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ダンガンロンパ ホープロワイヤル
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34 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:05:10.75 ID:eAg+4cOD0
乙、ありがとうございます。
投下していきます。
35 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:06:06.10 ID:eAg+4cOD0
<住宅地>
苗木(ホープロワイヤル)
苗木(超高校級48人によるサバイバルゲームで、僕は開幕潜伏することを選んだ)
苗木(幸いにもスタート地点は住宅地で、数ある住宅の一つに隠れればすぐには見つからない)
苗木(――そのはずだった)
霧切「………………」
苗木(二階の扉に鍵をかけて立てこもっていたところ、銃で扉を破壊して霧切さんが侵入してきたのだ)
苗木(いつもは頼もしいクラスメイトの霧切さんも現在は敵)
苗木(僕はこの絶体絶命の窮地から逃れるため――僕の足は自然と部屋の窓に向かっていた)
36 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:07:16.54 ID:eAg+4cOD0
霧切「ちょっと待ちなさい、苗木君!」
苗木(霧切さんが制止の声を上げるが、それに従うわけには行かない)
苗木(僕は窓枠から身を乗り出して――)
苗木「……あっ、ここ二階だった!?」
苗木(気づくも勢いは止まらず、身体が空中に投げ出される)
苗木「うわぁぁぁぁっ……!!」
苗木(自由落下中、必死に思考する)
苗木(このまま落ちても死ぬ高さじゃないけど……落ちた後足が止まれば霧切さんはすぐに追いつくだろう)
苗木(着地が大事……でも、普通の高校生な僕はそこまで運動神経は良くない)
苗木(ちゃんと着地が出来るかは五分五分……)
苗木「っ……なら!」
苗木(僕は無我夢中で宣言した)
苗木「発動、超高校級の幸運!!」
苗木「無事に着地できる確率を上げて!!」
『能力:超高校級の幸運』
『50%以上の確率を100%に出来る。ただし自分の行動のみ。一日五回まで使用可能』
37 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:08:22.19 ID:eAg+4cOD0
スタッ!
苗木「はぁ、はぁ……」
苗木(慣れない大アクションに未だ心臓がバクバクしている)
苗木(超高校級の幸運……無事発動したようだ)
苗木(何か不思議な力が働いて、運良く着地できたのだと理解する)
霧切「全く……」
苗木(降りてきた窓を見上げると霧切さんがこちらの様子を見ていた)
苗木(と、思うとその姿が奥に引っ込む)
苗木(僕のように飛び降りるといった無茶なマネはせず、部屋を出て階段から降りてくるということだろう)
38 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:09:32.06 ID:eAg+4cOD0
苗木(その窓から視線を下ろすと……気になるものを見つけた)
苗木「あれ? あの部屋の窓開いてたっけ……?」
苗木(ちょうど僕の潜伏していた部屋の真下、一階の部屋の窓が開いている)
苗木(潜伏する前に一度住宅は見回ったが、そのようなことは無かったはず)
苗木(考えられるのは……霧切さんが開けたという事だろうか)
苗木(でも、どうして……)
苗木「いや、そんなこと考えている場合じゃない!!」
苗木(霧切さんは銃を持っている、丸腰の僕がそのまま戦って勝てる相手じゃない)
苗木(降りてくるこの隙に逃げないと……!!)
39 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:10:41.18 ID:eAg+4cOD0
苗木(住宅の敷地を出て……どちらに向かうか考える)
苗木(左に行けば住宅地の中に入っていく。入り組んだ道で霧切さんを撒くべきか)
苗木(右に行けばすぐに住宅地の外、森林地帯に出る。森の中に隠れて霧切さんをやりすごすか)
苗木(どちらにも利のある二択。僕は絶対な能力に決断を任せることにした)
苗木「発動、超高校級の幸運!!」
苗木「霧切さんから逃れるには右か左か教えて!!」
苗木(霧切さんだって右か左どちらを探すか迷うはずだ)
苗木(霧切さんが僕と同じ方向に来たらアウト。見つかる確率は50%で見つからない確率も50%)
苗木(なら、超高校級の幸運が使えるはず)
苗木(見つからない確率を50%から100%にあげればいい)
苗木(これでとりあえず窮地を脱せる)
40 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:11:08.32 ID:eAg+4cOD0
苗木(――そのはずだった)
苗木「……あれ?」
苗木(いつまで経っても右に逃げるべきか、左に逃げるべきかが示されない)
苗木(どうやら能力の発動が失敗したようだ)
苗木「ど、どうして……?」
苗木(失敗した理由は分からないが、そのとき住宅の中からドタドタと音が聞こえてきた)
苗木(霧切さんが一階に降りてきたのだろう。すぐ外に出てくるはずだ)
苗木(このまま止まっていたら駄目だと、能力ではなく直感で右を選び、森林地帯を目指した)
41 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:11:44.03 ID:eAg+4cOD0
<森林地帯>
苗木(足下に木の根が伸び、走りにくい獣道を駆ける)
苗木(後方から同じような足音も聞こえた)
苗木(姿は見えないが、霧切さんも僕を追って森林地帯に入ったのだろう)
苗木(僕は獣道を外れて、さらに濃い森の中を進む)
苗木(その途中に見つけた巨大な木。人が入れそうなほどの大きさがうろがあり、僕はその中に隠れた)
苗木「ふぅ……」
苗木(一息吐いたが安心は出来ない)
苗木(不可解なことが起きている。僕は整理して考えることにした)
42 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:12:11.22 ID:eAg+4cOD0
苗木(まずはどうして霧切さんに潜伏した場所がバレたのか)
苗木(ゲームが開始したばかりでしらみ潰しに探す時間は無い)
苗木(それなのにこうも早く僕の潜伏していた住宅を見つけた方法は何か?)
苗木(住宅に隠れる際に分かりやすい痕跡を残した覚えはない)
苗木(……でも、何も痕跡を残していないかというと否定は出来ない)
苗木(わずかな痕跡から超高校級の探偵である霧切さんが僕を見つけだした?)
苗木(いや、そうだとしても早すぎる)
苗木(この早さはまるで僕の隠れている場所が分かっていて、一直線に向かったくらいでなければ――)
43 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:12:38.33 ID:eAg+4cOD0
苗木「……そうか、分かったぞ!!」
苗木(簡単な話だった)
苗木(僕は失念していたのだ)
苗木(僕だけじゃなく、参加者全員が超高校級の才能に応じた能力を持っているということに)
苗木(彼女の才能は探偵――探し見つける職業)
苗木(ならばそれに応じた能力として――指定した人や物の場所が分かる、という能力を推測することが出来る)
苗木(霧切さんは銃を持っていた)
苗木(生徒の初期装備は電子生徒手帳のみ。だからおそらく銃はゲームの武器アイテムとして配置されていたものだろう)
苗木(どこかに隠されていたのかもしれないが、超高校級の探偵の能力で位置を調べて拾ったというわけだ)
苗木(その後、僕の位置を能力で調べて襲ってきた)
苗木(先ほど僕の超高校級の幸運が失敗したのも納得が行く)
苗木(右と左、どちらに逃げても霧切さんの能力によって絶対見つかるからだ)
苗木(逃れられる確率が0%なら、それを100%にあげることは僕の能力に出来ない)
44 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:13:05.19 ID:eAg+4cOD0
苗木(だったらどうするべきか?)
苗木(この場所、木のうろもいずれ見つかる。まともに戦えば相手は銃を持っているため勝てるわけがない)
苗木(武器を調達しようにも森の中だ、ろくな物が無い)
苗木(ならば戦い方を考えるべきか……?)
