島さんは俺のことを、俺が思うより前から知っていたのだ。
 こちらから接触する前に。
 高垣さんの話から……いわば「友達の友達」みたいな距離感で。

 だから最初に会った時、あんなに親しげだったんだ。

 ……頭の中で、何か大きな前提が崩れ去ろうとしているのを感じる。
223 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:43:54.47 ID:rmOYl90d0

「楽しそうだったわ。だから、あの子にとってあなたがどんな存在であれ、きっとすごく救われた時間だったと思うの」

 会場全体が動き出している。走り回るスタッフの気配、入場する観客の気配、腹の底に響く会場BGM。
 集結するアイドル達の気配。自分が行かなければ始まるまいに、川島さんは俺一人に何か、大切なメッセージを残そうとしている。


「『私と似ているのかも』……なんて、いつか言ってたわ。私から言うのも変かもしれないけど、あの子と一緒にいてくれて、ありがとう」
 

 そうだ。

 いつも夜だった。


 暗い夜の中にぽっと灯る光があった。見てしまったが最後、目を逸らすことはできなかった。
 春のまだ肌寒い夜、夏の乱舞する光の夜、秋の冷たい雨の夜。あれは――――

224 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 00:44:33.48 ID:rmOYl90d0


「!!」

 急に、耐えがたいほどの頭痛に襲われる。
 視界が大きく揺らいだ。記憶に蘇った「ある筈の無い夜」、経験した覚えのないそれらの中に、鮮やかな光の残影を見出した時……


「――ちょっと! 大丈夫!?」


 気が遠くなり、闇に閉ざされた。

225 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/08/22(木) 00:47:39.84 ID:rmOYl90d0
一旦切ります。
またも間が開いてしまってすみません。
今月中には完結させるつもりで進行します(なんとか)(多分)(おそらく)
226 :sage [sage]:2019/08/22(木) 01:17:44.28 ID:Nm5wFHKP0
今月あと10日切ってますが
年内に終わるかな(白目)

ジュニア相手だと感覚的に話す
なるほどと思った
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/22(木) 03:18:22.96 ID:jtF2jSbDO
たくみんも感覚的だよね

あと一週間で終わる?
228 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/08/22(木) 23:45:20.82 ID:rmOYl90d0

  ◆◆◆◆


 いつも、人形の夢を見る。
 だけど今回のはいつもと違った。

 あるのはたった一つの人形だった。

 頑丈な鍵付きのショーケースに仕舞われ、埃ひとつも被らないまま、人形はそこにある。
 誰もが彼女を通り過ぎる。その美しさに束の間目を奪われ、口々に褒めたたえながら、通り過ぎていく。
 鍵など誰も持っていない。もしかしたら、そんなもの最初から無いのかもしれない。

 人形はショーケースの中に在り続ける。

 誰にも触れられないまま。ただひたすらに「美しいもの」として。

229 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 23:46:01.12 ID:rmOYl90d0

   〇


 目が覚めると、医務室だった。
 改めて検査してみても、体には何ら異常なし。働きすぎで目が回ったのだろうと医療スタッフに言われた。

「……すみません、こんな時に……」
「いえ、いいんですよ。体を大事になさってください」

 一礼して医務室を去ろうとしたところ、スタッフがメモ用紙を一枚渡してくれた。
 川島さんの書き置きのようだった。

 そうか、あの人にも心配をかけてしまった。後日お詫びしなくては……。
 いや、今はそれよりも。

 目覚めた瞬間から気付いている。
 会場の果てから果てまで行き渡り、外にまで響いて、今も足元をはっきり揺らす巨大な震動がある。


 音楽と、人の歓声だ。

230 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 23:47:28.37 ID:rmOYl90d0

 廊下に出たらそれは更に強くなった。壁に貼られた会場案内図を参考に、イベントホールへの経路を探す。

 ――ちょっと待て、行く気か?
 頭の隅で声がする。今まさに行われているものが何なのか、知ればこそ理性の一部分が叫ぶ。
 ――わざわざ見る気か? 何の為に?
 言い訳じみた思考と裏腹に、体は早足で廊下を進む。震動は近くなり、高らかに歌う女性の声や、合わせて轟くコールまでもはっきりと聞き分けられる。

 分厚い防音扉に手をかけて、ほんの数秒、考える。


 ――アイドルなんて嫌いなんじゃなかったのか?


 嫌いさ。その在り方が、夢に対する現実の残酷さが大嫌いだ。
 だけど、彼女達はここにいる。

 今。

 川島さんや、タクさんやヨネさんや、千川さんやみんなが作り上げたものの最前線に、今立っている。
 たとえこれが一夜の夢だとしても、その夢に懸けて進み続けてきた者達の存在は嘘じゃない筈だ。


 その一端に。輝きに、ほんの一瞬だけでも触れてみたいと思うことは、罪なのか?

231 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 23:48:45.07 ID:rmOYl90d0


 折りたたんでポケットに仕舞った、川島さんの書き置き。

 その文面が脳裏に蘇る。


『あんまり無理はしないでね。――先にステージで待ってるわ!』


 迷う理由は無い。

 体重をかけ、重い扉を、一気に開ける――

232 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 23:50:38.27 ID:rmOYl90d0





 たちまち、音の洪水に晒された。





233 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 23:51:57.99 ID:rmOYl90d0

 目の前には、きらびやかな光の海があった。

 観客たちが掲げるペンライト。闇を貫くレーザーライト。リズムに合わせたストロボフラッシュ。

 そして、浮き上がるように照らされた遠くのステージ。大きなモニター。そこに映る笑顔。

 全てが混然一体となって、会場そのものを熱狂の渦としている。


 夢でも見ているのではないかと思った。
 扉一枚壁一枚で、まるで別世界だった。
 俺が踏み込んだのはいわゆる天井席の隅っこ。ステージは遠いが、だからこそドーム状の会場が一望できる場所だ。
 客席中を染め上げるライトの波が、ざわめき、打ち寄せ、大きな流れとなるのが手に取るようにわかる。


 かわいらしい歌ならピンクに、颯爽とした歌なら青く、のんびりした牧歌的な歌ならば黄色や緑に――

234 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 23:54:22.16 ID:rmOYl90d0


『オラァ!! まだまだ終わりじゃねーんだろうなぁ!?』

 ――ワアアアアアァァァァ……!!!


 一発、殴りつけるようなギターが炸裂し、会場はいきおい燃えるような一面の赤へ。

 あ、そうくるか! なるほど、あの布陣ならここでキメキメのロックナンバーもいけるんだな。
 会場の空気が一気に変わった。面白い構成だ。あの子は確か、タクさんのところのアイドルだったろうか?

