千歌「勇気は君の胸に」

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402 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 22:51:35.16 ID:tYHAcBhr0


果南「いきなり最大出力かいッ!」ギリッ

梨子「まさか! 今のは半分くらいに抑えてますよ!!」



―――ゴオオォォッ!! ゴオオォォッ!!!



果南「クソッ! 花丸、曜! 回り込んで!!」




果南の指示で左右に飛び出す二人。

お互いの手にはAqoursリング専用の匣兵器、Aqours匣が握られている。




梨子「甘いわ……『プレリュード』!!!」



梨子の背後から嵐の炎を纏った犬が飛び出す。



嵐犬「ワオーーーーーーーン!!!!」ゴオオォォ



曜「うわッ!!?」

花丸「ぐっ!」



犬による嵐の炎の咆哮で二人の体は大きく後方へ吹き飛んだ。




梨子「『プレリュード』の咆哮をまともに受けて無傷か……その服にカラクリがあるのね」
403 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 22:56:54.84 ID:tYHAcBhr0


曜「何なのあの犬!」

梨子「この子は『嵐犬(カーネ・テンペスタ)』の『プレリュード』、私のAqours匣よ」

花丸「アニマル型の匣……っ」


果南「最初から匣を使っていたのに、どうして『形態変化(カンビオ・フォルマ)』させてなかったの?」

梨子「え、良かったの? 一瞬で終わっちゃうけど?」

曜「舐めるな!!」ボッ!!

梨子「ま、使わなくても一人くらい消せるしね……!!」



―――ゴオオオォォ!!!!



曜の方向に初撃の倍以上の大きさの光球が放たれる。

Aqoursリングを使えるようになったとは言え、曜単体では炎の出力はメンバー最下位。

この規模の炎を相殺するだけの力は無い。


対抗手段は果南の右手しかないが、曜までの距離が離れ過ぎている。




果南「ダメ……この距離じゃ間に合わない!!!」

花丸「曜ちゃん避けて!!!」

曜「………ッッ!!!」






ルビィ「―――『形態変化(カンビオ・フォルマ)!!!』」






突如、光球の真上に落雷が落ちた。

その衝撃で光球は真っ二つに割れて曜の体から綺麗に逸れたのだ。




曜「い、一撃で壊した……」
404 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:04:43.13 ID:tYHAcBhr0

梨子「……へえ、ルビィ様がAqours匣を」




Aqours匣の中にはアニマル型の匣兵器が搭載されている。

嵐には犬、雷には猫といったように。

それ単体でも他の匣兵器とは別格の威力を持っているが、Aqours匣には特殊な機能が備わっている。


―――『形態変化(カンビオ・フォルマ)』

アニマル匣が守護者専用の強力な武器へと変形する。


ルビィの『雷猫(エレットロ・ガット)』は『槍』へと変形。


そして変化は服装にも表れる。

発動と同時に使用者は白を基調とした専用の服を身に纏う事になる。


ルビィの場合は白ジャケットにウイングカラー付きのシャツ、黒の蝶ネクタイ、左胸にはピンク色のバラの花が付いている。


……もし、この場に千歌が居れば一目でこれが何の衣装か分かっただろう。

ラブライブ地区予選で披露した曲の衣装である『MIRAI TICKET』のそれと全く同じだ。



ルビィ「梨子さんの相手は私がします。みんなは先に行って下さい」

花丸「ルビィちゃん!?」
405 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:11:55.65 ID:tYHAcBhr0
果南「………」


梨子「ルビィ様が? その子じゃないの?」

曜「そうだよ!! コイツは私が……ッ!」

ルビィ「曜ちゃんの目的は千歌ちゃんを取り返す事。梨子さんと戦う必要は無い」

曜「でも!」

ルビィ「果南さんも花丸ちゃんも戦うべき相手が居る……なら、私しか残ってない」


梨子「全員まとめて掛かって来ればいいじゃない」

ルビィ「……分かりませんか?」

梨子「?」



ルビィ「梨子さん相手なら私一人で充分だって言ってるんですよ」



梨子「………へぇ」



ルビィ「ずっと後悔してた……千歌ちゃんが連れ去られたあの日、私に戦う勇気があればって……」

ルビィ「今の私には立ち向かう勇気も力もある」

果南「ルビィ……任せて大丈夫?」

ルビィ「……うん」ニコッ


ルビィ「梨子さんを倒したら直ぐに果南さん達と一緒にお姉ちゃんとも戦う!!」

ルビィ「……私が駆けつける前に倒されないでよね?」

果南「ふふっ……心配なら早く来てよ!」


ルビィ「曜ちゃん、必ず千歌ちゃんを取り返して……!」

曜「うん……!」


ルビィ「花丸ちゃんも頑張って!」

花丸「……うん、ルビィちゃんもね!」
406 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:12:46.21 ID:tYHAcBhr0








梨子「………」

ルビィ「みんなが通り過ぎるのを見逃してくれるんだ」

梨子「ダイヤ様には自由にやれと命令されましたから」

梨子「……だから相手がルビィ様でも手加減はしない」



梨子「――プレリュード、『形態変化(カンビオ・フォルマ)』」



梨子の合図でプレリュードは『二丁拳銃』に姿を変え、梨子仕様の『MIRAI TICKET』衣装へと換装。



梨子「一撃で終わるようなつまらない結果だけは止めてくださいよ……?」

ルビィ「……負けないからっ!!」






【ルビィ(属性:雷) VS 梨子(属性:嵐)】


407 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:26:23.50 ID:tYHAcBhr0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



戦闘が開始されて早々、梨子は右手の銃から二発発砲する。


梨子の専用武器『二丁拳銃』の弾丸鉛玉の代わりに炎を圧縮したものを撃ち出す。

本来この弾丸は曜の弱点でもある生成できる炎が弱い人間がそれを補う為に作られた物。


その弾丸を梨子のように強力な炎を扱える者が使った場合、どうなるのかは想像に難くない。


……炎の規模、破壊力共に数倍に跳ね上がった。



――ルビィは雷の炎を纏わせた槍の柄を地面に押し当てる。


正面に体を覆い隠す大きさのレンズ状のバリアが出現。

梨子の炎を防いだ。




ルビィ「……効かないよ」

梨子「私の攻撃を防ぐか! 流石は王族、黒澤家の人間と言った所ね!」


梨子「さて……そのバリアは何発まで耐えられるのかしらね!」



―――ゴオォォ! ドゴオォォォッ!!



ルビィ「うぐっ、ぐぐ……ッ」



四発、五発と命中する数が増える度にバリアごとルビィの体はジリジリと後退していく。



梨子「守っているだけじゃジリ貧だよ!」
408 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:29:16.25 ID:tYHAcBhr0

ルビィ「……ッ、うぅ」

梨子「もしかして攻撃の仕方が分からないの?」


ルビィ「……大丈夫だよ」ニッ



梨子の周囲数メートルに小さな雷雲が複数出現する。



梨子「い、いつの間に!?」


ルビィ「――当たって!!!」ブンッ!!


ルビィが槍を振り下ろすと雷雲からビーム状の雷の炎が発射された。

不規則な方向からの攻撃な為、回避は困難。

急所は避けたが肩や脇腹に被弾。
それ以外の部位にも掠り焦げ跡を残す。



梨子「痛……ッ!?」


……この程度の威力なら衣装の耐久性の方が勝る。
ダメージも大したことがないわ。

つまり、この攻撃は私のバランスを崩す為の陽動……!


梨子「……本命は真上の雷雲か!!」

ルビィ「気がついた所で今更遅い! 避けられよ!!!」


ルビィ「――『落雷(サエッタ)!!!』



目が眩む閃光と耳をつんざく激音が大広間に鳴り響く。
梨子の炎を真っ二つにした雷が今度は脳天に直撃した。


梨子「……がっ、あ、ああああッッ!!!」
409 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:30:00.54 ID:tYHAcBhr0



梨子は倒れない。



ルビィ「た、耐えるの……この一撃を!?」

梨子「今のはちょっと効いた……ぐっ」フラッ

ルビィ「ならもう一度―――」



―――ズドドドッッ!!!



梨子は周囲に発生していた大小様々な大きさの雷雲を全て撃ち抜いた。



梨子「二度は通用しないわよ」ギロッ

ルビィ「うっ……!?」



ルビィは槍の柄を地面に打ちつけて雷雲を発生させる。



梨子「何としてでも近寄らせたくないってか……」



電撃による遠距離攻撃で牽制。

梨子はそれを左右ジグザグに走り回りながら回避し、銃撃で応戦する。

数発がルビィの頬と腰を掠めた。



ルビィ「熱ッ!!?」

梨子「なるほど、雷雲による攻撃とバリアは同時には行えないってね!!」
410 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:34:30.94 ID:tYHAcBhr0

ルビィ「くっ……何でその銃は弾切れにならないのさ!?」



お互いに一定の距離を保ち移動しながら攻撃と回避を繰り返す。

攻撃の密度はルビィが優るが、精度は梨子が優る。

ジリジリとダメージが蓄積していくのはルビィなのだが攻撃方法を変更する気配はまるでない。


梨子はそれに違和感を持った。



――妙ね……ルビィ様の武器は『槍』。

中遠距離での撃ち合いよりも白兵戦に持っていきたいと思ったんだけど。

ルビィ様の使い方は間違ってはいないけど『槍』よりも『杖』の側面が強い。

さっきの技だって槍を使った本来の戦い方の中に組み込めば最大限に活かせる感じがする。


梨子「じゃあ、こうしよう……!」


梨子は銃口から放たれる炎を推進力としてルビィの目の前まで瞬時に接近した。

接近に思わずギョッとしたルビィ。

梨子は御構い無しにグリップの底でこめかみを殴りつける。



ルビィ「ッああ!?」



ガンッ! ガンッ! ゴンッ!



頬、顎、肩、みぞおち……。
不快な肉を打つ鈍い音が断続的に響く。

果南が全員に装着させたスーツを含むすべての衣服には炎に対してはかなりの耐性を誇っている。

一方、物理攻撃に対してはただの服と同じ防御力。
ダメージの軽減はほとんど無い。



梨子「どうしましたッ! その槍は飾りなの!?」
411 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:38:04.03 ID:tYHAcBhr0

ルビィ「…ッ、あ゛あ゛ッ!!」ブンッ!



槍を振り回す。

が、苦し紛れに振った所で梨子の体には掠りもしない。バックステップで軽々と回避した。



ルビィ「ぅぐうぅ……がっ、はぁッ……」ボタボタッ

梨子「……この辺で諦めてくれませんか?」

梨子「ダイヤ様の命令とは言え、こうやってルビィ様を痛めつけるのは正直嫌です……」

ルビィ「はぁッ……はぁっ……ッ」

梨子「たった一言でいいのです……降参と言ってください」


ルビィ「うあ゛あ゛あ゛ッ!!!」ダッ!!

梨子「あぁ……向かって来てしまいますか――」カチャッ



ボロボロになりながら向かってくるルビィに対し、梨子は無慈悲にも二丁合わせて引き金を六回引いた。



412 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/27(土) 23:45:09.51 ID:eoWGRzzU0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



王の間へ続く広々とした廊下。
その途中で仁王立ちで待ち構えていたのは、霧の守護者の善子だった。

既に善子仕様の『MIRAI TICKET』衣装を身に纏っている。



善子「――遅い! 梨子の居た大広間からそんなに距離ないでしょうが!」

果南「えー……真っ直ぐ来たんだけどな」


花丸「……善子ちゃん、虹ヶ咲領で会った時以来だね」

善子「虹ヶ咲……あぁ、やっぱりあの時邪魔した雲の炎使いはずら丸だったのね」


善子「ずら丸がリングに選ばれるなんて意外だった」

花丸「そう? マルだってやれば出来るずら」

善子「……そう」


善子「こっちは『形態変化』も済ませて準備万端よ」

曜「あの武器は……何なの? 杖?」

善子「これは『錫杖(しゃくじょう)』よ。遊行僧が携行する道具の一つってところね」ジャラ

善子「まあ、あなたの言う杖が魔法の杖を指すならあながち間違いじゃないけど」
413 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/27(土) 23:48:51.43 ID:eoWGRzzU0


果南「気をつけて……善子は最年少で守護者に選ばれた天才術者だ。あの子の使う幻術はヤバい!」

善子「いやいや、気をつけた所でどうしようもないわよ?」

善子「天才の私が使う幻術にAqours匣の力が上乗せされれば……どうなると思う?」ニヤッ



ボオウゥゥ―――ッ!!



善子の錫杖とリングに藍色の炎が灯ると、瞬く間に廊下全体へ広がる。


……一瞬の暗転後、曜の足元の地面が消失した。



曜「……う、うおおおおッ!? 落ち―――」

花丸「惑わされないで! これは幻術、ただの錯覚ずら!!」

曜「幻術……これが……」キョロキョロ

花丸「そう、幻術……そのハズなんだけど」

曜「それにしてはリアル過ぎない!?」
414 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/27(土) 23:52:25.83 ID:eoWGRzzU0


善子「幻想的な空間でしょう? 暗黒空間に神殿が浮かんでいるイメージを具現化させてみたわ」

果南「私には幻術は効かないはず……なのにどうして!?」

善子「ふふ……分からない?」


果南「まさか……脳内じゃなくて、この空間そのものを書き換えたの……ッ!?」


善子「霧属性の特性は『構築』よ。私の力と組み合わせればこのくらい余裕で作り出せる」

善子「ここは私のイメージを自由に具現化出来る理想の世界……何もかもが私の思うまま」



にっこりと微笑む善子。

錫杖を軽く振ると、右の肩甲骨から大きな白い翼が生え、頭上には純白のリングが浮かぶ。

その姿はまるで―――。



花丸「――天…使……?」




善子「ようこそ、私の幻想(せかい)へ」



415 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/27(土) 23:55:02.60 ID:eoWGRzzU0

曜「持ってる武器は僧侶用のものなのに、姿は天使とか!?」

花丸「果南ちゃん!」

果南「世界を書き換えた力が炎によるものなら何も問題無い!!」



果南は右手を地面に叩きつける。

ガラスが割れるような甲高い音と共に、景色が元の渡り廊下へと戻った。


……が、それはほんの一瞬。
一回のまばたきの間に善子の幻想(せかい)に書き換わる。



善子「ここは私の炎で絶えず構成している……右手の力で打ち消してもすぐに再構築出来るのよ」

果南「……っ、本当に相性が悪いな」



善子がパチンッと指を鳴らすと、曜達の辺り周辺に無数のナイフが生成される。



曜「か、囲まれた!?」

善子「その右手でも水の壁でもこの攻撃は防げないわよ?」

果南「いや、当たる瞬間に幻想(せかい)を打ち消せば――」

善子「馬鹿ね、そんな事してもナイフに影響は無い。別に試してもいいけどね」
416 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/28(日) 00:01:02.06 ID:99ZARqho0

曜「ヤバイ! 私全方位の攻撃を防げる技なんて持ってないよ!?」

果南「くそっ! 全員急所だけは守って!!」


善子「ふふふ……穴だらけにしてあげるわ」



錫杖を軽く振る。

待機中だった全てのナイフが一斉に曜達に襲い掛かった。




花丸「―――『形態変化(カンビオ・フォルマ)!!!』」



ゴオオオォォッ―――!!



