高垣楓「あなたがいない」
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109: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/21(月) 22:54:48.65 ID:brMXuKjJ0

 ライブに向けてのレッスンは続く。
 目標マイナス三か月。本番に向け、そろそろ最終形を作らなくてはならない時期。私たちはそこに向け、スタッフ総出で問題点をつぶしにかかっていた。

「はい! 楓さん、オッケーです」

 レッスンルームにライブスタッフが集まり、通し稽古を行っている。
 まだ最終案ではないけれど、かなり完成された進行表に従っての、粗々のリハーサル。
 突然のシャットダウンという爆弾を抱えながらも、私の頭は冷静に考えられている。

「……どうでしょう?」
「うーん、少し押してますね。もうちょっと中抜きしましょうか」

 私の確認に、プロデューサーは答えた。

「中抜き、ですか? いえ、中抜きはなしでお願いします」
「それじゃあ」
「前半のトークを削って、時間を作りましょう。できるだけ皆さんに、歌を聴いて欲しいので」

 私は自分の体力と精神を削りながら、ステージに私自身をぶつける。
 それが私のやり方で、今更曲げることなどできなかった。

「了解。じゃあ、このパートのトークを削って、三連続で歌にしましょう……でも大丈夫ですか?」
「ええ、お任せあれ」

 私はスタッフの心配をよそに、彼らにウインクしてみせた。
 こうして徐々に、最終形を作り上げていく。より完璧に、より鋭利に。
 代償は、私自身。

 そしてマンションに帰れば、今日もまた意識が彼方へ飛んでいく。
 自分の体が自分のものではないようで、幽体離脱しているのかしら、などと冗談を言っても、とても冗談には聞こえない。
 幸い聞いているのは、私だけ。それだけが救いだった。




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