78:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 16:03:22.45 ID:I9OmqLYR0
雨はやはり止みそうにない。今ならまだ腹痛で倒れていた言い訳が効く時間だろう。
意を決してその大雨の中に飛び込む。空から斑に降る豪雨は痛いぐらいに体を撃っている。
長くこの雨に撃たれていると体を壊してしまう。そう思えて水溜を踏む足を急かした。
その足も久しく走っていなかったからか、彼にはとても重く感じた。
79:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 16:04:08.02 ID:I9OmqLYR0
そうして少し走ってから信号に差し掛かった。
即座にボタンを押して一秒、一瞬を感じる。
向こうの信号機には家族連れが見えた。休日がこんな大雨の日になって可哀想だな。
そんな事を思って青色になった信号を渡る。肌着が水を吸って重い。
そうして、彼らがすれ違ってから一瞬目があった。
80:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 16:04:39.56 ID:I9OmqLYR0
信号の音がちくたくと点滅している。空からは大粒の雨が降り注いでいる。
東京の街に降る一年分の雨がこの瞬間のためだけに降っている。そんな突拍子もない事を思えた。
それから少し考えてゆっくりと前を向いた。
彼女に声をかけるのは辞めよう、彼女の物語にもう俺が関わるのは必要ない。
81:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 16:05:30.62 ID:I9OmqLYR0
その瞬間、強くズボンを引っ張られた気がした。
足を降ろしてゆっくり、ゆっくり振り向くとそこには小さな少女が
五、六歳に見える、栗色の大きな瞳を覗かせた少女がいた。
「おじさん!」
82:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 16:06:09.72 ID:I9OmqLYR0
少女はそう言って、陽だまりに溶けてしまいそうな笑顔を浮かべて、手のひらに何かを握らせた。
「じゃあね!バイバーイ!」
少女は信号機の向こう側で待つ両親の元に駆けて行く。
自分の声すら聞こえない程の豪雨の中でも、不思議と、その少女の声だけはハッキリと聞こえた気がした。
83:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 16:06:53.99 ID:I9OmqLYR0
顔を上げて信号の向こう側を見る。
降り注ぐ豪雨は更に勢いを増して、ほんの先の一メートル程度も見れない程に強かった。
それでも、それでも。彼には、彼女は笑っているのだろうと。あの頃と変わらない笑顔で優しく笑っているのだと。
彼女に言わせれば、これがテレパシーってやつなのだと。根拠はないけど強く、強く思えた。
84:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 16:07:31.25 ID:I9OmqLYR0
終わりです
ありがとうございました
85:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 16:14:41.34 ID:I9OmqLYR0
タイトルのぴーぴーかんかんは映画業界で使用されていた用語で
「快晴」って意味らしいです
86:名無しNIPPER[sage]
2021/06/24(木) 18:44:56.92 ID:ubxzPR4F0
乙でした
ユッコでこういう切ないストーリーってのは珍しい
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