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ほむら「エヴァンゲリオンVS魔法少女 最後の戦い」
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136 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:24:29.72 ID:UNrJknVn0
ネルフ本部 司令室
司令室というにはあまりにも広大な空間に、三人の人影が浮かんでいる。
一人は椅子に座って机に肘を置き、口元を覆うように手を組む男。
もう一人はその男のすぐそばに立って腰の後ろに手を回した初老の男だ。
どちらも厳格な雰囲気を漂わせてはいるが、今すぐに何かをするような素振りは見せず、淡々と構えている。
そしてそんな威厳のある二人を前に完全にリラックスした調子で佇む男がいた。
加持リョウジである。
加持「碇司令に頼まれていた例の件、探っておきましたよ」
彼の言葉を聞いた男――碇ゲンドウは、表情をまったく変えることなく沈黙を維持した。
ゲンドウの隣に立つ冬月はそんな彼の態度に呆れるように溜め息をこぼすと、仕方なく、といった風に口を開いた。
冬月「例の件というと、コード707のイレギュラーかね」
加持「ええ。コード707……第壱中学の件です。ご存知のとおり、シンジ君たちの通う学校は諜報部が監視の目を光らせているテリトリーです」
冬月「そこに、本来であれば予定にない転入生。他の組織の介入やスパイの危険性を考慮するのは当然だな」
加持「それでさっそく調べてみましたが……やはりヒューマンエラーによる偶発的な事故の線が濃厚かと」
冬月「ふむ」
137 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:25:58.90 ID:UNrJknVn0
加持「対象の第壱中学への転入自体は保護者の意向だそうです」
加持「本来ならここで跳ね除けられるべき案件なんですが、どうも書類の不備と管理ミスで通してしまったとか」
加持「シンジ君たちのクラスへの編入は職員のミスであることが判明しています。他のクラスの生徒の数とあのクラスの生徒数を考慮した結果かと」
冬月「組織ぐるみではなく、手続きミスが重なり合った結果か。君個人の見解はどうかね」
加持「昨日、軽く接触してみました。が、印象としてはただの子供です。可愛いもんですよ。素性もリッ……赤木博士に頼み込んでMAGIに調べてもらいました」
冬月「それで?」
加持「セカンドインパクト後に産まれたのは確かです。ただし両親は不明。一人で廃墟をさまよっていたところを五歳のときに民間の施設に保護され、まっとうに成長」
加持「転居の理由は『社会勉強』だそうです。第3新東京市が日本の最先端なんで色々と学ばせたいんだとか。……ただ、『美國コンツェルン』の経営する施設の出身という点は気になります」
加持「なんせ保護者の名義は美國織莉子、本人ですからね」
冬月「美國コンツェルン。NERVの利権にあぶれたものの、国内でもトップクラスのあの企業か。碇、どう思う?」
冬月が尋ねると、ゲンドウは首を縦に振った。
ゲンドウ「……これまで通り、パイロットの監視と保護さえ怠らなければ問題無い。子供に出来ることなどたかが知れている」
冬月「ふむ。なら監視は解除してもいいな。ただでさえ人手不足なのだから」
加持「そう仰って頂けると助かります。まっ、俺の方でも暇があったら何度か接触してみますよ」
冬月「ああ、頼んだよ」
138 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:26:50.22 ID:UNrJknVn0
加持は肩をすくめると軽い足取りで部屋の外に出て行った。
それを確認した後、冬月は組んでいた手を顎に添え、首を傾げる。
冬月「……学校だけならまだしも、あのクラスとはな。データ上はただのミスでも、本来ならばありえない事態だ」
ゲンドウ「ヒューマンエラーはよくあることだ。それにマルドゥックの件を知る者が少ない以上、下手に手を回すのも勘繰られる。特に彼にはな」
冬月「確かに、それもそうだな」
ゲンドウ「万が一にも工作員だった場合は排除すればいいだけの話だ」