花丸を中心に吹き荒れた強力な炎が全てのナイフを弾き飛ばす。

手には開かれた新書サイズの分厚い本が握られていた。

服装は勿論、花丸仕様の『MIRAI TICKET』



花丸「果南ちゃん、曜ちゃん、ここはマルに任せて欲しいずら」

花丸「いいよね?」
417 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/28(日) 00:12:28.79 ID:99ZARqho0

果南「……分かってるよ、善子と戦う事が花丸の目的だったもんね」

花丸「マルの用事が済んだらルビィちゃんと一緒にすぐに向かうから」

善子「ふーん……一人で私の相手をするの?」

花丸「不満なの?」

善子「……いいえ、果南とやるより面白そうだから構わないわよ」



再び善子は指を鳴らす。

すると曜と果南の姿が消滅した。



花丸「んな!?」

善子「安心しなさい、私の幻想(せかい)から退出させただけだから」

花丸「ここは現実世界とは隔離された空間なんだ」

善子「そーゆーこと」

善子「だからどんなに暴れても城は壊れない……思う存分戦えるってわけ」

花丸「……それはいいね」ニッ




【花丸(属性:雲+α) VS 善子(属性:霧)】



418 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/28(日) 00:16:07.96 ID:99ZARqho0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




曜「――うおっ!? 廊下に戻った……?」

果南「善子が私達だけを術中から追い出したんだ」

曜「この黒い幕みたいな物の向こうに二人は居るんだね」

果南「うん」

果南「どうなるか分からないから触るべきじゃないかな」

曜「花丸ちゃんはどうするの?」

果南「……このまま任せる。花丸とはそういう約束で付いて来てもらったから」

曜「そっか……」



善子と遭遇した廊下を過ぎ去り、さらに上のフロアに向かう。

誰一人会うことなく王の間の扉前に辿り着いた。


……寒い。

この扉の前に来て曜が感じた事だ。

移動中は常に走っていたので体は温まっていたにもかかわらず、その体温が一気に奪われる感覚。

下の隙間から白い冷気が漏れ出しているのが全てを物語っていた。




果南「曜、体に異常は無い?」

曜「大丈夫だよ。体力も気力も充分」

果南「気を引き締めなよ……この扉の向こうに女王が、ダイヤが居る」
419 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/28(日) 00:20:12.92 ID:99ZARqho0

曜「……分かってる、決意も覚悟も出来てるさ」

果南「お、いい眼だね。もっとビビッてると思ってた」

曜「技は花丸ちゃんに、心は果南ちゃんに散々鍛えてもらったんだ。もう並大抵の事じゃビビらない」

果南「それは心強いや!」

曜「それに、これから果南ちゃんと一緒に戦うのに足を引っ張るわけにはいかないからね!」

果南「頼りにしてる」ニッ

曜「任せてよ!」



―――ガチャ



ダイヤ「………来ましたか」

千歌「………」


曜「千歌ちゃん!!!」

千歌「……よう、ちゃん……」


果南「……やっほ、ダイヤ」

ダイヤ「果南……」

果南「一発ブン殴りに来たよ」

ダイヤ「性懲りも無くまた挑むのですか……あの時嫌という程体に覚えさせたつもりだったのですが?」

果南「生憎、痛みは随分昔に感じなくなったからさ。もう覚えて無いや」

ダイヤ「ホント、呆れた人ですわね」
420 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/28(日) 00:24:05.23 ID:99ZARqho0


曜「千歌ちゃんは返してもらうぞ!!!」

ダイヤ「返す? まるで千歌さんが貴女の所有物みたいな言い草ですわね」

曜「……何だと?」

ダイヤ「千歌さんはとっくの昔に自由の身ですわ」

曜「っ!?」

ダイヤ「その証拠に彼女の体には自由を拘束する類の物は一切付いていないでしょう?」

果南「なら……千歌は自分の意志で……」

曜「そ、そんな……どうして……千歌ちゃん!!?」

千歌「……っ」ギリッ


曜「ダイヤ!! 千歌ちゃんに何をした!!!」

ダイヤ「別に、薬物投与や精神操作などの小細工は一切行っていません」

ダイヤ「千歌さんは自らの意志こちら側についた、ただそれだけの事です」

曜「ふざけるな……そんなの信じられるか!」

曜「じゃあ私は……私は何の為にここまで……ッ!? 私やみんなの頑張りは何だったのさ!?」

ダイヤ「貴女の目的が千歌さんだとしたら、無駄な努力だった以外のなにものでもないですわね」

曜「ッッ!!!」キッ!!
421 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/29(月) 22:13:04.85 ID:UR1kTAuN0

千歌「………」


……ダイヤさんの話を聞いて今日までずっと考えてた。

私が元の世界に帰るには、この世界の破滅の危機から救わなきゃならない。


ダイヤさんの選択は非情だ。

けど『世界を救う』目的のみに限れば完全には間違ってないと思った。



誰かの味方になるってことは別の誰かの味方にならないってことだ。

曜ちゃん達か、ダイヤさんか。

私の……私の答えは……。


千歌「分かんない……よ」ジワッ



果南「―――千歌、ダイヤから何か聞かされたんだよね?」

千歌「……えっ」

果南「それが私から聞いた話と食い違ったか、それとも別の真相を知ってしまったか」

果南「それでどうすればいいか悩んでるだよね?」

千歌「……うん」

千歌「何が正しいのか……全然分からないよ……私には重過ぎる……」
422 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/29(月) 22:15:58.86 ID:UR1kTAuN0



果南「じゃあさ、千歌はどうなって欲しいの?」

果南「千歌が望む未来は……どんな結末ならハッピーエンドになると思う?」

千歌「私が望む……未来……」

果南「私やダイヤ、曜の事も全部無視していい……自分の気持ちに正直になってよ」

果南「私は千歌の選択を尊重する。その結果敵に回ってしまったとしても、裏切られたとは思わないし、千歌が罪悪感を抱く必要も無い」

曜「……」

果南「曜だってそうだよね?」

曜「……それで千歌ちゃんが無事に帰れるならいい……かな」

ダイヤ「……」

果南「千歌、聞かせて?」

千歌「本心……未来……」












ダイヤ「―――そう、ですか。それが貴女の選択なのですね……千歌さん」
423 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/29(月) 22:18:37.24 ID:UR1kTAuN0

千歌「ごめんなさい……私はこっち側につくよ」

曜「よ、よかった」ホッ...


ダイヤ「貴女が倒すべき相手はわたくしでは無いことを知っていても尚、立ちはだかるのですか」

千歌「……ダイヤさんがどれほどの覚悟で今の立場に至ったのか、私じゃ全然想像出来ない」

千歌「ダイヤさんの選択はこの世界を救う方法としては合理的で確実なのかも知れない」


千歌「――でも……その方法じゃダイヤさんが救われない」


ダイヤ「………」

千歌「たった一人で全員分の悪意を背負うなんておかしいよ! 悪意で得た力を使っても幸せな未来なんか訪れやしない……!」

ダイヤ「……それが貴女の答えですか?」


千歌「言葉で説得しても意味無いよね」

果南「だから力尽くで分からせてやるよ」コキコキッ

曜「やる事は予定と変わらないって訳だ」

果南「千歌、あとでダイヤから聞いた事を包み隠さず話してもらうからね」

千歌「分かってる」



ダイヤ「――仕方ありませんわね」



パキッ、パキパキパキ―――!!



曜「うぅ!? 寒っ!!!?」ブルブルッ

千歌「一気に部屋の温度が……!」

果南「……物凄い殺気だ。寒さを感じないはずなのに私も体が震えたよ」
424 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/29(月) 22:22:35.55 ID:UR1kTAuN0

ダイヤ「あの時はこの殺気だけで怖気づいていたのに。少しは成長したみたいですわね」

ダイヤ「千歌さんがどちら側の味方をしようとも、貴女達は見逃せない。Aqoursリングと匣は返してもらいます」

ダイヤ「本来なら人形兵(マリオネット)にするところですが……氷漬けにして城に展示させてもらいますわ」


果南「前に話したようにダイヤの炎は『大空の七属性』から外れた『氷河』の炎だ。大気中の水分は勿論、こっちの炎も凍結させてくる!」

曜「相手は浦の星最強の女王、最初から出し惜しみは無しだ!」カチッ!!



バシュッ!!!



匣を開口すると同時に、曜の体は雨の炎に包まれる。

衣装、専用武器共に換装完了。

曜の手には刀身が半透明な水色の日本刀。


むつの『雷電』、花丸の『村雲』と同シリーズの匣兵器。

固有名は『時雨』

今まで使用していたトンファーを匣ごと破壊された曜の新しい武器だ。



ダイヤ「それがわたくしが使うはずだったAqours匣ですか」

曜「今は私の匣兵器だよ」

果南「数日で完璧に使いこなせるまで成長してる。千歌の『同調』も合わせればとんでもなく強いよ」


千歌「よ、曜ちゃんのそれ……MIRAI TICKETの衣装じゃん!?」

曜「み、ミライチケット?」

果南「何それ??」

千歌「い、いや……何でもない」

千歌「ライブの衣装がこんな所で出てくるんだ……」ボソッ


果南「曜、千歌、援護よろしく!」

曜「任せてよ!」

千歌「私は直接戦えないけど……頑張って二人のバックアップをする!」






【果南(属性:???)、曜(属性:雨)&千歌 VS ダイヤ(属性:氷河)】


425 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/02(木) 23:00:58.57 ID:Jguby87Y0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




花丸の匣兵器、『魔道目録(ブックメーカー)』のページには技の発動に必要様々な魔法陣が描かれている。

そこから一ページを破り取り、空中に投げ飛ばす。
一枚だった紙が雲の『増殖』で六つに増え、空間にその数だけ魔法陣が展開した。



花丸「―――『雷の魔弾(サンダーバレット)!!』



魔法陣から高速で発射された雷属性の弾丸。
善子はコンクリートの壁を生成してそれを防ぐ。


花丸の攻撃は終わらない。

開かれた『魔道目録』からどんどんページが飛び出し
花丸の周囲に円軌道を描きながら漂う。

その数枚から再度魔法陣が展開。

そこから『村雲』と弾丸が不規則な軌道で動く『晴の魔弾(サニーバレット)』が放たれた。


善子はその場から飛翔し、攻撃を躱す。



善子「『雲』に『雷』に『晴』……あなた、同時に複数の属性を扱えるのね」

花丸「その通りずら」ジャラッ



花丸の右手の指全てにリングがつけられていた。



花丸「マルにはこの匣兵器を操る為の五つの波動が流れているずら」

善子「つまりあと二つ見せて無い属性があるわけか!」
426 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/02(木) 23:04:09.04 ID:Jguby87Y0

花丸「安心して、もう使ってるずら」



―――ジャラジャラッ!!



水の鎖が善子の手足に絡みつく。



善子「この技は曜の!?」

花丸「マルの扱える属性の技なら魔法陣をページに記録しておけばいつでも発動出来るんだよ!」



動きが止まった所を『村雲』、『雷の魔弾』、『晴の魔弾』で掃射する。



善子「中々のチート能力ね! でもこの程度の拘束、どーって事ないっての!!」



善子は白翼で鎖を切断し、攻撃をひらりを回避した。




善子「弾幕が薄いんじゃない? そんな攻撃いくら撃っても―――」



―――ドドンッ!!



善子「ぐっ!? 何!?」

花丸「驚いた? 全然見えなかったでしょ?」フフフ

善子「今のは霧属性の……!?」


花丸「そう、不可視の弾丸。『霧の魔弾(ミストバレット)』ずら」
427 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/02(木) 23:07:14.67 ID:Jguby87Y0

善子「結構痛いじゃないっ!」

花丸「留まってていいの? マルの攻撃は続いてるよ!!」



ズドドドドドッ!!



善子「ふふ」スウゥゥ...

花丸「き、消えたッ!?」


善子「こっちこっち」グニャ

花丸「姿がハッキリ見えない……?」

善子「認識をほんの少しズラしているのよ。正確に狙い撃つのは無理」

花丸「だったら避けられない数を撃つまでずら!」

善子「果たして出来るかしらね?」パチンッ

花丸「ん゛ん゛ッ!?」


……な、なんずら?
喉に違和感が―――。


花丸「お、おえええええええッッ!!!!?」ボトボトボトッ



喉を引き裂くような激痛と共に、大量の釘と血を吐き出した。



花丸「な、何が起こって……」ゼエゼエ

善子「それ、もういっちょ」パチンッ

花丸「ぐ、今度は体が……っ!?」



―――ブシャアアアアッッ!!!



花丸の体内から刀、槍、斧、鎌が一斉に飛び出してズタズタに引き裂いた。



花丸「……ぁ、がっ……あ……」

善子「泣き叫ぶ暇すらなかったようね。どんな断末魔が聞けるかちょっと楽しみだったのに」
428 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/02(木) 23:09:41.92 ID:Jguby87Y0




花丸「……叫ばないよ」

善子「!?」

花丸「趣味の悪い幻術ずらね。いつの間にスプラッター系が好みになったの?」

善子「驚いた……大抵の人間はショック死か、最低でも気絶はするのに」

花丸「最初の釘は痛かったけど、その次のやつは対抗策を講じたからね」

善子「そりゃ、そんだけページ数のある本なら対幻術用の技もあるか」


善子「私が幻術を使うタイミングがよく分かったわね」

花丸「善子ちゃんが幻術を使う時は必ず指を鳴らす。そんなの誰にだって分かるずら」

善子「でしょうね」フフ


善子「なんで私は幻術を使う時に指を鳴らすと思う?」

花丸「……ただのルーティンなんでしょ」

善子「その通り。術者は幻術の発動をスムーズにする為に特定のルーティンを行う」

花丸「だから術者は発動の予兆を悟られないようにルーティンは認識しにくい動作にするのがセオリーだよね」

善子「じゃあ、私がわざわざ分かりやすい動作を選んだのは何故でしょう?」

花丸「……」

善子「単純にカッコいいからってのが理由の九割なんだけどね」

花丸「残りの一割は……?」

善子「……自分で言うのもアレなんだけど私ってさ、天才なのよ」



善子「私レベルの術者になるとルーティンなんて別に必要無いのよね」スウゥゥ...



花丸「う゛ッ!!?」ギョッ!!



少し離れた場所に居た善子の姿が消え、花丸の懐に再出現した。

会話をしていた善子は幻術で作られた幻。
本体は花丸の張っていた『魔道目録』から分離したページによるバリアを掻い潜り
目の前にまで接近していたのだ。



善子「忘れたの? 『霧の魔弾』の後の攻撃を躱した時も指を鳴らして無かったでしょ」

花丸「ヤバっ……この距離は―――」

善子「もう遅い! 回避は不可能よ!!」



善子は錫杖を花丸の腹部目がけて突く―――。



429 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/02(木) 23:41:11.76 ID:Jguby87Y0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



よしみ『――果南さん達についた理由?』

千歌『うん、私の知ってる『よしみちゃん』の方は果南ちゃんやルビィちゃんと仲良しってほどじゃ無かったからさ』

千歌『果南ちゃんもよしみさんが味方になってくれるとは思って無かったって言ってたし……』

よしみ『果南さんがそんな事言ってたの? まあそう思われても仕方ないか』

よしみ『この世界の私も果南さん達とは顔見知り程度の仲だったよ』

よしみ『あの時ルビィ様と一緒に果南さんを助けたのも偶然その場に居合わせたからだしさ』

千歌『じゃあ何で……』


よしみ『私ね、好きだったんだよ』

千歌『……えっ/// ど、どっちが///』

よしみ『あ、いや、違うそうじゃない、あの人達の雰囲気がだよ!』アセアセ

千歌『果南ちゃん達の?』

よしみ『みんなが楽しそうに話ているのをずっと見て来たからさ……私はそれを眺めているのが好きだったの』

千歌『自分も混ざろうとは思わなかったの?』

よしみ『ただの医療スタッフの私が女王や守護者の面々に混ざろうだなんて恐れ多かったから……遠慮しちゃった』

よしみ『……本心では憧れていたクセにね』ハハ

千歌『憧れ……か』

よしみ『大好きな人が困ってるんだ、味方になる理由なんてそれだけで充分だよ」

千歌『うん……そうだよね」ニコッ


よしみ『そっちの世界の私も同じような事を思ってるかも。千歌ちゃん達の力になろうと積極的に動いたりしてなかった?』

千歌『……あ、確かに初めてのライブの時からずっと協力してくれたよ!』

よしみ『ふふ、やっぱりね』

よしみ『きっとみんなとも仲良くなりたくて仕方ないと思うから気にかけてあげてよ。……私がお願いするのも変な話だけどさ」アハハ

千歌『うん、任せてよ!』


430 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/02(木) 23:48:22.84 ID:Jguby87Y0


――――――――
――――――
――――
――




「……ゼェ、ゼェ、ゼェ」

「な、何なんのよ……たった一人相手に……!」ギリッ


よしみ「―――お゛お゛お゛お゛お゛ッッ!!」



武闘家のような華麗な技や思考を凝らした巧みな戦術は一切無い。

襲い掛かってきた敵をただ殴る、ただ蹴り飛ばす。
来なければこちらから突っ込んで蹴散らす。

よしみの戦法はたったこれだけのシンプルなものだった。


異常に膨れ上がった筋肉で刃物や銃弾から内臓を守り、圧倒的な力で敵の体を一撃で粉砕する。

恐怖のあまり逃げ出す者も若干名現れたが、よしみの一方的な優先というわけでも無い。



「いくら奴が化け物でも数の有利は覆せない! スタミナが切れれば殺せる!!」

よしみ「はっ! その前に全滅するのが先だよ!!!」グチャッ!!


……って、強がってみるけど正直しんどい。
私一人で何人倒した?

十人超えた辺りから数えるのやめちゃったけど……体感的に多分百人はいったはず。


よしみ「……私なら大丈夫、まだ暫くは戦える……!」
431 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/02(木) 23:53:05.47 ID:Jguby87Y0



人間が高レベルな集中状態を維持出来る時間はおよそ15分と言われている。

よしみも訓練を積んでる事を考慮しても持続時間はそれ程変わらない。

戦闘のように激しく動いたり、極限の緊張状態ともなればその時間はもっと短くなるだろう。


……現在、戦闘開始から30分が経過していた。



よしみ「————あっ」



……一瞬、コンマ数秒の間張り詰めていた緊張感が緩んだ。

疲労もピークに達していたし、手の届く範囲に敵も居なかった。

よしみに落ち度は無い。


……ただ、勝利の女神はよしみに微笑まなかった。


一つ目は数十メートル離れた所から銃で狙われていた事に一瞬気付くのに遅れた事。

そしてもう一つは、その発射された弾丸が筋肉の鎧が無い眉間に直撃してしまった事。


――即死だった。
よしみは驚きの表情を浮かべたまま仰向けに倒れた。


ラッキーパンチで呆気なく勝敗が決する事もある。
……これはただの不幸、運が無かっただけ。


よしみの死亡確認をする為、二人の兵士が近寄る。



「や、やったか……?」

「馬鹿!? 下手に死亡フラグ立てんな!」

「でもさ、体も元のサイズに萎んでる」
432 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/02(木) 23:58:09.27 ID:Jguby87Y0

「瞳孔も開き切って眉間の風穴から中身も見える。これは完全に死んでいるね」

「ふぅ、やっと殺せた……」

「これで城に入った奴らを追える」

「現状の戦力を確認して直ぐに―――」



グチャッ―――!!!