苗木(霧切さんに対抗する……そのための戦法は――――)
45 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:13:40.93 ID:eAg+4cOD0
霧切(私は苗木君の行方を追っていた)
霧切「どこに行ったのかしら……」
霧切(地道に探すが、こうも森が深くては上手く行かない)
霧切(能力を使えば一発で分かるけど……なるべくそうしたくない理由があった)
『能力:超高校級の探偵』
『指定した人や物の場所が分かる。一日五回まで使用可能』
霧切(その理由とは使用制限)
霧切(ルール説明のときに見た苗木君の幸運の使用制限が一日五回までとあったように、私の位置を調べる力も一日五回まで)
霧切(既に私は銃と苗木君の潜伏場所を調べたので二回使っている)
霧切(まだ昼前なのに三回目を使ってしまうと、今後不測の事態に対処しにくい)
霧切(だから自力で探し当てたかったのだけど……)
霧切「仕方ないわね、苗木君のくせに生意気なのよ」
霧切「発動、超高校級の探偵!」
霧切「苗木君の位置を教えなさい!」
46 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:14:07.84 ID:eAg+4cOD0
霧切(そして私は能力の示した巨大な木の前までやってきた)
霧切「こんなところに隠れていたなんてね」
霧切(観察しながら木の周囲を歩く)
霧切(隠れられそうな場所が一つ……どうやらうろがあってその中なら人も入れそうだ)
霧切「かくれんぼは終わりよ」
霧切「さっさと出てきなさい、苗木君」
霧切(私は投降するように促すが……苗木君は出てこない)
霧切「全く、そこにいるのは分かっているのよ」
霧切(私は言いながら木のうろを覗きこんで――)
47 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:14:34.92 ID:eAg+4cOD0
霧切「え……?」
霧切(そこに誰もいないことを確認する)
霧切(どうして……能力はこの場所を示している)
霧切(隠れられる場所はここだけしかない)
霧切(なら、苗木君はどこに――)
苗木「やああぁぁっ!!」
霧切(戸惑っていると苗木君の意気込んだ声が聞こえてきた)
霧切(その方角は――上空……っ!?)
48 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:15:02.80 ID:eAg+4cOD0
苗木(霧切さんの能力が物の位置が分かるだと推測して……気になったのは潜伏した部屋の真下、一階の窓が開いていたことだった)
苗木(一階の窓が開いていた理由は霧切さんが僕がいないかと調査したからだろう)
苗木(能力で僕の位置を把握しているはずの霧切さんにすれば無駄な行動に思える)
苗木(でも、それが必要な行動だったとしたら?)
苗木(つまり霧切さんは僕が一階に隠れているのか、二階に隠れているのか分からなかったとしたら――)
苗木(霧切さんの能力は物の座標が分かっても、その高低までは判別できないということになる)
苗木(ならば対策が一つ出来る)
苗木(霧切さんがこの場所を能力で探し当てれば、分かりやすい隠れ場所、木のうろに注目するだろう)
苗木(だが、高低の差が分からないという可能性に気づいて、僕は潜伏場所を変えていた)
苗木(そこは木に登った枝の上。幹にこぶがたくさんあり簡単に登ることが出来た)
苗木(あとはタイミングを窺うだけ)
苗木(能力で探し出し僕がうろにいると思い、しかし見つからなかった霧切さんは一瞬虚を突かれる)
苗木「やああぁぁっ!!」
苗木(そのタイミングで僕は霧切さん目掛けて飛び降りた)
苗木(ここが僕の唯一の勝機……!!)
49 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:15:55.22 ID:eAg+4cOD0
苗木の攻撃は完全な奇襲となり、霧切は対応できなかった。
着地の衝撃は積もった落ち葉に吸収される。
二人は揉みくちゃになりながら森を転がり――。
しばらくして、一人が姿勢を立て直した。
もう一人は組み敷かれたままだ。
圧倒的優位に立ったその者が口を開く。
50 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:17:46.26 ID:eAg+4cOD0
霧切「苗木君にしては悪くなかったわ」
霧切「私の能力が高低差を判別できないところまで見抜かれるなんてね」
霧切「でも、残念ね」
霧切「奇襲という完全な優位はあっても、私は護身術を修めている」
霧切「苗木君ごとき取り押さえるのは簡単よ」
苗木「くっ……」
後ろ手に関節を極められた苗木。
こうなっては挽回の方法がない。
勝敗はここに決着した。
勝者は――超高校級の探偵、霧切だ。
51 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:18:13.63 ID:eAg+4cOD0
苗木(殺される……!!)
苗木(あ、いやバーチャル空間だから実際に死ぬわけではないけど……)
苗木(未だ島に死体発見アナウンスは流れていない)
苗木(つまり脱落した者はまだいないということで……一番最初の脱落者は僕になるだろう)
苗木(……でもまあ、仕方ないか)
苗木(ちょっと運がいいだけの僕が、超高校級の才能を持つみんな相手に勝てるわけなかったんだ)
苗木(ここで霧切さんに勝てたとしても……到底優勝までは行けなかっただろうし)
苗木(いつか脱落するのがちょっと早くなっただけだ)
霧切「さて、これでようやく――」
苗木(霧切さんが口を開く)
苗木(今、最後通牒が下されようとして――)
52 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:18:41.15 ID:eAg+4cOD0
霧切「落ち着いて話をすることが出来るわね」
苗木「え……?」
53 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:19:13.73 ID:eAg+4cOD0
苗木(霧切さんの言葉に耳を疑った)
苗木「話って……何の話?」
苗木「僕は……殺されるんじゃないの?」
苗木「そのために霧切さんは僕を襲ってきたんじゃないの?」
霧切「私が襲った? いつどこにそのような事実が存在したかしら?」
苗木(どうやら霧切さんは怒っているようだ)
苗木「で、でも僕が潜伏していた扉を銃で破壊したのは……」
霧切「あれは手間を省いただけよ。怯えている苗木君じゃ、どうせ鍵を開けなさいと言っても開けなかったでしょう?」
苗木「そ、それはそうかもしれないけど……でもだったらどうして霧切さんは僕のところに来たの!?」
霧切「話をするためよ」
苗木「じゃあ僕をここまで追い回した理由は!?」
霧切「話をしようと思ったのに逃げ出したら、追って話を聞かせるしか無いでしょう」
苗木「話、話って……この自分以外全員敵の戦場で何を話すつもりだったの!?」
霧切「……はぁ、そこからなのね」
苗木「え……?」
苗木(霧切さんは怒りから一転、呆れた表情を浮かべる)
54 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:19:40.98 ID:eAg+4cOD0
霧切「あなたが自分以外敵と思った理由はルール説明のときの十神君の発言からなのだろうけど」
十神『考えてもみろ。最後まで残った一人が優勝……つまり自分以外全てが敵というわけだ』
霧切「――あの発言は嘘よ」
苗木「嘘……っ!?」
霧切「このホープロワイヤルは希望と希望のぶつかりあい」
霧切「でも希望って……一人だけで持つものばかりではない」
霧切「複数人で共有出来る希望だってあるでしょう?」
55 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:20:07.48 ID:eAg+4cOD0
苗木「十神君の嘘……希望の共有……」
苗木(つまり……どういうこと……?)
