ほむら「エヴァンゲリオンVS魔法少女 最後の戦い」

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136 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:24:29.72 ID:UNrJknVn0

ネルフ本部 司令室

司令室というにはあまりにも広大な空間に、三人の人影が浮かんでいる。
一人は椅子に座って机に肘を置き、口元を覆うように手を組む男。
もう一人はその男のすぐそばに立って腰の後ろに手を回した初老の男だ。

どちらも厳格な雰囲気を漂わせてはいるが、今すぐに何かをするような素振りは見せず、淡々と構えている。
そしてそんな威厳のある二人を前に完全にリラックスした調子で佇む男がいた。
加持リョウジである。

加持「碇司令に頼まれていた例の件、探っておきましたよ」

彼の言葉を聞いた男――碇ゲンドウは、表情をまったく変えることなく沈黙を維持した。
ゲンドウの隣に立つ冬月はそんな彼の態度に呆れるように溜め息をこぼすと、仕方なく、といった風に口を開いた。

冬月「例の件というと、コード707のイレギュラーかね」

加持「ええ。コード707……第壱中学の件です。ご存知のとおり、シンジ君たちの通う学校は諜報部が監視の目を光らせているテリトリーです」

冬月「そこに、本来であれば予定にない転入生。他の組織の介入やスパイの危険性を考慮するのは当然だな」

加持「それでさっそく調べてみましたが……やはりヒューマンエラーによる偶発的な事故の線が濃厚かと」

冬月「ふむ」
137 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:25:58.90 ID:UNrJknVn0

加持「対象の第壱中学への転入自体は保護者の意向だそうです」

加持「本来ならここで跳ね除けられるべき案件なんですが、どうも書類の不備と管理ミスで通してしまったとか」

加持「シンジ君たちのクラスへの編入は職員のミスであることが判明しています。他のクラスの生徒の数とあのクラスの生徒数を考慮した結果かと」

冬月「組織ぐるみではなく、手続きミスが重なり合った結果か。君個人の見解はどうかね」

加持「昨日、軽く接触してみました。が、印象としてはただの子供です。可愛いもんですよ。素性もリッ……赤木博士に頼み込んでMAGIに調べてもらいました」

冬月「それで?」

加持「セカンドインパクト後に産まれたのは確かです。ただし両親は不明。一人で廃墟をさまよっていたところを五歳のときに民間の施設に保護され、まっとうに成長」

加持「転居の理由は『社会勉強』だそうです。第3新東京市が日本の最先端なんで色々と学ばせたいんだとか。……ただ、『美國コンツェルン』の経営する施設の出身という点は気になります」

加持「なんせ保護者の名義は美國織莉子、本人ですからね」

冬月「美國コンツェルン。NERVの利権にあぶれたものの、国内でもトップクラスのあの企業か。碇、どう思う?」

冬月が尋ねると、ゲンドウは首を縦に振った。

ゲンドウ「……これまで通り、パイロットの監視と保護さえ怠らなければ問題無い。子供に出来ることなどたかが知れている」

冬月「ふむ。なら監視は解除してもいいな。ただでさえ人手不足なのだから」

加持「そう仰って頂けると助かります。まっ、俺の方でも暇があったら何度か接触してみますよ」

冬月「ああ、頼んだよ」
138 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:26:50.22 ID:UNrJknVn0

加持は肩をすくめると軽い足取りで部屋の外に出て行った。
それを確認した後、冬月は組んでいた手を顎に添え、首を傾げる。

冬月「……学校だけならまだしも、あのクラスとはな。データ上はただのミスでも、本来ならばありえない事態だ」

ゲンドウ「ヒューマンエラーはよくあることだ。それにマルドゥックの件を知る者が少ない以上、下手に手を回すのも勘繰られる。特に彼にはな」

冬月「確かに、それもそうだな」

ゲンドウ「万が一にも工作員だった場合は排除すればいいだけの話だ」

冬月「……子供を排除するというのは好かんがね」

しかし、と冬月は視線をそらす。
窓に映る超広大な空間、地下に設けられた巨大な地下空洞であるジオフロントを見ながら、彼は眉をひそめた。

冬月(暁美ほむら、か。聞き覚えの無い名前ではあるが、しかしあの顔……どこかで見たような気もするな)

データにあった、黒い髪の少女。
その顔を思い出し、彼は目を閉じた。

冬月(……いや、俺の考え過ぎか。やれやれ、碇のせいで余計なことまで悩むようになってしまったな)
139 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:28:11.73 ID:UNrJknVn0



高層マンション

ほむらはカーテンすら取り付けられていない窓のそばに立つと、朝日を浴びるように軽く伸びをした。
何気なく首を振って、軽く視界を確認。

ほむら「……どうやら監視は付いていないようね」

キュゥべえ「高層マンションだからね。外から監視するのは難しいんじゃないかな」

ほむら「狙撃ポイントならざっと数十箇所あるわ。無駄に高いマンションやビルが多いから」

キュゥべえ「それでも十分に距離が離れているじゃないか。仮に撃たれても君の結界を貫けないよ」

ほむら「それでも、一度撃たれてしまえばそれで終わりよ。私の正体が露見すれば全ては御破産。面倒くさいわね」

キュゥべえ「今のところ監視が付いていないのなら、ひとまずは安心していいんじゃないかな」

ほむら「言われなくても。……それにしても、美国織莉子の杜撰な工作のせいでせっかくの優雅な朝が台無しね」

ほむら「朝日がこんなにも眩く輝いているというのに――私に会えることが嬉しくすぎて太陽も思わずハッスルね」

キュゥべえ「無視するけど、今回の件は杏子も関わってるよ」

ほむら「佐倉杏子は良いのよ。美国織莉子はほら、私が嫌いだから」

今回の第3新東京市潜入は、まず美國コンツェルンの裏工作によって『十年前から用意していた』戸籍を第3新東京市に移動させることから始まった。
そこから業者を介して仕掛けた魔法によって認識を誤魔化し、
書類のミスを誘発させて第壱中学に転入するためのチケットを手に入れる。

さらに事前に潜入した佐倉杏子の幻惑魔法によって職員に暗示をかけ、
無理やりパイロットの教室にねじこませることに成功したのだ。
140 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:30:19.43 ID:UNrJknVn0