冬月「……子供を排除するというのは好かんがね」
しかし、と冬月は視線をそらす。
窓に映る超広大な空間、地下に設けられた巨大な地下空洞であるジオフロントを見ながら、彼は眉をひそめた。
冬月(暁美ほむら、か。聞き覚えの無い名前ではあるが、しかしあの顔……どこかで見たような気もするな)
データにあった、黒い髪の少女。
その顔を思い出し、彼は目を閉じた。
冬月(……いや、俺の考え過ぎか。やれやれ、碇のせいで余計なことまで悩むようになってしまったな)
139 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:28:11.73 ID:UNrJknVn0
◆
高層マンション
ほむらはカーテンすら取り付けられていない窓のそばに立つと、朝日を浴びるように軽く伸びをした。
何気なく首を振って、軽く視界を確認。
ほむら「……どうやら監視は付いていないようね」
キュゥべえ「高層マンションだからね。外から監視するのは難しいんじゃないかな」
ほむら「狙撃ポイントならざっと数十箇所あるわ。無駄に高いマンションやビルが多いから」
キュゥべえ「それでも十分に距離が離れているじゃないか。仮に撃たれても君の結界を貫けないよ」
ほむら「それでも、一度撃たれてしまえばそれで終わりよ。私の正体が露見すれば全ては御破産。面倒くさいわね」
キュゥべえ「今のところ監視が付いていないのなら、ひとまずは安心していいんじゃないかな」
ほむら「言われなくても。……それにしても、美国織莉子の杜撰な工作のせいでせっかくの優雅な朝が台無しね」
ほむら「朝日がこんなにも眩く輝いているというのに――私に会えることが嬉しくすぎて太陽も思わずハッスルね」
キュゥべえ「無視するけど、今回の件は杏子も関わってるよ」
ほむら「佐倉杏子は良いのよ。美国織莉子はほら、私が嫌いだから」
今回の第3新東京市潜入は、まず美國コンツェルンの裏工作によって『十年前から用意していた』戸籍を第3新東京市に移動させることから始まった。
そこから業者を介して仕掛けた魔法によって認識を誤魔化し、
書類のミスを誘発させて第壱中学に転入するためのチケットを手に入れる。
さらに事前に潜入した佐倉杏子の幻惑魔法によって職員に暗示をかけ、
無理やりパイロットの教室にねじこませることに成功したのだ。
140 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:30:19.43 ID:UNrJknVn0
キュゥべえ「相変わらず彼女には手厳しいね」
ほむら「手を緩める可能性はゼロよ」
キュゥべえ「初対面のときなんか危うく殺しかけてたよね」
ほむら「あれはドッキリよ。初対面の相手にナイフをお尻の割れ目にねじ込まれて寸止めされた人間はどんな顔をするのか、というドッキリ」
ほむら「あの美国織莉子も梅干しを口に詰め込まれたみたいな顔して観客は大ウケ。主に私が」
キュゥべえ「そばにいた呉キリカはキミを本気で殺す気だったけどね」
キュゥべえ「……でも不思議だなぁ。ボクの知る限りでは、キミは彼女に何かをされたわけじゃないはずなんだけど」
ほむら「語れば長くなるわ。――漫画本で二冊程度の話になるから」
キュゥべえ「嫌に具体的だね。話を戻すけど……事前にキミがこの街に潜入していれば、色々ともっと簡単だったんじゃないかな」
ほむら「去年は旧東京の調査、七ヶ月前はワルプルギスクラスの大魔獣との戦闘、三ヶ月前はセクトの鎮圧と忙しかったのだから仕方がないでしょう」
ほむら「特にセクト。あのテロ屋共、何度潰しても湧いて出てくる……」
セクトとは、セカンド・インパクト後に現れたとある宗教の過激派グループの名称である。
事実上のテロリストであり、その活動範囲は世界規模だ。
日本ですら何度かその攻撃の対象になっている。
141 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:31:33.81 ID:UNrJknVn0
キュゥべえ「まだ生き残りがいるらしいよ、彼ら」
ほむら「ゴキブリ並みの生命力ね」
キュゥべえ「ゴキブリは被害が少ないからまだいいよ」
ほむら「ともあれ、美国織莉子の『第八の使徒撃破後』という注文には応えたのだから問題はないはずよ。まして先月なんて……なんと言ったかしら、あの男」
