【ウマ娘】小さなトレーナーと白い奇跡【みどりのマキバオー 】
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◆Nsqe9nXw7g
2021/08/08(日) 00:09:45.62 ID:OS/CCdyu0
その一言に最も動揺したのは執事のじいや。当のマックイーンはと言うと、顔色一つ変えずにただ黙ったまま主治医を真っ直ぐに見ていた。その姿勢にマックイーンの覚悟を見た主治医は、ハッキリと告げた。
「この怪我の中、よくぞここまで仕上げられました。足の筋力、関節の柔軟さ、どれも以前の状態に限りなく近い。歩行の状態から見ても痛みももう感じていないご様子。しかしながらここまで酷使してしまった以上、もはや手遅れです。今後、車椅子での生活を覚悟しておいてください」
マックイーンは自分の足の状態を何となくは察していた。あれだけの激痛が消えるほど過酷なトレーニングをしておいて完治などするはずがない。泥をかぶり、頭をかじられながら取り戻した走りは、所詮はかりそめ。限界を超えた先にあるエクストラターン。それこそ、今こうしている間にも儚く消えるかも知れない有限の中にあるものだとマックイーン自身も気付いていた。だからこそ時間が惜しい。一分一秒も無駄にはしたくはない。残された時間を使いたい相手を待たせているのだから。
以下略
AAS
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◆Nsqe9nXw7g
2021/08/08(日) 00:10:38.93 ID:OS/CCdyu0
「怪我の具合から診ても3200mは間違いなく走れません。3000、いや2400。それがお嬢様に残された最後の距離です」
余命2400m。それは奇しくもトウカイテイオーが最も得意とする距離。その言葉を聞いたマックイーンは、かつてライバルに送った言葉を思い出していた。
『メジロ家のウマ娘たるもの、完全な勝利無くして栄光は有り得ません。次はあなたの距離で叩き潰して差し上げますわ』
以下略
AAS
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◆Nsqe9nXw7g
2021/08/08(日) 00:11:32.17 ID:OS/CCdyu0
勝負の前日は雨が降っていた。
窓を打ち揺らすほどの激しいものではなく、一定のリズムを刻むかのような静かな雨。
明日の明け方には止み、早朝から快晴の予報が出てはいたがマックイーンの心中はあまり穏やかとは言えなかった。
以下略
AAS
47
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◆Nsqe9nXw7g
2021/08/08(日) 00:12:23.64 ID:OS/CCdyu0
「なにぼけーっとしてやがるんだよ。さっきからずっと呼んでるんだぜ? 明日は大事な勝負だっていうのに随分呑気じゃねーの。もしかして余裕の表れってやつか?」
ネズミはそう言うと、マックイーンの腕を伝って頭の上へと一気に駆け上った。旧校舎でのトレーニング以来、すっかりそこがネズミの定位置になっていた。
「余裕だなんてとんでもない。果たし状を出してからずっと不安ですわ。いっそ、明日なんて永遠に来なければと心の何処かで願うほどに……。今までたくさんのプレッシャーを受けてきましたが、これほど走るのが怖いと思える日もありませんでしたわ」
以下略
AAS
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◆Nsqe9nXw7g
2021/08/08(日) 00:13:29.34 ID:OS/CCdyu0
「ですが、やはりわたくしは彼女と競いたい。テイオーとの約束を果たしたい。おそらく、これが神様がわたくしに与えてくださった最後のチャンス。この機を逃したら、きっと死ぬよりも辛い後悔を抱えながら生きていくことになる。それに、わたくしは絶対に負けません。今日までわたくしを支えてくれた全ての人たちに報いるためにも彼女を倒して真の最強を示して潔くターフを去りますわ」
「へっ、そうかい。そこまでの覚悟が決まってンなら今更発破をかけるのはヤボってもんだな。その支えてくれた奴らのためにも絶対に勝つんだぜ」
「あら、その中にはあなたも入っていますのよ? ネズミさん」
以下略
AAS
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◆Nsqe9nXw7g