 雄々しいサウンドが嵐のように去っていき、彼女が背中を見せた時、間髪入れず次のイントロが乱入をかける。
 舞台に立つのは、なんとジュニアアイドル。それも一人だ。ポップで明るい曲調が流れ、オレンジの花畑が咲き誇る。

235 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 23:55:37.66 ID:rmOYl90d0


「おお……」


 ――面白いな。テンションを維持したまま、雰囲気がガラッと変わった。この次はどうなるんだ?
 ――やられた! 別のジュニアアイドルが合流したんだ。ユニット曲だ! これが本命だったんだな!
 ――会場全体が燃え尽きたみたいになったら、次はバラードだ。休憩時間? とんでもない。あの人が歌に込めるエネルギーを見てみろよ。
 ――おっと、その次はクール系か! また流れを変えてきたな。となると後はスタイリッシュ路線で……。
 ――えっ、何、ここでそういうノリ!? コミックバンドじゃないんだから!
 ――いや、そうだ、バンドなんかじゃない。アイドルだ。アーティストでもない。どんなノリもお手の物じゃないか。
 ――次はどうなる? ソロか、ユニットか? それとも全体曲? 川島さんの出番はまだか? もう終わっちゃったのかな――

236 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 23:56:24.18 ID:rmOYl90d0



 俺なら。

 俺なら、どうする?



237 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 23:57:36.45 ID:rmOYl90d0

 もし自分がセトリを組む側に回ったら、こういう曲の次はどう繋げるだろう?

 そうだな、ここで一つ可愛い路線の曲も欲しいな。聞く人の心が蕩けるような、胸を疼かせる恋の歌なんかを聴かせてみたい。

 デュオ曲も楽しそうだ。ミステリアスなもの、ロックやメタルな色が強いもの、ダンスミュージック的なのもアリじゃないか?

 で、いいタイミングでユニット曲を挟む。ストレートなクールさもいいし、踊りだしたくなるような情熱的な曲もきっとハマる。

 ユニットといえば人数でも変わるな。ひとつのコンセプトでピシッとまとめたのもあれば、あえて自由にやらせるようなやつも。

 個々人の個性がぶつかり合って、そこから生まれる新しい色もあるはずだ。

 あと、そうだ、和風! 和風曲が無いじゃないか。あれ、要所に配置すればピシッと決まるんだ。なんとしても適任が欲しいよな。


 で、クライマックスは全体曲で盛り上げて。メドレーか、バラードか。最後の最後は思いっきり明るいのがいいな。


 それから――始まりと終わりに、何か。


238 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/22(木) 23:59:27.30 ID:rmOYl90d0


 幕開けを希望と期待で照らし、清々しさやほんの少しの寂しさと共に幕を閉じる……そうした、一連の物語を彩るような。

 これは一人でいい。
 いわば語り部だ。舞台に咲いた大きな夢を導き、締めるような存在。

 大きなジグソーパズルの、中心となるピース。たった一つで、だからこそ不可欠な、そんな誰かの歌が――



 歌が、聴きたい。



239 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/23(金) 00:01:54.53 ID:CdWzRgmY0



「なんで忘れてたんだ」



 呟きは歓声に溶けた。

 刻一刻と進む新年に向かい、会場は一塊の熱狂となって突き進む。
 だけど俺は、まったく別のことを考えている。

240 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/23(金) 00:03:43.78 ID:CdWzRgmY0

 今この瞬間だけ、俺は舞台を忘れた。乱れ舞う光も、響き渡る歌も。モニタに大写しの川島さんの笑顔も。
 会場中をぐるっと見渡した。川島さんは言ったんだ。あの人がこの会場にいる筈だって。だけど見つけられるか?
 観客の顔なんてペンライトその他の光に塗り潰されて見えやしない。そんな中で、広いドーム会場にいる一人の顔を見分けられるのか。

 関係ない。川島さんはいるって言ったんだ。だったら絶対どこかにいる。
 視線を巡らす。黒く蠢く人の山に色を探す。一人一人の顔なんて豆粒ほどにも識別できない。けど、そうせずにはいられなくて。


 俺は、それを奇跡とは思わなかった。


 当たり前だ。奇天烈な事態になんてもう何度も遭遇してる。空を飛ぶ女、謎の夜市、永遠の桜、神のような何かの話。
 そうしたものを経験しておきながら、今ここにある一時の偶然に今さら驚嘆してはいられない。

 観客席を照らす一瞬のストロボ。その照明の先に、背が高い女性が一人いた。
 俺と同じく、天井席の隅っこ。ドームを見下ろす場所に、遠慮がちにぽつんと立ちすくむその姿が。

 目が合った。

 相も変わらず見惚れるほど綺麗な、紺と碧のオッドアイ。「一人」の中に「二人」存在する魅惑の瞳。
 アッシュグレイの髪がライトワークを受けて妖艶に輝く。

 瞬間、彼女はそっと目を伏せ、何事かを呟いて陰に紛れる。

241 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/23(金) 00:05:58.79 ID:CdWzRgmY0


 ――ごめんなさい。


 そんなことを言われた気がした。
 冗談じゃない。
 外へ通ずる扉を体当たりの勢いで開く。
 出てみればそこは当たり前の廊下だった。別世界のように静かだ。
 考える前に走り出す。一般開放されていない非常口を除けば、出口は限られている。


 ――会ってどうする?

 また頭の中のつまらない奴が文句を言う。

 どうもこうもあるか。
 今、やっと答えが見つかりそうなんだ。細かい理屈なんてどうでもいい。ただ、今あの人を見逃したら、俺はきっと一生後悔することになる。

 走り出す背に、MCの川島さんの声が響く。


『ありがとーっ! みんなの笑顔、大好きよーっ!!』


 笑顔。まだ見ていない笑顔。声に背中を押される。
 歓声が足元を揺らす。全速力で、走る。走る、走る、走る――

242 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/23(金) 00:08:34.01 ID:CdWzRgmY0
 
「きゃっ!?」

 曲がり角で人とぶつかった。

 すみません、と言った後で気付く。
 千川さんがびっくりしてこっちを見ている。

「……って、Pさん!? 倒れたって聞いたけど、体の方は……」

 大丈夫なことは見れば明らかだ。
 そんな意外と健康な男がライブ中に全力疾走して何をするつもりか。千川さんは信じられないという顔をした。

「ど、どこへ行くんですか? ライブまだ終わってませんよ!?」

「――違う……」

 息が整わない。
 ぜいぜい言いながら、絞り出す。


「違います。まだ俺には、始まってもいないんだ……!!」

243 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/23(金) 00:12:40.97 ID:CdWzRgmY0

 夜は遅い。会場を出ても、ライブの音響は全身を揺らす。
 冬の夜中は、嘘だろってくらいに寒かった。


 真っ暗な大晦日、白い雪が降り続けている。

 時刻は午後11時半。会場ではカウントダウンに向け、ボルテージが上がり続けている頃だろう。


 まだだ。まだもう少し。
 俺の手には、秋の暮れに忘れ去られた女物の傘があった。
 雪が降っていたから。予報によれば、夜に近付くにつれて強くなるとのことだったから。
 いつも使うビニ傘でもよかったけど、今日に限り、これを持っていった方がいいような気がしていた。

 奇跡ではない。

 高垣さんの残した傘を差して、激しさを増した雪の中を駆け抜ける。


 時計の針が、12時を差す前に。

244 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/23(金) 00:26:49.12 ID:CdWzRgmY0

  ◆◆◆◆


 大晦日の夜は驚くほどに騒がしかった。
 右も左もお祭りムード。街頭モニタを見てカウントダウンを待つ人々でごった返す。

 あの人はどこへ行った? 終電はまだある。ならとりあえず最寄りの駅か?
 
