11: ◆CItYBDS.l2
2021/02/03(水) 22:31:21.58 ID:MC1F9erq0
魔王を討ち果たした男。果たしてこれは虚言ではないのか。
そう疑わせるほどに、男の表情は柔和で人懐こいものであった。
加えて、そのししむらの果敢無げさよ。
12: ◆CItYBDS.l2
2021/02/03(水) 22:31:59.33 ID:MC1F9erq0
「いえ、仰りたいことはわかります。ただまあ、我らは勇者の血筋でありますれば」
私の心中を慮ったその言葉に、ひとまずの安堵の息がこぼれる。
やはり、印象に違わぬ配慮をもった青年だ。
13: ◆CItYBDS.l2
2021/02/03(水) 22:32:37.43 ID:MC1F9erq0
「ははは、まあご先祖の働き以降は特に活躍なく辺境にて暇を持て余していました故。
ご存じなくとも仕方ありますまい」
「しかし、今ここに我らは魔王を打ち倒した新たな英雄を迎えているのだ。
14: ◆CItYBDS.l2
2021/02/03(水) 22:33:04.38 ID:MC1F9erq0
「およそ500年程前の話にございます。
我らが先祖は、僅かな仲間と共に破壊の権化である魔王を打ち倒し。
その、働きから当時の王より『勇者』の号を賜りました。
15: ◆CItYBDS.l2
2021/02/03(水) 22:33:41.06 ID:MC1F9erq0
首をひねる。それは実に妙な話であった。
戦場に身を置く男衆にしてみれば、剣を抜くなど息をするのに等しき行い。
たかが、剣を抜くことをもってして勇気ある者と称するとは実に奇異ではないか。
16: ◆CItYBDS.l2
2021/02/03(水) 22:34:11.37 ID:MC1F9erq0
「あの、大変失礼いたしました。なにぶん、礼儀を知らぬ田舎者ゆえ……」
「すまぬ。少しばかりからかっただけだ。続けてくれ」
17: ◆CItYBDS.l2
2021/02/03(水) 22:34:39.91 ID:MC1F9erq0
初めて聞く話であった。それに、魔王が倒れた今確かめようのない事実でもある。
しかし、魔王の下に送り込んだ戦士たちが勇者一党を除いて誰も戻らなかったことを思えば、その恐ろしさは真実なのであろう。
「そして、その子孫である貴殿もまたその栄華に授かったわけだ。
18: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/03(水) 22:35:20.36 ID:MC1F9erq0
「失礼。我が一門の話でした……。
―――そう。我らが先祖は、勇を示したからこそ『勇者』と称されたわけでございます。
それゆえに、その息子である二代目は自身が《勇者さま》と呼ばれること厭ったそうです。
19: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/03(水) 22:35:48.39 ID:MC1F9erq0
何ともまあ、優しく、生真面目な一族であろうか。
開祖の偉業を盾に、民を従えさせるのは至極自然なことであり。
事実、我が王家もまたそのようにして成り立ってきたというのに。
20: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/03(水) 22:36:20.47 ID:MC1F9erq0
なんと、あの血煙が舞い鼻をつく据えた匂いが漂う悍ましき戦場に女を出すとは。
勇者一門にとって、『勇者』の号はそれほどに重いものであったのか。これは、もはや執着。否、妄執といって過言ではない。
21:今日はここまでです ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/03(水) 22:36:48.43 ID:MC1F9erq0
「まさか。各々、自身の意思によるものにありますれば、誰一人として強いられてはおりませぬ。それに、当時の筆頭は私ではなく大叔父でありました」
肺腑より息が漏れる。なんとも、恐ろしい武の家であろうか。
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