国王「さあ勇者よ!いざ旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」完結編

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206 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:11:47.64 ID:ts4DPW7U0

魔法使い「おやおや?」

魔法使い「あなたの太刀筋って、こんなものでしたっけ?」ググ…

雷帝「…っ!?」

雷帝(完全に、受け止められた…!!)

魔法使い「実感しましたか?」

魔法使い「術は解けて、 邪神の加護は魔王の元に収束したんですよ」

魔法使い「あなたにはもう先程までの力はありません」

魔法使い「夢は、醒めたんですよ。雷帝」

――バキッ!

雷帝「ぐはッ!?」


氷姫「ら、雷帝!」

氷姫「ちぃっ!」オォオォ…

魔法使い「ほう。僕ごと全てを凍てつかせるつもりですか」

魔法使い「でも、そんな大それたことが…あなたに出来るんですか?」

氷姫「何を――」

氷姫「!?」

氷姫(思うように、魔力がコントロール出来ない…っ!?)

バチバチバチ…

パァンッ!

氷姫「ぁうっ…!」

魔法使い「…やれやれ。魔力を操り切れず暴発ですか。四天王とは思えない体たらくですね」

207 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:14:04.12 ID:ts4DPW7U0

氷姫「…こ、こんな」

氷姫(こんなこと………っ)

魔法使い「まだ認められませんか、氷姫」

魔法使い「あなたがこれまでの戦いで人間を裁いてきた力は、仮初めの力だったのですよ」

氷姫「………!!」

魔法使い「木竜が死した時、その一人分の力の還元には堪え忍んだ魔王ですが」

魔法使い「炎獣が死に、秘密が暴露されたことによって冥王の術が解かれ、あなた達の分の力も一気に身体に戻ったことで」

魔法使い「…壊れちゃったみたいですねぇ」



魔王「――あぐ」

魔王「うぐ――」

オォオォオォオ…


氷姫「魔王…っ」

氷姫「魔王ぉ…!!」

氷姫(…駄目っ…! このままじゃ魔王が、魔王が…っ!!)

氷姫(――助けて、炎獣 )



炎獣「」


氷姫「炎、獣…」

氷姫「………」

208 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:14:54.53 ID:ts4DPW7U0


氷姫(………そんな)

氷姫(炎獣が)

氷姫(魔王が)

氷姫(私達の積み上げてきたものが)

氷姫(全部………全部、一瞬にして)


氷姫(消え失せったって、言うの………?)


氷姫「………………」


魔法使い「さて、抵抗しないのであればあなたも後を追うことになりますが?」


氷姫(………………か)





氷姫(勝てない)






氷姫(私は、こいつに)



氷姫(勝て、ない…)



209 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:19:13.78 ID:ts4DPW7U0

魔法使い「絶望しましたか。無理もありませんね」

魔法使い「まあ、私はただ、あなた達が勇者一行に与えてきた絶望の」

魔法使い「その逆を与えたに過ぎないのですがね」


氷姫「…」

氷姫「…」パキ…

氷姫「…」パキパキパキ…


魔法使い「ん?」


氷姫「…貫けッ!!」ォオ…!

――パキィンッ!!

ドスッ

魔法使い「………」

魔法使い「氷の槍…。そうですか」

魔法使い「こんな事態に陥っても、まだ戦う意思を捨てませんか。氷姫」

氷姫「…はあ…っ、はあ…っ」ブルブル

氷姫(………畜生! 震えるな…っ)ブルブル

魔法使い「…ふむ、それもよいでしょう」

魔法使い「あなたが冥王の元で魔術を修めた実力は、嘘偽りない本物ですしね。それは天才の域といっても過言ではありません」

魔法使い「それに、あなたも」

魔法使い「先代の頃からの四天王…謀略の逆巻く魔界で、魔王を守り生き残ってきた武人ですものね」

魔法使い「雷帝」

雷帝「………」ズブ…


魔法使い「あはは。後ろからひと突きにされちゃいましたか。油断しましたかね」

210 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:20:20.50 ID:ts4DPW7U0

魔法使い「でも今の僕って、ちょっと生半可じゃないくらい強いですよ」

魔法使い「イカサマを働いたんじゃないかってくらいにはね」

雷帝「………」

雷帝(こいつ… !)

魔法使い「実際、裏技を使いましてね。ちょっとやそっとじゃ、もう僕は死にません」ググ…

雷帝「剣を…!」

雷帝(掴んで引き抜いただと! 物凄い力…!)

魔法使い「僕って元々結構強いんですけどね」

魔法使い「今なら、こんなことも出来ちゃいますよ」チョイ

オ オ オ オ オ オ オ … !


211 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:23:19.30 ID:ts4DPW7U0

氷姫「な、何…!?」

氷姫(王城が………!!)

雷帝「人間の、城が………」

雷帝「………形を、変えていく…!」



ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…!!



魔法使い「王城は、せかくあなた達が目指してきたラストダンジョンですから」

魔法使い「雰囲気があった方がいいでしょう?」

魔法使い「といっても人間の本拠地ですから、魔王城みたいな禍々しい感じよりは、こういう方が性に合っていると思うんですよ」

魔法使い「どうです? お気に召しましたか、四天王」



魔法使い「これが………かつての古代王朝都市の技術の賜物」


魔法使い「――"機械城"です」



雷帝「機械、城…!?」

雷帝(眩い光をあちこちから発して、吹き出す蒸気が靄を産み出している…。それに)

氷姫「…空に、浮いた…!!」

氷姫「こんな、巨大なものが…っ!?」


魔法使い「ああ、しまった」

魔法使い「まだ国王や女王が中に居たんでした。無事でしょうかねえ」

魔法使い「まあ、どうでもよいことと言えばそうなんですが」

212 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:24:54.94 ID:ts4DPW7U0

雷帝「貴様が………」

雷帝「貴様がやったのか、これを…!」

魔法使い「――雷帝、氷姫」

魔法使い「戦えるのは最早あなた達二人だけのようですが、それでも僕を討ち取ろうと言うのであれば」

魔法使い「僕はあそこで待っていますよ。まあ、今のあなた達じゃあご足労頂いても返り討ちだと思いますけど」

氷姫「ま、待てっ!」

魔法使い「せいぜい、頑張って下さい…」スッ

ヒュウゥン…!

雷帝「…!」

雷帝(転移か………)


氷姫「………な」

氷姫「なんなのよ」

氷姫「なんなのよあいつ………」


氷姫「――………ッ!!」ギュウッ



雷帝「………………」






氷姫「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ…!!」










213 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:28:27.42 ID:ts4DPW7U0




オォオォオォオ…

魔王「――」

魔王「あ――」

魔王「――ぎ」


雷帝「魔王、様…っ」

雷帝(自我を喪失されている…! 瞳は開いてはいるが…、恐らくあそこには何も映し出されていない)

雷帝(波動の激流が渦巻いて…今の私では)

雷帝(近寄ることすらままならない)

雷帝「………」

雷帝「炎獣…」

炎獣「」

雷帝(………冷たい。あの、炎獣の身体が…)

雷帝「………」

雷帝「失ったのか、私は」

雷帝(――またしても)


氷姫「…」

氷姫「ねえ」

氷姫「雷帝」

氷姫「………教えてよ」

氷姫「あたし達、どうすればいい?」

214 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:29:24.50 ID:ts4DPW7U0

氷姫「もうあたしには分かんない」

氷姫「魔力が…いつもみたいにみなぎってこないんだ」

氷姫「あいつの言葉は全て本当で」

氷姫「あたし達の全部は………」

氷姫「――間違っていたの?」


氷姫「だから、こんな風に」

氷姫「負けちゃったのかなぁ………あたし達 」


雷帝「………」

雷帝「負け、か」

雷帝「そうだな。…これは、敗北に他ならない」

雷帝「炎獣を失って………魔王様を救う手立ても分からない」

雷帝「我々自身が練り上げてきたと思っていた力を失った」

雷帝「側近に………魔法使いに、我々は屈した」





雷帝「でも、不思議だな」

雷帝「私の足は、それでも前に進もうとしている」

215 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:31:36.50 ID:ts4DPW7U0

氷姫「………あんた」

雷帝「大事なものの多くを一度に失い過ぎたせいで麻痺しているのか」

雷帝「元々私は、こうすることしか出来ない生き物なのか」

雷帝「………"ここまで進んできて、止まれない"」

雷帝「私を突き動かすのは、その思いだけなのだ」

氷姫「………」

雷帝「ああ、進む先には絶望しかないのかもしれない」

雷帝「あんな計り知れない力を持つ魔法使いに」

雷帝「………きっと我々は勝てない」


雷帝「それでも私は進む」

雷帝「あの機械城へ」


雷帝「――私は行く」


氷姫「………」

雷帝「………」

氷姫「………」


氷姫「あたしも」

氷姫「………あたしも、行くわ」

216 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:32:04.80 ID:ts4DPW7U0



冥王「子猫さんたちは人間の王国の懐深く………」

冥王「四天王が死んだり勇者一行を殺したり、大忙しのてんてこまい」

冥王「………ああ、こんな日はお茶が美味しいわ」

冥王「さてはて、そろそろお前さんが舞台に上がる番ですのよ」


冥王「――魔法使い」


冥王「教えて差し上げなさいな。無知な子猫さんたちに」

冥王「世界の、真実を」

冥王「…ああ、でも。お前さん、自分のこととなるとてんで口下手なもんだから、ろくすっぽ語れはしないんでせうね」

冥王「そうですのね。誰かさんを呼び出してお話ししてもらうといふのが一番かしら」



冥王「例えば、過去の亡霊さんなんかに、ね………」






217 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 20:48:58.94 ID:ts4DPW7U0



雷帝「………」

氷姫「………」


雷帝「…辿り着いた」

雷帝(機械城の真下。しかし、これは…)

氷姫「………地面がえぐれて、更地になってる 」

氷姫「あれ、本当に浮いてんのね」

雷帝「…ああ。どういう仕組みか、想像もつかんが」

雷帝(………おそろしく巨大な建物。人間界にも魔界にも、こんなものを実現できるだけの文明が起こり得たことなどない)

雷帝(しかし…奴はこれを"古代王朝都市"と言った)

雷帝(かつて…人間の歴史上に、ここまでの技術と叡智を持ったものが存在したというのか…?)

