キスショット「これも、また、戯言か」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/05/14(土) 01:44:28.07 ID:I+fdqcufo
戯言シリーズと物語シリーズをクロスさせるssです
よかったら見ていってください

祝(?)戯言アニメ化!
五年前? はて? なんのことです?

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1463157867
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 01:46:14.93 ID:I+fdqcufo
戯言×傷物語 アタシハプロフェッショナル


             アウトオブアウトサイダー
×××××ヴァンプ 欠 陥 吸 血 鬼 の戯言
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 01:50:43.22 ID:I+fdqcufo
  登場人物紹介


戦場ヶ原ひたぎ (せんじょうがはら・ひたぎ)――――――――????
八九寺真宵 (はちくじ・まよい)―――――――――――――????
神原駿河 (かんばる・するが)―――――――――――――????
千石撫子 (せんごく・なでこ) ―――――――――――――????
羽川翼 (はねかわ・つばさ)――――――――――――――????
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード ―――吸血鬼。
(きすしょっと・あせろらおりおん・はーとあんだーぶれーど)
阿良々木火憐 (あららぎ・かれん)――――――――――――????
阿良々木月火 (あららぎ・つきひ)――――――――――――????
老倉育 (おいくら・そだち)―――――――――――――――????


ドラマツルギー (どらまつるぎー)―――――――ヴァンパイアハンター。
エピソード (えぴそーど)―――――――――――ヴァンパイアハンター。
ギロチンカッター (ぎろちんかったー)―――――ヴァンパイアハンター。

忍野メメ (おしの・めめ)―――――――――――――――バランサー。
忍野忍 (おしの・しのぶ)――――――――――――――――????
忍野扇 (おしの・おうぎ)――――――――――――――――????
貝木泥舟 (かいき・でいしゅう)――――――――――――――????
影縫余弦 (かげぬい・よづる)――――――――――――――????
斧乃木余接 (おののき・よつぎ)―――――――――――――????
臥煙伊豆湖 (がえん・いずこ)――――――――――――――????


死屍累生死郎 (ししるい・せいしろう)―――――――――――????
沼地蝋花 (ぬまち・ろうか)―――――――――――――――????
デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター ――――――????
(ですとぴあ・う゛ぃるとぅおーぞ・すーさいどますたー)


阿良々木暦 (あららぎ・こよみ)―――――――――――――――天才。

4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 01:51:53.67 ID:I+fdqcufo
井伊遥菜 (いい・はるかな)―――――――――――――――――妹。
玖渚友 (くなぎさ・とも)――――――――――――――――死線の蒼。
想影真心 (おもかげ・まごころ)―――――――――――――橙なる種。
西東天 (さいとう・たかし)――――――――――――――――????
哀川潤 (あいかわ・じゅん)―――――――――――――――????


零崎人識 (ぜろざき・ひとしき)―――――――――――――????

阿良々木伊荷親 (あららぎ・いにちか)――――――――――戯言遣い。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/05/14(土) 01:52:29.89 ID:I+fdqcufo



              人間は二度生まれる。――ルソー
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 01:54:09.29 ID:I+fdqcufo


