国王「さあ勇者よ!いざ旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」完結編

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

306 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 22:44:42.74 ID:hkG69/nJ0

魔女「では、何故物語を支配していた教皇が敗れ去ったのか?」

魔女「その原因は、教皇と魔法使いの思惑のズレにある」


召喚士『うっ…、うっ』

召喚士『召喚が、召喚が出来ない…っ』

召喚士『どうして、なんで』

召喚士『このままじゃ、このままじゃ』

風神『もう、お前さんには霊力は残っとらんからの。全力でやっても倒せなかったんじゃあ、しゃあないやろ』

ザクッ

侍『あガッ』

ドサッ…

風神『ほい、一人目。次はお前の番やの』

召喚士『あっ…、あっ――』

スパッ ――ボト…



魔女「…魔法使いの動機はなんだと思う?」

魔女「この人類を救いたい…魔王をどうしても倒したい…そういうものか?」

魔女「違うの。奴はただ」

魔女「――天上の神々の意思に逆らいたかったのじゃ」

307 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 22:45:35.67 ID:hkG69/nJ0

勇者『…巫女』

勇者『巫女』

勇者『返事をしてくれ』

巫女『』

勇者『まだ、生きているんだろ?』

勇者『そうなんだろ?』

勇者『もう目が見えないし、血の臭いしかしないけれど』

勇者『君の声が聞ければ、まだ戦える』

勇者『だから…』

勇者『なあ、巫女』

勇者『巫女…』

巫女『』

勇者『………』


魔王『………………』

 ズォオォオォオォオォ



勇者『………まだ』

勇者『まだ、たたかわなきゃ』

勇者『――おれは、ゆうしゃ』

勇者『たたかうことをやめてはならない』

勇者『だから』

勇者『たたかう』

勇者『さいごまで』ヨロ…



魔王『………………』


魔王『  我が腕の中で息絶えるがよい  』



308 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 22:46:44.58 ID:hkG69/nJ0


魔女「勇者と魔王の戦いが終結するたびに、こうした絶望は常に敗北した種族に約束されていた」

魔女「人間にも魔族にも平等にな。………しかし、こんなことに果たして意味があるのか?」

魔女「言うなればこのおぞましい悪夢の全ては、神々の選択ひとつで両種族にふりかかるのだ」

魔女「勇者に女神の加護が強くもたらされるか。魔王に邪神の加護がより強くもたらされるか」

魔女「その違いだけで、敗北した種族はこれほどの地獄を味わうことになる」


氷姫「な、何を言ってんのよ………あんたは…っ」

氷姫「意味…ですって? 魔王勇者大戦の?」

氷姫(この大戦の…………意味? そんなもの………――)


――氷姫「そんなものはひとつもない………そういうオチだったりしてね」


氷姫「…っ!」 ゾ ッ








魔女「――そう、意味などないのじゃ」



魔女「聖と邪の二つの種族はあれど、そもそも"悪"は存在しない」



魔女「神々の壮大な遊戯盤の上で、いたずらに死を振り撒くだけ………魔王勇者大戦は、ただそれだけのものなのじゃよ」

309 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 22:47:43.52 ID:hkG69/nJ0


魔女「だから魔法使いは」

魔女「この戦いの根本を操る神々への挑戦を始めた」

魔女「この世界を縛り付け続ける天上の神々の法則を打ち破る………――それが魔法使いの戦いじゃった」


魔女「魔王の圧倒的勝利を収めて終わるという、神々の台本。…それを変えるべく動いていたという点では、教皇と魔法使いの目的は一致していたのじゃ」






魔女「ただ魔法使いは………魔王を倒すだけではなく」


魔女「神々の作った不条理なゲームから、人々の手に歴史を取り戻そうとしておったのじゃ」





310 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 23:04:25.68 ID:hkG69/nJ0

魔女「いずれ魔法使いには教皇が邪魔な存在となってゆき…魔王を使って処分することになる」

魔女「こちらで選ばれた偽の勇者一行の決死の猛攻に時間を与えられた魔法使いは………ついに、"鍵"を完成させることに成功したのじゃが…」

――ヒュオッ!

魔女「!」

魔女(何かが頬を掠めた…。氷の矢か)

魔女「…なんじゃ。最後まで話を聞いていかんのか」


氷姫「…」

氷姫(今さら、迷うな)

氷姫(この胸糞悪い見世物も、こいつのご託も、あたしにとっては重要じゃない)

氷姫(魔王を助ける。炎獣の仇を討つ)

氷姫(あたしがすべきことは、それだけ――)

パキパキパキィ…! ミシミシ…!!


魔女「………まあ、迷っていてはこの戦いは切り抜けられぬ。それもひとつの正しい選択であろうな」

魔女「しかしの」


氷姫「冴え渡る氷の風よ、敵を切り裂け!!」

――ヒュッ

パキィンッ!!

氷姫(!? 魔法が跳ね返って来――)

スパッ!

氷姫「ぐあッ!」ガクッ…


魔女「"鍵"によって妾が得た力は計り知れん。先の四天王と勇者一行ほどの差が既に生まれておる」

魔女「お前の魔法を弾き返すことすら造作もない。もう、お前に妾は倒せぬのだ」

311 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 23:05:09.21 ID:hkG69/nJ0

氷姫「全てを断罪せし氷塊よ、降り注げッ!!」

ゴオォオォオ!!


魔女「…無駄じゃ」


パキィンッ!! ――ドゴォン!!

氷姫「うぐあぁあっ!!」

氷姫(くッ、そっ!! 全ての魔法が反射される!!)


魔女「…理解せよ。そして諦めるがいい」

魔女「お前達の戦いはここまでなのじゃ」

氷姫「――生命の果ての地の死神よ!!」

氷姫「その鎌をもて、敵を打ち砕けッ!!」


――ギュオオオオオオオオ!!


魔女(………自力で、"死神の大鎌"すら詠唱するか。こやつにはもはや邪神の加護は無いというに、大したものじゃ)

魔女(諦めろ、と言うにはあまりに多くのものを乗り越えてきたのじゃな)

魔女(絶望の果ての、覚悟すらその瞳には見えておる)

魔女(せめて)


魔女(せめて、安らかに眠るがいい)



312 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 23:08:45.19 ID:hkG69/nJ0


〈魔王の心の魔王城〉


魔法使い《――神々を相手取り、歴史を奪い返す》

魔法使い《それは長い、長い時間を要する戦いでした。本当に、気の遠くなるほど…》

魔法使い《けれど、この十数年は実に美しいひと時になりました。魔王勇者大戦に意味などない…その気づきに至るまでの無為な時間に比べれば、ね》

魔法使い《土足で僕の生を弄んできた存在…神々に、ようやくこの手を伸ばすことができたのだから》

魔法使い《今まで生きてきて僕の血肉になったもの全てを、研究に注ぎ込んだ。そうしてようやく、それらは実を結ぶ》

魔法使い《僕は"鍵"を手にした》

魔法使い《"鍵"は扉を開く。僕らを見下ろす神々が鎮座する、その地への扉を》

魔法使い《その未知の空間へ、僕を誘う》


魔法使い《…気に食わないんですよ。僕はね》

魔法使い《神だなんて胡散臭い代物を気取って、宿命だなんだと焚き付けて人をいいように操るようなことをして》

魔法使い《そういう奴がね、嫌いなんでなんですよ、ただ単に》

魔法使い《だから………神々の思惑を裏切ってやろうと》

魔法使い《そう、思ったんです》





魔王「………あ」

魔王「あなたがしようとしていたことは」

魔王「………私達のしていたことは」





魔王「――私達の戦いに何の意味もなかった…?」



313 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 23:09:31.32 ID:hkG69/nJ0

魔王(勇者と魔王の戦いの意味を…)

魔王(私は答えられない)

魔王(その問いに辿り着くことさえ、私には膨大な時間がかかった)


魔法使い《これだけ多くの命を死に追いやってきた魔王勇者大戦の意味が、この期に及んでもあるというのなら》

魔法使い《証明してみて下さいよ》


魔王「………っ!!」


魔法使い《さあ、魔王!》

魔法使い《…出来ないのでしょう、あなたには!》

魔法使い《あなたは不用意に死をばら蒔いたに過ぎない! そしてそれを認めた空虚な思いこそ》

魔法使い《賢者が、その胸に抱いていた感情なのですよ…!》


魔王(私は…………!)

魔王(私は――)

魔王「っ!」ギュッ

魔王(絶望に明け渡しては駄目だ………!)

魔王(今こそ………今こそ、考えなくては!!)



魔人『考える意味などない。意思など必要ではない』

魔人『魔王に必要なのは、滅びの力と死の螺旋だ』


魔人『 受 け 入 れ ろ 』ズォオ…


魔王(…っ、魔人が、怒りのエネルギーを増長させる…! 自分のコントロールが上手く利かない…!!)

314 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 23:10:11.09 ID:hkG69/nJ0

魔王(目の前の敵を倒せ。人間を倒せ。勇者を倒せ………。何かがそう、急き立てる)

魔王(………どす黒い怒りが、喉からせり出ていく)

魔王「………あなたに」

魔王「あなたに何の権利があって、そんな言葉を紡げるの…魔法使い!!」

魔王「――あなたのしていることだって結局、人々を操って戦乱に導くことに他ならないでしょう…!」

魔王「多過ぎる犠牲を払ったこの戦いの果てに、解決があるというの!?」

魔法使い《…》

魔法使い《ははは! なるほど、そうですね》

魔法使い《確かに、僕は神に逆らうと言いながら、やってることは一緒です。企みをめぐらせて思うように人々を操った》

魔法使い《魔王。あなた達の絆も、研鑽も、勝利も………全ては僕の計算の内だったわけですから》

魔王「………っ」

魔法使い《炎獣も木竜も》

魔法使い《最初から死んでもらうつもりでしたよ。だから僕が殺したんです》

魔王(――!!)

魔王「一体………っ!!」


魔王「こんなことが、どんな結末をもたらすっていうのっ!!」

ゴォ…!


315 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 23:13:17.35 ID:hkG69/nJ0


魔人『………そうだ。もっと力を求めろ』

魔人『――我とひとつになれ』


魔王(計り知れない怒りが、身を焦がす………!!)

魔王(駄目だ………っ! 今こそ、考えなければ)

魔王(答えを探さなきゃならないのに――)


魔法使い《こうしている間にも、残りの四天王は死の定めを辿っていますよ》

魔法使い《最後の二人の門番には、絶大な力を与えてますしねぇ》

魔法使い《おや、噂をすれば。氷姫が、今にも止めを刺されんとされていますね――》



魔王「魔法、使いィッ!!」ゴォオォオォオ…!!



魔法使い《…ははは!》

魔法使い《凄いですねぇ。途方もない力が生み出されていきますよ! 邪神の加護ってものは、恐ろしいですよねぇ》

魔法使い《思い知るでしょう、自分がどれだけおぞましい怨嗟の乱流の内にいたか》

魔法使い《そんな中を、"なぜ勇者と戦うのか"という疑問に一度は辿り着いた精神力は、見上げたものですよ》

魔法使い《けれど、それも過去の話になろうとしてますねぇ。なんという明確な殺意でしょうか》

魔法使い《正史のあなたに近づいていますよ、魔王…》




魔王「ううううううううう」



316 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 23:14:12.33 ID:hkG69/nJ0



魔人『さあ――』


魔人『――明け渡せ』



魔王「うううううううううううううううううう」


魔王(駄目だ…!! 怒りに飲み込まれる!!)







魔王「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」






















炎獣「魔王」

317 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 23:18:40.20 ID:hkG69/nJ0

炎獣「駄目だ、魔王」

炎獣「呑み込まれるな」







魔法使い《――!!》

魔人『貴様は………』







魔王「………………炎」


魔王「獣………?」







炎獣「よっく見ろ、魔王」

炎獣「そいつはお前がずっと遠ざけてきたはずの力だろ」

炎獣「喰われちゃ、駄目だ」


318 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 23:19:07.40 ID:hkG69/nJ0

魔王「………っ」

魔王「――炎獣だ」

魔王「炎獣」

魔王「炎獣が、いる」

炎獣「…魔王」

魔王「炎獣………っ、炎獣っ!」




炎獣「わりィ、魔王…」

炎獣「約束したのに…ちょっと、そばを離れちまったな」

319 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 23:22:03.68 ID:hkG69/nJ0

魔王「炎獣…っ!!」

魔王「…っえ?」ス…

魔王(炎獣の身体を、腕がすり抜けた…)

炎獣「…やっぱ触れ合えねぇか」

魔王「これ…っ」

炎獣「すまねぇ。魔王。俺は今、心だけの存在だ」

炎獣「魂だけ…霊みたいなもんだ。やっぱりさ俺は一度きっちり」

炎獣「死んだんだ。あの時」

魔王「…っ!!」

炎獣「でも、こうして会いに来れた。きっと魔法使いが、死と生の境目を曖昧にしたせいだ」

炎獣「こんな形でごめんな、魔王。でも、もう少し」

炎獣「これでもう少しだけ、戦える」

魔王「…炎、獣…?」


320 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 23:22:36.83 ID:hkG69/nJ0



魔法使い《………》

魔法使い《…あと少しのところで》

魔法使い《正気を取り戻してしまいましたか。そうですか》

魔法使い《炎獣…。思念体になってまで》

魔法使い《魔人の驚異から魔王を救いますか》

魔法使い《………》

魔法使い《ですが、どうするつもりですか? その、魔人を》



魔人『―― 貴 様 ァ !!』 ォオ…!!

魔人『幾度邪魔をすれば気が済むッ!!』

魔人『その女から離れろッ!!』

魔人『身体を加護に明け渡せェッ!!』


ミシミシミシッ…!!



炎獣「…よぉ、久しぶりだな。相変わらずすげえ力だ」

炎獣「俺がやり合ってた時よりも数段圧力が増してやがる」

炎獣「…魔王。よく、聞いてくれ」


魔王(………せっかく、また会えたのに)

魔王(炎獣…。どうして)



魔王(どうしてそんなに、悲しそうな顔を、しているの)


321 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 23:23:36.15 ID:hkG69/nJ0


炎獣「俺は死んだけど…こうしてまたお前に会うことができた」

炎獣「けどな………俺は結局、生き返ったりは出来ない」



魔王「――っ!!」


炎獣「それでも、お前の役に立てることがひとつだけある…」

炎獣「俺だって悔しいけどよ。こうするしか、もう魔法使いに勝てねえ」


炎獣「なあ、魔王」




炎獣「俺が俺じゃなくなっても、友達でいてくれるか?」






322 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 23:24:34.38 ID:hkG69/nJ0
今日はここまでです
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 01:49:12.76 ID:sL3vFlPA0
おっ
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 02:04:23.45 ID:ZWjlx+mDO
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 10:44:11.96 ID:l/+u+6cw0
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 13:32:21.37 ID:vE7L5LiWo
魔法使いは冥王と接触してたのか・・・・・・
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/04(金) 16:21:03.58 ID:BFTmNDkm0
長いし、ワンパターンで面白くない
惰性で読んだけど正直読んでるのが苦痛

多分、どこぞで落選したやつを使いまわしてるんだろうけど、落ちて当然だわな

小説家もどきに言いたくないけど、書き手として才能を感じられない
まぁ出版社の人にも言われただろうけどね
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/04(金) 17:21:44.82 ID:a7uDq86PO
面白いものを素直に楽しめない人にはなりたくない
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/05(土) 04:06:07.89 ID:hacTbH7A0
別に批判するなとは言わん

だがこのSSがワンパターンだと言うならそれは違うわ
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/06(日) 11:02:15.11 ID:d5ocHOKiO
最初から中盤辺りまで楽しかったのに
途中からもう内容がグチャグチャしてきて意味がわからなくなってきた
私の理解力がないだけだろうが…
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/06(日) 18:27:44.16 ID:gdC2c9uDO
途中から迷走なんてよく有る事
有料じゃあるまいし素人が書いてんだから許容範囲だろ
332 : ◆EonfQcY3VgIs [sage]:2018/05/06(日) 22:37:29.02 ID:cB/iqaZG0
今週末12日(土)に続きを投下します
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/07(月) 22:38:18.60 ID:rWHQUjaFo
楽しみにしてる!
334 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 08:38:54.30 ID:fcV9fmiV0





雷帝「ぜッ!!」ギュンッ

ズバァン!!

雷帝「はッ!!」ビュッ

ザンッ!!

雷帝「ふッ!!」ギュバッ!

――ヒュドッ!!


雷帝「………はあっ、はあっ」

雷帝(何故だ………。何故っ)

雷帝(一太刀も浴びせられない…っ!?)


兄「流石の剣捌きだ、雷帝。あの先代を倒して来ただけあって、凄まじいものだ」

兄「よくぞ生身でその域に辿り着いた。同じ生命として誇らしくすらある」

兄「――でも、俺は倒せない」

兄「魔法使いが創った"鍵"は、神々の加護にすら届く反則級の代物だ。その恩恵にあずかった今の俺には」

兄「これだけの力がある」ブンッ


 ド キ ャ ッ ! !


雷帝「!!」

335 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 08:42:14.17 ID:fcV9fmiV0

雷帝(………ひと振りで、背後の壁が粉砕された)

雷帝(あんなものを………一度でも受けたら、身体が千切れ飛ぶ………!!)

兄「魔法使いがどういうつもりでいるのか…俺には推し量れんが」

兄「お前が勝てそうにないってことは、確かだな」

雷帝「………雷の嵐よ」ォオ…

バリバリッ…! バリッ!!

兄「! 魔法か」

兄(雷鳴の閃光を連続発生させて、隙を突こうという魂胆だな)

兄「…面白い。足掻いてみせてくれ」

兄「魔法使いの絶対的力の前に…お前がどこまでやれるのかを」



雷帝「っ」バッ!!

兄(後ろか!)ヒュ――

 ド バ バ ァ ン … ! !


336 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 08:43:16.25 ID:fcV9fmiV0

雷帝(避けきったつもりだった…っ! が、腹を掠めている!)