キュゥべえ「時田シロウのことかな」
ほむら「そう、警察に護送される予定だった時田氏を襲撃、護送車を爆破する段取りまでやったあげたのだから」
キュゥべえ「あの織莉子が十三回も君にお願いをして、ようやく折れた君が彼女に一切連絡を取らずにやってのけたあの襲撃事件だね」
キュゥべえ「顔面蒼白になって急いでキリカを向かわせたときの織莉子のコメント、聞きたいかい?」
ほむら「私の鮮やかな手口と慈悲深さに感涙するところまで容易に想像できたから遠慮しておくわ。文句を言われる筋合いがないのは確かね」
キュゥべえ「小言を言われる筋合いはあると思うけどなぁ」
ほむら「大事になってから言いなさい」
キュゥべぇ「ああ言えばこう言う……」
ほむら「それが大人というものよ」
キュゥべえ「魔法少女の少女とはいったい……」
142 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:33:48.07 ID:UNrJknVn0
キュゥべえ「それより、これからの予定は?」
ほむら「……学校に通うのは明日からだから、余裕があるわね」
キュゥべえ「それじゃあ当面の生活のために買い出しにでも行く?」
ほむら「そうね……せっかく広い部屋なのだから新しい調度品が欲しいところね。添え付けのクローゼットはともかくテーブルすら無いのはどうかと思わなくもないし」
キュゥべえ「まずはベッドだよ。いつまでもフローリングに転がって寝るのはどうかと思う」
ほむら「高層マンションだし、業者に苦労かけさせるのも心苦しいでしょう。それにベッドはあなたが勝手に入ってくるから嫌なのよ」
キュゥべえ「いつも蹴っ飛ばすくせに……じゃあ布団で寝る?」
ほむら「……素直にベッドにしましょう。ついでにあなた用の犬小屋でも買って帰ろうかしら」
キュゥべえ「犬扱いはこの際無視するけど、庭付き2階建てならそれもいいかな」
ほむら「鍵は外側だけで良いのよね? 内装は花が多めで良いかしら。
三年前に杏子に撮ってもらった、釣り針に引っかかって海にダイブするあなたと、
それを見て釣り竿片手に爆笑してる私のツーショット写真も入れておくわね。あとあなたが生前愛用していたルービックキューブも収めてあげる」
キュゥべえ「今気付いたんだけど君が想定しているのは犬小屋じゃなくて棺桶じゃないかな」
ほむら「あらやだうっかり」
キュゥべえ「この子は……」
ほむら「冗談はさておき、買い出しはいいわね。善は急げ、さっそく準備しましょう」
キュゥべえ「やれやれ」
143 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:35:16.84 ID:UNrJknVn0
クローゼットに押し込まれた服を見比べながら、ほむらはふと顔を上げた。
隣でどうでもよさそうにルービックキューブをいじっているキュゥべえに目を向ける。
ほむら「佐倉杏子と連絡を取る件なのだけれど」
キュゥべえ「ああ、盗聴されてないんだし良いんじゃないかな」
ほむら「電波を辿られる危険性は?」
キュゥべえ「……いや、今のところその手の干渉はなさそうだ。君たちの持っている携帯電話は美國コンツェルンの特別なカスタマイズが施された物だからね」
ほむら「ふむ……」
キュゥべえ「なにか思うところでも?」
ほむら「この街にあなたの別個体は何体いるの?」
キュゥべえ「今は杏子のところくらいだよ? この街にはなぜだか魔獣が出現しないからね。ボクらがたむろしても意味が無いよ」
――魔獣。
人の妬み嫉む心や憎しむ悪く念、いわゆる呪いと呼ばれる負の感情によって生み出されるこの世ならざるもの。
人類の負の感情を餌に顕現し、人類から精気を奪ってさらに力を蓄え、世界に干渉して『歪み』を正そうとするものだ。
歪み。およそ人には感知できず、インキュベーターにとっても理解されない世界の間違い。
それを正そうとする魔獣は世界からすれば救世主であり、聖職者に等しい在り方かもしれない。
だが人類からしてみればその行為は『搾取』であり『攻撃』にほかならない。
魔獣を倒すことで魔法少女はグリーフキューブという結晶を手に入れることが出来る。
それを利用することで魔法少女の持つ魔力機関、魂そのものであるソウルジェムの穢れを浄化できるのだ。