 いや、そんな簡単に捕まる人じゃない。
 そういえば律儀に電車に乗るとこなんて見たことないぞ。

 じゃあどこだ。どこへ行けば?

 大通りに出た瞬間、うんざりするほどの人ごみに呑み込まれる。右も左もわからなくなる。
 諦めるな。
 ここで足を止めればそれこそ全部終わりだ。
 考えろ、考えろ、考えろ――
245 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/23(金) 00:27:53.64 ID:CdWzRgmY0



 ちぃんっっ――――




 不意に、風鈴のような音がした。

 グラスの縁を、指で弾く音だった。

 その音が波紋のように周囲に染みわたり、気が付けば、周囲の人影がぱったり消え失せていた。

246 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/23(金) 00:29:43.17 ID:CdWzRgmY0


「ごきげんよう、クロさん」


 歩道沿いのオープンテラスに、いつの間にかその人はいた。
 いつものようにワイングラスを片手に持ち、首元から赤い宝石のネックレスを提げて、優雅に足を組む女性。
 彼女のことも、俺は思い出している。


「……柊さん」

 あんなに人で溢れる大通りは、今や俺とこの人の二人だけ。

 背後にはいつの間にか、例の巨大な桜が聳え立っている。

 激しさを増した降雪に、春の花弁が混ざる。

247 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/08/23(金) 00:31:00.15 ID:CdWzRgmY0
一旦切ります。ぼちぼちクライマックスです。
248 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/08/23(金) 00:46:26.48 ID:CdWzRgmY0
あとすいません、今さら修正ですが

>>210
『同じような誰かの穴を、埋めてあげられるんじゃないか……みたいな』

『似たような誰かの穴を、埋めてあげられるんじゃないかって』

でした。録音しているという設定だったのに文面が違いましたね、すみません。
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/23(金) 19:46:49.28 ID:itry+d1+o
もう泣きそう
250 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/08/31(土) 23:07:24.96 ID:zSc+xtMY0

「驚いたわ。自力で思い出すなんて想像もしてなかったから」
「知ってたんですか?」
「ええ、私は楓ちゃんに関することは全部知ってるもの」

 高垣さんは何らかの力で、俺から記憶を奪ったようだ。彼女と、彼女にまつわる出来事のすべてを。
 柊さんはそれも承知の上だったのだろう。
 だとしたら、今ここに来た理由はひとつ――


「ごめんなさい。あなたとあの子と会わせるわけにはいかないの」


251 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/31(土) 23:09:06.97 ID:zSc+xtMY0

 やはり。理由だけ聞いておきたい。

「……何故?」
「住む世界が違うのよ。あなたはもう、樒ちゃんのことも知ってるんでしょう?」

 覚えている。高垣楓の双子の姉、今なお彼女に宿る青い目の女。
 神に近いものだとすれば、間違いなく凡人の手には負えない。
 高垣さんを深く知る柊さんが見ればこそ、俺と彼女がいかに遠いかを理解しているのだろう。


「悪いことは言わないから、引き返しなさい。楓ちゃんの心配は要らないわ。あの子はまた、自由になって――」
「なって、どうするんですか」
「……」
「あのまま、独りぼっちでいるんですか?」

252 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/31(土) 23:09:53.48 ID:zSc+xtMY0

 住む世界が違う。確かにその通りだろう。
 高垣楓は、きっと余人の誰にも到達しえないずっと高みにいる。

 穢されず侵されず、而して触れられず、理解されることもなく。

 高く高くまで飛んでいって、ある時ふっと消えてしまうのだ。
 俺達凡人はその去り際にすら気付かず、誰もいない夜空を見ては「どこへ行った?」と首を傾げるだけ。

 かの人はそうして誰も届かない場所に在り、たった一人で涙を呑む。

 その理由さえ知られぬままに。

 ……だけど、一度でも知ってしまえば。


「寂しかったと、確かに言ったんだ。あれはお姉さんの言ったことだけど、高垣さんの本音でもあった筈です。なら……!」
「身の程を知りなさい」

 表面上は穏やかなまま、柊さんの纏う空気がガラリと一変した。
 その底冷えするような圧は、彼女が確かにあの「夜市」の総代であると実感させられる威厳に満ちていた。

253 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/31(土) 23:17:47.53 ID:zSc+xtMY0

「野良犬に餌をあげるのとはわけが違うの。これ以上深入りすれば、あなたは間違いなく戻れなくなる。楓ちゃんの為を思うなら、あの子が悲しむようなことはやめなさい」

 喉元に刃を突きつけられているにも等しい。
 ここは既に「大晦日の大通り」ではない。柊さんが端から端まで掌握する一種の異界だ。
 次の瞬間に何が起こるかなど、ただの人間には想像もできない。まして彼女の忠言を跳ねのけてしまえば……

 だが。

「あなたは、ひとつ勘違いをしてます」
「……?」
「高垣さんの為、じゃない。俺の為だ。俺がそうしたいから、追いかけるんだ」

 能力、ビジネス、適材適所、リスクがどうとか、相応しいとか相応しくないとか。
 そういう建前は、もういい。要らない。自分を安全圏に置きたいがためのしゃらくさい言い訳でしかない。

 変わりたくないと思っているうちは、何も変えることができないから。

「俺は絶対に高垣さんに会いに行きます。誰に嫌がられても。……そうして、ちゃんと伝えたいことがある」

254 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/31(土) 23:18:49.29 ID:zSc+xtMY0

 柊さんは、しばらく黙っていた。
 ほんの数秒ほどだろう。けれど主観的には気の遠くなるような沈黙を経て、彼女はグラスのワインを飲み干した。

「決意は、固いのね?」

 沈黙を肯定とする。
 柊さんはグラスを置き、穏やかに微笑した。
 その顎がわずかに頷いたように見えた。

 認めてくれたのだろうか?

 一瞬思ったのは、しかし甘い考えだと知る。


「なら、これが最後のお邪魔虫」


 もう一度、ちんっっ――とグラスが弾かれた。

255 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/31(土) 23:20:29.41 ID:zSc+xtMY0


 途端に生ぬるい風が吹いた。冬には似つかわしくない、花の香りを含んだ風が。
 風は一気に強くなり、数秒もしないうちに目も開けていられないほどとなって渦を巻く。

 反射的に我が身を庇い、一瞬閉じた目を開いて、その瞬きで世界が変わったことを知る。


 花弁が舞っている。


 薄いピンク色の、指に乗る大きさの、仄かな香気を纏わせる、本来春にしか存在しない筈の――桜。

 まるでそれは壁のように俺の前後左右を埋め尽くし、1メートル先も見通せない雲霞となって道を閉ざす。


 積乱雲にでも飛び込んでしまったかのような気分だ。
 花弁は夜になお色鮮やかで、よく見れば今も降り注ぐ粉雪が混ざっている。ピンクと白。文字通りの花吹雪だった。
256 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/31(土) 23:25:24.01 ID:zSc+xtMY0


『正しい道を見つけてごらんなさい』


 どこからか、柊さんの声。


『脱出する方法は二つ。楓ちゃんへ通ずる道を見つけるか、それともあなたが心の底から諦めるか』


『どちらかでなければ、永遠にそこから出ることはできない』


『……安心して。その中で、時間は無いようなもの。すべてはあなた次第よ、クロさん――――』

257 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/31(土) 23:27:21.67 ID:zSc+xtMY0

 最低限の条件だけを通達し、柊さんの声が遠ざかる。
 俺の意思を尊重した上での、これが最後の譲歩なのだろう。

 忽然と現れ、常人にはまるでわからない「法則」を示し、指先一つで超常へ叩き込む。
 越えるかどうかは神のみぞ知る。人の器量でどこまでいけるか。
 柊さんも「そういう」存在なのだろう。今更疑うまでもない。提示されるのは徹頭徹尾あっちの都合だ。

 嫌というわけではない。慣れたし。
 運命みたいなもんと思えば諦めもつく。

 だが、こっちにはこっちの都合があるのだ。
 神様も妖怪も伝説も知るか。
 
258 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/08/31(土) 23:28:51.44 ID:zSc+xtMY0
 

 ――あんたが選んだアイドルだろうが!