キュゥべえ「相変わらず彼女には手厳しいね」

ほむら「手を緩める可能性はゼロよ」

キュゥべえ「初対面のときなんか危うく殺しかけてたよね」

ほむら「あれはドッキリよ。初対面の相手にナイフをお尻の割れ目にねじ込まれて寸止めされた人間はどんな顔をするのか、というドッキリ」

ほむら「あの美国織莉子も梅干しを口に詰め込まれたみたいな顔して観客は大ウケ。主に私が」

キュゥべえ「そばにいた呉キリカはキミを本気で殺す気だったけどね」

キュゥべえ「……でも不思議だなぁ。ボクの知る限りでは、キミは彼女に何かをされたわけじゃないはずなんだけど」

ほむら「語れば長くなるわ。――漫画本で二冊程度の話になるから」

キュゥべえ「嫌に具体的だね。話を戻すけど……事前にキミがこの街に潜入していれば、色々ともっと簡単だったんじゃないかな」

ほむら「去年は旧東京の調査、七ヶ月前はワルプルギスクラスの大魔獣との戦闘、三ヶ月前はセクトの鎮圧と忙しかったのだから仕方がないでしょう」

ほむら「特にセクト。あのテロ屋共、何度潰しても湧いて出てくる……」


セクトとは、セカンド・インパクト後に現れたとある宗教の過激派グループの名称である。
事実上のテロリストであり、その活動範囲は世界規模だ。
日本ですら何度かその攻撃の対象になっている。
141 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:31:33.81 ID:UNrJknVn0

キュゥべえ「まだ生き残りがいるらしいよ、彼ら」

ほむら「ゴキブリ並みの生命力ね」

キュゥべえ「ゴキブリは被害が少ないからまだいいよ」

ほむら「ともあれ、美国織莉子の『第八の使徒撃破後』という注文には応えたのだから問題はないはずよ。まして先月なんて……なんと言ったかしら、あの男」

キュゥべえ「時田シロウのことかな」

ほむら「そう、警察に護送される予定だった時田氏を襲撃、護送車を爆破する段取りまでやったあげたのだから」

キュゥべえ「あの織莉子が十三回も君にお願いをして、ようやく折れた君が彼女に一切連絡を取らずにやってのけたあの襲撃事件だね」

キュゥべえ「顔面蒼白になって急いでキリカを向かわせたときの織莉子のコメント、聞きたいかい?」

ほむら「私の鮮やかな手口と慈悲深さに感涙するところまで容易に想像できたから遠慮しておくわ。文句を言われる筋合いがないのは確かね」

キュゥべえ「小言を言われる筋合いはあると思うけどなぁ」

ほむら「大事になってから言いなさい」

キュゥべぇ「ああ言えばこう言う……」

ほむら「それが大人というものよ」

キュゥべえ「魔法少女の少女とはいったい……」
142 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:33:48.07 ID:UNrJknVn0

キュゥべえ「それより、これからの予定は?」

ほむら「……学校に通うのは明日からだから、余裕があるわね」

キュゥべえ「それじゃあ当面の生活のために買い出しにでも行く?」

ほむら「そうね……せっかく広い部屋なのだから新しい調度品が欲しいところね。添え付けのクローゼットはともかくテーブルすら無いのはどうかと思わなくもないし」

キュゥべえ「まずはベッドだよ。いつまでもフローリングに転がって寝るのはどうかと思う」

ほむら「高層マンションだし、業者に苦労かけさせるのも心苦しいでしょう。それにベッドはあなたが勝手に入ってくるから嫌なのよ」

キュゥべえ「いつも蹴っ飛ばすくせに……じゃあ布団で寝る?」

ほむら「……素直にベッドにしましょう。ついでにあなた用の犬小屋でも買って帰ろうかしら」

キュゥべえ「犬扱いはこの際無視するけど、庭付き2階建てならそれもいいかな」

ほむら「鍵は外側だけで良いのよね? 内装は花が多めで良いかしら。
    三年前に杏子に撮ってもらった、釣り針に引っかかって海にダイブするあなたと、
    それを見て釣り竿片手に爆笑してる私のツーショット写真も入れておくわね。あとあなたが生前愛用していたルービックキューブも収めてあげる」

キュゥべえ「今気付いたんだけど君が想定しているのは犬小屋じゃなくて棺桶じゃないかな」

ほむら「あらやだうっかり」

キュゥべえ「この子は……」

ほむら「冗談はさておき、買い出しはいいわね。善は急げ、さっそく準備しましょう」

キュゥべえ「やれやれ」
143 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:35:16.84 ID:UNrJknVn0

クローゼットに押し込まれた服を見比べながら、ほむらはふと顔を上げた。
隣でどうでもよさそうにルービックキューブをいじっているキュゥべえに目を向ける。

ほむら「佐倉杏子と連絡を取る件なのだけれど」

キュゥべえ「ああ、盗聴されてないんだし良いんじゃないかな」

ほむら「電波を辿られる危険性は?」

キュゥべえ「……いや、今のところその手の干渉はなさそうだ。君たちの持っている携帯電話は美國コンツェルンの特別なカスタマイズが施された物だからね」

ほむら「ふむ……」

キュゥべえ「なにか思うところでも?」

ほむら「この街にあなたの別個体は何体いるの?」

キュゥべえ「今は杏子のところくらいだよ? この街にはなぜだか魔獣が出現しないからね。ボクらがたむろしても意味が無いよ」


――魔獣。
人の妬み嫉む心や憎しむ悪く念、いわゆる呪いと呼ばれる負の感情によって生み出されるこの世ならざるもの。
人類の負の感情を餌に顕現し、人類から精気を奪ってさらに力を蓄え、世界に干渉して『歪み』を正そうとするものだ。

歪み。およそ人には感知できず、インキュベーターにとっても理解されない世界の間違い。
それを正そうとする魔獣は世界からすれば救世主であり、聖職者に等しい在り方かもしれない。
だが人類からしてみればその行為は『搾取』であり『攻撃』にほかならない。

魔獣を倒すことで魔法少女はグリーフキューブという結晶を手に入れることが出来る。
それを利用することで魔法少女の持つ魔力機関、魂そのものであるソウルジェムの穢れを浄化できるのだ。
そして穢れを宿したキューブをインキュベーターが収集し、そのエネルギーを宇宙に還元するという名目であれこれ多角的に利用している。

