ライラ「アイスクリームはスキですか」
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34:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:26:14.66 ID:FQVp12gN0

「すごかったな」
「本当ですねー」
 夕方の駅前。ライブを終えて帰路につく二人。
 千夏に声を掛けたかったものの、閉幕後の慌ただしさの中でうまく話すチャンスがなかった。また後日改めて気持ちをちゃんと返そう。いつもにも増して、たくさん頂いたから。そう思いながらライラは晶葉とともに歩いていた。今日の演目の感想を述べ合いつつ。
「……ところで、ライラ」
「? はいです」
 晶葉がもどかしそうにしながら視線を寄せる。
「身内のことは……大丈夫なのか?」
 心配そうに、そして戸惑いつつ問いかける晶葉。いつになく、そっと触れるような語りだった。
「や、聞くべきことでないなら、言わなくていいんだがな」
「あーいえ、そんなことはないですよ」
 ただそちらはまだまだですけれど、とライラは笑ってみせた。
「そう……そうか」
 歯切れが悪かった。
 ライラが何かお家のことでバタバタしている、故国からエージェントが来た、ということは晶葉の耳にも入っていた。ただ具体的なことには一切絡めていないし、それゆえに気安く触れていいものなのかわからなかったから。
 センシティブなことでもあるからな……と気づかう彼女は歳よりも大人びた聡明な女性だった。
 本当はもっと関わりたい気持ちもあった。それは正義感でも好奇心でもなく、ただ純粋に友達だから。本音を言えば、たくさんの人と関わって成長するライラを見るうち、自分もその一端でありたいなと思うようにもなっていた。けれど、余計なことを述べるのは違う。船頭多くして船山に登る。見守ることだって大切だ。およそ十四歳らしからぬ利発さを伺わせる晶葉だが、それゆえに迷うことだって戸惑うことだって、損をすることだってある。
「軽はずみに立ち入らないようにはするけど、……聞いていいことなら聞くから、なんでも話してくれよ」
 友達だからな、と晶葉。
 どこか不器用な彼女らしい、だけど愛に溢れた言葉だった。

 ありがとうございますですよ、としっかり礼を述べるライラ。
 みんな優しくて、暖かくて、そして素敵で。
 自分は今ここにいる。みんなと共に。改めてそう感じながら。

 素敵で、綺麗で、眩しい日々。
 素敵な仲間。お慕いする人。
 そこで生きるわたくし。
 今自分に必要なのは、それをきちんと認識して、言葉にすることなのだ。
 そんな考えを噛み締めながら、電車に揺られた。 

 駅を降りたところで晶葉と別れ、ひとり家路につく。千夏の歌声を思い出しながら。言葉を思い返しながら。そして、今日という日の素敵を噛み締めながら。
 ふいに物陰から声を掛けられた。ちょうどアパートが見えてきた頃だった。



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