雷帝(なんて強大な斬撃だ………奇襲に失敗すれば、待つのは死――)

雷帝(いや。恐怖を想像するな。歩幅が縮む。より死を近づける)

ビリッ…! バリバリッ!!

雷帝(乱発する電撃に隠れろ。敵の死角に入り込め)

雷帝(一刀の元に斬り捨てられなくば、次の一刀を見舞え)


雷帝「」ギュンッ!

兄(次は頭上からか!)ブオ


 ― ― …




兄『本当に、女神の加護に似たものを。いやそれ以上のものを…作ることが出来るのだな』

魔法使い『ええ』


雷帝(!!)

337 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 08:44:09.34 ID:fcV9fmiV0

雷帝(なんだ、この声は!?)


魔法使い『あなたの弟さんは、勇者一行に選ばれたそうですね。なんでも女神が実際に姿を現したのだとか』

魔法使い『でも、"勇者"なんて魔王に勝利できるかも分からない曖昧なものに頼るよりは』

魔法使い『この技術を駆使して、人の確実な勝利を約束することが、最良とは思えませんか?』

兄『…』

魔法使い『あなたが、軍部の頂点に立つことが出来れば、それは可能ですよ』

魔法使い『簡単なことです。国王や弟さんを裏切り、教会を利用すればいいんですよ』




兄「…気にするな。ただのエコーさ」

兄「全てを裏切りたった一人で事を為そうとした男の、憐れな記憶の断片だよ」

雷帝(これは…こいつの過去か)

兄「お前が電撃など垂れ流して暴れるものだから、施設の機械が誤作動を起こしたのだろう」

兄「全く…人の傷をほじくり返してくれる」



魔法使い『…あなたは頭の良い人だ。心のどこかで思っていたんじゃないですか?』

魔法使い『勇者に頼ることでしか平穏を維持できない、人々の愚かさを』

魔法使い『気づいてしまったのでしょう。それはもう、引き返せないことなのではないですか?』

魔法使い『"あなたにしか出来ないこと"を為すのです』

魔法使い『――弟さんではなく、あなたがね』

338 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 08:45:02.44 ID:fcV9fmiV0

兄「…戦士」

兄「俺はずっとお前が羨ましかった。…ひたむきさと、それゆえの強さが」

兄「俺よりも遥かに優れた剣を使うようになった頃から、俺は増してゆくその思いを胸のうちに抑え込むようになった」

兄「…女勇者様は、そんな俺の心の内を見透かしておられたんだろうな」

兄「まあ、俺の小さな足掻きの生など」

兄「貴様らの前で露と消えていくわけだが」クル

雷帝(!! いかん)

雷帝(完全に読まれ――)


兄「残念だったな」ヒュン




  ズ  ド  ッ  …





雷帝「かふッ…!!」

………ドタ

339 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 15:09:13.77 ID:fcV9fmiV0


雷帝「………はッ…」

雷帝「…かッ………」

ドロ…


兄「…半身吹っ飛ばしたと思ったんだが」

兄「片耳から肩にかけて落としただけか」


雷帝「ぜッ………」

雷帝「ひゅッ………」グラ…

ボトボト…ッ

兄「おいおい、動かない方がいいんじゃないか? 命を縮めるぞ」


雷帝「はッ………」

雷帝「ふうッ………」

ズルズル…

兄「…地を這いつくばっても尚」

兄「剣を取るのか…」



雷帝「………それが」ハッ…ハッ…

雷帝「私の権利だ」

340 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 15:12:35.05 ID:fcV9fmiV0

兄「ふっ、ははは…!」

兄「…そうか。やはりな」

兄「お前は、どこかあいつに似ているんだ。俺の弟にな。あいつ、お前ほど頭が回るクチじゃあないんだが」

兄「でも…なんだろうな。もののふの誇りそのもののような奴だった」

兄「…今のお前は、あいつにだぶるよ」


雷帝「………」チャキ…


兄(刀を鞘に収めた。が、その瞳は何者にも屈する様子はない)

兄(…不気味だな。何を考えている?)


雷帝「………」


兄「…気づいているか? 雷帝」

兄「今までのお前達とは立場が逆転してしまっている。力を示して他を圧倒していたお前が」

兄「すっかり挑戦者のようだ」

341 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 15:13:33.92 ID:fcV9fmiV0

兄「今までの物語のあらましを考えれば…お前はその必死の健闘も虚しく敗北するというのがスジだろう」

雷帝「………」

兄「それでも、俺に勝ってみせるかい?」

兄(いいな…そんな展開を見てみたいというのも、本音だ。………けれど)

兄「悲しいかな、俺は手を抜くことは出来ない」

兄「…お前の生の、最後の最後のところの力を見せてくれ」

兄「お前がこの世界に生まれてきた意味を」


兄「教えてくれ」チャキ…





雷帝「………」







雷帝「――"居合い"」

――戦士「兄上!」





兄「!!」


342 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 15:14:24.96 ID:fcV9fmiV0


雷帝(痛む)


雷帝(片腕を失った身体が悲鳴を上げて、神経がのたうちまわる)


雷帝(でも、この感覚がある。この感覚は、私のものだ)


雷帝(私はまだ生きている)


雷帝(翁を………炎獣を、失った痛み)


雷帝(魔王様を守れなかった無念)


雷帝(そのうずきが、私を生かす)


雷帝(私はまだ生きている)




雷帝(誰に操られるでもなく私だけの生を)





雷帝(生きたい)







雷帝(もう)





343 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 15:15:14.56 ID:fcV9fmiV0





雷帝(失いたくない)







   ゴ   ッ





344 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 15:16:00.65 ID:fcV9fmiV0



兄(最後の最後、そのひと振りが)

兄(今までの全てを超越したのか)

兄(それが、お前の強さか)

兄(その強さに対して、俺は…)


兄(………お前のことなんか思い出したせいだぜ。剣が、鈍ったのは)

兄(また負けちまったよ、畜生)






兄(まったく。こんな役回りばかりか)









『システムパターンCをクリアしました』








345 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 19:57:18.87 ID:fcV9fmiV0



魔女「…どうやらあの男も逝ったか」

魔女「………」

魔女「それで、おぬしは」


魔女「その身体で、まだ立つつもりなのか?」


パキ… パキキ………

氷姫「…ひゅう、ひゅう」

氷姫(くそ)

氷姫(網膜まで凍って、何も見えない)

氷姫(腕も凍りついて、地面に張りついてしまってる)

氷姫「ひゅう…ひゅう…」ガチガチ…

氷姫(………氷の女王であるあたしが、寒いだなんて、お笑い草ね)

氷姫(究極氷魔法に、失敗した時以来かしら)


魔女「氷魔法の使いすぎじゃ。お前自身が氷漬けになるぞ」

氷姫「………それも」ヒュウ…ヒュウ…

氷姫「悪かぁないかも、ね…。あたしの、死に方としちゃ、最上ってもんよ…」

346 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 19:59:01.66 ID:fcV9fmiV0

魔女「…死ぬまで戦いを止めないつもりか」

氷姫「おあいにく、さま…。あたしって、最高に、往生際が、悪くってね」

氷姫「あたしが、勝つまで、付き合って、もらうわよ」ヒュウ…ヒュウ…

魔女「呆れた女じゃ。…命を自ら投げ出すか」

氷姫「………あたしは」

氷姫「あたしの、最も大切なものを、守れなかった」

氷姫「魔王を、炎獣を…」

氷姫「だから、いつ死んだっていいじゃないの」

魔女「…そう言うわりにおぬしは」

魔女「おぬしの魔力は…まだ妾を倒そうと殺気立っておるぞ」

氷姫「…は」

氷姫「はは…」ォオォオォ…

347 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 20:00:10.44 ID:fcV9fmiV0

氷姫「不思議よね。ほんと…」

氷姫「いつ死んだっていい、だなんて思うと………余計に足が踏ん張っ、て」

氷姫「前を向かせるのよ…」 バチッ…

バチバチッ… バチバチバチバチッ!

魔女「なんじゃ、それは」

魔女「詠唱でもなんでもない…気迫で魔力を生み出しているのか」


氷姫(こいつに放つ、何度目か分からない全力…)

氷姫(さっきの魔法より、僅かでも上回っているかもしれない)

氷姫(今度こそ、倒せるかも知れない)

氷姫(それに全てを賭ける)


氷姫(身体が重い。何も見えない)

氷姫(気管に冷気が突き刺さって、血が溢れ出しそうだ)

氷姫(それでも)

氷姫(この腕が上がれば)



氷姫(魔法を、撃てる)


348 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 20:01:20.36 ID:fcV9fmiV0


氷姫(雷帝、ごめん)


氷姫(こいつを倒しても、あたし)


氷姫(こいつの魔法を防げない)


氷姫(それでも)




氷姫(――地獄に、引き摺り込んでやる)









氷姫「………腕…ッ」







氷姫「上がれぇぇぇぇぇぇえええええええええエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」

   ――バキバキバキッ








   ド   ン   ッ













魔女(のう…魔法使い)

魔女(お前は分かっているんだろう)

魔女(邪神の加護を失って尚、こうして肉体と精神の限界に挑むこやつらは)

魔女(もはや、かつてのお前そのものじゃ)

魔女(絶対的な神秘に己の身ひとつで挑んでいたお前と)

魔女(お前は、こやつらをその身の限界を越えさせるために………妾達を遣わせたのか?)

349 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 20:02:32.97 ID:fcV9fmiV0

魔女(滅茶苦茶な魔法じゃ)

魔女(しかし、今までのどんな魔法より鋭利じゃ)

魔女(同士討ちか。いや、よくぞここまで持ち込んだ)

魔女(尊敬に値する。四天王)

魔女(だから、これは妾の敬意じゃ)

魔女(お前はもう少し)


魔女(生きるがいい――)




ヒュ…








氷姫(!!)


氷姫(敵の魔法が、逸れた――)







『システムパターンDをクリアしました』







 ド カ ァ ア ア ン ッ … ! !




350 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 20:04:08.68 ID:fcV9fmiV0


氷姫「………」


氷姫(………勝っ、た)

氷姫(あたし……勝ったの…かな)

氷姫(ほんとに、これは)


氷姫("勝ち"なのかな)


氷姫「………」

氷姫「は、はは…」

氷姫「何も見えないんじゃ…それも分かんないや」

氷姫「………」

351 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 20:05:20.17 ID:fcV9fmiV0

ズル… ズル…

氷姫(………ああ、体が重い)

氷姫(半分体が凍ってるんだから、そりゃ当たり前か)

氷姫(もう、止まってしまいたい。まともに思考がまとまらない)

氷姫(あたしは進んでいるの? 止まっているの? それさえ分からない)

氷姫(ここは、どこ…)






くノ一「………雷帝は先に行った」

くノ一「門は開いている」

氷姫(…あっそ)

くノ一「魔王をどうしたかは分からないが…魔法使いは、そこで待ち受けているだろう」

くノ一「あなたも………その体で行くのか?」


氷姫「………」


氷姫「………」ズル…ズル




352 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:06:48.77 ID:fcV9fmiV0

氷姫「………目が見えないってのは、存外不便なもんね」

氷姫「あんたがそこにいるのか…分からないわよ」

氷姫「ねえ、雷帝」

氷姫「そこにいるの?」


雷帝(………この冷気)ピクッ

雷帝(来たのか、氷姫)

雷帝(…はは。せっかくの再会だと言うのに、お前の言葉を聞く耳は削がれ、喉は潰れて何も伝えられない)

氷姫「この魔力の波動…あんたなのね」

氷姫「いるんなら、返事くらいしなさいよね。ったく」

雷帝(何を言っている…? ………お前、目が…凍っているのか)

雷帝(――お前も決死で戦い抜いてきたのだな)

氷姫「ねえ、雷帝」

氷姫「あんたには、言わなきゃ気がすまないことがあるの」

353 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:07:41.80 ID:fcV9fmiV0

氷姫「あんたは、あたしを強いって言った」

氷姫「でもね」

氷姫「あんたには、あたし、そんな風に言って欲しくない」

雷帝(何を言っているんだ。氷姫、私には分からん)

雷帝(お前がそっち側に立っていたら、私はお前に触れることすら出来ないのだ)

雷帝(片腕を失ってしまってな)

氷姫「あんたとあたしは、一緒なのよ」

氷姫「沢山の気持ちが、一緒だったの」

雷帝(もはや一歩も歩くことはままならん)

雷帝(最後に一刀を振るうのでやっと)

雷帝(しかし不思議だな。お前と一緒だということが)

雷帝(このろくに動かん身体に、力をたぎらせる)

氷姫「だから、最後に背中を任せるのがあんたで、良かったと思ってる」

氷姫「ねえ、これだけは伝えたかったのよ。あたし」


354 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:08:27.90 ID:fcV9fmiV0

雷帝(なあ、氷姫。私の剣は、お前の魔法は、届くだろうか。魔王様の元に)

氷姫「あたし、魔王を恨んでなんかいないわよ。あいつの為に戦えることが、誇りなの」

氷姫「それは今も変わらない。きっと最後まで」

雷帝(仇討ちだなんて、愚かだろうか?)

氷姫「いいじゃない、カッコ悪くたって。それでもあたし達はここまで来たのよ」

雷帝(…そうか。そうだな。私は最後まで私の剣を振るうのみだ)

氷姫「あたしだって、意地があるわ。氷の女王のね」

雷帝(今さら逃げ出しようもないのだ)

氷姫「それがあたし達の覚悟よ」

雷帝(倒れるときは、前のめりに、だな)

氷姫「最後の一歩だったとしても、踏み出すのよ」


氷姫 雷帝 「さあ」 (さあ)


氷姫 雷帝 「(受けとれ)」





――魔法使い!!








魔法使い「………いいでしょう」

魔法使い「あなた達の辿り着いたものを、見せて貰いましょう」


355 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:09:26.17 ID:fcV9fmiV0







氷姫 雷帝 「「 」」 ギュ







  ド  ッ  ッ  !  !


 










魔法使い(鍵の恩恵を受けた門番をも倒した一撃)

魔法使い(氷姫と雷帝のそれが、うねり絡み合って迫る)


魔法使い(懐かしい重みだ)


魔法使い(自分の限界に挑み続けた魔界での日々を思い出す)

魔法使い(知識の壁を越えんとしていた人間界での時間も)

魔法使い(…肉が裂け、血が凍てついていく)

魔法使い(それすら愛しく感じられる)


魔法使い(やっと、僕のことを分かってくれる者達に出会えた)

魔法使い(武闘家さん。…あなた以来のことですよ)

356 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:10:19.18 ID:fcV9fmiV0

魔法使い(攻撃によって細胞が死に、死んだそばから息を吹き返してゆく)

魔法使い(氷姫と雷帝が僕を殺しきる前に、"鍵"が僕を生き返らせてしまう)

魔法使い(これが"鍵"の領分。約束された力)

魔法使い(どんなに頑張ってみても乗り越えられない壁というのはあるようです)

魔法使い(それを知っているから、僕もこんなことをしているわけですけどね)


魔法使い(惜しかったですね。氷姫。雷帝)



魔法使い(健闘をたたえましょう。ですから)







魔法使い(どうか穏やかな最後を)













魔法使い「波動よ」   ボッ














357 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:11:23.97 ID:fcV9fmiV0






魔法使い「………………驚いた」

魔法使い「まだ意識がありますか」

雷帝「――…」

魔法使い「もはや手足も失っているというのに…」

魔法使い「炎獣も大したものでしたが、雷帝。あなたも大概ですね」

魔法使い「氷姫は、流石に参ってしまったようですよ。まだ彼女も息はありますが………あれでは長く持たないでしょう」

雷帝「――…」

魔法使い「おっと、すみません。苦しいですよね」


魔法使い「今、楽にして差し上げます」ス…


雷帝「――…」


魔法使い「………」

魔法使い「最後まで、闘志剥き出しのもののふの目をなさりますか」


魔法使い「ご立派ですよ」










魔法使い「さようなら」

358 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:12:11.75 ID:fcV9fmiV0






「―― ガ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ッ ! ! 」







魔法使い「!」ピタ

魔法使い(今のは…?)

魔法使い「外から、ですか」






「 グ オ オ オ オ オ オ ォ オ ォ オ ォ オ ッ ! ! 」






魔法使い「………」

魔法使い「へえ。そうですか」

魔法使い「そういう道を選びましたか」


魔法使い「――魔王」




359 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:13:02.78 ID:fcV9fmiV0


魔王「魔法使い」

魔王「雷帝から、離れなさい」


360 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:14:05.22 ID:fcV9fmiV0


魔法使い「絶望の縁から舞い戻りましたか。魔王」

魔法使い「荒れ狂う邪神の加護を…魔人をどうするのかと思いましたが」



炎獣「 ゴ ォ ア ア ア ア ア ア ! ! 」



魔法使い「――なるほど。炎獣の亡骸に封印しましたね」

魔法使い「…炎獣の強固な肉体は肥大化し、原型を留めていませんが、封印に堪え忍んだようだ」

魔法使い「そしてその暴走は、辛うじて押さえられている」

魔法使い「制御を可能にしたのは、あの炎獣の思念体のせいか、はたまた………器に何かの思い出でも残っていたのでしょうかねぇ」

魔法使い「魔王………あなたに対する、思い出が」



魔王「もう一度だけ言うわ」

魔王「雷帝から、離れて」ゴォ…

361 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:14:55.51 ID:fcV9fmiV0

魔法使い「…いいでしょう。もほや彼を殺すことに意義などありませんから」

魔法使い「それで、その凶悪なしもべを使って僕を倒そうと言うわけですか?」


魔王「あなたが引き起こしたこの大戦は」

魔王「あまりに多くのものを奪いすぎたわ」

魔王「………もう、終わらせる」


魔法使い「ですが、魔王。あなたは今や理解している」

魔法使い「今さら勇者のもとを目指して何になるというのです?」

魔法使い「この戦いは確かに僕の意思によって動いてきましたが………そうでなくても神々によっていずれ導かれていたことでしょう」

魔法使い「魔王勇者大戦。この茶番を終わらせるという道をとるならば」

魔法使い「僕と共に神と戦う、という道もあるのではないですか?」


魔王「………」

362 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:16:09.92 ID:fcV9fmiV0

魔王「あなたは全てを明らかにしなかった」

魔王「最初から、自分の力だけで全てを操ってきた。沢山のものを裏切り、死に追いやった」


魔王「………そして今でさえ」

魔王「あなたは、己のうちだけに秘めているものがある」


魔法使い「………」


魔王「どうして、こんなやり方しか出来なかったの?」

魔王「どうして、犠牲が必要だったの?」

魔王「――あなたは、それに答えるつもりはない」


魔法使い「………参りましたね」

魔法使い「お見通しですか」

363 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:17:09.75 ID:fcV9fmiV0

魔王「私は神々のものでも、あなたのものでもない」

魔王「もう只の玩具ではない」


魔王「私は魔王」

魔王「最果ての大陸、魔界の王者」

魔王「沢山の想いと魂の上にここに立つ」


魔王「最後は」



魔王「自分の足で歩く」


 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ … !




魔法使い「!」

魔法使い(………魔力が奪われている。いや、魔力だけではない。これは)

魔法使い(僕の生命力自体を吸収しつつある。これは…)

魔法使い「ふむ」

魔法使い「このままでは、僕の記憶や想いみたいなものまで、炎獣に吸いとられてしまいますね」

魔法使い「そして魔王。あなたは炎獣を通して僕の精神を垣間見る」

魔法使い「僕の真実を読み取って、自分の目で確かめ、自らの決断でのみ進むと。そのために僕の秘密を奪ってしまおうと…」

魔法使い「そういうわけですね」

364 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:18:08.37 ID:fcV9fmiV0

魔法使い「えげつないことをするじゃあありませんか。炎獣をそんな風にしたり、人の想いを掠め取ろうとしたり」

魔法使い「かつての聖女のようなあなたからは、想像もつかない」


魔王「言ったでしょう」

魔王「私は………――魔王よ」


魔法使い「ははは。そうですか」

魔法使い「天晴れです。大した信念だ」


魔法使い「ですが、僕もここまで来て止められません」

魔法使い「それに…僕の記憶を土足で踏み荒らされるようなマネは、ご遠慮願いたいですからね」

魔法使い「力づくで、奪ってごらんなさい。………魔王なら、ね」


魔法使い(炎獣。邪神の化身よ)

魔法使い("鍵"の解放による一撃を、受けなさい) ォ オ …






 ズ ド ン ッ ! !






365 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:19:06.17 ID:fcV9fmiV0





炎獣「 ガ ア ア ッ ! 」


――バチンッ!!!!






魔法使い(全力の一撃を、叩き落とされた…!?)

魔法使い(…本当に恐ろしいものですね。今や炎獣は邪神の加護の化身)

魔法使い(神の力そのもの、というわけですか
)



魔王「炎獣…平気?」ス…

炎獣「 グルルル… 」

魔王「うん。一緒にいこう」



魔法使い「!」ゾクッ

魔法使い(――来る)












  ド  ッ  !  !







366 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:20:01.94 ID:fcV9fmiV0


魔法使い(危うく全身吹っ飛ばされるとこでした)

魔法使い(半身で済んだのは幸いですね)

魔法使い(…すぐに"鍵"が身体を修復する。が)

魔法使い(幾分かは存在を奪われてしまった)


魔法使い(――返して下さい)






  ド  ギ  ュ  ッ  ! !







炎獣「 グ ォ オ ォ オ ォ オ ォ オ ! ! 」


魔王「炎獣っ!」


367 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:23:20.00 ID:fcV9fmiV0

炎獣「 グ ル ル ル ル 」

魔王「炎獣…っ、大丈夫?」

炎獣「 … ガ ア ッ ! 」




魔法使い(………腹に空けた穴が塞がってゆく)

魔法使い(そちらも、すぐ修復ですか)


魔法使い(面白い。修復が間に合わなくなるまで攻撃を撃ち続けた方の勝ちというわけだ)


魔法使い(最後に立っているのはどちらか。決着になることはそれだけ)

魔法使い(………ようやく。ようやくだ)



魔法使い(ついに、神の力と対決するのだ………僕は)

368 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/05/12(土) 23:24:22.95 ID:fcV9fmiV0

魔法使い(僕が培ってきた全てが、神の力を越え得るか)



魔法使い(それとも………ふふ!)



魔法使い(さあ!!)




魔法使い(最後の審判が下るときだ!!)














魔法使い(今こそ答えを見せろ――!!)ォオォオ…!





炎獣「 が あ ぁ あ ぁ あ ぁ ッ ! ! 」ギュオォオ…!









369 : ◆EonfQcY3VgIs [sage]:2018/05/12(土) 23:25:03.79 ID:fcV9fmiV0
今日はここまでです
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/12(土) 23:54:55.66 ID:PNsQ/clA0
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/15(火) 12:40:37.21 ID:ZqJFXZEjO
乙‼
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/28(月) 15:07:51.16 ID:xekiK3YE0
更新を…
373 : ◆EonfQcY3VgIs [sage]:2018/06/04(月) 07:28:37.57 ID:GRoQFgrq0
今週末の9日(土)に続きを投下します
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 03:50:09.96 ID:bKe36NXDO
舞ってるわ!
375 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 08:13:54.40 ID:m5D6diRcO









神父(――この世の終わりとは、こんな眺めなのだろう)

神父(天に向かって幾筋もの光が飛び散った時、私はそう思った)


神父(光は、空を突き破るように虚空を飛び、そして破裂した)

神父(途端に天空は紅蓮色に染まり、朱く我々の姿を照らした)

神父(爆風が遥か上空から我々を叩きつけ、少し遅れてから耳をつんざくような轟音が襲ってきた)


神父(理解の及ばぬほどの激しい衝動がぶつかり合っていたのだと知ったのは、もっとずっと後になってからで)

神父(その時、人々は誰一人例外なく、為す術もないまま身を縮めるしかなかったのだ)

神父(私は城下町で見つけた赤毛達を庇うようになったまま、何とかもう一度空を見た)

神父(王城は、すでに奇怪な姿へ形を変えて中へ浮かび上がり、原形を留めていなかった。光はそこから四散し、爆発を繰り返していた)

神父(神話の世界を眺めているようだと、思った。そしてあの光の欠片がひとつでも落ちてくれば、王国は消し飛ぶのだ)

神父(そういう予感があった)


神父(だからいよいよその瞬間を迎えようという時に)

神父(身を呈して城下町を守った小さな影が、魔王自身だったなどということを)


神父(その時の私たちは、気づくはずもなかった――)



376 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 08:21:31.44 ID:m5D6diRcO


魔王「――うあああああああッ!!」




魔法使い(魔王………っ! 貴女という人は!!)

魔法使い(人間の王国を、その身を呈して守ろうというのですか!?)

魔法使い(今の貴女では、命を落としかねない暴挙だ!!)

魔法使い(人間の国を守って死んで、それでもいいというのですかっ!!)


魔王「これは…っ、もう………!!」

魔王「人と魔の戦いではない!!」


魔王「世界を操る存在と、そこに生きる生命の戦いだ………!!」


魔王「滅びるべき命なんて、最初からなかった…っ!!」

魔王「私は…っ、それを見抜けずに多くを殺めた…!!」


魔王「私は、もうこれ以上」



魔王「生命の生きる権利を奪わない!!」




魔法使い「ふっ!」

魔法使い「くくく!! いいでしょう!!」

魔法使い「面白い皮肉じゃありませんか!!」


魔法使い「守ってご覧なさい!!」


魔法使い「"魔王"たるあなたが!!」


魔法使い「世界をっ!!」



377 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:14:47.76 ID:tpR/STzE0


魔法使い(ああ)

魔法使い(今や神の化身となった炎獣の相手は流石に…)

魔法使い(僕の存在が流れ出してゆく。それを塞き止める余裕はありませんね)

魔法使い(僕の過去の記憶)


魔法使い(この数百年の想いが、こぼれ落ちる………)