そして穢れを宿したキューブをインキュベーターが収集し、そのエネルギーを宇宙に還元するという名目であれこれ多角的に利用している。
しかし、この第3新東京市には魔獣が出現しない。
これは事前の調査で判明していることだ。
魔獣が産まれないということは魔法少女が生きていくのに適していない環境であるということに等しい。
ほむら「その原因の調査もいずれ行わないといけない、か……」
キュゥべえ「NERVが関与しているのは確かだろうけどね」
ほむら「彼らが私達のような存在に気付いていないとしたら、偶発的に引き起こされていることになる。その原因になりそうなものといえば……」
キュゥべえ「エヴァンゲリオンだね」
144 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:36:08.81 ID:UNrJknVn0
頷き、ほむらは服を取り出した。
黒のワンピース。鏡の前で身体に重ねて見てみる。
ほむら「黒……気分的にはもう少し明るい色なのだけれど、これも悪くないわね。
なんとなくだけれど、この街で黒い女は周りの個性に埋もれなくてキャラが立ちそうな気がするわ。逆に白はダメ。相手が強すぎる……」
キュゥべえ「戯言は無視するけど、ホットパンツは? 動きやすくて気に入ってるって言ってたじゃないか」
ほむら「あれは佐倉杏子と被るでしょう。死にたいの?」
キュゥべえ「無茶苦茶な……」
ほむら「まぁこれでいいでしょう。ほら、外に出なさい」
キュゥべえ「もうちょっとでルービックキューブが完成するから待ってぎょっ!?」
キュゥべえの体をすくい上げるような角度と勢いでほむらの右足が振り上げられた。
きれいな放物線を描いてキュゥべえが部屋の外に飛んでいく。
ほむら「蹴り飛ばしたわ」
キュゥべえ「とうとうただの事後申告になったね……」
しっかりと扉を閉めてから、いま着ている衣服を脱いでいく。
スカートから足を抜いたところで、そういえば、とほむらは思い出したように口を開いた。
ほむら「そうじゃなくて、佐倉杏子のところにあなたはいるのでしょう?」
キュゥべえ「いるよ。それがどうかしたのかい?」
ほむら「それならあなたが私達のメッセージを中継すればいいじゃない」
キュゥべえ「えぇー……」
ほむら「テレパシーは無駄に魔力を食うでしょう。距離も遠すぎると使えないし、電波も今は念のために使いたくない。その点あなたたちなら利用し放題パケ放題」
キュゥべえ「残念だけど、それは無理だね。ちゃんと理由が」
ほむら「無能」
145 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:37:02.92 ID:UNrJknVn0
キュゥべえ「最後まで聞こうよ。ちゃんと理由があるんだ」
ほむら「というと?」
脱いだ衣服をちゃんと畳み終えると、ほむらはワンピースに袖を通した。
鏡の前で一回転。
イケる。
ほむら「鏡を見たらとんでもない超絶スーパーウルトラ美少女がいて焦るわ」
キュゥべえ「世迷い言を無視するけど、杏子の居場所が悪いんだ。彼女はいまゲームセンターで遊んでいるからね」
キュゥべえ「しかもクレーンゲームで三十回連続成功達成中で周りにギャラリーが大勢いる。さすがにこの状況でボクに話しかけたら怪しまれるよ」
ほむら「ゲーセン通い……飽きないのかしら」
キュゥべえ「それに杏子のところにいるボクはしばらくしたらこの街を離れる予定だからね」
ほむら「なぜ?」
キュゥべえ「佐倉杏子と暁美ほむら、この両名がこの街に集中しているということが何を意味するかは分かるだろう?」
ほむら「人手不足ね。魔法少女本来の使命である魔獣狩り方面での」
キュゥべえ「本来であれば君たちが集めるはずだったグリーフキューブが手に入らなくなってるわけだからね。代わりを埋めるために大忙しだよ」
ほむら「……主張は分かったわ。まぁ、いいでしょう。監視がなければ佐倉杏子とは表でも接触できるし」
キュゥべえ「分かってくれたみたいだね」
ほむら「ええ、分かったわ無能」
キュゥべえ「分かってくれぬみたいだね」
146 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:37:31.19 ID:UNrJknVn0
◆
第3新東京市 ショッピングモール外
ほむら「買い出しはこの程度でいいかしら」