 入れ替わろう。と、そのとき彼は言った。

 別にそれは特段おかしなことではなかった。彼は研究熱心なのか、時折ぼくと実験を代

わってほしいと言ってくるのだ。別にこの日が特別だったわけではない、いつもどおり。

ただの日常。

 異常が日常であるぼくらにとっては、これが普通であり、また普遍であった。

 しかし、このときぼくは気付かなければならなかったのだと思う。いつもの彼とこの日

の彼との違いに。

 この日の彼はやけに食い下がってきた。どうしてもこの実験だけは僕が参加したいのだ

と、それと……そう、これが最後だから、と。

 このとき彼は何を思ったのか、ERプログラムの中途脱退の要請をしていたのだ。こんな

に研究熱心なのにどうしてやめてしまうのかが、ぼくにはまったくわからなかった。

 そうだ、あんなにも研究を楽しんでいた奴が、そんな『つまらなくなったから』なんて、

普通の言い訳をするはずがないのに。

 あんな異常なやつが、普通のことを言う訳がないのに。

 結局、ぼくはその「実験中に入れ替わる」という交渉に応じた。

 応じて――しまった。

 無論このことについてぼくが責任を感じなくてはならないような要素はどこにもない。

彼が選択したこと、彼の責任だ。自業自得。彼のおかげでぼくが助かった。というのもま

た、あの事件の側面であるので、このような言い方は冷たいと思われるかもしれないが、

しかし、ぼくはこの事件で何もしなかったのだし、何もする余地がなかったのだからその

反応はお門違いというやつだ。だから、ぼくは彼に対して何も思う必要はないし、何も語

る必要はないし、何もする必要はないし、何も後悔する必要もない。

 だけど。

 いや、だけれども。

 ぼくは彼について何か思ってやりたいし、何か語ってやりたいし、何かしてやりたいし、

何より――

 何より――後悔している。

 彼と代わったことを。

 彼と替わったことを。

 彼に実験内容を知らせてしまったことを。

 だから、僕は、彼に哀悼の意を捧げる。彼の代わりに生きる。彼を――

 彼を、忘れない。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 01:54:51.54 ID:I+fdqcufo


000

 ぼくが生きているうちに、続きが見れてよかったよ。


8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 01:56:00.30 ID:I+fdqcufo


001

 キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードのことを、僕は語らなけれ

ばならないらしいが、しかし、僕は今この時点でまったくもってやる気がない。彼女につ

いてはもう完全に終わった話である。正直いまさら話したところでもうどうしようもない

くらいに終わっている。

 こんな話よりも、僕が細かい箇所を忘れないうちに、文化祭直前に起きた、あの忌まわ

しい事件について早急に語らなければならないと思っているのだが、彼女はそれを許して

くれなかった。

 そもそも本来は語る必要もないどころか、この吸血鬼にまつわる話は、僕と愛すべき委

員長の撮っておき。二人互いに胸の奥にしまいこまなくてはならない、なるべく語っては

ならない話なのである。

 また、こんな話を話したところでまったく面白くもなんともない。この話は、山も落ち

も意味もない話なのだ。この話をすることによって、一部の人が僕のことをかわいそうな

悲劇の主人公として見てくれるのかもしれないが、しかし、残念ながら物語の主人公は僕

ではないし、今回の僕はどちらかというと、「最悪の共犯者」でしかない上に、僕はかわ

いそうとは思われたくない。僕には何のメリットもないのではあるが、しかし、僕はこの

場で吸血鬼にまつわる話を、

 詳しく、詳しく、詳しく、詳しく、詳しく、話さなければならないらしい。

 間違いがあったら死ぬくらいの覚悟で。

 誇張があったら殺されるくらいの決心で。

 この、吸血鬼に勝るとも劣らない三白眼で、刺すように睨み付けてくる赤色に話さなけ

ればならない。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 01:56:40.38 ID:I+fdqcufo

 さてと、では、前置きとして三つ話さなければならないことがある。

 ひとつは期間。

 この事件は、三月二十六日から四月七日までの間続いた。この間、事件後僕が通うこと

となる私立直江津高校は、春休みを迎えていた。僕があの大統合全一学研究所から離れ、

三ヶ月ほどたったあたりから、彼の実家に厄介になり私立直江津高校に編入する少し前か

ら始まった物語。いや、もうこの時点では手続きが終わっているのだから、編入した直後

ということになるのだろうか?まあ、そんな曖昧な時期の話だと思ってくれればいい。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 01:58:47.99 ID:I+fdqcufo

 ひとつは内容。

 僕はこの事件を機に、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードに出

会ったことをきっかけに、怪異という存在を知ることになった。

 怪異。

 化物。

 人外者。
                         カタツムリ
 それはたとえば、蟹の神様であったり、 蝸牛の迷子であったり、願いを叶える猿の左

手だったり、蛇の使いであったり、ストレスの猫であったり、高熱を呼び起こす蜂であっ
                                カマキリ
たり、寿命まで死なぬ不死鳥であったり、暴力的な蟷螂であったり、


 そして――妖艶な吸血鬼であったりする。


 そういったモノ。人ならざるモノがいることを、僕が知ってしまった話である。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 01:59:36.94 ID:I+fdqcufo

