100日後に死ぬ彼女
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53: ◆QlCglYLW8I[saga]
2021/09/26(日) 19:50:14.57 ID:YjVwo2WmO
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「水元ちゃん、今日は調子悪かったじゃないの」

向かいの少し日に焼けた男が、ハヤシライスを食べながら口の端を上げた。それを聞いた、隣の禿かかった男が苦笑する。

「それでも水元が一番スコアいいんだがな。80切れなかった程度で調子悪いと言われたら、俺たちは何なんだ」

「まあでも、こうやってたまに同級生4人で集まってゴルフするのは、やっぱ楽しいものだねえ。というか、クラブハウスの飯旨くなってない?」

斜向かいの少し太めの男が訊いた。

「確か、クラブハウスの運営に高級フレンチをやってる企業が参入したらしいな。ゴルフブームに乗って、富裕層を取り込もうとしてるらしい」

「さすが三友地所の幹部候補。情報のアンテナが広いねえ」

「煽てても何も出さんぞ、丸井」

丸井と呼ばれた浅黒い肌の男は、私の言葉にヘヘっと笑った。

「まあ金ならもう心配はないんだけどな」

「は?」

「いや、最近流行りの『FIRE』、俺もすることになってね。9月末で大泉建設を辞めることにした」

私を含む、3人の目が丸くなった。FIREーー投資で財産を作って早期退職するのには、1億円ぐらいは必要と聞いている。丸井にそんな金があるとは、初耳だった。

「本当か?」

「ああ。株で一山当ててね、働かなくても大丈夫なぐらいには金融資産ができたのよ。身辺整理をして、来年頭にはベトナムかタイに移住するつもり」

「すげーな。お前にそんな才能があるとはねえ」

禿かかった男、大仏が唸った。

「でも、お前も大泉では結構出世してたんだろ?」

「まあな。でも、やっぱ50近くなったら大事なのは自由よ、自由」

「それは独身貴族だから言えるんだよなあ、羨ましいよ。子供がいて、マンションのローン抱えてる身じゃそんな決断はできんわ」

小太りの沢村が肩を落とす。ククっと丸井が笑った。

「まあ、どの株が上がるかぐらいは教えてやるよ」

「今教えてほしいもんだけどな」

「ま、それはおいおい、な。そもそも、お前らも社会的には俺より上だろ」

それはそうかもしれなかった。私は三友地所の総合開発部第一部長、大仏は国土交通省のキャリア。そして沢村は、世界的に有名になりつつある建築家だ。
大手ゼネコンの管理職である丸井も、世間一般に比べれば成功している方ではあるが。



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