しかし、この第3新東京市には魔獣が出現しない。
これは事前の調査で判明していることだ。
魔獣が産まれないということは魔法少女が生きていくのに適していない環境であるということに等しい。


ほむら「その原因の調査もいずれ行わないといけない、か……」

キュゥべえ「NERVが関与しているのは確かだろうけどね」

ほむら「彼らが私達のような存在に気付いていないとしたら、偶発的に引き起こされていることになる。その原因になりそうなものといえば……」

キュゥべえ「エヴァンゲリオンだね」
144 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:36:08.81 ID:UNrJknVn0

頷き、ほむらは服を取り出した。
黒のワンピース。鏡の前で身体に重ねて見てみる。

ほむら「黒……気分的にはもう少し明るい色なのだけれど、これも悪くないわね。
    なんとなくだけれど、この街で黒い女は周りの個性に埋もれなくてキャラが立ちそうな気がするわ。逆に白はダメ。相手が強すぎる……」

キュゥべえ「戯言は無視するけど、ホットパンツは? 動きやすくて気に入ってるって言ってたじゃないか」

ほむら「あれは佐倉杏子と被るでしょう。死にたいの?」

キュゥべえ「無茶苦茶な……」

ほむら「まぁこれでいいでしょう。ほら、外に出なさい」

キュゥべえ「もうちょっとでルービックキューブが完成するから待ってぎょっ!?」

キュゥべえの体をすくい上げるような角度と勢いでほむらの右足が振り上げられた。
きれいな放物線を描いてキュゥべえが部屋の外に飛んでいく。

ほむら「蹴り飛ばしたわ」

キュゥべえ「とうとうただの事後申告になったね……」

しっかりと扉を閉めてから、いま着ている衣服を脱いでいく。
スカートから足を抜いたところで、そういえば、とほむらは思い出したように口を開いた。

ほむら「そうじゃなくて、佐倉杏子のところにあなたはいるのでしょう?」

キュゥべえ「いるよ。それがどうかしたのかい?」

ほむら「それならあなたが私達のメッセージを中継すればいいじゃない」

キュゥべえ「えぇー……」

ほむら「テレパシーは無駄に魔力を食うでしょう。距離も遠すぎると使えないし、電波も今は念のために使いたくない。その点あなたたちなら利用し放題パケ放題」

キュゥべえ「残念だけど、それは無理だね。ちゃんと理由が」

ほむら「無能」
145 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:37:02.92 ID:UNrJknVn0

キュゥべえ「最後まで聞こうよ。ちゃんと理由があるんだ」

ほむら「というと?」

脱いだ衣服をちゃんと畳み終えると、ほむらはワンピースに袖を通した。
鏡の前で一回転。
イケる。

ほむら「鏡を見たらとんでもない超絶スーパーウルトラ美少女がいて焦るわ」

キュゥべえ「世迷い言を無視するけど、杏子の居場所が悪いんだ。彼女はいまゲームセンターで遊んでいるからね」

キュゥべえ「しかもクレーンゲームで三十回連続成功達成中で周りにギャラリーが大勢いる。さすがにこの状況でボクに話しかけたら怪しまれるよ」

ほむら「ゲーセン通い……飽きないのかしら」

キュゥべえ「それに杏子のところにいるボクはしばらくしたらこの街を離れる予定だからね」

ほむら「なぜ?」

キュゥべえ「佐倉杏子と暁美ほむら、この両名がこの街に集中しているということが何を意味するかは分かるだろう?」

ほむら「人手不足ね。魔法少女本来の使命である魔獣狩り方面での」

キュゥべえ「本来であれば君たちが集めるはずだったグリーフキューブが手に入らなくなってるわけだからね。代わりを埋めるために大忙しだよ」

ほむら「……主張は分かったわ。まぁ、いいでしょう。監視がなければ佐倉杏子とは表でも接触できるし」


キュゥべえ「分かってくれたみたいだね」

ほむら「ええ、分かったわ無能」

キュゥべえ「分かってくれぬみたいだね」
146 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:37:31.19 ID:UNrJknVn0


第3新東京市 ショッピングモール外

ほむら「買い出しはこの程度でいいかしら」

キュゥべえ「十分だと思うよ。家具類の配送は夕方だっけ?」

ほむら「ええ。即日配送なんて気が利いてるわね」

キュゥべえ「じゃあそれまで暇になるね。これからどうするつもりだい?」

ほむら「そうね……食事にでも行きましょうか」

キュゥべえ「ボクはイタリアンでいいよ」

ほむら「ペレットでも食べてなさい」

キュゥべえ「……まあペレットでもいいけど」

ほむら「不貞腐れないの。それよりあなたの扱いにも困るところね……」

自分の肩に寄りかかっているキュゥべえを見て、ほむらは舌打ちした。

キュゥべえ「やおら酷いけど、どうして困るんだい?」

ほむら「盗聴機を仕掛けられたら面倒でしょう。それに独り言をつぶやいているようで抵抗もあるわ」

キュゥべえ「テレパシーでいいじゃないか。魔力的な問題はあるけれど微々たるものだし」

ほむら「他人事だと思って……やはり『あの手』を使ったほうが良いかもしれないわね。どうせ『彼ら』には見えているんでしょう、あなた」

キュゥべえ「それはそうだけど……あれかー……うーん……」
147 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:38:16.58 ID:UNrJknVn0

と、そこでほむらは足を止めた。
すぐそばにある店の看板に目を留め、興味があるかのように軽く腰を落とす。
そのまま身体を看板へ向けたまま、視線だけを左にそらした。

「どうしたんだい、ほむら?」

肩に乗ったキュゥべえの問いかけを無視して、ほむらは視線の先を注視する。
道路の先、いくつかの信号を跨いだそのさらに奥に見える人影を捉えた。

「見付けた」

「なにを……ああ、いや。なるほどね」

キュゥべえはほむらと同じ方向を向いて、納得したように頷いた。
視線の先には三人の子どもたちが並んで歩いている光景がある。
一人は少年で、他の二人は少女だ。
勝ち気そうな少女が先を行き、そのあとを少年ともう一人の少女が後を追うように続いている。