――
――――
――――――

378 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:15:37.47 ID:tpR/STzE0



側近『はあ、はあ………』

側近『誰か、生きている者はいませんか!』

側近『誰か…っ!』

側近『………いないのか』

側近『生き延びたのは、僕だけなのか』

側近『………勇者一行も、四天王も、魔王様も』

側近『みんな、死んだ』



379 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:16:49.95 ID:tpR/STzE0



側近『前回の魔王と勇者は同士討ちになりました』

側近『人間側も次の勇者が出るまで、しばらくは攻勢に出てくることはないでしょうが』

側近『我らはその長寿にかまけて、これ以上魔王の座を巡る戦いに没頭していては、魔界は疲弊するばかりです』

側近『新たな魔王が必要なのです。それは、邪神の加護を持つあなたに他なりません』

側近『………ですから』

側近『その手に持つ鍬を捨てて、さっさと軍をまとめて下さい』


先代『ふーむ。気乗りせんなあ』




380 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:18:04.02 ID:tpR/STzE0




側近『魔王就任おめでとうございます』

先代『やれやれ。魔界っていうのはどうしてこう血の気が多いのばかりなのだか』

先代『…いらん犠牲を払いすぎた』

側近『あなたが王の座に就くことが一番の平和への道ですよ』

先代『しかし、こうなれば今度は人間との戦いが始まるわけだろう。勇者との、戦いが』

側近『そうなりますね』

先代『なあ、側近。本当に戦わねばならんのか…?』

側近『………何を、今さら』

側近『迷う必要など、ありませんよ』



381 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:22:05.97 ID:tpR/STzE0



冥王『おや、お前様は』

側近『…冥王』ハァ

側近『魔王様の戴冠式はとっくに済みました。あなたの用はもうこの魔王城にはないはずですが』

冥王『おほほ。なんとまあ、ツレないこと。あたくしにそんな態度をとる魔族は、魔界中探してもお前様くらいのものですのよ』

側近『悠久ともいえる時を生きる者同士と言えど、馴れ合うつもりはありませんよ』

冥王『相変わらずのコミュ障野郎で、困っちまふわね。それにしても、お前様』

冥王『新しい魔王に随分と手を焼いてるご様子じゃありませんの。珍しいものが見れて、あたくし可笑しくてしょうがないわ』

側近『…あの人は、今までの魔王にないくらいマイペースでしてね。戦意ってやつが薄すぎるんですよ。魔族のくせに』

冥王『………あたくしにしてみれば』

冥王『それだけの力と知識を持っていながら、未熟者に付いて回り続けるお前様の方が、魔族らしからぬズボラ者に見えるけれどね』

側近『………早く冥界に帰ってくださいよ。うるさいですねぇ』

冥王『はいはい』オホホ



382 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:24:59.33 ID:tpR/STzE0



側近『…魔王と勇者の戦い。その全ての戦績はほぼ五分と五分』

側近『それは僕が今まで経験した戦いの全ても同様だ。敗れた種族は搾取され、文明が衰退する。やがて窮地を救う英雄が現れる…その繰り返し』

側近『"本当に戦わねばならんのか?"ですか』

側近『僕だって本当はその問いに幾度も辿り着いていた。けれど人と魔は相容れない………勇者と魔王がいる限り』

側近『――それでは勇者と魔王は、人間と魔族の争いを引き起こすために存在しているのか?』

側近『英雄などではなく…歴史を繰り返すための道具』

側近『………道具…一体誰の? それは――』


側近『天から加護を与え続ける、神々の、だ』


側近『…』

側近『もしかすると、次は人間の敗北なのかもしれない。人間は近年純粋な敗北とは縁がなく、その人口を増やし続けている』

側近『どちらにせよ、今度の大戦において魔王様が優位なのだとすれば………あの魔王様なら、戦争以外の道を模索できるかもしれない』

側近『それに何より、今回はあの魔王様が』

側近『死なずに済む』



383 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:28:53.54 ID:tpR/STzE0



側近『…まさか。確かなのですか?』

冥王『どうやら、そのようでしてよ』

冥王『邪神の加護が、王からその娘に移り変わり始めちまってますわね。あたくしもこんな事は始めて経験しますのよ』

冥王『赤子の身で親の加護を吸い出すなんて…末恐ろしい魔族も居たものですわね』

冥王『邪神というのも、どういうつもりでいるのだか』

側近『………』

冥王『…せっかくお前様がいれこんでいる魔王ですけれど、あののんびり屋さん、娘に加護を奪われてこのままでは弱る一方』

冥王『あれじゃあ今話題の女勇者には勝てやしないでせう』

側近『………』



384 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:30:06.28 ID:tpR/STzE0



側近『――お嬢様を殺しましょう』



雷帝『側近様…正気ですか!?』

鳳凰『血迷ったのかえ? 側近』

側近『…いいえ。僕は至って正常ですよ。異常なのはこの事態です。あってはならないことなんです』

先代『………』

雷帝『だからと言って、そんな!』

玄武『んだ。話が飛躍しすぎだべ、側近』

側近『そんな事はありません。このまま魔王様の邪神の加護が弱まれば、確実に勇者一行に敗北します』

木竜『じゃから、殺せと言うのか? まだ赤ん坊の、その子を』

側近『はい』

側近『魔王様、僕はもう一度ここに進言します』

先代『………』

側近『あなたのお嬢様は、今の内に、殺してしまうべきです』

385 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:33:07.79 ID:tpR/STzE0

側近《魔王様…分かって下さい》

側近《あなたは今までの暴君としての魔王ではない。勇者との争いではない道を探し出せるお方だ》

側近《あなたは、死んではダメだ。神々の思い通りになることはない》

側近《今回のように先回りして気づけたことは、神の意思に逆らうチャンスだ。だから………!》

先代『………』


先代『ならん』

先代『この子を殺すことなど、許せるはずがない』


側近《…!!》

先代《すまん…許せ。側近》

先代《どんな理由があっても、娘を手にかけることは出来ない》

側近《………なぜ。なぜです》

側近《このチャンスを逃したら…またこの後数百年か、更に永い時をか、神々に支配されたままなのですよ!》

側近《その大戦の中で、沢山の生命が散る…っ! 死の循環をさまよい続けなければならないっ!》

側近《また大いなる意思の下に飼い慣らされ、呪われた放浪をすることになる――!》

先代《………》


先代《すまん》


側近《…っ!!》

386 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:33:49.10 ID:tpR/STzE0

側近《………》

側近《――もういい》

側近《ならば、僕自身で手を下すまでだ。………どんなことをしてでも、神々の思い通りにはさせない》

側近《この機を逃してはならない。その為なら僕は――僕らしさだって捨ててみせる》

側近《あなたが捨てきれないものを、僕は捨てます。魔王様》

側近《そう。だから》

側近《魔王様。あなたを倒すことになったとしても………僕はやり遂げる》

側近《邪神の加護を………僕自身の手で正面から越えてみせる。神々の筋書きを裏切る》

側近《もう………無意味な戦いの連鎖には》


側近『ウンザリだ』

側近『守る価値もない。ならばいっそ』

側近『僕の手で、壊してしまえばいい』


木竜『…やる、と言うのじゃな』ザッ

雷帝『翁…!』

木竜『構えよ、雷帝。この男は、今この時を持って…我らの敵じゃ』ギロ

雷帝『…っ!』ジャキ…!

