21:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:20:17.22 ID:laNpeqI/0
この後SNSでは阿鼻叫喚の騒ぎだった。彼の話に同調する者もいれば、成功した人だから言える事だと反対を唱える者も居た。様々な意見があったが、それでも彼の言葉を信じ、七草にちかの復活を望み、信じ、夢見る者たちは多く声をあげ出した。
「にちか……」
彼女はずっとスマートフォンを眺め、握りしめていた。SNSに挙がった彼女を応援する言葉に強く心を打たれていた。目からは熱い、熱い涙が溢れていた。
彼女の心にはさっきのアーティストの言葉が反響していた。
見る夢がないなら、夢を見せよう。それが、|彼の夢《アーティスト》。
私の夢は。
お父さんと、お母さんと、お姉ちゃんと。小さい頃に見た、夢。幸せな、夢。温かい、夢。
一度壊れてしまったから、もう壊したくなくて、失いたくなくて、どうしても叶えたくて。
だから、壊れた時、ああもう駄目なんだて思った。
結局、夢はユメなんだ。どれだけ頑張っても偽物《ユメ》は本物《ユメ》になれないんだて。
なのに、プロデューサーは、美琴さんは、このアーティストの人も、ファンの人も……283プロのみんなも、お姉ちゃんも。
諦めないで、て言う。
夢を叶えて、て言う。
諦める方がずっと楽なのに。
叶えない方がずっと幸せなはずなのに。
「何なんですか……何なんですか、皆んなして。勝手すぎますよ……だって、私」
私に辛く苦しい道を指し示す。
そうしてくれることが、そんな胸が張り裂けそうなほどの痛みを伴うはずのに。
夢を追えと背中を押してくれるのがたまらなく嬉しい。
「俺も……夢を、見たいんだ。にちかの夢を、見させてほしいんだ。だから……にちかに、夢を見させるのが|俺の夢《プロデューサー》なんだ」
この人が持ってきてくれた、彼の夢と。
こんなゼンマイ仕掛けのようなものが、今はたまらなく嬉しい。
そうだ。にちかにまた夢を見てもらうための第一歩、それを踏み出す足。それがこれだ。人工的に作った機械の足だ。ロボットのような、ゼンマイだらけの機械の足だ。
ダイヤには遠く及ばない、作られたイミテーションだ。
それでも、にちかが望むならその輝きは、本物になる。俺はそう信じている。
あの時、にちかが俺を軟禁した時。強く強く、俺を引き留めて、あらゆる手段を使った時だ。
彼女は夢を見たいと言った。夢を見たい——叶えたい、叶えるためなら何だってやると。
あの時の俺は、彼女の中に何も感じなかった。彼女の夢をまだ見ていなかったから。
だが、次は違う。
だが、今は違う。
夢を見たい。俺はもう一度、彼女の夢を。
彼女が輝く様を見て、美琴と並び煌めく様を見て、彼女と共に夢を見て。
叶えたい。俺は、彼女の夢を叶えるためなら何だってやる。
此処に居る俺は、彼女の持つ輝きに強く惹かれている。彼女の夢を見ているからだ。
だからこそ、今度は俺が。
「俺の夢は……プロデューサーとして、283プロの皆んなが輝きを放つ事、その輝きで見た人々がああ、綺麗だなて少しでも思ってもらう事……だから諦めたくない。夢を、にちかを」
「その輝きの中には、前も今もこれからもにちかはずっと居るから」
「なぁ、にちか。俺ともう一度だけ、見てくれないか——夢を」
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