54: ◆QlCglYLW8I[saga]
2021/09/26(日) 19:51:08.39 ID:YjVwo2WmO
「ったく、ケチくさいな」
「ハハハ、さすがに今日のラウンド代と飯代は俺が奢るよ」
「でも、もう頻繁にこうやって4人で集まるのは無理そうだな」
沢村が寂しそうに呟いた。少し、しんみりとした空気が流れる。
「……何、たまに日本には戻るから安心しろって」
「そ、それもそうだな」
沢村はハヤシライスをスプーンですくった。大仏が「そうだ」と手を叩く。
「せっかくだから一度自由ケ丘のエバーグリーン、見に行かないか?俺たちがここまで成功したのは……」
「……大仏」
私は彼を睨んだ。大仏はハッとしたように固まる。
「……そ、そうだったな……」
「俺は構わないけどね。もう10年、何事もなかったんだ。国を離れる前に見ておくのも悪くない。大仏ちゃんの言う通り、今の俺たちがあるのは、あそこのお蔭だ」
丸井がナプキンで口を拭う。彼の言うことは、確かにその通りだ。
エバーグリーン自由ケ丘は、自由ケ丘の一大開発プロジェクトだった。高級専門店を揃えた商業施設を併設する、大型高級レジデンス。
30半ばでその担当になった私は、サラリーマン人生の浮沈をかけてこの案件に打ち込んだ。施工会社の丸井、設計とデザインを担当した沢村、そして官庁として許可を出した大仏も、この案件に賭けていた。
それは見事に成功した。高級イメージにも関わらずリーズナブルな設定の販売価格、そして自由ケ丘という街のイメージに沿ったデザインとブランディングは、たちまち評判となった。
竣工から10年経った今でも、エバーグリーン自由ケ丘は街のランドマークであり続けている。あの仕事は、確かに私の、私たちの誇りだ。
……ただ一点の、重大な瑕疵を除いては。
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