5:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:25:23.91 ID:I2AyKHWk0
翌日。
ほとんど深く眠れないまま迎えた朝、向日葵と一緒に学校に行こうと思ったが、なかなか家から出てこない。数分経っても出てこないのでおかしいと思って家の人に聞いてみると、用事があって先に行ったようだと言われた。
急いで学校に向かうと、そこで初めて今日が二学期の終業式であるということを思い出した。どこか学校全体のムードも浮ついているように感じる。しかし櫻子はそれどころではなかった。
向日葵はというと、普通に教室にいた。一見いつもどおりに見えたが、なぜか櫻子の方を見ようとしない。
視界に入っていないわけではなさそうだが、明らかにわざと意識しないようにしていることは櫻子にも肌で感じ取れた。
やっぱり、怒ってるんだ。私は嫌われたんだ――。櫻子は途端に弱気になってしまい、結局朝の段階では声をかけることができなかった。
終業式が終わって、ホームルームも終わって、いよいよ放課後。
今日一日ずっと目を合わせてもらえなかったが、一緒に帰ることくらいはできないだろうかと向日葵の付近でうつむいていると、うまい具合にちなつがパスを出してくれた。
「向日葵ちゃんと櫻子ちゃんはこのまま一緒に帰るの?」
「えっ? ああ、うん」
反射的にそう返事してから向日葵の方を見ると、今日初めて一瞬だけ目が合った。
向日葵は肯定も否定もせず、あかりとちなつに別れを告げて、そのまま教室を出た。櫻子もその後を小走り気味についていく。
去り際に教室の中を振り返ると、あかりとちなつが少し困ったような笑顔で「早く仲直りしてね」とでも言いたげに手を振っていた。
向日葵はなるべくいつもどおりになるよう振舞っていたが、ふたりの様子が今日一日ずっとおかしかったことは、とっくに伝わっていたようだ。
友人たちの協力を受け、一緒に帰れる大義名分を得ることはできた。しかし当然ふたりの間に会話はない。
いつもより少しだけ早歩きで帰る向日葵と、うつむきながらそれに着いていく櫻子。
何か話さなければ。けれど言葉が出てこない。このままでは家についてしまう。その前に、何でもいいから伝えなければ。
「……っ、……ごっ」
「……」
「ごめんっ、向日葵!」
カバンを握る手いっぱいにぎゅっと力をこめ、櫻子は言葉を絞り出した。
たどたどしくなってしまったが、なんとか切り出すことはできた。
向日葵は一瞬足をとめたが、またすぐに元の速さで歩き出した。絶対に聞こえているはずなのに。
櫻子はその隣を歩きながら、後に続く言葉はないかと探しあぐねる。その様子を見かねたのか、今度は向日葵の方から低めの声で話し始めた。
「……なんで、謝るんですの」
「え、だって……昨日の答案……」
「あなたが自分で勉強しない道を選んで、あなたが自分で0点をとって……それでなんで私に謝るんですの」
「……」
向日葵の顔を見ることができない。
昨日の夜、撫子にもずっと同じようなことを言われていた。
謝るのは違うんだって、さんざん聞かされたけど、今は謝罪の言葉しか出てこない。
もう、謝って許してもらえるような段階じゃないんだ。櫻子がそう痛感して黙りこくっていると、向日葵はふと歩みを止めた。
おもむろに方向転換して、いつもは曲がらない交差点を曲がっていく向日葵。櫻子は何事だろうと思いながらも後ろを着いていく。どうやら向かっているのは近所の公園のようだった。
きっとあのまま家の前まで着いてしまえば、また昨日のように心配した花子や楓が出てきてしまうからだろう。
今日一日ずっと無視していたくせに、今の向日葵は、ふたりきりで話がしたいようだった。
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