氷姫「雷帝」

氷姫「転移であそこまで行くわよ。捕まって」

雷帝「氷姫」

氷姫「…何よ?」

雷帝「私に無理に付き合う必要はない。死ににいくようなものだ。………いいのか?」

氷姫「…死ぬにしたってね」

氷姫「ここまで来て、棒立ちでってのはごめんなのよ。倒れるときには、前のめりに倒れてやろうって」

氷姫「今は、そう思う」

雷帝「………そうか」

氷姫「捕まって」

雷帝「ああ」

ヒュウゥン…!

218 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 20:50:11.20 ID:ts4DPW7U0

雷帝「…ここが、正面か」

雷帝(ますます受け入れがたい造形だ。見たことのない材質、浮かび上がる文字…)

雷帝「一体どうなって………!」

氷姫「ぜっ…はっ…」

雷帝「氷姫…!」

氷姫「だ…大丈夫よ。ちょっと、疲れただけ…」

雷帝「…っ」

雷帝(今までの氷姫であれば、転移の一度や二度は軽々とこなしていた…だが)

氷姫「…は…はは」

氷姫「泣けてくるわね。これが、本来のあたしってわけ?」

氷姫「魔王から…邪神の加護を分け与えられていたから、悠々とやってこれたに過ぎない」

氷姫「…信じたく、ないものね…」

雷帝「…」

雷帝「少し、肩を貸してやる」

氷姫「…はは。さんきゅ」

219 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 20:51:49.09 ID:ts4DPW7U0

雷帝「…」スタスタ

雷帝(正面には、豪奢な門らしきものが見える。重厚な威圧感すら醸しているこれを…さて、どうやって突破するか)

氷姫「ぶっ壊して中に入る?」

雷帝「…今となっては、力はなるべく温存するに限るだろう。この奥で待っているのは、あの魔法使いだ」

氷姫「…そうね」

雷帝(それに、情けないことに私は)

雷帝(未知の技術の前に、自分の技が通じるのか………その自信がない)


門『――生命体を感知』


雷帝 氷姫「!!」


門『確認、照合します』ピピ…


氷姫「なっ…」

雷帝(何だ…!?)


門『確認完了。93パーセントの確率で人間と認められました』

門『お入りください』


ゴゴゴゴ…!

220 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 20:53:17.83 ID:ts4DPW7U0

氷姫「なんなわけ、これ…!?」

雷帝「…」

雷帝(確かに声が聞こえた…。が、生き物の気配がするわけではない)

雷帝(それに、今私達を"人間"と言ったか?)

雷帝「…ふっ」

雷帝「もはや、考えても分からんことだらけだ。どうあれ、進むしかあるまい」

氷姫「…ったく。薄気味悪いったらないわよ」

雷帝「行くぞ」





機械城
エントランス


氷姫「うっ…! 眩しい…」

雷帝「外よりも、中の方が明るいのか。建物の中とは思えん。配色の様々な光源が、照らしている…」

氷姫「にしても広いわね。どうすんの?」

雷帝「…あそこの螺旋階段を登ってみよう」

氷姫「まあ、あいつはこのいかれた建物の上の階にいるかもってのが、妥当な線か」

雷帝「勘でしかないがな」

氷姫「ふふ。あんたらしくないわね」

雷帝「仕方ないだろう」

氷姫「…」

氷姫「肩、ありがと。もう平気よ」

雷帝「…そうか」

221 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 20:55:03.87 ID:ts4DPW7U0

氷姫「ねえ、雷帝」

雷帝「…」

氷姫「あんた、魔王に惚れてたでしょ」

雷帝「………」

雷帝「阿呆。なんで今、その話をする」

氷姫「そりゃ…もうこの先」

氷姫「こんな話をするチャンスが無さそうだからよ」

雷帝「…」

雷帝「…はあ。お前というやつは」

氷姫「で、どうなのよ」

雷帝「惚れていた、のではない」

氷姫「え?」

雷帝「…今でも慕っている」

氷姫「はは!」

氷姫「そうですか。そりゃ結構なことで」

雷帝「聞いておいて笑うな」

氷姫「ごめんごめん」アハハ

222 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 20:56:00.50 ID:ts4DPW7U0

氷姫「でもさ、魔王なんてあんたが四天王の頃で赤ん坊だったんでしょ? 歳の差どんだけあると思ってんのよ」

雷帝「うるさい。魔族の寿命からして不自然なものでもないだろうが」

氷姫「ま、そうだけどさぁ」

雷帝「…お前はどうなんだ」

氷姫「あん?」

雷帝「炎獣に…惚れていたろう」

氷姫「…はは」

氷姫「そうだねぇ、うん」

氷姫「惚れてたよ」

氷姫「…」

氷姫「あたしは馬鹿だから、いつもそれは伝えられなかったけど」

氷姫「………結局、最後まで」


氷姫「伝えられなかったけど」

223 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 20:57:39.06 ID:ts4DPW7U0

雷帝「………」

雷帝「伝えたところで、痛い目を見るだけだ」

雷帝「私達がな」

氷姫「………はっ」

氷姫「ははっ。言うわね、あんた」

氷姫「なんだ、そういうのにはとんと無関心そうな顔して、気づいてるんじゃない」

雷帝「当たり前だ。何年、魔王様と炎獣と、過ごしてきたと思っている」

氷姫「そっか。そうよねぇ」

氷姫「…ま、当の本人達が鈍そうだけどね」

雷帝「ああ、そうだな」

氷姫「………」

雷帝「………」

氷姫「ねえ」

氷姫「終わっちゃうのかなぁ」



氷姫「あたし達の、全部」

224 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 20:58:43.06 ID:ts4DPW7U0

雷帝「………我々が魔法使いに負ければ、魔王様を元に戻す方法は失われる」

雷帝「そもそも、我々はその時点で死んでいるだろう」

雷帝「全滅は必死だ」

雷帝「私達は………勇者の元に辿り着くことなく、破れ去ったということになる」

氷姫「………」

氷姫「…はは」

氷姫「あーあ。聞くんじゃなかった」

雷帝「………すまない」

氷姫「…?」

雷帝「炎獣のように、お前を勇気づける言葉は…私からは出てこないようだ」

氷姫「…」

氷姫「馬鹿」

氷姫「期待しちゃ、いないわよ」

雷帝「…そうか」

225 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 21:24:48.69 ID:ts4DPW7U0

雷帝「…さて」

雷帝「気づいているか?」

氷姫「ええ。ここを上がったところね」

氷姫「――誰かいる」

雷帝「ああ」

氷姫「…魔法使い?」

雷帝「さあ。奴は己の気配すら自在に変化させる。もはや我々には推し量ることは出来ん。…が」

氷姫「…息遣いが聞こえる。女…? ずいぶん、弱っているみたい」

雷帝「油断するなよ」

氷姫「ええ。行くわよ」




機械城
メインフロア


くノ一「…はぁ…はぁ…」


雷帝「…!」

氷姫「人間…」


くノ一「…来た、な…」

くノ一「魔王四天王」

226 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 21:26:57.20 ID:ts4DPW7U0

雷帝「貴様は…」

氷姫「雷帝、知ってるの?」

雷帝「見覚えがある。確か、王国建国の儀式で見かけたな」

くノ一「ふふ…。雷帝。あなたが来るなんて、これも縁か」

雷帝「………満身創痍だな。人間の貴様が、何故そんななりでそこにいる?」

くノ一「負けたのだ。魔法使いに」

くノ一「いえ…正確には彼のしもべに」

氷姫「魔法使いが、人間を狙ったっての? …あいつ」

くノ一「何を考えてるか、分からない…か?」

くノ一「奴は狂ったのだ。いや、元々狂っていたのか」

くノ一「全ての始まりは、奴が真実を知った時…だったのだろう」

雷帝「…何だと?」

くノ一「魔王四天王」

くノ一「あなた達には、魔法使いを倒してもらう」

227 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 21:28:43.43 ID:ts4DPW7U0

雷帝「………」

氷姫「あんたに言われずとも、こちとらそのつもりよ…!」

くノ一「…と、言うよりは、もうあなた達にはそれしかない…といったところかな」

氷姫「!?」

くノ一「あなた達二人しか現れなかった…ということは、後の二人の四天王は既にどこかで魔法使いに倒されたのだろう」

くノ一「魔王も、おそらく戦える状態ではない。違うか?」

雷帝「…だとしたら、何だ?」


くノ一「………魔法使いは」

くノ一「魔王を操るつもりだ」


雷帝「…っ」

氷姫「!!」


くノ一「今この時も、魔法使いは魔王の精神を、乗っ取りにかかっている」

くノー「あの男のことだ。抜かりなく魔王の心を無防備な状態に辱しめてから、事に当たるだろうな」

くノー「果たして魔王がどれだけ抵抗できるか」

氷姫「く…っ!」

雷帝(今の魔王様の精神は剥き出しの危険な状態だ…! だが、我々には魔王様に触れることすら出来ない)

くノー「あなた達が取れる道は多くない。魔王が魔法使いに支配されれば…世界がどうされるか分かったものではない」

くノー「絶望的な戦いであったとしても…あなた達には魔法使いに挑んでもらうしかない、というわけだ」

228 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 21:29:51.58 ID:ts4DPW7U0

くノ一「とにかく、急いでくれ」

くノ一「奴はもう、鍵を持っているのだから」

雷帝「鍵、だと…?」

くノ一「私は、しくじった。一度手に入れた鍵を、奴に奪い返されてしまった」

くノ一「王城が、こんな風にされてしまって………もう、両陛下が無事かどうかすら、分からない」

くノ一「もう私には、あなた達四天王に賭けるしかない…」

雷帝「………お互い」

雷帝「もはや後がない、というわけか」

氷姫「………」

雷帝「行くぞ、氷姫」

氷姫「あ、ちょっと!」


くノ一「魔法使いは、その門の先にいる…が」

ピピ…

門『ゲートはロックされています』

門『合計4パターンのシステムクリアを実行してください』

229 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 21:32:13.90 ID:ts4DPW7U0

