5:名無しNIPPER[sage saga]
2021/02/20(土) 21:17:35.81 ID:sqwkfqcmO
「黒いのみたいなのは八一の好みじゃない」
クリームソーダをこちらに突き返しつつ、空銀子は淡々とした口調で私を否定してきた。
「八一は単純だから、白いのみたくベタベタに甘えないと好意に気づかない。そして八一は童貞だから、わかりやすい好意を見せてくれる女の子にはたとえどんなにお子様だとしてもみっともなく鼻の下を伸ばしてデレデレしてしまう。九頭竜八一は、あんたの師匠は、そんな男よ」
居飛車。そして恐らくは、居玉であろう。
息つく間もない程の辛い攻め手。深い研究。
空銀子はひと通り私に己の研究を披露した。
「要するに、黒いのは"地味"なのよ」
王手とばかりに、ぐりぐりと急所を突く。
「私ほど八一を粗末には扱わない癖に、白いのほど八一に甘えない。たまに優しくされても嬉しくないふりをする、天邪鬼」
「ええ。そこを先生は気に入ってくれてる」
端歩を突かれたので突き返すと、鼻で笑い。
「手のかかる生徒のつもり?」
「手の施しようのない幼馴染みよりはマシ」
「たしかに、私には今更八一への態度を改めることは出来ない。積み重ねてきた歳月があんた達とは違う。私にはこのままでも八一と通じ合える自信がある」
そこまで言い切られて、私は視線を落とす。
コップの中で沈んだアイスクリームが、まるで窒息しているかのように沈黙していた。
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