霧切「ルールをよく理解すれば分かるはずだけれどね」
霧切「まあいいわ、解説するから場所を移しましょう」
霧切「いつまでもこんな森の中に居たら落ち着かないわ」
苗木「は、はぁ……」
苗木(そうして僕はよく分からないまま霧切さんに連れ立って来た道を辿り、住宅街に戻っていくのだった)
56 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:20:44.13 ID:eAg+4cOD0
<住宅地>
苗木(僕は霧切さんと元々潜伏していた住宅まで戻ってきていた)
苗木(霧切さんは台所を漁ってお茶とお菓子を取り出す)
苗木「勝手に取って大丈夫なの?」
霧切「泥棒みたいって言いたいのかしら? ここはゲームのフィールドとして設定された無人の住居なのに、遠慮して何になるのよ」
苗木「あ、そうか」
霧切「このゲーム律儀に空腹やのどの渇きを再現しているみたいだから、補給できるうちに補給しておかないと大変よ」
霧切「誰かさんを追い回したせいで余計な体力を使ったのを回復しないと」
苗木「ごめんなさい……えっと、僕もいただくね」
57 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:21:15.51 ID:eAg+4cOD0
霧切「さて、どこから話を始めればいいかしら?」
苗木「それなら十神君のルール説明の時の発言が嘘ってどういうことなの?」
十神『考えてもみろ。最後まで残った一人が優勝……つまり自分以外全てが敵というわけだ』
苗木「このホープロワイヤルって優勝した人が希望を叶えることが出来るんだよね」
苗木「だったらやっぱり十神君の『自分以外が敵』って発言が正しいと思うんだけど」
霧切「違うわ。このルールをよく見なさい」
『最後まで残った希望が優勝。その希望は実際に希望ヶ峰学園が総力を挙げて叶える』
苗木「よく見てって言われても……?」
霧切「注目すべきところは最後まで残った『希望』が優勝ってところよ」
苗木「……あ、ルールでは残った希望なのに、十神君は残った一人って言っている」
苗木「これが嘘っていうこと?」
霧切「そういうこと」
58 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:21:41.57 ID:eAg+4cOD0
苗木「でもそれで何が変わるの?」
霧切「十神君の嘘だと最後の一人まで戦いは終わらないけど、本当のルールでは残り二人以上でも終わる可能性があるっていうことよ」
霧切「例えば最終局面で残った三人が同じ『希望A』を掲げていたとしたら、その場には希望が一つしか残っていないってことで優勝が決まる」
霧切「優勝条件からして同じ希望を持つ者と争う必要はない。それどころか協力することが出来る」
霧切「つまりこのホープロワイヤルは個人戦じゃなくて――同じ希望を持ったチームによる戦いってことなのよ」
苗木「なるほど……」
霧切「十神君が嘘を吐いた理由はこのチーム戦ってことを気づかせないためでしょうね」
霧切「個人戦だと思わせれば、差し伸べられた手を弾く生徒が出てくるでしょうから。さっきまでの苗木君みたいにね」
苗木「ごめんなさい」
霧切「少しでも他の生徒がチームを組むことを妨害するための嘘……とはいえ私のように気づく生徒は出てくるはずだから効果は一時的のはず」
霧切「それでも手を打ってきたということはやれることは何でもやるということ」
霧切「彼、本気で優勝を狙っているのかもね」
苗木「十神君の本気か……」
59 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:22:14.14 ID:eAg+4cOD0
霧切「さて話を戻すけどこのホープロワイヤル、チーム戦といっても手を組むのは容易ではないわ」
苗木「希望Aを掲げている人と希望Bを掲げている人は組むことが出来ないもんね」
霧切「このルールを使って――」
『ゲーム開始前に設定した希望は、電子生徒手帳からゲーム中一度だけ変更することが可能です』
霧切「希望Aが折れて希望Bに変更すれば組めるけど、優勝しても希望Aは叶わない。それを良しとするかどうかね」
苗木「そうか。このルールはゲーム中にチームを作るためにあったのか」
霧切「モノクマがハンバーガーを例に出してふざけていたけど、このルールはかなり重要よ」
霧切「一度しか変更できないというのも裏切ることが出来ないようにってことね」
苗木「どういうこと?」
霧切「二回変更できるとしたら、希望Aを希望Bに変更した後、優勝直前で希望Aに戻すなんて出来るじゃない」
霧切「そうなるとチームが機能しなくなる」
霧切「希望が電子生徒手帳にはっきり記されているから詐称することが出来ないことも含めて、同じ希望でチームを組んだ場合裏切られる可能性はかなり低くなるわね」
霧切「もちろん何事にも例外はあるけれど」
苗木「例外……?」
60 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:22:52.12 ID:eAg+4cOD0
霧切「それはさておき……苗木君、あなたの希望は『世界平和』じゃないかしら?」
苗木「え、よく分かったね」
霧切「富や名声、権力に興味ない苗木君が何でも叶えていいなんて言われて思い浮かべる希望がそれだろうと推理したまでよ。分かりやすい人ね」
苗木「うぐっ……」
霧切「まあでも狙ってやったわけじゃないようだけれど、中々いい希望よ」
苗木「……? いい希望ってどういうこと?」
霧切「逆に質問。この希望によるチームシステムにおいてどのような希望が有利か分かるかしら?」
苗木「えっとそれは……みんなが賛同してくれるような希望かな」
苗木「他の生徒に同じ希望に変えてもらえればチームを組んで有利に戦えるし」
霧切「そういうこと。極論だけど今回の参加者48人中48人賛同するような『大きな希望』があれば戦いは始まらない」
霧切「でもそうはならない。人によって希望は千差万別だから」
苗木「富、名声、権力だけでも人によって一番は変わるもんね」
霧切「苗木君の『世界平和』は少々綺麗事だけれど、よほどのひねくれ者でもない限り賛同してもらえる大きな希望。つまりこれから出会う相手に対して、希望を変えてもらうように説得しやすい希望だわ」
霧切「もちろん相手だって自分の希望があるはずだから簡単には行かないけれど」
61 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:23:26.28 ID:eAg+4cOD0
霧切「逆に自分にしか理解できない希望っていうのもあるわね」
霧切「例えば聞いた話だけれど、才囚学園には『姉の友達を作る』ことに執着している生徒がいるそうよ」
苗木「あ、僕も聞いたことがあるかも。超高校級の民俗学者の真宮寺君だっけ」
霧切「その彼のことだから、このホープロワイヤルでも『姉の友達を作る』って希望を掲げているでしょうけど……この希望に賛同する生徒が他にいると思う?」
苗木「いないだろうね……じゃあその真宮寺君は一人で戦うことを強いられるわけか」
霧切「そういうこと。でも、だからって彼が『大きな希望』によりチームを組んだ生徒たちに必ず負けるかといわれるとそうでもない」
霧切「超高校級の能力という現実離れしている能力も存在するこの戦場で、一人対チームで前者が勝つことは十分にあり得る」
霧切「それを押し通すだけの『強い希望』があればね」
苗木「大きな希望、強い希望……様々な希望が存在して、それぞれが叶えるために戦う」
苗木「ホープロワイヤル……希望争奪戦ってことか」
62 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:24:14.23 ID:eAg+4cOD0
霧切「これで前置きは終わったわね」
苗木「前置き……? 本題だったんじゃないの?」
霧切「そんなわけないでしょう。私があなたにルール解説するためだけに話しかけたと思っているわけ?」
苗木「あ、そっか。今まではルールをよく理解していなかった僕のための説明で……霧切さんの本当の用事は……」
霧切「苗木君、あなたに私と組んで戦って欲しいということよ」
苗木「僕と霧切さんがチームに!?」
霧切「ええ。正直このホープロワイヤル気乗りしないのよ。希望を叶えるって言っても、希望ヶ峰学園に叶えてもらわないといけない大それた希望なんてないし」
霧切「開幕自殺しても良かったのだけど、あくまでこれは学園のカリキュラムでしょう? 早々に負けた生徒は悪い評価を付けられそうじゃない。それは嫌よ」
霧切「希望を捨てたメリットとして私は誰とでも組むことが出来る。これを生かさないわけには行かない」
霧切「それで組んでもらう生徒を考えて……苗木君、あなたを選んだってわけ」
63 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:24:44.86 ID:eAg+4cOD0
苗木「それって……僕が頼りがいあるってこと?」
霧切「自惚れもいいかげんになさい。組むに当たって他者に従うのは面倒、その点苗木君なら私に従ってやりやすいじゃない」
苗木「ず、随分な評価だね……」
霧切「それに優勝までは目指していないといっても、私の意図に反する希望を持つ者に協力するのも嫌だわ」
霧切「でも『世界平和』ならまだ叶ってもいいと思える。探偵として色んな事件に遭遇してきた私にとってね」
苗木「霧切さん……」
苗木「って、あ、希望は『世界平和』で行くんだ。僕が霧切さんの希望に合わせて変更する形でもいいと思ってたけど」
霧切「言ったでしょ、私に大それた希望は無いって」
霧切「それに本当に出来るかしら?」
苗木「え?」
霧切「適当に選んだそうだけど……あなたは本当に『世界平和』って希望を捨てることが出来るの?」
苗木「ええと……」
霧切「……まあ意味ない仮定ね。だって私が入力した希望も『世界平和』だから」
苗木(霧切さんは言うと電子生徒手帳を起動して僕に見せる。そこには……)
『希望:世界平和』
苗木(そのように記されていた)
苗木「霧切さんの希望も『世界平和』だったんだ」
