6:名無しNIPPER[saga]
2022/04/08(金) 17:24:22.96 ID:K7oSWg9M0
低落したので今から書かせて頂きます
そしてようやくその試みが結実しそうになったころ、ふとエレベーターを大きな揺れが襲った。
お世辞にも広いとは言えない昇降機内部を、縦横、あらゆる方向からの振動が襲う。
その余りの動揺に蘭子は内壁に手を付き、寄りかからずにはいられなかった。
7:名無しNIPPER[saga]
2022/04/08(金) 17:35:18.23 ID:K7oSWg9M0
ゾンビであった。
エネテレビ5階のフロアを、夥しい数のゾンビが闊歩している。
ある者はTVマンそのものの恰好で、しかし脇腹から腸を露出したままによたよたと歩いている。ある者は私服のままに、耳、目、口……あらゆる部位から明らかに致命傷と思しき血を垂れ流して、やはり彼もそれを意にも介さず歩き__ある女はレディースのダークスーツを尚の事赤く染め上げ、顔を血化粧で台無しにしながら、その死者たちの列に加わっていた。
皆が。
皆が赤かった。
8:名無しNIPPER[saga]
2022/04/08(金) 17:50:28.93 ID:K7oSWg9M0
意図したものではなかった。
本来なら、こうした鉄火場においては、ゾンビがいないことを祈りながら__先ほどまでは確かに正常だったはずの最下層はロビーに再来するか、最上階の屋上で、眼下に放浪するゾンビを眺めつつ、一人救助を待ち続けるか、という賭けがあったのにも関わらず……
それを、知りながら向かってしまったのは、その余りの惨状に、災厄に、あの輝かしい日々を思い出してしまったからだろう。
桜蘭、明佳……混沌電波の番組で、共に競い合い、共に励まし合った竹馬の友人たち。
涙もあった。怒りもあった。しかし確かに彼らとは友だったのだ。
9:名無しNIPPER[saga]
2022/04/08(金) 18:08:20.30 ID:K7oSWg9M0
……ああ、現実とは、どうしてこんなにも理不尽なのだろう。
乗場戸がなんの躊躇もなく開け放たれた時、彼女はそんな弱みを言ちずにはいられなかった。
眼前には、よもや数えるのも馬鹿らしい無数のゾンビが蠢いている。
こちらのゾンビは、どうやら先ほどのようにみすみすと逃亡を看過してはくれないらしい。
今や無数のゾンビが歩みを止め、こちらを捉えていた。
10:名無しNIPPER[saga]
2022/04/08(金) 18:18:11.35 ID:K7oSWg9M0
蘭子は、これはそのためなのか、と思った。
こんな末世に、藤條蘭子という女が、何の役にたつだろうか?
いずれ来る残酷な運命を前には、蘭子は真綿で首を締めるように苦しみ抜いたうえ、惨たらしい末路を迎えるに違いない。
そのことについて思いを巡らせれば、いっそ早いうちに友人たちの手で殺された方が、ずっと幸せな最期であることだろう。
そう思ったから蘭子は死を受け入れ……だが、友人たちの顔が悲痛に歪んでいるのを見て、あの感情を思い起こさるを得ない。
11:名無しNIPPER[saga]
2022/04/08(金) 18:24:51.51 ID:K7oSWg9M0
時間軸はメビウスの輪を描き、空間は捻じれ狂い、あらゆる質量は逆転する。
星系は加速し、恒星は抹消され、宇宙のどこかで新しい知的生命体が誕生した。
死は遠のき、熱は冷め、命は回転し、蘭子は寝台に横たわっていた。
12:名無しNIPPER[saga]
2022/04/08(金) 18:31:31.48 ID:K7oSWg9M0
(……?)
蘭子は解離した面持ちで周囲を見渡す。
ここはあの世にしては親しみやすすぎる。
あの世とは、異界とは、もっと超越的で、犯しがたいものであるべきではないのか。
そういう意識の遊離に、彼女は5分浸っていた。
13:名無しNIPPER[sage]
2022/04/08(金) 18:50:40.48 ID:Uj9ojJOJ0
クッソ読みづれえわ
14:名無しNIPPER[saga]
2022/04/08(金) 18:54:01.26 ID:K7oSWg9M0
蘭子は少女趣味ではない。
御年で23歳にもなって、まだまだ働き盛りである反面、落ち着きも出てきた。
故に、自室は、一見男の部屋と見分けがつかない。
淡い藍のカーテンから、うっすらと光が漏れている。
室内は仄暗いけれども、そこからの光が朝であることを教えていた。
15:名無しNIPPER[sage]
2022/04/08(金) 18:56:06.83 ID:QPQsB1xWO
毒を以て毒を制す
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