氷姫「はあ? 何よ、これ」

くノ一「言わば、封印だよ。それを解くには、別の場所で解放を行わなければならない」

雷帝「別の場所…。他に、二つの門があるな」

雷帝「こちらに先に行けということか?」スタスタ

氷姫「ちょ、ちょっと雷帝! そんなワケの分からないものにホイホイ近づいたら…!」

雷帝「だからと言って、ここで頭を悩ませていてもどうせ解決にはなるまい。私はこちらを潜る。お前はそっちを」

氷姫「…っ」

雷帝「分かっている。危険な行動だと言うことは」

雷帝「けれど今は、足を止めていたくない。そうしてしまったら、もう進めない気がするんだ」

雷帝「お前のように、私は強くないからな」

氷姫「………違うっ」

氷姫「あたしは…っ!」

雷帝「最後の一歩だとしても、踏み出していたいのだ」

雷帝「――進んだ先で」

雷帝「また会えると、信じている。氷姫」

『サブゲートAに、生体反応。転送を開始します』

『転送先確認。下層研究ホール。スタンバイ』

『転送』

氷姫「雷帝…!!」

ヒュウゥウ…ン

230 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 21:33:54.50 ID:ts4DPW7U0

氷姫「…ふざけんな」

氷姫「あたしは、強くないんだよ」

氷姫「全然、強くなんか、ないんだ」


氷姫「畜生…」


氷姫「………」


『サブゲートBに生体反応。転送を開始します』

『転送先確認。都市展望台。スタンバイ――』


ヒュウゥウ…ン






くノ一「…あなた達にかかっている」

くノ一「魔法使いが、世界を変えてしまう前に」

くノ一「お願い………」


231 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 21:34:46.24 ID:ts4DPW7U0


ヒュウゥウン


雷帝「…」

雷帝(どうやら、着いたな。どこへ着いたのかは知らんが)

雷帝(転移魔法と似たような仕組みか。しかし、魔力は微塵も感じなかった。つまりは、からくりの一種だと言うことか?)

雷帝「………ずいぶん開けた場所だ」

雷帝「ここは…」


「やはり、来たか」

「お前は勇気のある男だよ」


雷帝「…なッ………!」

雷帝「――なぜ…!?」

雷帝「なぜ、あなたが、ここに………ッ!?」


「驚くのも無理はないな。お前の記憶が正しければ、私は既に死んでいる」

「案ずるな。その事実は正しい。しかし…」

「…魔法使いが手にしたものというのは、生と死の境を曖昧にすることだって可能にするほど莫大な力を有する物なのだ」

「ひねりのない話だとは思わんか?」


先代「けれど私は、甦った」

先代「さあ、剣を取れ。雷帝」





232 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 21:37:57.01 ID:ts4DPW7U0





氷姫「はっ…はっ…!」

氷姫(危ない…っ! 一瞬でも反応が遅れたら、斬られていた)

氷姫(こいつ…っ!!)


「おや、魔術師とは言え反射神経も大したものだな」

「一筋縄ではいかないか。まあ、痩せても枯れても魔王四天王だしな、そのくらいでなくては」

「時間もないし、とっとと続きをしないか?」


女勇者「本気で殺り合えよ。四天王」


233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/12/23(土) 21:42:02.13 ID:ts4DPW7U0
>>224
雷帝「私達は………勇者の元に辿り着くことなく、破れ去ったということになる」

○雷帝「私達は………勇者の元に辿り着くことなく、敗れ去ったということになる」

今日はここまでです
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/23(土) 23:54:26.01 ID:HoRBdsWA0

いっきに減ったな〜
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/24(日) 03:40:49.21 ID:Yy+vSgcDO
来てたー!
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/24(日) 10:24:26.25 ID:CcE+1TLBo
おつ
待ってたで〜
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/23(火) 11:31:24.56 ID:KY5C29a/O
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/23(金) 00:13:28.26 ID:f3DmMDSA0
舞ってる
239 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 12:41:08.70 ID:Ho8YDfJf0




魔王「………ここは、どこだろう」

魔王「確かな感覚があるようで、空気と溶け合ってしまったような」

魔王「匂いと音に包まれて目覚めたような、眠ってしまったままのような」

魔王「自分の気配が、ひどく曖昧だ…」

魔王「大きな力に押し流されて、途方もなく遠いところに来てしまったみたい」

魔王「私には………為さなきゃならないことがあったはず」

魔王「とても大切なことを忘れてしまってる気がするのに………今は、何も思い出したくない」

魔王「帰りたい。皆と過ごした、あの魔王城に」

魔王「私を連れていって…」





〈魔王の心の魔王城〉


魔王「…!」

魔王「ここは…魔王城…?」

魔王「本当に来れた…!」

魔王「うふふ…素敵!」

魔王「この世界では、私が思った通りのことが起こるんだ…!」

魔王「きっと、こうして玉座に座っていれば、爺が朝の挨拶に来てくれる…」

ギィ…

木竜「…姫様」

240 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 12:52:54.42 ID:Ho8YDfJf0

魔王「ほらね!」

魔王「おはよう、爺。炎獣はどこ?」

魔王「雷帝や氷姫は今日も忙しいかな? 炎獣、訓練だって言って城を壊したりしてないといいけど…」


木竜「姫様」


魔王「…爺? どうしたの、恐い顔をして」

木竜「…伝令から知らせが入りました」

魔王「え………?」


木竜「――勇者が」

木竜「勇者が攻めてきました」

241 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 12:54:07.93 ID:Ho8YDfJf0


魔王「!?」


木竜「本日未明、魔界大陸の最前線基地に、勇者一行が出現」

木竜「我が魔王軍の本体は、彼らの出現から半時で全滅しました」

木竜「彼らはたった七人の精鋭部隊」

木竜「勇者と、商人、武闘家、盗賊、戦士、僧侶、魔法使い」

木竜「勇者一行は近隣の拠点を蹂躙」

木竜「………その猛進凄まじく、我らが魔王城まであと数刻」


魔王「………ま」

魔王「待って…! これは、何!?」

魔王「これは一体何の…!!」


伝令「し、失礼します!」

木竜「………今度はなんじゃ?」

伝令「勇者撃破に向かった、四天王最強の武闘派、炎獣殿の隊より知らせです!!」


魔王「………え?」


伝令「炎の四天王、炎獣殿は…!」

伝令「勇者一行との激烈な死闘の末………!!」



伝令「壮絶な討ち死にを遂げられました………っ!!」








魔王「な………」

魔王「………何を」



魔王「…………何を言っているの………?」




242 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 15:26:46.23 ID:Ho8YDfJf0

〈下層研究ホール〉



雷帝「先代様…!!」

雷帝「まさか、あなたが…――魔法使いのしもべにされていると言うのですか…!!」

先代「そういうことだ」

先代「今の私は、魔法使いの意にそぐわない形では生きられない」

雷帝「…っ!! あなたほどのお方が…っ」

先代「ふふ。雷帝よ。真面目な男だな、お前は。私の分までそうして口惜しそうにする」

先代「私はよい部下を持ったものだ。…だが」チャキ…

雷帝「――!」

先代「悲しいかな、私の役目は"お前を倒すこと"にある」

先代「私とて、出来れば二度も死にたくないのでな」

先代「お前を、倒す」

先代「構えよ」


243 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 15:48:51.83 ID:Ho8YDfJf0

〈展望台〉


女勇者「シッ!」ドンッ

ヒュドッ!

氷姫「くっ…!」


女勇者「どうした、四天王! 逃げてばかりでは私は倒せんぞ!」

氷姫(速い…! とんでもない身体能力だ…っ!)

氷姫(魔法を撃とうにも、あっという間に間合いを詰められる! このままじゃ、いずれ殺られるっ!)フワッ…

女勇者「お? 宙に逃げたか」

女勇者「魔術師ならではだな。剣士にとっては些か辛い土俵ではあるが」

女勇者「しかし」ダンッ!

氷姫(跳んだ! よし、このまま空中で仕留めて――)

女勇者「私に少しも魔法の心得がないと思ったか?」ヒュオ…!

ドヒュンッ!

氷姫「光弾!?」

氷姫(遠距離魔法も使うのか! くそ…っ!! 躱すには距離が近過ぎ――)


ドォオン…!


女勇者「これでも、かつて勇者をしていたものでね。それなりに色々と扱うんだよ」

女勇者「うかうかしていると、すぐに終わってしまうぞ? お前の旅は」

女勇者「なあ、氷の四天王よ」

244 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 15:49:26.32 ID:Ho8YDfJf0

ヒュウゥウ………

女勇者「む?」

女勇者(上空から、何か舞い落ちるように降りてきた。霜か、これは)

女勇者(霧に包まれたように辺りが真っ白だ…)

女勇者「なるほど、一時的に視界を奪って騙し討ちにするつもりか。…ふむ。これは困った」

氷姫『…先代勇者』

氷姫『何故あんたが、魔法使いに与する? 人間にとっても、最早魔法使いは驚異のはずよ』

女勇者「お、情報収集か? 有利な状況に持ち込んで余裕が出たか」

氷姫『答えなさい』

女勇者「…ふふ、いいだろう。付き合ってやる」

女勇者「私とて、あんな陰気者の駒使いなど真っ平ごめんなんだよ。しかし、一度死んだ私を甦らせた魔法使いは、私の心臓を握っている」

女勇者「歯向かえば、死、というわけさ。…納得して貰えたか?」

氷姫『………』

女勇者「信用できない、か?」

女勇者「しかし考えてもみろ。奴は王城を指先ひとつで、このケッタイなからくり仕掛けの要塞に早変わりさせたくらいだぞ」

女勇者「死者を甦らせったって、不思議じゃないと思わないか?」

245 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 15:50:30.17 ID:Ho8YDfJf0

氷姫『…そんな力があるなら』

氷姫『何故最初から私達をその力で討たなかったの?』

女勇者「さあな。奴にも色々事情があるんだろうよ」

女勇者「それに、あの力は最初から持っていたわけではない。完成させたんだよ」

女勇者「勇者一行が、お前たちの足止めをしている間に」

氷姫『完成させた…?』

女勇者「どうやら連中は、それを"鍵"と呼んでいる」

女勇者「この世のあらゆる秩序を狂わす反則級の代物さ。ある意味、奴らの女神なんぞよりもよっぽど恐ろしい」

氷姫『………』

氷姫(鍵…。確か、あの人間の女もそんなことを…)

――くノ一「私は、しくじった。一度手に入れた鍵を、奴に奪い返されてしまった」


女勇者「聞きたいことはそれだけか?」

氷姫『………あんた。魔法使いを、まるでよく知っているみたいに話すわね』

氷姫『あいつの、何を知ってるの』

女勇者「何かと思えばそんなことか。私と奴の関係?」

女勇者「………そうだな。私にとってあいつは」

女勇者「友の、仇だよ」


246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/10(土) 19:16:43.51 ID:UZ1PPoTA0
おつ
247 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:18:28.77 ID:Ho8YDfJf0

〈下層研究ホール〉


先代「行くぞ」

先代「雷帝」コォオ…

雷帝「…」ゾッ

雷帝(先代様…。本気だ)

雷帝「くっ…」チャキ…

先代「そうだ。それでいい」

雷帝(――来る)


先代「」 ゴ ッ

雷帝「」 ギ ュ ン ッ


――ジャキィッ!!