「ぁ……ぐほっ……!?」ブシュゥッ



完全に沈黙したハズのよしみ。
それがいきなり飛び起き上がり兵士の喉笛に噛み千切って絶命させる。

そのまま隣にいたもう一人の兵士の首を片手で締め上げた。



「がっ……ごおっ、な……なんで……っ!?」ミシミシミシッ


よしみ「………」


「あ……頭を……なんで……死な」



―――ゴキッ!!!



「………」ドサッ


よしみ「……ふひ」


よしみ「ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃはああああああ!!!!!」
433 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/02(木) 23:58:49.75 ID:Jguby87Y0


「バカな……い、生き返った……!?」ゾッ



よしみは果南達と共に国を出る以前は兵器開発にも携わっていた。
『人形兵(マリオネット)』のプロトタイプもよしみが開発したのだ。

だが、プロトタイプは現在の製作方法とは異なる。


『人形兵(マリオネット)』が生きた人間を使っているのとは真逆

死者へ炎を外部から供給して強引に動かして戦わせるのだ。


『死体人形(アンデッド・ドール)』と命名されたこの兵器は余りにも非人道的だった故に開発は中止された。


この時に得た技術をよしみは自身の体に組み込んだのだ。


よしみの魂は既にこの世には存在しない。

頭部を吹き飛ばしても、腕や脚を失っても、体内に貯蔵していた炎が尽きない限り戦い続ける。

生前に組み込んだ「目の前の敵を全て殺せ」というプログラムを機械的に執行する人形と化した。



『―――この世に動く体がある限り、死んでも連中は足止めしてみます』



果南との約束を守る、ただそれだけの為に―――。


兵士達の悪夢はまだまだ終わらない。





……第二ラウンド、開始。




434 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/03(金) 00:04:55.68 ID:mtif6MB60


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ルビィ「……ぁ、あぁ………」プシュウゥゥ....



―――ドサッ



梨子「勝負ありです」


梨子「装備に救われましたね。六発も直撃して灰にならないとは……」

梨子「ただAqours匣の装備も耐炎性の高い黒のジャケットも今の攻撃で消滅しました。次の攻撃は防げない」

ルビィ「……」

梨子「もう意識は無いですよね……ならこのまま倒れていて下さい。これから治療班を呼びますから」ピピピッ


梨子「―――もしもし、私よ。たった今戦闘が終了した。止む追えずルビィ様を………」



435 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/03(金) 00:13:30.92 ID:mtif6MB60


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ルビィ『これでAqours匣の機能と技は一通りやったよね』

花丸『うん、バッチリずら』

ルビィ『後は反復練習して使いこなせるようにならなきゃだよね』

花丸『……うん』

ルビィ『花丸ちゃん?』


花丸『ねぇ、やっぱりやめない?』

ルビィ『やめるって……何を?』

花丸『とぼけないで。ルビィちゃんが戦う事に決まってる』

ルビィ『……やめないよ』

花丸『いくらAqours匣が使えてもルビィちゃんには実戦経験が致命的に欠けてる! 子どもがナイフを使って素手の兵士に挑むのと同じずら!』

花丸『断言するよ……ルビィちゃんは必ず殺される』

ルビィ『……はは、そこまで言い切られちゃうとちょっと傷つくなぁ』

花丸『笑い事じゃない!!!!』

ルビィ『……』

花丸『わざわざ危ない橋を渡る必要は無いよ。マル達に任せてくれれば――』


ルビィ『それじゃ意味が無いよ』

ルビィ『自分が望む未来は自分の力で掴まなきゃ意味無い』

花丸『……』


ルビィ『私を信じてよ。絶対に負けない……生きてみんなの元に帰るから』

花丸『はぁ、何を言っても仕方が無さそうだね』


花丸『だったら、もし約束を破ったらマルも一緒に死ぬずら』

ルビィ『えっ!?』

花丸『嫌なら約束を守ってくれればいい。マルも死にたくないからお願いずら』

ルビィ『もう、強引だなぁ……』




436 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/03(金) 00:16:52.44 ID:mtif6MB60


――――――――
――――――
――――
――



ルビィ「……………っ」ピクッ


梨子「出来るだけ早く来て。もたもたしているとそのまま死にかねないから。いいわね?」ピッ...

梨子「……連絡は済ませた。これで私の任務は完了だけど、善子ちゃんか城外の部下の加勢にでも」



―――ゴソッ、ゴソゴソ



梨子「行、こう……か、な………」ゾッ



梨子はゆっくりと振り向く。


気配……一体誰の?
誰なのかは考えるまでも無い、でも……そんなバカな!?

心も体も完全に折った。
戦う意志はこれっぽっちも残っていないはず。

圧倒的な差を見せつけたつもりだったのに……。



ルビィ「……ゼェ、ゼェ……んぁ………」グググ


梨子「立ち、上がった……ッ!?」
437 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/03(金) 00:18:23.02 ID:mtif6MB60

ルビィ「……ぁ、あああっ……」フラフラッ


梨子「どうして……どうしてまだ立ち上がるんです!? 先の戦闘で力の差は……いや、戦う前から勝ち目が無い事くらい分かっていたはずです!」

梨子「ルビィ様はもう負けたのですよ……っ!!」

ルビィ「………てない……」

梨子「?」

ルビィ「け、て……ない………」グググッ



ルビィ「―――私はまだ、負けてない……ッ!!」



梨子「……これ以上やればルビィ様は死ぬ」

ルビィ「私は……死なない」

梨子「ッ! 私にルビィ様を殺させないで下さいよ!!」


ルビィ「……殺す? 梨子さんが、私を?」

ルビィ「……ふふ、うふふふふ」

梨子「な、なに」ゾワッ

ルビィ「馬鹿にするな!! あんな手加減した炎じゃ何発当てても私は殺せないぞ!!!」

梨子「!!」

ルビィ「私を殺したくない? ふざけないで! こっちは本気で戦ってるんだ!!!」

ルビィ「もっと殺す気で掛かって来なよ……梨子さんッ!!!」ボオォォッ!!!



リングに炎が再点火する。

梨子の周辺に発生させていた雷雲を自身の辺り数メートルに展開。
矛先を梨子に向け、勢い良く飛び出した。



ルビィ「はああっ!!!」
438 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/03(金) 00:23:34.96 ID:mtif6MB60

梨子「ぐっ!?」



ルビィの槍術は人並程度。

実戦経験が皆無なので体の捌き方や技の繋ぎ方がチグハグで到底通用しないレベル。


そんな槍術を匣兵器がカバーする。

ルビィの攻撃に合わせ、絶妙な角度、タイミングで周囲の雷雲からビーム状の雷の炎が発射。
二つの攻撃を同時に回避するのは困難なのだが、ルビィの練度が低い為に所々に穴がある。

梨子の技量なら回避は容易いのだが……。



梨子「うぐああ!!?」ブシュゥッ!!

ルビィ「ッ! 当たった!」

梨子「い、ぐうぅ……」


……どうして攻撃が避けられない!?

ルビィ様は瀕死の重傷、動けるのが奇跡的な程に。

気持ちだけで動くスピードやキレが劇的に変化はしない。


なら変わったのは……私の方か。
私の動きが鈍くなったから躱せないんだ。

原因は分かってる。
ルビィ様の放つプレッシャーに私が怖気づいているせい……。



梨子「ふざ、けるな……!」



そうだ、相手はもう死に体なのよ。

一歩下がって一撃を与えればそれでお終い。



―――ドスッ!!!



ルビィ「ごふっ!!?」



梨子のミドルキックが脇腹にヒット。

吹き飛ばされたルビィは地面に転がる。



梨子「はぁ、はぁ……今度こそ―――」


ルビィ「ごっ、ごほっごほっ……ぐぅ」グググ
439 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/03(金) 00:26:31.87 ID:mtif6MB60


梨子「何なの……何で立ち上がれるのよ!!?」

ルビィ「……負けられない、から……負けるわけには……いかないから……だよ」

梨子「死ぬのが怖くないんですか……?」

ルビィ「……怖いよ」

ルビィ「怖いけど、自分のせいで誰かが死んじゃう方がもっと怖い」

梨子「……」

ルビィ「降参すれば梨子さんは本当に私を助けてくれると思ってる。でも、他のみんなはどうなるの?」

ルビィ「私だけ生き残っても意味が無い……」ゼェゼェ


……呼吸が苦しい。
体は重いし目もチカチカする。
さっきまで死ぬほど痛かったのに今はその痛みすら感じない。
多分、私はもう助からないかな。

それでも、この勝負だけは勝つ。
私だって死ぬ気で頑張れば出来るって事を証明してみせる。



ルビィは槍を地面と水平にして構え直す。

そして今生成出来るありったけの炎を矛先へと集中させ始める。
その強大な炎は槍を握る自身の手の皮膚をも焦がすほど。



ルビィ「この一撃に私の全てを賭ける……!」


梨子「純粋な力比べですか……っ!!」



緑と赤
二色の炎が部屋中を満たす。

部屋にあった装飾品は全て灰となり、設置された温度計のメーターも振り切れた。



――何か特殊な合図があった訳では無い。
両者は全く同じタイミングで渾身の一撃を繰り出した。




―――ゴオオオオオオオオォォォ!!!!






梨子・ルビィ「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!!!!」」




440 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/03(金) 00:29:56.34 ID:mtif6MB60




ぶつかり合う二つの炎。

眩い閃光と温度で視界は不明瞭。
自分の攻撃が押されているのか、それとも優勢なのか全く分からない。

いや、例え分かっていたとしてもやる事は変わらない。
持てる力の全て捧げ、残りカス一つ残さない。


二人にとっては無限に続く地獄のような時間だっただろう。

攻防はたった数秒で決する。


梨子の炎がルビィの全身を包み込んだ。



ルビィ「―――ぁ、あぁ………」



―――勝てなかった。やっぱりルビィは弱いなぁ……。


花丸ちゃんゴメン、約束守れなかったよ。


花丸ちゃんが本当に実行するか怖いけど、きっとみんなが阻止してくれるから大丈夫……だよね?


……それだけが気がかりだよ。



『――ルビィ』



……お姉ちゃん?


……ねぇ、お姉ちゃん、ルビィ頑張ったんだよ?


負けちゃったけどさ、ものすっごく頑張ったんだよ。


……あぁ、昔みたいに…褒めて欲しかったなぁ―――。












梨子「はぁっ……はぁ……」ヨロヨロ

441 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/03(金) 00:32:04.66 ID:mtif6MB60

梨子「あ、危なかった……ギリギリだった」


梨子「ルビィ様は優し過ぎた。私には殺す気で掛かって来いって言っておきながら、あなたにはそれが全く無かったじゃないですか」

梨子「あの炎に少しでも殺意があれば、私が負けて……っ」ギリッ


ルビィ「…………お、ね………ちゃ………」ポロッ

梨子「………」



……私は命令に従っただけ。私にとってダイヤ様の命令は絶対。

だってあの方は私を認めてくれた人だもの。
裏切る事なんて出来ない。


梨子「でも……これで良かったの? この選択は本当に正しかったの……?」


ルビィ「………」

梨子「………」スッ




……プルルル、プルルル


442 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/13(月) 23:42:49.79 ID:Y2k1scQj0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



―――ポタッ、ポタッ、ポタッ


善子「………」

花丸「うっ……ぐぅ」



善子の錫杖から花丸の鮮血が一滴ずつ滴り落ちる。

肋骨の下付近に突き刺さっているが、小指の第一関節程の深さで留まっていた。

水の鎖が錫杖に絡みつき動きを封じたのだ。



善子「地面に技が瞬時に発動できるように予め罠を張っていたのね」

花丸「……うん。間一髪だったずら」

善子「ほんっと便利な技ね、それ」

花丸「うん、曜ちゃんには感謝しないと」


善子「どうして私の体じゃなくて錫杖の方を捕らえたの?」

花丸「だって、目の前に居る善子ちゃんは幻術でしょ?」

花丸「わざわざリスクを冒して近づくとは思えない。離れた所から錫杖だけ投げて攻撃した、違う?」

善子「……半分正解」



善子はニヤリと微笑むと錫杖と共に瞬時に霧消した。

そして花丸の数メートル正面に出現する。



善子「正解は錫杖も幻術でした。正確には有幻覚だけど」
443 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/13(月) 23:45:23.87 ID:Y2k1scQj0

花丸「ゼェ、ゼェ……何、これ……気分が悪い……?」

善子「お、もう効いてきたのね」ニヤッ

花丸「っ! ああ、毒……ずらか」

善子「汚い手、とは言わせないわよ。これは殺し合い……勝つためには手段は選ばないわ」

花丸「手段を選ばない、か……ふふ」

善子「あ?」

花丸「ならどうして致死性の高い毒を使わなかったの? それなら今の一撃で終わっていたよ」

善子「……」

花丸「安心した……善子ちゃんは昔と変わってない。優しい子のままずら」

花丸「今回の場合は優しいというより甘いって感じか」

善子「……その甘さのおかげで生きている事に感謝しなさい」


花丸「その姿も幼稚園生の頃に天使になりたいって言ってたのが由縁だよね」

花丸「幼い頃の夢を自分の力で叶えてさ……凄いずら」
444 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/13(月) 23:50:57.75 ID:Y2k1scQj0

善子「話が見えない、何が言いたいの?」

花丸「……単刀直入に言うね」


花丸「―――どうして突然マル達の前から居なくなったの?」


花丸「生まれ育った虹ヶ咲を捨てて、浦の星に行っちゃったのさ」

善子「……そんなの簡単よ。戦争に負けた虹ヶ咲よりも勝利国の浦の星の方が未来があると判断したから」

善子「あの時はまだ私の力は世に知れ渡っていなかったから、存分に発揮するにはそれ相応の舞台が必要でしょ?」

善子「だから私は浦の星の霧の守護者になった」

花丸「……違うね」

花丸「だって昔の善子はちょっとだけ幻術が使えるだけの普通の女の子だったずら」

善子「……」

花丸「善子ちゃんは初めから天才だったわけじゃ無い、努力して才能を開花させたんだ」


善子「……」


花丸「どうしても力が必要だった、だから死に物狂いで努力したんだよね」


善子「……黙りなさい」


花丸「有幻覚を発動させるには高純度の霧の炎が出せるリングが不可欠。『人間』を作り出そうとするなら守護者のリングレベルじゃないと無理ずら」


花丸「虹ヶ咲のリングは奪われ、音ノ木坂のリングは血筋の関係で使えない。となれば、浦の星のリングを手に入れるしかない、そう……」



花丸「――死んだお母さんを有幻覚で作り出す、それこそが守護者になった本当の理由ずら」



善子「……違う」
445 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/13(月) 23:54:58.70 ID:Y2k1scQj0

花丸「お母さんの事が大好きだったもんね。マルも優しい善子ちゃんのお母さんが大好きだったずら」

花丸「あの日、交通事故で亡くなったと知った時はマルも凄く悲しかった」

善子「違う……私のお母さんは死んでない!」

花丸「……」フルフル


善子「ふ、ふざけた事抜かしてるんじゃないわよ。有幻覚でお母さんを作る? 生きているのにそんな事する必要無いじゃない!」

善子「今だって家で一緒に暮らしている! いつも私の帰りを待っていてくれるもの!!」

花丸「ダメだよ、現実を受け止めなくちゃ」

善子「黙れ!! これ以上侮辱するなら――」



善子母「……善子」



善子「お、お母さんっ!? どうしてこんな所に!?」

花丸「ここは善子ちゃんのイメージがそのまま具現化する空間でしょ。今の会話でお母さんを思い浮かべたから具現化したずら」


善子母「そっか、私はもう死んでいるのね」

善子「ち、違う! お母さんは死んでなんかいないわ!」

善子母「庇わなくてもいいわ。私も薄々気が付いていたもの」フフ

善子「んな!?」

善子母「善子だってよく分かっている事でしょ?」


善子母「花丸ちゃんの言う通り私は有幻覚で造られた幻想。私の発言は全て術者である善子の深層心理から来る言葉よ」

善子「な、にを……言って」

善子母「ある日突然自分の母が死んだんだもの、まだ中学生の女の子が受け入れられるような現実じゃない」

善子母「寂しかった……寂しくて寂しくてたまらなかった」


善子母「――だから理想の幻想(せかい)を作り上げた」


善子「もういい! 消えろッ!!」

善子母「……」スウゥゥ
446 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/14(火) 00:01:14.73 ID:TnQLykQl0

善子「はぁ……はぁ……」

花丸「いつまでそうやって自分を騙し続けるの?」

善子「何よ……私のやってる事は悪い事なの!?」

善子「誰にも迷惑を掛けて無いじゃない! それで私が幸せになっているのだから、それは素晴らしい事でしょ!」

花丸「……それは違うずら」

善子「何が違うってのよ?」

花丸「マルは知ってる、幻術の中でも最高難度を誇る有幻覚は術者の脳に相当な負荷がかかる事を。特に人間という高度な生き物となれば尚更ね」

花丸「普通の幻術でさえ脳にダメージがあるのに、それ以上に負担の掛かる有幻覚で人間は作らない」

花丸「マルも幻術について結構勉強したんだよ。沢山の本を読んだし色々な人から話も聞いた」

花丸「……有幻覚で人間を作り出した人の末路もね」

善子「………」


花丸「あの『東條希』ですらも有幻覚で大切な人を作り出した直後に脳に深刻なダメージを負って廃人になった! 自覚症状無しに突然人間として死んでしまうんだよ!」


花丸「お母さんの話をした瞬間に現れたって事はその有幻覚は常に発動待機中なんだよね。……いつ廃人になってもおかしくないずら」

善子「リスクは承知の上でやってる。私が廃人なろうがアンタには関係ない」

花丸「……だよね。最初から話して分かって貰えるとは思ってないずら」


そう言うと、花丸は毒の影響で足元がおぼつかない中ゆっくりと立ち上がる。


花丸「本気でぶつかり合わないと分からない事もある」
447 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/14(火) 00:05:23.82 ID:TnQLykQl0

花丸「マルは善子ちゃんとは今も友達だと思ってるずら。その友達が自分の命を蔑ろにしてるんだ……放って置けない。この想いが、マルの炎を強くする」


花丸「……そろそろ、幻想(ゆめ)から目を覚ます時間ずら……ッ!」ボオッ!!


