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キスショット「これも、また、戯言か」
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35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 02:29:03.87 ID:I+fdqcufo
「けど、色々と目撃証言もあるのよ」
「目撃証言……ねえ」
妖しいものだし、怪しいものだ。
よく目で見たものしか信じないなんてことを言う人がいるけれど、目で見たもの。そち
らのほうがよっぽど信じられないのではないだろうか? 人間が見聞きできる情報には限
りがあるし、何より、その情報全てに「こうあったらいいのに」などの、自身の願望という
補正がかかっている。観察者によっては、その現象にまるで違う意味をもたらすことがあ
るのだ。
つまりは、人なんていつでも信用できないってことだ。
他人だろうが。
自分だろうが。
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 02:30:25.13 ID:I+fdqcufo
「あのー、阿良々木くん? 人の話聞いてる?」
「え? あ、ああ、聞いてる聞いてる。聞くに聞いてるよ」
「本当に聞いてるの? もう」
はあー、と。翼ちゃんはわざとらしくため息を吐いた。
「女子の間では――うちの学校の女子だけじゃなくて、この辺の学校に通っている女子の
間では――有名な話。て言うか、女の子の間だけではやってる噂なんだけど」
「女の子だけの噂って……何? その吸血鬼。口笛吹きながらワイヤで戦ったりするの?」
そういえばあれにもでてたな。まじめそうな眼鏡のキャラ。
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 02:31:35.72 ID:I+fdqcufo
「いや、そんなんじゃないよ。金髪の、すごく綺麗な女の人で――背筋が凍るくらい、冷
たい眼をした吸血鬼なんだってさ」
「曖昧な出所なのに、ディテールはえらく具体的だね。しかし、何だってその女性が吸血
鬼だって断定できるの? 金髪だから珍しいってだけなんじゃないの?」
ここら辺の地域では、一切髪の毛を染めたり、ピアスをあけたりする流行がないようで、
ぼくはここ三ヶ月そういった人を見ていない。
まあ、向こうの状況がおかしかったのかもしれないが(いやはや、自由の国は侮れない)。
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 02:32:46.79 ID:I+fdqcufo
「でも」
翼ちゃんは言う。
「街灯に照らされて、金髪は眩しいくらいだったのに――影がなかったんだって」
「……へえ」
確かに、そういえばどこかで聞いたことがある気がする。
太陽を嫌う吸血鬼には、影ができない。
「でもなあ、夜のことだし……見間違いだったんじゃないの? 影なんて、場所によっては
まったくできないこともあるじゃないか」
大体――街灯なんていかにもな舞台装置がある時点で、嘘っぽい。
「まあね」
と、ぼくが無粋なことを言っても、翼ちゃんは別に気分を害することもなく、そんな風
に同意を示した。
彼女はどうやら、話し上手だし、聞き上手でもあるようだ。
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 02:34:02.94 ID:I+fdqcufo
「うん、馬鹿馬鹿しい噂だと、私も思う。けど、その噂のお陰で女の子が夜とかに一人で
出歩かなくなるって言うのは、治安的にはいい話だよね」
「まあ、そうだね」
なんだか児童向けの童話みたいな話だけれど。
「でも、私はね」
声のトーンを若干落として言う翼ちゃん。
「吸血鬼がいるなら、会ってみたいって思うのよ」
「…………」
やはり、ぼくは試されているのだろう。そうだ、そうに違いない。こんなまじめそうな
子が不思議系路線だなんてぼくはごめんだ。そんな運命ならいますぐ乗り換えたい。
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 02:35:27.75 ID:I+fdqcufo
「えーっと………………………なんで? 血を吸われて、殺されちゃうんだよ?」
「まあ、殺されるのはやだけどさ。そうだね、会ってみたいっていうのは違うかも。でも、
そういう――人よりも上位の存在、みたいなのがいたらいいなって」
「人より上位って、神様とか?」
人より上ってことは、人よりずるがしこく卑劣で愚鈍な最低のやつか、人より華々しく
真面目で鋭敏な最高のやつなのだろう。
つまり、どっちにしろ嫌なやつってことだ。
「あはは。確かにそう見る人もいるかもしれないけどね」
捻じ曲がりきったぼくの見解を聞いても、翼ちゃんは笑いながら言った。
本当にいい子だ。いや、いい子なのかもしれない、だ。思い出せ。今まで何百回だまさ
れたかを。思い出せ。今まで何千回だましたかを。
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/14(土) 02:36:31.50 ID:I+fdqcufo
「いけない、いけない。阿良々木くん、意外と話しやすい人なんだね。なんだか口が滑っ
て、ちょっとわけのわからないことを言っちゃったような気がするよ」
「いや、そんなことはないと思うけど……」
というか、意外と、とはなんだ。意外と、とは。
「…………」
うーん……どうだろ。
正直翼ちゃんの得体は知れないが、この子の場合、話せば話すほど得体の知れなさが
浮かび上がってくるので、これ以上の詮索は禁物かもしれない。
入学前からぼくの評価がわかったのだから、これはこれでよしとして切り上げるとしよう。
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 02:39:10.12 ID:I+fdqcufo
「じゃあまた、春休み明けにあったらよろしく」
なんて言って、ぼくは翼ちゃんと別れようとした。が
「あ……阿良々木くん!」
と、強く引きとめられた。裾が伸びてはいけないので、元の位置にまで戻る。
なんだ? とうとう本性を現したのか? 最初から怪しいと思っていたんだ。と、ぼくは
できそこないの探偵みたいなことを思いながら再度臨戦態勢に入る。
しかし、翼ちゃんは再度ぼくの予想を見事なまでに突っ切ってくれるのだった。
「メ……メアド教えてくんない?」
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/14(土) 02:40:11.98 ID:I+fdqcufo
まだ書き溜めあるけど思った以上に投下するのに時間かかるので今はここまでで。
続きは明日起きてからにでも
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/14(土) 02:40:56.41 ID:zVQj8dv/o
たんおつ
すでに面白い
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/05/14(土) 07:59:05.94 ID:cjvqu8ZWO
乙
スレタイ見てまさかと思ったらマジであのシリーズか
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/14(土) 15:00:46.88 ID:I+fdqcufo
前書いたものについてはどうしようか悩み中です。
かなり設定に齟齬があるし「あれは僕の黒歴史」にしてもいいのだけれど
でも書き直して上げ直すのもなあというところ。
再開します。
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:01:53.39 ID:I+fdqcufo
003
そんな翼ちゃんの頼みを断った日の夜。
真夜中。
日付は変わり、三月二十六日。
直江津高校は今日から春休みなのだそうだが、ぼくが正式な生徒になるのは四月からで
あるので、関係ないといえば関係ない話ではある。
ぼくはすっかり真っ暗になった町の中を、徒歩で移動していた。
昼間のように、自転車を使ったほうが効率がよいのはわかっているのだが、しかし、彼
には二人の洞察力の優れた妹がいるので、なくなっていては不自然に思われてしまう自転
車を使用することはできないのであった。どうしてもこのことは彼の家族には知られては
ならないのである。
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:02:37.04 ID:I+fdqcufo
無論、性の捌け口を探すために大型書店に出向いているのではない。昼間女子のパンツ
を見てしまったくらいでこのような行為に出るような人間なんて普通いないだろう。ぼく
はそんな性欲の塊のような男子高校生(予定)ではない。自分と同年代の女子の下着を見
たくらいでは興奮などしないのだ。それくらいの訓練はちゃんとしてきたはずである。
では、なぜぼくがこのような行動に出たかというと、それは今日の翼ちゃんとの遭遇から
ある可能性が浮上してきたからだ。
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:04:01.67 ID:I+fdqcufo
それは、もう既にぼくに追っ手が差し向けられているかもしれないという可能性。今
までぼくは散々情報を操作し続けてはいたのだが、いかんせんそんなぼく個人でできる隠
蔽工作など、たかが知れている。おそらく、友の技術の一割でも、才能の一割でも所有し
ているやつならば、簡単に丸裸にできるだろう、その程度のものなのだ。
隠蔽工作にはやれるだけのことはやったはずなので、これ以上強化のしようはない。だ
から、今ぼくが行うべきことは、防御策、隠遁などではない。
むしろその逆、討って出ることだ。
先手必勝とは言うが、今回ぼくは勝つために行動しているわけではないので、まだ何者
かわかっていない翼ちゃんを相手に戦う気はぼくにはない。では、ぼくはなぜ彼の家族に
隠してでも、こんな時間に外を出歩いているのだろうか?
誰を相手にしようというのだろうか?