 ――最後まで責任持つってくらいのことが、どうして言えないんだ!!


 ずいぶん前、実の親父にそんなことを叫んだ奴がいた。
 十年近く経っても、もっともらしく分別をわきまえた振りをしていても、ずっと忘れることができずにいた。
 凡人からは凡人の答えしか出ない。
 だけどそれこそが、結局のところは、偽らざる本音だから。

「上等だよ」


 もう二度と、「寂しい」と言わせたくはない。

259 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/08/31(土) 23:33:37.47 ID:zSc+xtMY0
一旦切ります。すみません、リアルでバタバタしていて更新が遅れました。
次で冬終わります。
アニバーサリーまでに完結できるかな……(白目)
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 06:35:35.91 ID:ZaU/ye2DO


……これは背中を押すため、こっひにえっちなことしてこないとな
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 21:21:56.33 ID:Gd6k0lW1o
一旦乙
P本人の素性の方も少しずつ明らかになってるね
262 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/09/03(火) 01:14:46.15 ID:/BT2JQWN0

  ◆◆◆◆


 どれほど歩いただろう。

 景色はずっと桜吹雪。壁やら障害物の類もありはしない。

 手には高垣さんの傘。一応差してはいるものの、降り積もる花弁と雪が重くて、定期的に傾けなければ持っていられないほどだ。

 こうなると方向感覚と時間間隔すら薄れて、自分がどこを向いているのかもわからない。
 もし桜が消えれば、そこは無限に広がる平坦な砂漠なのかもしれない――そんな錯覚すら抱くほどだった。

「はぁ、はぁ……ふぅ……くそっ」
 
 いったん足を止めて深呼吸する。春と冬の混ざり合った奇妙な空気が鼻に抜ける。

 正しい道を見つけるか、心から諦めない限り、ここから出られることは永遠に無い。柊さんはそう言った。
 ことによると、永遠にこの桜吹雪を彷徨い続けるかも。なかなかぞっとしない想像だった。

「……よ、し……っ」

263 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:16:31.29 ID:/BT2JQWN0

 頬を張り、軽くストレッチをする。
 長く止まっていると余計な考えばかりが浮かぶ。
 弱い気持ちを振り払うためにも、歩き続けるしかなかった。止まらないでいるうちは、少しでも近付いていると思おう。

 さて、どこへ行こう。ヒントも目印も無い異空間の中、桜と雪のカーテンを手でかき分けるようにして歩く。

 と――

 目の前に、人影がちらついた。

「!! 高垣さ――」

 もつれるように駆け寄って、別人だと知る。

 差した傘の上に、雪と桜が降り積もっている。
 高垣さんより少し低いが、女性にしては高めの身長。すらりと細い体。
 ウェーブのかかった長い髪に、どこか憂いを湛えた静かな瞳――


「……マスター?」


 夜市の「マスター」は、俺を見て微笑した。

264 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:17:29.66 ID:/BT2JQWN0

「こんばんは、クロさん」
「どうして……ここに」
「あなたの様子を見て欲しいって、総代に頼まれたの。どこかで途方に暮れてないかってね」

 その時、情けないことに、俺は心から安堵した。

 ずっと張りつめていた緊張の糸が切れてしまった。

 まだ見捨てられていなかったと、戻ろうと思えば戻れると。
 それは甘い毒のような安心だった。

 たった一瞬でも「疲れ」を自覚してしまった時、驚くほど足が重くなる。
 これほど疲弊していたのかと、我ながら戦慄するほどに。
 身の縮むようなため息が出て、それきり、前にも後ろにも進めない。

265 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:18:32.88 ID:/BT2JQWN0

 頭ではわかっている。
 つまるところ彼女は、柊さんの仕向けた最初で最後の罠であり――

 一方で、間違いなく助け舟そのものでもあった。


「もう、いいのよ。無理をしなくても」


 傘を持っていない方の手が差し伸べられる。
 桜の地獄に差し込んだ、ただ一筋の蜘蛛の糸だ。

「あなたはよくやったわ。誰もクロさんを責めたりなんかしない。だから……これ以上、自分を削ることはやめて」

266 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:19:18.13 ID:/BT2JQWN0

 手を取れば、帰れる。いつもの日常に。
 何らおかしなことも起こらない、見たくないものは見ずに済む、自分だけの静かで平坦な人生に――


「……ごめんなさい。俺、その手は取れません」


 絞り出した声は、自分でもわかるくらいに震えていた。
 足だってそうだ。今すぐ座り込んでしまいたい。彼女の手はきっと暖かいだろう。二人分の傘はどれほど広いだろう。
 けど、今マスターの手を取ることだけは、駄目だ。

267 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:20:25.23 ID:/BT2JQWN0

「……いいのね?」
「はい。自分で決めたことですから」

 誰に許されなくとも、何に背こうとも。自分自身の弱い心にだって例外じゃない。
 出しかけた手を引っ込め、一歩後ずさる時、マスターはほんのわずかに笑みを深めていた。

 心から嬉しそうな――何か、とても眩しいものを見るような、そんな目だった。


「アイドルのことは、まだ嫌い?」
「え」


 この人にその話をしただろうか?
 覚えがない。なぜ知っているのか問いたいところだが、あの夜市の関係者ならば知っててもおかしくないのかもしれない。

268 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:21:18.01 ID:/BT2JQWN0

「いえ。……というより……」

 返事は、驚くほどスルッと出た。
 脳裏に思い浮かぶのは、今もきっと盛り上がっているであろう年越しライブの様子だ。

 あのステージを思い出すと心が躍る。
 ……とても懐かしい色の光だった。


「最初から、嫌いなんかじゃなかったんです」


「なら、どうして?」
「面白い話じゃありませんよ」
「そんなことないわ。聞かせて」

 自戒。
 あるいは、遠い日の回顧。

「……俺は、アイドルが好きでした。みんなキラキラしていて、見ているだけで楽しくて。けど……楽しいだけじゃないんだって、知ってしまって」

 憧れだった。
 プロデューサーの父親は、誇りでさえあった。
 あの頃は、いつか訪れる現実の流れになど気付きすらしなくて。

「……寂しかったんです。なんか……十年前から、取り残されちゃったみたいで」
「あなたは、ずっとそう思ってたの?」
「いや……ちょっと、違う。違うんだ。俺だけじゃない。俺よりも、もっとずっと辛い思いをした人達が……」