花丸の右手にある五つのリングが燃え上がる。

それに呼応するように『魔導目録』から全ページが飛び出し、花丸の周囲を取り囲んだ。

『増殖』によりページがページを複製し、複製されたページがまた複製。ねずみ算式に増えてゆき、50ページに満たなかったそれは、数千枚にまで膨れ上がる。

その全てのページに書かれた魔法陣が空間を埋め尽くす様に浮かび上がった。

花丸のAqours匣が出せる最大火力の大技の発動準備が整う。


善子「お断りよ……何人たりとも私の幻想(せかい)を壊させたりしない!!」ボオオッ!!


古代ギリシャを彷彿とさせる神殿が消滅。
辺りは黒一色の異空間となった。

そして片方しか生えてなかった善子の白翼が左右に三枚ずつ現れる。

空間生成に回していた幻術のキャパシティと霧の炎を全て攻撃に集中させるつもりなのだ。


善子「攻撃力に劣る霧の炎だからって甘く見ない事ね。私のこれは例外中の例外なんだから!」

花丸「出し惜しみは一切しない……ッ!」



花丸「―――『全弾発射(フルバースト)!!!』」



一斉発射される五属性の魔弾。

一発一発に必殺の威力までは備わっていないが、四、五発でも体のどこかに命中すれば戦闘不能に追い込める。

圧倒的な弾幕かつ追尾性能を持った魔弾を避けきるのは不可。

強力な盾で全て防ぎきるか、向かってくる魔弾を相殺するしか方法は無い。


一方、善子の攻撃は実にシンプルだった。

生成させた六枚の翼を大きく広げ、そこから無数の羽を発射しただけ。
花丸のように複数の属性を組み合わせずとも、純度の高い霧の炎と善子の綻びの無い完璧なイメージにより作り出された有幻覚による攻撃は全て必殺級の威力を誇る。


花丸「……ッ!! は、はは!!」
448 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/14(火) 00:08:12.27 ID:TnQLykQl0


……凄い、マルは全力を出しているのに、善子ちゃんはそれを軽々超えちゃうんだ。

だとしても負けない。

限界が来たって超えてやる。

何発食らっても倒れるもんか。

この戦いだけは何が何でも負けたくないずら!



―――ドスッ!



花丸「ぐっ……!」


弾幕を潜り抜けた一本の羽が、右太ももに突き刺さる。

……まだ倒れない。


―――ドスドスッ!!


今度は右側の二の腕と脇腹。
二ヶ所に深々と刺さる。

ま、だ……倒れない。



―――ドスドスドスッッ!!!



花丸「……あはは、もう……これ以上は捌き切れない……ず、ら」ドサッ...


仰向けに倒れた花丸。
それを確認した善子は羽の射出を中断し、花丸へと歩み寄る。

錫杖の先端を花丸の心臓の真上に置いた。


善子「……私の勝ちよ」

花丸「あー、負けちゃった……勝てると思ったんだけどな……悔しいなぁ」

善子「ま、私が本気を出せばこんなものよ」

花丸「結局大したダメージを与えられなかった。あれ……もしかしてほとんど無傷?」
449 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/14(火) 00:10:42.58 ID:TnQLykQl0

善子「ええ。その代わり大量に炎を消費したから戦う余力は無いわ」

花丸「無駄死ににはならずに済みそうずらね」ホッ


花丸「ねぇ、最期に一つだけ質問に答えて欲しいずら」

善子「……いいわよ、答えてあげる」


花丸「――善子ちゃんにとってマルは友達でしたか……?」


善子「………っ」

花丸「……やっぱり答え無くていいよ。その顔を見れば、じゅーーぶん伝わったずら」ニコッ

花丸「マルと善子ちゃんは敵同士、トドメを刺す時に涙は要らないよ」

善子「だ、誰がっ……」グシグシ

花丸「長生きしてね? すぐにこっちに来たら許さないから」

善子「ええ、先に向こうで待ってなさい」


善子はそのまま錫杖を突き立てる。

花丸は一瞬苦痛な表情を浮かべ、ビクッと体を跳ね上げたが声を上げる事なく静かに動かなくなった。



花丸「…………」

善子「さようなら、花丸」
450 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/14(火) 00:18:38.37 ID:TnQLykQl0














花丸「―――って思うじゃん?」ガシッ!!





善子「ッッ!!!?」


胸に突き刺さった錫杖を掴み、善子ごと力尽くで後方に押し退ける。

胸に空いた風穴はみるみる塞がっていった。


善子「ば、馬鹿な……心臓を貫いたのよ!? 生きている筈がない!?」

花丸「そうかしら? 幻術で失われた内臓を作れるのなら、同じ様に心臓も作れても不思議じゃ無いでしょう」

善子「そ、その通りよ……でもアンタにそのレベルの幻術が使えるはずが―――」


善子「いや、待って……そもそもアンタは誰?」

花丸「私は“国木田 花丸”だよ」ニタァ

善子「……別にアンタが誰でもいいか。少なくとも花丸は確実に死んだ。そしてアンタは花丸の死体を乗っ取った別人」

花丸「……♪」


善子「ふざけるな」

善子「花丸の亡骸を勝手に使いやがって……タダで済むとは思うなよ……?」ボオオッッ!!



善子の背中から六枚の翼が再度生成。
荒々しく吹き荒れる霧の炎が善子の感情を顕著に表している。



花丸「まだ全然余力あるじゃん。さっきのは嘘だったのー?」

善子「これ以上その声で喋るな!」



やれやれと、肩をすくめて人を馬鹿にするような仕草をする花丸。

だが次の瞬間、ゴオッという轟音と共に花丸の背中からも翼が生えた。
善子と同様に六枚の翼。
しかしその色は対照的の黒翼。

……その黒い翼と黒い炎は見覚えがあった。



善子「―――その炎、翼は……まさか……っ!!」

花丸「ん? 前に見せた事あったっけ?」

善子「お前か……お前がむつをやった張本人だったのか!!!」

花丸「……むつ? 知らないなぁ」

花丸「始末した人間なんていちいち覚えて無いよ。どうせ一瞬で終わるくらい弱かったんでしょ」

善子「この……っ!!」ギリッ


善子「―――むつ、仇を取るよ。花丸、ちょっとだけ我慢して……絶対にぶっ殺してやるッ!!!!」
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 03:38:09.88 ID:sqFPAKlVO
待ってる
452 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/21(火) 00:26:36.00 ID:B2+Zalu80

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



曜「――玉座に座りっぱなしでいいの?」

ダイヤ「ええ、あなた達が相手なら何も問題ありませんわ」

曜「むっ、言ってくれるじゃないですか」

果南「悔しいけどその通りなんだよね。だって今のダイヤの攻撃方法は―――」



―――パキッ、パキパキパキ!!



空中に先端が尖った軽トラックサイズの氷塊が複数個生成される。



果南「巨大な氷塊による中遠距離攻撃が主体だからね!」

曜「はあっ!? 何あれでっかっ!?」

ダイヤ「あいさつ代わりの一撃です」



ダイヤが軽く右手を振ると、待機中だった氷塊が一斉に三人に向かって発射された。



果南「下がって! 私が右手で……!」

曜「いいや、下がるのは果南ちゃんだよ!」ボオッ!!


曜「―――『水の鎖(カテーナ・ディ・アクア)!!」



十数本の『水の鎖』を飛んできた氷塊を包み込むように配置。

ラケットでボールを打ち返す要領で全ての氷塊をダイヤに跳ね返した。



ダイヤ「ほお」

千歌「上手い!」

曜「大人しく玉座から立って回避しなよ!!」


ダイヤ「……『解凍』」

曜「ウソ……い、一瞬で溶けたっ!?」
453 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/21(火) 00:36:54.65 ID:B2+Zalu80

ダイヤ「自分の炎で作った氷です。このくらい容易い」

ダイヤ「……が、今の防ぎ方は少々驚きました。『同調』による力の底上げは侮れませんわね」

ダイヤ「―――なので」ボオッ



ダイヤが右手を真横に水平に振ると、今度は部屋の天井一面に小さな氷柱が出現。

同時に正面には先ほどよりも一回り大きな氷塊も多数生成され始める。



ダイヤ「これはどうやって防ぎますか?」

千歌「どうするの!?」

果南「正面の氷塊は私が打ち消す! 曜は千歌を抱えて氷柱を避けて!」

曜「分かった!」


果南「はあああッ!!」



果南の右手が氷塊に触れると甲高い音と共に一瞬で粉々に砕け散る。

すぐさま真横に思いっきり飛び、上からの攻撃の回避を試みるが氷柱の一本が脇腹を軽く抉り取る。

本来なら激痛で一瞬怯む所だが、痛覚を喪失してるのが幸いし続いて降ってくる氷柱の間を掻い潜る事に成功した。



果南「曜、千歌! 二人共当たってないよね!?」

曜「大丈夫だよ!」

千歌「それより果南ちゃん……血が!」

果南「そんな事はどうでもいい! 次の攻撃が来る!!」



氷人形s「………」パキパキッ



曜「氷で出来た……ダイヤさん!?」

千歌「しかもかなりの数だよ!?」


ダイヤ「スペースが限られていますから、今回はざっと100体程生成してみました」

千歌「ひ、100体……っ」ゾッ

ダイヤ「本体と異なり『氷河』の炎は使えませんが、戦闘技術はわたくしと遜色ありません」

果南「なーんだ、炎が使えないんだったら怖くないや」

曜「これ、全員ぶった斬ってもいいんだよね?」カチャ

果南「……いいよ、どっちが沢山倒せるかやってみようか!」ダッ!!
454 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/21(火) 00:49:51.51 ID:B2+Zalu80




果南「――オラァ!! うりゃああ!!」



パキンッ、パパキンッ!!



果南は迫りくる氷人形を右手で殴る、殴る、殴る。

人形は氷の剣や斧で武装しているが、触れた瞬間に武器ごと人形本体の方も砕け散っていく。




果南「やっぱ脆いな! 右手が触れただけで砕けるなら楽勝だぞ!」

ダイヤ「想定の範囲内です。だから数を多くしたのですわ」

果南「?」

ダイヤ「呪いの力が宿っている所はほんの一部分、その部分だけで全ての攻撃を捌き切れるのでしょうかねぇ?」



―――ズバッ!!



果南「ぐっ!? 死角からっ!?」



背中を斬り付けられ体勢がよろける果南。

氷人形は多数での連携攻撃を繰り出し始め、徐々にダメージが蓄積される。




ダイヤ「ほら、あっという間に崩れていく」

ダイヤ「左側の攻撃に対してはワンテンポ遅れるし、多方向から同時に攻撃されれば一方向のものしか対処出来ない」

果南「くそ……っ!」

ダイヤ「以前の果南なら無難に対処出来たでしょうに……」


曜「――果南ちゃん、千歌ちゃん、伏せて!!」

千歌「!」サッ!

果南「任せた、曜!!」

曜「……ふッ!」カチャッ!



刀を逆刃に持ち、軽く屈むような体勢に構えた。

青い炎纏っていた刀身がその炎を吸収し、より鮮やかな青色に輝き始める。



ダイヤ「その構えは……」



曜はそのままぐるっと一回転し、刀身よりも広範囲にいる氷人形の胴体を斬り裂いた。

炎は水となり刃が届かなかった敵へと降り注ぐ。




曜「―――『繁吹き雨(しぶきあめ)』」

455 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/21(火) 01:04:02.70 ID:B2+Zalu80



千歌「凄っ……一気に倒しちゃった!」

ダイヤ「……なるほど、特定の剣術で攻撃する事で攻撃範囲と切れ味に補正がかかる。それがAqours匣の能力ですか」

ダイヤ「使っているのはわたくしの剣術ですか」

曜「そうだよ。元々はダイヤさん用に作られた匣兵器だから、ダイヤさんが使ってた剣術が設定されているんだ」


ダイヤ「『繁吹き雨』は守りの型なのですがね」

ダイヤ「それでも、たった数日でわたくしの剣術を実戦レベルまで仕上げてくるとは……全く末恐ろしい子ですわ」

曜「流石に全部は無理だったけど、覚えた型は完璧に扱える!」

ダイヤ「ふふ、いいでしょう。どれほどのものかテストしてあげましょう」



曜は氷人形が密集している地点に走り出す。

鞘は無いが、抜刀術風に構えると再び刀身が輝き始めた。

懐に飛び込み鋭い斬撃で突き上げると、一気に七体の氷人形を切断。

余波で四本の水柱を生み出した。



ダイヤ「――今度は『篠突く雨(しのつくあめ)』……少々粗さは目立ちますが合格点は差し上げます」

曜「そりゃどうも!!」


Aqours匣の力で一掃したいところなのだが、一度特定の型にはめてから発動する関係上、連発しても回避される可能性が高い。
しかも扱っている剣術が相手のダイヤの物となれば尚更だ。

必中かつカウンターの危険が無いタイミングを見極め放つしかない。

……なのだが、ダイヤは動きを封じるような立ち回りを全く行わない。



ダイヤ「何を出し惜しみしているのですか? まさか覚えた型はたった二つ?」

曜「こんな分かりやすい誘いに乗ると思う?」

ダイヤ「誘い? これはテストだと言ったではありませんか。貴女が私の剣術をどこまで身につけているのか、じっくり見学させてもらいます」
456 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/21(火) 01:06:25.28 ID:B2+Zalu80

曜「……そこに座ったまま?」

ダイヤ「ええ」

曜「ふーん……それは好都合」ニヤッ



三度輝きだす刀身。

曜は刀を前方に放ると、足の甲で思いっきり刀を蹴り飛ばした。


刀を手以外で扱う攻めの型、『遣らずの雨(やらずのあめ)』

これは相手の裏をかく奇襲技だ。

速度と軌道的に十分届くだろうが、真正面から堂々と繰り出しても効果は薄い。



果南「何やってるの!? それ奇襲技だって教えたじゃん!」

千歌「狙いがちょっと高い……あれじゃ当たらないよ!?」

ダイヤ「阿呆が、自ら武器を破棄する攻撃を選択するか……」ハァ


曜「――うりゃ!!!」ブンッ



曜は右腕を思いっきり振り下ろす。

すると飛んでいる刀が波を打つようグニャリと軌道を変え、ダイヤの体に襲い掛かる。


予想外の攻撃に虚をつかれたがダイヤは玉座から降りて回避。

刀が直撃した玉座は大破した。



ダイヤ「……柄に鎖を巻き付けていたのですね」

曜「そーゆーこと。だから攻撃が外れても鎖を引き寄せれば武器は戻ってくる」


曜「ってか、それよりも二人共さぁ……」ジトッ

千歌「い、いやー……てっきり血迷ったのかと」

果南「大変申し訳ない」

曜「もう! 酷いよ!」ムスッ


曜「でも、これでダイヤさんを玉座から立たせた」

ダイヤ「……」

果南「氷人形もかなり減らせたね。そろそろ本体を叩きに行こうか」
457 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/21(火) 01:12:28.46 ID:B2+Zalu80



ダイヤ「数が減ったのなら補充すればいい」パキパキッ

千歌「倒した数がよりも多くなったよ!?」

果南「馬鹿正直に全部相手してるとジリ貧だ……って事で」

曜「最短距離でぶち抜く!」ボオッ!!