そう、それは、今この町に来ているという珍しいもの。
人間の上位存在である、吸血鬼。
影も残さないような、そんな人物。
実際のところ、そんなモノがいるわけがない。
では、なぜそのような噂が発生してしまったのだろうか?
いや、それよりも先に、なぜ金髪の女性がこんな町に意味もなくふらふらっと滞在して
いるのかという理由のほうを考えてみよう。
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:07:34.14 ID:I+fdqcufo
観光か? しかし、彼の両親には悪いが、この町には特にこれといった珍しいものは
何もない。
いや、「田舎には、なにもないがあるんじゃないかな」などという戯言を信じて観光に
来たという可能性もないではないが、そんな人間は漫画やアニメの中だけで十分である。
実際にいるわけがない。
現実にいるわけがない。
じゃあ、その女性がなにをしにここへ来たのか? その理由で次に考えられるのは――
「やっぱり、ぼくの『処理』をしに来たってところだよな……」
いや、ほかにも色々な理由があるだろう。
その金髪はただ染めただけで、もともとこの町の人間であるとか、その女性の夫の実家
がこのあたりで、子供を連れて遊びに来ただけであるとか。
いや、もっともっと些細な理由だったり、もしくは、それがここである理由などまった
くないのかもしれない。
しかし、ぼくはその女性を警戒しないわけにはいかないのだった。
・ ・
吸血鬼だなんて、荒唐無稽な噂が立ってしまっていて、しかもその上その噂がこのぼく
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
の元にまで届くような女性。
そんな怪しい人物、見逃すわけにはいかない。
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:08:33.80 ID:I+fdqcufo
そう思い、ぼくは探索を続けていたのだが…………
「……いないな……そんなやつ」
もう家を出発してから二時間は経過しているが、辺りがどんどん暗くなるだけで、一向
にそのような人物を見かけない。
というか、人っ子一人見かけない。
どうやらこの町の人の朝は早いようだ。路地裏でたむろっているような、いわゆる不良
さえもいない。
このようでは、この町に街灯は必要なさそうである。
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:12:17.54 ID:I+fdqcufo
「って街灯?」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そうだ、ちょっと待て。なぜ真夜中に家を出たのに、それからどんどん暗くなっていく
・ ・
んだ?明らかに、闇に近づいているんだ?
ぼくは真っ暗な空を、真っ黒な空を見上げた。
果たして――街灯はあった。その全てが、消されている状態で。
「……停電か?」
なんとも大規模なものだ。今日は月が出ていないから、こうなってしまうと、本当に真
っ暗になってしまう。通行人がぼくだけで本当によかった。
……あれ? 待てよ? 月、隠れてたっけ?
そういえば、だんだん暗くなっていったような気もするし、これまでの間に分厚い雲に
覆われてしまったのだろう。そう、たまたま今、月が隠れているだけだ。
考えてみれば、そんなこと考える必要もないことだった。
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:13:48.05 ID:I+fdqcufo
「まあ、人間が人生で本当に考える必要があることなんて、一つか二つくらいしかないの
だろうけど」
そんな戯言を呟いているうちに、後ろからぼくを刺してくる光に気づいた。エンジン音が
聞こえないので車ではなさそうだし、どうやら街灯が点いているようだ。停電ではなかった
――いや、でも、そもそもこの光はもともと点いていたっけか?
点いて――いなかったんじゃないか?
なぜそんなことすら覚えていないんだこいつは。
さっき通ったばかりだろ?
ぼくはそこで光のほうへと――よせばいいのに――振り向いた。
その光は――ただの一本の街灯によるものだった。
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:15:23.04 ID:I+fdqcufo
一本の街灯。
たった一本だけ点いている滑稽ともいえる街灯。
しかし、ぼくはその街灯を見ても何一つ思うことはなかった。思う余地など、ぼくには
与えられてはいなかった。
この辺りで唯一点灯していた街灯の下。
その街灯に照らされて――『彼女』は、いた。
そこに、存在していた。
55 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:16:42.44 ID:I+fdqcufo
「――っ!」
「おい……そこの、うぬ」
この田舎町にはとても似合わない金髪。
整った顔立ち――冷たい眼。
シックなドレスを身にまとっている――そのドレスもまた、この田舎町には不似合いだ。
いや、しかし、不似合いの意味合いが、そのドレスの場合だけは違う。
そのドレス――元はさぞかし立派な、格調高い服だったのだろうけれど、今はもう、
まるで見る影もない。
チ ギ
引き千切れ。
破れに破れて。
ぼろぼろの布切れのような有様だ。
ゾウキン
雑巾のほうがまだしも立派じゃないのか、というような――逆に言えば、そんな状態に
ニジ
なりながらも、元の高級さが滲み出るほどのドレスだということなのかもしれない。
ワシ
「儂を……助けさせてやる」
56 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:18:37.00 ID:I+fdqcufo
視力二・〇。いくら暗かったからといって、彼女に気づかないはずがない。いや、こん
なスポットライトのように彼女を街灯は照らしている。そんな状況で――果たしてぼくは
彼女に気づかなかったというのか?
それは――いくらなんでもありえない。
ならば、ならばこう考えるべきなのではないだろうか?
・ ・ ・
彼女は、ぼくが通り過ぎたその後――直後に現れたのではないだろうか、と。
「……とんだ戯言だ」
「なにを言っておるんじゃ? うぬは。聞こえんのか……。儂を助けさせてやると、そう
言うておるのじゃ」
と、『彼女』は――ぼくを睨みつける。
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:19:40.22 ID:I+fdqcufo
その鋭くも冷たい視線にぼくは身のすくむような思いをするが――しかし、ここでそこ
まで怯えることはなかったのかもしれない。
『彼女』は疲労困憊の体を呈していた。
街灯に背を預け。
アスファルトの地面に座り込んでいた。
いや、へたり込んでいるとでもいうのがより正確だろう。
それに、たとえそうでなくとも『彼女』には、睨みつける以外の手出しをぼくにはできな
かった。
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:21:57.16 ID:I+fdqcufo
『彼女』には、出すための手がなかった。
右腕は肘の辺りから。
左腕は肩の付け根から。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
それぞれ――切り落とされていた。
「…………」
それだけでは――ない。
下半身もまた、同じような状態だった。
右脚は膝のあたりから。
左脚は太ももの付け根から。
・ ・ ・ ・ ・
それぞれ――切断されている。
どの切断面も悲惨な状態であった。いや、右脚だけは、鋭利な刃物で切断されたのか、
他の部位――右腕、左腕、左脚よりも切断面がはっきりしている。逆に言えば、その三つ
の傷口は引き千切られたかのように見え、えげつなく、また、痛々しかった。
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:25:29.25 ID:I+fdqcufo
「……ふうん」
腕時計を盗み見るように確認する。
時刻は丑三つ時。
一つしか点いてない街灯。
四肢を失っている美しい女性。
そしてぼく。
あまりに――できすぎている。
なんだ、この状況。悪い夢でも見てるんじゃなかろうか。
「えーっと……とりあえず……救急車でも呼びます?」
もう手遅れかもしれないけれど。
いや、まだ間に合うのか?
しゃべるほどには元気があるみたいだし――
と、そこまで考えたところで。
「きゅうきゅうしゃ……そんなものはいらんわ」
『彼女』は。
そんな四肢切断の状態にありながら、それでも意識を失わず、強い口調で――古臭い口
調で、ぼくにそう語りかけてきた。
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:27:42.62 ID:I+fdqcufo
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「じゃから……、うぬの血をよこせ」
「…………は?」
ぼくは意味がわからずに、そう聞き返してしまった。大人の女性に対して無礼にもほど
があるとは思うが、おそらく誰だってこのような状況であれば、こういう風な反応しかと
れまい。
自分の許容量を超えることを言われれば、このような反応しかできまい。
「血? 血って……ゆ、輸血するってことですか?」
「違うわっ! 間抜けっ!」
怒られた……ものすごい剣幕で怒られた。
じゃあ、他にどういう意味があるって言うんだろうか。
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:29:28.03 ID:I+fdqcufo
「我が名は、我が名はキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード……
鉄血にして熱血にして冷血の――吸血鬼じゃ」
「………………………この非常時に、あなた、なにを言ってるんですか?」
そう言いながらも、ぼくはあることを思い出していた。
そう、それは昼ごろ、翼ちゃんと交わした会話。
――女子の間では有名な話――夜―― 一人で出歩いちゃ駄目――金髪の、すごく
綺麗な女の人――背筋が凍るくらい、冷たい眼――街灯に照らされて、金髪は眩しい
くらいだったのに――影がなかった――
目の前の『彼女』を見る。
周囲の街灯が全て消えている中、唯一、点灯している街灯の下にいる『彼女』は、まる
で舞台の上で華やかなスポットライトを浴びているようだったが――そして、その街灯に
照らされた彼女の金髪は、本当に眼もくらむほどだったが――しかし。
本当に。
『彼女』には影がなかった。
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:30:17.88 ID:I+fdqcufo
「…………」
絶句。
「え……そんな……あれ、何かの冗談ですよね?」
嘘だ虚言だ戯言だ。
こんなことあるわけがない。
こんな現実あるわけがない。
こんな戯言あるわけがない!