269 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:22:48.19 ID:/BT2JQWN0

 父親の進退やアイドル業界の裏事情や、勝つか負けるかなんてこと、本当はどうだって良かった。

 きらきら輝くあの人たちは、一体どこへ行ってしまったんだろう。
 泣いてはいないか。寒くないだろうか。寂しい思いをしてはいないだろうか。
 どこかに、安らげる場所を見つけられただろうか。

 それが、それだけがずっと気がかりで――


「――クロさんは、優しいのね」
「そんなことありません。情けなくて、未練がましいだけですよ」
「優しいわ。だって今、『そうさせたくない』人がいるんでしょう。その為に走ってるんでしょう?」

 彼女の声は、まるでずっと昔からの友への語りのように、穏やかだった。
 それは俺の心の一番奥にある、小さく冷たくて硬い最後のしこりを、たった一言で氷塊させた。

 ずっと迷子だった。

 何がしたいのか、どうすればいいのかわからなくて、あの日の残光に勝手に怯えて。

 だけど……それも無駄ではなかったと、目の前の人に肯定してもらえたような気がした。

270 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:24:13.64 ID:/BT2JQWN0

「……ありがとうございます。気が楽になりました」
「行くのね?」
「はい」

 抱えていたのは、十年越しの余計なお世話。百も承知だ。だけど忘れられないものは仕方ないだろう。
 時間がかかりすぎた。いい加減腹はくくった。
 忘れられなければ、ずっと背負って歩くだけだ。

「……総代には私から言っておくわね。あなたが無事に出られることを祈ってるわ」
「あ……ちょっと待ってください!」

 別れる前に思い立ち、マスターを呼び止める。
 最後に、お願いしたいことがあった。

「どこへ行けばいいか、教えてくれませんか?」

「……誰かに答えを聞くのは反則よ? それに、私も正解を知ってるわけじゃないわ」

「それでいい。どこでもいいから、俺はあなたに決めて欲しいんです」


 何故そんなことを言ったのか。
 行き先に迷ってヤケクソにでもなったか。
 自分でもわからない。

 だけど、この人が示す方角へなら、脇目も振らず走り抜けられる自信があったから。
 根拠など一つもなくとも、確信に近い思いがあったから。

271 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:25:32.19 ID:/BT2JQWN0
 
 マスターは少し考えた。
 やがて傘を閉じ、風に舞う花吹雪に総身を晒す。

「――今からこの傘を倒すわ。倒れた方角が、あなたの向かう先」

 そうきたか。
 立てられた傘は、運命を決めるにはいかにも頼りなく思える。

「私自身は選ばない。あなたにも決められない。いわば運みたいなもので決めるの。……それでもいい?」

 すぐさま頷き返す。
 それじゃあ――と、軽い合図と共に、傘がマスターの手を離れる。

 細い傘は風に煽られ、ゆらり、ふらり、と頼りなく揺れて……
 ちょっとびっくりするほどの間を置き、倒れた。

 俺から見て、右斜め後ろの方角。

272 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:26:31.99 ID:/BT2JQWN0

「ありがとうございます!」

 礼を告げ、一散に走る。
 さっきよりもずっと足が軽い。傘が示す方向へ、一ミリもぶれずに走り抜けられる自信がある。

 考えてみれば簡単なことだった。
 360度平坦な桜吹雪の道は、どこを選んでも正解なんてわからない。
 どうせ正解がわからないのなら、こっちがやることは一つ。
 ただ、迷わなければいい。


 短いがとても安心する時間だった。迷いを振り切るに充分すぎる。

 マスターは遠ざかる俺の背を見送り、互いの姿が見えなくなる直前――

273 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:28:35.71 ID:/BT2JQWN0




「がんばってね、P君」




 弾かれたように振り返る。

 そう呼んでくれる声の響きを、知っている。

 呼ばれたのは一回だけだ。
 だって、直接会ったのもたったの一回なんだから。
274 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:29:44.71 ID:/BT2JQWN0

 どうして今まで気付かなかったんだ。

 忘れていない筈じゃないか。親父に連れられて見せてくれた、あのはにかんだ顔を。
 今にして思えばどうして会わせてくれたのか。
 小さな事務所だったから、プロデューサーの息子に顔くらい見せようって計らいだっただろうか。

 ちゃんと覚えてるんだ。
 サインだって貰ったんだ。
 今でも実家の額縁に飾ってある筈じゃないか。
 だけどあの時の俺は、同年代のアイドルの子があまりにも眩しくて、ろくに話さえもできなかった。


 俺だって、この人のファンだったじゃないか。


「……瞳子ちゃん?」


 服部瞳子。


 名前だけがずっと心の奥底に焼き付いて離れないでいた。
 その幻影に囚われて、今の姿に気付かないなんて馬鹿な話があるか?

275 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:31:17.55 ID:/BT2JQWN0

「振り向かないで。待たせてる人がいるでしょう?」

「瞳子ちゃん……! お、おれ、今まで……っ」

「いいの。私、嬉しいのよ。また元気なあなたに会うことができて」


 霞む視界の向こうに、彼女の笑顔がぼやけていく。
 見えなくなってしまうのは、桜のせいか、それとも自分のせいだろうか。

 熱く滲む景色の中、瞳子ちゃんは、俺が行くべき方角をまっすぐに指差した。


「私は大丈夫よ、P君。あなたの場所を見つけたら……その時にまた、お話しましょう」


 ああ、話そう。きっと長い話になる。
 その時はコーヒーを淹れて欲しい。あれはすごくおいしかったから。

 ……けど、それは今じゃない。

276 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:31:49.14 ID:/BT2JQWN0

 踵を返す。もう振り返らない。
 代わり映えのしない吹雪の中に、はっきりと一筋の道が見えた気がした。

 それがどこに繋がるとしても、果てにはきっと、目指すものがあると信じた。

 走る。

 走る……

 走る………………

277 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:33:00.33 ID:/BT2JQWN0

  ◆◆◆◆


 身を切るような北風と、雪と、光に浮かされた明るい闇の中にいた。

 走って走って、気が付けば飛び出ていた。
 もう桜の花弁はどこにも無い、何もかも元通りな、大晦日の夜中だった。

 出られたんだ。

 ていうかどこだここ。

 路上……でもない。公園っていうのでもないし。妙に開けた場所で、風ばかり強くて、遠くには夜景がちらつく。
 
 ――ワァァァァァァ……!!

「うおっ!?」

 足元が揺れて仰天した。地震かと思ったが違う。
 それは大勢の歓声で、しかも真下から聞こえた。
 地面はどうやら鉄か何かみたいで、油断すれば滑ってしまいそうだし、微妙に歪曲していた。

278 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:33:58.55 ID:/BT2JQWN0

 ……これ、ドームの屋根か? 年越しライブ会場の?

