ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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名無しNIPPER
[saga]
2020/09/21(月) 20:25:35.44 ID:amUbMXcr0
「……とりあえず、説明をしよう。グレイ、こっちへ」
手振りで座る様に促された、師匠の隣へ腰をおろす。次いで、机の上に広げられた資料の一枚を師匠は示した。
それは1枚の絵だった。おそらく、手書きの物を印刷機でコピーしたのだろう。ところどころに掠れのような汚れまでもが映り込んでいる。
絵の内容を見て、自分が最初に連想したのはピラミッドだった。石造りの四角錐。エジプトのものと大きく違うのは、頂上にあたる部分に直方体の構造物を頂いていることだ。エジプトのピラミッドの上部を切断して、小さな石造りの小屋を乗せたような外観。小さくて分かりにくいが、その直方体の構造物から中に入れるらしい。入り口のような穴が開いている。
「先ほども言ったが、これはユカタン半島で発見された遺跡だ。意匠からアステカのものと見て間違いないだろう」
「アステカ……確か、生贄の風習で有名な文明でしたっけ」
「正確には、アステカというのはメソアメリカ文明の一時代・一部地域の名称だな。アステカの最隆盛はほんの500年ほど前に過ぎないが、メソアメリカ文明自体の起こりは古い。紀元前――紛うことなき神代に生まれた文明だ」
神代――未だ、神秘が神秘として存在した時代。秘匿せずとも、その力を十分に発揮した時代。
基本的に神秘は古ければ古いほど強大になる。仮に神代の神秘が残っているというのなら、確かにその遺跡には大きな価値があるのだろう。
師匠は頷きながら絵図に指先を乗せる。示したのは、ピラミッドの頂点にある直方体の辺りだ。
「さて、君の言った通り、彼らは神に対し人間を贄として捧げた。この遺跡もその儀式に使われたものだろう。見たまえ、遺跡上部に設けられた部屋の前に台座がある。この上で人間を生きたまま解体し、摘出した心臓を供物としたんだ。そのショッキングさから、アステカ=生贄という認識が現代でも――あるいは現代だからこそ広く認識されたのだろうな」
「生きたまま、ですか……」
「そう、生きたまま捧げる、というのが"神の食料は人間の生き血である"という彼らの宗教観では大切だったんだ。おまけに彼らは捧げる生贄を貴いものとする為、何人もの嫁を宛がい、酒や麻薬を望むだけ摂らせたそうだよ。さらには生贄に捧げる人間にも特別な資質を求め、選別を行っていたらしい」
現代にそぐわない残酷さ。"普通"から外れたがゆえに、それはひどく目立つことになる。
外見のグロテスクさだけにならそれなりに耐性があるが、それでも同胞たる人間を解体して捧ぐ、という風習は自分の目には奇異と映った。
「何故、人間なんでしょう」
「何故とは?」
「あの、だって――別に、わざわざ人間を殺して捧げる必要があるんでしょうか? もっとヒツジとかヤギとかでもいいような」
自分で言っている内に、何だか的外れで馬鹿なことを論っているような気になってくる。頬が紅潮して、最後のほうはもごもごと呟くことになってしまったが、師匠はきちんと聞き取ってくれたらしい。顎に指を這わせながら、ふむと頷いて、
「そうだな。もちろん生贄と一口にいっても、全てが全て人間を贄とするわけではない。人身御供の風習は世界中で見られるが、同じくらい牛馬などの動物を捧げるケースも確認されている。とはいえ、貴重な労働力をわざわざ殺してしまう、という点では一緒だ。当時はトラクターもカルチベーターも無かったことだしな」
一度紅茶で口を湿らせてから、師匠は続きを紡いでいく。
「では何故人を殺して捧げたのかといえば、生贄という儀式が『代替を願う神秘』であるからだ」
「代替を願う……何かを、代わって貰う?」
「その通り。宗教的な結束を強める、口減らしの便利な建前など、その文化によって細々とした付与はあるが、根底にあるのは『何かを支払う代わりに、超常の存在に願いを叶えて貰いたい』という欲求だ」
「……お金を出して、パンを買うみたいに?」
「ふむ。確かに理屈で言えば同じだろうが」
自分の例えが子供じみていたからか、師匠が苦笑の様なものを浮かべた。思わず顔が熱くなる。
「だが神による奇跡を求めるなら、対価もそれに釣り合うものでなくてはならないというのは自明の理だろう。つまるところどうして同族(ヒト)を捧げるという行為に辿り着いたかといえば、当時彼らが所有しているものの中でもっとも価値があるものが"それ"だった、という答えになる」
「……人間の、命」
「正解だ。特にアステカの場合を言うのなら、彼らは牛馬のような大型の家畜を持たなかったということもあるし、先ほども言った神の食物は人間の血であるという宗教的な価値観も手伝ったのかもしれない。人間の三大構成要素――肉体、精神、魂の内、アステカでは第一要素である肉体を重要視したわけだ」
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