曜が手のひらを地面に叩きつけると辺りに大人一人が体を隠せる大きさの水の柱が複数乱立する。


ダイヤ「物陰を作って奇襲するつもりですか?」

曜「千歌ちゃんの力、遠慮なくガンガン使うよ!!」


今度は両手をパチンと合わせる。

水の柱からミニサイズの『激流葬』が枝のように放たれ氷人形の体を次々貫く。



曜「穴は作った!」

千歌「果南ちゃん!」



曜が作り出したダイヤまでの最短ルートを全速力で駆ける。


ダイヤは迫り来る果南に対し小さな氷柱を機関銃の如く連射して攻撃。

果南はそれを持ち前の反射神経と直感で全て避ける。


ダイヤ「……では、これならどうです?」トンッ

果南「ッッ!!!?」ピキッッ



片足で床をタップすると、ダイヤを中心とした半径約五メートルの物体が凍結した。

水の柱は氷の柱となり、果南も両脚の膝と右ひじを凍らされ動く事も右手の力で打ち消す事も出来ない。



果南「このッ!! 器用に凍らせてきたな……ッ!」

ダイヤ「これで避けられない。蜂の巣にして差し上げましょう」パキパキ...
458 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/21(火) 01:15:59.59 ID:B2+Zalu80


果南「ぐ、ぐるぅああああああッッ!!!」バキッ!!

千歌「力尽くで腕の氷を剥がした!?」ゾッ...



ドドドドッッ!!!



果南「……チッ、ちょっと脱出が遅かったッ!」


数発の氷の弾丸が果南の脇腹に食い込み、こめかみを掠める。

脚の凍結は右手で解除したものの、右腕の方は肩から肘にかけての皮膚が氷に張り付き、ごっそり剥がれた。


千歌「か、果南ちゃん……う、腕が」

果南「大した怪我じゃない、心配はしなくていいよ」

ダイヤ「屈強な兵士でも皮膚を剥がされれば子どものように泣き喚くのですが……痛みを感じないのは便利ね」

果南「ダイヤも私とお揃いのリングつけてみる?」

ダイヤ「結構ですわ。そんな呪いを受けずとも、五感くらい簡単に『凍結』出来ますから」

果南「そっちはノーリスクってか……つくづく反則じみた力だな……っ!」


ダイヤ「貴女は右手以外に効果的な攻撃手段を持ち合わせていない。距離を取れば攻撃出来ず、接近すれば先ほどの二の舞……前の方がまだ勝ち目があったかもしれませんわね」

果南「よく言うよ。あの時と同じだったらこの部屋に入った瞬間に負けてる、多分負けた事を認識する間も無く一瞬でね」
459 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/21(火) 01:18:11.96 ID:B2+Zalu80


ダイヤ「腹部の傷も浅くない、動けば出血多量で終わり」

果南「そーだね……この傷の大きさだとホッチキスでも塞げないや」ドクッドクッ

千歌「だとしても手当はしないと! 今そっちに―――」

果南「来るなっ!!」

千歌「……っ!?」

果南「ここで私に干渉すればダイヤは躊躇せずに千歌へ攻撃する」

ダイヤ「その通りです。『同調』以外で果南達に干渉するのならわたくしは……」

ダイヤ「……あ? そう言えばもう一人は何処に―――」



果南「今だ、曜!」



曜はダイヤの背後にある氷柱の陰から飛び出す。

果南が注意を引き付けてる間に自ら生成した水の柱に身を隠しながら接近していたのだ。


気が付くのが遅れたダイヤは技で防ぐことも回避することも間に合わない。



曜「―――くらえッ!!!」



鋭く振り抜かれた刀がダイヤの首筋を―――



――ガキンッ!!!



曜「んなッ!?」

460 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/21(火) 01:22:37.84 ID:B2+Zalu80

千歌「片腕で防がれた!?」


曜の刀はダイヤの氷河の炎で作った義手に、ほんの少し食い込んだだけで止まる。


ダイヤ「……愚かな、刃では無く背の方で斬りかかって来るとは」

果南「寄りにもよって義手のある右側から……っ」

ダイヤ「もしも峰打ちじゃなければ、もしも匣兵器の補正のかかる型で攻撃していれば……今の一撃でわたくしを倒せていたのに」



腕から刀へ氷河の炎が伝い、体が徐々に凍結してゆく。



果南「マズイ!? 曜、刀を放して離れて!!」

曜「む、ムリ……もう手まで凍らされて……っ!」パキパキパキッ

ダイヤ「わたくしに気配を悟られず、ここまで接近出来たのは評価しましょう」

ダイヤ「その褒美として苦しみも痛みも無い、この世で最も安らかな死を差し上げますわね」ニコッ


曜「ぐ、ぅ……や、ば…………っ」


果南「ダイヤ止せえぇ!!」

千歌「ダメ……ダメエエエエェェェ!!!!!」
461 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/28(火) 00:37:49.43 ID:s6i9br1W0



曜「…………」



ダイヤ「―――はい、これで氷像の完成ですわ」

千歌「ぁ……あぁ……」

ダイヤ「躍動感のある氷像に仕上がりましたわね。初めて作ったにしては上出来だとは思いませんか?」

果南「ふざ、けるな……ッ!!」ギロッ

ダイヤ「怖い顔で睨まないで下さい。ほら、返しますよ」



ダイヤは氷漬けにした曜を千歌達へと滑らせて送り届ける。



千歌「果南ちゃん! 早く曜ちゃんを!」

果南「分かってる!」キュイィィィン!!



果南は急いで曜を右手で叩く。

体の氷は一瞬で解凍さたのだが―――。



曜「……」

果南「バカな……何で目を覚まさない!?」

千歌「い、息……してない……心臓も、動いて……ない」ガタガタッ

果南「っ!!?」ゾワッ


ダイヤ「氷河の炎で彼女の生命を『凍結』させました。一度完全に動かなくなったのですから右手で『凍結』を打ち消しても蘇生は出来ない」

果南「そんなのアリかっ!?」
462 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/28(火) 00:41:05.89 ID:s6i9br1W0

千歌「どうしよう……果南ちゃんどうしよう!?」

果南「とにかく心臓を動かすしかない! 心臓マッサージのやり方は分かる!?」

千歌「わ、分かるけど……か、果南……ちゃん?」

果南「くそっ! 部屋の明かりを消された!! 真っ暗で見えないけど曜の場所は分かってるよね!?」


千歌「……明かりは消えて無い、よ?」

果南「は?」

千歌「ど、どこを見て話してるの? 何で千歌の方を見て無いの……?」

果南「……ぁ」

千歌「まさか……目が―――」


ダイヤ「くふ、あはははははっ!! 傑作ですわ! 何てタイミングで呪いの進行が進んだんでしょう」

果南「マジか……こんな時にっ……いや、今はそんなのどうでもいい! 早く曜を蘇生を!!」

千歌「もうやってる!!」グッ、グッ、グッ



一定のリズムでテンポよく力強く胸部を深く圧迫する。

心臓マッサージを行うことによって心臓を動かす筋肉に酸素とエネルギーを届けることで心拍再開する場合もあるが、
この行為は本来、機能不全に陥った心臓の代わりに血液を体内に送り続けるのが目的。

更に今回のように、完全に停止してしまった場合心臓マッサージのみで蘇生する可能性は皆無。


この事実を千歌達は知らない。




千歌「はぁ、はぁ、はぁ」グッ、グッ、グッ

曜「………」

千歌「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!! ねえ起きてよ、起きてってば!!」

曜「………」


千歌「はぁ、はぁ」グッ、グッ、グッ


ダイヤ「……諦めなさい、その子はもう目を覚ます事は無い」


千歌「……うるさい!」
463 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/28(火) 00:44:31.85 ID:s6i9br1W0

ダイヤ「仮に目を覚ましたとしても、勝機があると本気で思っていますか?」


千歌「うるさいって言ってるでしょ! 曜ちゃんは絶対に目を覚ますもん!」


ダイヤ「哀れな……あり得ない希望にすがるとは」


千歌「……いつまで眠ってるのさ! いい加減起きなきゃ怒るよ!?」

曜「……」

千歌「どうして……こんなに一生懸命やってるのに……」

千歌「もう……腕に力が……」

曜「………」

千歌「……ああ、あああああああああぁぁぁぁ!!!」ポロポロッ





梨子「―――そこをどきなさい」





千歌「……えっ、りこ……ちゃん?」



声のする方向を向くと、ボロボロの姿の梨子が千歌を見下ろしていた。

頬や焼け焦げた袖やズボンの裾から露出した肌は赤黒く変色しており、とても痛々しい。



果南「梨子!? 梨子がそこに居るの!?」

梨子「ええ、すぐそばに居ますよ」

果南「じゃあ……ルビィはもう……」


梨子「生きてますよ」

果南「!」

梨子「瀕死の重傷ですが治療班に直接引き渡したので一命は取り留めるはずです」
464 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/28(火) 01:26:40.52 ID:s6i9br1W0


梨子「それよりも高海さん、一旦この子から離れて」



梨子は右手を曜の胸、丁度心臓の真上のあたりにそえる。

その指には嵐のAqoursリングの他に、黄色の石がはめ込まれたリングが付いている。



千歌「な、何をするつもり?」

梨子「私の体には『嵐』の他に微量ながら『雷』の波動も流れている。この電気ショックで止まった心臓を再び動かす」バチバチッ!!!



電流が流れ、曜の体が大きく跳ね上がる。

胸に耳を当てて心音を確認し、もう一度電流を流す。



―――……ドクンッドクンッ



梨子「……よし、動き出したわ」

千歌「ほ、本当!?」

梨子「蘇生まで何分かかったか知らないから意識を取り戻すかは約束できない」

梨子「それでも目を覚ますと信じて呼びかけ続けて」


梨子「―――強い願い、強い想い、強い祈りはきっと届く……奇跡は必ず起こせるわ」


千歌「奇跡……」
465 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/28(火) 01:30:24.79 ID:s6i9br1W0




ダイヤ「……梨子、貴女は一体何をしているのですか?」

梨子「……」

ダイヤ「貴女が裏切るのは少し予想外でしたわ」

梨子「ホント、何やってるんですかね……命令を無視して敵を救おうとしてるんですもの」

梨子「ですが、これ以上果南さん側の味方をするつもりはありません。私はこの戦いを放棄します」

ダイヤ「……」

梨子「私の処分は勝者に全て任せます。まあ、どっちが勝っても死ぬより恐ろしい罰が待っているとは思いますけどね……」

ダイヤ「理解に苦しみますわ」

梨子「それとも、私が手を貸さなければ勝てないのですか?」

ダイヤ「……いいでしょう、貴女はこの戦いの結末を特等席で見ていなさい。もっとも、わたくしを裏切ってまで救ったその子に可能性があるとは到底思えませんがね」


果南「梨子……」

梨子「驚きました……ルビィ様があんなに強くなっていたなんて。果南さん、一体どんな訓練をさせたんですか?」

果南「私は何もしてない、全部ルビィが努力した結果だよ」

梨子「姉を想う気持ち、か」ボソッ

果南「え?」

梨子「……何でもないです。それよりも、ちゃんとまだ手はあるんですよね? このままあっさり終わっちゃったら私の行動が全くの無意味になるんですけど」


果南「……ああ、まだあるよ」



466 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/30(木) 23:58:48.22 ID:JTtXod980



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



曜「―――ハッ!?」ガバッ

曜「……あ、れ……ここはどこ? さっきまで城で戦っていたよね?」




目を覚ますとそこは見渡す限り空と水しかない空間だった。

一面薄い水で覆われ、巨大な鏡のように青空と雲を映し出している。




曜「なーんか見覚えがあるな……デジャヴ?」ムムム


曜「―――あっ! ここあれだ、アニメのオープニングとかによく出てくる場所だ! ウユニ塩湖だ!」


曜「ほぇ〜初めて見たけどこんなに幻想的な場所なんだね……綺麗」

曜「………」


曜「……死んじゃったんだね、私」




「―――いいえ、まだ死んでないわよ?」




曜「えっ?」クルッ


「チャオ〜♪」フリフリ


曜が振り向くとベンチに座った金髪の女性が笑顔で手を振っていた。


曜「だ、誰ですか……? もしかして天の使いさん?」

「ちょっ……私が誰か分からないの?」
467 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/31(金) 00:05:46.28 ID:guC+9QV20

曜「……?」キョトン

「う、嘘でしょ……仮にもあなたの国の女王だったのよ……流石にショックね」シュン

曜「女王……?」


「――まあいいわ、今は時間が無い事だし」

「さっきも言った通りあなたはまだ死んでない。ここは……そうね、簡単に言えば心象世界って言えば分かるかしら?」

曜「うーん……何となく?」

「ダイヤに殺されかかって魂が消えそうにところを千歌っちの中に居た私が回収したの」

「『同調』で繋がっているあなた達だからこそ出来た裏技なんだから。感謝しなさいよ?」

曜「あ、ありがとう」


「ここからが本題、どうして私が裏技まで使ってあなたを救ったのか――」


「――曜、あなたにはこれから襲って来る“本当の敵”から千歌っちを守って欲しいの」


曜「“本当の敵”? ダイヤさんの事じゃないの?」

「本音を言えば今すぐにでもこの無益な戦いを中止して欲しいんだけれど……もう、あの二人はとことんぶつかり合うしかないって諦めたわ」ハァ

「とにかく、曜は千歌っちを守るのよ。例え世界中の人々の命と天秤に掛けられたとしても最優先でね。それが結果的に世界を救う事に繋がる」

曜「……はい?」

「そりゃ突然こんな事言われともピンと来ないわよね……」


「話を変えるわ、今の浦の星王国の女王は誰だと思う?」

曜「ダイヤさんでしょ?」

「Aqoursリングに選ばれる事が守護者になる条件のように、女王もリングによって選ばれる」

「大空のAqoursリングは他の属性のAqoursリングとは違い、選ばれし者以外は触れる事すら出来ない。だから“持ち主=女王”となる」


「ここでQuestion、現在その選ばれた者しか所持出来ない大空のAqoursリングを持っているでしょーか?」

曜「……あっ」
468 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/31(金) 00:08:04.53 ID:guC+9QV20



「―――渡辺 曜、守護者としての使命を果たしなさい。その命尽きるまで女王を守り抜きなさい」


曜「……分かってる。使命が有ろうと無かろうと私のする事は変わらないよ」

「頼もしい返事ね♪」



『……ゃん………うちゃん…………』


曜「誰かが呼んでる……この声は……千歌ちゃん?」

「そろそろ魂が肉体に帰る時間か。手を出して、あなたに私の力を少し渡すわ」


女王と名乗る彼女が曜の右手を両手で握る。

暖かい橙色の炎が全身を包み込み曜の体内に溶け込んでいった。



「――これで完了。あとその薬指のリングをちょっと作り変えて大空の炎が灯るようにしておいたから。これで譲渡した私の技が使える」

曜「大空? 私にその波動は流れていないよ」

「千歌っちとパスが繋がっていれば大丈夫よ。それと、その技は一回しか発動出来ないから注意してね」


「それじゃ、健闘を祈るわ!」








曜「―――……ハッ!?」ガバッ

千歌「うごっ!?」ゴチンッ!

果南「なになに!? 今凄い音したよ!?」アセアセ

梨子「おでこ同士がぶつかっただけです」


曜「ぐおおぉっ痛ったぁ〜〜〜……って、あれ? ここは……」

千歌「よーちゃん!!!」ダキッ!

曜「ちちちちかちゃん!?」

千歌「よかった……よかったよぉ……」ポロポロ

曜「……心配掛けてごめんね」


梨子「悪運の強い子ね……一度だけでなく二度も生き残るとは」
469 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/31(金) 00:24:15.67 ID:guC+9QV20

曜「さ、桜内!? 何でお前がっ!!?」ギロッ

千歌「梨子ちゃんが助けてくれたんだよ」

曜「……うそでしょ?」

果南「梨子が電気ショック与えなかったら、間違いなくそのまま死んでた」

梨子「そーゆー事よ。ほら、泣いて感謝しなさい」

曜「ぐぬぬ……不本意だ」


梨子「冗談よ、別に感謝されたくてやった訳じゃないからいいわ」



ダイヤ「―――まさか、あの状態から蘇生するとは」

曜「ダイヤさん……」

ダイヤ「せっかく苦しみのない死を与えたというのに……どうやら地獄の苦しみを感じながら死ぬのがお望みのようですわね」

曜「……っ!」ブルッ

千歌「曜ちゃんが復活したのはいいんだけど……これからどうするの?」

梨子「果南さんは呪いの進行で視力まで失った。状況は悪化しています」

曜「視力を!? いつの間に……」

千歌「そう言えば果南ちゃん、さっき逆転の手はあるって……」

果南「……言ったよ」

梨子「まさか、この子が“新たな力”を身に付けて生き返った、なんてご都合展開を期待してるわけじゃないですよね?」

曜「!」ドキッ

果南「そんなありもしない展開を期待するほど脳内お花畑じゃない」



果南「―――ただ、一か八かに賭けるって点なら大差は無いかな」



果南は意味深なセリフを吐きながら懐に手を入れた。

中から取り出したのは装弾数五発の小型の回転式拳銃だった。

装填されている弾丸はたった一発。

果南は親指でカチカチとハンマーを起こした。



ダイヤ「わたくしにそんな武器が通用すると?」

果南「いやいや、梨子だって銃が武器だよね? 遠回しに自分の部下を貶してるじゃん」
470 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/31(金) 00:28:52.48 ID:guC+9QV20

梨子「でもダイヤ様の言う通りです……。私の撃ち出すのは炎の弾丸ですが、果南さんのそれはただの実弾だから効果は全くないと断言出来ます」

ダイヤ「なんなら試しに撃ってみますか?」

果南「私が銃の達人だったら、この一発でダイヤを倒せるだろうけど……残念ながら違うしそもそも見えて無いから無理」



「だからね……」と言いながら手に持っていた拳銃の銃口をゆっくりと自らのこめかみに突きつけた。



千歌「かな―――」



――ズドンッ!!!