 そして、最後に、結末。

 今のうちに言っておくと、この物語に結末なんてものはない。

 この物語は、結びもしなければ、末があるわけでもなく、次回へと続く。

 全てが全て何も起こらずに終わっていく。

 二人の死にぞこないは死にぞこなったまま。

 人々の警戒は解かれぬまま。

 勧誘は失敗し、復讐は遂げられずに、成果も上がらなかった。

 そんな物語。

 事件前と事件後では、あまり大きな変化はなかった。

 まるで何かの変化を嫌う大きな力が働いているかのように。

 この物語はわずかな変化の物語。

 人でなしが人でなくなり、人になろうとする物語。

 人に代わろうとし、人に替わろうとする物語。

 そんな戯言。

 再三言うが、この物語に面白みなど皆無である。

 それでもいいならば、

 それでも聞きたいという物好きな人であるのならば、

 どうか、適当に聞き流して欲しい。

 これはぼくが、人へと至る物語。


12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:00:46.36 ID:I+fdqcufo

002

 三月二十五日。土曜日。

 ぼくは彼の自転車で、これから通うこととなるであろう私立直江津高等学校へと来てい

た。彼の自転車は生意気にもママチャリとマウンテンバイクの二台があり、どうせなら、

アメリカで散々自慢していたマウンテンバイクに乗ってやろうかとも思ったのだが、しか

し、彼のその並々ならぬ愛情を鑑みるに傷の一つでもつけようものならば、ぼくはたちま

ち呪い殺されてしまうだろうという結論に達し、ぼくは仕方なくママチャリを使用し学校

へと来ていた。それほどつらい道程ではなかったはずなのだが、日本に帰ってきてから鍛

錬を怠っていた所為か、ぼくは体力を相当量使ってしまっていた。

「あれからそろそろ三ヶ月か……」

 あっという間に過ぎ去っていってしまった気がするが、それが長い期間であったことは、

体が覚えているらしい。いや、忘れてしまっているのか。ともかく、ぼくの体力は全盛期

とは比べ物にならないほどに落ちていた。

 そういや、道場にも行ってなかったな。ぼくは、今度火憐ちゃんが行っているという道

場でも見学して見ようかななどと思いながら自転車を反転させて家の方へと向けた。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:01:50.43 ID:I+fdqcufo

 ――と、そのとき――ぼくは校門から出てきた女の子に気付いた。

 とても、かわいい女の子だった。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:02:44.49 ID:I+fdqcufo

 その女の子は両手を頭の後ろに回して―― 一瞬、何をしているのかと思ったが、どうやら

三つ編みの位置を調整しているらしい。長めの髪を、彼女は後ろで一本の三つ編みにまと

めているのだ。三つ編み自体が最近は珍しいのだが、その上で彼女は前髪を一直線に揃え

ている。

 制服姿。

 まったく改造していない、膝下十センチのスカート。

 黒いスカーフ。

 ブラウスの上に、校則指定のスクールセーター。

 同じく校則指定の白い靴下にスクールシューズ。

 いかにも優等生といった風情である。

 世界委員長コンテストというものが開催されているのであれば、小学生のころから王者

であり続けているだろう。それくらいに規則正しく、折り目正しい立ち居振る舞いだった。

 おそらく、彼好みの女の子。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:03:56.40 ID:I+fdqcufo

 校門から出てきたところを見ると、家に帰るところなのだろうか?彼女は三つ編みを修

正しつつ、ぼくの方へと向かってくる。まあ、ぼくの主観的にそう見えるだけなのであっ

て、決してぼくに向かってきているわけではないのだけれど、しかし、そう思わせるよう

な求心力が彼女にはあった。

 というか、早い話がぼくは彼女に見蕩れてしまったのだ。ただ純粋に美しい彼女に――

魅了されて――いた。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:04:58.77 ID:I+fdqcufo

 だから、だからぼくはその後、何の前触れもなく吹いた一陣の風に対応することができ

なかった。いや、まあ、そうでなくともぼくに正しい対応ができたかどうかは、その状況

になってみないとわからないが。

「あ」

 と、ぼくは思わず、声を漏らしてしまった。

 突然の風が、彼女のやや長めの、膝下十センチのプリーツスカートの前面が、思い切り

めくってしまったのだ。

 普通ならば、彼女はすぐに、反射神経でそれを押さえ込んだはずだろう――しかしタイ

ミングの悪いことに、そのとき彼女の両手は頭の後ろに回され、三つ編みの位置を直すと

いう複雑な作業をしている最中である。ぼくの立ち位置から見れば、まるで後頭部で手を

組んで、あたかも軽く気取ったポーズをとっているかのようにも見えてしまう、そんな姿

勢になっていた。

 そんな状態でスカートがめくれたのだ。

 中身は丸見えとなった。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:05:46.42 ID:I+fdqcufo