「報告にあった外見通りだね」

「ええ。正直、ここで出くわすのは危険ね」

「ここでコネクションを作るのもありじゃないかな?」

「引っ越した翌日にいきなり接触はマズイでしょう。接触するなら学校の、より自然なタイミングで、ね」

三人の行先が自分とかぶっていないことを確認すると、ほむらは一息ついた。
彼らの顔をほむらは知っている。その外見的特徴を、性格を、その実態を、ほむらは理解している。
彼らこそは、この街における重要な鍵となる存在。

ほむらが接触すべき対象であり、保護、ないし排除すべき対象でもある存在。

汎用人型決戦兵器 人造人間エヴァンゲリオン――そのパイロット。
チルドレンと呼ばれる、運命を仕組まれた子供たちだ。
148 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:38:42.87 ID:UNrJknVn0

「ちょっと待ってよアスカ、本部に行くんじゃないの?」

「ちょっとゲーセン寄ってくだけよ、べつにいいでしょそのくらい」

「そんなまた勝手に……どうしよっか、綾波」

「先に行くわ」

「ああ、うん……じゃあまたね、綾波」

魔法によって強化された聴覚が捉えたのは、どこにでもいる普通の子供の会話だった。
ともすれば無関係の子供たちだと思いかねないほどに、普通の会話だ。

だが『本部』というワードが出てきたのは看過できない。
本部とはおそらくNERV本部のことを指しているに違いない。

「やはり彼らで間違いないないようね……」

「追いかけるかい?」

「やめておくわ。さすがにリスクが高すぎる。……ねえ、聞いてもいいかしら」

「質問の内容によるね」

「彼らの素質は、どう?」

ほむらが尋ねると、キュゥべえは丸く紅い瞳を閉じて考え込むような仕草をした。
それから数秒の間を開けて彼は言う。

「世界を救う英雄。あるいは世界を滅ぼす悪魔。そのどちらかと言われれば、信じてしまいかねないほどの因果を背負っているね」
149 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:39:16.29 ID:UNrJknVn0

魔法少女の素質とは、契約以前の状態でどれだけの人々に影響を与えるか、またその魂の在り方によって大きく左右される。
文字通り世界を救っているエヴァのパイロットがそれほどの素質を背負っていたとしても不思議ではない。

「想定通りね。魔法少女になった場合は?」

「キミでは到底太刀打ち出来ないだろう。元の素質が桁違いだ」

「念の為に聞いておくけれど、契約するつもりはないでしょうね」

「今のところはね」

「それを聞いて安心したわ。……ん?」

ほむらの視線が動く。
青い髪の少女がはなれ、二人となった彼らの先に一人の少女が立っていた。

どこかで見た顔、どころではなく、つい昨日見た顔。
一緒に車に乗った顔で、十五年来の付き合いになる人物の顔を見て、ほむらはため息を吐いた。

「タイミングが悪すぎるわね」

「確かに。これはちょっと出来すぎてるね」

二人がトーンを落とした声でささやきあうのを尻目に、その『知り合い』は――

『佐倉杏子』は、チルドレンである二人に向かって軽く手を振った。
150 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:39:42.40 ID:UNrJknVn0

杏子「やっほー。遅かったじゃん? 今日は来ないのかと思っちまったよ、アスカ」

アスカ「色々あるのよ、事情ってやつが」

杏子「ふーん? で、シンジはなにしてんの?」

シンジ「買い物だよ。佐倉さんは……またゲーセン?」

杏子「ご明察。メダルゲームでバカ勝ちしたからあんたらにも分けてやるよ、三時間は潰せる量だからさ」

シンジ「いや、僕はいいよ。あとで本部に向かわなくちゃいけないし」

アスカ「そうそう、分かったらさっさとゲーセン行くわよ。今日こそ杏子をぶっ潰すんだから!」

杏子「今日こそ、ねぇ……杏子だけに?」

シンジ「自然とダジャレを……あ、気付いていないんだ」

アスカ「はぁ? なに言ってんの?」

杏子「まあなんでもいいや、じゃあ一戦だけプレイしてこうぜ」
151 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:40:08.34 ID:UNrJknVn0





ほむら「……佐倉杏子の仕事は調査と保護が目的じゃなかったのかしら」

キュゥべえ「接触して調査し、間近で保護しているのは確かだね」

ほむら「そんな報告、受けていないのだけれど」

キュゥべえ「杏子ならちゃんとマギカ・レコードには報告していたよ」

ほむら「あの死ぬほど恥ずかしい会議で?」

キュゥべえ「もちろん」

ほむら「まったく……それにしたって、保護対象と友達になってどうするつもりよ」


ほむらは何度目かになる深い溜め息を吐いた。
152 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:41:34.95 ID:UNrJknVn0

第三話 ほむら、買い出し 完

第四話 笑う、転校生 に続く
153 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:45:28.33 ID:UNrJknVn0
美國コンツェルン:一般情報

日本ではトップクラスの美國コンツェルンだが、同時に欠点も抱えていた。
それはまだ起業してから十五年程度の急成長の企業故の信頼の無さである。
これが足を引っ張り、美國コンツェルンは第三新東京市の建設やNERVの関連事業にはほぼ携われていない。
持ち株会社のいくつかが五次下請けでわずかに関わっているのに留める。

そのため、日本重化学工業共同体と同じく、NERV利権にあぶれたあぶれ組として影で揶揄されている。

なお、会長である美國織莉子氏は本来『美国織莉子』という名前であり、父親は元国会議員でもある。
汚職事件をきっかけに自殺しており、そういった経歴や名前を変えている点をマスコミや対立企業に非難されることも少なくない。

美國という性を名乗っているのは、セカンドインパクト以降のごたごたで戸籍情報が入り乱れ、旧字体になってしまったためである、と本人は説明している。
154 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/21(木) 02:52:28.70 ID:UNrJknVn0
今回の投下は以上
次回からようやくまともにクロスし始めます
お膳立て終了といった感じで
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/21(木) 19:27:56.42 ID:UL8zPaDYO
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/22(金) 05:50:49.51 ID:t5wFIqX0O
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/23(土) 20:51:21.37 ID:tYgt/KEE0
>>153
元国会議員?
158 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/23(土) 23:46:43.67 ID:/ZOiCtFO0
投下します
いまさらですけど「TV版新世紀エヴァンゲリオン」の世界がベースとなっているので
この世界の海は青いです、はい

>>157
すごい着眼点です!