248 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:19:12.66 ID:Ho8YDfJf0

雷帝「…っ」ギリギリ…

先代「ふっ。ははっ!」ギリギリ…

先代「受け切るとはな、雷帝。大したものだ」

先代「私が死した後も、相当の研鑽を重ねたようだな」

雷帝「くっ…」

雷帝(強い…っ。だが、見えなくはない…!)

先代「………私とて、既に邪神の加護は失われている」

雷帝「!」

先代「アレがなければ、私の実力などこんなもの、と言うわけだ…」

雷帝「…っ、邪神の加護…!」

先代「お前にとっても、邪神の加護はまやかしであったのだろう」

先代「しかしそれでも、お前本来の力を信じよ。…そうでなくては私は倒せん」

雷帝「…!」グラッ


先代「――破」

ズンッ…!

249 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:19:50.34 ID:Ho8YDfJf0

雷帝「ぅくっ…!!」

雷帝(桁違いの、圧力だっ!)


先代「斬」ギュン!!

 ズ バ ッ !

雷帝「ちっ…!」


先代「魔族としての血を思い出せ」

先代「相手を制し、勝利する欲求を」

先代「奥底に眠る力の解放を」


先代「番人を倒すことすら出来ねば」


先代「お前達に未来はない」



 ドォッ――!!



250 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:20:37.03 ID:Ho8YDfJf0

〈展望台〉


氷姫『番人…ですって?』

女勇者「そうだ。私と、他に三人の番人がいる」

女勇者「そいつらを倒せば、魔法使いへの道は開かれる、というわけだ」

氷姫『…』

氷姫(ふざけてる)

氷姫(魔法、使い…試すような真似をしやがって…!!)

氷姫(上等よ…っ!! なら、あたしは)

氷姫(その番人とやらを、倒すだけよ!!)

ヒュオォ…!

女勇者「おっ。ようやくやる気になったか。待ちくたびれたぞ――」

氷姫「はァッ!」ォオ…!

女勇者「!!」

ゴォッ!

女勇者(冷気の結界を纏った体当たり…!?)

女勇者(ぶち当たれば一撃で致命傷だな…! 霧のせいでどこから来るか分からんのも厄介だ…!)

女勇者(だが…)

氷姫「ちっ…躱された!」

氷姫(勘の良い女ね! だけど、そいつが何度も続くか…!!)

氷姫「喰らえ…ッ!」

ゴッ――

女勇者「ここだ!」ヒュッ!

氷姫「!?」パキィンッ!!

251 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:21:46.09 ID:Ho8YDfJf0

氷姫「ぐあっ…!?」

氷姫(攻撃を当てられた!? 糞、なんで…!)

女勇者「たいした大技だが、魔力が充分ではないな!」

氷姫「…っ」ヨロ…

女勇者「もう貴様には、今までのように邪神の加護はないのだ! とっくに見放された存在なんだよ!!」

女勇者「そいつを認められなかった一瞬の甘い判断が」

女勇者「貴様の敗因だ!!」

氷姫(不味い、回避が間に合わな――)


ズドッ!!

252 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:22:37.33 ID:Ho8YDfJf0

〈地下研究ホール〉


先代「突」


ザンッ!!


雷帝(っ! 刃圏が広い!!)

雷帝(もっと反応速くしろ!! そうしなければ)

雷帝(斬られる!!)


先代「まだだ」

先代「まだ、遅い。雷帝」


ス パ ッ


雷帝「!!」

雷帝(ぐっ…!! 足をやられた!!)

雷帝「くそっ…!」


先代「…思うように体が動かないか?」

先代「無理もないな。今までお前の肉体と神経は邪神の加護に限界まで高め上げられていたのだから」

雷帝「………」

雷帝(…思い、知る…。私達は本当に)

雷帝(自らの能力で戦ってきたわけではないのだ)


先代「………四天王に絶大な力を分け与えてなお、魔弓を扱うだけの力を残した」

先代「あの子にもたらされた邪神の加護は、計り知れない。只の人間が、そんなものに敵うはずもない」

先代「お前達がしてきたのは、そういう戦いだ」

雷帝「………っ!」

先代「………"魔族の勝利が、約束された戦い"」

253 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:23:50.73 ID:Ho8YDfJf0

雷帝「…私達はっ」

雷帝「まだ、勇者に勝利していません…!!」

先代「…なるほど、確かに」

先代「勇者を倒すのか、勇者に倒されるのか。それがはっきりするまで、命運は分からん」

先代「だが、反対に」

先代「魔王にもたらされる邪神の加護と、勇者にもたらされる女神の加護。そのどちらが大きいのか」

先代「戦いを決定付けるのは、只それだけではないか?」

雷帝「!?」

先代「この世界を支配してきたふたつの種族。人間と魔族は」

先代「神から与えられる加護の体現者である勇者と魔王の優劣に、深く依存をし続けてきたのだ」


先代「…その生の、全てをな」




254 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:25:05.53 ID:Ho8YDfJf0


〈魔王の心の魔王城〉



木竜「姫様」

木竜「お聞き頂いた通りですじゃ」

魔王「…っ!?」

木竜「炎獣は、勇者一行に敗れ申した」

魔王「え………炎獣が?」

魔王「………炎獣が、死…――」


魔王「そ…そんな………。そんなことがあるわけ………ない………!」

魔王「………だって、今まで………」

魔王「今まで一緒に戦って…………!!」


魔王「嘘よ………っ!!」

魔王「嘘ッ………!!」

ズキン…!

魔王「うっ…!?」



――炎獣「危ねえッ!!」

――炎獣「魔王ッ!!」バッ

――魔王「え…?」

―― ド ス ッ

――炎獣「がッ」

――炎獣「ふッ」

――魔王「………………え」

――魔王「………炎…獣………?」

――魔王「炎獣」

――魔王「炎獣ってば」

――魔王「ねえ、炎獣」ユサ…

――魔王「炎獣………」ユサユサ…



――炎獣「」ゴロン…




魔王「嫌だっ!」

魔王「違う違う違うっ!!」

魔王「そんなの嘘だっ!!」

魔王「炎獣が、炎獣が…っ!!」

魔王「炎獣が――」


木竜「…姫様」


255 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:25:55.32 ID:Ho8YDfJf0

木竜「勇者一行の力は…一線を画しておりますじゃ」

木竜「おそらく、炎獣が敗れたということは、魔界のどの勢力をもってしても勇者の撃破は絶望的。…が」

木竜「この爺めに、今一度機会をお与えくださいませぬか」

魔王「え………?」

木竜「この木竜。姫様のために、必ずや勇者一行に一矢報いて参ります」

木竜「死は覚悟の上じゃ。しかし、誰かがそうしてまでも反撃に出ねば、魔界はこのまま終わりを迎えまする」

木竜「儂が生きて戻ることはないでしょうが………それでも長年培った知恵と竜族の誇りは、魔界の誰にも劣りませぬ」

魔王「ま、待って…。待って、爺」

木竜「儂の死が、反撃の狼煙になるはずじゃと信じておりまする」

木竜「………全ては、我らの魔界のために」

魔王「いっ、行かないで!」

魔王「駄目っ! 行ったら死んじゃう!!」

魔王「爺、死んじゃうんだよ!!」

木竜「………姫様」

木竜「どうか、お気をしっかりと」

木竜「魔界のために、尽くしてくだされ」

魔王「爺!! 爺っ!!」

魔王「行かないでっ、爺!!」


ギィィィ…

――バタァン…!