果南の頭から血飛沫が飛び散る。

棒杭でも倒れるようにバタリと倒れ、傷跡から漏れ出る鮮血が大きな水溜りが作られた。



果南「………」

梨子「……は?」

曜「な、に……何の冗談……?」


ダイヤ「……ヘルリングが指から外れている」

梨子「ヘルリングは持ち主が死亡する事でのみ外れる……一時的に仮死状態になってもダメ、リングは絶対に騙せない」

千歌「じ、じゃあ……果南ちゃんは……本当に死んじゃった……っ?」

梨子「思わせぶりなセリフを吐いておきながら、結果これですか……」

ダイヤ「………」



果南「―――……まあそう焦らないでよ、これで終わりなわけがないじゃん?」



果南はゆっくり、ゆっくりと腹筋の力を使って上半身を起こす。

全身がほんのり黄色く発光、右目から『晴』の炎が灯っている。


頭や腹部の傷口から蒸気が発生し、みるみる塞がってゆく。



ダイヤ「なるほど……ヘルリングの呪いが解けて炎が使えるようになりましたか。まさか、晴のリングを右目に埋め込んでいるとは思いませんでしたが」

果南「私の戦い方的に指につけているとうっかり砕けかねないからさ。ダイヤが丁度いいスペースを作ってくれたから埋めて置いた」


曜「一体何をしたの……?」
471 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/31(金) 00:32:56.40 ID:guC+9QV20

果南「さっき使った弾丸はよしみが開発した特殊弾、通称『死ぬ気弾』」

果南「これで脳天を撃ち抜いて一度死ぬと数秒後にリミッターを完全に外れた状態で生き返る事が出来る」


梨子「傷が治っているのは果南さんの得意技『肉体再生(オートリバース)』の効果ですよね」

果南「そうだよ。久々の発動だったからちゃんと使えて良かった」

ダイヤ「……わたくしの知っている『肉体再生(オートリバース)』で一瞬で治せるのは擦り傷程度だった。リミッターが外れた事で技の性能も上がったわけですか」

果南「その通り。完成したこの技を発動している限り私は死なない」

果南「……死なないけど、傷を負った時の痛みまでは消せないのが欠点なんだよねぇ」


果南は女性らしさ皆無の野太い声を発しながら再びゴロンと仰向けに寝転がった。


果南「あ゛あ゛しんどっ……呪いが解けたせいで痛覚も復活しちゃった。頭のてっぺんからつま先まで全身痛ぇ……」

果南「今まで、こんなに痛い中動き回ってたのか……よく死ななかったな、私」



果南「……死ぬほど痛くて辛いけど、なんか、こう……“生きてる”って感じがするな」ヘヘ



「よっ!」と掛け声と共に、腕と首に体重を乗せて一気に跳ね起きるネックスプリングで立ち上がる。



果南「『死ぬ弾』+『肉体再生』の複合技、『最高の輝き(ラストサンシャイン)』は維持出来る時間があまり長くない」

ダイヤ「『最高の輝き(ラストサンシャイン)』……それが果南の切り札ですか」

果南「……ふふ」




果南「――さあやるよ、曜!」

曜「任せてよ!」

千歌「大丈夫なの? ついさっきまで死にかけてたのに……」

梨子「やらなきゃ死ぬだけよ、生き残りたかったらせいぜい頑張りなさい」

曜「アンタに言われなくてもそのつもりだよ!」ムッ



周囲を取り囲んでいた氷人形が固形から炎へ変わり、ダイヤの元へ続々帰ってゆく。

分散させていた炎を回収し、次に繰り出す攻撃へ回すつもりなのだ。


ダイヤが右腕を高らかに上げると、その上部に氷塊が生成される。

大きさは最初に作ったものと比較するとおよそ十倍。
クルーザーを三隻積み上げたのと同等の大きさだ。



曜「何さ、あれ……私の技でどうにか出来るレベルを超えてるよ……!?」

梨子「お、大きい……私の炎でも相殺出来るかどうか……」
472 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/31(金) 00:36:34.27 ID:guC+9QV20

ダイヤ「これを果南が避けるのは難しくないでしょう。ですが、後ろにいる千歌さんはどうなるでしょうね?」

果南「……」

ダイヤ「炎を打ち消す力を失った今、これを防ぐ術はもうない。潰れなさい!!」



予備動作無しで発射される氷塊。

確かに軌道が分かれば避けられないスピードでは無いが、目測でも自動車の速度程度。

その大きさからは想定出来ない速度だ。


当たれば即死、避ける場所を誤れば衝突により発生する衝撃波や氷の破片で致命傷を負いかねない。



―――果南は軽く息を吐く。

腕を肩幅に構え、拳を顔の付近に持って行き、左足を前に出す。

全身を覆っていた炎は右の拳に一点集中し、透き通った純度の高い炎へと昇華する。


迫りくる氷塊にタイミングを合わせ、腰、肩、腕、拳へと全体重を移動。

全ての力を右ストレートに込めて放つ―――。



果南「―――う゛る゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」



数十本のダイナマイトが一気に起爆したような轟音。
氷塊は果南の拳で粉々に砕け散った。

……が、これ程の威力のパンチをノーリスクでは打つ事は出来ない。

インパクトの直後、骨は内部から破裂。右手の指は全て別々の方向へ折れ曲り、腕もまるで軟体動物のようにグニャグニャとなって原形を留めていなかった。

痛みの許容範囲を遥かに超え、コンマ数秒の間意識を失った果南だが『最高の輝き(ラストサンシャイン)』の効果で破裂した骨や筋肉等が瞬時に再生、同時に意識も強制的に戻される。



果南「っぅ、ぁあ……へ、へへ……どーよ?」ニッ

梨子「じ、自分の体の後始末を再生能力に丸投げして破壊力を極限まで高めた……? 確かにそれなら体の強度を無視出来るけど、普通考え付いても実行しない!」ゾッ...

曜「なんて力技なのっ!?」
473 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/31(金) 00:41:26.25 ID:guC+9QV20

果南「……痛ぅっ」


……痛みの具合は分かった。ただ、想像以上に消耗が激しいな。
『最高の輝き(ラストサンシャイン)』の持続時間は三分間。けどそれより前に体が持たない。

さっきみたいにフルパワーで殴れるのはあと二回かな……。


ダイヤ「同じ規模の攻撃をあと二回ってところですかね」

果南「!?」

ダイヤ「おや、図星ですか?」

ダイヤ「人間の限界を超えた攻撃がそう何度も繰り出せる訳がない。それ故の“限界”なのですから」


ダイヤは先ほどと同規模の氷塊を今度は四つ生成し始めた。


果南「ほんっっと、嫌な奴だね……っ!」ハハ...
474 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/31(金) 00:44:01.66 ID:guC+9QV20



果南「曜! 三つは私が何とかする。残り一つは死ぬ気で防いで!!」


そう告げると、果南はダイヤの方へ走り出した。
走りながら果南は右の拳に炎を集めて素早く振り抜く。

氷塊を発射しようとしているダイヤへ圧倒的な速度で繰り出した拳圧で空気の塊を飛ばし、直撃した。

これにより一発目の氷塊は軌道が大きく逸れる。


―――二発目。
右腕はヒビが入った骨の再生中故、一時的に使用不可。

左の拳に炎を集中させ氷塊を粉砕する。


―――三発目。
再び右腕が完治。
グチャグチャになった左腕の再生を放棄し、その分の炎も全て右の拳に集中させた。

この氷塊を凌げば数秒間は両腕が使えなくなる。

脚で砕く方法も無くは無いが上手く当てないと氷塊は粉々にならず、流れた破片で千歌達が致命傷を負う可能が高いのだ。

また、脚を失えばダイヤにその間接近する事が出来ない。戦闘を一刻も早く終わらせたい今、時間のロスは最小限に抑えたい。

果南は一切の躊躇なく、三発目の氷塊を右拳で打ち抜いた。




果南「………ぁぅ」


――やっば……意識、飛ぶ……。
痛いのは気合で我慢すれば何とかなると思ってたけど……考えが甘かった。

体が発する危険信号なんだから無視できるわけないか。

炎の残量もあと僅か……壊れた腕を治せば『最高の輝き(ラストサンシャイン)』は直ぐに解けちゃう。


……でも、あと少し、もう少しだけ頑張ってよ私。

やっと……やっと手を伸ばせば届く所まで来たんだ。

こんな所で力尽きたら死んでも死に切れない……!





果南「――――――――よおおおおぉぉぉう!!!!」





―――ダンッ!!!



曜は前を走っていた果南の更に前へと飛び出す。

果南が攻撃を防いでいた間、ありったけの炎を刀身へ集中させていた。

Aqours匣による斬れ味増加と斬撃範囲の拡張をもってしても、あの大きさの物体を一刀両断は不可能。

475 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/31(金) 00:56:44.83 ID:guC+9QV20



梨子「……“対象を壊すこと”だけが防ぐ手段じゃない」

梨子「まさかこの短期間で不完全ながらも“奥義の型”まで使えるとは……」



攻守四種ずつ、計八つの型から構成されるダイヤの剣技。

その総集奥義―――






曜「――――――――『時雨之化(じうのか)』」





刀に纏わせた雨の炎を全て氷塊にぶつける。

すると、まるで時が止まったかのように氷塊は動きがぴたりと空中に静止した。



千歌「止まった……?」

梨子「いいえ、雨の『鎮静』で攻撃のスピードが限りなく停止に近づいただけよ」

梨子「それでも、ダイヤ様の攻撃を防いだ事には変わりない」

梨子「……やれば出来るじゃない?」フフ



ダイヤ「そ、総集奥義……だと!? 全ての型を極めていない貴方が!?」


曜「……さあ、障害物は全部無くなったよ」



曜はそっと手を果南の背中に添え、力の限り想いを込めて押し出す―――。



曜「―――行っけえええ、果南っ!!!」



―――届け。



千歌「頑張れ、果南ちゃん!!」



―――届いて……っ。



果南「……おおおおおお!!!」



―――届……。





ダイヤ「―――いや、それでもわたくしには届かない」ボオッ!!

476 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/31(金) 00:59:16.69 ID:guC+9QV20



ダイヤの体を中心に巨大な魔法陣が展開。

部屋全体を覆った。



梨子「何っ!? こんなに巨大な魔法陣は見た事がない!」


ダイヤ「自分が何故ヘルリングの力を手に入れたのかお忘れですか? この一撃必殺の技を封じる為でしょう!」

千歌「一撃、必殺……!?」ゾワッ

ダイヤ「この技に対していかなる匣兵器、技を用いたところで防御も相殺も不可能」


ダイヤ「『時雨之化(じうのか)』が動きを限りなく停止に近づける技なら、これはそれの完全上位互換。この技は原子の振動すら完全に停止させる!!」


梨子「急いで! 果南さん!」

果南「……ぐっ」スウッ

曜「ダメだ……あと一歩間に合わない!!」


ダイヤ「これで最後です―――!!」




ダイヤ「――――――『絶対零度(ヅェーロ・アッソルート)!!!』」





―――キュイィィィン!!!





甲高い音と共に、部屋中を覆っていた魔法陣が氷のように砕け散った。



ダイヤ「な、に……?」


―――不発?

そんなはずはありません! このわたくしに失敗は有り得ない!!

そもそも発動に必要な炎は全て消費している……技は確かに発動したのです。


発動した技が強制的に消え……打ち消された……?

477 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/31(金) 01:05:09.45 ID:guC+9QV20

ダイヤ「―――まさか」



発動の直前、果南の体や右目から晴の炎が消えていた。

最初は土壇場で『最高の輝き(ラストサンシャイン)』の効果切れだと思い込んでいたが、実際は違う。


再びヘルリングを指にはめた事で呪いの力が復活したのだ。

効果範囲は初期の右手首より下に狭まっているが

空間に全体に展開する『絶対零度(ヅェーロ・アッソルート)』は勝手に右手に当たるので打ち消す事が出来る。

発動そのものが無意味となるのだ。




ダイヤ「わざわざ一度死んでまで外したリングを……!?」



果南「―――届いたよ、ダイヤ」


果南「私の切り札は最初から“これ”だ。それにあの状態のまま殴ったらダイヤが死んじゃうからね」



果南は右の拳を硬く握りしめ、力強く左足を一歩踏み込む。



果南「さぁ……すっっごく痛いのいくから覚悟してね?」


果南「……歯ぁ食いしばりな」ギュウゥゥ



ダイヤ「うっ……やめ―――」




果南「―――ダイヤあああああああああああ!!!!!!」




―――バキャッッ!!!!!




ダイヤ「ごっ……お……ぉ」



渾身の右ストレートがダイヤの顎下にクリーンヒット。
地面に叩きつけられる。

ダイヤは意識と共に、彼女の心の奥底にある何かが打ち砕かれた―――。



478 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/07(金) 23:44:59.41 ID:AMx4KjrE0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ダイヤ「…………ん」


……どのくらい眠っていたのでしょう。
場所が変わっていない所から察するにそれほど経ってはいないですかね。

口の中が痛い、頭もガンガンする……。
果南さんめ……女性の顔を本気でぶん殴るやつがありますか。

当の本人は一体どこに……ん?



ダイヤは左手の違和感に気が付き、首をゆっくりとその方向へ向ける。

そこにはダイヤの手を握りながら仰向けに倒れている果南の姿があった。

半開きの目でぼんやり天井を見つめている。



ダイヤ「……果南さん」

果南「………」


ダイヤ「いいパンチでしたわ。おかげで綺麗に整っていた歯が何本か折れてしまいました」

ダイヤ「脳震盪で起き上がるどころか指一本動かせない……詰みです」

果南「………」


ダイヤ「……あなたの……あなた達の勝ちですわ」

ダイヤ「敗者は大人しくこの世から立ち去ります。好きなように殺しなさい……わたくしはもう……疲れました」

果南「………」

ダイヤ「……鞠莉さんの愛したこの国を守りたかった。ただそれだけだったはずなのに……わたくしは、一体どこで間違ってしまったのでしょう……ね?」

果南「………」

ダイヤ「……愚問でしたね。どこで間違えたか、なんて明らかですわ。最初から何もかもが間違っていた。感情に身を任せてしまったが故に引き返す地点を全て見逃した……」

ダイヤ「気がすむまで罵倒して下さい……言いたい事は山ほどあるのでしょう?」

果南「………」

ダイヤ「……ちょっと、いつまで無視して―――」



ダイヤ「―――果南さん?」



よく観察すると果南の右手からヘルリングが外れ、床に転がっているのが見えた。

これが何を意味するのか。
今更考えるまでもないだろう。

果南の技、『最高の輝き(ラストサンシャイン)』による体への負荷は生物の限界値を遥かに超えている。

動力源である心臓がたった数分で一生分の鼓動数に達してしまうほどに。



ダイヤ「……果南さん、あなたって人は勝手なんだから……」

ダイヤ「はぁ……戦いに不要な感情は全て凍結させたのに……あのパンチで全部元通りになった………」

ダイヤ「……ホントっ、余計な事をしてくれましたねぇ……っ」ポロポロ


479 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/07(金) 23:59:39.46 ID:AMx4KjrE0





千歌「果南ちゃん……」

梨子「終わったわね。大きな犠牲を払ったけれど、これで一区切りよ」


曜「……戦いは終わってない」

梨子「何? まだやろうって言うの?」

曜「違う、ダイヤさんが倒そうとしていた“本当の敵”がまだ残ってるんだ」


曜「―――そうでしょ? 千歌ちゃん」

千歌「よ、曜ちゃん……どうしてそれを―――」




「あれー? もしかして、もう終わっちゃったずら?」タッタッタッ




千歌「花丸ちゃん!」

花丸「急いで来たんだけどなぁ……間に合わなかったみたいだね」

梨子「……そう、善子ちゃんは負けちゃったか」

千歌「頭から血が……全身傷だらけじゃん!?」

花丸「大丈夫大丈夫、見た目だけで実際は大した怪我はないずら」


千歌「今そっちに行くね」



千歌は花丸の元へ駆け寄る。



曜「……花、丸……ちゃん?」



外見も声も間違いなく花丸ちゃんだ。

それなのに、姿を見た瞬間からずっと私の中にある警報が最大レベルで鳴り響いてる……。

付き合いが長いわけじゃないけど断言出来る。


――あれは花丸ちゃんじゃない……!