「信じられないというのか? しかし、信じるしかないぞ。うぬだって本当はわかっている
はずじゃ。眼をそらすな。目の前の現象を見よ。目の前の現実を――見よ」
と、『彼女』は言った。
ぼろぼろの衣服で、四肢を失った状態で、それでも高飛車に構えて――言った。
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:31:17.68 ID:I+fdqcufo
よく見れば、開いた唇の内には――鋭い二本の牙が見える。
鋭い――牙が。
「……吸血鬼、ってのは」
ぼくは息を呑んで、現象を呑んで、『彼女』に訊いた。
「不死身なんじゃ――ないんですか?」
「血を失い過ぎた。もはや再生もできぬ、変形もできぬ。このままでは――死んでしまう」
「じゃから」と――彼女は続ける。
「うぬの血を、我が肉として呑み込んでやる。とるに足らん人間ごときが――我が血肉と
なれることを光栄に思え」
「…………」
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:33:09.48 ID:I+fdqcufo
…………。
まるでわけがわからない。
一体、なにが起きているんだ?
どうして、ぼくの前にいきなり吸血鬼が現れて――いきなり死にかけているんだ?
ここにいてはいけないはずのぼくの前に、存在してはいけないはずの吸血鬼がいる。
死ぬべきであるぼくが生きていて、不死身であるはずの吸血鬼が死にかけている。
「お……おい」
ヒソ
と。動揺のまま、口も利けずにいるぼくに、『彼女』は眉を顰めたようだった。
いや、それは苦痛で顰めたのかもしれない。
何せ『彼女』は手足を全て喪失しているのだ。
「ど……どうしたのじゃ。儂を助けられるのじゃぞ。こんな栄誉が、他にあると思うのか。
何をする必要もない――儂に首を差し出せば、後は全部、儂がやる」
「……血……血って、そんな……ど――どれくらい、いるんですか?」
シノ
「……とりあえず、うぬ一人分もらえれば、急場は凌げる」
「そうですか、ぼく一人分ですか。なるほどそれはよかった――ってそれじゃぼく死んじゃ
うじゃないですかっ!」
動転のあまり戯言遣い、生まれて初めてのノリ突っ込みだった。
そしてこれを生涯最後にする気はない。
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:34:37.34 ID:I+fdqcufo
「なに言ってんですか。いやですよ、そんなの」
「いや……なのか?」
カシ
彼女は、わからないといった風に首を傾げた。
本当に、わからないといった風に。
ボケてるんじゃなく――大マジに。
そういう意味では場違いなツッコミだった。
・ ・
これはぼくに助けを求めているのではなかった。
ぼくを捕食して、自力で生きようとしているだけなのだ。
人よりも上位の存在。
取るに足りない――人間ごとき。
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:35:26.89 ID:I+fdqcufo
「おいおい、ふざけておる場合じゃないぞ。早く血を寄越せ。なにをとろとろしておるの
じゃ、こののろまが」
「…………」
……ぼくのほうがおかしいのか?
・ ・
ぼくがこれに血をやることこそが当然なのか?
でも、そんな、そんなの……
「ふざけているわけじゃありませんよ……なんでそんな、あなたに血をあげなければなら
ないんですか」
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:38:36.86 ID:I+fdqcufo
たしかにぼくは死にたがりの戯言遣いで。
生きていたってどうしようもない欠陥製品だけれど。
でも、だからと言ってむざむざ殺されたくはない。
こんなやつに、殺されたくはない。
「そんな、う……嘘じゃろう?」
その途端。
彼女の眼が――とても、弱々しいものとなった。
先ほどまでの冷たさが、それこそ嘘のように。
「助けて……くれんのか?」
「…………」
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:41:05.01 ID:I+fdqcufo
ドレスはぼろぼろ。
腕も脚も無残に引き千切られ。
ぼく以外には猫一匹といないであろう、草木も眠る丑三つ時の田舎町。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ぼくが見殺せば――もう助かる見込みはない。
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:42:20.56 ID:I+fdqcufo
「い……嫌だよお」
それまでの古風な言葉遣いも崩れ――彼女は髪の色と同じ、金色の瞳から――
ぼろぼろと、大粒の涙を零し始めた。
子供のように。
泣きじゃくり始めたのだ。
「嫌だ、嫌だ、嫌だよお……、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくな
いよお! 助けて、助けて、助けて! お願い、お願いします、助けてくれたら、助けて
くれたら何でも言うことききますからあ!」
痛いほどに――彼女は叫ぶ。
臆面もなく。
最早、僕のことなど目に入らないように。我を失って――泣き叫ぶ。
泣き喚く。
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:43:15.01 ID:I+fdqcufo
「死ぬのやだ、死ぬのやだ、消えたくない、なくなりたくない! やだよお! 誰か、誰か、
誰か、誰かあ――」
吸血鬼を助ける奴なんて。
いるわけがない。
というか、ぼくが助ける奴なんて、いない。
友達でさえ壊したり、殺してしまう、こんなぼくに助けられる奴なんていない。
そもそも誰かを助けたいとも思わない。
ぼくは、救えない奴なのだ。
いくらぼくが死にたがりだからといって、こんなところでこんなのに殺されるなどまっ
ぴらごめんだ。
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/05/14(土) 15:43:51.58 ID:I+fdqcufo
「うわああああん」
流す涙が――血の赤に変わり始めた。
真っ赤な、真っ赤な、
赤い――鮮血。
血の涙。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんな
さい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
ついに、彼女の言葉は懇願のそれから謝罪のそれへと変わってしまった。
一体、何に謝っているのだろう。
一体、誰に謝っているのだろう。
それは、おそらく――この世界に。
生まれて、すみません。
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:45:58.73 ID:I+fdqcufo
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんな
さい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
彼女は泣き叫ぶ。泣き叫び続ける。されど人は来ない。目の前にいるぼくは彼女を
助けない。彼女は助からない。それにたとえ誰かが来ても、その人は彼女を助けない。
そういう運命だったとでも言うべきなのだろうか?
彼女が死ぬことは必然だとでも言うのだろうか?
彼女は死ななければならなかったのだろうか?
ぼくには、わからない。
ぼくは彼女に背を向けて、彼女を見捨てることにした。
見殺すことにした。
ぼくがこれ以上いたところでどうにもならないし、どうしようもない。
まったく、時間を無駄にしてしまった。
そうだ、これからどうなったって、誰が来たって、彼女は死ぬしか――。
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:48:06.74 ID:I+fdqcufo
「……いや、一つだけ道はあるかな」
一つだけというか、一人だけ。
彼女を助けるような男が――助けそうな、助けてしまいそうな男が、一人だけ。
自分の命を顧みないバカに、一人だけ心当たりがあった。
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:53:55.27 ID:I+fdqcufo
「……………………」
もし、もしもだ。
もしもの戯言。
・ ・
もし、ぼくがここにいるのではなく、彼がここにいたとしたら、彼はどうしただろうか?