256 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:26:51.49 ID:Ho8YDfJf0


魔王「そ………そんな………」

魔王「爺が………炎獣が………」

魔王「こ、殺され………」

魔王「………!」ハッ

魔王「氷姫は!? 雷帝はどこに…っ!」

魔王「ねえ!! 氷姫!! 雷帝!!」

魔王「………だ、誰もいないの?」

魔王「私達の魔王城に、誰も………!」


雷帝『………。…』

氷姫『………、魔王に………でしょ』

雷帝『阿呆。なんで今、その話をする』

氷姫『はは! …そりゃ結構なことで』


魔王「!」パァッ

魔王「氷姫っ! 雷帝!!」


氷姫『ねえ』

氷姫『終わっちゃうのかなぁ。あたし達の、全部』

雷帝『………全滅は必死だ。私達は………勇者の元に辿り着くことなく、破れ去ったということになる』


魔王「え…!?」


雷帝『………すまない。また会えると、信じている。氷姫』


魔王「ら、雷帝…!?」

魔王「どこへ行くのっ!? そっちは駄目!!」


氷姫『………畜生…』


魔王「氷姫!! 駄目だよ、行かないで!!」

魔王「殺されるっ!!」

魔王「皆、勇者に――」



魔王「殺されてしまうっ!!」




257 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:27:55.86 ID:Ho8YDfJf0

魔王「はあ…! はあ…!」

魔王「どうして…!! なんで………!!」

魔王「なぜ、こんなことに――」


《これは、仕方のないことなのですよ。魔王》


魔王「………!」


《勇者が現れ、彼が桁違いな力を示して魔界に攻め入ってきた。そんなことが起こっては》

《あなたの臣下は、それを命懸けで止めにかかるしかないのです》

《足並みを揃える暇さえない四天王は、勇者一行に各個撃破されるでしょうね》

《そうして勇者は、最後には魔王城に辿り着き》

《あなたの喉元へ刃を突きつけます》


魔王「ひ………っ」


《魔王。あなたはそれでも逃げることは許されません》

《仲間を全て失い、心臓を鷲掴みにされても尚》

《戦うことを強いられます》


魔王「やめて………」ブル…

魔王「…やめて、お願い………」…ガタガタ…


《ねえ、魔王。これでようやく、想像できましたか?》


《これが》

魔法使い《あなたが人間に与えてきた絶望です》

258 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:28:53.03 ID:Ho8YDfJf0

魔法使い《あなたは今までずっと搾取する側でいた。四天王と、力に任せて人間をねじ伏せてきました》

魔法使い《何故、そんなことが出来たんです?》

魔法使い《四天王が、あなたの持つ邪神の加護で力を増強されていたからですよね?》

魔法使い《あなた自身が、並外れた技を操っていたからですよね?》

魔法使い《なあんだ…。ただ邪神の加護がとってもいっぱい注がれていたから、だからあなたは勝っていただけじゃないですか》


魔法使い《――じゃあ、もし逆の立場だったら?》


魔法使い《勇者に、強い女神の加護が与えられていたら、あなたはどうなっていたんですか?》

魔法使い《………その答えが、これです》

魔法使い《あなたはただ、泣きながら戸惑い、仲間が失われていくのを眺めていることしか出来ないのですよ》

魔法使い《あなたの勝利は、邪神の気まぐれにしか過ぎない》

魔法使い《中身なんてひとつもない》



魔法使い《ただの、幸運でしかなかったのです》

259 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:29:46.50 ID:Ho8YDfJf0

魔法使い《…おや?》

魔法使い《逃げ出してしまいましたか…。魔王たる者が、ひどい体たらくですね》

魔法使い《さて、あなたが創り出した、この偽りの魔王城。そんなに逃げ場は多くありませんよ》

魔法使い《魔王!》

魔法使い《聞こえているんでしょう! 足掻くことを止めて、受け入れなさい!》

魔法使い《…くっくっく》

魔法使い《もう少し、ですねぇ…》





260 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:43:39.74 ID:Ho8YDfJf0



〈展望台〉


女勇者「………ふう。今一歩の所で逃したか」

女勇者「四天王め…。自分自身を堅固な氷で凍らせたのか」


氷姫「…」パキィ…ッ


女勇者「はっ!」ヒュッ

カァン…!

女勇者「…私の剣をもってしても、傷がつけられんとは」

女勇者「あの一瞬で大した魔法を使ったな。火事場の馬鹿力という奴か」

女勇者「しかし、どうしたものかな。こうなるとお前が自ら出てくるまで私は打つ手なし、というわけだ」

女勇者「…うーむ…」

女勇者「暇が苦手なタチなんだぞ…私は。あー、どこぞから色男が沸いて出て絡み合いを始めたりせんものかなぁ」

女勇者「私が現役勇者だったの頃は、イイ男が向こうからワラワラと寄ってきたもんだが」

女勇者「…」

女勇者「勇者か。全く、数奇なものよな」

女勇者「私は…先代魔王を倒した英雄として祭り上げられていた。だが、私自身が成し遂げたことなどどれほどあったことか」

女勇者「それを、旅が終わって女神の加護を失った時に改めて痛感したものだ」


女勇者「お前と同じだよ。氷の四天王」

女勇者「私個人の武勇など、語り継がれるべくもないのだ」

261 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:44:25.23 ID:Ho8YDfJf0

女勇者「…ひとつ、昔話でもしようか」

女勇者「私のひとつ前の勇者は、魔王と同士討ちになったそうだ」

女勇者「もうひとつ前は、魔王に勝って」

女勇者「さらに前の勇者は、魔王に負けた」

女勇者「勇者と魔王は、ずうっとそんな風に戦いの歴史を繰り返し続けている。それはこの世界で、人と魔族の生命活動の一端を担っている」

女勇者「魔王が勝てば人間の人口は激減し…逆もまたしかり。――皆、この恐ろしい綱引きを何の疑問も持たずに見守ってきた」

女勇者「…たった一人。魔界で生き延び続けてきた、その男を除いて」





〈下層研究ホール〉


先代「側近は」

先代「あの男は、魔王と勇者の戦いの渦の中心にいながらも、何百年も戦いを生き延び続けた」

先代「そうして奴は、魔王と勇者の戦いの意味を、考え始めたのだな」


雷帝「ちっ!」バッ

 ギィンッ! ガキィッン!

雷帝(隙が、ないっ!)

雷帝(一太刀浴びせることすら、叶わないのか…!!)


先代「…薙」

――ズババァ…ン!!

雷帝「ぐあ…っ!!」ガクッ

262 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:45:24.89 ID:Ho8YDfJf0

雷帝(くそ、もっとだ…)

雷帝(限界を、越えろ)

雷帝(思考に頼るな)

雷帝(斬れ。ただそのための器になれ)


雷帝(敵を斬れ…!!)


先代「覚えているか、雷帝」

先代「側近が反旗を翻したあの日。あの時、起こっていたこと…」

雷帝「………」ゼェ…ハァ…

先代「…私の加護が、娘に引き継がれ始めた。あの事態が、側近の抱いていた推測を決定的なものにした」

雷帝「――かっ!!」 ド ッ

ギャリ…ッ!!

先代「惜しいな」

先代「あと半歩踏み込めていれば、入ったかもしれん」


先代「断」


ズバンッ!!

雷帝「ぁぐ…ッ!!」


先代「ふふ…。いいぞ、雷帝」

先代「加護などに頼らずとも、お前の潜在能力は、そう…私をも凌ぐものであるかもしれん」

先代「その可能性に賭けろ。ひと振りにお前の全てを乗せろ」

先代「筋力も、神経も、直感も、魔力も」

先代「見せてみろ。お前の渾身の一刀」


雷帝「ふー…ッ!」

雷帝「ふー…ッ!」


先代「…もう、私の声は届いていないか」

263 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:46:18.91 ID:Ho8YDfJf0

先代「雷帝」

先代「あの時、お前は私が、女勇者と側近の二人に負けたと思っていただろう」


雷帝(呼吸を合わせろ)

雷帝(音を聞くな)


先代「違うのだ、雷帝」

先代「私は、女勇者が玉座の間に辿り着いた時には、もう」


先代「側近と相討ちになって死んでいたのだ」


雷帝(魔力をひりだせ)

雷帝(全てをぶつけろ)


先代「邪神の加護を持っていた当時の魔王である私を」

先代「四天王との連戦を経た、血まみれの側近が」

先代「命と引き換えに、たった一人で」

先代「倒したのだ」



――ダンッ

雷帝「 」



  ボ  ッ  !  !




――――――
――――
――

十八年前


女勇者「ここが…玉座の間か」

賢者「い、いよいよってわけかい?」

剣豪「なんだよ賢者。てめぇここに来てビビってんのか?」

264 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:47:43.93 ID:Ho8YDfJf0

賢者「あのねぇ…。多少動揺するのがまともってもんだろう。君みたいに肝が座りすぎている奴が異常なんだよ!」

女勇者「それだけ言い返す余裕があれば充分だろう」クス…

剣豪「けっ、違いねぇ」

賢者「ぐむっ…。き、君達と一緒にしないでくれっ。自分はこれでも繊細なタチなんだ! これまでだって何度も無茶苦茶な作戦に付き合わされて…」ブツブツ…

剣豪「繊細だろうがなんだろうが最終決戦に負けちまえば、死ぬだけだぜ。…とくりゃあ」

剣豪「やるしか、ねえだろうが」

賢者「………」ゴクッ…

女勇者「ま、そういうことだな」

女勇者「死んだ方が楽っていうような戦いになるかもしれないけどな?」

賢者「…馬鹿を言わないでくれ」

賢者「まだまだやりかけの研究が沢山あるし、解き明かしていない秘密だって数えきれないんだ」

賢者「自分はこんな所で死ぬわけにはいかない…!」

女勇者「…ふふ」

剣豪「上等だぜ」クク


女勇者「――さて」

女勇者「それでは行こうか」


ギィイィ…

265 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:48:26.47 ID:Ho8YDfJf0



女勇者「………こ」

女勇者「これは――」



先代「」



玄武「」

木竜「ぜ…ひゅ…」

鳳凰「………ぐはっ」

雷帝「」グタ…




剣豪「な…なんだ、こりゃあ…!?」

賢者「四天王に…」

賢者「それに、魔王…っ!!」

女勇者「………っ!!」


先代「」


女勇者「………死んでる………のか…」

賢者「…す、凄まじい戦いがあったようだ。これは、まさか…」

剣豪「………仲間割れ、か…!?」

剣豪「…どいつもこいつも、瀕死の傷を負っていやがる…!!」

女勇者「………」

女勇者「魔王が、死んだ………」

女勇者「…これで」

女勇者「これで全てが終わった…?」

剣豪「…っ」

賢者「………こんな終わり方が………あると言うのかい?」

266 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/10(土) 20:49:14.16 ID:Ho8YDfJf0

剣豪「――魔王は死んだ」

剣豪「つまりは、全ての終わり。そう言うことだろうが」

剣豪「俺様達の冒険は、終わったんだよ………」

賢者「………こんなことが…こんなことが、本当に………?」

女勇者「――はは」

女勇者「ははははは! …酷い、拍子抜けだな!」

剣豪「………女勇者」

女勇者「けれど、期せずして目的は果たされたってわけだ」

女勇者「………終わったのなら、戻ろう。いずれにせよ、私達は」

剣豪「――勝ったんだよ!」

女勇者「…!」

剣豪「俺様達はここまで突破してきた!」

剣豪「魔王は死んだ!」

剣豪「とくりゃあ…人類の勝利だろうが!! それ以外の何がある!?」

女勇者「………ああ!」

女勇者「ああ、そうだ…!」

女勇者「私達は、勝ったんだ…っ!」



――
――――
――――――


〈展望台〉



女勇者「強がってみたけれど、本当は分かっていた」

女勇者「私は………魔王を倒せなかった勇者だ」

267 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/11(日) 01:25:33.42 ID:224Ehhrc0

女勇者「その事実は公にされることはなかった。それを知るのは一部の特権階級だけのこととなり」

女勇者「民衆は私を英雄として祭り上げた。…多くの犠牲を払った戦いの結末は、嘘で塗り固められたのさ」

女勇者「私は務めを果たせなかったことを胸に秘めて、偽りの称賛を浴びながら生きることとなる」

女勇者「………まだ戦闘の最中で命を落とした方が、いい生涯だったんじゃないだろうか」

女勇者「そんな思いに、そののちずっと…さいなまれながら、な」


氷姫「………」

…パキ

パキパキ…!