 いや、こういう場合は、そっと目をそらすのが女子に対するマナーだということくらい、

勿論わかっているのだが。

 しかし、このときぼくは完全に視点を彼女に固定していたのだ。

 風が吹くまでもなく、強く彼女に惹きつけられていた。

 だから、ぼくがあまりにも鮮明に彼女の下着を見てしまったのは仕方のないことだと思う。

思って欲しい。

 そんなぼくに対して、彼女は、身じろぎ一つしなかった。

 あっけにとられてしまったのだろう。

 彼女は後頭部で手を組むという、まるでぼくに自慢の下着を見せ付けているかのような

ポーズのまま、スカートがめくれあがるに任せ、表情までも固まったままだった。

 一瞬の出来事であった。

 スカートが重力により元の位置に戻る。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:06:37.90 ID:I+fdqcufo

 彼女は、あっけにとられた表情のままで――ぼくの方を見ていた。

 凝視していた。

「……えっと」

 うわあ。

 なんというか……やってしまった……。

 入る前から何やってるんだ、ぼくは。

 後輩ならばまだいいが、同学年だった場合、非常に気まずいこととなる。

 同じクラスになどなってしまったらぼくはどうすればいいのだろうか?

 そんなあまりにもできすぎた状況なんて戯言にもならないのだけれど。

「…………なんというか…………ごめん」

 とりあえず謝罪の言葉を口にする。

 人間、自分に予期せぬ事態が起こってしまったとき、まず出てくるのは謝罪の言葉であ

ることが一番多いらしい。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:07:33.06 ID:I+fdqcufo

 ぼくの本能もまだ捨てたものではなさそうだと思いつつ、女の子の反応をうかがったが、

彼女はぼくの言葉に対して何の反応もせずにじっとぼくを凝視してくる。

 そして、数秒の後、

「…………えっへへ」

 と、彼女は何を思ったのか、ぼくにはにかんで見せた。

 まあ、確かに、こんな状況、見られた側は笑うしかないのかもしれない。

 三つ編みの調整が終わったのか、彼女は両手を下ろして、スカートの前面をぱたぱたと

はたいた。

「なんて言うか、さ」

 と、彼女は言いながら、ぼくの方へと近づいてきた。

 四、いや、三歩ほどの距離まで詰めてくる。

 なんだろう……なんとなく追い込まれているような気がする。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:08:41.22 ID:I+fdqcufo

「見られたくないものを隠すにしては、スカートって、どう考えてもセキュリティ低いよ

ね。やっぱり、スパッツっていうファイアウォールが必要なのかな?」

 …………えっと……ファイアウォールって何だったっけか?

 うーん……あ、思い出した。

 なんか玖渚のやつが言ってたような気がする。

 ウィルスバスターのちょっと高機能のやつだっけ?

「……ってぼくはウィルスかよ」

 初対面だというのに、あんまりな話だ。

 まあ、確かに、ぼくの周囲では常に事件が起きていたような気もするけれど、というか、

ぼくが起こしたものも多くあった気もするけれど。

 でも、だからといって、

「その表現は、戯言が過ぎるな」

「うん? 戯言?」

「えっ……ああ、うん……いや、なんでもない。ただの独り言だよ」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:10:21.83 ID:I+fdqcufo

「……ふーん」

 ……ぼくにしては珍しくありのままのことを話したはずなのに、なぜか彼女の反応はあ

まり芳しくなかった。

「えっと、じゃあ、まあ、ぼくはこれで」

 ぼくは逃げるように、というか、逃げるために、自転車にまたがり、家へと帰ろうとする。

 が、しかし、

「あ、待ってよ。阿良々木くん」

 と、呼び止められた。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:12:39.74 ID:I+fdqcufo

「え?」

 ……どういうことだ?

 この女の子とぼく、会ったことあったっけ?

 いや、そんなことはありえない。ぼくはこの高校には、手続きと編入試験を受けるため

にしか来たことがない。ここの生徒とは一切関わり合いはないのだ。ならば、

 ならば、なぜこの子がぼくのことを知っている?