・
いや、これはもしもと言うよりは、本来ならば、だ。あんな大事件が起こらないで、彼
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
がこの故郷に帰っていたとしたら――
……あいつも、ぼくほどではないが、よく事件に巻き込まれたり、事件を巻き起こした
りしたものだ。
おそらく、きっと、ぼくのように、彼もこの吸血鬼に出会っただろう。
そのとき、そいつは――この吸血鬼を前にして、一体どうするだろう。
きっと、あいつは――たらたら文句を言って――仕方なさそうに――嫌々――うんざり
しながら――心底鬱陶しそうに――どうしようもなさそうに。
この吸血鬼を、助けてしまうのだろう。
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 15:59:03.82 ID:I+fdqcufo
だとしたら、ここで彼女を見捨てる行為は、見殺す行為は、彼女をぼくが直接殺すこと
と等しい。
ぼくの代わりに彼が死んだ所為で、彼女まで死んでしまうのだから。
「………………………」
めちゃくちゃな理屈だ。
前提からして間違えてる。
ありえない方程式。
けれど、それに気づいてしまった以上、たとえ戯言と分かっていても。考えないわけに
はいかない。
「……………………」
人が死ぬところは何度も見てきた。
だから、彼女が死んだところで、気にするようなぼくではない。
けれど、人の命を直接に奪うのは、ぼくが直接の原因になってしまうのは、
そんな、そんなのは……嫌だ。
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:05:22.33 ID:I+fdqcufo
「……………………ふう」
……なにをやっているのだろう、ぼくは。
なにを、迷っていたのだろう。
そもそもこんなこと考えるまでもない。死ねるチャンスじゃないか。戯言もいいところだ。
上位存在――嫌なやつなどではなかった――むしろ、その溢れる高貴は、そう、美しい
じゃないか。
こんな存在を助けられるというのは、命を与えられるというのは、意味のある死ともいえる。
普段生き死にに意味など見出す必要もないと思っているぼくだけれど、でも、あいつには、
これからもみっともなく生きるよりは、生き恥をさらし続けるよりは、
この死に方は、きっと、あいつに胸を張って言える。
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:07:38.79 ID:I+fdqcufo
「はあ」とぼくは溜息を吐いた。自然にそれは出てきた。こんなやつ助けたところでどうにも
ならないが、助けなかったところで何も変わらない。ぼくの命が――失われるだけだ――
終わるだけだ――どう転んだところで、何も変わらないのは彼女の運命などではなく、ぼくの
命運だったか。
どこにいようとも、死ぬ運命。
まったく、なんて、なんて戯言。
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:09:31.73 ID:I+fdqcufo
ぼくは、振り返って彼女に近づき、謝罪を続ける彼女の前に座り込み、首を差し出した。
「えっ?」
「……」
「どういうこと?」
……なんだこいつ……鈍いというかなんというか……死にそうだってのに……まったく。
「ほら、吸ってください」
「えっ? えぇ!」
「何驚いてんですか。ぼくらはあなたの食糧なんでしょう? 喰われて当然、吸血鬼様には
命を献上しなきゃならないんでしょう?」
「で、でも……」
ああ、ったく。なんだよこいつ。
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:10:15.53 ID:I+fdqcufo
「……はやく食べないと、ぼく、逃げますよ?」
「あっ、食べる! 食べます! 食べさせていただきます!」
「……本当に吸血鬼かよ」
「えっ、あっ、えとっ……ごめんなさい」
「……はやくしないと死んじゃうんじゃなかったんですか? ほら、はやく」
「は……はい…………あの……………………その………………………………ありがとう」
彼女は、ぼくの首に牙を突き立てた。
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:11:27.64 ID:I+fdqcufo
目を瞑ってはいなかったはずなのに、ぼくの視界は一瞬で真っ暗闇になる。
そして、闇の中から出てきたのは、今まで会った人達。
父、母、姉、祖父、祖母、そして――妹。
飛行機同士の衝突事故。ありえない事故。
玖渚との出会い、直さんに霞丘さん。
アメリカで会ったクラスメイト達、心視先生、面影真心。
そして――あいつ、阿良々木暦。
あいつが爆ぜる。
日本に戻ってきた。
あいつのご両親、二人の妹、火憐ちゃんと月火ちゃん。
校門の前で会った生徒、羽川翼。
そして、吸血鬼の彼女。確か、キスショット・アセロラオリオン・サータアンダギーだ
っけ?
ああ、まったく、こんなにも多くの人を思い出してしまった。
うっかり死ぬのが嫌になるところだった。
でも、ぎりぎりでとどまった。
いや、嫌になったところで、もうどうしようもないのか。それでもやっぱり、それほど
いやじゃないけど。
戯言まみれのこの人生も、ようやくこれで終わりだ。
これで、これでようやくぼく、は、し、ねる、ん――だ。
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:14:32.74 ID:I+fdqcufo
004
人間以外の動植物が、考えて行動しているか、理性を持っているかどうかについての議
論は、生物学者に任せることにして。
今回はその逆。人間が本当に考えて行動しているか、理性を持っているかどうかについ
て考えてみよう。
人間は考えながら生きていると言えるかどうか、これはおそらくイエスだ。
人が考えなしに生きていけるわけがない。
じゃあまったく考えないで、もしくは、逆に常に考えながら生きている人間がいるだろうか?
答えはもちろんノーだ。両方とも機械にしかおそらくできないだろう。
お次は理性について考えてみよう。
これも先程の回答と同じだ。人は本能のままに行動することもあれば、自分に枷をする
ことだってある。
この二つから、ぼくが何を言いたいかというと、人間と他の動物との間に明確な差異が
あるとすれば、それは、自らバランスをとろうと試みているかどうかだと思う。
いや、ぼくは生物学にそこまで精通してるわけじゃないので、もしかしたら動物の中に
も必死にバランスをとっているものもいるかもしれないが、そこは問題ではない。
ここで問題なのは、人間が意識的にせよ、無意識的にせよ、バランスをとろうとしてい
ることだ。
バランスをとろうとして、失敗していることだ。
人間以外の動物は、どんなことであれ、失敗はイーコールで死につながるが、人間は
失敗したところで死なない。ほとんどの場合終わらない。
今生きている動物のほとんどが失敗をしていない中で、人間だけが、全種が全種、全
員が全員失敗をしている。
生き恥を晒し続けているのは人間だけなのだ。
この主張に対して、「どんなに失敗しても生き続けることができる人間は、やはり他の
動物よりも優れている」と、人間主義者は述べるかもしれないが、ぼくはこうも思う。
恥じながら生きるくらいなら、死んだほうがマシなのではないか。
致命傷を負った時点で、死ぬべきではないのか、と。
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:18:14.60 ID:I+fdqcufo
「んっ――ぅんー……」
ぼくが目を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった。
いや、天井が見えた、だ。暗い室内なのになぜか日中と同じように、いや、むしろそれ
以上によく見える。
…………夢、だったのかな?
いや、これは、この天井は、彼の部屋の天井ではない。
見知らぬ天井なのだから彼の部屋ではないことは、わかっていたのだが、いや、待て、
落ち着けぼく。
落ち着いて、考えよう。
寝ぼけた頭を起動させる。誤作動がないよう、ゆっくり時間を掛けて。
現状の整理。どうやら知らない場所で仰向けに、漢字の『大』のような形に寝ていたら
しい。以上。
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:19:15.53 ID:I+fdqcufo
「――なにひとつわかってねえ」
………………ここはどこだろうか?
彼の部屋ではない、また、阿良々木家の他の部屋というのもないだろう。
ぼくの眼前に広がるのは、ところどころ罅の入った、蔦が這っている、今にも壊れてし
まいそうな、天井だった。
いや、天井といっていいのかどうかも怪しい。雨が降れば雨漏りは必須だろうし、台風
なんかが過ぎた日には、倒壊は必然だろう。
どうやら、建設されてから相当の年数が経っているらしいことはわかった。
しかし、なぜ、こんな場所にぼくが……。
「……うだうだ考えてても仕方ないよな」
とりあえず、まずは起きないと……。
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/05/14(土) 16:20:25.12 ID:I+fdqcufo
「起きm」
途端、強烈な痛みと、なんともいえぬ鉄の味を感じた。
……痛い……噛んでしまった。口の中を切ってしまったようだ。結構派手に切ってしま
ったみたいで、血の味がする。いや、まてよ、『おきます』切るほど噛むような音か? い
や、そもそも切ってなかったのか。どこからも血は出ていない。おかしいなあ。血の味は
するのに。痛みもさっきまではあったはずなのだけれど……。口の中を舌で確認してみる。
あれ、ぼくの犬歯ってこんなに長かったっけ? これじゃ歯というよりは牙だ。噛むのも納
得だ。いや、噛んでなかったんだっけ? しかし、血の味はする。痛みもあった。二つとも
幻覚だったのだろうか? どちらにしろ、牙は問題だな。この長さでは、しゃべるたびに血
を流してしまう。まあ、今までだってしゃべるたびに血は流れていたんだけど。口は災い
の素。しかし、牙、か。牙といえばやっぱり、犬とか蛇とか、虎とか――
「――吸血鬼」
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:21:57.72 ID:I+fdqcufo
…………。
……馬鹿馬鹿しい。まったく、こんなの――冗談もいいとこだ。
そもそもぼくは、ただ起きようとしたんじゃなかったのではないだろうか? 当初の目
的を忘れてしまった。いつもどおりに。
とにかく、ぼくは左手をついて身体を起こそうとするが――
「って、あれ?」
どうも右腕が動かない。いや、動かすことはできるのだが、動かそうとするたびに何と
も言えない感覚が生じる。今まで気付かなかったが、どうやら、右腕が痺れていたようだ。
しかし、気付かないほどに身体が痺れるって起きることなんだな……。
ん? 待てよ? なんで腕が痺れるんだ? 仰向けに、大の字に寝ていたはずなのに……。
ぼくは首だけで右を向く。
そこには――幼い金髪の少女がいた。
目も眩むような、美しい金髪の女の子だ。
とても気持ち良さそうに、すうすうと息をしながら寝ている。
かわいいなあ――じゃなくて。
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:23:23.31 ID:I+fdqcufo
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいま
ずい!!!