本作においては本編・新約がごちゃ混ぜになり、なおかつエヴァの世界観とクロスさせるため
超短期間ではありますが国会議員になっていたという設定です。
……ほとんど本編に関係ないですけどね!
159 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/23(土) 23:50:32.08 ID:/ZOiCtFO0

第二東京 美國コンツェルン本社ビル 会長室

広すぎるわけでもなければセフィロトの樹が描かれているわけでもなく、
高価なソファや椅子、机、時計といったもので飾られた、ごくごくありふれた会長室。

その最奥である会長専用の席に、美国織莉子は座っていた。
三十を超えながらも二十代のように若々しいと社員に評判の彼女は、机の上に組んだ手に顎を乗せ、端正な顔に深い皺を刻んでいた。

織莉子「……定期連絡が来ないわね」

織莉子がつぶやくと、隣に立って書類の束に目を通していた呉キリカが肩をすくめた。
“とある事情”によって右目を眼帯で覆っている彼女は、さもありなんという風に織莉子に振り向く。

キリカ「不良娘のことかい? アレはつくづく性根が腐っている。やはり十五年前の時点で殺しておくべきだったかな」

織莉子「……キリカ。あなたもいい加減に彼女と仲直りできないの?」

キリカ「あの女と和解するくらいなら新種の温泉ペンギンと交尾したほうがマシだね」

織莉子「もういいわ……」

キリカ「それよりも織莉子、例の計画なんだけど」

織莉子「どの計画かしら」

織莉子が尋ねると、一枚の書類がキリカの手から渡された。
そこに書かれているのは、巨大な人の形をした設計図とそれに伴う資金の動きだ。
160 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/23(土) 23:51:57.70 ID:/ZOiCtFO0

キリカ「《次世代型極所作業用巨大人型重機開発計画》……いわゆるNG計画。
    及び、それを隠れ蓑にした《EC計画》についてもだ。ダミーが4%、本命が5%も遅れている」

織莉子「本命が5%はまずいわね。ダミーへの予算追加投入を行って、ダミー経由で本命に回してちょうだい」

キリカ「また株主がひっくり返りそうなことを……《JA暴走事件》からまだ日が浅いんだよ?」

《JA暴走事件》。
日本重化学工業共同体がNERVのエヴァンゲリオンに対抗して開発した無人兵器が暴走し、あやうく都市部でメルトダウンを起こしかけた事件のことだ。
その事件の規模の重さから、責任者や関係者の多くが逮捕、または書類送検されている。
そしてその代表者である時田シロウ氏は――警察によって護送中に起きた“テロリストによる不幸な襲撃事件”に巻き込まれ、車ごと爆破された。

しかしながら、それらは問題ではない。
問題なのはその事件によって美國コンツェルンが推し進めていた人型機械の開発にケチが付いてしまった点だ。
織莉子は書類を机の上に置くと、投げやりにかぶりを振った。

織莉子「最悪の場合、また予知魔法を使って投機で稼ぐだけよ」

キリカ「さすがは織莉子、そういうところも素敵だ。……まあ、美國コンツェルンはキミの能力によって築き上げられたものだからね」

織莉子「十五年よ。さすがにこれだけの体制を整えるのには苦労したわ」

キリカ「惜しむらくは、NERVの計画に携われなかったことか……北米の第二支部にM-03《トパーズ》を送り込むことは出来たが」

織莉子「逆に取り込まれて食い殺される危険性がなかったことを喜ぶべきかしら?」

キリカ「さて、どうだろう。幸か不幸か、それは全てキミの思うがままに、だよ」

織莉子「そう言ってくれると嬉しいわ、キリカ」

161 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/23(土) 23:53:22.98 ID:/ZOiCtFO0

織莉子は軽く首を回すと、机に投げ出した書類に目を落とした。

織莉子「なんにせよ、《次世代型極所作業用巨大人型重機開発計画》については指示の通りに。本命の代表者にも伝えておいてちょうだい」

キリカ「オーケー、疾く伝えよう。……しかし、果たして彼は役に立つのかな?」

織莉子「立ってもらわなければ困るわ。そのために暁美ほむらに十三回も頭を下げたのだから。
    それに計画を進めるためにM-06《サファイア》をカンヅメにしているわけだし」

キリカ「『機械いじりはもう嫌だ! 私に小説を書かせろ!』と騒いでいた彼女か」

織莉子「ええ。コンツェルンはもういいわ、それよりマギカ・レコードの方はどうかしら?」

キリカ「人手不足が激しい。グリーフキューブの貯蓄にはまだまだ余裕があるけど、このままだといずれは枯渇するかもしれない」

織莉子「M-04《ルビー》と彼女の二人がいないだけでこれとはね。もちろんNERV対策に他の魔法少女も向かわせていることもあるのでしょうけれど」

キリカ「このままだと通常業務に差し支えが出るね」

織莉子「M-05《オパール》とM-07《ガーネット》に魔法少女の教育と魔獣狩りの効率化を急がせましょう」

キリカ「承知。……プレイアデス聖団の影響力が強くなりすぎるのも困るが」

織莉子「彼女たち以上に優秀なチームもいないでしょう」

キリカ「三人よらばなんとやら、か」
162 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/23(土) 23:56:44.54 ID:/ZOiCtFO0

織莉子「《AAM計画》は?」

キリカ「現時点では進捗無し。M-06《サファイア》の手が空かない限りは至難だよ。無論、理論の研究自体は進めているらしいが」

織莉子「NG計画とEC計画、AAM計画はリンクしているわ。いずれも並行して進めてちょうだい。《パンドラ計画》は?」

キリカ「然り。事前準備が四割方、と言ったところかな。想定と比較して2%の遅れもないよ。
    もちろん、君の御父上のコネクションが機能していることも確認済みだ。……問題は、交渉材料がない点かな」

織莉子「それは暁美ほむらに期待するしかないでしょうね。……《DSSD計画》は?」

キリカ「サッパリ。M-12《コーラル》の制御は不可能だ。今は死海を離れているらしいが……所在すら掴めていない」

織莉子「……鳴り物入りの問題児に期待しすぎるのも考えようね」

キリカ「悪意が無いだけ不良娘よりはマシだよ」

織莉子「《DSSD計画》自体は保険のようなものだし、仕方がないと割り切りましょう」

キリカ「それが良い」

織莉子「さ、気を取り直して仕事をしましょうか」


仰せのままに、と恭しく頭を下げるキリカを見て、織莉子はそこで初めて笑った。
163 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/23(土) 23:57:11.47 ID:/ZOiCtFO0

