【ミリマス】帰省できなかったシアター上京組の年末年始
1- 20
8:帰省できなかった年末年始 7/9[sage saga]
2021/01/05(火) 22:35:26.74 ID:1nFF4fw90
 紬が明後日の方向へ視線を向けた。奈緒も振り向くと、一目でそれと分かる人影がこちらに向かって歩いてくる。二人の視線に気づいて、右手が上がった。

「今日は『ジュリアちゃん』やな」
「アイシャドウ切らしてたんだよ。年末に買うのを忘れててさ」

 モッズコートのモスグリーンに、下ろした赤毛が映えている。アイメイクはナチュラルだったが、トレードマークの青い星はしっかり頬に乗せられていた。

「そのギター……今日も、路上ライブをやろうとして、止められたのですか?」
「『も』って何だよ。ミリオンパークに集まるんだったらギター弾いてちょっと歌うぐらいできるだろうと思ってさ。マスクを外して大声出すわけでもないんだし」

 ああこれ、と言いながら、ジュリアがバッグの中から紙袋を取り出した。

「おぉ〜めんべいやん。めっちゃ好きやーコレ」
「年賀状と同じようなタイミングで、箱で送られてきたんだ。あたし一人じゃ到底食べきれないよ」

 荷物で狭くなってきたベンチをどうしたものか、と考えあぐねていた奈緒だったが、視界の端に東屋が見えた。中央部は日差しが入ってこなくて寒そうだが、適度に距離を取って腰かけるにはうってつけだった。
曇っていた大晦日とはうってかわって、頭上は青一色だった。雲の無い世界に来たみたいだった。ばさばさ飛んできた鴨の群れが、遠くの池に次々と着水していくのが見えた。
 紙袋の中のめんべいを一枚失敬したくて奈緒がうずうずしていると、ポケットの中がぶるっと震えた。着信だった。ミリオンパークに着いた、と電話の向こうでのんびり話すひなたの姿が、奈緒達から見えていた。赤のダッフルコートに緑のニット帽のカラーリングは、否応なしに林檎の果実を思わせた。

「遅くなってごめんねぇ」
「いうて、別に急ぐ用事があるわけでもないんやし、気にすることないで」
「連絡もらったとき、近所で餅つき大会やってたっけ、ちょっこしお手伝いしてたんだよぉ」

 参加者が少なくて余りをいっぱいもらってきた、と言いながら、ひなたは手持ちのトートバッグからタッパーを取り出した。

「半分はきなこ餅、もう半分はバター餅にしてきたべさ」
「バター餅……?」
「名前の時点で美味いヤツやん。食べたことあらへんけど」
「秋田の方でよく食べられていると、聞いたことが……」
「うん、北海道でもお正月にはよく作ってるよぉ。いっつも家でお餅ついて、中々無くならなくてね、色んな食べ方するんさ」

 さっきまでは牽制し合うように開かれなかったパックの類は、ひなたが餅のタッパーを開けたのを皮切りに、いっせいに口を開けた。たこ焼きと餅からは湯気が立った。「いただきます」と四人が口を揃えた次の瞬間には、四人分の割り箸が蒸気の中へ吸い込まれていった。



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
13Res/25.94 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice