ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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59:名無しNIPPER[saga]
2020/10/10(土) 22:34:55.31 ID:mG1v5QBi0

 そんなことを心配していると、少年の小さな呟きが耳に入った。誰に聞かせるつもりでもないような、自問自答にも似た声音。

「まあ……刻んだり煮たりと、錬金術に通じるものはあったからな。全く身が入らなかったというわけではないが」

 そんなふうに独りごちると、ゴルドルフは再び気持ちを切り替えるように頭を振り、サンドイッチを先ほどのティガーと同じように大皿に取り分けた。

「トラムのところに朝食を持っていく。お前はロードをそこで待っているがいい。水はそこの瓶に入っているのが煮沸してある分だ……ああ、コップがないな」

 テーブルの上を見回して、ゴルドルフが呻く。

 どうやら食器の大半は村のものを借りたらしい。ほとんどが素焼きと思われる土器だった。調査隊で用意したものを使わなかったのは、しまう手間が増えるからだろうか。

 ゴルドルフは未使用の皿を一枚手に取ると、集中するように目を閉じた。

「――Anamorphism(変成)」

 ワンカウントの詠唱。彼の手にある土色の皿が、ぐねりとうねったかと思った次の瞬間には透明なガラスのコップに変じている。

「……魔術ですか?」

「大したものじゃない。食事をするくらいの間しか保たんぞ」

 そう言いながら、わざわざ水を汲んで自分の前に置いてくれる。さらにもうひとつ、土器をコップに作り変えるとテーブルに置いた。師匠の分ということだろう。

「ありがとうございます」

「……昨晩は助けて貰ったからな。それに遺跡に向かうとなれば、貴様に頼るしかなくなるのは明らかだ」

「ゴルドルフさんも一緒に来られるので?」

 別れる前の様子を考えるに、村で待機する方を選んでも不思議はないように思えたが。

「……あのロードの言うことは的を射ている。ここで退けばムジーク家はお終いだ。調査隊で荷物の運搬に使っていたゴーレムを、術者から買い取った。それで荷物持ちくらいならできる」

「それは助かりますが……」

 神霊に襲われることを考えると、少しでも身軽にしておきたい。だが密林を行進し、遺跡を調査するとなれば、ある程度の装備は必要になる。そしてゴーレムの制御となると、自分や師匠では完全にお手上げである。

「そもそもゴルドルフさんは、どうしてこの調査に?」

「おかしなことを聞く奴だな。こんな危険な仕事、家の名を上げるために決まっておるだろう」

「しかし、もともとはゴルドルフさんのお父様が参加する予定だったと聞きました。ムジーク家の、ということでしたら任せても良かったのでは?」

 先の師匠との会話でも話題になった、ゴルドルフがこの調査に参加することになった理由。

 魔術刻印の存在を考えれば、父親が彼に枠を譲ったとは考え辛い。まず少年の独断だろう。

 こちらからの追及に、ゴルドルフは伸ばしかけの髭を触りながら視線を逸らした。

「まあ……色々だ。私にだって、個人的に望むものはある」

 ここまで会話して思ったが、どうやらこの少年は根が魔術師らしくないようだった。

 尊大ぶった態度や口調も、それを隠すための演技なのだろう。オルガマリーのような根っからの魔術師と比べると甘さが目立つ。

 それが悪いことだと思えないのは、自分が魔術師ではないからだろうが。

 喋りすぎたことに気づいたのだろう。ゴルドルフはサンドイッチの乗った皿を持つと、「食べ終わった食器は適当にまとめておけ」という言葉を残して、傷病人が収容されている建物の方へ歩いていってしまった。

 残された自分は、とりあえず彼が汲んでくれた水を飲みつつ時間を潰すことにする。


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