第壱中学 2-A 教室内

朝のホームルームに備えて自分の席に着席したシンジは、右手前の席に座る友人へ目を向けた。
メガネを掛けたそばかすの少年――相田ケンスケが、なにやら不思議そうな顔でこちらを眺めている。
その視線に内心で驚きと不安を募らせつつ、シンジは尋ねた。

「な、なに? どうかしたの?」

「碇、エヴァのパイロットって三人だけだよな?」

「え? うん、そう……だと思うけど」

だよなぁ、と彼は肩をすくめた。
ケンスケは机の中から一枚の紙を取り出してみせる。

「パパのパソコンにもパイロットが増えるなんてニュースは無かった。そりゃあエヴァが無いんだからパイロット増やしても仕方ないよな」

「そうなのかな?」

「そうなんだって。エヴァはパイロットの専用機。シンジも初号機にしか乗ってないだろ?」

「そういえばそうだね」

シンジはエヴァ初号機の専属パイロットであり、他のエヴァに搭乗したことは一度しかない。
それだって緊急時かつ同じパイロットである惣流・アスカ・ラングレーに振り回された結果だ。
エヴァが増えない以上、パイロットも増えることはない。ケンスケの言葉は理に適っている。
だけど、とケンスケは手に持った紙をひらひらと振りかざした。

「パイロットは増えない。でもクラスメイトは増えるんだよなぁ」

「クラスメイトが……それじゃあ転校生が来るってこと?」
164 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/23(土) 23:57:37.53 ID:/ZOiCtFO0

「なんやケンスケ、それほんまか?」

シンジの言葉を受けて、別の人間が会話に割り込んできた。
いつの間にか背後に立っていた、ジャージの似合う友人――鈴原トウジ。
彼が怪訝そうな顔でこちらを覗き込む。

「本当だよ。さっき日誌を取るふりして職員室で書類ガメてきたんだ。女子だってさ」

「また女子かいな!」

「うん。にしても変わってるよな、この時期に転校生だなんて。ここを出ていく生徒は後を絶たないのにさ」

エヴァと使徒が度々戦闘を行っている第3新東京市では、被害を恐れて街を脱出するケースが多い。
このせいでこの第壱中学に通う生徒数は大きく減少していたことをシンジは思い出した。

「エヴァのパイロットのシンジに、同じパイロットの惣流。と来たら次もパイロット……って思ったんだけどなぁ」

がっかりしたように肩を落とすケンスケにシンジは苦笑する。
すると、前の方の席に座っていた少女――同僚にして同級生かつ同居人である惣流・アスカ・ラングレーがぐるりと顔を向けてきた。
彼女は鼻を鳴らして大きく胸を張ってふんぞり返る。

「はん、そんな簡単にパイロットが増えるわけないでしょ? 選ばれた天才なのよ、チルドレンは!」

「国語の点数低いくせに……」

「漢字が読めないんだから仕方ないでしょ! だいたい私の国籍は日本じゃないもーん日本語は国語じゃありませーん」

「アホらし……天才の言葉とは思えへんな」

「あん、やる気!?」

まあまあ、とシンジは頬を引きつらせて二人を落ち着かせる。
二人が引き下がるのを見てほっと一息つくと、同じパイロット仲間の少女――綾波レイの様子を窺ってみた。
彼女は我関せずとばかりに外を眺めていた。

「……綾波って、成績はどうなんだろう」

その疑問は、誰の耳にも届くことはなかった。
そうこうしている内にホームルームの時間になり、先生がやってきた。
委員長の洞木ヒカリの号令と共に全員が起立し、例をしてから着席する。

そして、先生が口を開いた。

「えー、今日は転校生が来ています。……入りなさい」

その直後、教室の戸が、ガラ、と開かれた。
165 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/23(土) 23:58:46.85 ID:/ZOiCtFO0



先生「うむ。それじゃあ自己紹介を」

ほむら「……暁美ほむらです」

おー、と唸るような声が教室内に生まれる。

トウジ「なんや、えらいべっぴんさんやな」

ケンスケ「綾波や惣流に負けず劣らず……正統派って感じだね」

ヒカリ「こら、そこのバカ二人! 失礼でしょ!」

ほむら「……」

先生「他になにかないかね?」

ほむら「あ、はい。以前は第二東京に住んでいました。まだこちらに来て日が浅く、右も左も分かりません。……どうぞ、よろしくお願いします」

先生「うむ。暁美の席は……空いている席に自由に座るといい」

ほむら「はい、分かりました。それじゃあ……」

何気なく教室内を見渡すと、ほむらは適当に選んだかのような仕草で首を縦に振った。

ほむら「そこの真ん中、右側の席にします」

シンジ「あ、僕の隣だ……」

ほむら「これからよろしくね」

シンジ「う、うん。よろしく」
166 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/23(土) 23:59:15.85 ID:/ZOiCtFO0



休憩時間

同級生「ねえねえ、暁美さんってどうしてこっちに越してきたの?」

ほむら「社会学習の一環……みたいなものよ」

同級生「暁美さんの髪、すっごくきれいだね! どこのトリートメント使ってるの?」

ほむら「美國コンツェルン傘下のシャフト製薬の無添加シャンプーとトリートメント」

同級生「暁美さん、なにか部活入る気ある? バスケ部はいつでも大歓迎だよ!」

ほむら「ごめんなさい、私インドア派だから」

次から次へとやってくる質問をさらりと切り抜け、ほむらは息を吐いた。

ほむら(転校回数が二桁超えている私にかかればこれくらい余裕ね……ふ、ふふ……)

決して自慢できない特技に仄暗い笑みを浮かべていると、今度は男子から声をかけられた。

ケンスケ「ずばり! 暁美さんはエヴァのパイロットだったりしない!?」

ほむら「!?」
167 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/23(土) 23:59:54.06 ID:/ZOiCtFO0

ほむら(……さすがにこの質問は予想してなかったわ。どう返したものかしら……)

ちら、とシンジを含めたパイロットの様子を窺う。
窓の外を眺めている青い髪のファーストチルドレン以外はこちらに疑問の視線を向けていた。
パイロットに警戒されるのは好ましくないな、とほむらは首を傾げてみせる。