曜「ダメだ千歌ちゃん……そいつに近寄るな!!!」

480 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/08(土) 00:10:08.79 ID:m1rd4QUO0

千歌「ほぇ?」

花丸「………フフ」



―――バンッ!!!



曜が叫んだのとほぼ同タイミングで銃声が響く。

弾丸は花丸の頭部に被弾、そのまま仰向けに倒れた。


千歌「な……っ、り、こ……ちゃん………?」

花丸「………」

梨子「……撃って良かったのよね?」

曜「うん、ありがとう。それにしても流石だね……いきなりの早撃ちで寸分の狂いなく眉間ど真ん中を撃ち抜くなんてさ」

梨子「どーも」

曜「これで死ぬなら大した敵じゃなかったって事で万事解決」

梨子「もしそうじゃなかったら――」




「あー……ったく、いきなり発砲するとか酷いじゃない。リリー」シュウゥゥゥ




千歌「は、花丸ちゃんが善子ちゃんになった!?」

曜「幻術で化けていた……? でも何か引っかかる……」

善子「一歩間違えば死んでたんだからね。本当勘弁してほ」



バンッ!! バンッ!!



善子「っ!?」

梨子「―――誰よ、あなた」

善子「ちょっ……何言ってるのよリリー? 私は善子よ。変な事言わないで頂戴」

梨子「いいえ、あなたは善子ちゃんじゃない」


梨子「私の知ってる善子ちゃんは私を“リリー”だなんて呼んだ事は一度もない」


梨子「……あなたは一体誰だ?」


善子「……あー、なるほど。この世界では呼んでなかったのか……凡ミスだ」

千歌「あ、あなたが善子ちゃんじゃないのなら本物の善子ちゃんや花丸ちゃんはどこに……?」

善子「善子なら目の前にいるじゃない。外見は全く同じ、入れ替わったのは中身だけよ」

善子「花丸は……言わなくても分かるでしょう?」ニタァ

千歌「ひぃっ!」ゾワッ

曜「なんて歪んだ笑顔なの……」

梨子「私の質問に答えなさい! お前は誰だ!!」カチャッ

善子「誰、か……そうね教えてあげるわ」


481 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/08(土) 00:11:35.77 ID:m1rd4QUO0






ヨハネ「――――私の名はヨハネ。世界の破壊神よ」





482 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/08(土) 00:24:18.96 ID:m1rd4QUO0




千歌「うそ……ヨハネって……っ」


ダイヤ「ヨ、ハネ……ヨハネだと……!?」

ヨハネ「久しぶり、元気そうね?」ニコニコ

ダイヤ「どう、して……よりにもよってこのタイミングで現れた!?」

ヨハネ「割と前から準備は整っていたのよ。ただ、呪いの力が発動中だと私の世界を消す技が使えなかった」

ヨハネ「あの子に実感は無かっただろうけど、私という脅威からずっと世界を守っていたわけ」

ダイヤ「果南、さんが……?」


ヨハネ「皮肉なものねぇ……親友を切り捨て、他国を切り捨て、己の信念を切り捨てたあなたの覚悟は全くの無意味だった」

ヨハネ「……いや、松浦 果南という世界の守護者の死を早めたのだからその罪は極めて重い……あなたのせいで世界は滅びるのよ」

ダイヤ「……わたくしの、せいで……?」


ヨハネ「私を倒す為に色々準備していたみたいだけど、それも肝心な時に役に立たない! あなたの三年間は全部、ぜ〜〜んぶ無駄だったのよ!」

ダイヤ「……ぁ、ああ、ああああっ!!!」

ヨハネ「ほらどうした! 私を殺したんでしょ? 必ず殺すと誓ったんじゃないの!? 仇は目の前にいるぞ、ほらっ!!」


ダイヤ「〜〜〜〜ッッ!!!!」ギリッ!!!


ヨハネ「……あの時と同じよう無様に這いつくばっていなさい。お前に国を、世界を守る力なんてこれっぽっちも無かったのだから」




梨子「――――ちょっと、何好き勝手な事言ってるのよ」




ヨハネ「……何?」

梨子「さっきの戦いでは命令に背いたけど、私のダイヤ様への忠誠心は変わってない。自分の女王が侮辱されて黙っていられると思う?」

ヨハネ「忠誠心ねぇ……この女王様のどこに魅力を感じたのやら」

梨子「分かって貰わなくて結構」
483 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/08(土) 00:32:54.31 ID:m1rd4QUO0


ダイヤ「梨、子……さん」

梨子「ダイヤ様も感情的に叫ぶなんてらしくないですよ。あなたはいつもみたいに凛とした振る舞いをしていればいいのです」


梨子「ダイヤ様のやってきた事は無駄なんかじゃない。私がそれを証明してみせる!!」


ヨハネ「この世界の連中は威勢だけはいい……一人で勝負になると思ってるの?」ヤレヤレ



千歌「――……一人じゃないよ」

曜「そうだ、私達三人が相手だ!」

ヨハネ「………へぇ」


梨子「別に敵のあなた達の力なんて必要ないわ」

曜「意地を張ってる場合? 実弾で攻撃してたくらいだからもうほとんど力残ってないでしょ」

梨子「それはそっちも同じじゃない。『時雨之化(じうのか)』に全部使ってガス欠状態なのは知ってるんだから」

千歌「だったら尚更協力しなきゃ勝てないじゃん」

曜「コイツを倒さなきゃ世界が滅ぶなら、因縁とか敵味方とか言ってられない。安心してよ、後できっちり仕返ししてやるからさ」


梨子「……どさくさに紛れて後ろから斬らないでよ?」

曜「そっちこそ、流れ弾だーとかで頭撃ち抜いてこないでね?」


梨子「―――ふっ!!」



梨子は下に向けていた拳銃を素早くヨハネの方向へむ――――。


―――ガシッ!!


動作に入るよりも速くヨハネは梨子の手首を掴んだ。


梨子「ッ!?」

ヨハネ「遅い遅い、欠伸が出るくらい遅いわ」フワアァァ

千歌「瞬間移動した……っ!」


虚を突かれた梨子。

ヨハネは梨子の口元へ頭突き。
硬い物質にヒビが入る嫌な音が響く。


梨子「ぅがあッッ!?」

曜「桜内っ!」


曜もヨハネに斬りかかるが、刀は空を斬る。


ヨハネ「『瞬間移動(ショートワープ)』、私が使う『夜の炎』で使える技の一つよ」シュンッ!!

曜「このっ! 当たらない!」ブンッ! ブンッ!

ヨハネ「人間の反応速度よりも遥かに速いんだから当たるわけが無いわよ」シュンッ!!
484 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/08(土) 00:38:54.08 ID:m1rd4QUO0

曜「ならこの技で……ッ!」


曜は『繁吹き雨(しぶきあめ)』の構えに入る。


ヨハネ「回転しながら周囲を斬り裂くその型なら当たると……安直ね」


ヨハネは手のひらから黒い炎を点火し、曜の刀にぶつけた。

小規模の爆破が発生。
曜は後ろに吹き飛んだ。



曜「ぐっ……危っ」

千歌「か、刀が……っ」

曜「マジか……折れた!?」

ヨハネ「よく見なさい、折れたのならその刃先はどこにいったのよ? 『夜の炎』の特性『消滅』で消し去った」

千歌「さっきから言ってる『夜の炎』って何!? ダイヤさんの『氷河の炎』といい炎は七属性以外に何種類あるのさ!」

ヨハネ「これはベースとなる大空以外の六属性の突然変異種。『氷河』は『雨』、『夜』は『嵐』の特性が極端に向上した炎よ」

ヨハネ「私の『夜の炎』は匣兵器も炎も、この世界に存在するあらゆるモノを跡形も無く消し去れる」


ヨハネ「―――こんな風にね」シュン!!



ヨハネは『瞬間移動(ショートワープ)』で曜の目の前へ。



曜「……あっ」ゾッ

梨子「このバカッ!!! 避けなさい!!!」ドンッ



梨子は立ちすくむ曜を思いっきり突き吹き飛ばした。



―――ゴオオオォォッ!!!!!



曜「痛ッ……何す……!?」

千歌「……え?」



ヨハネの炎が直撃した梨子。
炎が消えると梨子が居た場所には塵一つ残っていない。


攻撃範囲から外れていた突き飛ばすときに使った腕のみが床に転がっていた。



千歌「梨子……ちゃん?」

曜「な、んで……」

ヨハネ「これは予想外。まさか身代わりになるなんて」
485 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/08(土) 00:43:19.00 ID:m1rd4QUO0


曜「庇ってくれなんて頼んでない……余計な事しないでよ……っ」ギリッ

曜「何で……死ぬのが分かってて敵の私を助けたのさ!!」

ヨハネ「ほとんどどころか全く力が残って無かったのよ。匣も技も使えない自分より、お前が生き残った方がいいと判断した」

ヨハネ「……無駄死になのは変わらないけどねぇ」


曜「くそッ……ダイヤさんいつまで倒れているんですか! コイツは仇なんでしょ!? 根性で立ち上がって下さいよ!!」

ダイヤ「やか、ましい……さっきからやってますわ!!」グググッ

ヨハネ「無理無理、完璧に顎に決まったのなら暫く立ち上がれない。これは気持ちだとか根性だとかで解決出来る事じゃ無い、人体の構造上の不可能よ」


ヨハネ「あー……一人一人消すのも面倒ね。もう一気に消滅させちゃうか」



―――ゴオオオォォッ



ヨハネ全身から禍々しい黒い炎が大量に噴き出し、背中から漆黒の翼が生成された。



千歌「うぐっ!? 風強っ」

曜「あんなの人間が出せる炎圧じゃない……!?」

ヨハネ「私は破壊神、神よ? そっちの物差しで量らないでくれる?」

ダイヤ「ダメ……ヨハネに技を使わせてはなりません! どんな手段でもいい……絶対に阻止して下さい!!」

千歌「曜ちゃん!!!」

曜「ぐっ! 激流―――」


ヨハネ「もう遅い、結局世界を守る事は叶わなかったわね……黒澤ダイヤ!!」


ダイヤ「っ!!!!」





ヨハネ「―――完全抹消(オールデリート)」




触れるもの全てを無に還す炎がヨハネを中心に急速に広がってゆく。

それは瞬く間に城内、浦の星王国、島全土……そしてこの世界の全てを包み込む。







―――こうして、世界は終焉を迎えた。






486 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/17(月) 23:35:30.32 ID:sdpHIkmp0















ヨハネ「……で、終わる予定だったんだけどな。今回は上手くいかなかったか」



千歌「………どう……なったの? ここはどこ? ダイヤさん! 曜ちゃん!」キョロキョロ

ヨハネ「高海千歌……やはりこの世界においてイレギュラーな存在であるお前が生きている限り、完全消滅は叶わないか」

千歌「答えてよ! この一面真っ暗なこの場所はどこ!? みんなはどうなったの!?」


ヨハネ「消したわ」

千歌「……消し、た?」

ヨハネ「この世界を構成するあらゆるものを綺麗さっぱり、存在していた痕跡すら残さずね」

千歌「みんな……死んじゃったの?」

ヨハネ「お前の言う“死”がどのような定義かは分からないけど、生物的にも精神的にも完全に死んでるわね」

千歌「精神的……?」


ヨハネ「では、試しにこの世界での思い出を一つ聞くわ。『高海千歌がこの世界に来て初めて出会った子は誰?』」

千歌「そんなの簡単だよ!……ええっと ……え、あ、あれ……?」

ヨハネ「思い出せないでしょ?」クスッ

千歌「何で……そんな馬鹿な話があってたまるか! だってついさっき私は名前を叫んだじゃん!」

ヨハネ「誰の名前を?」

千歌「それはっ! そ、それは……っ」

ヨハネ「顔はどう? 頑張って思い浮かべて!」


千歌「………ぅぁ」ガタガタ
 
ヨハネ「ほら、名前も顔も思い出も、何もかもぜーんぶ消えた。もう何も残ってない!」


ヨハネ「この場所は言うなれば更地よ。精神が体感する時間の流れも通常の数億倍、一秒で三、四年のスピードで老いてゆく。もう間も無くその他の思い出だけでなく自分が何者かすらも分からなくなる」


ヨハネ「お前はこの空間にたった1人、圧倒的な孤独感に蝕まれながら死ぬのよ」


千歌「ひ、ひとり……? 死、ぬ??」

ヨハネ「ん〜〜いい顔ねぇおんぷ その恐怖と絶望に打ちひしがれた表情はいつ見ても惚れ惚れしちゃう」ニタァ
487 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/17(月) 23:41:16.22 ID:sdpHIkmp0

千歌「帰れない……? 私はもうみんなの所に帰れないの……?」


みんな……みんな? みんなって……誰?

誰、だれ?


顔が塗り潰されて見えない。


……何の為に必死になってたんだっけ?


思い出が朽ちてゆく。


私はどこに帰りたいの?

かえる場しょって何?



私は……わたし、わたし?

私は私、私って誰わたしわたワタシ何私しししし――――――。







「消えないよ」



「消えてない、全部残ってる。何一つ消えたりなんかしない」



……だ、れ?




「待ってて……すぐに連れ戻すから――」




……ぅ、眩し―――。








千歌「ハッ!?」ガバッ

千歌「こ、ここは……城の中…? 元に戻った?」


ヨハネ「……これは誤算だったな。まさか生き残りがもう一人いるとは」

ヨハネ「渡辺曜……『同調』で高海千歌のイレギュラー性が共有されたから消滅せずに残ったって所か」



曜「………」

千歌「よーちゃん……?」

曜「よかった……ちゃんと思い出せたんだね」


千歌「あれは全部幻だったの?」

曜「そうだったら良かったんだけどさ……残念ながら事態はそれほど好転してないかな」

488 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/17(月) 23:44:27.68 ID:sdpHIkmp0


ヨハネ「その通り。渡辺曜の存在により世界の一部分だけ、恐らく城内のみが復元されたに過ぎない。首の皮一枚繋がっているに過ぎない」



……世界は観測者が居なければ存在を確定出来ない。

自分の背後、遠く離れた国、空に見える月、果てしなく広がる宇宙ですら人間の意識なしでは存在しえない。

人間による観測という行為があって初めて実存していると断定出来る。


城内のみが復元されたのは曜と千歌が観測出来る範囲がこの場に限定されているが故。


ヨハネの『完全抹消(オールデリート)』は観測者に該当する人間とそれに酷似した生き物全てを殺す技。

観測者を失い存在を確立不可能とさせる事で世界を消滅させる。

ヨハネなら何もかも全て焼き尽くす事も可能だが、それよりも低エネルギーで実行出来る。



千歌「質問……いい?」

ヨハネ「ん?」

千歌「あなたが世界を消滅させようと思わせる基準って何? 私は全てを見てきたわけじゃない。けどみんなが理不尽に消えなきゃいけない程悪い事をしているとは思えないよ」


ヨハネ「“全てを見てない”からそう思うだけ。私は全部この目で見てきた」

曜「適当な事を……っ」

ヨハネ「嘘じゃないわ? 私と契約した私達(リトルデーモン)は世界中にいるもの。リトルデーモンが見聞きした情報は自由に引き出せるし、私が直接乗っ取る事も出来る」


「例えばね」っと言いながら片手で自分の顔を軽く撫でる。


すると善子だった顔が一瞬でよしみの顔へ。

それに合わせて身体もよしみと同じシルエットになるよう変化した。


よしみ(ヨハネ)「どーかしら?」
489 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/17(月) 23:47:07.83 ID:sdpHIkmp0

千歌「声も全く同じ……っ」

よしみ(ヨハネ)「私はリトルデーモンとなった者と顔、声、指紋、血液型エトセトラエトセトラ……。あらゆる身体情報を完全再現出来る。この能力を使って――」



スウゥゥ



亜里沙(ヨハネ)「――ある時は女王の側近として会合に参加したり」


いつき(ヨハネ)「そしてある時は敵の実力を見定める為の噛ませ役になったりしたわ」


曜「あ、あの時の……っ」


花丸(ヨハネ)「うっかり殺されそうになったお前達を助けた事もあったわ」


少女A(ヨハネ)「ダイヤと果南、二人を同時に無力化させるのにお前達の存在は必要だったから」


少女B(ヨハネ)「万全な状態のダイヤと果南が手を組んだら私も無傷で済まないからね……」


星空(ヨハネ)「思惑通り潰し合ってくれて助かったわ。これで楽にやれるもの」



ヨハネは再び善子の顔に戻す。



ヨハネ「この身体は馴染むわ……思わずこの姿を維持したくなってしまう」


千歌「……ずっと私達を見ていたの?」

ヨハネ「ええ、なんせお前達は……いや、高海千歌、お前はあの生意気な金髪女王の“切り札”らしいからね」

千歌「……」


ヨハネ「『精々「今」は勝ち誇っていなさい。私が賭けたのはこの先の「未来」よ』」

ヨハネ「あの女が死に際に言い放ったセリフ。大口を叩いた割にはこのザマ、拍子抜けよね……未来を託した相手が他所の世界の人間なんて」ハァッ

ヨハネ「この世界に期待出来なかった、という点では私と変わらなかったってわけね」

曜「どういう意味さ?」
490 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/17(月) 23:57:16.06 ID:sdpHIkmp0


ヨハネ「リトルデーモンから色々と情報を集めたわ」


ヨハネ「どいつもこいつも『うちの国の方が歴史が古いから偉大だ』だの『文明の発展に貢献したのは我々だ』だの『我々こそが最先端を行く』だの……“自分の国こそが最も優れている”と思い込み、お互いを尊重する意識のカケラすら無かった」


ヨハネ「国のトップは多少歩み寄る姿勢は見せていたけど……大衆の意志に影響を与える事は決して無い。自分の側近すら変えられていなかったんですもの」


ヨハネ「口では達者な事を言っていた人間も潜在意識では同類だった。醜い争いを永遠と続けるくらいなら無くなった方がマシでしょう? お前達に未来なんて必要ない」

曜「……っ」


ヨハネ「っとまあ、それっぽい理屈は並べたけれど、この程度の問題なんてどの世界線も抱えているしもっと悲惨な世界も存在してたのよね」

千歌「じゃあ何で……」


ヨハネ「お前達は運が悪かったのよ。草むしりと同じ感覚ね。無数に存在する世界の中から偶然私の目に留まったのよ」

曜「それ、だけで……たったそれだけの理由で?」

ヨハネ「ええ、それだけで。それが私の役割だから」

曜「………」

千歌「………」







ヨハネ「―――さて、お喋りもここまで」ボッ!!

