7:名無しNIPPER
2021/08/23(月) 01:27:40.21 ID:Uc90J3hWO
結婚式の余興で歌ってほしい、というのは彼女からのリクエストだった。
残酷なことをさせるなとも思ったし、そう言われたことで救われたところもあった。
あの日の告白とも言えぬ僕の自白には何もなく、それまで通りの関係性だった。変わったことがあるとすれば、僕はより一層彼女のことと歌うことの呪いに深まったくらいだ。
結婚すると聞いてショックを受けなかったのは、もしかしたらこれで少しは踏ん切りがつくと思ったからかもしれない。
ユリちゃんのために、届いてほしくて褒められてくて認められたくて歌わなければならないという強迫観念が薄まるんじゃなかろうかと。
「それでは新婦の幼馴染、現在は人気ロックバンドでボーカルとしてご活躍されている深津さん、よろしくお願いします」
司会に呼び出されて、席を立ち、スタッフから使い慣れたギターを手渡された。形式上の挨拶をすると、マイクスタンドの前に立つ。壇上のユリちゃんと視線が合うと、冗談めかしてウインクを受けた。
それだけで、僕は歌わなければという気持ちになってしまう。
ああ、僕は歌うよ、これからもきっと。もうこの気持ちが届くことが無かったとしても。
何万人に届く、君のための歌を、これからも。
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