7:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:29:02.69 ID:I2AyKHWk0
撫子も帰省して久しぶりに賑やかになると思いきや、今年の冬休みの大室家は静かなものだった。
理由はもちろん、一家で一番うるさい櫻子に元気がないこと。
姉や妹がリビングでくつろいでいる間も、櫻子は部屋に閉じこもったままだった。
12月24日。クリスマスイブ。
櫻子はこの日、終業式前に友人と交わしていた遊びの約束をキャンセルし、そのほかに入っていた冬休みの予定もすべて断った。
あのときの向日葵の泣き顔を思うと、とても遊んでいられるような気分ではなかった。
今はとにかく勉強をしなくてはいけない。夜、櫻子はとりあえず机に向かい、冬休みの宿題に手をつけてみた。
まともに開いたことのなかった問題集の最初のページを開き、グッグッと手で押さえて折り目をつけ、一問目から順番ににらめっこをしていく。
しかしすぐにわからない問題にあたって、あえなく挫折。持っていたシャープペンをノートの上に転がし、ぐでんと机につっぷした。
(だめだ……全然わかんない……)
問題の答えもわからなければ、勉強の方法さえもわからない。つまずいたときに何をすればいいのか、ほかのみんなはどうやって解決しているのか。
そもそもこんな宿題をやったところで、受験に繋がる成績の向上が見込めるのだろうか。何もかもがわからなさすぎて、それすら心配になってきた。
ふと櫻子の目に卓上カレンダーが目に留まった。10月くらいからめくることさえしてこなかったそれを手に取り、12月のページを見てみる。
今日が12月24日。あと一週間で来年になる。
受験が具体的に何月ごろから始まるのか、そんなこともわかっていない櫻子だったが、とにかく冬が本番だということは今年受験生の綾乃たちから聞いていた。
つまり、だいたいあと一年。一年間で向日葵と同じレベルにまで辿り着けなければ、離ればなれになってしまう。
一年が長いようで短いことは、14年間生きてきた中で薄々気づきつつあった。だって去年の冬から今まで、何かを成し遂げた記憶というものがほとんどない。ずーっと遊んでいただけであっという間に過ぎ去った気がする。
このスピードで来年も過ぎていくのだとしたら、向日葵に追いつくなんて到底無理なのではないか。
そもそも、目の前の宿題すら10分と集中力が続かない自分に、一年間も頑張り続けるなんてことができるのだろうか。
「……っ」
階下からうっすらと聞こえてくるテレビの音にまぎれて、時計の秒針の音がコチコチと部屋の中に静かに響く。
この音があと何回刻まれた時、私と向日葵は決定的に離ればなれになってしまうのだろう。
焦燥と不安が募っていく。
コチ、コチ、コチ。
「……ぁああっ!」
無性に胸の中に嫌な気持ちが渦巻いて、櫻子は持っていた卓上カレンダーを壁にたたきつけた。
ばすんとカーテンにぶつかって、カレンダーは力なく床の上でぱたりと畳まれる。
(無理だよ……無理に決まってるじゃん……!)
ぐしゃぐしゃと頭をかきむしる。
一年で向日葵に追いつくことも、一年間頑張り続けるなんてことも、今の自分なんかにできるわけがなかった。
(だいたいなんでだよ! 向日葵と離ればなれになったって……いいじゃん別に……!)
櫻子はベッドにつっぷし、そのままぼすんぼすんと腕を叩きつける。
自分でも自分の気持ちがわからない。
どうして自分はそんなに向日葵と離ればなれになることが嫌なのか。
むしろ一緒の高校に進める可能性の方が限りなく低くて、どう考えても高校で離ればなれになるってことはずっと昔からわかっていたはずなのに、なぜこんなにもその現実に苛立つのか。
向日葵と同じ高校になんか、行けなくたっていいのに。
「向日葵と一緒になんか……ならなくたっていいのに!!」
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