19:名無しNIPPER[saga]
2021/04/18(日) 01:57:30.33 ID:S9RXO5Th0
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「……………………っ!?」
気が付くと、世界が茜色に戻っていた。
目の前には悪夢のように黒い影が佇んだままで、
その姿は、私の知っている……いや、『知っていた』彼女によく似ている。
小動物のように震え、今にも膝をつきそうなほどその姿は弱々しく、罪悪感に苛まれるように私から視線を外す。
私の知っている『あの子』が、そこにはいた。
「あなたは……あの子の『想い出』だったのね」
震えながらも紡いだ言葉には確信があった。
それを影は小さく頷いて肯定する。
「……あなたはずっとここにいたの?」
再び影は小さく、だけどどこか曖昧に頷く。
「あの子は、忘れる事を望んだの?」
今度はハッキリと。
彼女は頷いた。
そう、あの子は忘れたかったのだ。
黒森峰での思い出を、そこに抱いた想いを。
そうしたのは、そうしてしまったのは、
「あの子にとって、この学校での想い出は邪魔だったから?」
彼女はすぐさま首を横に振る。
「なら、大切だった?」
彼女はゆっくりと、そして深く頷く。
「……だから、辛かった」
彼女は頷きもせず、否定もしない。
ただ、気まずそうに俯く。
それはつまり、曖昧な肯定。
私の言葉をはっきりと否定できないほど、彼女にとって黒森峰の想い出は痛ましいものとなっていた。
それを理解した時、すとんと胸の中の何かが落ちた気がした。
「あの子は、私たちを恨んでないのね」
俯いていた彼女の頭が飛び跳ねるように私を見る。
霞のような手で、必死に私の手を掴む。
その反応こそが私の言葉を肯定してくれる。
この子はきっと、『あの子』が望んで忘れていったもの。
大きくて、大切で、だけど……重くて。
この学園艦を去るために、忘れていったもの。
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