女勇者「お、ようやく殻から出てくる気になったか」

女勇者「まあ、アラサー女の昔話なんぞ面白くもないだろうしな」

女勇者「とっととケリをつけようじゃないか」

ズズズズ…

女勇者(! この圧力)

女勇者「…なるほど、ただ氷に閉じ籠っていたわけではない、ということか」


氷姫「………」ゴゴゴゴゴ…!!


女勇者「…魔力の捻出にこの時間の全てを懸けたか。とんでもないのをぶっ放すつもりだな、氷の四天王…!」

女勇者「ふふ…面白い!」

女勇者「ならば、私も渾身の一撃をくれてやろう…!!」

268 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/11(日) 01:27:02.84 ID:224Ehhrc0

女勇者(おそらくはとんでもない氷の波動が飛んでくるな…! 普通にやっても切り抜けられん)

女勇者(魔力を全て剣に圧縮して突撃をかける…そうして敵の波動の中央を突破してダメージを与える)

女勇者(これしか手は………!?)


チラ… チラ…


女勇者「………」

女勇者「雪か」

女勇者「粋な演出をするものじゃないか、氷の四天王」

女勇者「あの日を思い出すよ。勇者として何も成し遂げられなかった私が」

女勇者「友としても価値がなかったのだと、思い知った日」

女勇者「………賢者」

女勇者「お前の考えていたこと、今なら私にも分かる。けれど、お前がしたことが正しいなんて、私には言えない」

女勇者「せっかく生き返ったってのに………何も変わらんなぁ」

女勇者「お前に、ひとつも伝えられないなんて」

女勇者「情けないよ………」


ギュオォオォ…!!

氷姫「………」 パキン…ッ!



女勇者「――来るか」

269 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/11(日) 01:28:08.21 ID:224Ehhrc0


――バリィンッ!!

氷姫「行くぞ!! 先代勇者!!」

氷姫「あたしの全力を――」


氷姫「くらえぇえぇえぇッ!!」



 ド ギ ュ ウ ゥ ン ! !



女勇者(くっ………!!)

女勇者(突破してやる!!)


女勇者「――ぜぇえぇえぇえぇえッ!!」

 ド ッ ! ! !



女勇者(…いかん)

女勇者(これは、届かんな)

女勇者(こいつ、土壇場で、さらに力をつけたのか)

女勇者(加護を失っても尚、前に進もうと?)

女勇者(………大した奴だ)

女勇者(ああ、記憶が甦る。これが走馬灯というやつか?)

女勇者(あの日の、剣豪と賢者の顔を………)

女勇者(――そして)



――
――――
――――――
――――
――



賢者「………………」


剣豪「…賢者。何を浮かねぇ顔してやがる?」

賢者「この魔族…――」ゴソ…

270 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/11(日) 01:29:17.56 ID:224Ehhrc0

女勇者「………そいつは一体何だ?」

賢者「この者は、魔王の側近を勤めていた魔族だね」

剣豪「…ひでぇ有り様だ。こりゃあこいつも死んでやがるな」

賢者「………この状態なら蘇生は可能だ」

女勇者「!?」

剣豪「そ、蘇生だぁ? 何を言っていやがる!?」

賢者「…この戦いの跡。それに魔力の気配を見て、分からないかい?」

賢者「最後に、強烈な一撃で魔王を倒したのは、この魔族だ」

女勇者「…っ」

女勇者「そいつが、魔王を…!」

賢者「魔族の間で何があったかは分からない…。だけれど、この魔族が魔王を倒したというなら」

賢者「それは"この世界の法則が覆った"ってことだ」

賢者「勇者でないものが…女神の加護以外のものが、魔王を撃破したのだから」









女勇者「………賢者」

賢者「…」

賢者「また来たのかい? 暇だねえ、女勇者」

賢者「英雄様はもうゆっくりと余生を過ごせばいいんだろうけど、生憎自分は忙しくてね」

賢者「お酒の相手なら剣豪にしてもらいなよ。ああ、あいつはもう大将軍って呼んだ方がいいのかな――」

ガシッ…

賢者「………離してくれ」


女勇者「嫌だ」

271 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/11(日) 01:30:08.87 ID:224Ehhrc0

女勇者「賢者。このところのお前はおかしい」

女勇者「あんなに大事にしていた妹をほったらかして、研究室にこもりきりになって」

女勇者「私や剣豪とは顔も会わせようとしない。その代わりに付き合ってるのは」

女勇者「女神教会の教皇と、あの戦争好きの王とばかりだ」

賢者「………」

女勇者「なんで、そんな風になってしまったんだ…。話してくれよ、私にも…」

女勇者「頼むよ…」

賢者「…」

賢者「君に話せることなんかないよ」

賢者「悪いけど、もうこんな風に訪ねてくるのは止めてくれないかな。自分にとっては、苦痛でしかないから」

女勇者「なっ…!」

賢者「それじゃあね…」

剣豪「………」ムンズ

賢者「!? 剣ご…」

バキッ!!

272 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/11(日) 01:31:34.65 ID:224Ehhrc0

賢者「ぐっ…!」

女勇者「剣豪…っ、止せ!」

剣豪「止めんな、女勇者。こんくらいでどうにかなるタマじゃあねぇんだ」

剣豪「魔界の死炎山で、ドラゴンの尾っぽにぶっ飛ばされた時の方が効いたろうが」

剣豪「闇の谷で巨人に握りつぶされそうになった時や、キメラの大群に一斉に牙を立てられた時の方が」

剣豪「よっぽどヤバかったよなぁ………賢者?」

賢者「…」

剣豪「俺様達は一緒に命をなげうって旅をしてきたくされ縁同士だ。なんなら、旅の前がどんだけ半人前だったかも知ってる同郷だ」

剣豪「それをてめぇ………なんなんだよ、てめぇはよ」

剣豪「なんでそんな、敵を見るような目で見るんだよ…!!」

賢者「…」ギロ

女勇者「…賢者」

賢者「………あの旅を妙に美化してしまうのは、君の悪い癖だよ。剣豪」

賢者「あの旅で、自分達は何を成し遂げたって言うんだい?」

剣豪「…なんだと?」

賢者「言ってごらんよ。勇者一行であるはずの自分達は、魔王を倒したかい? 違うだろう!」

賢者「ましてや、"何故魔王を倒すのか"も考えないままに、闇雲につっ走り続けただけじゃないか!」

賢者「自分達に協力をしてくれた人達を振り回して、無駄に死なせて、その旅の果てに」

賢者「君はどうして、そんな風に悠々と妻をめとって将軍なんかやっていられるのさ!?」

賢者「笑わせないでくれ!!」

273 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/11(日) 01:32:32.10 ID:224Ehhrc0

剣豪「お前――」

女勇者「賢者ッ!! この野郎ッ!!」

女勇者「いい加減にしろよ、てめぇ!!」ギュウッ…!

賢者「…!」

剣豪「………お、女勇者…」

女勇者「手前勝手に人のことを分かった風に言いやがって!! 」

女勇者「私達がなんの負い目もなく呑気にやってると本気で思ってんのかッ!? ぁあ!?」

女勇者「私が、どんな思いで生きてるか…あの旅の時みたく、本気で考えたことがあんのかよッ!?」

賢者「…っ」

女勇者「私は!! 私は…っ!!」

女勇者「お前が何を考えてるのか、分からないんだよ…っ!! どんなに考えても!!」

女勇者「教えてくれよ、お願いだから…!」

女勇者「元の生真面目だけどちょっと抜けてる賢者に………戻ってくれよ………!!」

賢者「………」

剣豪「女勇者…」

274 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/11(日) 01:33:50.29 ID:224Ehhrc0

剣豪「…賢者よう。俺様達は、おんなじものを背負っていたはずだぜ」

剣豪「あの、魔王城での一件まではな。ところが、お前は帰ってきてから変わっちまった」

剣豪「てめぇだけで背負いこんで、いつも難しい顔をしてやがる。見るからに体にガタがきてんのに、何かに縛られてやがるみたいだ。だから、そいつに」

剣豪「俺様達を巻き込めって言ってるんだ。これまでだってそうして来ただろう」

剣豪「力になれることは、あるはずだぜ。………仲間なんだからな」

賢者「………」

女勇者「………賢者…」

賢者「勘違いしないでくれないか」

賢者「君達はもう仲間なんかじゃない。自分にはもう、新しい仲間がいる」

女勇者「な…何…」

「賢者。ここにいたのですか。もうすぐ実験の時間ですよ。…おや」

魔法使い「これはこれは。勇者一行の皆さんじゃあありませんか」

剣豪「て…めぇ………!」

剣豪「まさか、あの時の…!!」

女勇者「…魔王の」

女勇者「側近…っ!!」

魔法使い「初めまして。では、なかったんですよね。でも、あの時は僕、死にかけてましたから、覚えてなくって」

魔法使い「お二人は僕の命の恩人ですからね。いつかご挨拶をと、思っていたんですよ」

275 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/11(日) 01:41:38.77 ID:224Ehhrc0

女勇者「………お前」

女勇者「お前か。賢者をたぶらかしたのは」

魔法使い「何の話です? たぶらかした?」

賢者「気にすることはないよ…魔法使い。彼らの言葉に意味なんてない」

賢者「自分達には、そんなことよりもやらなきゃならないことがあるだろう?」

女勇者「!!」

剣豪「…っ」

魔法使い「それは、そうですが。いいんですか? すっごく怒ってるように見えますし、それに…」


魔法使い「次の実験では、あなたが生け贄になってしまうんですよ?」


女勇者「なっ…!?」

剣豪「生け贄…だと…!」

賢者「………」

賢者「…この際だからはっきり言っておくよ」

賢者「自分は誰に惑わされたわけでも、操られているわけでもなく、自分の意思でこうしているんだ」

賢者「勝手な友情の押し売りで、自分の邪魔をすることは、もう金輪際やめて欲しい」

賢者「迷惑だよ」

剣豪「――!!」

女勇者「…賢者…っ!」

賢者「…時間は、あの日から大きく流れてしまったんだ。今はもう、君達と自分は別の道を歩んでいる」

賢者「………雪が降ってきたね」

賢者「冷える前にうちへ帰った方がいい。暖かく迎えてくれる我が家にね」

女勇者「………ま、待て」

女勇者「賢者………!」



賢者「さよなら、二人とも」

賢者「もう二度と会うことはないだろう」






276 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/03/11(日) 01:42:49.67 ID:224Ehhrc0




  キ  ィ  ン  …  !