霧切「先ほどあなたが『世界平和』という希望を選ぶと推理したのは言ったわよね。手間を省くためにも事前に合わせておいただけよ」
苗木「じゃあ……」
霧切「これでどちらが希望を変更するまでもなく組むことが出来るわね」
64 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:25:10.85 ID:eAg+4cOD0
霧切「ということで――よろしく」
霧切「希望『世界平和』を実現するためにも協力して戦いましょう」
苗木(霧切さんが差し出した手を、僕は――)
苗木「こちらこそよろしく、霧切さん!!」
苗木(がっしりと握り返して……こうして僕の希望は二人の希望となった)
65 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:25:43.52 ID:eAg+4cOD0
――同じ頃。
<最原視点>
<海岸地帯>
最原「――ということで、同じ希望を持てば争う必要はないってことなんだよ」
赤松「なるほど」
百田「よく気づいたな、終一!」
春川「何かあるとは思ってたけど、そういうことか」
最原(僕は偶然出会った赤松さん、百田君、春川さんにホープロワイヤルのルールに隠された意図について説明していた)
最原(どうしても戦わないといけないのか、と思っていたところに朗報だった。気づくことが出来て良かったな)
66 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:26:19.92 ID:eAg+4cOD0
最原「それで聞いておきたいんだけど、みんなの希望って何?」
最原「僕の希望は『探偵事務所を開く』なんだけど」
赤松「あ、私はもっと多くの人に私のピアノを聞いてもらうために、『ワールドツアーを開催』って希望にしたよ!!」
百田「俺の希望はもちろん『宇宙に行く』だ!!」
最原「百田君らしいね」
最原「………………」
最原(当然ながらバラバラの希望……もしチームを組むなら、誰かの希望に合わせるか、四人で新たな希望を考えて設定しないといけないけど……)
最原「ねえ、赤松さん。どうにか希望を変えてもらうことは出来ないかな?」
赤松「それは『探偵事務所を開く』に合わせて欲しいってこと?」
最原「いや、百田君の『宇宙に行く』って希望に合わせて欲しいんだ」
67 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:26:46.57 ID:eAg+4cOD0
百田「……いいのか、終一?」
最原「うん。百田君には宇宙の良さをいつも教えられて、僕も一回行ってみたいと思っていたし」
最原「それがこの四人一緒に行けるならさらにすごいことだと思わない?」
赤松「……そうだね、私も最原君と一緒に宇宙に行けたら楽しいかも」
赤松「それに宇宙で初めて演奏したピアニストなんて称号もらえたらすごいだろうし!」
百田「宇宙にピアノを持っていけるかは分からねえが……まあ希望ヶ峰学園が何でもするっていうんだ、それくらいのワガママも許してもらえるだろうな」
百田「じゃあおまえたちの言葉に甘えてもいいか?」
最原「もちろんだよ!」
赤松「うん! ほら、春川さんも………………って、あれ? そういえばずっと黙ってたけど、春川さんはどうなの?」
春川「私は……その……」
最原「あ、もしかして何か他に譲れない希望でもあったかな」
百田「春川とも宇宙に行きたかったが……無理強いは出来ねえか」
春川「ち、違うの!」
春川「私の希望は……その……最初から『宇宙に行く』だから……」
68 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:27:16.22 ID:eAg+4cOD0
百田「お、そうなのか。じゃあ問題ないな」
春川「うん。『宇宙に行く』ために頑張ろうね」
百田「そうかそうか……ハルマキも宇宙の良さに気づいていたのか」
春川「……まあ、そんな感じ」
最原「何とかまとまったけど…………でもどうして春川さんは最初黙ってたんだろう?」
赤松「もう、最原君は分かってないなあ」
最原「え?」
赤松「だって最初から百田君と春川さんは『宇宙に行く』で一緒だったんだよ! 相思相愛だったんだよ!! そんなの言い出しにくいじゃない!!」
最原「あ」
赤松「もう、最原君はもうちょっと女心を理解しないと、だよ」
最原(その後四人で電子生徒手帳を出して、僕と赤松さんは希望を変更する)
『希望:宇宙に行く』
最原(四つの手帳に表示されたその希望)
最原(僕らで絶対に叶えて見せる……!!)
69 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:27:43.81 ID:eAg+4cOD0
<日向視点>
<峡谷地帯>
七海「――そういうことで、同じ希望を持った人同士は組むことが可能……だと思うよ」
日向「そういうことか」
日向(俺は偶然出会った七海にホープロワイヤルのルールに隠された意図を教えてもらっていた)
日向(にしても本物の十神が吐いた嘘か……)
日向(そういや狛枝と才囚学園の王馬だったか、あのとき何か意味深な反応を返してたけど……二人とも気づいていたんだろうな)
70 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:28:11.68 ID:eAg+4cOD0
七海「ところで日向君の希望は何なの?」
日向「ん、ああ、俺の希望は『77期生に編入する』だ。七海たちと同じクラスに入りたいってことだな」
七海「日向君が同じクラスに……?」
日向「ああ。何でも叶う希望の使い方としては贅沢かもしれないけどな」
七海「ううん、そんなことないよ」
日向「え……?」
七海「日向君が一緒のクラスになったら、私も嬉しいから」
日向「七海……」
七海「だから私もその希望に賛同するよ。これで私たち同じチームで戦えるね」
七海「よろしく」
日向(さっきまで自分以外が敵だと思っていたから、七海とも距離を取っていた)
日向(そこから七海が近寄ってきて、手を差しだそうとするが――)
日向「ちょっと待ってくれ」
日向(俺は制止の声をかける)
七海「……? どうしたの、日向君?」
日向「その手を握り返す前に質問に答えてもらって良いか?」
七海「質問? ん、いいけど」
日向「ああ。なら遠慮なく行かせてもらうが――」
71 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:28:40.56 ID:eAg+4cOD0
日向「おまえは一体誰だ?」
日向「七海のフリをして俺に近づいて――何が目的だ?」
七海「…………」
72 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:29:27.53 ID:eAg+4cOD0
<峡谷地帯>
日向『おまえは一体誰だ?』
日向『七海のフリをして俺に近づいて――何が目的だ?』
七海『…………』
日向の指摘により二人とも動きが止まる。
それから数秒経って。
先に口を開いたのは七海だった。
73 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:29:53.97 ID:eAg+4cOD0
七海「私のフリ……ってどういうこと、日向君?」
日向「ようやく動揺が収まったか、よく取り繕ったじゃねえか」
七海「意味分かんない……私は私だよ」
七海が日向に近づこうとして。
日向「それ以上近づくな」
七海「……どうして?」
日向「おまえが偽物ではないかと疑っているからだ」
日向「俺に近づこうとしているのは、攻撃するためなんじゃないのか?」
七海「そんなことしないよ。信じてよ、日向君」
日向「あくまで本物だと言い張るのか。ならいいぞ」
日向「本物ならなおさら俺の言うことを聞いて近づかないでくれるよな?」
日向「俺の疑念を晴らすために協力してくれるよな?」
七海「……それで日向君の気が済むなら付き合うよ」
74 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:30:29.60 ID:eAg+4cOD0
七海「私のフリ……か」
七海「日向君も何を言い出すのかって思ってたけど」
七海「言われてみればこのゲームには超高校級の才能に応じた能力ってのがあるもんね」
七海「それを使って私に化けた可能性……か」
日向「ああ。才能からしてそういうことが出来そうな生徒が二人いる」
日向「超高校級の詐欺師と超高校級のコスプレイヤーだ」
七海「詐欺師……十神君か。確かに彼の超高校級の能力は誰かに化けるものになるかもね」
七海「才囚学園の白銀さん……コスプレイヤーの彼女も一緒か」
75 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:30:57.01 ID:eAg+4cOD0
七海「でもこうして私の姿、声まで完璧に再現するのは……」
七海「いや説明であった確率を操る苗木君の能力を基準に考えるとそれくらいは出来て当然かも」
七海「なら私の姿や声からは偽物か判別できないね」
七海「だったら私しか知らない質問をするとか? おそらく二人の才能からして記憶までは再現できないと思うし」
七海「……あーでも白銀さんはともかく、十神君の方は一緒のクラスだから私のこともよく知っているかも」
七海「やっぱり記憶から証明するのも難しいか」
日向「………………」
日向(冷静に分析する七海)
日向(その姿を見ていると……自分の疑念が間違いだったのではないかと思ってしまう)
日向(いや……でも……俺は……)
76 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:31:23.98 ID:eAg+4cOD0
七海「どうすればいいかな、日向君」
日向「……そうだな」
日向(首をかしげるその姿、俺を頼るその声)
日向(全てが七海だとしか思えない)
日向「………………」
日向(俺はどうするべきか考えて――)
77 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:31:50.81 ID:eAg+4cOD0