2021/08/08(日) 00:14:33.68 ID:OS/CCdyu0
「そんなことより、レースの対策とかちゃんと考えてんのか? 馬場の状態もこの雨じゃ明日はどうなるかわからねぇんだぞ」
「ええ、もちろんですわ。距離は2400m。この距離はテイオーが最も得意とする距離。そう、彼女が二冠目を獲った日本ダービーとほぼ同じ条件で……って、聞いてますの? ネズミさん ネズミさん?」
日本ダービー
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AAS
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◆Nsqe9nXw7g
2021/08/08(日) 00:15:11.85 ID:OS/CCdyu0
混乱している、というのが率直な感想だった。
マックイーンの部屋から飛び出したネズミは、寮の外へと飛び出した。幸い、雨はすっかり上がっていたが地面は水溜りや泥濘みが多く、非常に走りにくい。だが、こうして走っていないと頭がパニックでどうにかなりそうな衝動に襲われていたのだ。無我夢中でひたすら走っていたネズミが止まれたのは、濡れた芝生に足をとられて前のめりに倒れてからだった。
「痛ってぇなチクショウ。どうしちまったんだよ俺は。どこに行っちまったんだよあいつらは。もやもやしやがるぜ。一番大事なことだけが思い出せねぇ」
以下略
AAS
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◆Nsqe9nXw7g
2021/08/08(日) 00:16:00.05 ID:OS/CCdyu0
「とにかくここがどこか調べねぇことには始まらねぇ。場所さえわかれば、あとはいざとなりゃ長距離トラックの荷台にでも潜り込んで北海道へ向かえばいいだけだ。そうと決まればとっととこっからオサラバして……」
泥を払って立ち上がったネズミは、改めて辺りを見渡して言葉を失った。何も考えずここまで走って自分が迷い込んだこの場所に、とても見慣れた光景が広がっていたからだ。
緑の芝、それを挟むように白いラチがあり、距離を示すハロン棒、そしてゴール板。
以下略
AAS
52
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◆Nsqe9nXw7g
2021/08/08(日) 00:17:14.34 ID:OS/CCdyu0
「こいつをやるのは朝日杯以来だな」
そう呟いたネズミは濡れたターフを自分の体以上の大きさもある雑巾で丁寧に拭きあげていく。何もしてやれない以上、せめていい馬場で悔いのないよう思い切り走らせてやりたい。ネズミが心からそう思えたのは、マックイーンで二人目だった。
ネズミが雑巾掛けを始めてどれくらいの時間が経っただろうか。日の出までまだ時間はあるとはいえ、2400mもの距離を一匹のネズミの力だけで拭きあげていくのは無理がある。しかし、決してネズミは諦めようとはしなかった。疲労は既に限界を迎えている。水を含んで重くなった雑巾を持ち上げる力はもうない。雑巾の下敷きになりながらも、ネズミはターフの水気を拭き取ろうと懸命にもがく。そんな時、体を覆っていた雑巾が持ち上がった。
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◆Nsqe9nXw7g
2021/08/08(日) 00:17:48.80 ID:OS/CCdyu0
「お、おめぇは……」
雑巾を持ち上げたのは、以前マックイーンの元にやってきた帽子を被った芦毛のウマ娘だった。確か名をゴールドシップと言っていただろうか。
「ちょうどいいところに雑巾が落ちてるじゃんか〜。うっし、いっちょ気合い入れてやってやろうじゃねーか」
以下略
AAS
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◆Nsqe9nXw7g
2021/08/08(日) 00:18:36.41 ID:OS/CCdyu0
暖かい風が吹いていた。
昨日の雨とは打って変わり、眩いばかりの晴天。長い冬の終わりを告げるかのように、桜の花びらが静かに舞っている。
真新しい制服に身を包んだ多くの新入生が、期待と不安を胸にトレセン学園の門を潜る。
以下略
AAS
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