キュゥべえ「十分だと思うよ。家具類の配送は夕方だっけ?」
ほむら「ええ。即日配送なんて気が利いてるわね」
キュゥべえ「じゃあそれまで暇になるね。これからどうするつもりだい?」
ほむら「そうね……食事にでも行きましょうか」
キュゥべえ「ボクはイタリアンでいいよ」
ほむら「ペレットでも食べてなさい」
キュゥべえ「……まあペレットでもいいけど」
ほむら「不貞腐れないの。それよりあなたの扱いにも困るところね……」
自分の肩に寄りかかっているキュゥべえを見て、ほむらは舌打ちした。
キュゥべえ「やおら酷いけど、どうして困るんだい?」
ほむら「盗聴機を仕掛けられたら面倒でしょう。それに独り言をつぶやいているようで抵抗もあるわ」
キュゥべえ「テレパシーでいいじゃないか。魔力的な問題はあるけれど微々たるものだし」
ほむら「他人事だと思って……やはり『あの手』を使ったほうが良いかもしれないわね。どうせ『彼ら』には見えているんでしょう、あなた」
キュゥべえ「それはそうだけど……あれかー……うーん……」
147 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:38:16.58 ID:UNrJknVn0
と、そこでほむらは足を止めた。
すぐそばにある店の看板に目を留め、興味があるかのように軽く腰を落とす。
そのまま身体を看板へ向けたまま、視線だけを左にそらした。
「どうしたんだい、ほむら?」
肩に乗ったキュゥべえの問いかけを無視して、ほむらは視線の先を注視する。
道路の先、いくつかの信号を跨いだそのさらに奥に見える人影を捉えた。
「見付けた」
「なにを……ああ、いや。なるほどね」
キュゥべえはほむらと同じ方向を向いて、納得したように頷いた。
視線の先には三人の子どもたちが並んで歩いている光景がある。
一人は少年で、他の二人は少女だ。
勝ち気そうな少女が先を行き、そのあとを少年ともう一人の少女が後を追うように続いている。
「報告にあった外見通りだね」
「ええ。正直、ここで出くわすのは危険ね」
「ここでコネクションを作るのもありじゃないかな?」
「引っ越した翌日にいきなり接触はマズイでしょう。接触するなら学校の、より自然なタイミングで、ね」
三人の行先が自分とかぶっていないことを確認すると、ほむらは一息ついた。
彼らの顔をほむらは知っている。その外見的特徴を、性格を、その実態を、ほむらは理解している。
彼らこそは、この街における重要な鍵となる存在。
ほむらが接触すべき対象であり、保護、ないし排除すべき対象でもある存在。
汎用人型決戦兵器 人造人間エヴァンゲリオン――そのパイロット。
チルドレンと呼ばれる、運命を仕組まれた子供たちだ。
148 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:38:42.87 ID:UNrJknVn0
「ちょっと待ってよアスカ、本部に行くんじゃないの?」
「ちょっとゲーセン寄ってくだけよ、べつにいいでしょそのくらい」
「そんなまた勝手に……どうしよっか、綾波」
「先に行くわ」
「ああ、うん……じゃあまたね、綾波」
魔法によって強化された聴覚が捉えたのは、どこにでもいる普通の子供の会話だった。
ともすれば無関係の子供たちだと思いかねないほどに、普通の会話だ。
だが『本部』というワードが出てきたのは看過できない。
本部とはおそらくNERV本部のことを指しているに違いない。
「やはり彼らで間違いないないようね……」
「追いかけるかい?」
「やめておくわ。さすがにリスクが高すぎる。……ねえ、聞いてもいいかしら」
「質問の内容によるね」
「彼らの素質は、どう?」
ほむらが尋ねると、キュゥべえは丸く紅い瞳を閉じて考え込むような仕草をした。
それから数秒の間を開けて彼は言う。
「世界を救う英雄。あるいは世界を滅ぼす悪魔。そのどちらかと言われれば、信じてしまいかねないほどの因果を背負っているね」
149 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:39:16.29 ID:UNrJknVn0
魔法少女の素質とは、契約以前の状態でどれだけの人々に影響を与えるか、またその魂の在り方によって大きく左右される。
