36:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:03:45.95 ID:I9OmqLYR0
「イツキさん顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
彼女がこちらを心配したような顔で覗き込んでくる。
「誰のせいでこうなってると思ってんだよ」
とは、そんな事は口が裂けても言えないし、そもそもそんな事を言う勇気は俺にはハナから備わっていない。
37:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:04:23.81 ID:I9OmqLYR0
「ほら真ん中のこの五円玉をよく見てください……イツキさんはだんだん眠くなーる……だんだん眠くなーる」
彼女は五円玉振り子を小刻みに揺すってから馬鹿の一つ覚えみたいに「眠くなーる」と繰り返している。
恐らくこの感じだと普通に眠い人も彼女の声が気にかかって眠れないのではないだろうか。
「眠くなーる……眠くなーる……眠くな……ん……」
38:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:05:40.62 ID:I9OmqLYR0
「なぁユッコ、お前が寝てどうする」
「……はっ……私としたことが!」
適当に声をかけて彼女を起こす。
彼女の寝顔を見続けるのはどこか犯罪じみて思えたし、俺の心臓が持ちそうにないと思えたから。
39:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:06:44.59 ID:I9OmqLYR0
「なぁユッコって超能力のこと信じてる?」
俺がその気まずさを打開しようと彼女に振った言葉はそんな感じだったと思う。
急に何言ってるんだコイツって思われたと思う。
何となく文字足らずになってしまって言葉を付け加える。
40:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:07:13.63 ID:I9OmqLYR0
「ふふっ」
慌てふためく俺の姿が面白かったのか彼女は少しはにかんで笑った。
「はい!如何にも私はサイキックを信じています!」
「サイキックだけじゃなくて、UFOだとか宇宙人だとかネッシーだとか……ビックフットだとか!」
「そういう物も全部!」
41:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:07:56.17 ID:I9OmqLYR0
「でも……冷静に考えてみれば……そんな物は居ないのかもしれません
UFOは誰かの悪ふざけかもしれないし、ビックフットだって着ぐるみかもしれません」
「でも……私は思うんです!きっと信じている方が楽しいんだって!」
42:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:08:41.15 ID:I9OmqLYR0
「もしかしたらバッドエンドの物語がハッピーエンドに変わっちゃうような、そんな映画みたいな奇跡だって叶えられるかもしれません!」
「それに私とイツキさんが出会えたことだって、もしかしたら既に奇跡だったかもしれませんよ!」
43:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:09:06.69 ID:I9OmqLYR0
……何と言うか、俺には彼女の紡いだその言葉はあまりにも善政的でとても眩しくて、
まるで穢れだなんて何も知らない無垢な赤ん坊のように、あるいは清濁の全てを呑み込んで光も闇も
その全てを内包するような柔らかさだとか、大きさだとかそう言った物を感じさせた。
44:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:10:40.33 ID:I9OmqLYR0
図書室には風が吹いた。夕焼けに全て溶けた昨日の涼しい風とは違う、とても暖かい風が。
風は、俺が誰にも知られたくなくて、自分自身にも知られたくなくて
必死に、必死に隠した心の在りかを馬鹿にして笑うみたいに、いとも簡単に通り過ぎて行った。
俺が彼女に心を惹かれていた理由が今なら分かる気がした。
45:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:20:03.19 ID:I9OmqLYR0
後半は明日投下します
86Res/49.19 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20