氷姫「はあ、はあ、はあ…!」

氷姫「………あ、危なかった」ツー

氷姫(血が、額から…! 剣の切っ先が届いていたのか)

氷姫(あと僅かでも突破されていたら、頭を割られていた)

氷姫「なんて、女よ…こいつ」


女勇者「」パキィッ…


氷姫「はあ、はあ、はあ…」

氷姫「ふん…。一度死んでんなら、大人しく、退場なさいよ」

氷姫「なんで、あんたが」

氷姫「泣いてるのよ………」


女勇者「」


277 : ◆EonfQcY3VgIs :2018/03/11(日) 01:45:36.49 ID:224Ehhrc0
今日はここまでです
間をあけてしまって申し訳ないです
見てくださってる方がいる限り、完結にはこぎつけようと思います
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/11(日) 02:03:57.07 ID:CHwTEXOEO

待ってた
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/11(日) 06:54:26.41 ID:5Vhlz/0Q0
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/11(日) 07:25:58.96 ID:HeTXTlwDO
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/12(月) 17:11:08.83 ID:LyLAbH7AO

おかえり
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/21(水) 11:38:57.66 ID:30LbfBgz0
おっさん
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/23(金) 09:59:26.82 ID:oLwOypmEO
頭がこんがらがって意味がわからなくなってきた
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 11:21:56.77 ID:W63BjFKN0
乙乙
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/02(月) 20:24:45.59 ID:/QS46X6Vo
まっとる
286 : ◆EonfQcY3VgIs [sage]:2018/04/17(火) 18:20:24.55 ID:46PRBaMd0
今週末21日(土)に続きを投下します
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 22:58:32.72 ID:HCDYIumFo
待ってたで
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 07:55:38.29 ID:ks//4mrAO
待ってる!
289 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 09:07:06.27 ID:hkG69/nJ0

氷姫「ひとつだけ言っておくわ。………この雪は、あたしの魔法の影響で降ったわけじゃない。だから、きっと」

氷姫「どこぞの信用ならない神様が降らせたんじゃない?」

氷姫「…別に、あたしの知ったこっちゃないけどさ」クル…


『………め…』


氷姫「…え?」


『…進め………四天王…』

『…私の………見れなかったものを…』

『………見てくれ………』


氷姫「………」

氷姫「分かったわ」

氷姫「そこで、眺めてなさい」


氷姫(………進もう)ザッ




『――システムパターンAをクリアしました』


290 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 09:14:45.45 ID:hkG69/nJ0


雷帝「………側近は、先代勇者一行によって、人間の地で蘇生された」

雷帝「そしてその時から、魔法使いとして生き始めた…」

雷帝「そういうことなのですね」

先代「…ああ」

先代「あいつが生き延びたことは、人間に…いや、世界に新しい可能性をもたらした」

先代「"女神の加護を持たぬ者が、魔王を倒した"」

先代「その事実が引き金となって、あらゆる研究と成果が引き起こされることとなる…」

先代「が、この先のことを語るのは私の役目ではないようだ」

雷帝「…先代様」

先代「お前に与えられた深手は、まもなく私の命の灯火を消し去る。…やってくれたな、雷帝よ」

先代「だが、それでいい。お前が繰り出した技の数々こそが、本当のお前の力だ。そいつを強く信じろ」

先代「所詮、私のこれは偽りの生だ。失われた過去の存在は、潔く去るとしよう」

雷帝「………」

291 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 09:17:22.75 ID:hkG69/nJ0

先代「なあ、雷帝」

雷帝「…なんでしょうか」

先代「あの子は………この世界に何をもたらすのだろうか」

先代「…魔王なのであれば、それは闇と混沌であるべきよな」

先代「魔法使いにこのまま魂を奪われれば、今までに類を見ない覇者としての魔王に、君臨し得るかもしれない」

先代「けれどあの娘は、きっともっと違う答えを求めている」

先代「魔王としては愚かなことを…しかしとても尊いものを、あの子は求めている」

先代「私は………やはり親バカなのかな」

先代「それが誇らしいのだ」

雷帝「…!」

先代「雷帝」

先代「あの子のことを、頼んだ」ピシッ…

ボロッ…!

雷帝「先代様っ!」

雷帝「………」


『システムパターンBをクリアしました』


雷帝「――………行こう」

雷帝(軋む身体を引き摺ってでも。そうでないと、歩みが止まる)

雷帝(この奇怪な通路の先には………)

雷帝(この上、一体何が待つ?)




292 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 09:19:06.99 ID:hkG69/nJ0





〈魔王の心の魔王城〉



魔王「はあっ、はあっ…!」

魔王「…た………助けて…誰か」

魔王「誰か………!」

魔王(――ああ。私はなんて弱いんだろう)

魔王(爺を失って、炎獣を失って。仇を討つことも真実に歩み寄ることもせずに、ただ逃げるばかり)

魔王(頭で分かっていても、心がまるで病にでも侵されたかのように絶望に沈んでいる)

魔王「恐い…恐いよぉ!」

魔王(…全てを覚悟して進んできたはずだった)

魔王(なのに………)



『ならば力を欲すればよい』

『お前には無尽蔵の破壊をもたらす権利がある』

『敵から全てを奪い去れ。さすれば恐怖とも絶望とも無縁』


魔王「…あなたは…っ」


ズォオオ…

魔人『さあ、我が手をとれ』

293 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 09:20:50.41 ID:hkG69/nJ0

魔王(魔人)

魔王(ずっと側にいた存在。ずっと私をおびやかし続けていた者)

魔王「………けれど、絶対的な力を持っている。同化してしまえば、認めてしまえば、もう恐いものなどない…」

魔王(駄目だ!! 明け渡しては駄目!!)

魔王(魔人とひとつになっては、暴虐の化身になってしまう…そうなっては、いけない!)

魔王「…いや。私は、人間にとっては既に殺戮の象徴でしかない。私は既に殺しすぎている」

魔王(それは………)

魔王「そればかりか、炎獣達をいい様に使った。仲間に秘密を打ち明けないまま、利用したんだ」

魔王(………っ!)

魔王「そんな私が、何を今さら潔癖ぶる必要があるの?」

魔王「魔王らしくなる。ただそれだけのこと」

魔王(………………)

294 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 09:23:23.59 ID:hkG69/nJ0

魔王(それは)

魔王(ただ私が楽になろうとしているだけの言葉だ)

魔王(私は最初から高潔でもなんでもない。薄汚く、この手は血に染まっている)

魔王(そんなことは分かっている)

魔王(それでも為さなければならないことがあった。だから、これまでだって進んできた)

魔王「………」

魔王(投げ出しては駄目。醜いものだって、抱えて生きていくの)

魔王(私はひとつの生命に過ぎないのだから)

魔王「………ああ、そうだ」

魔王「私はまだ」

魔王「悩むことが出来る」


魔人『………なんだと?』


魔王「――私は、あなたと共には行けないわ。魔人」


魔人『貴様………この期に及んで』


魔王「私は私の意志で歩む。………あなたは必要ない」


魔人『………』



《あははは》

《お困りのようですね。魔人》

魔法使い《お手伝いを、しましょうか?》

295 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 16:07:06.24 ID:hkG69/nJ0

魔人『………』

魔王「…魔法使い…!」


魔法使い《困った人ですねぇ、ほんとに。自力で立ち直ってしまったんですか? 魔王》

魔法使い《並大抵の精神力じゃあないですよ。まあ、しかしそれでこそ》

魔法使い《貴女という魔王が魅力的なんですが、ね》

魔王「…あなたが」

魔王「あなたが殺したのよ、炎獣も。爺も」


魔王(…いけない。感情が剥き出しになる。心を晒してはつけこまれるっ…)

魔王(でも、どうにも制御ができない…! 途方もない怒りが、込み上げてくる…っ!)


魔王「よくも…」

魔王「よくも、炎獣を」ゴォ…

魔法使い《…》

魔王「幻を見せて、今度は私から何を奪うつもりなの――!」

魔法使い《…珍しいですねぇ、魔王。あなたがそんなに怒りを露にするなんて。まあ、あなたが怒るのは至極最もだとは思いますが》

魔法使い《ですがね、検討違いのことがひとつあるので、それだけお教えしておきましょうかね》

296 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 16:14:08.20 ID:hkG69/nJ0

魔王「………なんですって?」

魔法使い《あなたに見せていたのは、単にあなたの精神を攻撃するために用意した幻というわけではありません》

魔法使い《もし違う選択肢があったら未来はどうなっていたのか…そんな可能性の世界を見て頂いていたわけです》

魔王「…可能性の世界?」

魔法使い《そういうシミュレーションは、数え切れないほど繰り返して来たんですよ。選択肢の変更と、"その世界線が辿り着く未来"の研究を、ね》

魔法使い《もしも、勇者一行が集って魔王討伐に出ていたら? 仲違いを起こすことなく、勇者の元で団結して立ち上がっていたら?》

魔法使い《その結果はね、魔王。先ほどご覧頂いた通りです。四天王は各個撃破され、貴女は惨めに追い詰められるのです》

魔法使い《こんな選択と結果があったのかと思うと、なんて現実は脆いんだろうかと…そんな風には思いませんか?》

魔王「…」

魔法使い《どうです? 別の世界線を視覚化してみるって面白いでしょう?》

魔王「…空想の世界に過ぎないわ。そんなもの」

魔法使い《おや、聞き捨てなりませんね》

魔法使い《単なる絵空事などではありませんよ。全てのことは、本当に現実になり得た事象なのです》

魔法使い《どうやら貴女は、現実の自分に大層自信がおありのようですが…でも、考えてみたことはありますか?》

魔法使い《"今の貴女は、本当に本当なのか"》

魔王《…何を…》

魔法使い《ふふ。断言しますが、別次元を覗き見ることも未来を垣間見ることも、技術があれば可能になることです》

魔法使い《テクノロジーってやつですよ。見つかってしまえばそれまでのこと。それは勇者や魔王なんてあやふやな存在よりずっと確かなものです》

魔法使い《僕達は時間すら飛び越えた世界を眺めることが出来ました》

魔法使い《それだけのアドバンテージを持って僕達は》


魔法使い《この物語を紡いできたのですよ》


297 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 16:15:36.48 ID:hkG69/nJ0






〈下層研究ホール〉


雷帝(………私がここに来る時、ここは下層研究ホールだと音声が告げていた)

雷帝(氷姫はどうやら別の地に飛ばされたようだが…なんだ? この施設に詰め込まれた技術の数々は)

雷帝(人造人間の生成。異空間移動の科学的成功。そして)

雷帝(――時空間転移ゲートの設立)

雷帝(………)


「信じがたい技術の数々だろう? この研究施設は未知の領域だ」

「俺も最初は信じられなかったさ」


雷帝「っ! 誰だ!?」


「けれど本当だった。奴らは人間を造り、奇跡を起こし、未来を知る事さえ出来た」

「この技術があれば、魔王など容易く倒すことが出来る…。そうすれば、人々の安寧の時代が始まる」

「…なあ。俺がそんな風に夢を見てしまったのも」


兄「仕方のないことだとは思わないか?」


雷帝「お前は…!」チャキ…!