日向「……すまなかった」
日向(俺は頭を下げた)
七海「え、日向君どうしたの?」
日向「七海を試すようなマネして悪かった」
七海「試す……あ、そっか」
七海「鎌かけだったんだね」
日向「ああ。偽物だったら疑えばどこかでボロを出すと思ったんだ」
日向「でも、今のおまえは……どうみても七海本人だな」
日向「疑ってしまって……見抜けなくてすまん」
78 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:32:16.44 ID:eAg+4cOD0
七海「そんなことないって」
日向「許してくれるのか……?」
七海「日向君の想定ももっともだもん」
七海「超高校級の能力が存在するってことは、それくらい警戒していかないといけないってことだね」
日向「ああ……って、偉そうに俺が言うのも違うが」
七海「ふふっ……じゃあこれで信じてもらえたかな」
日向「もちろんだ」
日向(そして俺から一歩七海に歩み寄る)
日向「開始からグダグダで……七海は気乗りしないかもしれないが、ホープロワイヤル一緒に頑張ろうな」
七海「……そうだね。程々に頑張るよ」
日向(俺と七海の手が今度こそ交わされようとして)
79 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:32:43.71 ID:eAg+4cOD0
日向「――ようやくボロを出したな」
七海「……え?」
日向(俺は警戒して距離を取る)
七海「日向君……どういうこと? まだ私が偽物じゃないかって疑っているの?」
七海「気持ちは分かるけど、執着しすぎると――」
日向「疑いじゃない。確定だ」
日向「おまえは七海の偽物だ」
七海「…………」
80 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:33:12.56 ID:eAg+4cOD0
日向「ずいぶんと七海のフリが上手かったが……そもそもどうして俺がおまえを偽物だと疑ったのか分かってないようだな」
七海「疑った理由……?」
日向「ああ、おまえは七海を完璧にトレースしていた。この場が特殊じゃなければ、俺だって騙されていただろう」
七海「特殊な場……」
七海「……あ」
日向「今さら気づいたか。七海はいつだって気だるげだ」
日向「しかし彼女の才能を発揮するもの、ゲームだけは例外でやる気を見せる」
日向「そしてこの場はすでにホープロワイヤルというゲーム会場だ」
日向「なのにいつもの気だるげな七海を演じたのはマズかったな。ましてや『程々に頑張る』なんて言葉が出るわけがない」
七海「そっか……さっきのも私を本物だと信じたフリだったんだね。失言を引き出すために」
七海「やっと騙されてくれたと思って……緩んじゃったか」
日向「勝利を確信した人間ほど隙だらけだ」
日向「そろそろ本当の姿を見せてもらうぞ――」
81 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:33:40.88 ID:eAg+4cOD0
日向「超高校級の詐欺師……!!」
七海→十神(太)「くくっ、よく見破ったな」
十神(太)「誉めてやるぞ」
82 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:34:12.45 ID:eAg+4cOD0
日向(七海の姿から十神の姿に戻った詐欺師)
日向「やはりおまえの能力は指定した人間に化けるか」
十神(太)「そういうことだな」
『能力:超高校級の詐欺師』
『指定した人物の姿、声になる。一日三回まで使用可能』
十神(太)「これで騙して近づき倒そうと思っていたのに……まさか気づかれるとはな」
十神(太)「形勢を互角に戻されたか」
日向(一対一で向き合う俺たち)
日向(おそらく運動能力に大きな差はないため言ったのだろうが)
日向「そんなわけないだろ」
83 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:34:39.35 ID:eAg+4cOD0
十神(太)「何……?」
日向「形勢は互角じゃない。俺の有利だ」
日向「簡単な話だ。おまえは超高校級の能力を見破られて無力化されている」
日向「でも、俺の超高校級の能力は見破られていない」
日向「それだけで十分なアドバンテージだろ?」
十神(太)「くっ……」
日向「まさか自分だけ武器を持っているつもりだったのか? その油断が命取りだな」
日向(そうして俺が能力を発動しようとしたそのとき)
84 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:35:05.93 ID:eAg+4cOD0
七海「日向君!!」
日向「七海……!?」
日向(後方からの声にふりかえると七海が駆け寄ってきていた)
日向(正面には変わらず十神がいるし……本物か)
日向(偶然俺を見つけたということだろう)
十神(太)「運良く本人が来たか……これでは騙すのも失敗していただろうな」
日向「残念だったな」
七海「えっと……どういう状況?」
日向「あとで説明する。まずは十神を倒す」
七海「……う、うん」
日向(そのまま寄ってきた七海だが、説明する前にやることがある)
日向(俺を騙そうとしたこの詐欺師は敵だ)
日向(先に倒そうとして――)
85 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:35:32.58 ID:eAg+4cOD0
七海(?)「別に説明しなくてもいい、状況は分かっているしな」
日向「……っ!?」 グサッ!!
日向(どういうわけか……七海が至近距離からナイフで俺を刺していた)
86 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:36:00.33 ID:eAg+4cOD0
日向「くっ……!!」
日向(状況は分からないが凶器を振るっておいて味方はあり得ない)
日向(俺は七海を突き飛ばす)
七海(?)「狙い通りだ」
十神(太)「上手く行ったな」
日向(七海はそのまま十神の横に並ぶ……どういうことだ?)
日向「二人とも組んでいたのか……?」
七海(?)「ああ。そういうことだ」
日向「どうして……何の希望で結託して……」
七海(?)「そうだな……もうこの姿でいる必要はないか。全く騙すためとはいえ、俺が女のフリをするとはな」
日向(七海が言うとその姿が変わって――)
87 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:36:37.54 ID:eAg+4cOD0
七海→十神「こういうわけだ」
十神「残念だったな」
日向「十神……っ!!」
日向(本物の十神の姿に変わる……これはどういうことだ?)
十神「端的に説明してやろう。俺の能力『超高校級の御曹司』でこいつの詐欺師の能力をコピーしておいたということだ」
『能力:超高校級の御曹司』
『触れた人間の能力をコピーすることが出来る。なお、すでに他の能力をコピーしている場合上書きする』
『現在コピー中の能力:超高校級の詐欺師』
日向「詐欺師の能力を……それで七海のフリをして……」
十神「おまえを襲ったというわけだ。偽物の後に出てきたから本物だと思って騙されたな」
日向(くっ……油断した)
日向(このタイミングで七海がこの場に姿を現すなんて偶然がそうそう起きるわけ無いのに)
日向(勝利を確信した人間ほど隙だらけ……まんま返されたな)
88 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:37:08.41 ID:eAg+4cOD0
腐川「びゃ、白夜様。上手く行きましたね」
日向(物陰からさらに一人生徒が出てくる)
日向(超高校級の小説家……腐川冬子。十神の熱烈的なファンだったか)
日向(そして三人が横に並ぶ)
日向「まだゲームが始まったばかりだってのに……俺を二段構えで騙す作戦といい、三人でチームを組んでいることといい、ずいぶん手際が良いな」
十神「ゲーム開始直後に電子生徒手帳から俺の言うことを聞くこいつらに連絡した」
十神「そうして集まって、俺の希望に変えさせてチームを組んだというわけだ」
腐川「ほ、本当は私が白夜様と結ばれるって希望だったけど……びゃ、白夜様の言うことには逆らえないもの」
十神(太)「俺を影武者として正式に認めてくれるとあれば希望を変えることくらい吝かではない」
十神「俺らの希望はこうだ」
『希望ヶ峰学園が十神グループの傘下に入る』
十神「とはいえこの希望もついでだ」
十神「あらゆる才能の頂点に立つこと……この戦いに勝つこと事態に意味がある」
十神「だから勝つために何でもしてやる」
89 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:37:43.82 ID:eAg+4cOD0
十神「というわけだ、おしゃべりはここまでにしておこうか」
十神「おまえたち、こいつの電子生徒手帳を奪え」
十神(太)「ふん、いいだろう」
腐川「わ、分かりました、白夜様」
日向「ちっ……!」
日向(電子生徒手帳を壊されても負けだ……奪われるわけには行かない)
十神「抵抗するか、無駄だな」
十神「こちらは三人、そっちは一人。その上不意打ちでおまえはナイフが刺さっている」
十神「どうあがいても絶望だ」
90 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:38:16.47 ID:eAg+4cOD0
日向「それは……どうかな?」
日向(挑発的な笑みで返すが……十神はそれを予想していたようだ)
十神「使うか……おまえの身にも宿っているだろう能力を」
十神「どうやらこの状況からも逆転できる能力みたいだな」
日向「……いや、そんなことないさ」
日向「予備学科の俺だぞ。才能もない俺に見合った駄目駄目な能力だ」
日向(せめてもの油断を誘うために嘘を吐くが)
腐川「……白夜様、今の言葉嘘です! あいつの能力は……!」
日向(腐川の反応は……もしかしてやつの能力によるものか?)