玄武『ちィ…!』ザッ

鳳凰『四天王全員を相手にして、勝ち目があると思うのかえ? 側近よ…!』


側近『ふっ。くっくっくっ…!』

側近『いいでしょう。今こそ試される時だ』

側近『この数百年、僕の生きた証を』



側近『その身に、刻むがいい――!!』



387 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:37:37.76 ID:tpR/STzE0



『…ここは?』

賢者『…目が覚めたかい?』

賢者『どうやら蘇生には成功したようだ。身体は動くかな?』

『僕は…』

賢者『君は、どうやら魔王に反旗を翻した魔族だ。そして信じられないことに、邪神の加護を持つ魔王の撃破に成功したようだ』

『………そうですか』

『僕は、勝ったんですね。神々のシナリオを…逸脱せしめた』

賢者『神々のシナリオ…。興味深い話だ』

賢者『是非とも君には詳しい話を伺いたいと思っている。自分の名は、賢者。ここは人間の王国だ』

賢者『自分は君に、新たな可能性を感じている。今までの、勇者と魔王に依存した世界から抜け出すための可能性を』

賢者『自分達の研究に協力してはくれないだろうか。その為の場所はすでに用意出来ている』

賢者『人間界で生きるのだ…側近という名を捨てて』

賢者『今日からは魔法使い、と名乗るといいだろう』



『………魔法使い、ですか。そうですね』

魔法使い『分かりやすくて、いいですね…』



388 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:44:09.59 ID:tpR/STzE0



教皇『き…危険はないのか?』

賢者『彼は我々の研究に興味を示してくれている。自分の見立ててでは、同じ価値観の中にいるという印象だよ』

賢者『それに何より…永い時を生きた経験を持っている。そして膨大な魔法の知識』

賢者『自分達の研究…"古代文明と女神について"の答えが、得られるかもしれない』

教皇『…』


魔法使い『………古代都市の、文明…。人間界には、こんなものが残されているんですか』

魔法使い『資料をもっと下さい。これは魔界にはなかった、世紀の発見だ』

賢者『もちろんさ。しかし、キリのいい所で君が魔界で得た知識も披露してくれよ』

魔法使い『ええ、ええ。もちろん。とは言え、僕の得たものは"勇者魔王大戦の枠組みの中のもの"でしかありませんが…』

教皇『…!』

賢者『どうだい? 彼の熱意は本物だろう?』

教皇『う、うむ』

教皇『そうか…。ならば私とて、女神の子ということをこの一時忘れよう』

教皇『研究の成果のために、全てを捧げよう』


389 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:44:55.04 ID:tpR/STzE0



賢者『――魔法使いは、勇者ではないにも関わらず魔王を倒した。これは、女神の加護をいち生命が凌駕したという動かぬ事実だ』

教皇『ここでひとつの仮説を立てよう。女神の加護を、生命は越えられる。そうであるなら、女神の加護を造り出すことすら出来るのではないか』

魔法使い『生命の神秘への挑戦。現存の細胞を使わない新しい生命の誕生』

賢者『不可能じゃない。古代文明において、それは本当に実現していたはずだ』

教皇『下地は既に完成している。長い長い年月をかけてな。ついに、それを目覚めさせる仕上げの時というわけだ』



賢者『人造人間………ついに完成だ』

教皇『………これは、成功なのか?』

魔法使い『ええ。…これは今までにない魔力値をもった個体ですね』

賢者『彼女が目覚めることが出来れば、この研究の脳となってくれるだろう』

賢者『個体番号〇一七号。…通称"魔女"』


魔女『………』ムクリ…



390 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:45:53.70 ID:tpR/STzE0



教皇『…本当に、いいのか』

賢者『うん。自分は構わないよ』

賢者『今は、自分達の研究の最も大事な時期だ。ここで少しの遅れも取りたくはない』

賢者『魔女の完成に次いで、ついに"女神"を造り出せるんだ、自分達の手で。これさえ出来れば、自分達は今までにない成果を上げられるようになる』

賢者『それこそ、女神の加護と同等のものを…!』

教皇『………とは言え』

教皇『お前自身が、生け贄にならねばならないなどと。そんな実験…』

魔法使い『…すみません。先生と手を尽くしたのですが、この方法にしか辿り着けませんでした』

賢者『…"生け贄"』

賢者『魔女と魔法使いの力を持って辿り着いた結論だ。この、古代文明の錬金術とも言える技』

賢者『そのためには、純粋な人間が生け贄に必要なんだ。………覚悟は決まっているさ』

賢者『どの道、自分はこの研究のために全てを捨て去るつもりでいた。それは教皇、君や魔法使いも同じだろ?』

教皇『くっ…しかし!』

賢者『もう、自分の能力では研究に成果をもたらせない。その役目は魔女や魔法使い、それに生み出される人造人間達が担う』

賢者『教皇。君には引き続き彼らの後援者であり続けて欲しい。………そうなると』

賢者『責任者のひとりとして、僕が果たせる仕事は、最早こんなことくらいだ』

魔法使い『………』

391 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:46:36.19 ID:tpR/STzE0

賢者『誇りをもって、死ねるよ。君たちと、世界の神秘に挑戦し続けた証として』

賢者『教皇。魔法使い。君達と志を同じく出来たこと、本当に嬉しい』

賢者『自分は完成された"女神"の中で生き続ける、ということも考えられる。そうなれば、自分は時空すら越える存在になれるってことさ』

賢者『はは。楽しみじゃないか』

魔法使い『…賢者さん。しかし、あなたのご友人や妹さんは…』

賢者『言うな、魔法使い』

賢者『もういいんだ。踏ん切りはとうの昔につけた。それに』

賢者『"神々"についてのあの仮説が正しいんだとしたら――』

賢者『自分は、その存在にこそ近づいてやりたいと思うんだ』

魔法使い『そうですか…』

教皇『………つくづくお前は、憐れみ深い男だ』

賢者『さあ、名残惜しいがここまでにしよう』

賢者『やってくれ』



392 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:47:22.03 ID:tpR/STzE0



教皇『み………見ろ。石板に文字が刻まれ出したぞ』

魔法使い『…ええ。どうやら、これが未来に行った"女神"の啓示のようですね』

教皇『こ、これが我々の未来…!?』

魔法使い『ふむ。"女神"が時を越えて見た未来ですから、恐らく間違いはないでしょうね』

教皇『魔王の凶暴化。勇者の敗北。人類の敗走…。そして』

魔法使い『あはは。僕らは、死ぬそうですよ』

教皇『…っ!』

魔法使い『魔王と四天王に為す術なく蹂躙される未来。…さて、どうしたものですかね』

教皇『………ふっ』

教皇『くくく…。ははははは!』

魔法使い『教皇…?』

教皇『なあ、魔法使い。我々は未来を知り得ることに成功したのだ…!』

教皇『死の運命など、どうとでも出来る。たった今、我々はそれほどの多大な力を手に入れた!』

教皇『未来を知れば、世を支配することすら造作もないっ!』

魔法使い『………』

教皇『我々は、神々と肩を並べたのだよ! この力を持ってすれば――』

魔法使い『教皇』

教皇『っ…!?』

魔法使い『あくまで我々の目的は勇者魔王大戦の仕組みを…天上の意思を裏切ることです』

教皇『…分かっている』

教皇『分かっているとも。それくらいのことは…』

魔法使い『…』



393 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:48:30.27 ID:tpR/STzE0



教皇『――女神の力によって幾度かの未来線の変更を実行。研究は急激に加速している』

魔法使い『神々の創造する未来"勇者一行の敗北"を逃れるため、魔王討伐に成功した世界の構築を試みましたが、これは難解を極めることです』

魔法使い『今回邪神の加護を受け継いだ姫君は、類を見ないほど強大な加護の片鱗を見せています』

教皇『撃破できるかどうかギリギリの線だな。だが、不可能ではない』

魔法使い『…多くの犠牲を払うことになります』

教皇『構うものか。どうせ戦に死人は付き物だ。それより魔女の研究を急がせろ』

教皇『"鍵"の完成がもしも間に合えば、さらに新しい未来が見えてくる。魔王撃破に留まらず、世界そのものを変えるような成果になる』

魔法使い『それは、そうですが』

教皇『博愛主義の現国王も邪魔でしかないな。命までは取らずとも、どこかでご退場願おう』

教皇『そうだ。より軽便な手を思いついたぞ。魔女達の開発した奇跡の力の一旦を私自身が扱えるようになればよい』

教皇『そうと決まれば僧正達を使って明日からでも実験だ』

魔法使い『………』

教皇『魔法使い。武器商会の女社長への警戒は怠るな。あの女、どうも目敏い。あくまで魔導砲レベルのもので満足させておくのだ』

魔法使い『…分かっています』



394 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:52:51.40 ID:tpR/STzE0

魔女『女神の時間超越は安定してきた』

魔女『おぬしらにもたらされる啓示も、"魔王敗北の未来"のために正確な指示が下るはずじゃ』

魔法使い『…流石ですね、先生。本当にあなたは初の成功例にして最高傑作かもしれませんよ』

魔女『お世辞はいい。ふざけた名で呼ぶのも止めんか』

魔法使い『僕にとっては、あなたは既に研究の先を行く先生ですよ。もはや教わることの方が多い』

魔女『ふん、口の減らぬ奴よ。それより本当なのじゃろうな?』

魔法使い『…ええ。先生の目指すように、研究は人類の未来のために、必ずや役立てます』

魔女『…そうか』

魔女『おかしいか。人形の分際で心を持ち、仕事に意味ややりがいを求めている妾が』

魔法使い『…いえ、おかしいなんてことは』

魔女『人造人間でもな…喜びなくては生きていられぬようなのじゃ』

魔女『これは、致命的な欠陥かもしれぬな?』

魔法使い『…』

魔法使い『あなたは…もしかすれば、僕より豊かな心を持っているのかもしれませんね』

魔女『これが豊かと言うことなのか…悲しみや、苦しみも多く感じ取ってしまう』

魔女『いっそ壊れていた方が、生きやすかったかもしれぬ』

魔法使い『…っ』

魔女『それでもな。今は人の幸福のために研究をしているということと、それに』

魔女『後から生まれてくる後輩共の先生役をしておることが、心の支えになっておる』

魔法使い『先生役が、ですか…?』

魔女『うむ』ニコ

魔女『人に教える…何かを残す、というのは』

魔女『――思いの外いいもんじゃぞ』



395 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:53:40.40 ID:tpR/STzE0


魔法使い『………………』


396 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:57:16.30 ID:tpR/STzE0



魔女『…見つけたぞ、魔法使い!』

魔法使い『おや、どうしましたか』

魔女『惚けるな…っ! どういうことじゃ!?』

魔女『あの技術を、戦争に利用するなど…っ!!』

魔法使い『簡単なことですよ。これは人類の未来のためです』

魔法使い『魔王なんて生き物がいては、人に明るい将来などない…そう思いませんか?』

魔女『戯れるでない! お前は言っておったではないかっ! 魔王を倒すこととは違う未来は、切り拓けるはずじゃと!!』

魔法使い『………これが啓示なんです。分かってください』

魔女『ば、馬鹿な…!! そんなことが………』

魔女『お、おい!! 何処へ行く!?』

魔法使い『…人里へ。たまには城下町へ行ってみようかと思いまして』

魔法使い『ねえ、先生。あなたは言ってましたよね』

魔法使い『先生役も悪くないって。教えたり、何かを残すのも、悪くないって』

魔女『それがなんだと言うんじゃ…!!』

魔法使い『僕も、やってみようかなって、思いましてね。先生役…』

魔女『ふざけるな!!』

魔法使い『あはは』

魔法使い『これがね、大真面目なんですよね』

魔女『ま、待て………!!』

魔女『待たんかっ!』



397 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:58:20.41 ID:tpR/STzE0



三つ編『先生!』

坊主『先生ってば!』

『は、はい?』

金髪『もう、何ボーッとしてんだよ。先生』

赤毛『先生! 先生もこっちに来て、ボール遊びしようよ!』

『えっ…ぼ、先生がですか?』

『先生は先生なので、遊びなどをするつもりはありませんが』

金髪『固いこと言いっこなしだぜ、先生!』

坊主『早く早くぅ!!』

『お、押さないでくださいよ…』

三つ編『いっくよー! あっ…!?』スポーン

『ぶっ!?』バシーン!