 ぼくはそれと気取られぬように自然に身構える。三ヶ月でもう追っ手が来るとは……ま

あ、ここまで何事もなかったことのほうが不自然っちゃあ不自然だ。やつらも勉強以外の

ことに頭を回せはするだろうし。ぼくはなんとなく持ち出していたナイフの位置を確認しな

がら、彼女に聞く。右のポケット、よし。いつでも取り出せる。

「……どうして、きみはぼくの名前を知っているのかな?」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:13:48.04 ID:I+fdqcufo

「え? ああ、ごめんごめん。急に呼ばれてびっくりしたよね。うん。いやさ、阿良々木く

んって、実は、もう、かなりの有名人なんだよね」

「…………」

 …………は?

「阿良々木くんは知らないかもしれないけれど、この私立直江津高校ってさ、創立以来編

入生をとったことがないんだよ。しかもその編入試験、先生たちが張り切りすぎちゃって

アメリカのERプログラムレベルの問題になっちゃってたから、阿良々木くん以外編入試験

に受かった人はいなかったんだって。だから、阿良々木くんは唯一の優秀な編入生として

かなり先生から期待されちゃっているんだよね」

「…………」

 ……また、ピンポイントなレベル設定にされたものだ。

 どおりで問題形式が似ているわけだ。

 もう少しレベルが高く、あるいは低く設定されていたのなら、ぼくは編入できなかった

かもしれない。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:15:21.47 ID:I+fdqcufo

「いや、でも、だからといってきみがぼくの名前を知っている理由にはならないと思うの

だけれども」

「あっはー、そうだね。うーん、じゃあ、それは秘密ってことで」

「いや……そんなことで済まされる問題じゃないと思うんだけれども……」

 この子、何者なんだ?

 最悪の場合、死活問題に関わる。

 まあ、別に死んでしまったところで構わないのだけれど。

「いいか。まあ、戯言ってことで」

「ん? さっきもそれ、使ってたよね。口癖?」

 ツッコミを入れられた。ぼくは、「口癖でもあり、処世術でもあるんだよ」などと、適当

なことを言っておく。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:15:53.46 ID:I+fdqcufo

 しかし、処世術か……。

 自分で言っておいてなんだが、おかしな響きだ。

 戯言を使ったからといって、物事が潤滑に進むわけではないのに……。

 よりこじれさせることのほうが多いっていうのに。

 本当に、笑わせる。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:18:22.64 ID:I+fdqcufo

「ところで、きみの名前は?」

 この女の子が追っ手であるにしろないにしろ、もう少し、踏み込んだ調査をしておくべ

きだ、とぼくは判断した。編入先での評価は個人的には気になるところだ。変な期待はされ

たくないので、この子づてに下げてもらいたいどころだった。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:19:31.64 ID:I+fdqcufo

「私は、羽川翼。阿良々木くんと同じ、私立直江津高校の三年生です」

「羽川……翼ちゃん、か。いい名前だね」

 ふむ、この名前からは、偽名であるかどうかの判断はつかないな。言い慣れてる感じが

するし、実名である可能性のほうが、わずかに高いといったところか。

「そんな阿良々木くんじゃないんだから、偽名なんて使わないよ」

「…………」

 全部ばれていた。

 疑っていたことも、偽名を使っていたことも。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:20:32.38 ID:I+fdqcufo

「偽名? なんだいそれは? 最近の流行語ってやつ? ぼく疎いんだよなー、そういうの」

 悪足掻きだと自分でもわかってはいたがとぼけてみることにした。やはりというかなん

というか翼ちゃんには通じなかったようで

「違います」

 と、即答されてしまった。

 しかし、こうなってきたら後には引けない。

「あーっ、えっとじゃ、ネットスラングか。そういう系の言葉って通じなかったりしたら

まずいからやめといたほうがいいよ。『いてえw』とか『これだから○○クラは』とか言

われちゃうよ」

「それを聞く限りでは阿良々木くんもけっこう詳しいと思うのだけれど」

 あう。

 うーん……友の所為でこういう言葉覚えちゃったんだよな……パソコンとかそういうの、

ぼく自身は割りと苦手なのだけれど……。

 どうしようかな……どうすれば翼ちゃんを騙せるだろう……。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:21:31.24 ID:I+fdqcufo

「別にいいじゃないか。自分の名前なんて他人と区別するためだけのものだろう?ようは

記号みたいなものさ」

 ぼくは諦めて開き直ることにした。

 なにが悪いとでも言いたげに。

 何もかも悪いぼくが。

 そんなぼくに対して翼ちゃんは「そこで開き直りますか」と言って、

「まあ、いっか。うん、そういう考え方もまたありかもね」

 と、ぼくの戯言を肯定した。

 ぼくの戯言を肯定した!?

