110: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/21(月) 22:55:27.90 ID:brMXuKjJ0
目標マイナス二か月。ライブチケットはすでにソールドアウト。ファンの期待が高まっているのを、実感せずにはいられない。
今日も仕事の合間にライブのレッスン。体力も気力もゴリゴリと削られるけれど、私は歩みを止めない。
ファンの皆さんが待っているから。Pさんが期待しているから……
もういないPさんに操を立てているわけではないけれど、私の一挙手一投足はすべてPさんに見守られていると、そう信じていたい。
仕事は主に午前中、夜はレッスンというルーティーンをこなし、今日もつつがなく予定を消化する。事務所に戻ってきた私に「楓ちゃん」と声がかかる。
「あ……瑞樹、さん」
「忙しそうね……今日これから、ちょっと私に付き合わない?」
瑞樹さんが久しぶりに私を誘う。そう言えば、Pさんが亡くなってから私は、いろいろなお誘いにあまり参加しなくなっていた。
「ええ、喜んで」
私は緊張しながら、瑞樹さんのお誘いに乗ることにした。
ふたりでタクシーに乗り、いつものイタリアンバル。
瑞樹さんと呑む時は、こういうゆっくりできるところで静かに楽しむのが、ふたりのお約束になっている。
「私はハウスワインの赤で。楓ちゃんは?」
瑞樹さんが尋ねる。お店に入って私は今更ながらに気付いた。
私、薬を飲んでいるんだった。どうしよう……
「えーと、じゃあ、スプモーニを」
「あら。楓ちゃんにしては珍しいわね」
「え、ええ。このところ、少し控えてるんです」
「もうすぐライブだものね。そうよね、あまり無理しないで、ね」
「ええ」
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