『能力:超高校級の文学少女』
『嘘が分かる。常時発動する』
十神「それくらいおまえに言われんでも分かっている」
十神「見せてみろ、日向。おまえの能力を」
91 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:38:42.65 ID:eAg+4cOD0
日向「後悔するなよ」
日向「発動――超高校級の希望!」
日向(俺は能力の発動を宣言すると、その姿が変わり――)
92 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:39:11.18 ID:eAg+4cOD0
カムクライズル「ツマラナイ……」
『能力:超高校級の希望』
『カムクライズルになる。その他詳細不明』
十神「っ……!」
十神(日向がカムクライズルの姿へと変わった)
93 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:39:42.07 ID:eAg+4cOD0
十神(どのような能力なのか見ている目の前で……)
カムクライズル「……」
十神(太)「なっ……!?」
十神(ナイフによって付いた傷を一瞬で回復させて)
カムクライズル「……」
腐川「と、飛んだ……!?」
十神(跳躍して一息で岩山を登り、俺たちの前から姿を消した)
十神(後に残されたのは俺たち三人だけだ)
94 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:40:15.80 ID:eAg+4cOD0
十神(太)「逃げたのか?」
腐川「み、みたいだけど……でも、あいつの能力はどういうわけ?」
十神「……上々だな」
十神(日向にはまんまと逃げられた形だが……そもそも今回の俺たちの狙いは日向を殺すことではない)
十神(ゲームが開幕したばかりの今、一人減らそうがそこまで意味はないからだ)
十神(本当の目的は……日向の能力を見極めること)
十神(襲撃はあいつをピンチに追い込むことで能力を発動させるため)
十神(そして強い能力なら俺の能力でコピーして、ゲームを有利に進めるつもりだった)
十神「………………」
十神(カムクライズルになったあいつは傷の治癒、超人的な運動能力を見せて……なのに俺たちの前から一目散に逃げた)
十神(やつの能力は……おそらく……)
95 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:40:44.22 ID:eAg+4cOD0
十神「なるほど」
十神(太)「どうする、追うか?」
十神「いやいい、捨て置け」
腐川「い、いいんですか。あの能力のコピーを狙わなくて」
十神「ああ、あいつの能力は欠陥がある。最強にはほど遠い」
腐川「欠陥……?」
十神「脇道にそれるのは終わりだ。計画通りプランAを実行する。行くぞ」
十神(太)「いいだろう」
腐川「わ、分かりました、白夜様!!」
そうして三人もその場から姿を消した。
96 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:41:12.93 ID:eAg+4cOD0
<住宅地>
苗木(ルール解説も終わり、霧切さんとチームを組むことになった僕は次の行動を開始しようとしていた)
霧切「超高校級の能力なんて現実離れした能力がある以上、受け身になるのは悪手」
霧切「こちらから動いていきたいわね」
苗木「潜伏していてもバレるもんね」
苗木「少なくとも超高校級の探偵はもう一人いるわけだし」
霧切「最原君ね。全く同じ能力なのかは分からないけれど……」
苗木「でも、これからどう動くの?」
霧切「それは――」
苗木(霧切さんが口を開こうとしたそのときだった)
97 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:41:41.38 ID:eAg+4cOD0
モノクマ『死体が発見されました!!』
苗木「っ……!!」
苗木(モノクマによって島全域にアナウンスが流れる)
苗木「今のは……えっと、ルールだと誰かが死亡した時点で流れるんだったよね」
苗木「ゲームも始まったばかりだってのに誰が……」
霧切「しっ……まだみたいよ」
苗木「え……?」
モノクマ『死体が発見されました!!』
苗木「っ、二回目!?」
苗木(今のほとんど間隔が無かったけど……ほぼ同時に二人も殺されたの!?)
苗木「一体、何が起きているんだろう……」
霧切「…………」
98 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:42:14.70 ID:eAg+4cOD0
――時を少しさかのぼる。
<森林地帯>
大神「最初の相手はお主か」
辺古山「くっ……!」
ゲーム開始直後のタイミングで、77期生と78期生の武道家を極めし二人が激突しようとしていた。
99 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:42:52.17 ID:eAg+4cOD0
<森林地帯>
超高校級の格闘家、大神さくら。
超高校級の剣道家、辺古山ペコ。
一流の武道家である二人。
一期しか違わない点から何かと比較されがちである二人。
お互いの能力も。
『能力:超高校級の格闘家』
『格闘家としての力、技術を発揮できる』
『能力:超高校級の剣道家』
『剣道家としての力、技術を発揮できる』
武闘派の生徒にかけられた枷として、現実と特に変わらない状態だった。
100 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:43:18.80 ID:eAg+4cOD0
ホープロワイヤルの主旨、どの希望が一番優れているのかを体現したような戦いは。
大神「逃がしはせんぞ!」
辺古山「くっ……!」
逃げる辺古山を大神が追う展開となっていた。
101 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:43:48.24 ID:eAg+4cOD0
剣道三倍段という言葉がある。
剣道家相手に素手で戦う者は三倍の段位があって互角であるというものだ。
それだけにリーチの差は大きい。
つまり本来は剣道家である辺古山が有利のはず。
なのにどうして現在辺古山が逃げる状況になっているのか。
それは剣道家としての本領を発揮できていないからだった。
開始直後、この島に飛ばされたばかりで準備する時間も無かったタイミングで大神と出会ったため。
現在の辺古山は竹刀もその代わりになりそうなものも持っていないのである。
手元にあるのはプレイヤーの初期装備、電子生徒手帳だけだ。
102 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:44:14.24 ID:eAg+4cOD0
大神「最初からお主と会うとは……幸運であり不運だった」
大神「無手同士故こうして圧倒できる訳だが、武道家としてやはり竹刀を持った本気のお主を相手してみたい気持ちもある」
辺古山「だったら見逃せばいいではないか!」
大神「それもそれでまた違うな。……ふんっ!!」
森の中を駆けながら大神は拳を繰り出す。
辺古山は間一髪で避けると、その後ろにあった木に当たる。
ズンッ!! と。
人体と木が衝突したとは思えないほどの重低音が森に響く。
103 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:44:42.98 ID:eAg+4cOD0
辺古山(何て一撃だ……!)
辺古山(一発でも食らえばアウトだろう)
辺古山(反撃に出たいが……竹刀が無いのは痛い)
辺古山(無手での取り組みも少しは自信がある。全くの素人が相手であれば制圧することも可能だろう)
辺古山(しかし、相手が悪い)
辺古山(超高校級の格闘家、本職相手には通じるとは思えなかった)
辺古山(だから逃げるしかない)
辺古山(……だが、何の策もないわけではないぞ)
104 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:45:15.39 ID:eAg+4cOD0
大神(辺古山の狙いは分かっている)
大神(この森の中でも手に入る棒状の物)
大神(木の枝を手に入れて反撃するという魂胆であろう)
大神(逃走しながら木の根に引っかかる可能性があるというのに幾度と無く木に近付いているのがその証拠だ)
大神(竹刀に比べれば強度は落ちるが、それでも無いよりはマシ)
大神(いや、超高校級の剣道家相手にその認識では足らぬか)
大神(十分長さの木の棒を手に入れれば、おそらく我を上回るだろう)
大神(だから手に入れさせない)
大神(木に近付く度に攻撃を入れて折る時間を与えていない)
大神(その度に空振った攻撃が木を揺らし大きな音を建てているが……この程度の衝撃は意に介さぬ)
大神(都合良く大きな枝が落ちていることでもなければ……いずれ追いつめきれるだろう)
105 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:48:04.23 ID:eAg+4cOD0
一瞬の油断も許さない追いかけっこは唐突に終わりを告げた。
辺古山「っ……行き止まりだと!?」
大神「ここまでだ」
逃げ続けた先に追い込まれた岩で出来た袋小路。
偶然ではない。
追いかける側の余裕を使って大神が辺古山の逃げる方向を誘導していたのだ。
気づいたときにはもう遅かった。
大神は一瞬で距離を詰める。
逃げ場のない辺古山は絶体絶命で――。
106 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:48:32.64 ID:eAg+4cOD0
――その瞬間、奇跡が起きた。
空から十分な長さを持った木の枝が辺古山めがけて降ってきたのだ。
辺古山はそれを手に収めると一閃。
辺古山「はぁっ……!!」
大神「ぬっ……!?」
大神は手痛い反撃を食らってしまう。
107 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:49:00.10 ID:eAg+4cOD0
大神(何が起きた……!?)
