30:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 23:33:28.38 ID:2kLflUvfO
外に出て、壁に立てかけていたクロスバイクを反転させる。
「なあ少年」と、彼女が僕に話しかける。
「思うにね、私たちは幽霊なんだよ」
31:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 23:47:09.95 ID:2kLflUvfO
***
次の日。
32:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 23:48:06.20 ID:2kLflUvfO
威勢よく発進した彼女の自転車はオンボロのママチャリで、
それはまるで老人の散歩みたいなスピードで、
僕は何度もうっかり置いて行ってしまいそうになった。
33:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 23:49:54.04 ID:2kLflUvfO
「ねえ、君は好きなの? 自転車」
「いや……」僕は口ごもる。
「別に、そこまで」
34:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 23:52:17.66 ID:2kLflUvfO
「どこか行きたいところはないの?」
「特に」
35:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 23:54:27.05 ID:2kLflUvfO
かなり長い沈黙を経て、そういえば、と僕は思い出す。
「隣の家の玄関に看板が立ててあってさ、
大きな矢印と、Los Angelsって文字」
36:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 23:56:55.69 ID:2kLflUvfO
そういう雑談を経て、数十分。
長いサイクリングの果てに僕らは動物園にたどり着く。
エントランスを潜り抜ける。
37:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 23:58:43.39 ID:2kLflUvfO
くだらない話をしながら歩を進める。
靴とアスファルトのこすれる音が静かな園内に響く。
「なんか、変だな」
38:名無しNIPPER[saga]
2021/02/28(日) 00:00:30.98 ID:j5Vg4AXZO
「先を越されたってとこかな」と彼女は言う。
「つまり」僕は言う。
「飼育員か誰かが、とっくに動物たちを逃がした?」
39:名無しNIPPER[saga]
2021/02/28(日) 00:01:36.08 ID:j5Vg4AXZO
「しかたない、今日は撤退しよう」
彼女は大きく伸びをして、両手を頭の後ろで組んで、
諦めたように言う。
「だーれもなんにもいないんじゃ、何もできない」
40:名無しNIPPER[saga]
2021/02/28(日) 00:02:14.93 ID:j5Vg4AXZO
入口まで戻る。
自転車のハンドルに手をかける。
「さあて、ここからが本番だ」と大仰に彼女が言う。
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