 灯台下暗しというか、なんというか……上だけど。
 見つからないわけだ。柊さんが介入しなければ、俺は街中を探してどんどん遠ざかっていたかもしれない。

 十メートルくらい先の小さな人影に、俺はとっくに気付いていた。


 ほら。
 こんなところに、一人ぼっちで座って。

279 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:37:39.42 ID:/BT2JQWN0

 地上では、人々を魅了するカリスマを発揮して。空とか飛んで、いつも泰然としていて。
 そうかと思えば妙ちくりんなジョークで笑って、酒をぐいぐい飲んで、好き勝手にこっちを振り回して。
 怖いものなんて何もありませんって顔をして……それでも。

 一人でいる時は、ずっとそうしていたのか?

 細い体を小さく折り畳み、ぎゅっと両膝を抱えて。
 すぐ背後に迫る孤独から身を隠すように。
 誰にも見つからず、気付かれもせず、人々の歓声を遠く聴きながら。


 歩み寄って、傘を差し出した。
 もともと相手の傘だ。
 綺麗な髪に雪を積もらせていた彼女は、夢から覚めたような顔をして、こてんと顔を上げる。


 目が合う。

 何か言われる前に、こちらが口を開く。

 きっとこれから何度も繰り返す言葉の、それが最初の一声だった。

280 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:38:19.16 ID:/BT2JQWN0




「アイドルになりませんか?」




281 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:39:31.87 ID:/BT2JQWN0

 二色の目が、丸く大きく見開かれた。

「…………だけど、私は……あなたを、連れ去ってしまいます」

「違う。あなたがじゃない。俺が、あなたを連れて行くんだ」

 雪は降り続ける。重く足元を揺らす音や歓声も今や遠い。

「約束する。そこは、すごく楽しい場所になる。そうしてみせる。あなたと俺だけじゃない、これが最初の一歩です。
 毎日がお祭りみたいで、退屈してる暇も、寂しいだなんて考える暇もないんだ」

 闇の中でもなお映える瞳が、それぞれの色にいっぱいの夜を写し取っている。
 諦めと、最後の一線での拒絶を宿して。
 
「……いいんでしょうか。私も、姉さんも、そんなことをしてもらえるような……」
「逃げないでください!」

 高垣楓の方が、びくんと大きく跳ねた。

282 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:40:35.29 ID:/BT2JQWN0

「俺ももう逃げません。あなたが何者だろうと構わない。お姉さんも同じだ!
 全部あなたの一部です! 何が起こっても、みんなまとめて連れて行ってやる!」

 堰を切ったら止まらない。心の奥底で溶けたものが濁流になり、声となって迸り出る。
 ……だから。
 
「だから、行くな」

 月の無い夜で良かった。灯りが遠い屋根の上で良かった。
 お前が言うなと、言われそうだったから。


「どこにも行くな……! こんなところで、泣くなよ!!」

283 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:41:32.04 ID:/BT2JQWN0



 ――かえちゃん。
 ――見つかったねぇ。



 どこかから、優しい声がした。目の前の人と同じ声だった。
 残響が風に溶けて消える頃、高垣さんは立ち上がっていた。

 なんて顔をしてるんだ、と思った。

 だけどこれもまた、高垣楓という人の本当の姿なのかもしれない。

284 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:42:18.64 ID:/BT2JQWN0


「――っ」

 息を呑み、呼吸を整える。
 それを待つ。高垣さんは喉元を軽く押さえ、ためらうように小さくかぶりを振る。

「――〜〜〜〜……っ」

 ただ、待つ。一つの傘の下で、高垣さんは唇を引き結び、真面目な顔を作ろうとする。
 だけど、無理だった。
 とうとうくしゃくしゃになる。いつもの涼しげな美貌はどこへやら、まるでそれは幼い女の子のようだった。
 やっと見つけてもらった迷子みたいに、けれど視線だけは決して外さずに。

 青と碧の両目から、大粒の涙をぽろぽろ零しながら。



「はい」


285 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:42:55.79 ID:/BT2JQWN0


 ――ワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!


 うわびっくりした!!
 真下から、今度こそ爆発のような歓声が巻き起こる。それは屋根を突き破って二人を打ち据え、高く高く雪の空にまで轟いていく。
 一瞬、二人してぽかんとした。高垣さんに至っては涙を拭うことも忘れていた。

 …………あ。

 腕時計を見てやっと気付く。

 年が、明けたんだ。たった今。

286 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/03(火) 01:44:54.37 ID:/BT2JQWN0

 屋根の上のなにやら間抜けな沈黙をよそに、下は下でこれでもかと盛り上がっていた。
 見つめ合うことしばし。新年なら、何はなくとも言わなきゃならない気がして、

「……あけまして、おめでとうございます?」

 それがなんかツボに入ったのか、高垣さんは「ぷふっ」と口元を押さえて。


「――おめでとうございます」


 涙を流したまま、綻ぶように笑った。


 12時を回った時計の針は、当たり前だが、進み続けている。


  【 冬 ― 終 】
287 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/09/03(火) 01:46:14.50 ID:/BT2JQWN0
一旦切ります。
次回エピローグです。
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/03(火) 06:20:02.48 ID:IAkZOk24o
一旦乙です
やはりマスターはあの人だったか
再スカウトはどうなのかな
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/03(火) 07:07:19.87 ID:fFqMwXjDO
実は既にスカウト済みだったりして
290 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/09/05(木) 00:52:23.97 ID:9I+qLSeE0

  【 いつも : ここにいる 】


「――――もしもし、母さん?」


「ああ、いや、大したことじゃないんだ。うん。うん、元気。仕事? 仕事は……まあ」

「あのさ。親父、そっちにいる?」

「うん、じゃあちょっと換わってくれるかな。少しでいいから――」


「…………久しぶり」

「別に、今更どうこう言うつもりじゃない。けど……けど、一応さ。報告っていうか」


「俺、アイドルのプロデューサーになるから」


「それだけ。……ああ。わかってる」

「いや、いいんだ。伝えときたかっただけだから」


「ああ。――じゃあ、また」

291 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 00:56:59.24 ID:9I+qLSeE0

  ◆◆◆◆


 大体いつも企画書に手こずる。
 今日も今日とて、深夜の会社。必死こいてPCと向き合う俺のデスクに、すっと影が差した。

「じゃんっ♪」

 見上げると、コンビニ袋を持った千川さんが。

「……千川さん。……スタドリでしたら間に合って」
「何言ってんですか、夜食ですよ夜食。何か食べとかないと倒れちゃいますよ」

 中には最寄りのコンビニで買ったらしきおにぎりやサンドイッチが入っていた。ありがたい。
 給湯室でインスタントの味噌汁を作って一休みしていたところ、千川さんがぽつりと切り出した。

「それにしても、びっくりしちゃいました」
「え?」
「まさかほんとにプロデューサーを目指すなんて。Pさんあんなこと言ってたのに」
「それはまあ、色々ありまして」
「あ、さてはこの間のライブでついにアイドルの良さに気付きましたね? ていうかあの後どこ行ってたんです?」

 話していいのか悪いのか。
 鮭おにぎりをアツアツの味噌汁で流し込み、適当にはぐらかして作業に戻る。
 千川さんは何が楽しいのか、隣のデスクから頬杖を突いて俺の仕事を見守っている。

292 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 00:57:55.50 ID:9I+qLSeE0

