ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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34:名無しNIPPER[saga]
2020/09/22(火) 20:22:14.65 ID:kGu0y7r00

 僅かな空白。だが長くは続かなかった。

 テスカトリポカが動く。こちらを無視して――倒れ伏した少年の方へと。確かな殺意を持って歩み寄ろうとする。

 ぽっ、と炎に包まれた右腕に、新たな灼熱の塊が生まれた。現代の魔術師には決して到達しえぬ神秘の炎。

 少年を殺す気か。であれば――彼はまだ生きているのか。

 その推測が成り立つのと同時、自分の足は地面を蹴っていた。

「あああああああぁぁっ!」

 熱が迫る。みるみる内に人型の炎に接近する。

 馬鹿げた行為だ。翼を持たない者が崖から飛び降りるような。自殺と何ら変わりない。

 それでも勝機があるとすればこのタイミングしかなかった。相手の意識が自分から逸れた、この瞬間しか。

 恐怖を誤魔化すために鬨をあげ、距離を詰め、大盾を振るう。死神の鎌(グリム・リーパー)へ組み替えている時間は無い。

 シールドバッシュ。強化した身体能力で打ち出されるそれは、鉄筋コンクリートの壁くらいなら砕いて大穴を開ける程度の威力がある。

 ――だが、神霊を相手取るにはあまりにも役者不足。

「……!」

 大盾による一撃は腕一本で軽々と受け止められた。テスカトリポカは掲げていた右腕でアッドを押しとどめている。やはり、ただ人型の炎というだけではない。その内側には"芯"とでもいうべき本体が存

在している。

 そして、防がれて終わりではなかった。ぐるりと視界が反転する。威力をいなされ、盾の縁を掴んで投げられた、と理解したのは地面に背中から叩きつけられた時だった。

「ごほっ……!」

 息が詰まる。急激に変化した視界には星空。そして振り下ろされる、炎を纏った足刀。

「さっさと起きろ愚図グレイ! 死ぬぞぉ!」

「っ!」

 アッドの声に従って、体を無理やり右に捻って転がる。頭部からほんの数センチしか離れていない地面に敵の一撃が深々と突き刺さった。まともに貰っていれば頭を砕かれていただろう。

 地面を転がった勢いで立ち上がる。既に敵が見せていた謎の困惑は消えていた。こちらが大盾を構え直すのと同時、テスカトリポカの追撃が始まる。


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