坊主『うおーっ、顔面にクリーンヒット!』

金髪『やるなぁ、三つ編!』

三つ編『ごごごご、ごめんなさいっ、先生!』

赤毛『あははははは!』

『…は』


魔法使い『はははは…』









――――――
――――
――

398 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:39:41.23 ID:tpR/STzE0




魔法使い「ぜぇ、はあ…っ」


炎獣「 ヒュウ ヒュウ … 」


魔法使い(消耗が激しい)

魔法使い(だがそれは相手も同じだ。回復の速度が落ちてきている)

魔法使い(お互い底をついてきたということですか)


魔法使い「それにしても、口惜しいですね。これだけ僕の感情が、垂れ流しにされてしまうと」

魔法使い「…まるで、丸裸にされた気分ですよ」





魔王「………魔法使い」

魔王「あなたは、本当に………」


魔王「本当に、赤毛ちゃんたちの先生になるつもりで…」



魔法使い「………ふ、はは」

魔法使い「可笑しいなら、笑ってくださいよ」

399 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:40:40.02 ID:tpR/STzE0

魔王「あなたは………」

魔王「あなたは、どうして――」


魔法使い「分かりませんか? そうでしょう…!」

魔法使い「誰が、貴女などに私の思いを推し量らせるものですか!!」

魔法使い「貴女の思い通りになんて、させませんよ、魔王!!」


魔法使い「お前などに!!」

―― ゴ ゥ ッ ! !


魔王(!! 私を狙って来――)

炎獣「 グ ォ オ ウ ッ ! 」 ――パァンッ!


魔法使い「………ちっ。生意気にも守って見せるつもりですか…!」

魔法使い「邪神の加護の化身に成り下がった哀れな獣の分際で…ッ!」


炎獣「―― ガ ァ ウ ッ ! 」


魔法使い「げほっ…!」ビチャビチャ

魔法使い「はあっ、はあっ」

魔法使い「気に食わないん、ですよねぇ」

魔法使い「自分だけ、望みを叶えてゆく、貴女が、ね…」

魔王「………魔法使い」

魔法使い「誰が、お前などに」

魔法使い「僕の心の深淵を、覗かせてなるものか」

魔法使い「誰が………ッ!!」

400 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:41:31.17 ID:tpR/STzE0

炎獣「 グ ォ オ ォ オ ォ オ ! 」


魔法使い「………黙れ」

魔法使い「黙れ、けだもの…!」

魔法使い「…あらゆる英傑が、己を犠牲に歩んできた、この物語で…っ」

魔法使い「魔王…お前だけが、周囲を蝕みながら悠々と歩み続け…!」

魔法使い「そして僕の想いの全てまで、かどわかしてみせようというのなら!」


魔法使い「僕はそれに持てる全てを持って抗おう!!」


魔法使い「お前にはもう、僕を奪い取ることは出来ない!!」




魔法使い「…お前に出来ることは後ひとつ…っ!」



魔法使い「僕を、殺すことだけだ――!」





401 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:42:39.95 ID:tpR/STzE0



炎獣「 ガ ァ ッ ! 」 ギュン!

――ドシッ

魔法使い「ぐッ!!」


魔法使い(腹を突き抜けた)

魔法使い(守りを固めてもこれだ。ですが)

魔法使い(その腕、貰いますよ――)


魔法使い「切り裂け…っ!!」 ヒュ

ズバンッ!!

炎獣「 ア ガ ァ ッ ! ? 」








魔法使い『…ねぇ、武闘家さん』

武闘家『なんじゃ、ひょろひょろ』


魔法使い(僕の記憶を………っ、尚も奪おうというのか!!)

402 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:43:30.23 ID:tpR/STzE0

魔法使い『あなたは、どうして強くなるんです?』

魔法使い『肉体の限界を手に入れて………その更に先を見ようだなんて』

魔法使い『そんなことに、何の意味があるんです?』

武闘家『なんじゃあ? センチメンタルにでもなっとるのか?』

武闘家『あんまりワシを失望させるようなことを言うなよ』

魔法使い『いいじゃないですか、たまには』

魔法使い『僕、最近何のためにやってるのかなぁ、とか思っちゃうんですよね』

武闘家『そんなもん、ひとつしかないじゃろうが』

魔法使い『え?』

武闘家『………楽しいから、じゃ』ニィ





魔王(炎獣が、渾身の力で魔法使いを削り取る)

魔王(こぼれ落ちる想いの欠片が、断片的なものになってきた)

魔王(もう少し…もう少しで、彼の本心に辿り着けるのに…!)



炎獣「 ゴ ァ ア ッ ! 」

魔法使い「――ぐっ!!」

炎獣「 ガ ア ッ ! ! 」

魔法使い「ぜぇえッ!!」



魔法使い『商人さん。本当にいいんですか?』

商人『何?』

魔法使い『あなたが、悪者扱いされるようなやり方ばかりじゃないですか』

魔法使い『人は誰だって誉められたい生き物ですよ。こんなやり方で、本当に………』

403 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:44:21.79 ID:tpR/STzE0

商人『ふははははは! 何を言い出すかと思えば!』

商人『私を挑発しているのか? それとも頭を打ったか』

魔法使い『いえ、純粋な疑問なんですが』

商人『悪も正義もない。あるのは"私"だけだ』

商人『私が信ずるからこの道をゆく。そこに微塵の疑いもない』

商人『そもそも魔法使い。貴様の腹の内は読めんが………』

商人『貴様も、同じ穴の狢だろう?』

魔法使い『………そう。そう、でしたね』





魔法使い「はあッ…はあッ…!」

魔法使い「ここまで、きて、肉弾戦だなん、て…」

魔法使い「僕は、これでも、魔法使いって、名乗ってるんですが」

炎獣「 ガ ア ア ア ア ア ! ! 」

魔法使い「やれやれ、聞いちゃ、くれません、よね!」


ズッ

――ドォンッ!!



軍師『御苦労様でした。では約束の物は確かに。…このことは盟主様へは、内密にお願いします』

魔法使い『ええ、盗賊さんには黙っておきますよ。そもそも彼が僕の顔を覚えているか怪しいところですしね。…しかし』

魔法使い『再三お話ししましたが、その宝珠はあなたの死を引き金に爆発します。本当に宜しいんですね?』

軍師『構いません。これからの戦い、もしかすれば私の能力の及ばぬ事態に陥ることがあるかもしれませんから』

軍師『自爆だろうがなんだろうが、奥の手というやつは必要です』

魔法使い『…まったく、大した覚悟ですね。そんなにあの翼の団が大事ですか』

軍師『ええ。私の生命よりも、信念よりも』

軍師『あの場所が大事です』


404 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:45:14.30 ID:tpR/STzE0

魔法使い(言わせて貰えば)

魔法使い(僕の生命力は"鍵"を使うたびに削り取られ続けてきた)

魔法使い(木竜を殺した時。教皇相手に策を弄した時。最初に炎獣を倒した時。雷帝と氷姫を相手にした時)

魔法使い(少しずつ僕を蝕んできたこの"鍵"の力に耐えうるだけの余力は)

魔法使い(もう僕にはとっくに残されてはいない)



魔法使い「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…!」

炎獣「 グ ォ オ ァ ア ァ !」



魔法使い(出来ることならば)

魔法使い(この"鍵"で扉を開き、神々を名乗る者のそのご尊顔を、この目で拝んでやりたかったが)

魔法使い(どうやら)

魔法使い(それも叶いそうにないか)



405 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:46:08.41 ID:tpR/STzE0

炎獣「 ゴ ァ ア ァ ア ァ ア ッ ! ! 」

――――ドスンッ!!


魔法使い「うガっ………」ヨロ…





魔法使い(ああ、これは不味い)

魔法使い(いよいよもって回復が間に合わない)

魔法使い("鍵"の反動を、精神力だけで堪え忍んできたのも、もはやここまで)

魔法使い(対して炎獣の方はまだ余力が見える)

魔法使い(今度こそ)

魔法使い(今度こそ終わるのか)

魔法使い(僕の生が)



兄『俺が魔王を討つ。必ずだ』

魔法使い『ご武運を』

兄『………貴様らには俺でさえ計り知れんものがある』

兄『俺が例え…その駒のひとつにしか過ぎなかったのだとしても』

魔法使い『!』

兄『必ず意味のあるものにしてくれ…』

魔法使い『………』

魔法使い『分かりました』

482.71 KB Speed:0.2   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)