12: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:12:32.43 ID:FpkFq5Eu0
※ ※ ※
「シエル。あなたはなぜ学校に通っているの?」
その問いかけは先輩が大盛りのインドスペシャルを半分ほど食べ終わり、瞳に理性の光が戻ってきた頃を見計らってされた。
「――――――――――」
先輩は驚きで目を見開いたが、アルクェイドの意図を問おうにも口がカレーでいっぱいでそれも叶わず。
まずはと急いで咀嚼し、次いでカレーを食べているうちに流れ出ていた汗をハンカチで拭った。
「意外ですね。遠野君ではなく私に訊いたんですよね?」
警戒と疑念、そして何よりも戸惑いを見せながら先輩は確認する。
そりゃそうだ。今でこそ同じ食卓に着いているけど、二人には俺のあずかり知らぬ因縁がある。
犬猿の仲が続いたからこそ通じてしまう互いの呼吸と、同じ街で暮らすというこれまでに無かった状況、そして共通の知人である俺の存在。
それらが歩み寄る余地を生み出してはいたものの、話の流れというわけではなくアルクェイドの方から突然先輩のプライベートについて訊いてきたんだ。
「何よ。わたしがシエルに訊いたらいけないっていうの? それに志貴にはちゃんと前に訊いた事があるんだから」
「あ、いえいえ! 別に構いませんとも!」
先輩の当然といってもいい反応に、アルクェイドはふてくされた態度をとる。
それは友人だと思っていた相手につれない反応をされたもので、先輩は慌てて否定した。
「そうですね……わたしが学校に通う理由を話すのは構わないのですが、その前に理由を聞かせてもらえませんか。質問の意図がわからなければ、どう答えていいかわかりませんから」
「うん。前に志貴に訊いたよね? あなたは一日の半分を学校で費やしているけど、そうまでした知識や経験を全て使い切る事があるのか。人生に不必要な事を学んで、時間を浪費していたりするんじゃないかって」
夕焼けの赤色で染まる教室での事。
今でもありありと思い出されて胸が締め付けられる、思い悩むアルクェイドの姿。
「……ああ。俺はそれに、学んだ事の多くは無駄になるかもしれない。はっきりとした目的が今はないから、それまではこうやって無駄に生きていく。
アルクェイドの言う通り、ここで過ごす時間の大半は人生にとって余分なものだけど――そういう無駄な事、余分な事も悪くはない。俺はそう答えた」
いつか歳をとって、ぼんやりと過ごしている時に。
ああ、そんなこともあったなって、苦笑しながら思い出せる出来事なら、それはそれで意味があるんじゃないか。
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