ぼくの中で最大クラスに大音量で警報が鳴っている!
落ち着け! 落ち着いて考えるんだ!
素数はたしか、1、3、5、6、8、2、13、25、16……だめだ! とても張り合わない。れ、
冷静に、冷静に、冷蔵庫、いや、冷凍庫になるんだぼく! と、とりあえずは、現状の整理だ。
二度目の現状整理。5W1H。
ぼくと見知らぬ幼女が、知らない場所(おそらくは廃墟)で、(やはりおそらくは)深夜に、
なぜか、二人で寝ていた。
どのようにしてかはわからない。
考えられる客観的な可能性としては、
未成年略取。
未成年の誘拐!
拉致、監禁!
何より女の子というのが致命的!
まったく、なんて冗談だ。畜生!
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:24:48.65 ID:I+fdqcufo
「………………………」
ぼくの脳はK点を越えてしまったようで、もうそこから先は一切何も考えることができな
かった。ぼくはいつしか、考えるのをやめた。いや、いつも何も考えていないような気が
するけれど。
考えられなければどうすべきか。
行動に移すべきである。
「うん、ひとまず逃げよう」
ぼくは、少女のことなど考えもせず、腕を無理やりに、彼女の頭の下から引き抜き、一
目散にその部屋から出て行く。
こういうことにはかかわらないのが一番。このときのぼくではこれ以外の行動は考えら
れなかった。
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:28:20.24 ID:I+fdqcufo
…………いやいや、他にももっと違う道があっただろうに。
ロリコン
ぼくがそのような「少女性愛者」でないことは、ぼくにはわかっていたはずなのに、ぼ
くにこの状況がわからないのであれば、少女の方は知っているのかもしれないのに。
あの少女が――先の吸血鬼にとても似ていることに気がついていれば、このようなこ
とにはならなかったのに。
ぼくは廊下を駆け、階段を駆け下りる。いや、転がり落ちるといったほうがより正確か
もしれない。ぼくは全身を打ちつけながら階段を転がる。ぼくと少女が寝ていたのは二
階だったらしく、踊り場からすぐに出口が見えた。一階は二階よりも少し明るい。さっき
まで、とんでもない暗闇の中にいたので、少し眩しくも感じた。どうやら深夜という予測
は間違っていたらしく、外では太陽が照っているみたいだ。眩しく、とは言ったものの、
北側に面しているのか、室内はただ、二階よりは明るいというだけで、普通の人ならば
目が慣れるまで時間がかかりそうな程度には暗い場所であった。
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:30:16.41 ID:I+fdqcufo
そう、そろそろ気づいてもよさそうなものなのに、自身が既に、普通の人間の状態では
ないことに、気づくべきなのに。
・ ・ ・ ・ ・ ・
全力で建物の外へと出た。太陽の下へと飛び出した。その瞬間に――ぼくの全身が
・ ・ ・ ・ ・ ・
燃え上がった。
「はっ、はあああっ!?」
何が、何が起きている!?
走っている最中のこと、対応しきれなかったぼくは、無様にも肩から転がった。ついで
に火も消えてくれないだろうかと思ったが、そんな生易しいものではなかったらしく、ぼ
くを包む業火は止む気配がない。
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:31:28.05 ID:I+fdqcufo
髪が燃え、皮膚がただれ、肉が焦がされ、骨が焼かれる。全身が炎に犯され、神経
がこれでもかというほど、脳に信号を送ってくる。
燃えている。燃えている。燃えている。燃えている。燃えている。燃えている。赤々と
燃えている。メラメラと燃えている。全てが燃えている。全てが燃えていく。燃え盛り、
燃え尽きていく。
死ぬのか――ぼくは、また、死ぬのか……。
また? 死ぬのは初めてだろ? 何で、ナンデ?
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:33:34.74 ID:I+fdqcufo
「たわけっ!」
と、建物の方から幼い声がした。
首の筋肉はまだ焼き切れていないらしく、ぼくは首を建物へと向けることに成功する。
燃え上がり、水分の蒸発しきった眼でみると、そこにいたのは――先ほどぼくの腕の中
で寝ていた、かわいらしい金髪の女の子だった。
「さっさとこっちに戻ってくるんじゃ!」
と、彼女は少女にあるまじき権高な目つきで、ぼくを怒鳴った。
どうやら、全身の痛覚神経は焼き切れてしまったようで、そのころには幸い、痛みをほ
ぼ感じてはいなかった。ぼくは、肉の落ちた所為で二本の杖のようになってしまった両膝
を必死に動かし、両手首をついて、建物のほうへと戻った。
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:34:50.12 ID:I+fdqcufo
建物の中、陽の当たらない影の中に入ると、まるで全てが嘘だったかのように、『なかっ
たこと』になったかのように、ぼくの体を包む業火は消え去った。服も全て元通り――いや、
上着の至る所に、泥が付着していたし、足が焼けただれた影響で脱げた靴は、今も建物の
外に放置されたままであるが――とにかく、元通り。燃えていたのはぼくの肉体のみで、
服には火が回らなかったということだろう。
人体の自然発火現象も相当の驚きだが、その炎が服にまで回らなかったこと、また、そ
の炎が一瞬で消え、ぼくの肉体に後遺症等を残さず一瞬で回復してしまったことの前では、
自然発火現象のことなどなんてことはない。レーザーやらプラズマやらの解釈はあるし、
それに関する論文や、実験はむこうで見ている。
しかし、それ以外は説明がつけられない。そこらで買った服が耐火服であるわけがない
し、瞬時の消火、回復は、きっと誰にも説明がつけられないと思う。
超常現象。
吸血鬼。
まさか……いや……そんな……。
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:38:21.77 ID:I+fdqcufo
「全く。いきなり太陽の下に出る馬鹿がどこにおるのじゃ――ちょっと眼を離しておる隙に、
勝手な真似をしおって。自殺志願か、うぬは。並の吸血鬼なら一瞬で蒸発しておったぞ。
日のある内は二度と外に出るでない。なまじ不死力があるだけに、焼かれ、回復し、焼か
れ、回復し――の、永遠の繰り返しじゃ。回復力が尽きるのが先か太陽が沈むのが先か
――いずれにせよ、生き地獄を味わうことになる。まあ、不死の吸血鬼を生きておるのだ
と定義すればじゃがのう――――――――――――――――――――――――――――
って、うぬ、おい、聞いているのか?」
「…………」
「聞こえておるんじゃろ? なあ、おい」
「…………」
「まさか、うぬ! しゃべれんのか!? そんな、まさか失敗して……」
「…………」
「ああ……そんな、そんなっ!」
「…………」
「…………うっ」
と、そこで、少女はこちらにも伝わってきそうなくらい寂しそうに、目に涙を溜めた。
「泣いちゃ駄目だ。泣いちゃ駄目だ」という、心の声まで聞こえてきそうなほどに、必死に
歯を食いしばり、小さな手をぎゅっと握り締めて、それでもやっぱりこらえきれないのか、
少し顔を俯ける。
ああ、もう、可愛いなあ。
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:39:38.48 ID:I+fdqcufo
「心配しなくても聞こえてるよ。大丈夫。大丈夫」
と、ぼくは彼女の頭を撫でた。
「…………それならすぐに返事してよ」
言って、彼女はぼくの腰に抱きついた。
「いろいろ理解が追いつかなかったんだよ、ごめんね」と言って、ぼくも彼女を抱きし
める。
小さい、ふわふわとした体躯。さらさらと美しい金髪。今は見えないが、威圧感のある、
少女に似つかわしくない、鋭く、冷たい目。そんな少女によく似合う、これまた、かわい
らしいドレス。そして、しゃべるたびに覗く白い牙。
これら全てに、見覚えがある。
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:40:40.27 ID:I+fdqcufo
「すると、きみは――その、昨日の吸血鬼ってことでいいのかな?」
と、尋ねると、彼女はそれで我を取り戻したのか。慌てて、ぼくを軽く突き飛ばし、少し
距離をとると、思い切り高飛車な態度で、胸を張り、
「う、うううう、うむ。い、いかにも、わしゅ、儂は、キスショット・アセロラオリオン・ハート
アンダーブレードじゃ」
と、名乗りを上げた。
…………かわいい。ものすごくかわいい。
これ以上にかわいい生物はいないと断言できるくらいにかわいい。
ぼくに弱いところを見せたくないのだろうか、彼女はぼくに尊大な態度をとって見せた
が、見せようとしたが、その試みは明らかに失敗だった。
台詞噛んでるし。
顔真っ赤だし。
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:42:29.88 ID:I+fdqcufo
「け、眷属を造るのは四百年ぶり二回目じゃったが、まあその回復力を見る限りにおいて、
うまくいったようじゃな。暴走する様子もなさそうじゃ。なかなか眼を覚まさんから心配したぞ」
「心配してくれたんだ。ありがとう」
「………………」
カアァっと音が聞こえるんじゃないかってくらいに、少女は顔を更に真っ赤にさせる。
「ところで、眷属って何?」
「その、なんというか、しもべ、従者みたいな感じじゃ」
「ま、まあ、かぞ――という意味もあるかの……」と、少女はごにょごにょと答えた。
従者、か。それはつまり――
「つまり、ぼくも吸血鬼になったってことか」
それほど詳しいわけではないが、というか、あまり知らないのだが、確か、吸血鬼の血
を浴びると、ゾンビになるんだったっけ?