兄「久しぶりだ雷帝。殺された時ぶり、というやつだな。弟も世話になったみたいじゃないか」

兄「俺が次の門番ってわけさ」

兄「――でもやりあう前に、少しだけ奴らのことを覗いてみようって気はないか?」

298 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 16:17:10.91 ID:hkG69/nJ0

雷帝「奴ら………」

雷帝「それは、魔法使いのことか…!?」

兄「…魔法使いと教皇。連中は志を同じくする研究者だったのさ」

兄「世界の法則を司る女神と邪神の神秘。そいつへ挑戦する、同志ってやつだ」

兄「勇者ではなく側近が先代を倒したことで、神々の加護が絶対ではないということを証明された。奴らが拠り所とするのはその事実だけで充分だった」

兄「雲を掴むような話だったが、道標は存在した。………古代王朝の遺した遺物や文章だ」

雷帝「――…この機械城のごとき文明が」

雷帝「本当に実在したと言うのか?」

兄「どうやらそうらしい。奴らの研究は恐ろしい速度で進んだ。そいつに拍車をかけたのは、人造人間〇一七号の完成だ」

兄「"魔女"と呼ばれたその存在は、あらゆる成果を研究施設にもたらした」

兄「やがて犠牲を払いながら、魔法使いと教皇はついに女神を創りあげる方法へと辿り着き」

兄「誕生した女神は時間すら飛び越えるようになる」

299 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 16:18:42.04 ID:hkG69/nJ0

ザザ…ザ…

教皇『み………見ろ。石板に文字が刻まれ出したぞ』

魔法使い『…ええ。どうやら、これが未来に行った女神の啓示のようですね』


雷帝「! 魔法使いと、教皇!?」

兄「あれは、記録された映像記録さ。かつての奴らの姿というわけだ」

兄「どうやら、奴らのつくった女神が初めて時を越え、啓示をもたらした時のもののようだな」


教皇『こ、これが我々の未来…!?』

魔法使い『ふむ。女神が時を越えて見た未来ですから、恐らく間違いはないでしょうね』

教皇『魔王の凶暴化。勇者の敗北。人類の敗走…。そして』

魔法使い『あはは。僕らは、死ぬそうですよ』

教皇『…っ!』

魔法使い『魔王と四天王に為す術なく蹂躙される未来。…さて、どうしたものですかね』





兄「…そう。奴らが未来を知ったこの時に、この物語は動き始めたのさ」

300 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 16:19:51.61 ID:hkG69/nJ0

兄「奴らは、魔王を打倒する未来を描くために手を打ち始め、つくられた女神はそのために動き始める」

兄「幼い魔王に恐るべき魔人の影響が見られ始めると、魔法使いは魔界に飛び、冥王に接触」

兄「冥王の力で魔王が邪神の加護をコントロールする状況を作るよう依頼」

兄「四天王の面子を揃えるため、虚無と海王を使って魔界紛争を起こす。魔王と現四天王の結びつきがここで固まる」

兄「さらに人間界で六人の勇者一行を収集し、それぞれの道を示唆、暗示。これで役者は全て名を連ねることになる」

兄「後は俺を使って教会中心の軍を起こせば、魔王勇者大戦の火蓋が切って落とされるってわけさ」

雷帝「………っ」

雷帝「私達の戦いは、こうして作られた…?」

雷帝「………全ての戦いが…奴らの手の上の出来事だったというのか」

兄「前代未聞の強力な邪神の加護を持つ魔王を倒すために、奴らの女神が叩き出した緻密なスケジュールが、この物語さ」

兄「…これで歴史は本来の姿から大きく舵を切り」

兄「お前や俺が体験した、この膨大なシナリオを歩むこととなる」



301 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 22:36:19.48 ID:hkG69/nJ0

〈展望台〉


氷姫「…ようやく頂上か」

氷姫(機械城の楼閣をひたすらに登ってきたけど…門番とやらはここにいるの?)

氷姫(………死人さえ生き返った。もう、何が起こってもおかしくない)

氷姫(魔法使いが甦らせたこの城。不気味なほどに得体が知れないわ)


竜騎士『止まれ! 魔王四天王っ!』


氷姫「!?」

氷姫(コイツ…っ、今、何処から出てきた!?)


踊り子『四天王の生き残りめ…! アタシ達が相手よ!』

竜騎士『行くぞ、踊り子!!』

踊り子『うんっ!』

踊り子『アタシ達は………負けないっ!!』


氷姫「ちっ、敵か…!!」ザッ…!

氷姫(…にしても、何この違和感は!? こいつらは、そこにいるようで気配が全くしない…)


『よかろう、来るがいい光の勢力よ!』

虚無『我が闇の呪いをもって葬ってくれる!! ――魔王四天王の力、思い知るがよい!!』


氷姫「!?」

氷姫(きょ………虚無…!?)



魔女「構えずともよい。氷姫よ」

魔女「これは、視覚化された疑似体験に過ぎん」

魔女「彼らは勝手に戦いを始める。現実とは関係のないところでな」

302 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 22:40:58.23 ID:hkG69/nJ0

氷姫「あんたは…っ」

氷姫「…そう。あんたが次の門番ってわけ?」

魔女「そういうことだの。流石に慣れてきたか? しかしまあ、一応名乗っておくとしよう」

魔女「妾は、魔女。教皇領の地下で造られ、お前の究極氷魔法に打ち負かされた翼の団の一員だった、魔導士じゃ」

氷姫「へえ…。良かったわ、女勇者並のバケモノが出てこなくて」

魔女「ほっほっ。言ってくれるの。まあ、妾やあの男にしか語れぬことがあるからこその、人選なのじゃろうな」

氷姫「…あんたにしか、語れないこと?」

魔女「氷姫よ。先の戦いを見てみよ。虚無に対し、竜騎士と踊り子が戦いを始めた」

魔女「向こう側を見てみよ。別の戦いが始まっておる」

氷姫「………!?」



召喚士『大丈夫ですか!?』

侍『うぬ…っ! 油断しましたな…!』

侍『しかし………次は食らわんぞ、四天王!!』


風神『なんやぁ、面倒なやつがおるのう』

風神『ニンゲンが二匹か。まとめて切り裂いちゃる…!!』

303 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 22:41:39.63 ID:hkG69/nJ0

召喚士『風神の鎌鼬が来ます…っ』

侍『拙者が奴を止めまする! 召喚士殿はその隙に詠唱を!』

召喚士『…っ。分かりました!』




氷姫「な………なんなのよ、これ」

氷姫「誰よ、こいつら…!?」

魔女「これは、本来迎えるはずじゃった人間と魔族の決戦の様子じゃよ」

魔女「魔法使いや教皇の手が加わることがなければ、もともと物語が辿るはずじゃった結末」

魔女「真の勇者一行と、真の四天王の戦いじゃ」

魔女「これが正史なのじゃよ」


氷姫「これが…………正史…!?」

氷姫「真の…って………な…なによそれ」

氷姫「こいつらが本物だって、言いたいわけ!?」

魔女「…信じられんか? まあ、そうじゃろうな」

氷姫(そんなバカなことが…っ! ………でも、何? この奇妙な説得力)

氷姫(仮に………仮によ。こいつの言っていることが仮に本当だとしたら…あたしたちは)

氷姫(あたしたちが倒してきた勇者一行は………――)


魔女「そう」

魔女「本来の歴史では、全く別の勇者一行と、全く別の四天王による戦いが描かれるはずじゃった」

魔女「今の世界の役者は、加護を受けた魔王と勇者以外、みーんな、偽物じゃ 」

304 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 22:42:40.35 ID:hkG69/nJ0

魔女「ああ、この世界線のお前達の魔王ならあそこにおるぞ」

魔女「もはや、原型を留めておらんがな」

氷姫「………なっ………」

氷姫「あれが、魔王、なの………?」



魔王『………………』

 ズォオォオォオォオォ…!


巫女『な…なんて禍々しい気でしょうか』

勇者『………』ギュッ

巫女『…勇者』

勇者『大丈夫だよ、巫女』

勇者『女神様がついてる。俺を信じて!』

巫女『…はいっ』

勇者『必ず、勝とう…!』

巫女『………行きましょう!』



氷姫(………駄目だ…。今のあたしには、分かる)

氷姫(この勇者達は、あの魔王に勝てない)

305 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/04/21(土) 22:43:44.52 ID:hkG69/nJ0

魔女「魔王は、邪神の加護を正面から喰らって、もはや世界を滅ぼす衝動に支配されておる」

魔女「まあお前達の美しい姫君のままよりは、あちらの方が魔王然としておるがな」


虚無『ふん………勇者一行。こんなものか』

竜騎士『がホッ…』

踊り子『りゅ…竜騎士…っ』

竜騎士『踊り、子…逃げろ…………』

虚無『我がそんなことを許すと思うか?』

…ボキッ

竜騎士『あブ・』

踊り子『ひっ…竜騎…!!』

虚無『貴様もだ………潰れろ』


グシャ



魔女「創り出された女神は、この未来を見たのだな」

魔女「そしてその女神の啓示を受けた教皇は、この悲惨な未来を迎える人類を救いたいと思い、動き出した」

魔女「だが…奴もまたいつの間にか道を外して、結局はお前達に葬られることになった」


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