「ねえ」
「はい?」
「Pさんは、どんなアイドル事務所を作りたいんです?」

 どんな、か。
 ビジョンというか、コンセプト、もっと言えばビジネスプランの話でもある。
 無策で突っ込んでどうにかなる世界でもない。もちろん幾つか考えているが、何より――

「――誰かの、居場所に」

 考えてのことではない。
 言葉が口をついて出て、止まらなかった。


「ファンもアイドルも……いつも、いつでも、自然な笑顔でいられる。そんな……誰かの居場所になれるような、そういう事務所を、作ります」


293 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 00:58:53.85 ID:9I+qLSeE0

 抽象的に過ぎるだろうか。展望としてはどうにもふわっとしている。
 だけど思い付いてしまったのだから仕方が無い。
 
 千川さんは少し驚いたように目を丸くして、

「……ふふっ」

 やおら、自分のパソコンを立ち上げた。

「資料、送ってください。私も手伝います」
「は? いや、悪いですよそんな」
「いいから。そのペースだと明日に間に合わないでしょ」

 そう、決戦は明日だ。
 本当ならもっと余裕を持ちたかったところだが、アイドル部門の統括――今西部長が直近で空いているのが、その日しか無かったのだ。
 ありがたい。ここは甘えさせてもらおう。

「すみません、それじゃお願いします」
「はーい。うふふ、後で何奢ってもらっちゃおっかな〜♪」

 ……やっぱり裏あったわ。

294 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:00:00.08 ID:9I+qLSeE0

  ◆◆◆◆


「ふんふん。なるほど……ね」

 正直、採用面接の時よりも緊張する。
 今西部長のオフィスに通されて、俺は彼が出来立てホヤホヤの企画書に目を通していくのを固唾を飲んで見守っている。

「――最初は驚いたよ。あんなに渋っていた君が、まさか自分から部署の立ち上げを希望するとはねぇ」

 しみじみと、部長。穏やかな目尻には何かを懐かしむような気配があった。

「勝手なことを言って申し訳ありません」
「いや、構わないよ。意気を示すのに早いも遅いもないからね。優秀な人材であれば、うちはいつでも大歓迎だ」

 もちろん、彼の発言には含意がある。
 優秀な人材であれば――裏を返せば、そうでなければ要らん、ということ。ごく当たり前の話だ。

 部長は眼鏡の奥の温和な瞳を、一瞬ぎらりと閃かせた。

「さて……当アイドル部門は、ありがたいことにどこも多忙だ。君がそこに食い込めるか、我々の時間を消費させるに足る人材なのかだが――」

 息を呑む。

 ここからが本番だ。

295 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:01:11.94 ID:9I+qLSeE0

 そこから鬼のようなダメ出しが始まった。企画内容の現実性、将来性、短期長期の展望と具体的なスケジュールの詰め方。
 こちらとしても頭を絞ったつもりだが、相手は海千山千の古強者。隙だらけも甚だしいと言わんばかりの突っ込みはぶっちゃけこれまでの出来事の中でも一番キツかった。
 しかしこっちも気圧されてはいられない。冷静で的確な指摘に一つ一つ答え、一歩も退かぬ構えで喰らい付く。

「しかし、君はこれをどう――」


「いいと思います」


 書類をまとめ、部長の隣に座る大柄な男が口を挟んだ。
 部長の直属の部下だという彼は、俺やヨネさんやタクさんからは先輩にあたる人だ。

「……笑顔というところが、特に」

 そう言う本人は巌のような表情筋をピクリとも動かさないのだが、だからこそ滲み出る説得力みたいなものがあった。
 今西部長は言葉を切り、困ったように笑う。

「うーむ……私もそれで締めようと思っていたのだが、どうも先を越されてしまったようだ」
「……申し訳ございません」
「構わんよ。後はどう細かいところを詰めるかというだけの話だったからね」

296 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:08:48.36 ID:9I+qLSeE0

「え……と。それでは……?」
「コンセプトは良い。君の発想に欠けているのは、我が社の設備や人材、コネクションをどう効率的に使うかという視点だよ。プロデューサーを名乗る以上、そこを外してはいけない」
「ご存知の通り、弊社は業界の各所に太いパイプを持ちます。独力にこだわらず、使えるものをフルに活用してこそ、かと……」

 要するに――と、部長はペンを軽く振った。熟練の魔法使いのような手つきで。

「明日にでも走り出せるかどうか、という話だ」
「……!」

 張り詰めていた空気が、部長の笑顔でゆるっと弛緩した。
 その一言で、足先から脳天にまで煮え滾るような達成感が満ち満ちた。

「ごく個人的な感想としては、君がその気になってくれてとても嬉しく思う。アイドル部門へようこそ」
「わからないことがあれば、ご質問ください。お力になれるかと思います」
「ありがとうございます!!」

 椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、深々とお辞儀をする。
 やった。
 いや、これからだ。まだ何も成し遂げてはいない。だが、ひとまずは、壁を越えた。最初の壁を。

 まずはより具体性を詰めた企画書の作り直し。部長には認めて貰えたが、正式の社の会議を通るかどうかはまた壁だ。
 いや、やってみせよう。まだ始まってもいないのだから。

297 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:10:19.56 ID:9I+qLSeE0

「どういう心境の変化があったのかは、敢えて聞かないよ。ただもう一つ……君の最初の一手を聞いておきたい」
「最初の一手、ですか?」
「今になって飛び込んでこようと言うんだ。何か秘策があるんじゃないかね?」

 秘策というほどのものでは。
 けれど、最初のアクションはもちろん考えている。


「モデル部門の高垣楓を、うちに引き抜きます」


 部長のペンが落ちた。
 隣の先輩もぽかんとしている。
 これまで聞いたどんな展望よりも信じられないという顔で、部長は一言、ぽつりと。


「……本気かね?」


298 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:11:45.54 ID:9I+qLSeE0

  ◆◆◆◆


 ここでアイドル高垣楓の初仕事を紹介しておこう。

 346プロオリジナル推理ドラマ、「元婦警探偵サナエの事件簿 〜からくり地獄温泉の罠〜」。
 役柄は、舞台となる旅館の新人従業員。

 被害者役である。なんかの巻き添えで開始20分くらいで死ぬ。

 それはもう楽しそうに死んでいた。
 何度リテイクを喰らったか知れない。放映当初はモデル界で名の知れた「あの高垣楓」がこうなるものかと、社内外で物議を醸したようである。
 モデル部門にも話は通しておいたが、「働きすぎてついに正気を失ったか」と囁かれてもまったく文句の言えない所業であった。
 クランクアップ後にロケ地の温泉に浸かり、日本酒を傾けながら彼女は言ったものだ。

 ――たまには、死ぬのもいいものですねぇ。

299 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:13:55.89 ID:9I+qLSeE0

   〇


 それから、色んなことがあった。
 本当に、数え切れないくらいの色んなことが。



「今日付けでこの部署の専属アシスタントとなりました、千川ちひろです。よろしくお願いします♪」
「はい、こちらこそよろし…………は?」

 うちの部署が記されたナンバープレートを掲げ、見慣れた事務員がにんまり笑っていたり。


「おッッッッッ前マジ早く言えそういうことはマジでお前!!!」
「高垣!? 高垣楓ってあの!? Pさんマジで引き抜いちゃったのか!!?」
「痛い痛い痛い折れる折れる折れる!!」