それの応用で、吸血鬼を作りだしたってことか?
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:44:33.94 ID:I+fdqcufo
「そう。うぬは眷属、吸血鬼となったのじゃ。さて、従僕よ」
彼女は笑った。
今までの子どもじみた言動が嘘だったかのように。
顔はまだちょっと赤かったけれども、それでもやっぱり別人のように。
凄惨に、笑った。
「ようこそ、夜の世界へ」
…………結局、ぼくは、人生を終えることは叶わなかったというわけだ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
いや、人間をやめた、やめさせられたのだから、「人」生は終わったのかも知れないが。
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:45:24.55 ID:I+fdqcufo
「……ちょっと、質問いいかな?」
「うん? なんじゃ。何でも言うてみい」
「えっと、その……ここは、どこだろう?」
さして気にしていることではないのだけれど、まずは、牽制。軽いジャブのような形で、
質問をしてみた。
「何でも」と言っているのだ。
二つ目、三つ目の質問は可能だろう。
まずは当たり障りのないところからだ。
「確か、『塾』とか言うものらしいぞ――数年前に潰れたようじゃが。今はただの廃墟じゃ。
身を潜めるのには便利じゃな」
「身を潜める……?」
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:46:42.37 ID:I+fdqcufo
……えっと……なんで?
今がまだ、太陽が出ている時間帯だから、ということだろうか?
「ふむ。まあ、確かに今、儂が行動を起こせないのは、太陽が出ているから、というのも
あるのじゃが、しかしそれ以上に大きな理由として、やつらから、身を隠さなくてはなら
ない、というのがあるのじゃ」
「『やつら』?」
「ああ。この儂から四肢を奪い取っていった、忌々しきヴァンパイアハンターどもじゃ」
「そうだ、それについても聞きたかったんだ。あの時、ぼくがきみと会った時、きみ、
その、五体満足じゃなかったじゃないか」
それが今は腕があり、脚があり――
「胸がない」
「今なんか失礼なことをつぶやいたじゃろ!? おい!!」
「かわいくなったね。って言っただけなんだけどな」
「むう……絶対嘘じゃろ、それ」
しかしキスショットは「まあよいわ」と、それ以上追及することはしてこなかった。
上位存在。意外とチョロいなあ。
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:47:55.80 ID:I+fdqcufo
「儂がこのような姿でいるのは、端的に言って力が足りていないからなのじゃ。力が、
血が不足しておる」
「あれ? でも、あの時はぼくの血があれば助かるって」
いや、違う。たしかあの時、キスショットは、「急場は凌げる」と、そう言っていたの
だっけか?
「そうじゃ。これは文字通りにその場しのぎ。ただ死なぬための策。形だけは取り繕って
おるが、この腕も、脚も、中身はまるでスカスカじゃ。吸血鬼としての力は発揮できぬ。
不死身性は大分失われておるし、不便極まりないわ。まあ、当面はこれで大丈夫じゃし、
そこまで気にすることはないよ」
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:48:43.06 ID:I+fdqcufo
死なぬだけマシじゃ。と、キスショットは自身に言い聞かせるようように言った。
そう、結果的に、彼女は死ななかった。
一安心。
ぼくなんかの血では人一人分にすらならなかったのではないか、と、少し心配でもあった
のだ。ひとまず助かったというのなら、ぼくが死んだ甲斐もあったというもの。
そう思うことに、しておこう。
さて、次の質問は……。
もう少し、様子を見るか。
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:50:47.79 ID:I+fdqcufo
「じゃあ、また質問。キスショットの趣味は?」
「いやいやいやいや待て待て待て待て」
キスショットは頭を抱えながら手を前に出す。なんだろう? 聞いてはいけないことだっ
たのだろうか?
「うん。一つずつツッコミを入れていくか。おい、うぬよ。儂の趣味を聞いていったい
どうするのじゃ?」
「いや? べつにどうも? とりあえず聞いてみただけで全然興味ないし」
「じゃよなあ! 他人に興味なさそうな顔しとるもん!」
「うん、よく言われる」
そしてその通り興味はない。
ぼく自身あまり趣味はないので聞いたところで「へえそうなんですね」としか言えない。
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/05/14(土) 16:52:09.33 ID:I+fdqcufo
「じゃあなぜそんな質問をこの状況下でするのじゃ?」
「いや、とりあえず相手が話しやすそうなところからやってこうかなって。コミュニケーションの
基本だろ。相手を調子に乗らせて話しやすくするのは」
「今ものすごくディスコミュニケーションな響きの単語が飛び出したような気がするのじゃが
……うううううう…………なんじゃ? うぬは女子を驚かせて楽しむ趣味でもあるのか?」
「失敬な。女子に限らないし、また、驚かせるだけでなく怒らせたり動揺させたりするのも
好きだ」
「最低の男じゃああ!!」
うなるように叫び、キスショットは剣呑な目で睨みつけてくる。おお、怖い怖い。
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:53:45.00 ID:I+fdqcufo
「で、キスショット、ぼくは、吸血鬼になったんだよね」
「こら、待てと言ったろうに。勝手に話を進めようとするな! まだ先の質問、言いたいこと
は残っとるぞ! おいうぬ! そのキスショット呼ばわりはなんじゃ!」
「ん? あれ? まずかった?」
そちらは想定外だ。向こうではむしろファーストネーム呼びの方が自然だったのだけれど。
「うーん、ダメかな? ぶっちゃけ、アセロラオリオンもハートアンダーブレードも呼びづらい
んだけど」
「人の大事な名を呼びづらいとかいうでないわ!」
マジギレだ。かわいい。……じゃなくて、ちょっとやりすぎたかもしれない。
「ごめんごめん。キスショットがダメなら…………そうだな、キースとかどうかな?」
「馴れ馴れしいという話なのになぜさらに砕ける!?」
があーっと、頭を抱え、獣のように吠えるキスショットだった。
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:54:44.12 ID:I+fdqcufo
「はああああ……もう、なんじゃ、うぬ、救いようのないあほじゃな。ほんと」
「わかってもらえてうれしいよ」
「……………………うぬには命を助けられた。無様をさらす儂を、うぬは救ってくれた。
じゃから、生まれたての吸血鬼などという低位のうぬが、儂に対等に口を利くことも、
儂をキスショット呼ばわりするのも許そうと思う」
「本来なら口もきいてもらえないのかぼくは……」
「そうじゃぞ。生まれて五百年の儂とうぬではまるで位が違うのじゃ。ましてや吸血関係、
つまりは主従関係にあるのじゃから、本来というのであれば、うぬは絶対服従。儂の意見
をただ聞き動くだけの奴隷じゃ。しかし、さすがにそこまでするのは勘弁してやろう。うぬ
の意見も、うぬの意思も尊重してやる。じゃがな、儂とうぬは上下関係にある、それだけは
はっきりしておかねばな」
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:56:06.31 ID:I+fdqcufo
ふうむ。吸血鬼世界というのは意外に体育会系らしい。となると、なにやら連帯感を強める
ための儀式めいたものがこれから行われるのだろうか? たしか聞いた話によると、ある中学
の野球部では女子から制服を借りて初回の練習をするとか。そういう、恥ずかしい思いを皆
で共有することが大切とかなんとか。
「ふふ、察しがよいな。優秀な従僕を持てて、儂はうれしい。ま、よい主人にはよい従僕が
つくものじゃから、当然と言えば当然のことなのじゃが」
キスショットは愉快そうに笑う。
「はあ、で、いったい何をさせようってんですか? キース様」
「砕けておるのか畏まっておるのか……ああ、もうキスショットでいいわ」
「で、キスショット。ぼくはいったい何をすればいいのかな?」
「うむ。まずは服従の証として儂の頭を撫でてみよ!」
彼女は威張って言った。
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:57:49.50 ID:I+fdqcufo
…………いや、それ、普通に女の子をかわいがっているだけになるのでは?