ありえない現象の起きた辺古山を見ると。
辺古山「ありがとうございます」
礼を言っている。
それは誰を対象にしたものか。
奇跡を起こした神様? 否。
そんな都合良いものは存在しない。
大神「……そうか」
大神(辺古山が逃走しながら木に近寄ったのは……木の枝を手に入れるためだけではなかった)
大神(我が枝を折る隙を与えぬ事は承知だったのだろう)
大神(だから目的は攻撃を空振りさせて……大きな音を立てさせるため)
大神(つまり――自分はここにいると知らせるため)
108 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:49:31.71 ID:eAg+4cOD0
九頭竜「すまん、ペコ! 遅くなっちまった! それしか見つからなかったが大丈夫か!」
辺古山に枝を投げ渡したのは九頭竜だった。
辺古山「ええ、大丈夫です。坊ちゃま」
辺古山は開始してすぐに電子生徒手帳を使って九頭竜に連絡を取っていた。
しかし、直後大神と遭遇したため十分な話は出来なかった。
それでもポケットの中で通話状態は続いていた。
そこから聞こえる音声を頼りに九頭竜は状況を把握。
辺古山を助けるために動き出して……森から響く音を頼りにして向かい。
転送位置が近かったということも幸いして。
間一髪で間に合ったという事だった。
109 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:49:59.75 ID:eAg+4cOD0
辺古山「形勢逆転だ」
大神「……そのようだな」
先ほどの反撃の際に辺古山は双方の位置を入れ替えていた。
つまり現在、袋小路に追い込まれたのは大神の方だ。
逃げることも出来ずに正面からは本領を発揮した剣道家が迫る。
辺古山「行くぞ……!」
辺古山の連打が炸裂する。
その攻撃は鋭く、大神の防御や回避を許さなかった。
大神「くっ……!」
それを理解した大神は体を丸め耐えることに専念していた。
無抵抗の大神を攻撃する辺古山。
まるでリンチのような状況であったが……しかし大神は倒れない。
110 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:50:30.93 ID:eAg+4cOD0
辺古山(まるで岩を叩いているようだ……)
大神の鍛え上げられた体は固く、堅く、硬い。
常人なら意識を手放しているだろう攻撃に耐えている。
一方的に攻撃を加える絵面を気にして容赦することなど出来るはずもなかった。
隙を見せれば最後、咎められるだろう事は分かっていた。
辺古山「私は負けられない……負けられないのだ!!」
辺古山の希望は。
『希望:九頭竜組を今以上に発展させる』
大切な存在のために定めた希望。
九頭竜「油断するなよ、ペコ!!」
そしてそれは見守っている九頭竜も同じだった。
『希望:九頭竜組を今以上に発展させる』
111 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:51:03.18 ID:eAg+4cOD0
示し合わせたわけじゃなかった。
そのような時間はなかった。
二人とも十神の嘘を見破ったわけではない。
今持って自分以外全てが敵だと思っている。
希望が同じであれば争う必要がないと気づいていない。
それでも希望は一緒だった。
敵であろうと助けた。
当然のことだ。
それが二人の絆なのだから。
辺古山「おおおおおおおおっ……!!」
木の棒を大上段に掲げる。
大神の防御を打ち破るため、全力の一撃を放たんがために。
九頭竜「いけええええええっ……!!」
九頭竜の声援も乗せたその一撃は――。
112 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:51:42.28 ID:eAg+4cOD0
大神「――その大振り、待っていたぞ」
大神待望の隙であった。
振り下ろされる木の棒に、拳を振り上げてぶつける。
辺古山「……っ!?」
インパクトの瞬間をずらされた攻撃は本来の威力を発揮できないどころか。
バキッ!!
その武器自体が折られる結果を招く。
113 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:52:11.97 ID:eAg+4cOD0
辺古山の手に残されたのは素手とリーチの変わらないほどの長さに折れてしまった木の棒。
大神「本来の得物、竹刀であればこうはならなかったであろう」
大神「やはり……全力の貴様と戦いたかったぞ」
形勢は再び逆転し。
大神「ふんっ……!」
辺古山「ぐっ……!」
至近距離から放たれた拳を辺古山は避けきれなかった。
意識が一瞬飛んだその隙に大神は辺古山の生徒手帳を奪い取り。
そして。
114 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:52:38.11 ID:eAg+4cOD0
大神「これで終わりだ」
パキッ!
空中に投げた電子生徒手帳に手刀をおろすと真っ二つとなった。
『敗北条件は殺されるか電子生徒手帳を壊されること』
ホープロワイヤルのルールにより。
モノクマ『死体が発見されました!!』
モノクマが辺古山のリタイアを告げる。
115 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:53:07.34 ID:eAg+4cOD0
辺古山「ぼっちゃま……すいません……」
敗北した辺古山は体にヒビが入り。
パリンッ! と。
崩壊する音と共に砕け散った粒子が天上へと昇っていく。
それがログアウトの演出なのだろうとは分かったが。
九頭竜「ペコォォォッ!!」
大事な存在を失った九頭竜の慟哭が響きわたる。
116 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:53:36.27 ID:eAg+4cOD0
大神「何、心配するな。貴様もすぐに同じ場所に送る」
ここはホープロワイヤル。
希望を叶えてもらうための戦場だ。
しかし、大神は希望を叶えてもらうことに興味はなかった。
希望とは己で叶えることが信条だからだ。
それを示すように設定された希望は。
『希望:無し』
と表示されている。
117 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:54:02.15 ID:eAg+4cOD0
ならば何故こうして戦っているのか?
大神にとって大事なことはここが戦場であるということ。
だからルール上の希望は設定されていないが、この戦いを勝ち残ったときに希望の実現にまた一歩近づくだろう。
『最強になること』という希望が。
故に、どんな相手であろうと大神は油断しない。
九頭竜「ペコォォォォッ! オレが必ず敵を取ってやるからな……っ!!」
大神「意気や良し」
118 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:54:31.41 ID:eAg+4cOD0
数秒後。
モノクマ『死体が発見されました!!』
大神「…………」
勝者の大神はその場を去った。
119 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:54:57.94 ID:eAg+4cOD0
<住宅地>
霧切「2回も鳴った死体発見アナウンス……状況は動き始めているようね」
霧切「私たちも動きましょう」
苗木「そうだね」
苗木「えっと、じゃあまずはどうするの?」
苗木「他の参加者を捜すか……それとも武装を整えるか、とか?」
苗木(霧切さんは能力で捜し当てた銃を持っているが、僕は丸腰だ)
苗木(確率を操る幸運の能力を戦闘に生かすなら、何か武器が必要だろう)
苗木(対する霧切さんの返答は――)
120 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:55:27.56 ID:eAg+4cOD0
霧切「……どうやら一手遅かったみたいね」
苗木「え……?」
苗木(霧切さんは緊張状態に入っている)
苗木(何を察知したのか……それはすぐに僕にも分かった)
ブルン、ブルンッ!! と。
住宅地に鳴り響くバイクの轟音。
苗木(誰かが……近づいてきている?)
