1:名無しNIPPER
2022/04/02(土) 23:07:28.29 ID:QLtqEEbF0
今日のレースの解説にマルゼンスキーが来ていることを担当の子から聞いた。
レース場へ向かう電車の中で、スマホを弄っていた彼女がいきなり声を上げて、私をちらりと見たのだ。
それで、SNS上で話題になっていることを教えてもらった。
事前に情報はなかったのだが、どうやら飛び入りで解説に参加を表明したとのことで、今日の出走者が阿鼻叫喚の状態らしい。無理もない。あのマルゼンスキーが自分たちの走りを解説するというのだから。
私は不思議に思って、言った。
「どうして地方のレースに?」
担当の子は、私を見て、首を傾げた。
「私が知りませんよ。なんか来てるらしいですけど…聞いてないんですか?」
「いや…別に」
「ふーん…」
電車がカーブを走り、車体が揺れて人がよろめく。
私はさりげなく担当の子を守るような形で、彼女に手を添えた。
「ごめんね。車、故障しちゃっててさ」
「いえ…」
彼女は私を見上げて、「たまにはいいんじゃないんですか」とぶっきらぼうに言った。
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2:名無しNIPPER
2022/04/02(土) 23:12:31.28 ID:QLtqEEbF0
電車を降り、道を歩きながら、彼女がきいてきた。
「マルゼンスキーさんとは、疎遠なんですか?」
私は驚いて、苦笑交じりにそれに答える。
3:名無しNIPPER
2022/04/02(土) 23:15:13.66 ID:QLtqEEbF0
彼女は私を見つめている。
その眼からは、「私に話したいことがあるのなら、聞いてあげますよ?」という、疑いと、信頼と、甘えを混じらせた考えが、喋らずとも伝わってくる。
私は彼女の頭を撫でて誤魔化そうとしたが、子ども扱いされていると思われたのか、ちょっとふくれさせてしまった。
「…大した事情はないよ。本当に」
4:名無しNIPPER
2022/04/02(土) 23:17:14.68 ID:QLtqEEbF0
私はちょっと考えてから、口を開いた。
「…まあ、彼女とは何かということもないけど。言っておきたいのは、私は地方に転属して、不満でいるわけではない」
「それは、わかってます」
5:名無しNIPPER
2022/04/02(土) 23:19:40.42 ID:QLtqEEbF0
マルゼンスキーはよくお姉さんぶっていた。
私の方が年上のはずなのに、どこか貫禄があって、頼りがいがあり、人を惹きつける力があった。
ずば抜けた才能を持ち、正直、私がいなくても速く走ることはできただろう。
マルゼンスキーはこんな私のことをよく信頼し、パートナーとして認めてくれていた。
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