ほむら「……エバーの……パイ?」

ケンスケ「……」

ほむら「えっと、なんの話かしら」

ケンスケ「……なーんだ、やっぱり違うのか」

ほむら「エバーのパイロットってなにかしら? 隣のあなたは知ってる?」

シンジ「え? えっと、うん、まあ……一応は」

ほむら「そう。興味があるから教えてもらえるかしら。あなたの名前は?」

シンジ「ぼ、僕? 僕は……えっと、碇シンジです」

ほむら「よろしく。碇シンジくん」
168 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/24(日) 00:00:26.91 ID:7Bbxp8Ei0

軽い自己紹介を経て、ほむらはシンジを中心としたグループから詳しい話を聞いた。

ほむら「……つまり、あなたたちは巨大人型ロボットを運転していると?」

シンジ「うん。ロボットっていうか人造人間……らしいんだけど」

ケンスケ「人類が持ちうる科学の粋を集めたロマン溢れる存在、それがエヴァンゲリオン! なのさ」

トウジ「シンジたちがおらんかったらワシら全員とっくに死んどるんや」

ほむら「へえ……」

いまいち信じられないというふうに生返事を返しつつ、ほむらは椅子の背もたれに身を預けた。

どうやらエヴァのパイロットやエヴァの存在自体は、このクラスでは半ば公然の事実となっているらしい。
中には親が研究所に努めている生徒もいるようだ。本来ならば機密漏洩もいいところだが、
そこはあくまでも子供。さほど重要な秘密を知っているわけではないため見逃されているのだろう。

特にエヴァに関しては目新しい情報を得ることは叶わなかった。
これに関しては、米国NERV第二支部に潜入している同僚からある程度の情報が既にもたらされているためでもある。
“かつて世話になった”魔法少女の顔を思い出し、ほむらは眉をわずかに下げた。

ほむら「……その話が本当なら、碇君や惣流さん、綾波さんにはお礼を言わなければならないようね」

シンジ「へ? いや、いいよそんなお礼だなんて……僕はそんな……」

ほむら「それでも言わせてちょうだい。世界を守ってくれて、ありがとう」

シンジ「……」
169 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/24(日) 00:01:36.56 ID:7Bbxp8Ei0

碇シンジは顔を背け、恥ずかしがる――というよりも、困惑していた。
そんな言葉を向けられる資格はないんだと、そういう意志を言外に匂わせていた。
サードチルドレンはナイーブで内向的で葛藤持ち、と記憶に付け加えておく。

アスカ「そこの転校生、バカシンジなんかよりもこのアタシに感謝しなさい!」

ほむら「ありがとうございます」

アスカ「……なんか事務的に感じるんだけど」

ほむら「本心なのだけれど」

アスカ「フーン……まっ、べつに感謝されたくてやってるわけじゃないし、どうだっていいわよ」

トウジ「無茶苦茶やんけ!」

ほむら(なんというか……セカンドチルドレンは面倒臭い子ね)

エヴァのパイロットが以下に優れた存在なのか語り始めたアスカから目を離し、窓際にいる青い髪の生徒を見る。
青い髪の女子生徒はこちらに対して完全に無関心を決め込んでいた。
興味が無い、というよりそもそも意識の中に無いのかもしれない。

ファーストチルドレンは孤独を好む冷静タイプ、と記憶に付け足す。

ほむら(青い髪……ね)

ファーストチルドレンと同じように青い髪をした中学生をほむらは知っている。
物静かな彼女とは異なり、元気ハツラツとしていて好奇心旺盛。義理に篤く真っ直ぐな子だった。
かつては頼り、共に戦い、最期を看取り。
憎み、邪魔な存在だと蔑み、不要だと切り捨てたこともあった。

だけど、今なら分かる。
彼女は。
友達のことを心配し、そして好きな人のためにその生命を燃やしたあの子は――
170 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/24(日) 00:03:42.73 ID:7Bbxp8Ei0

ほむら「良い子だったわね」

アスカ「はぁ?」

ほむら「なんでもないわ。それより、エヴァの話って私が聞いても良かったのかしら」

シンジ「……どうなんだろ?」

ケンスケ「ある程度は平気だろ? ミサトさんだって俺たちを太平洋艦隊の旗艦に乗せてくれたんだしさ」

トウジ「あれは酷いクルージングやったなぁ」

ヒカリ「あんたたち、そんなことしてたの?」

アスカ「そう、聞いてよヒカリ! このバカったら初対面でいきなりね!」

ケンスケ「ああもう、汚い話はやめてくれよ! とにかく、そういうわけだから気にしなくていいって」

ほむら「そ、そう。でも聞いてばかりでは申し訳ないわね。……あ、そうだ」

我ながら嘘くさいな、と思いながら、ほむらは鞄を膝の上に置いた。

ほむら「貴重な話が聞けたお返し……というわけではないけれど、あなた達にも紹介しておくわ」

アスカ「紹介ぃ〜? アンタ、まさかペットでも持ち込んだんじゃないでしょうね?」

ほむら「同じようなものよ。……ほら、出てきなさい」
171 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/24(日) 00:04:58.31 ID:7Bbxp8Ei0

ファスナーを開けてぽん、と側面を軽く叩いてみせる。
すると勢いよく鞄の中から白い物体が飛び出してきた。
それはするりと流れるようにほむらの身体を伝い、肩に飛び乗って来る。

?????「ぷはぁ! ようやく出てこられたよ」

トウジ「うわっ、なんやこいつ!?」

シンジ「猫が喋った!?」

ヒカリ「猫っていうよりリスじゃない? でもリスも喋らないわよね?」

アスカ「動物が喋ってたまるもんですか!」

ほむら「良いリアクションね。ほら、自己紹介」

軽く指で小突いてやると、肩に飛び乗ったそれは赤い瞳をぱちくりさせながら言葉を発した。

?????「初めまして! ボクの名前はキュゥべえ!」

シンジ「きゅーべえ……?」

キュゥべえ「ボクと契約して、友達になってよ!」


アスカ「うっさんくさ……なにこれ、ペットにマイクでも取り付けてるわけ?」

ケンスケ「いや、違う。まさかこれは……あああああああ!?」

アスカ「うわっ、なによいきなり!」

トウジ「どないしたんや?」

ケンスケ「あ、あ、暁美さん! もしかしてこれって自律思考AI搭載型マスコットロボット『べえくんシリーズ』の最新モデルじゃないか!?」

ほむら「ふふ……よく気が付いたわね」
172 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/24(日) 00:06:29.93 ID:7Bbxp8Ei0

説明しよう!
自律思考AI搭載型マスコットロボット『べえくんシリーズ』とは、美國コンツェルンが製造、販売しているおもちゃである!
子供から大人まで愛されるあなただけのお友達、をコンセプトに開発された本機は、
既にシリーズ全体の生産台三百万台を突破し、世界中で愛されているのだ!