「同意しちゃうんだ……」

「がっかりしちゃうんだ……」

 「自分で言ったのにな」と、言って、翼ちゃんは楽しそうに笑った。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:23:11.96 ID:I+fdqcufo

 うーん……追っ手じゃあないのか? いや、まだよくわからない。探りは入れられると

ころまで入れておけ。って言われたような気もするし。あとなんだか打ち負かされてばかり

の気もするし、もう少し、彼女と話をしたほうがいいかもしれない。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:24:17.13 ID:I+fdqcufo

「翼ちゃんは、何をしているの? これから帰るところ?」

 当たり障りのないところから会話を始める。

 どうにかして、情報を探り出さねば……。

「んーと、これから図書館に向かおうと思っているの」

「へえ……ここら辺に図書館なんてあったんだ」

「うん、日曜日は休館日だから、今日中に行っておかないとって思って」

「ふうん」

「阿良々木くんこそ、何をしていたの?」

「ああ、いや、ちょっと、登校経路の確認をしていたんだよ。ちょっと覚えられなくってさ」

「へえ、自転車通学なんだ……家はどこら辺なの?」

「ええと……」

 ぼくは最近覚えたばかりの住所を言う。

「ああ、それなら、ちょっとわかりづらいかもね」

「ああ。もう今日だけで家と学校を七往復半しているんだけれど、まるっきりわからないんだ」

「さすがに、それはないと思うけれど……」

 と、翼ちゃんは苦笑いした。

 …………って、あれ?

 なんか、流れ流れて、気軽に住所とかしゃべらなかったか?

 探りに行って何をしゃべってるんだぼくは。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:25:19.57 ID:I+fdqcufo

「ところで、阿良々木くん」

 今度は翼ちゃんから、会話を切り出してくる。

 ふむ、先ほどはぼくのほうから仕掛けていって返り討ちにされてしまったので(けっして

自爆などではない)、ここはあえて彼女の話に乗るというのもありだろう。ぼくは翼ちゃ

んからどのようなことを言われても対応できるように対策を練って、その先を待つ。

 が、翼ちゃんは、

「阿良々木くんは、吸血鬼って信じる?」

 と、ぼくの予想の斜め上を突っ切っていくような質問を投げつけてきた。

 あまりの突拍子のなさに、反応が遅れる。

「……………………………………………………吸血鬼が、どうかしたの?」

 ぼくは無理やり声を絞り出した。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:26:52.00 ID:I+fdqcufo

 ……………………何を言い出すんだ?この子。

 まさか、不思議キャラ路線の子なのか? なぜぼくの周りにはどこかおかしい人か性格の

悪い人しか現れないのだろう。類友ってやつなのだろうか?

 いや、もしかしたら前者なのではなく、後者。ぼくの返答を見て試しているのかもしれ

ない。そうだとすると、翼ちゃん。なかなかに強かな子だ。

「いや、最近ね、ちょっとした噂になってるんだけど。今、この町に吸血鬼がいるって。

だから夜とか、一人で出歩いちゃ駄目だって」

「へえ…………曖昧な……信憑性のない噂だね」

 ぼくは少し迷ったけれど、正直な感想を言うことにした。

 嘘ばかり言うぼくだからこそ、正直なことを言うのが最も効果的だろうとの判断だ。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/14(土) 02:28:18.02 ID:I+fdqcufo

「何でこんな場所に吸血鬼がいるんだろう。吸血鬼って海外の妖怪じゃないか」

「妖怪とは、ちょっと違うと思うけれど……」

「それに、吸血鬼が相手だって言うんだったら、一人で出歩こうが十人で連れ立って歩こうが、

どっちみち結果は変わらないと思うけれどね」

「それはそうね」

 あはは、と翼ちゃんは快活に笑った。

 ……なんだ? この普通の反応……。追っ手じゃないのか? いや、待てよ。普通の子が

ぼくの前に現れるわけがない。いったい、何者なんだ? この子は……。
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