121 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:55:53.40 ID:eAg+4cOD0
<住宅地・外>
大和田「よし、行くぜ!」
『能力:超高校級の暴走族』
『バイクを召喚することが出来る』
石丸「そうだな、兄弟よ!!」
122 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:56:53.83 ID:eAg+4cOD0
<住宅地>
苗木(聞こえてきたバイクの音は近い)
苗木(おそらくこの住宅地に侵入してきている)
霧切「これは誰かの能力……いえ」
霧切「バイクというと思い当たる能力主は一人しかいない。大和田君でしょうね」
苗木「え? 普通に落ちていたバイクに乗っているって可能性はないの?」
霧切「無いわ。だって私の超高校級の探偵で乗り物がどこにあるか真っ先に調べたもの」
霧切「でも該当無しで能力の残り回数は減らなかった。つまりこのサバイバルフィールドにはそういう類の物は設置されていない」
霧切「武器なんかと違って移動手段にも武器にも防御にも使えるから、拾った人が有利になり過ぎるって事で配置されてなかったのでしょうね」
苗木「なのにバイクの音が聞こえるから、誰かの能力……暴走族の大和田君って考えたわけか」
苗木「なるほど」
123 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:57:22.56 ID:eAg+4cOD0
苗木「じゃあどうするの」
苗木「近くまで来ている大和田君を倒すか、それともこのまま潜伏するか」
霧切「出来ることなら潜伏したいわね」
霧切「こっちにある武器は私の持ってる銃だけ」
霧切「素人が動く対象に当てるのは難しい。機動力のあるバイクとは相性最悪だわ」
苗木「そっか」
霧切「だからここはやり過ごして準備を整えたかったのだけど……」
苗木「……?」
124 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:57:53.02 ID:eAg+4cOD0
霧切「ねえ、さっきからバイクの音近づいてきていない?」
苗木「え?」
苗木(僕が間抜けな声で聞き返したそのとき)
ガッシャーーーーンッッッ!!!!
苗木「うわっ!?」
霧切「さて……これはどういうことかしら?」
苗木(派手な音を立てて、潜伏していた住居の窓ガラスが破られて)
大和田「ここにいたか!」
石丸「苗木君に霧切君だな!」
苗木(バイクに二人乗りした級友が現れた)
125 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:58:26.67 ID:eAg+4cOD0
苗木「大和田君に……石丸君!?」
苗木(能力から大和田君は予想できていたけど……石丸君も一緒?)
苗木(いや、そうだ。僕と霧切さんみたいに一緒の希望を掲げてチームとして動いているって事だろう)
苗木(バイクの方は大和田君の能力だろう。そして石丸君の能力は……)
石丸「苗木君の方は開始前の説明で聞いたとおり50%を100%にする能力のようだ!」
石丸「そして霧切君は指定した物の場所が分かる能力だ!」
石丸「二人とも希望『世界平和』で一致しているから組んでいるのだろう! 気をつけたまえ、兄弟!!」
大和田「おうっ!」
苗木「……っ!?」
苗木(石丸君に僕らの能力、希望を当てられる。事前に説明された僕の能力はともかく、それ以外は分かるはずがない)
苗木(つまり――)
126 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:58:54.92 ID:eAg+4cOD0
霧切「『見た相手の能力と希望が分かる』……それがあなたの能力なのね、石丸君」
石丸「ふむ、そういうことだ!」
『能力:超高校級の風紀委員』
『見た相手の能力と希望が分かる。常時発動』
苗木(相手の能力が分かることはこの戦いでアドバンテージだ)
苗木(初見殺しをされることが無いし、相手の狙いを察知することが出来る)
苗木(しかし、その分かることが能力であるため、戦闘に置いては実質無能力とも言える)
苗木(でも、石丸君は大和田君と組んでいる)
苗木(バイクの機動力にそのまま体当たりすれば攻撃力も十分にある)
苗木(能力を丸裸にして、バイクで優位に戦う)
苗木(これは厄介なコンビかもしれない……)
127 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 21:59:43.92 ID:eAg+4cOD0
霧切「これは厄介ね……」
苗木「うん、この二人は強敵だよ」
霧切「そうではなくて……」
苗木「……?」
霧切「…………いえ。まあ、そうでもあるわね」
苗木(霧切さんはよく分からない言葉を呟くと)
霧切「それであなたたち二人の目的は何かしら?」
霧切「私たちの希望は分かっているとおり『世界平和』よ」
霧切「仲間になりたいならそのように希望を変更しなさい」
大和田「はっ、それはこっちのセリフだ」
大和田「俺たちの希望は『暮威慈畏大亜紋土を世界で一番の族にする』だ」
大和田「この希望に変えるなら、おまえたちも仲間にしてやっていいぜ?」
128 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 22:00:12.33 ID:eAg+4cOD0
苗木(二人が互いの希望に勧誘する)
苗木(しかし、どちらも本気の言葉では無かったようだ)
霧切「交渉決裂のようね」
大和田「みたいだな」
苗木(誰も生徒手帳を取り出して希望を変更しようとしなかった)
苗木(『世界平和』何となくで決めた僕の希望だけど、霧切さんも賛同してくれた僕たちの希望だ)
苗木(他の希望のために戦うつもりは無い)
129 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 22:00:40.83 ID:eAg+4cOD0
大和田「残念だ、テメエらがここで脱落するとはな」
石丸「まあ仕方ないことだろう」
苗木「ど、どうするの、霧切さん!」
霧切「とりあえず逃げるわよ、正面からじゃ勝ち目が無いわ!」
苗木(大和田君がバイクのアクセルを踏むのと、僕らがリビングから脱出するのは同時だった)
苗木(ドガンッ!! という衝突音を背後に、僕たちは駆ける)
苗木「どうするの、二階ならバイクは上ってこれないんじゃない!?」
霧切「いえ、その場合は家に火を付けられるわ! そして出てきたところをバイクでアタックされて終わる!」
苗木「っ……!」
苗木(霧切さんの戦況の想定が早い)
130 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 22:01:08.75 ID:eAg+4cOD0
霧切「このまま森林地帯に逃げるわ! 森の中なら満足にバイクは運転できないはず!」
苗木「分かった!」
苗木(玄関から僕たちが出るのと、大和田君たちが破った窓ガラスから再びバイクが出てくるのが同時だった)
石丸「おそらく霧切君たちは森林地帯に逃げ込むだろう! 住宅地の舗装された道路では勝ち目が無いからな!」
大和田「へんっ、だったら先回りしてやるぜ!」
苗木「くっ……!」
苗木(こっちの狙いが読まれている。なのにどうしようもない)
苗木(真っ直ぐ向かえば森林地帯に行けるという道に、二人は立ちふさがった)
石丸「住宅地の中から逃がさないようにすれば僕たちの優位は変わらないだろう」
大和田「らしいぜ? 二人とも投降したらどうだ?」
131 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 22:01:35.15 ID:eAg+4cOD0
苗木「どうするの?」
霧切「強行突破するわ」
苗木(霧切さんは言いながら僕に銃を渡す)
霧切「これでバイクのタイヤを打ち抜きなさい」
霧切「当たる確率を能力で補正すればどうにかなるでしょう」
苗木「っ……でも、失敗したら」
霧切「ここで逃げてもジリ貧になるだけよ」
霧切「射撃も能力込みなら私よりあなたの方がマシだわ」
霧切「だから、頼んだわよ」
苗木「……分かった!!」
132 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 22:02:02.91 ID:eAg+4cOD0
大和田「はっ、そういうことか。だが、当たるかよ!」
苗木「……っ!」
苗木(銃を構えた僕を見て、大和田君はバイクを左右に揺らすスラローム走行をしながらこっちとの距離を詰めてくる)
苗木(照準が定まらない……外したらそのままバイクをぶつけられて、僕たちは敗北するだろう)
苗木(それでも当ててみせる……絶対に当てる……!!)
大和田「おおおおおおおっ!!」
苗木「あああああああっ!!」
苗木(二人の気勢が衝突するその中間地点で)
苗木(パリンッ!! という音と共に――光の爆発が起きた)
133 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/02/02(土) 22:02:29.68 ID:eAg+4cOD0
大和田「くっ……何が!?」
苗木「どういうこと……っ!?」
苗木(光の爆発、それは僕と大和田君どちらの意図したものでもなかった)
石丸「一体何が……!」
霧切「これは……」
苗木(そして石丸君と霧切さんも驚いていて、二人の仕業でもない)
苗木(つまり――この場に第三者が乱入したのだ)
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