特に搭載されているAIは非ノイマン型コンピュータであり、人間そっくりな柔軟な対応が可能となっている!
この『べえくんシリーズ』はブラックボックス化された特殊AIの柔軟さが最大の売りであり、
高性能な人工知能の最高な無駄遣いであると批判されるほどの性能を誇る!

現時点での最新モデル『ハチべえくん』は、お値段なんとたったの三桁万円!
サラリーマンのお父さんにはとてもではないが手が出せない高級玩具である……!


ケンスケ「……というわけで、それはそれは凄い玩具なんだよ!」

ヒカリ「それ、聞いたことあるかも」

トウジ「ロクべえくんってやつなら見たことあるで! もっとゴッツくてブサイクやったな!」

シンジ「……えーっと、でも最新型はハチべえなんだよね? この子、キュゥべえって言ったような」

ケンスケ「そう、そう、それだよ! 去年発売されたハチべえくんが最新モデルなんだ! でもこいつはキュゥべえって言ったんだ!」

ケンスケが指を指すと、キュゥべえは若干引き気味に返事をした。

キュゥべえ「そうだね、相田ケンスケ。ボクはキュゥべえ。まだ正式に発表すらされていない非売品なんだ」

ケンスケ「うおぉおおぉ……なんてスムーズな会話なんだろう! 凄い凄い、すごすぎる!」

アスカ「なんでそんなのがここにあるわけ?」

キュゥべえ「ボクの所有者である暁美ほむらは、美國コンツェルンの会長である美國織莉子の保護下にあるからね」

ケンスケ「えええええええええ!?」
173 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/24(日) 00:07:39.02 ID:7Bbxp8Ei0

ほむら(この子、リアクションがいちいちうるさいわね……)

ケンスケ「ってことは暁美さんって、あの美國会長の娘さんなのか!?」

ほむら「いえ、あくまで保護者というだけで血縁関係はないわ」

ケンスケ「あ……そうなんだ。悪い、ちょっと無神経だったかな」

ほむら「気にしないでちょうだい。……そういうわけで、最新モデルの試作型を何台か生産して、そのデータ収集を目的に渡されたのがこのキュゥべえよ」

シンジ「そっか。でもすごいね、普通に喋れるなんて」

キュゥべえ「最新のAIを搭載しているからね。こうして何気ない会話を積み重ねることで、ボクらはより良い方向へ学習、修正されていくんだ」

アスカ「にしたってなんかうさんくさいわね。特にこの赤い目、これがうさんくさいのよ。いやらしい赤い目!」

キュゥべえ「ず、ずいぶんと赤い目にこだわるね……」

トウジ「赤い目っちゅーと綾波も赤い目やな。肌も白いしなんや似てるなぁ」

アスカ「……」


ほむら「外観はさておき、キュゥべえがうさんくさいという意見に関しては……」


ほむらはくすっと笑った。


ほむら「心底、同意しておくわ」
174 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/24(日) 00:08:40.43 ID:7Bbxp8Ei0

第四話 笑う、転校生 完

第五話 侵入、ジオフロント に続く
175 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/24(日) 00:17:49.37 ID:7Bbxp8Ei0
べえくんシリーズ:広報公開情報

美國コンツェルン傘下の企業が製造、販売しているマスコット型ロボット。
猫だかリスだかキツネだかウサギだか分からない奇妙なデザインをしている。
高性能のAIにより、お子様から大人まで幅広い層に愛されている。

初代べえくんである『イチべえくん』は現在製造が終了しているためプレミアが付いているが、
低コストが売りの旧式機である『ミツべえくん』はたったの八万円で販売されている。



べえくんシリーズ:一般情報

高性能AIを搭載しているため高額商品であるべえくんシリーズだが、意外なことに所有者は十代の少女が多い。
というのも、もともとは『小さな女の子のためのお友達』を目指して開発されたため、
美國コンツェルンの会長が十代の少女の手に渡るよう、少女向けの漫画雑誌の懸賞の景品で配布しているためである。

中にはカスタマイズされたべえくんも出回っており、べえくんを肩に乗せて出歩く少女の姿が度々目撃されている。
ただし高額商品であるため窃盗される危険性があり、外には持ち出さず屋内での起動が推奨されている
176 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/24(日) 00:29:39.49 ID:7Bbxp8Ei0
今回はここまで

ちょっと過去のレスが読みにくいんで念のために抽出しておきます

>>1-29 一話
>>52-65,76,78,82,83,90,96,101,109 二話
>>136-154 三話
>>159-175 四話

となっています。それでは
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 04:38:27.62 ID:xcFmYTjKO
乙!
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/26(火) 12:00:22.56 ID:+X6eauVzO

かずみたちも参加してるのかな
179 : ◆wulQI63fj2 [saga]:2019/03/30(土) 00:48:14.41 ID:8b6zM/O40
この時期は仕事がどうにも…
なんでちょっと遅くなります。もっと書き溜めてから始めるべきでしたかな〜
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/01(月) 02:10:26.54 ID:crCakQWko
待つからえたるなよ
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/03(水) 02:23:12.39 ID:07ad8Dt+O
うめ
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/03(水) 02:23:55.20 ID:07ad8Dt+O
うめ
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/03(水) 02:25:09.82 ID:07ad8Dt+O
うめ
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/04(木) 04:05:33.00 ID:Y+q4D+Hw0
古き良きssだの
機密情報の紹介はエヴァ2のそれみたいでいいね
全く違う作品をまぜこませるのは難しいことだけどいい感じだと思う
頑張って
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/17(水) 15:21:04.57 ID:u3wM5gV8O
ゆっくり待ってます
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