【シャニマス】ゼンマイリピート 七草にちか
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20:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:19:49.74 ID:laNpeqI/0
映っていたのは先日、とある雑誌でSHHisに、にちかについて語っていた、あのアーティストだった。トレードマークの特徴的なサングラスと肩まで伸びたウェーブかかったロン毛で一目に彼だと分かった。
 録画では、既に番組は中盤に差し掛かっているようだった。
「いやぁ、だけどねぇ、ほんとねぇ。○○くんは凄いねぇ。これを一人でねぇ、やってしまうんだから」歳を食った年配の司会者がねちっこい話し方で、褒めているのか皮肉っているのか、嫌な意味で心に残りやすい話し方をする。
「そんなことはないですよ。そういう道を選んでるので」ドライな答え方をする。彼はそういうアーティストだからだ。
「いやぁ、しかしねぇ? 話は変わるけどさぁ。シーズ、残念だよねぇ。七草にちかちゃん」
 話したこともない人に、ちゃん付けで呼ばれるのに、にちかは些か不快ではあった。
 一体何を見せられてるんだ。このままこのアーティストが悲しみを吐露するのを眺めて、頑張れと奮起させたいのかとにちかは思った。
 しかし違った。
「残念? 残念、ていうのはどういう意味ですか」
 彼の言葉が冷ややかながらも震えた。
「え? いやぁ、だってねぇ。足が、ねぇ? ないんでしょぉ? あ、噂によるとだよ、噂」
 どこから漏れたのか、ネットではにちかの足は既に無いというのが広まっていた。
「…………。●●さんは本人が話してもいない、ネットの情報を鵜呑みにする、と? 馬鹿げてますね」
「いやいやいやいやぁ! そういうわけじゃないけどぉ」
 遠回しの話題の拒否も、司会者には理解できなかったようだ。いやに食ってかかっている。
「フゥーーーーー……」と冷めたため息を吐きながら、アーティストは一呼吸おき、「僕から何を聞きたいのか知らないけれど、僕は彼女じゃないから何も話すことはないよ」と冷ややかに言い放った。
 スタジオが凍りついていた。数秒の沈黙の後、司会者が「や、いやーでもねぇ、ほら! 番組のタグでもみんな君がどう思ってるのかなぁて、ほら! ほら!」
 お便り募集で行っているSNSの公式ハッシュタグにて、実際に視聴者からの質問をモニターで流す。確かに「応援しているにちかさんが怪我で出れませんけど、どう思いますか」という類の質問がかなりの割合を占めていた。それほどまでに彼がSHHisについて語ったあの記事は反響が大きかったのだろう。
「フゥーーー…………いいかい、僕は彼女じゃない。彼女のこれまでを知らないし、彼女の今もこれからにも興味はない。何故なら僕はアーティストだからだ。自分の世界を表現し、曲として送り出し、人々に知ってもらう。僕はこれだけだ。これ以上もこれ以下もいらないし、知らない。——だから、彼女の喜びも苦しみも、僕には想像できない。無いものを語ることはできないよ」
 我が道を征く。独善的で、ナルシズムに満ちた彼らしい言葉であった。
 彼の言葉の威圧に、流石の司会者もたじろいでいた。
「ただ……まぁ、そうだね。ファンとしての僕で語るならば、寂しい。これは事実だ」
 意外だった。彼が弱音を吐くとは思ってもいなかった。それほどまでに強い人だと思っていたからだ。
「だが、僕は信じてる。彼女はこれまで諦めなかったアーティストだ。これからも諦めはしない。そう信じている。なぜ? 簡単な話だ。普通の子が宝石《アイドル》になると諦めなかったのだ。それは僕ですら想像できない領域だからだ。——そんな彼女が怪我や何やとて、夢を諦めることはない。僕はそう信じているから……こんな話、そもそも僕の記事を読んでいたなら語る必要のないことだと思うんだけど? 本当に読んだの、皆んな」
「ああ、あと——これは僕たちアーティストだけじゃない、全ての人に通ずること。あまねく生きる人々全ての話だと僕は思っている。……どうか夢を恐れないでほしい。失うことを、叶わぬことを、諦めないことを」
 アーティストがカメラに向かって顔を向けていた。サングラス越しでは分からないが、それでも強い顔をしているとにちかは受け取った。
 彼は続けた。
「僕だって成功に何年かかったか。いまだに次の曲で最後かもしれないと震えて眠れない時だってある。けれど、もし終わってしまっても僕は絶望しない。なぜなら他人の夢を見ればいいからだ。——簡単な話だろう? 自分で見る夢も、他人の夢を見ることも、そこには何も違いはない。夢には性別も、年齢も、身体も、何も関係ない。そこにあって、それを見るだけ。ただそれだけで、人はああ、明日もいい一日になるかもなて頑張ろうと思える」
「夢は活力だ、命だ、輝きだ。これは七草にちかさんも、よく分かっている事だろう。だから……どうか、今を逝きることだけはしないでいただきたい。世界の人々よ。見る夢がないなら、僕が夢を見させてあげよう。それが|僕の夢《アーティスト》なのだから……以上。……? なに? 僕はもう話すことはないよ」
 録画終了。


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