というツッコミを抑え、言われたとおりに頭を撫で。
柔らかい。美しくさらさらの髪は、量があるのに、指が滑るようだ。
「あいつの髪とは大違いだ」と、思わずつぶやく。
風呂ギライだったからな。あいつ。
髪を撫でる。慈しむように、いたわるように。あまりの心地よさに、ぼくが撫でているのか。
髪がぼくの指を吸い込んでいるのか。指と髪との境界がわからなくなってしまいそうだ。
一体感。かわいがるのではなく、かわいがらせてもらう。至福の奉仕。なるほど。これは
主従の証たり得るだろう。ぼくは夢中になって髪を撫で続ける。
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 16:59:17.73 ID:I+fdqcufo
「ふっ。よかろう」
「…………」
「もうよいて」
「……………………」
「よいと言っておるだろうが!」
蹴られた。
スカスカ、と彼女は自身を指して言っていたが、それでもぼくを軽く吹き飛ばす程度には
まだまだ力は健在らしく、あわれ戯言遣いはそのまま玄関の外まで吹っ飛び、ふたたび
陽光にさらされることになるのだった。
「あちちちちち! あついあついあつい!」
「なにがあわれ、じゃ。この、髪フェチの変態が!」
さっさと戻ってこい。と、キスショットは冷たく言う。
ひどいなあ。そもそも撫でろといったのは向こうだというのに。ぼくは必死に転がりながら
屋内へ逃げ、不平を口にする。
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:00:20.68 ID:I+fdqcufo
「儂がやれ、と言ったらやり、やめろと言ったらやめろ。まったく、まだわかってない
ようじゃなこいつ…………」
やれやれ、と肩を竦めるキスショット。
「仕方ないのう。これはより上位の服従の証を見せてもらおうか」
かかかか。と、悪魔超人じみた笑いをするキスショット。うわあ、こんな笑い方する
やつ本当にいるのか……。すげえ、本家より悪そうな笑みだ。
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:01:33.21 ID:I+fdqcufo
「はあ、次はなに?」
「より上位の服従の証、それはな」
勿体ぶった風に、彼女は告げる。
「胸を、撫でる」と。
胸を――撫でる――。
むねを――――――ナデル――――――?
「は? え? はあ?」
「ん? わからんのか? 儂の、この胸を、撫でろと言っとるんじゃ」
「…………いや」
いやいやいやいやいやいやいやいや、待て待て待て待て待て待て待て待て。
え? いや、いいのか? ダメだろう。絵面的に。
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:02:06.55 ID:I+fdqcufo
「『いや』って、い、嫌、なのか……?」
軽く涙目になるキスショット。
「嫌ではないんだけど、その、なんというか」
劇場化できなくなってしまう。
大手を振って街を歩けない身分になってしまう(元からだけど)。
ああ、でも、やるしかないのか? 彼女の涙腺は決壊寸前だ。
幼女を幾度も泣かせた男になるのか、幼女に手を出した男になるのか。
主人の言いつけを守るべきか、破るべきか。
戯言遣い、決断の時であった。
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:02:49.37 ID:I+fdqcufo
そんな風に優柔不断なぼくが選択を迷っていると――
「うう……儂に服従を誓うのが、そんなに嫌なのか? それとも、儂のこの胸に触れるのが、
嫌なのか?」
あ、まずい、もうタイムリミット。ぼくは、ぼくは――
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:03:55.07 ID:I+fdqcufo
「いや、幼女の胸に触れるとかマジでムリっす。勘弁してください」
「うっ、うぅ、うわあああああん!!!」
泣いた。キスショットは、大粒の涙を流し、叫んだ。
「冗談!」
泣き出した彼女を見るにたえかね、ぼくは一瞬で態度を改める。
「戯言! 嘘! これぞ本場のアメリカンジョーク!」
「…………ほんとう?」
「本当も本当! 今までのは全部演技! 本当はもう服従したくてたまらないし胸にも触り
続けていたかった!」
「それ、ほんとうじゃな?」
「うんうんうんうん」、ぼくはヘッドバンキングで必死に彼女にこたえる。
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:05:16.22 ID:I+fdqcufo
「じゃあ、『どうかぼくに、そのおっぱいをモミモミさせてください、お願いします』って言って」
「どうかぼくに、そのおっぱいをモミモミさせてください! お願いします!」
「……『キスショットのおっぱいを揉ませていただけるなんてとても光栄です』」
「キスショットのおっぱいを揉ませていただけるなんてとても光栄です!」
「『キスショットのおっぱいを揉むためだけにぼくは生きてきたようなものです』」
「キスショットのおっぱいを揉むためだけにこの戯言遣いは生きてきたようなものです!」
「おいおい、何の感情も持てなさそうな瞳をしておるくせに、結構変態なのじゃな。うぬ」
ロリコン
「はいっ、ぼくは変態です! ごめんなさい!」
「謝らんでもよいわ。この儂の魅力に当てられてしまうのは、仕方のないことじゃからな」
かかかかっ。と、キスショットは笑い、両手を頭の後ろに当て、しなを作り、誘うように
胸を突き出す。
「さっ、よいぞ」
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:06:02.52 ID:I+fdqcufo
「……………………」
は、ハメられたあああーーーー!!!
ちょっと面白い流れになったのでついノってしまった――――!!!
これ、マジでやる流れだよな? ああ、迷いに迷って、結局泣かせた挙句に手を出すことに
なるなんて…………。
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:07:45.02 ID:I+fdqcufo
「…………えい」
恐る恐る、触れてみる。
「ひゃっ!」
「ごめんなさい!」一気に手を引っ込める。
「いや、ちょっとくすぐったかっただけじゃ。よい、続けよ」
「あ、は、はい」
やれと言ったら、やり、やめろと言ったら、やめろ。だったか?
落ち着け。おちつけえ、戯言遣い。
なでる。なでる。なdるなでるなdrなでr。
「うるさいぞ。はやくせい」
「は、はい」
いつの間に声に出してしまったのだろうか? 恥ずかしい。動揺をさらすなど。
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:08:57.77 ID:I+fdqcufo
覚悟を決め、手を伸ばす。布越しでも、柔らかさを感じる。これは、脂肪がついていると
いうよりは、子ども特有の肌自体の柔らかさ。胸、といっても、腕やほっぺたが柔らかい
ようなもので、それは性的な感触ではない。まだ全体的に未熟な、そういう欲求には大抵
なりえないような肢体。そうだ、気にするな。これはただの儀式。頭を撫でるのと何ら
変わらない「んっふ、あぁ」
「変な声あげてんじゃねえ!」
思わず突き飛ばすぼく。
色々限界だった。これ以上は
>>2
にR-18注意と書かなくてはならなくなってしまう。
「いやあもうこんなの読もうと思ってる時点で成人済みじゃろ。完結から十年半じゃぞ」
というわけで続行じゃ。胸を張って、彼女は言い放つ。え? まだこの件続けなきゃ
いけないの?
「ああ、続けなきゃ、イケない」
「知るか。一人でやっとれ」
人をおもちゃにするんじゃありません。
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:10:11.88 ID:I+fdqcufo
「はいはいもうぼくの負けだよ。完全敗北。もうきみには敵わないと悟ったさ。一生の
服従を誓うよ。キスショット」
「ええー? 本当にござるかぁ?」
「…………」
ちょっとこの吸血鬼、俗世に毒されすぎではなかろうか?
「まあよいか。かか。うぬ、存外に初心なのじゃな」
キスショットはにやにやと楽しそうに笑う。
くう……どうやら攻める側になると彼女も強いみたいだ(二人とも守りが甘いのかも
しれないが)。
ええと、なんだっけ? 今、どうゆう状況だっけ?