文字通り世界を救っているエヴァのパイロットがそれほどの素質を背負っていたとしても不思議ではない。
「想定通りね。魔法少女になった場合は?」
「キミでは到底太刀打ち出来ないだろう。元の素質が桁違いだ」
「念の為に聞いておくけれど、契約するつもりはないでしょうね」
「今のところはね」
「それを聞いて安心したわ。……ん?」
ほむらの視線が動く。
青い髪の少女がはなれ、二人となった彼らの先に一人の少女が立っていた。
どこかで見た顔、どころではなく、つい昨日見た顔。
一緒に車に乗った顔で、十五年来の付き合いになる人物の顔を見て、ほむらはため息を吐いた。
「タイミングが悪すぎるわね」
「確かに。これはちょっと出来すぎてるね」
二人がトーンを落とした声でささやきあうのを尻目に、その『知り合い』は――
『佐倉杏子』は、チルドレンである二人に向かって軽く手を振った。
150 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:39:42.40 ID:UNrJknVn0
杏子「やっほー。遅かったじゃん? 今日は来ないのかと思っちまったよ、アスカ」
アスカ「色々あるのよ、事情ってやつが」
杏子「ふーん? で、シンジはなにしてんの?」
シンジ「買い物だよ。佐倉さんは……またゲーセン?」
杏子「ご明察。メダルゲームでバカ勝ちしたからあんたらにも分けてやるよ、三時間は潰せる量だからさ」
シンジ「いや、僕はいいよ。あとで本部に向かわなくちゃいけないし」
アスカ「そうそう、分かったらさっさとゲーセン行くわよ。今日こそ杏子をぶっ潰すんだから!」
杏子「今日こそ、ねぇ……杏子だけに?」
シンジ「自然とダジャレを……あ、気付いていないんだ」
アスカ「はぁ? なに言ってんの?」
杏子「まあなんでもいいや、じゃあ一戦だけプレイしてこうぜ」
151 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:40:08.34 ID:UNrJknVn0
ほむら「……佐倉杏子の仕事は調査と保護が目的じゃなかったのかしら」
キュゥべえ「接触して調査し、間近で保護しているのは確かだね」
ほむら「そんな報告、受けていないのだけれど」
キュゥべえ「杏子ならちゃんとマギカ・レコードには報告していたよ」
ほむら「あの死ぬほど恥ずかしい会議で?」
キュゥべえ「もちろん」
ほむら「まったく……それにしたって、保護対象と友達になってどうするつもりよ」
ほむらは何度目かになる深い溜め息を吐いた。
152 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:41:34.95 ID:UNrJknVn0
第三話 ほむら、買い出し 完
第四話 笑う、転校生 に続く
153 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:45:28.33 ID:UNrJknVn0
美國コンツェルン:一般情報
日本ではトップクラスの美國コンツェルンだが、同時に欠点も抱えていた。
それはまだ起業してから十五年程度の急成長の企業故の信頼の無さである。
これが足を引っ張り、美國コンツェルンは第三新東京市の建設やNERVの関連事業にはほぼ携われていない。
持ち株会社のいくつかが五次下請けでわずかに関わっているのに留める。
そのため、日本重化学工業共同体と同じく、NERV利権にあぶれたあぶれ組として影で揶揄されている。
なお、会長である美國織莉子氏は本来『美国織莉子』という名前であり、父親は元国会議員でもある。
汚職事件をきっかけに自殺しており、そういった経歴や名前を変えている点をマスコミや対立企業に非難されることも少なくない。
美國という性を名乗っているのは、セカンドインパクト以降のごたごたで戸籍情報が入り乱れ、旧字体になってしまったためである、と本人は説明している。
154 :
◆wulQI63fj2
[saga]:2019/03/21(木) 02:52:28.70 ID:UNrJknVn0
今回の投下は以上
次回からようやくまともにクロスし始めます
お膳立て終了といった感じで
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