 馴染みの居酒屋で、同僚たちに祝福だかリンチだかわからないやつを受けたり。


「それでそれで、結局どうなったの? 君と楓ちゃんはどういうアレなの?」
「な〜によもう隅に置けないわねぇあの子も! ほらほらお姉さん達に白状しちゃいなさい黙秘権は認めないわよ!」
「いやだからそういうのじゃありませんて近い近い近い近い」

 何かの折の飲み会で、川島さんら先輩アイドルに厄介な絡み酒を喰らったり。

300 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:15:24.53 ID:9I+qLSeE0

「君のお父上から電話があったよ」
「それは……仕事についてでしょうか?」
「いいや、ただの近況報告さ。色々と懐かしい話をした。……元気そうで何よりだ」

 激務の合間に、部長と缶コーヒーの乾杯をしたり。


「時にはこのように街に出て、スカウトを行うこともあります」
「なるほど……」
「これにはお伝えできるノウハウはありません。ただ、直感だけが頼りとなります。貴方の目で、輝きの原石を見つけ出してください」
「わかりました。当たって砕けろの精神ですね。……あと」
「はい……?」
「……後ろでこっちガン見してるの、警察の巡回じゃありません?」
「!?」

 スカウトの心得を実地で教わっていたところ、ポリスのお世話になりかけたり。


「なるほど。君が新しく設立された部署のプロデューサーか」
「よ、よろしくお願い致します。私は――」
「いや、いい。有能であれば名前は嫌でも覚える。今後とも励みたまえ」
「はい! ……え? な、何ですかこれ?」

 会社の偉い人から、なんか飴貰ったり。

301 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:19:52.26 ID:9I+qLSeE0

 始まりは、デスクの他にはダンボールばかりの、資材倉庫再利用の地下オフィス。
 デビュー当初の高垣さんの仕事は主にバラエティ、旅番組、街頭で着ぐるみを着て風船を配ったりも。
 
 彼女は、自ら進んで「高垣楓」を崩していった。

 美しく、近寄りがたい高嶺の花。そんなイメージを放り捨て、ただ一人の、等身大のアイドルであろうとした。
 俺はそれを全力でサポートした。とにかく何でも仕事を持ち込んだ。クイズ番組で駄洒落を飛ばした時はさすがに血の気が引いたが。


 そういう風にして、季節は巡る。

302 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:21:19.51 ID:9I+qLSeE0

  〇


 または、忙しさもほんの少し落ち着いた、いつかのある夜のことだったり。


 高垣さんはその夜、上機嫌だった。
 ローカルCMの仕事を一件終え、その流れで久しぶりに飲んでいた。

「夜桜」
「はい?」
「綺麗ですねぇ。八分咲きといったところでしょうか」

 見上げる先には、街路樹の桜。柊さんが従える「あれ」ほどではないが、かなり立派だ。
 冬は終わり、もうすっかり春になっている。
 風は花葉の香りを含んで、酒に火照った顔を涼しく撫で去っていく。

 最初に会った時みたいだなぁ、ということをなんとなく思った。

「昨日、モデル時代からお世話になってる美容師さんと会ったんです」
「そうなんですか?」
「そうなんです。――前より、よく笑うようになったと言われました」

303 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:22:15.85 ID:9I+qLSeE0

 確かに、高垣さんはこのところよく笑う。時にはふっと穏やかに、時には子供みたいにけらけらと。
 そうした予測不可能な天真爛漫さがウケて、今では若年層のファンも相当数ついている。

 彼女自身が元から持っていた魅力の一部だ。アイドルの仕事は、単にそれを引き出しただけに過ぎない。

 子供っぽくも、神秘的に。「高垣楓」は、そのどちらの面も併せ持つ。どちらか一方だけではいけないのだ。
 そうでしょう――と、俺は彼女の左側の青に内心で語りかける。

「楽しいから、ですね。楽しいんです。私、いま――楽しいなぁ」

 夜空に向かって歌うように告げて、高垣さんはふと足を止める。

「今まで……ずっと、何かを、追いかけていた気がします」
「はい?」
「それが今、何だったのか、わかってきたような」

304 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:22:51.47 ID:9I+qLSeE0

 彼女は自分で自分の顔に触れた。
 目を閉じて、顔の左側。泣きぼくろを備えた左眼のあたりを撫で、形のいい柳眉、まぶた、長い睫毛にそっと触れて。

 そこに宿る大切なものと、言葉を介さず語り合う気配。

 しばしの間を置き、目を開く。

 まっすぐに俺を見据える瞳は、どちらの色も、どこまでも穏やかだった。


「今なら、歌えそうです」


305 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:26:18.69 ID:9I+qLSeE0

  ◆◆◆◆


 高垣楓のステージは、街角のごく小さなものだった。

 CDショップのささやかなイベントスペース。ミニライブといった感じで、50人も座れれば上等な方だろう。
 実はずっと待っていた。彼女に歌の仕事はいくつか来ていたのだが、これまでは全て断ってきていた。

 本人が「歌いたい」と言うまで。

 曲を用意して会場を手配し、トレーナーさんを付けてスケジュールを組み、セッティングは当の高垣さんが呆気にとられるくらいのスピードで進む。
 当たり前だ。一分一秒が惜しい。
 他の誰よりも、俺自身がどれほど聴きたかったと思ってるのか。


 会場の入りは、まあまずまずといったところ。
 新人アイドルのデビューと聞いて来た人、たまたま通りかかった人、モデルの高垣楓を知っていた人。
 ほとんどの人は半信半疑。どんなもんかと思っているだろう。暇つぶしくらいのつもりで来ている人もいるだろう。

 彼らは幸運だ。
 これから、最初の証人になるだろう。のちのち自慢できるぞ。あの高垣楓の生歌を最初に聴いたってな。

306 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:27:18.95 ID:9I+qLSeE0


 舞台が始まる。

 まばらな拍手。

 ステージ衣装を着込んだ高垣さんが、おもちゃみたいな舞台に立って。
 お客さんの一人一人の顔を見て、一礼。

 空気が変わる。彼女は微笑んでいる。

 マイクを握って、息を吸い込み――――



 歌う。



307 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:28:59.33 ID:9I+qLSeE0

  ◆◆◆◆

 ―― 夜市 桜舞う境内


「ああ……聞こえているわ、楓ちゃん、樒ちゃん」


「…………本当に、いい歌」


「ふふ……ワインでも贈ろうかしら。あの子がデビューした、この年に生まれたものを……」 


308 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:29:33.43 ID:9I+qLSeE0

  ◆◆◆◆

 ―― 夜市 参道


「あ……♪」


「カナリヤさん、そっちに行ったんですね」


「うん。暖かな、いい風……。素敵な写真が撮れそう♪」

309 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2019/09/05(木) 01:30:07.05 ID:9I+qLSeE0

  ◆◆◆◆

 ―― 鹿児島 とある離島


「……ふむー?」


「今、因果のよじれが、どこかにー……」


「……ああ。なつかしき風を感じましてー」


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