「お色気パートじゃろ?」
「そんなものはない。このシリーズにはない。いらない。求められてない」
「そこまで拒否することもないじゃろ……」と、拗ねるように言うキスショットだった。
と言ってもまじでこの方向は求められてない気がするのでやめ。
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:12:55.85 ID:I+fdqcufo
「はい、次の質問いくよ。ぼくは吸血鬼になったんだよね?」
「おいおい…………まだ信じられんというのか? 先ほどあれだけ派手に炎上したという
のに」
「いや、その点についてはもう理解しているよ。自分がもう異形な者に変わってしまった。
それはもう受け入れた。で、次はなんでぼくが吸血鬼になったかってこと」
「ん?」
「どうして、ぼくを吸血鬼にしたのかってことさ。ぼくの血を吸いつくして、それでおしまいで
よかったじゃないか。それをわざわざ生き返らせて、二人で隠れられるような場所を探して、
めんどうだっただろう?」
そう、ただの食料にそこまでしてやる義理はない。ならば、彼女には何らかの算段があ
るはずだ。ぼくという人間を利用して、キスショットは何を企んでいるのか? ぼくに何をさ
せようというのか。ぼくに何を求めているのか。
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:14:07.50 ID:I+fdqcufo
なんて、少々身構えていたのだが、それはどうやらぼくの穿った考えのようだったらしく
「……別に、したくてしたわけではない。吸血鬼に血を吸われれば、例外なく誰もが吸血
鬼と化す。それだけのことじゃ」
と、何でもないことのように言った。
「そっか……」
疑り深い自己を恥じる。利用されたり利用したり利用したり利用したり利用したりした
所為か、どうにも人間不信になっているようだった(どうかんがえても自業自得)。
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:15:42.67 ID:I+fdqcufo
「まあ、それは儂にとっては都合のよいことよ。何故じゃかわかるか?」
キスショットは、勿体つけるように間を置いて、高慢な口調で言う。
凄惨な笑みもつけて、意地の悪そうに嗤う。
…………………………前言撤回。やっぱりぼくを利用する気はありありのようだ。
「うぬには、やってもらわなければならぬことがあるからじゃ」
「やってもらわなければならないこと?」
「そうじゃ。うぬ一人の血では、ここまでしか身体を回復できんかった――今の儂は、フル
・ ・ ・
パワーからは程遠い。じゃからこの先は、うぬに動いてもらわぬといかん」
「この先……」
「然り。先の先まで読んで行動する。それがこの儂、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードじゃからの」
どやあ、と擬音が聞こえてきそうなほどの表情を浮かべる。
……つっこまない、つっこまないぞ。もう。
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:17:28.46 ID:I+fdqcufo
「ぼくに何を――」
ぼくに何をさせる気なのか。
思わず、そう訊いてしまうところだったが、しかし、それでは話が逸れそうなので――
いや、キスショットがぼくにさせたいこと、というのも本筋なのだろうけれど――その前に、
どうしてもぼくには訊いておかなければならないことがあった。
ここらが頃合いだろう。
一番訊きたいことを――確認しなければならないことを――訊く。
「キスショット……ぼくは」
彼女を見据え、覚悟を決めて、ぼくは問う。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ぼくは――人間に戻れるのか?」
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:18:35.23 ID:I+fdqcufo
「ふむ」
特にリアクションは取らず。「やはり――そうじゃろうなあ」なんて、キスショットは
言った。強いて言うなら、少し寂しそうにしたくらいだった。
てっきり、怒ったり、不思議がったり、理解不能な目で見られるのではないかと、そんな
反応をされるのではないかと、少し身構えたのだけれど――。
「うぬがそう言う気持ちはわかるしのう?」
「え? わかるの?」
上位存在。
口調から、態度から、人間のことは完全に見下しているとわかる。
てっきり、吸血鬼に、従僕になれたことを誇りに思え、とか言われると思っていた。
「儂も神にならんかと誘われたことがあったが、その時は断ったからのう」
「……またスケールのでかい話だね」
「昔の話じゃ」
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/14(土) 17:19:43.72 ID:I+fdqcufo
ともかく、とキスショットは話を戻す。
「人間に戻りたい――と言うより、元のままでありたいと思ううぬの気持ちはわかるのじゃ。
そう言い出すと思っておったわ。『ようこそ、夜の世界へ』と言ったものの、うぬがその
ままでいたがるとは思っておらんかったよ」
「そうか――それで、結局どうなの? ぼくは――」
「……戻れるよ」
キスショットは、少し声を低くして、言った。
射貫くような、権高な視線で、ぼくを見つめる。
「戻れる。保証するよ。儂の名にかけての」
「…………」
その冷たい声は、どこか悲しみをはらんでいるようにも思えた。
「勿論……従僕よ。そのためには、ちょっとばかり儂の言うことを聞いてもらわねばならぬ
のじゃがな。従僕たるうぬに命令を下すに遠慮する必要などないのじゃが―― 一応、
命令ではなく脅迫と言うことにしておいてやろう。人間に戻りたくば――儂に従え、とな」
そしてやはり――彼女は、凄惨に笑った。
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/14(土) 17:22:28.10 ID:I+fdqcufo
まだ書き溜めあるのですが疲れてしまったので今回はここまでで。
スレタイを「キスショット「うぬには人間をやめてもらうぞ!戯言遣いぃぃーー!!」」にしてもよかったかなと思いました。(戯言)
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/14(土) 18:17:43.28 ID:fuM/DP1ho
原作より戯言使いの口調性格がマイルドなのは暦が原因か、なるほどな
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/14(土) 18:35:06.29 ID:oYsAMLNzo
戯言が完全にラノベ界の古典みたいな存在になってからアニメ化とかびっくりだよね
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/14(土) 21:25:29.73 ID:xLXjJbwI0
今の哀川さんって忍より強いよな
ミステリとはなんだったのか
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/14(土) 21:53:25.06 ID:nBqmOrLXo
西尾本人が自分の世界観では最強は暦、理由は愛される能力が一番強いからとか言ってるから
潤さんが忍より強いかは超疑問
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/15(日) 00:03:50.56 ID:4BSbwVsUO
なぜ今日なのか……
昨日の5月13日金曜日にあげろよ!
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/20(金) 22:12:12.54 ID:ntvrM9VEo
お、五月十三日金曜日やん。それまでに傷の鉄血編書いたろ
↓
戯言アニメ化オエーゲロゲロ(その後寝込む)
で、復活して書き終わったら日付過ぎてました。
ショックで総白髪になることは本当はないと聞きますが、その日から生えるということはあるんだなと身をもって実感したり。
そんなわけで、書き溜めはこれから投下する鉄血編までです。それからはのんびり進行していきますたぶんきっとおそらくは
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/20(金) 22:14:27.62 ID:ntvrM9VEo
005
三月二十八日。夜の街をぼくは徘徊していた。そろそろ春が近づいているはずなのだが、
気温は少し肌寒く、先ほど作ってもらったパーカーを着て、街の状態を確認していく。
徘徊、といっても別に若くしてボケたわけではなく(そのはずだ)、勿論、ちゃんと目的が
あってのことだ。できることならもっと早く行動を起こしたかったのだが、現在ぼくは陽の光
を浴びれば炎上する身。これではちょっとした買い物もできやしないし、また、相手を迎え
撃つに当たって、できるならば万全の状態で望みたいというのもあって――夜。つまりは吸
血鬼の時間となるまで、待つ必要があった。
そう、迎え撃つこと。キスショットを襲ったヴァンパイアハンター三人を倒すことが、
この徘徊の目的であった。
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/20(金) 22:15:23.34 ID:ntvrM9VEo
「しかし――ギャグパートの次はバトルパートか」
そこらに気を配りながら、ぼくはキスショットとの会話を思い出す。
ドラマツルギー。
エピソード。
ギロチンカッター。
それが、キスショットから身体の部品を奪った三人の名。三人のヴァンパイアハンター。
ドラマツルギーという男は彼女の右脚を。
エピソードという男は彼女の左脚を。
ギロチンカッターという男は彼女の両腕を。
それぞれ、奪っていったらしい。
彼女の四肢が失われていたのは、彼女が死にかけていたのは、その三人の所為であるよう
だった。
不死身の吸血鬼を殺す、三人の狩人。
どうして彼女がこのような憂き目にあってしまっているのかと言うと「特に理由はない
よ」とのことだった。
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/20(金) 22:17:51.45 ID:ntvrM9VEo
「儂は吸血鬼じゃ。うぬら――いや、うぬはもう違うが――人間どもで言うところの化け物
じゃ」
化け物は――退治されて当たり前じゃ。なんでもないかのように、キスショットは言う。
「それで、退治されて、今に至ると」
「たわけたことをぬかすな、まだされてはおらん。ただ、手足を奪われたのは痛いな。
回復力もほとんど残っておらんし――今のこの状態では、戦いようもない。このままでは、
手足を取り戻すことは叶わんじゃろな」
「手足を――取り戻す?」
「ああ、奪われた手足を、取り戻す。そうすれば元の、完全な状態に戻れるはずじゃ。
うぬを人間に戻すためには、儂はフルパワーの状態に戻る必要がある」
「そっか」
ちょっと、安心。
ぼく一人の血では足りない。ならばもっと多くの人間の血を吸う必要があると、その
ためにぼくが必要になるのだと、そういう話の流れになるのかと思ったが、そういうわけ
ではないようだ。
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