結標「私は結標淡希。記憶喪失です」
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728: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2022/01/08(土) 11:26:16.84 ID:Q+V+Oj11o


 第七学区と第一〇学区の境目辺りに建てられた建物。一階と二階が吹き抜けになっているのが特徴の巨大な倉庫だ。
 中央には巨大な物資運搬用のリフトが設置されていて、広大な空間内でスムーズな荷の移動が可能となっている。
 各階には外部から搬入された物資が詰め込まれたコンテナが、倉庫内に隙間がないと思えるほどたくさん並んでいた。

 倉庫の一角に二つの人影と一つの獣の影が見えた。

 一人は男だった。
 ボサバサとした白髪にメガネを掛けている中年の男性。
 白衣を羽織っていることから、いかにもな学者という風貌をしている。

 もう一人の影は少女だ。少女は二メートル四方くらいの小さなコンテナの上に寝かされていた。
 打ち止め(ラストオーダー)。先ほどまで御坂美琴と一緒にいた少女だ。
 顔が風邪を引いているときのように紅潮しており、息を荒らげさせ、全身から流れる汗でパジャマの生地が皮膚に貼り付いていた。

 打ち止めの側には銀色の獣が佇んでいた。まるで少女を見張る番犬かのように。
 『T:GD(タイプ:グレートデーン)』と呼ばれる全身を金属で覆った犬型のロボットだ。
 御坂美琴が交戦していたロボット、打ち止めを連れ去っていったロボットと同じような型に見える。

 犬型のロボットが耳に当たる部分をピクリと動かし、音声を発する。


イヌロボ『博士。超電磁砲に向かわせていた対超電磁砲仕様のT:GD二〇機が全滅しました』


 少年の声だった。淡々とした口調で事実だけを報告した。
 博士と呼ばれた男が特に表情を変えることなく、


博士「そうか。ところで『最終信号(ラストオーダー)』を例の場所に運び出す準備の進捗はどうなっているかね?」

イヌロボ『あとニ分ほどで完了するかと』

博士「超電磁砲がニ分以内にこの場所を特定し、ここまでたどり着く可能性は?」

イヌロボ『ありえませんね。仮に最初からここだと決めて全力で移動しても四分弱はかかる。まず間に合いませんよ』

博士「それは結構。では『馬場』君。最終信号の搬送とともに『君自身』もここから離脱したほうがいいのではないかね?」


 『君自身』というのは今会話しているロボットのことではない。
 『馬場』と呼ばれるこのロボットを遠隔操作し、回線をつないで会話をしている少年のことだ。


イヌロボ『何を言っているんですか。『ヤツ』が来るかもしれないんですよ? そのときは僕がぶち殺してやって、無様に床へ転がる死体をこの目で直に焼き付けないと気が済まない!』


 機械の声色が変わる。今までの淡々としていたものから恨み辛みを込めたものへと。
 博士は不気味に口角を釣り上げながら、


博士「君という男には本当に困ったものだ。このために我々『メンバー』の資金を一体いくら注ぎ込んだことか」

イヌロボ『博士には感謝していますよ。僕のワガママを聞いて、実現してくれたのだから』


 博士が自分たちのことを『メンバー』だと名乗った。
 そう。彼らはショチトルと同じ暗部組織『メンバー』の構成員だ。
 博士はその中でもリーダーという立ち位置にいる。


博士「気にすることはない。これは投資だ。こちらとしても良いデータが取れることだろう。すぐに回収できる」

イヌロボ『必ずあなたの期待に応えられるように――』


 カッ、カッ。ペタッ、ペタッ。


 メンバーの会話に割って入るように、二人分の足音が倉庫内に響いた。
 一人はコルク製の靴裏が硬い床を叩くような大人の男の足音。
 一人はスニーカーで軽くステップでもするような年端も行かない子供の足音。





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