ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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名無しNIPPER
[saga]
2020/09/21(月) 20:28:59.00 ID:amUbMXcr0
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それから数分を掛けて行われた、師匠の計画の概要を聞いて、
「……まさか、そんな抜け道が」
白痴のようにぽかんと口を開けてしまっていることに気づいて、慌てて口元を引き結ぶ。
言葉通り、まさか、という思いが胸の内に渦巻く。だが同時に、師匠の語った仮説と対策には確かな説得力が感じられた。
「最終的なことは現地で確かめる必要はあるし、まだ分からない点もいくつかあるが――生還を第一に考えて行動すれば問題はあるまい。成果を得られるかどうかは分からないにしても、身の安全は九分通り守られるだろうからな。なんなら我々の次に調査を行う者に、この情報を売りつければいい」
そう言って、師匠は葉巻に火を点けた。部屋に薄く紫煙が漂い、その淡いヴェールの向こう側でライネスがぱちぱちと手を叩いている。
「……なるほど。兄上、やっぱり君はちっとも魔術師らしくないな」
「……皮肉を挟まないと会話できないのか、お前は」
「褒めているつもりだよ? なるほど、確かにこれはお歴々には思いつかない手管だろう。何しろ、情けないことこの上ない! ロードの家門がこんな手管に頼ったと知れたら、それはもう恥ずかしくて表も歩けないだろうさ」
にんまりと笑うライネス。だがすぐに唇を尖らせ、抗議の視線を師匠に向ける。
「それならグレイが来る前に、私に説明してくれていても良かっただろうに。お陰で無駄に喉が渇いてしまったよ」
「二度手間だろう」
「おやおや、こんなに愛らしい義妹になんて言い草だ。加えて、今回はスポンサーでもあるのだけどね」
「スポンサー? てっきりライネスさんは、師匠が行くことに反対の立場だと思っていましたけど」
尋ねると、ライネスは散乱する机上の資料から、クリップでまとめられた一束を選び出した。指でつまみあげると、資料の山の一番上に置き直す。
どうやらそれは名簿らしい。人の名前と、簡単なプロフィール。顔写真が載っている。
「反対だとも。だが、エルメロイまで発掘権が転がり込んできたのは事実だ。駄目元で調査チームは送るつもりだったよ。まあチームと言っても、今のエルメロイにそんな人材はいないからね。募集を掛けて集めただけの寄せ集め、烏合の衆だ。それに兄上殿がついていこうとするのを諌めに来たというわけさ。ただ、きちんと生還するつもりがあるのなら話は別だ」
「それでも15人か。中々の人数を集めたものだ」
「ほとんどが食い詰め者のニューエイジさ。一発逆転狙いのね。兄上殿が参加すると分かっていたら、教室の生徒連中がこぞって挙手したかもしれないが」
「その場合は私の方で弾く」
師匠がその資料を手に取りぱらぱらとめくる。一応、これから共に密林へ向かうチームだ。事前の把握は大切だろう。
だがライネスはそんなもの待っていられないとでもいう風にソファから立ち上がり、ぱちりと指を鳴らした。背後で控えていたトリムマウが音もなく移動し、師匠の腕を取って立ち上がらせる。
「……何の真似だ」
「資料は後でも読めるだろう? 本格的なジャングルを歩くとなれば、それ相応の準備が必要だ。出不精の君たちを慮って、私が店を選んであげよう」
「出不精は余計だ」
「本当のことだろう。君たち二人は暇さえあれば部屋に籠りっぱなしで。それに、兄上御用達の仕立て屋には登山靴どころかスニーカーすら置いてないじゃないか」
「ちょっと待て、なんでお前が私の贔屓してる店を知って――」
抗議の声を上げる師匠を、トリムマウが強引に引きずっていく。師匠のフィジカルでは、エルメロイ家の筆頭礼装に敵う筈もない。
唖然とその光景を見送ってしまった自分に、ライネスは悪戯っぽい笑みを向けた。
「君の服も私が選んであげよう。うん、機能美と見た目を両立させた奴をね」
「お、お手柔らかにお願いします」
「ふふふ、さて、どうかな。しかし、ジャングルでフードはいただけない。かといって帽子では頼りなさそうだし……いっそその辺は、フラットあたりに知恵を借りると良い。まあ奴のことだ。今回の調査にくっ付いて来ようとするだろうが、なに。それで苦労するのは兄上だ」
「……ありがとうございます」
ライネスの気遣いに自然と頭が下がる。こほん、と彼女は咳払いをひとつすると、話題を変えた。
「ところで、兄上はああ言ってたが、調査では気を抜かない方がいい。アッドを手放さないようにね」
「はい、それはもちろんですが……師匠の言う通りなら、危険なんてなさそうな」
自分がそういうと、ライネスは笑みを深めた。皮肉気に片眉を撥ね上げて、肩をすくめて見せる。
「そうかい? 探偵が早々に推理を語った時は、えてしてその推理を無意味にするようなトラブルが起こるものだ――くれぐれも気をつけたまえ」
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