曜・千歌「「!?」」ゾッ


世界を一瞬で焼き尽くしたあの黒炎がヨハネの右手に集まる。


ヨハネ「私も暇じゃないのよ。庭に生えた雑草はまだまだ沢山あるからさ」

千歌「このっ!」


曜「……させるもんか」

ヨハネ「何?」

曜「何者であろうと誰かの未来を一方的に奪っていいはずがない! 例え、それが神様であってもだっ!」


ヨハネ「だったらどうするつもり?」


曜「……勝ち取るさ。世界の、私達の未来はこの手で勝ち取ってみせる!!」



ヨハネ「ふっ、ふふふふ……確かにそれ以外に方法は無い。でもそれは可能なのかしら?」

ヨハネ「お前はこれまでたった一度でも格上相手に勝った事があった?」

曜「……」



ヨハネ「―――ゼロ、ゼロよ! ただ一度の勝利もない!! これが現実。そして今回も例外じゃない」




曜「分かってないなぁ」
491 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/17(月) 23:59:57.67 ID:sdpHIkmp0

ヨハネ「はあ?」

曜「神様の癖に全然分かってない」


曜「パパが言ってたよ、本当の勝利っていうのは自分より格上の相手に勝つことじゃない」



曜「―――大切な人を守り抜いた時だってね!!」




ボオオッ―――!!




曜のリングから今までとは比べものにならない程の炎が噴き出す。

しかし、この炎はAqoursリングから出ていない。
梨子によって破壊され、ルビィと花丸が形だけ修復した形見のリングから出ている炎だ。

ヨハネは使えないはずのリングから炎が出ている事にも驚いたが、それ以上に衝撃を受けたのは炎の色だった。



千歌「綺麗な橙色……凄く温かい…」


ヨハネ「何故だ……何故貴様が大空の炎を出せる!?」

曜「さあね? 神様なら自分で考えなよ」

ヨハネ「……貴様ぁ」ギリッ




曜「千歌ちゃん、ここが正念場だよ。次の攻防で全て決まる」

千歌「うん……ただ、私が直接出来る事は何もないのが悔しいな……」


曜「じゃあさ、私の手を握って欲しいな」

千歌「手を? あ、確か体に触れてる方がより力が伝わるんだったよね!」

曜「ま、まあそれもあるけど……勇気を分けて欲しいなって思って」

千歌「!」


曜「これから使う技は心の状態が大きく影響するの。少しでも迷いもあったら多分ダメ」

曜「覚悟は出来てるつもりだったんだけどさ……まだ、ほんのちょっぴりだけ怖いの。もし次の攻撃から千歌ちゃんを守りきれなかったらって思ったら……」



―――ギュッ



千歌「大丈夫、出来るよ。曜ちゃんなら絶対に出来る」


曜「うん……」


千歌「世界がどうとか私がどうとかは考えなくていい。曜ちゃんは自分の未来の為に戦って」

千歌「私は曜ちゃんを信じてるから」ニコッ


曜「……はは、やっぱり千歌ちゃんは強いなぁ」



曜「―――ありがとう。勇気が湧いてきたよ」ニッ


492 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/18(火) 00:07:27.86 ID:3zeUavV40




ヨハネ「作戦会議は終わったかしら?」

曜「うん、バッチリね」ゴオオッ!!



黒と橙

二種類の炎が空間を奪い合うように燃え広がる。


一度辺りに拡散した炎は循環し、徐々に手の平へと集中、圧縮されてゆく。


夜の炎はより漆黒へ近づき

大空の炎はより透明度の高い蜜柑色へと近づいた。




『……き、こえる?』

曜「この声は……」

『返事は要らないわ、今曜の心に直接話しかけてる。そのまま聞いて頂戴』

……分かった。

『これから技の発動に必要な詠唱文を教える』

え、今時詠唱を使う技なの?

『記号化された魔法陣を伝えてもいいけど、ぶっつけ本番なら詠唱の方が発動出来る可能性が高い』


『……それに、こっちの方が展開的に燃えるでしょう?』

……えへへ、一理あるかな!


『さあ、行くわよ曜。私に続いて……声では無く心で、そして祈るように唱えなさい』


曜「……ふぅ」



曜は右手を突き出し、軽く目を瞑る。




曜「―――揺らぐ事無き聖なる想いが、あらゆる絶望を拒絶する」



曜「『夢』、『勇気』、『希望』、『覚悟』、我が想いに呼応し、四枚の花弁となりて迫り来る災を打ち払わん!!」



ヨハネ「何をしたところで無意味! 今度こそ魂すら消滅させてやる!!」キイイィィィィンン




曜「現出せよ―――」

ヨハネ「消え去れ―――」




曜「―――『擬/カランコエの花弁(モールド・アイアス)!!!!!』」

ヨハネ「―――『終焉の一撃(コルポ・フィーネ)!!!!』」




―――ゴオオオォォッ!!!!!
493 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/18(火) 23:17:50.80 ID:3zeUavV40




何もかも焼き尽くす漆黒の炎。
これを凌げる物質はこの世界には存在しない。

……だが、それは一般的な物理現象の話。


曜が作り出した蜜柑色の四枚の花弁は『心』そのもの。

穢れ、迷い、恐怖、不安。

その一切が無ければ傷一つ付かない完全無欠の盾となる。




曜「――――ああ、ぁあああああああ!!!!」







曜パパ『いいかい? リングの炎に必要なのは想いの強さだよ』


曜パパ『自分が心から守りたい、救いたいと思ったその時、そのリングは曜に力を貸してくれる。どんな強敵にも立ち向かえる勇気を与えてくれるんだ』



……へへ、本当だ……パパの言う通りだったよ。
これなら千歌ちゃんを守り切れそうかな。






千歌「ぐっ、ぐうぅぅ……よ、ようちゃん!!」



曜「……ねぇ! こんな時になんだけど聞いて欲しい事があるんだ!」



曜「千歌ちゃん前に私に謝ったよね?『自分のせいで私の人生をめちゃくちゃにしちゃってごめん』ってさ」


千歌「い、言ったけど……」



曜「……全くその通りだよ! 平凡だった私の世界はガラッと変わってさ……今は神様と戦ってるんだよ!? こんなの想像出来る? ほんっと予想外過ぎて訳が分からない!」

千歌「うぅ……」


曜「……でもね、謝る必要は全然無いよ。寧ろ感謝してる」

千歌「!」
494 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/18(火) 23:26:39.41 ID:3zeUavV40


曜「私さ、あの日あの砂浜で倒れてる千歌ちゃんを見つけた時、実はものすっっごーーーくワクワクしたんだ! この子と一緒ならきっと劇的な何かが起こる、根拠なんて何一つ無かったけどそんな予感がしたの……」


曜「そりゃ沢山痛い事や辛い事、悲しい事もあったし、死にかけた事だって何度もあった」

曜「……それでも、私は千歌ちゃんと出会った事を後悔した瞬間は一度だって無い!!」


千歌「……待ってよ、どうして今そんな事を……」


曜「千歌ちゃんと出会えて……本当に…心から幸せだった!」


千歌「いやだ……聞きたくない! そんな最期みたいなセリフ……っ!」


曜「あー……だよね、ごめん……どうしてもこれだけは伝えたかったからさ」



曜「―――ここでお別れだよ……役目は最後までちゃんと果たすから安心して」


千歌「一人にしないでよ!! 私が……私だけが残った所でどうしたらいいのさ……っ」


曜「大丈夫、千歌ちゃんの中に必要なものは全部揃ってる。あとは、ほんの少しの勇気だけ」

曜「私に分けてくれた勇気を自分に使えば、ね?」


千歌「ウソだよ……私には何も……」



曜「信じてあげて……自分だけの、千歌ちゃんだけの力をさ」






曜「――――――――……信じてるから」ニコッ






千歌「よ――――――――」






――――――――カッッ!!!!!






――――――――――――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――
495 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/22(土) 23:36:42.70 ID:7YKhWNNh0




ヨハネ「守り切った……か」


千歌「………うっ、うぅ」ポロポロ



曜は消滅した。


それでも彼女の強い想いが影響し

盾だけは今なお、傷一つ無い状態で残り続けている。



ヨハネ「今度こそ一人になったわね。あいつは必死になって守っていたけれど、『同調』しか使えないお前が残った所で何が出来るのやら」

千歌「……」

ヨハネ「大空の炎を使われた時は少し焦った。あれは私の夜の炎に対抗出来る数少ない炎の一つだからね。お前も大空のAqoursリングを持っているのは知っている。……それを使えないのもまたね」

千歌「……リング」ジャラッ

ヨハネ「もう諦めなさい。これ以上抗っても意味がない……奇跡は起こらない」

千歌「………」








496 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/22(土) 23:38:32.31 ID:7YKhWNNh0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



〜ある日の飛込み大会 選手控え室〜



曜『………』シャン、シャンシャン



千歌『よーちゃん! 応援に来たよ!』ガチャッ

梨子『ちょっ!? 他の選手も居るんだから静かに入らないと!』

千歌『ふっふっふ、この部屋に曜ちゃんしか居ないことは既に把握済みなのだ! だから大丈夫!』

梨子『あ、なら……って、それでも曜ちゃんに迷惑かけてるじゃない!』


曜『………』シャンシャン、シャン


梨子『……あれ? 曜ちゃん?』

千歌『目瞑って音楽聴いてて気が付いてないや』

曜『……ん』パチッ

曜『あっ! 千歌ちゃんに梨子ちゃん! 来てくれたんだね、ありがとう!』

梨子『ごめんね? 試合直前に押しかけちゃって……』

曜『いいよいいよ。二人の顔を見たらリラックス出来て緊張もほぐれるし』ニシシ
497 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/22(土) 23:42:47.91 ID:7YKhWNNh0


千歌『イヤホンから音漏れするくらいの大音量で何を聴いてたの?』

曜『Aqoursの歌だよ。最近の試合前は必ず聴いてるんだ』

梨子『Aqoursの?』

曜『飛込みの大会ってライブの時と違って一人じゃん? すぐ近くに励ましてくれる仲間が居ないから緊張と心細さで頭が真っ白になったり、逃げ出したくなったりしちゃう事が結構あるんだ』

梨子『ちょっと意外かも……何度も大会に出場してるから緊張には慣れっこだと思ってた』

曜『そうでもないよ。前までは無理矢理にでも奮い立たせて飛込み台に向かってた。でも今は違う』


曜『歌詞が、メロディーが、歌声が……弱気な私に勇気と力を与えてくれる。「何でも出来るぞー!」、「今の私は無敵だぞー」って気持ちになれるんだ!』

梨子『勇気と力を与えてくれるその歌、曜ちゃんも歌ってるけどね』フフッ

曜『まあね』アハハ...


千歌『ちなみに、今はAqoursのどの曲を聴いてたの?』

曜『ええっとね……あ、これこれ!』ポチポチ



曜『――――この曲だよ!』





498 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/22(土) 23:46:48.43 ID:7YKhWNNh0

――――――――――――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――






千歌「―――勇気を…出して………みて。本当は……こ、わい、よぉ……」


ヨハネ「なんだ…? 技の詠唱……?」



千歌は歌う。

敵は簡単に世界を消し去るほどの圧倒的な力を持つ。
頼れる仲間はもういない。

それでも自らを奮い立たせる為、今にも消えそうな震える声で歌う。



千歌「―――…強さを、くれ……たんだ……あきらめ……なきゃ、いいん……だ」


ヨハネ「違う……これは“歌”か」



千歌「何度だって……追い、かけ、ようよ……負けない……でぇ……」ポロポロ


ヨハネ「……無駄だ。仮にそれが技の発動のトリガーだったとしても、リングに炎が灯らなければ発動しない」


千歌「……う、う…うぅ………」ポロポロ

……ヨハネの言う通りだよ。
私は一度だってリングに炎を灯せていない。

この世界の住人じゃない私じゃ……無理だったんだよ。





曜『―――千歌ちゃんと出会えて……本当に…心から幸せだった!』



499 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/22(土) 23:48:09.30 ID:7YKhWNNh0




千歌「………ぃ」




花丸『――何も言わずに居なくなった友達を連れ戻す。それがマルの夢ずら♪』





千歌「………エナイ」ボソッ

ヨハネ「ん?」




ルビィ『―――またお姉ちゃんの笑顔が見たい。……叶う、かな?』




千歌「………消えない」ボソッ




果南『―――いつかもう一度、ダイヤと一緒に冗談を言い合ったり笑い合ったり……そんな当たり前だった日常を取り戻す。これが私の夢かな』




千歌「………夢は、消えない」





曜『――――――信じてるから』






千歌「――――――夢は消えない……消させない!!!!」



500 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/22(土) 23:49:27.17 ID:7YKhWNNh0



涙を拭い、拳を固め、再び立ち上がる。
力強く。


ヨハネ「………」


千歌「そうだ……ここで諦めたら今度こそ何もかも終わっちゃう!! そんなのはダメだ!!」

千歌「だって私が……最後の希望なんだから!!!」


ヨハネ「……それで? いくら粋がったところで、貴様ではこの状況をひっくり返すことは出来ないだろ?」


千歌「……曜ちゃんが『信じてる』って言ってくれた」


ヨハネ「は?」


千歌「私の大切な人が信じてるって言ってくれたんだ。命を賭けて守ってくれた。希望を託してくれたんだ! 諦めるわけにはいかない」

ヨハネ「……くだらない。リングに炎すら灯せないお前に、一体何が出来る?」



千歌は首にぶら下げていたチェーンを引きちぎる。
そして大空のAqoursリングを右手の中指にはめ込んだ。



ヨハネ「無駄だ。体の構造が異なるお前にそのリングに炎を灯すのは不可能だ」

千歌「……いいや、そんな事は無い」

ヨハネ「何?」



――ボオオッ!!



ヨハネ「!?……橙の、炎…だと!?」


千歌「……私の中には鞠莉ちゃんの魂が宿っている。曜ちゃんが『同調』で大空の炎が使えたのなら、宿主の私だって使えても不思議じゃない」

千歌「私に足りなかったのは勇気……誰かの為に、例え一人でも立ち向かおうとする勇気が足りなかったんだ」

ヨハネ「この土壇場で……っ」
501 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/06/22(土) 23:51:09.99 ID:7YKhWNNh0


ヨハネ「―――だが、お前は技どころか匣兵器すら持っていない。ほぼ丸腰状態でどう戦う!?」

千歌「技ならある。とっておきのものが一つだけね!!」

ヨハネ「何ぃ?」


……ウソ、今のはただのハッタリ。
それでも私が技を使える可能性はゼロじゃない。

果南ちゃんや花丸ちゃん、他のみんなは知らなかった。

曜ちゃんだけが知ってた裏ワザ。
鞠莉ちゃんが知っていたかは分からない。

けれど、もうこの方法に賭けるしか無い!!!



千歌「お願い鞠莉ちゃん……力を貸して………ッ!!!」



曜が独自に見つけた魔法陣を一つだけ記憶させる事が出来るリングの隠された特性。

もし鞠莉もこれを知っていれば、何らかの魔法陣を記憶させている可能性がある。


どんな魔法陣を記憶させているのか?

この状況をひっくり返せる技なのか?

そもそもこの裏ワザを鞠莉が知ってるのか?


全て賭けである。

千歌はリングをはめた手を高らかに振り上げ、力の限り叩きつける。



千歌「はあああああああ!!!」バンッッ!!!



――――キイイィィィィンッ!!!



叩きつけた手のひらの前方に眩い光を放ちながら魔法陣が生成される。



ヨハネ「は、発動した……っ!?」
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