9:wenppy ◇28goFgfuuI[sage saga]
2021/11/23(火) 20:36:22.03 ID:Rr9Z2Vx8O
「実物? いや、ないな…………」
プロデューサーはカップを前眼のローテーブルに置いた。
ゆらゆらと漂う湯気が、室内の温かな空気に溶けてゆく。
10:wenppy ◇28goFgfuuI [sage saga]
2021/11/23(火) 20:37:24.73 ID:Rr9Z2Vx8O
「めぐる、近い近い。……でも、どうしてまた?」
彼女が動いたことでソファーがふわふわと揺れる。
すぐ側に感じる彼女の温かな体温と蜂蜜のように甘い香り。
11:wenppy ◇28goFgfuuI[sage saga]
2021/11/23(火) 20:38:36.93 ID:Rr9Z2Vx8O
「……人類選別の船だったか?」
世界滅亡の日、神様が選んだ者だけがノアの方舟に乗ることができ、助かったという話だった気がする。
「うーん、ちょっと違うかも?」
12:wenppy ◇28goFgfuuI[sage saga]
2021/11/23(火) 20:39:44.60 ID:Rr9Z2Vx8O
「けど、やっぱり船っていうと、こっちの形の方がしっくりくるな」
プロデューサーはめぐるの前に置かれたミルクレープを指す。
円から鋭角で切り取った形。どちらかというとそちらの方が一般的な船のイメージに近い。
13:wenppy ◇28goFgfuuI[sage saga]
2021/11/23(火) 20:41:01.85 ID:Rr9Z2Vx8O
「まあ、ケーキの構造や色合いは似てないけどな」
肩をすくめて冗談めかす。
ミルクレープは黄色いクレープ生地を幾重にも重ねて作られたもので、当然ながら船の構造とは異なる。
14:wenppy ◇28goFgfuuI[sage saga]
2021/11/23(火) 20:42:23.17 ID:Rr9Z2Vx8O
「……そうだな。半分ずつでシェアするか。ナイフ持ってくるよ」
蜂蜜のように濃厚で甘美な香りにくらくらと酔いしれるも、何とか『食べさせ合い』はしないと予防線を張る。
一段低い気温に身を晒そうと、キッチンへと避難しようと立ち上がる。
15:wenppy ◇28goFgfuuI[sage saga]
2021/11/23(火) 20:43:31.00 ID:Rr9Z2Vx8O
「取ってきたぞ」
「ありがとう、プロデューサー!」
プロデューサーは違和感がない程度に、先ほど座っていた位置より端側に腰を降ろす。
16:wenppy ◇28goFgfuuI[sage saga]
2021/11/23(火) 20:44:35.82 ID:Rr9Z2Vx8O
「……どうしたの?」
硬直したのが不審に思われたらしく、めぐるが問いかけてくる。
「……いや、何でもないよ」
17:wenppy ◇28goFgfuuI[sage saga]
2021/11/23(火) 20:45:24.60 ID:Rr9Z2Vx8O
「──っ!」
めぐるがパッと顔を上げる。驚いた表情。
「……この方舟は乗った人を救うんじゃない。食べた人を救うんだ。『美味しい』って幸せな気分にしてな」
18:wenppy ◇28goFgfuuI[sage saga]
2021/11/23(火) 20:47:48.07 ID:Rr9Z2Vx8O
「……食べさせて欲しいな…………?」
めぐるは暫しの沈黙の後、表を上げて口を開いた。
囁くような声量の、甘えた声が耳元で木霊する。
19:wenppy ◇28goFgfuuI[sage saga]
2021/11/23(火) 20:48:48.17 ID:Rr9Z2Vx8O
「…………」
「…………えへへ。……ありがとう!」
表しようもない気恥ずかしさに沈黙していると、めぐるも同じ気持ちだったのか、頬を染めて照れ臭そうに微笑んだ。
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